説明

過給機付ディーゼルエンジンの制御装置及び制御方法

【課題】過給機付ディーゼルエンジン1の制御装置において、主噴射の開始時点の気筒11a内の温度及び圧力状態を最適化して主燃焼の制御性を向上させつつも、その気筒11a内の状態の最適化のために必要な前段噴射の燃料噴射量を少なくする。
【解決手段】エンジン本体1が低回転でかつ部分負荷である特定運転領域にあるときであって、気筒の圧縮端温度が所定温度よりも低い低温状態時には、過給機62による過給量を、所定温度以上の高温状態時の過給量よりも多い、所定以上の過給量としつつ、噴射制御手段(PCM10)は、少なくとも特定運転領域では、拡散燃焼を主体とした主燃焼を行うために圧縮上死点又はそれよりも前に燃料噴射を開始する主噴射と、主燃焼の開始前に前段燃焼が生起するように、主噴射よりも前のタイミングで少なくとも1回の燃料噴射を行う前段噴射と、を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示する技術は、過給機付ディーゼルエンジンの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に搭載されたディーゼルエンジンでは、排ガス中のNOxや煤の低減、騒音乃至振動の低減、燃費やトルクの向上等を図るため、エンジン1サイクル中に、気筒内に複数回の燃料の噴射を行うことがある。例えば特許文献1には、ターボ過給機付ディーゼルエンジンにおいて、トルク発生のためのメイン噴射、気筒を予熱するためにメイン噴射に先立ち行われるパイロット噴射、パイロット噴射とメイン噴射との間でメイン噴射による燃料の着火遅れを抑制するためのプレ噴射、メイン噴射後において排気ガス温度を上昇させるためのアフタ噴射、及び、アフタ噴射後に排気系に燃料を直接導入して触媒の昇温を図るポスト噴射の5つのタイミングで、燃料噴射を実行することが記載されている。
【0003】
また、例えば特許文献2には、メイン燃焼前の予備燃焼によって気筒内温度を高める上で、パイロット噴射の燃料噴射量をエンジンの負荷及び回転数に応じて変更する技術が記載されており、これにより、メイン噴射を行う時点での気筒内温度を燃料の自己着火可能な温度よりも確実に上回るようにして、メイン噴射によって噴射された燃料の失火を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−293383号公報
【特許文献2】特開2005−240709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、気筒内に供給した燃料を圧縮自着火させるディーゼルエンジンでは、NOx排出量の低減を目的の1つとして、その幾何学的圧縮比を、例えば15以下といった、比較的低い圧縮比にすることが行われている。低い圧縮比は気筒内の燃焼を緩慢にし、NOxの生成を抑制する。また、エンジンの低圧縮比化は機械抵抗損失を低減させるため、エンジンの熱効率を向上させる点でも有利である。
【0006】
一方で、ディーゼルエンジンでは一般的に、燃費向上やNVH性能を向上させる観点から、拡散燃焼を主体とした主燃焼は、圧縮上死点付近で安定して発生させることが望ましい。しかしながら、燃料の噴射後、燃焼が開始するまでの着火遅れが長くなってしまうと燃焼の制御性が悪化するため、例えば主燃焼を圧縮上死点付近で安定して発生させることが困難になってしまう。本願発明者らは、主噴射よりも前のタイミングで少なくとも1回の前段噴射を実行して主燃焼の開始前に前段燃焼を適切に生起させることが、主噴射開始時点における気筒内の温度及び圧力を最適化して着火遅れを比較的短くし、主燃焼の制御性を向上させること、換言すれば、燃費向上やNVH性能の向上に有利になることを見いだした。
【0007】
しかしながら、エンジンの低圧縮比化は、低回転・低負荷時には圧縮端温度及び圧縮端圧力を低下させるため、気筒内の温度や圧力を高めて主燃焼の制御性を向上させるために、大量の燃料を前段噴射で噴射しなければならなくなる。特に、例えば圧縮端温度が低下するエンジンの未暖機時や低外気温時であったり、圧縮端温度及び圧縮端圧力が低下する高地条件時には、前段噴射での燃料噴射量を大幅に増やさなければならない。
【0008】
ここに開示する技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、過給機付ディーゼルエンジンの制御装置において、主噴射の開始時点の気筒内の温度及び圧力状態を最適化して主燃焼の制御性を向上させつつも、その気筒内の状態の最適化のために必要な前段噴射の燃料噴射量を少なくすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らの検討によると、詳細は後述するが、図6に例示するように、気筒内温度と気筒内圧力とをパラメータとする温度−圧力平面上で燃料の着火遅れが一定となる温度・圧力状態をつないだ等時間線を描いたときに、その等時間線は、気筒内圧力が比較的低い範囲(図6における相対的に左側の範囲)では相対的に高い気筒内温度となる(以下、等時間線におけるこの部分を「高温部分」と呼ぶ場合がある)一方で、前記気筒内圧力が比較的高い範囲(図6における相対的に右側の範囲)では、相対的に高い気筒内温度に対して、一段低い気筒内温度となる(以下、等時間線におけるこの部分を「低温部分」と呼ぶ場合がある)ことで、等時間線全体としての特性が、高温部分と低温部分とを含む二段特性を有していることを見いだした。ここで、図6に示すコンター図では、実線と破線との2本の等時間線のみを示しており、この内、実線の等時間線は着火遅れが0.2msecの等時間線に対応し、破線の等時間線は着火遅れが1.5msecの等時間線に対応する。尚、破線の等時間線における高温部分は、図6に示される気筒内圧力の範囲よりもさらに低い圧力において存在している。こうしたコンター図では、右乃至上に行くほど着火遅れが短くなり、左乃至下に行くほど着火遅れが長くなるため、例えば気筒内の温度・圧力状態が、実線の等時間線よりも右乃至上側の領域にあるときには、当該等時間線の着火遅れ以下の着火遅れとなる。従って、主噴射により噴射された燃料の着火遅れを短くして主燃焼の制御性を高める上では、主噴射の開始時点における気筒内の状態を、例えば図6における符号C10やC11の白丸で示すように、実線の等時間線よりも右乃至上側の領域にしなければならない。前述した、主燃焼の制御性を向上させるための前段噴射及び前段燃焼は、図6における符号C00やC01の黒四角で示す気筒内の状態が、主噴射の開始時点において符号C10やC11の白丸で示す状態となるように、気筒内の温度及び圧力を高めることに対応する。このことは、気筒内の温度・圧力状態を、等時間線よりも左乃至下側の領域から、等時間線を跨いで右乃至上側の領域へと移行させる、ということができる。
【0010】
ここで例えば幾何学的圧縮比εが14程度の低圧縮比のエンジンは、圧縮端温度及び圧縮端圧力が、もともと低い。そして、その低圧縮比エンジンの運転領域が低回転で且つ部分負荷である特定の運転領域にありかつ、圧縮端温度が低くなるような環境条件が組み合わさったときには、図6においてC00の黒四角で示すように、コンター図における比較的左側の範囲に位置することになる。このため、前段噴射及びそれに伴う前段燃焼によって気筒内の温度及び圧力を高めて、図6の一点鎖線の矢印で示すように、等時間線の高温部分を跨ぐようにして、符号C10の白丸の状態にしなければならない。しかしながら、コンター図において矢印の長さは、前段噴射での燃料噴射量に相当し、矢印の長さが長いほど燃料噴射量が多いことに対応する。このため、幾何学的圧縮比が低いエンジンは、主噴射による燃料の着火遅れを短くするために、大量の燃料を前段噴射において噴射しなければならない。
【0011】
本願発明者らは、低圧縮比エンジンにおける大量の前段噴射を回避するために、前述したように、図6に示すようなコンター図において、着火遅れに係る等時間線が相対的に温度が高い高温部分と、相対的に温度が低い低温部分との2つの部分を含む二段特性である点に着目した。つまり、図6に白抜きの矢印で示すように、過給により、特に圧縮端圧力を高めることによって、気筒内の状態を、符号C01の黒四角で示すような、コンター図において相対的に右側の領域に移行させれば、前段噴射及び前段燃焼によって等時間線の低温部分を跨ぐことが可能になり、図6において実線で示すように矢印の長さが大幅に短くなる。つまり、主噴射の開始時点における着火遅れを短くするために必要な前段噴射の燃料噴射量を大幅に少なくすることが可能になる。
【0012】
具体的にここに開示する技術は、過給機付ディーゼルエンジンの制御装置を対象とし、このディーゼルエンジンは、幾何学的圧縮比が15以下に設定されかつ、気筒内に供給した燃料を圧縮自着火させるエンジン本体と、前記気筒内への吸入空気を過給する過給機と、前記気筒内に臨んで配設されかつ、当該気筒内に燃料を直接噴射する燃料噴射弁と、前記燃料噴射弁を通じた前記気筒内への前記燃料の噴射形態を制御する噴射制御手段と、を備える。そうして、前記エンジン本体が低回転でかつ部分負荷である特定運転領域にあるときであって、前記気筒の圧縮端温度が所定温度よりも低い低温状態時には、前記過給機による過給量を、前記所定温度以上の高温状態時の過給量よりも多い、所定以上の過給量としつつ、前記噴射制御手段は、少なくとも前記特定運転領域では、拡散燃焼を主体とした主燃焼を行うために圧縮上死点又はそれよりも前に燃料噴射を開始する主噴射と、前記主燃焼の開始前に前段燃焼が生起するように、前記主噴射よりも前のタイミングで少なくとも1回の燃料噴射を行う前段噴射と、を実行する。
【0013】
ここで、「過給機」は、機械駆動式圧縮機(例えばスーパーチャージャー)と、排気タービン駆動式圧縮機(いわゆるターボチャージャー)との双方を含み、機械駆動式圧縮機はまた、電動アシストターボを含む。
【0014】
また、「エンジン本体が低回転でかつ部分負荷である特定運転領域」は、従来であれば低回転であることで過給が実質的に行われない一方で、部分負荷であることでトルク要求、換言すれば過給要求もほとんどないような運転領域を意味する。具体的な例としては、エンジンの回転数域を低、中、高の3つの領域に分けたときの低回転の領域でかつ、ロード(Road)/ロード(Load)ライン上、又は、それよりも若干負荷が高い領域が、前記の特定運転領域に含まれる。「気筒の圧縮端温度が所定温度よりも低い低温状態時」は、例えば、エンジン本体の温度(エンジン水温によって代表してもよい)や、外気温度が所定温度よりも低いため、気筒の圧縮端温度が所定温度よりも低くなる場合、及び、標高が高く空気密度が所定よりも低いため、気筒の圧縮端温度が所定温度よりも低くなる場合が該当する。
【0015】
また、エンジン本体の幾何学的圧縮比の下限値は、例えば12としてもよい。
【0016】
前記の構成では、着火遅れに係る等時間線が二段特性を有するとの知見から、従来であれば過給要求もなく実質的に過給を行っていない運転領域でかつ、圧縮端温度が所定温度よりも低い低温状態時には、低圧縮比エンジンの気筒内圧力(及び温度)を高めることを目的として所定以上の過給量を確保する。この構成は、言い換えると、着火遅れに関する温度及び圧力条件の内、温度条件が不利なときには、過給を行うことによって圧力条件を有利にして着火性を高めることである。
【0017】
こうすることで、主噴射よりも前のタイミングで少なくとも1回の燃料噴射を行う前段噴射により、主燃焼の開始前に前段燃焼が生起するが、その前段燃焼によって、気筒内の温度・圧力状態は、等時間線の低温部分を跨いで、等時間線よりも左乃至下側の領域から右乃至上側の領域へと移行するようになる。このことは前述の通り、等時間線を跨ぐために必要な前段噴射の噴射量を少なくすることが可能になる。従って、「所定以上の過給量」とは、一つの定義として、コンター図において、気筒内の状態を、目標とする着火遅れに対応する等時間線に対し、その低温部分の近傍へと移動させて、前段燃焼によって低温部分を跨ぐことが可能となる過給量、と定義することが可能である。つまり、少ない過給量は、気筒内の状態を等時間線の低温部分の近傍にまで移動させることができず、前段燃焼によって低温部分を跨ぐことができなくなる。所定の過給量は、気筒内の温度・圧力状態と、等時間線との相対的な距離に応じて設定される。
【0018】
そうして前段燃焼の生起に伴い、主噴射の開始時点では、気筒内の状態が等時間線よりも右乃至上側領域に位置するため、着火遅れが短くなって所望の着火遅れとなり、拡散燃焼を主体とした主燃焼を圧縮上死点付近で安定して発生させることができる。つまり、低圧縮比エンジンにおいて主燃焼の制御性が高まることで、燃費及びNVH性能の向上に有利になる。
【0019】
前記過給機は、前記エンジン本体の排気通路上にそれぞれ配置した、相対的に小容量のタービンを含む第1のターボ過給機と相対的に大容量のタービンを含む第2のターボ過給機とを有する2ステージターボ過給機であって、前記エンジン本体が少なくとも前記特定運転領域でかつ前記低温状態にあるときには、前記第1のターボ過給機を作動させることによって前記所定以上の過給量を確保する、としてもよい。
【0020】
これとは異なり、前記過給機は、前記エンジン本体の排気通路上のタービンに可動式ベーンを設けた可変容量型のターボ過給機であって、前記エンジン本体が少なくとも前記特定運転領域でかつ前記低温状態にあるときには、前記ベーン開度を絞って前記過給機を作動させることによって前記所定以上の過給量を確保する、としてもよい。
【0021】
2ステージターボ過給機や可変容量型のターボ過給機は、エンジン回転数について広い作動領域を有するため、エンジンの低回転域で作動させて、前述の気筒内圧力の上昇に伴う、前段噴射の噴射量を低減する効果が確保される。一方、エンジンの高回転域や高負荷域でも過給機を作動させることによって、トルクの向上効果も確保される。
【0022】
前記ディーゼルエンジンは、前記過給機をバイパスするバイパス通路と、当該バイパス通路の流量を調整する調整弁とをさらに備え、前記エンジン本体が少なくとも前記特定運転領域でかつ前記低温状態にあるときには、前記バイパス通路の流量を小さくすることによって前記所定以上の過給量を確保する、としてもよい。
【0023】
バイパス通路の流量を小さくする、又は、実質的にゼロにすることと、過給機の作動とによって、所定以上の過給量を確保することが可能になる。
【0024】
前記過給機は、前記エンジン本体の排気通路上のタービンに可動式ベーンを設けた可変容量型のターボ過給機であり、前記バイパス通路は、前記タービンをバイパスし、前記エンジン本体が少なくとも前記特定運転領域でかつ前記低温状態にあるときには、前記バイパス通路の流量を小さくすると共に、前記ベーン開度を絞って前記過給機を作動させることによって前記所定以上の過給量を確保する、としてもよい。
【0025】
また、前記過給機は、前記エンジン本体の排気通路上にそれぞれ配置した、相対的に小容量のタービンを含む第1のターボ過給機と相対的に大容量のタービンを含む第2のターボ過給機とを有する2ステージターボ過給機であり、前記バイパス通路は、前記第1のターボ過給機のタービンをバイパスし、前記エンジン本体が少なくとも前記特定運転領域でかつ前記低温状態にあるときには、前記バイパス通路の流量を小さくすることによって前記所定以上の過給量を確保する、としてもよい。
【0026】
バイパス通路の流量を小さくする(これは、実質的にゼロにすることを含む)と、可変容量型のターボ過給機又は2ステージターボ過給機との組み合わせは、低回転でかつ部分負荷の特定運転領域であって、圧縮端温度が所定温度よりも低い低温状態にあるときに、所定以上の過給量を確保することを可能にする。
【0027】
ここで、主燃焼の制御性を向上する上で前段燃焼は重要であるが、前段噴射により噴射された燃料の着火遅れが長くなってしまうと前段燃焼の制御性が悪化するため、主噴射の開始前に前段燃焼を十分に生起させることが難しくなる。その結果、主噴射開始時の気筒内の温度や圧力が十分に高まらず、主燃焼の制御性が悪化する虞がある。
【0028】
一方で、着火遅れを決定する要因は気筒内の温度及び圧力だけでなく、当量比もまた着火遅れを決定する要因の一つであり、一般的に、当量比が高いほど着火遅れは短くなり、当量比が低いほど着火遅れは長くなる。例えば前段噴射の総噴射量を1回の燃料噴射で気筒内に全て供給してしまうと、噴射期間が長くなるため、燃料噴霧は一気に拡散して気筒内はオーバーリーンな状態となる。このことは、(局所)当量比を低くして、前段燃焼の着火遅れを長くする。
【0029】
そこで、前記前段燃焼の着火遅れを短くして前段燃料の制御性を高める観点から、前記噴射制御手段は、前記エンジン本体が少なくとも前記特定運転領域にあるときには、前記前段噴射として複数回の噴射を実行すると共に、その各噴射を、当該各噴射毎に噴射される燃料が前記気筒に嵌挿したピストン頂面のキャビティ内に至るようなタイミングで実行する、としてもよい。
【0030】
前段噴射として、複数回の燃料噴射を実行することは、1回当たりの噴射量が少なくなるため燃料が一気に拡散しないと共に、先に噴射した燃料が拡散せずに周囲に漂っていて、そこに、後から噴射した燃料が追いついて互いに集まるようになる。そうして、局所的に当量比が高い混合気が形成される。その結果、前段噴射によって噴射された燃料の着火遅れは短くなり、前段燃焼の制御性が高まって、主燃焼を圧縮上死点付近で安定して発生させることが可能になる。
【0031】
前記の構成ではさらに、複数回の噴射の全てが噴射する燃料がピストン頂面のキャビティ内に至るように前段噴射を行うことにより、燃料がキャビティ外へ拡散することを抑制し、キャビティ内に当量比が高い混合気を形成することができる。このことは、前段燃焼の制御性をより一層高めて、前段燃焼をより一層安定して発生する上で有利になる。ここで、「燃料が、キャビティ内に至る」とは、圧縮上死点に向かってピストンが移動している最中に、燃料噴射弁から噴射した燃料噴霧が、キャビティ内に直接入る場合、及び、燃料噴射弁から噴射した燃料噴霧が、キャビティのリップ部等に当たって外に漏れたとしても、その後、ピストンが圧縮上死点付近にまで移動することに伴い、漏れた燃料噴霧がキャビティ内に入る場合、の双方を含む。つまり、前段噴射の進角限界は、その分だけ拡大する。
【0032】
前記エンジン本体は、前記気筒内の温度と圧力とをそれぞれパラメータとする温度−圧力平面上で、前記燃料噴射弁を通じて前記気筒内に噴射した燃料の着火遅れが一定となる温度・圧力状態をつないだ等時間線が、前記気筒内圧力が比較的低い範囲では相対的に高い気筒内温度となる一方で、前記気筒内圧力が比較的高い範囲では、前記相対的に高い気筒内温度に対し一段低い気筒内温度となるような、高温部分と低温部分とを含む二段特性を有しており、前記前段噴射は、前記前段燃焼の生起に伴い前記気筒内の少なくとも温度を高めることによって、前記主噴射の開始時の前記気筒内の温度・圧力状態を着火遅れが所定以下となるようにするための噴射であり、前記前段燃焼は、前記温度−圧力平面上では前記所定の着火遅れに対応する等時間線を跨ぐことに対応し、前記エンジン本体が前記特定運転領域でかつ前記低温状態にあるときには、前記前段燃焼の生起前の気筒内圧力・温度状態が前記二段特性の等時間線における低温部分の近傍となるように、前記過給機により所定以上の過給量を確保して気筒内の少なくとも圧力を高め、それによって、前記前段燃焼に伴い前記等時間線の低温部分を跨ぐようにする、としてもよい。
【0033】
前述したように、エンジン本体が特定運転領域でかつ前記低温状態にあるときには、前段燃焼の生起前の気筒内圧力・温度状態が二段特性の等時間線における低温部分の近傍となるように、過給機により所定以上の過給量を確保して気筒内の少なくとも圧力を高めることで、前段燃焼により等時間線の低温部分を跨ぐことが可能になる。その結果、前段噴射の燃料噴射量を可及的に少なくしつつも、主噴射により噴射された燃料の着火遅れを短くして、主燃焼の制御性が高まる。
【0034】
前記噴射制御手段は、前記前段燃焼による熱発生率がピークを迎えると共に、その熱発生率が低下をし始めた後に、前記主燃焼による熱発生率が上昇を開始するように、前記前段噴射の噴射態様と前記主噴射の噴射態様とをそれぞれ制御する、としてもよい。
【0035】
この構成によって、クランク角の変化に対する熱発生率の変化を示すグラフ上においては、前段燃焼による相対的に低い山と、主燃焼による相対的に高い山との間に、極小値が生じる。つまり、前段燃焼による熱発生率の山のピークは、主燃焼による熱発生率の上昇開始よりも前にずれるため、主燃焼の燃焼音を増大させることは回避しながら、前段燃焼により得られるエネルギによって、主燃焼の開始時点で、気筒内の温度及び圧力を、着火遅れを短くする上で必要十分な状態にまで高める。このことは、主燃焼の着火遅れを短くすると共に、前段噴射の噴射量を必要最小限にし、燃費の向上に有利になる。
【0036】
また、前記噴射制御手段は、前記前段燃焼が気筒内の温度及び圧力を高めることによって、前記主噴射の開始から前記主燃焼が開始するまでの着火遅れが0.1〜0.3msecとなるように、前記前段噴射の噴射態様と前記主噴射の噴射態様とをそれぞれ制御する、としてもよい。
【0037】
主燃焼の着火遅れが0.3msecよりも長くなることは、主燃焼の熱発生率の傾きが急峻になってNVH性能が低下する。一方、主燃焼の着火遅れが0.1msecよりも短くなることは、燃料噴霧のペネトレーションが低下して混合気形成が悪くなり、排気性能を低下させる。
【0038】
ここに開示する別の技術は、幾何学的圧縮比が15以下に設定されかつ、気筒内に供給した燃料を圧縮自着火させる、過給機付ディーゼルエンジンの制御方法である。
【0039】
この制御方法は、前記ディーゼルエンジンが低回転でかつ部分負荷である特定運転領域にあるときであって、前記気筒の圧縮端温度が所定温度よりも低い低温状態時には、前記過給機による過給量を、前記所定温度以上の高温状態時の過給量よりも多い、所定以上の過給量とし、少なくとも前記特定運転領域において、拡散燃焼を主体とした主燃焼の開始前に前段燃焼が生起するように、所定のタイミングで少なくとも1回の燃料噴射を行う前段噴射を実行し、そして、前記前段噴射後に、前記主燃焼のための主噴射を、圧縮上死点又はそれよりも前に開始する。
【発明の効果】
【0040】
以上説明したように、前記の過給機付ディーゼルエンジンの制御装置及び制御方法によると、気筒内圧力(及び温度)を高めることを目的として所定以上の過給量を確保することにより、比較的低圧縮比のエンジンにおいても、前段噴射に伴う前段燃焼によって等時間線の低温部分を跨ぐことが可能になり、前段噴射によって噴射すべき燃料噴射量を可及的に少なくすることができる。そうして主燃焼の制御性が高まり、燃費の向上及びNVH性能の向上の点で有利になる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】過給機付ディーゼルエンジンの構成を示す概略図である。
【図2】ディーゼルエンジンの制御に係るブロック図である。
【図3】ディーゼルエンジンの所定の運転領域における燃料噴射形態の一例と、それに伴う熱発生率の履歴の一例とを示す図である。
【図4】(a)局所当量比を変化させたときの、局所温度に対する着火遅れの関係の一例を示す図、(b)気筒内圧力を変化させたときの、局所温度に対する着火遅れの関係の一例を示す図である。
【図5】気筒内温度と気筒内圧力とをパラメータとした温度−圧力平面上における、着火遅れについてのコンター図の一例である。
【図6】ディーゼルエンジンの制御装置が実行する特定制御をコンター図上で示した説明図である。
【図7】特定制御を実行するディーゼルエンジンの運転領域を例示する図である。
【図8】VGTの通常の動作特性(実線)と、前記の特定制御を実行するときのVGTの動作特性(破線)とを例示する図である。
【図9】噴射態様が相違する場合の気筒内の局所当量比の分布頻度を示し、(a)の噴射態様は8噴孔で噴射1回、(b)の噴射態様は8噴孔で噴射3回、(c)の噴射態様は12噴孔で噴射3回である。
【図10】ディーゼルエンジンの吸気系にスーパーチャージャーを配置した構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、実施形態に係るディーゼルエンジンを図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎない。図1,2は、実施形態に係るエンジン(エンジン本体)1の概略構成を示す。このエンジン1は、車両に搭載されると共に、軽油を主成分とした燃料が供給されるディーゼルエンジンであって、複数の気筒11a(1つのみ図示)が設けられたシリンダブロック11と、このシリンダブロック11上に配設されたシリンダヘッド12と、シリンダブロック11の下側に配設され、潤滑油が貯溜されたオイルパン13とを有している。このエンジン1の各気筒11a内には、ピストン14が往復動可能にそれぞれ嵌挿されていて、このピストン14の頂面にはリエントラント形燃焼室14aを区画するキャビティが形成されている。このピストン14は、コンロッド14bを介してクランクシャフト15と連結されている。
【0043】
前記シリンダヘッド12には、各気筒11a毎に吸気ポート16及び排気ポート17が形成されているとともに、これら吸気ポート16及び排気ポート17の燃焼室14a側の開口を開閉する吸気弁21及び排気弁22がそれぞれ配設されている。
【0044】
これら吸排気弁21,22をそれぞれ駆動する動弁系において、排気弁側には、当該排気弁22の作動モードを通常モードと特殊モードとに切り替える油圧作動式の可変機構(図2参照。以下、VVM(Variable Valve Motion)と称する)が設けられている。このVVM71は、その構成の詳細な図示は省略するが、カム山を1つ有する第1カムとカム山を2つ有する第2カムとの、カムプロファイルの異なる2種類のカム、及び、その第1及び第2カムのいずれか一方のカムの作動状態を選択的に排気弁に伝達するロストモーション機構を含んで構成されており、第1カムの作動状態を排気弁22に伝達しているときには、排気弁22は、排気行程中において一度だけ開弁される通常モードで作動するのに対し、第2カムの作動状態を排気弁22に伝達しているときには、排気弁22が、排気行程中において開弁すると共に、吸気行程中においても開弁するような、いわゆる排気の二度開きを行う特殊モードで作動する。
【0045】
VVM71の通常モードと特殊モードとの切り替えは、エンジン駆動の油圧ポンプ(図示省略)から供給される油圧によって行われ、特殊モードは、内部EGRに係る制御の際に利用される。尚、こうした通常モードと特殊モードとの切り替えを可能にする上で、排気弁22を電磁アクチュエータによって駆動する電磁駆動式の動弁系を採用してもよい。また、内部EGRの実行としては、排気の二度開きに限定されるものではなく、例えば吸気弁21を2回開く、吸気の二度開きによって内部EGR制御を行ってもよいし、排気行程乃至吸気行程において吸気弁21及び排気弁22の双方を閉じるネガティブオーバーラップ期間を設けて既燃ガスを残留させる内部EGR制御を行ってもよい。尚、VVM71による内部EGR制御は、主に燃料の着火性が低いエンジン1の冷間時に行われる。
【0046】
前記シリンダヘッド12には、燃料を噴射するインジェクタ18と、エンジン1の冷間時に各気筒11a内の吸入空気を暖めて燃料の着火性を高めるためのグロープラグ19とが設けられている。前記インジェクタ18は、その燃料噴射口が燃焼室14aの天井面から該燃焼室14aに臨むように配設されていて、基本的には圧縮行程上死点付近で、燃焼室14aに燃料を直接噴射供給するようになっている。
【0047】
前記エンジン1の一側面には、各気筒11aの吸気ポート16に連通するように吸気通路30が接続されている。一方、前記エンジン1の他側面には、各気筒11aの燃焼室14aからの既燃ガス(つまり、排気ガス)を排出する排気通路40が接続されている。これら吸気通路30及び排気通路40には、詳しくは後述するが、吸入空気の過給を行う大型ターボ過給機61と小型ターボ過給機62とが配設されている。
【0048】
吸気通路30の上流端部には、吸入空気を濾過するエアクリーナ31が配設されている。一方、吸気通路30における下流端近傍には、サージタンク33が配設されている。このサージタンク33よりも下流側の吸気通路30は、各気筒11a毎に分岐する独立通路とされ、これら各独立通路の下流端が各気筒11aの吸気ポート16にそれぞれ接続されている。
【0049】
吸気通路30におけるエアクリーナ31とサージタンク33との間には、大型及び小型ターボ過給機61,62のコンプレッサ61a,62aと、該コンプレッサ61a,62aにより圧縮された空気を冷却するインタークーラ35と、前記各気筒11aの燃焼室14aへの吸入空気量を調節するスロットル弁36とが配設されている。このスロットル弁36は、基本的には全開状態とされるが、エンジン1の停止時には、ショックが生じないように全閉状態とされる。
【0050】
前記排気通路40の上流側の部分は、各気筒11a毎に分岐して排気ポート17の外側端に接続された独立通路と該各独立通路が集合する集合部とを有する排気マニホールドによって構成されている。
【0051】
この排気通路40における排気マニホールドよりも下流側には、上流側から順に、小型ターボ過給機62のタービン62b、大型ターボ過給機61のタービン61bと、排気ガス中の有害成分を浄化する排気浄化装置41と、サイレンサ42とが配設されている。
【0052】
この排気浄化装置41は、酸化触媒41aと、ディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、フィルタという)41bとを有しており、上流側から、この順に並んでいる。酸化触媒41a及びフィルタ41bは1つのケース内に収容されている。前記酸化触媒41aは、白金又は白金にパラジウムを加えたもの等を担持した酸化触媒を有していて、排気ガス中のCO及びHCが酸化されてCO及びHOが生成する反応を促すものである。また、前記フィルタ41bは、エンジン1の排気ガス中に含まれる煤等の微粒子を捕集するものである。尚、フィルタ41bに酸化触媒をコーティングしてもよい。
【0053】
前記吸気通路30における前記サージタンク33とスロットル弁36との間の部分(つまり小型ターボ過給機62の小型コンプレッサ62aよりも下流側部分)と、前記排気通路40における前記排気マニホールドと小型ターボ過給機62の小型タービン62bとの間の部分(つまり小型ターボ過給機62の小型タービン62bよりも上流側部分)とは、排気ガスの一部を吸気通路30に還流するための排気ガス還流通路50によって接続されている。この排気ガス還流通路50は、排気ガスの吸気通路30への還流量を調整するための排気ガス還流弁51a及び排気ガスをエンジン冷却水によって冷却するためのEGRクーラ52とが配設された主通路51と、EGRクーラ52をバイパスするためのクーラバイパス通路53と、を含んで構成されている。このクーラバイパス通路53には、クーラバイパス通路53を流通する排気ガスの流量を調整するためのクーラバイパス弁53aが配設されている。
【0054】
大型ターボ過給機61は、吸気通路30に配設された大型コンプレッサ61aと、排気通路40に配設された大型タービン61bとを有している。大型コンプレッサ61aは、吸気通路30におけるエアクリーナ31とインタークーラ35との間に配設されている。一方、大型タービン61bは、排気通路40における排気マニホールドと酸化触媒41aとの間に配設されている。
【0055】
小型ターボ過給機62は、吸気通路30に配設された小型コンプレッサ62aと、排気通路40に配設された小型タービン62bとを有している。小型コンプレッサ62aは、吸気通路30における大型コンプレッサ61aの下流側に配設されている。一方、小型タービン62bは、排気通路40における大型タービン61bの上流側に配設されている。
【0056】
すなわち、吸気通路30においては、上流側から順に大型コンプレッサ61aと小型コンプレッサ62aとが直列に配設され、排気通路40においては、上流側から順に小型タービン62bと大型タービン61bとが直列に配設されている。これら大型及び小型タービン61b,62bが排気ガス流により回転し、これら大型及び小型タービン61b,62bの回転により、該大型及び小型タービン61b,62bとそれぞれ連結された前記大型及び小型コンプレッサ61a,62aがそれぞれ作動する。
【0057】
小型ターボ過給機62は、相対的に小型のものであり、大型ターボ過給機61は、相対的に大型のものである。すなわち、大型ターボ過給機61の大型タービン61bの方が小型ターボ過給機62の小型タービン62bよりもイナーシャが大きい。
【0058】
ここで、小型ターボ過給機62は、エンジン1の運転状態に応じて小型タービン62bに流入する排気ガスの流速を調整可能な可変容量型のターボ過給機(Variable Geometry Turbocharger:VGT)であり、小型タービン62bの入口には、この調整のための可動式のベーン62cが配設されている。VGTの構成は公知であるため、詳細な図示は省略するが、排気ガスは、該各可動式ベーン62c間に形成されるノズル流路を通ってタービン翼列内に流入することになり、支持軸回りに回動可能に支持された各可動式ベーン62cの回動によって、ノズル流路の開度(つまり、ベーン開度)が変更される。ノズル流路の開度を小さく絞ることは流入する排気ガスの流速を高めるため、特にエンジン1の回転数が低いときに開度を小さくすることは、排気ガスの流速を高めると共に、その流れ方向がタービン62bの接線方向(つまり、円周方向)に向くことによって過給効率を高めることになる。但しこの場合、小型タービン62bの上流側の排圧が高まるため、排気抵抗は増加してしまう。
【0059】
一方、ノズル流路の開度を拡大することは、特に、エンジン1の回転数が高いときに開度を大きくすると、大流量を確保して過給効率を高める。また、タービン62bの上流側の排圧が低下して排気抵抗も低減する。
【0060】
吸気通路30には、小型コンプレッサ62aをバイパスする小型吸気バイパス通路63が接続されている。この小型吸気バイパス通路63には、該小型吸気バイパス通路63へ流れる空気量を調整するための小型吸気バイパス弁63aが配設されている。この小型吸気バイパス弁63aは、無通電時には全閉状態(つまり、ノーマルクローズ)となるように構成されている。
【0061】
一方、排気通路40には、小型タービン62bをバイパスする小型排気バイパス通路64と、大型タービン61bをバイパスする大型排気バイパス通路65とが接続されている。小型排気バイパス通路64には、該小型排気バイパス通路64へ流れる排気量を調整するためのレギュレートバルブ64aが配設され、大型排気バイパス通路65には、該大型排気バイパス通路65へ流れる排気量を調整するためのウエストゲートバルブ65aが配設されている。レギュレートバルブ64a及びウエストゲートバルブ65aは共に、無通電時には全開状態(つまり、ノーマルオープン)となるように構成されている。
【0062】
これら大型ターボ過給機61と小型ターボ過給機62は、それらが配設された吸気通路30及び排気通路40の部分も含めて、一体的にユニット化されて、過給機ユニット60を構成している。この過給機ユニット60がエンジン1に取り付けられている。
【0063】
このように構成されたディーゼルエンジン1は、パワートレイン・コントロール・モジュール(以下、PCMという)10によって制御される。PCM10は、CPU、メモリ、カウンタタイマ群、インターフェース及びこれらのユニットを接続するパスを有するマイクロプロセッサで構成されている。このPCM10が制御装置を構成する。PCM10には、図2に示すように、エンジン冷却水の温度を検出する水温センサSW1、サージタンク33に取り付けられて、燃焼室14aに供給される空気の圧力を検出する過給圧センサSW2、吸入空気の温度を検出する吸気温度センサSW3、クランクシャフト15の回転角を検出するクランク角センサSW4、車両のアクセルペダル(図示省略)の操作量に対応したアクセル開度を検出するアクセル開度センサSW5、及び、排気中の酸素濃度を検出するOセンサSW6の検出信号が入力され、これらの検出信号に基づいて種々の演算を行うことによってエンジン1や車両の状態を判定し、これに応じてインジェクタ18、グロープラグ19,動弁系のVVM71、各種の弁36、51a、53aのアクチュエータへ制御信号を出力する。
【0064】
また、PCM10は、エンジンの運転状態において大型及び小型ターボ過給機61,62の動作を制御している。具体的には、PCM10は、小型吸気バイパス弁63a、レギュレートバルブ64a及びウエストゲートバルブ65aの各開度をエンジン1の運転状態に応じて設定した開度にそれぞれ制御する。詳しくは、PCM10は、エンジン1の温間時には、低負荷かつ低回転側の所定領域では、小型吸気バイパス弁63a及びレギュレートバルブ64aを全開以外の開度とし、ウエストゲートバルブ65aを全閉状態とすることによって、大型及び小型ターボ過給機61,62の両方を作動させる。一方、高負荷かつ高回転側の所定領域では、小型ターボ過給機62が排気抵抗になるため、小型吸気バイパス弁63a及びレギュレートバルブ64aを全開状態とし、ウエストゲートバルブ65aを全閉状態に近い開度にすることによって、小型ターボ過給機62をバイパスさせて大型ターボ過給機61のみを作動させる。尚、ウエストゲートバルブ65aは、大型ターボ過給機61の過回転を防止するために少し開き気味に設定している。
【0065】
またPCM10は、小型ターボ過給機(VGT)62の可動式ベーン62cの開度を、エンジン1の運転状態に応じて、不図示のアクチュエータを通じて変更制御する。
【0066】
そうして、このエンジン1は、その幾何学的圧縮比を12以上15以下(例えば14)とした、比較的低圧縮比となるように構成されており、これによって排気エミッション性能の向上及び熱効率の向上を図るようにしている。このエンジン1の低圧縮比化に伴い、PCM10は、詳細は後述するが、エンジン1の未暖機時における所定の運転領域(具体的には、低回転かつ部分負荷の領域)においては、小型吸気バイパス弁63a及びレギュレートバルブ64aを全閉としかつ、可動式ベーン62cの絞り量を大に設定することにより、小型ターボ過給機62を作動させて、所定以上の過給量を確保する。
【0067】
(エンジンの燃焼制御の概要)
前記PCM10によるエンジン1の基本的な制御は、主にアクセル開度に基づいて目標トルク(言い換えると目標となる負荷)を決定し、これに対応する燃料の噴射量や噴射時期等をインジェクタ18の作動制御によって実現するものである。目標トルクは、アクセル開度が大きくなるほど、またエンジン回転数が高くなるほど、大きくなるように設定され、目標トルクとエンジン回転数とに基づいて燃料の噴射量が設定される。噴射量は、目標トルクが高くなるほど、また、エンジン回転数が高くなるほど大きくなるように設定される。また、スロットル弁36や排気ガス還流弁51aの開度の制御(つまり、外部EGR制御)や、VVM71の制御(つまり、内部EGR制御)によって、気筒11a内への排気の還流割合を制御する。
【0068】
図3は、エンジン1の未暖機状態における、燃料噴射形態(上図)及びそれに伴う気筒11a内の熱発生率の履歴の一例(下図)を示している。PCM10は、水温センサSW1の検出結果に基づいて、エンジン1が暖機状態か未暖機状態かを判定する。詳しくは、PCM10は、水温が所定温度(例えば、80℃)以上のときは暖機状態と判定し、水温が当該所定温度未満のときには未暖機状態と判定する。エンジン1が未暖機状態のときには、PCM10は、図3に示すように、圧縮行程中における圧縮上死点に比較的近いタイミングで、比較的短い時間間隔を空けて3回のプレ噴射(前段噴射)を実行すると共に、その後の圧縮上死点付近において主噴射を1回、実行する。つまり、合計4回の燃料噴射を実行する。3回のプレ噴射は、十分な熱発生率を有するプレ燃焼(前段燃焼に相当する)を、その熱発生率のピークが圧縮上死点前の所定の時期に発生するように、生起させる。換言すれば、主燃焼の開始前にプレ燃焼を生起させ、それにより主噴射を開始する時点での気筒11a内の温度及び圧力を高めておく。このことは主噴射により噴射された燃料の着火遅れτmainを短くする。主噴射は、図例で示すように圧縮上死点前の所定のタイミング、又は、圧縮上死点で噴射を開始するが、着火遅れτmainが短いことで、その主噴射に伴う主燃焼は圧縮上死点付近において開始するようになる。このことは、熱効率の向上、ひいては燃費の向上に有利になる。ここで、図3(b)の例では、主燃焼の着火遅れτmainを、主噴射の開始から、主燃焼の熱発生率が上昇を開始するまで、と定義している。この制御では、プレ燃焼による熱発生率がピークを迎えると共に、その熱発生率が低下を始めた後に、主燃焼による熱発生率の上昇が開始するように、プレ噴射の噴射態様と主噴射の噴射態様とを設定しており、プレ燃焼の熱発生率の山と主燃焼の熱発生率との山との間には、極小値が存在している。主燃焼の着火遅れτmainは、主噴射の開始から前記の極小値までと定義することも可能である。
【0069】
また、前記の燃焼は、その後の主燃焼の熱発生率の上昇を緩慢にさせる。このことは燃焼騒音を低減させて、NVH(Noise Vibration Harshness)性能を高める上で有利になる。つまり、プレ噴射及びそれに伴うプレ燃焼は、主燃焼の制御性を高めて主燃焼を所望のタイミングで発生させ、それにより、燃費の向上及びNVH性能の向上に有利になる。
【0070】
さらに、プレ燃焼による熱発生率の山のピークは、主燃焼による熱発生率の上昇開始よりも前にずれるため、主燃焼の燃焼音を増大させることは回避しながら、プレ燃焼により得られるエネルギによって、主燃焼の開始時点で、気筒内の温度及び圧力を、着火遅れを短くする上で必要十分な状態にまで高めることが可能になる。このことは、着火遅れを短くすることは勿論のこと、前段噴射の噴射量を必要最小限にし、燃費の向上に有利になる。
【0071】
ここで、プレ噴射を3回に分けて行うことは、プレ燃焼の制御性を向上させる上で有利である。すなわち、プレ噴射の総噴射量は、プレ燃焼により発生させたい熱量、つまり詳しくは後述するが、主噴射の開始時点において要求される筒内温度及び圧力とするために必要な熱量によって決定される。そうして決定した総噴射量を、仮に1回のプレ噴射によって気筒11a内に供給してしまうと、比較的大量の燃料を、長いパルスで継続して噴射することになるため、その燃料は気筒内で広く拡散してしまい、混合気の(局所)当量比は低くなってしまう。当量比の低下は、プレ燃焼の着火遅れτpreを長くする。これに対し、必要な総噴射量を複数回に分けて噴射することは1回当たりの噴射量を少なくするから、燃料の拡散を抑制する。そのため、先の噴射によって、拡散が抑制されて付近に漂っている局所リッチとなった混合気に、後から噴射した燃料が追いついて、そこに含まれるようになり、局所当量比の高い(例えば当量比が2〜3)の混合気を形成することが可能になる。このことはプレ燃焼の着火遅れτpreを短くして、プレ燃焼の発生タイミングを精度よく制御することを可能にする。つまり、プレ燃焼を、上述のように、その熱発生率のピークを、圧縮上死点前の所定の時期に精度よく発生させることを可能にする。このことは、主燃焼を所望のタイミングで安定させて生じさせることにつながると共に、主燃焼の燃焼騒音を低減する上でも有利になる。
【0072】
図9は、噴射態様が相違する場合の気筒11a内の局所当量比の分布頻度を示している。(a)は、インジェクタ18の噴孔数を8とし、噴射を1回だけ行った場合の局所当量比の分布頻度であり、局所当量比φが1以上となる頻度は4.4%と低い。この場合、着火性が悪いため、着火遅れは長くなる。また、着火性の悪さに起因して、プレ燃焼によって所望の熱量を得るには、燃料噴射量を増量しなければならない。
【0073】
これに対し、(b)は、8噴孔で噴射回数を3回にした場合の局所当量比の分布頻度である。局所当量比φが1以上となる頻度は48.6%となり、噴射回数を増やすことによって着火性が改善している。
【0074】
また、(c)は、インジェクタ18の噴孔数を12に増やし、噴射回数を3回にした場合の局所当量比の分布頻度である。この場合は、局所当量比φが1以上となる頻度は60.4%となり、噴孔数を増やすことによっても着火性が改善する。
【0075】
以上から、プレ噴射によって局所当量比を高めて、プレ燃焼の制御性を高める観点からは、噴射回数は多い方が有利であるが、噴射回数が多すぎると、噴射と噴射との間に十分な間隔を空けられずに、当量比がそれほど高まらないことも予想される。従って、プレ噴射の噴射回数は、最大でも3回程度が好ましい。尚、例えばエンジン負荷が高まるといった、着火性に有利な条件においては、プレ噴射の噴射回数を減らしてもよい。また、インジェクタ18の噴孔数は多い方が、プレ噴射による局所当量比を高めて、プレ燃焼の制御性を高める上で有利になるが、噴孔数が増えれば増えるほど、孔径の縮小により噴霧の到達距離が短くなることから、インジェクタの噴孔数は8〜12程度が適している。
【0076】
また、3回のプレ噴射は、その各回の噴射によって噴射された燃料の全てが、キャビティ内に至るタイミングで実行される。これは、圧縮行程中において、圧縮上死点に向かってピストン14が上昇している最中に、インジェクタ18から噴射した燃料噴霧が、キャビティ内に直接入る場合、及び、インジェクタ18から噴射した燃料噴霧が、キャビティのリップ部等に当たって外に漏れたとしても、その後、ピストン14が圧縮上死点付近にまで上昇したときには、その漏れた燃料噴霧がキャビティ内に入る場合の双方を含んでいる。このことにより、キャビティ内に、局所当量比の高い混合気が形成されるため、プレ燃焼の着火遅れτpreがさらに短くなり、プレ燃焼の制御性がさらに高まる。
【0077】
尚、このような燃焼制御は、エンジン1の未暖機状態であるという条件に加えて、又は、その条件に代えて、気筒11a内の着火性が低下する外気温度が0℃以下の条件、及び/又は、標高1000m以上の条件のときに行うようにしてもよい。外気温度は外気温センサにより、標高は標高センサにより検出することが可能である。言い換えると、圧縮端温度が所定温度よりも低いこと(以下、これを低温度状態ともいう)を条件としてもよい。
【0078】
そして、このディーゼルエンジン1においては、前述したプレ噴射及び主噴射を実行する前提において、エンジン1が低圧縮比であり、しかも低温度状態であるが故に気筒11a内の圧縮端温度及び圧縮端圧力が低くなることに起因して、プレ噴射によって大量の燃料を噴射しなければならないという問題が生じる。そこで、この問題を解決すべく、このディーゼルエンジン1の制御装置では、過給を利用して気筒内の圧力(及び温度)を高め、それによってプレ噴射の燃料噴射量を少なくしている。このことについて、図を参照しながら説明する。
【0079】
図4は、化学反応シミュレーションソフトウエアを用いて、気筒内の圧縮着火(低温度自着火)現象を解析したシミュレーション結果の一例を示している。図4(a)は、所定の筒内圧力(例えば4MPa)において、混合気の局所当量比φを低(φ=1.0)、中(φ=2.0)、高(φ=3.0)にそれぞれ変更した場合の、混合気の局所温度の変化に対する着火遅れの変化の関係を示している。図4(a)にプロットされている局所温度範囲は、700〜1200Kに相当する。これによると、局所当量比が低いほど着火遅れは長くなり、局所当量比が高いほど着火遅れは短くなる。また基本的には、局所当量比が一定であれば、局所温度が高いほど(図の左側ほど)着火遅れは短くなり、局所温度が低いほど(図の右側ほど)着火遅れは長くなるものの、着火遅れは、局所温度の変化に対して一様には変化せずに、局所温度を低温度側から高温度側へと変化させたときには、着火遅れが、一旦長くなる温度帯が存在している。
【0080】
また、図4(b)に示すように、所定の局所当量比(φ=1.0)において、筒内圧力Pを低(P=2MPa)、中(P=3MPa)、高(P=4MPa)にそれぞれ変更した場合の、局所温度の変化に対する着火遅れの変化の関係を示している。図4(b)にプロットされている局所温度範囲も、700〜1200Kに相当する。これによると、筒内圧力が低いほど着火遅れは長くなり、筒内圧力が高いほど着火遅れは短くなる。また基本的には、筒内圧力が一定であれば、局所温度が高いほど(図の左側ほど)着火遅れは短くなり、局所温度が低いほど(図の右側ほど)着火遅れは長くなるものの、着火遅れは、局所温度の変化に対して一様には変化せずに、局所温度を低温度側から高温度側へと変化させたときには、着火遅れが、一旦長くなる温度帯が存在している。
【0081】
このように着火遅れが混合気の局所温度の変化に対し一様に変化しない理由は、次のように考えられる。つまり低温度自着火では、発熱を伴う熱炎と、熱炎の前の冷炎と呼ばれる低温度炎とが発現すると共に、冷炎反応が活発になる温度域が存在している。つまり、冷炎反応が活発になる温度域では、冷炎反応が長く継続し、その後に熱炎反応が発現するため、熱炎反応が発現するまでの時間が長く、換言すれば気筒内における着火遅れが長くなってしまうのである。
【0082】
こうした図4(a)(b)に例示するシミュレーション結果に基づき、縦軸を気筒内温度、横軸を気筒内圧力とした温度−圧力平面上で、着火遅れが一定となる温度・圧力状態をつないだ等時間線を含むコンター図を作成することが可能であり、これを図5に例示する。同図において実線で示す等時間線は、例えば局所当量比φがφ=3、着火遅れτがτ=0.2msecに相当し、破線で示す等時間線は、例えば局所当量比φがφ=1、着火遅れτがτ=1.5msecに相当する。図示は省略するが、このコンター図における等時間線は、その局所当量比φが変化することに応じて位置を変化させ、具体的には、局所当量比が低いほど右乃至上方に位置して、当該等時間線よりも左乃至下側の領域が大きくなるのに対し、局所当量比が高いほど等時間線は左乃至下方に位置して、当該等時間線よりも左乃至下側の領域が小さくなる。また、このコンター図において、着火遅れが短くなるほど、同図に一点鎖線の矢印及び一点鎖線で示すように、等時間線は右乃至上側に位置する。このため、気筒内の温度・圧力状態が、例えば実線で示す等時間線よりも右乃至上側の領域にあるときには着火遅れが0.2msecよりも短くなり、逆に、気筒内の温度・圧力状態が、実線で示す等時間線よりも左乃至下側の領域にあるときには着火遅れが0.2msecよりも長くなることになる。例えば主噴射により噴射された燃料の着火遅れを短くして、主燃焼の制御性を高めるためには、主噴射を開始する時点での気筒11a内の温度・圧力状態を、図5に示す実線の等時間線よりも右乃至上側の領域にしなければならず、図5に示す実線の等時間線は、例えば主噴射に係る着火遅れτmainをτ(=0.2msec)に設定するための等時間線と定義することができる。ここで、τの等時間線は、当量比φ=1〜3でかつ、τ=0.1〜0.3msecで適宜設定することが好ましい。0.3msecよりも長い着火遅れは、主燃焼の熱発生率の傾きを急峻にして、NVH性能の低下を招く。一方、0.1msecよりも短い着火遅れは、燃料噴霧のペネトレーションが低下して混合気形成が悪くなり、排気性能が低下する。
【0083】
一方、図5に示す破線の等時間線は、例えばプレ噴射に係る着火遅れτpreをτ(=1.5msec)に設定するための等時間線と定義することが可能であり、プレ噴射を開始する時点での気筒11a内の温度・圧力状態を、図5に示す破線の等時間線よりも左乃至下側の領域にあるときには、プレ噴射により噴射された燃料の着火遅れが長くなりすぎて、プレ燃焼を圧縮上死点前の所定の時期に発生させることが不可能になる。τの等時間線は、当量比φ=1〜3でかつ、τ≦1.5msec以下に設定してもよい。こうすることで、プレ燃焼の熱発生率のピークを圧縮上死点前に発生させることが、より確実になり、主燃焼の制御性を高める上で有利になる。
【0084】
プレ燃焼は、気筒内の温度及び圧力を高めることに伴い、図5における黒四角の状態から白丸の状態へと移行させるための燃焼である。前述したように、主噴射を開始する時点での気筒11a内の温度・圧力状態を、図5に示す実線の等時間線よりも右乃至上側の領域にしなければならないことから、プレ燃焼は、図5において実線の矢印で示すように、気筒内の状態を等時間線よりも左乃至下側の領域から右乃至上側の領域への移行させるように、等時間線を跨ぐための燃焼と言い換えることが可能である。
【0085】
ここで、図4(a)(b)において説明したように、着火遅れは気筒内の温度変化に対して単調に変化しないことに起因して、図5に示す等時間線は、気筒内圧力が比較的低い範囲(図5において相対的に左側の範囲)では、比較的高い温度となる(以下、ここを高温部分と呼ぶ)のに対し、気筒内圧力が比較的高い範囲(図5において相対的に右側の範囲)では、高温部分に対して一段低い温度となる(以下ここを低温部分と呼ぶ)二段特性を有し、いわばS字を反転させた逆S字状のカーブとなる。
【0086】
一方、このエンジン1は、幾何学的圧縮比を比較的低く設定しているが、図5に、所定の運転状態(着火が不安定になりがちな低外気温、低水温、低負荷の代表条件の例である、エンジン回転数:1000rpm、無負荷、エンジン水温:10℃、外気温度:−25℃、低地)での、幾何学的圧縮比εをそれぞれ13〜19としたエンジンにおける圧縮端温度・圧力(つまり、モータリング時の温度・圧力)を、それぞれ黒四角で示すと、幾何学的圧縮比εが低いほど左下に位置し、幾何学的圧縮比εが高いほど右上に位置するようになる。そうして、各々の黒四角から、プレ燃焼により等時間線を跨いで、白丸へと移行させることを考えると、幾何学的圧縮比εが比較的低いε=13、14,15のときには、図5において相対的に左側に位置しているため、等時間線における高温部分を跨いで白丸へと移行させることになるのに対し、幾何学的圧縮比εが比較的高いε=16、17、18、19のときには、図5において相対的に右側に位置しているため、等時間線における低温部分を跨いで白丸へと移行させることになる。ここで各黒四角と各白丸とを結ぶ矢印の長さは、プレ噴射において噴射する燃料の噴射量に対応し、矢印の長さが長いほど燃料の噴射量が多く、矢印の長さが短いほど燃料の噴射量が少ない。このため、幾何学圧縮比εが16以上の、比較的高圧縮比のエンジンの場合は、プレ燃焼によって等時間線における低温部分を跨ぐことが可能であるため、プレ噴射において噴射すべき燃料噴射量は少なくなるのに対し、幾何学的圧縮比εが15以下(ε=13,14,15)の、比較的低圧縮比のエンジンの場合は、プレ燃焼によって等時間線における高温部分を跨がなければならないため、プレ噴射において噴射すべき燃料噴射量は、大幅に多くなってしまう。
【0087】
そこで、このディーゼルエンジン1においては、前述の通り、過給を利用して気筒11a内の圧力(及び温度)を高め、それによって、プレ噴射に必要な噴射量を少なくする。具体的には、図6に白抜きの矢印で示すように、過給を行うことで、プレ燃焼前の気筒内の状態を、符号C00で示す黒四角から、符号C01で示す黒四角へと、温度−圧力平面において右上方向に移動させる。このことにより、プレ燃焼前の気筒内の温度・圧力状態を、低温部分の近傍へと移動させ、プレ燃焼によって等時間線の低温部分を跨いで、符号C11で示す白丸へと移行させることが可能になる。これによって、プレ噴射の燃料噴射量は、符号C00で示す黒四角から等時間線の高温部分を跨いで符号C10で示す白丸へと移行させる場合と比較して、大幅に少なくなる。こうして、プレ燃焼によって主噴射開始時点での気筒内の温度・圧力状態を最適化して、その着火遅れ短くし、主燃焼の制御性を高めつつも、プレ噴射の燃料噴射量を少なくすることが実現する。
【0088】
このような特定制御は特に、図7にハッチングを付して示すように、エンジン1が未暖機状態であると共に、低回転でかつ、部分負荷の領域、より具体的には、例えばエンジンの回転数域を低、中、高の3つの領域に分けたときの低回転の領域でかつ、図7に例示されるロード(Road)/ロード(Load)ラインよりも、若干負荷の高いような領域において実行される。つまり、従来であれば、エンジン1が低回転であることで過給が実質的に行われない一方で、負荷が低いが故にトルク要求がほとんどないような運転領域において、所定以上の過給量を確保して、プレ燃焼によって等時間線の低温部分を跨ぐことが可能なように、気筒内の圧力(及び温度)を高めることに相当する。
【0089】
つまり、このディーゼルエンジン1における特定制御は、従来であれば過給要求がないような領域で、トルク向上を目的とするのではなく、図5、6に示すような温度−圧力平面上のコンター図において着火遅れに係る等時間線が高温部分と低温部分とを含む二段特性(逆S字カーブ特性)となるとの知見から、プレ噴射による噴射量を少なくすることを目的として、所定以上の過給量を確保する制御である。そのために、PCM10は、小型吸気バイパス弁63a及びレギュレートバルブ64aを全閉とする。尚、レギュレートバルブ64aは全閉でなくても、小型ターボ過給機62が十分に作動して過給量が増える程度に、小型排気バイパス通路64の流量を減らすような開度に設定してもよい。それと共に、小型ターボ過給機62の可動式ベーン62cの制御を通じて、必要な過給量を確保する。図8に例示するように、エンジン1の通常の運転状態においては、排気流量の増大に応じて可動式ベーン62cの絞り量を概ね単調に増加させるような特性で、可動式ベーン62cの絞り量を制御するのに対し(図8の実線参照)、前述したようにエンジン1が未暖機状態であると共に、低回転でかつ、部分負荷の領域で、従来であれば実質的に過給が行われないような、特定制御を実行する運転領域では、図8において破線で示すように、可動式ベーン62cの絞り量をさらに大きくする。例えば、可動式ベーン62cの絞り量を、従来の構成よりもさらに大きくすることが可能となるように、可動式ベーン62cの回動可能な角度範囲を拡大させてもよい。このことにより、エンジン1が低回転で排気流量が少ないときに、小型ターボ過給機62の作動を通じて所定以上の過給量を確保することが可能になる。
【0090】
「所定以上の過給量」は、例えば図6に示すコンター図において、白抜きの矢印の長さに対応するが、この所定以上の過給量は、気筒内の状態を、目標とする着火遅れに対応する等時間線に対し、その低温部分の近傍へと移動させて、プレ燃焼によって低温部分を跨ぐことが可能となる過給量と定義することが可能である。つまり、少ない過給量、換言すれば白抜きの矢印の長さが短いときは、例えばC00の黒四角で示される気筒内の状態を、等時間線の低温部分の近傍にまで移動させることができず、プレ燃焼によって低温部分を跨ぐことができなくなる。そのため、前述したプレ噴射の燃料噴射量を少なくするためには、所定以上の過給量が必要であり、その所定の過給量は、気筒11a内の温度・圧力状態と、目標とする着火遅れに対応する等時間線との相対的な距離に応じて設定される。
【0091】
尚、可動式ベーン62cの絞り量を大にすることで排気抵抗が増加するが、この特定制御を実行する運転領域はもともと負荷が低く、燃料噴射総量が少ないため、燃焼安定性が相対的に低い運転領域である。このため、排気抵抗の増加に伴い燃料噴射総量が増えることは、燃焼安定性を高める上で有利になる。
【0092】
また、こうした特定制御を実行する運転領域よりも負荷が高い領域では、負荷の上昇に伴い燃料噴射総量が増えてプレ噴射の噴射量も増えるため、プレ燃焼によって等時間線の高温部分であっても、これを跨ぐことが可能になる一方、特定制御を実行する運転領域よりも回転数の高い領域では、回転数の上昇に伴い過給量が増えるため、自動的に、コンター図における相対的に右側の圧力範囲になるため、プレ噴射の噴射量も比較的少なくなる。
【0093】
さらに、この特定制御は、エンジン1の未暖機状態であるときに実行されるが、前述したように、その条件に加えて、又は、その条件に代えて、気筒11a内の着火性が低下する外気温度が0℃以下の条件、及び/又は、標高1000m以上の条件のときに行うようにしてもよい。エンジン1が未暖機状態である、及び、外気温が低いという条件は、図5、6に示すコンター図においては、プレ燃焼前の気筒内の状態である黒四角の位置を、概ね下方へと移動させることに対応し、空気密度が低いという条件は、黒四角の位置を概ね左乃至下方向へと移動させることに対応し、いずれも、等時間線から離れる方向である。従って、エンジン1の運転状態が低回転かつ部分負荷の領域にありかつ、圧縮端温度が所定温度よりも低い低温状態のときには、所定以上の過給量を確保することにより、プレ噴射の燃料噴射量を少なくする上でより有利になる。逆に、圧縮端温度が所定温度以上の高温状態のときは、過給量をそれほど増やさなくても、比較的少量のプレ噴射によって、主燃焼の着火遅れを短くすることが可能である。
【0094】
尚、ディーゼルエンジン1の制御として、例えば図5乃至図6に示すコンター図をマップとしてPCM10に保存しておき、各種パラメータの検出を通じて気筒内の温度・圧力状態、つまり黒四角を推定し、その黒四角の位置に応じて過給量及びプレ噴射量を設定するような制御を行ってもよい。また、コンター図をマップとしてPCM10に保存するのではなく、着火遅れに係るモデルをPCM10に保存しておき、各種パラメータの検出とモデルとに基づいて、気筒内の温度・圧力状態(黒四角)と、等時間線とをそれぞれ推定し、それらに応じて過給量及びプレ噴射量を設定するような制御を行ってもよい。
【0095】
また、前記の構成では、過給機の構成として、2ステージターボにおける小型ターボ過給機をVGTとしているが、例えばこの小型ターボ過給機がVGTでなくノーマルターボである(大型ターボ過給機もノーマルターボである)2ステージターボの構成としてもよいし、小型ターボ過給機及び大型ターボ過給機の双方をVGTとした2ステージターボの構成としてもよい。さらには、2ステージターボではなく、VGTのシングルターボ構成としてもよい。
【0096】
これらターボ過給機の各種の構成に関し、前述した特定制御時には、2ステージターボの構成においては、前記と同様に、小型ターボ過給機の小型タービンをバイパスする小型排気バイパス通路上のレギュレートバルブの制御を通じてその流量を小さく(実質的にゼロに)すればよく、また、VGTのシングルターボ構成においては、VGTをバイパスするバイパス通路上のバルブ制御を通じてその流量を小さく(実質的にゼロに)すると共に、VGTのベーン制御を行えばよい。
【0097】
さらに、図10に概略的に示すように、ターボチャージャーに代えて、機械駆動式圧縮機、例えばエンジン1によって駆動されるスーパーチャージャー81を、吸気通路30上に配置してもよい。この構成においては、スーパーチャージャー81をバイパスするバイパス路82を設け、このバイパス路82に流量を調整するための調整弁83を介設すればよい。前述した特定制御時には、調整弁83の制御を通じて、バイパス路82の流量を小さく(実質的にゼロに)すると共に、スーパーチャージャー81の駆動によって、必要な過給量を確保すればよい。また、図示は省略するが、スーパーチャージャー81に代えて、タービンシャフトに電動モータを取り付けた電動アシストターボを取り付け、前述した特定制御時には、電動アシストターボを強制的に駆動させてもよい。
【符号の説明】
【0098】
1 ディーゼルエンジン(エンジン本体)
10 PCM(噴射制御手段)
11a 気筒
18 インジェクタ(燃料噴射弁)
61 大型ターボ過給機
62 小型ターボ過給機
62c 可動式ベーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
幾何学的圧縮比が15以下に設定されかつ、気筒内に供給した燃料を圧縮自着火させるエンジン本体と、
前記気筒内への吸入空気を過給する過給機と、
前記気筒内に臨んで配設されかつ、当該気筒内に燃料を直接噴射する燃料噴射弁と、
前記燃料噴射弁を通じた前記気筒内への前記燃料の噴射形態を制御する噴射制御手段と、を備え、
前記エンジン本体が低回転でかつ部分負荷である特定運転領域にあるときであって、前記気筒の圧縮端温度が所定温度よりも低い低温状態時には、前記過給機による過給量を、前記所定温度以上の高温状態時の過給量よりも多い、所定以上の過給量としつつ、
前記噴射制御手段は、少なくとも前記特定運転領域では、拡散燃焼を主体とした主燃焼を行うために圧縮上死点又はそれよりも前に燃料噴射を開始する主噴射と、前記主燃焼の開始前に前段燃焼が生起するように、前記主噴射よりも前のタイミングで少なくとも1回の燃料噴射を行う前段噴射と、を実行する過給機付ディーゼルエンジンの制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の過給機付ディーゼルエンジンの制御装置において、
前記過給機は、前記エンジン本体の排気通路上にそれぞれ配置した、相対的に小容量のタービンを含む第1のターボ過給機と相対的に大容量のタービンを含む第2のターボ過給機とを有する2ステージターボ過給機であって、前記エンジン本体が少なくとも前記特定運転領域でかつ前記低温状態にあるときには、前記第1のターボ過給機を作動させることによって前記所定以上の過給量を確保する過給機付ディーゼルエンジンの制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の過給機付ディーゼルエンジンの制御装置において、
前記過給機は、前記エンジン本体の排気通路上のタービンに可動式ベーンを設けた可変容量型のターボ過給機であって、前記エンジン本体が少なくとも前記特定運転領域でかつ前記低温状態にあるときには、前記ベーン開度を絞って前記過給機を作動させることによって前記所定以上の過給量を確保する過給機付ディーゼルエンジンの制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の過給機付ディーゼルエンジンの制御装置において、
前記過給機をバイパスするバイパス通路と、当該バイパス通路の流量を調整する調整弁とをさらに備え、
前記エンジン本体が少なくとも前記特定運転領域でかつ前記低温状態にあるときには、前記バイパス通路の流量を小さくすることによって前記所定以上の過給量を確保する過給機付ディーゼルエンジンの制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の過給機付ディーゼルエンジンの制御装置において、
前記過給機は、前記エンジン本体の排気通路上のタービンに可動式ベーンを設けた可変容量型のターボ過給機であり、
前記バイパス通路は、前記タービンをバイパスし、
前記エンジン本体が少なくとも前記特定運転領域でかつ前記低温状態にあるときには、前記バイパス通路の流量を小さくすると共に、前記ベーン開度を絞って前記過給機を作動させることによって前記所定以上の過給量を確保する過給機付ディーゼルエンジンの制御装置。
【請求項6】
請求項4に記載の過給機付ディーゼルエンジンの制御装置において、
前記過給機は、前記エンジン本体の排気通路上にそれぞれ配置した、相対的に小容量のタービンを含む第1のターボ過給機と相対的に大容量のタービンを含む第2のターボ過給機とを有する2ステージターボ過給機であり、
前記バイパス通路は、前記第1のターボ過給機のタービンをバイパスし、
前記エンジン本体が少なくとも前記特定運転領域でかつ前記低温状態にあるときには、前記バイパス通路の流量を小さくすることによって前記所定以上の過給量を確保する過給機付ディーゼルエンジンの制御装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の過給機付ディーゼルエンジンの制御装置において、
前記噴射制御手段は、前記エンジン本体が少なくとも前記特定運転領域にあるときには、前記前段噴射として複数回の噴射を実行すると共に、その各噴射を、当該各噴射毎に噴射される燃料が前記気筒に嵌挿したピストン頂面のキャビティ内に至るようなタイミングで実行する過給機付ディーゼルエンジンの制御装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の過給機付ディーゼルエンジンの制御装置において、
前記エンジン本体は、前記気筒内の温度と圧力とをそれぞれパラメータとする温度−圧力平面上で、前記燃料噴射弁を通じて前記気筒内に噴射した燃料の着火遅れが一定となる温度・圧力状態をつないだ等時間線が、前記気筒内圧力が比較的低い範囲では相対的に高い気筒内温度となる一方で、前記気筒内圧力が比較的高い範囲では、前記相対的に高い気筒内温度に対し一段低い気筒内温度となるような、高温部分と低温部分とを含む二段特性を有しており、
前記前段噴射は、前記前段燃焼の生起に伴い前記気筒内の圧力及び温度を共に高めることによって、前記主噴射の開始時の前記気筒内の温度・圧力状態を着火遅れが所定以下となるようにするための噴射であり、前記前段燃焼は、前記温度−圧力平面上では前記所定の着火遅れに対応する等時間線を跨ぐことに対応し、
前記エンジン本体が前記特定運転領域でかつ前記低温状態にあるときには、前記前段燃焼の生起前の気筒内圧力・温度状態が前記二段特性の等時間線における低温部分の近傍となるように、前記過給機により所定以上の過給量を確保して気筒内の少なくとも圧力を高め、それによって、前記前段燃焼に伴い前記等時間線の低温部分を跨ぐようにする過給機付ディーゼルエンジンの制御装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の過給機付ディーゼルエンジンの制御装置において、
前記噴射制御手段は、前記前段燃焼による熱発生率がピークを迎えると共に、その熱発生率が低下をし始めた後に、前記主燃焼による熱発生率が上昇を開始するように、前記前段噴射の噴射態様と前記主噴射の噴射態様とをそれぞれ制御する過給機付ディーゼルエンジンの制御装置。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の過給機付ディーゼルエンジンの制御装置において、
前記噴射制御手段は、前記前段燃焼が気筒内の温度及び圧力を高めることによって、前記主噴射の開始から前記主燃焼が開始するまでの着火遅れが0.1〜0.3msecとなるように、前記前段噴射の噴射態様と前記主噴射の噴射態様とをそれぞれ制御する過給機付ディーゼルエンジンの制御装置。
【請求項11】
幾何学的圧縮比が15以下に設定されかつ、気筒内に供給した燃料を圧縮自着火させる、過給機付ディーゼルエンジンの制御方法であって、
前記ディーゼルエンジンが低回転でかつ部分負荷である特定運転領域にあるときであって、前記気筒の圧縮端温度が所定温度よりも低い低温状態時には、前記過給機による過給量を、前記所定温度以上の高温状態時の過給量よりも多い、所定以上の過給量とし、
少なくとも前記特定運転領域において、拡散燃焼を主体とした主燃焼の開始前に前段燃焼が生起するように、所定のタイミングで少なくとも1回の燃料噴射を行う前段噴射を実行し、そして、
前記前段噴射後に、前記主燃焼のための主噴射を、圧縮上死点又はそれよりも前に開始する過給機付ディーゼルエンジンの制御方法。
【請求項12】
請求項11に記載の過給機付ディーゼルエンジンの制御方法において、
前記過給機は、前記ディーゼルエンジンの排気通路上にそれぞれ配置した、相対的に小容量のタービンを含む第1のターボ過給機と相対的に大容量のタービンを含む第2のターボ過給機とを有する2ステージターボ過給機であり、
前記ディーゼルエンジンが少なくとも前記特定運転領域でかつ前記低温状態にあるときに、前記第1のターボ過給機を作動させる過給機付ディーゼルエンジンの制御方法。
【請求項13】
請求項11に記載の過給機付ディーゼルエンジンの制御方法において、
前記過給機は、前記ディーゼルエンジンの排気通路上のタービンに可動式ベーンを設けた可変容量型のターボ過給機であり、
前記ディーゼルエンジンが少なくとも前記特定運転領域でかつ前記低温状態にあるときには、前記ベーン開度を絞って前記過給機を作動させる過給機付ディーゼルエンジンの制御方法。
【請求項14】
請求項11に記載の過給機付ディーゼルエンジンの制御方法において、
前記ディーゼルエンジンが少なくとも前記特定運転領域でかつ前記低温状態にあるときには、前記過給機をバイパスするバイパス通路の流量を小さくする過給機付ディーゼルエンジンの制御方法。
【請求項15】
請求項14に記載の過給機付ディーゼルエンジンの制御方法において、
前記過給機は、前記ディーゼルエンジンの排気通路上のタービンに可動式ベーンを設けた可変容量型のターボ過給機であり、
前記ディーゼルエンジンが少なくとも前記特定運転領域でかつ前記低温状態にあるときには、前記タービンをバイパスするバイパス通路の流量を小さくすると共に、前記ベーン開度を絞って前記過給機を作動させる過給機付ディーゼルエンジンの制御方法。
【請求項16】
請求項14に記載の過給機付ディーゼルエンジンの制御方法において、
前記過給機は、前記エンジン本体の排気通路上にそれぞれ配置した、相対的に小容量のタービンを含む第1のターボ過給機と相対的に大容量のタービンを含む第2のターボ過給機とを有する2ステージターボ過給機であり、
前記ディーゼルエンジンが少なくとも前記特定運転領域でかつ前記低温状態にあるときには、前記第1のターボ過給機のタービンをバイパスするバイパス通路の流量を小さくする過給機付ディーゼルエンジンの制御方法。
【請求項17】
請求項11〜16のいずれか1項に記載の過給機付ディーゼルエンジンの制御方法において、
前記ディーゼルエンジンが少なくとも前記特定運転領域にあるときに、前記前段噴射として複数回の噴射を実行すると共に、その各噴射を、当該各噴射毎に噴射される燃料が前記気筒に嵌挿したピストン頂面のキャビティ内に至るようなタイミングで実行する過給機付ディーゼルエンジンの制御方法。
【請求項18】
請求項11〜17のいずれか1項に記載の過給機付ディーゼルエンジンの制御方法において、
前記ディーゼルエンジンは、前記気筒内の温度と圧力とをそれぞれパラメータとする温度−圧力平面上で、前記気筒内に噴射した燃料の着火遅れが一定となる温度・圧力状態をつないだ等時間線が、前記気筒内圧力が比較的低い範囲では相対的に高い気筒内温度となる一方で、前記気筒内圧力が比較的高い範囲では、前記相対的に高い気筒内温度に対し一段低い気筒内温度となるような、高温部分と低温部分とを含む二段特性を有しており、
前記ディーゼルエンジンが前記特定運転領域でかつ前記低温状態にあるときには、前記過給機により所定以上の過給量を確保して気筒内の少なくとも圧力を高めることによって、前記前段燃焼の生起前の気筒内圧力・温度状態を前記二段特性の等時間線における低温部分の近傍となるようにし、そして、
前記前段燃焼を実行することによって、前記気筒内の温度・圧力状態を前記等時間線の低温部分を跨がせる過給機付ディーゼルエンジンの制御方法。
【請求項19】
請求項11〜18のいずれか1項に記載の過給機付ディーゼルエンジンの制御方法において、
前記前段燃焼による熱発生率がピークを迎えると共に、その熱発生率が低下をし始めた後に、前記主燃焼による熱発生率が上昇を開始するように、前記前段噴射の噴射態様と前記主噴射の噴射態様とをそれぞれ決定し、
前記決定した噴射態様に従って、圧縮行程中に複数回の前記前段噴射を実行し、そして、
前記前段噴射の後に、前記決定した噴射態様に従って前記主噴射を実行する過給機付ディーゼルエンジンの制御方法。
【請求項20】
請求項11〜18のいずれか1項に記載の過給機付ディーゼルエンジンの制御方法において、
前記前段燃焼が気筒内の温度及び圧力を高めることによって、前記主噴射の開始から前記主燃焼が開始するまでの主燃焼の着火遅れが0.1〜0.3msecとなるように、前記前段噴射の噴射態様と前記主噴射の噴射態様とをそれぞれ決定し、
前記決定した噴射態様に従って、圧縮行程中に複数回の前記前段噴射を実行し、そして、
前記前段噴射の後に、前記決定した噴射態様に従って前記主噴射を実行するディーゼルエンジンの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−62879(P2012−62879A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−90030(P2011−90030)
【出願日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】