説明

磁気抵抗素子及び磁気記憶装置

【課題】高い熱揺らぎ耐性を確保しつつ、スイッチング電流を低減するも、記憶保持特性を向上させ、更なる高速動作化及び高集積化を可能する信頼性の高い磁気抵抗素子及び磁気記憶装置を提供する。
【解決手段】反強磁性層51及び積層フェリー固定層50と、トンネルバリア層2と、非磁性層4を間に挟持した第1の磁性層3と第2の磁性層5とを有する積層磁化自由層11とを有してMTJ10が構成されており、MTJ10は、その周縁において、当該MTJ10の面内磁化容易軸の方向と垂直となる方向に一対の溝10a,10bが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗素子及び磁気記憶装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電源を断っても記憶が消失しない不揮発性メモリ素子の一つに、磁気ランダムアクセスメモリ(Magnetic random access memory:MRAM)がある。MRAMは、SRAMに匹敵する高速な読み書き動作が可能であり、消費電力がフラッシュメモリの1/10程度であること、高集積化が可能であること等の長所を有している。即ちMRAMは、メモリ素子として重要な属性を殆ど備えている。このため、SRAM(高速動作性)、DRAM(高集積性)、フラッシュメモリ(不揮発性)の全ての機能を備えた、いわゆるユニバーサルメモリとしての応用が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−198875号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J. Hayakawa, S. Ikeda, Y. M. Lee, R. Sasaki, T. Meguro, F. Matsukura, H. Takahashi, and H. Ohno, Jpn. J. Appl. Phys., Part 2 45, L1057 (2006).
【非特許文献2】S. Yakata, H. Kubota, T. Sugano, T. Seki, K. Yakushiji, A. Fukushima, S. Yuasa, and K. Ando, Appl. Phys. Lett., 95, 242504 (2009).
【非特許文献3】K. J. Lee and B. Dieny, Appl. Phys. Lett., 88, 132506 (2006).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スピン注入型のトンネル型磁気抵抗素子(Magnetic Tunnel Junction:MTJ)は、磁化固定層、トンネルバリア層、磁化自由層が順次積層されてなる。MTJは、磁化固定層と磁化自由層との磁化の向きによって抵抗が異なることを利用して情報を記憶し、双方向の電流を流すことによって書き換える。
【0006】
MRAMの更なる高速動作化及び高集積化を実現するには、書込み電流(スイッチング電流:JC)の低減と、書込み情報の記憶保持特性の維持とを両立させることが必須である。スイッチング電流は素子体積に比例するため、素子サイズを小さくすることで低減することができる。ところが、素子サイズを小さくすれば、MRAMは熱安定性が損なわれて記憶情報を保持できなくなり、記憶保持特性が劣化する。即ちMRAMでは、スイッチング電流の低減と記憶保持特性の向上とがトレード・オフの関係にある。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、高い熱揺らぎ耐性を確保しつつ、更なる高速動作化及び高集積化を可能にする信頼性の高い磁気抵抗素子及び磁気記憶装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
磁気抵抗素子の一態様は、磁化固定層と、トンネルバリア層と、非磁性層を間に挟持した第1の磁性層と第2の磁性層とを有する積層磁化自由層とを有し、前記積層磁化自由層は、その周縁において、当該積層磁化自由層の面内磁化容易軸の方向と垂直となる方向に溝が形成されている。
【0009】
磁気記憶装置の一態様は、磁気抵抗素子及び駆動トランジスタを備えたメモリセルが複数配置されてなる磁気記憶装置であって、前記磁気抵抗素子は、磁化固定層と、トンネルバリア層と、非磁性層を間に挟持した第1の磁性層と第2の磁性層とを有する積層磁化自由層とを有し、前記積層磁化自由層は、その周縁において、当該積層磁化自由層の面内磁化容易軸の方向と非垂直となる部位に溝が形成されている。
【発明の効果】
【0010】
上記の諸態様によれば、高い熱揺らぎ耐性を確保しつつ、更なる高速動作化及び高集積化を可能にする信頼性の高い磁気抵抗素子及び磁気記憶装置が実現する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1の実施形態によるMTJの概略構成を示す模式図である。
【図2】第1の実施形態によるMTJの他の諸形態を示す模式図である。
【図3】第1の実施形態によるMTJの他の形態を示す模式図である。
【図4】マイクロマグネティクス・シミュレーションによる実験結果を示す図である。
【図5】マイクロマグネティクス・シミュレーションによる実験結果を示す図である。
【図6】MTJに1nsで磁気渦が発生したシミュレーション結果を示す平面図である。
【図7】マイクロマグネティクス・シミュレーションによる実験結果を示す図である。
【図8】マイクロマグネティクス・シミュレーションによる実験結果を示す図である。
【図9】マイクロマグネティクス・シミュレーションによる実験結果を示す図である。
【図10】マイクロマグネティクス・シミュレーションによる実験結果を示す図である。
【図11】第2の実施形態によるMRAMの概略構成を示す平面図である。
【図12】第2の実施形態によるMRAMの製造方法を工程順に示す概略断面図である。
【図13】第2の実施形態によるMRAMの磁気メモリ素子の製造方法を工程順に示す概略断面図である。
【図14】形成されたハードマスクを示す概略平面図である。
【図15】図13に引き続き、第2の実施形態によるMRAMの磁気メモリ素子の製造方法を工程順に示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、磁気抵抗素子及び磁気記憶装置の具体的な諸実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
(第1の実施形態)
本実施形態では、MTJの構造を開示する。
図1は、第1の実施形態によるMTJの概略構成を示す模式図であり、(a)が断面図、(b)が平面図を示す。
【0014】
本実施形態によるMTJ10は、図1(a)に示すように、下側から順に反強磁性層51、積層フェリー固定層50、トンネルバリア層2、及び積層磁化自由層11を含む。積層フェリー固定層50は、下側から順に積層されたCoFe層52、Ru層53、及びCoFeB層54を含む。反強磁性層51はPtMnを材料とし、その厚みは例えば10nm〜20nmとすることができる。トンネルバリア層2はMgOを材料とし、その厚みは例えば0.8nm〜1.2nm(本実施形態では1.0nm)とすることができる。
トンネルバリア層2上には、積層磁化自由層11が構成される。
【0015】
積層磁化自由層11は、面内磁化容易軸を有しており、例えばRu等からなる非磁性層4を間に挟持したCoFeB等からなる第1の磁性層3と第2の磁性層5とを備えて構成される。第2の磁性層5は、第1の磁性層3よりも厚く形成される。第1の磁性層3は例えば1.5nm〜2nm程度の範囲内の厚みに、第2の磁性層5は、例えば3nm〜5nm程度の範囲内の厚みに形成される。第2の磁性層5を第1の磁性層3よりも厚くすることにより、熱揺らぎ耐性が向上する。一方、第1の磁性層3を厚くするとスイッチング電流(JC)が大きくなる。第1及び第2の磁性層3,5を、後者が前者よりも厚くなるように、それぞれ上記の範囲内の厚みに規定することで、スイッチング電流を小さく抑えて熱揺らぎ耐性を確保することができる。
【0016】
本実施形態では、MTJ10は、図1(b)に示すように、平面視で横長形状、ここでは楕円形状に形成されている。その周縁の長手方向(長軸方向)に沿った2辺の略中央部位に、互いに対向するように、第2の磁性層5から反強磁性層51まで切り欠いた溝10a,10bが形成されている。溝10a,10bは、その長手方向が積層磁化自由層11の面内磁化容易軸の方向と垂直となる方向に、例えばそれぞれ、その最大幅が10nm程度、最大深さが10nm程度に、積層磁化自由層11、トンネルバリア層2、積層フェリー固定層50、及び反強磁性層51に略同一形状の長溝状の切り欠きとして形成される。
【0017】
MTJ10の他の諸形態を図2及び図3に示す。
図2(a)のMTJ10は、その周縁の長手方向に沿った1辺、ここでは上辺の略中央部位のみに、第2の磁性層5から反強磁性層51まで切り欠いた溝10aが形成されている。溝10aは、その最大幅及び最大深さは図2(a)の溝10aと同様であり、長手方向が積層磁化自由層11の面内磁化容易軸の方向と垂直となる方向に、積層磁化自由層11、トンネルバリア層2、積層フェリー固定層50、及び反強磁性層51に略同一形状の長溝状の切り欠きとして形成される。
【0018】
図2(b)のMTJ10は、その周縁の長手方向に沿った2辺において互いに偏倚する部位に、第2の磁性層5から反強磁性層51まで切り欠いた溝10c,10dが形成されている。溝10cが左側に、溝10dが右側に、それぞれ各長辺の中央部位から偏倚した部位に位置する。溝10c,10dは、その最大幅及び最大深さは図2(a)の溝10a,10bと同様であり、それぞれ長手方向が積層磁化自由層11の面内磁化容易軸の方向と垂直となる方向に、積層磁化自由層11、トンネルバリア層2、積層フェリー固定層50、及び反強磁性層51に略同一形状の長溝状の切り欠きとして形成される。
【0019】
図2(c)のMTJ10は、その周縁の長手方向に沿った2辺において互いに偏倚する部位に、第2の磁性層5から反強磁性層51まで切り欠いた溝10c,10dが形成されている。溝10cが右側に、溝10dが左側に、それぞれ各長辺の中央部位から偏倚した部位に位置する。溝10e,10fは、その最大幅及び最大深さは図2(a)の溝10a,10bと同様であり、それぞれ長手方向が積層磁化自由層11の面内磁化容易軸の方向と垂直となる方向に、積層磁化自由層11、トンネルバリア層2、積層フェリー固定層50、及び反強磁性層51に略同一形状の長溝状の切り欠きとして形成される。
【0020】
図3のMTJ10は、その長辺となる2辺の略中央部位に、互いに対向するように、積層磁化自由層11のみを切り欠いた溝10A,10Bが形成されている。溝10A,10Bは、その最大幅及び最大深さは図2(a)の溝10a,10bと同様であり、長手方向が積層磁化自由層11の面内磁化容易軸の方向と垂直となる方向に、積層磁化自由層11を構成する第2の磁性層5、非磁性層4、及び第1の磁性層3のみに略同一形状の長溝状の切り欠きとして形成される。
【0021】
MTJ10では、磁化自由層として、単層のものではなく、上記のように非磁性層4を間に挟持した第1の磁性層3と第2の磁性層5とを備えた積層構造の積層磁化自由層11を用いる。
単層の磁化自由層では、膜厚を薄くするとスイッチング電流は小さくできるが、記憶保持特性が劣化し、膜厚を厚くするとスイッチング電流が大きくなる。
積層構造の磁化自由層を用いることにより、スイッチング電流が単層の磁化自由層ほど増大することなく、記憶保持特性を向上させることができる。
【0022】
積層磁化自由層では、非磁性層の厚みを変えることで、第1及び第2の強磁性層の間に働く交換結合力(JEX)が変わり、反強磁性結合(JEX<0)、及び強磁性結合(JEX>0)をするようになることが知られている(非特許文献1,2を参照)。積層磁化自由層を用いることにより、熱揺らぎ耐性が向上する。その一方で、磁気メモリ素子を高速で動作させる(情報の書換え時間を高速化する)ためには、スイッチング電流の更なる低減化を実現することを要する。本実施形態では、これを実現すべく、上記のようにMTJに溝を形成する。
【0023】
マイクロマグネティクス・シミュレーションを用いて、MTJのスピン注入磁化反転の計算を行い、以下の点を明らかにした。
MTJの積層磁化自由層において、下層の第1の強磁性層をM1層、上層の第2の強磁性層をM2層とする。計算に用いたモデルでは、M1層,M2層の材料を共にCoFeB、非磁性層の材料をRuとした。スイッチング電流を小さく抑えて熱揺らぎ耐性を確保することを考慮して、M1の厚みを一定(例えば1.4nm)、M2層の厚みが大きい場合(3nm〜5nm程度)とした場合について検討した。
【0024】
本実施形態の溝を有しないMTJについて、反平行結合の積層磁化自由層(JEX=−0.15mJ/m2)で、M2層の厚みが4nmの場合における磁化反転過程を、図4に示す。2.4ns幅の電流パルスを印加した後に、磁化反転が観測された場合(J=38MA/cm2)と、磁化反転が観測されなかった場合(J=37MA/cm2)とを(a)に示す。また、各時間における、積層磁化自由層の磁化分布を(b)に示す。
【0025】
磁化反転を観測した場合(J=38MA/cm2)には、M2層に磁化渦が発生していることが確認された。この場合、磁気渦は時間0.75nsで発生し、電流パルスの終端まで安定して存在する。電流がオフになると磁気渦は消滅し、それに伴ってM1層の磁化が安定な反平行状態を採るようになる。
一方、磁化反転を観測しない場合(J=37MA/cm2)には、M2層に磁化渦は発生しない。この場合でも、パルス幅を4.8nsと大きくすると、磁化反転が生じることを確認した。このとき、時間4.5ns付近でM2層に磁気渦が発生している。
【0026】
磁気渦が観測されるのは、M2層が2.8nm以上の厚い場合であり、磁化反転を観測したMTJのM2層には、必ず、磁気渦が発生していることが判った。即ち、磁気渦がトリガーとなって、磁化反転が引き起こされると考えられる。磁気渦の発生は確率事象であると思われる。
【0027】
磁気渦の発生は、低抵抗化(スピン:反平行状態から平行状態)の場合にも、高抵抗化(スピン:平行状態から反平行状態)の場合にも、また、平行結合膜(JEX>0)の場合にも、同様に観測された。なお、M2層の厚みが比較的薄い場合(約2.8nm以下の場合)には、磁気渦の発生は観測されなかった。磁気渦が形成されたとき、M2層の磁化は固定されるが、M1層はスピントルクの影響を受け続け、磁化反転が引き起こされると考えられる。
なお、磁気渦の発生は、単層の磁化自由層の場合でも報告されている。単層の磁化自由層に発生する磁気渦は、磁化反転を遅延させ、積層磁化自由層の磁気渦とは異なった働きをしていると考えられる。
【0028】
以上のシミュレーション結果を踏まえて、本実施形態では、図1に示すMTJ10のように、その長辺となる2辺の略中央部位に、互いに対向するように、第2の磁性層5から反強磁性層51まで切り欠いた溝10a,10bを形成する。これにより、磁気渦が発生し易くなり、比較的小さいスイッチング電流でも、高速パルスでより短時間に磁化反転を確実に起こすことができる。
【0029】
本実施形態による、溝を有するMTJを用いて、上記のシミュレーションで磁化反転が観測されなかったJ=37MA/cm2の場合における磁気渦の発生の有無について、マイクロマグネティクス・シミュレーションにより調べた。比較例として、溝を有しないMTJについても同様に調べた。
【0030】
シミュレーション結果を図5に示す。M2の厚みが4nmの反平行結合したMTJ(JEX=−0.15mJ/m2)にJ=37MA/cm2の電流を流した場合を考える。溝を有するMTJでは、1nsで磁気渦の発生が確認された。溝を有しないMTJでは磁気渦の発生時間が4.5nsであったのに対して、溝を有するMTJでは磁気渦の発生時間が大幅に短縮することが判る。それに伴い、溝を有するMTJでは、溝を有しないMTJで4.8nsであった書込み電流パルスの幅を、2.0nsに小さくしても磁化反転が観測された。
【0031】
図6に、本実施形態による、溝10a,10bを有するMTJ10に1nsで磁気渦が発生した様子を示す。本実施形態によるMTJ10では、縦80nm、横160nmの楕円形状で長辺となる2辺の略中央部位で互いに対向するように一対の溝10a,10bが形成されている。図6では、MTJ10の長軸方向に磁化myを+1(右向き)から−1(左向き)までの間で、面内磁化容易軸の方向を示している。MTJ10における溝10a,10bの近傍では、溝10a,10bの形成方向(MTJ10の短手方向に沿った方向)が面内磁化容易軸の方向と非垂直、ここでは略直交するように、磁気渦が形成される。
【0032】
MTJにおける溝の有効な形成位置について、マイクロマグネティクス・シミュレーションにより調べた。シミュレーション結果を図7(a)に示す。本実施形態によるMTJ10(図7(c))と共に、溝を有しないMTJ101(図7(b))、長辺ではなく短辺(周縁で短手方向に沿った部位)の2箇所に一対の溝101a,101bを有するMTJ101(図7(d))について調べた。
図5と同様に、厚みが4nmのM2を有し、反平行結合したMTJ(JEX=−0.15mJ/m2)にJ=37MA/cm2の電流を流した場合を考える。図7(d)に示すように、短辺の2辺に一対の溝101a,101bを有するMTJ101では、磁気渦の発生は確認されなかった。従って、楕円形状のMTJではその長辺が溝の有効な形成位置であることが確認された。
【0033】
以上のように、本実施形態によるMTJでは、高い熱揺らぎ耐性を確保しつつ、磁気渦が発生し易くなり、比較的小さいスイッチング電流でも、高速パルスでより短時間に磁化反転を確実に起こすことができる。
【0034】
図2及び図3で示した本実施形態によるMTJの他の諸形態について、磁気渦の発生の有無について、マイクロマグネティクス・シミュレーションにより調べた。
図2(a)のMTJ10を対象としたシミュレーション結果を図8(a)に示す。M2の厚みが4nmの反平行結合したMTJ(JEX=−0.15mJ/m2)にJ=37MA/cm2の電流を流した場合を考える。1つの溝を有するMTJ(図8(c))では、3.25nsで磁気渦の発生が確認された。溝を有しないMTJ(図8(b))では、磁気渦の発生時間が4.5nsであったのに対して、1つの溝を有するMTJでは磁気渦の発生時間が短縮することが判る。それに伴い、1つの溝を有するMTJでは、溝を有しないMTJで4.8nsであった書込み電流パルスの幅を、4nsに小さくしても磁化反転が観測された。
【0035】
図2(b),(c)のMTJ10を対象としたシミュレーション結果を図9(a)に示す。M2の厚みが4nmの反平行結合したMTJ(JEX=−0.15mJ/m2)にJ=37MA/cm2の電流を流した場合を考える。上辺で左に、下辺で右に偏倚した一対の溝を有するMTJ(図9(b))では、1.5nsで磁気渦の発生が確認された。上辺で右に、下辺で左に偏倚した一対の溝を有するMTJ(図9(c))では、2.0nsで磁気渦の発生が確認された。溝を有しないMTJでは磁気渦の発生時間が4.5nsであったのに対して、左右に偏倚する一対の溝を有するMTJでは磁気渦の発生時間が大幅に短縮することが判る。それに伴い、左右に偏倚する一対の溝を有するMTJでは、溝を有しないMTJで4.8nsであった書込み電流パルスの幅を、2.5nsに小さくしても磁化反転が観測された。
【0036】
図3のMTJ10を対象としたシミュレーション結果を図10(a)に示す。M2の厚みが4nmの反平行結合したMTJ(JEX=−0.15mJ/m2)にJ=37MA/cm2の電流を流した場合を考える。図1(b)で示した一対の溝を有するMTJ(図10(b))では、1.0nsで磁気渦の発生が確認された。積層磁化自由層のみに一対の溝を有するMTJ(図10(c))では、磁気渦の発生は確認されなかった。このときの積層フェリ固定層24の磁化は、約0.4Tであった。積層磁化自由層のみに一対の溝を有するMTJで、積層フェリ固定層の磁化を約0.2Tと小さくして漏れ磁場の影響を抑えた場合に(図10(d))は、図10(b)よりも短い0.75nsで磁気渦の発生が確認された。図10(c)の結果を踏まえればMTJを高速スイッチングさせるには、溝を設けるだけでなく、漏れ磁場の大きさを調節する必要がある。
【0037】
溝を有しないMTJでは磁気渦の発生時間が4.5nsであったのに対して、層磁化自由層のみに一対の溝を有するMTJで磁化固定層の磁化を小さくしたものでは磁気渦の発生時間が大幅に短縮することが判る。それに伴い、当該MTJでは、溝を有しないMTJでは4.8nsであった書込み電流パルスの幅を、2.5nsに小さくしても磁化反転が観測された。
【0038】
以上のように、図2及び図3で示した各MTJでも、高い熱揺らぎ耐性を確保しつつ、磁気渦が発生し易くなり、比較的小さいスイッチング電流でも、高速パルスでより短時間に磁化反転を確実に起こすことができる。
【0039】
(第2の実施形態)
本実施形態では、第1の実施形態によるMTJを備えたMRAMを開示する。MRAMの構造を、その製造方法と共に説明する。なお、第1の実施形態と同一の構成部材等については同符号を付す。
【0040】
本実施形態によるMRAMは、図11に示すように、複数のメモリセルMCが行列状に配設されている。列方向に並ぶ各メモリセルMCにおいては、ゲート電極24が共通とされており、各ゲート電極24がワード線として機能する。このようにゲート電極24を列ごとに共通とする代わりに、各メモリセルMCのゲート電極24を列ごとに電気的に接続するワード線を別途設けるようにしても良い。行方向に並ぶ各メモリセルMCにおいては、ビット線33が共通とされている。ワード線とビット線33とは互いに絶縁されて交差、ここでは直交するように配設される。
【0041】
図12〜図15は、本実施形態によるMRAMの製造方法を工程順に示す概略図である。本実施形態では、第1の実施形態で図1(a),(b)に示したMTJ10を備えたメモリセルを形成する場合を例示する。
【0042】
先ず、図12(a)に示すように、メモリセル領域において、シリコン基板20上に選択トランジスタとして機能するMOSトランジスタを形成する。
詳細には、シリコン基板20の表層に例えばSTI(Shallow Trench Isolation)法により素子分離構造21を形成し、素子活性領域を確定する。
次に、素子活性領域に不純物、ここではホウ素(B+)を例えばドーズ量3.0×1013/cm2、加速エネルギー300keVの条件でイオン注入し、ウェル22を形成する。
【0043】
次に、素子活性領域に熱酸化等により薄いゲート絶縁膜23を形成し、ゲート絶縁膜23上にCVD法により多結晶シリコン膜を堆積し、多結晶シリコン膜及びゲート絶縁膜23をリソグラフィー及びそれに続くドライエッチングにより電極形状に加工することにより、ゲート絶縁膜23上にゲート電極24をパターン形成する。
【0044】
次に、ゲート電極24をマスクとして素子活性領域に不純物、ここではn型不純物である砒素(As+)をイオン注入する。これにより、素子活性領域でゲート電極24の両側にソース/ドレインとして機能する不純物拡散領域25が形成される。
なお、不純物拡散領域25としては、浅いLDD領域(エクステンション領域)を形成した後に、これと一部重畳するようにソース/ドレインを形成するようにしても良い。
以上により、各メモリセルで選択トランジスタとして機能するMOSトランジスタが形成される。
【0045】
続いて、図12(b)に示すように、MOSトランジスタを覆う層間絶縁膜26を形成した後、MOSトランジスタの不純物拡散領域25と電気的に接続されるコンタクトプラグ27,28を形成する。
詳細には、MOSトランジスタを覆うように、例えばシリコン酸化物をCVD法により堆積し、例えば化学機械研磨(CMP)によりシリコン酸化物の表面を平坦化する。これにより、層間絶縁膜26が形成される。
【0046】
不純物拡散領域25の表面の一部が露出するまで層間絶縁膜26をリソグラフィー及びそれに続くドライエッチングにより加工する。これにより、層間絶縁膜26にコンタクト孔26a,26bが形成される。
コンタクト孔26a,26bの内壁面を覆うように、スパッタ法により例えばTi膜及びTiN膜を順次堆積して、不図示の下地膜(グルー膜)を形成する。そして、CVD法によりグルー膜を介してコンタクト孔26a,26bを埋め込むように例えばW膜を堆積する。その後、CMPにより層間絶縁膜26をストッパーとしてW膜及びグルー膜を研磨する。以上により、コンタクト孔26a,26b内をグルー膜を介してWで埋め込むコンタクトプラグ27,28が同時形成される。
【0047】
続いて、図12(c)に示すように、配線34、第1の実施形態で開示したMTJ10を備えた磁気メモリ素子30等を形成する。
磁気メモリ素子30の作製方法について、図13〜図15を用いて説明する。ここでは、磁気メモリ素子30及びその周辺部分のみを拡大して示す。
【0048】
層間絶縁膜26上に配線材料、例えばAl合金をスパッタ法等により堆積し、リソグラフィー及びドライエッチングでAl合金を加工する。これにより、コンタクトプラグ27と電気的に接続される配線34が形成される。
【0049】
図13(a)に示すように、層間絶縁膜26上に電極層41、MTJ層42、及びハードマスク43を、例えばスパッタ法により連続成膜する。
電極層41は、導電材料として例えばTa/Ru/Taを用い、それぞれ5nm/25nm/15nm程度の厚みに成膜する。
MTJ層42は、図1(a)に示したように、PtMnを15nm、CoFeを2.5nm程度、MgOを1.0nm程度、CoFeBを1.4nm程度、Ruを0.65nm程度、CoFeBを4.0nm程度の厚みにそれぞれ堆積する。これにより、反強磁性層51、積層フェリー固定層50、トンネルバリア層2、第1の磁性層3、非磁性層4、第2の磁性層5を形成する。以上により、反強磁性層51及び積層フェリー固定層50を備え、積層フェリー固定層50上にトンネルバリア層2を介して積層磁化自由層11を有するMTJ層42が形成される。
ハードマスク43は、例えばTaを用い、50nm程度の厚みに成膜する。
【0050】
図13(b)に示すように、レジストマスク44を形成する。
詳細には、ハードマスク43上にレジストを塗布し、リソグラフィーによりレジストを加工する。これにより、レジストマスク44が形成される。
【0051】
図13(c)に示すように、ハードマスク43を加工する。
詳細には、レジストマスク44を用いて、Clガス、CF4ガス等をエッチングガスとした反応性イオンエッチング(RIE)によりハードマスク43をドライエッチングする。これにより、レジストマスク44の形状に倣ってハードマスク43が加工される。ハードマスク43は、後にMTJ層42を加工するために、図14に示すように、平面視で略楕円形状とされ、その周縁の長手方向(長軸方向)に沿った2辺の略中央部位に、互いに対向する一対の溝43a,43bが形成される。
レジストマスク44は、アッシング処理等により除去される。
【0052】
図13(d)に示すように、MTJ層42を加工して、MTJ10を形成する。
詳細には、ハードマスク43を用いて、COガス+NH3ガス等をエッチングガスとしたRIEによりMTJ層42をドライエッチングする。これにより、ハードマスク43の形状に倣ってMTJ10が加工され、MTJ10が形成される。
MTJ10上のハードマスク43は、MTJ10の上部電極の一部となる。
【0053】
図15(a)に示すように、レジストマスク45を形成する。
詳細には、電極膜41上でMTJ10を覆うようにレジストを塗布し、リソグラフィーによりレジストを加工する。これにより、レジストマスク45が形成される。
【0054】
図15(b)に示すように、電極膜41を加工する。
詳細には、レジストマスク45を用いて、電極膜41をドライエッチングする。これにより、レジストマスク45の形状に倣って電極膜41が加工され、電極31が形成される。電極31のその下面でコンタクトプラグ28と電気的に接続される。
レジストマスク45は、灰化処理等により除去される。
以上により、電極31上にMTJ10を備えてなる磁気メモリ素子30が形成される。
【0055】
図15(c)に示すように、層間絶縁膜29を形成する。
詳細には、図13(c)の配線34及び磁気メモリ素子30を覆うように、例えばシリコン酸化物をCVD法により堆積し、例えばCMPによりシリコン酸化物の表面を平坦化する。これにより、層間絶縁膜29が形成される。
【0056】
図15(d)に示すように、ビアプラグ32を形成する。
詳細には、MTJ10の表面の一部が露出するまで層間絶縁膜29をリソグラフィー及びそれに続くドライエッチングにより加工する。これにより、層間絶縁膜29にビア孔29aが形成される。
ビア孔29aの内壁面を覆うように、スパッタ法により例えばTi膜及びTiN膜を順次堆積して、不図示の下地膜(グルー膜)を形成する。そして、CVD法によりグルー膜を介してビア孔29aを埋め込むように例えばW膜を堆積する。その後、CMPにより層間絶縁膜29をストッパーとしてW膜及びグルー膜を研磨する。以上により、ビア孔29a内をグルー膜を介してWで埋め込むビアプラグ32が形成される。
【0057】
そして、図12(c)に示すように、層間絶縁膜29上に配線材料、例えばAl合金をスパッタ法等により堆積し、リソグラフィー及びドライエッチングでAl合金を加工する。これにより、ビアプラグ32と電気的に接続されるビット線33が形成される。
【0058】
なお、本実施形態では、第1の実施形態で図1(a),(b)に示したMTJ10を備えたメモリセルを形成する場合を例示したが、図2(a)〜(d)に示したMTJ10を備えたメモリセルを形成する場合にも同様である。即ち、図13(c)において、図2(a)〜(d)のMTJ10の各溝に対応する溝を有するハードマスクを形成すれば良い。
【0059】
図3に示したMTJ10を備えたメモリセルを形成する場合には、例えば、図14(c)〜(e)の工程において、以下のようにすることが考えられる。
溝10A,10Bのみを形成するための第1のハードマスクを形成し、これを用い、トンネルバリア層2をエッチングストッパーとして、MTJ層42の第2の磁性層5、磁性層4、及び第1の磁性層3のみをドライエッチングする。これにより、第2の磁性層5、磁性層4、及び第1の磁性層3のみに図3の溝10A,10Bが形成される。第1のハードマスクを除去する。楕円形状の第2のハードマスクを形成し、これを用いてMTJ層42を第2の磁性層5から反強磁性層51までドライエッチングする。第2のハードマスクを除去する。以上により、図3に示したMTJ10が形成される。
【0060】
以上説明したように、本実施形態によれば、第1の実施形態によるMTJ10を磁気メモリ素子30に適用して、MRAMを構成することにより、高い熱揺らぎ耐性を確保しつつ、スイッチング電流を低減するも、記憶保持特性を向上させ、更なる高速動作化及び高集積化が可能となる。
【0061】
以下、磁気抵抗素子及び磁気記憶装置の諸態様について、付記としてまとめて記載する。
【0062】
(付記1)磁化固定層と、トンネルバリア層と、非磁性層を間に挟持した第1の磁性層と第2の磁性層とを有する積層磁化自由層とを有し、
前記積層磁化自由層は、その周縁において、当該積層磁化自由層の面内磁化容易軸の方向と垂直となる方向に溝が形成されていることを特徴とする磁気抵抗素子。
【0063】
(付記2)前記溝は、前記トンネルバリア層及び前記磁化固定層まで延在して形成されていることを特徴とする付記1に記載の磁気抵抗素子。
【0064】
(付記3)前記積層磁化自由層は横長形状であり、その周縁の長手方向に沿った部位に前記溝が形成されていることを特徴とする付記1又は2に記載の磁気抵抗素子。
【0065】
(付記4)前記溝は、一対の溝として、前記積層磁化自由層の周縁の長手方向に沿った部位において互いに偏倚した位置にそれぞれ形成されていることを特徴とする付記3に記載の磁気抵抗素子。
【0066】
(付記5)前記第2の磁性層は、前記第1の磁性層よりも厚いことを特徴とする付記1〜4のいずれか1項に記載の磁気抵抗素子。
【0067】
(付記6)磁気抵抗素子及び駆動トランジスタを備えたメモリセルが複数配置されてなる磁気記憶装置であって、
前記磁気抵抗素子は、磁化固定層と、トンネルバリア層と、非磁性層を間に挟持した第1の磁性層と第2の磁性層とを有する積層磁化自由層とを有し、
前記積層磁化自由層は、その周縁において、当該積層磁化自由層の面内磁化容易軸の方向と垂直となる方向に溝が形成されていることを特徴とする磁気記憶装置。
【0068】
(付記7)前記溝は、前記トンネルバリア層及び前記磁化固定層まで延在して形成されていることを特徴とする付記6に記載の磁気記憶装置。
【0069】
(付記8)前記積層磁化自由層は横長形状であり、その周縁の長手方向に沿った部位に前記溝が形成されていることを特徴とする付記6又は7に記載の磁気記憶装置。
【0070】
(付記9)前記溝は、一対の溝として、前記積層磁化自由層の周縁の長手方向に沿った部位において互いに偏倚した位置にそれぞれ形成されていることを特徴とする付記8に記載の磁気記憶装置。
【0071】
(付記10)前記第2の磁性層は、前記第1の磁性層よりも厚いことを特徴とする付記6〜9のいずれか1項に記載の磁気記憶装置。
【符号の説明】
【0072】
2 トンネルバリア膜
3 第1の強磁性層(M1)
4 非磁性層
5 第2の強磁性層(M2)
10 MTJ
10a,10b,10c,10d,10e,10f,10A,10B,43a,43b 溝
11 積層磁化自由層
20 シリコン基板
21 素子分離構造
22 ウェル
23 ゲート絶縁膜
24 ゲート電極
25 不純物拡散領域
26,29 層間絶縁膜
26a,26b コンタクト孔
27,28 コンタクトプラグ
29a ビア孔
32 ビアプラグ
30 磁気メモリ素子
31 電極
33 ビット線
34 配線
41 電極層
42 MTJ層
43 ハードマスク
44,45 レジストマスク
50 積層フェリー固定層
51 反強磁性層
52 CoFe層
53 Ru層
54 CoFeB層
MC メモリセル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁化固定層と、トンネルバリア層と、非磁性層を間に挟持した第1の磁性層と第2の磁性層とを有する積層磁化自由層とを有し、
前記積層磁化自由層は、その周縁において、当該積層磁化自由層の面内磁化容易軸の方向と垂直となる方向に溝が形成されていることを特徴とする磁気抵抗素子。
【請求項2】
前記溝は、前記トンネルバリア層及び前記磁化固定層まで延在して形成されていることを特徴とする請求項1に記載の磁気抵抗素子。
【請求項3】
前記積層磁化自由層は横長形状であり、その周縁の長手方向に沿った部位に前記溝が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気抵抗素子。
【請求項4】
前記溝は、一対の溝として、前記積層磁化自由層の周縁の長手方向に沿った部位において互いに偏倚した位置にそれぞれ形成されていることを特徴とする請求項3に記載の磁気抵抗素子。
【請求項5】
磁気抵抗素子及び駆動トランジスタを備えたメモリセルが複数配置されてなる磁気記憶装置であって、
前記磁気抵抗素子は、磁化固定層と、トンネルバリア層と、非磁性層を間に挟持した第1の磁性層と第2の磁性層とを有する積層磁化自由層とを有し、
前記積層磁化自由層は、その周縁において、当該積層磁化自由層の面内磁化容易軸の方向と垂直となる方向に溝が形成されていることを特徴とする磁気記憶装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−244051(P2012−244051A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−114788(P2011−114788)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、経済産業省、「低炭素社会を実現する超低電圧デバイスプロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】