説明

自動車の車体構造

【課題】 補強の強度を保ちつつ車両の軽量化を図ることができる自動車の車体構造を提供する。
【解決手段】 乗員が乗るキャビン1と、このキャビン1の左右にそれぞれ配置されたサイドシル61L,61Rと、このサイドシル61L,61Rの車体前方側に左右各々接合され、車両前方からの衝突エネルギーを吸収する衝撃吸収部材69L,69Rと、この衝撃吸収部材69L,69Rの間に配置された前輪42と、車両の左右に配置された駆動輪としての後輪2RL,2RRと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両が障害物に衝突する際のエネルギーを効果的に吸収し、乗員への影響を抑える車体構造の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
車両が障害物に前面衝突する際のエネルギーを吸収し、乗員への影響を抑える自動車の車体構造としては、タイヤを車両の4隅にそれぞれ配し、車両前方からの衝撃に対して乗員を守るために、前輪の内側左右にサイドメンバーを有する形態のものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−97048号公報
【0003】
この車体構造は、前方からの衝撃を受けたとき、サイドメンバーが潰れることで衝突のエネルギーを吸収する構造であり、サイドメンバーは、構造体や補強材などの部材を介してサイドシルに支えられて衝撃を受け止める。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の車体構造にあっては、サイドメンバーから受ける衝撃をキャビン側方のサイドシルで受け止める構成であるため、構造体や補強材などの部材が必要であり、補強の強度を保ちつつ車両を軽量化することが困難であるという問題があった。
【0005】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、その目的とするところは、補強の強度を保ちつつ車両の軽量化を図ることができる自動車の車体構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の自動車の車体構造では、
乗員が乗るキャビンと、
このキャビンの左右にそれぞれ配置された構造部材と、
この左右構造部材の車両前方側に左右各々接合され、車両前方からの衝突エネルギーを吸収する衝撃吸収部材と、
この左右衝撃吸収部材の間に配置された前輪と、
車両の左右に配置された駆動輪と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
よって、本発明の自動車の車体構造にあっては、左右衝撃吸収部材が車両側面の構造部材(サイドシル等)に直接接合される形態としているため、衝撃吸収部材と車両側面の構造部材との間に補強材を必要とせず、車体前部を軽量化することができる。すなわち、補強の強度を保ちつつ車両の軽量化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の自動車の車体構造を実施するための最良の形態を、図面に示す実施例1〜5に基づいて説明する。
【実施例1】
【0009】
まず、構成を説明する。
図1は、実施例1の車両を走行させるための車両制御システム構成図である。実施例1の車両は、駆動力発生源としての電気モータ3RL,3RRを備えており、各々の電気モータ3RL,3RRの回転軸は、減速機4RL,4RRを介して、電動車両の後輪2RL,2RRに連結されている。ここで、2つの電気モータ3RL,3RRの出力特性、および、2つの減速機4RL,4RRの減速比、および、左右の2つの後輪2RL,2RRの半径はいずれも同じである。
【0010】
前記電気モータ3RL,3RRは、いずれも永久磁石をロータに埋め込んだ三相同期モータである。リチウムイオンバッテリ6との電力授受を制御する駆動回路5RL,5RRが、それらの電気モータ3RL,3RRの力行および回生トルクを、統合コントローラ(駆動力差制御手段および車両姿勢制御手段)30から受信するトルク指令値tTRL(左後輪),tTRR(右後輪)とそれぞれ一致するように調整する。そして、駆動回路5RL,5RRは、各々のモータ回転軸に取り付けられた図外の回転位置センサにより検出したモータ回転速度をそれぞれ統合コントローラ30へ送信する。
【0011】
前輪42は、前輪42の転舵回転軸41に備え付けられており、詳細を図2に示す。前輪42の転舵回転軸41は、前輪42の中空支持部45の内側にあり、ベアリングを介して45に対して回転運動する。要素44,43および前輪42は、いずれも転舵回転軸41を中心として一体で回転するように支持されている。ここで、回転軸41の中心を延長したときの地表面との交点Pと、タイヤの回転中心点43の直下点Qとは、距離がζ(>0)となるよう構成しており、車両走行時には走行抵抗により、前輪42の転舵回転軸41の進む向きとタイヤの向きAとが一致するようにタイヤが自然に転舵する、いわゆるキャスターの構造としている。
【0012】
前輪42の中空支持部45には、中空支持部45が車両の前後左右方向に変形しにくいよう、車体前後方向と車体横方向にそれぞれ図外の支持軸があり車体と連結されている。また、中空支持部45には、上下方向に対して図外のバネおよびダンパーが備えられており、前輪42が路面から受ける上下方向の力を車体に伝えにくくしている。
【0013】
また、前輪42には、部位44に図外の油圧システムによる摩擦ブレーキが備え付けられており、運転者によるブレーキペダルの踏み込みに応じてブレーキ系の油圧が上昇し、油圧の上昇に応じて部位44に固定されたブレーキパッドが、前輪42と共に回転するディスクを挟み込むことで前輪42を制動させる。
【0014】
前記後輪2RL,2RRにも図外の摩擦ブレーキが備え付けられており、前輪42と同様に、運転者によるブレーキペダルの踏み込みに応じて後輪2RL,2RRを制動させる。さらに、後輪2RLにはリンク51RLが接続されており、転舵用モータ52RLにより、このリンク51RLを車両左右方向に移動させることで、後輪2RLを転舵させる。
【0015】
転舵用モータ52RLには、モータ駆動回路53RLが接続されており、モータ駆動回路53RLは左後輪に取り付けられた実舵角センサからの舵角検出値と統合コントローラ30から受信する左後輪舵角目標値tδrlに基づいて、左後輪実転舵角が左後輪舵角目標値tδrlに一致するように転舵用モータ52RLのトルクを調整する。
【0016】
同様に、後輪2RRにはリンク51RRが接続されており、転舵用モータ52RRにより、このリンク51RRを車両左右方向に移動させることで、後輪2RRを転舵させる。転舵用モータ52RRには、モータ駆動回路53RRが接続されており、モータ駆動回路53RRは右後輪に取り付けられた実舵角センサからの舵角検出値と統合コントローラ30から受信する右後輪舵角目標値tδrrに基づいて、右後輪実転舵角が右後輪舵角目標値tδrrに一致するように転舵用モータ52RRのトルクを調整する。転舵用モータ52RL,52RRとリンク51RL,51RRにより、駆動輪転舵手段が構成されている。
【0017】
図3は、実施例1の車両の車体構造を示す図であり、図3に示すように、実施例1では、キャビン1左右のサイドシル(構造部材)61L,61Rの車両前方延長上に、衝撃吸収部材69L,69Rを配している。これら衝撃吸収部材69L,69Rは、中空構造になっており、特に先端(車両前方)部は強度を弱めた構造とすることで、車両前方からの衝撃に対し、先端から潰れていく構造としている。車両が前方から障害物に衝突したときには、この潰れ変形によるエネルギー吸収により、衝突エネルギーを吸収し、乗員への衝突の影響を低減する。
【0018】
実施例1において、電動車両の前後重心位置は、後輪2RL,2RRの中点付近となるように、電気モータ3RL,3RRやバッテリなどが配置されている。例えば、前輪荷重と後左右輪の和の輪荷重との比が、2:8となるように前後重心位置を設計しておく。
【0019】
続いて、統合コントローラ30について説明する。
統合コントローラ30には、アクセルペダルセンサ23によって検出するアクセル開度信号と、ブレーキペダルセンサ22によって検出するブレーキ踏力信号と、左右に変位させることができるステアリングホイール11の支持点に取り付けられた変位角センサ26によって検出するステアリングホイール11の変位角信号と、ステアリングホイール11の回転軸に取り付けられた操舵角センサ21によって検出するステアリングホイール11の回転角信号と、車両重心位置に取り付けられた加速度センサ24によって検出する車体横加速度(車幅方向の加速度)および前後加速度信号と、ヨーレートセンサ8によって検出するヨーレート信号と、運転者によって操作されるシフトレバー25の状態信号と、前輪42の回転中心点43に取り付けられた前輪回転センサ49によって検出する前輪回転速度信号が入力される。
【0020】
前記シフトレバー25のシフト位置としては、車両停止時のみ選択可能でパーキング時に使用する位置「P」、通常前進走行時に使用する位置「D」、モードAでの前進走行時に使用する位置「A」がある。モードAは、旋回内輪の後輪近傍を旋回中心として、車両を回転させる運転モードである。
【0021】
これらのシフト位置は、シフトレバー25の操作により運転者が選択する。前記統合コントローラ30は、これらの信号に基づいて後左輪モータ3RLへのトルク指令値tTRL、後右輪モータ3RRへのトルク指令値tTRRを演算し、各モータ3RL,3RRの駆動回路5RL,5RRに送信する。ここで、後左輪モータ3RLへのトルク指令値tTRL、後右輪モータ3RRへのトルク指令値tTRRは、いずれも単位はNmで、車両を前向きに加速させる向きを正とする。また、前記統合コントローラ30は、後輪舵角目標値tδrl,tδrrも演算し、モータ駆動回路53RL,53RRにそれぞれ送信する。後輪舵角目標値tδrl,tδrrは、単位はradで左に転舵する向きを正とする。
【0022】
次に、作用を説明する。
[モード選択制御処理]
図4は実施例1の統合コントローラ30にて実行されるモード選択制御処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。なお、統合コントローラ30は、マイクロコンピュータのほかにRAM/ROMなどの周辺部品を備えており、図4のフローチャートを一定時間毎、例えば5ms毎に実行する。
【0023】
ステップS401では、各センサ信号や、駆動回路5RL,5RRからの受信信号をRAM変数に格納し、ステップS402へ移行する。具体的には、アクセル開度信号を変数APS(単位は%で、全開時を100%とする。)に格納し、ブレーキ踏力信号を変数BRK(単位はPa)に格納し、ステアリングホイール26の変位角信号を変数Win(単位はradで、左を正とする)に格納し、ステアリングホイール11の回転角信号を変数δ(単位はradで、反時計回りを正とする。)に格納し、車体横加速度信号を変数YG(図1の左旋回時の向きを正にとる)に格納し、車体ヨーレート信号を変数γ(図1の左旋回時の向きを正にとる)に格納し、車体横加速度信号を変数YG(図1の左旋回時の向きを正にとる)に格納し、シフトレバー信号を変数SFTに格納する。また、前輪回転センサ49からの回転速度信号は変数NFL(単位はrad/sで、車両が前進する向きを正とする。)に格納する。さらに、駆動回路5RL,5RRから受信する信号についても、それぞれのモータの回転速度を変数NRL、NRR(いずれも単位はrad/sで、車両が前進する向きを正とする。)に格納する。
【0024】
ステップS402では、車両の速度V(単位はm/sで、車両が前進する向きを正とする)を次式で演算し、ステップS403へ移行する。
V=(NFL*Rf+NRL/GG*Rr+NRR/GG*Rr)/3
ここで、Rfは前輪の半径、Rrは後輪の半径、GGは後輪の減速機の減速比である。
【0025】
ステップS403では、シフトレバー位置がパーキング時に使用する位置「P」であるか否かを判定し、「P」の場合、ステップS404へ移行し、tTRL=tTRR=tδrl=tδrr=0として本ルーチンを終了する。そうでない場合にはステップS413へ移行する。
【0026】
ステップS413では、シフトレバー位置が「A」であるか否かを判定し、シフトレバー位置が「A」である場合、ステップS414へ移行し、後述のモードA時の演算ルーチンを実行し、本ルーチンを終了する。そうでない場合には、ステップS415へ移行し、後述のモードD時の演算ルーチンを実行し、本ルーチンを終了する。
【0027】
[規範モデル応答を実現するコントローラの設計原理および演算形態について]
次に、図4のステップS415で実行されるモードD時の演算ルーチン(図6)、ステップS414のモードA時の演算ルーチン(図8)において、後左輪モータ3RLへのトルク指令値tTRL、後右輪モータ3RRへのトルク指令値tTRR、後輪舵角目標値tδrl,tδrrを演算する方法について、順次説明するが、各演算ルーチンでの演算処理を説明する前に、まず、モードDにおけるモータトルク指令値と後輪舵角目標値の演算原理および実現方法について説明する。
【0028】
「自動車の車体構造の運動と制御」(山海堂)には、前後輪を操舵する車両挙動の運動方程式が示されている。例えば、p194には前輪舵角δf[rad]と後輪舵角δr[rad](後輪左右の舵角は同一とする)を操作量とし、車両のヨーレートγ[rad/s]および車体重心位置の車体すべり角β[rad]を状態量としたときの運動方程式が示されている。この運動方程式は、車速V[m/s]は一定(dV=0)かつV≠0かつ滑り角(β[rad])は微少(|β|<<1、sinβ≒β、cosβ≒1)などの前提で導出している。
【0029】
本運動方程式の考え方は、本発明の実施例1の電動車両にも拡張して適用できる。即ち、右輪の駆動力をu[N]、左輪の駆動力を-u[N] とする操作量を付加し、後輪の舵角を左右同一値δr[rad]とし、前輪を図2のキャスター形式とすることによる作用として、前輪で発生する横力がほぼ0として、運動方程式を次のように導出することができる。

【0030】
ここで、Lrは後輪軸と重心との距離[m]、Ltは後輪のトレッドベース距離/2[m]、mは車重[kg]、Iγはヨー慣性モーメント[Nmss]である。また、Krは後輪タイヤコーナリングスティッフネス[N/rad]であり、後輪ステアリング剛性の影響によるステアリング角に対するコーナリングパワーの低下分も加味した値である。Vは車速[m/s]であり、γはヨーレート[rad/s]、βは車体重心位置の車体すべり角[rad]である。
【0031】
「自動車の車体構造の運動と制御」(山海堂)p52に記されているように横力Y[N]とヨーレートγ[rad/s]と滑り角β[rad]は次の関係にある。
Y=mV(dβ/dt+γ) …(A2)
【0032】
これらの運動方程式は、微分演算子sを用いて次の形に書き換えられる。
β={Q12(s)/Qden(s)}・δr+{Q13(s)/Qden(s)}・u
γ={Q22(s)/Qden(s)}・δr+{Q23(s)/Qden(s)}・u
Y={Q32(s)/Qden(s)}・δr+{Q33(s)/Qden(s)}・u …(A3)
【0033】
そして、Q12(s)、Q13(s)、Q22(s)、Q23(s)、Q32(s)、Q33(s)、Qden(s)は、いずれも車速Vの関数になっており、次の式で表される。
12(s)=2VKr(Iγs+mVLr)
13(s)=-2Lt(mV2−2LrKr)
22(s)=-2mV2KrLrs
23(s)=2VLt(mVs+2Kr)
32(s)=2mV2KrIγs2
33(s)=4mVLtKr(Lrs+V)
Qden(s)=mV2Iγs2+2VKr(mLr2+Iγ)s+2mV2LrKr …(A4)
【0034】
「自動車の車体構造の運動と制御」(山海堂)p203-p207には、ステアリング操作量δに対する、車両のヨーレートγおよび滑り角βの応答が望ましい伝達特性(規範モデル)となるように、前輪舵角の指令値δf*と後輪舵角の指令値δr*を生成するコントローラの導出方法も示されている。この方法に従えば、実施例1において、ステアリング操作量δに対するヨーレートγおよび滑り角βの応答が望ましい伝達特性(規範モデル)となるように、かつステアリング変位角Winに対するヨーレートγおよび滑り角βの応答が望ましい伝達特性(規範モデル)となるように左右輪の駆動力差の指令値u*と後輪舵角の指令値δr*を演算するコントローラ(図5(a)中のP1(s)とP2(s)とP3(s)とP4(s))を以下のように導くことができる。
【0035】
いま、ステアリング操作量δに対するヨーレートγの望ましい伝達特性(規範モデル)をGγδ、ステアリング操作量δに対する滑り角βの望ましい伝達特性(規範モデル)をGβδ、ステアリング変位角Winに対するヨーレートγの望ましい伝達特性(規範モデル)をGγw、ステアリング変位角Winに対する滑り角βの望ましい伝達特性(規範モデル)をGβwとおき、例えば次の特性とする。
【0036】
γδ=m2/(s2+2wns+wn2)
βδ=0
γw=0
βw=m1/(s2+2wns+wn2) …(A5)
【0037】
つまり、ステアリング操作量δに対するヨーレートγの望ましい応答を滑らかな2次応答特性(例えば、wn=4π,m2=wn2/4)とし、ステアリング変位角Winに対する滑り角βの望ましい応答を滑らかな2次応答特性(例えば、wn=4π,m1=wn2)となるように設定する。そして、滑り角βはステアリング操作量δの影響を受けず、ヨーレートγはステアリング変位角Winの影響を受けないように設定する。
【0038】
ところで、図5(a)において、ステアリング操作量δおよびステアリング変位角Winとヨーレートγおよび滑り角βとの関係は、次の関係にある。ここで、1/Td(s)は、後輪操舵系のサーボ遅れである。
【0039】
β=({Q13(s)/Qden(s)}p1(s)+{Q12(s)/Qden(s)}・{p2(s)/Td(s)})δ+
({Q13(s)/Qden(s)}p3(s)+{Q12(s)/Qden(s)}・{p4(s)/Td(s)})Win
γ=({Q23(s)/Qden(s)}p1(s)+{Q22(s)/Qden(s)}・{p2(s)/Td(s)})δ +
({Q23(s)/Qden(s)}p3(s)+{Q22(s)/Qden(s)}・{p4(s)/Td(s)})Win…(A6)
【0040】
したがって、この伝達特性を、それぞれ望ましい伝達特性Gβw、Gγδ,βδ,Gγwと一致させるという条件から、式(A7)が導かれ、
βw
m1/(s2+2wns+wn2)={Q13(s)/Qden(s)}p3(s)+{Q12(s)/Qden(s)}・{p4(s)/Td(s)}
βδ=0={Q13(s)/Qden(s)}p1(s)+{Q12(s)/Qden(s)}・{p2(s)/Td(s)}
γδ
m2/(s2+2wns+wn2)={Q23(s)/Qden(s)}p1(s)+{Q22(s)/Qden(s)}・{p2(s)/Td(s)}
γw=0={Q23(s)/Qden(s)}p3(s)+{Q22(s)/Qden(s)}・{p4(s)/Td(s)} …(A7)
この連立方程式を解き、式(A4)の関係式を用いることで、コントローラP1(s)とP2(s)とP3(s)とP4(s)は式(A8)のように導出できる。ここで後輪操舵のサーボ遅れについては、時定数τ(例えば、τ=0.1[s])の一次遅れとし、つまり、Td=τs+1としている。
【0041】
p1(s) = {m2/(2Lt)}{(Iγs+mVLr)/(s2+2wns+wn2)}
p2(s) = {m2 (mV2-2LrKr)/(2VKr)}{(τs+1)/(s2+2wns+wn2)}
p3(s) = {m1mVLr/(2*Lt)}{s/(s2+2wns+wn2)}
p4(s) = {m1(mVs+2Kr)/(2Kr)}{(τs+1)/(s2+2wns+wn2)} …(A8)
【0042】
このように、実施例1において、ステアリング操作量δおよびステアリング変位角Winに対する、ヨーレートγおよび滑り角βの応答がそれぞれ望ましい伝達特性(規範モデル)となるように、左右輪の駆動力差の指令値u*と後輪舵角の指令値δr*を演算するコントローラ(図5(a)中のP1(s)とP2(s)とP3(s)とP4(s))を導くことができる。
【0043】
さて次に、式(A8)のコントローラP1(s)とP2(s) とP3(s) とP4(s)の実現方法について説明する。P1(s)とP2(s)とP3(s)とP4(s)は、次の(A9)式で書き直せるため、(A9)式の実現方法を説明する。b0,b1,b2は車速Vなどの関数である。
yx=(b2s2+b1s+b0)/(s2+2wns+wn2) …(A9)
【0044】
式(A9)は、図5(b)のように書き換えることができる。よって、所定時間ごとに(例えば、5ms毎に)、まず、図5(b)中の積分演算を例えばオイラー近似で行なうことで、X2,X1を更新し、次に、b0,b1,b2を車速Vに応じて逐次更新した上で、最後にX2,X1,b0,b1,b2,uxから出力yxを時々刻々と演算することで実現できる。
【0045】
[モードD時の演算ルーチン]
図4中のステップS415におけるモードD時の演算ルーチンでは、図6のフローチャートを実行する。
【0046】
ステップS501では、車両の目標駆動力tTDを演算する。演算は、予めROMに格納してあるマップMAP_tTD(V,APS)を表引きすることで行なう。マップMAP_tTD(V,APS)は、車速Vとアクセル開度APSを軸とした特性データであり、例えば図7のように設定しておく。
【0047】
ステップS502では、ステアリング変位角Winに対する車体の滑り角の定常値m1を演算する。例えば、m1=wn2(wnは、例えば4π)の固定値とする。あるいは、車速Vやステアリング操作量δに応じた特性を実現するために、予めROMに格納してあるマップMAP_m1(V,δ)を表引きした値にステアリング変位角Winを乗ずるなどの方法を用いてもよい。
【0048】
ステップS503〜S512では、ステアリングホイール回転角δおよびステアリング変位角Winおよび車速Vに応じて、後輪左右モータに発生させる駆動力差分の目標トルクtU[Nm]および後輪操舵指令値tδrl,tδrrを演算する。演算は、上記設計原理を踏まえ、ステアリング操作量δに対するヨーレートγおよび滑り角βの応答が望ましい伝達特性(規範モデル)となるように、かつ、ステアリング変位角Winに対するヨーレートγおよび滑り角βの応答が望ましい伝達特性(規範モデル)となるように演算する。
【0049】
ステアリング操作量δに対するヨーレートγの望ましい伝達特性(規範モデル)Gγδ、ステアリング操作量δに対する滑り角βの望ましい伝達特性(規範モデル)Gβδ、ステアリング変位角Winに対するヨーレートγの望ましい伝達特性(規範モデル)Gγw、ステアリング変位角Winに対する滑り角βの望ましい伝達特性(規範モデル)Gβwは、式(A5)に示した特性として説明する。
【0050】
ステップS503では、ステップS420で演算した車速Vを用い、式(A8)一段目の式について、式(A9)のb0,b1,b2に対応する値を次のように演算する。
b2=0
b1=(m2Ir)/(2Lt)
b0=(V*m2*m*Lr)/(2Lt) …(B1)
ここでm2は、ステアリングホイール回転角δに対するヨーレートの定常値が、例えば、δ/4となるように、
m2=wn2/4
としておく。mおよびIrおよびLrおよびLtは車両設計値を用いる。
【0051】
ステップS504では、前回のステップS504を実行した時のX2,X1を用い、図5(b)の積分演算をオイラー近似することでX2,X1を更新する。図5(b)中のuxはステアリングホイール回転角δであり、出力yxは変数yx1に代入する。演算する際、図5(b)中のX2,X1としては、ステップS504で使用する変数として、変数X2a,X1aを用いることとする。図41(b)のX2,X1を更新した後は、それらの値とステップS503で求めたb0,b1,b2に応じ、図5(b)に示す関係式から出力yxを演算しyx1に代入する。
【0052】
ステップS505では、ステップS420で演算した車速Vを用い、式(A8)二段目の式について、式(A9)のb0,b1,b2に対応する値を次のように演算する。なお0割を防止する意味で車速Vについては最小値をVmin(例えば、1m/s)に制限して演算を行なう。
b2=0
b1=m2(mV2-2LrKr)τ/(2VKr)
b0=m2(mV2-2LrKr)/(2VKr) …(B2)
ここで、mおよびLrおよびKrは車両設計値を用いる。またτは、後輪操舵系のサーボ遅れに合わせて例えば0.1程度に設定する。
【0053】
ステップS506では、前回のステップS506を実行した時のX2,X1を用い、図5(b)の積分演算をオイラー近似することでX2,X1を更新する。図5(b)中のuxはステアリングホイール回転角δであり、出力yxは変数yx2に代入する。演算する際、図5(b)中のX2,X1としては、ステップS506で使用する変数として、変数X2b,X1bを用いることとする。図5(b)のX2,X1を更新した後は、それらの値とステップS505で求めたb0,b1,b2に応じ、図5(b)に示す関係式から出力yxを演算しyx2に代入する。
【0054】
ステップS507では、ステップS420で演算した車速VおよびステップS502で演算したm1を用い、式(A8)三段目の式について、式(A9)のb0,b1,b2に対応する値を次のように演算する。
b2=0
b1=m1mVLr/(2Lt)
b0=0 …(B1')
ここで、mおよびLrおよびLtは車両設計値を用いる。
【0055】
ステップS508では、前回のステップS508を実行した時のX2,X1を用い、図5(b)の積分演算をオイラー近似することでX2,X1を更新する。図5(b)中のuxはステアリング変位角Winであり、出力yxは変数yx3に代入する。演算する際、図5(b)中のX2,X1としては、ステップS508で使用する変数として、変数X2c、X1cを用いることとする。図5(b)のX2,X1を更新した後は、それらの値とステップS507で求めたb0,b1,b2に応じ、図5(b)に示す関係式から出力yxを演算しyx3に代入する。このようにb0=0とすることで、ステアリング変位角Winに対して左右駆動力差操作を定常的に行なわない作用を実現できる(p3(s)の定常ゲインが0であるということと同じ)。
【0056】
ステップS509では、ステップS420で演算した車速VおよびステップS502で演算したm1を用い、式(A8)四段目の式について、式(A9)のb0,b1,b2に対応する値を次のように演算する。
b2=Vm1mτ/(2Kr)
b1=(m1mV+2*m1τKr)/2
b0=m1 …(B2')
ここで、mおよびKrは車両設計値を用いる。またτは、前述と同一値に設定する。
【0057】
ステップS510では、前回のステップS510を実行した時のX2,X1を用い、図5(b)の積分演算をオイラー近似することでX2,X1を更新する。図5(b)中のuxはステアリング変位角Winであり、出力yxは変数yx4に代入する。演算する際、図5(b)中のX2,X1としては、ステップS510で使用する変数として、変数X2d、X1dを用いることとする。図5(b)のX2,X1を更新した後は、それらの値とステップS509で求めたb0,b1,b2に応じ、図5(b)に示す関係式から出力yxを演算しyx4に代入する。
【0058】
ステップS511では、ステップS504で演算したyx1値とステップS508で演算したyx3値との和として、目標左右駆動力差tUを演算する。
tU = yx1 + yx3
【0059】
ステップS512では、ステップS506で演算したyx2値とステップS510で演算したyx4値との和として、後輪操舵指令値tδrl,tδrrを演算する。
tδrl = tδrr = yx2 + yx4
【0060】
ステップS518では、目標駆動力tTDと目標左右駆動力差tUから、後輪へのトルク指令値tTRL、tTRRを次式で演算し、本ルーチンを終了する。
TTRL=tTD*Rr/GG/2-tU*Rr/GG
TTRR=tTD*Rr/GG/2+tU*Rr/GG …(B3)
【0061】
[モードA時の演算ルーチン]
図4中のステップS414におけるモードA時の演算ルーチンでは、図8のフローチャートを実行する。
【0062】
ステップS801では、後輪軸の中心位置の目標速度tVを演算する。例えば、アクセル演算APSが0のときtV=0となり、APSが100%のときにtV=3[m/s]となるように比例的に割り当てる。
【0063】
ステップS802では、後輪軸の中心位置(図9の点P)の旋回半径の逆数値の目標値tρを演算する。目標値tρは左旋回時、つまり左に車両の旋回中心があるときには正の値とし、右旋回時、つまり右に車両の旋回中心があるときには負の値とするものとし、ステアリングホイール回転角δに応じて、例えば、図10のような特性にしておく。ここで、例えばタイヤ幅半分の長さをWt、後輪トレッドベース距離の半分の長さをLtとしたときに、目標値tρが-1/(Lt+Wt)と1/(Lt+Wt)との間の範囲となるように設定する。
【0064】
ステップS803では、後輪軸の中心位置(図9の点P)の目標すべり角βc(車体の向きに対する点Pの進む向きの角度であり、反時計回りを正にとったもの、単位は[rad])を演算する。演算は、予めtρおよびステアリング変位角Winに応じて図11のように関係付けしておいたテーブルをROM内に持たせておき、そのテーブルを参照して演算する。
【0065】
ステップS804では、後輪軸の中心位置(図9の点P)の目標速度tVおよび後輪軸の中心位置の旋回半径の逆数値の目標値tρと目標すべり角βcから、左後輪モータおよび右後輪モータの目標回転速度tNRL,tNRRを次式で演算する。その際、次の関係に着目する。即ち、ステップS802で求めたtρとステップS803で求めた目標すべり角βcを実現するように車両が旋回するとき、車両の回転中心は図9の点Qとなり、したがって、点Pの移動速度がtVであるときに、左後輪の移動速度はtV*R1/R0(R1は左後輪と点Qとの距離、R0は点Pと点Qとの距離)、右後輪の移動速度はtV*R2/R0(R2は右後輪と点Qとの距離)となる関係にある。この関係を利用し、左後輪モータおよび右後輪モータの目標回転速度tNRL、tNRRを次式で演算する。
tNRL=tV/Rr*GG*sqrt(1-2tρLt cos(βc)+ tρ2Lt2)
tNRR=tV/Rr*GG*sqrt(1+2tρLt cos(βc)+ tρ2Lt2) …(C1)
ここでR1/R0,R2/R0の値は、図9に示す幾何学的関係から次のように導出できることを利用している。
R1/R0 = sqrt(1-2tρLt cos(βc)+ tρ2Lt2)
R2/R0 = sqrt(1+2tρLt cos(βc)+ tρ2Lt2)
ここでsqrtは平方根関数を意味する。
【0066】
ステップS805では、左後輪モータの回転速度NRLが左後輪モータの目標回転速度tNRLに近づくようにフィードバック制御する。例えば、次式のように比例制御を行ない、左後輪モータへのトルク指令値tTRLを演算する。Kp1は比例ゲインである。
tTRL=Kp1*(tNRL-NRL)
【0067】
ステップS806では、右後輪モータの回転速度NRRが右後輪モータの目標回転速度tNRRに近づくようにフィードバック制御する。例えば、次式のように比例制御を行ない、右後輪モータへのトルク指令値tTRRを演算する。Kp1はステップS805と同じ比例ゲインである。
tTRR=Kp1*(tNRR―NRR)
【0068】
ステップS807では、後輪操舵指令値tδrlおよびtδrrを演算する。ステップS802で求めたtρとステップS803で求めた目標すべり角βcに応じた車両の回転中心(図9の点Q)を基準として、後輪操舵指令値tδrlおよびtδrrを演算する。左後輪転舵角tδrlは、回転中心点Qと左後輪中心を結んだ線がタイヤの転がる向きと垂直をなすように図中Aの値を次式で演算し、
tδrl=tan-1{ sin(βc) / ( cos(βc)-tρLt ) }
右後輪転舵角tδrrは、回転中心点Qと右後輪中心を結んだ線がタイヤの転がる向きと垂直をなすように図中Bの値を次式で演算する。
tδrr=tan-1{ sin(βc) / ( cos(βc)+tρLt ) }
【0069】
以上の演算を行なうことにより、図12に示すように、旋回内輪の後輪近傍を旋回中心として車両を小回り旋回する動作ができるようになる。
【0070】
[従来の車体構造の問題点]
車両が障害物に前面衝突する際のエネルギーを効果的に吸収し、乗員への影響を抑える自動車としては、代表的なものとして図13の形態がある。この車両は、タイヤを車両の4隅にそれぞれ配し、車両前方からの衝撃に対して乗員を守るために、前輪の内側左右にサイドメンバー71L,71Rを有する形態である。前方からの衝撃を受けるとサイドメンバー71L,71Rが潰れてエネルギーを吸収する構造となっている。サイドメンバー71L,71Rは、構造体72R,72Lや補強材73R,73Lおよび補強材74R,74Lなどの部材を介してサイドシル76R,76Lに支えられて衝撃を受け止めるようになっている。
【0071】
ところが、従来の車体構造では、サイドメンバー71L,71Rから受ける衝撃をキャビン1側方のサイドシル76R,76Lで受け止めるために、構造体72R,72Lや補強材73R,73Lや補強材74R,74Lなどの部材が必要であり、補強の強度を保ちつつ車両を軽量化することが困難であった。
【0072】
[実施例1の衝撃吸収作用]
これに対し、実施例1の車体構造では、図3に示したように、衝撃吸収部材69L,69Rを車両前方側面に配置することで、前方から受ける衝撃のみでなく斜め前方から受ける衝撃も効果的に吸収できるようになった。特に、衝撃吸収部材69L,69Rが車両側面の高強度部材であるサイドシル61L,61Rに直接接合される形態としているため、衝撃吸収部材69L,69Rとサイドシル61L,61Rの間に補強材を必要とせず車体前部を軽量化することができ、車両の走行効率を向上させる効果も生まれる。
【0073】
前輪42については、1輪でステアリング機構を持たないため、製造コストを低減することができる。また、1輪であることで車両前部を軽量にでき、一層、車両の走行効率を向上させることができるようになった。
【0074】
さらに、左右の衝撃吸収部材69L,69Rの間に前輪42を配置するようにしたため、左右の衝撃吸収部材69L,69Rの前方に前輪を配する車両よりも、車両の全長を大幅に抑制することができるようになり、運転者が車両を運転しやすくなる効果も得られる。
【0075】
車両の運動に関しては、後輪2RL,2RRの外輪の駆動力を内輪の駆動力より大きくすることにより旋回動作を行なうようにしていることから、前輪42が1輪でステアリング機構を持たない構成でありながら、旋回できるようになっている。図12に示すような小回り動作も可能になった。また、後輪2RL,2RRに転舵機能を有し、運転者の操作に応じて転舵角を調整するようにしたことで、旋回姿勢も調整できるようになっている。
【0076】
さらに、前述の理由から車体前部が軽量であるために、車体の重心位置を後輪付近に設計することができ、このことも車両の運動性能を向上させる一因となっている(重心位置が後輪付近にあるほど、より大きな旋回力を発生できる(式A4において、Q33(0)/Qden(0)の値は、Lrが小さいほど大きくなることから、運動性能が向上する)。
【0077】
次に、効果を説明する。
実施例1の自動車の車体構造にあっては、以下に列挙する効果が得られる。
【0078】
(1) 衝撃吸収部材69L,69Rが車両側面のサイドシル61L,61Rに直接接合される構造であるため、衝撃吸収部材69L,69Rとサイドシル61L,61Rとの間に補強材を必要とせず車体前部を軽量化することができ、車両の走行効率を向上させる効果も生まれる。さらに、左右衝撃吸収部材69L,69Rの間に前輪42を配置するようにしたため、左右衝撃吸収部材69L,69Rの前方に車輪を配する車両よりも、車両の全長を大幅に抑制することができるようになり、運転者が車両を運転しやすくなる効果も得られる。
【0079】
(2) 後輪2RL,2RRは、電気モータ3RL,3RRにより駆動力を独立に調整可能であり、後輪2RL,2RRの駆動力差を調整して車両を旋回させる統合コントローラ30を備えるため、前輪42を1輪としステアリング機構を持たない構成としながら、運転者の操作に応じた所望の旋回動作を実現できる。
【0080】
(3) 後輪2RL,2RRを転舵させる転舵用モータ52RL,52RRおよびリンク51RL,51RRを備え、後輪2RL,2RRの転舵角を調整し、車両の姿勢を制御する統合コントローラ30を備えるため、運転者の操作に応じた車両姿勢を得ることができる。
【0081】
(4) 車両の重心位置を、後輪2RL,2RRの中点付近に設定したため、旋回力を大きくでき、車両の運動性能を向上させることができる。
【0082】
(5) 左右衝撃吸収部材69L,69Rは、車両斜め方向からの衝突エネルギーを吸収する構造部材であるため、前方衝突に対するキャビン1への影響を効果的に抑制できる。
【実施例2】
【0083】
図14は、実施例2の車体構造を示す図であり、キャビン1左右のサイドシル61L,61Rの車両前方延長上に衝撃吸収部材62L,62Rを配している。衝撃吸収部材62L,62Rは、角錐形状であり、中空構造になっている。特に先端(車両前方)部は強度を弱めた構造とすることで先端から潰れていく構造としている。
【0084】
車両が前方から障害物に衝突したときには、この潰れ変形によるエネルギー吸収作用により、衝突エネルギーを吸収し、乗員への衝突の影響を低減する。本構造のように、衝撃吸収部材62L,62Rを角錐形状とすると、車両斜め前方からの衝撃もより効果的に吸収することができる。
【実施例3】
【0085】
図15は、実施例3の車体構造を示す図である。
実施例3では、車輪4つをひし形に配し、車両前後方向中央の駆動輪9L,9Rを独立にモータ駆動すると共に転舵できるようにし、残りの2輪42,2を回転キャスターとしたものである。図14に示した3輪形態に対して、車両後端に一輪回転キャスター2を付加し、車両前端に設けた衝撃吸収部材62FL,62FRに加え、車両後端にも同様の衝撃吸収部材62RL,62RRを設けている。
【0086】
車両後端のキャスター2は、車両の旋回動作に影響を殆ど与えないことから、中2輪9L,9Rの左右駆動力と転舵量によって車両の旋回動作と旋回姿勢調整を実施例1と同様に実現できる。実施例3では、車両後端にも車両前端と同様の衝撃吸収部材62RL,62RRを設けているため、車両前方と斜め前方からの衝撃だけでなく、車両後方や車両斜め後方からの衝撃も効果的に吸収し、乗員を保護できる特徴がある。
【0087】
また、駆動輪9L,9Rを車両中央寄りに配置しているため、車両の前後重心位置をより駆動輪付近に近づけやすく、車としての自由度が高い上に、車両の運動性能も向上させることができるという特長もある。
【0088】
次に、効果を説明する。
実施例3の自動車の車体構造にあっては、実施例1の効果(2)〜(5)に加え、以下の効果が得られる。
【0089】
(6) 車両前方側の衝撃吸収部材62FL,62FRおよび車両後方側の衝撃吸収部材62RL,62RRが車両側面のサイドシル61L,61Rに直接接合される構造であるため、衝撃吸収部材62FL,62FR,62RL,62RRとサイドシル61L,61Rとの間に補強材を必要とせず車体前部および車体後部を軽量化することができ、車両の走行効率を向上させる効果も生まれる。さらに、車両前方側の衝撃吸収部材62FL,62FRの間に前輪42を配置し、車両後方側の衝撃吸収部材62RL,62RRの間に後輪2を配置するようにしたため、衝撃吸収部材の前方および後方に車輪を配する車両よりも、車両の全長を大幅に抑制することができるようになり、運転者が車両を運転しやすくなる効果も得られる。
【実施例4】
【0090】
図16は、実施例4の車体構造を示す図である。実施例4では、図14の前輪と後輪とを入れ替えた形態であり、前輪42L,42Rの左右駆動力と転舵量によって車両の旋回動作と旋回姿勢調整を実施例1と同様に実現できる。また、実施例4では、車両後端に、実施例1の前端同様の衝撃吸収構造(衝撃吸収部材62L,62R)を持たせているため、車両後方や車両斜め後方からの衝撃を効果的に吸収し、乗員を保護できる。
【0091】
実施例4の車両挙動としては、図17に示すように、旋回時に車両後端が外にはみ出る挙動となる特徴をもつ。旋回時に車両後端が旋回内側を通過する(いわゆる内輪差)を好まない車両の実現形態として適している。
【0092】
次に、効果を説明する。
実施例4の自動車の車体構造にあっては、実施例1の効果(2)〜(5)に加え、以下の効果が得られる。
【0093】
(7) 衝撃吸収部材62L,62Rが車両側面のサイドシル61L,61Rに直接接合される構造であるため、衝撃吸収部材62L,62Rとサイドシル61L,61Rとの間に補強材を必要とせず車体後部を軽量化することができ、車両の走行効率を向上させる効果も生まれる。さらに、左右衝撃吸収部材62L,62Rの間に後輪2を配置するようにしたため、左右衝撃吸収部材62L,62Rの後方に車輪を配する車両よりも、車両の全長を大幅に抑制することができるようになり、運転者が車両を運転しやすくなる効果も得られる。
【実施例5】
【0094】
実施例1〜4においては、駆動輪以外の車輪は回転キャスターとしているが、実施例5では、電気モータで転舵角を調整できる、いわゆるステアバイワイヤーシステムとした場合について説明する。
【0095】
この場合には、車輪の位置が進むべき向きに転舵角を調整するようにすればよい。例えば、実施例1における前輪42をステアバイワイヤーシステムとした場合、モードDおよびモードAの演算ルーチンを、以下のように変更することで実現できる。
【0096】
[モードD時の演算ルーチン]
図18は、実施例5のモードD時の演算ルーチンの流れを示すフローチャートで、図6に示した実施例1に対し、ステップS512に続いて、次のステップS513を実行する点で異なる。
【0097】
ステップS513では、前輪42の進むべき向きβfを演算する。前輪42の進むべき向きβfについては、ヨーレートγおよび滑り角βの応答がそれぞれ望ましい伝達特性(規範モデル)となる場合における、前輪位置の車体すべり角のβfとして次式で演算する。
βf = (β + (L-Lr)γ/V)
= {m1/(s2+2wns+wn2)} Win + {(L-Lr) m2/(s2+2wns+wn2)/V}δ …(E1)
ここで、Lは、前輪42と後輪2L,2Rとの距離(ホイールベース長)である。また本演算は、{m1/(s2+2wns+wn2)} Win の項と、{(L-Lr) m2/(s2+2wns+wn2)/V}δの項とを、前述のyx1,yx2,yx3,yx4などと同様にそれぞれ演算し、その項の和を足し算することで演算する。なお、0割を防止する意味で車速Vについては最小値をVmin(例えば、1m/s)に制限して演算を行なう。
【0098】
次に前輪42の転舵角がβfと一致するように転舵角調整用の電気モータをフィードバック制御する。
【0099】
[モードA時の演算ルーチン]
図19は、実施例5のモードA時の演算ルーチンの流れを示すフローチャートで、図8に示した実施例1に対し、ステップS807に続いて、次のステップS808を実行する点で異なる。
【0100】
ステップS808では、前輪42の進むべき向きβfを演算する。βfについては図9に示すCの角度として、幾何学的関係から次式で演算する。
βf =tan-1{ tρL+sin(βc) / cos(βc) }
【0101】
次に、前輪42の転舵角がβfと一致するように転舵角調整用の電気モータをフィードバック制御する。
【0102】
以上の処理を行なうことで、回転キャスター(前輪42)をステアバイワイヤーシステムとしても同等の動きを実現することができる。ステアバイワイヤーシステムとした場合には、前輪42の転舵角を制御下に置くことができるため、転舵角をある制限(例えば左右に90度に制限)内に留めることができる。よって、前輪42のホイールスペースを小さくでき、その分キャビン1を広くすることもできるようになる。また、路面摩擦係数の変化などにより車両姿勢が望ましい応答からずれようとした場合にも、車両姿勢が望ましい応答に近づくような力が前輪に作用する為、より安定な車両運動性能を実現することができるようになる。
【0103】
(他の実施例)
以上、本発明を実現するための最良の形態を、実施例1〜5に基づいて説明したが、本発明の具体的な構成は、各実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても本発明に含まれる。
【0104】
例えば、実施例では、前後の衝撃吸収材が受ける力をサイドシルで受け止める構成を示しているが、それに限らず、他にもAピラーやドアの構造体で受け止める構造としても良い。
【0105】
また実施例では、キャスター輪にあたる前輪および後輪を1輪ずつの形態としているが、左右の衝撃吸収材の間に複数輪(たとえば2輪)を左右あるいは前後に並べた形態としても構わない。さらに、車両の駆動形態は、実施例に示した電気自動車の車体構造に限られるものではない。燃料電池を備えた燃料電池車やハイブリッド電気自動車にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】実施例1の車両を走行させるための車両制御システム構成図である。
【図2】実施例1の前輪を示す側面図および平面図である。
【図3】実施例1の車両の車体構造を示す図である。
【図4】実施例1の統合コントローラ30にて実行されるモード選択制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】実施例1の統合コントローラでのモードD時における演算方法を説明する図である。
【図6】実施例1でのモードD時の演算ルーチンを示すフローチャートである。
【図7】実施例1でのモードD時の演算ルーチンにて使用する目標駆動力tTDのROMデータ特性図である。
【図8】実施例1でのモードA時の演算ルーチンを示すフローチャートである。
【図9】実施例1でのモードA時の演算方法を説明する図である。
【図10】実施例1でのモードA時の演算ルーチンにて使用する旋回半径の逆数値目標値tρのROMデータ特性図である。
【図11】実施例1でのモードA時の演算ルーチンにて使用する目標すべり各βcのROMデータ特性図である。
【図12】実施例1での旋回挙動例を示す図である。
【図13】従来技術を説明する図である。
【図14】実施例2の車両の車体構造を示す図である。
【図15】実施例3の車両の車体構造を示す図である。
【図16】実施例4の車両の車体構造を示す図である。
【図17】実施例4の旋回挙動例を示す図である。
【図18】実施例5でのモードD時の演算ルーチンを示すフローチャートである。
【図19】実施例5でのモードA時の演算ルーチンを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0107】
1 キャビン
2RL,2RR 後輪
3RL,3RR 電気モータ
4RL,4RR 減速機
5RL,5RR 駆動回路
6 リチウムイオンバッテリ
8 ヨーレートセンサ
11 ステアリングホイール
21 操舵角センサ
22 ブレーキペダルセンサ
23 アクセルペダルセンサ
24 加速度センサ
25 シフトバー
26 変位角センサ
30 統合コントローラ
41 転舵回転軸
42 前輪
43 回転中心点
44 部位
45 中空支持部
49 前輪回転センサ
61L,61R サイドシル
69L,69R 衝撃吸収部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員が乗るキャビンと、
このキャビン左右の車体前後方向にそれぞれ配置された構造部材と、
この左右構造部材の車体前方側に左右各々接合され、車両前方からの衝突エネルギーを吸収する衝撃吸収部材と、
この左右衝撃吸収部材の間に配置された前輪と、
車体後方側の左右に配置された駆動輪と、
を備えることを特徴とする自動車の車体構造。
【請求項2】
乗員が乗るキャビンと、
このキャビン左右の車体前後方向にそれぞれ配置された構造部材と、
この左右構造部材の車体後方側に左右各々接合され、車両後方からの衝突エネルギーを吸収する衝撃吸収部材と、
この左右衝撃吸収部材の間に配置された後輪と、
車体前方側の左右に配置された駆動輪と、
を備えることを特徴とする自動車の車体構造。
【請求項3】
乗員が乗るキャビンと、
このキャビン左右の車体前後方向にそれぞれ配置された構造部材と、
この左右構造部材の車体前方側および車体後方側に左右各々接合され、車体前方からの衝突エネルギーを吸収する衝撃吸収部材と、
車両前方側の左右衝撃吸収部材の間に配置された前輪と、
車両後方側の左右衝撃吸収部材の間に配置された後輪と、
前記前輪と後輪の間であって、車体の左右に配置された駆動輪と、
を備えることを特徴とする自動車の車体構造。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の自動車の車体構造において、
前記左右駆動輪は、駆動力を独立に調整可能であり、
前記左右駆動輪の駆動力差を調整して車両を旋回させる駆動力差制御手段を備えることを特徴とする自動車の車体構造。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の自動車の車体構造において、
前記左右駆動輪を転舵させる駆動輪転舵手段を備え、
前記駆動輪の転舵角を調整し、車両の姿勢を制御する車両姿勢制御手段を備えることを特徴とする自動車の車体構造。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の自動車の車体構造において、
車両の重心位置を、前記左右駆動輪の中点付近に設定したことを特徴とする自動車の車体構造。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の自動車の車体構造において、
前記左右衝撃吸収部材は、車両斜め方向からの衝突エネルギーを吸収する構造部材であることを特徴とする自動車の車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2006−130985(P2006−130985A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−319758(P2004−319758)
【出願日】平成16年11月2日(2004.11.2)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】