説明

計測装置、露光装置およびデバイス製造方法

【課題】エンコーダシステムを用いたステージを位置決めする場合、スケール間に存在する幾何学的誤差に起因する計測誤差を低減する。
【解決手段】可動体に配置された複数のセンサと、構造体に取り付けられた複数のスケールとを有し、前記可動体の変位を検出することによって前記可動体の位置を計測する計測装置であって、前記複数のスケールは、第1方向における前記可動体の変位を検出するための2つの第1スケールと、前記第1方向とは異なる第2方向における前記可動体の変位を検出するための2つの第2スケールとを含み、2つのセンサによる検出値とが等しくなるように前記可動体を前記第1位置から前記第2位置に移動させたときに前記2つの第1スケールに対向している2つのセンサによってそれぞれ検出される変位の間の差に基づいて、前記2つの第1スケールの間に存在する幾何学的誤差に起因する計測誤差を低減する制御部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測装置、露光装置およびデバイス製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リソグラフィ工程において、レチクル(原版)に描画された回路パターンを投影光学系によって基板に投影し該基板を露光する露光装置が使用される。基板は、ステージに配置された基板チャックによって保持される。ステージは、その位置がレーザー干渉計によって計測されながら位置決めされる。レーザー干渉計は、分解能が高く、また、配置の自由度が他の計測器よりも高いという利点を有し、露光装置において多く利用されている。一方で、レーザー干渉計では、レーザー光の光路の環境変化によって計測誤差が発生する。そのため、光路の環境変化を抑制したり、計測誤差を補正したりする技術が要求される。誤差を発生させる環境変化としては、例えば、温度、湿度、圧力(気圧、音圧)等を挙げることができる。要求される精度が高くなると、空気の成分比の変化も誤差要因となりうる。露光装置においてレーザー干渉計によって1nm以下の精度で計測を行う場合、少なくとも、温度は1/1000℃、湿度は0.1%、圧力は1Pa程度の精度で環境を管理するか、計測結果に対して何らかのリアルタイム補正をする必要がある。
【0003】
このような環境制御や計測結果の補正には限界があることから、最近ではステージの位置をエンコーダシステムによって計測する露光装置が開発されている。特許文献1や特許文献2によれば、投影光学系の周辺に位置計測基準となる4枚のスケールを配置するとともにステージに4つのセンサを配置した計測システムが開示されている。この計測システムでは、ステージの位置に応じて適当な3枚のスケールと3つのセンサを用いてステージの位置が高精度に計測される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−129194号公報
【特許文献2】特開2007−266581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エンコーダシステムを用いたステージを位置決めする場合、計測基準であるスケール間の位置関係が熱変形などにより変化すると、ステージの位置決め誤差が生じうる。
【0006】
本発明は、例えば、スケール間に存在する幾何学的誤差に起因する計測誤差を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの側面は、可動体に配置された複数のセンサと、構造体に取り付けられた複数のスケールとを有し、相互に対向しているセンサおよびスケールによって前記可動体の変位を検出することによって前記可動体の位置を計測する計測装置に係り、前記計測装置は、前記複数のスケールは、第1方向における前記可動体の変位を検出するための2つの第1スケールと、前記第1方向とは異なる第2方向における前記可動体の変位を検出するための2つの第2スケールとを含み、前記可動体が第1位置に位置するときに前記2つの第2スケールに対向している2つのセンサによる検出値と前記可動体が第2位置に位置するときに前記2つの第2スケールに対向している2つのセンサによる検出値とが等しくなるように前記可動体を前記第1位置から前記第2位置に移動させたときに前記2つの第1スケールに対向している2つのセンサによってそれぞれ検出される変位の間の差に基づいて、前記2つの第1スケールの間に存在する幾何学的誤差に起因する計測誤差を低減する制御部とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、例えば、スケール間に存在する幾何学的誤差に起因する計測誤差を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の1つの実施形態の露光装置の概略構成を示す図である。
【図2】第1〜第4実施形態におけるのスケール、センサおよびステージの関係を示す図である。
【図3】第1〜第4実施形態における各ステージ位置と利用可能なセンサとの関係を示す図である。
【図4】第1〜第4実施形態で補正をしようとしているスケール変化の一例を示した図である。
【図5】「ステージの歩み」現象を説明するための図である。
【図6】第1〜第4実施形態で適用されるスケール変化の定義を示す図である。
【図7】補正方法の示すフローチャートである。
【図8】第1実施形態における計測点および補正しようとするスケール変化を示す図である。
【図9】第2実施形態における計測点および補正しようとするスケール変化を示す図である。
【図10】第3実施形態における計測点および補正しようとするスケール変化を示す図である。
【図11】第5実施形態における計測点および補正しようとするスケール変化を示す図である。
【図12】第6実施形態における計測点および補正しようとするスケール変化を示す図である。
【図13】第6実施形態の補正方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明する。
【0011】
[第1実施形態]
以下、図1〜3を参照しながら第1の実施形態による露光装置100について説明する。露光装置100は、照明光学系110によって照明されたレチクル(原版)120のパターンを投影光学系150によってウエハ(基板)15に投影してウエハ15を露光する。露光装置100は、例えば、ウエハ15を保持するウエハステージ(基板ステージ)170とレチクル120を保持するレチクルステージ(原版ステージ)130とを同期して走査しながらウエハ15を露光するように構成されうる。露光装置100は、液浸露光装置として構成されてもよく、その場合、投影光学系150の最終レンズの下に液体Lを保持するために液膜保持機構160が設けられうる。
【0012】
計測対象の可動体としてのウエハステージ170の位置を計測する計測装置MDは、ウエハステージ170に配置された複数のセンサ(エンコーダ)5〜8と、構造体STに取り付けられた複数のスケール1〜4とを有する。構造体STは、例えば、投影光学系150を支持する支持体と一体化され、または、該支持体に固定されうる。
【0013】
図2は、スケール1〜4、および、ウエハステージ170上に搭載されたセンサ5〜8を下方から見た模式図である。なお、便宜上、ウエハステージ170は、透明に描かれている。スケール1〜4は、それぞれほぼ平坦なプレートであり、投影光学系150を取り囲むように構造体STに取り付けられている。図2に例示されるように、スケール2、4には、X軸方向を+45°回転させたJ軸に平行な複数の溝が所定の配列ピッチで形成されている。スケール1、3には、Y軸方向を+45°回転させたK軸に平行な複数の溝が所定の配列ピッチで形成されている。これらの溝は、回折格子(グレーティング)として機能する。センサ5〜8は、スケール1〜4のうち対向するスケールの回折格子に光を照射し、該回折格子で反射された回折光によって形成される干渉縞を検出する。
【0014】
ウエハステージ170が移動すると干渉縞がセンサ5〜8に対して相対的に移動する。センサ5〜8は、干渉縞の相対的な移動に基づいてウエハステージ170の変位を検出する。例えば、スケール1に対してセンサ5が対向している場合には、センサ5により、J軸方向におけるウエハステージ170の変位を検出することができる。また、スケール2に対してセンサ6が対向している場合には、センサ6により、K軸方向におけるウエハステージ170の変位を検出することができる。同様に、スケール3とセンサ7との組み合わせではJ軸方向、スケール4とセンサ8との組み合わせではK軸方向におけるウエハステージ170の変位を検出することができる。これにより、互いに対向している3組のスケールおよびセンサを用いて、X軸とY軸(もしくはK軸とJ軸)およびZ軸周りの回転Rz軸の計測が可能である。また、ウエハステージ170には少なくとも1つの基準マーク(ここで、9〜12)が配置されていて、該基準マークを用いてウエハ15とレチクル120とが位置合わせされる。
【0015】
本実施形態では、複数のスケール1〜4は、第1スケール(例えば、スケール2、4)と第2スケール(例えば、スケール1、3)とを含む。第1スケール(例えば、スケール2、4)は、第1方向(例えば、K軸方向)におけるステージ170の変位を検出するために使用される。第2スケール(例えば、スケール1、3)は、第1方向とは異なる第2方向(例えば、J軸方向)におけるステージ170の変位を検出するために使用される。ここで、本実施形態における第1スケールと第2スケールとの位置関係は、次のように説明することができる。即ち、第1方向(例えば、K軸方向)に平行な第1線と第2方向(例えば、J軸方向)に平行な第2線とがある点において直交する。また、2つの第1スケール(例えば、スケール2、4)は、前記第2線の上に前記点を挟むように配置され、2つの第2スケール(スケール1、3)は、前記第1線の上に前記点を挟むように配置される。
【0016】
図3は、ステージ170、スケール1〜4およびセンサ5〜8を下方から見た模式図である。なお、便宜上、ウエハステージ170は、透明に描かれている。図3には、ステージ170とスケール1〜4との位置関係と、センサ5〜8のうちステージ170の変位の検出するのために利用可能なセンサとが例示されている。図3(b)、図3(c)、図3(d)、図(e)では、参照符号が省略されている。図3において、黒の箱で示されたセンサは、対向する位置にスケール1〜4のいずれかが存在し、ステージ170の変位を検出するために利用可能なセンサである。白の箱で示されたセンサは、対向する位置にスケール1〜4のいずれかも存在せず、ステージ170の変位を検出するために利用不能なセンサである。
【0017】
図3(a)の状態では、4つのセンサ5〜8の全てが対応するスケール1〜4に対向しており、ステージ170の変位を検出するために利用可能である。図3(b)の状態では、センサ5、6、8はステージ170の変位を検出するために利用可能であるが、センサ7は利用不能である。このようにステージ170の位置に応じて、ステージ170の変位を検出するためにセンサ5〜8を利用可能であるかどうかが変化する。ここで、ステージ170の位置によらず、センサ5〜8のうち少なくとも3つのセンサがステージ170の位置を検出するために使用される。
【0018】
本実施形態において、ステージ170の可動範囲は、第1領域と第2領域とを含む。ここで、第1領域は、2つの第1スケールの一方の第1スケールにはセンサが対向するが他方の第1スケールにはセンサが対向しない領域である。第2領域は、該一方の第1スケールにはセンサが対向しないが該他方の第1スケールにはセンサが対向する領域である。ステージ170が該第1領域から該第2領域に移動する際および該第2領域から該第1領域に移動する際に、該2つの第1スケールのうちステージ170の変位を検出するために使用される第1スケールが変更される。
【0019】
ところで、このような計測装置MDにおいては、スケール1〜4の間の相互の位置関係やスケール倍率が変化すると計測誤差が発生する可能性がある。例えば図4(a)のようにスケール2が経時的な熱変形等で膨張してスケール2における回折格子の配列ピッチ(スケール倍率)が他のスケール1、3、4における回折格子の配列ピッチに比べて大きくなってしまうことがある。もしくは、例えば、構造体STの変形が経時的に生じることにより、図4(b)のように、スケール2が初期状態からZ軸周りに回転する可能性もある。その他にも、単純に、あるスケールがXY平面上を並進移動することも考えられる。また、これらは製造誤差や取り付け誤差によっても発生する可能性がある。図4では、スケール2のみが変化した場合を図示しているが、スケール1〜4の全部または一部において同様な変化が生じる可能性がある。
【0020】
以下に、一例として、図4(a)のようにあるスケールの倍率(配列ピッチ)が変化してしまった場合に計測誤差が発生する理由を図5を参照しながら説明する。図5(a)は初期状態を示しており、スケール2のみが矢印が示すようにK方向に膨張している様子を示している。図5(a)に示す状態では、ステージ170の変位(位置)は、スケール4とセンサ8とでK軸方向に関して検出(計測)され、スケール3とセンサ7とでJ軸方向に関して検出(計測)される。さらに、スケール1とセンサ5とでもJ軸方向に関して検出(計測)され、2つのJ軸方向に関する検出結果により、ステージ170のZ軸周り回転Rzも求めることができる。図5(a)に示す状態では、スケール2とセンサ6とは、ステージ170の変位(位置)の検出(計測)のためには使用されていない。
【0021】
図5(a)に示す状態からステージ170が矢印の向き(−K軸方向)に移動して、図5(b)に示す状態になる場合を考える。この場合において、センサ5、7によってそれぞれ検出されるステージ170の変位(位置変化)の差が0であり、センサ8によって検出されるステージ170の変位(位置変化)が"10"であるとしよう。"10"という値は、例えば、センサ8が回折格子(平行溝)を10個またぐことと等価であると考えると理解しやすい。また、センサ5、7によってそれぞれ検出されるステージ170の変位の差を0にすることは、ステージ170のZ軸周り回転Rzを変化させないことと等価である。
【0022】
ここで、スケール1、3、4における回折格子の配列ピッチをp1として、スケール2のみ熱膨張してスケール倍率が大きくなって、その配列ピッチがP2になっているとする。このとき、図5(a)に示す状態から図5(b)に示す状態になったときに、ステージ170の物理的な移動距離は、10×p1と表現されうる。この状態で、センサ8による変位の検出値である"10"という値を引き継いでセンサ8からセンサ6に切り替えて図5(c)の状態に移行する。そして、今度は+J軸方向にステージ170を"10"だけ移動させる。この際は、センサ6による変位の検出値は"0"を保つとともに、センサ5、7による変位の検出値の差を"0"にする。これは、ステージ170のZ軸周りの回転Rzを"0"にすることを意味する。この時、途中でセンサ8がスケール4の対向位置から外れてしまうが、事前にセンサ8からセンサ6にセンサ8による変位の検出値が引き継がれているので、計測が途切れることはない。その後、図5(d)の状態に移行する。この状態からセンサ5、7による変位の検出値の差が変化しないように、センサ6による変位の検出値が"10"から"0"になるように移動させて図5(e)の状態に移行する。ここで、スケール2における回折格子の配列ピッチはp2であるから、物理的には10×p2の量を移動したことになる。
【0023】
ここで、スケール2を使って検出された値"0"を引き継いでスケール4を使ってステージ170の変位を検出する図5(f)に示す状態に移行する。さらにJ方向に"−10"だけステージ170を移動させると、図5(g)に示す状態に移行する。
【0024】
このように、図5(a)〜図5(g)に示すようにステージ170を移動させると、ステージ170が1周回って元の位置に戻ったことになる。しかし、実際には、スケール2における回折格子の配列ピッチだけが他のスケールと異なることから、物理的には、ステージ170は、10×(p2−p1)だけK軸方向に移動した位置に戻ることになる。このような現象を以降では「ステージの歩み」と呼ぶことにする。「ステージの歩み」現象は累積して、計測誤差が次第に大きくなる可能性がある。例えば、図5(a)〜図5(g)に示す一連のステージ170の動きをN回繰り返すと単純に累積して、N×10×(p2−p1)の物理距離のステージ歩み現象が発生する。このように、ステージ170の動きによって累積してしまう誤差を補正することが望まれる。
【0025】
図4(a)のようなスケール倍率の変化の他に、図4(b)のようにスケールの回転方向における姿勢(回転角(Z軸周りの回転Rz))の違いによっても、同様に、「ステージの歩み」現象が生じる可能性がある。通常は、これらの各スケールが独立にスケール倍率やスケールの回転が生じてしまう可能性がある。
【0026】
本実施形態は、スケール間における回折格子の配列ピッチの違いやスケールの姿勢(回転角)の違いなどのような幾何学的誤差に起因する計測誤差を補正する処理部PRCを備えている。処理部PRCは、計測装置MDの一部を構成し、例えば、露光装置において露光動作を制御する制御部CNTに組み込まれうる。制御部CNTは、2つの第2スケール(例えば、スケール2、4)に対向している2つのセンサ(例えば、センサ6、8)を使ってステージ170の変位を連続的に検出しながらステージ170を移動させる。処理部PRCは、その時の2つの第1スケール(例えば、スケール2、4)に対向する2つのセンサ(例えばセンサ6、8)によって検出される変位の間の差に基づいて2つの第1スケール間に存在する幾何学的誤差に起因する計測誤差を低減するための演算を行う。
【0027】
ここで、幾つかの変数を定義する。図6において、スケール1〜4における回折格子の配列ピッチの倍率をαとして定義する。ここで、αは、基準状態における回折格子の配列ピッチに対する倍率として定義される。また、基準状態からのスケールの回転角をφとして定義する。ここで、基準状態とは、例えば、設計時に想定している理想的な配置ピッチや回転角でありうるが、これに限定されるわけではなく、例えば最後にスケールの補正や計測を行った状態であってもよい。αやφに付加された添え字は、スケール1〜4に対応している。つまり、α1とφ1は、スケール1の配列ピッチの倍率とスケール1の回転角を示している。
【0028】
スケール1、3は、J軸方向におけるステージ170の変位(位置)を検出(計測)するためのスケールであり、スケール2、4は、K軸方向におけるステージ170の変位(位置)を検出(計測)するためのスケールである。
【0029】
計測誤差を数式で説明する便宜上、以下のように、αK、αJ、φK、φJを定義する。
【0030】
αJ=α1/α3 (式1)
αK=α2/α4 (式2)
φJ=φ1−φ3 (式3)
φK=φ2−φ4 (式4)
次に、図7、8を参照しながら「ステージの歩み」現象による計測誤差を低減するための補正方法を説明する。図8には、スケール4に対するスケール2の倍率比がαKあり、スケール3に対するスケール1の回転角差がφJある例が示されている。
【0031】
まず、ステップS1では、制御部CNTによる制御の下で、3つのセンサ5、7、8を使ってステージ170の3軸方向における位置が計測される。具体的な一例としては、ステージ170のK軸方向における位置がセンサ8を使って計測され、ステージ170のJ軸方向における位置がセンサ7を使って計測される。さらに、センサ5、7による検出値の差を使ってステージ170のZ軸周りの回転Rzが計測される。
【0032】
次に、ステップS2では、制御部CNTによる制御の下で、センサ5、7、8による計測が可能な状態を維持したままで、センサ8がスケール4の計測点Aに対向する第1位置にステージ170が駆動される。また、第1位置におけるセンサ8およびセンサ6による検出値がメモリに格納される。該メモリは、例えば、処理部PRCに設けられうる。
【0033】
次に、ステップS3では、制御部CNTによる制御の下で、センサ8がスケール4の計測点Bに対向する第2位置にステージ170が駆動される。また、第2位置におけるセンサ8およびセンサ6による検出値が前記メモリに格納される。ここで、第1位置から第2位置に移動する際は、4つのセンサ5〜8の全てが連続的に変位を検出可能な移動経路に沿ってステージ170が駆動される。制御部CNTは、この際に、ステージ170が第1位置にあるときに第2スケール1、3に対向しているセンサ5、7による検出値とステージ170が第2位置にあるときに第2スケール1、3に対向しているセンサ5、7による検出値とが等しくなるように制御する。これは、第1位置におけるステージ170の姿勢(回転角;Rz)と第2位置におけるステージ170の姿勢(回転角;Rz)とが等しいことを意味する。ステージ170が第1位置にあるときに第2スケール1、3に対向しているセンサ5、7による検出値とステージ170が第2位置にあるときに第2スケール1、3に対向しているセンサ5、7による検出値とが等しくならない場合がありうる。この場合は、以下のステップにおいて、ステージ170の回転成分を考慮する必要がある。
【0034】
次に、ステップS4では、処理部PRCは、ステップS2、S3でメモリに格納されたセンサ8の検出値の差(出力差)、即ち、センサ8で検出されたAB間のK軸方向距離a1を算出する。また、処理部PRCは、ステップS2、S3でメモリに格納されたセンサ6の検出値の差(出力差)、即ち、センサ6で検出されたAB間のK軸方向距離a1'を算出する。
【0035】
次に、ステップS5では、処理部PRCは、センサ6を使って計測された距離a1'とセンサ8を使って計測された距離a1とを比較する。比較の方法は特定のものに限定されないが、単純には、2つの距離の差分b1=a1'−a1が算出される。スケール1〜4に幾何学的誤差がない場合、即ち、これらの形状に変化がなく、理想的な位置関係が保持されていれば、当然ながら2つの距離a1、a1'は同じ値になり、差分b1は0になる。しかし、スケール1〜4に許容範囲を超える幾何学的誤差が存在する場合には、差分b1が0または許容範囲とならない。そこで、処理部PRCは、差分b1の大きさが許容値を超えている場合に以降の処理を実行し、そうでない場合には処理を中止してもよい。
【0036】
次に、ステップS6では、処理部PRCは、差分bに基づいてスケールの回転角差(φJもしくはφK)とスケールのピッチ倍率比(αJもしくはαK)を推定する。図8の例の場合、αKとφJの値を推定することが可能である。但し、計測点の取り方によっては、αJとφKの値を推定することも可能である。
【0037】
次に、ステップS7では、処理部PRCは、推定値に基づいて、ステージ170の位置を計測する際の補正量を決定する。次に、ステップS8では、処理部PRCによって当該補正量に従ってセンサによる検出値を補正しながらステージ170の位置が計測される。
【0038】
以下、αKとφJの値の推定方法について具体的に説明する。図8では、スケール2における計測点A、Bを以下のような条件になるように選択している。
【0039】
<条件1>
ステージ170をセンサが計測点Aに対向する第1位置から計測点Bに対向する第2位置、またはその逆に移動している期間において、4つのセンサ5〜8が対応するスケール1〜4に対向していて、連続的にセンサ5〜8の出力を得ることが可能である。
【0040】
<条件2>
スケール2における回折格子の配列方向(K軸方向)に平行な線上に計測点A、Bが配置される。
【0041】
ここで、出来る限りAB間の距離が大きい方が補正精度の向上に有利である。条件1、2を満たすように計測点A、Bが決定された場合において、センサ6を使って計測されるK軸方向におけるAB間の距離をa1'とし、センサ8を使って計測されるK軸方向におけるAB間の距離a1とする。
【0042】
ステージ170が正方形であると仮定し、図8のようにスケール倍率比、回転角差がある場合のa1'とa1との関係は、幾何学的に以下のように表現される。
【0043】
a1'=a1/αK−1/√2×a1×tan(φJ)/αK (式5)
また、φJが十分小さいとすると、近似的にtan(φJ)はφJとみなせ、
a1'=a1/αK×(1−1/√2×φJ) (式6)
となる。さらに、センサ6とセンサ8とで計測される距離差b1は
b1=a1'−a1=a1/αK×(1−1/√2×φJ−αK) (式7)
となる。
【0044】
まず、センサ8とスケール4とを基準に考えると、スケール2はスケール4に対してαK倍大きくなっているため、センサ6で計測される距離(変位)は、センサ8で計測される距離の1/αK倍となる。これを示したのが、(式5)右辺の第1項である。また、スケール1がスケール3に対して回転角差φJを持っている場合、スケール1、3を用いてステージ170のZ軸周りの回転Rzを計測しているため、K軸方向にステージ170が移動することでステージ170の姿勢がRz方向に関して変化してしまう。より具体的には、センサ5、7の出力が変化しないように(ステージ170の姿勢がRz方向に関して変化しないように)ステージ170の姿勢を維持しながら、ステージ170は、計測点Aに対応する第1位置と計測点B間に対応する第2位置との間を移動する。この際に、回転角差φJがあると、第1位置と第2位置との間を移動しながらセンサ7を中心としてステージ170がRz方向に回転する。ステージ170のRz方向の回転により、センサ6とセンサ8とで計測されるK軸方向の距離に違いが生じうる。本来であれば、スケール1上でセンサ5はK軸方向にa1だけ移動し、J軸方向には移動が0であるべきである。しかし、スケール1が回転角差φJを有することで、センサ8がAB間を移動する間に、センサ5はK軸方向にa1移動するのだが、J軸方向にもa1×tan(φJ)だけ移動してしまう。そして、ステージ170が正方形である場合、センサ7を回転中心としたステージ170の回転の影響により、センサ6がK軸方向に−1/√2×a1×tan(φJ)だけ移動してしまう。ここで、ステージ170が正方形の場合、センサ7とセンサ5間の距離を1とするとセンサ7とセンサ6間の距離は1/√2であり、そのため、センサ7を中心に回転すると、センサ5のJ軸方向の移動量に対して、センサ6のJ軸方向の移動量が1/√2倍になる。また、前述のように、センサ6を使って計測される距離がセンサ8を使って計測される距離の1/αK倍になることを考慮すると、センサ8に対してセンサ6は−1/√2×a1×tan(φJ)/αKだけ距離に差がでることになる。これを表現したのが、(式5)右辺における第2項である。ここで、補正の全く必要ない基準状態では、αK=1、φJ=0であり、当然ならそのときは(式5)および(式6)は、a1'=a1となり、よって(式7)では0となる。
【0045】
この関係からαKとφJを推定するのだが、a1およびb1が既知としても(式7)だけではαKとφJの2変数を確定することはできない。そのため、ある仮定を用いて変数を推定することになる。
【0046】
例えば、スケール1〜4が単一の構造体STに固定されている場合、構造体STの温度分布の影響により、スケール1〜4間で熱変形量が異なることがありうる。このような場合には、倍率比αKやαJの変化が生じうる。しかし、構造体STの歪み変形が生じない限り、スケール1〜4間で回転角変化が生じないと考えられるため、回転角差φJやφKが生じたとしてもその量が非常に小さいとみなしうる。そこで、実際の回転角差φJやφKは無視出来ると仮定した場合、(式7)において、φJの推定値φJ'は0であり、αKの推定値αK'は、
αK'=a1/(a1+b1) (式8)となる。
【0047】
このような仮定は、複数の評価結果に基づいて決定するのが望ましく、例えば、2変数の変化量の重みを評価結果に基づいて仮定を決定することができる。仮に、「ステージの歩み」現象が少しでも補正されれば良いというのあれば、式7を満たす推定値αK'とφJ'決めるだけでも良く、これらの推定値が真の値と異なっていても、良いことになる。但し、実際は、「ステージの歩み」現象が抑制されても、推定値と真値との差が計測装置MDの計測誤差に繋がる可能性がある。そこで、推定値と真値との差による影響度を見積もった上で推定値の必要精度を決定するのが望ましい。本発明は、上記の推定方法に限定されるものではなく、必要な精度に応じて柔軟に推定方法は決定することができる。
【0048】
次に、推定されたスケールピッチ倍率比αKとスケール回転角差φJから計測における補正量を決定する方法について具体的に説明する。(式8)に従えば、(式1)より、スケール2における配列ピッチの倍率α2は、スケール4における配列ピッチの倍率α4のa1/(a1+b1)倍である。つまり、センサ6で計測される距離は、センサ8で計測される距離のa1/(a1+b1)倍で計測されることが推測されている。よって、センサ6を使って計測される距離に対して推定倍率比の逆数を乗じた値、つまりは(a1+b1)/a1を乗じた値をセンサ6を使って計測された計測値とするように処理部PRCが補正を行えば良い。一般的なエンコーダシステムでは、基準となる原点を設定して、その原点からの距離を計測値として出力することが多い。その場合は、スケール2を用いた計測の際には、単純に原点からの距離(変位)に対応したセンサ6の出力値(生データ)に対して推定値の逆数を(1/αK)を乗じた値を、センサ6を使って計測した距離として処理すれば良い。
【0049】
推定値φJを反映した補正方法は、もう少し複雑である。一般的には、センサ6の出力値(生データ)に回転行列を含む座標変換行列を乗じることで補正が可能である。つまり、回転角差の推定値φJ'に基づいて座標変換行列を作成してこれを乗じることで、スケール1を物理的に−φJ'だけ回すのと同じ効果を得ることが出来る。
【0050】
ここでは、アルゴリズム上で、推定値αKとφJに基づいて物理的にスケール2の倍率をスケール4との倍率と同じになるように変形させたり、物理的にスケール1をスケール3の回転角に揃えたりする動作と同じ効果が得られるように処理を行っている。しかし、当然ながら、スケールに対して物理的に変形もしくは回転できる駆動部を設けて、推定値αKとφJに基づいて駆動させても構わない。
【0051】
最後に、上記のように補正された計測値を用いてステージ170の位置および姿勢(回転角)を決定することができる。このような補正を適用した場合、AB間におけるセンサ6とセンサ8とで出力されるK軸方向の距離は同じになり、スケール間での変位計測の不整合は解消される。つまり、図5で説明したような「ステージの歩み」現象は解消される。
【0052】
前述のとおり、ここで例示されている補正方法では、(式7)が成立するように、ある仮定の下でαKとφJを推定しているだけであり、完全に同定している訳ではない。そのため、「ステージの歩み」現象は解消するが推定値と真値との差によりステージの回転姿勢Rzに影響を与えてしまい、露光装置に適用した場合に露光精度に影響を与えてしまう可能性がある。当然ながら、真値に近い値で推定値を求めた上で補正ができることが好ましい。しかし、ステージ170の回転Rzを犠牲にしてまで「ステージの歩み」現象を解消させる補正をする理由として以下のようなことが挙げられる。つまり、「ステージの歩み」現象はスケールを切り替える度に誤差が累積する可能性があることから、致命的なシステム的欠陥になり得る。露光装置内でのステージ170の動きを考慮すると少なくとも1枚のウエハを処理するだけでも十回以上のスケール1〜4とセンサ5〜8の切り替えを行う可能性がある。例えば1回のスケールの切り替えで0.1nmの誤差でも10回切り替えることで1nmの計測誤差が生じる可能性があり、計測装置MDにおいて大きな問題になる可能性が高い。それに対して、誤差が累積しない誤差に関しては相対的に補正する必要性が低くなる。そのため、誤差が累積しないステージ170の回転Rzの精度悪化よりも、「ステージの歩み」現象を抑制するように補正する優先度が非常に高いのである。もちろん、ステージ170の回転Rzも問題になるレベルに悪化した場合は、別の補正を行う必要がある。
【0053】
本実施形態によれば、新たな計測器や、基準ウエハなどの計測ターゲットを設けなくても、計測における大きな問題になりうる累積誤差を抑制することができる。しかも、設定された2点間の距離を計測するだけなので、補正に要する時間も非常に短くて良いという利点もある。
【0054】
本実施形態では、スケール2上の計測点を用いて補正する方法について説明してきたが、他のスケール(スケール1、3、4)上でも同様な計測点を設けることで、同様の補正が可能である。
【0055】
[第2実施形態]
図9を参照しながら本発明の第2実施形態を説明する。図8に示す例ではスケール4における計測点A、Bを回折格子の配列方向(K軸)に平行な直線上に設定されている。図9に示すでは、回折格子の配列方向に直交する方向(J軸)に平行な直線上に計測点C、Dが配置されている。また、ステージ170は、4つのセンサ5〜8によってステージ170の変位を連続的に検出しながら、計測点Cに対応する位置から計測点Dに対応する位置に駆動される。
【0056】
第2実施形態においても第1実施形態と同様に基本的には図7のフローに従って計測装置MDにおける補正がなされる。但し、計測点A、Bがそれぞれ計測点C、Dに、αJとφKがそれぞれαKとφJに対応する。ここでは、ステップ5(S5)について補足する意味で、図9に対応させて具体的に説明する。
【0057】
計測点C、Dのように2つの計測点を選択した場合、φKとαJの影響がCD間におけるK軸方向の変位の検出に影響を与える。センサ8がCD間を移動するようにステージ170が移動したときに、センサ7で検出されるCD間のJ軸方向距離をd2、そのときセンサ8で検出されるK軸方向距離をa2、センサ6で検出されるK軸方向の距離をa2'とする。計測点C、DはK軸方向に平行な位置に設定しているため、センサ8で検出されるK軸方向距離a2は0となる。
【0058】
a2=0 (式9)
また、センサ6で検出されるK軸方向距離a2'は、
a2'=d2×sin(φK)−d2×(αJ−1) (式10)
となる。φKが十分小さいと考えてsin(φK)=φKとし、また(式9)を考慮すると、
b2=a2'−a2=d2×(φK−αJ+1) (式11)
となる。もし、各スケールが設計通りの理想的な位置関係になっている場合は、φK=0、αJ=1よりb2=0となり、センサ間の出力差はなくなり、「ステージの歩み」現象は生じない。また、b2≠0であった場合には、(式11)と第1実施形態で述べたような仮定の下に各推定値φK'およびαJ'を算出する。つまり、φKおよびαJの推定値をφK'とαJ'とすると、
φK'−αJ'+1=b2 (式12)
となる。ちなみにb2は計測により既知である。ここで、第1実施形態で述べたように、φKの変化が生じる可能性が低いとして仮定して、
φK'=0 (式13)
とすれば、
αJ'=1−b2 (式14)
と算出できる。
【0059】
推定値αJ'およびφK'が求まれば、各推定値に基づいて座標変換行列を作成し、これを第1実施形態と同様にセンサ6の出力値(生データ)に乗じることで補正が可能である。つまり、回転角差の推定値φJ'に基づいて回転行列を含む座標変換行列を作成してセンサ6の出力値に乗じる。これにより、スケール1を物理的に−φK'だけ回転させたり、αJ'−1だけ変形させたりしてスケール3とスケール1とのスケール倍率を同じにすることと同じ効果を得ることが出来る。
【0060】
以上のように処理部PRCがセンサの出力値を補正することにより、ステージ170がJ軸方向に移動した時の「ステージの歩み」現象は解消される。また、第1実施形態と第2実施形態とを組み合わせて実施すれば、ステージ170がK軸方向とJ軸方向、つまりはK−J軸平面全面で移動した時の「ステージの歩み」現象が解消される。その場合は、第1実施形態における計測点Aと第2実施形態における計測点Cとが対応するため、合計3点の計測を行えば良い。
【0061】
また、1つのスケールに定義される点のみで補正するのではなく、複数のスケールに定義される点を用いて補正しても同様の補正を行うことも可能である。例えば、K軸方向の「ステージの歩み」現象は、スケール2に定義された点を用いて補正をして、J軸方向に関しては、スケール1に定義された点を用いて補正することでも対応が可能である。
【0062】
[第3実施形態]
第1実施形態および第2実施形態では、計測点を回折格子方向(K軸)もしくは、その直角方向(J軸)に平行な線上に定義した。第3実施形態では、図10を参照しながら、同一直線上にない3つの計測点で計測を行う例を説明する。
【0063】
ステージ170は、4つのセンサ5〜8によってステージ170の変位を連続的に検出しながら、計測点E、F、Gにそれぞれ対応する3つの位置間で移動するように駆動される。
【0064】
第3実施形態は、第1実施形態と第2実施形態を単純に組み合わせた形態であり、計測点EF間のK軸方向距離をa3とし、J軸方向距離をd3とすると、センサ6とセンサ8との出力差b3は、
b3=a3/αK×(1−1/√2×φJ−αK)+d3×(φK−αJ+1) (式15)
となる。同様に、計測点FG間のK軸方向距離をa4とし、J軸方向距離をd4とすると、センサ6とセンサ8との出力差b4は、
b4=a4/αK×(1−1/√2φJ−αK)+d4×(φK−αJ+1) (式16)
となる。上記式は、(式7)と(式11)を組み合わせただけで導出が可能であり、考え方は、第1、第2実施形態と同じである。
【0065】
φK、αJ、αK、φJの4つの変数を含む独立な式が2つしかないことから、第1、第2実施形態と同様に、ある仮定に基づいてそれぞれの値を推定する必要がある。それぞれの変数の推定値φK'、αJ'、αK'、φJ'が求まれば、第1、第2実施形態で述べたように、それらを反映した座標変換行列を作成し、センサの出力値に座標変換行列を乗じた値を計測値とすることで補正が可能となる。
【0066】
第1、第2実施形態では、説明を簡易する都合上、特別に制限した計測点の設定をして説明したが、以下のような条件の計測点を少なくとも3点以上設定できれば、本発明に従う補正が可能である。つまり、同一直線上にない3点であり、各計測点間の移動において、全てのセンサが連続的に計測が可能である点であることが条件である。同一直線上にないということは、(式15)と(式16)が独立な式であるための条件であり、連続的にセンサ計測が可能ということは、各計測点間の距離が算出可能である条件である。これにより、KJ軸平面上のステージ170移動で「ステージ歩み」現象を低減できるように補正が可能である。
【0067】
[第4実施形態]
第1〜第3実施形態では、ステージの姿勢計測に利用しているスケール上に、計測点A〜Gを配置していた。例えば、図8に示す例では、センサ5、7、8は黒塗りされていることから、対応するスケール1、3、4はステージの姿勢計測に使用されている。また、ステージの姿勢計測に使用していない冗長なスケールはスケール2である。しかし、ステージの姿勢計測で利用しているかどうかは関係なく、計測点をスケール上に定義することが可能である。
【0068】
図11を参照しながら本実施形態における説明を行う。図11は、実施形態1の図8と対応しているが、計測点A'、B'がスケール2上に定義されている。つまり、センサ6とセンサ8との計測点間の出力差を算出する際に、スケール2上の計測点A'と計測点B'を基準に出力差を算出する点が第1実施形態と異なる。
【0069】
[第5実施形態]
第1〜第4実施形態では、補正を行うためにセンサが計測点A〜Gに対向する位置にステージを移動させる例を説明したが、本発明はこれに制限されない。第3実施形態で説明したように、補正に必要な計測点はある程度の自由度があり、露光装置の場合は通常の露光動作中にも条件を満たす3点を通過する可能性が高い。そのため、露光動作中に常に冗長なセンサ(例えばセンサ6)の出力と姿勢計測に用いているセンサとの値と比較しおき、条件が揃った3点を通過したときにその出力差をもとにスケールの姿勢変化(φJ,φK,αJ,αK)を推定してもよい。この場合、補正のための時間をわざわざ設ける必要がないため、露光装置の生産性を落とすことなく、計測システムの補正を適時行うことが可能になる。
【0070】
[第6実施形態]
第6実施形態では、図7のS1〜S5のフローに関して別の方法を示すものである。第6実施形態の特徴としては、図12で示すように、スケール上の絶対位置を特定できる基準点Lを設けたことである。基準点Lは、スケール上の基準点と考えれば良い。このような基準点を設けることで、第1、第2実施形態における「スケールの歩み」現象によって生じるセンサ間出力差b1もしくはb2の値をより高精度に算出することが出来る。
【0071】
以下、図13のフローチャートを用いて説明する。まず、計測点Mと基準点Lとの相対関係をセンサ5、7、8およびスケール1、3、4を用いて計測しておく(S1)。次に、「ステージの歩み」現象が生じるようなステージ駆動パターンで複数回にわたってステージ170を駆動する。例えば、図5で説明したようなステージ駆動パターンをn回繰り返す(S2)。この際、スケールおよびセンサはステージ駆動パターンに応じて適時切り替える。その後、計測点Mに相当する位置にステージ170移動すると、「ステージの歩み」現象により、計測点M'に移動してしまう。そこで、基準点Lと計測点M'との位置関係を計測して(S3)、間接的に計測点Mと計測点M'との位置関係を算出する(S4)。これにより、第1実施形態のセンサ間出力差b1に相当する値のn倍に相当する値が得られ、b1よりも高精度な値を得ることが可能になる。つまり、nが大きいほど高精度な計測が可能である。本手法では、センサの精度は変更せず、誤差をあえて累積させることで、計測精度を向上させ、つまりは補正精度を向上させる方法である。その後、計測値(n×b1相当)の大小より計測システムにおける補正の必要性を見極め(S5)、補正が必要であると判断された場合、第1実施形態などで説明したようにスケール変化量の推定を行い、補正量を算出・決定する(S6)。この補正量とは、具体的には座標変換行列で定義されることが多い。その後、その補正量に基づいた補正を行った変位計測を開始する(S7)。
【0072】
ここで、当然ながらS2におけるステージ駆動パターンは図5で示すような駆動パターンに制限されるわけではなく、「ステージの歩み」現象が生じ、かつ、その駆動パターンを繰り返すことで誤差が累積するようなものであれば良い。
【0073】
[応用例]
本発明の好適な実施形態のデバイス製造方法は、例えば、半導体デバイス、液晶デバイス等のデバイスの製造に好適である。前記方法は、感光剤が塗布された基板を、上記の露光装置を用いて露光する工程と、前記露光された基板を現像する工程とを含みうる。さらに、前記デバイス製造方法は、他の周知の工程(酸化、成膜、蒸着、ドーピング、平坦化、エッチング、レジスト剥離、ダイシング、ボンディング、パッケージング等)を含みうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動体に配置された複数のセンサと、構造体に取り付けられた複数のスケールとを有し、相互に対向しているセンサおよびスケールによって前記可動体の変位を検出することによって前記可動体の位置を計測する計測装置であって、
前記複数のスケールは、第1方向における前記可動体の変位を検出するための2つの第1スケールと、前記第1方向とは異なる第2方向における前記可動体の変位を検出するための2つの第2スケールとを含み、
前記可動体が第1位置に位置するときに前記2つの第2スケールに対向している2つのセンサによる検出値と前記可動体が第2位置に位置するときに前記2つの第2スケールに対向している2つのセンサによる検出値とが等しくなるように前記可動体を前記第1位置から前記第2位置に移動させたときに前記2つの第1スケールに対向している2つのセンサによってそれぞれ検出される変位の間の差に基づいて、前記2つの第1スケールの間に存在する幾何学的誤差に起因する計測誤差を低減する制御部と、
を備えることを特徴とする計測装置。
【請求項2】
前記可動体の可動範囲は、前記2つの第1スケールの一方の第1スケールにはセンサが対向するが他方の第1スケールにはセンサが対向しない第1領域と、前記一方の第1スケールにはセンサが対向しないが前記他方の第1スケールにはセンサが対向する第2領域とを含み、
前記可動体が前記第1領域から前記第2領域に移動する際および前記第2領域から前記第1領域に移動する際に、前記2つの第1スケールのうち前記可動体の変位を検出するために使用される第1スケールが変更される、
ことを特徴とする請求項1に記載の計測装置。
【請求項3】
前記幾何学的誤差は、前記2つの第1スケールにそれぞれ設けられている回折格子の配列ピッチの差を含む、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の計測装置。
【請求項4】
前記幾何学的誤差は、前記2つの第1スケールの回転角の差を含む、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の計測装置。
【請求項5】
前記第1方向に平行な第1線と前記第2方向に平行な第2線とがある点において直交し、
前記2つの第1スケールは、前記第2線の上に前記点を挟むように配置され、
前記2つの第2スケールは、前記第1線の上に前記点を挟むように配置されている、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の計測装置。
【請求項6】
原版のパターンを投影光学系によって基板に投影して該基板を露光する露光装置であって、
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の計測装置を備え、
前記計測装置による計測対象である前記可動体は、基板を保持するように構成されている、
ことを特徴とする露光装置。
【請求項7】
デバイスを製造するデバイス製造方法であって、
請求項6に記載の露光装置を用いて基板を露光する工程と、
該基板を現像する工程と、
を含むことを特徴とするデバイス製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−54694(P2011−54694A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−201083(P2009−201083)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】