説明

較正用治具、較正方法、及び該方法を用いたレーザ加工装置

【課題】対象物までの距離測定における直線性の較正を高精度に行う。
【解決手段】予め設定された加工対象領域までの距離を変位センサから得られる変位量に基づいてレーザ光の焦点深度を調整して倣い制御を行いながらレーザ加工を行うレーザ加工装置に使用される前記変位センサの較正用治具において、前記変位センサから出射される計測用レーザ光の照射面は、水平面に対して所定の角度に傾斜するように形成される傾斜部と、前記レーザ加工装置における加工対象物を保持するために設けられたステージ上に載置するための水平な底部とを有し、前記傾斜部の表面は、光学ガラスで形成されていることにより、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、較正用治具、較正方法、及び該方法を用いたレーザ加工装置に係り、特に対象物までの距離測定における直線性の較正を高精度に行うための較正用治具、較正方法、及び該方法を用いたレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生産自動化工程や、精密計測等においては、各種の被測定対象部の平面上の長さや距離を非接触で工学的に測定する方法と、そのための装置が採用されてきている。例えば、レーザ加工装置においては、加工対象物に対してレーザ光を照射してアニール処理や溶接、穴あけ処理等を行う場合、焦点の位置が加工精度に大きな影響を及ぼす。そのため、加工に用いられるレーザ光の焦点は、加工対象物の所定の位置にするように調整する必要がある。
【0003】
また、位置の調整には、通常変位センサ等の高さ検出装置を設け、対象物までの距離を測定し、所定の位置に焦点が合うように倣い制御を行いながら、対象物への加工を行っている。また、変位センサの精度を維持するため、定期的又は所定のタイミングにより測定の較正を行っている。
【0004】
ここで、従来における変位センサを用いた較正方法の概要について図を用いて説明する。図1は、従来における変位センサの較正方法の一例を示す図である。なお、図1(a)は斜視図を示し、図1(b)は側面図を示している。
【0005】
ここで、図1に示す概略構成では、ステージ11と、ステージ11上に載置される2枚の6inch基板12−1,12−2と、変位センサ13を有している。このとき、基板12−1は土台用の基板とし、基板12−2は基板12−1に所定の傾斜を持たせてその上を変位センサ13により測定させるための測定用の所定の傾斜を有する基板とする。
【0006】
具体的には、図1(b)に示すように、基板12−1を基板12−2の下に敷くことにより、約0.5mm〜1.0mmの高さの傾斜(水平から約1〜5度)を持たせたまま、ステージ11を走査させることで、変位センサの計測する高さを変えて計測を行い、実際の傾きによる位置と、計測値とにより変位センサの較正を行う。
【0007】
また、上述した手法以外にも変位センサを較正するための技術が提案されている(例えば、特許文献1,2等参照。)。更に、較正用の治具についても提案されている(例えば、特許文献3等参照。)。
【0008】
ここで、特許文献1に示されている手法は、ノズルと較正点P2の接触信号がタイマの設定時間内にあった場合は、ノズルを一定距離毎に上昇させ、変位センサの出力を測定し較正を行う。また、リトライ回数がリトライカウンタの設定数を超える場合は、変位センサの較正を停止することで、ノズルの変形等の不具合の発生を防止するものである。
【0009】
また、特許文献2に示されている手法は、距離が既知の幾つかの対象物に対して光ビームを照射した時に受光器から出力される信号を獲得する工程と、既知の距離及び獲得した信号からの内挿により受光器の出力信号を変数とした対象物までの距離の関数を求める工程と、関数に基づいて受光器からの受光位置に応じた全ての信号を対象物までの距離に変換する変換対応表を作成する工程とを有している。
【0010】
更に、特許文献3に示されている手法は、平面部とその脚部とを備え、被測定対象部平面上に配置され、その画像上の座標値と治具の既知寸法とから被測定対象部平面の三次元の傾きを求めることができる。
【特許文献1】特開平7−136786号公報
【特許文献2】特開平9−79844号公報
【特許文献3】特開平7−294216号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述した変位センサの較正方法は、基板の厚みがステージ11の走査位置に対して線形であると仮定しているものであるが、実際は、基板の撓みや表面の凹凸等がデータに判定されてしまうため、高精度な較正を行うことができなかった。
【0012】
また、特許文献1に示されている手法は、ノズルの変形を防止して変位センサの較正を行う手法であり、特許文献2に示されている手法は、絶対的な距離を基準に較正する手法であるが、何れにおいても相対値を用いた変位センサの計測の直線性の較正を高精度に行うことができない。また、特許文献3に示されている治具は、平面上での距離を計測することはできるが、平面上の距離の測定における直線性を較正することができない。
【0013】
つまり、従来における変位センサの計測結果では、線形に被計測物の高さを変えても実際は波形の計測結果を示し、この波形の近似直線上は線形性を示すが、実際にデータ1つ1つの差分だけを見た場合は厳密にいえば線形ではない。また、この波形が直線から乖離する量が大きければ大きいほど、加工不良(例えば、フォーカスがずれる等)の確率が高くなってしまう。したがって、この直線性を較正して、その線形からの乖離が実際の計測、加工に使える範囲の値であるかを測定する手法はなかった。
【0014】
本発明は、上述した問題点に鑑みなされたものであり、対象物までの距離測定における直線性の較正を高精度に行うための較正用治具、較正方法、及び該方法を用いたレーザ加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述の目的を達成するために、本発明は、予め設定された加工対象領域までの距離を変位センサから得られる変位量に基づいてレーザ光の焦点深度を調整して倣い制御を行いながらレーザ加工を行うレーザ加工装置に使用される前記変位センサの較正用治具において、前記変位センサから出射される計測用レーザ光の照射面は、水平面に対して所定の角度に傾斜するように形成される傾斜部と、前記レーザ加工装置における加工対象物を保持するために設けられたステージ上に載置するための水平な底部とを有し、前記傾斜部の表面は、光学ガラスで形成されていることを特徴とするこれにより、光学ガラスを用いることで表面精度が良く、対象物までの距離測定における直線性の較正を高精度に行うことができる。
【0016】
更に、前記較正用治具全体は、透明体からなることが好ましい。これにより、面精度が良く歪みが生じないため、高精度な変位センサの較正を行うことができる。また、実際にレーザ加工装置により加工される加工対象物の材質と同じにすることで、変位センサの対象物までの距離測定における直線性の較正を高精度に行うことができる。
【0017】
更に、前記傾斜部は、前記所定の角度を0度より大きく45度より小さい角度に設定することが好ましい。これにより、変位センサからの対象物までの距離を変えて位置の測定を行い易くすることができるため、変位センサの対象物までの距離測定における直線性の較正を高精度に行うことができる。
【0018】
また、本発明は、前記較正用治具によりレーザ加工装置に設けられた変位センサの較正を行うための前記較正用治具を用いた較正方法において、加工対象物を保持するためのステージに前記較正用治具を載置し保持する治具保持ステップと、前記較正用治具が保持されたステージを、前記較正用治具の傾斜部が前記変位センサの下方を所定速度で通過させるために、前記ステージの駆動を行うステージ駆動ステップと、前記ステージ駆動ステップにより、通過している前記較正用治具の傾斜部の変位を相対的に計測する計測ステップと、前記計測ステップにより計測された結果に基づいて、前記変位センサの較正を行う較正ステップとを有することを特徴とする。これにより、変位センサの対象物までの距離測定における直線性の較正を高精度に行うことができる。
【0019】
また、本発明は、前記較正方法により較正された前記変位センサにより計測される加工対象物までの距離情報に基づいて前記加工対象物に照射するレーザ光の焦点深度を調整して倣い制御を行いながら加工を行うレーザ加工装置において、前記レーザ光の焦点深度を調整する光学系ユニットを、前記レーザ光の光軸方向に移動させる光学系ユニット駆動手段と、前記加工対象物を保持したステージを、前記光軸方向に対して垂直方向に移動させるステージ駆動手段と、前記加工対象物の加工位置の変位を計測する前記変位センサと、前記変位センサにより得られる計測結果に基づいて、前記光学系ユニット駆動手段により前記光学系ユニットを所定位置に調整させるための制御手段とを有することを特徴とする。これにより、変位センサの直線性における較正を高精度に行うことができる。したがって、所定の焦点深度を維持することができ、高精度なレーザ加工を実現することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、対象物までの距離測定における直線性の較正を高精度に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、上述したような特徴を有する本発明における較正用治具、較正方法、及び該方法を用いたレーザ加工装置を好適に実施した形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0022】
<レーザ加工装置>
ここで、本発明におけるレーザ加工装置の機能構成例について、図を用いて説明する。図2は、本発明に適用されるレーザ加工装置の一構成例を示す図である。図1に示すレーザ加工装置20は、レーザ発振器21と、光学系ユニット駆動手段22と、光学系ユニット23と、位置計測手段としての変位センサ24と、ステージ駆動手段25と、ステージ26と、制御手段27、蓄積手段28とを有するよう構成されている。
【0023】
レーザ発振器21は、制御手段27から得られる制御信号に基づいて、所定のタイミングで所定の強さのパルスレーザ光を出射する。ここで、本実施形態におけるレーザ光は、例えばCOレーザやエキシマレーザ、YAGレーザ等を用いることができるが、本発明におけるレーザ光の種類についてはこれに限定されるものではなく、加工対象物31の材質や厚み、どのような加工(アニール、穴あけ等)を行うか等の各種加工条件等により任意に選択することができる。
【0024】
光学系ユニット駆動手段22は、ステージ駆動手段25から得られるステージ26の位置の情報及び制御手段27から得られる制御信号に基づいて、光学系ユニット23−1,23−2を通過するレーザ光を所定の位置で集光させるため、光学系ユニット23−1,23−2のそれぞれの位置を光軸方向(Z軸方向)に移動させる。
【0025】
つまり、光学系ユニット駆動手段22は、例えば制御手段27から加工開始の制御信号を取得すると、その後はステージ駆動手段25から随時得られるステージ26の位置の情報に基づいて、光学系ユニット23−1,23−2のそれぞれの駆動を行う。なお、光学系ユニット駆動手段22は、ステージ26の位置の情報に基づいて光学系ユニット23−1,23−2を駆動するために必要な情報を蓄積するための蓄積手段を有していても良く、これにより、光学系ユニット23−1,23−2の迅速な駆動が実現できる。
【0026】
なお、光学系ユニット駆動手段22は、光学系ユニット23−1,23−2内に複数の光学系レンズが存在する場合、それらのレンズのうちから選択される少なくとも1つのレンズについて、位置を移動させることもできる。
【0027】
光学系ユニット23−1,23−2は、光学系ユニット駆動手段22により所定の位置に位置付けられ、光学系ユニット23−1,23−2を通過するレーザ光を所定の位置で集光させる。具体的には、光学系ユニット23−1,23−2のそれぞれは、fθレンズや集光レンズ等の光学系レンズを少なくとも1つ有しており、レーザ発振器21からのレーザ光を集光(フォーカス)し、ガラス基板や樹脂基板等の加工対象物31の照射面に対して所定の結像を行う。なお、光学系ユニット23の数については、本発明においてはこれに限定されるものではない。
【0028】
変位センサ24は、加工対象物31の照射面の位置を計測する位置計測手段である。具体的には、変位センサ24は、例えば加工対象物31の表面の高さ、つまりある予め設定された基準となる表面位置からの変位量を計測したり、変位センサ24の所定の位置から加工対象物31の表面までの距離を計測することで、加工対象物31の表面の位置を計測する。また、変位センサ24は、取得した計測結果を制御手段27に出力する。つまり、変位センサ24は、倣い制御によるレーザ加工を行うために光学系ユニット23が所定の位置(原点等)に正しく位置付けられているかを確認する。
【0029】
ここで、変位センサ24は、予め設定された加工対象物31の加工対象領域を加工するためにステージ26が移動する方向に対して、レーザ光が照射される前に加工対象物31の照射面の位置を計測する必要がある。したがって、加工時に移動するラインの先方に設けることが好ましい。
【0030】
ステージ駆動手段25は、制御手段27から得られる制御信号に基づいて、ステージ26を図2に示すレーザ光の光軸に対して垂直方向(X,Y軸方向)へ移動させることで、ステージ26に保持された加工対象物31を所定の位置に移動させる。したがって、例えばレーザ光の照射中に所定の方向(ライン)へ所定の速度で移動させることにより、加工対象物31の加工面にアニール処理等のレーザ加工を行うことができる。また、ステージ駆動手段25は、移動させたステージ26の位置情報を光学系ユニット駆動手段22に出力する。
【0031】
ステージ26は、加工対象物31を例えば真空吸着等により保持し、ステージ駆動手段25により所定の位置に移動する。制御手段27は、レーザ発振器21、光学系ユニット駆動手段22、ステージ駆動手段25における駆動の制御を行う。具体的には、制御手段27は、変位センサ24から得られる計測結果に基づいて光学系ユニット駆動手段22の光軸(Z軸)方向の調整を行い、光学系ユニット23−1,23−2による加工対象物31への焦点合わせを行う。また、制御手段27は、レーザ発振器21におけるレーザ光の出射タイミングや加工時におけるステージ26を駆動させるためのステージ駆動手段25の駆動タイミングの制御を行う。
【0032】
また、制御手段27は、変位センサ24から得られる計測結果に基づいて、光学系ユニット駆動手段22により光学系ユニット23を所定の位置(原点等)に調整(原点復帰)させることで、より高精度な倣い制御を実現することができる。なお、変位センサ24による計測は、レーザ加工毎に行う必要はなく、例えば一定の周期やメンテナンス時、又は装置の運転準備中等に行う程度で良い。
【0033】
また、制御手段27は、予め設定された加工条件に対応させて光学系ユニット23及び加工対象物31を所定位置に位置付け、その後、所定の強さのレーザ光を照射させる。これにより、高精度に倣い制御を行ったレーザ加工を実現することができる。
【0034】
なお、制御手段27は、変位センサ24から得られた計測結果を蓄積手段28に蓄積しておくことができる。このとき、蓄積手段28に蓄積される計測結果には、計測したときの座標情報(例えば、X座標、Y座標の何れか、又は両方等)や計測した日時情報等が含まれていても良い。
【0035】
また、制御手段27は、上述した計測結果と予め蓄積手段28に蓄積されている補正情報等とを比較して、調整が必要である場合は、補正情報に基づいて制御信号を生成して光学系ユニット駆動手段22等に出力し、光学系ユニット23等の位置の調整を行う。なお、制御手段17は、比較を行う際、例えば計測時の座標情報と補正情報に含まれる座標情報とから対象となる情報(例えば、加工対象物の表面位置(Z軸)の変位量等)等を抽出して比較を行い、調整の要否を判断する。また、調整の要否判断は、例えば予め設定される焦点深度等も考慮して判断される。
【0036】
また、制御手段27により生成される制御信号は、光学系ユニット23に対するメンテナンス用の移動指令や、基準焦点の高さ情報、絶対値あるいは加工対象物31の表面からの相対値による位置調整指令等を含む。
【0037】
また、制御手段27は、変位センサ24の較正を行うため、後述するような較正用治具を用いた計測を行い、蓄積手段28に蓄積される予め設定された較正用のデータと比較することで、高精度且つ迅速にデータに基づいて、変位センサの較正を行うことができる。
【0038】
また、蓄積手段28は、レーザ加工を行うための初期条件や制御手段27から得られる変位センサ24による計測結果等を蓄積する。なお、上述の初期条件としては、例えばレーザ光の強さや、加工対象領域(位置)の設定、照射の回数やタイミング等の加工条件や、上述した補正情報等の各種パラメータ等が含まれる。
【0039】
また、蓄積手段28は、制御手段27から得られる制御信号に基づいて既に蓄積されている各種情報を読み出したり、制御手段27から得られる各種信号を書き込んだりすることができる。
【0040】
なお、上述したレーザ加工装置20における倣い制御は、光学系ユニット23を光軸(Z軸)方向に移動させることで制御を行っていたが、本発明においてはこの限りではなく、例えばステージ駆動手段25によりステージ26をZ軸方向へ移動させるような機構を設け、これにより位置を調整しても良い。
【0041】
<較正用治具>
次に、上述したレーザ加工装置20等により適用される変位センサの較正用として用いられる本発明における較正用治具について説明する。図3は、較正用治具の一例を示す図である。なお、図3(a)は較正用治具の斜視図を示し、図3(b)は較正用治具の側面図を示している。
【0042】
ここで、図3に示す較正用治具41は、水平面に対して所定の角度θ分の傾斜からなる傾斜部とステージ26等に水平に載置するための水平の底部とを有する。また、較正用治具41は、光学ガラス(素ガラス)等の透明体(例えば、ウェッジガラスプレート等)により円筒状に構成されている。なお、図3に示す(b)に示す角度(ウェッジ角)θは、変位センサ24からの較正用治具41までの距離を変えて位置の測定を行い易くするため、照射面の傾斜部には、例えば0度より大きく45度より小さい角度(0度<θ<45度)を有していることが好ましく、更には約1〜5度程度の角度がより好ましい。これにより、変位センサの対象物までの距離測定における直線性の較正を高精度に行うことができる。
【0043】
ここで、較正用治具41の材質は、光学ガラスであることが好ましく、例えば、クラウンガラス、フリントガラス、BK7、Fused Silica、CaF、MgF等を用いることができる。また、較正用治具41の傾斜部の表面は、光学研磨されていることが好ましく、表面形状は、円形や楕円形、矩形、三角形、星形等のあらゆる形状を用いることができる。
【0044】
また、較正用治具41のサイズ(表面の計測(移動)方向の長さ)は、較正用治具41を載せるステージの歪み、ステージ移動中の上下動等の影響を受けず、更にウェッジ角を小さくしすぎないため、30mm〜50mm程度が好ましい。しかしながら、較正用治具41のサイズは、ステージの性能等によるため、これに限定されるものではなく、約5mm〜300mm程度が現実的であるといえる。
【0045】
また、図3に示す較正用治具41における傾斜部表面には、光学ガラスだけでなく、例えばポリシリコン(p−si)やアモルファスシリコン(a−si)等のシリコン樹脂膜が形成(被覆)されていてもよく、また、その他の光学用コーティング(AR(Anti−Reflection:反射防止)コート,HR(High−Reflection:高反射)コート等)等の光の透過性が高く、光学研磨した表面を荒らさない程度の膜厚が形成されていても良い。なお、コーティングをすることにより、光学ガラスと比較して面精度の悪化が生じるが、例えば測定精度が100nmのオーダーであれば問題はない。
【0046】
このように、光学ガラスを用いることで、表面精度を向上させることができる。また、実際にレーザ加工装置により加工される加工対象物の材質と同じにすることができるため、変位センサ24の加工対象物までの距離測定における直線性の較正を高精度に行うことができる。つまり、このような較正用治具41を用いることにより、面精度が良く歪みが生じないため、高精度な変位センサの較正を行うことができる。
【0047】
図4は、本発明における変位センサの較正方法の一例を示す図である。図4に示すように、較正用治具41は、ステージ26上に積置され、変位センサ24の下方を所定速度で通過する。なお、較正用治具41のステージ26上の設置位置については、特に制限はなく、また較正用治具41の方向は、ステージ36の移動方向にウェッジ角が向いていることが好ましいが、相対的な直線性の較正のみであるため、正確に角度と方向が合っていなくても良い。
【0048】
変位センサ24は、上述した制御手段27による制御により、較正用治具41が所定の速度で移動するため、較正用治具41の表面に変位センサ24からレーザ光を照射してそれを受光することにより、変位センサの高さ位置の較正を行う。
【0049】
また、本発明における較正方法では、高さ(又は距離)の絶対値の計測を行うのではなく、例えばステージ26を所定方向に所定速度で移動させ、単位時間あたりの位置を求め、その相対的な値を用いて直線性の較正を簡易な構成で高精度に行うことができる。
【0050】
上述したように、較正用治具41を用いることで、表面精度が従来よりも改善されるため、対象物までの距離測定における直線性の較正を高精度に行うことができる。
【0051】
つまり、較正用治具41は、上述した図2に示すレーザ加工装置20に設けられた変位センサ24の較正を行うため、以下の動作を行う。まず、加工対象物を保持するためのステージ26は、載置された較正用治具41を保持する。次に、レーザ加工装置20は、較正用治具41の傾斜部が変位センサ24の下方を所定速度で通過させるために、ステージ駆動手段25により較正用治具41が保持されたステージ26の駆動を行い、通過している較正用治具41の傾斜部の変位を変位センサ24で相対的に計測する。また、レーザ加工装置20は、計測結果に基づいてずれ量を計測し、そのずれ量に基づいて変位センサ24の加工対象物までの距離測定における直線性の較正を行う。
【0052】
<測定結果>
ここで、本発明における変位センサの較正を行った結果について説明する。なお、以下の測定結果では、本発明における効果を適切に説明するために従来例を用いた場合の測定結果も示すものとする。また、測定時の装置構成は、例えば上述した図2に示すレーザ加工装置20の構成を用いることができる。
【0053】
<<従来例:第1の条件>>
図5は、従来例を用いた第1の条件における較正結果の一例を示す図である。なお、図5では、上述した図1に示すように基板12−1,12−2を重ねて傾斜を形成したものを用いるものとし、基板12の材料は、低温ポリシリコン(p−si)を用いるものとする。
【0054】
更に、変位センサ24の条件(条件a)としては、例えば検出範囲は基準距離30mmに対して±5mm、速度は50kHZ、精度は±0.05%で、繰り返し精度は0.05μmとする。また、レーザ光の光源は、波長650nmで出力は最大4.8mW、スポット径はφ30×850μmの楕円ビーム形状とする。また、サンプリング周期は50μsで、ローパスフィルターは30Hzとする。
【0055】
ここで、図5(a)、(b)においては、横軸にステージの移動距離(StagePosition:mm)を示し、縦軸に較正用治具の表面の測定した高さ(Height:mm)を示している。
【0056】
ここで、図5(a)に示すように、従来の較正では、測定結果(実線)にうねりを生じている。ここで、図5(b)に示すように、ステージの所定の移動距離(310mm〜330mm)分までの結果を拡大してみると、ステージの位置に対して線形に上昇するはずの基板表面の高さが、計測結果では所定の周期を持って波を打っている。
【0057】
更に、データを線形近似した値と計測値の差分Δhは、図5(c)に示すようになり、約±8μmの周期の波形で計測精度が変化することがわかる。なお、図5(c)は、横軸に高さ(mm)と示し、縦軸には計測値の差分Δh(μm)を示している。上述した結果は、従来の倣い制御の現状値を表している。
【0058】
<<従来例:第2の条件>>
図6は、従来例を用いた第2の条件における較正結果の一例を示す図である。なお、図6では、上述した図1に示すように基板12−1,12−2を重ねて傾斜を形成したものを用いるものとし、基板12の材料は、低温ポリシリコン(p−si)を用いるものとする。
【0059】
更に、変位センサ24の条件(条件b)としては、例えば検出範囲は基準距離10mmに対して±1mm、速度は50kHZ、精度は±0.03%、繰り返し精度は0.01μmとする。また、レーザ光の光源は、波長650nmで出力は最大0.3mW、スポット径φ20μmの円形ビーム形状とする。また、サンプリング周期は50μsで、ローパスフィルターは30Hzとする。
【0060】
また、図6(a)においては、横軸にステージの移動距離(StagePosition:mm)を示し、縦軸に較正用治具の表面の測定した高さ(Height:mm)を示している。また、図6(b)においては、横軸に高さ(mm)と示し、縦軸には計測値の差分Δh(μm)を示している。
【0061】
また、従来例を用いた第2の条件では、移動平均回数を1回(ローパスフィルターは30Hz)、16回、4096回として、各計測方法に移動平均を付加して繰り返し数を増加させることで精度が変化しないかを測定した。その結果、図6(a)に示すように、上述した第1の条件に示す条件aと比較して条件bの分解能が良いため、条件aで計測されたような波打った様子は見られず、また3種類の計測方法による観測値に大きな違いは見られなかった。
【0062】
また、図6(b)に示すΔhに関しても、3種類の計測方法に差異は見受けられず、また約±0.8μmの測定精度があることがわかった。これは、基板12−1の歪みを示す曲線であることがわかる。なお、Δhのグラフで見られる大きな凸の分布は、測定している基板が歪んでいるためにステージ移動距離に対して厚みの変化が線形でないために生じたものと考えられる。
【0063】
<<本発明を適用した較正の実施例>>
次に、本発明を適用した較正の実施例について図を用いて説明する。図7は、本発明を適用した較正結果の一例を示す図である。なお、図7では、上述した図3等に示す較正用治具41を用いるものとする。また、較正用治具41は、ウェッジ付ガラス板とし、測定面は素ガラス(光学ガラス)とする。また、サンプリング周期は50μs、500μsの2種類とし、ローパスフィルターは30Hzとする。
【0064】
つまり、測定対象の歪みの影響を抑えるために、本発明におけるウェッジ付ガラス板のウェッジ基板を用いてサンプリング周期を50μs、500μsと変化させた場合の条件bと以下に示す条件cでの測定を行う。
【0065】
ここで、変位センサ24の条件(条件c)としては、例えば検出範囲は基準距離23.5mmに対して±4.5mm、速度は50kHZ、精度は±0.05%で、繰り返し精度は0.05μmとする。また、レーザ光の光源は、波長650nmで出力は最大4.8mW、スポット径φ30μmの円形ビーム形状とする。また、サンプリング周期は50μsで、ローパスフィルターは30Hzとする。
【0066】
また、図7(a)、(b)は、条件cの変位センサを用いた場合の較正結果を示す図であり、図7(c)、(d)は、条件bの変位センサを用いた場合の較正結果を示す図である。また、図7(a)、(c)においては、横軸にステージの移動距離(StagePosition:mm)を示し、縦軸に較正用治具の表面の測定した高さ(Height:mm)を示している。また、図7(b)、(d)においては、横軸に高さ(mm)と示し、縦軸には計測値の差分Δh(μm)を示している。
【0067】
ここで、上述した図7(a)、(b)に示すように、条件cの場合については、サンプリング周期を50μsから500μsにすることによって測定精度は±2.5μmから±0.28μmに向上する。また、図7(c)、(d)に示すように、条件bの場合については、サンプリング周期50μsから500μsにすることによって、測定精度±0.7μmから±0.11μmに向上する。
【0068】
また、素ガラスの場合、サンプリング周期500μs、ローパスフィルター30Hzにおいて、変位センサ24を条件cとすると、精度は±0.2798(μm)で、標準偏差によるバラツキの度合いσは0.09338128(μm)であった。また、条件bの場合、精度は、±0.1105(μm)で標準偏差によるバラツキの度合いσは、0.041455であった。
【0069】
つまり、素ガラスにおいては、サンプリング周期を500μsとすることにより、条件cの場合でも条件bの場合でも十分な測定精度があることがわかる。
【0070】
したがって、実際の倣い制御によるレーザ加工時に500mm/sでステージ26を走査させたとすると、現在はステージ移動距離2mmピッチでハイトセンサの測定データを倣い制御で読み出しているため、2mm÷500mm/s=4msecである。したがって、500μsで変位センサがサンプリングしていれば、4msec毎の読み出しに対して8倍のデータ数が取得できるため、データの取りこぼしがなく十分な制御が可能になる。
【0071】
<<変位センサの比較:第1の条件>>
次に、変位センサの比較を行うための第1の条件に基づく較正の実施例について図を用いて説明する。図8は、変位センサの第1の条件に基づく較正結果の一例を示す図である。なお、図8では、サンプリング周期は500μsとし、ローパスフィルターは30Hzとする。また、ここでは、図1に示すように実際のアニーリング等の加工に用いられる6inch基板12を2枚用いた従来手法を適用し、変位センサ24は、上述した条件b及び条件cを用いるものとする。また、レーザ光のビーム形状は円形とする。
【0072】
また、図8(a)、(b)は、条件cの変位センサを用いた場合の較正結果を示す図であり、図8(c)、(d)は、条件bの変位センサを用いた場合の較正結果を示す図である。また、図8(a)、(c)においては、横軸にステージの移動距離(StagePosition:mm)を示し、縦軸に較正用治具の表面の測定した高さ(Height:mm)を示している。また、図8(b)、(d)においては、横軸に高さ(mm)と示し、縦軸には計測値の差分Δh(μm)を示している。
【0073】
ここで、図8に示す較正結果によれば、ポリシリコン(p−Si)、サンプリング周期500μs、ローパスフィルター30Hzにおいて、条件cの場合の精度は±0.7(μm)であり、条件bの場合の精度は±0.06(μm)であった。
【0074】
なお、現在の焦点深度±3μmを制御するには、±0.3μmの測定精度が必要となるが、ポリシリコン(p−Si)の計測では、条件cの場合で0.7μmの精度しかなく、十分な測定精度を満たすのは、条件bの場合であることがわかる。
【0075】
<<変位センサの比較:第2の条件>>
次に、変位センサの比較を行うための第2の条件に基づく較正の実施例について図を用いて説明する。図9は、変位センサの第2の条件に基づく較正結果の一例を示す図である。なお、第2の条件では、基板12にアモルファスシリコン(a−si)膜を形成している。また、サンプリング周期は500μsとし、ローパスフィルターは30Hzとする。また、変位センサ24は、上述した条件b及び条件cを用いるものとする。また、レーザ光のビーム形状は円形とする。
【0076】
また、図9(a)、(b)は、条件b及び条件cの変位センサを用いた場合の較正結果を示す図であり、図9(c)は、条件bの変位センサを用いた場合の較正結果の一部を拡大したものである。
【0077】
また、図9(a)においては、横軸にステージの移動距離(StagePosition:mm)を示し、縦軸に較正用治具の表面の測定した高さ(Height:mm)を示している。また、図9(b)、(c)においては、横軸に高さ(mm)と示し、縦軸には計測値の差分Δh(μm)を示している。
【0078】
図9に示す較正結果によれば、a−Si、サンプリング周期500μs、ローパスフィルター@30Hzにおいて、条件cの場合の精度は±1.1(μm)であり、条件bの場合の精度は±0.06(μm)であった。
【0079】
ここで、上述した測定結果の内容について、図を用いて説明する。図10は、本発明における測定精度の結果の一例を示す図である。なお、縦軸には、各変位センサの装置名とサンプリング周波数(μs)を示し、縦軸には、較正用治具の表面の材質が示されている。ここで、焦点深度の要求精度は、±0.3μmより小さいことが好ましい。したがって、較正には、変位センサの条件が条件bの場合でサンプリング周波数は500μs、ローパスフィルターは30Hzが好ましいということができる。
【0080】
上述したように本発明によれば、対象物までの距離測定における直線性の較正を高精度に行うことができる。したがって、例えば、全固体アニール装置等の加工対象物において、倣い制御のためにガラス基板表面の高さを計測している変位センサの性能を、現在の光学系の焦点深度から実際の測定、加工に使える範囲の値として必要とされる性能があるか否かの判定等に用いることができる。
【0081】
なお、本発明における較正用治具、較正方法、及び該方法を用いたレーザ加工装置は、穴あけや溶接、切断、アニール等の変位センサを有する各種レーザ加工全般に適用することができる。
【0082】
以上、本発明の好ましい実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】従来における変位センサの較正方法の一例を示す図である。
【図2】本発明に適用されるレーザ加工装置の一構成例を示す図である。
【図3】較正用治具の一例を示す図である。
【図4】本発明における変位センサの較正方法の一例を示す図である。
【図5】従来例を用いた第1の条件における較正結果の一例を示す図である。
【図6】従来例を用いた第2の条件における較正結果の一例を示す図である。
【図7】本発明を適用した較正結果の一例を示す図である。
【図8】変位センサの第1の条件に基づく較正結果の一例を示す図である。
【図9】変位センサの第2の条件に基づく較正結果の一例を示す図である。
【図10】本発明における測定精度の結果の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0084】
11 ステージ
12 基板
13 変位センサ
20 レーザ加工装置
21 レーザ発振器
22 光学系ユニット駆動手段
23 光学系ユニット
24 位置計測手段(変位センサ)
25 ステージ駆動手段
26 ステージ
27 制御手段
28 蓄積手段
31 加工対象物
41 較正用治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め設定された加工対象領域までの距離を変位センサから得られる変位量に基づいてレーザ光の焦点深度を調整して倣い制御を行いながらレーザ加工を行うレーザ加工装置に使用される前記変位センサの較正用治具において、
前記変位センサから出射される計測用レーザ光の照射面は、水平面に対して所定の角度に傾斜するように形成される傾斜部と、
前記レーザ加工装置における加工対象物を保持するために設けられたステージ上に載置するための水平な底部とを有し、
前記傾斜部の表面は、光学ガラスで形成されていることを特徴とする較正用治具。
【請求項2】
前記較正用治具全体は、透明体からなることを特徴とする請求項1に記載の較正用治具。
【請求項3】
前記傾斜部は、前記所定の角度を0度より大きく45度より小さい角度に設定することを特徴とする請求項1又は2に記載の較正用治具。
【請求項4】
前記請求項1乃至3のうち何れか1項に記載の較正用治具によりレーザ加工装置に設けられた変位センサの較正を行うための前記較正用治具を用いた較正方法において、
加工対象物を保持するためのステージに前記較正用治具を載置し保持する治具保持ステップと、
前記較正用治具が保持されたステージを、前記較正用治具の傾斜部が前記変位センサの下方を所定速度で通過させるために、前記ステージの駆動を行うステージ駆動ステップと、
前記ステージ駆動ステップにより、通過している前記較正用治具の傾斜部の変位を相対的に計測する計測ステップと、
前記計測ステップにより計測された結果に基づいて、前記変位センサの較正を行う較正ステップとを有することを特徴とする較正方法。
【請求項5】
前記請求項4に記載された較正方法により較正された前記変位センサにより計測される加工対象物までの距離情報に基づいて前記加工対象物に照射するレーザ光の焦点深度を調整して倣い制御を行いながら加工を行うレーザ加工装置において、
前記レーザ光の焦点深度を調整する光学系ユニットを、前記レーザ光の光軸方向に移動させる光学系ユニット駆動手段と、
前記加工対象物を保持したステージを、前記光軸方向に対して垂直方向に移動させるステージ駆動手段と、
前記加工対象物の加工位置の変位を計測する前記変位センサと、
前記変位センサにより得られる計測結果に基づいて、前記光学系ユニット駆動手段により前記光学系ユニットを所定位置に調整させるための制御手段とを有することを特徴とするレーザ加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図10】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−215829(P2008−215829A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−49461(P2007−49461)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】