説明

車両の障害物検知装置

【課題】レーダ装置1の位置推定部4bが、障害物(静止物体)が検知された時点で算出された、該障害物の進行路中心線からのずれ量に基づいて、該障害物の自車両に対する相対移動位置を推定する場合に、その相対移動位置を正確に推定できるようにする。
【解決手段】レーダ装置1により障害物が検知された時点で算出された上記ずれ量を、該障害物の自車両に対する相対移動位置を推定する際に、該障害物が検知されてから所定時間経過した時点で検出された旋回半径に基づいて補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自車両前方の障害物を検知するレーダ装置を備えた車両の障害物検知装置に関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、レーダ装置を用いて自車両前方の障害物を検知するようにした障害物検知装置はよく知られている。この種の障害物検知装置の中には、自車両のヨーレートを検出するヨーレート検出センサや、自車両のステアリングホイールの操舵角を検出する舵角センサ等の検出値に基づいて自車両の旋回半径を検出して、この検出された旋回半径に基づいて進行路(進行路中心線の曲率半径)を推定するものがある(例えば、特許文献1、2参照)。そして、上記推定された進行路に基づいて、上記検知した障害物の所定時間(レーダの走査時間に対応する時間)後における位置を推定し、この推定結果に基づいて、上記検知から所定時間後に検知した障害物が、上記所定時間後における位置を推定した障害物と同じか否かを判定するようにしている。また、特許文献1では、検知した障害物が一時的に検知されなくなっても、上記のように位置を推定して補間することで、障害物を追尾し続けることを可能にしている。
【特許文献1】特開平7−215147号公報
【特許文献2】特開平8−161697号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記検知した障害物の位置を推定する場合、その検知された障害物が静止物体である場合(レーダ装置により障害物と自車両との相対速度を検知することも可能であり、例えば該相対速度と自車両の車速とに基づいて静止物体か否かを判定する)、その障害物が検知された時点で、当該障害物の、上記推定された進行路中心線からのずれ量を算出して、このずれ量に基づいて位置推定を行えば、その位置推定が容易になる。すなわち、進行路中心線の曲率半径(自車両の旋回半径)は、通常、自車両が所定時間進行する間に大きく変化することはないと考えられるため、静止物体の場合には、上記所定時間の間に上記ずれ量が変化しないと仮定することで、静止物体の位置を容易に推定することが可能になる。また、そのずれ量の大きさにより、自車両が障害物へ衝突するか否かの判断も容易となる。
【0004】
しかしながら、実際には、進行路中心線の曲率半径(自車両の旋回半径)が所定時間の間に変化するようなカーブが存在し(特にコーナの出入口付近に存在する)、このようなカーブを車両が走行しているときにおいては、上記ずれ量が変わらないとすると、障害物の位置を正確に推定することができなくなってしまう。
【0005】
例えば、車両Wが、図6に示すようなカーブを走行しているときを考える。A地点では、推定される進行路中心線の曲率半径R1(A地点の車両Wの旋回半径)が比較的大きくて、P地点に存在する障害物(静止物体)をA地点で検知して、その障害物の進行路中心線からのずれ量fを算出したとする。そして、車両Wが所定時間後にB地点に位置し、このB地点では、推定される進行路中心線の曲率半径R2(B地点の車両Wの旋回半径)が、A地点で推定された進行路中心線の曲率半径R2よりも小さくなったとする。このB地点で、上記障害物が該所定時間の間に車両Wに対して相対的に移動した位置を推定する。このとき、上記のずれ量fと同じずれ量があるとして、Q地点に移動したと推定する。ところが、Q地点付近に障害物が存在しないので、上記検知した障害物が一時的に検知されなくなったとして補間し続けることになる(P地点にある障害物は別のもの判断する)。したがって、実際に存在しない障害物を補間し続けることとなり、処理が複雑になるとともに、ずれ量が車幅の半分よりも小さくかつ補間した位置と車両Wとの距離が短い場合には、衝突の可能性があるとして、車両のブレーキ等を誤作動させる要因となる。
【0006】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、上記のように障害物の進行路中心線からのずれ量を算出して、このずれ量に基づいて、静止物体である障害物の自車両に対する相対位置を推定する場合に、その相対移動位置を正確に推定できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、この発明では、レーダ装置により障害物が検知された時点で算出された、該障害物の進行路中心線からのずれ量を、該障害物の自車両に対する相対移動位置を推定する際に、該障害物が検知されてから所定時間経過した時点で検出された旋回半径に基づいて補正するようにした。
【0008】
具体的には、請求項1の発明では、自車両前方の障害物を検知するレーダ装置と、該レーダ装置からの障害物検知情報を受けて自車両の作動機器を制御する作動機器制御手段とを備えた車両の障害物検知装置を対象とする。
【0009】
そして、自車両の旋回半径を検出する旋回半径検出手段と、上記旋回半径検出手段により検出された旋回半径に基づいて自車両の進行路を推定する進行路推定手段と、上記レーダ装置により検知された障害物が静止物体であるか否かを判定する静止物体判定手段と、上記障害物が検知されてから所定時間経過した時点で、当該障害物が該所定時間の間に自車両に対して相対的に移動した位置を推定する位置推定手段とを備え、上記位置推定手段は、上記レーダ装置により上記障害物が検知された時点で、当該障害物の、上記進行路推定手段により推定された進行路中心線からのずれ量を算出するずれ量算出手段を有していて、上記静止物体判定手段により当該障害物が静止物体であると判定された場合に、当該障害物が検知されてから所定時間経過した時点で、該ずれ量算出手段により算出されたずれ量に基づいて上記障害物の自車両に対する相対移動位置を推定するように構成されており、上記ずれ量算出手段により算出されたずれ量を、上記位置推定手段が上記障害物の自車両に対する相対移動位置を推定する際に、上記障害物が検知されてから所定時間経過した時点で上記旋回半径検出手段により検出された旋回半径に基づいて補正する補正手段を更に備えているものとする。
【0010】
上記の構成により、レーダ装置により障害物が検知された時点で、その障害物の、進行路推定手段により推定された進行路中心線からのずれ量が算出され、その障害物が検知されてから所定時間経過した時点で、該障害物が該所定時間の間に自車両に対して相対的に移動した位置が推定される。このとき、障害物が静止物体である場合に、上記ずれ量に基づいて障害物の自車両に対する相対移動位置が推定されるが、上記ずれ量は、補正手段によって、上記障害物が検知されてから所定時間経過した時点で検出された旋回半径に基づいて補正される。したがって、進行路中心線の曲率半径(自車両の旋回半径)が所定時間の間に変化するようなカーブを自車両が走行中であっても、最新の旋回半径及び進行路に応じて上記ずれ量を適切な値に補正することができる。よって、静止物体である障害物の自車両に対する相対移動位置を正確に推定できるようになる。
【0011】
請求項2の発明では、請求項1の発明において、上記レーダ装置は、ミリ波レーダ装置であるものとする。
【0012】
このことにより、雨や霧等の状態でも安定して障害物を捉えることができ、車両に搭載するものとして最適なものとなる。
【0013】
請求項3の発明では、請求項1又は2の発明において、上記旋回半径検出手段は、自車両のヨーレートを検出するヨーレート検出センサを有しているものとする。
【0014】
請求項4の発明では、請求項1又は2の発明において、上記旋回半径検出手段は、自車両の横加速度を検出する横加速度検出センサを有しているものとする。
【0015】
これら請求項3及び4の発明により、自車両の旋回半径を正確に検出して、進行路(進行路中心線の曲率半径)を正確に推定することができる。
【0016】
請求項5の発明では、請求項1〜4のいずれか1つの発明において、上記作動機器は、自車両のブレーキを作動させるブレーキ作動手段であるものとする。
【0017】
請求項6の発明では、請求項1〜4のいずれか1つの発明において、上記作動機器は、自車両の乗員が着用しているシートベルトを巻き取って該シートベルトに所定張力を付与することで該乗員を拘束するシートベルトプリテンショナであるものとする。
【0018】
これら請求項5及び6の発明により、ブレーキ作動手段やシートベルトプリテンショナが誤って作動するのを防止しつつ、乗員の安全性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明の車両の障害物検知装置によると、レーダ装置により障害物(静止物体)が検知された時点で算出された、該障害物の進行路中心線からのずれ量を、該障害物の自車両に対する相対移動位置を推定する際に、該障害物が検知されてから所定時間経過した時点で検出された旋回半径に基づいて補正するようにしたことにより、静止物体である障害物の自車両に対する相対移動位置を正確に推定することができるようになり、実際に存在しない障害物を補間し続けて処理が複雑になるのを防止することができるとともに、衝突の可能性があると誤判定してブレーキ等を作動させるのを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明の実施形態に係る障害物検知装置を搭載した車両W(自車両に相当し、本実施形態では自動車である)を示し、この車両Wの前端部に、車両Wの前方に存在する障害物を検知するレーダ装置1が設けられている。このレーダ装置1は、ミリ波レーダ装置であって、図2に示すように、ミリ波を前方に向けて略水平方向に所定角度範囲を走査しながら発信する発信部2と、そのミリ波が車両Wの前方の障害物に当たって反射してきた反射波を受信する受信部3と、この受信部3で受信したデータに基づいて、後述の如く障害物の検知処理を行う処理部4とを有してユニット化されたものである。
【0022】
上記車両Wには、上記レーダ装置1の処理部4からの障害物検知情報を受けて車両Wの作動機器を制御する作動機器制御手段としてのコントロールユニット11が設けられている。上記作動機器としては、本実施形態では、後述するブレーキ作動手段21及びシートベルトプリテンショナ22である。
【0023】
また、上記車両には、図2に示すように、車両Wの車速を検出する車速センサ12と、車両Wに生じるヨーレートを検出するヨーレートセンサ13と、車両Wの障害物への衝突を検出するGセンサ14とが設けられており、これら各センサ12〜14からの検出情報が上記コントロールユニット11に入力されるようになっている。
【0024】
上記ブレーキ作動手段21は、車両Wのブレーキを作動させて各車輪31に制動力を付与するものである。また、シートベルトプリテンショナ22は、車両Wのシート41に着座している乗員が着用しているシートベルト51を巻き取って該シートベルト51に所定張力を付与することで、該乗員を拘束するものである。
【0025】
ここで、車両Wに搭載されているシートベルト装置について説明する。このシートベルト装置は、図1に示すように、上記シートベルト51を巻き取るリトラクタ部53と、このリトラクタ部53から引き出されたシートベルト51の先端部が取り付けられたラップアンカー部54と、シートベルト51の長さ方向中間部に配設されたタング52が着脱可能に係合するバックル部55とを有する3点式に構成されている。上記バックル部55は、シート41の車幅方向内側で車体に固定されている一方、リトラクタ部53及びラップアンカー部54は、シート41を挟んでバックル部55とは反対側である車幅方向外側で車体に固定されている。上記リトラクタ部53から引き出されたシートベルト51は、シート41の車幅方向外側の上方位置に設けられたスリップガイド57により、その引き出し方向が上向きから下向きに変換されて、その先端部が上記ラップアンカー部54に取り付けられている。上記タング52は、上記スリップガイド57とラップアンカー部54との間でシートベルト51に対して摺動可能に設けられており、このタング52が上記バックル部55に係合されることで、シートベルト51の着用状態となる。
【0026】
上記シートベルト装置のリトラクタ部53内に、上記シートベルトプリテンショナ22が設けられている。本実施形態では、シートベルトプリテンショナ22は、図2に示すように、電動モータ等により上記シートベルト51を巻き取る第1プリテンショナ機構22aと、インフレータで発生するガスにより上記シートベルト51を巻き取る第2プリテンショナ機構22bとからなっており、上記コントロールユニット11が上記レーダ装置1の処理部4からの障害物検知情報に基づいて、車両Wの障害物への衝突を予知したとき(例えば、車両Wが障害物に衝突するまでの予測時間が、予め決めた基準時間よりも短いとき)には、第1プリテンショナ機構22aを作動させることで、シートベルト51に所定張力を付与する一方、コントロールユニット11がGセンサ14により車両Wの障害物への衝突を検出したときには、第2プリテンショナ機構22bを作動させることで、上記第1プリテンショナ機構22aを作動させたときよりも大きな張力をシートベルト51に付与するようになっている。
【0027】
上記コントロールユニット11は、上記車速センサ12及びヨーレート検出センサ13の検出値に基づいて車両Wの旋回半径を求める。このことで、コントロールユニット11、車速センサ12及びヨーレート検出センサ13は、車両の旋回半径を検出する旋回半径検出手段を構成する。尚、車両Wの横加速度を検出する横加速度検出センサ、又は車両Wのステアリングホイールの操舵角を検出する舵角センサを設けて、この横加速度検出センサ又は舵角センサの検出値を、上記ヨーレート検出センサ13の検出値の代わりに用いて車両Wの旋回半径を求めるようにしてもよい。
【0028】
上記レーダ装置1の処理部4は、図2に示すように、受信部3で受信したデータに対してフィルタ処理やFFT処理等のデータ処理を行って、障害物の検知を行うデータ処理部4aと、このデータ処理部4aより、上記処理されたデータを入力し、かつ、上記コントロールユニット11より車両Wの車速及び旋回半径を入力して、これら入力情報に基づいて、上記検知された障害物の属性(例えば車両Wとの距離、車両Wに対する方位(上記走査範囲の中心線(レーダ検知軸)からの角度θで規定)、及び車両Wとの相対速度)の決定と、上記検知された障害物が静止物体であるか否かの判定とを行うとともに、車両Wの進行路を推定して、後述の如く障害物の車両Wに対する相対移動位置を推定する位置推定部4bと、この位置推定部4bにより推定された位置を基準にしてその周囲に所定の大きさのエリアを設定するとともに、上記検知から所定時間(ミリ波の走査時間に対応する時間)経過後に検知された障害物が、上記設定されたエリア内に存在するときには、上記位置を推定した障害物と同一であると判定する一方、エリア外に存在するときには、新規な障害物であると判定する同一判定部4cとを有している。
【0029】
上記位置推定部4bは、上記相対速度及び車速に基づいて、上記検知された障害物が静止物体であるか否かを判定する。また、位置推定部4bは、上記旋回半径に基づいて車両Wの進行路を推定する。本実施形態では、所定幅(車両Wの車幅と略同じか、又はそれよりも僅かに大きい幅)を有しかつ中心線が車両Wの車幅中央を通る進行路として、その進行路中心線の曲率半径が、上記入力した旋回半径と同じであるとする。したがって、位置推定部4bは、上記検知された障害物が静止物体であるか否かを判定する静止物体判定手段、及び、旋回半径に基づいて車両Wの進行路を推定する進行路推定手段を構成することになる。
【0030】
さらに、位置推定部4bは、上記障害物が検知されてから上記所定時間経過した時点で、当該障害物が該所定時間の間に車両Wに対して相対的に移動した位置を推定する。すなわち、位置推定部4bは、上記障害物が検知された時点で、当該障害物の、上記推定された進行路中心線からのずれ量を算出しておき、上記検知された障害物が静止物体であると判定された場合には、当該障害物が検知されてから上記所定時間経過した時点で、該算出されたずれ量に基づいて上記障害物の車両Wに対する相対移動位置を推定する。したがって、位置推定部4bは、上記障害物の車両Wに対する相対移動位置を推定する位置推定手段、及び、上記推定された進行路中心線からのずれ量を算出するずれ量算出手段をも構成する。
【0031】
さらにまた、上記位置推定部4bは、上記算出されたずれ量を補正する補正手段としても機能する。すなわち、上記算出されたずれ量を、該位置推定部4bが上記障害物の車両Wに対する相対移動位置を推定する際に、上記障害物が検知されてから上記所定時間経過した時点で検出された車速及びヨーレートに基づいて求められた旋回半径に基づいて補正する。
【0032】
ここで、上記コントロールユニット11による処理動作について、図3のフローチャートを参照しながら説明する。尚、この処理動作は、上記所定時間毎に繰り返し行われる。
【0033】
先ず、最初のステップS1で、車速センサ12及びヨーレートセンサ13の各検出値である車速及びヨーレートを入力し、次のステップS2で、その車速及びヨーレートに基づいて車両Wの旋回半径を求め、次のステップS3で、その車速及び旋回半径をレーダ装置1の処理部4における位置推定部4bへ出力する。
【0034】
次のステップS4では、レーダ装置1の処理部4における同一判定部4cより障害物検知情報を入力し、次のステップS5で、その障害物検知情報に基づいて車両Wの障害物への衝突が予知されるか否かを判定する。
【0035】
上記ステップS5の判定がNOであるときには、そのままリターンする一方、ステップS5の判定がYESであるときには、ステップS6に進んで、ブレーキ作動手段21を作動させることで、各車輪31のブレーキを作動させるとともに、シートベルトプリテンショナ22の第1プリテンショナ機構22aを作動させることで、シートベルト51に所定張力を付与する。
【0036】
そして、次のステップS7で、Gセンサ14からの情報に基づいて車両Wの障害物への衝突があったか否かを判定し、このステップS7の判定がNOであるときには、そのままリターンする一方、ステップS7の判定がYESであるときには、ステップS8に進んで、シートベルトプリテンショナ22の第2プリテンショナ機構22bを作動させることで、シートベルト51に更に大きな張力を付与し、しかる後にリターンする。
【0037】
次に、レーダ装置1の処理部4による障害物検知処理動作について、図4のフローチャートを参照しながら説明する。尚、この障害物検知処理動作も、上記所定時間毎に繰り返し行われる。
【0038】
先ず、最初のステップS21で、データ処理部4aにおいて、受信部3で受信したデータに対してフィルタ処理やFFT処理等のデータ処理を行い、次のステップS22では、位置推定部4bにおいて、上記データ処理部4aより、上記処理されたデータを入力するとともに、コントロールユニット11より、車両Wの車速及び旋回半径を入力する。
【0039】
次のステップS23では、位置推定部4bにおいて、前回(上記所定時間前)に検知した障害物の位置推定処理を行う。すなわち、障害物が検知されてから上記所定時間経過した時点(つまり今回)で、当該障害物が該所定時間の間に車両Wに対して相対的に移動した位置を推定する。ここで、前回の処理動作では、その障害物の進行路中心線からのずれ量が算出されている。そして、その障害物が静止物体であると判定されていた場合には、その算出されたずれ量に基づいて障害物の車両Wに対する相対移動位置を推定する。この推定時に、上記算出されたずれ量を、今回コントロールユニット11より入力された旋回半径に基づいて補正する。
【0040】
具体的には、今回の相対横位置をx(k)とし、前回の相対横位置をx(k−1)とし、前回コントロールユニット11より入力された車速をvとし、前回の、車両Wと障害物との距離をLとし、今回コントロールユニット11より入力された旋回半径をRとして、今回の相対横位置x(k)を、
x(k)=x(k−1)−L×v/R
より求める。
【0041】
上記相対横位置xは、図5(a)に示すように、障害物のレーダ検知軸からの距離であり、
x=Lθ
で表されるものである。
【0042】
そして、障害物の進行路中心線からのずれ量fは、相対横位置xに対して、図5(b)に示すように、
f=x−c
という関係があり、cの値は、
2=d2+(R−c)2
という関係がある。そして、cの値がRに比べて非常に小さいことと、dがLと略等しいこととを考慮して、
c=d2/2R=L2/2R
と近似される。
【0043】
したがって、今回の相対横位置x(k)からL2/2Rを引くことでずれ量(補正後のものであり、f′とする)が求まる。この結果、前回の相対横位置x(k−1)から上記cに相当する値を引くことで求められたずれ量fが、旋回半径Rに基づいて補正されたことになる。つまり、車両Wの旋回半径Rでの旋回による相対横位置の変化量だけ、相対横位置xを補正することで、上記ずれ量も補正される。尚、今回の旋回半径が前回の旋回半径よりも小さいときには、上記ずれ量を、旋回外側に移動する向きに補正し、今回の旋回半径が前回の旋回半径よりも大きいときには、上記ずれ量を、旋回内側に移動する向きに補正し、今回の旋回半径が前回の旋回半径と略同じであるときには、上記の式で補正しても、ずれ量の値は殆ど変わらず、実質的には補正されていないのと同じことになる。
【0044】
尚、位置推定部4bにおいては、障害物の位置以外の属性についてもどのように変化するかの推定を行っている。
【0045】
図4のフローチャートに戻って、次のステップS24では、位置推定部4bにおいて、今回に検知された障害物の属性を決定して物標データを生成する。このとき、今回に検知された障害物が静止物体であるか否かの判定をも行う。
【0046】
以下のステップS25〜S34の各処理動作は、同一判定部4cにおいて行われ、ステップS25では、連続性判定処理(同一判定処理)を行う。すなわち、上記位置推定部4bにより推定された位置を基準にしてその周囲に所定の大きさのエリアを設定するとともに、今回検知された障害物が、上記設定されたエリア内に存在するときには、上記位置を推定した障害物(前回までに検知された障害物)と同一であると判定する一方、エリア外に存在するときには、新規な障害物であると判定する。
【0047】
次のステップS26では、連続性が取れたか否かを判定する。つまり、今回検知された障害物が、前回までに検知された障害物と同一であると判定したか否かを判定する。このステップS26の判定がYESであるときには、ステップS27に進んで、当該障害物についての連続カウンタの値を1だけカウントアップし、しかる後にステップS29に進む。
【0048】
一方、上記ステップS26の判定がNOであるときには、ステップS28に進んで、上記連続カウンタの値を1だけカウントダウンし、しかる後にステップS29に進む。
【0049】
上記ステップS29では、今回検知された障害物の物標データを用いて、前回までに検知された障害物の物標データをアップデートする処理を行う。具体的には、連続性が取れた場合には、今回検知された障害物の物標データと、前回までに検知された障害物について、今回に位置推定部4bで推定した相対移動位置等を含む推定データとの平均をとって、その平均を、当該障害物の物標データとして保存し、連続性が取れなかった場合における、前回までに検知された障害物については、上記推定データを当該障害物の物標データとして保存し、連続性が取れなかった場合における今回検知された障害物については、新規の障害物として、その物標データを保存する。
【0050】
次のステップS30では、上記連続カウンタの値が第1閾値よりも大きいか否かを判定し、このステップS30の判定がYESであるときには、ステップS31に進んで、上記保存した物標データ(連続性が取れた場合の物標データ)を、障害物検知情報としてコントロールユニット11へ出力し、しかる後にリターンする。
【0051】
一方、上記ステップS30の判定がNOであるときには、ステップS32に進んで、上記連続カウンタの値が第2閾値(上記第1閾値よりも小さい)よりも大きいか否かを判定する。このステップS32の判定がYESであるときには、ステップS33に進んで、上記保存した推定データを物標データ(障害物検知情報)としてコントロールユニット11へ出力し、しかる後にリターンする。尚、新規の障害物についての物標データはコントロールユニット11へ出力しない。
【0052】
一方、上記ステップS32の判定がNOであるときには、ステップS34に進んで、物標データ(上記保存した推定データ)を消去する。すなわち、上記第1閾値と第2閾値との差である所定回数(例えば5〜10回)連続性がとれずに推定し続けた場合には、その障害物が存在しなくなったとして消去する。
【0053】
ここで、車両Wが、図6に示すようなカーブを走行しているときを考える。A地点では、推定される進行路中心線の曲率半径R1(A地点の車両Wの旋回半径)が比較的大きくて、P地点に存在する障害物(静止物体)をA地点で検知して、その障害物の進行路中心線からのずれ量fを算出する。そして、車両Wが所定時間後にB地点に位置し、このB地点では、推定される進行路中心線の曲率半径R2(B地点の車両Wの旋回半径)が、A地点で推定された進行路中心線の曲率半径R2よりも小さくなったとする。このB地点で、上記障害物が該所定時間の間に車両Wに対して相対的に移動した位置を推定する。このとき、仮に上記のずれ量fと同じずれ量があるとして障害物の車両Wに対する相対移動位置を推定したとすると、障害物がQ地点に移動したと推定することとなり、誤った推定をしてしまう。このように障害物がQ地点に移動したと推定すると、Q地点付近に障害物が存在しないので、上記検知した障害物が一時的に検知されなくなったとして上記所定回数だけ補間し続けることになる。このため、ずれ量fが車幅の半分よりも小さくかつ補間した位置と車両Wとの距離が短い場合には、コントロールユニット11によって衝突の予知がなされ、ブレーキ作動手段21及びシートベルトプリテンショナ22の第1プリテンショナ機構22が作動してしまう。また、P地点にある障害物は新規の障害物であるとして処理されることになる。
【0054】
しかし、本実施形態では、上記ずれ量fを、f′に補正する。このf′の値は、P地点の進行路(B地点で推定した進行路)中心線からのずれ量と略同じである。このことで、障害物は、P地点ないしその近傍位置にあると推定する。この結果、この推定された位置を基準にしてその周囲に所定の大きさのエリアを設定した場合に、そのエリア内に障害物を検知することができ、同じ障害物であるとして処理される。この結果、P地点にある障害物は車両Wの進行路からは大きく外れているので、その障害物への衝突が予知されるようなことはない。
【0055】
したがって、本実施形態では、静止物体である障害物の車両Wに対する相対移動位置を正確に推定することができ、実際に存在しない障害物を補間し続けて処理が複雑になるのを防止することができるとともに、衝突が予知されると誤判定してブレーキ作動手段21及びシートベルトプリテンショナ22が作動するのを防止することができる。
【0056】
尚、上記実施形態では、レーダ装置1をミリ波レーダ装置としたが、どのような種類のレーダ装置であってもよい。
【0057】
また、レーダ装置1からの障害物検知情報を受けて制御する作動機器は、ブレーキ作動手段21及びシートベルトプリテンショナ22に限らず、例えば警報装置等であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、自車両前方の障害物を検知するレーダ装置を備えた車両の障害物検知装置に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施形態に係る障害物検知装置を搭載した車両前側の構成図である。
【図2】上記障害物検知装置の構成を示すブロック図である。
【図3】コントロールユニットにおける処理動作を示すフローチャートである。
【図4】レーダ装置の処理部における障害物検知処理動作を示すフローチャートである。
【図5】相対横位置、障害物の進行路中心線からのずれ量、旋回半径等の関係を示す図である。
【図6】車両が、進行路中心線の曲率半径が所定時間の間に変わるようなカーブを走行している場合の例を示す図である。
【符号の説明】
【0060】
W 車両(自車両)
1 レーダ装置
4b 位置推定部(進行路推定手段)(静止物体判定手段)(位置推定手段)
(ずれ量算出手段)(補正手段)
11 コントロールユニット(作動機器制御手段)(旋回半径検出手段)
12 車速センサ(旋回半径検出手段)
13 ヨーレート検出センサ(旋回半径検出手段)
21 ブレーキ作動手段(作動機器)
22 シートベルトプリテンショナ(作動機器)
51 シートベルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両前方の障害物を検知するレーダ装置と、該レーダ装置からの障害物検知情報を受けて自車両の作動機器を制御する作動機器制御手段とを備えた車両の障害物検知装置であって、
自車両の旋回半径を検出する旋回半径検出手段と、
上記旋回半径検出手段により検出された旋回半径に基づいて自車両の進行路を推定する進行路推定手段と、
上記レーダ装置により検知された障害物が静止物体であるか否かを判定する静止物体判定手段と、
上記障害物が検知されてから所定時間経過した時点で、当該障害物が該所定時間の間に自車両に対して相対的に移動した位置を推定する位置推定手段とを備え、
上記位置推定手段は、上記レーダ装置により上記障害物が検知された時点で、当該障害物の、上記進行路推定手段により推定された進行路中心線からのずれ量を算出するずれ量算出手段を有していて、上記静止物体判定手段により当該障害物が静止物体であると判定された場合に、当該障害物が検知されてから所定時間経過した時点で、該ずれ量算出手段により算出されたずれ量に基づいて上記障害物の自車両に対する相対移動位置を推定するように構成されており、
上記ずれ量算出手段により算出されたずれ量を、上記位置推定手段が上記障害物の自車両に対する相対移動位置を推定する際に、上記障害物が検知されてから所定時間経過した時点で上記旋回半径検出手段により検出された旋回半径に基づいて補正する補正手段を更に備えていることを特徴とする車両の障害物検知装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両の障害物検知装置において、
上記レーダ装置は、ミリ波レーダ装置であることを特徴とする車両の障害物検知装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の車両の障害物検知装置において、
上記旋回半径検出手段は、自車両のヨーレートを検出するヨーレート検出センサを有していることを特徴とする車両の障害物検知装置。
【請求項4】
請求項1又は2記載の車両の障害物検知装置において、
上記旋回半径検出手段は、自車両の横加速度を検出する横加速度検出センサを有していることを特徴とする車両の障害物検知装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の車両の障害物検知装置において、
上記作動機器は、自車両のブレーキを作動させるブレーキ作動手段であることを特徴とする車両の障害物検知装置。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の車両の障害物検知装置において、
上記作動機器は、自車両の乗員が着用しているシートベルトを巻き取って該シートベルトに所定張力を付与することで該乗員を拘束するシートベルトプリテンショナであることを特徴とする車両の障害物検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−278892(P2007−278892A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−106549(P2006−106549)
【出願日】平成18年4月7日(2006.4.7)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】