説明

抗菌性を持つ基板

【課題】 スパッタリングにより付着された混合層で被覆された抗菌性基板(ガラス、セラミックまたは金属製)を提供する。
【解決手段】 この混合層は金属酸化物、オキシ窒化物、オキシ炭化物または窒化物の中から選ばれた結合物質に混合された少なくとも一つの抗菌物質を含む。この基板は抗菌性を与える。もし焼入れされかつ抗菌性のガラスが要求されるなら、同じコスパッタリング法が使用されることができ、任意に下層が付加されることができる。抗菌性は焼入れ工程後でさえ維持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、いずれかのタイプ:金属、ガラス、ガラスセラミック、またはプラスチックタイプの基板に関し、そこではその表面の少なくとも一つが抗菌、特に抗細菌または抗真菌性を持つ。本発明はまた、かかる基板の製造のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミック基板の分野では、例えばEP653161は、それらに抗細菌性を与えるためにそれらを銀からなる上薬(glaze)で覆う可能性を記載する。
【0003】
ガラスタイプの基板の分野では、抗菌表面を提供するためにゾルゲルタイプの方法が知られている。これらの方法はゾルゲル層の硬化工程を必要とし、それは500〜600℃のオーダーの高温(焼結温度)を伴なう。銀塩を含む組成物中に基板を浸漬することを必要とする方法もまた知られている。この場合、銀層は付着されないが、高温の溶液中でイオン交換が起こる。
【0004】
抗菌性を持つガラス基板を製造する方法もまた、EP1449816から知られている。この方法は油中にAgNOを使用し、20〜105℃の乾燥工程と600〜650℃の熱処理の両者を必要とする。この熱処理は特に費用と製品の均一性に関して幾つかの不利を持つ。さらに、それは方法を非常に再現性乏しくする。なぜなら、これらの温度では銀の拡散は非常に迅速であり、熱処理の時間のわずかな変動が銀の拡散の深さの著しい変動をもたらし、従って、これが基板の抗細菌性の変動を発生する。
【0005】
特に、かかる方法では、銀の大部分は略1〜2μmに拡散しており、表面での銀の量がガラスに抗菌性を与えるには低すぎることを我々は観察した。
【0006】
かかる熱処理はソーダ石灰ガラス基板の望ましくない黄色化を起こすことがまた注目される。さらに、もし熱処理が焼入れ工程時に実行されるなら、処理された後、製品はもはや特定の寸法に切断されることができないかもしれない。
【0007】
WO95/13704は特に医療装置のための抗菌材料を記載する。実施例9において、AgとZnOの別個の層が75〜25重量%の比でRF磁気スパッタリングにより連続的に付着されている。層の合計厚さは330nmである。RF磁気スパッタリングは今日では工業化が難しい付着法である。
【0008】
従って、使用するのが容易でありかつ工業的態様で製造するのが安い、抗菌性を持つガラスまたは金属のいずれかの基板を提供する要求がある。
【0009】
特に、焼入れ可能でありかつ焼入れ工程後に抗菌性、好ましくは殺菌性を保持するガラス基板を提供する要求がある。
【発明の開示】
【0010】
特に、本発明の一つの目的は、焼入れ可能でありかつ焼入れ工程後に実行される促進老化試験後にも抗菌性を保つガラス基板を提供することである。
【0011】
一実施態様によれば、本発明は、特に金属酸化物、オキシ窒化物、オキシ炭化物、炭化物、DLC(ダイヤモンド状炭素)または窒化物から選ばれた少なくとも一つの無機質層で被覆された基板に関し、前記層は少なくとも一つの抗菌物質を含み、被覆された基板は促進老化試験後も抗菌性を維持する。特に、無機質層はケイ素、スズ、ニッケル、クロム、亜鉛、チタン、ニオブ、アルミニウム、ジルコニウムまたはそれらの混合物の酸化物、例えばZnSn及びNiCrOから選ばれることができる。特に好適な窒化物はケイ素、チタン及びアルミニウム窒化物及びそれらの混合物である。
【0012】
抗菌物質は、抗菌性について知られた種々の無機物質、特に銀、銅、金及び亜鉛、から選ばれることができる。有利には、抗菌物質はイオン形態である。
【0013】
基板は金属製、例えば鋼またはステンレス鋼から作られることができ、またはセラミックタイプまたはプラスチックまたは熱可塑性タイプの基板またはガラスタイプの基板、特に平坦ガラス板、特にフロートガラスであることができるソーダ石灰ガラスであることができる。それは透明ガラスまたは着色ガラスであることができる。つや消しガラスまたはロール成形板ガラスもまた使用されることができる。ガラス板はそれらの表面の一方または両方を処理されることができる。処理された表面に対向した表面はどのような希望のタイプの表面処理も受けさせることができる。それは、一般的に抗菌表面に対向した表面の反射層(鏡を形成するためのもの)またはエナメルまたはペイント層(壁装材のためのもの)を含むことができる。
【0014】
基板は0.2〜12mmの範囲の厚さを持つことができる。
【0015】
基板は0.8m×0.8mより大きい表面積を持つことができる;それは、続く切断操作により仕上げ寸法に切断されるのに適合されることができる。
【0016】
このようにして得られた抗菌ガラス基板は、ガラス基板の場合、その抗菌性をなお保持しながら、熱焼入れ、曲げまたは硬化のような熱処理段階を受けさせることが考えられる。
【0017】
本発明の幾つかの実施態様では、少なくとも一つの露出表面に存在する抗菌物質を持つ基板は、アニールされたガラス板であることができる。アニールされたガラス板という用語は、ここでは、焼入れされたまたは硬化されたガラス板が切断時に破壊するような方法で破壊されることなく所定寸法に切断されることができることを意味することで使用される。かかるアニールされたガラス板は好ましくは5MPa未満の表面圧縮率を持つ。最終切断操作後に、基板は焼入れされることができ、抗菌性は維持される。
【0018】
本発明の有利な実施態様では、基板は、焼入れ処理時の抗菌物質の拡散を阻止または減速する下層でまず被覆されることができる。下層の機能は、本発明により作られた製品を下被覆をした及びしない同様な製品の抗菌効果と比較することにより及び/または拡散分布を分析することにより確かめられることができる。
【0019】
金属基板の場合、特に好ましい下被覆及び/または混合層は酸化チタン、窒化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素またはオキシ窒化ケイ素の中から選ばれる。
【0020】
本発明による基板は、グラム陽性菌であろうとグラム陰性菌であろうと、多数の細菌に、特に次の細菌:大腸菌、黄色ブドウ球菌、緑膿菌、Enterococcus hirae;の少なくとも一つに抗細菌効果を持つ。JIS−Z−2801規格に従って測定した抗細菌効果は、特にこれらの細菌の少なくともいずれか一つに対して、log1より大きく、好ましくはlog2より大きく、特に好ましくはlog2.5より大きい。その基板は、JIS−Z−2801規格によれば、もしそれがlog2より大きい効果を持つなら、殺菌性と考えられるであろう。しかし、本発明はまた、より低い効果(例えば細菌が必ずしも死滅しないがもはや発育することができないことを意味する、静菌効果)を持つ基板に関する。
【0021】
金属、例えば鋼から作られていようとガラスタイプの基板であろうと、基板全体の上に単一工程で無機質層及び抗菌物質を付着することができることが見出された。
【0022】
特に、磁気スパッタリングの周知の方法により、同じ付着室内で二つの金属ターゲットを使用して(コスパッタリング)または混合した物質を持つ単一ターゲットを使用して、抗菌物質、例えば銀をドープされた例えば金属酸化物の層を形成することができる。混合した物質を持つターゲットは金属であることができるが、コスパッタリング法の陰極の一つに対してセラミック物質を混合すること、または単一陰極法の単一陰極に対してセラミック物質を金属と混合することが特に有利でありうる。例えば、付着速度及び工程安定性に関して高効率工程に導く混合されたセラミック系ターゲットを製造するために、Ag,Cu,Au及びZnがTi,NiCr,Zrの酸化物及び他の純粋または混合された酸化物と混合されることができる。
【0023】
広範囲の磁気スパッタリング法が希望の抗菌性ガラスを得るために使用されることができることがまた見出された。中間DC電力並びに中間周波数パルスDCまたはAC電力がコスパッタリングモード及び混合ターゲットスパッタリングの両者で成功裏に使用された。Ar,O及びNを含むガス混合物が、抗菌物質を含む層のために望ましい物質のタイプに依存して、各ガスに対して0〜100%の全範囲に渡って使用された。
【0024】
これらの方法により、抗菌物質の追加のまたは続いての拡散は全く必要でない。我々は、どのような熱処理もなしに、費用節約的な一工程での抗菌性基板を得る。
【0025】
もし焼入れされかつ抗菌性ガラスが要求されるなら、同じ方法が使用されることができ、かつ所望により下層が付加されることができることが発見された。抗菌性(特に静菌的であるがまた殺菌性である)が焼入れ工程(略2〜10分間の高温度処理を意味する)後でさえ維持されることができる。
【0026】
コスパッタリングまたは混合ターゲットのスパッタリングによる単一工程で付着されたAgドープ金属酸化物の層が作られ、それはどのような熱処理も必要としない単一工程で抗菌性を持つ。
【0027】
使用される基板が透明ガラスであるとき、それは有利に抗菌性並びに反射での無彩色を持つことができる。特に、反射での表色系インデックス(CIELABシステム)aとb(光源C、10°観察者)は−10〜6、好ましくは−8〜3、特に好ましくは−6〜0の範囲内にあることができ、かつ純度は15%未満、好ましくは10%未満、特に好ましくは5%未満であることができる。もし下層が付着されるなら、可視光のわずかな吸収(略5〜25%)が下層に分与されることができる。それは略8〜15%の可視光反射を持つかもしれない。
【0028】
もし基板が着色ガラスであるなら、抗菌性は基板の初期色を非常に大きく変えることなしに得られることができる。色の変化は一般的に、表色系インデックスでデルタEにより表される;デルタE=[(L−L+(a−a+(b−b1/2。本発明による抗菌性基板に対して3未満、好ましくは2未満のデルタEが得られることができる。
【0029】
基板が透明(ガラス、プラスチック‐‐‐)であるとき、基板を本質的に透明に保ちながら抗菌性を得ることが有利であるかもしれない。特に、4mmの透明なソーダ石灰ガラスにより、本発明による被覆基板の可視範囲での平均光透過率は50%より大きく、好ましくは60%より大きく、最も好ましくは65%より大きくてもよい。
【0030】
使用されるガラス基板が透明ガラスであるとき、それは有利には抗菌性と低い可視光吸収の両者を持つことができる。
【0031】
本発明による基板は、次の促進老化試験:湿式噴霧試験(40℃の95%より大きい湿度を持つ室内での20日間に渡る試験)、UV照射の500時間後(4340A ATLASランプ、60℃の室)、HSOの溶液(0.1N)中の24時間浸漬後、NaOHの溶液(0.1N)中の24時間浸漬後、Mr Propre(登録商標)洗剤中の48時間の浸漬後の5日間の乾燥;の少なくとも一つの後に抗菌効果を持つ。
【0032】
ジルコニウムの酸化物を含む下被覆を使用することが有利であるかもしれない。これは特に、混合層が抗細菌剤及びチタンの酸化物、特にそのアナタース結晶化形態の酸化チタンを含むときにそうでありうる。
【0033】
本発明の付加的または代替的実施態様はまた、従属請求項に記載されている。
【0034】
本発明が非限定的態様で以下により詳細に説明されるであろう。
【実施例】
【0035】
実施例1(比較)
4mmの厚さを持つ透明ソーダ石灰ガラスの一つの試料がコスパッタリングによりSiO(Al):Agの層で被覆された。二つの金属ターゲットがアルゴンと酸素の混合雰囲気中で使用された:一つのターゲットは8%Alをドープされたケイ素から構成され、第二のターゲットは金属銀ターゲットであった。Si(Al)ターゲットは100kHzのパルスDC電力供給でスパッタリングされ、一方、AgターゲットはDC電力供給でスパッタリングされた。電力供給は、24nmの合計層厚さを持つ層中に基板の平方メートル当り10mgのAgを得るために調節された。
【0036】
抗菌効果の測定
全ての試料の殺菌性(特に大腸菌についてのもの)が規格JIS−Z−2801により分析された。log1レベルは、ガラスの表面上に接種された細菌の90%が規格の条件下で24時間以内に死滅したことを示し;log2は、細菌の99%が死滅したことを示し;log3は、付着された細菌の99.9%が死滅したことを示す等である。もし示された値が特定量より大きいなら、これは数えられる細菌の最大値が死滅したことを意味する。
【0037】
log4より大きい値は試料を焼入れする前に得られた。
【0038】
焼入れ処理
被覆された試料に一般的な焼入れ処理を受けさせた(670℃で200秒間)。そして、殺菌性が焼入れ工程前の試料に対するのと同じ方法で分析された。log0.76が得られ、それは、殺菌性のみならず静菌性も被覆ガラスを焼入れした後に維持されなかったことを意味する。
【0039】
実施例2及び3
同じ透明ソーダ石灰ガラス(4mm厚さ)の試料がまず下層で被覆され、次いで実施例1と同じ条件を使用してコスパッタリングによりSiO−Agの24nmの層で被覆された。電力供給は層中に20mg/mのAgを得るために調節された。
【0040】
実施例2では、下層は75nmのSiOと320nmのフッ素ドープ酸化スズからなるCVD(化学蒸着法)により付着された二重下層であり、その表面は付着後わずかに磨かれる。
【0041】
実施例3では、下層はまた、二重SiO/SnO:F層であるが、磨かれなかった。
【0042】
抗細菌効果が実施例1と同じ態様で測定された。log4より大きい値が得られた。
【0043】
実施例1と同じ態様で焼入れ処理が実行された後に、log4より大きい抗細菌値が維持された。
【0044】
促進老化試験
次の老化試験が実行された:
− 湿式噴霧(95%より大きい湿度と40℃の室内での20日間の試験);
− 500時間のUV照射(4 340A ATLASランプ、60℃の室);
− HSO溶液(0.1N)中での24時間の浸漬;
− Mr Propre(登録商標)「Salle de bainliquide」洗剤中の48時間の浸漬後の5日間の乾燥。
【0045】
抗細菌性は、再度、焼入れされ次いで促進老化試験を受けさせた試料について測定された。
【0046】
実施例2の試料はHSO浸漬後にlog4.9値を、湿式噴霧試験後にlog4.7値を、洗剤浸漬試験後及びUV試験後にlog4.1を維持した。
【0047】
実施例3の試料はHSO浸漬後にlog4.5値を、湿式噴霧試験後にlog4.7値を、洗剤浸漬試験後にlog3.6を、UV試験後にlog4.1を維持した。
【0048】
実施例4
同じ透明ソーダ石灰ガラス(4mm厚さ)の試料がまず75nmのSiOと320nmのフッ素ドープ酸化スズの下層をCVDで被覆され、その表面が付着後わずかに磨かれた。
【0049】
試料は次いでコスパッタリングにより15nmのSiO−Agの層で被覆された。実施例1におけるように、二つの金属ターゲットがアルゴンと酸素の混合雰囲気中で使用された:一つのターゲットは8%Alをドープされたケイ素からなり、第二のターゲットは金属銀ターゲットであった。両ターゲットは、27kHzで作動する単一AC電力供給によりスパッタリングされ、層中に基板の平方メートル当り15mgの銀を得るために調節された。
【0050】
抗細菌効果が他の実施例と同じ態様で測定された。log4より大きい値が得られた。
【0051】
実施例1と同じ態様で焼入れ処理が実行された後に、log4.6の抗細菌値が維持された。
【0052】
焼入れされた試料は次いで促進老化試験を受けさせた。湿式噴霧試験後の抗細菌性はlog4より大きい値に維持された。洗剤浸漬試験後にlog3.7の値が得られ、UV試験後にlog2.5が得られた。
【0053】
実施例5
同じ透明ソーダ石灰ガラスの試料がまず実施例2及び4と同じ二重CVD下層で被覆された。AgをドープされたSiZrOの層が次いで二つの金属ターゲット(Si−Zr(10重量%Zr)とAg)を使用してコスパッタリングにより付着された。両ターゲットは19nmの合計厚さと21mg/mのAgを得るために調節されている単一電力供給によりスパッタリングされた。
【0054】
抗細菌効果が前の実施例におけるのと同じ態様で測定された。焼入れ前の試料(log4より大きい値が得られた)、焼入れ後(log4.6より大きい値が得られた)について。焼入れされた試料は促進老化試験を受けさせた。HSO浸漬試験後にlog4.9より大きい殺菌値が維持された。湿式噴霧試験後にlog4.7より大きい値が得られ、洗剤浸漬試験後にlog4.1が得られた。
【0055】
実施例6及び7
同じ透明ソーダ石灰ガラスの試料がまず実施例2及び4と同じ二重CVD下層で被覆された。AgをドープしたTiAlOの層が次いで一つのAg金属ターゲット及び一つのセラミックターゲットTiAlO(12重量%AlO)を用いてアルゴンと酸素の混合雰囲気中でコスパッタリングにより付着された。
【0056】
実施例6では、Ti(Al)Oターゲットが100kHzのパルスDC電力供給でスパッタリングされ、一方、AgターゲットがDC電力供給でスパッタリングされた。電力供給は60nmの厚さ及び層中に26mg/mのAgを得るために調節された。
【0057】
実施例7では、両ターゲットが7nmの厚さと層中に30mg/mのAgを得るために調節された単一AC電力供給によりスパッタリングされた。抗細菌効果が前の実施例と同じ態様で測定された。焼入れ前の試料についてlog4より大きい値が得られ、焼入れ後にlog4.6より大きい値が得られた。
【0058】
良好な抗細菌性が焼入れ処理前後の本発明の全ての試料に対して得られた。一方、下層が付着されていない比較例1では、抗細菌性は、試料が焼入れされたとき、もはや観察不可能であった。
【0059】
促進老化試験が実行されたときはいつでも、本発明による試料は良好な抗細菌性を維持した。
【0060】
さらに、被覆された試料の機械抵抗を測定するために砂磨耗試験が実行された。この試験では、一片のフェルトが試料上で600パスの間、こすられる。1050gの重りがフェルト上に付与され、一方、磨耗溶液が試料上に注入される(水のリットル当り500メッシュの砂の160g)。試験が完了した後、磨耗領域の反射色の変化が測定され、デルタEとして表される。
【0061】
実施例6に対して、2.2のデルタEが得られ、それは、層の機械抵抗が容認できることを意味する。
【0062】
実施例7に対して、0.5のデルタEが得られ、それは、色の変化が眼では検知できないこと、及び層の機械抵抗が非常に良好であることを意味する。
【0063】
抗細菌性がまた、磨耗試験後に測定された。実施例6に対して、抗細菌活性の同じ非常に良好なレベルが得られた。実施例7に対して、log2.4が得られ、それは、この試料がなお殺菌性であったことを意味する。
【0064】
実施例8
4mmの厚さを持つ透明ソーダ石灰ガラスの一つの試料がコスパッタリングによりZrO:Agの層で被覆された。二つの金属ターゲットがアルゴンと酸素の混合雰囲気中で使用された:一つのターゲットはジルコニウムから構成され、第二のターゲットは金属銀ターゲットであった。単極パルス電力供給が使用され、層中にAgの7重量%を得るために調節された。層厚さは225nmであった。
【0065】
試料の殺菌性は規格JIS−Z−2801により焼入れ工程前後で分析された。
【0066】
被覆された試料は焼入れ処理を受けさせた(670℃で200秒間)。そして、殺菌性が分析された。log3.8が得られ、それは、試料が焼入れ後にも良好な殺菌性を持つことを意味する。
【0067】
実施例9及び10
同じ透明ソーダ石灰ガラス(4mm厚さ)の試料がまず75nmのSiO及び320nmのフッ素ドープ酸化スズのCVD下層で被覆され、その表面が前の実施例2及び4〜7におけるように付着後にわずかに磨かれた。
【0068】
AgをドープしたTiOの層が、実施例9に対してはアルゴンと酸の混合雰囲気中でかつ実施例10に対しては主としてアルゴンを含む雰囲気中で、Agの一つの金属ターゲットと一つのセラミックターゲットTiOをそれぞれ使用して磁気コスパッタリングにより付着された。
【0069】
両試料に対して、Agターゲットは一度に50μsを持つ50kHzのパルスDC電力供給によりスパッタリングされ、一方、TiOターゲットはDC電力供給によりスパッタリングされた。電力供給はそれぞれ実施例9に対して38nm厚さ、実施例10に対しては11nm厚さの層を得るために調節された。層はそれぞれ実施例9では5mg/mのAg、実施例10では4mg/mのAgを含む。
【0070】
試料は前の実施例におけるように焼入れされ、上述のHSO及びNaOH促進老化試験が実行された。抗細菌効果が上述と同じ態様で測定された。
【0071】
実施例9に対しては、log2.4及び1.9の値がそれぞれHSO試験及びNaOH試験後に得られた。
【0072】
実施例10に対しては、log2.8及び2.0の値がそれぞれHSO試験及びNaOH試験後に得られた。
【0073】
実施例6〜7に述べた砂磨耗試験後のデルタEはそれぞれ0.9(実施例9)、及び0.5未満(実施例10)であった。これは、層の機械抵抗が非常に良好であることを意味する。
【0074】
実施例11
同じ透明ソーダ石灰ガラスの試料がまず実施例2及び4〜7,9〜10と同じ二重CVD下層で被覆された。AgをドープしたSiOの層が次いでケイ素の一つのターゲットと銀の一つのターゲットを使用してアルゴン、窒素及び酸素の混合雰囲気中でコスパッタリングにより付着された。
【0075】
Siターゲットは5μsを持つ50kHzのパルスDC電力供給によりスパッタリングされ、一方、AgターゲットはDC電力供給によりスパッタリングされた。電力供給は1mg/mのAgを持つ12nmの層を得るために調節された。
【0076】
砂磨耗試験は上述のように実行された。測定されたデルタEは1.6であった。それは、層の機械抵抗が良好であることを意味する。
【0077】
実施例12
同じ透明ソーダ石灰ガラス(4mm厚さ)の試料がまず75nmのSiO及び320nmのフッ素ドープ酸化スズのCVD下層で被覆され、その表面が前の実施例2及び4〜7におけるように付着後わずかに磨かれた。
【0078】
AgをドープされたTiOの層が混合されたセラミックチタンとAg(1.3重量%)の単一ターゲットを用いて磁気スパッタリングにより付着された。単一ターゲットはアルゴンと酸素の混合雰囲気中で通常のDC電力供給によりスパッタリングされた。電力供給は2.2mg/mのAgを持つ36nmの層を得るために調節された。
【0079】
非常に良好な抗細菌性が焼入れ後及び砂磨耗試験後に得られた(log4.7)。
【0080】
反射色が殆どの試料に対して被覆側について測定された。結果は次の表中にまとめられている。全ての値はCielab表色系(D65、10°)により得られている。可視波長について積算された光透過率もまた、幾つかの試料からD65、2°で測定された。

【0081】
操作の容易性のため、全ての試料は抗菌物質としてAgによりなされたが、同じ結果は抗菌性に対して知られているCuまたはAuでも期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面の少なくとも一つの上を(好ましくは磁気的に強化された)減圧スパッタリング法により付着された少なくとも一つの混合層で被覆された基板において、この混合層が金属酸化物、オキシ窒化物、オキシ炭化物、炭化物、DLCまたは窒化物、特にSiO,SnO,ZrO,ZnO,TiO,NbO,Al,NiCrO,Si,TiN,AlNまたはそれらの混合物、特にZnSn,TiZrOまたはSiOの中から選ばれた結合剤物質と混合された少なくとも一つの抗菌物質を含み、被覆された基板が促進老化試験後も抗菌性を維持することを特徴とする基板。
【請求項2】
基板が、抗菌物質の拡散を減速または阻止する機能を持つ下層で被覆されていることを特徴とする請求項1に記載の基板。
【請求項3】
抗菌物質が銀、銅、金及び亜鉛、またはそれらの混合物から選ばれることを特徴とする請求項1または2に記載の基板。
【請求項4】
基板が含む抗菌物質の合計量が、0.1mg/mより大きく、好ましくは1mg/mより大きく、特に好ましくは2mg/mより大きく、かつ300mg/m未満、好ましくは150mg/m未満、特に好ましくは80mg/m未満であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の基板。
【請求項5】
次の細菌:大腸菌、黄色ブドウ球菌、緑膿菌;の少なくとも一つに、基板が(規格JIS−Z−2801により測定すると)、log1より大きい、好ましくはlog2より大きい、特に好ましくはlog2.5より大きい殺菌効果を持つことを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載の基板。
【請求項6】
混合層が、酸化スズ、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、窒化ケイ素またはそれらの混合物、及び銀、銅及び亜鉛、またはそれらの混合物から選ばれた抗菌物質を含むことを特徴とする請求項1から5のいずれか一つに記載の基板。
【請求項7】
阻止下層が、熱分解及びスパッタリングされた層、特にPd,Ni,Cr,Y,TiO,NiCrO,Nb,Ta,Al,ZrまたはZnAl,SnO,ZnSn,SiO,SiO,ZrOまたはそれらのいずれかの混合物のような金属酸化物、金属オキシ窒化物、金属または金属合金化合物を含む層の中から選ばれることを特徴とする請求項2から6のいずれか一つに記載の基板。
【請求項8】
阻止下層が、金属窒化物、特にSi,Ti,ZrまたはAlの窒化物またはそれらの混合物の中から選ばれることを特徴とする請求項2から6のいずれか一つに記載の基板。
【請求項9】
下層が、熱分解法により、特に化学蒸着法により付着されることを特徴とする請求項2から8のいずれか一つに記載の基板。
【請求項10】
下層が、1nmより大きい、好ましくは10nmより大きい、特に好ましくは50nmより大きい厚さを持つことを特徴とする請求項2から9のいずれか一つに記載の基板。
【請求項11】
抗菌物質を含む混合層が、2nmより大きく、好ましくは5nmより大きく、特に好ましくは8nmより大きく、かつ300nm未満、好ましくは250nm未満、特に好ましくは200nm未満の厚さを持つことを特徴とする請求項1から10のいずれか一つに記載の基板。
【請求項12】
基板が、ZrOを含む下被覆で覆われており、抗菌物質を含む混合層が、TiO、特に少なくとも部分的にアナタース形で結晶化されたTiOに基づくことを特徴とする請求項1から11のいずれか一つに記載の基板。
【請求項13】
基板が金属製であることを特徴とする請求項1から12のいずれか一つに記載の基板。
【請求項14】
基板がガラスタイプの基板であることを特徴とする請求項1から12のいずれか一つに記載の基板。
【請求項15】
ガラス基板の表面の少なくとも一つの上を(好ましくは磁気的に強化された)減圧スパッタリング法により付着された少なくとも一つの混合層で被覆されたガラス基板において、この混合層が金属酸化物、オキシ窒化物、オキシ炭化物、炭化物、DLCまたは窒化物、特にSiO,SnO,ZrO,ZnO,TiO,NbO,Al,NiCrO,Si,TiN,AlN及びそれらの混合物、特にZnSn,TiZrOまたはSiOの中から選ばれた結合剤物質と混合された少なくとも一つの抗菌物質を含み、被覆された基板が焼入れ処理後も殺菌性を維持することを特徴とするガラス基板。
【請求項16】
ガラス基板の表面の少なくとも一つの上を(好ましくは磁気的に強化された)減圧スパッタリング法により付着された少なくとも一つの混合層で被覆されたガラス基板において、この混合層が金属酸化物、オキシ窒化物、オキシ炭化物、炭化物、DLCまたは窒化物、特にSiO,SnO,ZrO,ZnO,TiO,NbO,Al,NiCrOx,Si,TiN,AlNまたはそれらの混合物、特にZnSn,TiZrOまたはSiOの中から選ばれた結合剤物質と混合された少なくとも一つの抗菌物質を含み、被覆された基板が焼入れ処理後になされた促進老化試験後も抗菌性を維持することを特徴とするガラス基板。
【請求項17】
ガラス基板が、アニールされたガラスの特性を与えることを特徴とする請求項14から15のいずれか一つに記載のガラス基板。
【請求項18】
ガラス基板が反射での無彩色を持つ、すなわち表色系インデックスaとbが−10〜6、好ましくは−8〜3、特に好ましくは−6〜0の範囲内にあり、かつL値が60未満、好ましくは52未満、特に好ましくは46未満であることを特徴とする請求項14から16のいずれか一つに記載のガラス基板。
【請求項19】
ガラス基板が、50%より大きい、好ましくは60%より大きい、最も好ましくは65%より大きい可視範囲の光透過率を持つことを特徴とする請求項14から18のいずれか一つに記載のガラス基板。
【請求項20】
抗菌性を持つ基板の製造方法において、それが金属酸化物、オキシ窒化物、オキシ炭化物、炭化物、DLCまたは窒化物の中から選ばれた結合剤物質と混合された少なくとも一つの抗菌物質を、0〜500kHzの周波数を用いるDC電力、単極パルス電力または二極電力を用いて減圧スパッタリングにより付着することからなることを特徴とする方法。
【請求項21】
抗菌性を持つ被覆された基板の製造のための減圧下スパッタリング法において、それが抗菌物質をドープされた金属酸化物の混合層をスパッタリングにより付着することからなり、被覆された基板が促進老化試験後も抗菌性を与えることを特徴とする方法。
【請求項22】
二つの別個のターゲットが使用されることを特徴とする請求項20または21のいずれか一つに記載の方法。
【請求項23】
前記混合層、特にセラミックと金属物質の混合物を付着するために単一の混合されたターゲットが使用されることを特徴とする請求項20または21のいずれか一つに記載の方法。
【請求項24】
混合層が、AgドープされたSiO,SnO,ZrO,ZnO,TiO,NbO,Al,NiCrO,Si,TiN,AlNまたはそれらの混合物、特にZnSn,TiZrOまたはSiOの層からなることを特徴とする請求項20から23のいずれか一つに記載の方法。
【請求項25】
焼入れされかつ抗菌性のガラスタイプの基板の製造方法において、それが、
(i)抗菌物質及び結合物質を含む混合層を減圧スパッタリング法により付着し;
(ii)被覆された基板を基板の厚さに対応して2〜10分の間、600〜800℃の温度で焼入れする;
工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項26】
少なくとも一つの下層が混合層の付着前に基板上に付着されることを特徴とする請求項20から25のいずれか一つに記載の方法。
【請求項27】
下層が、焼入れ工程時の抗菌物質の移動を阻止または減速する機能を持つことを特徴とする請求項26に記載の方法。
【請求項28】
下層が、熱分解及びスパッタリングされた層、特にPd,Ni,Cr,Y,TiO,NiCrO,Nb,Ta,Al,ZrまたはZnAl,SnO,ZnSn,SiO,SiO,ZrOまたは金属窒化物、特にSi,Ti,ZrまたはAlの窒化物またはそれらの混合物のような金属酸化物、金属または金属合金化合物を含む層の中から選ばれることを特徴とする請求項26または27のいずれか一つに記載の方法。
【請求項29】
下層が、熱分解法により、特に化学蒸着法により付着されることを特徴とする請求項26から28のいずれか一つに記載の方法。

【公表番号】特表2009−541189(P2009−541189A)
【公表日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−515864(P2009−515864)
【出願日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【国際出願番号】PCT/EP2007/056109
【国際公開番号】WO2007/147832
【国際公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(507303620)エージーシー フラット グラス ユーロップ エスエー (21)
【Fターム(参考)】