説明

磁気抵抗効果素子、磁気ヘッドアセンブリ、磁気記録再生装置、メモリセルアレイ、及び磁気抵抗効果素子の製造方法

【課題】 本発明の実施形態によれば、劣化しにくく、MR変化率の大きい磁気抵抗効果素子、それを用いた磁気ヘッドアセンブリ、磁気記録再生装置、メモリセルアレイ、及び磁気抵抗効果素子の製造方法を提供することができる。
【解決手段】 磁気抵抗効果素子は、第1の電極と、第1の磁性層と、第2の磁性層と、スペーサ層と、Zn、In、Sn、及びCdから選択される少なくとも一つの元素とFe、Co、及びNiから選択される少なくとも一つの元素とを含む酸化物層と、酸化物層に接して設けられ、Zn、In、Sn、及びCdから選択される少なくとも一つの元素を0.5at%以上80at%以下の濃度で含み、かつFe、Co、及びNiから選択される少なくとも一つの元素を含む金属層とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、磁気抵抗効果素子、磁気ヘッドアセンブリ、磁気記録再生装置、メモリセルアレイ、及び磁気抵抗効果素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気抵抗効果素子は、2つの磁性層の間にスペーサ層を有する。磁気抵抗効果素子は、2つの磁性層が有する磁化の方向の相対角度の変化によって磁気抵抗効果が生じる。磁気抵抗効果素子には、例えばスペーサ層を絶縁層とするトンネル磁気抵抗効果(TMR:Tunneling Magnetro Resistance)素子、又はスペーサ層を金属層として磁気抵抗効果素子の膜面の垂直方向にセンス電流を通電するCPP−GMR(Current Perpendicular to plane−Giant Magnetro Resistance)素子等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−6589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁気抵抗効果素子が小さくなると、磁気抵抗効果素子自体の抵抗値が大きくなる。そこで、TMR素子の場合には絶縁層を薄くする。しかしながら、薄くなった絶縁層は、絶縁層内に多くのスピンホールを生じ、TMR素子が劣化してしまう。また、CPP−GMR素子の場合には、素子自体は低抵抗となるが抵抗変化率(以下、MR変化率という)が小さい。
【0005】
そこで、本発明の実施形態は、劣化しにくく、MR変化率の大きい磁気抵抗効果素子、それを用いた磁気ヘッドアセンブリ、磁気記録再生装置、及び磁気抵抗効果素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る磁気抵抗効果素子は、第1の電極と、第2の電極と、前記第1の電極と前記第2の電極との間に設けられ、磁化が一方向に固定され又は外部磁場に応じて変化する第1の磁性層と、前記第1の磁性層と前記第2の電極との間に設けられ、磁化が外部磁場に応じて変化する第2の磁性層と、前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間に設けられたスペーサ層と、前記第1の電極と前記第1の磁性層との間、前記第1の磁性層中、前記第1の磁性層と前記スペーサ層との間、前記スペーサ層中、前記スペーサ層と前記第2の磁性層との間、前記第2の磁性層中、又は前記第2の磁性層と前記第2の電極との間の何れかに設けられ、Zn、In、Sn、及びCdから選択される少なくとも一つの元素とFe、Co、及びNiから選択される少なくとも一つの元素とを含む酸化物層と、前記第1の電極と前記第2の電極とを結ぶ方向において前記酸化物層に接して設けられ、Zn、In、Sn、及びCdから選択される少なくとも一つの元素を5at%以上80at%以下の濃度で含み、かつFe、Co、及びNiから選択される少なくとも一つの元素を含む金属層と、を備えることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を示す図。
【図2】第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を示す図。
【図3】第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を示す図。
【図4】第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を示す図。
【図5】第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を示す図。
【図6】第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を示す図。
【図7】第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を示す図。
【図8】第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を示す図。
【図9】第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を示す図。
【図10】第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を示す図。
【図11】第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を示す図。
【図12】磁気抵抗効果素子の変形例を示す図。
【図13】磁気抵抗効果素子の変形例を示す図。
【図14】磁気抵抗効果素子の変形例を示す図。
【図15】磁気抵抗効果素子の変形例を示す図。
【図16】磁気抵抗効果素子の変形例を示す図。
【図17】磁気抵抗効果素子の変形例を示す図。
【図18】磁気抵抗効果素子の変形例を示す図。
【図19】磁気抵抗効果素子の変形例を示す図。
【図20】磁気抵抗効果素子の実施例を示す図。
【図21】磁気抵抗効果素子の実施例を示す図。
【図22】磁気抵抗効果素子の実施例を示す図。
【図23】磁気抵抗効果素子の実施例を示す図。
【図24】磁気抵抗効果素子の実施例を示す図。
【図25】磁気抵抗効果素子の実施例を示す図。
【図26】磁気抵抗効果素子の実施例を示す図。
【図27】磁気抵抗効果素子の実施例を示す図。
【図28】磁気抵抗効果素子の実施例を示す図。
【図29】磁気抵抗効果素子の実施例を示す図。
【図30】磁気抵抗効果素子の実施例を示す図。
【図31】磁気抵抗効果素子の実施例を示す図。
【図32】第3の実施形態に係る磁気記録再生装置を示す図。
【図33】第4の実施形態に係るヘッドスタックアセンブリを示す図。
【図34】第4の実施形態に係るヘッドスタックアセンブリを示す図。
【図35】第5の実施形態に係る磁気記録再生装置を示す図。
【図36】第5の実施形態に係る磁気記録再生装置を示す図。
【図37】第5の実施形態に係る磁気記録再生装置を示す図。
【図38】第5の実施形態に係る磁気記録再生装置を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下図面を参照して、本発明の各実施形態を説明する。同じ符号が付されているものは同様のものを示す。なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比係数などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比係数が異なって表される場合もある。
【0009】
(第1の実施形態)
図1は、磁気抵抗効果素子100を示す図である。磁気抵抗効果素子100は、第1の磁性層20と、スペーサ層30と、酸化物層40と、金属層50と、第2の磁性層60とを備える。酸化物層40と金属層50は接している。磁気抵抗効果素子100は、第1の磁性層20から第2の磁性層60に向かって又は第2の磁性層60から第1の磁性層20に向かって電流が通電される。
【0010】
第1の磁性層20は、強磁性を有する。第1の磁性層20の磁化は、一方向に固定され又は外部磁場に応じて変化する。第2の磁性層60は、強磁性を有する。第2の磁性層60の磁化は、外部磁場に応じて変化する。
【0011】
第1の磁性層20及び第2の磁性層60には、Co、Fe、Niを含む強磁性金属を用いることができる。例えば、Fe50Co50[3nm]、又はスペーサ層30側にCoFeが位置するように形成されたCo90Fe10[1nm]/Ni83Fe17[3.5nm]という二層構成を用いることができる。ここで、‘/’は‘/’の左側に記載されたものから順に積層していることを示し、Au/Cu/Ruと記載された場合、Au層上にCu層を積層し、Cu層上にRu層を積層していることを示す。また、‘×2’とは、2層であることを示し、(Au/Cu)×2と記載された場合、Au層上にCu層を積層し、Cu層上にさらにAu層、Cu層と順次積層していることを示す。また、‘[ ]’はその材料の膜厚を示す。
【0012】
第1の磁性層20の磁化が一方向に固定された磁化固定層である場合と磁化が外部磁場に応じて変化する磁化自由層である場合とで第1の磁性層20に用いる材料は異なる。
【0013】
第1の磁性層20が磁化固定層である場合、第1の磁性層20としては、Fe50Co50を用いることができる。Fe50Co50は、bcc構造を有する磁性材料である。この材料は、スピン依存界面散乱効果が大きいため、大きなMR変化率を実現することができる。bcc構造をもつFeCo系合金として、FeCo100−x(x=30%〜100%)や、FeCo100−xに添加元素を加えたものが挙げられる。そのなかでも、諸特性をすべて満たしたFexCoy(x=40%〜80%、y=20%〜60%)が使いやすい材料の一例である。第1の磁性層20が、高MR変化率を実現しやすいbcc構造をもつ磁性層から形成されている場合には、この磁性層の全膜厚が1.5nm以上であることが望ましい。bcc構造を安定に保つためである。
【0014】
スピンバルブ膜に用いられる金属材料は、fcc構造またはfct構造であることが多いため、第1の磁性層20のみがbcc構造を有することがあり得る。このため、第1の磁性層20の膜厚が薄すぎると、bcc構造を安定に保つことが困難になり、高いMR変化率が得られなくなる。
【0015】
また、第1の磁性層20の材料として、(CoFe100−x100−Y合金(x=0%〜100%、x=0%〜30%)を用いることもできる。(CoFe100−x100−Yのようなアモルファス合金を用いた場合、磁気抵抗効果素子の素子サイズが小さくなった場合に懸念される結晶粒に起因した素子間のバラツキを抑えることができる。
【0016】
また、このようなアモルファス合金を用いた場合、第1の磁性層20を平坦な膜にすることができるため、第1の磁性層20の上に形成されるスペーサ層30を平坦化する効果がある。
【0017】
スペーサ層30の平坦化は、スペーサ層30の欠陥の頻度を減らすことができる。よって、スペーサ層30が平坦化されていれば、低い面積抵抗で高いMR変化率を得ることができる。スペーサ層30としてMgOを用いる場合、(CoFe100−x100−Yのようなアモルファス合金を用いることでその上に形成されるMgO層の(100)配向性を強めることができる。MgO層の(100)配向性は高いMR変化率を得ることができる。また、(CoFe100−x100−Y合金はアニール時にMgO(100)面をテンプレートとして結晶化するため、MgOと(CoFe100−x100−Y合金の良好な結晶整合を得ることが出来る。第1の磁性層20の膜厚は、厚いほうが大きなMR変化率を得やすいが、大きなピン固定磁界を得るためにはその膜厚は薄い。例えば、bcc構造をもつFeCo合金層を用いたときには、bcc構造を安定にする必要があるため、第1の磁性層20は1.5nm以上である。また、fcc構造のCoFe合金層を用いるときにも、大きなMR変化率を得るため、やはり1.5nm以上の膜厚である。一方、大きなピン固定磁界を得るためには、第1の磁性層20の膜厚は最大でも、5nm以下である。以上のように、第1の磁性層20の膜厚は、1.5nm以上5nm以下である。第1の磁性層20には、bcc構造をもつ磁性材料の代わりに、従来の磁気抵抗効果素子で広く用いられているfcc構造を有するCo90Fe10合金や、hcp構造をもつCoや、Co合金を用いることができる。第1の磁性層20として、Co、Fe、又はNiなどの単体金属、又はこれらの元素を少なくとも1つ含む合金を用いることができる。第1の磁性層20の磁性材料として、大きなMR変化率を得るのに有利なものは、bcc構造をもつFeCo合金材料、50%以上のコバルト組成をもつコバルト合金、50%以上のNi組成である。また、第1の磁性層20として、CoMnGe、CoMnSi、CoMnAlなどのホイスラー磁性合金層を用いることも可能である
第1の磁性層20が磁化自由層である場合、例えば、スペーサ層30側にCoFeが位置するように形成されたNi83Fe17[3.5nm]/Co90Fe10[1nm]という二層構成を用いることができる。ここで、スペーサ層30側に位置するCoFeはFeCo100−x(x=10%〜100%)でもよい。また、CoFe/NiFe/CoFeなどの三層構成としてもよい。なお、NiFe層を用いない場合には、Co90Fe10[4nm]単層を用いることができる。Co90Fe10の合金は、軟磁気特性が安定である。CoFe合金を用いる場合には、膜厚を0.5nm以上4nm以下とする。その他、FeCo100−x(x=10%〜100%)も用いることができる。また、第1の磁性層20として、1nm以上2nm以下のCoFe層またはFe層と、0.1nm以上0.8nm以下の極薄Cu層とを複数層交互に積層したものを用いてもよい。また、第1の磁性層20の一部として、CoZrNbなどのアモルファス磁性層を用いても構わない。第1の磁性層20の構造としては、スペーサ層30側からみて、次のような構成が可能である。即ち、第1の磁性層20の構造として、(1)結晶層のみ、(2)結晶層/アモルファス層の積層、(3)結晶層/アモルファス層/結晶層の積層、などが考えられる。(1)から(3)のいずれでもスペーサ層30と第1の磁性層20の界面は結晶層が接している。また、第1の磁性層20として、CoMnGe、CoMnSi、CoMnAlなどのホイスラー磁性合金層を用いることも可能である。
【0018】
磁化が外部磁場に応じて変化する第2の磁性層60は、第1の磁性層20が磁化自由層である場合に好ましい材料と同じ材料を用いることができる。
【0019】
スペーサ層30は、金属、絶縁体、又は電流パス31を含む絶縁層32からなる。電流パス31を含む絶縁層32を電流狭窄層という。
【0020】
スペーサ層30に金属を用いる場合、Au、Ag、Cu、又はZnを用いることができる。スペーサ層30として、Ru、Rh、Re、Ir、Osを用いても良い。絶縁体には、Mg、Al、Ti、Zr、Hf、又はZnから選択される少なくとも一つの元素を含む酸化物を用いることができる。具体的には、MgOを用いることできる。MgOは、コヒーレントなスピン依存トンネリング現象を示すため、高いMR変化率を得ることができる。
【0021】
絶縁層32は、酸化物、窒化物、酸窒化物等を用いることができる。絶縁層32の具体例としては、Alおよびこれに添加元素を加えたものが挙げられる。例として、膜厚約2nmのAlを用いることができる。添加元素としては、Ti、Hf、Mg、Zr、V、Mo、Si、Cr、Nb、Ta、W、B、C、又はZnなどがある。これらの添加元素の添加量は0%〜50%程度の範囲で適宜加えることができる。絶縁層32には、AlのようなAl酸化物の変わりに、Mg酸化物、Zn酸化物、Ti酸化物、Hf酸化物、Mn酸化物、Zr酸化物、Cr酸化物、Ta酸化物、Nb酸化物、Mo酸化物、Si酸化物、又はV酸化物なども用いることができる。これらの酸化物に対しても上述した添加元素を用いることができる。添加元素の添加量は0%〜50%程度の範囲で適宜加えることができる。絶縁層32として、酸化物の変わりに、Al、Si、Hf、Ti、Mg、Zr、V、Mo、Nb、Ta、W、B、Cをベースとする窒化物または酸窒化物を用いることもできる。
【0022】
電流パス31は、電流狭窄層の膜面垂直に電流を流すパス(経路)であり、電流を狭窄するためのものである。電流パス31には、Cu、Au、Ag、Ni、Co、又はFeから選択される少なくとも一つの元素、又はこれらの元素からなる合金を用いることができる。合金としては、CuNi、CuCo、CuFe等を用いることができる。電流パス31は絶縁層32と比べて著しく酸素および窒素の含有量が少ない領域であり(少なくとも2倍以上の酸素または窒素の含有量の差がある)、結晶相である。結晶相は非結晶相よりも抵抗が小さいため、電流パス31して機能しやすい。
【0023】
スペーサ層30の膜厚は、0.5nm以上5nm以下である。
【0024】
酸化物層40は、酸化物層40を通過するアップスピン電子又はダウンスピン電子の透過を制御することができる。このような効果をスピンフィルタ効果という。酸化物層40は、Zn、In、Sn、及びCdから選択される少なくとも一つの元素とFe、Co、及びNiから選択される少なくとも一つの元素を含む。これらは、酸化物層40の母金属材料である。具体的には、Fe50Co50とZnの混合酸化物を用いることができる。Zn、In、Sn、又はCdの酸化物は、3eV以上の高いバンドギャップを有する。このような、高いバンドギャップを有する酸化物としては、例えばZnO、In、SnO、ZnO、CdO、CdIn、CdSnO、ZnSnO等がある。化学量論組成から少し還元よりにずれることにより酸素空孔等の真性欠陥がドナー準位を酸化物層40内で形成する。このため、酸化物層40内の伝導電子密度が1018cm−3以上1019cm−3以下程度になる。このとき、価電子帯は主として酸素原子の2p軌道となり、伝導帯は金属原子のs軌道で構成されている。キャリア密度が1012cm−3よりも増えるとフェルミ準位は伝導帯に達し縮退する。このような状態は、n型の縮退と呼ばれ、大きな濃度と高い移動度を有する伝導電子が酸化物層40内に形成されるために酸化物層40が低い抵抗値を有する。しかしながら、上記したZn、In、Sn、又はCdの酸化物だけでは、酸化物層40は、磁性を帯びない。Co、Fe、又はNiは、常温で磁性を有する。このために、酸化物層40は高いスピン依存散乱効果を有することになる。よって、酸化物層40は低い抵抗率と高いスピン依存散乱効果を有する。従って、磁気抵抗効果素子100は、高いMR変化率を有する。なお、Znは、Fe、Co、又はNiと周期表で同周期であるために、磁性を帯やすい。このために、酸化物層40の磁化を安定化できる。
【0025】
また、酸化物層40にZnを含有する酸化物を用いた場合には、添加元素を加えてもよい。Zn酸化物に添加元素としてAlを加えた場合、熱耐性があがることが報告されている。Alのほかにも、添加元素としては、B、Ga、In、C、Si、Ge、又はSn等があげられる。耐熱性が向上するメカニズムは完全に明らかとはなっていない。しかしながら、化学量論組成から還元気味にずれたことにより形成されるZn酸化物中の酸素空孔の密度が、熱による再酸化の促進により減少して、キャリア密度が変わることにより耐熱性が向上すると考えられる。上記したこれらの元素はIII族、またはIV族のドーパントにあたり、これらのドーパントは熱によるZn原子の再酸化の促進を防ぐ。このために、酸化物層40中のキャリア密度の変化や、熱に対する抵抗率の変化が抑えられると考えられる。
【0026】
酸化物層40の膜厚は、スピンフィルタ効果を得るためには0.5nm以上とする。膜厚が均一な酸化物層40を得るためには、製造上の装置の依存性を考慮して、1nm以上にする。一方、膜厚の上限は再生ヘッドのリードギャップを広げない観点で10nm以下とする。
【0027】
金属層50は、Zn、In、Sn、及びCdから選択される少なくとも一つの元素を5at(原子)%以上80at%以下の濃度で含み、かつFe、Co、及びNiから選択される少なくとも一つの元素を含む。なお、金属層50は、Zn、In、Sn、及びCdから選択される少なくとも一つの元素を含む層と、Fe、Co、及びNiから選択される少なくとも一つの元素を含む層の2層からなる積層体であってもよい。具体的には、膜厚が2nmのZn50(Fe50Co5050を用いることができる。他にも、(Zn[0.25nm]/Fe50Co50[0.25nm])×4のような積層体を用いても良い。図3は、金属層50の働きを説明する図である。金属層50が設けられていない場合、酸化物層40に熱が加わると酸化物層40内の酸素が拡散して酸化物層40に隣接する第2の磁性層60を酸化してしまう(図3(A))。このため、磁気抵抗効果素子が劣化しやすくなる。なお、熱とは、製造工程で用いるアニール、磁性層の磁化を固定するためのアニール、又は磁気抵抗効果素子に電流を通電した際に生じるジュール熱を示す。
【0028】
金属層50が酸化物層40に接して設けられている場合、酸化物層40に熱が加わると酸化物層40内の酸素は金属層50の一部を酸化する(図3(B))。金属層50は、酸化物層40と共通の材料を有するために、酸化物層40の効果を維持し、更に酸化による磁気抵抗効果素子100の劣化を防ぐことができる。また、金属層50は、酸化物層40で用いられる母金属材料を共通の材料を有するので、高いスピン依存散乱を有する。このため、金属層50が残っていても磁気抵抗効果素子100に悪影響を与えることはない。ここでは、第2の磁性層60を例に説明したが、第2の磁性層60でなくても、電極、スペーサ層に対しても同様の効果を得ることができる。電極の場合には、電極の酸化を防止することができる。スペーサ層は、金属、絶縁体、又は電流パスを含む酸化物層の場合がある。スペーサ層が金属の場合には、金属の酸化を防止することができる。スペーサ層が絶縁体の場合には、絶縁体の過剰酸化を防止することができる。スペーサ層30が電流パス31を含む絶縁層32の場合には、電流パスの酸化を防止することができる。
【0029】
金属層50の膜厚は薄すぎると酸化物層40からの余剰酸素を吸収しきれず、金属層50上に形成される層の酸化を招いて低スピンフィルタ層が形成されるため、0.25nm以上とすることが望ましい。また、金属層50が厚すぎるとトータルの磁気抵抗効果素子の膜厚が厚くなり、狭ギャップ化の観点で望ましくないため4nm以下とすることが望ましい。
【0030】
磁気抵抗効果素子100は、第1の磁性層20上に、スペーサ層30、酸化物層40、金属層50、第2の磁性層60が形成されているものとして説明した。しかしながら、図4〜図9に示すような構造であってもよい。
【0031】
図4(A)〜図4(K)に示す基本構造は、下から第1の磁性層20、スペーサ層30、第2の磁性層60となっている。なお、上下は逆さまでもよい。つまり、第1の磁性層20が下側でも第2の磁性層60が下側でもどちらでもよい。これは、図5〜図8でも同様である。
【0032】
図4(A)は、スペーサ層30と第2の磁性層60との間に酸化物層40が設けられ、酸化物層40とスペーサ層30との間に金属層50が設けられている図を示す。係る場合には、スペーサ層30の劣化を防止できる。
【0033】
図4(B)、図4(C)は、第2の磁性層60中に酸化物層40が設けられ、酸化物層40と第2の磁性層60との間に金属層50が設けられている図を示す。図4(B)は、酸化物層40がスペーサ層30側に設けられる図を示す。図4(C)は、金属層50がスペーサ層30側に設けられている図を示す。係る場合、第2の磁性層60の酸化物層40に接している側は、酸化されてしまう。しかしながら、金属層50と第2の磁性層60が接している側で高いMR変化率を有するので総合してMR変化率の高い磁気抵抗効果素子100となる。
【0034】
図4(D)は、第2の磁性層60上に酸化物層40、金属層50が設けられている図を示す。図4(E)は、第2の磁性層60上に金属層50、酸化物層40が設けられている図を示す。
【0035】
図4(F)は、第1の磁性層20とスペーサ層30との間に酸化物層40が設けられ、酸化物層40とスペーサ層30との間に金属層50が設けられている図を示す。図4(G)は、第1の磁性層20とスペーサ層30との間に酸化物層40が設けられ、酸化物層40と第1の磁性層20との間に金属層50が設けられている図を示す。
【0036】
図4(H)、図4(I)は、第1の磁性層20中に酸化物層40が設けられ、酸化物層40と第1の磁性層20との間に金属層50が設けられている図を示す。図4(H)は、金属層50がスペーサ層30側に設けられ、図4(I)では、酸化物層40がスペーサ層30側に設けられている図を示す。
【0037】
図4(J)は、第2の磁性層20の下に金属層50、酸化物層40が設けられている図を示す。図4(K)は、第2の磁性層20の下に酸化物層40、金属層50が設けられている図を示す。
【0038】
図5(A)〜図5(F)は、酸化物層40を2つの金属層50で挟んだ図を示す。図5(A)〜図5(F)に示す基本構造は、下から第1の磁性層20、スペーサ層30、第2の磁性層60となっている。
【0039】
図5(A)は、2つの金属層50で挟まれた酸化物層40がスペーサ層30と第2の磁性層60との間に設けられている図を示す。図5(B)は、2つの金属層50で挟まれた酸化物層40が第2の磁性層60中に設けられている図を示す。図5(C)は、2つの金属層50で挟まれた酸化物層40が第2の磁性層60上に設けられている図を示す。図5(D)は、2つの金属層50で挟まれた酸化物層40がスペーサ層30と第1の磁性層20との間に設けられている図を示す。図5(E)は、2つの金属層50で挟まれた酸化物層40が第1の磁性層20中に設けられている図を示す。図5(F)は、2つの金属層50で挟まれた酸化物層40が第1の磁性層20の下側に設けられている図を示す。
【0040】
図6(A)〜図6(C)に示す基本構造は、下から第1の磁性層20、スペーサ層30、第2の磁性層60となっている。図6(A)、図6(B)は、スペーサ層30中に酸化物層40が設けられ、酸化物層40とスペーサ層30との間に金属層50が設けられている図を示す。図6(A)は、酸化物層40が第1の磁性層20側に設けられている図を示す。図6(B)は、金属層50が第1の磁性層20側に設けられている図を示す。図6(C)は、2つの金属層50で挟まれた酸化物層40がスペーサ層30中に設けられている図を示す。図6(A)〜図6(C)に示す構造の場合には、スペーサ層30は実質的に2層あることになる。よって、第1の磁性層20側と第2の磁性層60側で2つのスピンフィルタ効果を有するので、磁気抵抗効果素子100のMR変化率を高めることができる。
【0041】
図7は、スペーサ層30の代わりに酸化物層40と金属層50を用いた図である。図7(A)は、第1の磁性層20と第2の磁性層60との間に酸化物層40が設けられ、第2の磁性層60と酸化物層40との間に金属層50が設けられている図を示す。図7(B)は、第1の磁性層20と第2の磁性層60との間に酸化物層40が設けられ、第1の磁性層20と酸化物層40との間に金属層50が設けられている図を示す。図7(C)は、第1の磁性層20と第2の磁性層60との間に、2つの金属層50で挟まれた酸化物層40が設けられている図を示す。図7に示す構造の場合には、スペーサ層30を設けなくて良いので、磁気抵抗効果素子100を微細化できる。ここで、Fe、Co、Niからなる群から選択される強磁性元素のみを母金属材料とした酸化物層40は比較的大きい磁化を有する。このため、図7のようにスペーサ層30に配置した場合、第1の磁性層20と第2の磁性層60の磁気結合が強いため、スペーサ層30として用いることができない。一方、本実施形態のFe、Co、NiにさらにZn、In、Sn、Cdから選択される非磁性元素を加えた酸化物層40は、前述したFe、Co、Niのみを母金属材料とした酸化物に比べて磁化が小さい、若しくは非磁性となる。従って、第1の磁性層20と第2の磁性層60の磁気結合を十分に弱めることができ、スペーサ層30として用いることができる。
【0042】
図8は、第1の磁性層20とスペーサ層30との間、及び第2の磁性層60とスペーサ層30との間のそれぞれの場所に酸化物層40が設けられ、酸化物層40と第1の磁性層20及び第2の磁性層60との間にそれぞれ金属層50が設けられている図を示す。係る場合、第1の磁性層20及び第2の磁性層60の両方の層の劣化を防ぐことができる。
【0043】
図9は、スペーサ層30と第2の磁性層60との間に酸化物層40が設けられ、酸化物層40と第2の磁性層60との間に金属層50が設けられ、金属層50と酸化物層40との間に非磁性金属層が設けられている図を示す。係る場合、非磁性金属層の膜厚が1nm以上2nm以下であれば、酸化物層40内の酸素が非磁性金属層を透過して金属層50を酸化できる。
【0044】
次に、磁気抵抗効果素子100の製造方法について説明する。
【0045】
図10は、磁気抵抗効果素子100の一部の製造方法を説明するフローチャート図である。磁気抵抗効果素子100の製造方法は3つある。1つ目は、酸化物層40の形成後に金属層50を形成する工程である。2つ目は、金属層50の形成後に酸化物層40を形成する工程である。3つ目は、金属層50を形成後に酸化物層40を形成し更に金属層50を形成する工程である。製造方法には、DCマグネトロンスパッタ、RFマグネトロンスパッタ等のスパッタ法、イオンビームスパッタ法、蒸着法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、又はMBE(Molecular Beam Epitaxy)法を用いることができる。
【0046】
図10(A)は、酸化物層40を形成後(S10)に酸化物層40上に金属層50を形成する(S20)フローを示す。金属層50を形成後に加熱処理を行って、酸化物層40の酸素で金属層50を酸化進行させてもよい。なお、加熱処理を行わなくても、酸化物層40の酸素は金属層50の酸化を進行させることができる。これは、室温程度(300K)のエネルギーであれば金属層50との反応は十分進むからである。
【0047】
図10(B)は、金属層50を形成後(S30)に金属層50上に酸化物層40を形成する(S40)フローを示す。酸化物層40を形成後に加熱処理を行って、酸化物層40の酸素で金属層50の酸化を進行させてもよい。なお、加熱処理を行わなくても、酸化物層40の酸素は金属層50の酸化を進行させることができる。
【0048】
図10(C)は、金属層50を形成後(S50)に金属層50上に酸化物層40を形成し(S60)、酸化物層40を形成後に更に2層目の金属層50を形成する(S70)。金属層50上に酸化物層40を形成した後、又は2層目の金属層50を形成した後に加熱処理を行って、酸化物層40の酸素で金属層50の酸化を進行させてもよい。なお、加熱処理を行わなくても、酸化物層40の酸素は金属層50の酸化を進行させることができる。
【0049】
酸化処理としては、イオンビーム酸化、プラズマ酸化する方法を用いることができる。この場合、イオンビーム酸化やプラズマ酸化のエネルギーアシストにより、酸化物層40を形成することができる。また、酸化物層40を作製した後にArプラズマ照射や水素イオン照射などの還元処理を行っても良い。このような還元処理を行いことにより、酸化物層40の酸素濃度を調整することができる。
【0050】
(第2の実施形態)
図11は、第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子200の構成を示す模式図である。
【0051】
磁気抵抗効果素子200は、磁気抵抗効果素子200を酸化等の劣化から防止するキャップ層19と、磁化が一方向に固定されたピン層14と、キャップ層19とピン層14との間に設けられ磁化が外部磁場に応じて変化するフリー層18と、ピン層14とフリー層18との間に設けられたスペーサ層30と、スペーサ層30とフリー層18との間に設けられた酸化物層40と、酸化物層40とフリー層18との間に設けられた金属層50とを備える。フリー層18は第1の磁性層20に相当する。ピン層14は、第2の磁性層60に相当する。
【0052】
また、磁気抵抗効果素子200は、積層体の膜面に垂直に電流を流すための一対の電極10、70を備える。さらに、磁気抵抗効果素子200は、電極10とピン層14との間に設けられ、ピン層14の磁化方向を固定するための反強磁性体からなるピニング層13、およびピニング層13と電極10との間に設けられた下地層12を備える。
【0053】
電極10と電極70との間に電圧が印加されることで、磁気抵抗効果素子200の内部を膜面垂直方向に沿って電流が流れる。
【0054】
この電流が流れることで、磁気抵抗効果に起因する抵抗の変化を検出することができ、磁気の検知が可能となる。電極10、70としては、電流を磁気抵抗効果素子200に流すために、電気抵抗が比較的小さいCu、Au等が用いられる。
【0055】
下地層12は、例えば、バッファ層およびシード層が積層した構成をとる。ここで、バッファ層は電極10側に位置し、シード層はピニング層13側に位置する。
【0056】
バッファ層は電極10の表面の荒れを緩和し、バッファ層上に積層される層の結晶性を改善する。バッファ層としては、例えばTa、Ti、V、W、Zr、Hf、Cr又はこれらの合金を用いることができる。バッファ層の膜厚は1nm以上10nm以下である。バッファ層の厚さが薄すぎるとバッファ効果が失われる。一方、バッファ層の厚さが厚すぎるとMR変化率に寄与しない直列抵抗を増大させることになる。なお、バッファ層上に形成されるシード層がバッファ効果を有する場合には、バッファ層を必ずしも設ける必要はない。一例として、Taを1nm設ける。
【0057】
シード層は、シード層上に積層される層の結晶配位向及び結晶粒径を制御する。シード層としては、fcc構造(face−centered cubic structure:面心立方格子構造)、hcp構造(hexagonal close−packed structure:六方最密格子構造)またはbcc構造(body−centered cubic structure:体心立方格子構造)を有する金属等である。
【0058】
例えば、シード層として、hcp構造を有するRuまたはfcc構造を有するNiFeを用いることにより、その上に積層される層の結晶配向をfcc(111)配向にすることができる。また、ピニング層13がIrMnの場合には良好なfcc(111)配向が実現され、ピニング層13がPtMnの場合には規則化したfct(111)構造(face−centered tetragonal structure:面心正方構造)が得られる。また、フリー層18及びピン層14としてfcc金属を用いたときには良好なfcc(111)配向を実現でき、フリー層18及びピン層14としてbcc金属を用いたときには、良好なbcc(110)配向とすることができる。結晶配向を向上させるシード層としての機能を十分発揮するために、シード層の膜厚としては、1nm以上5nm以下である。一例として、Ruを2nm形成することができる。
【0059】
他にも、シード層として、Ruの代わりに、NiFeベースの合金(例えば、NiFe100−x(x=90%〜50%)や、NiFeに第3元素Xを添加して非磁性にした(NiFe100−x100−y(X=Cr、V、Nb、Hf、Zr、Mo))を用いることもできる。NiFeベースのシード層では、良好な結晶配向性を得るのが比較的容易であり、ロッキングカーブの半値幅を3°〜5°とすることができる。
【0060】
シード層には、結晶配向を向上させる機能だけでなく、シード層上に積層される層の結晶粒径を制御する機能もある。具体的には、シード層上に積層される層の結晶粒径を5nm以上20nm以下に制御することができ、磁気抵抗効果素子のサイズが小さくなっても、特性のばらつきを招くことなく高いMR変化率を実現できる。
【0061】
なお、シード層の結晶粒径を5nm以上20nm以下にすることで、結晶粒界による電子乱反射及び非弾性散乱サイトが少なくなる。このサイズの結晶粒径を得るには、Ruを2nm形成する。また、(NiFe100−x100−y(Z=Cr、V、Nb、Hf、Zr、Mo))の場合には、第3元素Xの組成yを0%〜30%程度として(yが0の場合も含む)、2nm形成する。
【0062】
シード層上に積層される層の結晶粒径は、シード層とスペーサ層30との間に配置された層の結晶粒の粒径によって判別できる。例えば、断面TEMなどによって決定できる。ピン層14がスペーサ層30よりも下層に位置するボトム型スピンバルブ膜の場合には、シード層の上に形成されるピニング層13や、ピン層14の結晶粒径によって判別することができる。
【0063】
ピニング層13は、その上に形成されるピン層14となる強磁性層に一方向異方性(unidirectional anisotropy)を付与して磁化を固定する機能を有する。ピニング層13の材料としては、IrMn、PtMn、PdPtMn、又はRuRhMnなどの反強磁性材料を用いることができる。この内、高記録密度対応のヘッドの材料として、IrMnが有利である。IrMnは、PtMnよりも薄い膜厚で一方向異方性を印加することができ、高密度記録の為に必要な狭ギャップ化に適している。
【0064】
十分な強さの一方向異方性を付与するために、ピニング層13の膜厚を適切に設定する。ピニング層13の材料がPtMnやPdPtMnの場合には、膜厚として、8nm以上20nm以下である。ピニング層13の材料がIrMnの場合には、PtMnなどより薄い膜厚でも一方向異方性を付与可能であり、4nm以上18nm以下である。一例として、Ir22Mn78を7nm形成することができる。
【0065】
ピニング層13として、反強磁性層の代わりに、ハード磁性層を用いることができる。ハード磁性層として、例えば、CoPt(Co=50%〜85%)、(CoPt100−x100−yCr(x=50%〜85%、y=0%〜40%)、FePt(Pt=40%〜60%)を用いることができる。ハード磁性層(特に、CoPt)は比抵抗が比較的小さいため、直列抵抗および面積抵抗RA(Resistance Area)の増大を抑制できる。
【0066】
ここで、面積抵抗RAとは、磁気抵抗効果素子200の積層膜の積層方向に対して垂直な断面積と磁気抵抗効果素子200の積層膜の膜面に垂直に電流を流したときに一対の電極から得られる抵抗との積を示す。
【0067】
ピン層14、スペーサ層30、フリー層18、又ピニング層13等の結晶配向性は、X線回折により測定できる。ピン層14、フリー層18のfcc(111)ピーク、ピニング層13(PtMn)のfct(111)ピークまたはbcc(110)ピークでのロッキングカーブの半値幅を3.5°〜6°として、良好な配向性を得ることができる。なお、この配向の分散角は断面TEMを用いた回折スポットからも判別することができる。
【0068】
ピン層14は、ピニング層13側から下部ピン層141、磁気結合層142、及び上部ピン層143をこの順に積層した構成をとる。
【0069】
ピニング層13と下部ピン層141は一方向異方性(Unidirectional Anisotropy)を持つように交換磁気結合している。磁気結合層142を挟む下部ピン層141及び上部ピン層143は、磁化の向きが互いに反平行になるように強く結合している。
【0070】
下部ピン層141の材料としては、例えば、CoFe100−x合金(x=0%〜100%)、NiFe100−x合金(x=0%〜100%)、またはこれらに非磁性元素を添加したものを用いることができる。また、下部ピン層141の材料として、Co、Fe、Niの単元素やこれらの合金を用いることもできる。または、(CoFe100−x100−Y合金(x=0%〜100%、x=0%〜30%)を用いることもできる。(CoFe100−x100−Yのようなアモルファス合金を用いた場合、磁気抵抗効果素子の素子サイズが小さくなった場合に素子間のバラツキを抑えることができる。
【0071】
下部ピン層141の膜厚は1.5nm以上5nm以下である。ピニング層13による一方向異方性磁界強度および磁気結合層142を介した下部ピン層141と上部ピン層143との反強磁性結合磁界を強く保つためである。
【0072】
また、下部ピン層141が薄すぎると、MR変化率に影響を与える上部ピン層143も薄くしなければならなくなるため、MR変化率が小さくなる。一方、下部ピン層141が厚すぎるとデバイス動作に必要な十分な一方向性異方性磁界を得ることが困難になる。
【0073】
また、下部ピン層141の磁気膜厚(飽和磁化Bs×膜厚t(Bs・t積))を考慮する場合、上部ピン層143の磁気膜厚とほぼ等しい。つまり、上部ピン層143の磁気膜厚と下部ピン層141の磁気膜厚とが対応する。
【0074】
例えば、上部ピン層143がFe50Co50[3nm]の場合、薄膜でのFe50Co50の飽和磁化が約2.2Tであるため、磁気膜厚は2.2T×3nm=6.6Tnmとなる。Co75Fe25の飽和磁化が約2.1Tなので、上記と等しい磁気膜厚を与える下部ピン層141の膜厚tは6.6Tnm/2.1T=3.15nmとなる。したがって、この場合、下部ピン層141の膜厚は約3.2nmのCo75Fe25を用いる。
【0075】
磁気結合層142は、磁気結合層142を挟む下部ピン層141及び上部ピン層143に反強磁性結合を生じさせてシンセティックピン構造を形成する機能を有する。磁気結合層142として、Ruを用いることができ、磁気結合層142の膜厚は0.8nm以上1nm以下である。なお、磁気結合層142を挟む下部ピン層141及び上部ピン層143に十分な反強磁性結合を生じさせる材料であれば、Ru以外の材料を用いてもよい。磁気結合層142の膜厚は、RKKY(Ruderman−Kittel−Kasuya−Yosida)結合の2ndピークに対応する膜厚0.8nm以上1nm以下の代わりに、RKKY結合の1stピークに対応する膜厚0.3nm以上0.6nm以下を用いることもできる。ここでは、より高信頼性の結合を安定して特性が得られる、膜厚が0.9nmのRuが一例として挙げられる。磁気結合層142として、Re、Rh、Ir、Osも用いることができる。
【0076】
上部ピン層143は、MR効果に寄与する磁性層である。
【0077】
上部ピン層143としては、Fe50Co50を用いることができる。Fe50Co50は、bcc構造を有する磁性材料である。この材料は、スピン依存界面散乱効果が大きいため、大きなMR変化率を実現することができる。bcc構造をもつFeCo系合金として、FeCo100−x(x=30%〜100%)や、FeCo100−xに添加元素を加えたものが挙げられる。そのなかでも、諸特性をすべて満たしたFexCoy(x=40%〜80%、y=20%〜60%)が使いやすい材料の一例である。
【0078】
上部ピン層143が、高MR変化率を実現しやすいbcc構造をもつ磁性層から形成されている場合には、この磁性層の全膜厚が1.5nm以上である。bcc構造を安定に保つためである。スピンバルブ膜に用いられる金属材料は、fcc構造またはfct構造であることが多いため、上部ピン層143のみがbcc構造を有することがあり得る。このため、上部ピン層143の膜厚が薄すぎると、bcc構造を安定に保つことが困難になり、高いMR変化率が得られなくなる。
【0079】
また、上部ピン層143の材料として、(CoFe100−x100−Y合金(x=0%〜100%、x=0%〜30%)を用いることもできる。(CoFe100−x100−Yのようなアモルファス合金を用いた場合、磁気抵抗効果素子の素子サイズが小さくなった場合に懸念される結晶粒に起因した素子間のバラツキを抑えることができる。また、このようなアモルファス合金を用いた場合、上部ピン層143を平坦な膜にすることができるため、上部ピン層143の上に形成されるスペーサ層30を平坦化する効果がある。スペーサ層30の平坦化は、スペーサ層30の欠陥の頻度を減らすことができるため、低い面積抵抗で高いMR変化率を得るために重要である。スペーサ層30としてMgOを用いる場合、(CoFe100−x100−Yのようなアモルファス合金を用いることでその上に形成されるMgO層の(100)配向性を強めることができる。MgO層の(100)配向性は高いMR変化率を得るために重要である。また、(CoFe100−x100−Y合金はアニール時にMgO(100)面をテンプレートとして結晶化するため、MgOと(CoFe100−x100−Y合金の良好な結晶整合を得ることが出来る。
【0080】
上部ピン層143の膜厚は、厚いほうが大きなMR変化率を得やすいが、大きなピン固定磁界を得るためにはその膜厚は薄い。例えば、bcc構造をもつFeCo合金層を用いたときには、bcc構造を安定にする必要があるため、1.5nm以上の膜厚である。また、fcc構造のCoFe合金層を用いるときにも、大きなMR変化率を得るため、やはり1.5nm以上の膜厚である。一方、大きなピン固定磁界を得るためには、上部ピン層143の膜厚が最大でも、5nm以下である。以上のように、上部ピン層143の膜厚は、1.5nm以上5nm以下である。
【0081】
上部ピン層143には、bcc構造をもつ磁性材料の代わりに、従来の磁気抵抗効果素子で広く用いられているfcc構造を有するCo90Fe10合金や、hcp構造をもつCoや、Co合金を用いることができる。上部ピン層143として、Co、Fe、又はNiなどの単体金属、又はこれらの元素を少なくとも1つ含む合金を用いることができる。上部ピン層143の磁性材料として、大きなMR変化率を得るのに有利なものは、bcc構造をもつFeCo合金材料、50%以上のコバルト組成をもつコバルト合金、50%以上のNi組成である。
【0082】
また、上部ピン層143として、CoMnGe、CoMnSi、CoMnAlなどのホイスラー磁性合金層を用いることも可能である。
【0083】
スペーサ層30は、金属、絶縁体、又は電流パス31を含む絶縁層32からなる。電流パス31を含む絶縁層32を電流狭窄層という。
【0084】
スペーサ層30に金属を用いる場合、Au、Ag、又はCuを用いることができる。絶縁体には、Mg、Al、Ti、Zr、Hf、又はZnから選択される少なくとも一つの元素を含む酸化物を用いることができる。具体的には、MgOを用いることできる。MgOは、コヒーレントなスピン依存トンネリング現象を示すため、高いMR変化率を得ることができる。
【0085】
絶縁層32は、酸化物、窒化物、酸窒化物等を用いることができる。絶縁層32の具体例としては、Alおよびこれに添加元素を加えたものが挙げられる。例として、膜厚約2nmのAlを用いることができる。添加元素としては、Ti、Hf、Mg、Zr、V、Mo、Si、Cr、Nb、Ta、W、B、C、又はZnなどがある。これらの添加元素の添加量は0%〜50%程度の範囲で適宜加えることができる。絶縁層32には、AlのようなAl酸化物の変わりに、Mg酸化物、Zn酸化物、Ti酸化物、Hf酸化物、Mn酸化物、Zr酸化物、Cr酸化物、Ta酸化物、Nb酸化物、Mo酸化物、Si酸化物、又はV酸化物なども用いることができる。これらの酸化物に対しても上述した添加元素を用いることができる。添加元素の添加量は0%〜50%程度の範囲で適宜加えることができる。絶縁層32として、酸化物の変わりに、Al、Si、Hf、Ti、Mg、Zr、V、Mo、Nb、Ta、W、B、Cをベースとする窒化物または酸窒化物を用いることもできる。
【0086】
電流パス31は、電流狭窄層の膜面垂直に電流を流すパス(経路)であり、電流を狭窄するためのものである。電流パス31には、Cu、Au、Ag、Ni、Co、又はFeから選択される少なくとも一つの元素、又はこれらの元素からなる合金を用いることができる。合金としては、CuNi、CuCo、CuFe等を用いることができる。電流パス31は絶縁層32と比べて著しく酸素および窒素の含有量が少ない領域であり(少なくとも2倍以上の酸素または窒素の含有量の差がある)、結晶相である。結晶相は非結晶相よりも抵抗が小さいため、電流パス31して機能しやすい。
【0087】
スペーサ層30の膜厚は、0.5nm以上5nm以下である。
【0088】
第1の磁性層20及び第2の磁性層60には、例えば、界面にCoFeを形成してNiFeを用いたCo90Fe10[1nm]/Ni83Fe17[3.5nm]という二層構成を用いることができる。なお、NiFe層を用いない場合には、Co90Fe10[4nm]単層を用いることができる。また、CoFe/NiFe/CoFeなどの三層構成としてもよい。ここで、‘/’は‘/’の左側に記載されたものから順に積層していることを示し、Au/Cu/Ruと記載された場合、Au層上にCu層を積層し、Cu層上にRu層を積層していることを示す。また、‘×2’とは、2層であることを示し、(Au/Cu)×2と記載された場合、Au層上にCu層を積層し、Cu層上にさらにAu層、Cu層と順次積層していることを示す。また、‘[ ]’はその材料の膜厚を示す。
【0089】
第1の磁性層20及び第2の磁性層60には、CoFe合金を用いることができる。Co90Fe10の合金は、軟磁気特性が安定である。CoFe合金を用いる場合には、膜厚を0.5nm以上4nm以下とする。その他、CoFe100−x(x=70%〜90%)も用いることができる。また、第1の磁性層20及び第2の磁性層60として、1nm以上2nm以下のCoFe層またはFe層と、0.1nm以上0.8nm以下の極薄Cu層とを複数層交互に積層したものを用いてもよい。また、第1の磁性層20及び第2の磁性層60の一部として、CoZrNbなどのアモルファス磁性層を用いても構わない。第1の磁性層20の構造としては、スペーサ層30側からみて、次のような構成が可能である。即ち、第1の磁性層20の構造として、(1)結晶層のみ、(2)結晶層/アモルファス層の積層、(3)結晶層/アモルファス層/結晶層の積層、などが考えられる。(1)から(3)のいずれでもスペーサ層30と第1の磁性層20の界面は結晶層が接している。
【0090】
キャップ層19は、キャップ層19の下の層を保護する機能を有する。キャップ層19は、例えば、複数の金属層、例えば、Cu層とRu層の2層構造(Cu[1nm]/Ru[10nm])とすることができる。また、キャップ層19として、Ruをフリー層18側に配置したRu/Cu層なども用いることができる。この場合、Ruの膜厚は0.5nm以上2nm以下である。この構成のキャップ層19は、例えばフリー層18がNiFeである場合に用いる。RuはNiと非固溶な関係にあるので、フリー層18とキャップ層19の間に形成される界面ミキシング層の磁歪を低減できるからである。
【0091】
キャップ層19が、Cu/RuやRu/Cuのいずれの場合も、Cu層の膜厚は0.5nm以上10nm以下であり、Ru層の膜厚は0.5nm以上5nm以下とすることができる。
【0092】
キャップ層19として、Cu層やRu層の代わりに他の金属層を設けてもよい。
【0093】
磁気抵抗効果素子200の製造方法の一例について説明する。
【0094】
微細加工プロセス用いて基板上に電極10を形成する。電極10上に下地層12を形成する。下地層12上にピニング層13を形成する。ピニング層13上にピン層14を形成する。ピン層14上にスペーサ層30を形成する。スペーサ層30上に酸化物層40を形成する。
【0095】
酸化物層40は、スペーサ層30上にFeとZnの金属層を成膜し、金属層に酸化処理を施す。金属層は、例えばFe/Zn、Fe/Zn、(Fe/Zn)×2、又はZnとFeの合金とする。酸化処理は、イオンアシスト酸化(IAO:Ion Assisted Oxidation)、加熱処理、又は自然酸化を用いる。IAOとは、酸素供給を行いながらAr、Xe、He、Ne、又はKr等の希ガスのイオンビーム又はプラズマを照射する方法である。なお、希ガスを用いずに、供給する酸素をイオンビーム又はプラズマとして用いることもできる。加熱処理は、100℃以上300℃以下の温度で加熱しながら酸素供給を行う。このようにすることで、酸化物層40を形成することができる。なお、酸化物層40は、金属層を積層し、酸化処理を行う工程を複数回行うことで形成してもよい。
【0096】
次に、酸化物層40上に金属層50を形成する。金属層50上にフリー層18を形成する。フリー層18上にキャップ層19を形成し、アニール処理を行う。最後に、電極70をキャップ層19上に形成する。
【0097】
(第1の変形例)
図12は、磁気抵抗効果素子300を示す。磁気抵抗効果素子300は、磁気抵抗効果素子200の変形例である。磁気抵抗効果素子300は、スペーサ層30が電流パス31と絶縁層32からなる電流狭窄層であり、電流狭窄層を下部電極層15と上部電極層17で挟んでいる点が磁気抵抗効果素子200と異なる。
【0098】
下部金属層15は、電流パス31の形成に用いられ、電流パス31の供給源である。下部金属層15は、その上部の絶縁層32を形成するときに、下部に位置する上部ピン層143の酸化を抑制するストッパ層としての機能も有する。
【0099】
電流パス31の構成材料がCuの場合には、下部金属層15の構成材料も同一(Cu)である。電流パス31の構成材料を磁性材料とする場合には、この磁性材料はピン層14の磁性材料と同一、別種のいずれでも構わない。電流パス31の構成材料として、Cu以外に、Au、Agなどを用いても良い。
【0100】
上部金属層17は、電流狭窄層41を構成する酸素および窒素がフリー層18中に拡散することを抑制するためのバリア層、およびフリー層18の良好な結晶成長を促進するためのシード層として機能する。具体的には、上部金属層17は、その上に成膜されるフリー層18が、電流狭窄層41の酸化物、窒化物および酸窒化物に接して酸化および窒化されないように保護する。即ち、上部金属層17は、電流パス42の酸化物層中の酸素とフリー層18との直接的な接触を制限する。また、上部金属層17は、フリー層18の結晶性を良好にし、例えば、絶縁層32の材料がアモルファス(例えば、Al)の場合には、その上に成膜される金属層の結晶性が悪くなるが、結晶性を良好にする極薄のシード層(例えば、Cu層)を配置することで、フリー層18の結晶性を著しく改善することが可能となる。
【0101】
上部金属層17の材料は、電流狭窄層41の電流パス31の材料(例えば、Cu)と同一である。上部金属層17の材料が電流パス31の材料と異なる場合には界面抵抗の増大を招くが、両者が同一の材料であれば界面抵抗の増大は生じないためである。なお、電流パス31の構成材料を磁性材料とする場合には、この磁性材料はフリー層18の磁性材料と同一、別種のいずれでも構わない。上部金属層17の構成材料として、Cu、Au、Ag等を用いることができる。
【0102】
(第2の変形例)
図13は、磁気抵抗効果素子400を示す図である。磁気抵抗効果素子400は、磁気抵抗効果素子200の変形例である。磁気抵抗効果素子400は、酸化物層40と金属層50の配置が入れ替わっている点が磁気抵抗効果素子200と異なる。
【0103】
(第3の変形例)
図14は、磁気抵抗効果素子500を示す図である。磁気抵抗効果素子500は、磁気抵抗効果素子200の変形例である。磁気抵抗効果素子500は、スペーサ層30とフリー層18との間に酸化物層40を2つの金属層50で挟んだ層が設けられている点が磁気抵抗効果素子200と異なる。
【0104】
(第4の変形例)
図15は、磁気抵抗効果素子600を示す図である。磁気抵抗効果素子600は、磁気抵抗効果素子200の変形例である。磁気抵抗効果素子600は、スペーサ層30とピン層14との間に酸化物層40が設けられ、酸化物層40とピン層14との間に金属層50が設けられている点が磁気抵抗効果素子200と異なる。
【0105】
(第5の変形例)
図16は、磁気抵抗効果素子700を示す図である。磁気抵抗効果素子700は、磁気抵抗効果素子200の変形例である。磁気抵抗効果素子700は、下地層12上にフリー層18、金属層50、酸化物層40、スペーサ層30、ピン層14、ピニング層13、キャップ層19の順に積層されている。磁気抵抗効果素子700は、フリー層18が下地層12側に設けられている点と金属層50と酸化物層40の位置が入れ替わっている点が磁気抵抗効果素子200と異なる。
【0106】
(第6の変形例)
図17は、磁気抵抗効果素子800を示す図である。磁気抵抗効果素子800は、磁気抵抗効果素子200の変形例である。磁気抵抗効果素子800は、ピニング層13とピン層14がフリー層18に入れ替わっている点が磁気抵抗効果素子200と異なる。これら2つのフリー層18は、磁界が印加されていない状態では、お互いにフリー層18の磁化が90°になるようにバイアスされている。磁化が90°になるようにするには、スペーサ層30を介した磁気結合とハードバイアスなどの組み合わせを用いる。
【0107】
(第7の変形例)
図18は、磁気抵抗効果素子900を示す図である。磁気抵抗効果素子900は、磁気抵抗効果素子200の変形例である。磁気抵抗効果素子900は、酸化物層40が2つの金属層50で挟まれている点が磁気抵抗効果素子200と異なる。
【0108】
(第8の変形例)
図19は、磁気抵抗効果素子1000を示す図である。磁気抵抗効果素子1000は、中間層55を備え、紙面上側の上部ピン層143の磁化の向きと紙面下側の上部ピン層143の磁化の向きが逆向きである点が主に磁気抵抗効果素子200と異なる。磁気抵抗効果素子1000は、積層構造が上下逆さまでも良い。磁気抵抗効果素子1000は差動型構造と呼ばれる。磁気抵抗効果素子1000は、中間層55から上側又は下側の抵抗変化が外部磁界に対して逆極性で振舞う。そのため、垂直磁気記録媒体において媒体磁化の向きが上向きと下向きが隣り合う、磁化遷移領域において出力が得られる。すなわち、差動型の媒体磁界検出を行うことが出来る。なお、中間層55には、例えばCu[5nm]を用いることができる。中間層55として、その他、Au、Ag、Ru、Ir、Os、Re、Rh、Taなどの非磁性金属を用いても良い。また、中間層55として、Co、Fe、Niから選択される強磁性金属と、Ru、Ir、Os、Re、Rhから選択される強磁性金属層間に配置した際に反強磁性結合を生ずる金属との積層体で形成しても良い。この場合、フリー層18aとフリー層18bの磁化方向を反平行結合とすることができる
(実施例1)
磁気抵抗効果素子200を作製した。作製した磁気抵抗効果素子200の作製条件、MR(%)、及びRA(Ωμm)を図20に示す。磁気抵抗効果素子200の各層の詳細は以下の通りである。
【0109】
下地層12:Ta[1nm]/Ru[2nm]
ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
ピン層14:Co75Fe25[4nm]/Ru[0.8nm]/Fe50Co50[4nm]
スペーサ層30:Cu[1.5nm]
酸化物層40:図20に示すS10を用いて作製
金属層50:図20に示すS20を用いて作製
フリー層18:Fe50Co50[3nm]
酸化物層40は、Fe[1nm]/Zn[0.6nm]を成膜し、表面にIAO処理を施すことでZn−Fe−O[1.6nm]として作製した。次に、Arのプラズマを還元性ガスとして還元処理を行った。
【0110】
金属層50は、合金と積層構造の2種類を作製した。合金の場合には、Zn(Fe50Co50)[2nm]で様々なZn組成の金属層50を作製した。積層構造の場合には、(Zn/Fe50Co50)×8の積層構造で全膜厚を2nmとして、ZnとFe50Co50の膜厚比を変えることで様々なZn組成の金属層50を作製した。参考例として、金属層50を成膜しない場合の磁気抵抗効果素子を作製した。また、比較例1−1として、金属層50にZnを含まないFe50Co50[2nm]を作製した。比較例1−2として、金属層50にFe50Co50を含まないZn[2nm]を作製した。
【0111】
作製した各磁気抵抗効果素子について、MR変化率および面積抵抗RAを測定した。MR変化率および面積抵抗RAは、直流四端子法によって測定した。
【0112】
図20に示すように、実施例1−1〜実施例1−12の磁気抵抗効果素子は、参考例、比較例1−1、及び比較例1−2の磁気抵抗効果素子よりも高いMR変化率を示した。また、金属層50にZnが5%以上80%以下で含まれる場合に高いMR変化率を示すことがわかった。
【0113】
図21は、参考例及び実施例1−1の磁気抵抗効果素子の断面TEM及びEDXライン分析の結果を示す図である。図21(A)は、参考例の磁気抵抗効果素子を示す。図21(B)は、実施例1−1の磁気抵抗効果素子を示す。
【0114】
図21に測定した断面TEM像とEDXライン分析の結果を示す。まず、断面TEM像の結果より、参考例の酸化物層の膜厚はおよそ1.6nm(図21(a))であった。実施例1−1の酸化物層の膜厚はおよそ1.7nmであった(図21(b))。この断面TEM像で確認される酸化物層の膜厚は、工程S120で形成された酸化物層40の膜厚とその上下に隣接する層が再酸化されて形成された酸化物層の膜厚の足し合わせである。EDXライン分析結果より、図21(a)の参考例のEDX結果では酸化物層40の上側ではZnの元素が検出されていないのに対して、図21(b)の実施例1−1のEDX結果では酸化物層40の上側にZnの元素が検出されている。この結果より、実施例1−1では金属層50として成膜したZn−Fe50Co50[2nm]はすべて再酸化されずに金属層として残っていることがわかる。
【0115】
断面TEM以外にも3次元アトムプローブ顕微鏡を用いることができる。3次元アトムプローブ顕微鏡を用いることで、原子オーダーの組成分析を行うことができる。
【0116】
(実施例2)
磁気抵抗効果素子400を製造した。作製した磁気抵抗効果素子400の作製条件、MR(%)、及びRA(Ωμm)を図22に示す。磁気抵抗効果素子400の各層の詳細は以下の通りである。
【0117】
下地層12:Ta[1nm]/Ru[2nm]
ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
ピン層14:Co75Fe25[4nm]/Ru[0.8nm]/Fe50Co50[4nm]
スペーサ層30:Cu[1.5nm]
金属層50:図22に示すS30を用いて作製
酸化物層40:図22に示すS40を用いて作製
フリー層18:Fe50Co50[3nm]
酸化物層40は、Fe[1nm]/Zn[0.6nm]を成膜し、表面にIAO処理を施すことでZn−Fe−O[1.6nm]として作製した。次に、Arのプラズマを還元性ガスとして還元処理を行った。
【0118】
金属層50は、合金と積層構造の2種類を作製した。合金の場合には、Zn(Fe50Co50)[2nm]で様々なZn組成の金属層50を作製した。積層構造の場合には、(Zn/Fe50Co50)×8の積層構造で全膜厚を2nmとして、ZnとFe50Co50の膜厚比を変えることで様々なZn組成の金属層50を作製した。参考例として、金属層50を成膜しない場合の磁気抵抗効果素子を作製した。また、比較例2−1として、金属層50にZnを含まないFe50Co50[2nm]を作製した。比較例2−2として、金属層50にFe50Co50を含まないZn[2nm]を作製した。
【0119】
作製した各磁気抵抗効果素子について、MR変化率および面積抵抗RAを測定した。MR変化率および面積抵抗RAは、直流四端子法によって測定した。
【0120】
図22に示すように、実施例2−1〜実施例2−10の磁気抵抗効果素子は、参考例、比較例2−1、及び比較例2−2の磁気抵抗効果素子よりも高いMR変化率を示した。また、金属層50にZnが5%以上80%以下で含まれる場合に高いMR変化率を示すことがわかった。
【0121】
(実施例3)
磁気抵抗効果素子500を製造した。作製した磁気抵抗効果素子500の作製条件、MR(%)、及びRA(Ωμm)を図23に示す。磁気抵抗効果素子500の各層の詳細は以下の通りである。
【0122】
下地層12:Ta[1nm]/Ru[2nm]
ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
ピン層14:Co75Fe25[4nm]/Ru[0.8nm]/Fe50Co50[4nm]
スペーサ層30:Cu[1.5nm]
金属層50:図23に示すS50を用いて作製
酸化物層40:図23に示すS60を用いて作製
金属層50:図23に示すS70を用いて作製
フリー層18:Fe50Co50[3nm]
金属層50は、合金と積層構造の2種類を作製した。合金の場合には、Zn(Fe50Co50)[2nm]で様々なZn組成の金属層50を作製した。積層構造の場合には、(Zn/Fe50Co50)×8の積層構造で全膜厚を2nmとして、ZnとFe50Co50の膜厚比を変えることで様々なZn組成の金属層50を作製した。参考例として、金属層50を成膜しない場合の磁気抵抗効果素子を作製した。また、比較例3−1として、金属層50にZnを含まないFe50Co50[2nm]を作製した。比較例3−2として、金属層50にFe50Co50を含まないZn[2nm]を作製した。
【0123】
作製した各磁気抵抗効果素子について、MR変化率および面積抵抗RAを測定した。MR変化率および面積抵抗RAは、直流四端子法によって測定した。
【0124】
図23に示すように、実施例3−1〜実施例2−12の磁気抵抗効果素子は、参考例、比較例3−1、及び比較例3−2の磁気抵抗効果素子よりも高いMR変化率を示した。また、金属層50にZnが5%以上80%以下で含まれる場合に高いMR変化率を示すことがわかった。
【0125】
(実施例4)
磁気抵抗効果素子200を作製した。作製した磁気抵抗効果素子200の作製条件、MR(%)、及びRA(Ωμm)を図24に示す。
【0126】
本実施例と実施例1の違いは、S20で作製される金属層50として、ZnとFeを用いている点が異なる。
【0127】
金属層50は、合金と積層構造の2種類を作製した。合金の場合には、ZnFe[2nm]で様々なZn組成の金属層50を作製した。積層構造の場合には、(Zn/Fe)×8の積層構造で全膜厚を2nmとして、ZnとFeの膜厚比を変えることで様々なZn組成の金属層50を作製した。参考例として、金属層50を成膜しない場合の磁気抵抗効果素子を作製した。また、比較例4−1として、金属層50にZnを含まないFe[2nm]を作製した。比較例4−2として、金属層50にFeを含まないZn[2nm]を作製した。
【0128】
作製した各磁気抵抗効果素子について、MR変化率および面積抵抗RAを測定した。MR変化率および面積抵抗RAは、直流四端子法によって測定した。
【0129】
図24に示すように、実施例4−1〜実施例4−12の磁気抵抗効果素子は、参考例、比較例4−1、及び比較例4−2の磁気抵抗効果素子よりも高いMR変化率を示した。また、金属層50にZnが5%以上80%以下で含まれる場合に高いMR変化率を示すことがわかった。
【0130】
(実施例5)
磁気抵抗効果素子200を作製した。作製した磁気抵抗効果素子200の作製条件、MR(%)、及びRA(Ωμm2)を図25に示す。
【0131】
本実施例と実施例1の違いは、S20で作製される金属層50として、ZnとCo90Fe10を用いている点が異なる。
【0132】
金属層50は、合金と積層構造の2種類を作製した。合金の場合には、Zn(Co90Fe10)[2nm]で様々なZn組成の金属層50を作製した。積層構造の場合には、(Zn/Co90Fe10)×8の積層構造で全膜厚を2nmとして、ZnとFeの膜厚比を変えることで様々なZn組成の金属層50を作製した。参考例として、金属層50を成膜しない場合の磁気抵抗効果素子を作製した。また、比較例5−1として、金属層50にZnを含まないFe[2nm]を作製した。比較例5−2として、金属層50にFeを含まないZn[2nm]を作製した。
【0133】
作製した各磁気抵抗効果素子について、MR変化率および面積抵抗RAを測定した。MR変化率および面積抵抗RAは、直流四端子法によって測定した。
【0134】
図25に示すように、実施例5−1〜実施例5−12の磁気抵抗効果素子は、参考例、比較例5−1、及び比較例5−2の磁気抵抗効果素子よりも高いMR変化率を示した。また、金属層50にZnが5%以上80%以下で含まれる場合に高いMR変化率を示すことがわかった。
【0135】
(実施例6)
磁気抵抗効果素子200を作製した。作製した磁気抵抗効果素子200の作製条件、MR(%)、及びRA(Ωμm)を図26に示す。
【0136】
本実施例と実施例1の違いは、S20で作製される金属層50として、ZnとFe50Ni50を用いている点が異なる。
【0137】
金属層50は、合金と積層構造の2種類を作製した。合金の場合には、Zn(Fe50Ni50)[2nm]で様々なZn組成の金属層50を作製した。積層構造の場合には、(Zn/Fe50Ni50)×8の積層構造で全膜厚を2nmとして、ZnとFeの膜厚比を変えることで様々なZn組成の金属層50を作製した。参考例として、金属層50を成膜しない場合の磁気抵抗効果素子を作製した。また、比較例6−1として、金属層50にZnを含まないFe[2nm]を作製した。比較例6−2として、金属層50にFeを含まないZn[2nm]を作製した。
【0138】
作製した各磁気抵抗効果素子について、MR変化率および面積抵抗RAを測定した。MR変化率および面積抵抗RAは、直流四端子法によって測定した。
【0139】
図26に示すように、実施例6−1〜実施例6−12の磁気抵抗効果素子は、参考例、比較例6−1、及び比較例6−2の磁気抵抗効果素子よりも高いMR変化率を示した。また、金属層50にZnが5%以上80%以下で含まれる場合に高いMR変化率を示すことがわかった。
【0140】
(実施例7)
磁気抵抗効果素子200を作製した。作製した磁気抵抗効果素子200の作製条件、MR(%)、及びRA(Ωμm)を図27に示す。
【0141】
本実施例と実施例1の違いは、S20で作製される金属層50として、ZnとCo50Ni50を用いている点が異なる。
【0142】
金属層50は、合金と積層構造の2種類を作製した。合金の場合には、Zn(Co50Ni50)[2nm]で様々なZn組成の金属層50を作製した。積層構造の場合には、(Zn/Co50Ni50)×8の積層構造で全膜厚を2nmとして、ZnとFeの膜厚比を変えることで様々なZn組成の金属層50を作製した。参考例として、金属層50を成膜しない場合の磁気抵抗効果素子を作製した。また、比較例7−1として、金属層50にZnを含まないFe[2nm]を作製した。比較例7−2として、金属層50にFeを含まないZn[2nm]を作製した。
【0143】
作製した各磁気抵抗効果素子について、MR変化率および面積抵抗RAを測定した。MR変化率および面積抵抗RAは、直流四端子法によって測定した。
【0144】
図27に示すように、実施例7−1〜実施例7−12の磁気抵抗効果素子は、参考例、比較例7−1、及び比較例7−2の磁気抵抗効果素子よりも高いMR変化率を示した。また、金属層50にZnが5%以上80%以下で含まれる場合に高いMR変化率を示すことがわかった。
【0145】
(実施例8)
磁気抵抗効果素子200を作製した。作製した磁気抵抗効果素子200の作製条件、MR(%)、及びRA(Ωμm)を図28に示す。
【0146】
本実施例と実施例1の違いは、S20で作製される金属層50のZn(CoFe)のCoとFeの組成を変化させている点が異なる。
【0147】
参考例として、金属層50を成膜しない場合の磁気抵抗効果素子を作製した。 作製した各磁気抵抗効果素子について、MR変化率および面積抵抗RAを測定した。MR変化率および面積抵抗RAは、直流四端子法によって測定した。
【0148】
図28に示すように、実施例8−1〜実施例8−5の磁気抵抗効果素子は、参考例の磁気抵抗効果素子よりも高いMR変化率を示した。また、金属層50にFeが10at%以上80at%以下の濃度で、Coが20at%以上90at%以下の濃度で含まれている場合に高いMR変化率を有することもわかった。
【0149】
(実施例9)
磁気抵抗効果素子200を作製した。作製した磁気抵抗効果素子200の作製条件、MR(%)、及びRA(Ωμm)を図29に示す。
【0150】
本実施例と実施例1の違いは、S20で作製される金属層50の膜厚を変化させている点が異なる。
【0151】
参考例として、金属層50を成膜しない場合の磁気抵抗効果素子を作製した。
【0152】
作製した各磁気抵抗効果素子について、MR変化率および面積抵抗RAを測定した。MR変化率および面積抵抗RAは、直流四端子法によって測定した。
【0153】
図29に示すように、実施例9−1〜実施例9−12の磁気抵抗効果素子は、参考例の磁気抵抗効果素子よりも高いMR変化率を示した。また、金属層50の膜厚が、0.1nm以上4nm以下の範囲でMR変化率の向上を確認できた。(実施例10)
磁気抵抗効果素子200を作製した。作製した磁気抵抗効果素子200の作製条件、MR(%)、及びRA(Ωμm)を図30に示す。
【0154】
本実施例と実施例1の違いは、S20で作製される金属層50の比較例としてZnの代わりにCu又はAgを用いている点が異なる。
【0155】
参考例として、金属層50を成膜しない場合の磁気抵抗効果素子を作製した。また、比較例10−1として、金属層50にCuとFe50Co50の層[2nm]を作製した。比較例10−2として、金属層50にAgとFe50Co50の層[2nm]を作製した。
【0156】
作製した各磁気抵抗効果素子について、MR変化率および面積抵抗RAを測定した。MR変化率および面積抵抗RAは、直流四端子法によって測定した。
【0157】
図30に示すように、実施例10−1の磁気抵抗効果素子は、参考例、比較例10−1、及び比較例10−2の磁気抵抗効果素子よりも高いMR変化率を示した。
【0158】
(実施例11)
磁気抵抗効果素子200を作製した。作製した磁気抵抗効果素子200の作製条件、MR(%)、及びRA(Ωμm)を図31に示す。
【0159】
本実施例と実施例1の違いは、S10で作製される酸化物層40として、ZnとFe50Co50の酸化物を用いている点が異なる。
【0160】
金属層50は、合金と積層構造の2種類を作製した。合金の場合には、Zn(Fe50Co50)[2nm]で様々なZn組成の金属層50を作製した。積層構造の場合には、(Zn/Fe50Co50)×8の積層構造で全膜厚を2nmとして、ZnとFeの膜厚比を変えることで様々なZn組成の金属層50を作製した。参考例として、金属層50を成膜しない場合の磁気抵抗効果素子を作製した。また、比較例11−1として、金属層50にZnを含まないFe50Co50[2nm]を作製した。比較例11−2として、金属層50にFe50Co50を含まないZn[2nm]を作製した。
【0161】
作製した各磁気抵抗効果素子について、MR変化率および面積抵抗RAを測定した。MR変化率および面積抵抗RAは、直流四端子法によって測定した。
【0162】
図31に示すように、実施例11−1〜実施例11−12の磁気抵抗効果素子は、参考例、比較例11−1、及び比較例11−2の磁気抵抗効果素子よりも高いMR変化率を示した。また、金属層50にZnが5%以上80%以下で含まれる場合に高いMR変化率を示すことがわかった。
【0163】
(実施例12)
磁気抵抗効果素子200を作製した。作製した磁気抵抗効果素子200の作製条件、MR(%)、及びRA(Ωμm)を図32に示す。
【0164】
実施例12−1では、FeとZnを母材としてイオンビーム酸化、還元処理を用いてZn―Fe酸化物層40への変換を行った。実施例12−2では、FeとZnを母材としてイオンビーム酸化のみを行ってZn―Fe酸化物層40への変換を行った。実施例12−3では、Fe50Co50とZnを母材としてイオンビーム酸化、還元処理を用いてZn―Fe50Co50酸化物層40への変換を行った。実施例12−4では、Fe50Co50とZnを母材としてイオンビーム酸化のみを行ってZn―Fe50Co50酸化物層40への変換を行った。参考例12−1から参考例12−4として、金属層50を用いない場合を実施例12−1〜実施例12−4のそれぞれの酸化物層40に対応するように作製した。
【0165】
作製した各磁気抵抗効果素子について、MR変化率および面積抵抗RAを測定した。MR変化率および面積抵抗RAは、直流四端子法によって測定した。
【0166】
図32に示すように、実施例12−1〜実施例12−4の磁気抵抗効果素子は、参考例12−1〜参考例12−4の磁気抵抗効果素子よりも高いMR変化率を示した。また、酸化物層40の形成プロセスの依存性に着目すると、実施例12−1の最後に還元処理を行った場合は、実施例12−2の行わなかった場合に比べて高いMR変化率を示している。この傾向は、金属層50の有または無のどちらの場合でも確認されている。また、酸化物層40がFeまたはFe50Co50のどちらの場合でも確認された。
【0167】
(第3の実施の形態)
図33は、第3の実施形態に係る磁気記録再生装置150を示す図である。
【0168】
磁気記録再生装置150は、ロータリーアクチュエータを用いた形式の装置である。同図において、記録用媒体ディスク180は、スピンドルモータ4に装着され、駆動装置制御部(図示せず)からの制御信号に応答するモータ(図示せず)により矢印Aの方向に回転する。本実施形態に係る磁気記録再生装置150は、複数の記録用媒体ディスク180を備えたものとしても良い。
【0169】
記録用媒体ディスク180が回転すると、サスペンション154による押付け圧力とヘッドスライダーの媒体対向面(ABSともいう)で発生する圧力とがつりあい、ヘッドスライダーの媒体対向面は、記録用媒体ディスク180の表面から所定の浮上量をもって保持される。
【0170】
サスペンション154は、駆動コイル(図示せず)を保持するボビン部などを有するアクチュエータアーム155の一端に接続されている。アクチュエータアーム155の他端には、リニアモータの一種であるボイスコイルモータ156が設けられている。ボイスコイルモータ156は、アクチュエータアーム155のボビン部に巻き上げられた駆動コイル(図示せず)と、このコイルを挟み込むように対向して配置された永久磁石及び対向ヨークからなる磁気回路とから構成することができる。
【0171】
アクチュエータアーム155は、軸受部157の上下2箇所に設けられたボールベアリング(図示せず)によって保持され、ボイスコイルモータ156により回転摺動が自在にできるようになっている。その結果、磁気記録ヘッドを記録用媒体ディスク180の任意の位置に移動できる。
【0172】
(第4の実施形態)
図34は、第4の実施形態に係るヘッドスタックアセンブリを示す図である。
【0173】
図34(a)は磁気記録再生装置150の一部の構成を例示しており、ヘッドスタックアセンブリ160の拡大斜視図である。
【0174】
また、図34(b)は、ヘッドスタックアセンブリ160の一部となる磁気ヘッドアセンブリ(ヘッドジンバルアセンブリ)158を例示する斜視図である。
【0175】
図34(a)に示すように、ヘッドスタックアセンブリ160は、軸受部157と、この軸受部157から延出したヘッドジンバルアセンブリ158と、軸受部157からHGAと反対方向に延出していると供にボイスコイルモータのコイル162を支持した支持フレーム161を有している。
【0176】
また、図34(b)に示すように、ヘッドジンバルアセンブリ158は、軸受部157から延出したアクチュエータアーム155と、アクチュエータアーム155から延出したサスペンション154と、を有している。
【0177】
サスペンション154の先端には、ヘッドスライダー3が取り付けられている。そして、ヘッドスライダー3には、本発明の実施形態に係る磁気記録ヘッドのいずれかが搭載される。
【0178】
すなわち、本発明の実施形態に係る磁気ヘッドアセンブリ(ヘッドジンバルアセンブリ)158は、本発明の実施形態に係る磁気記録ヘッドと、前記磁気記録ヘッドが搭載されたヘッドスライダー3と、ヘッドスライダー3を一端に搭載するサスペンション154と、サスペンション154の他端に接続されたアクチュエータアーム155と、を備える。
【0179】
(第5の実施の形態)
第5の実施形態に係る磁気記録再生装置として、本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を搭載した磁気メモリの例について説明する。すなわち、本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を用いて、例えばメモリセルがマトリクス状に配置されたランダムアクセス磁気メモリ(MRAM: magnetic random access memory)などの磁気メモリを実現できる。以下では、磁気抵抗効果素子1を用いる場合として説明するが、磁気抵抗効果素子100、200、300、400、500、600、700、800、900を用いることもできる。
【0180】
図35は、第5の実施形態に係る磁気記録再生装置の構成を例示する模式図である。
【0181】
すなわち、同図は、メモリセルをアレイ状に配置した場合の回路構成を例示している。図35に表したように、本実施形態に係る磁気抵抗効果素子においては、アレイ中の1ビットを選択するために、列デコーダ350、行デコーダ351が設けられており、ビット線334とワード線332によりスイッチングトランジスタ330がオンになり一意に選択され、センスアンプ352で検出することにより磁気抵抗効果素子中の第1の磁性層20又は第2の磁性層60に記録されたビット情報を読み出すことができる。
【0182】
一方、ビット情報を書き込むときは、特定の書き込みワード線323とビット線322とに書き込み電流を流して発生する磁場を印加する。
【0183】
図36は、第5の実施形態に係る磁気記録再生装置の別の構成を例示する模式図である。
【0184】
図36に表したように、この場合には、マトリクス状に配線されたビット線372とワード線384とが、それぞれデコーダ360、361、362により選択されて、アレイ中の特定のメモリセルが選択される。それぞれのメモリセルは、磁気抵抗効果素子1とダイオードDとが直列に接続された構造を有する。ここで、ダイオードDは、選択された磁気抵抗効果素子1以外のメモリセルにおいてセンス電流が迂回することを防止する役割を有する。書き込みは、特定のビット線372と書き込みワード線383とにそれぞれに書き込み電流を流して発生する磁場により行われる。
【0185】
図37は、第5の実施形態に係る磁気記録再生装置の要部を例示する模式的断面図である。
【0186】
図38は、図37のA−A’線断面図である。
【0187】
これらの図は、図35に例示した磁気記録再生装置(磁気メモリ)に含まれる1ビット分のメモリセルの構造を例示している。このメモリセルは、記憶素子部分311とアドレス選択用トランジスタ部分312とを有する。
【0188】
記憶素子部分311は、磁気抵抗効果素子1と、これに接続された一対の配線422及び配線424とを有する。磁気抵抗効果素子1は、上述した実施形態に係る磁気抵抗効果素子である。
【0189】
一方、アドレス選択用トランジスタ部分312には、ビア326及び埋め込み配線328を介して接続されたスイッチングトランジスタ330が設けられている。このスイッチングトランジスタ330は、ゲート370に印加される電圧に応じてスイッチング動作をし、磁気抵抗効果素子101と配線434との電流経路の開閉を制御する。
【0190】
また、磁気抵抗効果素子1の下方には、書き込み用の配線423が、配線422とほぼ直交する方向に設けられている。これらの配線422、423は、例えばアルミニウム(Al)、銅(Cu)、タングステン(W)、タンタル(Ta)あるいはこれらいずれかを含む合金により形成することができる。
【0191】
上記の配線422がビット線322に対応し、配線423がワード線323に対応する。
【0192】
このような構成のメモリセルにおいて、ビット情報を磁気抵抗効果素子1に書き込むときは、配線422、423に書き込みパルス電流を流し、それら電流により誘起される合成磁場を印加することにより磁気抵抗効果素子の記録層の磁化を適宜反転させる。
【0193】
また、ビット情報を読み出すときは、配線422と、磁気記録層を含む磁気抵抗効果素子1と、配線424とを通してセンス電流を流し、磁気抵抗効果素子1の抵抗値または抵抗値の変化を測定する。
【0194】
本発明の実施形態に係る磁気メモリは、上述した実施形態に係る磁気抵抗効果素子を用いることにより、セルサイズを微細化しても、記録層の磁区を確実に制御して確実な書き込みを確保でき、且つ、読み出しも確実に行うことができる。
【0195】
本発明の実施形態は上記の実施形態に限られず拡張、変更可能であり、拡張、変更した実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。磁気抵抗効果膜の具体的な構造や、その他、電極、バイアス印加膜、絶縁膜などの形状や材質に関しては、当業者が公知の範囲から適宜選択することにより本発明を同様に実施し、同様の効果を得ることができる。例えば、磁気抵抗効果素子を再生用磁気ヘッドに適用する際に、素子の上下に磁気シールドを付与することにより、磁気ヘッドの検出分解能を規定することができる。
【0196】
また、本発明の実施形態は、長手磁気記録方式のみならず、垂直磁気記録方式の磁気ヘッドあるいは磁気再生装置についても適用できる。さらに、本発明の磁気再生装置は、特定の記録媒体を定常的に備えたいわゆる固定式のものでも良く、一方、記録媒体が差し替え可能ないわゆる「リムーバブル」方式のものでも良い。
【0197】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0198】
10 … 電極、20 … 第1の磁性層、30 … スペーサ層、40 … 酸化物層、50 … 金属層、60 … 第2の磁性層、70 … 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極と、
第2の電極と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に設けられ、磁化が一方向に固定され又は外部磁場に応じて変化する第1の磁性層と、
前記第1の磁性層と前記第2の電極との間に設けられ、磁化が外部磁場に応じて変化する第2の磁性層と、
前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間に設けられたスペーサ層と、
前記第1の電極と前記第1の磁性層との間、前記第1の磁性層中、前記第1の磁性層と前記スペーサ層との間、前記スペーサ層中、前記スペーサ層と前記第2の磁性層との間、前記第2の磁性層中、又は前記第2の磁性層と前記第2の電極との間の何れかに設けられ、Zn、In、Sn、及びCdから選択される少なくとも一つの元素とFe、Co、及びNiから選択される少なくとも一つの元素とを含む酸化物層と、
前記第1の電極と前記第2の電極とを結ぶ方向において前記酸化物層に接して設けられ、Zn、In、Sn、及びCdから選択される少なくとも一つの元素を5at%以上80at%以下の濃度で含み、かつFe、Co、及びNiから選択される少なくとも一つの元素を含む金属層と、
を備えることを特徴とする磁気抵抗効果素子。
【請求項2】
前記金属層が、Zn、In、Sn、及びCdから選択される少なくとも一つの元素を含む層と、Fe、Co、及びNiから選択される少なくとも一つの元素を含む層との積層体からなることを特徴とする請求項1に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項3】
前記金属層に含まれるFeの濃度が10at%以上80at%以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項4】
前記金属層の膜厚が0.1nm以上4nm以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の磁気抵抗効果素子が搭載されたヘッドスライダーと、
前記ヘッドスライダーを一端に搭載するサスペンションと、
前記サスペンションの他端に接続されたアクチュエータアームと、
を備えることを特徴とする磁気ヘッドアセンブリ。
【請求項6】
請求項5に記載の磁気ヘッドアセンブリと、前記磁気ヘッドアッセンブリに搭載された前記記録ヘッドを用いて前記磁気記録媒体への信号の書き込みと読み出しを行う信号処理部と、
を備えることを特徴とする磁気記録再生装置。
【請求項7】
列方向に複数設けられた第1の配線と、
行方向に複数設けられた第2の配線と、
前記第1の配線と前記第2の配線が交わる位置であって前記第1の配線と前記第2の配線との間に設けられた、請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の磁気抵抗効果素子と、
を備えることを特徴とするメモリセルアレイ。
【請求項8】
第1の電極と、
第2の電極と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に設けられ、磁化が一方向に固定され又は外部磁場に応じて変化する第1の磁性層と、
前記第1の磁性層と前記第2の電極との間に設けられ、磁化が外部磁場に応じて変化する第2の磁性層と、
前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間に設けられたスペーサ層と、
前記第1の電極と前記第1の磁性層との間、前記第1の磁性層中、前記第1の磁性層と前記スペーサ層との間、前記スペーサ層中、前記スペーサ層と前記第2の磁性層との間、前記第2の磁性層中、又は前記第2の磁性層と前記第2の電極との間の何れかに設けられ、Zn、In、Sn、及びCdから選択される少なくとも一つの元素とFe、Co、及びNiから選択される少なくとも一つの元素とを含む酸化物層と、
を備える磁気抵抗効果素子の製造方法であって、
前記第1の電極の形成後でかつ前記酸化物層の形成前の前記第1の電極上、前記第1の磁性層の形成途中に形成される前記酸化物層の形成前の前記第1の磁性層上、前記第1の磁性層の形成後でかつ前記酸化物層の形成前の前記第1の磁性層上、前記スペーサ層の形成途中に形成される前記酸化物層の形成前の前記スペーサ層上、前記スペーサ層の形成後でかつ前記酸化物層の形成前の前記スペーサ層上、前記第2の磁性層の形成途中に形成される前記酸化物層の形成前の前記第2の磁性層上、前記第2の磁性層の形成後でかつ前記酸化物層の形成前の前記第2の磁性層上、又は前記酸化物層の形成後の前記酸化物層上にZn、In、Sn、及びCdから選択される少なくとも一つの元素を含み、かつFe、Co、及びNiから選択される少なくとも一つの元素を含む金属層を形成することを特徴とする磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項9】
前記金属層に含まれる、Zn、In、Sn、及びCdから選択される少なくとも一つの元素の濃度は、5at%以上80at%以下であることを特徴とする請求項8に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項10】
前記金属層は、0.1nm以上4nm以下の膜厚で形成されることを特徴とする請求項8に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate

【図29】
image rotate

【図30】
image rotate

【図31】
image rotate

【図32】
image rotate

【図33】
image rotate

【図34】
image rotate

【図35】
image rotate

【図36】
image rotate

【図37】
image rotate

【図38】
image rotate

【図21】
image rotate


【公開番号】特開2012−178442(P2012−178442A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40362(P2011−40362)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】