説明

酸化物半導体ターゲットおよび酸化物半導体膜の製造方法

【課題】低コストで、かつ、高品質な酸化物半導体ターゲットを形成することのできる技術を提供する。
【解決手段】薄膜トランジスタのチャネル層を構成する酸化物半導体の製造に使用する亜鉛錫複合酸化物(ZTOターゲット)の製造工程において、意図的に原材料にIV族元素(C、Si、Ge)またはV族元素(N、P、As)を添加することによって、ZTOターゲットの製造工程時に混入されたIII族元素(Al)による過剰キャリアを抑制し、良好な電流(Id)−電圧(Vg)特性を有する薄膜トランジスタを実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物半導体ターゲットおよびその酸化物半導体ターゲットを用いた酸化物半導体膜の製造技術に関し、特に、酸化亜鉛および酸化錫を主材料とする酸化物焼結体からなる酸化物半導体ターゲット、およびその酸化物半導体ターゲットを用いたスパッタリング法または蒸着法による酸化物半導体膜の製造に適用して有効な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、表示デバイスは、ブラウン管を用いた表示デバイスから、液晶ディスプレイまたはプラズマディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ(Flat Panel Display:FPD)と呼ばれる平面型表示デバイスへと進化を遂げている。FPDでは、液晶による表示切り替えに関わるスイッチング素子として、薄膜トランジスタが採用されている。例えば、液晶ディスプレイのスイッチング素子としては、非晶質シリコンまたは多結晶シリコンをチャネル層に適用した薄膜トランジスタが採用されている。このようなFPDには、更なる大面積化またはフレキシブル化等の新機能の付与が求められており、画像素子デバイスとして高性能であることはもちろん、大面積のFPDを製造可能とするプロセスまたはフレキシブル基板への対応も要求されている。
【0003】
また、最近では、更なる大面積化またはフレキシブル化を目的として有機エレクトロルミネッセンス(Electro Luminescence:EL)を利用した有機ELディスプレイも開発されている。有機ELディスプレイでも、スイッチング素子として薄膜トランジスタが採用されている。しかし、有機ELディスプレイが有機半導体層を駆動して直接発光を得る自発光デバイスであるため、上記液晶ディスプレイとは異なり、薄膜トランジスタに電流駆動デバイスとしての特性が要求されている。
【0004】
このような背景から、表示デバイス向けの薄膜トランジスタのトランジスタ特性を向上させるために、近年、バンドギャップが3eV前後と大きく、透明で、低温による成膜が可能である酸化物半導体を薄膜トランジスタのチャネル層へ適用する検討が行われている。この酸化物半導体は、表示デバイスの他に、薄膜メモリまたは電波による個体識別(Radio Frequency Identification:RFID)等への適用も期待されている。
【0005】
薄膜トランジスタのチャネル層を構成する酸化物半導体として、一般的には、酸化亜鉛または酸化錫が用いられているが、これらを用いた薄膜トランジスタには、しきい値電圧が変動しやすいという問題がある。そこで、薄膜トランジスタのしきい値電圧の変動を抑制することのできる酸化物半導体として、インジウムガリウム亜鉛複合酸化物(Indium Gallium Zinc Oxide:IGZO)が提案されている。
【0006】
例えば特開2006−165532号公報(特許文献1)には、P型領域とN型領域とを備え、電子キャリア濃度が1018/cm未満である非晶質酸化物をN型領域に用いた半導体デバイスであって、その非晶質酸化物は、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、および亜鉛(Zn)を含む酸化物であることが開示されている。
【0007】
また、特開2006−173580号公報(特許文献2)には、電子キャリア濃度が1018/cm未満である非晶質酸化物、あるいは電子キャリア濃度が増加すると共に電子移動度が増加する傾向を示す非晶質酸化物からなる活性層を備え、かつ、ソース電極、ドレイン電極、ゲート電極のうち少なくとも1つが可視域の光に対して透過性を有する電界効果トランジスタであって、非晶質酸化物がIn、Zn、およびGaを含む酸化物であることが開示されている。
【0008】
IGZOをチャネル層に適用した薄膜トランジスタでは、多結晶シリコンをチャネル層に適用した薄膜トランジスタよりも良好なサブスレッショルドスロープの値が確認されている。また、IGZOは表示デバイスへの応用に留まらず、超低電圧動作または超低消費電力を必要とする他のデバイスへの応用も期待される。しかし、一方で、このIGZOには資源枯渇や資源偏在の懸念があるInまたはGaが相当量含まれていることから、IGZOは将来的な産業利用には不利と考えられる。
【0009】
そこで、本願発明者らは、Inを利用しない酸化物半導体として、亜鉛錫複合酸化物(Zinc Tin Oxide:ZTO)を検討した。その結果、ZTOをチャネル層に適用した薄膜トランジスタにおいて、IGZOをチャネル層に適用した薄膜トランジスタと同等のトランジスタ特性を得ることができた。また、今後、スパッタリング法または蒸着法により酸化物半導体を成膜する際に使用する酸化物半導体ターゲットにも大きな需要ができるものと推定されるが、その際には、コストまたは資源確保の面からもInまたはGaのような希少金属を使用する材料よりも希少金属を使用しないZTOのような材料の方が有利と考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−165532号公報
【特許文献2】特開2006−173580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
酸化物半導体からなる膜(以下、酸化物半導体膜と記す)は、一般に、酸化物半導体を焼結したターゲットを用いたスパッタリング法により形成される。しかしながら、本願発明者らが検討したところ、以下に説明する問題点が明らかとなった。
【0012】
スパッタリング法に用いる酸化物半導体ターゲットの製造工程は、大まかに、原料となる粉末材料の微細化・混合スラリー化工程、成形工程、焼結工程、および研磨工程から成る。ZTOを成膜する際には、原料となる粉末材料に酸化亜鉛および酸化錫の高純度微粒子(例えば99.99%以上)を用いる。この粉末材料の微細化・混合スラリー化工程では、ボールミルの粉砕用ボールを用いて、組成分布のない焼結体を得るために、粉末材料を十分に混合させる。しかし、そのボールミルに投入される粉砕用ボールの材質がアルミナ(Al)であるため、焼結体にドナーとなるアルミニウム(Al)が0.1〜1.0wt.%(0.3〜3.2at.%)程度不純物として取り込まれてしまう。その焼結体をスパッタリング法におけるターゲットとして用いた場合、形成された酸化物半導体膜にAlが不純物として添加されてしまう。そのため、酸化物半導体膜をチャネル層に適用した薄膜トランジスタでは、酸化物半導体膜が半導体として動作せず、薄膜トランジスタがオフ動作不可能な状態となるという問題が生じた。
【0013】
粉砕用ボールからの不純物混入を防止するためには、不純物のより少ない粉砕用ボールの採用、ボールミル以外の粉砕・混合技術の適用、粉末材料の高純度化、製造環境のクリーン化等が必要と考えられるが、どれも製造コストの増大につながってしまう。
【0014】
本発明の目的は、低コストで、かつ、高品質な酸化物半導体ターゲットを形成することのできる技術を提供することにある。
【0015】
また、本発明の他の目的は、酸化物半導体ターゲットを用いて形成された酸化物半導体膜において、安定した品質を得ることのできる技術を提供することにある。
【0016】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの一実施の形態を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0018】
この実施の形態は、酸化亜鉛および酸化錫を主材料とする酸化物焼結体からなる酸化物半導体ターゲットであって、酸化物焼結体にはIV族元素、V族元素、またはIV族元素およびV族元素の両元素が添加されており、酸化物焼結体に添加されたIV族元素の不純物濃度、V族元素の不純物濃度、またはIV族元素およびV族元素の両元素の不純物濃度は、酸化物焼結体に含まれるIII族元素の不純物濃度の1/2以下である。
【0019】
また、この実施の形態は、酸化亜鉛および酸化錫を主材料とする酸化物焼結体からなる酸化物半導体ターゲットを用いて基板上に形成される酸化物半導体膜の製造方法であって、酸化物焼結体にはIV族元素、V族元素、またはIV族元素およびV族元素の両元素が添加されており、酸化物焼結体に添加されたIV族元素の不純物濃度、V族元素の不純物濃度、またはIV族元素およびV族元素の両元素の不純物濃度は、酸化物焼結体に含まれるIII族元素の不純物濃度の1/2以下である。
【発明の効果】
【0020】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの一実施の形態によって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0021】
低コストで、かつ、高品質な酸化物半導体ターゲットを形成することができる。また、その酸化物半導体ターゲットを用いて形成された酸化物半導体膜において、安定した品質を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本願発明者らが検討した純度2Nレベルの酸化物半導体ターゲットを用いて形成された酸化物半導体膜をチャネル層に適用した薄膜トランジスタの電流−電圧特性を示すグラフ図である。
【図2】本発明の実施の形態1による酸化物半導体ターゲット(純度99.99%以上のSiO微粒子を添加)を用いて形成された酸化物半導体膜をチャネル層に適用した薄膜トランジスタの電流−電圧特性を示すグラフ図である。
【図3】本発明の実施の形態1による酸化物半導体ターゲットを用いて形成された酸化物半導体膜をチャネル層に適用した薄膜トランジスタの電流−電圧特性を示すグラフ図である。
【図4】本発明の実施の形態1による酸化物半導体ターゲットを用いたRFマグネトロンスパッタリング装置の模式図である。
【図5】本発明の実施の形態1による酸化物半導体ターゲットを用いて形成された酸化物半導体膜をチャネル層に適用した薄膜トランジスタの製造工程を説明する薄膜トランジスタの要部断面図である。
【図6】本発明の実施の形態1による酸化物半導体ターゲットを用いて形成された酸化物半導体膜をチャネル層に適用した薄膜トランジスタの製造工程を説明する薄膜トランジスタの要部断面図である。
【図7】本発明の実施の形態1による対抗ドープ元素を添加した酸化物半導体ターゲットを用いて形成された酸化物半導体膜をチャネル層に適用した薄膜トランジスタの電流−電圧特性を示すグラフ図である。
【図8】本願発明者らが検討した対抗ドープ元素を添加しない酸化物半導体ターゲットを用いて形成された酸化物半導体膜をチャネル層に適用した薄膜トランジスタの電流−電圧特性を示すグラフ図である。
【図9】本発明の実施の形態2による酸化物半導体ターゲットを用いた電子ビーム蒸着装置の模式図である。
【図10】本発明の実施の形態2による酸化物半導体ターゲットを用いて形成された酸化物半導体膜をチャネル層に適用した薄膜トランジスタを説明する薄膜トランジスタの要部断面図である。
【図11】本発明の実施の形態2による対抗ドープ材料(Si)を添加した酸化物半導体ターゲットを用いて電子ビーム蒸着法により形成された酸化物半導体膜をチャネル層に適用した薄膜トランジスタの電流−電圧特性を示すグラフ図である。
【図12】本発明の実施の形態2による対抗ドープ材料(BN)を添加した酸化物半導体ターゲットを用いて電子ビーム蒸着法により形成された酸化物半導体膜をチャネル層に適用した薄膜トランジスタの電流−電圧特性を示すグラフ図である。
【図13】本願発明者らが検討した対抗ドープ元素を添加しない酸化物半導体ターゲットを用いて電子ビーム蒸着法により形成された酸化物半導体膜をチャネル層に適用した薄膜トランジスタの電流−電圧特性を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下の実施の形態において、便宜上その必要があるときは、複数のセクションまたは実施の形態に分割して説明するが、特に明示した場合を除き、それらはお互いに無関係なものではなく、一方は他方の一部または全部の変形例、詳細、補足説明等の関係にある。
【0024】
また、以下の実施の形態において、要素の数等(個数、数値、量、範囲等を含む)に言及する場合、特に明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でも良い。さらに、以下の実施の形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。同様に、以下の実施の形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似または類似するもの等を含むものとする。このことは、上記数値および範囲についても同様である。
【0025】
また、以下の実施の形態で用いる図面においては、平面図であっても図面を見易くするためにハッチングを付す場合もある。また、以下の実施の形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0026】
(実施の形態1)
本願発明では、酸化物半導体に、ドナーとしてキャリア(酸化物の場合には酸素欠損に起因する電子)を発生させる不純物元素であるIII族元素(ボロン(B)、Al、Ga、In)に対抗する不純物元素(対抗ドープ元素、対抗ドープ材料)として、そのキャリアを打ち消す役割をもつIV族元素、V族元素、またはIV族およびV族元素の両元素を添加し、酸化物半導体中のキャリア数の制御を行う。
【0027】
図1は、ZTOターゲットの製造工程で意図的に原材料にAl(III族元素)を添加して、ZTOターゲットの純度を2Nレベルまで落とし、このZTOターゲットを用いて形成されたZTO膜をチャネル層に適用した薄膜トランジスタの電流(Id)−電圧(Vg)特性を示すグラフ図である。
【0028】
正常な薄膜トランジスタでは、電圧が0V近傍のしきい値電圧から電流が急峻に増大し、電圧の増大により電流が飽和する電流−電圧特性を示すはずである。しかし、2Nレベルの純度のZTOターゲットを用いて形成されたZTO膜をチャネル層に適用した薄膜トランジスタでは、負バイアスの領域でオフ状態を得ることができず、スイッチング動作が不可能であることが分かる。この際のZTOターゲット中のAlの不純物濃度は0.3wt.%(1.1at.%)であり、Alの混入によるZTO中のキャリアの増大が、負バイアスの領域でオフ状態が得られなかった原因と考えられる。
【0029】
そこで、III族元素よりも電気陰性度の大きいIV族元素、V族元素、またはIV族元素およびV族元素の両元素を添加することにより、III族元素の添加により発生したキャリア(電子)を相殺し、その数を抑制する。
【0030】
図2は、ZTOターゲットの製造工程で意図的に原材料に高純度(99.99%以上)の酸化シリコン(SiO)微粒子を添加してZTOターゲットを製造し、このZTOターゲットを用いて形成されたZTO膜をチャネル層に適用した薄膜トランジスタの電流(Id)−電圧(Vg)特性を示すグラフ図である。ここでは、SiO微粒子中のIV族元素であるシリコン(Si)の不純物濃度がIII族元素であるAlの不純物濃度(原材料の0.3wt.%(1.1at.%)程度)の1/15程度となるように、原材料にSiO微粒子が添加されている。
【0031】
Siを添加することによりZTO膜中のキャリアが抑制され、良好な電流−電圧特性が得られていることが分かる。このように、ZTOターゲットの製造工程時に混入したIII族元素による過剰キャリアの抑制には、III族元素の不純物濃度に合わせて適度な不純物濃度のIV族元素またはV族元素を添加することが有効である。
【0032】
図3は、Siの不純物濃度をパラメータとしたZTOターゲットを用いて形成されたZTO膜をチャネル層に適用した薄膜トランジスタの電流(Id)−電圧(Vg)特性を示すグラフ図である。Siの不純物濃度は0.1wt.%、0.6wt.%、1.8wt.%であり、Alの不純物濃度は0.3wt.%である。
【0033】
この対抗ドープ元素として有効となるIV族元素またはV族元素の不純物濃度は、III族元素の不純物濃度の1/2以下、好ましくは1/10以下である。言い換えると、この対抗ドープ元素として有効となるIV族元素またはV族元素の不純物濃度(A)とIII族元素の不純物濃度(B)の比は、A/B≦0.5、好ましくはA/B≦0.1である。図3に示すように、これよりも高い濃度の対抗ドープ元素を添加すると、キャリア補足サイトの増大を招くため、サブスレッショルドスロープ値の劣化またはバイアスストレスによるしきい値電圧のシフト増大を起こすことになり、トランジスタ特性として有効ではなくなる。
【0034】
次に、本実施の形態1によるスパッタリング法に用いる酸化物半導体ターゲットについて詳細に説明する。
【0035】
スパッタリング法で用いる酸化物半導体ターゲットの製造方法の一例を、以下に説明する。
【0036】
まず、高純度(例えば99.99%以上)の酸化亜鉛粉末および酸化錫粉末を、Zn/(Zn+Sn)組成比が0.7となるモル分率の量にそれぞれ秤量し、ボールミルに原材料粉末(酸化亜鉛粉末および酸化錫粉末)と、高純度(例えば99.99%以上)のSiO微粒子と、アルミナボールとを入れて、原材料粉末を水系溶媒によりスラリー状に混合する。混合する時間は5時間以上とする。十分な混合の後、スラリー状の原材料にポリビニルアルコール等のバインダーを加え、さらに、型枠により成形する。
【0037】
原材料粉末を混合する際に、高硬度のアルミナボールを用いているので、ZTOターゲットの原材料の均質化が可能である。また、粉砕条件または混合条件を設定することにより、混入するアルミナの濃度も容易に予測可能であり、それに合わせてSiO微粒子の濃度を設定できるので、製作されたZTOターゲットにおける不純物濃度を容易に制御することができる。また、対抗ドープ材料として混入させるSiO微粒子の材料費は増えるものの、それ以外のコスト増加はなく、原材料を混合する際には、安価なアルミナボールを用いることができるので、低コストでZTOターゲットを提供することができる。これらのことから、低コストで、かつ、高品質のZTOターゲットを提供することができる。
【0038】
次に、上記バインダーを除去する目的で、スラリー状の原材料を大気中で600℃前後の温度で数時間加熱処理を行い、固化させる。さらに、この固化された原材料(固形物)を、大気中または酸素雰囲気中で1300℃前後の温度で5時間以上焼成処理を行い、相対密度95%以上の焼結体とする。その後、焼結体を研磨により、求められる形状に成形することにより、ZTOターゲットが完成する。完成したZTOターゲットは、例えばスパッタリング装置のカソード電極裏板にボンディングされる。
【0039】
この製造条件下で、原材料に混入するアルミナボールに起因したAl(III族元素)の不純物濃度は0.3〜1.0wt.%(1.1〜3.2at.%)程度と見積もられる。また、Si(IV族元素)の不純物濃度がAlの不純物濃度の1/3程度となるように、高純度(99.99%以上)のSiO微粒子が添加されている。
【0040】
前述した製造方法により得られた半導体膜形成用のZTOターゲットの色味はつやがあり、白みがかった灰色を呈している。透明導電膜形成用のターゲットとして一般的に用いられる酸素欠損の多い酸化物ターゲットは深い黒色を呈しているので、半導体膜形成用のZTOターゲットと透明導電膜形成用のターゲットとは、一目瞭然に区別ができる。また、四探針法による測定で得られる半導体膜形成用のZTOターゲットの抵抗率は1×10−1Ωcm以上である。透明導電膜形成用のターゲットの抵抗率は、一般に1×10−3Ωcm以下であることから、抵抗率の点でも両者は大きな差を有する。
【0041】
このようにして製造されたZTOターゲットは、DCバイアスによる放電が困難であるため、RFバイアスによるスパッタリング法によりZTO膜を形成する。図4に、本実施の形態1によるZTOターゲットを用いるRFマグネトロンスパッタリング装置の模式図を示す。図4中、符号1はZTOターゲット、符号2はカソード電極(ターゲット裏板)、符号3は対向電極(サンプルホルダ兼用)、符号4はマッチングボックス、符号5はRF電源、符号6はマスフローコントローラ、符号7はクライオポンプまたは分子ターボポンプ、符号8はドライポンプまたはロータリーポンプ、符号9はマグネット(マグネトロンスパッタ用)である。
【0042】
前述した製造方法により得られたZTOターゲット1を用い、スパッタリングガスとして5%以上(例えば15%前後)の酸素ガスを添加したアルゴン(Ar)ガスを用い、圧力0.5Pa、RF電力密度2.65W/cm、電極間距離80mmの条件において形成されたZTO膜の抵抗率は、約2.0Ωcmである。
【0043】
次に、本実施の形態1による薄膜トランジスタの製造方法を図5および図6を用いて順次説明する。薄膜トランジスタのチャネル層を構成する酸化物半導体膜を本願発明によるZTOターゲットを用いたスパッタリング法により形成している。図5および図6は、それぞれZTOターゲットを用いて形成されたZTO膜をチャネル層に適用した薄膜トランジスタの構造を示す要部断面図である。
【0044】
まず、図5(a)に示すように、例えばガラス基板、石英基板、サファイア基板、樹脂基板、またはフィルム等の支持基板10を用意する。次に、支持基板10上に蒸着法またはスパッタリング法等により金属薄膜、例えばAlとモリブデン(Mo)とからなる積層膜(Al/Mo積層膜)等を形成し、リフトオフプロセスまたはエッチングプロセスにより上記金属薄膜をパターニングして、ゲート電極11を形成する。Al膜の厚さは、例えば250nm、Mo膜の厚さは、例えば50nmである。次に、その上層にスパッタリング法、化学気相成長(Chemical Vapor Deposition:CVD)法、または蒸着法等により、例えば厚さ100nm程度の酸化膜(例えばシリコン酸化膜)または窒化膜(例えばシリコン窒化膜)等から形成されるゲート絶縁膜12を堆積する。
【0045】
次に、図5(b)に示すように、ゲート絶縁膜12の上層に、ZTOターゲットを用いたRFマグネトロンスパッタリング法によりZTO膜を形成する。続いて、レジストパターンをマスクとして、シュウ酸系エッチング液または塩酸系エッチング液を用いたウエットエッチング法により上記ZTO膜を加工し、チャネル層13を形成する。チャネル層13(ZTO膜)の厚さは、適用するデバイスによっても異なるが、5nm〜75nm程度が望ましい。
【0046】
次に、図5(c)に示すように、ZTO膜からなるチャネル層13の上層に、蒸着法またはスパッタリング法等により導電体膜を形成する。続いて、リフトオフプロセスまたはエッチングプロセスにより上記導電体膜をパターニングして、ソース・ドレイン電極14を形成する。
【0047】
次に、図6(a)に示すように、チャネル層13およびソース・ドレイン電極14を覆うパッシベーション膜15を形成する。続いて、レジストパターンをマスクとしてパッシベーション膜15を加工し、ソース・ドレイン電極14に達する接続孔15aを形成する。
【0048】
次に、図6(b)に示すように、接続孔15aの内部を含むパッシベーション膜15の上層に導電体膜を形成する。この導電体膜は、例えばインジウム錫酸化(Indium Tin Oxide:ITO)膜やインジウム亜鉛酸化(Indium Zinc Oxide:IZO)膜、アルミニウム亜鉛酸化(Aluminium Zinc Oxide:AZO)膜、またはガリウム亜鉛酸化(Gallium Zinc Oxide:GZO)膜等の透明導電膜でも良く、また、例えばAl膜またはチタン(Ti)と金(Au)とからなる積層膜(Ti/Au積層膜)等の金属膜でも良い。続いて、レジストパターンをマスクとして上記導電体膜を加工し、配線16を形成する。以上に説明した製造工程を経て、本実施の形態1によるボトムゲートトップコンタクト型薄膜トランジスタが略完成する。
【0049】
前述の図5および図6を用いて説明した製造方法により形成した薄膜トランジスタの特性を評価した。薄膜トランジスタのチャネル層に、ZTOターゲットを用いてRFマグネトロンスパッタ法により形成された厚さ25nmのZTO膜を適用した。ZTO膜の成膜時には5rpmの基板回転機構を用いている。ゲート電極はAl(厚さ250nm)とMo(厚さ50nm)との積層膜からなり、ソース・ドレイン電極は厚さ150nmのスパッタリング法により形成されたITO透明導電膜からなる。この薄膜トランジスタは、1000時間連続使用においてしきい値電圧の変動が0.5V以下に抑制されており、その他の基本的特性においても、例えば移動度20cm/Vs以上、オンオフ比10以上と良好な値が得られている。
【0050】
図7に、本願発明による対抗ドープ元素を添加したZTOターゲットを用いてスパッタリング法により形成されたZTO膜をチャネル層に適用した薄膜トランジスタの電流(Id)−電圧(Vg)特性のグラフ図を示す。
【0051】
混入したAlの不純物濃度が1.0wt.%(3.2at.%)にも関わらず、対抗ドープ元素(Siの不純物濃度:0.3wt.%(1.1at.%))を添加したZTOターゲットを用いて形成されたZTO膜をチャネル層に適用した薄膜トランジスタでは、200mV/dec以下のサブスレッショルドスロープ値を有する良好なトランジスタ特性が得られた。
【0052】
比較のために、図8に、本願発明者らが検討した対抗ドープ元素を添加しないZTOターゲットを用いてスパッタリング法により形成されたZTO膜をチャネル層に適用した薄膜トランジスタの電流(Id)−電圧(Vg)特性のグラフ図を示す。
【0053】
対抗ドープ元素を添加しないZTOターゲットを用いて形成されたZTO膜をチャネル層に適用した薄膜トランジスタの電流−電圧特性は、オフ動作せず、導電膜のような特性となっている。
【0054】
前述の図7に示したトランジスタ特性を有する薄膜トランジスタを、アレイ構造としてアクティブマトリクス型液晶ディスプレイ駆動用トランジスタに適用したところ、この薄膜トランジスタは必要とする特性を備えており、実用に耐えることが明らかとなった。また、本願発明によるZTOターゲットを用いて形成されたZTO膜をチャネル層に適用した薄膜トランジスタは、非晶質シリコンをチャネル層に適用した薄膜トランジスタと比較しても、同等の大面積、高均一、および低温プロセスを実現できる。これにより、パネル製作のコストについても、ZTOターゲットのコスト増加のみで済むため、本願発明によるZTOターゲットを用いて形成されたZTO膜をチャネル層に適用した薄膜トランジスタを採用しても、パネル製作のコストの増加を抑えることができる。
【0055】
なお、本実施の形態1では、Zn/(Zn+Sn)組成比が0.7の場合について説明したが、別段この組成比に限定されるものではなく、ウエットエッチングの特性に多少の変化は出るものの、その他のZn/(Zn+Sn)組成比においても薄膜トランジスタ自体の特性はほぼ同等の値を得ることができる。
【0056】
また、成膜方法として、RFマグネトロンスパッタリング法を使用したが、リング状にターゲットを成形し、電子サイクロトロン共鳴(Electron Cyclotron Resonance:ECR)スパッタリング法を用いても良く、同様な結果を得ることができる。また、スパッタリング法以外の成膜方法、例えば蒸着法でも同様な結果を得ることができる。その他、パルスレーザ蒸着などを用い、エピタキシャル成長が可能な単結晶基板を用いれば、薄膜トランジスタのみならず酸化物半導体単結晶とそれを用いたデバイスの製作も可能である。
【0057】
また、本実施の形態1では、本願発明をボトムゲートトップコンタクト型薄膜トランジスタに適用した例を記述したが、別段この構造に限定するものではなく、ボトムゲートボトムコンタクト型、トップゲートトップコンタクト型、またはトップゲートボトムコンタクト型のいずれの構造の薄膜トランジスタにおいてもほぼ同等な特性を得ることが可能である。これらの薄膜トランジスタは、アクティブマトリクス型液晶ディスプレイ駆動用トランジスタまたは有機EL用電流駆動デバイス、RFIDタグ、積層型集積半導体デバイスなどとしても利用可能である。
【0058】
また、本実施の形態1ではIV族元素(Si)単体を対抗ドープ元素として用いたが、その他のIV元素(C、Si、Ge)のいずれか1種類の単体、V族元素(N、P、As)のいずれか一種類の単体、またはIV族元素およびV族元素の組み合わせでも同様な効果が得られる。
【0059】
このように、本実施の形態1によれば、原材料粉末を混合する際に、高硬度のアルミナボールを用いているので、ZTOターゲットの原材料の均質化が可能である。また、粉砕条件または混合条件を設定することにより、混入する不純物(例えばAl)の濃度も容易に予測可能であり、それに合わせて対抗ドープ元素として混入させる不純物(例えばSi)の濃度を設定できるので、製作されたZTOターゲットにおける不純物濃度を容易に制御することができる。また、対抗ドープ元素として混入させる不純物の材料費は増えるものの、それ以外のコスト増加はなく、原材料を混合する際には、安価なアルミナボールを用いることができるので、低コストでZTOターゲットを提供することができる。これらのことから、低コストで、かつ、高品質のZTOターゲットを提供することができる。さらに、不純物濃度が制御されたZTOターゲットを用いて酸化物半導体膜を形成しているので、酸化物半導体膜においても安定した品質を得ることができる。
【0060】
(実施の形態2)
前述した実施の形態1では、本願発明をZTOターゲットに適用した場合について説明したが、本実施の形態2では、本願発明をインジウム亜鉛錫複合酸化物(Indium Zinc Tin Oxide:IZTO)ターゲットに適用した場合について説明する。
【0061】
まず、本実施の形態2によるIZTO膜の製造方法の一例を説明する。IZTO膜は、IZTOターゲットを用いた電子ビーム蒸着法により形成した。図9に、本実施の形態2による電子ビーム蒸着装置の模式図を示す。
【0062】
ビームを応用するターゲットの場合には、比較的密度の高いターゲットは必要ではなく、また、ビーム径の観点から、比較的大きな形状も要求されない。基本的なIZTOターゲットの製造方法は、前述した実施の形態1と同様であるが、高密度を必要としない場合には、バインダーを混合する工程および1300℃前後で行われる焼成処理工程を省略することができる。また、単純に高純度(例えば99.99%)の酸化インジウム粉末、酸化錫粉末、および酸化亜鉛粉末の組成比がIn:Zn:Sn:O=4:1:2:17となるように正確に混合し、それを求める形状に高圧条件で圧縮して成形することにより、IZTOターゲットを製造することも可能である。
【0063】
原材料粉末を混合する際に、乾式のボールミルを用いるが、アルミナボールを用いているため、0.1〜1.0wt.%(0.3〜3.2at.%)程度のAl(III族元素)が混入してしまう。そこで、本発明の対抗ドープ材料として窒化シリコン(Si)粉末または窒化ボロン(BN)粉末を、Alの不純物濃度の1/10程度添加し、混合して、IZTOターゲットを製造する。
【0064】
前述した実施の形態1のZTOターゲットと同様、前述した製造方法により得られた半導体膜用のIZTOターゲットは酸素欠損の少ない灰白色系の色味を呈するので、透明導電膜形成用のターゲットとして一般的に用いられる酸素欠損の多い黒色を呈する酸化物ターゲットとは、一目瞭然に判別することが可能である。また、四探針法による測定で得られる半導体膜用のIZTOターゲットの抵抗率は10Ωcmと高い抵抗率を示し、抵抗率が1×10−2Ωcm以下である透明導電膜形成用のターゲットとは、抵抗率の点でも異なる。
【0065】
上記の方法で製造したIZTOターゲットは、例えば図9に示す電子ビーム蒸着装置に用いることができる。IZTOターゲットの直径は、例えば20mmφ、その厚さは、例えば10mmである。図9中、符号20はIZTOターゲット、符号21は蒸発源、符号22は電子ビーム源、符号23はイオン源(イオンアシスト用)、符号24は基板ホルダ、符号25は基板揺動装置、符号26はマスフローコントローラ、符号27はクライオポンプまたは分子ターボポンプ、符号28はドライポンプまたはロータリーポンプである。
【0066】
前述した製造方法により得られたIZTOターゲット20は蒸発源21にセットされる。加速電圧6kVおよびビーム電流70mAの条件において、約5nm/minの成膜速度が得られる。成膜時にイオン源23から酸素イオンアシストを導入することにより、さらに高密度な成膜も可能である。また、基板側を冷却することにより、ほぼ常温での成膜も可能である。
【0067】
次に、本実施の形態2による薄膜トランジスタを図10に示す薄膜トランジスタの要部断面図を用いて説明する。図10は、IZTOターゲットを用いて形成されたIZTO膜をチャネル層に適用した薄膜トランジスタの構造を示す要部断面図である。本実施の形態2による薄膜トランジスタは、トップゲートボトムコンタクト型薄膜トランジスタである。図10中、符号30は支持基板、符号31はソース・ドレイン電極、符号32はチャネル層(IZTO膜)、符号33はゲート絶縁膜、符号34はゲート電極、符号35は層間絶縁膜層である。
【0068】
薄膜トランジスタのチャネル層32を構成するIZTO膜を本願発明によるIZTOターゲットを用いた電子ビーム蒸着法により形成している。チャネル層以外の薄膜トランジスタの構成部分は、前述した実施の形態1において説明した薄膜トランジスタの製造方法と同様な製造方法により形成されている。チャネル層32の厚さは50nmであり、成膜時には成膜分布を向上する目的で基板揺動装置25を用いている。ゲート電極34はAlとコバルト(Co)との積層膜からなり、ソース・ドレイン電極31は厚さ150nmのスパッタリング法により形成されたITO透明導電膜からなる。Al膜の厚さは、例えば250nm、Co膜の厚さは、例えば50nmである。この薄膜トランジスタは、1000時間連続使用においてしきい値電圧の変動が0.3V以下に抑制されており、その他の基本的特性においても、例えば移動度30cm/Vs以上、オンオフ比10以上と良好な値が得られている。
【0069】
図11に、対抗ドープ材料としてSiを添加したIZTOターゲットを用いて電子ビーム蒸着法により形成されたIZTO膜をチャネル層に適用した薄膜トランジスタの電流(Id)−電圧(Vg)特性を示すグラフ図、図12に、対抗ドープ材料としてBNを添加したIZTOターゲットを用いて電子ビーム蒸着法により形成されたIZTO膜をチャネル層に適用した薄膜トランジスタの電流(Id)−電圧(Vg)特性を示すグラフ図である。
【0070】
図11に示すように、III族元素のAlの不純物濃度0.7wt.%(2.1at.%)に対し、1/10程度の濃度(0.08wt.%(0.23at.%))のSiの対抗ドープ材料を添加したIZTOターゲットを用いて形成されたIZTO膜をチャネル層に適用した薄膜トランジスタでは、200mV/dec以下の良好なサブスレッショルドスロープ値が得られた。
【0071】
また、図12に示すように、III族元素のAlの不純物濃度0.7wt.%(2.1at.%)に対し、1/10程度の濃度(0.08wt.%(0.24at.%))のBNの対抗ドープ材料を添加したIZTOターゲットを用いて形成されたIZTO膜をチャネル層に適用した薄膜トランジスタでは、300mV/dec以下の良好なサブスレッショルドスロープ値が得られた。
【0072】
比較のために、図13に、本願発明者らが検討した対抗ドープ元素を添加しないIZTOターゲットを用いて電子ビーム蒸着法により形成されたIZTO膜をチャネル層に適用した薄膜トランジスタの電流(Id)−電圧(Vg)特性を示すグラフ図を示す。
【0073】
対抗ドープ元素を添加しないIZTOターゲットを用いて形成されたIZTO膜をチャネル層に適用した薄膜トランジスタの電流−電圧特性は、オフ動作せず、導電膜のような特性となっている。
【0074】
なお、本実施の形態2によるIZTOターゲットを用いて形成されたチャネル層に適用した薄膜トランジスタは、アクティブマトリクス型アレイとしてボトムエミッション型有機EL素子との集積構造への適合性に優れている。また、その薄膜トランジスタは、ディスプレイ以外にもメモリ素子、RFIDタグ、または積層型集積型半導体デバイスなどへの応用も可能である。
【0075】
また、本実施の形態2では、IV族元素(Si)とV族元素(N)の組み合わせを対抗ドープ材料として用いたが、その他のIV元素(C、Si、Ge)のいずれか一種類の単体、V族元素(N、P、As)のいずれか一種類の単体、またはIV族元素およびV族元素の組み合わせでも同様な効果が得られる。
【0076】
また、本実施の形態2では、IZTOターゲットを主体として記述したが、その他の酸化物半導体材料、例えば酸化亜鉛、酸化錫、酸化ガリウム、酸化タングステン、酸化チタン、インジウム亜鉛複合酸化物、またはインジウムガリウム亜鉛複合酸化物等でも同様の効果が期待できる。
【0077】
また、本実施の形態2では、成膜方法として、電子ビーム蒸着法を使用したが、抵抗加熱蒸着法、イオンプレーティング法、またはパルスレーザ蒸着法を用いても良く、同様な結果を得ることができる。
【0078】
このように、本実施の形態2によれば、IZTOターゲットに対抗ドープ元素を添加することにより、前述した実施の形態1と同様に、低コストで、かつ、高品質のIZTOターゲットを提供することができ、IZTOターゲットを用いて形成された酸化物半導体膜においても安定した品質を得ることができる。
【0079】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、酸化物半導体ターゲット、およびその酸化物半導体ターゲットを用いてスパッタリング法または蒸着法等により形成される酸化物半導体膜に適用することができる。
【符号の説明】
【0081】
1 亜鉛錫複合酸化物半導体ターゲット(ZTOターゲット)
2 カソード電極(ターゲット裏板)
3 対向電極(サンプルホルダ兼用)
4 マッチングボックス
5 RF電源
6 マスフローコントローラ
7 クライオポンプまたは分子ターボポンプ
8 ドライポンプまたはロータリーポンプ
9 マグネット(マグネトロンスパッタ用)
10 支持基板
11 ゲート電極
12 ゲート絶縁膜
13 チャネル層(亜鉛錫複合酸化物半導体膜(ZTO膜))
14 ソース・ドレイン電極
15 パッシベーション層
15a 接続孔
16 配線
20 インジウム亜鉛錫複合酸化物半導体ターゲット(IZTOターゲット)
21 蒸発源
22 電子ビーム源
23 イオン源(イオンアシスト用)
24 基板ホルダ
25 基板揺動装置
26 マスフローコントローラ
27 クライオポンプまたは分子ターボポンプ
28 ドライポンプまたはロータリーポンプ
30 支持基板
31 ソース・ドレイン電極
32 チャネル層(インジウム亜鉛錫複合酸化物半導体膜(IZTO膜))
33 ゲート絶縁膜
34 ゲート電極
35 層間絶縁膜層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛および酸化錫を主材料とする酸化物焼結体からなる酸化物半導体ターゲットであって、
前記酸化物焼結体に、IV族元素、V族元素、またはIV族元素およびV族元素の両元素が添加されており、
前記IV族元素の不純物濃度、前記V族元素の不純物濃度、または前記IV族元素およびV族元素の両元素の不純物濃度は、前記酸化物焼結体に含まれるIII族元素の不純物濃度の1/2以下であることを特徴とする酸化物半導体ターゲット。
【請求項2】
請求項1記載の酸化物半導体ターゲットにおいて、
前記IV族元素の不純物濃度、前記V族元素の不純物濃度、または前記IV族元素およびV族元素の両元素の不純物濃度は、前記III族元素の不純物濃度の1/10以下であることを特徴とする酸化物半導体ターゲット。
【請求項3】
請求項1記載の酸化物半導体ターゲットにおいて、前記III族元素の不純物濃度が1.0wt.%(3.0at.%)以下であることを特徴とする酸化物半導体ターゲット。
【請求項4】
請求項1記載の酸化物半導体ターゲットにおいて、前記III族元素がB、Al、Ga、Inのいずれか1つ、またはB、Al、Ga、Inのうちの2つ以上の組み合わせからなることを特徴とする酸化物半導体ターゲット。
【請求項5】
請求項1記載の酸化物半導体ターゲットにおいて、前記IV族元素がC、Si、Geのいずれか1つ、またはC、Si、Geのうちの2つ以上の組み合わせからなることを特徴とする酸化物半導体ターゲット。
【請求項6】
請求項1記載の酸化物半導体ターゲットにおいて、前記V族元素がN、P、Asのいずれか1つ、またはN、P、Asのうちの2つ以上の組み合わせからなることを特徴とする酸化物半導体ターゲット。
【請求項7】
請求項1記載の酸化物半導体ターゲットにおいて、前記酸化物半導体ターゲットの抵抗率は1×10−1Ωcm以上であることを特徴とする酸化物半導体ターゲット。
【請求項8】
請求項1記載の酸化物半導体ターゲットにおいて、前記酸化物焼結体の相対密度は95%以上であることを特徴とする酸化物半導体ターゲット。
【請求項9】
酸化物半導体ターゲットを用いて基板上に酸化物半導体膜を形成する酸化物半導体膜の製造方法であって、
前記酸化物半導体ターゲットは、
(a)ボールミルで、酸化亜鉛粉末および酸化錫粉末と、IV族元素、V族元素、またはIV族元素およびV族元素の両元素を含む材料とを混合する工程と、
(b)前記(a)工程で混合された原材料を成形する工程と、
(c)前記(b)工程で成形された前記原材料を焼結して、酸化亜鉛および酸化錫を主材料とする酸化物焼結体を形成する工程と、
を含む製造方法によって製造され、
前記酸化物焼結体に、IV族元素、V族元素、またはIV族元素およびV族元素の両元素が添加されており、
前記IV族元素の不純物濃度、前記V族元素の不純物濃度、または前記IV族元素およびV族元素の両元素の不純物濃度は、前記酸化物焼結体に含まれるIII族元素の不純物濃度の1/2以下であることを特徴とする酸化物半導体膜の製造方法。
【請求項10】
請求項9記載の酸化物半導体膜の製造方法において、前記酸化物半導体ターゲットを製造する前記(a)工程において、前記ボールミルにアルミナボールが投入されることを特徴とする酸化物半導体膜の製造方法。
【請求項11】
請求項9記載の酸化物半導体膜の製造方法において、前記酸化物半導体膜は、前記酸化物半導体ターゲットを用いた高周波スパッタリング法により前記基板上に形成されることを特徴とする酸化物半導体膜の製造方法。
【請求項12】
請求項11記載の酸化物半導体膜の製造方法において、前記高周波スパッタリング法は、RFマグネトロンスパッタリング法またはECRスパッタリング法であることを特徴とする酸化物半導体膜の製造方法。
【請求項13】
請求項11記載の酸化物半導体膜の製造方法において、プラズマ源となるスパッタリングガスに、5%以上の酸素ガスが添加されていることを特徴とする酸化物半導体膜の製造方法。
【請求項14】
請求項9記載の酸化物半導体膜の製造方法において、前記酸化物半導体膜は、前記酸化物半導体ターゲットを用いた蒸着法により前記基板上に形成されることを特徴とする酸化物半導体膜の製造方法。
【請求項15】
請求項14記載の酸化物半導体膜の製造方法において、前記蒸着法は、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、イオンプレーティング法、またはパルスレーザ蒸着法であることを特徴とする酸化物半導体膜の製造方法。
【請求項16】
請求項9記載の酸化物半導体膜の製造方法において、前記酸化物半導体膜は、前記酸化物半導体ターゲットを用いたイオンビームスパッタリング法により前記基板上に形成されることを特徴とする酸化物半導体膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−33699(P2012−33699A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171817(P2010−171817)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】