車両用走行制御装置及びその方法
【課題】車線逸脱防止制御が作動し、かつ4WD状態になっている場合に、それら車線逸脱防止制御の作動及び4WD状態を適切に終了させる。
【解決手段】車両用走行制御装置は、制駆動力を制御して自車両にヨーモーメントを付与し走行車線に対する自車両の逸脱を防止する車線逸脱防止制御が作動し、かつ前後輪の駆動トルクを制御する4WD制御が作動している場合において(ステップS51、ステップS52)、車線逸脱防止制御の作動が終了し、かつ4WD制御の作動が終了するときには、それら終了が同時になされることを禁止する(ステップS53〜ステップS56)。
【解決手段】車両用走行制御装置は、制駆動力を制御して自車両にヨーモーメントを付与し走行車線に対する自車両の逸脱を防止する車線逸脱防止制御が作動し、かつ前後輪の駆動トルクを制御する4WD制御が作動している場合において(ステップS51、ステップS52)、車線逸脱防止制御の作動が終了し、かつ4WD制御の作動が終了するときには、それら終了が同時になされることを禁止する(ステップS53〜ステップS56)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同一車両において車線逸脱防止制御と四輪駆動制御とを行うことが可能な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、制動力を制御して車両にヨーモーメントを発生させることで、自車両の車線逸脱を防止する車線逸脱防止装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−33860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前述の車線逸脱防止装置を搭載した車両に、電子制御4WDを搭載することも考えられる。例えば、電子制御4WDでは、前後輪で車輪速差が生じた場合、前後輪のトルク配分を制御し4WD状態にしている。
このような車両では、車両状態又は走行環境によっては、車線逸脱防止制御が作動し、かつ4WD状態になることもある。
しかし、このように車線逸脱防止制御が作動し、かつ4WD状態になっている場合に、車線逸脱防止制御の作動が終了し、かつ4WD状態が終了するとき(2WDに移行するとき)、それらの終了タイミングによっては、車両挙動の変化が大きくなってしまう場合がある。その場合、運転者に違和感を与えてしまう。
本発明の課題は、車線逸脱防止制御が作動し、かつ4WD状態になっている場合に、それら車線逸脱防止制御の作動及び4WD状態を適切に終了させることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するために、本発明は、制駆動力を制御して自車両にヨーモーメントを付与し走行車線に対する自車両の逸脱を防止する車線逸脱防止制御を行い、その逸脱防止制御の作動終了時には前記制駆動力の制御を終了する。
また、本発明は、前後輪の駆動トルクを制御する四輪駆動制御を行い、その四輪駆動制御の作動終了時には前輪又は後輪の左右輪が駆動トルクを発生する二輪駆動にする。
そして、本発明は、車線逸脱防止制御の作動を終了させ、かつ四輪駆動制御の作動を終了させるときには、それら終了が同時になされることを禁止する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、車線逸脱防止制御の作動の終了と四輪駆動制御の作動の終了とを同時に行うことを禁止することで、それら制御の同時終了による車両挙動の変動を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本実施形態の車両であり、主に車両用走行制御装置の車線逸脱防止制御を実現する構成を有する車両の構成を示す図である。
【図2】本実施形態の車両であり、主に車両用走行制御装置のABS(Anti-lock Brake System)及び電子制御4WDを実現する構成を示す図である。
【図3】車線逸脱防止制御の処理内容を示すフローチャートである。
【図4】車線逸脱防止制御中の車線逸脱傾向の判定の処理内容を示すフローチャートである。
【図5】推定横変位Xsや逸脱判定用しきい値XLの説明に使用した図である。
【図6】走行車線曲率βと減速制御判定用しきい値Xβとの関係を示す特性図である。
【図7】車速VとゲインK2との関係を示す特性図である。
【図8】車速VとゲインKgvとの関係を示す特性図である。
【図9】車線逸脱防止制御のキャンセル処理の処理内容を示すフローチャートである。
【図10】駆動状態制御の処理内容を示すフローチャートである。
【図11】駆動状態制御のオートモード時の処理内容を示すフローチャートである。
【図12】駆動状態制御のキャンセル処理の処理内容を示すフローチャートである。
【図13】ABSの作動により車線逸脱防止制御及び4WD制御が同時に終了するときの目標ヨーモーメント、4WD締結トルク及び自車両に発生している実ヨーモーメントの関係を、時間経過上で示す特性図である。
【図14】ABSの作動時点から所定時間経過後に4WD制御を終了させたときの4WD締結トルクの変化を示す特性図である。
【図15】ABSの作動時点から所定時間経過後に4WD制御を終了させたときの目標ヨーモーメント、4WD締結トルク及び自車両に発生している実ヨーモーメントの関係を、時間経過上で示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
(構成)
本実施形態は、本発明に係る車両用走行制御装置を搭載した車両である。
図1及び図2は、本実施形態を示す概略構成図である。図1は、主に車線逸脱防止制御を実現する構成を示す。図2は、主にABS(Anti-lock BrakeSystem)及び電子制御4WDを実現する構成を示す。
この車両は、図1及び図2に示すように、駆動系として、エンジン1、自動変速機2、リヤプロペラシャフト3、リヤディファレンシャル4、リヤドライブシャフト5,6、左右後輪7RL,7RR、トランスファクラッチ8、フロントプロペラシャフト9、フロントディファレンシャル10、フロントドライブシャフト11,12、及び左右前輪7FL,7FRを有する。
【0009】
また、図1及び図2において、符号21はブレーキペダル、22はブースタ、23はマスタシリンダ、24はリザーバである。通常は、運転者によるブレーキペダル21の踏込み量に応じて、マスタシリンダ23で昇圧された制動流体圧を各車輪7FL〜7RRの各ホイールシリンダ25FL〜25RRに供給する。また、マスタシリンダ23と各ホイールシリンダ25FL〜25RRとの間には制動流体圧制御部31を介装している。
【0010】
制動流体圧制御部31は、アンチスキッド制御(ABS)やトラクション制御に用いられる制動流体圧制御部(アクチュエータ)を利用したものである。制動流体圧制御部31は、各ホイールシリンダ25FL〜25RRの制動流体圧を個別に制御する。例えば、液圧供給系にアクチュエータを含んで制動流体圧制御部31を構成している。アクチュエータとしては、各ホイールシリンダ液圧を任意の制動液圧に制御可能な比例ソレノイド弁が挙げられる。制動流体圧制御部31の制御を制駆動力コントロールユニット(車線逸脱防止コントローラ)32やABSコントローラ33が行う。
【0011】
また、この車両は、駆動トルクコントロールユニット34を搭載している。駆動トルクコントロールユニット34は、燃料噴射量や点火時期等のエンジン1の運転状態、自動変速機2の選択変速比及びスロットルバルブ13のスロットル開度を制御することにより、エンジン1の出力トルクを制御する。また、駆動トルクコントロールユニット34は、制駆動力コントロールユニット32から駆動トルク指令値が入力された場合には、その駆動トルク指令値に応じてエンジン1の出力トルクを制御する。駆動トルクコントロールユニット34は、制御に使用した駆動トルクTwの値を制駆動力コントロールユニット32に出力する。
また、この車両は、トランスファクラッチ8の締結及び解放を行う前後差動制限アクチュエータ35を搭載している。前後差動制限アクチュエータ35の締結制御を4WDコントローラ36が行う。
【0012】
また、この車両は、画像処理機能付きの撮像部37を搭載している。撮像部37は、例えば、車両前部に設置されたCCD(Charge Coupled Device)カメラからなる単眼カメラで車両前方を撮像し、自車両前方の撮像画像から例えば白線(レーンマーカ)又はセンターライン等の車線区分線(境界線)を検出して、検出した車線区分線を基に、各種値を算出する。具体的には、撮像部37は、自車両の走行車線と自車両の前後方向軸とのなす角(ヨー角)φr、走行車線中央からの横位置X及び走行車線曲率β、走行車線幅L等を算出する。撮像部37は、算出したこれらヨー角(検出ヨー角)φr、横位置(検出横位置)X及び走行車線曲率β等を制駆動力コントロールユニット32に出力する。
【0013】
また、この車両は、ナビゲーション装置38を搭載している。ナビゲーション装置38は、自車両に発生する前後加速度Yg及び横加速度Xg、並びに自車両に発生するヨーレイトφ´(=dφr/dt)を検出する。ナビゲーション装置38は、検出した前後加速度Yg、横加速度Xg及びヨーレイトφ´を、道路情報とともに、制駆動力コントロールユニット32に出力する。道路情報としては、車線数、一般道路又は高速道路等の道路種別を示す道路種別情報がある。なお、専用のセンサにより各値を検出することもできる。すなわち、加速度センサにより前後加速度Yg及び横加速度Xgを検出することもできる。また、ヨーレイトセンサによりヨーレイトφ´を検出することもできる。
【0014】
また、この車両は、マスタシリンダ23の出力圧、すなわちマスタシリンダ液圧Pm(Pmf)を検出するマスタシリンダ圧センサ41を搭載している。マスタシリンダ圧センサ41は、検出したマスタシリンダ液圧Pmを制駆動力コントロールユニット32に出力する。
また、この車両は、アクセルペダルの踏込み量、すなわちアクセル開度θtを検出するアクセル開度センサ42を搭載している。アクセル開度センサ42は、検出したアクセル開度θtを制駆動力コントロールユニット32及び4WDコントローラ36に出力する。
【0015】
また、この車両は、ステアリングホイール14の操舵角(ステアリング舵角)δを検出する操舵角センサ43を搭載している。操舵角センサ43は、検出値を制駆動力コントロールユニット32に出力する。
また、この車両は、運転者による方向指示器(ターンシグナルスイッチ)の操作を検出する方向指示スイッチ44を搭載している。方向指示スイッチ44は、操作状態(操作信号、方向スイッチ信号)を制駆動力コントロールユニット32に出力する。
【0016】
また、この車両は、各車輪7FL〜7RRの回転速度、いわゆる車輪速度Vwi(i=fl,fr,rl,rr)を検出する車輪速度センサ45FL〜45RRを搭載している。車輪速度センサ45FL〜45RRは、検出した車輪速度Vwiを制駆動力コントロールユニット32、ABSコントローラ33及び4WDコントローラ36に出力する。
また、この車両は、ブレーキペダル21の操作状態を検出するブレーキスイッチ46を搭載している。ブレーキスイッチ46は、操作状態(操作信号)をABSコントローラ33に出力する。
また、この車両は、運転者による駆動モードの選択を可能にするモード切替スイッチ47を搭載している。モード切替スイッチ47は、操作状態(操作信号)を4WDコントローラ36に出力する。
【0017】
ここで、駆動モードとして、2WD固定モード、4WD固定モード及びオートモードがある。4WD固定モードでは、前後作動制限アクチュエータ35がトランスファクラッチ8を締結させることにより、前後輪にエンジン1の出力トルクを伝達して前後輪の両方を駆動輪として駆動させる。2WD駆動モードでは、前後作動制限アクチュエータ35がトランスファクラッチ8を開放させることにより、後輪のみにエンジン1の出力トルクを伝達して後輪を駆動輪として駆動させる。オートモードでは、前後輪回転速度差に応じて前後作動制限アクチュエータ35がトランスファクラッチ8の締結力を制御することにより前後輪駆動力配分制御を行う。前後輪回転速度差に応じた前後輪駆動力配分制御とは、走行路面が低μ路であること等で前後輪回転速度差が大きいとき、従動輪(前輪)に配分するトルクを大きくする制御のことである。これにより、駆動輪(後輪)での駆動スリップを速やかに収束させる。
【0018】
なお、オートモードとして、アクセル開度速度に応じた前後輪駆動力配分制御を行うこともできる。
また、この車両は、制駆動力コントロールユニット32、ABSコントローラ33及び4WDコントローラ36を、CAN(Controllre AreaNetwork)を介して相互に通信可能に接続している。これにより、制駆動力コントロールユニット32、ABSコントローラ33及び4WDコントローラ36は、相互に必要な情報(各種の制御作動状態の情報等)の送受信を行うことができる。
【0019】
(各種制御の処理手順の説明)
次に、ABSコントローラ33による制動制御の処理手順、制駆動力コントロールユニット(車線逸脱防止コントローラ)32による車線逸脱防止制御の処理手順及び4WDコントローラ36による駆動状態制御(4WD制御)の処理手順をそれぞれ説明する。
(ABS制御)
ABSコントローラ33は、車輪速度センサ45FL〜45RR及びブレーキスイッチ46からの出力信号を基に、制動時の車輪速(又は車輪回転数)を検出し、車輪7FL〜7RRの制動ロックを抑える制御を行う。このとき、制動ロックを抑える制御として、減圧・保持・増圧の3モードにより制動液圧を適宜制御する。具体的には、ABSコントローラ33は、車輪速度センサ45FL〜45RRによって検出された車輪速に基づいて車速Vを推定し、推定した車速Vが0より大きく且ついずれかの車輪度が0となった(即ち制動ロックが発生した)場合には当該車輪の制動液圧を減圧し、この状態から制動液圧の減圧によって車輪速が0より大きくなった場合には制動液圧を保持し、制動液圧を保持している時に車輪速が増大した場合には制動液圧を増圧する、いわゆるABS制御を行う。尚、車速Vの推定方法は後述する。
【0020】
(車線逸脱防止制御)
図3は、制駆動力コントロールユニット32で行う演算処理手順を示す。例えば10msec.毎の所定サンプリング時間ΔT毎にタイマ割込によって演算処理を実行する。なお、演算処理によって得た情報を随時記憶装置に更新記憶すると共に、必要な情報を随時記憶装置から読み出す。
図3に示すように、先ずステップS1において、前記各センサ等から各種データを読み込む。具体的には、ナビゲーション装置38が得た前後加速度Yg、横加速度Xg、ヨーレイトφ´及び道路情報を読み込む。また、各センサが検出した、各車輪速度Vwi、操舵角δ、アクセル開度θt、マスタシリンダ液圧Pm及び方向スイッチ信号を読み込む。また、駆動トルクコントロールユニット34から駆動トルクTw、撮像部37からヨー角φr、横位置X、走行車線幅L及び走行車線曲率βを読み込む。
【0021】
続いてステップS2において、車速Vを算出する。具体的には、前記ステップS1で読み込んだ車輪速度Vwiを基に、下記(1)式により車速Vを算出する。
前輪駆動の場合
V=(Vwrl+Vwrr)/2
後輪駆動の場合
V=(Vwfl+Vwfr)/2
・・・(1)
ここで、Vwfl,Vwfrは左右前輪それぞれの車輪速度である。また、Vwrl,Vwrrは左右後輪それぞれの車輪速度である。すなわち、この(1)式では、従動輪の車輪速の平均値として車速Vを算出している。なお、本実施形態では、後輪駆動車両なので、後者の式、すなわち前輪の車輪速度により車速Vを算出する。
【0022】
また、前記車速Vは車線逸脱防止制御として算出しなくとも、例えばABS制御内で上記式に基づいて算出されるものであっても良い。また、ナビゲーション装置38でナビゲーション情報に利用している値を車速Vとして用いることもできる。また、AT軸出力を基に、車速を算出することもできる。この場合、下記(2)式により車速Vを算出する。
V=(2π・R)・W・(60/1000) ・・・(2)
ここで、Rは、車輪半径とデフギアの比(車輪半径/デフギア)である。Wは、AT出力軸回転数(rpm)である。
【0023】
続いてステップS3において、車線逸脱傾向を判定する。図4は、この判定処理の処理手順の一例を示す。また、図5には、この処理で用いる値の定義を示している。
図4に示すように、先ずステップS11において、所定時間T後の車両重心横位置の推定横変位Xsを算出する。具体的には、前記ステップS1で得たヨー角φr、走行車線曲率β及び横位置(検出横位置)X、及び前記ステップS2で得た車速Vを用いて、下記(3)式により推定横変位Xsを算出する。
Xs=Tt・V・(φr+Tt・V・β)+X ・・・(3)
ここで、Ttは前方注視距離算出用の車頭時間である。この車頭時間Ttに自車速Vを乗じると前方注視点距離になる。また、車頭時間Tt後の走行車線中央からの横変位推定値が将来の推定横変位(前方注視点推定横変位)Xsとなる。この(3)式によれば、例えばヨー角φrが大きくなるほど、推定横変位Xsは大きくなる。
【0024】
続いてステップS12において、逸脱判定をする。具体的には、推定横変位Xsと所定の逸脱傾向判定用しきい値XLとを比較する。ここで、逸脱傾向判定用しきい値XLは、一般的に車両が車線逸脱傾向にあると把握できる値である。逸脱傾向判定用しきい値XLは、例えば実験値等である。また、走行路の境界線の位置を示す値として、下記(4)式により逸脱傾向判定用しきい値XLを算出できる。
XL=(L−H)/2 ・・・(4)
ここで、Lは車線幅である(図5参照)。Hは車両の幅であり、予め定められた値である(図5参照)。車線幅Lは、撮像部37が撮像画像に基づいて算出した車線幅である。また、ナビゲーション装置38から車両の位置を得たり、ナビゲーション装置38の地図データから車線幅Lを得たりすることもできる。
【0025】
このステップS12において、推定横変位Xsが逸脱傾向判定用しきい値XL以上の場合(|Xs|≧XL)、車線逸脱傾向ありと判定する。また、推定横変位Xsが逸脱傾向判定用しきい値XL未満の場合(|Xs|<XL)、車線逸脱傾向なしと判定する。
続いてステップS13において、逸脱判断フラグFoutを設定する。すなわち、前記ステップS12において、車線逸脱傾向ありと判定した場合(|Xs|≧XL)、逸脱判断フラグFoutをONにする(Fout=ON)。また、前記ステップS12において、車線逸脱傾向なしと判定した場合(|Xs|<XL)、逸脱判断フラグFoutをOFFにする(Fout=OFF)。
【0026】
このステップS12及びステップS13の処理により、例えば自車両が車線中央から離れていき、推定横変位Xsが逸脱傾向判定用しきい値XL以上になったとき(|Xs|≧XL)、自車両が車線から逸脱傾向に有ると判定して逸脱判断フラグFoutがONになる(Fout=ON)。また、自車両(Fout=ONの状態の自車両)が車線中央側に復帰していき、推定横変位Xsが逸脱傾向判定用しきい値XL未満になったとき(|Xs|<XL)、自車両の車線逸脱傾向が解消したと判定して逸脱判断フラグFoutがOFFになる(Fout=OFF)。例えば、車線逸脱傾向がある場合に、後述する逸脱防止のための制動制御を実施したり、運転者自身が車線逸脱を回避する操作をする等によって車線逸脱傾向が解消すれば、逸脱判断フラグFoutがONからOFFになる。
【0027】
続いてステップS14において、横位置Xを基に逸脱方向Doutを判定する。具体的には、車線中央から左方向に横変位している場合、その方向を逸脱方向Doutにする(Dout=left)。また、車線中央から右方向に横変位している場合、その方向を逸脱方向Doutにする(Dout=right)。
ステップS3では、以上のように車線逸脱傾向を判定する。
続いてステップS4において、運転者の車線変更の意思を判定する。具体的には、前記ステップS1で得た方向スイッチ信号及び操舵角δを基に、次のように運転者の車線変更の意思を判定する。
【0028】
方向スイッチ信号が示す方向(ウインカ点灯側)と、前記ステップS3で得た逸脱方向Doutが示す方向とが同じ場合、運転者が意識的に車線変更していると判定する。そして、逸脱判断フラグFoutをOFFに変更する(Fout=OFF)。すなわち、車線逸脱傾向なしとの判定結果に変更する。また、方向スイッチ信号が示す方向(ウインカ点灯側)と、前記ステップS3で得た逸脱方向Doutが示す方向とが異なる場合、逸脱判断フラグFoutを維持する。この場合、逸脱判断フラグFoutをONのままにする(Fout=ON)。すなわち、車線逸脱傾向ありとの判定結果を維持する。
【0029】
また、方向指示スイッチ44が操作されていない場合には、操舵角δを基に運転者の車線変更の意思を判定する。具体的には、運転者が逸脱方向に操舵している場合において、その操舵角δとその操舵角の変化量(単位時間当たりの変化量)Δδとの両方が設定値以上のときには、運転者が意識的に車線変更していると判定する。そして、逸脱判断フラグFoutをOFFに変更する(Fout=OFF)。なお、操舵トルクを基に運転者の意思を判定することもできる。
このように、逸脱判断フラグFoutがONである場合において運転者が意識的に車線変更していないときには、逸脱判断フラグFoutをONに維持している。
【0030】
続いてステップS5において、前記ステップS4で設定(維持)した逸脱判断フラグFoutがONの場合、車線逸脱回避のための警報として、音出力又は表示出力をする。なお、後述するように、逸脱判断フラグFoutがONの場合、車線逸脱防止制御として自車両へのヨーモーメント付与を開始している。そのため、自車両へのヨーモーメント付与と同時に該警報出力する。しかし、警報の出力タイミングは、これに限定されるものではない。例えば警報の出力タイミングを、自車両へのヨーモーメント付与の開始タイミングよりも早くすることもできる。
【0031】
続いてステップS6において、車線逸脱防止制御として自車両の減速制御を行うか否かを判定する。本実施形態の車線逸脱防止制御では、自車両が車線逸脱してしまうのを防止する目的で、減速制御により自車両を減速させている。このステップS6では、その減速制御を行うか否かを判定する。具体的には、前記ステップS3で算出した推定横変位Xsから横変位限界距離XLを減じて得た減算値(|Xs|−XL)が減速制御判定用しきい値Xβ以上か否かを判定する。
【0032】
ここで、減速制御判定用しきい値Xβは、走行車線曲率βに応じて設定される値である。図6は、走行車線曲率βと減速制御判定用しきい値Xβとの関係の一例を示す。図6に示すように、走行車線曲率βが小さい場合、減速制御判定用しきい値Xβはある一定の大きい値となる。また、走行車線曲率βがある値より大きくなると、走行車線曲率βが増加するのに対して減速制御判定用しきい値Xβは減少する。そして、走行車線曲率βがさらに大きくなると、減速制御判定用しきい値Xβはある一定の小さい値となる。また、車速Vが大きくなるほど、減速制御判定用しきい値Xβを小さくすることもできる。
【0033】
このステップS6では、前記減算値(|Xs|−XL)が減速制御判定用しきい値Xβ以上の場合(|Xs|−XL≧Xβ)、減速制御を行うと決定する。そして、減速制御作動判断フラグFgsをONに設定する(Fgs=ON)。また、前記減算値(|Xs|−XL)が減速制御判定用しきい値Xβ未満の場合(|Xs|−XL<Xβ)、減速制御を行わない決定をする。そして、減速制御作動判断フラグFgsをOFFに設定する(Fgs=OFF)。
【0034】
なお、前記ステップS3において推定横変位Xsが逸脱傾向判定用しきい値XL以上の場合(|Xs|≧XL)、逸脱判断フラグFoutをONに設定している。さらに、このステップS6では、減算値(|Xs|−XL)が減速制御判定用しきい値Xβ以上の場合、減速制御作動判断フラグFgsをONに設定している。これらの関係から、逸脱判断フラグFoutをONに設定するとしても、その設定は、減速制御作動判断フラグFgsをONに設定した後になる。すなわち、後述する逸脱判断フラグFoutがONになった場合に実施する自車両へのヨーモーメント付与との関係では、自車両の減速制御を実施した後、自車両にヨーモーメントを付与するようになる。
【0035】
続いてステップS7において、車線逸脱防止制御として自車両に付与する目標ヨーモーメントMsを算出する。目標ヨーモーメントMsは、自車両が車線逸脱してしまうのを十分に防止できるヨーモーメントである。具体的には、前記ステップS3で得た推定横変位Xsを用いて、下記(5)式により目標ヨーモーメントMsを算出する。
Ms=K1・K2・(|Xs|−XL) ・・・(5)
【0036】
ここで、K1は車両諸元から決まる比例ゲインである。K2は車速Vに応じて変動するゲインである。また、この(5)式において、推定横変位Xsは、車線逸脱防止制御(ヨーモーメント制御)の制御ゲイン(比例ゲイン)をなしている。図7はゲインK2の例を示す。図7に示すように、低速域では、ゲインK2は、ある一定の大きい値となる。また、車速Vがある値よりも大きくなると、車速Vの増加に対してゲインK2は減少する。そして、その後ある車速Vに達すると、ゲインK2は、ある一定の小さい値となる。
【0037】
この(5)式によれば、推定横変位Xs(絶対値)が大きくなるほど推定横変位Xs(絶対値)と横変位限界距離XLとの差分値が大きくなる。そのため、推定横変位Xs(絶対値)が大きくなるほど、目標ヨーモーメントMsは大きくなる。また、逸脱判断フラグFoutがONの場合に目標ヨーモーメントMsを算出する。また、逸脱判断フラグFoutがOFFの場合、目標ヨーモーメントMsを零に設定する。
【0038】
続いてステップS8において、車線逸脱防止制御として実施する減速制御の減速度を算出する。このステップS8では、その減速度を実現するために左右両輪で発生させる制動力を算出する。具体的には、そのような制動力を左右両輪に発生させるための目標制動液圧Pgf,Pgrを算出する。前輪用の目標制動液圧Pgfについては、前記ステップS3で算出した推定横変位Xsを用いて、下記(6)式により算出する。
Pgf=Kgv・Kgx・(|Xs|−XL−Xβ) ・・・(6)
【0039】
ここで、Kgv,Kgxはそれぞれ、車速V及び横変化量dxを基に設定する換算係数である。さらに、Kgv,Kgxはそれぞれ、制動力を制動液圧に換算するための換算係数でもある。図8はその換算係数Kgvの例を示す。図8に示すように、低速域では、換算係数Kgvは、ある一定の小さい値になる。また、車速Vがある値よりも大きくなると、車速Vが増加すると換算係数Kgvも増加する。その後ある車速Vに達すると、換算係数Kgvは、ある一定の大きい値になる。そして、前輪用の目標制動液圧Pgfを基に、前後配分を考慮した後輪用の目標制動液圧Pgrを算出する。
【0040】
この(6)式によれば、推定横変位Xs(絶対値)が大きくなるほど、目標制動液圧は大きくなる。
続いてステップS9において、各車輪の目標制動液圧を算出する。すなわち、車線逸脱防止の制動制御の有無に基づいて最終的な制動液圧を算出する。具体的には次のように算出する。
逸脱判断フラグFoutがOFFの場合、すなわち車線逸脱傾向がないとの判定結果を得た場合、下記(7)式及び(8)式に示すように、各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl,fr,rl,rr)を制動液圧Pmf,Pmrにする。
Psfl=Psfr=Pmf ・・・(7)
Psrl=Psrr=Pmr ・・・(8)
ここで、Pmfは前輪用の制動液圧である。Pmrは後輪用の制動液圧である。このPmrは、前後配分を考慮して前輪用の制動液圧Pmf(Pm)に基づいて算出した値になる。例えば、運転者がブレーキ操作をしていれば、制動液圧Pmf,Pmrはそのブレーキ操作の操作量に応じた値になる。
【0041】
一方、逸脱判断フラグFoutがONの場合、すなわち車線逸脱傾向があるとの判定結果を得た場合、先ず目標ヨーモーメントMsに基づいて、前輪目標制動液圧差ΔPsf及び後輪目標制動液圧差ΔPsrを算出する。具体的には、下記(9)式〜(12)式により目標制動液圧差ΔPsf,ΔPsrを算出する。
|Ms|<Ms1の場合
ΔPsf=0 ・・・(9)
ΔPsr=Kbr・Ms/T ・・・(10)
|Ms|≧Ms1の場合
ΔPsf=Kbf・(Ms/|Ms|)・(|Ms|−Ms1)/T ・・・(11)
ΔPsr=Kbr・(Ms/|Ms|)・Ms1/T ・・・(12)
ここで、Ms1は設定用しきい値を示す。Tはトレッドを示す。なお、トレッドTは、便宜上前後で同じ値にする。また、Kbf,Kbrは、制動力を制動液圧に換算する場合の前輪及び後輪についての換算係数である。このKbf,Kbrは、ブレーキ諸元により定まる。
【0042】
このように、目標ヨーモーメントMsの大きさに応じて車輪に発生させる制動力を配分している。すなわち、目標ヨーモーメントMsが設定用しきい値Ms1未満のときには、前輪目標制動液圧差ΔPsfを零として、後輪目標制動液圧差ΔPsrに所定値を与えて、左右後輪で制動力差を発生させる。また、目標ヨーモーメントMsが設定用しきい値Ms1以上のときには、各目標制動液圧差ΔPsr,ΔPsrに所定値を与え、左右輪で制動力差を発生させる。
【0043】
そして、以上のように算出した目標制動液圧差ΔPsf,ΔPsr及び減速用の目標制動液圧Pgf,Pgrを用いて最終的な各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl,fr,rl,rr)を算出する。具体的には、前記ステップS6で得た減速制御作動判断フラグFgsをも参照して、最終的な各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl,fr,rl,rr)を算出する。
【0044】
すなわち、逸脱判断フラグFoutがON、かつ減速制御作動判断フラグFgsがOFFの場合、つまり、車線逸脱傾向があるとの判定結果を得ているが、車両へのヨーモーメント付与だけを行う場合、下記(13)式により各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl,fr,rl,rr)を算出する。
Psfl=Pmf
Psfr=Pmf+ΔPsf
Psrl=Pmr
Psrr=Pmr+ΔPsr
・・・(13)
【0045】
また、逸脱判断フラグFoutがONであり、かつ減速制御作動判断フラグFgsがONの場合、すなわち車両にヨーモーメントを付与しつつも、車両を減速させる場合、下記(14)式により各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl,fr,rl,rr)を算出する。
Psfl=Pmf+Pgf/2
Psfr=Pmf+ΔPsf+Pgf/2
Psrl=Pmr+Pgr/2
Psrr=Pmr+ΔPsr+Pgr/2
・・・(14)
【0046】
また、この(13)式及び(14)式が示すように、運転者によるブレーキ操作、すなわち制動液圧Pmf,Pmrを考慮して各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl,fr,rl,rr)を算出している。そして、制駆動力コントロールユニット32は、このようにして算出した各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl,fr,rl,rr)を制動流体圧指令値として、制動流体圧制御部31に出力する。
【0047】
なお、前記(13)式、(14)式に示した各車輪の目標制動液圧は、逸脱方向Doutがleftの場合(Dout=left)、すなわち左側車線に対して車線逸脱傾向がある場合のものである。例えば、逸脱方向Doutがrightの場合の、前記(13)式に対応する各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl,fr,rl,rr)を、下記(15)式により算出できる。
Psfl=Pmf+ΔPsf
Psfr=Pmf
Psrl=Pmr+ΔPsr
Psrr=Pmr
・・・(15)
【0048】
(車線逸脱防止制御のキャンセル処理)
図9は、制駆動力コントロールユニット32が行う車線逸脱防止制御のキャンセル処理の処理手順を示す。例えば10msec.毎の所定サンプリング時間ΔT毎にタイマ割込によってキャンセル処理を実行する。
図9に示すように、先ずステップS21において、車線逸脱防止制御のキャンセル要求があったか否かを判定する。具体的には、車線逸脱防止制御の作動中にABSが作動したか否かを判定する。車線逸脱防止制御の作動中にABSが作動した場合、車線逸脱防止制御のキャンセル要求があったものとして、ステップS22に進む。そうでない場合、車線逸脱防止制御のキャンセル要求がないものとして、該図9に示す処理を終了する(前記ステップS21から再び処理を開始する、車線逸脱防止制御を継続する)。
ステップS22では、車線逸脱防止制御の終了処理を行う。例えば、逸脱判断フラグFoutをOFFに設定する。これにより、車線逸脱防止制御による制動力の制御が終了する。
【0049】
(駆動状態制御)
図10は、4WDコントローラ36で行う演算処理手順を示す。例えば10msec.毎の所定サンプリング時間ΔT毎にタイマ割込によって演算処理を実行する。なお、演算処理によって得た情報を随時記憶装置に更新記憶すると共に、必要な情報を随時記憶装置から読み出す。
図10に示すように、先ずステップS31において、前記各センサから各種データを読み込む。具体的には、モード切替スイッチ47の操作状態(操作信号)及び車輪速度センサ45FL〜45RRが得た各車輪速度Vwiを読み込む。
【0050】
ステップS32では、モード切替スイッチ47の操作状態(操作信号)から2WD固定モードを運転者が選択しているか否かを判定する。2WD固定モードを運転者が選択している場合、ステップS33に進む。また、2WD固定モードを運転者が選択していない場合、ステップS34に進む。
ステップS34では、モード切替スイッチ47の操作状態(操作信号)から4WD固定モードを運転者が選択しているか否かを判定する。4WD固定モードを運転者が選択している場合、ステップS35に進む。また、4WD固定モードを運転者が選択していない場合、ステップS40に進む。
【0051】
ステップS33では、前後差動制限アクチュエータ35を制御して、トランスファクラッチ8を解放する。また、ステップS35では、前後差動制限アクチュエータ35を制御して、トランスファクラッチ8を締結する。そして、解放又は締結をした後、該図10に示す処理を終了する。
ステップS40では、オートモード(4WD制御)を実行する。
図11は、オートモード時の処理手順を示す。図11に示すように、先ずステップS41において、スリップしているか否かを判定する。具体的には、車輪速度を基に、前後輪に車輪速差が発生しているか否かを判定する。例えば、前後輪の車輪速差が所定値以上の場合、スリップしていると判定する。スリップしていると判定した場合、ステップS42に進む。そうでない場合、該図11に示す処理を終了する(ステップS41の処理を繰り返す)。
【0052】
ステップS42では、4WD制御の目標トルクTr_4WDを算出する。4WD制御の目標トルクTr_4WDは、2WD状態での従動輪への配分トルクとなる。本施形態では、2WD状態での駆動輪を後輪7RL,7RR、従動輪を前輪7FL,7FRとする。よって、本実施形態では、前輪7FL,7FRへの配分トルクとして目標トルクTr_4WDを算出する。
【0053】
具体的には、前後輪の車輪速差が大きいほど目標トルクTr_4WDを大きくする。このとき、後輪7RL,7RRの駆動力と等しいトルクを目標トルクTr_4WDの最大値とする。
そして、算出した目標トルクTr_4WDが0よりも大きい場合(Tr_4WD>0)、4WD制御フラグACTIVE_4WDを1に設定する。すなわち、オートモードにより目標トルクTr_4WDで従動輪を駆動する場合、つまり4WD状態にして4WD制御をする場合、4WD制御フラグACTIVE_4WDを1に設定する。
【0054】
なお、前後輪の車輪速差に所定の係数を乗算する等の演算により目標トルク値Tr_4WDを算出することもできる。また、予め前後輪の車輪速差と目標トルク値Tr_4WDとの相関関係を表わしたマップを参照し、実測の前後輪の車輪速差に対応する目標トルク値Tr_4WDを得ることもできる。
続いてステップS43において、トルク配分制御を行う。具体的には、前記ステップS42で算出した目標トルク値Tr_4WDに応じたクラッチ締結力指令(4WD締結トルク指令値)を前後差動制限アクチュエータ35に出力する。そして、該図11に示す処理を終了する。
以上の処理の結果、スリップが発生した場合、前輪7FL,7FRには目標トルク値Tr_4WD、すなわち前後輪の車輪速差に応じたトルクが発生する。
【0055】
(駆動状態制御のキャンセル処理)
図12は、4WDコントローラ36が行う駆動状態制御(特にオートモード時、4WD制御時)のキャンセル処理の処理手順を示す。例えば10msec.毎の所定サンプリング時間ΔT毎にタイマ割込によってキャンセル処理を実行する。
図12に示すように、先ずステップS51において、車線逸脱防止制御が作動中(Fout=ON)、かつ4WD制御が作動中(ACTIVE_4WD=1)か否かを判定する。車線逸脱防止制御が作動中(Fout=ON)、かつ4WD制御が作動中(ACTIVE_4WD=1)の場合、ステップS52に進む。また、そうでない場合、例えば車線逸脱防止制御が作動していない場合(Fout=OFF)、ステップS52をスキップしてステップS53に進む。
【0056】
ステップS52では、制御状態フラグFstを1に設定する。制御状態フラグFstは、初期設定で0になっている。
続いてステップS53において、4WD制御のキャンセル要求があったか否かを判定する。具体的には、4WD制御中にABSが作動したか否かを判定する。4WD制御中にABSが作動した場合、4WD制御のキャンセル要求があったものとして、ステップS54に進む。そうでない場合、4WD制御のキャンセル要求がないものとして、該図12に示す処理を終了する(前記ステップS51から再び処理を開始する)。
【0057】
例えば、キャンセル要求があった場合、4WD制御キャンセルフラグFcancelを1に設定する。
ステップS54では、制御状態フラグFstが1か否かを判定する。制御状態フラグFstが1の場合、ステップS55に進む。また、そうでない場合(Fst=0)、ステップS55をスキップしてステップS56に進む。
【0058】
ステップS55では、終了遅延処理を行う。すなわち、4WD制御の終了に遅延を入れる。具体的には、キャンセル要求があった時点(ABSの作動時点)から制御キャンセル遅延時間Tm経過後に、4WD制御キャンセルフラグFcancelを1に設定する。
ステップS56では、4WD制御の終了処理(4WD解除処理)を行う。具体的には、前記ステップS53でキャンセル要求があり4WD制御キャンセルフラグFcancelを1に設定したタイミングで、下記(16)式により目標トルクTr_4WDを減少させる処理を開始する。
Tr_4WD=Tr_4WD−ΔTr_4WD ・・・(16)
【0059】
ここで、ΔTr_4WDは、制御終了勾配である。この(16)式によれば、目標トルクTr_4WDから該図12の処理回数に応じて制御終了勾配ΔTr_4WDが減算されていき、最終的に目標トルクTr_4WDが零になる(完全な2WD状態になる)。
ここで、前記ステップS55が実施された場合、すなわち、車線逸脱防止制御が作動中、かつ4WD制御が作動中であった場合、キャンセル要求時点から制御キャンセル遅延時間Tm経過後に、4WD制御キャンセルフラグFcancelを1に設定している。この場合、駆動状態制御の終了処理では、制御キャンセル遅延時間Tm経過後に、前記(16)式により目標トルクTr_4WDを減少させる処理を開始することになる。この結果、制御キャンセル遅延時間Tm経過後に、目標トルクTr_4WDから該図12に示す処理回数に応じて制御終了勾配ΔTr_4WDが減算されていき、最終的に目標トルクTr_4WDが零になる(完全な2WD状態になる)。
【0060】
(動作)
(車線逸脱防止制御の動作)
車線逸脱防止制御では、各種データを読み込むとともに(前記ステップS1)、車速Vを算出する(前記ステップS2)。続いて、車線逸脱傾向を判定する(前記ステップS3)。すなわち、ヨー角φr等を基に推定横変位Xsを算出し、算出した推定横変位Xsを基に、逸脱判断フラグFoutを設定(車線逸脱傾向を判定)する。そして、運転者の車線変更の意思に応じて、その判定結果を変更する(前記ステップS4)。また、推定横変位Xsを基に、減速制御作動判断フラグFgを設定(減速制御判定を判定)する(前記ステップS6)。そして、先に算出している推定横位置Xsを基に、目標ヨーモーメントMsを算出する(前記ステップS7)。さらに、先に算出している推定横位置Xsを基に、減速制御の減速度を算出する(前記ステップS8)。
【0061】
そして、逸脱判断フラグFoutを基に、警報出力する(前記ステップS5)。さらに、逸脱判断フラグFout及び減速制御作動判断フラグFgsを基に、各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl,fr,rl,rr)を算出する(前記ステップS9)。そして、算出した各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl,fr,rl,rr)を制動流体圧制御部31に出力する(前記ステップS9)。これにより、自車両の車線逸脱傾向に応じて、警報出力し、自車両にヨーモーメントを付与する。さらに、場合により、自車両を減速させる。
【0062】
(車線逸脱防止制御の終了動作)
車線逸脱防止制御の作動中に車線逸脱防止制御のキャンセル要求があった場合、具体的には車線逸脱防止制御の作動中にABSが作動した場合、車線逸脱防止制御を終了する(前記図9)。例えば、終了処理で逸脱判断フラグFoutをOFFに設定することで、車線逸脱防止制御による制動力の制御が終了する(制動力を発生させるのを止める)。
(駆動状態制御の動作)
駆動状態制御では、各種データを読み込み、モード切替スイッチ47の操作状態(操作信号)に応じて2WD固定モード、4WD固定モード及びオートモード(4WD制御)を実行する(前記図10)。オートモードでは、スリップしたときに、4WD制御の目標トルクTr_4WDを算出し、前輪7FL,7FRに目標トルク値Tr_4WDに応じたトルクを発生させる(前記図11)。
【0063】
(駆動状態制御(4WD制御)の終了動作)
駆動状態制御による4WD制御の作動中(ACTIVE_4WD=1)に車線逸脱防止制御も作動している場合、制御状態フラグFstを1に設定する(前記ステップS51、ステップS52)。そして、4WD制御のキャンセル要求があった場合、具体的には車線逸脱防止制御の場合と同様に4WD制御の作動中にABSが作動した場合(前記ステップS53)、4WD制御を終了する(前記ステップS56)。
【0064】
このとき、制御状態フラグFstが1でなければ(Fst=0)、すなわち車線逸脱防止制御が作動していなければ(Fout=OFF)、ABSの作動時点(4WD制御キャンセルフラグFcancelを1に設定した時点)で、目標トルクTr_4WDを減少させる処理を開始する(前記ステップS54→ステップS56)。
また、制御状態フラグFstが1であれば、終了遅延処理として、ABSの作動時点(キャンセル要求時点)から制御キャンセル遅延時間Tm経過後に4WD制御キャンセルフラグFcancelを1に設定する。これにより、ABSの作動時点から制御キャンセル遅延時間Tm経過後に目標トルクTr_4WDを減少させる処理を開始する(前記ステップS54→ステップS55→ステップS56)。
【0065】
これにより、車線逸脱防止制御及び駆動状態制御による4WD制御がともに作動している場合における車線逸脱防止制御の終了との関係は、ABSの作動時点で車線逸脱防止制御が終了し、その後、ABSの作動時点から制御キャンセル遅延時間Tm経過後に4WD制御が終了する(目標トルクTr_4WDが減少する、又は2WDに移行する)。
図13は、ABSの作動により車線逸脱防止制御及び4WD制御が同時に終了するときの目標ヨーモーメント、4WD締結トルク(目標トルクTr_4WD相当)及び自車両に発生している実ヨーモーメントの関係を、時間経過上で示す(本実施形態との比較例)。
【0066】
図13に示すように、車線逸脱防止制御が作動すると、目標ヨーモーメントに応じた実ヨーモーメントが自車両に発生する(期間T1)。例えば、車両が旋回中に車線逸脱防止制御が作動し、その旋回方向とは逆方向(アンダー方向)に実ヨーモーメントが発生する。
その後、前後輪の車輪速差が発生して駆動状態制御により4WD制御が作動する(期間T2(前半))。例えば、車線逸脱防止制御が作動したことで前後輪に車輪速差が発生したために、車線逸脱防止制御の作動中に駆動状態制御が介入して4WD制御が作動する。このように車線逸脱防止制御の作動中に4WD状態になると、実ヨーモーメントは収束するようになる。
【0067】
そして、そのように車線逸脱防止制御と4WD制御とがともに作動しているときに、ABSが作動すると、車線逸脱防止制御及び4WD制御の両方を同時に終了する(期間T2(後半))。
これにより、車線逸脱防止制御と4WD状態であることで収束していた実ヨーモーメントが発散する(期間T3)。例えば、車両が旋回中に車線逸脱防止制御が作動してその旋回方向とは逆方向(アンダー方向)に実ヨーモーメントが発生していた場合には、オーバー方向に実ヨーモーメントが発散する。
【0068】
このような実ヨーモーメントの発散は、次のような原因によるものと考えられる。
2WD状態であるときでも、車線逸脱防止制御をキャンセルすると、実ヨーモーメントは発散方向に多少変化する。しかし、図13の結果では、4WD制御のキャンセルがあり、しかもその4WD制御のキャンセルが車線逸脱防止制御のキャンセルと同時であるために、ヨーモーメントが大きく発散してしまったと考えられる。このようにヨーモーメントが発散してしまうと、車両挙動が変動してしまう。このような場合、制御終了後に運転者による修正舵が必要になり、制御終了後の運転者の負担が大きくなる。
【0069】
これに対して、図14に示すように、本実施形態では、ABSの作動時点(キャンセル要求時点)から所定時間(制御キャンセル遅延時間Tm)経過後に、4WD制御を終了させている。すなわち、所定時間(制御キャンセル遅延時間Tm)経過後に、目標トルクTr_4WDを減少させる処理を開始している。
図15は、ABSの作動時点から所定時間経過後に4WD制御を終了させたときの目標ヨーモーメント、4WD締結トルク(目標トルクTr_4WD相当)及び自車両に発生している実ヨーモーメントの関係を、時間経過上で示す。
【0070】
図15に示すように、車線逸脱防止制御と4WD制御とがともに作動しているときに、ABSが作動すると、車線逸脱防止制御が終了し、その後、所定時間経過後に4WD制御が終了する(目標トルクTr_4WDを減少させる処理を開始する)。
この結果、前記図13に見られた実ヨーモーメントの発散(図13の期間T3の実ヨーモーメント)を抑制できる。この図15に示す結果では、実ヨーモーメントの発散がほぼ半減している(期間T3)。
このように制御終了時の車両挙動の変動を抑制できる結果、制御終了後に運転者による修正舵も必要なくなり、制御終了後に運転者の負担を与えてしまうのを防止できる。
【0071】
(本実施形態の変形例)
(1)車線逸脱防止制御では、駆動力制御(左右輪に駆動力差を発生させる等)によりヨーモーメントを発生させることもできる。
(2)この実施形態では、車線逸脱防止制御及び駆動状態制御(4WD制御)の終了処理をABSの作動タイミングで行うことを前提としている。これに対して、他の要件、例えば運転者の操舵介入、制駆動力の操作介入のタイミングで終了処理を行うこともできる。また、車線逸脱防止制御の終了処理と駆動状態制御の終了処理とを異なる要件で実行することもできる。
【0072】
(3)この実施形態では、4WDコントローラ36(図12の処理)が車線逸脱防止制御及び4WD制御の同時終了を禁止する処理を行っている。これに対して、制駆動力コントロールユニット(車線逸脱防止コントローラ)32や他の演算処理部(ECU,ElectronicControl Unit等)が車線逸脱防止制御及び4WD制御の同時終了を禁止する処理を行うこともできる。
【0073】
(4)この実施形態では、終了遅延処理の実施の有無にかかわらず、一律で制御終了勾配ΔTr_4WDを用いている。これに対して、終了遅延処理を実施した場合には、制御終了勾配ΔTr_4WDよりも大きい第2制御終了勾配ΔTr_4WD2を用いることもできる。すなわち、ABSの作動時点から制御キャンセル遅延時間Tm経過後に目標トルクTr_4WDを第2制御終了勾配ΔTr_4WD2で減少させていく。
【0074】
(5)この実施形態では、2WD状態では後輪を駆動している。これに対して、2WD状態で前輪を駆動させることもできる。
なお、この実施形態では、制駆動力コントロールユニット(車線逸脱防止コントローラ)32は、制駆動力を制御して自車両にヨーモーメントを付与し走行車線に対する自車両の逸脱を防止する車線逸脱防止制御を行い、その逸脱防止制御の作動終了時には前記制駆動力の制御を終了する車線逸脱防止制御手段を実現している。また、4WDコントローラ36は、前後輪の駆動トルクを制御する四輪駆動制御を行い、その四輪駆動制御の作動終了時には前輪又は後輪のいずれか一方が駆動トルクを発生する二輪駆動にする四輪駆動制御手段を実現している。また、4WDコントローラ36(図12の処理)は、前記車線逸脱防止制御手段が前記車線逸脱防止制御の作動を終了させ、かつ前記四輪駆動制御手段が前記四輪駆動制御の作動を終了させるときには、それら終了が同時になされることを禁止する同時終了禁止手段を実現している。
【0075】
また、この実施形態では、制駆動力を制御して自車両にヨーモーメントを付与し走行車線に対する自車両の逸脱を防止する車線逸脱防止制御が作動し、前後輪の両方が駆動トルクを発生する四輪駆動状態になっているときに、前記車線逸脱防止制御による前記制駆動力の制御の終了と、前記四輪駆動状態から前輪又は後輪のいずれか一方が駆動トルクを発生する二輪輪駆動状態への移行とが同時になされることを禁止する車両用走行制御方法を実現している。
【0076】
(本実施形態における効果)
(1)制駆動力コントロールユニット(車線逸脱防止コントローラ)32は、制駆動力を制御して自車両にヨーモーメントを付与し走行車線に対する自車両の逸脱を防止する車線逸脱防止制御を行い、その逸脱防止制御の作動終了時には制駆動力の制御を終了している。また、4WDコントローラ36は、前後輪の駆動トルクを制御する4WD制御を行い、その4WD制御の作動終了時には前輪又は後輪の左右輪が駆動トルクを発生する2WDにする。そして、4WDコントローラ36(同時終了禁止手段としての機能)は、車線逸脱防止制御の作動が終了し、かつ4WDの作動が終了するときには、それら終了が同時になされることを禁止している(前記図12)。
このように車線逸脱防止制御の作動の終了と4WD制御の作動の終了とを同時に行うことを禁止することで、それら制御の同時終了による車両挙動の変動を抑制できる。この結果、制御終了後に運転者による修正舵も必要なくなり、制御終了後に運転者に負担を与えてしまうのを防止できる。
【0077】
(2)4WDコントローラ36(同時終了禁止手段としての機能)は、車線逸脱防止制御の作動を終了させた後に、4WD制御を終了させる。
これにより、制御の同時終了による車両挙動の変動を適切に抑制できる。
(3)4WDコントローラ36は、4WD制御の作動終了時には、2WDにするために駆動トルクの発生を終了させる前輪又は後輪の該駆動トルクの減少割合を所定値(ΔTr_4WD)以下にする。この実施形態では、制御終了勾配ΔTr_4WDや第2制御終了勾配ΔTr_4WD2をこの所定値以下にしている。
これにより、4WD制御の作動終了の際に4WD状態から2WD状態に緩やかに移行させることができる。この結果、4WD制御の作動終了そのものによる車両挙動による変動を抑制でき、これにより、制御の同時終了による車両挙動の変動を適切に抑制できる。
【符号の説明】
【0078】
32 制駆動力コントロールユニット、33 ABSコントローラ、36 4WDコントローラ
【技術分野】
【0001】
本発明は、同一車両において車線逸脱防止制御と四輪駆動制御とを行うことが可能な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、制動力を制御して車両にヨーモーメントを発生させることで、自車両の車線逸脱を防止する車線逸脱防止装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−33860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前述の車線逸脱防止装置を搭載した車両に、電子制御4WDを搭載することも考えられる。例えば、電子制御4WDでは、前後輪で車輪速差が生じた場合、前後輪のトルク配分を制御し4WD状態にしている。
このような車両では、車両状態又は走行環境によっては、車線逸脱防止制御が作動し、かつ4WD状態になることもある。
しかし、このように車線逸脱防止制御が作動し、かつ4WD状態になっている場合に、車線逸脱防止制御の作動が終了し、かつ4WD状態が終了するとき(2WDに移行するとき)、それらの終了タイミングによっては、車両挙動の変化が大きくなってしまう場合がある。その場合、運転者に違和感を与えてしまう。
本発明の課題は、車線逸脱防止制御が作動し、かつ4WD状態になっている場合に、それら車線逸脱防止制御の作動及び4WD状態を適切に終了させることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するために、本発明は、制駆動力を制御して自車両にヨーモーメントを付与し走行車線に対する自車両の逸脱を防止する車線逸脱防止制御を行い、その逸脱防止制御の作動終了時には前記制駆動力の制御を終了する。
また、本発明は、前後輪の駆動トルクを制御する四輪駆動制御を行い、その四輪駆動制御の作動終了時には前輪又は後輪の左右輪が駆動トルクを発生する二輪駆動にする。
そして、本発明は、車線逸脱防止制御の作動を終了させ、かつ四輪駆動制御の作動を終了させるときには、それら終了が同時になされることを禁止する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、車線逸脱防止制御の作動の終了と四輪駆動制御の作動の終了とを同時に行うことを禁止することで、それら制御の同時終了による車両挙動の変動を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本実施形態の車両であり、主に車両用走行制御装置の車線逸脱防止制御を実現する構成を有する車両の構成を示す図である。
【図2】本実施形態の車両であり、主に車両用走行制御装置のABS(Anti-lock Brake System)及び電子制御4WDを実現する構成を示す図である。
【図3】車線逸脱防止制御の処理内容を示すフローチャートである。
【図4】車線逸脱防止制御中の車線逸脱傾向の判定の処理内容を示すフローチャートである。
【図5】推定横変位Xsや逸脱判定用しきい値XLの説明に使用した図である。
【図6】走行車線曲率βと減速制御判定用しきい値Xβとの関係を示す特性図である。
【図7】車速VとゲインK2との関係を示す特性図である。
【図8】車速VとゲインKgvとの関係を示す特性図である。
【図9】車線逸脱防止制御のキャンセル処理の処理内容を示すフローチャートである。
【図10】駆動状態制御の処理内容を示すフローチャートである。
【図11】駆動状態制御のオートモード時の処理内容を示すフローチャートである。
【図12】駆動状態制御のキャンセル処理の処理内容を示すフローチャートである。
【図13】ABSの作動により車線逸脱防止制御及び4WD制御が同時に終了するときの目標ヨーモーメント、4WD締結トルク及び自車両に発生している実ヨーモーメントの関係を、時間経過上で示す特性図である。
【図14】ABSの作動時点から所定時間経過後に4WD制御を終了させたときの4WD締結トルクの変化を示す特性図である。
【図15】ABSの作動時点から所定時間経過後に4WD制御を終了させたときの目標ヨーモーメント、4WD締結トルク及び自車両に発生している実ヨーモーメントの関係を、時間経過上で示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
(構成)
本実施形態は、本発明に係る車両用走行制御装置を搭載した車両である。
図1及び図2は、本実施形態を示す概略構成図である。図1は、主に車線逸脱防止制御を実現する構成を示す。図2は、主にABS(Anti-lock BrakeSystem)及び電子制御4WDを実現する構成を示す。
この車両は、図1及び図2に示すように、駆動系として、エンジン1、自動変速機2、リヤプロペラシャフト3、リヤディファレンシャル4、リヤドライブシャフト5,6、左右後輪7RL,7RR、トランスファクラッチ8、フロントプロペラシャフト9、フロントディファレンシャル10、フロントドライブシャフト11,12、及び左右前輪7FL,7FRを有する。
【0009】
また、図1及び図2において、符号21はブレーキペダル、22はブースタ、23はマスタシリンダ、24はリザーバである。通常は、運転者によるブレーキペダル21の踏込み量に応じて、マスタシリンダ23で昇圧された制動流体圧を各車輪7FL〜7RRの各ホイールシリンダ25FL〜25RRに供給する。また、マスタシリンダ23と各ホイールシリンダ25FL〜25RRとの間には制動流体圧制御部31を介装している。
【0010】
制動流体圧制御部31は、アンチスキッド制御(ABS)やトラクション制御に用いられる制動流体圧制御部(アクチュエータ)を利用したものである。制動流体圧制御部31は、各ホイールシリンダ25FL〜25RRの制動流体圧を個別に制御する。例えば、液圧供給系にアクチュエータを含んで制動流体圧制御部31を構成している。アクチュエータとしては、各ホイールシリンダ液圧を任意の制動液圧に制御可能な比例ソレノイド弁が挙げられる。制動流体圧制御部31の制御を制駆動力コントロールユニット(車線逸脱防止コントローラ)32やABSコントローラ33が行う。
【0011】
また、この車両は、駆動トルクコントロールユニット34を搭載している。駆動トルクコントロールユニット34は、燃料噴射量や点火時期等のエンジン1の運転状態、自動変速機2の選択変速比及びスロットルバルブ13のスロットル開度を制御することにより、エンジン1の出力トルクを制御する。また、駆動トルクコントロールユニット34は、制駆動力コントロールユニット32から駆動トルク指令値が入力された場合には、その駆動トルク指令値に応じてエンジン1の出力トルクを制御する。駆動トルクコントロールユニット34は、制御に使用した駆動トルクTwの値を制駆動力コントロールユニット32に出力する。
また、この車両は、トランスファクラッチ8の締結及び解放を行う前後差動制限アクチュエータ35を搭載している。前後差動制限アクチュエータ35の締結制御を4WDコントローラ36が行う。
【0012】
また、この車両は、画像処理機能付きの撮像部37を搭載している。撮像部37は、例えば、車両前部に設置されたCCD(Charge Coupled Device)カメラからなる単眼カメラで車両前方を撮像し、自車両前方の撮像画像から例えば白線(レーンマーカ)又はセンターライン等の車線区分線(境界線)を検出して、検出した車線区分線を基に、各種値を算出する。具体的には、撮像部37は、自車両の走行車線と自車両の前後方向軸とのなす角(ヨー角)φr、走行車線中央からの横位置X及び走行車線曲率β、走行車線幅L等を算出する。撮像部37は、算出したこれらヨー角(検出ヨー角)φr、横位置(検出横位置)X及び走行車線曲率β等を制駆動力コントロールユニット32に出力する。
【0013】
また、この車両は、ナビゲーション装置38を搭載している。ナビゲーション装置38は、自車両に発生する前後加速度Yg及び横加速度Xg、並びに自車両に発生するヨーレイトφ´(=dφr/dt)を検出する。ナビゲーション装置38は、検出した前後加速度Yg、横加速度Xg及びヨーレイトφ´を、道路情報とともに、制駆動力コントロールユニット32に出力する。道路情報としては、車線数、一般道路又は高速道路等の道路種別を示す道路種別情報がある。なお、専用のセンサにより各値を検出することもできる。すなわち、加速度センサにより前後加速度Yg及び横加速度Xgを検出することもできる。また、ヨーレイトセンサによりヨーレイトφ´を検出することもできる。
【0014】
また、この車両は、マスタシリンダ23の出力圧、すなわちマスタシリンダ液圧Pm(Pmf)を検出するマスタシリンダ圧センサ41を搭載している。マスタシリンダ圧センサ41は、検出したマスタシリンダ液圧Pmを制駆動力コントロールユニット32に出力する。
また、この車両は、アクセルペダルの踏込み量、すなわちアクセル開度θtを検出するアクセル開度センサ42を搭載している。アクセル開度センサ42は、検出したアクセル開度θtを制駆動力コントロールユニット32及び4WDコントローラ36に出力する。
【0015】
また、この車両は、ステアリングホイール14の操舵角(ステアリング舵角)δを検出する操舵角センサ43を搭載している。操舵角センサ43は、検出値を制駆動力コントロールユニット32に出力する。
また、この車両は、運転者による方向指示器(ターンシグナルスイッチ)の操作を検出する方向指示スイッチ44を搭載している。方向指示スイッチ44は、操作状態(操作信号、方向スイッチ信号)を制駆動力コントロールユニット32に出力する。
【0016】
また、この車両は、各車輪7FL〜7RRの回転速度、いわゆる車輪速度Vwi(i=fl,fr,rl,rr)を検出する車輪速度センサ45FL〜45RRを搭載している。車輪速度センサ45FL〜45RRは、検出した車輪速度Vwiを制駆動力コントロールユニット32、ABSコントローラ33及び4WDコントローラ36に出力する。
また、この車両は、ブレーキペダル21の操作状態を検出するブレーキスイッチ46を搭載している。ブレーキスイッチ46は、操作状態(操作信号)をABSコントローラ33に出力する。
また、この車両は、運転者による駆動モードの選択を可能にするモード切替スイッチ47を搭載している。モード切替スイッチ47は、操作状態(操作信号)を4WDコントローラ36に出力する。
【0017】
ここで、駆動モードとして、2WD固定モード、4WD固定モード及びオートモードがある。4WD固定モードでは、前後作動制限アクチュエータ35がトランスファクラッチ8を締結させることにより、前後輪にエンジン1の出力トルクを伝達して前後輪の両方を駆動輪として駆動させる。2WD駆動モードでは、前後作動制限アクチュエータ35がトランスファクラッチ8を開放させることにより、後輪のみにエンジン1の出力トルクを伝達して後輪を駆動輪として駆動させる。オートモードでは、前後輪回転速度差に応じて前後作動制限アクチュエータ35がトランスファクラッチ8の締結力を制御することにより前後輪駆動力配分制御を行う。前後輪回転速度差に応じた前後輪駆動力配分制御とは、走行路面が低μ路であること等で前後輪回転速度差が大きいとき、従動輪(前輪)に配分するトルクを大きくする制御のことである。これにより、駆動輪(後輪)での駆動スリップを速やかに収束させる。
【0018】
なお、オートモードとして、アクセル開度速度に応じた前後輪駆動力配分制御を行うこともできる。
また、この車両は、制駆動力コントロールユニット32、ABSコントローラ33及び4WDコントローラ36を、CAN(Controllre AreaNetwork)を介して相互に通信可能に接続している。これにより、制駆動力コントロールユニット32、ABSコントローラ33及び4WDコントローラ36は、相互に必要な情報(各種の制御作動状態の情報等)の送受信を行うことができる。
【0019】
(各種制御の処理手順の説明)
次に、ABSコントローラ33による制動制御の処理手順、制駆動力コントロールユニット(車線逸脱防止コントローラ)32による車線逸脱防止制御の処理手順及び4WDコントローラ36による駆動状態制御(4WD制御)の処理手順をそれぞれ説明する。
(ABS制御)
ABSコントローラ33は、車輪速度センサ45FL〜45RR及びブレーキスイッチ46からの出力信号を基に、制動時の車輪速(又は車輪回転数)を検出し、車輪7FL〜7RRの制動ロックを抑える制御を行う。このとき、制動ロックを抑える制御として、減圧・保持・増圧の3モードにより制動液圧を適宜制御する。具体的には、ABSコントローラ33は、車輪速度センサ45FL〜45RRによって検出された車輪速に基づいて車速Vを推定し、推定した車速Vが0より大きく且ついずれかの車輪度が0となった(即ち制動ロックが発生した)場合には当該車輪の制動液圧を減圧し、この状態から制動液圧の減圧によって車輪速が0より大きくなった場合には制動液圧を保持し、制動液圧を保持している時に車輪速が増大した場合には制動液圧を増圧する、いわゆるABS制御を行う。尚、車速Vの推定方法は後述する。
【0020】
(車線逸脱防止制御)
図3は、制駆動力コントロールユニット32で行う演算処理手順を示す。例えば10msec.毎の所定サンプリング時間ΔT毎にタイマ割込によって演算処理を実行する。なお、演算処理によって得た情報を随時記憶装置に更新記憶すると共に、必要な情報を随時記憶装置から読み出す。
図3に示すように、先ずステップS1において、前記各センサ等から各種データを読み込む。具体的には、ナビゲーション装置38が得た前後加速度Yg、横加速度Xg、ヨーレイトφ´及び道路情報を読み込む。また、各センサが検出した、各車輪速度Vwi、操舵角δ、アクセル開度θt、マスタシリンダ液圧Pm及び方向スイッチ信号を読み込む。また、駆動トルクコントロールユニット34から駆動トルクTw、撮像部37からヨー角φr、横位置X、走行車線幅L及び走行車線曲率βを読み込む。
【0021】
続いてステップS2において、車速Vを算出する。具体的には、前記ステップS1で読み込んだ車輪速度Vwiを基に、下記(1)式により車速Vを算出する。
前輪駆動の場合
V=(Vwrl+Vwrr)/2
後輪駆動の場合
V=(Vwfl+Vwfr)/2
・・・(1)
ここで、Vwfl,Vwfrは左右前輪それぞれの車輪速度である。また、Vwrl,Vwrrは左右後輪それぞれの車輪速度である。すなわち、この(1)式では、従動輪の車輪速の平均値として車速Vを算出している。なお、本実施形態では、後輪駆動車両なので、後者の式、すなわち前輪の車輪速度により車速Vを算出する。
【0022】
また、前記車速Vは車線逸脱防止制御として算出しなくとも、例えばABS制御内で上記式に基づいて算出されるものであっても良い。また、ナビゲーション装置38でナビゲーション情報に利用している値を車速Vとして用いることもできる。また、AT軸出力を基に、車速を算出することもできる。この場合、下記(2)式により車速Vを算出する。
V=(2π・R)・W・(60/1000) ・・・(2)
ここで、Rは、車輪半径とデフギアの比(車輪半径/デフギア)である。Wは、AT出力軸回転数(rpm)である。
【0023】
続いてステップS3において、車線逸脱傾向を判定する。図4は、この判定処理の処理手順の一例を示す。また、図5には、この処理で用いる値の定義を示している。
図4に示すように、先ずステップS11において、所定時間T後の車両重心横位置の推定横変位Xsを算出する。具体的には、前記ステップS1で得たヨー角φr、走行車線曲率β及び横位置(検出横位置)X、及び前記ステップS2で得た車速Vを用いて、下記(3)式により推定横変位Xsを算出する。
Xs=Tt・V・(φr+Tt・V・β)+X ・・・(3)
ここで、Ttは前方注視距離算出用の車頭時間である。この車頭時間Ttに自車速Vを乗じると前方注視点距離になる。また、車頭時間Tt後の走行車線中央からの横変位推定値が将来の推定横変位(前方注視点推定横変位)Xsとなる。この(3)式によれば、例えばヨー角φrが大きくなるほど、推定横変位Xsは大きくなる。
【0024】
続いてステップS12において、逸脱判定をする。具体的には、推定横変位Xsと所定の逸脱傾向判定用しきい値XLとを比較する。ここで、逸脱傾向判定用しきい値XLは、一般的に車両が車線逸脱傾向にあると把握できる値である。逸脱傾向判定用しきい値XLは、例えば実験値等である。また、走行路の境界線の位置を示す値として、下記(4)式により逸脱傾向判定用しきい値XLを算出できる。
XL=(L−H)/2 ・・・(4)
ここで、Lは車線幅である(図5参照)。Hは車両の幅であり、予め定められた値である(図5参照)。車線幅Lは、撮像部37が撮像画像に基づいて算出した車線幅である。また、ナビゲーション装置38から車両の位置を得たり、ナビゲーション装置38の地図データから車線幅Lを得たりすることもできる。
【0025】
このステップS12において、推定横変位Xsが逸脱傾向判定用しきい値XL以上の場合(|Xs|≧XL)、車線逸脱傾向ありと判定する。また、推定横変位Xsが逸脱傾向判定用しきい値XL未満の場合(|Xs|<XL)、車線逸脱傾向なしと判定する。
続いてステップS13において、逸脱判断フラグFoutを設定する。すなわち、前記ステップS12において、車線逸脱傾向ありと判定した場合(|Xs|≧XL)、逸脱判断フラグFoutをONにする(Fout=ON)。また、前記ステップS12において、車線逸脱傾向なしと判定した場合(|Xs|<XL)、逸脱判断フラグFoutをOFFにする(Fout=OFF)。
【0026】
このステップS12及びステップS13の処理により、例えば自車両が車線中央から離れていき、推定横変位Xsが逸脱傾向判定用しきい値XL以上になったとき(|Xs|≧XL)、自車両が車線から逸脱傾向に有ると判定して逸脱判断フラグFoutがONになる(Fout=ON)。また、自車両(Fout=ONの状態の自車両)が車線中央側に復帰していき、推定横変位Xsが逸脱傾向判定用しきい値XL未満になったとき(|Xs|<XL)、自車両の車線逸脱傾向が解消したと判定して逸脱判断フラグFoutがOFFになる(Fout=OFF)。例えば、車線逸脱傾向がある場合に、後述する逸脱防止のための制動制御を実施したり、運転者自身が車線逸脱を回避する操作をする等によって車線逸脱傾向が解消すれば、逸脱判断フラグFoutがONからOFFになる。
【0027】
続いてステップS14において、横位置Xを基に逸脱方向Doutを判定する。具体的には、車線中央から左方向に横変位している場合、その方向を逸脱方向Doutにする(Dout=left)。また、車線中央から右方向に横変位している場合、その方向を逸脱方向Doutにする(Dout=right)。
ステップS3では、以上のように車線逸脱傾向を判定する。
続いてステップS4において、運転者の車線変更の意思を判定する。具体的には、前記ステップS1で得た方向スイッチ信号及び操舵角δを基に、次のように運転者の車線変更の意思を判定する。
【0028】
方向スイッチ信号が示す方向(ウインカ点灯側)と、前記ステップS3で得た逸脱方向Doutが示す方向とが同じ場合、運転者が意識的に車線変更していると判定する。そして、逸脱判断フラグFoutをOFFに変更する(Fout=OFF)。すなわち、車線逸脱傾向なしとの判定結果に変更する。また、方向スイッチ信号が示す方向(ウインカ点灯側)と、前記ステップS3で得た逸脱方向Doutが示す方向とが異なる場合、逸脱判断フラグFoutを維持する。この場合、逸脱判断フラグFoutをONのままにする(Fout=ON)。すなわち、車線逸脱傾向ありとの判定結果を維持する。
【0029】
また、方向指示スイッチ44が操作されていない場合には、操舵角δを基に運転者の車線変更の意思を判定する。具体的には、運転者が逸脱方向に操舵している場合において、その操舵角δとその操舵角の変化量(単位時間当たりの変化量)Δδとの両方が設定値以上のときには、運転者が意識的に車線変更していると判定する。そして、逸脱判断フラグFoutをOFFに変更する(Fout=OFF)。なお、操舵トルクを基に運転者の意思を判定することもできる。
このように、逸脱判断フラグFoutがONである場合において運転者が意識的に車線変更していないときには、逸脱判断フラグFoutをONに維持している。
【0030】
続いてステップS5において、前記ステップS4で設定(維持)した逸脱判断フラグFoutがONの場合、車線逸脱回避のための警報として、音出力又は表示出力をする。なお、後述するように、逸脱判断フラグFoutがONの場合、車線逸脱防止制御として自車両へのヨーモーメント付与を開始している。そのため、自車両へのヨーモーメント付与と同時に該警報出力する。しかし、警報の出力タイミングは、これに限定されるものではない。例えば警報の出力タイミングを、自車両へのヨーモーメント付与の開始タイミングよりも早くすることもできる。
【0031】
続いてステップS6において、車線逸脱防止制御として自車両の減速制御を行うか否かを判定する。本実施形態の車線逸脱防止制御では、自車両が車線逸脱してしまうのを防止する目的で、減速制御により自車両を減速させている。このステップS6では、その減速制御を行うか否かを判定する。具体的には、前記ステップS3で算出した推定横変位Xsから横変位限界距離XLを減じて得た減算値(|Xs|−XL)が減速制御判定用しきい値Xβ以上か否かを判定する。
【0032】
ここで、減速制御判定用しきい値Xβは、走行車線曲率βに応じて設定される値である。図6は、走行車線曲率βと減速制御判定用しきい値Xβとの関係の一例を示す。図6に示すように、走行車線曲率βが小さい場合、減速制御判定用しきい値Xβはある一定の大きい値となる。また、走行車線曲率βがある値より大きくなると、走行車線曲率βが増加するのに対して減速制御判定用しきい値Xβは減少する。そして、走行車線曲率βがさらに大きくなると、減速制御判定用しきい値Xβはある一定の小さい値となる。また、車速Vが大きくなるほど、減速制御判定用しきい値Xβを小さくすることもできる。
【0033】
このステップS6では、前記減算値(|Xs|−XL)が減速制御判定用しきい値Xβ以上の場合(|Xs|−XL≧Xβ)、減速制御を行うと決定する。そして、減速制御作動判断フラグFgsをONに設定する(Fgs=ON)。また、前記減算値(|Xs|−XL)が減速制御判定用しきい値Xβ未満の場合(|Xs|−XL<Xβ)、減速制御を行わない決定をする。そして、減速制御作動判断フラグFgsをOFFに設定する(Fgs=OFF)。
【0034】
なお、前記ステップS3において推定横変位Xsが逸脱傾向判定用しきい値XL以上の場合(|Xs|≧XL)、逸脱判断フラグFoutをONに設定している。さらに、このステップS6では、減算値(|Xs|−XL)が減速制御判定用しきい値Xβ以上の場合、減速制御作動判断フラグFgsをONに設定している。これらの関係から、逸脱判断フラグFoutをONに設定するとしても、その設定は、減速制御作動判断フラグFgsをONに設定した後になる。すなわち、後述する逸脱判断フラグFoutがONになった場合に実施する自車両へのヨーモーメント付与との関係では、自車両の減速制御を実施した後、自車両にヨーモーメントを付与するようになる。
【0035】
続いてステップS7において、車線逸脱防止制御として自車両に付与する目標ヨーモーメントMsを算出する。目標ヨーモーメントMsは、自車両が車線逸脱してしまうのを十分に防止できるヨーモーメントである。具体的には、前記ステップS3で得た推定横変位Xsを用いて、下記(5)式により目標ヨーモーメントMsを算出する。
Ms=K1・K2・(|Xs|−XL) ・・・(5)
【0036】
ここで、K1は車両諸元から決まる比例ゲインである。K2は車速Vに応じて変動するゲインである。また、この(5)式において、推定横変位Xsは、車線逸脱防止制御(ヨーモーメント制御)の制御ゲイン(比例ゲイン)をなしている。図7はゲインK2の例を示す。図7に示すように、低速域では、ゲインK2は、ある一定の大きい値となる。また、車速Vがある値よりも大きくなると、車速Vの増加に対してゲインK2は減少する。そして、その後ある車速Vに達すると、ゲインK2は、ある一定の小さい値となる。
【0037】
この(5)式によれば、推定横変位Xs(絶対値)が大きくなるほど推定横変位Xs(絶対値)と横変位限界距離XLとの差分値が大きくなる。そのため、推定横変位Xs(絶対値)が大きくなるほど、目標ヨーモーメントMsは大きくなる。また、逸脱判断フラグFoutがONの場合に目標ヨーモーメントMsを算出する。また、逸脱判断フラグFoutがOFFの場合、目標ヨーモーメントMsを零に設定する。
【0038】
続いてステップS8において、車線逸脱防止制御として実施する減速制御の減速度を算出する。このステップS8では、その減速度を実現するために左右両輪で発生させる制動力を算出する。具体的には、そのような制動力を左右両輪に発生させるための目標制動液圧Pgf,Pgrを算出する。前輪用の目標制動液圧Pgfについては、前記ステップS3で算出した推定横変位Xsを用いて、下記(6)式により算出する。
Pgf=Kgv・Kgx・(|Xs|−XL−Xβ) ・・・(6)
【0039】
ここで、Kgv,Kgxはそれぞれ、車速V及び横変化量dxを基に設定する換算係数である。さらに、Kgv,Kgxはそれぞれ、制動力を制動液圧に換算するための換算係数でもある。図8はその換算係数Kgvの例を示す。図8に示すように、低速域では、換算係数Kgvは、ある一定の小さい値になる。また、車速Vがある値よりも大きくなると、車速Vが増加すると換算係数Kgvも増加する。その後ある車速Vに達すると、換算係数Kgvは、ある一定の大きい値になる。そして、前輪用の目標制動液圧Pgfを基に、前後配分を考慮した後輪用の目標制動液圧Pgrを算出する。
【0040】
この(6)式によれば、推定横変位Xs(絶対値)が大きくなるほど、目標制動液圧は大きくなる。
続いてステップS9において、各車輪の目標制動液圧を算出する。すなわち、車線逸脱防止の制動制御の有無に基づいて最終的な制動液圧を算出する。具体的には次のように算出する。
逸脱判断フラグFoutがOFFの場合、すなわち車線逸脱傾向がないとの判定結果を得た場合、下記(7)式及び(8)式に示すように、各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl,fr,rl,rr)を制動液圧Pmf,Pmrにする。
Psfl=Psfr=Pmf ・・・(7)
Psrl=Psrr=Pmr ・・・(8)
ここで、Pmfは前輪用の制動液圧である。Pmrは後輪用の制動液圧である。このPmrは、前後配分を考慮して前輪用の制動液圧Pmf(Pm)に基づいて算出した値になる。例えば、運転者がブレーキ操作をしていれば、制動液圧Pmf,Pmrはそのブレーキ操作の操作量に応じた値になる。
【0041】
一方、逸脱判断フラグFoutがONの場合、すなわち車線逸脱傾向があるとの判定結果を得た場合、先ず目標ヨーモーメントMsに基づいて、前輪目標制動液圧差ΔPsf及び後輪目標制動液圧差ΔPsrを算出する。具体的には、下記(9)式〜(12)式により目標制動液圧差ΔPsf,ΔPsrを算出する。
|Ms|<Ms1の場合
ΔPsf=0 ・・・(9)
ΔPsr=Kbr・Ms/T ・・・(10)
|Ms|≧Ms1の場合
ΔPsf=Kbf・(Ms/|Ms|)・(|Ms|−Ms1)/T ・・・(11)
ΔPsr=Kbr・(Ms/|Ms|)・Ms1/T ・・・(12)
ここで、Ms1は設定用しきい値を示す。Tはトレッドを示す。なお、トレッドTは、便宜上前後で同じ値にする。また、Kbf,Kbrは、制動力を制動液圧に換算する場合の前輪及び後輪についての換算係数である。このKbf,Kbrは、ブレーキ諸元により定まる。
【0042】
このように、目標ヨーモーメントMsの大きさに応じて車輪に発生させる制動力を配分している。すなわち、目標ヨーモーメントMsが設定用しきい値Ms1未満のときには、前輪目標制動液圧差ΔPsfを零として、後輪目標制動液圧差ΔPsrに所定値を与えて、左右後輪で制動力差を発生させる。また、目標ヨーモーメントMsが設定用しきい値Ms1以上のときには、各目標制動液圧差ΔPsr,ΔPsrに所定値を与え、左右輪で制動力差を発生させる。
【0043】
そして、以上のように算出した目標制動液圧差ΔPsf,ΔPsr及び減速用の目標制動液圧Pgf,Pgrを用いて最終的な各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl,fr,rl,rr)を算出する。具体的には、前記ステップS6で得た減速制御作動判断フラグFgsをも参照して、最終的な各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl,fr,rl,rr)を算出する。
【0044】
すなわち、逸脱判断フラグFoutがON、かつ減速制御作動判断フラグFgsがOFFの場合、つまり、車線逸脱傾向があるとの判定結果を得ているが、車両へのヨーモーメント付与だけを行う場合、下記(13)式により各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl,fr,rl,rr)を算出する。
Psfl=Pmf
Psfr=Pmf+ΔPsf
Psrl=Pmr
Psrr=Pmr+ΔPsr
・・・(13)
【0045】
また、逸脱判断フラグFoutがONであり、かつ減速制御作動判断フラグFgsがONの場合、すなわち車両にヨーモーメントを付与しつつも、車両を減速させる場合、下記(14)式により各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl,fr,rl,rr)を算出する。
Psfl=Pmf+Pgf/2
Psfr=Pmf+ΔPsf+Pgf/2
Psrl=Pmr+Pgr/2
Psrr=Pmr+ΔPsr+Pgr/2
・・・(14)
【0046】
また、この(13)式及び(14)式が示すように、運転者によるブレーキ操作、すなわち制動液圧Pmf,Pmrを考慮して各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl,fr,rl,rr)を算出している。そして、制駆動力コントロールユニット32は、このようにして算出した各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl,fr,rl,rr)を制動流体圧指令値として、制動流体圧制御部31に出力する。
【0047】
なお、前記(13)式、(14)式に示した各車輪の目標制動液圧は、逸脱方向Doutがleftの場合(Dout=left)、すなわち左側車線に対して車線逸脱傾向がある場合のものである。例えば、逸脱方向Doutがrightの場合の、前記(13)式に対応する各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl,fr,rl,rr)を、下記(15)式により算出できる。
Psfl=Pmf+ΔPsf
Psfr=Pmf
Psrl=Pmr+ΔPsr
Psrr=Pmr
・・・(15)
【0048】
(車線逸脱防止制御のキャンセル処理)
図9は、制駆動力コントロールユニット32が行う車線逸脱防止制御のキャンセル処理の処理手順を示す。例えば10msec.毎の所定サンプリング時間ΔT毎にタイマ割込によってキャンセル処理を実行する。
図9に示すように、先ずステップS21において、車線逸脱防止制御のキャンセル要求があったか否かを判定する。具体的には、車線逸脱防止制御の作動中にABSが作動したか否かを判定する。車線逸脱防止制御の作動中にABSが作動した場合、車線逸脱防止制御のキャンセル要求があったものとして、ステップS22に進む。そうでない場合、車線逸脱防止制御のキャンセル要求がないものとして、該図9に示す処理を終了する(前記ステップS21から再び処理を開始する、車線逸脱防止制御を継続する)。
ステップS22では、車線逸脱防止制御の終了処理を行う。例えば、逸脱判断フラグFoutをOFFに設定する。これにより、車線逸脱防止制御による制動力の制御が終了する。
【0049】
(駆動状態制御)
図10は、4WDコントローラ36で行う演算処理手順を示す。例えば10msec.毎の所定サンプリング時間ΔT毎にタイマ割込によって演算処理を実行する。なお、演算処理によって得た情報を随時記憶装置に更新記憶すると共に、必要な情報を随時記憶装置から読み出す。
図10に示すように、先ずステップS31において、前記各センサから各種データを読み込む。具体的には、モード切替スイッチ47の操作状態(操作信号)及び車輪速度センサ45FL〜45RRが得た各車輪速度Vwiを読み込む。
【0050】
ステップS32では、モード切替スイッチ47の操作状態(操作信号)から2WD固定モードを運転者が選択しているか否かを判定する。2WD固定モードを運転者が選択している場合、ステップS33に進む。また、2WD固定モードを運転者が選択していない場合、ステップS34に進む。
ステップS34では、モード切替スイッチ47の操作状態(操作信号)から4WD固定モードを運転者が選択しているか否かを判定する。4WD固定モードを運転者が選択している場合、ステップS35に進む。また、4WD固定モードを運転者が選択していない場合、ステップS40に進む。
【0051】
ステップS33では、前後差動制限アクチュエータ35を制御して、トランスファクラッチ8を解放する。また、ステップS35では、前後差動制限アクチュエータ35を制御して、トランスファクラッチ8を締結する。そして、解放又は締結をした後、該図10に示す処理を終了する。
ステップS40では、オートモード(4WD制御)を実行する。
図11は、オートモード時の処理手順を示す。図11に示すように、先ずステップS41において、スリップしているか否かを判定する。具体的には、車輪速度を基に、前後輪に車輪速差が発生しているか否かを判定する。例えば、前後輪の車輪速差が所定値以上の場合、スリップしていると判定する。スリップしていると判定した場合、ステップS42に進む。そうでない場合、該図11に示す処理を終了する(ステップS41の処理を繰り返す)。
【0052】
ステップS42では、4WD制御の目標トルクTr_4WDを算出する。4WD制御の目標トルクTr_4WDは、2WD状態での従動輪への配分トルクとなる。本施形態では、2WD状態での駆動輪を後輪7RL,7RR、従動輪を前輪7FL,7FRとする。よって、本実施形態では、前輪7FL,7FRへの配分トルクとして目標トルクTr_4WDを算出する。
【0053】
具体的には、前後輪の車輪速差が大きいほど目標トルクTr_4WDを大きくする。このとき、後輪7RL,7RRの駆動力と等しいトルクを目標トルクTr_4WDの最大値とする。
そして、算出した目標トルクTr_4WDが0よりも大きい場合(Tr_4WD>0)、4WD制御フラグACTIVE_4WDを1に設定する。すなわち、オートモードにより目標トルクTr_4WDで従動輪を駆動する場合、つまり4WD状態にして4WD制御をする場合、4WD制御フラグACTIVE_4WDを1に設定する。
【0054】
なお、前後輪の車輪速差に所定の係数を乗算する等の演算により目標トルク値Tr_4WDを算出することもできる。また、予め前後輪の車輪速差と目標トルク値Tr_4WDとの相関関係を表わしたマップを参照し、実測の前後輪の車輪速差に対応する目標トルク値Tr_4WDを得ることもできる。
続いてステップS43において、トルク配分制御を行う。具体的には、前記ステップS42で算出した目標トルク値Tr_4WDに応じたクラッチ締結力指令(4WD締結トルク指令値)を前後差動制限アクチュエータ35に出力する。そして、該図11に示す処理を終了する。
以上の処理の結果、スリップが発生した場合、前輪7FL,7FRには目標トルク値Tr_4WD、すなわち前後輪の車輪速差に応じたトルクが発生する。
【0055】
(駆動状態制御のキャンセル処理)
図12は、4WDコントローラ36が行う駆動状態制御(特にオートモード時、4WD制御時)のキャンセル処理の処理手順を示す。例えば10msec.毎の所定サンプリング時間ΔT毎にタイマ割込によってキャンセル処理を実行する。
図12に示すように、先ずステップS51において、車線逸脱防止制御が作動中(Fout=ON)、かつ4WD制御が作動中(ACTIVE_4WD=1)か否かを判定する。車線逸脱防止制御が作動中(Fout=ON)、かつ4WD制御が作動中(ACTIVE_4WD=1)の場合、ステップS52に進む。また、そうでない場合、例えば車線逸脱防止制御が作動していない場合(Fout=OFF)、ステップS52をスキップしてステップS53に進む。
【0056】
ステップS52では、制御状態フラグFstを1に設定する。制御状態フラグFstは、初期設定で0になっている。
続いてステップS53において、4WD制御のキャンセル要求があったか否かを判定する。具体的には、4WD制御中にABSが作動したか否かを判定する。4WD制御中にABSが作動した場合、4WD制御のキャンセル要求があったものとして、ステップS54に進む。そうでない場合、4WD制御のキャンセル要求がないものとして、該図12に示す処理を終了する(前記ステップS51から再び処理を開始する)。
【0057】
例えば、キャンセル要求があった場合、4WD制御キャンセルフラグFcancelを1に設定する。
ステップS54では、制御状態フラグFstが1か否かを判定する。制御状態フラグFstが1の場合、ステップS55に進む。また、そうでない場合(Fst=0)、ステップS55をスキップしてステップS56に進む。
【0058】
ステップS55では、終了遅延処理を行う。すなわち、4WD制御の終了に遅延を入れる。具体的には、キャンセル要求があった時点(ABSの作動時点)から制御キャンセル遅延時間Tm経過後に、4WD制御キャンセルフラグFcancelを1に設定する。
ステップS56では、4WD制御の終了処理(4WD解除処理)を行う。具体的には、前記ステップS53でキャンセル要求があり4WD制御キャンセルフラグFcancelを1に設定したタイミングで、下記(16)式により目標トルクTr_4WDを減少させる処理を開始する。
Tr_4WD=Tr_4WD−ΔTr_4WD ・・・(16)
【0059】
ここで、ΔTr_4WDは、制御終了勾配である。この(16)式によれば、目標トルクTr_4WDから該図12の処理回数に応じて制御終了勾配ΔTr_4WDが減算されていき、最終的に目標トルクTr_4WDが零になる(完全な2WD状態になる)。
ここで、前記ステップS55が実施された場合、すなわち、車線逸脱防止制御が作動中、かつ4WD制御が作動中であった場合、キャンセル要求時点から制御キャンセル遅延時間Tm経過後に、4WD制御キャンセルフラグFcancelを1に設定している。この場合、駆動状態制御の終了処理では、制御キャンセル遅延時間Tm経過後に、前記(16)式により目標トルクTr_4WDを減少させる処理を開始することになる。この結果、制御キャンセル遅延時間Tm経過後に、目標トルクTr_4WDから該図12に示す処理回数に応じて制御終了勾配ΔTr_4WDが減算されていき、最終的に目標トルクTr_4WDが零になる(完全な2WD状態になる)。
【0060】
(動作)
(車線逸脱防止制御の動作)
車線逸脱防止制御では、各種データを読み込むとともに(前記ステップS1)、車速Vを算出する(前記ステップS2)。続いて、車線逸脱傾向を判定する(前記ステップS3)。すなわち、ヨー角φr等を基に推定横変位Xsを算出し、算出した推定横変位Xsを基に、逸脱判断フラグFoutを設定(車線逸脱傾向を判定)する。そして、運転者の車線変更の意思に応じて、その判定結果を変更する(前記ステップS4)。また、推定横変位Xsを基に、減速制御作動判断フラグFgを設定(減速制御判定を判定)する(前記ステップS6)。そして、先に算出している推定横位置Xsを基に、目標ヨーモーメントMsを算出する(前記ステップS7)。さらに、先に算出している推定横位置Xsを基に、減速制御の減速度を算出する(前記ステップS8)。
【0061】
そして、逸脱判断フラグFoutを基に、警報出力する(前記ステップS5)。さらに、逸脱判断フラグFout及び減速制御作動判断フラグFgsを基に、各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl,fr,rl,rr)を算出する(前記ステップS9)。そして、算出した各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl,fr,rl,rr)を制動流体圧制御部31に出力する(前記ステップS9)。これにより、自車両の車線逸脱傾向に応じて、警報出力し、自車両にヨーモーメントを付与する。さらに、場合により、自車両を減速させる。
【0062】
(車線逸脱防止制御の終了動作)
車線逸脱防止制御の作動中に車線逸脱防止制御のキャンセル要求があった場合、具体的には車線逸脱防止制御の作動中にABSが作動した場合、車線逸脱防止制御を終了する(前記図9)。例えば、終了処理で逸脱判断フラグFoutをOFFに設定することで、車線逸脱防止制御による制動力の制御が終了する(制動力を発生させるのを止める)。
(駆動状態制御の動作)
駆動状態制御では、各種データを読み込み、モード切替スイッチ47の操作状態(操作信号)に応じて2WD固定モード、4WD固定モード及びオートモード(4WD制御)を実行する(前記図10)。オートモードでは、スリップしたときに、4WD制御の目標トルクTr_4WDを算出し、前輪7FL,7FRに目標トルク値Tr_4WDに応じたトルクを発生させる(前記図11)。
【0063】
(駆動状態制御(4WD制御)の終了動作)
駆動状態制御による4WD制御の作動中(ACTIVE_4WD=1)に車線逸脱防止制御も作動している場合、制御状態フラグFstを1に設定する(前記ステップS51、ステップS52)。そして、4WD制御のキャンセル要求があった場合、具体的には車線逸脱防止制御の場合と同様に4WD制御の作動中にABSが作動した場合(前記ステップS53)、4WD制御を終了する(前記ステップS56)。
【0064】
このとき、制御状態フラグFstが1でなければ(Fst=0)、すなわち車線逸脱防止制御が作動していなければ(Fout=OFF)、ABSの作動時点(4WD制御キャンセルフラグFcancelを1に設定した時点)で、目標トルクTr_4WDを減少させる処理を開始する(前記ステップS54→ステップS56)。
また、制御状態フラグFstが1であれば、終了遅延処理として、ABSの作動時点(キャンセル要求時点)から制御キャンセル遅延時間Tm経過後に4WD制御キャンセルフラグFcancelを1に設定する。これにより、ABSの作動時点から制御キャンセル遅延時間Tm経過後に目標トルクTr_4WDを減少させる処理を開始する(前記ステップS54→ステップS55→ステップS56)。
【0065】
これにより、車線逸脱防止制御及び駆動状態制御による4WD制御がともに作動している場合における車線逸脱防止制御の終了との関係は、ABSの作動時点で車線逸脱防止制御が終了し、その後、ABSの作動時点から制御キャンセル遅延時間Tm経過後に4WD制御が終了する(目標トルクTr_4WDが減少する、又は2WDに移行する)。
図13は、ABSの作動により車線逸脱防止制御及び4WD制御が同時に終了するときの目標ヨーモーメント、4WD締結トルク(目標トルクTr_4WD相当)及び自車両に発生している実ヨーモーメントの関係を、時間経過上で示す(本実施形態との比較例)。
【0066】
図13に示すように、車線逸脱防止制御が作動すると、目標ヨーモーメントに応じた実ヨーモーメントが自車両に発生する(期間T1)。例えば、車両が旋回中に車線逸脱防止制御が作動し、その旋回方向とは逆方向(アンダー方向)に実ヨーモーメントが発生する。
その後、前後輪の車輪速差が発生して駆動状態制御により4WD制御が作動する(期間T2(前半))。例えば、車線逸脱防止制御が作動したことで前後輪に車輪速差が発生したために、車線逸脱防止制御の作動中に駆動状態制御が介入して4WD制御が作動する。このように車線逸脱防止制御の作動中に4WD状態になると、実ヨーモーメントは収束するようになる。
【0067】
そして、そのように車線逸脱防止制御と4WD制御とがともに作動しているときに、ABSが作動すると、車線逸脱防止制御及び4WD制御の両方を同時に終了する(期間T2(後半))。
これにより、車線逸脱防止制御と4WD状態であることで収束していた実ヨーモーメントが発散する(期間T3)。例えば、車両が旋回中に車線逸脱防止制御が作動してその旋回方向とは逆方向(アンダー方向)に実ヨーモーメントが発生していた場合には、オーバー方向に実ヨーモーメントが発散する。
【0068】
このような実ヨーモーメントの発散は、次のような原因によるものと考えられる。
2WD状態であるときでも、車線逸脱防止制御をキャンセルすると、実ヨーモーメントは発散方向に多少変化する。しかし、図13の結果では、4WD制御のキャンセルがあり、しかもその4WD制御のキャンセルが車線逸脱防止制御のキャンセルと同時であるために、ヨーモーメントが大きく発散してしまったと考えられる。このようにヨーモーメントが発散してしまうと、車両挙動が変動してしまう。このような場合、制御終了後に運転者による修正舵が必要になり、制御終了後の運転者の負担が大きくなる。
【0069】
これに対して、図14に示すように、本実施形態では、ABSの作動時点(キャンセル要求時点)から所定時間(制御キャンセル遅延時間Tm)経過後に、4WD制御を終了させている。すなわち、所定時間(制御キャンセル遅延時間Tm)経過後に、目標トルクTr_4WDを減少させる処理を開始している。
図15は、ABSの作動時点から所定時間経過後に4WD制御を終了させたときの目標ヨーモーメント、4WD締結トルク(目標トルクTr_4WD相当)及び自車両に発生している実ヨーモーメントの関係を、時間経過上で示す。
【0070】
図15に示すように、車線逸脱防止制御と4WD制御とがともに作動しているときに、ABSが作動すると、車線逸脱防止制御が終了し、その後、所定時間経過後に4WD制御が終了する(目標トルクTr_4WDを減少させる処理を開始する)。
この結果、前記図13に見られた実ヨーモーメントの発散(図13の期間T3の実ヨーモーメント)を抑制できる。この図15に示す結果では、実ヨーモーメントの発散がほぼ半減している(期間T3)。
このように制御終了時の車両挙動の変動を抑制できる結果、制御終了後に運転者による修正舵も必要なくなり、制御終了後に運転者の負担を与えてしまうのを防止できる。
【0071】
(本実施形態の変形例)
(1)車線逸脱防止制御では、駆動力制御(左右輪に駆動力差を発生させる等)によりヨーモーメントを発生させることもできる。
(2)この実施形態では、車線逸脱防止制御及び駆動状態制御(4WD制御)の終了処理をABSの作動タイミングで行うことを前提としている。これに対して、他の要件、例えば運転者の操舵介入、制駆動力の操作介入のタイミングで終了処理を行うこともできる。また、車線逸脱防止制御の終了処理と駆動状態制御の終了処理とを異なる要件で実行することもできる。
【0072】
(3)この実施形態では、4WDコントローラ36(図12の処理)が車線逸脱防止制御及び4WD制御の同時終了を禁止する処理を行っている。これに対して、制駆動力コントロールユニット(車線逸脱防止コントローラ)32や他の演算処理部(ECU,ElectronicControl Unit等)が車線逸脱防止制御及び4WD制御の同時終了を禁止する処理を行うこともできる。
【0073】
(4)この実施形態では、終了遅延処理の実施の有無にかかわらず、一律で制御終了勾配ΔTr_4WDを用いている。これに対して、終了遅延処理を実施した場合には、制御終了勾配ΔTr_4WDよりも大きい第2制御終了勾配ΔTr_4WD2を用いることもできる。すなわち、ABSの作動時点から制御キャンセル遅延時間Tm経過後に目標トルクTr_4WDを第2制御終了勾配ΔTr_4WD2で減少させていく。
【0074】
(5)この実施形態では、2WD状態では後輪を駆動している。これに対して、2WD状態で前輪を駆動させることもできる。
なお、この実施形態では、制駆動力コントロールユニット(車線逸脱防止コントローラ)32は、制駆動力を制御して自車両にヨーモーメントを付与し走行車線に対する自車両の逸脱を防止する車線逸脱防止制御を行い、その逸脱防止制御の作動終了時には前記制駆動力の制御を終了する車線逸脱防止制御手段を実現している。また、4WDコントローラ36は、前後輪の駆動トルクを制御する四輪駆動制御を行い、その四輪駆動制御の作動終了時には前輪又は後輪のいずれか一方が駆動トルクを発生する二輪駆動にする四輪駆動制御手段を実現している。また、4WDコントローラ36(図12の処理)は、前記車線逸脱防止制御手段が前記車線逸脱防止制御の作動を終了させ、かつ前記四輪駆動制御手段が前記四輪駆動制御の作動を終了させるときには、それら終了が同時になされることを禁止する同時終了禁止手段を実現している。
【0075】
また、この実施形態では、制駆動力を制御して自車両にヨーモーメントを付与し走行車線に対する自車両の逸脱を防止する車線逸脱防止制御が作動し、前後輪の両方が駆動トルクを発生する四輪駆動状態になっているときに、前記車線逸脱防止制御による前記制駆動力の制御の終了と、前記四輪駆動状態から前輪又は後輪のいずれか一方が駆動トルクを発生する二輪輪駆動状態への移行とが同時になされることを禁止する車両用走行制御方法を実現している。
【0076】
(本実施形態における効果)
(1)制駆動力コントロールユニット(車線逸脱防止コントローラ)32は、制駆動力を制御して自車両にヨーモーメントを付与し走行車線に対する自車両の逸脱を防止する車線逸脱防止制御を行い、その逸脱防止制御の作動終了時には制駆動力の制御を終了している。また、4WDコントローラ36は、前後輪の駆動トルクを制御する4WD制御を行い、その4WD制御の作動終了時には前輪又は後輪の左右輪が駆動トルクを発生する2WDにする。そして、4WDコントローラ36(同時終了禁止手段としての機能)は、車線逸脱防止制御の作動が終了し、かつ4WDの作動が終了するときには、それら終了が同時になされることを禁止している(前記図12)。
このように車線逸脱防止制御の作動の終了と4WD制御の作動の終了とを同時に行うことを禁止することで、それら制御の同時終了による車両挙動の変動を抑制できる。この結果、制御終了後に運転者による修正舵も必要なくなり、制御終了後に運転者に負担を与えてしまうのを防止できる。
【0077】
(2)4WDコントローラ36(同時終了禁止手段としての機能)は、車線逸脱防止制御の作動を終了させた後に、4WD制御を終了させる。
これにより、制御の同時終了による車両挙動の変動を適切に抑制できる。
(3)4WDコントローラ36は、4WD制御の作動終了時には、2WDにするために駆動トルクの発生を終了させる前輪又は後輪の該駆動トルクの減少割合を所定値(ΔTr_4WD)以下にする。この実施形態では、制御終了勾配ΔTr_4WDや第2制御終了勾配ΔTr_4WD2をこの所定値以下にしている。
これにより、4WD制御の作動終了の際に4WD状態から2WD状態に緩やかに移行させることができる。この結果、4WD制御の作動終了そのものによる車両挙動による変動を抑制でき、これにより、制御の同時終了による車両挙動の変動を適切に抑制できる。
【符号の説明】
【0078】
32 制駆動力コントロールユニット、33 ABSコントローラ、36 4WDコントローラ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
制駆動力を制御して自車両にヨーモーメントを付与し走行車線に対する自車両の逸脱を防止する車線逸脱防止制御を行い、その逸脱防止制御の作動終了時には前記制駆動力の制御を終了する車線逸脱防止制御手段と、
前後輪の駆動トルクを制御する四輪駆動制御を行い、その四輪駆動制御の作動終了時には前輪又は後輪のいずれか一方が駆動トルクを発生する二輪駆動にする四輪駆動制御手段と、
前記車線逸脱防止制御手段が前記車線逸脱防止制御の作動を終了させ、かつ前記四輪駆動制御手段が前記四輪駆動制御の作動を終了させるときには、それら終了が同時になされることを禁止する同時終了禁止手段と、
を備えることを特徴とする車両用走行制御装置。
【請求項2】
前記同時終了禁止手段は、前記車線逸脱防止制御の作動を終了させた後に、前記四輪駆動制御を終了させることを特徴とする請求項1に記載の車両用走行制御装置。
【請求項3】
前記四輪駆動制御手段は、前記四輪駆動制御の作動終了時には、前記二輪駆動にするために駆動トルクの発生を終了させる前輪又は後輪の該駆動トルクの減少割合を所定値以下にすることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用走行制御装置。
【請求項4】
制駆動力を制御して自車両にヨーモーメントを付与し走行車線に対する自車両の逸脱を防止する車線逸脱防止制御が作動し、前後輪が駆動トルクを発生する四輪駆動状態になっているときに、前記車線逸脱防止制御による前記制駆動力の制御の終了と、前記四輪駆動状態から前輪又は後輪のいずれか一方が駆動トルクを発生する二輪輪駆動状態への移行とが同時になされることを禁止することを特徴とする車両用走行制御方法。
【請求項1】
制駆動力を制御して自車両にヨーモーメントを付与し走行車線に対する自車両の逸脱を防止する車線逸脱防止制御を行い、その逸脱防止制御の作動終了時には前記制駆動力の制御を終了する車線逸脱防止制御手段と、
前後輪の駆動トルクを制御する四輪駆動制御を行い、その四輪駆動制御の作動終了時には前輪又は後輪のいずれか一方が駆動トルクを発生する二輪駆動にする四輪駆動制御手段と、
前記車線逸脱防止制御手段が前記車線逸脱防止制御の作動を終了させ、かつ前記四輪駆動制御手段が前記四輪駆動制御の作動を終了させるときには、それら終了が同時になされることを禁止する同時終了禁止手段と、
を備えることを特徴とする車両用走行制御装置。
【請求項2】
前記同時終了禁止手段は、前記車線逸脱防止制御の作動を終了させた後に、前記四輪駆動制御を終了させることを特徴とする請求項1に記載の車両用走行制御装置。
【請求項3】
前記四輪駆動制御手段は、前記四輪駆動制御の作動終了時には、前記二輪駆動にするために駆動トルクの発生を終了させる前輪又は後輪の該駆動トルクの減少割合を所定値以下にすることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用走行制御装置。
【請求項4】
制駆動力を制御して自車両にヨーモーメントを付与し走行車線に対する自車両の逸脱を防止する車線逸脱防止制御が作動し、前後輪が駆動トルクを発生する四輪駆動状態になっているときに、前記車線逸脱防止制御による前記制駆動力の制御の終了と、前記四輪駆動状態から前輪又は後輪のいずれか一方が駆動トルクを発生する二輪輪駆動状態への移行とが同時になされることを禁止することを特徴とする車両用走行制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
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【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2010−188853(P2010−188853A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−35002(P2009−35002)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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