説明

車両の制御装置及び制御方法

【課題】従来装置の燃料カットリカバー回転速度以下の回転速度域で新たに燃料カットを行わせると共に、再加速応答性を向上させ得る装置及び方法を提供する。
【解決手段】スタータを用いてクランキングを行うエンジンを有する車両において、車両の減速時にエンジンへの燃料供給を遮断する燃料供給遮断実行手段(4、21)と、この燃料供給遮断中に車両の再加速要求があったか否かを判定する再加速要求判定手段(21)と、この判定結果より燃料供給遮断中に車両の再加速要求があったとき、エンジンに負荷を入力するエンジン負荷入力手段(11、12、14、21)と、このエンジン負荷の入力によりエンジンが停止したとき、前記スタータによりエンジンをクランキングしてエンジンを再始動させるエンジン再始動手段(4、6、21)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置及び制御方法、特に燃料カット中に車両の再加速要求があった場合の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンにモータを組み合わせたハイブリッド車両において、車両の減速時にエンジンを停止してエンジンとモータとを切り離すものがある(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−144921号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、スタータを用いてクランキングを行うエンジンにおいては、燃費向上を目的として車両の減速時に燃料カットを行う際、再加速要求時の応答遅れが問題となるため、ある一定のエンジン回転速度(=従来装置の燃料カットリカバー回転速度)以下の領域では、燃料カットを行うことができなかった。このことは、もしも従来装置の燃料カットリカバー回転速度以下の回転速度域で燃料カットを行うことができれば燃費がさらに向上するのであるから、燃費向上に対し充分でなかったことを意味している。
【0004】
この場合に、スタータを用いてクランキングを行うエンジンにおいて、エンジン再始動に有する時間の中でも、特にスタータエンゲージのための、エンジン停止にかかる時間がもっとも大きな要因とされている。このため、従来装置の燃料カットリカバー回転速度以下の回転速度域まで新たに燃料カットを行わせることとし、これにより一段と燃費を向上させるにしても、再加速要求時のレスポンス向上には、再加速要求があったとき早期にエンジンを停止させることが必要である。
【0005】
しかしながら、スタータを用いてクランキングを行うエンジンにおいて、従来装置の燃料カットリカバー回転速度以下の回転速度域で新たに燃料カットを行わせると共に、再加速応答性を向上させるようにした技術は、上記特許文献1の技術を含めて開示されていない。
【0006】
そこで本発明は、従来装置の燃料カットリカバー回転速度以下の回転速度域で新たに燃料カットを行わせると共に、再加速応答性を向上させ得る装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、スタータを用いてクランキングを行うエンジンを有する車両において、
車両の減速時にエンジンへの燃料供給を遮断し、この燃料供給遮断中に車両の再加速要求があったか否かを判定し、この判定結果より燃料供給遮断中に車両の再加速要求があったとき、エンジンに負荷を入力し、このエンジン負荷の入力によりエンジンが停止したとき、前記スタータによりエンジンをクランキングしてエンジンを再始動させるように構成する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、スタータを用いてクランキングを行うエンジンを有する車両において、車両の減速時にエンジンへの燃料供給を遮断し、この燃料供給遮断中に車両の再加速要求があったか否かを判定し、この判定結果より燃料供給遮断中に車両の再加速要求があったとき、エンジンに負荷を入力し、このエンジン負荷の入力によりエンジンが停止したとき、前記スタータによりエンジンをクランキングしてエンジンを再始動させるので、燃料供給遮断中に車両の再加速要求がない場合には、燃料カットがエンジン回転速度がゼロとなるまで行われることになり、燃費を一段と向上させることができると共に、スタータを用いてクランキングを行うエンジンであっても、車両の再加速応答性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0010】
図1は本発明の一実施形態の車両の制御装置の概略構成図である。なお、車両の駆動系は一般的なものでよいため、図1にはエンジンの制御装置を主に示している。また、スタータ(図示しない)を用いてクランキングを行うエンジンが前提である。
【0011】
図1において、1はエンジン本体、2は吸気通路、3は排気通路、4は燃焼室5に直接に臨んで設けられた燃料噴射弁、6は点火栓である。
【0012】
エンジンの吸気通路2にはDCモータ9などでスロットル弁8を開閉駆動する、いわゆる電子制御スロットル装置が介装されており、スロットルセンサ(図示しない)により検出される実際の開度が、エンジンコントロールユニット21からの目標開度指令と一致するようにスロットル弁8が駆動される。このとき定まるスロットル弁8の開度によってエンジンに吸入される空気量が調整される。
【0013】
エンジンコントロールユニット21にはクランク角センサ23からの単位クランク角毎のポジション信号および基準位置信号、エアフローメータ24からの吸入空気量の信号、水温センサ25からの冷却水温の信号、排気通路3の酸素濃度センサ(図示しない)からの酸素濃度の信号が入力され、エンジンコントロールユニット21ではこれらの信号に基づいて所定の空燃比(理論空燃比やリーン空燃比)の混合気が得られるように燃料噴射パルス幅を演算し、その演算値にしたがって燃料噴射弁4からの燃料噴射を行う。
【0014】
スロットル弁8の上流にはACモータ12により駆動される容積型の過給機11が備えられ、この過給機11はエンジンに吸入される空気を過給する。詳細にはACモータ12の出力軸と過給機11の入力軸との間に電磁クラッチ(図示しない)が介装されている。この電磁クラッチはACモータ12と過給機11とを直結状態としたり非直結状態としたりするためのもので、過給が不必要なときには電磁クラッチをOFFにしてACモータ12と過給機11とを非直結状態とし、過給が必要なときには電磁クラッチをONにしてACモータ12と過給機11とを直結状態としている。
【0015】
また、過給機11をバイパスしてスロットル弁8の上流に合流するバイパス通路13が設けられ、このバイパス通路13にステップモータ15により駆動されるバイパス弁14が介装されている。
【0016】
エンジンコントロールユニット21にはアクセルセンサ22からのアクセル操作量の信号も入力され、エンジンコントロールユニット21ではこのアクセル操作量の信号に基づいて目標空気量を演算すると共にその目標空気量に応じて目標過給圧比を設定し、これら目標空気量と目標過給圧比に基づいてスロットル弁8の目標開度と過給機11の目標回転速度を同時に演算し、過給が必要なときには電磁クラッチをONにしてACモータ12と過給機11とを直結状態とすると共に、スロットル弁8、過給機11の各アクチュエータをそれぞれの目標値に従って協調制御する。この協調制御については、特開2001−355501号公報に記載されているが、この協調制御部分に本発明の特徴はないので、その詳しい説明は省略する。
【0017】
図示しないが、エンジンの出力トルクは、トルクコンバータを介して自動変速機(例えばCVT)に伝達され、この自動変速機の出力トルクがさらにファイナルギア、ディファレンシャルギアを介して駆動輪へと伝達される。また、トルクコンバータの入力軸と出力軸とを直結状態としたり、非直結状態とするロックアップクラッチ(ロックアップ機構)を備えてもいる。
【0018】
さて、燃費向上を目的に車両の減速時には、エンジンへの燃料供給を停止する、いわゆる燃料カットが行われる。この燃料カットの途中で車両の再加速要求に応えてエンジンを再始動する際に、再加速要求のあったタイミングからできるだけ早くエンジンを再始動できなければ望みの加速が得られず運転性が悪くなるため、スタータ(スタータモータ)によりクランキングを行うエンジンにおいては、ある一定のエンジン回転速度(=従来装置の燃料カットリカバー回転速度)以下の領域では、燃料カットを行うことができなかった。すなわち、燃料カット中にアクセルペダルが踏み込まれた(つまり再加速の要求があった)ときには、速やかにエンジンを再始動させてアクセル開度に応じたエンジン出力が得られるようにしなければならない。しかしながら、燃料カット中のエンジン回転速度が、燃料カットによりエンジンが惰性で回転している状態でスタータの助けを借りなくても自立運転に復帰し得る最低の回転速度を下回ってしまうと、もはやスタータの助けなしではエンジンは自立運転に復帰し得ない。従って、このときには、エンジン回転速度がゼロになるのを待ってスタータによりエンジンをクランキングして再始動させることになる。つまり、エンジン再始動に有する時間の中でも、特にスタータエンゲージのための、エンジン停止にかかる時間がもっとも大きな要因とされており、このエンジン停止にかかる時間が、燃料カット状態における再加速要求時の応答遅れとなるため、従来装置においてはエンジンが惰性で回転している状態でスタータの助けを借りなくても自立運転に復帰し得る最低の回転速度を燃料カットリカバー回転速度として定めておき、燃料カット中のエンジン回転速度がこの燃料カットリカバー回転速度にまで低下したタイミングで燃料供給を再開してエンジンを再始動させているわけである。
【0019】
本発明は、こうしたスタータを用いてクランキングを行うエンジンを前提として、従来装置よりも燃料カット領域を低回転速度側に拡大することにより従来装置より一層の燃費向上を図りつつ、燃料カット中における車両の再加速要求に応えるため再加速要求のあったタイミングからエンジンが停止するまでの時間を短縮させることにより、再加速要求時のレスポンスを向上させるものである。
【0020】
ここで、本発明では、エンジン停止にかかる時間を短縮させる方法として、エンジンに負荷を入力する(つまりエンジンを強制的に停止させる)方法を採用している。これを図2を参照して具体的に説明すると、図2は車両の減速途中(つまり燃料カット中)でブレーキペダルから足を離しアクセルペダルを踏み込んで車両を再加速したときに、エンジン回転速度Ne、ロックアップクラッチ、ACモータ12と過給機11との断接を行う電磁クラッチ、バイパス弁14、吸気管圧力、スロットル弁開口面積、スタータスイッチがそれぞれどのように変化するのかをモデルで示したタイミングチャートである。
【0021】
図2において、車両の減速によって燃料カットが行われエンジン回転速度が低下している途中のt2のタイミングで車両の再加速要求があったとすると、このt2のタイミングでのエンジン回転速度Neは所定値Nsを下回っている。ここで、所定値Nsはスタータの助けを借りることなく、惰性状態で回転しているエンジン自体の有する回転力を用いてエンジンが自立運転に復帰し得る下限のエンジン回転速度、つまり従来装置の燃料カットリカバー回転速度である。従って、従来装置の場合であれば、エンジン回転速度Neが所定値Nsに到達するt1のタイミングで燃料カットリカバー処理が行われるため、t2のタイミングよりエンジン回転速度が上昇していくこととなる(図2最上段の二点鎖線参照)。これを逆にいえば、従来装置の場合にはエンジン回転速度Neが所定値Ns以下の低回転速度領域では燃料カットを行うことができないわけである。これに対して、本発明では、エンジン回転速度Neが所定値Ns以下となっても燃料カットを行っている、つまり本発明では、燃料カット中に再加速要求がない場合に、エンジン回転速度がゼロとなるまで燃料カットを行う。
【0022】
そして、燃料カット中に再加速要求があったt2のタイミングで以下の操作を行う。
【0023】
〔1〕アイドル位置でのスロットル弁開度(あるいはスロットル弁開口面積)より 所定値だけ小さくする(図2の第6段目参照)。
【0024】
〔2〕電磁クラッチをOFFからONへと切換えてACモータ12と過給機11とを接 続する(図2の第3段目の実線参照)。
【0025】
〔3〕バイパス弁14を全開状態から全閉状態へと切換える(図2の第4段目の実線参 照)。
【0026】
〔4〕ロックアップクラッチをONからOFFへと切換え、エンジンと自動変速機とが トルクコンバータを介して接続された状態とする(図2の第2段目参照)。
【0027】
上記〔1〕、〔2〕の操作はエンジンに負荷を入力するためのものである。すなわち、燃料カット中にはエンジンコントロールユニット21によりスロットル弁8がアイドル位置に保持される。アイドル位置では、アイドル回転速度を維持できるだけの吸入空気量がスロットル弁8とスロットル弁8周囲の吸気管壁との隙間を通ってシリンダに流れ込んでいる。従って、DCモータ9を駆動してスロットル弁8をアイドル位置よりさらに絞ることが可能で、これによりエンジンに吸入される吸入空気量がアイドル位置での吸入空気量より減り、その吸入空気量の減少分だけエンジンのポンピングに要する仕事量が増すため、スロットル弁8をアイドル位置より絞らない場合よりエンジン回転速度が落下する程度(スピード)を表す傾きが大きくなる。
【0028】
上記〔3〕の操作でバイパス弁14を全閉状態とするのは過給機11の駆動負荷を大きくするためである。すなわち、バイパス弁14の全閉によって吸入空気の全てが過給機11に導入されることになり、吸入空気は、モータ12と接続された過給機11を回そうとして吸入空気の運動エネルギーが消費される。このため、過給機11より出た吸入空気の流速は大きく減速されたものとなり、エンジンへの吸入空気量が少なくなり、その分エンジンのポンピングに要する仕事量が増すため、エンジン回転速度が落下する程度がさらに大きくなる。
【0029】
一方、上記〔4〕の操作は、エンジン負荷入力による変化が駆動輪に伝わらないようにするものである。すなわち、ロックアップクラッチはON状態でトルクコンバータの入力軸とエンジン出力軸とを直結状態とし、OFF状態でトルクコンバータの入力軸とエンジン出力軸とを非直結状態とするものであり、車両の減速時にロックアップクラッチをONにしていると、エンジンは車輪からの駆動力を受けて連れ回される状態となっている。この状態でエンジンを強制的に停止させるべくエンジン回転速度が落下する程度を大きくすると、この変化がそのまま駆動輪まで伝わり、駆動輪速度(車両速度)を急激に減少させることになり、運転フィーリングが悪くなる。そこで、エンジンを強制的に停止させるにしても、その変化が駆動輪まで伝わらないように、ロックアップクラッチをONからOFFへと切換えることで、エンジンと自動変速機とがトルクコンバータ(流体継手)によって接続された状態とし、エンジンを強制的に停止させることによる変化をトルクコンバータで吸収させる。
【0030】
この結果、再加速要求のあったt2のタイミングより、エンジン回転速度の傾きが大きくなり、t3のタイミングでエンジン回転速度がゼロ、つまりエンジンが停止している(図2最上段の実線参照)。これに対して、燃料カットはエンジン回転速度がゼロとなるまで行うものの、エンジンを強制的に停止させない場合のエンジン回転速度の変化を図2最上段に一点鎖線で示している。すなわち、上記〔1〕〜〔4〕の操作を行っていない場合には図2最上段の一点鎖線で示したように、エンジン回転速度の傾きがt2の前後で変わらず、従ってこの場合にはt5のタイミングでやっとエンジン回転速度がゼロになる。このように、本発明によれば、上記〔1〕〜〔4〕の操作を行うことによってエンジン停止をt5よりt3へと早めることができる。
【0031】
エンジンが停止したか否かは、例えばクランク角センサ23により検出される実際のエンジン回転速度に基づいて判定すればよい。エンジンの停止がt3のタイミングで判定されたとすると、その判定タイミング(t3)で以下の操作を行う。
【0032】
〔5〕スロットル弁開度をアイドル位置でのスロットル弁開度(あるいはスロットル弁 開口面積)に戻す(図2の第6段目参照)。
【0033】
〔6〕電磁クラッチをONからOFFへと切換えてACモータ12と過給機11との接 続を遮断する(図2の第3段目の実線参照)。
【0034】
〔7〕バイパス弁14を全閉状態から全開状態へと切換える(図2の第4段目の実線参 照)。
【0035】
〔8〕燃料噴射弁4への所定量の燃料供給と点火プラグ6への火花点火の供給とを行い つつスタータによりエンジンのクランキングを行わせ、エンジンを再始動させる (図2の最下段参照)。
【0036】
上記〔5〕〜〔7〕の操作でエンジンへの負荷の入力がなくなるので、上記〔8〕の操作でエンジンが再始動される。
【0037】
エンジンが再始動したか否かも、クランク角センサ23により検出される実際のエンジン回転速度に基づいて判定すればよい。すなわち、実際のエンジン回転速度Neと完爆回転速度とを比較し、エンジン回転速度Neが完爆回転速度以上になれば、エンジンが再始動したと判定する。エンジン回転速度Neがt4のタイミングで完爆回転速度以上になったとすると、そのt4のタイミングで以下の操作を行う。
【0038】
〔9〕スタータの作動を停止させる(図2の最下段参照)。
【0039】
〔10〕スロットル弁開度をt2で踏み込まれているアクセルペダルのアクセル操作量 に応じたスロットル弁開度(あるいはスロットル弁開口面積)へと大きくする (図2の第6段目参照)。
【0040】
このように、エンジンに負荷を入力する方法としてモータ駆動の過給機11を用いる場合を説明したが、エンジンに負荷を入力する方法はこの場合に限られない。例えば、燃料カット中に再加速要求があったt2のタイミングで、エンジン駆動の補機であるオルタネータやエアコンを非作動状態から作動状態へと切換えることによってエンジンに負荷を入力し、エンジン停止が判定されるt3のタイミングでオルタネータやエアコンを作動状態から非作動状態へと切換えることによってエンジンへの負荷入力を解除することとしてもかまわない(図2の第7段目、第8段目参照)。
【0041】
エアコンについて具体的に説明すると、エアコン用コンプレッサのプーリとクランクプーリとがベルトによって掛け回され、エアコン用コンプレッサのプーリとコンプレッサ本体とは電磁クラッチによって断接されるようになっている。従って、エアコンが不要なときには、電磁クラッチをOFFとすることによってエアコン用コンプレッサを非作動状態としている。こうした構成のエアコンの場合、燃料カット中に再加速要求があったt2のタイミングで電磁クラッチがOFF状態にあれば、電磁クラッチをOFFからONに切換えることで、コンプレッサ負荷がエンジンに加わり、コンプレッサ負荷がエンジンに加わらないときよりエンジン回転速度の落下の程度(スピード)が大きくなる。また、エンジン停止が判定されるt3のタイミングで電磁クラッチをONからOFFに切換えてやれば、コンプレッサ負荷がエンジンに加わることがなくなる。
【0042】
次に、オルタネータについては、ボルテージレギュレータであるICレギュレータ(発電電圧可変制御装置)を備えるものが前提である。すなわち、ICレギュレータでは、エンジンコントロールユニット21より送られてくる発電指令信号に基づいた目標発電電圧となるように発電電圧を制御すると共に、エンジンコントロールユニット21より発電指令信号が送られてこない場合には、オルタネータがICレギュレータの特性に応じた通常の発電を行っている。こうした構成のオルタネータの場合において、燃料カット中に再加速要求があったt2のタイミングで発電指令信号を既にICレギュレータに送っているときには、ICレギュレータに対しオルタネータの発電量が増すように発電指令信号を変更することで、オルタネータの発電負荷の増加分だけエンジンの駆動力が使われる分が多くなり、オルタネータ負荷が増加する前よりエンジン回転速度の落下の程度が大きくなる。また、エンジン停止が判定されるt3のタイミングでICレギュレータに対しオルタネータの発電量が元に戻るように発電指令信号を変更することで、レギュレータ負荷が発電指令信号を変更する前と同じになる。一方、燃料カット中に再加速要求があったt2のタイミングで発電指令信号をICレギュレータに送信していないときには、ICレギュレータに対しオルタネータの発電量が増すように発電指令信号を送信してやることで、オルタネータの発電負荷の増加分だけエンジンの駆動力が使われる分が多くなり、発電指令信号を送信する前よりエンジン回転速度の落下の程度が大きくなる。また、エンジン停止が判定されるt3のタイミングでICレギュレータへの発電指令信号の送信を中止することでレギュレータ負荷が発電指令信号を送信する前と同じになる。なお、発電電圧可変制御装置そのものは公知である(特開2005−47318号公報参照)。
【0043】
エンジンコントロールユニット21で実行されるこの制御の内容を、図3、図4のフローチャートにしたがって詳述する。
【0044】
図3は再始動フラグを設定するためのもので、一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。
【0045】
ステップ1では燃料カット中であるか否かをみる。燃料カット中でないときにはそのまま今回の処理を終了する。
【0046】
燃料カット中であるときにはステップ2、3に進み、今回に車両の再加速要求があるか否か、前回に車両の再加速要求があったか否かをみる。例えば車両の減速途中にドライバーがブレーキから足を離したりアクセルペダルを踏み込んだりしたときに、車両の再加速要求があると判断される。今回に車両の再加速要求がありかつ前回に車両の再加速要求がなかった、つまり今回に再加速要求のない状態から再加速要求がある状態へと切換わったときには、ステップ4に進み再加速要求があったタイミングでの実際のエンジン回転速度Neと所定値Nsを比較する。ここで、所定値Nsは、前述したように、スタータの助けを借りることなく惰性状態で回転しているエンジン自体の有する回転力を用いてエンジンが自立運転に復帰し得る下限のエンジン回転速度で、予め定められている。言い替えると、所定値Nsは、従来装置でいう燃料カットリカバー回転速度のことで、従来装置であればアクセルペダルを踏み込むことなく実際のエンジン回転速度Neがこの所定値Nsにまで低下したとき、燃料供給を再開してエンジンを自立運転に復帰させている。
【0047】
また、従来装置では燃料カット中のエンジン回転速度が所定値Nsまで低下する前に再加速要求があったときにはそのタイミングで燃料カットリカバー処理を行わせている。この点は本発明でも同様である。すなわち、クランク角センサ23により検出される、再加速要求があったタイミングでのエンジン回転速度Neが所定値Nsを超えているときにはステップ4よりステップ5に進み、従来装置と同様に、通常の燃料カットリカバー処理を開始する。
【0048】
一方、ステップ4において再加速要求があったタイミングでのエンジン回転速度Neが所定値Ns以下であるときにはステップ5に進み、再始動フラグ=1とする。この再始動フラグは新たに導入するものであり、後述するように、この再始動フラグの値に基づいて、スタータを用いてのエンジンの再始動を行う。
【0049】
再加速要求があったタイミングでのエンジン回転速度Neが所定値Ns以下であるときにエンジンの再始動を行うということは、従来装置において減速時燃料カットが成立しなかった低回転領域、つまり燃料カットリカバー回転速度(Ns)からエンジン回転速度ゼロまでの低回転領域においても燃料カットを可能にするものである。
【0050】
なお、ステップ4で実際のエンジン回転速度と所定値Nsを比較させているが、本発明はこの場合に限られない。すなわち、実際の車速Vと所定値Vsを比較させ、車速Vが所定値Vsを超えているときステップ5に進ませ、車速Vが所定値Vs以下のときステップ6に進ませるようにしてもかまわない。ここで、所定値Vsはスタータの助けを借りることなく惰性状態で回転しているエンジン自体の有する回転力を用いてエンジンが自立運転に復帰し得る下限の車速である。
【0051】
図4はスタータを用いてのエンジンの再始動を行わせるためのもので、図3のフローに続けて一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。
【0052】
ステップ11、12では、今回に再始動フラグ=1であるか否か、前回に再始動フラグ=1であったか否かをみる。今回に再始動フラグ=1であるときにはそのまま今回の処理を終了する。
【0053】
今回に再始動フラグ=1でありかつ前回に再始動フラグ=0であった、つまり再始動フラグがゼロから1に切換わった(今回に車両の再加速要求のない状態から車両の再加速要求がある状態へと切換わった)ときには、ステップ13、14に進んで始動開始フラグ=0、再始動フラグ=0と(つまり始動開始フラグと再始動フラグを初期設定)したあと、ステップ15〜17でエンジンに負荷を入力してエンジンを強制的に停止する。すなわち、ステップ15でアイドル位置のスロットル弁開度より所定値だけ減少するようにDCモータ9に駆動信号を出力する。ステップ16では過給機11が作動状態となるように、つまりACモータ12と過給機11とが接続されるように電磁クラッチをOFFからONへと切換え、ステップ17でバイパス弁14が全開状態から全閉状態へと切換えられるようにステップモータ15に対して駆動信号を出力する。ステップ18ではエンジンと自動変速機とがトルクコンバータを介して接続されるようにロックアップクラッチをONからOFFに切換える。
【0054】
なお、ステップ15〜17の操作は開始を指示するものである。すなわち、ステップ15でのDCモータ9への駆動信号の出力により、以後DCモータ9の応答性に応じてスロットル弁開度がアイドル位置より所定値だけ小さくなる。また、ステップ17でのACモータ12への駆動信号の出力により、ACモータ12の応答性に応じてバイパス弁開度が小さくなってゆき、やがてバイパス弁14が全閉状態となる。ステップ15〜17の操作によってエンジンに負荷が加わるため、エンジンに負荷が加わらないときよりエンジン回転速度Neの落下程度が大きくなり、エンジン回転速度が急激に低下してゆく。
【0055】
このとき、ロックアップクラッチがON状態でエンジンと自動変速機とが直結状態にあればエンジン回転速度の急激な低下を受けて駆動輪までが減速することになってしまい、運転性が悪くなるのであるが、ロックアップクラッチをOFFとしてエンジンと自動変速機とがトルクコンバータを介して接続することで、エンジン回転速度の低下がトルクコンバータにより吸収される。すなわち、エンジン回転速度の低下がそのまま駆動輪に伝わることがないので、エンジン回転速度の低下に伴う運転性の悪化を防止できる。
【0056】
一方、ステップ11、12で今回に再始動フラグ=1でありかつ前回に再始動フラグ=1であった、つまり再始動フラグが続けて1である(続けて車両の再加速要求がある)ときには、ステップ19、20に進んで始動完了フラグ、始動開始フラグをみる。ステップ13、14での初期設定により始動開始フラグ=0かつ始動完了フラグ=0であるので、このときにはステップ21に進み、エンジンが停止したか否かをみる。これは、例えばクランクセンサ23により検出される実際のエンジン回転速度Neとゼロとを比較させればよく、エンジン回転速度Neがゼロより大きいときにはエンジンが停止していないと判断し、今回の処理をそのまま終了する。
【0057】
ステップ15〜18の操作の開始から所定時間が経過すればエンジン回転速度Neがゼロとなる。このときにはエンジンが停止したと判断し、ステップ21よりステップ22〜26に進んでエンジンの再始動を行う。すなわち、ステップ22ではスロットル弁開度がアイドル位置に戻るようにDCモータ9に駆動信号を出力する。ステップ23では過給機11が非作動状態となるように、つまりACモータ12と過給機11との接続が遮断されるように電磁クラッチをONよりOFFへと切換える。ステップ24ではバイパス弁14が全閉状態から全開状態へと切換わるようにステップモータ15に対して駆動信号を出力する。ステップ25では燃料噴射弁4への所定量の燃料供給と点火プラグ6への火花点火の供給を開始し、スタータを駆動してエンジンのクランキングを行わせる。ステップ27では再始動を開始したので始動開始フラグ=1とする。
【0058】
なお、ステップ22〜26の操作も開始を指示するものである。すなわち、ステップ22でのDCモータ9への駆動信号の出力により、以後DCモータ9の応答性に応じてスロットル弁開度がアイドル位置へと戻される。また、ステップ24でのACモータ12への駆動信号の出力により、ACモータ12の応答性に応じてバイパス弁開度が大きくなってゆき、やがてバイパス弁14が全開状態となる。また、ステップ25、26により燃料噴射弁4への所定量の燃料供給と点火プラグ6への火花点火の供給とを行いつつスタータを用いてエンジンをクランキングすることでエンジンがやがて自立運転に至ることとなる。
【0059】
ステップ27での始動開始フラグ=1により、次回からはステップ19、20よりステップ28に進むことになり、実際のエンジン回転速度Neと完爆回転速度とを比較する。エンジン回転速度Neが完爆回転速度に到達しない間は、そのまま今回の処理を終了する。
【0060】
ステップ22〜26の操作の開始から所定時間が経過すればエンジンが自立運転に至る、つまりエンジン回転速度Neが完爆回転速度に到達する。このときにはエンジンが再始動したと判断してステップ28よりステップ29に進んでスタータを停止し、ステップ30で始動完了フラグ=1とする。ステップ30での始動完了フラグ=1により、次回からはステップ19よりステップ20以降に進むことなく処理を終了する。また、ステップ31では次回の燃料カットに備えて再始動フラグ=0とする。
【0061】
ここで、本実施形態の作用効果を説明する。
【0062】
本実施形態(請求項1、8に記載の発明)によれば、スタータを用いてクランキングを行うエンジンを有する車両において、車両の減速時に燃料カットを行い(エンジンへの燃料供給を遮断し)、この燃料カット中に車両の再加速要求があったか否かを判定し(図3のステップ2参照)、この判定結果より燃料カット中に車両の再加速要求があったとき、過給機11を非作動状態から作動状態へと切換えることによってエンジンに負荷を入力し(図3のステップ3、6、図4参照)、このエンジン負荷の入力によりエンジンが停止したとき、エンジンへの燃料供給を再開すると共にスタータによりエンジンをクランキングしてエンジンを再始動させる(図4のステップ21〜27、20、28〜31参照)ので、燃料カット中に車両の再加速要求がない場合には、燃料カットがエンジン回転速度がゼロとなるまで行われることになり、燃費を一段と向上させることができると共に、スタータを用いてクランキングを行うエンジンであっても、車両の再加速応答性を向上させることができる。
【0063】
本実施形態(請求項5に記載の発明)によれば、モータ12により駆動され吸入空気を過給する過給機11と、モータ12と過給機11とを断接する電磁クラッチと、過給機11をバイパスしてスロットル弁8の上流に合流するバイパス通路13と、バイパス通路13を開閉するバイパス弁14とを備え、エンジン負荷入力手段は、電磁クラッチを非接続状態から接続状態へと切換えかつバイパス弁14を全開状態から全閉状態へと切換える過給機作動手段であるので(図4のステップ16、17参照)、過給機11を備えている場合においてもエンジンを強制的に停止させることができる。
【0064】
本実施形態(請求項6に記載の発明)によれば、駆動信号に応じてスロットル弁8を開閉し得るスロットル装置を備え、エンジンに負荷を入力するとき、スロットル装置によりスロットル弁8の開度をアイドル位置より所定値小さくするので(図4のステップ15参照)、スロットル弁の開度がアイドル位置のままである場合よりも過給機11の駆動負荷を大きくすることができる。
【0065】
本実施形態(請求項7に記載の発明)によれば、ロックアップクラッチ(ロックアップ機構)を有する自動変速機を備え、エンジンに負荷を入力するとき、ロックアップクラッチをON状態(作動状態)からOFF状態(非作動状態)に切換えるので(図4のステップ18参照)、エンジンを強制的に停止させる場合におけるエンジン回転速度の変化が駆動輪に伝達されてしまい運転性が悪くなることを防止できる。
【0066】
請求項1において、燃料供給遮断実行手段の機能はエンジンコントロールユニット21により、再加速要求判定手段の機能は図3のステップ2により、エンジン負荷入力手段の機能は図3のステップ3、6、図4により、エンジン再始動手段の機能は図4のステップ21〜27、20、28〜31によりそれぞれ果たされている。
【0067】
請求項8において、燃料供給遮断実行処理手順はエンジンコントロールユニット21により、再加速要求判定処理手順は図3のステップ2により、エンジン負荷入力処理手順は図3のステップ3、6、図4により、エンジン再始動処理手順は図4のステップ21〜27、20、28〜31によりそれぞれ果たされている。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の第1実施形態の車両の概略構成図。
【図2】燃料カット中に車両の再加速要求があったときのタイミングチャート。
【図3】再始動フラグの設定を説明するためのフローチャート。
【図4】エンジン再始動を説明するためのフローチャート。
【符号の説明】
【0069】
1 エンジン本体
4 燃料噴射弁
6 点火栓
21 エンジンコントロールユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スタータを用いてクランキングを行うエンジンを有する車両において、
車両の減速時にエンジンへの燃料供給を遮断する燃料供給遮断実行手段と、
この燃料供給遮断中に車両の再加速要求があったか否かを判定する再加速要求判定手段と、
この判定結果より燃料供給遮断中に車両の再加速要求があったとき、エンジンに負荷を入力するエンジン負荷入力手段と、
このエンジン負荷の入力によりエンジンが停止したとき、前記スタータによりエンジンをクランキングしてエンジンを再始動させるエンジン再始動手段と
を備えることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
エンジンにより駆動される補機負荷を備え、
前記エンジン負荷入力手段は補機負荷を非作動状態から作動状態へと切換える補機負荷作動手段であることを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
エンジンにより駆動されるオルタネータと、
このオルタネータの発電電圧を可変に制御し得る発電電圧可変制御装置と
を備え、
前記エンジン負荷入力手段は発電電圧可変制御装置によりオルタネータの発電負荷を増加させる発電負荷増加手段であることを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
エアコンを備え、
前記エンジン負荷入力手段はエアコンを非作動状態より作動状態に切換えるエアコン作動手段であることを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
モータにより駆動され吸入空気を過給する過給機と、
モータと過給機とを断接する電磁クラッチと、
過給機をバイパスしてスロットル弁の上流に合流するバイパス通路と、
バイパス通路を開閉するバイパス弁と
を備え、
前記エンジン負荷入力手段は、電磁クラッチを非接続状態から接続状態へと切換えかつバイパス弁を全開状態から全閉状態へと切換える過給機作動手段であることを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項6】
駆動信号に応じてスロットル弁を開閉し得るスロットル装置を備え、
前記エンジンに負荷を入力するとき、スロットル装置によりスロットル弁の開度をアイドル位置より所定値小さくすることを特徴とする請求項5に記載の車両の制御装置。
【請求項7】
ロックアップ機構付きの自動変速機を備え、
前記エンジンに負荷を入力するとき、ロックアップ機構を作動状態から非作動状態に切換えることを特徴とする請求項1から6までのいずれか一つに記載の車両の制御装置。
【請求項8】
スタータを用いてクランキングを行うエンジンを有する車両において、
車両の減速時にエンジンへの燃料供給を遮断する燃料供給遮断実行処理手順と、
この燃料供給遮断中に車両の再加速要求があったか否かを判定する再加速要求判定処理手順と、
この判定結果より燃料供給遮断中に車両の再加速要求があったとき、エンジンに負荷を入力するエンジン負荷入力処理手順と、
このエンジン負荷の入力によりエンジンが停止したとき、前記スタータによりエンジンをクランキングしてエンジンを再始動させるエンジン再始動処理手順と
を含むことを特徴とする車両の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−250080(P2009−250080A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−96905(P2008−96905)
【出願日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】