説明

炭化珪素単結晶エピタキシャルウエハの製造方法

【課題】加工変質層の除去処理にかかる時間を減少させつつも、加工変質層に由来するエピタキシャル膜の欠陥の発生を抑制できる炭化珪素単結晶エピタキシャルウエハの製造方法を提供する。
【解決手段】炭化珪素単結晶エピタキシャルウエハの製造において、炭化珪素単結晶基板100を1600℃以上に加熱し、C/Si比が1.0以下となるように、原料ガスを供給し、エピタキシャル膜の成長速度を2.0μm/h以下にする。このとき、キャリアガスの流量を50slm以上にし、原料ガスとしてモノシランの流量を20sccm以下にし、成長装置の前記炭化珪素単結晶基板100が配置された空間の圧力を100mbar以上にすることにより、エピタキシャル膜の成長速度を2.0μm/h以下にすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素単結晶基板にエピタキシャル膜を成長させる炭化珪素単結晶エピタキシャルウエハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エピタキシャル膜を成長させる炭化珪素単結晶基板(以下、基板と適宜略す)の表面には、基板を形成する時の加工によって、加工変質層が存在していた。加工変質層が存在したまま、基板上にエピタキシャル膜を成長させた場合、加工変質層に由来してエピタキシャル膜に欠陥が発生しやすくなる。
【0003】
このため、研磨処理、化学機械研磨処理(CMP)、エッチング処理等によって、基板の表面に除去処理を行っていた(例えば、特許文献1参照)。これによって、加工変質層を除去し、エピタキシャル膜に欠陥が発生することを抑制していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011―9661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
加工変質層の厚さは、基板毎に異なるし、同一基板でも場所毎に異なる。このため、全ての基板に存在する加工変質層の最大厚さを考慮した除去処理を行わないと、加工変質層が完全に除去されていない基板上にエピタキシャル膜を成長させることもあった。従って、除去処理を行う場合であっても、除去量が少ない場合には、エピタキシャル膜に欠陥が発生することを十分に抑制できないという問題があった。
【0006】
加工変質層の最大厚さを考慮して除去量を多くすれば、全ての加工変質層が除去されるため、どの基板であっても、エピタキシャル膜に欠陥が発生することを十分に抑制することができる。しかしながら、この場合、加工変質層でない部分も除去することになり、除去処理に多くの時間が費やされるという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、加工変質層の除去処理にかかる時間を減少させつつも、加工変質層に由来するエピタキシャル膜の欠陥の発生を抑制できる炭化珪素単結晶エピタキシャルウエハの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するため、本発明は、次のような特徴を有している。本発明の特徴は、炭化珪素単結晶基板(基板100)を準備し、成長装置(成長装置1)に前記炭化珪素単結晶基板を配置する準備工程(準備工程S1)と、前記成長装置に原料ガスを供給し、前記炭化珪素単結晶基板にエピタキシャル膜を成長させる成長工程(成長工程S2)と、を備えた炭化珪素単結晶エピタキシャルウエハの製造方法であって、前記成長工程では、前記炭化珪素単結晶基板を1600℃以上に加熱し、炭素と珪素との比であるC/Si比が1.0以下となるように、前記原料ガスを供給し、前記エピタキシャル膜の成長速度を2.0μm以下にすることを要旨とする。
【0009】
また、前記成長工程において、キャリアガスを供給し、前記キャリアガスの流量を50slm以上にし、前記原料ガスには、モノシランが含まれ、前記モノシランの流量を20sccm以下にし、前記成長装置の前記炭化珪素単結晶基板が配置された空間(反応室10)の圧力を100mbar以上にしても良い。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、加工変質層の除去処理にかかる時間を減少させつつも、加工変質層に由来するエピタキシャル膜の欠陥の発生を抑制できる炭化珪素単結晶エピタキシャルウエハの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本実施形態に係るエピタキシャル膜成長装置1の構成を示す概略図である。
【図2】図2は、本実施形態に係る炭化珪素単結晶エピタキシャルウエハの製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図3】図3は、本実施形態に係る炭化珪素単結晶エピタキシャルウエハの製造方法の製造条件を説明するための図である。
【図4】図4は、実施例及び比較例に係る炭化珪素単結晶エピタキシャルウエハの欠陥密度を表示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る炭化珪素単結晶エピタキシャルウエハの製造方法の一例について、図面を参照しながら説明する。具体的には、(1)エピタキシャル膜成長装置1の概略構成、(2)炭化珪素単結晶エピタキシャルウエハの製造方法、(3)作用効果、(4)比較評価、(5)その他実施形態、について説明する。
【0013】
以下の図面の記載において、同一または類似の部分には、同一または類似の符号を付している。図面は模式的なものであり、各寸法の比率などは現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な寸法などは以下の説明を参酌して判断すべきである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれ得る。
【0014】
(1)エピタキシャル膜成長装置1の概略構成
本実施形態に係るエピタキシャル膜成長装置1の概略構成について、図1を参照しながら説明する。図1は、本実施形態に係るエピタキシャル膜成長装置1の構成を示す概略図である。
【0015】
図1に示されるように、エピタキシャル膜成長装置1(以下、成長装置1と適宜略す)は、反応室10、マスフローコントローラ20(MFC20)、サセプタ40、断熱材50、誘導加熱コイル60、開閉バルブ70及びポンプ80を有する。
【0016】
反応室10は、炭化珪素単結晶基板100(基板100)にエピタキシャル膜を成長させる場所である。
【0017】
MFC20は、原料ガス及びキャリアガスの流量を制御する。MFC20を通じて、原料ガス及びキャリアガスが反応室10に供給される。MFC20は、MFC20a、MFC20b及びMFC20cを有する。MFC20aは、原料ガスであるモノシラン(SiH)の流量を制御する。MFC20bは、原料ガスであるプロパン(C)の流量を制御する。MFC20cは、キャリアガスの流量を制御する。キャリアガスは、エピタキシャル膜形成時に反応しない気体であれば良く、一般的には、水素をキャリアガスとして用いる。
【0018】
サセプタ40は、反応室10の内部に位置する。サセプタ40には、炭化珪素単結晶基板100(基板100)が配置される。サセプタ40と誘導加熱コイル60との間には、断熱材50が位置する。誘導加熱コイル60は、反応室10の外部に位置する。誘導加熱コイル60は、サセプタ40に誘導電流を生じさせ、サセプタ40を加熱する。
【0019】
開閉バルブ70を通じて、反応室10の気体は、ポンプ80に吸引される。これにより、反応室10の圧力を適宜調整する。
【0020】
(2)炭化珪素単結晶エピタキシャルウエハの製造方法
本実施形態に係る炭化珪素単結晶エピタキシャルウエハの製造方法について、図1から図3を参照しながら説明する。図2は、本実施形態に係る炭化珪素単結晶エピタキシャルウエハの製造方法を説明するためのフローチャートである。図3は、本実施形態に係る炭化珪素単結晶エピタキシャルウエハの製造方法の製造条件を説明するための図である。図2に示されるように、本実施形態に係る炭化珪素単結晶エピタキシャルウエハの製造方法は、準備工程S1と成長工程S2とを備える。
【0021】
(2.1)準備工程S1
準備工程S1は、基板100を準備し、成長装置1に基板100を配置する工程である。準備工程S1は、基板準備工程S11と、基板配置工程S12とを有する。
【0022】
(2.1.1)基板準備工程S11
基板準備工程S11では、炭化珪素単結晶からなる基板100を準備する。炭化珪素単結晶のバルクを所定形状にスライスして、基板100を準備する。基板100の表面100aから加工変質層を除去するための処理を実施する。ただし、後述する通り、加工変質層が存在してもエピタキシャル膜に欠陥が発生することを抑制できるため、加工変質層を完全に除去しきれていなくても良いため、従来に比べて、除去処理に費やす時間を短縮できる。
【0023】
(2.1.2)基板配置工程S12
基板配置工程S12では、準備された基板100を成長装置1の反応室10に配置する。図1に示されるように、サセプタ40上に基板100を配置する。
【0024】
(2.2)成長工程S2
成長工程S2は、成長装置1に原料ガスを供給し、基板100にエピタキシャル膜を成長させる工程である。
【0025】
図1に示されるように、MFC20を通じて、原料ガス及びキャリアガスを成長装置1の反応室10に供給する。具体的には、図3に示されるように、まず、キャリアガスを供給する。キャリアガスの流量は、50slm以上が好ましい。キャリアガスを供給するとともに、サセプタ40を加熱する。
【0026】
加熱開始からt時間経過したら、プロパンを供給する。加熱開始からt時間経過し、サセプタ40の温度がT℃になったら、温度T℃を一定に保つ。温度T℃は、1600℃以上である。これにより、基板100を1600℃以上に加熱する。
【0027】
加熱開始からt時間経過したら、モノシランを供給する。モノシランの流量は、20sccm以下が好ましい。炭素と珪素との比であるC/Si比が1.0以下となるように、モノシラン及びプロパンを供給する。
【0028】
成長装置1の基板100が配置された空間である反応室10の内部の圧力は、100mbar以上が好ましい。
【0029】
モノシランの供給を開始することにより、モノシランとプロパンとが反応し始める。これにより、基板100の表面100a上にエピタキシャル膜が形成され、エピタキシャル膜が成長する。エピタキシャル膜の成長速度は、2.0μm/h以下である。
【0030】
加熱開始からt時間経過し、エピタキシャル膜が所望の厚さまで成長したら、サセプタ40の加熱を止める。これにより、サセプタ40の温度が降温する。
【0031】
以上により、本実施形態に係る炭化珪素単結晶エピタキシャルウエハが製造される。
【0032】
(3)作用効果
本実施形態に係る炭化珪素単結晶エピタキシャルウエハの製造方法によれば、成長工程S2では、基板100を1600℃以上に加熱し、C/Si比が1.0以下となるように、原料ガスであるモノシラン及びプロパンを供給し、エピタキシャル膜の成長速度を2.0μm/h以下にする。これにより、加工変質層が表面100aに残っていても、加工変質層に由来するエピタキシャル膜の欠陥の発生を抑制できる。このため、加工変質層の除去処理にかかる時間を減少させることが可能となる。
【0033】
本実施形態に係る炭化珪素単結晶エピタキシャルウエハの製造方法によれば、キャリアガスの流量を50slm以上にし、モノシランの流量を20sccm以下にし、反応室10の内部の圧力を100mbar以上にする。これにより、エピタキシャル膜の成長速度を2.0μm/h以下にすることができる。
【0034】
(4)比較評価
本発明の効果を確かめるため、以下の測定を行った。なお、本発明は、以下の実施例に限られない。
【0035】
以下の条件を除いて、上述の製造方法により、実施例及び比較例に係る炭化珪素単結晶エピタキシャルウエハ(以下、ウエハと略す)を製造した。
【0036】
実施例及び比較例ともに、2通りの方法を用いて、加工変質層を除去する除去処理を行った基板を準備した。具体的には、除去処理Aでは、機会研磨の後、CMP処理を10μm以上実施した。除去処理Bでは、機械研磨のみ実施した。
【0037】
実施例では、原料ガスにモノシラン及びプロパンを用いた。モノシランを14sccm、プロパンを3.2sccm供給した。C/Si比は、0.7である。キャリアガスを70slm供給した。エピタキシャル膜形成時の反応室10の内部の圧力を200mbarに調整した。これにより、成長速度を2.0μm/h以下に調整した。
【0038】
比較例では、実施例と同様に、モノシラン及びプロパンを用いた。モノシランを34sccm、プロパンを7.9sccm供給した。C/Si比は、0.7である。キャリアガスを50slm供給した。エピタキシャル膜形成時の反応室10の内部の圧力を130mbarに調整した。これにより、成長速度を6.0μm/hに調整した。
【0039】
実施例及び比較例に係るウエハの欠陥密度を測定した。結果を図4に示す。図4は、実施例及び比較例に係る炭化珪素単結晶エピタキシャルウエハの欠陥密度を表示する図である。図4において、「低減率%」は、比較例に比べて、実施例の欠陥密度がどの程度低減したのかを数値化したものである。「前工程影響度」は、除去処理Bの欠陥密度から除去処理Aの欠陥密度を引いたものである。
【0040】
図4に示されるように、除去処理がほとんど行われない場合であっても、実施例では、欠陥密度が小さいことが分かる。除去処理を十分に行った場合、実施例は、比較例に比べて、欠陥密度がさらに小さいことが分かる。このことから、本発明によれば、加工変質層の除去処理にかかる時間を減少させつつも、加工変質層に由来するエピタキシャル膜の欠陥の発生を抑制できることが確認できた。
【0041】
(5)その他実施形態
本発明の実施形態を通じて本発明の内容を開示したが、この開示の一部をなす論述及び図面は、本発明を限定するものであると理解すべきではない。本発明はここでは記載していない様々な実施形態を含む。
【0042】
例えば、原料ガスの供給順番や供給時間は、上述した実施形態に限られない。
【0043】
このように、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0044】
1…エピタキシャル膜成長装置(成長装置)、 10…反応室、 20,20a,20b,20c…マスフローコントローラ(MFC)、 40…サセプタ、 50…断熱材、 60…誘導加熱コイル、 70…開閉バルブ、 80…ポンプ、 100…炭化珪素単結晶基板(基板)、 100a…表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素単結晶基板を準備し、成長装置に前記炭化珪素単結晶基板を配置する準備工程と、
前記成長装置に原料ガスを供給し、前記炭化珪素単結晶基板にエピタキシャル膜を成長させる成長工程と、を備えた炭化珪素単結晶エピタキシャルウエハの製造方法であって、
前記成長工程では、
前記炭化珪素単結晶基板を1600℃以上に加熱し、
炭素と珪素との比であるC/Si比が1.0以下となるように、前記原料ガスを供給し、
前記エピタキシャル膜の成長速度を2.0μm以下にする炭化珪素単結晶エピタキシャルウエハの製造方法。
【請求項2】
前記成長工程において、
キャリアガスを供給し、前記キャリアガスの流量を50slm以上にし、
前記原料ガスには、モノシランが含まれ、前記モノシランの流量を20sccm以下にし、
前記成長装置の前記炭化珪素単結晶基板が配置された空間の圧力を100mbar以上にする請求項1に記載の炭化珪素単結晶エピタキシャルウエハの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−171811(P2012−171811A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−32407(P2011−32407)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】