説明

真空容器内の温度制御装置および薄膜形成方法

【課題】真空容器内において部材を設定温度近傍若しくは設定温度以下に制御することが可能となる真空容器内の温度制御装置および薄膜形成方法を提供する。
【解決手段】真空雰囲気内で所定の処理を行う真空容器内の温度制御装置であって、前記真空容器を構成する部材8の内部に、該処理温度近傍に融点を持つ相変化材料11が内包されている構成とする。その際、前記相変化材料を、In、Sb、Bi、Pbのいずれかを主成分として、約10℃以上327℃以下の融点を有する低融点合金で構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空容器内の温度制御装置および薄膜形成方法に関するものである。特に、ターゲットをスパッタリングして基板上に膜を形成させる際に用いる真空容器内の温度制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子デバイス、光デバイスなど各種の高機能デバイスが開発されているが、これら高機能デバイスに薄膜形成技術は欠かせないものになっている。このような薄膜形成技術は、一般にドライ薄膜形成技術とウェット薄膜形成技術とに分類できる。この中で、ドライ薄膜形成技術は、主に真空容器内で基板上に薄膜を形成する技術であり、薄膜材料を基板上に形成する方法により、(物理)蒸着技術、スパッタリング技術、CVD技術などに分類される。
【0003】
上記のドライ薄膜形成技術により高機能デバイスを形成する場合、薄膜の品質を大きく左右する共通の因子として、薄膜形成時の基板温度が挙げられる。例えば、蒸着技術を用いて、レンズ等の光学部品に反射防止膜や高反射膜を形成する場合、基板温度が低すぎると、膜密度が低下して膜の屈折率が下がる。これにより、所望の光学特性が得られないうえに耐環境性も悪化する。
逆に、基板温度が高すぎると、応力歪みによる膜割れ、曇り、基板の変形などにより光学部品として機能しなくなる。また、化学反応を利用して薄膜を形成する反応性スパッタリング技術やCVD技術では、温度により反応速度が大きく変わってくる。これにより膜の特性が大きく変わり、或は薄膜の形成速度が大きく変わることとなる。以上のことから、薄膜形成プロセス中に安定して所望の基板温度に保つことは、基板上に所望の特性を有する薄膜を形成するためには不可欠となる。
【0004】
一方、上記のドライ薄膜形成技術により高機能デバイスを形成する場合において、基板上の膜特性の均一性を確保するため、一般的に基板回転機構が採用されている。このような基板回転機構として、複数の基板上に同時に薄膜を形成する際に、基板の自転と公転という2つの回転機構を用いるようにしたものが知られている。
また、以上の回転機構の他にも、基板自体が移動しながら薄膜を形成するような駆動機構を有するものも知られている。このような駆動機構には、ベアリングやギアなどが使われている。しかし、これらは高温において、酸化などによる部材の劣化が生じる。また、それ以外にも真空用グリースの劣化や蒸発による摺動性の悪化、或はかじり、焼き付けなどが発生して駆動できなくなる場合もある。このような場合、薄膜形成プロセスを安定して行うためには、駆動機構が高温にならないように温度を制御する必要がある。
【0005】
このような薄膜形成プロセスの温度制御するため、例えば、特許文献1には、ダミー基板を用いて基板加熱装置を制御するスパッタリング装置が提案されている。ここでのスパッタリング装置は、基板を移動させながら複数のターゲットをスパッタリングして基板上に膜を堆積させるスパッタリング装置が構成される。このようなスパッタリング装置基板において、加熱しながらこの基板をターゲットに対して移動させることができる基板加熱移動機構を設けられる。また、基板とは別個にダミー基板を基板加熱移動機構に取り付け、基板とターゲットとの位置関係と、ダミー基板とターゲットとの位置関係とが、幾何学的に同等になるようにダミー基板が配置される。このダミー基板の温度に基づいて、基板加熱移動機構の基板加熱装置を制御するように構成されている。また、この基板加熱移動機構を、基板ホルダ部と基板加熱部と基板ホルダ回転部とで構成し、この基板ホルダ回転部の回転導入軸に、軸線方向に離れた複数のシール装置が設けられている。この複数のシール装置の間の空間が真空排気するかまたは非酸化性ガス雰囲気とされている。また、基板ホルダ部と基板ホルダ回転部との接続部分に接続部材を介在させ、この接続部材を、高融点で熱伝導率の低い材質またはセラミックスで形成する構成が採られている。
【0006】
また、このようなスパッタリング装置において、スパッタリングを安定して行う上で、スパッタリングターゲットの温度を安定させることは重要である。そのため、例えば、特許文献2のように、長時間のスパッタを安定して行うことが可能となる、冷却性能を有するスパッタリング装置用のバッキングプレートが提案されている。これは、全長に沿ってほぼ一定の断面積を持ち、冷却媒体がまずバッキングプレートの外周部を回り、徐々に中心部に移行するように、冷却媒体通路がバッキングプレート本体に設けられた構成を有している。
また、特許文献3では、スパッタリング時における基板温度の安定化が図られたスパッタリング装置が提案されている。ここでのスパッタリング装置は、真空処理チャンバーと、このチャンバー内に配設された基板載置用のステージ電極と、ステージ電極に対してプラズマ放電を形成するよう配設されたターゲット電極とを有している。また、このステージ電極上に配設され基板と実質的に同一の温度変化を生じる基板温度測定用のブロックと、温度制御部とを備えている。この温度制御部は、チャンバーおよびステージ電極の温度を互いに独立して制御する各温度制御手段を有している。温度制御に際しては、これら両温度制御手段に対し、前記ブロックの温度に基づいてチャンバーおよびステージ電極の温度を、相補って制御するように指令し、基板の温度を一定に保持するように構成されている。
【特許文献1】特許第3441002号公報
【特許文献2】特開2000−219963号公報
【特許文献3】特開2003−7644号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1の従来例のものでは、ダミー基板を用い、その温度を測定して温度制御を行う構成が採られているため、つぎのような問題を有している。
すなわち、ダミー基板はその上に熱電対が接着されているため、交換頻度がきわめて低くせざるを得ない。このため、基板をロードロックで交換してスパッタリングを複数回行う間、ダミー基板上には数倍の厚さの膜が形成されることとなる。真空中の伝熱は、輻射伝熱の比率が大きいため、基板と膜の輻射率が異なる場合、輻射伝熱による熱の移動は膜厚に大きく依存することになる。例えば、膜の輻射率が基板よりも大きい場合、輻射伝熱に寄与する赤外線の波長程度の数μmから数十μmの膜厚になるまでは、膜厚が厚くなれば輻射伝熱が大きくなる。このため、ダミー基板からの輻射伝熱による熱の逃げは、ダミー基板よりも膜厚が薄い基板からの熱の逃げよりも大きくなる。逆に膜の輻射率が基板よりも小さい場合、ダミー基板からの輻射伝熱による熱の逃げは、基板からの熱の逃げよりも小さくなる。このため、同じダミー基板を使う回数が多くなればなるほど、実際の基板の温度とダミー基板の温度との差が大きくなり、これにより基板温度を正しく制御できないといった問題が生じる。
また、上記特許文献1の従来例のものでは、基板ホルダ回転部の回転導入軸に、軸線方向に離れた複数のシール装置が設けられ、この複数のシール装置の間の空間を真空排気するかまたは非酸化性ガス雰囲気にする構成が採られている。また、前記基板ホルダ部と前記基板ホルダ回転部との接続部分に接続部材を介在させ、この接続部材を高融点で熱伝導率の低い材質で形成する構成が採られている。これらにより、回転導入軸を高温や酸化から守ることは可能であるが、基板上の膜の面内特性を均一にするために基板の自転を行う場合、自転の駆動機構はより基板に近い位置に構成されている。そのため、上記のような構成では自転の駆動機構を高温から守ることは困難である。
さらに、スパッタリング装置やプラズマCVD装置など薄膜形成にプラズマを使用する際にも、昇温する場合がある。すなわち、基板に加熱機構を有していない場合でも、プラズマから流入する荷電粒子による加熱やプラズマからの輻射による加熱により、薄膜形成を行っている間に昇温する場合がある。これらの場合、上記従来例の構成では基板の駆動機構の温度を作動限界温度以下に保つことは困難である。
また、上記特許文献2の従来例のものでは、バッキングプレート内部の冷却媒体通路を流れる冷却媒体の入り口温度は外部から制御可能であるが、実際のターゲット温度を制御できない場合が生じる。例えば、短時間に過大なパワーがターゲットに供給された場合、十分な冷却能力を得られない場合が生じる。
また、上記特許文献3の従来例のものでは、ダミー基板を用い、その温度を測定して温度制御を行うため、上記特許文献1と同様の問題が生じる。また、チャンバー温度と基板温度をお互いに独立して温度制御する必要があるため、装置構成及び制御系が複雑になるといった問題がある。また、チャンバーへの膜の付着を防止するために防着板を用いるような場合、上記特許文献3で採られているような防着板の温度制御が必要になるが、その際にも装置構成及び制御系が複雑になるという同様の問題が生じる。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑み、真空容器内において部材を設定温度近傍若しくは設定温度以下に制御することが可能となる真空容器内の温度制御装置を提供することを目的とするものである。
また、本発明は、基板の温度を安定して所定温度に保ち薄膜を形成することが可能となる薄膜形成方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記課題を解決するため、つぎのように構成した真空容器内の温度制御装置および薄膜形成方法を提供するものである。
すなわち、本発明の温度制御装置は、真空雰囲気内で所定の処理を行う真空容器内の温度制御装置であって、前記真空容器を構成する部材の内部に、該処理温度近傍に融点を持つ相変化材料が内包されていることを特徴としている。
また、本発明においては、前記相変化材料を、In、Sb、Bi、Pbのいずれかを主成分として、約10℃以上327℃以下の融点を有する低融点合金で構成することができる。
また、本発明の薄膜形成方法は、真空容器内の温度を温度制御手段によって制御し、スパッタリング法、CVD法あるいは真空蒸着法等を用いて基板上に薄膜を形成する薄膜形成方法において、前記真空容器を構成する部材の内部に、該処理温度近傍に融点を持つ相変化材料が内包されており、前記相変化材料が内包されている部材の温度を、該相変化材料の融点近傍に保持した後、前記基板上に薄膜を形成することを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、真空容器内において部材を設定温度近傍若しくは設定温度以下に制御することが可能となる真空容器内の温度制御装置を実現することができる。また、基板の温度を安定して所定温度に保ち薄膜を形成することが可能となる薄膜形成方法を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
つぎに、本発明の実施の形態について説明する。本発明においては、真空容器内において部材を設定温度近傍若しくは設定温度以下に制御するため、その実施の形態として前記相変化材料が内包されている部材を、つぎのように構成することができる。
すなわち、成膜に用いる基板を保持する基板ホルダを、前記相変化材料が内包されている部材で構成することができる。また、前記基板ホルダを回転及び/又は直進させる駆動機構近傍の部材を、前記相変化材料が内包されている部材で構成することができる。また、前記真空容器の壁面構成部材を、前記相変化材料が内包されている部材で構成することができる。また、前記真空容器の壁面に付着する付着物防止用の部材を、前記相変化材料が内包されている部材で構成することができる。また、スパッタリングターゲットをボンディングにより保持しているバッキングプレートを、前記相変化材料が内包されている部材で構成することができる。
【0012】
以上の構成により、部材に流入若しくは流出する熱量を、部材に内包する相変化材料の融解潜熱によって吸収若しくは放出することができる。これにより、これらの部材をほぼ一定温度に保つことや一定温度以下に保つことが可能となる。特に真空容器内においては、上記の課題で述べたように、部材の正確な温度計測の技術的難度が高く、また比較的正確に温度計測ができたとしても伝熱の様子が大気中とは異なり制御の応答性などに問題が生じる。
これに対して、本発明の上記構成によると、特別な温度計測及び温度制御を必要とすることなく、簡便に部材の温度を所定温度近傍や所定温度以下に安定して保つことが可能になる。
また、上記の構成において、前記基板ホルダが回転及び/又は直進する駆動機構を有する構成とすることで、形成する薄膜の基板内の膜厚分布や特性分布の均一性に大きく寄与することができる。この場合、基板ホルダが固定されている場合と比較して更に温度計測及び温度制御が困難になるが、ここでの基板ホルダに内包する相変化物質の融解潜熱による温度制御では、温度計測や温度制御のための配線が不要となる。そのため、装置構成は簡単になり且つ基板ホルダの駆動による計測制御系の揺らぎによる誤差も無く、精度良く安定して基板の温度を所定温度に安定して薄膜を形成することができる。
また、上記の構成において、バッキングプレートに、設定温度以下に融点を持つ相変化材料を内包する構成を採ることにより、スパッタリングターゲットの温度をボンディング材料の融点温度以下に安定して保つことが可能となる。これにより、安定してスパッタリングにより薄膜を形成することができる。
また、本発明のように、前記相変化材料をIn、Sb、Bi、Pbのいずれかを主成分として、30℃以上327℃以下の融点を持つ合金にすることで、成分比率により融点温度を自由に変えることが可能となる。これにより、様々なプロセス、膜材料に対応することが可能となる。
【0013】
また、成膜装置を構成するに際して、前記基板ホルダを前記基板と共に前記真空容器に搬送するための搬送手段を有する構成を採ることができる。その際、前記搬送手段を、前記真空容器に接続された搬送室で構成し、該搬送室内に基板ホルダ及び基板を加熱する加熱機構を有する構成とすることができる。
また、前記相変化材料が内包されている前記駆動機構近傍の部材には、駆動機構の動作可能な上限温度以下の融点を有する相変化材料が内包された構成とすることができる。その際、前記駆動機構に、少なくともベアリング又はギアを含み、前記動作可能な上限温度を150℃以下とする構成を採ることができる。
また、前記基板を光学薄膜の成膜に用いる基板とし、該基板に光学薄膜を成膜する構成を採ることができる。
以上の構成により、特別な温度計測及び温度制御を必要とすることなく、簡便に部材の温度を所定温度近傍や所定温度以下に安定して保ち、薄膜を成膜することが可能となる。
また、上記構成において、前記基板ホルダと基板とを共に搬送した後薄膜を形成する構成を採ることで、真空容器外で基板ホルダに基板を取り付けることができるため、基板の形状の自由度を大きくすることができる。
また、上記構成において、駆動機構の近傍の基板ホルダ内に駆動機構の動作可能な上限温度以下の融点を持つ相変化材料を内包する構成を採ることで、駆動機構を安定且つ長寿命にすることが可能となる。その際、標準的なベアリングやギアでは真空中で動作可能な上限温度が150℃以下である場合が多いが、上記構成によれば、この温度度以下に制御して安定して薄膜を形成することができる。
【0014】
また、前記薄膜を形成する工程において、前記相変化材料が内包されている基板ホルダの温度を、該相変化材料の融点近傍に保持した後、前記基板上に薄膜を形成するプロセスを含む構成を採ることができる。
また、前記基板ホルダを回転及び/又は直進しながら基板上に薄膜を形成するプロセスを含む構成を採ることができる。
また、前記基板を基板ホルダに前記真空容器外で取り付け、真空容器に接続した搬送室に投入して加熱した後、真空容器に搬送して薄膜を形成するプロセスを含む構成を採ることができる。
また、前記駆動機構近傍の部材に、該駆動機構の動作可能な上限温度以下の融点を有する相変化材料を内包させ、該相変化材料を融点以下の温度に保持した後、前記基板ホルダを回転及び/又は直進して薄膜を形成するプロセスを含む構成を採ることができる。
また、前記薄膜を形成する工程が、光学薄膜を形成する工程とすることができる。
以上の構成により、特別な温度計測及び温度制御を必要とすることなく、簡便に部材の温度を所定温度近傍や所定温度以下に安定して保ち、薄膜を形成することが可能となる。また、上記構成において、前記基板を基板ホルダに前記真空容器外で取り付け、真空容器に接続した搬送室に投入して加熱した後真空容器に搬送して薄膜を形成する構成を採ることにより、装置外部で基板を基板ホルダに取り付けることが可能なる。このため、板形状のものだけでなく、様々な基板形状に対しても簡単に対応することができる。このように基板ホルダを基板と共に搬送可能にする場合、基板の温度計測に熱電対のような接触式を用いるのはほとんど不可能であり、通常の温度制御は不可能になってくる。
これに対し、上記構成によれば基板ホルダ内に内包した相変化物質の溶融潜熱による温度制御を用いれば、精度良く安定して基板の温度を所定温度に安定して薄膜を形成することができる。
【0015】
つぎに、図を用いて本発明の具体的構成を、さらに詳細に説明する。
図1に、本実施の形態におけるDCマグネトロンスパッタリング装置の断面図を示す。図1において、1は真空容器、2はカソード電極、3はバッキングプレート、4はターゲット、5はアノード電極である。6は絶縁材、7は基板、8は基板ホルダ、9はゲートバルブ、10はロードロック室である。また、11は低融点合金であり、12は排気系、13はスパッタガス導入ポートである。14は直流電源、15は磁石である。
【0016】
本実施例のスパッタリング装置は、内部をほぼ真空状態に維持する真空容器1が設けられ、この真空容器1の底部の中央部には、内部に磁石15を収め、水冷可能なカソード電極2が設けられている。このカソード電極2の上面には、バッキングプレート3が配置されており、このバッキングプレート3の上面に高純度Al金属ターゲット4が固定されている。ターゲット材料としては電気抵抗が低く直流電流を通すものであれば、種々の金属、酸素添加金属もしくはフッ素添加金属などからなるターゲットであっても勿論よい。このターゲット4との間に所定の間隙をおいて外方に配置されたアノード電極5が真空容器1に固定されている。なお、アノード電極5とバッキングプレート3との間には、絶縁材6が配置されている。
【0017】
さらに、真空容器1の上面には、基板7が図示しない移動機構に基板ホルダ8とロードロック室10との間をゲートバルブ9を介して移動自在に設けられている。なお、特に、図示をしていないが、真空容器1内の漏れを防止するため、適宜箇所には、シール部材が設けられている。
また、ガス導入ポート13より、マスフローコントローラを含むガス供給系によって、スパッタガスとしてArガスを導入可能な構成となっている。反応性スパッタリングにより基板上に形成する薄膜がAlの酸化物や弗化物の場合は、Arガスと一緒に酸素(O2)ガスやフッ素(F2)ガスをガス導入ポート13より導入しても良い。あるいは別のガス導入ポート(図示せず)を設けて導入しても良い。ここで、導入するガスは、流量、純度、圧力は高精度に制限され、一定値に保持できる。
基板ホルダ8の内部には、低融点合金11が封入されている。低融点合金は合金組成により様々な融点に調整できる。具体的な例として、In、Sn、Bi、Ga、Pb、Cd系の合金を用いることができ、その組成により融点を約10℃から約327℃の間で任意に変えることができる。近年は環境問題からPbフリーはんだの開発も盛んであり、PbやCdといった有害物質を含まない低融点合金を用いることが可能であり、更にはそのようなものを用いることが望ましい。
基板ホルダ8の内部に封入するものは、基板ホルダを保持したい温度に融点を持つものであれば、低融点合金以外の物質、例えば、Inのような純金属や各種の有機物でも良い。低融点合金11はあらかじめ融点近傍の温度に加熱されている。ここで、薄膜を形成する間に基板ホルダ8及び基板7の熱収支が負になる場合、即ち熱の流入よりも流出が多い場合、低融点合金は半分以上が液体状態となるようにする。そのため、基板ホルダ8及び低融点合金11は薄膜形成を行う前に、低融点合金11の融点若しくは少し高い温度に予め加熱し、低融点合金の半分以上を液体状態とする。これにより、薄膜形成プロセスの間に、熱の流失が進むが、低融点合金11が液体から固体に変わることで融解潜熱を放出して、基板ホルダ8及び基板7を一定温度に保つことが可能となる。
逆に、プラズマからの加熱が顕著な場合、薄膜を形成する間に基板ホルダ8及び基板7の熱収支は正になり、即ち熱の流出よりも流入が多い場合、低融点合金は半分以上が固体状態となるようにする。そのため、基板ホルダ8及び低融点合金11を薄膜形成を行う前に、低融点合金11の融点若しくは少し低い温度に予め設定し、低融点合金の半分以上が固体状態とする。これにより、薄膜形成プロセスの間に、熱の流入が進むが、低融点合金11が固体から液体に変わることで融解潜熱を吸収して、基板ホルダ8及び基板7を一定温度に保つことが可能となる。
【0018】
真空容器1には真空容器内のガスを排気するためにバルブと真空ポンプからなる排気系12が接続されている。また、本実施の形態の薄膜形成装置においては、真空容器1には、図2に示すように真空容器への膜の付着を防止するために、防着部材16を取り付けても良い。真空容器1若しくは防着部材16の内部に低融点合金を封入させて(図示せず)、温度を制御することも可能である。また、バッキングプレート3の内部に低融点合金を封入させて(図示せず)、温度を制御することも可能である。
【0019】
本実施の形態の薄膜形成装置においては、単数の基板が回転できる駆動機構を構成するようにしても良い。図3にその構成を示す。図3において、1は真空容器、7は基板、8は基板ホルダ、11a、11bは低融点合金、17は基板駆動機構である。図3に示すように、基板7及び基板ホルダ8は基板駆動機構17により真空容器1に対して回転できるように構成し、基板の温度が安定するように低融点合金11aを基板ホルダ8内に封入する。また、基板駆動機構の近傍にも低融点合金11bを封入し、基板駆動機構の温度が低融点合金11bの融点以上に上がらないように構成する。
【0020】
また、本発明の薄膜形成装置は、複数の基板が自公転できる駆動機構を構成しても良い。図4にその構成を示す。図4において、1は真空容器、7は基板、8a、8bは基板ホルダ、11c、11dは低融点合金、17a、17bは基板駆動機構である。図4に示すように、基板7はそれぞれ基板ホルダ8aに設置され、基板ホルダ8aはそれぞれ基板駆動機構17aにより基板ホルダ8b上で回転できるようにして、基板の自転が可能に構成する。また、基板ホルダ8aの内部には基板温度が所定の温度で安定するように低融点合金11cを封入する。基板駆動機構17a近傍の基板ホルダ8b内部にも低融点合金11dが封入されており、基板駆動機構17aが動作上限温度以上に上がらないように構成する。
基板7は基板ホルダ8aと一緒に真空容器1に接続した搬送室に投入され、真空容器1内に搬送可能となるように構成されていても良い。また、この搬送室内に基板ホルダ及び基板を加熱する加熱機構を構成しても良い。
【0021】
つぎに、図1の装置を用いて、石英基板7上にアルミナ(Al23)薄膜を形成する方法について説明する。
まず、真空容器1をバルブと真空ポンプからなる排気系12により真空に排気する。つぎに、基板ホルダ8を外部ヒータ(図示せず)により予め低融点金属11の融点付近まで加熱する。1×10-4Paにまで排気が完了したところで、スパッタガス導入ポート13からArガスを200sccm導入する。
つぎに、反応性ガス導入ポート(図示せず)からはO2ガスを50sccm基板7近傍に導入する。バッキングプレート3に直流電源14より直流電圧500Wを印加すると、放電してArガスがイオン化し、磁石15による磁界がターゲット4の上方に形成されているため、磁界に電子がトラップされ、ターゲット表面にマグネトロンプラズマが発生する。放電によりターゲット表面にシースが形成され、プラズマ中の陽イオンがシースで加速されターゲット4に衝突し、ターゲット4からスパッタされたAl粒子が放出される。
【0022】
ガス圧、流量、印加電力などは、異常放電が起こらない条件を選択し、放電が安定するまで、基板とターゲット間に配置されたシャッター(図示せず)は閉じておく。それが安定したところでシャッターを開け、基板7に薄膜を形成するようにする。
異常放電が生じる条件で成膜した場合、異物が膜に混入し、散乱の大きい膜となる。スパッタされた粒子はプラズマ中および基板表面で活性な酸素原子や酸素分子、酸素イオンと反応して、基板7にアルミナ薄膜が堆積する。成膜終了後、シャッターを閉じ、放電を停止する。ここで、基板をロードロック室10を介して、大気に搬出する。基板7についたアルミナ膜の分光特性を分光光度計により測定し、厚さ、吸収などを光学干渉法などにより算出する。
【実施例】
【0023】
以下に、本発明の実施例について説明する。
[実施例1]
実施例1においては、図1に示したDCマグネトロンスッパッタリング装置により、上述した方法でアルミナ膜を作成した。
基板ホルダは図3のものを用いた。図3において低融点合金11aには、基板近傍の温度を170℃に保つために、Sn/Bi=65.5/31.5(%)の合金を用いた。同様に、低融点合金11bには、基板駆動機構17が109℃以下の温度になるように、Sn/Bi=33.0/67.0(%)のものを用いた。スパッタリングによる成膜を行っている間、基板駆動機構17は109℃以下の温度で安定して動作し、基板温度は170℃近傍で安定していたため、所望の光学特性を持つアルミナ膜を安定して得ることができた。
【0024】
[実施例2]
実施例2においては、図1に示したDCマグネトロンスッパッタリング装置により、上述した方法でアルミナ膜を作成した。基板ホルダは図4のものを用いた。図4において低融点合金11cには、基板近傍の温度を170℃に保つために、Sn/Bi=65.5/31.5(%)の合金を用いた。
同様に、低融点合金11dには、基板駆動機構17aが109℃以下の温度になるように、Sn/Bi=33.0/67.0(%)のものを用いた。
スパッタリングによる成膜を行っている間、基板駆動機構17aは109℃以下の温度で安定して動作し、基板温度は170℃近傍で安定していたため、所望の光学特性を持つアルミナ膜を安定して得ることができた。
【0025】
[実施例3]
実施例3においては、図1に示したDCマグネトロンスッパッタリング装置により、上述した方法でアルミナ膜を作成した。基板ホルダは図3のものを用いた。図1においてバッキングプレート3の内部に低融点合金(図示せず)を封入している。
低融点合金は、ターゲット4とバッキングプレート3をボンディングしているインジウム(In)の融点157℃よりも融点の低いIn/Sn=52/48(%)の合金を用いて、118℃以下の温度になるようにした。スパッタリングによる成膜を行っている間、ターゲット4の温度はインジウム(In)の融点157℃よりも低く保たれ、アルミナ膜を安定して得ることができた。
【0026】
[実施例4]
実施例4においては、図2に示したDCマグネトロンスッパッタリング装置により、上述した方法でアルミナ膜を作成した。基板ホルダは図3のものを用いた。図2において真空容器1に低融点金属を封入したものを用いて、防着部材16は取り外した。真空容器1は真空封止するためにゴム製のOリングを用いているため、In/Bi=66.3/33.7(%)の低融点合金を用いて72℃以下の温度に保つようにした。
真空容器1からの基板7への熱輻射による伝熱を安定させたことで基板温度が安定すると共に、真空容器1からの熱応力による膜はがれ防止効果により、所望の光学特性を有し欠陥の少ないアルミナ膜を安定して得ることができた。
【0027】
[実施例5]
実施例5においては、図2に示したDCマグネトロンスッパッタリング装置により、上述した方法でアルミナ膜を作成した。基板ホルダは図3のものを用いた。図2において防着部材16に低融点金属を封入したものを用いた。真空容器1は真空封止するためにゴム製のOリングを用いているため、In/Bi=66.3/33.7(%)の低融点合金を用いて72℃以下の温度に保つようにした。 防着部材16からの基板7への熱輻射による伝熱を安定させたことで基板温度が安定すると共に、防着部材16からの熱応力による膜はがれ防止効果により、所望の光学特性を有し欠陥の少ないアルミナ膜を安定して得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態におけるDCマグネトロンスッパッタリング装置の断面図である。
【図2】本発明の実施の形態における防着部材を取り付けたDCマグネトロンスッパッタリング装置の断面図である。
【図3】本発明の実施の形態のスッパッタリング装置における単数の基板が回転できる基板駆動機構を有する基板ホルダの断面図である。
【図4】本発明の実施の形態のスッパッタリング装置における複数の基板が自公転できる基板駆動機構を有する基板ホルダの断面図である。
【符号の説明】
【0029】
1:真空容器
2:カソード電極
3:バッキングプレート
4:ターゲット
5:アノード電極
6:絶縁材
7:基板
8、8a、8b:基板ホルダ
9:ゲートバルブ
10:ロードロック室
11、11a、11b、11c、11d:低融点合金
12:排気系
13:スパッタガス導入ポート
14:直流電源
15:磁石
16:防着部材
17、17a、17b:基板駆動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空雰囲気内で所定の処理を行う真空容器内の温度制御装置であって、前記真空容器を構成する部材の内部に、該処理温度近傍に融点を持つ相変化材料が内包されていることを特徴とする真空容器内の温度制御装置。
【請求項2】
前記相変化材料が、In、Sb、Bi、Pbのいずれかを主成分として、10℃以上327℃以下の融点を有する低融点合金であることを特徴とする請求項1に記載の真空容器内の温度制御装置。
【請求項3】
前記処理は基板に薄膜を形成する真空成膜であり、前記相変化材料が内包されている部材が、前記基板を保持する基板ホルダであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の真空容器内の温度制御装置。
【請求項4】
前記相変化材料が内包されている部材が、前記基板ホルダを回転及び/又は直進させる駆動機構近傍の部材であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の真空容器内の温度制御装置。
【請求項5】
前記相変化材料が内包されている部材が、前記真空容器の壁面構成部材であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の真空容器内の温度制御装置。
【請求項6】
前記相変化材料が内包されている部材が、前記真空容器の壁面に付着する付着物防止用の部材であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の真空容器内の温度制御装置。
【請求項7】
前記相変化材料が内包されている部材が、スパッタリングターゲットをボンディングにより保持しているバッキングプレートであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の真空容器内の温度制御装置。
【請求項8】
前記基板が、光学薄膜の成膜に用いる基板であることを特徴とする請求項3に記載の真空容器内の温度制御装置。
【請求項9】
前記相変化材料が内包されている前記駆動機構近傍の部材には、駆動機構の動作可能な上限温度以下の融点を有する相変化材料が内包されていることを特徴とする請求項4に記載の真空容器内の温度制御装置。
【請求項10】
前記駆動機構は、少なくともベアリング又はギアを含み、前記動作可能な上限温度が150℃以下であることを特徴とする請求項9に記載の真空容器内の温度制御装置。
【請求項11】
真空容器内の温度を温度制御手段によって制御し、スパッタリング法、CVD法あるいは真空蒸着法等を用いて基板上に薄膜を形成する薄膜形成方法において、
前記真空容器を構成する部材の内部に、該処理温度近傍に融点を持つ相変化材料が内包されており、前記相変化材料が内包されている部材の温度を、該相変化材料の融点近傍に保持した後、前記基板上に薄膜を形成することを特徴とする薄膜形成方法。
【請求項12】
前記薄膜を形成する工程が、前記基板ホルダを回転及び/又は直進しながら基板上に薄膜を形成するプロセスを含むことを特徴とする請求項11に記載の薄膜形成方法。
【請求項13】
前記薄膜を形成する工程が、前記基板を基板ホルダに前記真空容器外で取り付け、真空容器に接続した搬送室に投入して加熱した後、真空容器に搬送して薄膜を形成するプロセスを含むことを特徴とする請求項11〜12のいずれか1項に記載の薄膜形成方法。
【請求項14】
前記駆動機構近傍の部材に、該駆動機構の動作可能な上限温度以下の融点を有する相変化材料を内包させ、該相変化材料を融点以下の温度に保持した後、前記基板ホルダを駆動機能により回転及び/又は直進して薄膜を形成するプロセスを含むことを特徴とする請求項11〜13のいずれか1項に記載の薄膜形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−46091(P2007−46091A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−230489(P2005−230489)
【出願日】平成17年8月9日(2005.8.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】