説明

炭化珪素単結晶の製造装置および製造方法

【課題】円筒状の断熱材を中心軸に対して平行に分割する場合において、分割された隣り合う断熱材同士の間に放電現象が発生することを抑制する。
【解決手段】加熱容器8の周囲に配置される第1外周断熱材10を円筒形状で構成すると共に、中心軸に平行に円筒形状を複数に分断した分割部10a〜10cを備えた構成とする。そして、各分割部10a〜10cの繋ぎ目の箇所を覆うように低抵抗部材20を備えた構造とする。これにより、複数の分割部10a〜10cの間の空隙のうち比較的幅が狭い部分において局所的な放電現象が起こることを抑制でき、誘導電力を安定して供給することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素(以下、SiCという)単結晶の製造装置および製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ガス供給法によるSiC単結晶の成長を行うSiC単結晶の製造装置が知られている。このSiC単結晶の製造装置では、真空容器内にSiC単結晶の結晶成長が行われる加熱容器(るつぼ)を配置し、加熱容器内にSiCの原料ガスを供給すると共に誘導電源からの電力供給に基づいて誘導コイルによる誘導加熱を行うことにより、加熱容器内もしくはその近傍に配置された種結晶の表面にSiC単結晶を成長させている。
【0003】
このようなSiC単結晶の製造装置として、特許文献1に開示されたものがある。このSiC単結晶の製造装置では、加熱容器内の温度を効率良く制御できるように、加熱容器の周囲を円筒状の断熱材で囲んだ構造としており、その断熱材を軸方向に対して垂直方向に分断した構造としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭61−47686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようなSiC単結晶製造装置では、円筒状の断熱材にも誘導コイルによる誘導過熱により誘導電流が流れることになる。この誘導電流を抑える方法として、円筒状の断熱材を、中心軸に対して平行に分割する分割面を入れることで、誘導電流の経路を遮る構造とすることが考えられる。
【0006】
しかしながら、SiC単結晶の成長という非常に高温な雰囲気を作り出すことが必要とされるため、誘導電源のパワーが非常に高くされ、誘導電流も非常に大きくなる。このため、分割面にて分割された隣り合う断熱材同士の間の空隙のうち比較的幅が狭い部分において局所的な放電現象が起こり、誘導電力の安定な供給が阻害されるという問題が発生する。また、誘導電源側にスパイク電流などが流れ、誘導電源の電源回路に備えられる保護回路の機能により、誘導電源をOFFしてしまい、SiC単結晶の成長に必要な高温を実現することができなくなるという問題も生じる。
【0007】
本発明は上記点に鑑みて、円筒状の断熱材を中心軸に対して平行に分割する場合において、分割された隣り合う断熱材同士の間に放電現象が発生することを抑制できるSiC単結晶の製造装置および製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、台座(9)よりも原料ガス(3)の流動経路上流側に配置され、原料ガス(3)の加熱を行う加熱容器(8)と、加熱容器(8)を誘導加熱する加熱装置(13、14)と、加熱容器(8)の外周を囲んで配置された黒鉛にて構成される円筒形状の外周断熱材(10)とを有し、外周断熱材(10)は、該外周断熱材(10)の中心軸に沿った方向に分割する分割面にて分割された複数の分割部(10a〜10c)を有し、複数の分割部(10a〜10c)が組み合わされることで円筒形状を構成し、さらに、外周断熱材(10)を構成する黒鉛よりも低抵抗材料で構成され、複数の分割部(10a〜10c)の繋ぎ目の箇所に固定されることで隣り合う分割部(10a〜10c)同士を接続する低抵抗部材(20)が備えられていることを特徴としている。
【0009】
このように、外周断熱材(10)を円筒形状で構成すると共に、中心軸に平行に円筒形状を複数に分断した分割部(10a〜10c)を備えた構成とし、かつ、各分割部(10a〜10c)の繋ぎ目の箇所を覆うように低抵抗部材(20)を備えた構造としている。これにより、複数の分割部(10a〜10c)の間の空隙のうち比較的幅が狭い部分において局所的な放電現象が起こることを抑制でき、誘導電力を安定して供給することが可能となる。
【0010】
請求項2に記載の発明では、低抵抗部材(20)は、外周断熱材(10)の内周面もしくは外周面に沿う円筒形状とされ、外周断熱材(10)の内周面もしくは外周面の少なくとも一部を覆っていることを特徴としている。
【0011】
このように、低抵抗部材(20)を円筒形状の外周断熱材(10)の内周面もしくは外周面の少なくとも一部を覆うように配置することができる。このようにすれば、請求項1に記載の効果を得つつ、低抵抗部材(20)で覆った部分において、外周断熱材(10)の内周面もしくは外周面に原料ガス(3)が浸透することによる固体SiCの析出を抑制することが可能となる。
【0012】
請求項3に記載の発明では、低抵抗部材(20)は、外周断熱材(10)の内周面もしくは外周面に沿う円筒形状とされ、外周断熱材(10)の内周面および外周面の少なくとも一方の全域を覆っていることを特徴としている。
【0013】
このように、低抵抗部材(20)を円筒形状の外周断熱材(10)の内周面もしくは外周面全域を覆うように配置しても良い。このようにすれば、請求項1に記載の効果を得つつ、外周断熱材(10)の内周面もしくは外周面に原料ガス(3)が浸透することによる固体SiCの析出を抑制することが可能となる。
【0014】
請求項4に記載の発明では、低抵抗部材(20)は、外周断熱材(10)のうち、台座(9)と加熱容器(8)の間を流動する原料ガス(3)が最初に衝突する位置を覆っていることを特徴としている。
【0015】
このような構成とすれば、最も固体SiCが析出し易い場所を低抵抗部材(20)にて覆うことができるため、固体SiCの析出を抑制することが可能となる。
【0016】
ここで説明した低抵抗部材(20)は、例えば、請求項5に記載したように、黒鉛シートもしくは高融点金属炭化物で構成される。
【0017】
上記請求項1ないし5では、本発明をSiC単結晶の製造装置の発明として把握した場合について説明したが、請求項6に記載したように、本発明をSiC単結晶の製造方法として把握することもできる。
【0018】
具体的には、請求項6に記載したように、中空円筒状部材にて構成される加熱容器(8)の中空部をガス供給経路として、該加熱容器(8)の外周を囲むように円筒形状の外周断熱材(10)を配置し、外周断熱材(10)を、該外周断熱材(10)の中心軸に沿った方向に分割する分割面にて分割された複数の分割部(10a〜10c)にて構成して、複数の分割部(10a〜10c)が組み合わされることで円筒形状が構成されるようにすると共に、該外周断熱材(10)を構成する複数の分割部(10a〜10c)の繋ぎ目の箇所に該外周断熱材(10)を構成する黒鉛よりも低抵抗材料で構成される低抵抗部材(20)を固定することで隣り合う分割部(10a〜10c)同士を接続した状態とし、この状態で、加熱容器(8)を加熱装置(13、14)にて誘導加熱しつつ、加熱容器(8)の一端側から原料ガス(3)を導入し、加熱容器(8)の他端側から原料ガス(3)を導出することで種結晶(5)に対して供給して炭化珪素単結晶を成長させることにより、請求項1と同様の効果を得ることができる。
【0019】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施形態にかかるSiC単結晶製造装置1の断面構成を示す図である。
【図2】図1に示す第1外周断熱材10および低抵抗部材20を示した図であり、(a)が上面図、(b)が斜視図である。
【図3】本発明の第2実施形態にかかるSiC単結晶製造装置1に備えられる第1外周断熱材10および低抵抗部材20を示した図であり、(a)が上面図、(b)が斜視図である。
【図4】本発明の第3実施形態にかかるSiC単結晶製造装置1の断面構成を示す図である。
【図5】図4に示す第1外周断熱材10および低抵抗部材20を示した図であり、(a)が上面図、(b)が斜視図である。
【図6】本発明の第4実施形態にかかるSiC単結晶製造装置1に備えられる第1外周断熱材10および低抵抗部材20を示した図であり、(a)が上面図、(b)が斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0022】
(第1実施形態)
図1に、本実施形態のSiC単結晶製造装置1の断面図を示す。以下、この図を参照してSiC単結晶製造装置1の構造について説明する。
【0023】
図1に示すSiC単結晶製造装置1は、底部に備えられた流入口2を通じてキャリアガスと共にSiおよびCを含有するSiCの原料ガス3(例えば、シラン等のシラン系ガスとプロパン等の炭化水素系ガスの混合ガス)を供給し、上部の流出口4を通じて排出することで、SiC単結晶製造装置1内に配置したSiC単結晶基板からなる種結晶5上にSiC単結晶を結晶成長させるものである。
【0024】
SiC単結晶製造装置1には、真空容器6、第1断熱材7、加熱容器8、台座9、第1外周断熱材10、回転引上機構11、第2外周断熱材12および第1、第2加熱装置13、14が備えられている。
【0025】
真空容器6は、石英ガラスなどで構成され、中空円筒状を為しており、キャリアガスや原料ガス3の導入導出が行え、かつ、SiC単結晶製造装置1の他の構成要素を収容すると共に、その収容している内部空間の圧力を真空引きすることにより減圧できる構造とされている。この真空容器6の底部に原料ガス3の流入口2が設けられ、上部(具体的には側壁の上方位置)に原料ガス3の流出口4が設けられている。
【0026】
第1断熱材7は、円筒形状を為しており、真空容器6に対して同軸的に配置され、中空部により原料ガス導入管7aを構成している。第1断熱材7は、例えば黒鉛や表面をTaC(炭化タンタル)にてコーティングした黒鉛などで構成される。
【0027】
加熱容器8は、種結晶5の表面にSiC単結晶を成長させる反応室を構成しており、例えば黒鉛や表面をTaC(炭化タンタル)にてコーティングした黒鉛などで構成され、台座9よりも原料ガス3の流動経路上流側に配置されている。この加熱容器8により、流入口2から供給された原料ガス3を種結晶5に導くまでに、原料ガス3に含まれたパーティクルを排除しつつ、原料ガス3を分解している。
【0028】
具体的には、加熱容器8は、中空円筒状部材を有した構造とされ、本実施形態の場合は有底円筒状部材で構成されている。加熱容器8には、底部に第1断熱材7の中空部と連通させられるガス導入口8aが備えられ、第1断熱材7の中空部を通過してきた原料ガス3がガス導入口8aを通じて加熱容器8内に導入される。
【0029】
台座9は、例えば円柱形状とされており、加熱容器8の中心軸と同軸的に配置され、例えば黒鉛や表面をTaC(炭化タンタル)にてコーティングした黒鉛などで構成される。この台座9に、同等寸法の径を有する種結晶5が貼り付けられ、種結晶5の表面にSiC単結晶を成長させる。
【0030】
第1外周断熱材10は、加熱容器8や台座9の外周を囲みつつ、台座9側に導かれた原料ガス3の残りを流出口4側に導く。具体的には、種結晶5に供給された後の原料ガス3の残りが台座9と第1外周断熱材10との間の隙間を通過し、流出口4に導かれるようになっている。この第1外周断熱材10の内周面に後述する低抵抗部材20が備えられている。これら第1外周断熱材10および低抵抗部材20の詳細構造については後述する。
【0031】
回転引上機構11は、パイプ材11aの回転および引上げを行うものである。パイプ材11aは、一端が台座9のうち種結晶5が貼り付けられる面と反対側の面に接続されており、他端が回転引上機構11の本体に接続されている。このような構造により、パイプ材11aと共に台座9、種結晶5およびSiC単結晶の回転および引き上げが行え、SiC単結晶の成長面が所望の温度分布となるようにしつつ、SiC単結晶の成長に伴って、その成長表面の温度を常に成長に適した温度に調整できる。パイプ材11aも、例えば黒鉛や表面をTaC(炭化タンタル)にてコーティングした黒鉛などで構成される。なお、パイプ材11aは回転軸や引上軸となるものであれば良いため、単なる棒状部材などであっても良い。
【0032】
第2外周断熱材12は、真空容器6の側壁面に沿って配置され、中空円筒状を為している。この第2外周断熱材12と第1外周断熱材10は、加熱容器8の中心軸と同軸的に配置され、これらが同心円状に配置されている。この第2外周断熱材12により、ほぼ第1断熱材7や加熱容器8、台座9および第1外周断熱材10等が囲まれている。この第2外周断熱材12も、例えば黒鉛や表面をTaC(炭化タンタル)にてコーティングされた黒鉛などで構成される。
【0033】
第1、第2加熱装置13、14は、電源回路によって駆動される誘導電源からの電力供給を受けて加熱容器8を誘導加熱するための誘導加熱用コイルによって構成され、真空容器6の周囲を囲むように配置されている。これら第1、第2加熱装置13、14は、それぞれ独立して温度制御できるように構成されている。このため、より細やかな温度制御を行うことができる。第1加熱装置13は、加熱容器8と対応した位置に配置されている。第2加熱装置14は、台座9と対応した位置に配置されている。このような配置とされているため、第1、第2加熱装置13、14を制御することにより、SiC単結晶の成長表面の温度分布をSiC単結晶の成長に適した温度に調整できる。
【0034】
次に、第1外周断熱材10および低抵抗部材20の詳細構造について説明する。図2は、第1外周断熱材10および低抵抗部材20を示した図であり、図2(a)が上面図、図2(b)が斜視図である。
【0035】
図2に示すように、第1外周断熱材10は、円筒形状を為しており、中心軸に平行な分割面により分断された複数の分割部10a〜10cを備えた構成とされている。複数の分割部10a〜10cは、多孔質もしくは繊維状の組織を有する黒鉛など、数100〜1000mΩ・cm程度の電気比抵抗を有した黒鉛にて構成されている。これら複数の分割部10a〜10cが組み合わされることにより、円筒形状が構成されている。
【0036】
各分割部10a〜10cの周方向寸法、換言すれば第1外周断熱材10を上面から見て、中心軸を中心として各分割部10a〜10cの分割箇所に向けて引いた線の為す角度については、異なっていても構わないが、本実施形態では同寸法となるようにしている。各分割面は、段付き形状としてあり、各分割部10a〜10cの分割面同士が噛み合わさって、各分割部10a〜10cの内周面同士および外周面同士が円筒面を構成し、所定厚さの円筒形状を構成している。
【0037】
また、第1外周断熱材10のうち、各分割部10a〜10cの繋ぎ目の箇所を覆うように、低抵抗部材20が固定されている。この低抵抗部材20は、直接もしくは接着剤等を介して分割部10a〜10cの繋ぎ目の箇所に固定されることで隣り合う分割部10a〜10c同士を接続する。また、低抵抗部材20は、第1外周断熱材10を構成する黒鉛よりも比低効率が小さな材料で構成されている。例えば、低抵抗部材20は、黒鉛シートやTaC(炭化タンタル)もしくはTiC(炭化チタン)などの高融点金属炭化物などで構成される。なお、黒鉛シートの場合、分割部10a〜10cと同じ黒鉛によって構成されているが、黒鉛にも様々な結晶構造のものがあり、例えばニカフィルム(登録商標)のように700μΩ・mという低い比抵抗を有したものを低抵抗部材20として適用することができる。
【0038】
そして、このように構成された第1外周断熱材10に備えられた各分割部10a〜10cおよび低抵抗部材20について、これらの厚み(径方向寸法)および比抵抗について、次の関係が成り立つように設計がなされている。すなわち、低抵抗部材20の厚みをt1、各分割部10a〜10cの厚みをt2、低抵抗部材20の比抵抗をρ1、各分割部10a〜10cの比抵抗をρ2とすると、t1<t2、かつ、t1・ρ1<t2・ρ2が成り立つようにしている。
【0039】
以上のような構造により、SiC単結晶製造装置1が構成されている。続いて、このように構成されたSiC単結晶製造装置1を用いたSiC単結晶の製造方法について説明する。
【0040】
まず、第1、第2加熱装置13、14を制御し、所望の温度分布を付ける。すなわち、種結晶5の表面において原料ガス3が再結晶化されることでSiC単結晶が成長しつつ、加熱容器8内において再結晶化レートよりも昇華レートの方が高くなる温度となるようにする。
【0041】
また、真空容器6を所望圧力にしつつ、必要に応じてArガスなどの不活性ガスによるキャリアガスや水素などのエッチングガスを導入しながら原料ガス導入管7aを通じて原料ガス3を導入する。これにより、図1中の矢印で示したように、原料ガス3が流動し、種結晶5に供給されてSiC単結晶を成長させることができる。
【0042】
このとき、第1、第2加熱装置13、14を構成する誘導加熱用コイルへの電力供給に基づいて加熱容器8を誘導加熱することになるが、このときに第1外周断熱材10についても誘導電流が流れることになる。この誘導電流は、第1外周断熱材10の周方向に流れようとするが、上述したように第1外周断熱材10のうちの黒鉛部分を分割部10a〜10cによって周方向において分割していることから、分割部10a〜10cの間に存在する空隙により流れ難くなる。このため、誘導電流を抑制することが可能となる。
【0043】
ただし、このように単に分割部10a〜10cにて分割しただけの構成では、分割部10a〜10cの間の空隙のうち比較的幅が狭い部分において局所的な放電現象が起こり誘導電力の安定な供給が阻害されることになり得る。
【0044】
これに対して、本実施形態では、各分割部10a〜10cの繋ぎ目の箇所を覆うように低抵抗部材20を備えていることから、この低抵抗部材20を迂回して誘導電流が流れることが許容され、放電現象が生じないようにできる。また、低抵抗部材20の厚みが厚すぎると、低抵抗部材20が無い場合と比較して、第1外周断熱材10に流れる誘導電流を抑制することができなくなる可能性があるが、本実施形態では、t1<t2、かつ、t1・ρ1<t2・ρ2が成り立つようにしている。このため、的確に誘導電流を抑制しつつ、ある程度は誘導電流が流れるようにできる。これにより、局所的な放電現象が起こることを抑制でき、誘導電力を安定して供給することが可能となる。
【0045】
以上説明したように、本実施形態では、第1外周断熱材10を円筒形状で構成すると共に、中心軸に平行に円筒形状を複数に分断した分割部10a〜10cを備えた構成とし、かつ、各分割部10a〜10cの繋ぎ目の箇所を覆うように低抵抗部材20を備えた構造としている。これにより、複数の分割部10a〜10cの間の空隙のうち比較的幅が狭い部分において局所的な放電現象が起こることを抑制でき、誘導電力を安定して供給することが可能となる。
【0046】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対して低抵抗部材20の構成を変更したものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0047】
図3は、本実施形態にかかるSiC単結晶製造装置1に備えられる第1外周断熱材10および低抵抗部材20を示した図であり、図3(a)が上面図、図3(b)が斜視図である。
【0048】
図3に示すように、本実施形態では、第1外周断熱材10の内周面側に配置した低抵抗部材20をその内周面に沿う円筒形状とし、第1外周断熱材10の内周面全域が低抵抗部材20にて覆われるようにしてある。低抵抗部材20は少なくとも各分割部10a〜10cに直接もしくは接着剤などを介して固定されており、第1外周断熱材10に流される誘導電流が各分割部10a〜10cの繋ぎ目の箇所において低抵抗部材20に流れるようになっている。低抵抗部材20の材質については、第1外周断熱材10を構成する黒鉛よりも比抵抗が低く、かつ、ガス浸透性も低い材料を用いるようにしている。これらの条件を満たす材料としては、第1実施形態で説明した黒鉛シートや高融点金属炭化物を用いることができる。このように、低抵抗部材20を黒鉛シートや高融点金属炭化物にて構成できるが、高融点金属炭化物で構成する場合には、次のようにして低抵抗部材20を形成すると好ましい。
【0049】
具体的には、まず、円筒状の高融点金属を第1外周断熱材10の内周面に配置した状態でSiC単結晶製造装置1内に収容する。そして、この状態で第1、第2加熱装置13、14による誘導加熱を行いながら真空容器6内に炭化用のガスを導入する。これにより、円筒状の高融点金属のうちの内周面側が炭化されることで高融点金属炭化物が形成される。このように、低抵抗部材20を内周面側が高融点金属炭化物で構成され、それよりも外周面側が高融点金属で構成されるようにすることができる。低抵抗部材20をすべて高融点金属炭化物で構成する場合には比較的脆くなりがちであるが、本実施形態の構造とすることで、低抵抗部材20を物理的に強い構造とすることが可能となる。
【0050】
このように、低抵抗部材20を円筒形状の第1外周断熱材10の内周面全域を覆うように配置しても良い。このようにすれば、第1実施形態の効果を得つつ、第1外周断熱材10の内周面にSiC原料ガスが浸透することによる固体SiCの析出を抑制することが可能となる。
【0051】
なお、第1外周断熱材10を複数の分割部10a〜10cにて構成する場合、複数の分割部10a〜10cの外壁面をTaCコーティングすることにより低抵抗部材20を構成することも考えられる。しかしながら、このような構造だとTaCコーティングの間に空隙が存在することから、結局各分割部10a〜10cの間の空隙において局所的な放電現象が起こる可能性がある。このため、本実施形態のように、低抵抗部材20を円筒形状にしつつ、かつ、各分割部10a〜10cに対して低抵抗部材20が直接もしくは接着剤等を介して固定されるようにすることが必要である。
【0052】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態は、第2実施形態に対して低抵抗部材20の構成を変更したものであり、その他に関しては第2実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0053】
図4は、本実施形態にかかるSiC単結晶製造装置1の断面図である。また、図5は、本実施形態にかかるSiC単結晶製造装置1に備えられる第1外周断熱材10および低抵抗部材20を示した図であり、図5(a)が上面図、図5(b)が斜視図である。
【0054】
図4および図5に示すように、本実施形態でも、第1外周断熱材10の内周面側に配置した低抵抗部材20をその内周面に沿う円筒形状としているが、第1外周断熱材10の内周面の全域ではなく一部、具体的には第1外周断熱材10のうちの軸方向中間位置が低抵抗部材20にて覆われるようにしてある。本実施形態のSiC単結晶製造装置1では、図4に示すように、加熱容器8のうち台座9側の先端部において原料ガスが径方向外側に導かれ、それが第1外周断熱材10に衝突することになる。このとき原料ガスが第1外周断熱材10に最初に衝突する場所、つまり原料ガスのガス分圧が高くなる場所において、低抵抗部材20が配置されるようにしている。
【0055】
このように、低抵抗部材20を円筒形状の第1外周断熱材10の内周面の一部に配置することもできる。そして、本実施形態では、原料ガスが第1外周断熱材10に最初に衝突する場所、つまり原料ガスのガス分圧が高くなる場所に、低抵抗部材20が配置されるようにしている。このような構成とすれば、最も固体SiCが析出し易い場所を低抵抗部材20にて覆うことができるため、固体SiCの析出を抑制することが可能となる。
【0056】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態について説明する。本実施形態は、第2実施形態に対して低抵抗部材20の構成を変更したものであり、その他に関しては第2実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0057】
図6は、本実施形態にかかるSiC単結晶製造装置1に備えられる第1外周断熱材10および低抵抗部材20を示した図であり、図6(a)が上面図、図6(b)が斜視図である。
【0058】
図6に示すように、本実施形態では、第1外周断熱材10の内周面側だけでなく、外周面側についても、その外周面に沿う円筒形状とした低抵抗部材20を配置し、第1外周断熱材10を構成する複数の分割部10a〜10cそれぞれに対して直接もしくは接着剤等を介して固定された構造としている。このように、第1外周断熱材10の内周面側に加えて外周面側にも低抵抗部材20が配置される構造としても良い。
【0059】
このような構造としつつ、かつ、低抵抗部材20をガス浸透性の低い材質で構成するようにすれば、第1外周断熱材10の内周面側だけでなく外周面側への原料ガスの浸透を防ぐことが可能となり、より第1外周断熱材10内での固体SiCの析出を抑制することが可能となる。
【0060】
(他の実施形態)
上記第1実施形態では、第1外周断熱材10に備えた低抵抗部材20にて、各分割部10a〜10cの繋ぎ目の箇所を全域覆うようにしているが、繋ぎ目の箇所の少なくとも一部を覆うように低抵抗部材20が備えられていれば良い。また、第1実施形態では、低抵抗部材20を第1外周断熱材10の内周面側に配置した構造としているが、外周面側に配置するようにしても良い。
【0061】
また、第3実施形態では、第1外周断熱材10における内周面の一部を覆うように低抵抗部材20を配置した。具体的には、第1外周断熱材10のうちの軸方向中間位置が低抵抗部材20にて覆われるようにしている。しかしながら、低抵抗部材20にて覆う部位についてはSiC単結晶製造装置1の形態によって決まり、必ずしも第1外周断熱材10のうちの軸方向中間位置である必要はない。すなわち、第1外周断熱材10のうち原料ガスが最初に衝突する場所、つまり原料ガスのガス分圧が高くなる場所において、低抵抗部材20が配置されるようにすれば良い。
【0062】
なお、第1外周断熱材10のうち原料ガスが最初に衝突する場所については、SiC単結晶製造装置1の形態によって異なるが、SiC単結晶製造装置1の形態に応じて固体SiCが析出し易い場所を選択し、その場所を覆うように低抵抗部材20を配置すれば良い。
【0063】
また、上記各実施形態では、第1外周断熱材10について中心軸と平行方向に切断して複数の分割部10a〜10cに分割した構造としたが、第1外周断熱材10に限らず、第2外周断熱材12についても第1外周断熱材10と同じ構造とすることができる。また、加熱容器8の周囲を囲む外周断熱材として第1、第2外周断熱材10、12の2つを備える場合を挙げたが、1つだけであっても構わない。
【符号の説明】
【0064】
1 SiC単結晶製造装置
3 原料ガス
5 種結晶
6 真空容器
8 加熱容器
8a ガス導入口
9 台座
10 第1外周断熱材
12 第2外周断熱材
13 第1加熱装置
14 第2加熱装置
20 低抵抗部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
台座(9)に対して炭化珪素単結晶基板にて構成された種結晶(5)を配置し、該種結晶(5)の下方から炭化珪素の原料ガス(3)を供給することにより、前記種結晶(5)の表面に炭化珪素単結晶を成長させる炭化珪素単結晶の製造装置において、
前記台座(9)よりも前記原料ガス(3)の流動経路上流側に配置され、前記原料ガス(3)の加熱を行う加熱容器(8)と、
前記加熱容器(8)を誘導加熱する加熱装置(13、14)と、
前記加熱容器(8)の外周を囲んで配置された黒鉛にて構成される円筒形状の外周断熱材(10)とを有し、
前記外周断熱材(10)は、該外周断熱材(10)の中心軸に沿った方向に分割する分割面にて分割された複数の分割部(10a〜10c)を有し、複数の分割部(10a〜10c)が組み合わされることで円筒形状を構成し、
さらに、前記外周断熱材(10)を構成する黒鉛よりも低抵抗材料で構成され、前記複数の分割部(10a〜10c)の繋ぎ目の箇所に固定されることで隣り合う分割部(10a〜10c)同士を接続する低抵抗部材(20)が備えられていることを特徴とする炭化珪素単結晶の製造装置。
【請求項2】
前記低抵抗部材(20)は、前記外周断熱材(10)の内周面もしくは外周面に沿う円筒形状とされ、前記外周断熱材(10)の内周面もしくは外周面の少なくとも一部を覆っていることを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素単結晶の製造装置。
【請求項3】
前記低抵抗部材(20)は、前記外周断熱材(10)の内周面もしくは外周面に沿う円筒形状とされ、前記外周断熱材(10)の内周面および外周面の少なくとも一方の全域を覆っていることを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素単結晶の製造装置。
【請求項4】
前記低抵抗部材(20)は、前記外周断熱材(10)のうち、前記台座(9)と前記加熱容器(8)の間を流動する前記原料ガス(3)が最初に衝突する位置を覆っていることを特徴とする請求項2に記載の炭化珪素単結晶の製造装置。
【請求項5】
前記低抵抗部材(20)は、黒鉛シートもしくは高融点金属炭化物にて構成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の炭化珪素単結晶の製造装置。
【請求項6】
台座(9)に対して炭化珪素単結晶基板にて構成された種結晶(5)を配置し、炭化珪素の原料ガス(3)を下方から供給することで上方に位置する前記種結晶(5)に供給し、前記種結晶(5)の表面に炭化珪素単結晶を成長させる炭化珪素単結晶の製造方法において、
中空円筒状部材にて構成される加熱容器(8)の中空部をガス供給経路として、該加熱容器(8)の外周を囲むように円筒形状の外周断熱材(10)を配置し、
前記外周断熱材(10)を、該外周断熱材(10)の中心軸に沿った方向に分割する分割面にて分割された複数の分割部(10a〜10c)にて構成して、複数の分割部(10a〜10c)が組み合わされることで円筒形状が構成されるようにすると共に、該外周断熱材(10)を構成する前記複数の分割部(10a〜10c)の繋ぎ目の箇所に該外周断熱材(10)を構成する黒鉛よりも低抵抗材料で構成される低抵抗部材(20)を固定することで隣り合う分割部(10a〜10c)同士を接続した状態とし、
この状態で、前記加熱容器(8)を加熱装置(13、14)にて誘導加熱しつつ、前記加熱容器(8)の一端側から前記原料ガス(3)を導入し、前記加熱容器(8)の他端側から前記原料ガス(3)を導出することで前記種結晶(5)に対して供給して前記炭化珪素単結晶を成長させることを特徴とする炭化珪素単結晶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−91967(P2012−91967A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−240958(P2010−240958)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】