説明

揺動体装置、光偏向装置、及び光偏向装置を用いた光学機器

【課題】可動体を揺動可能に支持する梁構造体の複数の曲がり梁の曲げ変形の態様の多様な組み合わせを、走査線間隔補正等の種々の用途に利用できる揺動体装置を提供する。
【解決手段】揺動体装置は、可動体101、2つの揺動軸回りに揺動可能に可動体を支持枠105に支持する梁構造体、駆動手段と検出手段の少なくとも一方を有する。梁構造体は、ねじれ変形可能なねじり梁102と、曲げ変形可能な複数の曲がり梁103を有する。ねじり梁102は、一端が可動体に連結され、他端が接続部102を介して各曲がり梁の一端に連結され、各曲がり梁103の他端は支持枠105に連結される。駆動手段106乃至113は、駆動信号で、曲がり梁の曲げ変形の態様の組み合わせを選択し、少なくとも1つの揺動軸を選んで該揺動軸回りの可動体の角変位を起こす。検出手段は、曲がり梁の曲げ変形の態様の組み合わせに応じた作用を受け、少なくとも1つの揺動軸回りの可動体の角変位を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揺動可能に支持された可動体を有する揺動体装置、光偏向装置、及び光偏向装置を用いた光学機器に関する。特に、走査線の歪補正機能を実行し得る構成を備えマイクロマシニング技術などにて作製され得る光偏向装置、及び該光偏向装置を用いた光学機器に関する。
【背景技術】
【0002】
光偏向装置は、例えばレーザ光を偏向する用途などに利用される。レーザ光を偏向・走査する走査ミラーとしてガルバノミラーがある。ガルバノミラーの駆動原理は次の様なものである。磁界中に配置した可動コイルに電流を流すと、電流と磁束とに関連して電磁力が発生して電流に比例したトルクが生じる。このトルクとバネ力とが平衡する角度まで可動コイルが回転し、この可動コイルを介して指針を振らせて電流の有無や大小を検出する。ガルバノミラーは、こうしたガルバノメータの原理を利用したもので、可動コイルと一体に回転する軸に、前記指針の代わりに反射鏡を設けて構成される。
【0003】
しかしながら、ガルバノミラーでは機械巻きの駆動コイルと磁界発生のための大型ヨークが必要であり、主に出力トルクの理由から、これらの機械要素の小型化には限度がある。また同時に、各構成部材を組み上げる際のスペース等から、光偏向のための装置全体のサイズが大きくなり易い。
【0004】
小型の光偏向装置としては、半導体製造技術を応用して微小機械を半導体基板上に一体形成するマイクロマシニング技術を用いて作製した光偏向装置がある。こうした光偏向装置として、K.E.Petersen等により、シリコンで形成されるTorsional-Scanning-Mirrorが提案されている(非特許文献1参照)。この光偏向装置では、図14(a)に示す様に、機械的可動部3が、光偏向板としてのミラー3aとこのミラーを支持する梁3bからなる。ミラー3aと基板上に形成した固定電極2との間に駆動電圧を印加し、生じる静電引力により、梁3bにねじりモーメントを与えてねじり回転させ、ミラー3aの偏向角度を変えるものである。ミラー3aの最大偏向角はミラー3aと基板との空隙間隔t0にて一義的に決定される。この様な構成の光偏向装置は、例えば、後述する図12に示す様な画像形成装置において、入射光を1次元に走査する光スキャナ装置として用いることができる。
【0005】
また、図14(b)に示す様なミラー16を2軸回りで偏向可能に配置した構造のアクチュエータ10も開示されている(特許文献1参照)。すなわち、可動ミラー12B、16が2つのトーションバー13Bでジンバル12Aに支持され、ジンバルが2つのトーションバー13Aで基板11に支持され、可動ミラー12B、16とジンバル12Aとの揺動軸が互いに直交する構造を有する。この構成の可動ミラー及びジンバル上の周縁部に駆動コイル15Bを形成し、可動ミラー及びジンバルの1つの対角線方向に、該可動ミラー及びジンバルを挟んで永久磁石4、5を配置することで、可動ミラー及びジンバルを駆動する。この様な構成の光偏向装置は、例えば、図13に示す様な画像表示装置において、入射光を2次元に走査する光スキャナ装置として用いることができる。
【非特許文献1】IBM J.RES. DEVELOP.,VOL.24,NO5,9,1980.P631-637
【特許文献1】特開平8-322227号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の様な1軸光偏向装置や2軸光偏向装置を用いた画像形成装置、画像表示装置などの光学機器では、感光体上に書き込まれるレーザ光の走査軌跡、或いは投影面で画像を形成するレーザ光の走査軌跡は、一般に図11(a)の様になる。図11(a)から分かる様に、走査パターンの端部近くで折り返す走査線の間隔が狭くなってしまっている。これにより、走査パターンの端部付近では画素間隔が不均等になって、充分な解像度の画像を得るのが容易ではない。また、複数の光源からの光を同時に走査する所謂マルチビーム走査の場合は、走査線を整列して揃えるのが容易ではなく、前記の課題は著しくなり易い。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る第1の揺動体装置は次の特徴を有する。すなわち、本揺動体装置は、可動体と、直交する2つの揺動軸の回りに揺動可能に可動体を支持枠に対して支持する梁構造体と、可動体を駆動するための駆動手段及び可動体の動きを検出するための検出手段の少なくとも一方を有する。前記梁構造体は、少なくともねじれ変形可能なねじり梁と、少なくとも曲げ変形可能な複数の曲がり梁とを有する。前記ねじり梁は、一端が前記可動体に連結され、他端が接続部を介して前記各曲がり梁の一端に連結され、前記各曲がり梁の他端は前記支持枠に連結される。前記駆動手段は、駆動信号により、前記複数の曲がり梁の曲げ変形の態様の組み合わせを選択し、前記2つの揺動軸のうちの少なくとも1つの揺動軸を選んで該揺動軸の回りの前記可動体の角変位を起こす。前記検出手段は、前記複数の曲がり梁の曲げ変形の態様の組み合わせに応じた作用を受けて、前記2つの揺動軸のうちの少なくとも1つの揺動軸の回りの前記可動体の角変位を検出する。
【0008】
また、本発明に係る第2の揺動体装置は次の特徴を有する。すなわち、本揺動体装置は、可動体と、直交する2つの揺動軸の回りに揺動可能に可動体を支持枠に対して支持する梁構造体を有する。前記梁構造体は、少なくともねじれ変形可能なねじり梁と、少なくとも曲げ変形可能な複数の曲がり梁とを有する。前記ねじり梁は、一端が前記可動体に連結され、他端が直接に前記各曲がり梁の一端に連結され、前記各曲がり梁の他端は前記支持枠に連結される。
【0009】
また、本発明に係る光偏向装置は、前記揺動体装置を有し、前記可動体に光偏向素子が設けられ、光偏向素子に入射する光ビームを偏向することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る光学機器は、前記光偏向装置を有し、光偏向装置が、光源からの光ビームを偏向し、該光ビームの少なくとも一部を光照射対象物に入射させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、上記の如き梁構造体を用いて可動体を揺動可能に支持しているので、前記複数の曲がり梁の曲げ変形の態様の多様な組み合わせを種々の用途に利用することができる。例えば、上記の如き駆動手段や検出手段により、可動体の角変位運動を柔軟に制御したり、可動体の角変位を介して外部から加わる加速度を検出したりすることができる。代表的な用途として、本発明の揺動体装置を光偏向装置に適用して、偏向光の走査パターンの端部で折り返す走査線の間隔を補正することができる。これにより、利用可能な走査線の範囲を広くすることができ、高解像度の画像形成が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の基本構成と原理を説明する。本発明による揺動体装置の第1の実施形態は、基本的に、可動体と、直交する2つの揺動軸の回りに揺動可能に可動体を支持枠に対して支持する梁構造体を有する。梁構造体は、典型的には、可動体を挟んで1対設けられるが、片持ち梁式に1つの梁構造体で可動体を揺動可能に支持してもよい。梁構造体は、ねじれ変形可能な1つのねじり梁と、曲げ変形可能な複数(典型的には1対であるが、複数対でもよい)の曲がり梁とを有する。ねじり梁は、一端が可動体に連結され、他端が接続部を介して各曲がり梁の一端に連結され、各曲がり梁の他端は支持枠に連結される。こうした構造に、可動体を駆動するための駆動手段及び可動体の動きを検出するための検出手段の少なくとも一方が設けられる。駆動手段は、駆動信号により、複数の曲がり梁の曲げ変形の態様の多様な組み合わせの中から用途に応じた適切なものを選択し、前記2つの揺動軸のうちの少なくとも1つの揺動軸を選んで該揺動軸回りの可動体の角変位を起こす。検出手段は、複数の曲がり梁の曲げ変形の態様の組み合わせに応じた作用を受けて、前記2つの揺動軸のうちの少なくとも1つの揺動軸の回りの可動体の角変位を検出する。これにより、外部から加わる加速度を検出するセンサとして用いることができたり、可動体の角変位の検出結果をフィードバックして駆動手段に印加する駆動信号を制御し、可動体の角変位運動を調整できる揺動体装置として用いることができたりする。
【0013】
また、本発明による揺動体装置の第2の実施形態は、基本的に、可動体と、直交する2つの揺動軸の回りに揺動可能に可動体を支持枠に対して支持する梁構造体を有する。ここでも、梁構造体は、典型的には、可動体を挟んで1対設けられるが、片持ち梁式に1つの梁構造体で可動体を揺動可能に支持してもよい。梁構造体は、ねじれ変形可能な1つのねじり梁と、曲げ変形可能な複数の曲がり梁とを有し、ねじり梁は、一端が可動体に連結され、他端が直接に各曲がり梁の一端に連結される。各曲がり梁の他端は支持枠に連結される。ここにおいて、各曲がり梁は、典型的には、ねじり梁の他端に直角に連結される。また、上記の如き駆動手段及び検出手段の少なくとも一方を有してもよい。複数の曲がり梁の曲げ変形の態様の多様な組み合わせを種々の用途に利用することができて、上記の如き動作をさせることができる点は、上記第1の実施形態と同様である。
【0014】
上記基本構成を備える実施形態は、入射する光を1次元または2次元に走査する光偏向装置に適用された場合、例えば、本来的な光走査機能と共に、走査パターンの端部付近の走査線の間隔を補正する機能を遂行することができる。
【実施例】
【0015】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。
(実施例1)
図1(a)は本発明の揺動体装置を用いる光偏向装置に係る実施例1の構成を示す上面図である。図1(b)は図1(a)のA-A’矢視断面図である。図1(c)は図1(a)のB-B’ 矢視断面図である。図1(d)は図1(a)のC-C’ 矢視断面図である。図1(e)は図1(a)のD-D’ 矢視断面図である。図2(a)乃至(c)、図3(a)、図3(b)は、図1(b)の断面図を用いて、Y方向の光走査のための駆動方法を説明する図である。図4(a)乃至(c)、図5(a)、図5(b)は、図1(e)の断面図を用いて、X方向の走査のための駆動方法を説明する図である。
【0016】
本実施例において、可動体に光偏向素子である反射面が設けられて入射光ビームを偏向する可動ミラー101は、梁構造体により、直交する2つの揺動軸の回りに揺動可能に支持枠105に対して支持されている。梁構造体は、少なくともねじれ変形可能なねじり梁102、少なくとも曲げ変形可能な複数(ここでは2つ)の曲がり梁103、接続部104を有する。ねじり梁102は、一端が可動ミラー101に連結され、他端が接続部104を介して各曲がり梁103の一端に連結される。各曲がり梁103の他端は支持枠105に連結される。
【0017】
本実施例では、前記直交する2つの揺動軸は夫々X方向とY方向に伸びる。また、各接続部104は、ねじり梁102の前記他端と各曲がり梁103の前記一端に夫々ほぼ直角に連結され、ねじり梁102と各曲がり梁103は互いにほぼ平行に伸びる。2つの曲がり梁103は、ねじり梁102の伸長方向で規定されるY方向に伸びる揺動軸を挟んで、対称に配置される。ここでは、梁構造体は、可動ミラー101を挟んで一対設けられていて、この形態は安定した動作のために好ましい形態であるが、可動ミラー101が片持ち梁式に1つの梁構造体で揺動可能に支持枠105に対して支持されてもよい。可動ミラー101、ねじり梁101、曲がり梁103、接続部104、支持枠105は、平板状の単結晶シリコンを除去加工して一体形成することができる。
【0018】
各曲がり梁103上には、可動ミラー101を駆動するための駆動手段である伸縮運動可能なアクチュエータが設けられている。伸縮運動可能なアクチュエータには、例えば、電圧信号が印加されることで梁の長さ方向に伸縮運動可能な圧電体106乃至113を用いることができる。圧電体106乃至113は絶縁層(不図示)を形成した曲がり梁103上に配置される。絶縁層には酸化膜を用いることができる。また、圧電体106乃至113には、夫々、運動を制御できる様に配線が形成されている(不図示)。駆動手段は、駆動信号により、複数の曲がり梁103の曲げ変形の態様の組み合わせを選択し、前記2つの揺動軸のうちの少なくとも1つの揺動軸を選んで該揺動軸回りの可動ミラー101の角変位を起こす。
【0019】
本実施例では、全ての曲がり梁103の上下面に、夫々、圧電体106乃至113が配置されているが、駆動手段の前記機能を実行できる配置ならば、どの様な配置で圧電体が設けられてもよい。例えば、全ての曲がり梁103の上面または下面にのみ圧電体が設けられてもよい。また、図1(a)の可動ミラー101を挟んで右側の2つの曲がり梁103の上面及び左側の2つの曲がり梁103の下面にのみ圧電体が設けられてもよい。或いは、図1(a)のY方向に伸びる揺動軸を挟んで上側の2つの曲がり梁103の上面及び下側の2つの曲がり梁103の下面にのみ圧電体が設けられたりしてもよい。
【0020】
上記構成の光偏向装置の駆動方法を図2乃至図5を用いて説明する。
圧電体107、109、110、112にのみ定電圧信号を印加するとき、図2(a)の様に可動ミラー102は、X方向に伸びる揺動軸の回りに角変位する。また、圧電体106、108、111、113にのみ定電圧信号を印加するとき、図2(c)の様に可動ミラー102は、図2(a)のときとは反対の向きにX方向に伸びる揺動軸の回りに角変位する。図2(b)は、何れの圧電体にも定電圧信号を印加していないときに可動ミラー102がとる中立位置の状態を示す。圧電体107、109、110、112に図3(a)の駆動電圧信号、圧電体106、108、111、113に図3(b)の駆動電圧信号を周期的に加えることで、可動ミラー102は図2(a)→(b)→(c)→(b)→(a)の様に角変位運動を繰り返す。
【0021】
他方、圧電体106、110、109、113にのみ定電圧信号を印加するとき、図4(a)の様に可動ミラー102は、Y方向に伸びる揺動軸の回りに角変位する。また、圧電体107、111、108、112にのみ定電圧信号を印加するとき、図4(c)の様に可動ミラー102は、図4(a)のときとは反対の向きにY方向に伸びる揺動軸の回りに角変位する。図4(b)は、何れの圧電体にも定電圧信号を印加していないときに可動ミラー102がとる中立位置の状態を示す。圧電体106、110、109、113に図5(a)の駆動電圧信号、圧電体107、111、108、112に図5(b)の駆動電圧信号を周期的に加えることで、可動ミラー102は図4(a)→(b)→(c)→(b)→(a)の様に角変位運動を繰り返す。
【0022】
図2と図4に示す角変位運動を重ね合わせることで可動ミラー102は前記2つの揺動軸の回りに揺動し、ここに入射する光をX方向及びY方向に偏向可能となる。本実施例では、このときのY方向の走査スピードはX方向の走査スピードの2倍になる様に駆動電圧信号の周波数を夫々設定する。すなわち、図3の駆動電圧信号の周波数を、図5の駆動電圧信号の周波数の2倍にする。この様に、前記電圧信号が、前記2つの揺動軸の一方の揺動軸の回りの可動体の角変位を起こす第1駆動電圧信号と、他方の揺動軸の回りの可動体の角変位を起こす第2駆動電圧信号とから成る様にする。勿論、図2と図4に示す角変位運動を夫々単独で可動ミラー102に起こさせる様にすることもできる。
【0023】
ここで、図12を用いて、上記構成の光偏向装置を用いた画像形成装置の一実施形態を説明する。601は図1に示された光偏向装置であり、この場合は入射光を走査する光スキャナ装置として用いている。602はレーザ光源である。603はレンズ或いはレンズ群であり、604は書き込みレンズ或いはレンズ群、605は、光照射対象物である一定速度で回転する感光体である。レーザ光源602から射出されたレーザ光は光走査のタイミングと関係した所定の強度変調を受けて、光偏向装置601により偏向・走査される。走査されたレーザ光は、書き込みレンズ604により感光体605上へ画像を形成する。感光体605は、図示しない帯電器により一様に帯電されており、この上に光を走査することで静電潜像が形成される。更に、図示しない現像器により静電潜像の画像部分にトナー像を形成し、これを、例えば図示しない用紙に転写・定着することで、用紙上に可視像が形成される。
【0024】
感光体605の回転方向と垂直な方向(X方向)の光走査は図4に示した角変位運動により行われる。例えば、このX方向の走査を行う駆動電圧信号の周波数を20kHzに設定することができる。この駆動電圧信号は、好適には、可動体及びねじり梁をねじり共振させる電圧信号である。このとき、X方向と直交するY方向への走査は図2に示した角変位運動により行われ、この駆動電圧信号の周波数はX方向の駆動周波数の2倍の40kHzに設定する。Y方向の駆動信号の振幅は、走査線の間隔が等しくなる様に適宜設定する。つまり、このY方向の走査が、走査パターン端部の走査線間隔補正の機能を果たす。Y方向走査がない場合の感光体上の走査線軌跡は図11(a)に示す様になるのに対して、補正機能を用いた場合の走査線軌跡は図11(b)に示す様になる。
【0025】
上記構成において、可動体を駆動するための駆動手段の一部の圧電体を、可動体の動きを検出するための検出手段として用いることもできる。この検出手段は、複数の曲がり梁の曲げ変形の態様の組み合わせに応じた作用を該圧電体で受けて、前記2つの揺動軸のうちの少なくとも1つの揺動軸の回りの可動体の角変位を電圧信号として検出する機能を持つ。この場合、検出手段による可動体の角変位の検出結果は、フィードバックして駆動手段に印加する駆動信号を制御し、可動体の角変位運動を調整・制御するのに用いることができる。
【0026】
また、上記構成において、全部の圧電体を、可動体の動きを検出するための検出手段として用いて、上記揺動体装置を、外部から加わる軸回りの加速度を検出するセンサとして用いることもできる。この場合、後述の実施例3で述べる第2の駆動手段を更に設けて、検出手段による可動体の角変位の検出結果を、該第2の駆動手段のための上記フィードバック制御用の信号として用いることもできる。或いは、図2の様に可動ミラー102をX方向の揺動軸回りに角変位させる働きに上記全部の圧電体の機能を特化して、走査パターン端部の走査線間隔補正の機能のみを果たす様にしてもよい。更には、実施例3で述べる第2の駆動手段を前記駆動手段に替えて設けることもできる。
【0027】
以上の様に、上記構成の本実施例の光偏向装置においては、走査パターンの端部近くで折り返す走査線の間隔を補正することが可能で、利用可能な走査線の範囲を広くできる。こうして、高解像度を有する画像形成が可能となる。また、本実施例の光偏向装置は容易に小型にすることができ、本実施例の光偏向装置を用いた画像形成装置も小型化が可能である。
【0028】
(実施例2)
本発明の揺動体装置を用いる光偏向装置に係る実施例2を説明する。本実施例では、図6に示す様に光偏向装置を設計、製作した。図6(a)は本実施例の光偏向装置の構成を示す上面図、図6(b)は図6(a)の光偏向装置のA-A’矢視断面図である。
【0029】
本実施例における光偏向装置の構成は、図1の光偏向装置の曲がり梁の配置をねじり梁に対して直交する様に変更したものである。つまり、本実施例は、可動体である可動ミラー801と、直交する2つの揺動軸の回りに揺動可能に可動ミラー801を支持枠805に対して支持する梁構造体を有する。梁構造体は、少なくともねじれ変形可能なねじり梁802と、少なくとも曲げ変形可能な複数の曲がり梁803とを有する。ねじり梁802は、一端が可動ミラー801に連結され、他端がほぼ直接に各曲がり梁803の一端に連結され、各曲がり梁803の他端は支持枠805に連結される。ここでは、強度上の補強のために、ねじり梁802と曲がり梁803の間にフィレットが設けられているが、これは省略することもできる。また、各曲がり梁803は、ねじり梁802の前記他端にほぼ直角に連結されている。この角度は変更することもできて、ねじり梁802と2つの曲がり梁803をY字状に連結することもできる。
【0030】
本実施例でも、可動ミラー801を駆動するための駆動手段及び可動ミラー801の動きを検出するための検出手段の少なくとも一方を設けることができる。ここでも、曲がり梁803の長さ方向に伸縮運動可能な圧電体806乃至813(ただし、圧電体811と圧電体813は図6では見えない)を用いることができる。上記実施例1で説明した様に、圧電体を駆動手段として用いることができる。この場合、駆動手段は、駆動信号により、複数の曲がり梁803の曲げ変形の態様の組み合わせを選択し、前記2つの揺動軸のうちの少なくとも1つの揺動軸を選んで該揺動軸の回りの可動ミラー801の角変位を起こす。圧電体を検出手段として用いる場合は、検出手段は、複数の曲がり梁803の曲げ変形の態様の組み合わせに応じた作用を受けて、前記2つの揺動軸のうちの少なくとも1つの揺動軸の回りの可動ミラー801の角変位を検出する。その他の構成、駆動方法、変更可能な態様は、上記実施例1の説明で述べたものと同様である。
【0031】
本実施例の光偏向装置を図12に示した画像形成装置に用いる場合も、走査パターンの端部近くで折り返す走査線の間隔を補正することが可能で、利用可能な走査線の範囲を広くできる。こうして、高解像度を有する画像形成が可能となる。また、本実施例の光偏向装置も容易に小型にすることができ、本実施例の光偏向装置を用いた画像形成装置も小型化が可能である。
【0032】
(実施例3)
本発明の揺動体装置を用いる光偏向装置に係る実施例3を説明する。本実施例では、図7に示す様に光偏向装置を設計、製作した。図7は本実施例の光偏向装置の構成を示す上面図であり、図9と図10は、図7の光偏向装置のA-A’矢視断面における構造の動作中の様子を説明する図である。
【0033】
本実施例において、可動ミラー901は、梁構造体(第1のねじり梁902、曲がり梁903、接続部904)により、前記2つの揺動軸の回りで可動に支持枠905に支持されている。支持枠905は、弾性支持部である第2のねじり梁914により、ねじり回転可能に固定部915に支持されている。第1のねじり梁902と第2のねじり梁914は直交する様な位置関係に配置されている。可動ミラー901、ねじり梁901、曲がり梁903、接続部904、支持枠905、第2のねじり梁914、固定部915は、平板状の単結晶シリコンを除去加工して一体形成することができる。弾性支持部である第2のねじり梁914は、前記2つの揺動軸とは異なる他の揺動軸の回りに揺動可能に支持枠905を固定部915に対して支持できるが、ここでは、X方向に伸びる揺動軸の回りで可動に支持枠905を支持している。すなわち、前記他の揺動軸は、前記2つの揺動軸の一方の揺動軸と一致する。
【0034】
曲がり梁903上には、可動ミラー901を駆動するための駆動手段である伸縮運動可能なアクチュエータが設けられている。伸縮運動可能なアクチュエータには、例えば、梁の長さ方向に伸縮運動可能な圧電体906乃至913を用いることができる。圧電体906乃至913は絶縁層(不図示)を形成した曲がり梁903上に配置される。絶縁層には酸化膜を用いることができる。また、圧電体906乃至913には、夫々、運動を制御できる様に配線が形成されている(不図示)。その他、これらの圧電体については、上記実施例1で述べた通りである。
【0035】
また、本実施例では、絶縁層(不図示)を形成した支持枠905上には、可動ミラー901及び梁構造体を周回する様にコイル916が形成されている。電流信号が印加されることで磁場を生じるコイル916の外側には、異なる磁極が対向する様に永久磁石917を配置される。第1及び第2のねじり梁902、914の伸長方向から夫々45°傾いた方向において永久磁石917が配置されている。コイル916と永久磁石917は、前記第2の駆動手段を構成する。この第2の駆動手段は、支持枠905を駆動するためのものである。
【0036】
図8(a)乃至(c)、図9(a)乃至(c)は本実施例の駆動方法を説明する図である。図9は図7のA−A’での矢視断面図である。
【0037】
可動ミラー901を支持枠905に対して角変位運動させるために、コイル906に正弦波の第1駆動電流信号(図8(a))を印加する。この正弦波の周波数は、可動ミラー901及び第1のねじり梁902の支持枠905に対するねじり共振周波数20kHzに設定した。これにより、可動ミラー901は、支持枠905に対する角変位が正弦波状となる角変位運動をする(図9(a)参照)。また、支持枠905を固定部915に対して角変位運動させるために、コイル906にノコギリ波形状の第2駆動電流信号(図8(b))を印加する。この駆動周波数は60Hzに設定した。このとき、シンバルである支持枠905の角変位はノコギリ波状になる(図9(b)参照)。第2駆動電流信号のみをコイル906に印加したとき、可動ミラー901は、第1のねじり梁902を含む梁構造体により支持枠905と連結しているため、支持枠905と一緒に、第2のねじり梁914により固定部915に対して角変位運動をする。第1駆動電流信号と第2駆動電流信号を重畳して(図8(c))コイル906に印加することで、可動ミラー901を固定部915に対して2次元に角変位運動させることが可能となる(図9(c)参照)。このときの走査パターンを図11(a)に示す。
【0038】
他方、圧電体907、909、910、912に図3(a)の駆動電圧信号、圧電体906、908、911、913に図3(b)の駆動電圧信号を加えることで、可動ミラー901は図10(a)→(b)→(c)→(b)→(a)の様に角変位運動を繰り返す。この駆動電圧信号の周波数を40kHz(上記共振周波数20kHzの2倍)に設定した。
【0039】
コイル906に第1駆動電流信号と第2駆動電流信号を重畳して印加するとともに、複数の圧電体に上述した様に駆動電圧信号を印加することで、走査パターンの端部近くで折り返す走査線の間隔を補正することが可能となる(図11(b)参照)。ここでの補正原理は上述の実施例で説明した通りである。
【0040】
図13を用いて、本実施例の光偏向装置を用いた画像表示装置の一実施形態を説明する。まず、光源変調駆動部1201から出た変調信号1202により直接変調光源1203の変調を行う。本形態においては、直接変調光源1203として赤色の半導体レーザを用いた。直接変調光源1203としては、赤色、青色、緑色の直接変調可能な光源を用い、これらを混色光学系にて混色して用いてもよい。直接変調光源1203から直接変調された出力光1204は、光偏向装置1205の反射面に照射される。更に、光偏向装置1205により偏向された反射光は、補正光学系1206を通って、照射対象物である画像表示体1207上に画像として表示される。補正光学系1206は、共振走査による画像の歪みを補正する光学系である。
【0041】
光偏向装置1205は図7に示した光偏向装置であり、光偏向装置1205を用いて出力光1204をラスタ走査することにより、画像表示体1207に画像を高解像度で表示することができる。
【0042】
本実施例の光偏向装置も、走査パターンの端部近くで折り返す走査線の間隔を補正することが可能で、利用可能な走査線の範囲を広くすることができ、高解像度を有する画像形成が可能である。また、本実施例の光偏向装置も小型にでき、本実施例の光偏向装置を用いた画像表示装置は高精細化且つ小型化が可能となる。
【0043】
本実施例のコイルと永久磁石から成る前記第2の駆動手段は、上記実施例2に用いることもできる。また、本実施例でも、圧電体から成る手段は、検出手段としてのみ用いたりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】(a)は本発明の光偏向装置の実施例1を示す上面図、(b)は実施例1を示すA-A’矢視断面図、(c)は実施例1を示すB-B’ 矢視断面図、(d)は実施例1を示すC-C’ 矢視断面図、(e)は実施例1を示すD-D’ 矢視断面図である。
【図2】実施例1のY方向の走査のための駆動を説明する断面図である。
【図3】Y方向の走査のための駆動信号を説明する図である。
【図4】実施例1のX方向の走査のための駆動を説明する断面図である。
【図5】X方向の走査のための駆動信号を説明する図である。
【図6】(a)は本発明の光偏向装置の実施例2の上面図、(b)は実施例2を示すA-A’矢視断面図である。
【図7】本発明の光偏向装置の実施例3を示す上面図である。
【図8】実施例3の駆動信号を説明する図である。
【図9】実施例3の駆動方法を説明する図である。
【図10】実施例3の走査線間隔補正のための駆動を説明する図である。
【図11】走査軌跡を説明する図である。
【図12】本発明の光偏向装置を用いた画像形成装置の一実施形態を説明する図である。
【図13】本発明の光偏向装置を用いた画像形成装置の他の形態を説明する図である。
【図14】従来例を説明する図である。
【符号の説明】
【0045】
101、801、901 可動体(可動ミラー)
102、802、902 ねじり梁(第1のねじり梁)
103、803、903 曲がり梁
104、904 接続部
105、805、905 支持枠
106乃至113、806乃至813、906乃至913 駆動手段(検出手段、圧電体)
601、1205 光偏向装置
602、1203 光源(レーザ光源、直接変調光源)
605、1207 照射対象物(感光体、画像表示体)
914 弾性支持部(第2のねじり梁)
915 固定部
916 第2の駆動手段(コイル)
917 第2の駆動手段(永久磁石)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動体と、
直交する2つの揺動軸の回りに揺動可能に前記可動体を支持枠に対して支持する梁構造体と、
前記可動体を駆動するための駆動手段及び前記可動体の動きを検出するための検出手段の少なくとも一方と、
を有する揺動体装置であって、
前記梁構造体は、少なくともねじれ変形可能なねじり梁と、少なくとも曲げ変形可能な複数の曲がり梁とを有し、
前記ねじり梁は、一端が前記可動体に連結され、他端が接続部を介して前記各曲がり梁の一端に連結され、
前記各曲がり梁の他端は前記支持枠に連結され、
前記駆動手段は、駆動信号により、前記複数の曲がり梁の曲げ変形の態様の組み合わせを選択し、前記2つの揺動軸のうちの少なくとも1つの揺動軸を選んで該揺動軸の回りの前記可動体の角変位を起こし、前記検出手段は、前記複数の曲がり梁の曲げ変形の態様の組み合わせに応じた作用を受けて、前記2つの揺動軸のうちの少なくとも1つの揺動軸の回りの前記可動体の角変位を検出することを特徴とする揺動体装置。
【請求項2】
前記各接続部は、前記ねじり梁の他端と前記各曲がり梁の一端に夫々直角に連結され、
前記ねじり梁と前記各曲がり梁は互いに平行に伸びることを特徴とする請求項1記載の揺動体装置。
【請求項3】
可動体と、直交する2つの揺動軸の回りに揺動可能に前記可動体を支持枠に対して支持する梁構造体とを有する揺動体装置であって、
前記梁構造体は、少なくともねじれ変形可能なねじり梁と、少なくとも曲げ変形可能な複数の曲がり梁とを有し、
前記ねじり梁は、一端が前記可動体に連結され、他端が直接に前記各曲がり梁の一端に連結され、
前記各曲がり梁の他端は前記支持枠に連結されることを特徴とする揺動体装置。
【請求項4】
前記各曲がり梁は、前記ねじり梁の他端に直角に連結されることを特徴とする請求項3記載の揺動体装置。
【請求項5】
前記可動体を駆動するための駆動手段及び前記可動体の動きを検出するための検出手段の少なくとも一方を有し、
前記駆動手段は、駆動信号により、前記複数の曲がり梁の曲げ変形の態様の組み合わせを選択し、前記2つの揺動軸のうちの少なくとも1つの揺動軸を選んで該揺動軸の回りの前記可動体の角変位を起こし、前記検出手段は、前記複数の曲がり梁の曲げ変形の態様の組み合わせに応じた作用を受けて、前記2つの揺動軸のうちの少なくとも1つの揺動軸の回りの前記可動体の角変位を検出することを特徴とする請求項3または4記載の揺動体装置。
【請求項6】
前記駆動手段は、電圧信号が印加されることで伸縮運動する少なくとも1つの圧電体が前記各曲がり梁に設けられて構成されることを特徴とする請求項1、2、及び5の何れか1項に記載の揺動体装置。
【請求項7】
前記電圧信号が、
前記2つの揺動軸の一方の揺動軸の回りの前記可動体の角変位を起こす第1駆動電圧信号と、
前記2つの揺動軸の他方の揺動軸の回りの前記可動体の角変位を起こす第2駆動電圧信号とから成ることを特徴とする請求項6記載の揺動体装置。
【請求項8】
揺動軸の回りに揺動可能に前記支持枠を固定部に対して支持する弾性支持部と、前記支持枠を駆動するための第2の駆動手段とを有することを特徴とする請求項1から7の何れか1項に記載の揺動体装置。
【請求項9】
請求項1から8の何れか1項に記載の揺動体装置を有し、前記可動体に光偏向素子が設けられ、前記光偏向素子に入射する光ビームを偏向することを特徴とする光偏向装置。
【請求項10】
請求項9に記載の光偏向装置を有し、
前記光偏向装置が、光源からの光ビームを偏向し、該光ビームの少なくとも一部を光照射対象物に入射させることを特徴とする光学機器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2009−210946(P2009−210946A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−55626(P2008−55626)
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】