説明

材料及びその用途

【課題】電気メッキされたCoPtP材料は垂直磁気特性を高め、超小型電気機械システム(MEMS)デバイスの使用において有益である。
【解決手段】94−98重量%のCo,0−1重量%のPt及び2−4重量%のPの組成を有するコバルト(Co),プラチナ(Pt)及びリン(P)から構成される材料。材料はセ氏100乃至500度の温度でアニーリングされる。材料は適当な電気化学浴中で基板を電気メッキすることにより形成される。電気メッキされたCoPtP材料は基板に層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコバルト(Co)、プラチナ(Pt)及びリン(P)から構成される材料及びその用途に関する。例えば、この材料は例えば超小型電気機械システム(MEMS)デバイスにおいて用いられる。
【背景技術】
【0002】
薄膜コバルト/プラチナ(CoPt)及びコバルト/プラチナ/リン(CoPtP)合金はそれらの高磁気結晶異方性と磁気飽和のゆえにハードデイスクドライブに用いられる電位垂直記録材料として知られている。即ち、Co50Pt50の規則正しい位相は非常に高い保磁力(>10kOe)を示す。磁気記録産業における応用に加えて、最近、磁気マイクロアクチュエータに必要とされる高エネルギー・プロダクトの故にCoPt系材料は電気機械システム(MEMS)における応用において巨大なポテンシャルを有していると評価されてきた。エネルギー・プロダクトは材料の減磁曲線の如何なる点において動作するとき磁気材料が外部磁気回路に供給するエネルギーを示す。MEMS技術はマイクロデバイス及びナノデバイスの製造のために半導体製造技術を利用してきた。
【0003】
通常、コバルト/プラチナの薄膜(サブマイクロメータ)は真空蒸着工程により製造される。しかしながら、真空蒸着工程の作業コストは高い。最近、別の方法として電気メッキが用いられつつある。
【0004】
電気メッキ工程を用いてCo系膜を製造する試みがなされてきていて、膜厚は通常10μm以下に限定されてきた。更に、膜の熱安定性は予め調査はされて来なかった。膜の熱安定性は各種デバイス、特に、MEMSデバイスにおける膜の可能な使用の評価には必要不可欠なものである。特に、用いられるMEMSデバイスの必要条件に合致する十分な厚さであることが必要である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の考察に鑑みて、十分な熱安定性と適切な方法による厚膜析出を可能とする新規な材料の開発が必要である。
【0006】
本発明の目的は上述した問題に対処することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1アスペクト(面)によると、本発明は94−98重量パーセントのCo、0−1重量パーセントのPt及び2−4重量パーセントのPの組成を有するコバルト(Co)、プラチナ(Pt)及びリン(P)から構成される材料を提供する。
【0008】
本発明の少なくともある実施例は電気機械システム(MEMS)デバイスの電気メッキに好適な材料を提供する。
【0009】
材料は磁気材料であってもよい。特に、組成は96.3重量パーセントのCo、0.6重量パーセントのPt及び2−4重量パーセントのPを有する組成であってもよい。
【0010】
材料をセ氏100乃至500度の温度でアニーリング処理してもよい。アニーリング処理を外界温度で行ってもよい。アニールされた材料は垂直磁気記録特性が高められていてもよい。高められた特性の例は材料の垂直保磁力、残留磁化及び/又は材料の直角度を含む。
【0011】
本発明の第2アスペクトによると、本発明は本発明の第1アスペクトによる基板と材料を提供するものであり、材料は基板上に電気メッキされてその上に層を形成する。層の厚さは変更し得る。好ましくは、厚さは少なくとも0.5μmとする。基板はガラス基板でもよい。基板はシード層でスパッターされてもよい。シード層はクローム(Cr)層とその上の金(Au)の層から構成される(ここではCr/Auシード層として示される)。Cr/Auシード層の金の層は(111)結晶配向を有する。
【0012】
材料を電気メッキすることによる利点とは、それにより例えば真空プロセスのような他のプロセスによる“ラインオブサイト(line−of−sight)”適合析出に比較して選択的な領域析出を提供することにある。更に、電気メッキは、単純な装置の立ち上げを含む速い析出レートを有し、またプロセスパラメータの制御もより容易である。
【0013】
本発明の第3アスペクトによると、本発明は本発明の第1アスペクトによる材料を電気メッキする方法を提供するものであり、この方法は
(a)電気化学浴を提供し;
(b)基板を提供し;そして
(c)電気化学浴中で基板に材料を電気メッキするステップから構成される。
【0014】
基板はクローム(Cr)の層とその上の金(Au)からなるシード層(ここでCr/Auシード層として示される)から構成してもよい。Cr/Auシード層の金層が(111)結晶配向を有するものとしてもよい。
【0015】
電気メッキは10乃至40mA/cmの電流密度で行ってもよい。好ましくは、電気メッキは25mA/cmで行われる。好ましくは、電気メッキが生じたとき電流密度は一定のままである。このことはガルバノスタットを用いて達成してもよい。
【0016】
この方法は更に(d)セ氏100乃至500度の温度で材料をアニーリング処理に付すステップを有してもよい。アニーリング処理を外界温度で行ってもよい。
【0017】
電気化学浴は0.01−0.10モル/リットルのCo2+イオン、0.01−0.10モル/リットルのPtCl2−イオン及び0.01−0.50モル/リットルのHPOイオンのひとつ、それ以上又は全部から構成される組成を有してもよい。好ましくは、電気化学浴は0.025モル/リットルのCo2+イオン、0.025モル/リットルのPtCl2−イオン及び0.072モル/リットルのHPOイオンのひとつ、それ以上又は全部から構成される組成を有する。電気化学浴は更にホウ酸、塩化ナトリウム、ドデシル硫酸塩及びサッカリンのひとつ若しくは結合の形での他のイオンから構成してもよい。
【0018】
電気化学浴はセ氏15乃至40度の温度としてもよい。特に、セ氏20度の温度としてもよい。浴のpHは2.0乃至5.0としてもよい。特に、浴のpHは4.5としてもよい。
【0019】
電気メッキは回転デイスク電気メッキ(RDE)システムを用いて行ってもよい。好ましくは、電気メッキは100乃至1000rpmの回転攪拌のもとに行われる。より好ましくは、電気メッキは500rpmの回転攪拌のもとに行われる。
【0020】
材料は超小型電気機械システム(MEMS)デバイス、特にマイクロアクチュエータを成し遂げる電磁相互作用を利用するMEMSデバイスにおいて使用することができる。
【0021】
本発明の第4アスペクトによると、本発明はここに定義される材料から構成されるMEMSデバイスを提供する。例えば、MEMSデバイスは磁気デバイスであってもよい。特に、マイクログリッパーであってもよい。
【0022】
本発明の第5アスペクトによると、本発明は把持部の間の対象物を把持するよう動作可能なMEMSデバイスを提供するものであり、このデバイスは磁界を生ずるように動作可能な場発生手段を有し、及びこのデバイスは把持部の少なくともひとつがその場の影響のもとに他方の把持部の少なくともひとつに対して相対的に移動可能に構成されている。
【0023】
場発生手段は電位差がそれに接続されたとき磁界を発生するように動作可能であってもよい。場発生手段は電気導体から形成される少なくともひとつのコイルを有していてもよい。場発生手段はMEMSデバイスの本体に支持されていてもよい。
【0024】
少なくとも把持部のひとつは磁化可能な材料から構成され磁界と影響しあってこの磁化可能な材料から構成されたひとつの把持部が他の少なくともひとつの把持部に対して相対的に移動するよう配置された磁化可能な材料から構成してもよい。磁化可能な材料は前記または各把持部に被覆物を形成していてもよい。
【0025】
MEMSデバイスは2つの把持部から構成されていてもよく、各把持部は他方に対して移動可能であり及び各把持部は磁化可能な材料から構成されていてもよい。
【0026】
デバイスは2つのコイルから構成されていてもよく、各コイルが夫々場を生じて各場が夫々ひとつの把持部の磁気材料に相互に作用するように配置されていてもよい。
【0027】
デバイスは弾性を有する柔軟構造によりMEMSデバイスの本体に相対的な移動のために取り付けられている把持部を少なくともひとつ有してもよい。特に、少なくともひとつの把持部はデバイスの少なくともひとつのコイルに隣り合い且つ離間されるよう支持されている。弾性を有する柔軟構造は平らなねじりコイルばねであってもよい。弾性を有する柔軟構造は夫々の把持部をMEMSデバイスの本体から片持ち支持するように支持していてもよい。
【0028】
少なくともひとつの把持部は把持部とその間に把持された対象物との間の把持を促進するよう配置される材料を被覆または具備していてもよい。
【0029】
磁化可能な材料は本発明の第1アスペクトによる材料であってもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明の実施の形態を付帯する図面を参照して説明する。
以下の実験がなされ、本発明を実施する材料の層が電気メッキにより生成され、テストされた。
【0031】
電気メッキは電着プロセスにより生ずる。電着は電流の活動により対象物の表面に、通常、金属のコーテイングを生みだすプロセスである。対象物上に金属のコーテイングを析出することは負電荷をコーテイングされる対象物に加え、析出される金属の塩を含有する溶液に侵される(即ち、コーテイングされる対象物は電解槽の陰極とされている)。溶液は電解液と呼ばれ、また一般的には電気化学浴とも呼ばれる。電気化学浴は所望の金属イオンを含有する特別に設計された化学溶液である。電源により電気メッキプロセスに必要な必要電流が提供される。
【0032】
第1に、材料を電気メッキするのに用いられる適当な電気化学浴は表1に列挙された化学製品を脱イオン水に溶解することにより準備される。化学製品は列挙された順番で付加される。
【0033】
【表1】

【0034】
円形のガラス基板が得られた。各基板は直径12mmであった。ガラス基板はクローム(Cr)(20nm)層とその上の金(Au)の層から構成されるシード層によりスパッターされた(ここにおいてはCr/Auシード層として示される)。スパッターされた基板はトリクロロエチレンとエタノールを用いて超音波的に洗浄された。導電銀ペーストが二つの対向する点でガラス基板の裏側と側壁に加えられて、電気メッキシステムの電極が基板上のCr/Auシード層の金の層に電気的に接続された。使用された電気メッキシステムは回転デイスク電気メッキ(RDE)システムである。更に、Cr/Auシード層の金の表面は硫黄酸で活性化された。
【0035】
基板は次に基板の縁を覆うホルダーにより電気メッキシステムの陰極に固定された。プラチナ線が電気メッキシステムの陽極として用いられた。Ag/AgCl電極が、塩橋を介してメッキ溶液に接続されている参照電極として用いられた。参照電極は、公知の安定した平衡電極電位を有する電極である。それは、電気化学的電池において測定できる他の電極の電位(典型的には作用電極または測定電極の電位)に対する基準点として用いられる。
【0036】
メッキの露出された領域は、直径10mmの中心円形領域を超えていた。電気化学電着は室温(略20℃)でガルバノスタットを介して陽極と陰極との間に25mA/cmの電流密度を印加する電気回路により行われた。ガルバノスタットは一定の電流が提供されることを確実とするために用いられた。電気化学浴のpHは電気メッキに先立って硫黄酸と水酸化ナトリウムを用いて4.5に調節された。電気メッキを均一且つ再現可能とするのを確実とするために、メッキは10分間、500rpmの回転攪拌速度で行われた。
【0037】
電気メッキの結果、コバルト(Co)/プラチナ(Pt)/リン(P)(CoPtP)の層が、Cr/Auシード層でスパッターされたガラス基板上に形成された。特に、基板(CoPtP層がその上に形成された)は電気メッキプロセスの期間中回転された。
【0038】
電気メッキが完了したあと、CoPtP層でメッキされたスパッターされたCr/Auシード層を伴うガラス基板上にX線回折(XRD)が行われた。XRDスペクトル(図2)が、CoPtP層とともに電気メッキされる前にスパッターされたCr/Auシード層を伴う普通のガラス基板になされたXRDスペクトル(図1)と比較された。
【0039】
図1から理解できるように、Au(111)結晶配向からの反射に対応する2θで略38°に等しい唯一の顕著なピークが存在した。図2は2θで44.5°に略等しい追加の観察されたピークを示しており、それは六方晶系の最密(hcp)Co(002)結晶配向からの反射ピークに対応する。
【0040】
電気メッキされたガラス基板の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真が撮られた。SEMは図3に示されている。電気メッキされた材料の層が平均0.6μmの厚さを有していることが観察された。
【0041】
更に、電気メッキされた層の元素分析が誘導結合プラズマ(ICP)により行われた。96.3重量%のCo,0.6重量%のPt及び3.1重量%のPの組成が明らかとなった。
【0042】
層の磁気特性もまた振動サンプルマグネトメータ(VSM)を用いて決定された。特に、電気メッキされたCoPtP層の特性は、層を伴う基板の第1の例を200℃でアニーリング処理に付し、また層を伴う基板の第2の例を300℃でアニーリング処理に付し、それぞれ外界雰囲気中で2時間処理したあとで決定された。夫々の特性は層をアニーリング処理に付すのに先立って決定される。図4は、アニーリング処理の前後のCoPtP層の面外M−Hヒステリシス曲線を示している。測定された層の特性は、垂直保磁力(Hc),残留磁化(Mr),飽和磁化(Ms)及び直角度(S)である。測定された特性の要約が表2に示されている。
【0043】
【表2】

【0044】
保磁力(Hc)は磁界の強度の基準である。それは通常エルステッド(Oe)で測定される。低保磁力は材料が容易に磁化及び/又は消磁されることを示し、一方高保磁力は材料が磁化及び/又は消磁し難いことを示している。
【0045】
残留磁化(Mr)は、強い磁界に曝されたあとで対象物により生ずる磁界の強度を云う。又は、残留磁化は材料が磁界を保持する能力の基準とも云える。
【0046】
飽和磁化(Ms)は、磁界強度の増加が材料の本質的な磁気誘導において増加を引き起こさないとき達成される。飽和磁化は通常温度の上昇とともに減少する。
【0047】
直角度(S)は材料の飽和磁化に対する残留磁化の割合として定義される(即ち、Mr/Ms)。
【0048】
上述した特性は、残留磁化は外部磁界が除去されたあとも残る永久磁化であることに関連されている。もしも外部磁界がさらに減じられたなら、残留磁化は最終的には除去される。残留磁化がゼロになる外部磁界は保磁力と呼ばれている。
【0049】
表2から明らかなように、増加するアニーリング温度とともに垂直Mr,Hc及びSにおいて増加がある。アニーリング処理は層のMsにおける減少を引き起こし、結果としてヒステリシス曲線の横方向への広がりに導かれ、その故により高いHcが得られることが観察されている。アニーリングされていない電気メッキされたCoPtP層は夫々378.78emu/cc及び2191.77Oeという垂直MrとHcの高い垂直磁気異方性を示す。層は外界雰囲気中で300℃までアニーリングされたときに夫々485.89emu/cc及び3039.51Oeと垂直Mr及びHcが改善して熱的安定性を示す。
【0050】
これらの結果はMEMSデバイス、特に磁気MEMSデバイスの製造のために電気メッキにより形成されるそのような層を使用する可能性を示している。
【0051】
電気メッキにより製造されたCoPtP層は、マイクロアクチュエーションを達成するために電磁相互作用を利用する多くのMEMSデバイスに応用可能である。CoPtP層を使用可能なMEMSデバイスの例はマイクログリッパー、マイクロミラー及びマイクロポンプを含む。
【0052】
マイクログリッパーデバイスの可能な構造が上面図、側面図及び斜視図を示す図5、図6及び図7に夫々示されている。マイクログリッパーは極微な対象物をしっかりと握る機械的デバイスである。本質的に、それは2つの役割を持つ。それはマイクロマシンを組み立てる道具として用いることができ又はマイクロロボットの手として用いることができる。 いずれの場合にも、マイクログリッパーは対象物を握る指と指の移動を生ぜしめるアクチュエータを有している。
【0053】
デバイスはデバイスの他の構成要素のために基部として働く基部1を有する。基部1は平らで長方形である。二つのコイル2,3が基部1に巻回されており、各コイルは基部1の各端部に位置されている。基部1の真ん中でコイル2,3間に間隙が存在し、そして2つの端部にも間隙が存在する。2つのコイル2,3間の間隙において台座部4が基部1に取り付けられている。台座部は、基部1の表面を横切って延びる主要な寸法を持ち、基部1の長さに垂直なちょうど長方形のブロックである。
【0054】
台部5,6がコイル2,3の何れかの上に位置するように台座部4の各側部から突出している。各台部5,6はそれが上に突出するコイル2,3との間に間隙が存在するような構成となっている。一般的に、台部5,6は平らで同一の平面に存在し、その平面は基部1の平面に平行となされている。基板に隣接する各台部5,6の面は前述した磁気材料9により被覆されている。
【0055】
各台部5,6は夫々の柔軟構造7,8により台座部4の夫々の隣接する側部に結合されている。各柔軟構造7,8は基部1の平面に垂直な軸に関して屈曲するよう配置されるが基部1及びそれに巻回された隣接するコイル2,3の上方の夫々の台部5,6を支持するようになされる。この実施例においては、各柔軟構造は台部5,6と同一平面にある数多くの隣接した折りたためる層を有するように繰り返し折り曲げられる外観を有する引き伸ばされた部材の構造を有している。各柔軟構造は4つの層を有している:2つの長い層は台座部4及び台部5,6の長さであり、2つの短い層は略その長さの半分である。短い層は長い層をその間に挟んで最も外側となされている。各柔軟構造7,8のために、短い層のひとつは台座部4に取り付けられ、他のひとつは夫々隣接する台部5,6に取り付けられている。しかしながら、柔軟構造7,8はその短い層が台部4の異なる端部に隣接するよう配置されることにより互いに異なっている。
【0056】
各指部10,11は各台部5,6の端部に取り付けられ、突出するようになされ、これらの端部は台座部4の端部と同一方向に突出し、基部1の端部に対して垂直とされている。指部10,11は台部5,6から互いへ向けて突出して、指部の自由端が台部5,6に固定されている端部よりも接近するようになされている。各指部10,11の自由端はこれらの自由端が互いに平行となるように指部10,11の残りの部分に対して斜めとされている。各自由端は、指及びそれらの間に把持される品目の把持を促進する材料で被覆され又はそれらを具備するようになされる。
【0057】
同時に、各台部5,6とそれらに取り付けられる夫々の指部10,11は夫々の把持部を形成していると考えられる。
【0058】
動作中、電流はコイル2,3の各々に流れるようになされる。このことにより各コイル2,3の周りに夫々磁界が生ずる。磁界は台部5,6上の磁気材料9と相互に作用し、台部5,6に力を与える。柔軟構造7,8の構成は、指部10,11の自由端が一緒になりそれらの間に位置する品目を把持するように基部1の平面に垂直な軸を中心とする台部5,6の略回転的な運動を引き起こす力を生ずる。この回転的運動は柔軟構造7,8の動作に反対するものである。もしもコイルへの電流の流れが停止したとしたら、関連する磁界はもはや生ずることはなく台部5,6に力を与えることはない。柔軟構造7,8のこれらの動作により、指部10,11は以前の位置に戻るように後方に移動する。このようにして、各柔軟構造7,8は片持ち支持されるように台座4に対して夫々隣接する台部5,6を支持する平らなスプリングである。
【0059】
上述した如く、CoPtP層は高い磁気特性を有し、その故に台部5,6を移動させて延長アーム10,11をグリッパーとして動作せしめるのに十分なローレンツ力を生み出すようにコイル2,3において電流と相互に影響し合うのに十分な強度の磁界を生成するには薄い層を必要とするだけである。CoPtP層は永久磁石として作動し、マイクログリッパーとして用いられる以前に磁石として磁化される。
【0060】
前述から、多くのプロセスが確実なアニーリング工程を含みそしてCoPtP層の特性はアニーリング処理により高められるのでCoPtP層は多くのMEMSデバイスのための魅力的な候補であることを理解すべきであろう。
【0061】
上述した典型的な実施例及び実験は本質として制限されるように解釈すべきではない。例えば、上述した実験は室温(およそ20℃)で電気メッキを行っているが、他の温度もまた想像できる。しかしながら、好ましくは、電気メッキは30℃以下の温度で行われる。更に、実施例はマイクログリッパーを応用例として記述しているが、本発明は例えば他のマイクロデバイスのような他のデバイスにおいても用いることができることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】スパッターされたクローム(Cr)及び金(Au)シード層を伴うガラス基板のX線回折(XRD)スペクトルを示すグラフである。
【図2】スパッターされたクローム(Cr)及び金(Au)シード層を伴うガラス基板上の電気メッキされたコバルト(Co)/プラチナ(Pt)/リン(P)膜のX線回折スペクトルを示すグラフである。
【図3】メッキされたコバルト(Co)/プラチナ(Pt)/リン(P)膜の断面を示す走査型電子顕微鏡写真(SEM)である。
【図4】外界雰囲気中において温度200℃で2時間のアニーリングの前後における電気メッキされたコバルト(Co)/プラチナ(Pt)/リン(P)膜の面外ヒステリシス曲線を示すグラフである。
【図5】マイクログリッパーの上面図を示す略線図である。
【図6】マイクログリッパーの側面図を示す略線図である。
【図7】マイクログリッパーの斜視図を示す略線図である。
【符号の説明】
【0063】
1…基部、2,3…コイル、4…台座部、5,6…台部、7,8…柔軟構造、10,11…指部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
94−98重量%のCo、0−1重量%のPtそして2−4重量%のPの組成を有するコバルト(Co)、プラチナ(Pt)およびリン(P)から構成されることを特徴とする材料。
【請求項2】
前記材料は96.3重量%のCo、0.6重量%のPtおよび3.1重量%のPの組成を有することを特徴とする請求項1に記載の材料。
【請求項3】
前記材料はセ氏100から500度の温度でアニーリング処理されることを特徴とする請求項1から2の何れかに記載の材料。
【請求項4】
前記アニーリングは外界温度で行われることを特徴とする請求項3に記載の材料。
【請求項5】
前記材料は基板に電気メッキされその上に層を形成することを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の基板および材料。
【請求項6】
前記層は少なくとも0.5μmの厚さを有することを特徴とする請求項5に記載の基板。
【請求項7】
前記層はシード層からなり、前記シード層はクローム(Cr)層上の金(Au)層(Cr/Auシード層)から構成されることを特徴とする請求項5乃至6の何れかに記載の基板。
【請求項8】
前記Cr/Auシード層の金層は(111)結晶配向を有することを特徴とする請求項7に記載の基板。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れかに記載の材料を基板に電気メッキする方法であって、前記方法は(a)電気化学浴を提供し、(b)基板を提供し、そして(c)前記電気化学浴中で前記材料を前記基板に電気メッキする、各ステップを有することを特徴とする方法。
【請求項10】
セ氏100度乃至500度の温度で前記材料をアニーリング処理に付するステップ(d)を更に有することを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記電気化学浴は0.01乃至0.10モル/リットルのCo2+イオン、0.01乃至0.10モル/リットルのPtCl2−イオンと0.01乃至0.50モル/リットルのHPOイオンからなる組成を有することを特徴とする請求項9乃至10の何れかに記載の方法。
【請求項12】
前記電気化学浴は0.025モル/リットルのCo2+イオン、0.025モル/リットルのPtCl2−イオンと0.072モル/リットルのHPOイオンからなる組成を有することを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記電気化学浴は更にホウ酸、塩化ナトリウム、ドデシル硫酸塩及びサッカリンから構成されることを特徴とする請求項9乃至12の何れかに記載の方法。
【請求項14】
前記電気化学浴はセ氏15乃至40度の温度であることを特徴とする請求項9乃至13の何れかに記載の方法。
【請求項15】
前記電気化学浴の前記温度がセ氏20度であることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記電気メッキは10乃至40mA/cmの電流密度で行われることを特徴とする請求項9乃至15の何れかに記載の方法。
【請求項17】
前記電流密度が25mA/cmであることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記電気化学浴のpHは2.0乃至5.0であることを特徴とする請求項9乃至17の何れかに記載の方法。
【請求項19】
前記pHは4.5であることを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記基板はシード層からなり、前記シード層はクローム(Cr)層上の金(Au)層(Cr/Auシード層)から構成されることを特徴とする請求項9乃至19の何れかに記載の方法。
【請求項21】
前記Cr/Auシード層の金層は(111)結晶配向を有することを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記電気メッキは回転デイスク電気メッキシステムを用いて行われることを特徴とする請求項9乃至21の何れかに記載の方法。
【請求項23】
前記電気化学メッキは100乃至1000rpmの回転攪拌のもとに行われることを特徴とする請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記電気化学メッキは500rpmの回転攪拌のもとに行われることを特徴とする請求項23に記載の方法。
【請求項25】
請求項1乃至8の何れかに記載の材料から構成されることを特徴とする超小型電気機械システム(MEMS)デバイス。
【請求項26】
前記MEMSデバイスは磁気MEMSデバイスであることを特徴とする請求項25に記載のMEMSデバイス。
【請求項27】
前記MEMSデバイスはマイクログリッパーであることを特徴とする請求項26に記載のMEMSデバイス。
【請求項28】
把持部の間に対象物を把持するよう動作可能なMEMSデバイスであり、前記デバイスは磁界を生ずるように動作可能な場発生手段を有し、前記デバイスは前記把持部の少なくともひとつがその場の影響のもとに他方の前記把持部の少なくともひとつに対して相対的に移動可能となるよう構成されることを特徴とするMEMSデバイス。
【請求項29】
前記場発生手段は電位差が接続されたとき磁界を発生するように動作可能であることを特徴とする請求項28に記載のMEMSデバイス。
【請求項30】
前記場発生手段は電気導体から形成される少なくともひとつのコイルを有することを特徴とする請求項28乃至29の何れかに記載のMEMSデバイス。
【請求項31】
前記場発生手段は前記MEMSデバイスの本体に支持されていることを特徴とする請求項28乃至30の何れかに記載のMEMSデバイス。
【請求項32】
少なくとも前記把持部のひとつは磁化可能な材料から構成され前記磁界と影響しあってこの磁化可能な材料から構成された少なくともひとつの把持部が他の少なくともひとつの把持部に対して相対的に移動するように配置されていることを特徴とする請求項28乃至31の何れかに記載のMEMSデバイス。
【請求項33】
前記磁化可能な材料は前記または各把持部に被覆物を形成することを特徴とする請求項32に記載のMEMSデバイス。
【請求項34】
前記デバイスは2つの把持部から構成され、各把持部は他の把持部に対して移動可能とされ、各把持部は磁化可能材料から構成されることを特徴とする請求項32乃至33の何れかに記載のMEMSデバイス。
【請求項35】
前記デバイスは2つのコイルから構成され、各コイルは夫々場を発生するよう配置され、各場が夫々ひとつの把持部の磁気材料に相互に作用することを特徴とする請求項32乃至34の何れかに記載のMEMSデバイス。
【請求項36】
前記把持部の少なくともひとつは相対的な移動のために弾性を有する柔軟構造により前記MEMSデバイスの本体に取り付けられていることを特徴とする請求項31乃至35の何れかに記載のMEMSデバイス。
【請求項37】
前記少なくとも前記ひとつの把持部は前記少なくともひとつのコイルに隣り合い且つ離間されるよう支持されていることを特徴とする請求項36に記載のMEMSデバイス。
【請求項38】
前記弾性を有する柔軟構造は平らなねじりコイルばねであることを特徴とする請求項36乃至37の何れかに記載のMEMSデバイス。
【請求項39】
前記弾性を有する柔軟構造は前記夫々の把持部を前記MEMSデバイスの本体から片持ち支持するように支持することを特徴とする請求項36乃至38の何れかに記載のMEMSデバイス。
【請求項40】
少なくともひとつの把持部は前記把持部とその間に把持された対象物との間の把持を促進するよう配置される材料を被覆または具備することを特徴とする請求項28乃至39の何れかに記載のMEMSデバイス。
【請求項41】
前記磁化可能な材料は請求項1乃至4の何れかに定義されている材料であることを特徴とする請求項32乃至40の何れかに記載のMEMSデバイス。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−207029(P2006−207029A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−16378(P2006−16378)
【出願日】平成18年1月25日(2006.1.25)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】