説明

車両用接触回避支援装置

【課題】 自動ブレーキ制御と操舵アシスト制御の的確な協調制御を行う。
【解決手段】 自車(車両10)と自車前方の障害物(車両12)との相対位置を検出する相対位置検出手段により検出された障害物(車両12)との相対位置が、自車前方の第1領域Bca内にある場合には、自動ブレーキ制御を行い、検出された障害物(車両12)との前記相対位置が、第1領域Bca外の車幅方向に広い第2領域Sca内にある場合には、操舵アシスト制御を行うようにしたので、自動ブレーキ制御と操舵アシスト制御の的確な協調制御が実施される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用接触回避支援装置に関し、特に、自車と自車前方の障害物(前走車等)との接触可能性に基づいて自動ブレーキ制御及び操舵アシスト制御を行う車両用接触回避支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自車から自車前方の障害物(固定物あるいは前走車等)までの相対距離(車間距離)と相対速度とを検出し、自車の車速が前走車の車速より早い場合に、前記相対距離を前記相対速度で割った値であって自車が前記障害物に接触するまでの余裕時間(接触余裕時間)TTC(Time To Contact)を算出し、算出した接触余裕時間TTCに応じた制動力を自動的に発生させる自動ブレーキ制御装置が提案されている(特許文献1)。
【0003】
この場合、特許文献1に提案されている自動ブレーキ制御装置では、自車の車幅と自車前方の障害物の横幅とにより定義される走行軌跡の重なり度合いと、前記相対速度及び前記接触余裕時間とに応じて自動ブレーキ制御の制動力を変化するようにしている。より具体的には、重なり度合いが離れているほど、相対距離が短いほど、接触余裕時間が長くなるほど、自動ブレーキの制動力が小さくなるような制御を行っている。
【0004】
また、特許文献1には、操向ハンドルのハンドル操舵角速度が大きいほど、換言すれば、運転者の操向ハンドルの回転操作が速いほど、制動力が小さくなるよう制御することで、自車に作用する制動力が抑制されて円滑に車線変更を行うことができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−1500号公報([0019]、[0020]、[0038])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、自車前方の障害物に対する接触を回避する際には、自動ブレーキ制御の他、操舵アシスト制御も有効であると考えられる。
【0007】
しかしながら、特許文献1には、自動ブレーキ制御と操舵アシスト制御の関連性については開示されていない。
【0008】
この発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、自動ブレーキ制御と操舵アシスト制御の的確な協調制御を可能とする車両用接触回避支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係る車両用接触回避支援装置は、自車と自車前方の障害物との位置関係に応じて前記障害物に対する自車の接触回避支援を行う車両用接触回避支援装置において、以下の特徴1〜4を備える。
【0010】
1.自車と自車前方の障害物との位置関係に応じて前記障害物に対する自車の接触回避支援を行う車両用接触回避支援装置において、自車と自車前方の前記障害物との相対位置を検出する相対位置検出手段と、検出された前記障害物との前記相対位置に基づいて、自動ブレーキ制御を行う自動ブレーキ制御手段と、検出された前記障害物との前記相対位置に基づいて、自車の操舵を、前記障害物との接触を回避する方向に操舵アシスト制御する操舵アシスト制御手段と、を備え、検出された前記障害物の前記相対位置が、自車前方の第1領域内にある場合には、前記自動ブレーキ制御手段による前記自動ブレーキ制御を行い、検出された前記障害物の前記相対位置が、自車前方の前記第1領域外の車幅方向に広い第2領域内にある場合には、前記操舵アシスト制御手段による前記操舵アシスト制御を行うことを特徴とする。
【0011】
この特徴1を備える発明によれば、相対位置検出手段により検出された自車前方の障害物の相対位置が、自車前方の第1領域内にある場合には、自動ブレーキ制御を行い、検出された前記障害物の前記相対位置が、前記第1領域外の車幅方向に広い第2領域内にある場合には、操舵アシスト制御を行うようにしたので、障害物が自車前方の車幅方向に狭い領域に存在する場合には、自動ブレーキ制御が行われ、障害物と自車との車幅方向のオフセット(偏差)が大きくなる第2領域内では操舵アシスト制御が行われるので、自動ブレーキ制御と操舵アシスト制御の的確な協調制御が実施される。
【0012】
2.上記の特徴1を備える発明において、検出された前記障害物の前記相対位置が、自車前方の前記第1領域内にある場合には、前記自動ブレーキ制御手段による前記自動ブレーキ制御を行うとともに前記操舵アシスト制御手段による前記操舵アシスト制御を行うことを特徴とする。
【0013】
この特徴2を備える発明によれば、障害物が自車前方の車幅方向に狭い領域に存在する場合には、自動ブレーキ制御が行われるとともに操舵アシスト制御が行われ、障害物と自車との車幅方向のオフセットが大きくなる第2領域内では操舵アシスト制御が行われるので、自動ブレーキ制御と操舵アシスト制御のより的確な協調制御が実施される。
【0014】
3.上記の特徴1又は2を備える発明において、自車前方の前記第1領域は、車幅方向の長さが自車の車幅と同等に設定されることを特徴とする。
【0015】
この設定により、自動ブレーキ制御と操舵アシスト制御のより一層的確な協調制御が実施される。
【0016】
4.上記のいずれかの1つの特徴を備える発明において、自車前方の前記第1領域又は前記第2領域は、自車の前記障害物に対する相対車速に応じて前記車幅方向の長さを変更することを特徴とする。
【0017】
このように制御することで、相対車速に応じた的確な自動ブレーキ制御と操舵アシスト制御の協調制御を行うことができる。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、自車前方の障害物の相対位置が、自車前方の第1領域内にある場合には、自動ブレーキ制御を行い、前記相対位置が、前記第1領域外の車幅方向に広い第2領域内にある場合には、操舵アシスト制御を行うようにしたので、自動ブレーキ制御と操舵アシスト制御の的確な協調制御を行うことができる。
【0019】
例えば、障害物と自車との車幅方向のオフセット(偏差)が大きくなる第2領域内で、自車を運転する運転者が障害物を回避するために操向ハンドルを操作した場合、確実に、操舵アシスト制御が行われて運転者の操向ハンドル操作量を軽減できるので、運転者の操向ハンドルの操作に余裕を与えることができる。
【0020】
その一方、障害物と自車との車幅方向のオフセット(偏差)が小さい、例えば、重なり合う場合には、自動ブレーキ制御が行われるので、この場合にも、運転者の運転に余裕を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明の一実施形態に係る車両用接触回避支援装置が組み込まれた車両の模式的ブロック構成図である。
【図2】レーダにより検出される横距離等の相対位置説明図である。
【図3】自動ブレーキ制御領域と回避操舵アシスト制御領域の説明図である。
【図4】車両用接触回避支援装置が組み込まれた車両の接触回避動作の第1実施例の説明に供されるフローチャートである。
【図5】図5Aは、自動ブレーキ制御領域及び操舵アシスト制御領域の動作有効領域の説明図、図5Bは、操舵アシスト制御領域の動作有効領域の説明図である。
【図6】車両用接触回避支援装置が組み込まれた車両の接触回避動作の第2実施例の説明に供されるフローチャートである。
【図7】車両用接触回避支援装置が組み込まれた車両の接触回避動作の第2実施例の説明に供される説明図である。
【図8】自動ブレーキ制御領域と操舵アシスト制御領域の変形例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、この発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0023】
図1は、この発明のー実施形態に係る車両用接触回避支援装置が組み込まれた車両10(自車ともいう。)の模式的ブロック構成図である。
【0024】
車両10は、CPUがメモリに格納されたプログラムを実行することで実現される各種機能部(各種機能手段)を有する電子制御ユニット(ECU)である接触回避ECU20(接触回避支援手段)を備え、この接触回避ECU20の機能部である操舵アシスト制御部90(操舵アシスト制御手段)及び自動ブレーキ制御部92(自動ブレーキ制御手段)により、それぞれ操舵アシスト制御及び自動ブレーキ制御が実行される。
【0025】
車両10は、4輪の車輪22{前輪右輪(FRW)22R、前輪左輪(FLW)22L}、車輪24{後輪右輪(RRW)24R、後輪左輪(RLW)24L}を有し、4輪の車輪22、24には、それぞれ車輪速度センサ61〜64が取り付けられ、この車輪速度センサ61〜64から各車輪速度Vwが接触回避ECU20に取り込まれる。接触回避ECU20は、これら4つの車輪速度Vwの平均値を車両10の速度である車速Vsとして常に更新する。
【0026】
また、4輪の車輪22、24には、それぞれ制動力を発生するディスクブレーキ等により構成されるブレーキアクチュエータ51〜54が設けられている。ブレーキアクチュエータ51〜54の各制動力(制動油圧)は、油圧制御装置44内の4つの圧力調整器(不図示)によりそれぞれ独立に制御される。
【0027】
油圧制御装置44は、踏込量センサ42により検出されるブレーキペダル40の踏込量θbに応じた制動油圧を発生するとともに、接触回避ECU20を構成する自動ブレーキ制御部92から出力されるブレーキペダル40に依存しない制動力指令値Fb(いわゆるブレーキバイワイヤによる制動力指令値)に応じて上記の4つの圧力調整器(不図示)がそれぞれ制動油圧を発生し、ブレーキアクチュエータ51〜54に出力する構成とされている。
【0028】
なお、運転者によるブレーキペダル40の踏み込み操作に基づき踏込量センサ42から踏込量θbが入力され、かつ自動ブレーキ制御部92から制動力指令値Fbが入力された場合、油圧制御装置44は、両者のうち何れか大きい方に合わせて制動油圧を発生させる。
【0029】
従って、車両10の旋回時{例えば、車両10がスリップして転舵しているとき、又は操向ハンドル70の操作により操舵(転舵)しているときのいずれの場合も含む。}にブレーキアクチュエータ51〜54に伝達される制動油圧を制動力指令値Fbにより独立に制御すれば、左右の車輪22L、24L、22R、24Rの制動力に差を発生させて車両10のヨーモーメントを任意かつ的確に制御し、旋回時におけるアンダーステアの発生の回避及びオーバーステアやスピンの発生を回避して、車両の挙動を安定させることができる。また、制動時(ブレーキペダル40を踏んでいない自動ブレーキ時又はブレーキペダル40を踏んでいるとき)にも、各ブレーキアクチュエータ51〜54伝達される制動油圧を独立に制御すれば、車輪22、24のロックを抑制するアンチロックブレーキ制御を行うことができる。
【0030】
一方、この実施形態において、4輪の車輪22、24中、前輪22(22R、22L)には、エンジン34からトランスミッション(T/M)36を通じて駆動力が伝達される。後輪24(24R、24L)は車両10の走行によって回転する従動輪として機能する。
【0031】
エンジン34は、該エンジン34に設けられたスロットルバルブ33のスロットル開度を調整するスロットルアクチュエータ32を通じて回転数(エンジン回転数)が制御される。
【0032】
スロットルバルブ33のスロットル開度は、操作量センサ28により検出されるアクセルペダル26の操作角度(アクセル角度、操作量)θaに応じてエンジンECU30、及びスロットルアクチュエータ32を通じて調整される。
【0033】
車両10の操舵装置88は、基本的には、運転者により回転操作(操舵)される操向ハンドル70(ステアリングホイール)と、操向ハンドル70の操舵角θsを検出する操舵角センサ72と、パワーステアリング装置を構成するステアリングアクチュエータ76と、前輪22(前輪左右輪)を操舵するラックアンドピニオン機構を有する操舵機構74とから構成される。
【0034】
この場合、操舵装置88は、運転者による操向ハンドル70の回転が、ステアリングシャフト及び連結軸を通じて操舵機構74を構成するピニオンに伝達され、ピニオンの回転によりラックが往復動し、ラックの往復動がタイロッドを通じて前輪22に伝達されることで、車両10の転舵が実行される通常の構成を有している。
【0035】
車両10の転舵が実行される際に、運転者による前記の操向ハンドル70の回転に伴う操舵角θsが、ステアリングアクチュエータ76に入力されることでステアリングアクチュエータ76の駆動力、すなわち操向ハンドル70の操作に依存する操舵アシストカが操舵機構74の前記ラックを通じて前輪22に伝達される。
【0036】
その一方、接触回避ECU20を構成する操舵アシスト制御部90から出力される操舵アシスト指令値Fs(ここでは、ステアバイワイヤによる操舵アシスト指令値で、回避操舵アシスト指令値Fsともいう。)がステアリングアクチュエータ76に入力されることで、操舵アシスト指令値Fsに応じた操舵アシストトルク(ステアトルクであって、回避操舵アシストトルクともいう。)が操舵機構74に出力される。なお、操舵アシストは、ステアバイワイヤによる処理に限らず、操舵機構74のギヤ比を変える処理、EPS装置のアシスト値を変える処理としてもよい。
【0037】
なお、回避操舵アシスト力を発生させる場合に、操舵アシスト指令値Fsをステアリングアクチュエータ76に出力するとき、併せてあるいは独立に自動ブレーキ制御部92からブレーキペダル40に依存しない制動力指令値Fbを油圧制御装置44に出力しブレーキアクチュエータ51〜54に伝達される制動油圧を独立に制御し、左右の車輪22L、24L、22R、24Rの制動力に差を発生させて車両10にヨーモーメントを発生させることで回避操舵アシスト力を発生させるようにしてもよい。
【0038】
操舵機構74は、操舵アシスト指令値Fsに応じた操舵アシストトルクに対応する操舵アシストカを前輪22に出力することで、前輪22は、その操舵アシスト力に応じた転舵量だけ前輪22を転舵させることができる。この操舵アシスト指令値Fsは、後述するように、基本的には、車両10の前方の障害物との接触を回避しようとする際に運転者の操向ハンドル70の回転操作を契機とし、回避操舵が十分でないと判断したとき、これをアシストするように発生する。
【0039】
また、車両10には、フロントグリル部等にレーダ80が設けられている。レーダ80は、車両10の前方に向けてミリ波等の電磁波を送信波として送信し、その反射波に基づいて障害物(例えば、前走車等)の大きさを検出するとともに障害物の車両10(自車)からの方向を検出し、同時に障害物と自車との間の相対距離L(障害物が車両である場合には、車間距離)、障害物と自車との相対速度Vr等を検出する相対位置検出手段等として動作する。なお、障害物との相対位置を検出する相対位置検出手段として、上記のミリ波レーダに代えて、レーザレーダあるいはステレオカメラ等を採用することができる。
【0040】
レーダ80により検出される相対位置等の内容について、図2を参照して説明する。なお、この実施形態では、障害物は、道路200上を矢印方向に走行する車両10(自車)の前方を走行している車両12(他車又は前走車)とするが、停止している障害物でも同様にこの発明を適用することができる。
【0041】
公知のように、レーダ80は、まず、車両10(自車であって、図2中、位置を変えて2箇所に描いている。)から前方の車両12までの相対距離Lを検出することができる。また、前方の車両12の車幅Woを検出することができる。なお、自車10の車幅Wmは、予め接触回避ECU20及びレーダ80の中のメモリ(記憶部)に記憶されている。次に、車両10の車両12に対する相対速度Vrを検出することができる。さらに、検出した車両10から前方の車両12までの相対距離Lと相対速度Vrとから接触余裕値としての接触余裕時間TTCを、TTC=L/Vrとして算出することができる。
【0042】
この場合、接触回避ECU20は、車両10(自車)自身の車幅Wmと、レーダ80により検出した前方の車両12の車幅Woと、所定の余裕幅(余裕横距離)αとから、例えば、車両10(自車)が、前方の車両12との接触を回避して追い越す際に必要な目標横回避距離Dtを、次の(1)式により算出する。
Dt=(Wo/2)+α+(Wm/2) ・・・(1)
【0043】
車両10(自車)が前方の車両12との接触を回避して追い越すために最も横回避距離(横距離、偏差、ずれ量、オフセット又はオフセット量という。)Dが大きくなるのは、自車中心軸線10c上に前方の車両12の他車中心軸線12cが重なる場合、つまり車両10(自車)の真正面に前方の車両12が存在する場合である。
【0044】
車両10(自車)の真正面に前方の車両12が存在する場合でも、道路200上、車両10が同一の進路を走行していている他の車両12等に追いついたとき、その車両10がその進路を変えて前方の車両12の側方を通過し、その車両12の前方に出る追越しの際に、車両10が上記の目標横回避距離Dtだけ車幅方向(横方向)に移動すれば、余裕幅αに相当する横距離を残して、前方の車両12の側方をすり抜けることができる。なお、自車中心軸線10cと前方の車両12の他車中心軸線12cとの間の車幅方向の距離(偏差)を上述したように、オフセットDという。
【0045】
再び、図1において、車両10には、車両10に発生している横G(横加速度)を検出する横Gセンサ84と、車両10に発生しているヨーレートYrを検出するヨーレートセンサ82が設けられている。
【0046】
この発明の一実施形態に係る車両用接触回避支援装置が組み込まれた車両10は、基本的には以上のように構成されるものであり、次にその動作について説明する。
【0047】
ここで、まず、自動ブレーキ制御部92による自動ブレーキ制御の作動条件の例と、操舵アシスト制御部90による接触回避操舵アシスト制御(回避操舵アシスト制御)の作動条件の例について定性的に説明する。
【0048】
自動ブレーキ制御部92による自動ブレーキ制御の作動条件は、基本的には、車両10の前方の障害物に対する接触余裕値としての接触余裕時間TTC(TTC=L/Vr)に基づき判断される。車両10の前方の障害物(前走車も含む)との相対距離Lに基づき判断してもよい。
【0049】
なお、前記の接触余裕値は、自車(車両10)前方の障害物(ここでは、車両12)と自車との接触の可能性を判断するパラメータであり、接触余裕値が大きい程、接触の可能性が低くなり、逆に、接触余裕値が小さい程、接触の可能性が高くなる。接触余裕値としては、接触余裕時間TTCの他、前記障害物との前記相対距離L等も含まれる。
【0050】
接触余裕時間TTCが小さい程、障害物との接触の可能性が高くなるので、接触余裕時間TTCが、予め定めた閾値より小さいとき、接触を回避するために、自動ブレーキ制御及び(又は)操向ハンドル70が操作されている場合には回避操舵アシスト制御が作動される。
【0051】
この場合、自動ブレーキ制御部92は、必要な減速度を発生するために、ブレーキアクチュエータ51〜54に対する適切な制動力を付与する制動力指令値Fbを算出し、油圧制御装置44に出力する。これにより制動力指令値Fbに応じた制動油圧が油圧制御装置44で発生され、発生された制動油圧によりブレーキアクチュエータ51〜54を通じて車輪22、24に対して制動力が加えられる。
【0052】
なお、自動ブレーキ制御部92は、アクセルペダル26の操作量θaからアクセルペダル26が踏まれていない判断した場合には、同時にスロットルアクチュエータ32を制御し、スロットルバルブ33を所定量閉方向に操作(スロットルバイワイヤ)させるようにしてもよい(図1中、接触回避ECU20からスロットルアクチュエータ32へ向かう点線の矢線参照)。
【0053】
この実施形態において、図3(図2も参照)に示すように、自動ブレーキ制御領域Bca(自車前方の車幅方向の第1領域)は、車両10の前方の車幅方向の長さに設定される。例えば、車両10(自車)の車幅Wmと同等の領域に設定される(Bca≒Wm)。車両10の前方の車両12が、この自動ブレーキ制御領域Bcaに入っているかどうかがレーダ80により検出され、入っていた場合には、自動ブレーキ制御フラグfbがオン(fb→ON)状態にされる。換言すれば、図2に示すように、前方の車両12の他車中心軸線12cと自車中心軸線10cとのオフセットDが、車幅Wmの半分以下{D≦(Wm/2)}であるときに自動ブレーキ制御フラグfbがオン(fb→ON)状態にされる。
【0054】
図2中、下側に描いた車両10の自動ブレーキ制御フラグfbはオン状態となり、上側に描いた車両10の自動ブレーキ制御フラグfbはオフ状態になる。
【0055】
この実施形態において、自動ブレーキ制御部92は、自動ブレーキ制御フラグfbがオン状態(fb=ON)になっている場合に、上記の接触余裕時間TTCが閾値より小さい場合であって、かつ操向ハンドル70の操作が検出されなかったとき、例えば、操舵角センサ72から出力される操舵角θsの時間変化値、すなわち操舵角速度dθs/dt(時間微分値)がdθs/dt≒0であって、かつ操向ハンドル70が中点位置にあるとき、実際に自動ブレーキ制御が作動する。このとき、自動ブレーキ制御部92は、制動力指令値Fbを発生する(Fb>0)。
【0056】
一方、操舵アシスト制御部90による回避操舵アシスト制御の作動条件は、基本的には、上記の接触余裕時間TTCに加えて、操舵角センサ72より得られる中点(車両10が所定時間直線走行しているとみなしたときの操舵角θ)からの操舵角θs、この操舵角θsを時間微分した操舵角速度dθs/dt、横Gセンサ84で検出される横G、及びヨーレートセンサ82で検出されるヨーレート(実ヨーレート)Yrを考慮して判定される。
【0057】
操舵角θs、操舵角速度dθs/dt、横G、及びヨーレートYr等を変数として、運転者の回避操舵操作状況判断値SEが、予め定めた関数であるSE=SE(θs,dθs/dt,横G,Yr)として数値化され(SEが大きい値である程、運転者によりより大きく回避操舵操作がなされていると判断されるものとする。)、この値が、回避操舵アシスト操作が必要な値(閾値)あるいはこれを下回る値になっていると判定した場合、回避操舵アシスト制御が作動する。
【0058】
この場合、操舵角θsと車速Vsに応じて算出される基準ヨーレートYsがアシストヨーレートYaに変更される。
【0059】
アシストヨーレートYaを算出する際、上述した目標横回避距離Dtと、横距離D(自車中心軸線10cに対する他車中心軸線12cとの間のずれ量)との差に所定ゲインを乗算してアシスト横加速度を算出する。さらにこのアシスト横加速度を車速Vsで除算してアシストヨーレートYaを算出する。
【0060】
操舵アシスト制御部90は、このようにして算出したアシストヨーレートYaを発生させる操舵アシスト指令値Fsをステアリングアクチュエータ76に出力する。
【0061】
これによりステアリングアクチュエータ76から操舵アシスト指令値Fsに応じた操舵アシストトルクが操舵機構74に加えられることで、車両10の旋回挙動が前記アシストヨーレートYaにより制御されアシストされる。
【0062】
この実施形態において、図3に示すように、操舵アシスト制御領域Scaは、上述した自動ブレーキ制御領域Bca(自車前方の第1領域)より車幅方向(道路200の幅方向)で、広い領域内(自車前方の第2領域内)に設定される。すなわち、操舵アシスト制御領域Scaは、自動ブレーキ制御領域Bca内で実施されるとともに、その外側の領域Sca1でも実施される(Sca=Bca+2×Sca1)。操舵アシスト制御領域Sca1は、例えば、自動ブレーキ制御領域Bca(≒Wm)の半分の値(Sca1≒Wm/2)とされる。
【0063】
なお、図3の道路200には、道路中央線202と道路左端線204が表示されている。
【0064】
車両10の前方の車両12が、操舵アシスト制御領域Scaに入っているかどうかは、レーダ80により検出され、入っていた場合には、操舵アシストフラグfs(このフラグは、操舵アシスト指令値Fsを発生するか否かのフラグ)がオン(fs→ON)状態にされる。
【0065】
操舵アシストフラグfsがオン状態になっているときに、上記の運転者の回避操舵操作状況判断値SEを判定し、この回避操舵操作状況判断値SEの値が、回避操舵アシスト制御が必要な値あるいはこれを下回る値になっている判定した場合に、回避操舵アシスト制御が作動し、操舵アシスト指令値Fsが発生される(Fs>0)。
【0066】
なお、操舵アシストフラグfsがオン状態になっている場合であっても、上記の回避操舵操作状況判断値SEの値から、操舵アシスト操作が必要ではないと判定したとき、操舵アシスト指令値Fsが発生されない(Fs=0)。
【0067】
このように操舵アシスト制御領域ScaのオフセットDを車両10の車幅Wmの半分を上回った領域{D>(Wm/2)}まで広げたのは、回避操舵アシスト操作は完全自動ではなく、運転者の操向ハンドル70の操作、いわゆるステア操作を前提の操作としているので、過剰作動となりにくく、仮に過剰作動となった場合でも、運転者のステア操作をアシストしていることから運転者に違和感を与えないからである。
【0068】
[第1実施例]
次に、この実施形態に係る接触回避支援装置が搭載された車両10の接触回避ECU20によるオフセット(横距離)Dに基づく第1実施例の動作を、図4のフローチャートを参照して説明する。
【0069】
ステップS1において、道路200上を走行中の車両10は、レーダ80により車両10(自車)の前方の車両12の相対位置(相対距離L、車幅Wo、相対速度Vr、接触余裕時間TTC、オフセットD)を検出する。このとき、接触回避ECU20は、目標横回避距離Dt{Dt=(Wo/2)+α+(Wm/2)}を算出する。なお、相対位置の検出処理は、msオーダーでタイマ割り込みにより常に行われる。
【0070】
ステップS2において、オフセット(横距離)Dの値と車両10の車幅Wmの半分の値Wm/2(又は車両12の車幅Woの半分の値Wo/2でもよい。)とに基づき、先行する車両12が自動ブレーキ制御領域Bca(自動ブレーキ制御領域)内{D≦Wm/2}に位置するかどうかを判定し、位置していない場合には、ステップS3において、操舵アシスト制御領域Sca1内(Wm/2≦D≦3Wm/2)に位置するかどうかを判定し、操舵アシスト制御領域Sca1外(D≧3Wm/2)である場合には、ステップS4において、自動ブレーキ制御フラグfb及び操舵アシストフラグfsをともにオフとして(fb→OFF、fs→OFF)、自動ブレーキ制御動作及び回避操舵アシスト制御を実行しない。
【0071】
その一方、ステップS2において、車両10(自車)の前方に位置する車両12が自動ブレーキ制御領域Bca内に位置していた場合には、ステップS5において、自動ブレーキ制御フラグfb及び操舵アシストフラグfsをともにオンとして(fb→ON、fs→ON)、上述した接触余裕時間TTC及び回避操舵操作状況判断値SEに応じて自動ブレーキ制御動作及び操舵アシスト制御を実行する。
【0072】
また、ステップS2の判定において、車両12が自動ブレーキ制御領域Bca外に位置するが、ステップS3の判定において、操舵アシスト制御領域Sca内に位置すると判定した場合には、ステップS5において、自動ブレーキ制御フラグfb及び操舵アシストフラグfsをともにオンにして(fb→ON、fs→ON)、回避操舵操作状況判断値SEに応じて操舵アシスト制御(上述した左右の車輪22L、24L、22R、24Rの制動力に差を発生させて車両10にヨーモーメントを発生させる自動ブレーキ制御による回避操舵アシスト力の発生も含む。)を実行する。
【0073】
以上説明したように上述した第1実施例によれば、相対位置検出手段としてのレーダ80により検出された自車10前方の車両12等、障害物の相対位置が、図5Aに示すように、自車前方の第1領域内である自動ブレーキ制御領域Bca内に位置する場合、換言すれば、車両10の障害物12oに対する自車中心軸線10cの横移動範囲であるオフセットDが、障害物中心軸線12coに対し±(Wm/2)(左方向を「−」、右方向を「+」としている。)の範囲にある場合には{D<±(Wm/2)}、自動ブレーキ制御フラグfb及び操舵アシストフラグfsをともにオンとして(fb=ON、fs=ON)自動ブレーキ制御及び回避操舵アシスト制御を行うか、自動ブレーキ制御フラグfbをオンし操舵アシストフラグfsをオフとして(fb=ON、fs=OFF)自動ブレーキ制御のみを行う。
【0074】
その一方、レーダ80により検出された自車10前方の障害物12oの相対位置が、図5Bに示すように、自車前方の第1領域外の車幅方向に広い第2領域内に位置する場合、具体的に説明すれば、自車中心軸線10cの横移動範囲であるオフセットDが障害物中心軸線12coに対し−(Wm/2)〜−(Wm×3/4)の間、あるいは(Wm/2)〜(Wm×3/4)の間にある場合には、自動ブレーキ制御フラグfb及び操舵アシスト制御フラグfsをオンとして(fb=ON、fs=ON)、操舵アシスト制御(操舵アシスト制御には、上述したように、左右の制動力に差を発生させて車両10にヨーモーメントを発生する自動ブレーキ制御による回避操舵アシスト制御も含む。)を行う。
【0075】
[第2実施例]
次に、この実施形態に係る接触回避支援装置が搭載された接触回避支援ECUによるオフセット(横距離)Dに加えて接触余裕時間TTC(又は車間距離L)を考慮した第2実施例の動作について、図6のフローチャート及び図7の動作説明図を参照して説明する。
【0076】
なお、図6のフローチャートにおいて、ステップS1〜S5までの処理は、図4のフローチャートに示した処理と同一の処理であり説明を省略する。
【0077】
オフセット(横距離)Dに基づき、自動ブレーキフラグfb及び操舵アシストフラグfs(いずれも車幅方向に係るフラグと考えてもよい。)がともにオン状態となっているステップS5の処理の後のステップS6において、ステップS1で検出した接触余裕時間TTCが、所定時間T1以下(TTC≦T1)の時間であるかどうかを判定する。
【0078】
所定時間T1を超える時間である場合には(図7において、時点t1以前の時点)、接触を回避する必要がないと判断し、ステップS7において、自動ブレーキフラグfb及び操舵アシストフラグfs{車間(車軸)方向に係るフラグと考えることができる。}をともにオフ状態とする。
【0079】
所定時間T1以内の時間(時点t1以降の時点)である場合には、ステップS8において、自動ブレーキフラグfb及び操舵アシストフラグfsのオン状態を確定し{車間(車軸)方向に係るフラグをともにオンにすると考えても良い}、接触回避待機状態とする(時点t1以降)。これにより、自動ブレーキ制御及び回避操舵アシスト制御が待機状態とされる(時点t1〜t3)。
【0080】
図7の時点t0〜t1の間では、車両10の車両12に対する接触余裕時間TTCが所定時間T1より大きく、回避操舵操作状況判断値SEも閾値より大きいので、自動ブレーキ制御及び回避操舵アシスト制御はともに実行されない。
【0081】
時点t1〜t2の間では、待機状態(fb→ON、fs→ON)となっており、車両10の車両12に対する接触余裕時間TTCが閾値Tth1より小さくなった場合には自動ブレーキ制御が実行される(図7の時点t1b参照)が、回避操舵操作状況判断値SEは、操舵角θsの加速度が略ゼロ値であり、閾値より小さくなっているので、回避操舵アシスト制御は実行されない。
【0082】
さらに、車両10の操向ハンドル70が操作されている時点t2〜t3の間で、回避操舵操作状況判断値SEが閾値より小さくなった場合には、回避操舵アシスト制御(上述した左右の車輪22L、24L、22R、24Rの制動力に差を発生させて車両10にヨーモーメントを発生させる自動ブレーキ制御による回避操舵アシスト力の発生も含む。)が実行される(例えば、図7の時点t2b参照)。
【0083】
以上説明したように、上述した第1実施例及び第2実施例によれば、運転者の操向ハンドル70の操作、いわゆるステア操作をアシストする回避操舵アシスト制御(ステアアシスト制御)と、障害物である車両12(前走車)との距離等に応じて自動でブレーキをかける自動ブレーキ制御を有し、車両12と車両10(自車)とのオフセットDが比較的に大きい場合には、回避操舵アシスト制御のみを行い、オフセットDが比較的に小さい場合には、回避操舵アシスト制御に加えて自動ブレーキ制御、又は自動ブレーキ制御のみを行う。
【0084】
このため、運転者の操向ハンドル70による接触回避操舵は、前方の車両12とのオフセットDが比較的に大きい場合でも行われ、そのような場合でも、確実に回避操舵アシスト制御が実行される。また、自動ブレーキ制御は、実際に自動ブレーキが必要なオフセットDが比較的に小さい場合にのみ実行され、オフセットDが比較的に大きい場合には実行されないので、回避操舵アシスト制御と自動ブレーキ制御の的確な協調処理を行うことができる。
【0085】
なお、この発明は、上述の実施形態に限らず、例えば、図8に示すように、自車前方に設定される自動ブレーキ制御領域Bcaと操舵アシスト制御領域Scaは、相対車速Vrが閾値車速Vrthを上回った場合には、相対車速Vrの増加に応じて、狭い制御領域(単位は[m])である自動ブレーキ制御領域Bca’と回避操舵アシスト制御領域Sca’になるように変更する等、この明細書の記載内容に基づき、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【符号の説明】
【0086】
10…車両 22、24…車輪
20…接触回避ECU 80…レーダ
90…操舵アシスト制御部 92…自動ブレーキ制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車と自車前方の障害物との位置関係に応じて前記障害物に対する自車の接触回避支援を行う車両用接触回避支援装置において、
自車と自車前方の前記障害物との相対位置を検出する相対位置検出手段と、
検出された前記障害物との前記相対位置に基づいて、自動ブレーキ制御を行う自動ブレーキ制御手段と、
検出された前記障害物との前記相対位置に基づいて、自車の操舵を、前記障害物との接触を回避する方向に操舵アシスト制御する操舵アシスト制御手段と、を備え、
検出された前記障害物との前記相対位置が、自車前方の第1領域内にある場合には、前記自動ブレーキ制御手段による前記自動ブレーキ制御を行い、検出された前記障害物との前記相対位置が、自車前方の前記第1領域外の車幅方向に広い第2領域内にある場合には、前記操舵アシスト制御手段による前記操舵アシスト制御を行う
ことを特徴とする車両用接触回避支援装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両用接触回避支援装置において、
検出された前記障害物との前記相対位置が、自車前方の前記第1領域内にある場合には、前記自動ブレーキ制御手段による前記自動ブレーキ制御とともに前記操舵アシスト制御手段による前記操舵アシスト制御を行う
ことを特徴とする車両用接触回避支援装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の車両用接触回避支援装置において、
自車前方の前記第1領域は、車幅方向の長さが自車の車幅と同等に設定される
ことを特徴とする車両用接触回避支援装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両用接触回避支援装置において、
自車前方の前記第1領域又は前記第2領域は、自車の前記障害物に対する相対車速に応じて前記車幅方向の長さを変更する
ことを特徴とする車両用接触回避支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−51547(P2011−51547A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−204460(P2009−204460)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】