説明

薬液処理装置および薬液処理方法

【課題】高温の薬液による処理により基板の裏面をエッチングする際に、エッチングの均一性を高くすることができる基板処理装置を提供すること。
【解決手段】基板であるウエハWに形成された膜を高温薬液によるエッチングにより除去する薬液処理装置1は、ウエハWを裏面を下側にして水平にした状態で回転可能に保持するスピンチャック3と、スピンチャック3を鉛直に延びる中空の回転軸12を介して回転させる回転機構4と、回転軸12の中に設けられ下方から上方に向けて高温薬液を吐出してウエハW裏面に高温薬液を供給する薬液吐出ノズル5と、薬液吐出ノズル5に薬液を供給する薬液供給機構6とを具備し、薬液吐出ノズル5は、薬液を吐出し、ウエハW裏面の中心以外の、互いにウエハW裏面の中心からの距離が異なる位置に高温薬液を当てる複数の吐出口18a,18b,18cを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハ等の基板に形成された膜を高温の薬液でエッチング除去する薬液処理装置および薬液処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造工程においては、被処理基板である半導体ウエハ(以下、単にウエハと記す)に形成された膜を薬液によりエッチング除去する処理が存在する。例えばハードマスクとして用いられるSiN膜をフッ酸で除去する処理や、Si系膜をアンモニアやアンモニア過水(SC1)で除去する。
【0003】
このような処理を枚葉式で行う場合、スピンチャックに保持したウエハを回転させながらウエハに薬液を供給するが、ウエハの裏面のエッチングにおいては、スピンチャックの中心から下方に延びる中空の回転軸の中にノズルを設け、このノズルから上方へ薬液を吐出し、回転しているウエハの裏面中心から外周に広げて薬液処理を行う(例えば特許文献1)。
【0004】
ところで、このような薬液によるエッチング処理においては、処理のスループットを上昇させる観点から、常温よりも高温、例えば50℃以上とした高温薬液を用いて、エッチング速度を上昇させることが行われている。しかしながら、上記特許文献1に開示された技術のように、ウエハの裏面中心に高温の薬液を吐出する場合には、ウエハの裏面中心では薬液温度が高く、ウエハの外周に広がっていく過程で薬液の温度が低下するため、ウエハ中心のエッチング量が大きくなり、ウエハの外周ではエッチング量が低下し、エッチングの均一性が低いという問題がある。そして、最近のウエハの大型化にともなって、このような傾向は益々顕著なものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平07−326569号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、高温の薬液による処理により基板の裏面をエッチングする際に、エッチングの均一性を高くすることができる薬液処理装置および薬液処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の第1の観点では、基板に形成された膜を高温薬液によるエッチングにより除去する薬液処理装置であって、基板を裏面を下側にして水平にした状態で回転可能に保持する基板保持機構と、前記保持機構を鉛直に延びる中空の回転軸を介して回転させる回転機構と、下方から上方に向けて高温薬液を吐出して基板裏面に高温薬液を供給する薬液吐出ノズルと、前記薬液吐出ノズルに薬液を供給する薬液供給機構とを具備し、前記薬液吐出ノズルは、薬液を吐出し、基板裏面の中心以外の、互いに基板裏面の中心からの距離が異なる位置に前記高温薬液を当てる複数の吐出口を有することを特徴とする薬液処理装置を提供する。
【0008】
上記第1の観点において、前記薬液吐出ノズルは、前記回転軸の中に設けられ、鉛直に延びるノズル孔を有し、前記複数の吐出口は、前記ノズル孔に接続されている構成とすることができる。
【0009】
また、少なくとも一つの吐出口は、そこから吐出された薬液の基板裏面に当たる位置が、薬液が当たった後の基板裏面での薬液の広がりにより、薬液が基板裏面の中心に届くような位置になるように設けられている構成とすることができる。また、複数の薬液吐出口は、これらから吐出された薬液の基板裏面に当たる位置が、薬液が当たった後に基板裏面で薬液が広がった際に、基板裏面の熱履歴が面内で均一になる位置になるように設けられている構成とすることができる。この場合に、一つの吐出口から薬液が吐出され、基板裏面に当たって広がった際に温度が下がり始める位置に他の吐出口からの薬液が当たるようにすることにより、基板裏面の熱履歴を面内でより均一にすることができる。
【0010】
また、前記薬液吐出ノズルは、その上端部が基板支持部となっており、昇降可能に設けられ、前記基板支持部に前記複数の吐出口が形成されており、前記薬液吐出ノズルを上昇させた搬送位置で前記支持部に対する基板の授受が行われ、かつ処理中には下降位置に位置され、処理後に上昇して基板を前記搬送位置に上昇させる構成とすることができる。
【0011】
また、前記基板保持部に保持された基板の上方にスキャン可能に設けられ、基板表面に薬液を吐出する表面薬液吐出ノズルと、前記表面薬液吐出ノズルに薬液を供給する表面薬液供給機構とをさらに具備し、基板の表面および裏面に高温薬液を供給してエッチング処理を行う構成とすることができる。
【0012】
本発明の第2の観点では、基板に形成された膜を高温薬液によるエッチングにより除去する薬液処理方法であって、基板を裏面を下側にして水平にした状態で保持する工程と、その状態の基板を回転させつつ、下方から上方に向けて高温薬液を吐出して基板裏面に高温薬液を供給する工程とを有し、前記高温薬液を供給する際に、基板裏面の中心以外の、互いに基板裏面の中心からの距離が異なる複数の位置に前記高温薬液を当てることを特徴とする薬液処理方法を提供する。
【0013】
上記第2の観点において、少なくとも一つの薬液が基板裏面に当たる位置が、薬液が当たった後の基板裏面での薬液の広がりにより、薬液が基板裏面の中心に届くような位置とすることができる。また、薬液が基板裏面に当たる前記複数の位置が、薬液が当たった後に基板裏面で薬液が広がった際に、基板裏面の熱履歴が面内で均一になる位置とすることができる。この場合に、基板裏面の一つの位置に薬液が当たって広がった際に温度が下がり始める位置が、薬液が当たる他の位置になるようにすることで、基板裏面の熱履歴が面内でより均一になるようにすることができる。
【0014】
上記第2の観点において、基板裏面に高温薬液を供給する際に、基板表面に高温薬液をスキャンさせながら吐出させる工程をさらに有するようにすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、裏面を下側にして水平にした状態にした基板を回転させつつ、薬液吐出ノズルにより下方から上方に向けて高温薬液を吐出して基板裏面に高温薬液を供給する際に、薬液吐出ノズルとして、薬液を吐出し、基板裏面の中心以外の、互いに基板裏面の中心からの距離が異なる位置に高温薬液を当てる複数の吐出口を有するものを用いたので、高温薬液が基板裏面の中心に当たって基板裏面中心の温度が高くなることを防止しつつ、短時間で高温薬液を基板全面に行き渡らせることができる。このため、基板裏面の面内温度差を小さくすることができ、高いエッチング速度でエッチングすることができる高温薬液により均一性の高いエッチングを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る薬液処理装置の概略構成を示す断面図である。
【図2】図1の薬液処理装置に用いられた薬液吐出ノズルの断面図である。
【図3】図1の薬液処理装置に用いられた薬液吐出ノズルの平面図である。
【図4】図1の薬液処理装置に設けられた制御部の構成を示すブロック図である。
【図5】図1の薬液処理装置における処理動作を説明するための図である。
【図6】従来の薬液吐出ノズルの断面図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る薬液処理装置の概略構成を示す断面図である。
【図8】薬液吐出ノズルの変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について具体的に説明する。
【0018】
<第1の実施形態>
まず、第1の実施形態について説明する。
図1は本発明の第1の実施形態に係る薬液処理装置の概略構成を示す断面図である。ここでは、基板として半導体ウエハ(以下単にウエハと記す)を用い、その裏面に形成された膜を高温薬液でエッチング除去する場合について説明する。
【0019】
この薬液処理装置1は、チャンバ(図示せず)と、チャンバのベースとなるベースプレート2と、チャンバ内に設けられたスピンチャック(基板保持機構)3と、スピンチャック3を回転させる回転機構4と、薬液を吐出する薬液吐出ノズル5と、薬液吐出ノズル5に薬液を供給する薬液供給機構6と、排液を受け止める排液カップ7とを有している。
【0020】
スピンチャック3は、回転プレート11と、回転プレート11の中央部に接続された回転軸12と、回転プレート11の周縁に3個等間隔で取り付けられたウエハWを保持する保持ピン13とを有している。保持ピン13は、ウエハWが回転プレート11から浮いた状態で保持するようになっており、ウエハWを保持する保持位置と後方に回動して保持を解除する解除位置との間で移動可能となっている。そして、スピンチャック3は、ウエハWを裏面を下側にして水平にした状態で保持するようになっている。ここで、ウエハWの裏面とは、ウエハWのデバイスが形成されていない面をいう。
【0021】
回転機構4は、モータ14と、モータ14により回転されるプーリー15と、プーリー15と回転軸12の下端に巻き掛けられたベルト16とを有し、モータ14の回転によりプーリー15およびベルト16を介して回転軸12を回転するようになっている。
【0022】
回転軸12は円筒状(中空)をなしベースプレート2を貫通して下方に延びている。回転プレート11の中心部には、回転軸12内の孔12aに連通する円形の孔11aが形成されている。そして、薬液吐出ノズル5は、孔12aおよび孔11a内を昇降可能に設けられている。
【0023】
図2、図3に示すように、薬液吐出ノズル5は、その内部に長手方向に沿って延びるノズル孔18が形成されており、薬液吐出ノズル5の上端部を構成する後述するウエハ支持部19には、ノズル孔18に連続する3つの吐出口18a、18b、18cが接続されている。そして、薬液供給機構6からの薬液がノズル孔18を介して上方に供給され、3つの吐出口18a、18b、18cからウエハWの裏面へ吐出されるようになっている。これら吐出口18a、18b、18cは、ウエハW裏面の中心以外の、互いにウエハW裏面の中心からの距離が異なる位置に薬液が当たるように設けられている。
【0024】
具体的には、吐出口18aは例えば45°程度の角度で設けられ、ウエハW裏面の中心に近い位置に吐出した薬液が当たるようになっており、吐出口18cは例えば5°程度の角度で設けられ、ウエハW裏面の外縁に近い位置に吐出した薬液が当たるようになっている。吐出口18bは例えば15°程度の角度で設けられ、上記2つの吐出口から吐出された薬液が当たる位置の中間位置に薬液が当たるようになっている。
【0025】
これら吐出口18a、18b、18cは、薬液がウエハWの裏面に当たった後の薬液の広がりによって、薬液がウエハWの裏面の全面を速やかに覆うように形成されることが好ましい。例えば、ウエハWの直径が300mmの場合には、薬液が当たる位置を中心から15mm、60mm、130mmの位置に設けることが好ましい。
【0026】
少なくとも一つの吐出口、例えばウエハW裏面の中心に最も近い位置に薬液を吐出する吐出口18aは、そこから吐出された薬液がウエハWの裏面に当たる位置が、薬液が当たった後のウエハW裏面での薬液の広がりにより、薬液がウエハW裏面の中心に届くような位置になるように設けられていることが好ましい。これにより、薬液はウエハW裏面の中心には当たらないが、薬液によりウエハ裏面の中心を洗浄することができる。
【0027】
吐出口18a、18b、18cは、これらから吐出された薬液のウエハW裏面に当たる位置が、薬液が当たった後にウエハW裏面で薬液が広がった際に、ウエハW裏面の熱履歴が面内で均一になる位置になるように設けられていることがより好ましい。具体的には、ある吐出口から吐出された薬液がウエハW裏面に当たって広がった際には、当たった部分の温度が最も高く、そこから所定距離だけ離れた位置で温度が下がり始めるから、一つの吐出口から薬液が吐出され、ウエハW裏面に当たって広がった際に温度が下がり始める位置に他の吐出口からの薬液が当たるようにすることにより、ウエハW裏面の熱履歴をより均一なものとすることができる。
【0028】
薬液吐出ノズル5はウエハ昇降部材としての機能を兼備しており、薬液吐出ノズル5の上端部がウエハWを支持するウエハ支持部19となっている。ウエハ支持部19は杯状に上方に広がっており、その上面には、ウエハWを支持するための3本のウエハ支持ピン19a(2本のみ図示)が設けられている。そして、薬液吐出ノズル5の下端には接続部材20を介してシリンダ機構21が接続されており、このシリンダ機構21によって薬液吐出ノズル5を昇降させることによりウエハWを昇降させてウエハWのローディングおよびアンローディングが行われる。ウエハWに薬液を供給する際には、ウエハ支持部19は、その上面の高さ位置が回転プレート11の上面の高さ位置とほぼ同じになるように位置調節される。
【0029】
薬液供給機構6は、薬液吐出ノズル5の下端に接続された薬液配管22と、この薬液配管22に接続された高温薬液を貯留する高温薬液タンク23と、薬液配管22に設けられた開閉バルブ24とを有している。高温薬液タンク23にはヒーター23aが設けられ、図示しないコントローラによりヒーター23aを制御して高温薬液タンク23内の薬液を所定の温度に保つようになっている。ここで、高温とは20〜25℃の常温よりも高い温度を意味し、典型的には50℃以上をさす。ただし、あまり高くても薬液が揮発してしまうため、薬液によっても異なるが80℃程度が上限となる。薬液としてはフッ酸(HF)、アンモニア、アンモニア過水(SC1)等を挙げることができる。これらのうちフッ酸(HF)はウエハWに形成された膜がSiN膜のときに用いられ、アンモニアやアンモニア過水(SC1)はSi系膜、例えばポリシリコン膜のときに用いられる。
【0030】
薬液配管22にはリンス液配管25が接続されている。リンス液配管25はリンス液である純水(DIW)を供給する純水供給源26に接続されている。リンス液配管25には、開閉バルブ27が設けられている。そして、純水供給源26からリンス液配管25および薬液配管22を介して薬液吐出ノズル5のノズル孔18に純水を供給し吐出口18a、18b、18cから純水を吐出することにより、ウエハW裏面に対して薬液処理後のリンス処理が行われるようになっている。
【0031】
排液カップ7は、回転プレート11の外側に、回転プレート11に保持されたウエハWの周縁部を囲繞するように設けられており、ウエハWから飛散した排液を受け止める機能を有している。排液カップ7の底部には排液口7aが形成されており、排液口7aには下方に延びる排液配管28が接続されている。
【0032】
薬液処理装置1は制御部30を備えている。この制御部30は、図4のブロック図に示すように、コントローラ31と、ユーザーインターフェース32と、記憶部33とを有している。コントローラ31は、マイクロプロセッサ(コンピュータ)からなり、薬液処理装置1の各構成部、例えば開閉バルブ24,27、モータ14、シリンダ機構21等を制御する。ユーザーインターフェース32はコントローラ31に接続され、オペレータが薬液処理装置1を管理するためにコマンド等の入力操作を行うキーボードや、薬液処理装置1の稼働状況を可視化して表示するディスプレイ等からなる。記憶部33もコントローラ31に接続され、その中に薬液処理装置1の各構成部の制御対象を制御するためのプログラムや、薬液処理装置1に所定の処理を行わせるためのプログラムすなわち処理レシピが格納されている。処理レシピは記憶部33の中の記憶媒体(図示せず)に記憶されている。記憶媒体は、ハードディスクのような固定的なものであってもよいし、CDROM、DVD、フラッシュメモリ等の可搬性のものであってもよい。また、他の装置から、例えば専用回線を介してレシピを適宜伝送させるようにしてもよい。そして、コントローラ31は、必要に応じて、ユーザーインターフェース32からの指示等にて所定の処理レシピを記憶部33から呼び出して実行させることで、コントローラ31の制御下で、所定の処理が行われる。
【0033】
次に、このような薬液処理装置1によりウエハW裏面の膜をエッチング除去する動作について説明する。
図5はこのようなウエハ裏面の膜をエッチング除去する際の動作を説明するための模式図である。
【0034】
まず、図5の(a)に示すように、薬液吐出ノズル5を上昇させた状態で、図示しない搬送アームからウエハ支持部19の支持ピン19a上にウエハWを受け渡す。次いで、図5の(b)に示すように、薬液吐出ノズル5を、ウエハWを保持部材13により保持可能な位置まで下降させ、保持部材13によりウエハWをチャッキングする。
【0035】
この状態で、図5の(c)に示すように、回転機構4によりスピンチャック3をウエハWとともに回転させながら、薬液吐出ノズル5から高温薬液を供給してエッチング処理を行う。このときのウエハWの回転数は300〜1000rpm程度とする。
【0036】
このとき、薬液は3つの吐出口18a、18b、18cからウエハWの裏面へ吐出され、ウエハW裏面に当たった薬液はウエハWの回転にともなってウエハW裏面の全面に広がり、エッチング処理が進行する。
【0037】
従来は、図6に示すように、薬液吐出ノズル5として、ノズル孔18の先端に1個の吐出口18dが設けられ、吐出口18dからウエハW裏面の中心に薬液を吐出するものが用いられていたが、このような薬液吐出ノズルを用いて高温薬液でエッチング処理を行う場合には、吐出した高温薬液はウエハWの裏面中心に当たり続け、しかもウエハW裏面の中心は熱が逃げにくいので、その部分の温度は高くなるのに対し、ウエハWの回転によりウエハW裏面の中心から外側に広がる薬液は外側に行くほど時間の経過により温度が低下し、しかもウエハW裏面の外周部分は熱が逃げやすいので、ウエハW裏面の温度は外側に行くほど中心に比べて温度が低下する。このため、ウエハW裏面の中央部と外周部とではエッチング量が大きく異なることとなる。特に、最近のウエハWの大型化により、このような傾向が顕著となる。
【0038】
これに対し、本実施形態の場合には、これら吐出口18a、18b、18cはウエハW裏面の中心以外の、互いにウエハW裏面の中心からの距離が異なる位置に薬液が当たるように設けられているため、特定の箇所、特にウエハW裏面中心の温度が高くなることを防止しつつ、短時間で高温薬液をウエハW全面に行き渡らせることができる。すなわち、吐出口から吐出した高温薬液がウエハW裏面の中心以外に当たるようになっているため、高温薬液はウエハW裏面の中心には直接は当たらず、薬液が当たった位置から広がって供給されるだけであるので、ウエハW裏面の中心の温度上昇が緩和される。しかも互いにウエハW裏面の中心からの距離が異なる位置に薬液が当たるように複数の吐出口が設けられているため、高温薬液を短時間でウエハW裏面の全面に到達させることができ、ウエハW裏面の面内温度差を小さくすることができる。このため、高温薬液による高いエッチング速度を維持しつつ、ウエハW裏面におけるエッチング量のばらつきを小さくしてエッチングの均一性を高めることができる。
【0039】
また、吐出口18a、18b、18cは、回転軸12の内部に設けられた薬液吐出ノズル5のノズル孔に連続するように、薬液吐出ノズル5の上端部を構成するウエハ支持部19に、薬液が所望の角度でウエハWに供給されるように形成されており、薬液を吐出するための特別な部品を設ける必要がないので、回転プレートとウエハWとの間の距離を小さくすることができる。また、回転軸12の内部に設けられた薬液吐出ノズル5の一本のノズル孔18に接続するように、吐出口18a、18b、18cを所定の角度で設けるだけであるので、構造が簡単である。さらに、薬液吐出ノズル5の上端部がウエハ支持部19になっており、そこに吐出口18a、18b、18cが形成されているので、これらを別個に設ける場合よりも部品点数を少なくすることができる。
【0040】
以上のような高温薬液によるエッチング処理が終了後、高温薬液の供給を停止し、図5の(d)に示すように、ウエハWを300〜1000rpm程度の回転数で回転させながらリンス液としての純水(DIW)を薬液吐出ノズル5の吐出口18a、18b、18cからウエハW裏面に供給してリンス処理を行う。その後、図5の(e)に示すように、純水の供給を停止し、ウエハWを500〜1000rpm程度の回転数で回転して振り切り乾燥した後、図5の(f)に示すように、保持部材13を退避させ、薬液吐出ノズル5を上昇させて、ウエハ支持部19によりウエハWを上昇させ、図示しない搬送アームによりウエハWを搬出する。
【0041】
次に、本実施形態の効果を確認した実験について説明する。
ここでは、フッ酸(HF)によりウエハW裏面のSiN膜をエッチングした例について説明する。
【0042】
ここでは、従来のウエハ裏面中心に薬液を吐出する薬液吐出ノズルを用いた常温(25℃)のフッ酸(HF)によるエッチング(実験1)、同じく従来の薬液吐出ノズルを用いた高温(60℃)フッ酸によるエッチング(実験2)、および本実施形態の薬液吐出ノズルを用いた高温(60℃)フッ酸によるエッチング(実験3)を行った。このときの条件は、ウエハWの回転数:1000rpm、フッ酸供給量:1.5L/min、時間:30secとした。
【0043】
その際のエッチング量をウエハ裏面全面の49点で測定した。その際のエッチング量の最大値(Max)、最小値(Min)、平均値(Ave)、レンジ(Renge)、ばらつき(Renge/2Ave)を表1に示す。表1に示すように、従来の薬液吐出ノズルを用いても薬液温度が常温の場合(実験1)には、エッチング量の面内ばらつきは小さいが、エッチング量自体が極めて少ない。これに対して、薬液温度を60℃にした実験2では、エッチング量が多くなるものの、ウエハ裏面中心のエッチング量が多く、外周部のエッチング量が少ないため、エッチング量のばらつきが15.0%と極めて大きい値となった。これに対して、本実施形態の薬液吐出ノズルを用いて高温(60℃)フッ酸によるエッチングを行った実験3では、エッチング量のばらつきが10.1%とエッチングの面内均一性が高まることが確認された。また、エッチング量の平均値も実験2よりも高いものとなった。この結果から、本実施形態の効果が確認された。
【0044】
【表1】

【0045】
<第2の実施形態>
次に、第2の実施形態について説明する。
図7は本発明の第2の実施形態に係る薬液処理装置の概略構成を示す断面図である。本実施形態では、第1の実施形態と同様にウエハW裏面のエッチングを実施すると同時に、ウエハW表面(デバイス形成面)のエッチングも行う表裏面処理装置であり、図1の薬液処理装置と同じものには同じ符号を付して説明を省略する。
【0046】
本実施形態の薬液処理装置1′は、図1に示す第1の実施形態の薬液処理装置1に、ウエハWの表面に高温薬液を供給する表面薬液吐出ノズル8と、表面薬液吐出ノズル8へ高温薬液を供給する表面薬液供給機構6′が付加されている。
【0047】
表面薬液吐出ノズル8は、ウエハW表面の上方に設けられ、図示しない駆動機構によりスキャン可能となっている。また、表面薬液供給機構6′は、表面薬液吐出ノズル8に接続された薬液配管41と、この薬液配管41に接続された高温薬液を貯留する高温薬液タンク42と、薬液配管41に設けられた開閉バルブ43とを有している。高温薬液タンク42にはヒーター42aが設けられ、図示しないコントローラによりヒーター42aを制御して高温薬液タンク42内の薬液を所定の温度に保つようになっている。
【0048】
薬液配管41にはリンス液配管44が接続されている。リンス液配管44はリンス液である純水(DIW)を供給する純水供給源45に接続されている。リンス液配管44には、開閉バルブ46が設けられている。そして、純水供給源45からリンス液配管44および薬液配管41を介して表面薬液吐出ノズル8に純水を供給し表面薬液吐出ノズル8から純水を吐出することにより、ウエハWの表面に対して薬液処理後のリンス処理が行われるようになっている。
【0049】
この第2の実施形態の薬液処理装置1′においては、スキャン可能な表面薬液吐出ノズル8を有しているので、ウエハW表面の温度の均一性が良好になるように表面薬液ノズル8をスキャンしながらウエハW表面に高温薬液を吐出することができる。例えば、温度が高くなりやすいウエハW表面の中心への高温薬液の供給時間をウエハW裏面の外周部よりも短くする等により温度均一性を高めることができる。
【0050】
裏面側の薬液吐出ノズル5が従来のようにウエハW裏面の中心に高温薬液を吐出するタイプの場合には、上述したようにウエハW裏面の温度のばらつきが大きくなり、表面側にもその影響が及ぼされるため、表面側薬液吐出ノズル8をスキャンさせてもウエハW表面における温度の均一性に限界があり、ウエハW表面側において十分なエッチング均一性を得られないおそれがあったが、本実施形態では、裏面側の薬液吐出ノズル5には、ウエハWの中心以外の、互いにウエハWの中心からの距離が異なる位置に薬液が当たるように3つの吐出口18a、18b、18cが設けられているため、ウエハW裏面の温度均一性を高めることができ、ウエハW表面のエッチング均一性をより高めることができる。
【0051】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されることなく、種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、薬液吐出ノズル5に3つの吐出口を設けた例を示したが、吐出口は複数であればよく、2つでも4つ以上でもよい。
【0052】
また、上記実施形態では、一つのノズル孔に複数の吐出口を設けた場合について示したが、複数のノズル孔を設け、各ノズル孔に複数の吐出口を設けてもよい。例えば、図8に示すように、薬液吐出ノズル5の内部に長手方向に沿って延びる3本のノズル孔48a、48b、48cを設け、これらノズル孔48a、48b、48cのそれぞれに、吐出口18a、18b、18cが接続されるようにし、薬液タンクからノズル孔48a、48b、48cへ、それぞれ薬液配管22a、22b、22cを介して個別的に薬液を供給するようにし、これら薬液配管22a、22b、22cに個別的に流量制御器49a、49b、49cを設けるように構成することができる。これにより、各吐出孔から吐出する薬液の流量を別個に調整することができ、ウエハW裏面の温度制御をよりきめ細かく行うことができる。
【0053】
さらに、エッチング対象膜と高温薬液の組み合わせは上記例に限るものではない。さらにまた、上記実施形態では被処理基板として半導体ウエハを用いた場合について示したが、液晶表示装置(LCD)用のガラス基板に代表されるフラットパネルディスプレイ(FPD)用の基板等、他の基板に適用可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0054】
1、1′;薬液処理装置
2;ベースプレート
3;スピンチャック
4;回転機構
5;薬液吐出ノズル
6、6′;薬液供給機構
7;排液カップ
8;表面薬液吐出ノズル
11;回転プレート
12;回転軸
13;保持ピン
14;モータ
18;ノズル孔
18a、18b、18c;吐出口
19;ウエハ支持部
19a;ウエハ支持ピン
21;シリンダ機構
22、41;薬液配管
23、42;高温薬液タンク
28;排液配管
30;制御部
31;コントローラ
32;ユーザーインターフェース
33;記憶部
W;半導体ウエハ(基板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に形成された膜を高温薬液によるエッチングにより除去する薬液処理装置であって、
基板を裏面を下側にして水平にした状態で回転可能に保持する基板保持機構と、
前記保持機構を鉛直に延びる中空の回転軸を介して回転させる回転機構と、
下方から上方に向けて高温薬液を吐出して基板裏面に高温薬液を供給する薬液吐出ノズルと、
前記薬液吐出ノズルに薬液を供給する薬液供給機構と
を具備し、
前記薬液吐出ノズルは、薬液を吐出し、基板裏面の中心以外の、互いに基板裏面の中心からの距離が異なる位置に前記高温薬液を当てる複数の吐出口を有することを特徴とする薬液処理装置。
【請求項2】
前記薬液吐出ノズルは、前記回転軸の中に設けられ、鉛直に延びるノズル孔を有し、前記複数の吐出口は、前記ノズル孔に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の薬液処理装置。
【請求項3】
少なくとも一つの吐出口は、そこから吐出された薬液の基板裏面に当たる位置が、薬液が当たった後の基板裏面での薬液の広がりにより、薬液が基板裏面の中心に届くような位置になるように設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の薬液処理装置。
【請求項4】
複数の薬液吐出口は、これらから吐出された薬液の基板裏面に当たる位置が、薬液が当たった後に基板裏面で薬液が広がった際に、基板裏面の熱履歴が面内で均一になる位置になるように設けられていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の薬液処理装置。
【請求項5】
一つの吐出口から薬液が吐出され、基板裏面に当たって広がった際に温度が下がり始める位置に他の吐出口からの薬液が当たるようにすることを特徴とする請求項4に記載の薬液処理装置。
【請求項6】
前記薬液吐出ノズルは、その上端部が基板支持部となっており、昇降可能に設けられ、前記基板支持部に前記複数の吐出口が形成されており、前記薬液吐出ノズルを上昇させた搬送位置で前記支持部に対する基板の授受が行われ、かつ処理中には下降位置に位置され、処理後に上昇して基板を前記搬送位置に上昇させることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の薬液処理装置。
【請求項7】
前記基板保持部に保持された基板の上方にスキャン可能に設けられ、基板表面に薬液を吐出する表面薬液吐出ノズルと、前記表面薬液吐出ノズルに薬液を供給する表面薬液供給機構とをさらに具備し、基板の表面および裏面に高温薬液を供給してエッチング処理を行うことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の薬液処理装置。
【請求項8】
基板に形成された膜を高温薬液によるエッチングにより除去する薬液処理方法であって、
基板を裏面を下側にして水平にした状態で保持する工程と、
その状態の基板を回転させつつ、下方から上方に向けて高温薬液を吐出して基板裏面に高温薬液を供給する工程とを有し、
前記高温薬液を供給する際に、基板裏面の中心以外の、互いに基板裏面の中心からの距離が異なる複数の位置に前記高温薬液を当てることを特徴とする薬液処理方法。
【請求項9】
少なくとも一つの薬液が基板裏面に当たる位置が、薬液が当たった後の基板裏面での薬液の広がりにより、薬液が基板裏面の中心に届くような位置であることを特徴とする請求項8に記載の薬液処理方法。
【請求項10】
薬液が基板裏面に当たる前記複数の位置が、薬液が当たった後に基板裏面で薬液が広がった際に、基板裏面の熱履歴が面内で均一になる位置であることを特徴とする請求項8または請求項9に記載の薬液処理方法。
【請求項11】
基板裏面の一つの位置に薬液が当たって広がった際に温度が下がり始める位置が、薬液が当たる他の位置になるようにすることを特徴とする請求項10に記載の薬液処理方法。
【請求項12】
基板裏面に高温薬液を供給する際に、基板表面に高温薬液をスキャンさせながら吐出させる工程をさらに有することを特徴とする請求項8から請求項11のいずれか1項に記載の薬液処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−192875(P2010−192875A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−282466(P2009−282466)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】