説明

短繊維入りゴム製筒体の製造方法

【課題】ホースの柔軟性を低下させることなく、短繊維がホース長手方向に配向したものよりも優れた耐摩耗性を有する短繊維入りゴム製筒体の製造方法を提供する。
【解決手段】長さ方向に短繊維2が配向した短繊維入り未加硫ゴム製筒体3を螺旋状にカットしてテープ状に切り出し、得られた未加硫ゴムテープ5を立てた状態でマンドレル6の外周面に螺旋状に巻回して未加硫ゴム層7を形成し、その後、該未加硫ゴム層7を加硫することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砕石等の固形物を含む流体を圧送するのに適した耐摩耗性を備えた短繊維入りゴム製筒体の製造方法に関するものであり、特にスラリーや生コンクリートを圧送するスクイーズ式ポンプのポンピングホースとして好適に使用可能なゴム製筒体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、スクイーズ式ポンプのポンピングホースとして使用される耐摩耗性を備えたゴムホースとして、特許文献1に示すものが知られている。このゴムホースは、図6に示すように、内面ゴム層18として短繊維12を配合した短繊維複合ゴムを使用し、かつ短繊維複合ゴム中の短繊維12の配列方向をポンピングホースの長手方向Xに向けて配置した構成とされている。上記構成によれば、固形物による早期損傷や高速流体摩耗に起因する寿命の低下を効果的に防止することが可能となる。
【0003】
また、特許文献2には、図7のごとく、ゴムと短繊維12とを混合した複合ゴムからなり、複合ゴム中の短繊維12がホース周方向に配向したゴムホースが記載されている。
【特許文献1】実開平6−1789号公報
【特許文献2】特開2005−180502号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1記載のゴムホースにおいては、内層ゴム中に短繊維を配合することにより、ゴムが補強されて耐摩擦性が向上するものの、短繊維をホース長手方向に配列させることによって曲げ応力も高くなるため、ホースが曲がりにくくなり、柔軟性が低下するといった問題があった。
【0005】
また、特許文献2記載のゴムホースにおいては、短繊維がホース周方向に配向しているため、ホースの柔軟性の低下を抑制することが可能となるものの、固形物がホース内面と接触する際に、短繊維ごとゴムが削り取られやすくなり、耐摩耗性が低下するという問題があった。この耐摩耗性の低下については、特許文献1記載のゴムホースにおいても、同様の傾向が見られた。すなわち、固形物がホース内面に接触する際に、短繊維間のゴム部分が容易に削り取られるという問題が生じていた。
【0006】
そこで、本発明は、ホースの柔軟性を低下させることなく、短繊維がホース長手方向に配向したものよりも優れた耐摩耗性を有する短繊維入りゴム製筒体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係るゴム製筒体の製造方法は、長さ方向に短繊維が配向した短繊維入り未加硫ゴム製筒体を螺旋状にカットしてテープ状に切り出し、得られた未加硫ゴムテープを立てた状態でマンドレルの外周面に螺旋状に巻回して未加硫ゴム層を形成し、その後、該未加硫ゴム層を加硫することを特徴とする。
【0008】
上記構成によれば、未加硫ゴム製筒体から螺旋状に未加硫ゴムテープを切り出すと、短繊維はおおよそテープ幅方向に配向することになる。そして、この未加硫ゴムテープを立てた状態でマンドレルの外周面に螺旋状に巻回して未加硫ゴム層を形成すると、未加硫ゴム層中の短繊維は、未加硫ゴム層をマンドレルの回転軸方向からみたときに、マンドレル回転軸から半径方向に放射状に配向することになる。
【0009】
すなわち、加硫後に得られるゴム製筒体中の短繊維は、厚み方向に立った状態で存在することになる。そうすると、ゴム製筒体内部を流体が流通する際に、固形物がホース内面に接触する場合であっても、ゴムを削り取るためには、厚み方向に立った状態で存在する短繊維を切断しなければならず、これが抵抗となってゴムが削り取られにくくなり、ゴム製筒体の耐摩耗性を著しく向上させることが可能となる。さらに、短繊維を配合することによるゴム製筒体の柔軟性の低下を抑制することが可能になる。
【0010】
未加硫ゴム層は、マンドレルの回転軸方向に沿って隣接する未加硫ゴムテープのテープ面同士を密着させるようにして形成するのが好ましい。これにより、強度的に優れたゴム製筒体を得ることができる。
【0011】
未加硫ゴムテープを立てた状態でマンドレル外周面に巻回する場合、未加硫ゴムテープのテープ面をマンドレル回転軸方向に対して直交した状態でマンドレル外周面に巻回すると、隣接する未加硫ゴムテープと密着させつつ、安定的に巻回するのが難しくなる場合が生じる。
【0012】
そこで、本発明では、未加硫ゴムテープのテープ面がマンドレル回転軸方向に対して傾斜した状態で未加硫ゴムテープをマンドレル外周面に巻回するようにし、これにより隣接する未加硫ゴムテープ同士の密着性を保持しつつ、未加硫ゴムテープを安定的に巻回可能とした。さらにマンドレル回転軸方向に対する未加硫ゴムテープのテープ面の傾斜角度を調節することにより、未加硫ゴム層の厚みを制御することが可能となる。
【0013】
未加硫ゴムテープのテープ面の傾斜角度は、テープ幅方向とマンドレル回転軸方向との間の角度で表すことができる。この場合、短繊維は未加硫ゴムテープの幅方向に配向しているため、テープ面の傾斜角度が小さくなると、マンドレル回転軸方向に対する短繊維の配向角度も小さくなって、耐摩耗性が低下することになる。
【0014】
そこで、本発明では、未加硫ゴム層中の短繊維がマンドレル回転軸方向に対して30度〜80度の範囲で傾斜するように配向させるようにした。これにより、ゴム製筒体の耐摩耗性及び柔軟性を維持することができる。
【0015】
短繊維の配向角度を上記範囲内にするには、短繊維が未加硫ゴムテープの幅方向に配向していることから、未加硫ゴムテープをマンドレル外周面に巻回する際に、未加硫ゴムテープのテープ幅方向とマンドレル回転軸方向との間の角度が上記範囲内になるようにすればよい。
【0016】
本発明で使用される未加硫ゴム製筒体は、クロスヘッドを備えた押出装置から短繊維入り未加硫ゴムを筒状に押し出すことによって得ることができる。その他、短繊維入り未加硫ゴムをロール機等の圧延手段により圧延して短繊維が圧延方向に配向した短繊維入り未加硫ゴムシートを製造し、これを円筒状に丸めて形成することも可能である。
【0017】
本発明において使用される未加硫ゴムのベース配合としては特に限定は無く、従来からこの分野において公知の配合であればいずれも使用可能であり、例えば、耐摩耗性、耐水性、加工性において優れる天然ゴム(NR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)或いはNRとシス-1,4-ポリブタジエンゴム(BR)及び/又はSBRとのブレンド配合組成物等を挙げることができる。
【0018】
これらのベース配合に混入される短繊維の材質としては、タイヤ、ベルト等の補強用繊維として用いられる繊維素材である炭素繊維、芳香族ポリアミド繊維、ナイロン繊維及びポリエステル繊維等を例示することができる。
【0019】
本発明で用いられる短繊維は、未加硫ゴムに混合してカレンダーロール等によって圧延したり、押出装置から押出すことにより、圧延方向又は押出方向に配向する性質を有するものであって、未加硫ゴム層中でマンドレル回転軸から半径方向に放射状に配向したときに、耐摩耗性が向上するものであれば特に制限なく使用することができる。
【0020】
ただ、耐摩耗性や未加硫ゴムへの分散性等を考慮すると、短繊維としては、平均繊維径が1μm〜20μmで、平均繊維長さが3mm〜20mmであるのが好ましい。また、未加硫ゴムへの短繊維の配合量としては、耐摩耗性、ハンドリング性及び加硫後のゴム特性等を考慮すると、未加硫ゴム100重量部に対して短繊維を0.5重量部〜5重量部混合したものが好ましい。
【0021】
本発明によって製造された短繊維入りゴム製筒体は、骨材等の固形物を含む流体を圧送するゴムホースとして好適に使用することができる。具体的には、スクイーズ式ポンプのポンピングホース、生コンクリート打設用の先端ホースやドッキングホースとして使用することが可能である。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、長さ方向に短繊維が配向した短繊維入り未加硫ゴム製筒体を螺旋状にカットしてテープ状に切り出し、得られた未加硫ゴムテープを立てた状態でマンドレルの外周面に螺旋状に巻回して未加硫ゴム層を形成し、その後、該未加硫ゴム層を加硫するようにしたため、ゴム製筒体中の短繊維は厚み方向に放射状に配向し、耐摩耗性が向上するとともに、ゴム製筒体の柔軟性を維持することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を基に本発明の実施形態について説明する。図1〜図3は、本発明に係る短繊維入りゴム製筒体の製造方法の各工程を示す概略図である。先ず、図1に示すように、円筒状の芯体1の外周面に、クロスヘッドを備えた押出装置から短繊維入り未加硫ゴムを押し出して、長さ方向に短繊維2が配向した短繊維入り未加硫ゴム製筒体3を形成する。
【0024】
そして、芯体1を回転させながら、未加硫ゴム製筒体3をカッター4にてカットして未加硫ゴムテープ5を切り出す。このとき、テープ厚みに比べて幅広に切り出す。これにより、短繊維2がテープ幅方向に配向した未加硫ゴムテープ5を得ることができる。
【0025】
上記未加硫ゴムテープ5は、図2に示すように、マンドレル6の外周面に立てた状態で螺旋状に巻回することにより、未加硫ゴム層7が形成される。すなわち、未加硫ゴムテープ5は、図3に示すように、一方のテープ側端部5aがマンドレル6の外周面に当接し、テープ面5b(テープ長手面)がマンドレル6の回転軸方向Aに対して傾斜するようにしてマンドレル6の外周面に螺旋状に巻きつけられる。
【0026】
このようにすることで、未加硫ゴムテープ5は、マンドレル6の回転軸方向Aに沿って隣接する未加硫ゴムテープのテープ面5b同士を密着させることができ、また、未加硫ゴムテープの傾斜角度を調節することにより、未加硫ゴム層7の層厚を制御することが可能となる。
【0027】
未加硫ゴムテープ5のテープ面5aの傾斜角度αは、テープ幅方向Cとマンドレル回転軸方向Aとの間の角度で表すことができる。また、短繊維2のマンドレル回転軸方向Aに対する傾斜角度(配向角度)βは、短繊維2の配向方向Dと、マンドレル回転軸方向Aとの間の角度で表すことができる。
【0028】
本実施形態では、短繊維2はテープ幅方向Cに配向しているため、未加硫ゴムテープの傾斜角度αと短繊維2の配向角度βとはほぼ一致する。短繊維の配向角度βが小さくなると、最終的に得られるゴム製筒体8の耐摩耗性が低下するおそれが生じることから、30度〜80度になるようにすることが好ましい。
【0029】
未加硫ゴム層7を形成した後、加硫処理を施すことにより、短繊維入りゴム製筒体8を得ることができる。このゴム製筒体8は、図4に示すように、マンドレル回転軸方向Aから見たときに、短繊維2が回転軸9を中心に半径方向に放射状に配向することになる。
【0030】
上記構成のゴム製筒体8の内部を流体が流通するときに、流体中の固形物Eが筒体8の内面に接触しても、筒体8のゴムを削り取るためには、筒体8の厚み方向に放射状に存在する短繊維2を切断しなければならなくなる。これによりゴムが削り取られにくくなり、ゴム製筒体8の耐摩耗性を向上させることが可能となる。
【0031】
本発明によって得られる短繊維入りゴム製筒体8は、短繊維入り未加硫ゴム層7を加硫させた短繊維入り加硫ゴム層のみからなる単層構造であってもよいし、他の層を積層した積層構造とすることも可能である。
【0032】
例えば、ゴム製筒体8としてスクイーズ式ポンプのポンピングチューブを製造する場合には、内面ゴム層を上記短繊維入り加硫ゴム層から形成し、その外面側に補強コードで補強した補強層を形成し、さらにその外面側に外面ゴム層を形成した積層構造とすることができる。
【0033】
また、上記補強層を3層構造とし、内層を補強コードで補強した耐圧層とし、中間層を補強線で補強した耐座屈層とし、外層を補強布で補強した繊維層とすることにより、コンクリートポンプ車のブームの先端に取り付けられるドッキングホースや、ドッキングホースの先端側に取り付けられる先端ホースを製造することも可能である。
【実施例】
【0034】
実際にドッキングホースを作製し、生コンクリートを流通させたときの耐摩耗性を評価した。具体的な試験内容は以下の通りである。
【0035】
ドッキングホースは、図5に示すように、上記実施形態で形成された未加硫ゴム層7を内面ゴム層とし、その外面側に補強層10と、さらにその外面側に外面ゴム層11を形成することによって製造した。未加硫ゴム層7を構成するゴム成分としては、天然ゴム(60度)を使用し、短繊維としてアラミド製繊維で平均径10μm、平均長さ6mmのものを使用し、天然ゴム100重量部に対して短繊維2重量部を配合した。なお、短繊維のマンドレル回転軸方向Aに対する配向角度βは45°とした。
【0036】
補強層10は、3層構造とされており、内層として主に耐圧性を高める二層の補強コードで補強した耐圧層が、中間層として主に耐座屈性を高めるために硬鋼線で補強した耐座屈層が、外層として耐座屈層を外側から押えて硬鋼線の飛び出しを防止する補強布で補強した繊維層がそれぞれ形成されている。
【0037】
このようにして作製されたドッキングホースの径は152.4mm、ホース長さ6m、使用中のホース曲げ半径は1.5mであり、これを本発明品とした。一方、比較品としては、内面ゴム層の構成を変更した以外は本発明品と同様にして3種類の試料を作製した。具体的には、未加硫ゴム層7の代わりに、短繊維をマンドレル回転軸方向Aに配向させた軸方向品と、短繊維をマンドレルの周方向に配向させた周方向品と、短繊維を配合しない未配合品の3種類を作製し、本発明品と合せて耐摩耗性を評価した。
【0038】
耐摩耗性試験としては、ドッキングホース内を流通させる流体として、40mm骨材を含む生コンクリートを用い、これを流速2m/sと4m/sで流通させ、最も摩耗の激しかった部位の内面ゴム層の摩耗した厚みを測定した。結果を表1に記す。
【0039】
【表1】

【0040】
表1によれば、本発明品は、流体の流速にかかわらず、比較品に比べて耐摩耗性に優れていることが判明した。一方、比較品では、短繊維を含まない未配合品の耐摩耗性が最も低く、次いで周方向品、軸方向品の順となった。ただ、軸方向品と本発明品とを比べると本発明品の方が大幅に耐摩耗性が向上していることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明において未加硫ゴムテープを作製する工程を示す概略図
【図2】本発明において未加硫ゴムテープを巻きつけたマンドレルを示す断面図
【図3】図2におけるB部分を示す拡大図
【図4】本発明によって得られたゴム製筒体を示す断面斜視図
【図5】本発明によって得られたドッキングホースを示す断面図
【図6】短繊維が長手方向に配向した従来のゴム製筒体を示す断面斜視図
【図7】短繊維が周方向に配向した従来のゴム製筒体を示す断面斜視図
【符号の説明】
【0042】
1 芯体
2 短繊維
3 未加硫ゴム製筒体
4 カッター
5 未加硫ゴムテープ
5a テープ側端部
5b テープ面
6 マンドレル
7 未加硫ゴム層
8 ゴム製筒体
9 マンドレル回転軸
10 補強層
11 外面ゴム層
A マンドレル回転軸方向
C テープ幅方向
D 短繊維配向方向
E 固形物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長さ方向に短繊維が配向した短繊維入り未加硫ゴム製筒体を螺旋状にカットしてテープ状に切り出し、得られた未加硫ゴムテープを立てた状態でマンドレルの外周面に螺旋状に巻回して未加硫ゴム層を形成し、その後、該未加硫ゴム層を加硫することを特徴とする短繊維入りゴム製筒体の製造方法。
【請求項2】
前記未加硫ゴム層をマンドレルの回転軸方向から見たときに、未加硫ゴム層中の短繊維がマンドレル回転軸から半径方向に放射状に配向したことを特徴とする請求項1記載の短繊維入りゴム製筒体の製造方法。
【請求項3】
前記未加硫ゴム層は、マンドレルの回転軸方向に沿って隣接する未加硫ゴムテープのテープ面同士を密着させるようにして形成したことを特徴とする請求項1又は2記載の短繊維入りゴム製筒体の製造方法。
【請求項4】
前記未加硫ゴムテープのテープ面がマンドレル回転軸方向に対して傾斜した状態とされたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の短繊維入りゴム製筒体の製造方法。
【請求項5】
前記未加硫ゴム層中の短繊維がマンドレル回転軸方向に対して30度〜80度の範囲で傾斜するように配向したことを特徴とする請求項4記載の短繊維入りゴム製筒体の製造方法。
【請求項6】
前記短繊維入り未加硫ゴム製筒体が、クロスヘッドを備えた押出装置から短繊維入り未加硫ゴムを筒状に押し出したものである請求項1〜5のいずれかに記載の短繊維入りゴム製筒体の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−142931(P2008−142931A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−329674(P2006−329674)
【出願日】平成18年12月6日(2006.12.6)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】