説明

電気自動車の回生制御装置

【課題】電気自動車の回生制御装置に関し、繰り返し制動時におけるエネルギ回収効率を高めつつ、摩擦制動装置の耐フェード性能を確保する。
【解決手段】制動時における減速度を検出する減速度検出手段1と、制動時における車速を検出する車速検出手段5と、該減速度が予め設定された第一減速度以上であり、かつ、該車速が予め設定された第一車速以上である場合に、計時を開始する計時手段3aと、該減速度及び該計時の経過時間に基づいて、電動機14の回生トルク量を増大させる回生トルク量増大制御を実施する回生量制御手段3bと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪に回生駆動される電動機及び該車輪を制動する摩擦制動装置を有する電気自動車において、電動機の回生トルク量を制御する回生制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータを動力源として車輪を駆動する電気自動車では、制動時における駆動輪のトルクを利用してモータで発電し、電力を回生する制御が行われている。回生制御によってバッテリに吸収される回生制動トルクは、車輪に併設されたディスクブレーキ等の摩擦制動装置で消費される摩擦制動トルクと併せて、車両の制動トルクとして働くことになる。このように、車輪に回生制動トルクと摩擦制動トルクとを作用させて制動する際に、回生制動トルク量を制御することによって、制動時のエネルギ効率を向上させる技術が提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には、制動操作の初期の段階で制動トルクの全体に対する回生制動トルクの比率を高く設定する技術が開示されている。この技術では、ブレーキスイッチがOFF状態からON状態に切り換えられた時点で回生制動トルクの大きさを運転者の要求制動トルクに対応する大きさに設定し、回生制御を開始している。その後、さらにブレーキペダルが踏み込まれて第1設定操作力以上の圧力がマスターシリンダーの加圧室に与えられると、摩擦係合部材をブレーキ回転体に近づけ、摩擦制動トルクを作用させている。このような制御により、エネルギの回収効率を高めることが可能であるとされている。
【特許文献1】特開2003−284202号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、回生制動トルクの大きさはモータ励磁電流を制御することで任意に調整される。一方、摩擦制動トルクは車両の走行状態に応じて変化し、必ずしも正確な制御が可能であるとは限らない。例えば、摩擦係合部材とブレーキ回転体との接触摩擦によりそれらの表面温度が上昇すると、摩擦係数が変化するため、摩擦係合要素とブレーキ回転体との間の押圧力が同一であっても摩擦制動トルクは低下する。特に、高速走行時からの繰り返し制動操作がなされた場合には、このような傾向が顕著となり、運転者の要求する制動力を確保することが困難となる。
【0005】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたもので、繰り返し制動時におけるエネルギ回収効率を高めつつ、摩擦制動装置の耐フェード性能を確保することができるようにした、電気自動車の回生制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電気自動車の回生制御装置(請求項1)は、車輪に回生駆動される電動機及び該車輪を制動する摩擦制動装置を有する電気自動車において、該電動機の回生トルク量を制御する回生制御装置であって、制動時における減速度を検出する減速度検出手段と、制動時における車速を検出する車速検出手段と、該減速度が予め設定された第一減速度以上であり、かつ、該車速が予め設定された第一車速以上である場合に、計時を開始する計時手段と、該減速度及び該計時手段による該計時の経過時間に基づいて、該電動機の回生トルク量を増大させる回生トルク量増大制御を実施する回生量制御手段と、を備えたことを特徴としている。
【0007】
なお、該減速度検出手段の具体例としては、加速度センサ,車速センサ(車速の微分値),ブレーキペダルのストロークセンサ,踏力センサ,ブレーキ液圧センサ等が挙げられる。
また、本発明の電気自動車の回生制御装置(請求項2)は、請求項1記載の構成に加え、該計時の経過時間が予め設定された所定時間以内であり、かつ、該減速度が該第一減速度よりも小さい値に予め設定された第二減速度以上である場合に、該回生量制御手段が該回生トルク量増大制御を実施することを特徴としている。
【0008】
なお、一般的な電気自動車では、該車両の制動時にエンジンブレーキ相当の制動力が作用するように電動機の回生トルク量が設定される。一方、本回生制御装置では、回生トルク量増大制御によって電動機の回生トルク量が増大するため、エンジンブレーキよりも強い制動力が作用する。
また、本発明の電気自動車の回生制御装置(請求項3)は、請求項2記載の構成に加え、該回生量制御手段が、該所定時間内における制動回数が多いほど、該回生トルク量の増分を大きく設定することを特徴としている。
【0009】
また、本発明の電気自動車の回生制御装置(請求項4)は、請求項2記載の構成に加え、該回生量制御手段が、該所定時間の間に制動操作が複数回なされたとき(すなわち、繰り返し制動がなされたとき)に、該回生トルク量増大制御を実施することを特徴としている。
また、本発明の電気自動車の回生制御装置(請求項5)は、請求項4記載の構成に加え、該回生量制御手段が、該経過時間,該減速度及び該車速のうちの少なくとも何れか一つに基づいて、該制動操作が複数回なされたか否かを判断することを特徴としている。
【0010】
また、本発明の電気自動車の回生制御装置(請求項6)は、請求項1〜3の何れか1項に記載の構成に加え、該車輪の横滑りを検出する横滑り検出手段をさらに備え、該回生量制御手段が、該横滑り検出手段で該横滑りが検出されていない状態での該回生トルク量よりも、該横滑りが検出されている状態での該回生トルク量の増分を小さく設定することを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電気自動車の回生制御装置(請求項1)によれば、第一減速度以上の減速度が検出されてからの経過時間に基づく制御により、高速過酷制動時における制動操作の頻度を加味した電動機の回生トルク量を設定することが可能となる。
また、本発明の電気自動車の回生制御装置(請求項2)によれば、繰り返しの高速過酷制動の可能性を察知して電動機の回生トルク量を増大させることにより、機械的な制動トルクを低減することができる。また、制動装置の温度上昇を抑えることができ、耐フェード性能を向上させることができる。さらに、第二減速度が第一減速度よりも小さい値に設定されているため、二回目以降の制動操作時において回生トルク量増大制御を実施しやすくすることができ、回生効率を高めることができる。
【0012】
また、本発明の電気自動車の回生制御装置(請求項3)によれば、制動操作を繰り返す毎に段階的に回生トルク量を増加させることにより、ブレーキの熱的劣化を効果的に防止することができる。
また、本発明の電気自動車の回生制御装置(請求項4)によれば、回生トルク量増大制御を連続制動時のみに適用することができる。例えば、初回の制動操作時には計時のみを開始し、二回目以降の制動操作が確認されて初めて回生トルク量増大制御を実施する構成とすることが可能となる。つまり、単発的な制動操作と連続的な制動操作とを区別して回生制御を実施することができ、不用意な制御開始による制動力の増加を防止することができる。
【0013】
また、本発明の電気自動車の回生制御装置(請求項5)によれば、簡素な構成で連続的な制動操作を把握することができる。
また、本発明の電気自動車の回生制御装置(請求項6)によれば、車輪に横滑りが生じている状態での回生トルク量を減少させることで、回生トルク量を確保しつつ車体挙動を安定化させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面により、本発明の一実施形態について説明する。
図1〜図4は、本発明の一実施形態に係る電気自動車の回生制御装置を説明するためのものであり、図1は本回生制御装置が適用された車両の全体構成を示す模式図、図2は本回生制御装置の構成を示すブロック図、図3は本回生制御装置の制御手順を説明するためのフローチャートである。また、図4は本回生制御装置による高速過酷制動を繰り返した場合の制御内容を説明するためのタイムチャートであり、(a)は減速度の変動を示すもの、(b)は車速の変動を示すもの、(c)は回生トルク量の設定値の変動を示すものである。
【0015】
[1.全体構成]
本実施形態の回生制御装置は、電気自動車10に適用されている。この電気自動車10は、車輪11をモータ14(電動機)で駆動しており、各車輪11にはディスクブレーキ15(摩擦制動装置)が併設されている。本実施形態の電気自動車10は、図1に示すように、後輪の二輪がギヤボックス12を介してモータ14と機械的に接続されている。
【0016】
また、本電気自動車10には、制動制御に係る電子制御ユニットとして、EVECU3(Electric Vehicle Electronic Control Unit),MCU4(Motor Control Unit)及びASCU5(Active Stability Control Unit)が設けられている。これらの各コントロールユニット3,4,5は、マイクロコンピュータで構成された電子制御装置であり、周知のマイクロプロセッサやROM,RAM等を集積したLSIデバイスとして提供されている。
【0017】
EVECU3は、MCU4及びASCU5よりも上位のコントロールユニットである。すなわち、EVECU3はMCU4及びASCU5を統括管理する機能を有しており、各コントロールユニット4,5で実施される制御のタイミングや制御量の設定,指示を管轄としている。なお、EVECU3には、電気自動車10の車体に作用する減速度a(前後加速度)を検出する加速度センサ1(減速度検出手段)が接続されている。
【0018】
MCU4は、EVECU3からの指示を受けて具体的な制御電圧,制御電流の値を演算し、モータ14へ制御信号を送信するものである。なおモータ14は、MCU4からの制御信号に応じて、電動機としても発電機としても機能する。
ASCU5は、EVECU3からの指示を受けてH/U16(Hydraulic Unit)を制御し、各輪11のディスクブレーキ15を個別に制御するものである。また、ASCU5は所謂ASC機能を備えており、各車輪11のグリップ力に応じた制動力を各車輪11へ付与して姿勢の安定性を向上させている。
【0019】
例えば、車輪11の横滑りを検出すると、その車輪11に制動力を付与するとともに他の車輪11の駆動力を抑制して、姿勢の乱れを抑制するヨーモーメントを生成する制御(すなわち、ASC制御)を実施する。このようにASCU5は、車輪11の横滑りを検出する横滑り検出手段としての機能を備えている。なお、ASCU5で判断された各車輪11の横滑りの有無は、EVECU3へ入力されている。
【0020】
H/U16は各車輪11のディスクブレーキ15へ導入されるブレーキ液圧を制御するアクチュエータである。このH/U16は油圧配管でブレーキマスターシリンダー8に接続されており、ブレーキペダル9の踏み込みによってブレーキブースター7を介して入力されたブレーキ液圧を受けて、各輪11のディスクブレーキ15を制御している。
なお、ブレーキマスターシリンダー8とH/U16とを接続する油圧配管上には、ブレーキペダル9の踏み込みの有無を検出すべく、ブレーキ液圧センサ6が介装されている。ここでの検出情報は、EVECU3へと入力されている。
【0021】
各車輪11には、その回転数を検出する速度センサ13が設けられている。ここで検出された各車輪11の回転数は、ASCU5へ入力されている。なお、ASCU5はこれらの回転数に基づいて車速Vを算出しており、ここで算出された車速VはEVECU3へ入力されている。したがって、ASCU5は車速検出手段としての機能を備えている。
【0022】
[2.EVECU]
本電気自動車10の制動時における回生制御に係る制御構成について詳述する。EVECU3は、少なくともブレーキペダル9が踏み込まれているときには、内燃機関を動力とする車両におけるエンジンブレーキに相当する大きさの回生トルク量T0(初期回生量)を設定し、モータ14を制御する。なお、より回生効率を高めるためには、回生トルク量を増大させる必要がある。しかし、回生トルク量の設定が大きすぎれば、過剰に制動力が作用することになり、操作フィーリングが損なわれることになる。そこで本EVECU3では、回生トルク量を増大させる条件を設定してそのタイミング及び大きさを制御している。
【0023】
図2に示すように、EVECU3の入力側には、ブレーキ液圧センサ6,ASCU5及び加速度センサ1が接続されている。一方、出力側にはMCU4が接続されている。これにより、EVECU3には、ブレーキペダル9の踏み込みの有無,車速V,各車輪11の横滑りの有無,減速度aが入力されることになる。これらの情報に基づき、EVECU3はブレーキ操作の頻度(回数)を把握し、MCU4を介してモータ14の回生トルク量Tを制御する。
【0024】
[2−1.タイマーカウンターの開始条件]
まず、EVECU3は、計時手段3a及び回生量制御手段3bを備えて構成されている。計時手段3aは、以下の条件〔1〕〜〔3〕の全てが成立する場合に、タイマーカウンターによる計時を開始する。以下、計時された経過時間をtと表記する。
〔1〕制動操作中である(ブレーキペダル9が踏み込まれている)
〔2〕車速Vが予め設定された第一車速V1以上である
〔3〕減速度aが予め設定された第一減速度a1以上である
これらの条件のうち、条件〔2〕は高速走行状態からの制動であることを確認するための条件である(例えば、95[km/h]等)。また、条件〔3〕は制動時の減速度aが高減速度であることを確認するための条件であり、第一減速度a1は通常の制動操作時における減速度よりもやや大きめの値(例えば、6[m/s2]等)に設定されている。これらの条件〔1〕〜〔3〕が全て成立する制動操作のことを、高速過酷制動と呼ぶ。
【0025】
[2−2.回生トルク量増大制御の開始条件]
一方、回生量制御手段3bは、減速度a及び計時手段3aでカウントされている経過時間tに基づき、モータ14の回生トルク量Tを増大させる回生トルク量増大制御を実施する。回生トルク量増大制御の開始条件は、上記の条件〔2〕と以下の条件〔4〕〜〔6〕が全て成立することである。
〔4〕計時の経過時間tが予め設定された所定時間t0以内である
〔5〕減速度aが予め設定された第二減速度a2以上である(ただし、a2≦a1
〔6〕車速Vが予め設定された第二車速V2以上である
条件〔4〕は、高速過酷制動が検出されてから経過した時間である。つまりここでは、高速過酷制動が検出されてから少なくとも所定時間t0は経過していないことが判定されていることになる。本実施形態では、ディスクブレーキ15の耐フェード性能を考慮して所定時間t0を設定している(例えば、60[s]等)。なお、経過時間tが小さいほどブレーキ操作の相対的な頻度が高いと見なすことができる。
【0026】
また、条件〔5〕に係る第二減速度a2を条件〔2〕に係る第一減速度a1よりも小さく設定するほど(例えば、4.5[m/s2]等)、高速過酷制動時における回生トルク量増大制御が開始されやすくなる。
条件〔6〕は、実際に回生トルク量増大制御を開始する時点での車速Vを判定するためのものである。第二車速V2は、第一車速V1よりも小さい値(例えばV2=90[km/h]等)に設定してもよいし、第一車速V1よりも大きな値(例えばV2=100[km/h]等)に設定してもよい。なお、第一車速V1よりも第二車速V2を小さく設定すれば、高速過酷制動と判定されるよりも低い車速の状態でも回生トルク量増大制御が実施されうることになる。つまり、繰り返し制動操作がなされたような連続制動における二回目以降の制動時に、回生トルク量増大制御の開始条件が緩められることになる。
【0027】
回生トルク量増大制御での回生トルク量Tは、以下の条件〔7〕に応じて設定される。
〔7〕ASCU5で車輪11の横滑りが検出(ASC制御が実施)されている
ここでは、条件〔7〕が成立しない場合にはモータ14の回生トルク量Tが第一回生量T1に設定され、条件〔7〕が成立する場合には回生トルク量Tが第一回生量よりも小さい第二回生量T2に設定されるようになっている。例えば、第一回生量T1をモータ14の最大値(回生用モータ励磁電流最大)に設定し、第二回生量T2をその半分程度に設定することが考えられる。なお、第一回生量T1及び第二回生量T2は、前述のエンジンブレーキ相当の回生トルク量T0(初期回生量)よりも大きい値である。
【0028】
なお、回生トルク量増大制御が開始されると、その時点でタイマーカウンターがリセットされてt=0から計時が再スタートされるようになっている。
【0029】
[2−3.回生トルク量増大制御の終了条件]
回生量制御手段3bにおける回生トルク量増大制御の終了条件は、以下の条件〔8〕が成立することである。
〔8〕車速Vが第三車速V3以下である
〔9〕減速度aが第二減速度a2未満である
例えば、回生トルク量Tが第一回生量T1に設定されている時に少なくとも条件〔8〕又は〔9〕の何れかが成立すると、回生トルク量Tが元の値(エンジンブレーキ相当の回生量T0)に再設定される。仮に減速度aが第二減速度a2以上であったとしても、車速Vが衰えてやがて第三車速V3以下になれば、回生トルク量増大制御は終了する。
【0030】
一方、たとえ条件〔8〕,〔9〕が成立したとしても、計時手段3aにおける計時はそのまま継続するようになっている。つまり、回生トルク量増大制御が一旦終了したとしても、その後条件〔4〕〜〔6〕の全てがまた成立すれば、再び回生トルク量増大制御が開始されることになる。
なお、第三車速V3は第二車速V2よりも小さい値であればよい(例えば、20[km/h]等)。
【0031】
[2−4.タイマーカウンターの停止条件]
計時手段3aにおけるタイマーカウンターの停止条件は、以下の条件〔10〕が成立することである。
〔10〕計時の経過時間tが所定時間t0を超えた
条件〔10〕が成立すると、モータ14の回生トルク量Tがエンジンブレーキ相当の回生トルク量T0(初期回生量)に設定され、タイマーカウンターが停止される。つまり、回生トルク量増大制御が開始されていた場合であっても、強制的に制御が終了する。
【0032】
[3.フローチャート]
図3を用いて、本回生制御装置における制御手順を説明する。このフローは、例えば予め設定された所定の周期で繰り返し実施されている。またここでは、回生トルク量増大制御が実施しうる状態であることを示すフラグAが用いられている。A=0は、まだ回生トルク量増大制御の開始条件が判断されない状態であることを示し、A=1は、回生トルク量増大制御の開始条件及び終了条件が判断されうる状態であることを示す。A=0であるときには図3中のステップA10〜A70が実施され、A=1であるときにはステップA10〜30及びステップA80〜190が実施されている。なお、フラグAの初期値はA=0である。
【0033】
まず、ステップA10〜A70では、タイマーカウンターの開始に係る制御が実施される。ステップA10では、条件〔1〕に係るブレーキペダル9の踏み込みの有無が判定され、減速操作中である場合にはステップA20へ進む。また、減速操作がなされていない場合にはそのまま本フローを終了する。
ステップA20では、ASCU5で算出された車速Vが読み込まれるとともに、加速度センサ1で検出された減速度aが読み込まれる。続くステップA30では、フラグAの状態が判定され、A=0である場合にはステップA40へ進む。一方、A=1の場合にはステップA80へ進む。
【0034】
ステップA40は条件〔2〕に係る判定ステップであり、車速Vが第一車速V1以上であるか否かが判定される。ここでV≧V1である場合にはステップA50へ進み、そうでない場合には本フローを終了する。
ステップA50は条件〔3〕に係る判定ステップであり、減速度aが第一減速度a1以上であるか否かが判定される。ここでa≧a1である場合にはステップA60へ進み、そうでない場合には本フローを終了する。
【0035】
ステップA60ではフラグAがA=1に設定され、続くステップA70では計時手段3aでタイマーカウンターによる計時が開始され、本フローを終了する。フラグAの設定により、次回の本フローの実行時にはステップA30からステップA80へ進むことになる。
ステップA80〜A110では、タイマーカウンターの停止に係る制御が実施される。ステップA80では、条件〔4〕,〔10〕に係る計時の経過時間tが所定時間t0以内であるか否かが判定される。ここでt>t0である場合にはステップA90へ進み、モータ14の回生トルク量Tが初期回生量T0に設定される。さらに続くステップA100ではフラグAがA=0に設定され、ステップA110でタイマーカウンターが停止されて、本フローを終了する。
【0036】
一方、ステップA80でt≦t0である場合にはステップA120へ進む。ステップA120〜A190は、回生トルク量増大制御の開始,終了判定に係るフローである。
ステップA120は条件〔6〕に係る判定ステップであり、車速Vが第二車速V2以上であるか否かが判定される。ここでV≧V2である場合にはステップA130へ進み、そうでない場合には回生トルク量増大制御の終了判定に係るステップA180へ進む。
【0037】
また、ステップA130は条件〔5〕に係る判定ステップであり、減速度aが第二減速度a2以上であるか否かが判定される。ここでa≧a2である場合には回生トルク量増大制御を実施するものとしてステップA140へ進み、そうでない場合にはステップA190へ進む。なお、ステップA190は、モータ14の回生トルク量Tが初期回生量T0に設定されるステップであり、実質的に回生トルク量増大制御が終了するステップである。
【0038】
ステップA140は条件〔7〕に係る判定ステップであり、ASCU5で車輪11の横滑りが検出されている(すなわちASC制御が実施されている)か否かが判定される。ここで横滑りが検出されていない場合にはステップA150へ進み、モータ14の回生トルク量Tが第一回生量T1に設定される。一方、横滑りが検出されている場合にはステップA160へ進み、回生トルク量Tが第二回生量T2に設定される。何れかの回生トルク量T1,T2が設定されるとステップA170へ進み、タイマーカウンターの動作がリセットされて再び計時がt=0から開始されて本フローを終了する。
【0039】
ステップA120においてV≧V2でなかった場合、ステップA180で条件〔8〕に係る判定がなされ、車速Vが第三車速V3以下であるか否かが判定される。ここでV>V3である場合はそのまま本フローを終了するが、V≦V3である場合にはステップA190へ進み、モータ14の回生トルク量Tが初期回生量T0に設定されて本フローを終了する。つまり、車速Vがある程度低くなった場合にも、回生トルク量増大制御が終了するようになっている。
【0040】
[4.作用]
高速過酷制動を繰り返し行ったときの減速度a,車速V及びモータ14の回生トルク量Tの経時変動を表したタイムチャートを図4(a)〜(c)に示す。なおこの例では、第一減速度a1が第二減速度a2よりも大きい値に設定されているものとする。
第一車速V1以上で走行する電気自動車10に制動操作が加えられ、時刻t1に減速度aが第一減速度a1以上になると、フラグAがA=1にセットされ、計時手段3aでの計時が開始される。また、ASCU5において各車輪11の横滑りが検出されていなければモータ14の回生トルク量Tが第一回生量T1に設定される。
【0041】
その後、時刻t2に車速Vが第三車速V3以下になると回生トルク量Tが初期回生値T0にリセットされ、回生トルク量増大制御が終了する。なお、車速が第三車速V3以下になるよりも先に減速度aが第二減速度未満a2になった場合にも、回生トルク量増大制御は終了する。また、時刻t2からt′の間には、アクセル操作がなされておりブレーキペダル9が踏み込まれていないため、回生はなされない。一方、この間もフラグAはリセットされず、A=1のままである。
【0042】
時刻t′にブレーキペダル9が踏み込まれて時刻tに減速度aが第二減速度a2以上となり、かつ、車速Vが第二車速V2以上となった場合、時刻t1から時刻t3までの経過時間tが所定時間t0以内であれば、再び回生トルク増大制御が開始される。すなわち、ASCU5において各車輪11の横滑りが検出されていなければ回生トルク量Tが第一回生量T1に設定される。またこのとき、タイマーカウンターがリセットされる。
【0043】
なお、前述の特許文献1に記載されたような従来の回生制御では、減速度aや車速V等の閾値の設定が固定的であるため、例えば時刻t3に減速度が第一減速度a1以上となり車速Vも第一車速V1以上となるような場合にしか回生トルク量を増加させることができない。すなわち、二回目の制動操作が一回目の制動操作ほど過酷ではない場合には、図4(c)中の時刻tからt間に一点鎖線で示すように、回生トルク量を増大させることができない。
【0044】
これに対し、本発明に係る制御では、高速過酷制動が検出されてから所定時間t0の間に限って減速度a及び車速Vの判定閾値が低くなるため、制御内容に回生トルク量が増大しやすくなる傾向が与えられることになる。これにより、ディスクブレーキ15の温度上昇が抑えられ、耐フェード性能が向上する。また、このような回生トルク量増大制御が実施されるのは高速過酷制動時であるため、制動力が増加しても操作フィーリングはほとんど損なわれない。
【0045】
さらにその後、時刻t4に車速Vが第三車速V3以下、又は、減速度aが第二減速度a2未満になると回生トルク量Tが初期回生値T0にリセットされ、回生トルク量増大制御が終了する。時刻t4からt4′の間は、時刻t2からt2′間と同様に、回生はなされない。また、フラグAもA=1のままとなる。
時刻t4′にブレーキペダル9が踏み込まれて時刻t5に減速度aが第二減速度a2以上となり、かつ、車速Vが第二車速V2以上となった場合、時刻t3から時刻t5までの経過時間tが所定時間t0以内であれば、再び回生トルク増大制御が開始される。すなわち、ASCU5において各車輪11の横滑りが検出されていなければ回生トルク量Tが第一回生量T1に設定される。またこのとき、タイマーカウンターがリセットされる。その後、時刻t6に車輪11の横滑りが検出されると、回生トルク量Tが第二回生量T2に設定され、タイマーカウンターがリセットされる。
【0046】
前述の特許文献1に記載されたような従来の回生制御では、図4(c)中の時刻t6からt7間に一点鎖線で示すように、回生トルク量の設定値をフレキシブルに変更することができない。これに対し、本発明に係る制御では、時刻t6からt7間の回生トルク量Tが抑制されるため、車両の走行安定性が向上する。
そして、時刻t7に車速Vが第三車速V3以下になると回生トルク量Tが初期回生値T0にリセットされ、回生トルク量増大制御が終了する。なお、時刻t6から所定時間t0が経過するまでの間に再び回生トルク量増大制御が実施されなければ、フラグAがA=0にセットされる。つまりこの時点で、回生トルク量が増大しやすくなる傾向が解消されることになる。
【0047】
[5.効果]
このように、本回生制御装置によれば、高速過酷制動が検出されてからの経過時間に基づく制御により、制動操作の頻度を加味した電動機の回生トルク量を設定することが可能となる。例えば、制動頻度(例えば、所定時間内の制動回数)が高ければ、制動頻度が低いときよりも回生トルクを増大させるための条件を甘く設定することができる。
【0048】
このように、繰り返しの高速過酷制動の可能性を察知してモータ14の回生トルク量Tを増大させることにより、ディスクブレーキ15での機械的な制動トルクを低減することができる。また、ディスクブレーキ15の温度上昇を抑えることができ、耐フェード性能を向上させることができる。
また、第二減速度a2が第一減速度a1よりも小さい値に設定されているため、二回目以降の制動操作時において回生トルク量増大制御を実施しやすくすることができ、回生効率を高めることができる。なお、第二車速V2が第一車速V1よりも低速に設定されていることも、このような効果に寄与している。
【0049】
さらに、車輪11に横滑りが生じている状態、すなわち、ASC制御が実施されているような車体挙動が不安定な状況下での回生トルク量Tを減少させることで、回生トルク量Tを確保しつつ車体挙動を安定化させることができる。
このように、本発明によれば、繰り返し制動時におけるエネルギ回収効率を高めつつ、摩擦制動装置の耐フェード性能を確保することができる。
【0050】
[6.変形例]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。上述の実施形態では、一回目の制動時にフラグAがA=1になると即座に回生トルク量Tが増大させる制御となっているが、繰り返し制動における二回目以降の制動操作時から回生トルク量Tを増大させる構成としてもよい。
【0051】
例えば、高速過酷制動であるか否かを判定するための条件〔1〕〜〔3〕に関して、時間の要素を追加することが考えられる。すなわち、条件〔3〕の代わりに以下の条件〔3′〕を適用する。
〔3′〕減速度aが第一減速度a1以上である状態が一定時間ta以上継続する
この場合、図5(a)〜(d)に示すように、時刻t1に減速度aが第一減速度a1以上になってから所定時間t(例えば、数秒)が経過した時点(時刻t1′)で、フラグAがA=1に設定される。一方、時刻t1′に車速Vが第二車速V2未満であれば、フラグAはA=1のままであり、回生トルク量Tは初期回生量T0から変更されない。したがって、図5(d)に示すように、一回目の制動時には高速過酷制動の判定のみが実施されて回生トルク量Tは増大せず、二回目以降の繰り返し制動時に回生トルク量Tを増大させることができる。また、高速過酷制動の判定条件が厳しくなることになるため、誤検出を防止することもできる。
【0052】
なお、繰り返し制動を検出するための構成はこれに限定されない。少なくとも、所定時間の間に制動操作が複数回なされたか否かを判定すればよく、例えば時間,減速度a,車速Vに基づいてその制動が二回目以降の制動であるか否かを判定する構成とすればよい。少なくとも車速VがV=0であれば車両が停止していることになるため、一回目の制動操作が終了したと判断することができる。あるいは、減速度aがマイナスの値で検出された(加速操作が検出された)場合にも、一回目の制動操作が終了して加速操作へ移行したと判断することができる。このように、単発的な制動操作と複数の連続的な制動操作とを区別して回生制御を実施することができ、不用意な制御開始による制動力の増加を防止することができる。
【0053】
例えば、上述の図3のフローチャートにおけるステップA50〜A70に、所定時間t(数秒程度)だけルーチンを停止させるステップを追加してフラグAの立ち上がりを僅かに遅らせることが考えられる。このような構成でも、高速過酷条件が成立した時点からフラグAの実質的な立ち上がりを遅らせることができ、初回制動時の回生トルク量増大制御を抑制することができる。
【0054】
[7.その他]
また、上述の実施形態では、回生トルク量増大制御での回生トルク量Tが第一回生量T1と第二回生量T2との二段階に制御されているが、より多段階の回生トルク量を予め設定しておくことも考えられる。この場合、車速Vや減速度aの大きさに応じた大きさの回生トルク量を設定する構成としてもよいし、所定時間t0内(あるいは、フラグAがA=1になってから)の通算の制動回数が多いほど回生トルク量の増分を大きく設定する構成とすることも考えられる。制動操作を繰り返す毎に段階的に回生トルク量を増加させることにより、ディスクブレーキ15の熱的劣化を効果的に防止することができる。
【0055】
また、上述の実施形態で説明されているEVECU3での判定条件は、上記の条件〔1〕〜〔10〕のみに限定されるものではない。
例えば、タイマーカウンターの開始条件に関して、上記の条件〔1〕〜〔3〕の何れかを省略してもよいし、あるいは、制動操作の継続時間に関する条件(所定時間以上制動操作が継続していることなど)を追加してもよい。また、路面μに関する条件(路面μに応じて閾値となる車速,減速度条件を変更するなど)を追加することも一案である。
【0056】
回生トルク量増大制御の開始条件に関しても、上記の条件〔2〕,〔4〕,〔5〕の何れかを省略してもよいし、あるいは、舵角,操舵角に関する条件(ほぼ直進している場合にのみ回生トルク量増大制御を開始するなど)を追加してもよい。
回生トルク量増大制御の終了条件に関しても、減速度に関する条件(減速度がある程度小さくなったら制御を停止するなど)や、舵角,操舵角に関する条件(旋回を開始した段階で制御を停止するなど)や、回生トルク量増大制御の継続時間に関する条件(一回の回生トルク量増大制御の継続時間を制限するなど)を追加してもよい。
【0057】
また、上述の実施形態では、MCU4で算出された車速を制動時の車速VとしてEVECU3での制御に用いているが、これの代わりに図示しない車速センサで検出された車速を用いてもよく、あるいは減速度aの積分値を用いてもよい。
また、加速度センサ1の代わりにブレーキペダル9のストロークを検出するストロークセンサやブレーキマスターシリンダー8の液圧の大きさを検出する圧力センサ,ブレーキ踏力を検出するひずみゲージ等を用いて、減速度aに相当するパラメータを検出又は算出する構成としてもよい。あるいは、車速Vの微分値を用いてもよい。
【0058】
また、上述の実施形態における条件〔7〕の代わりに、車両のヨーレイトや操舵角といった車両の安定性を評価するための条件を適用することも考えられる。すなわち、各車輪11の横滑りだけでなく、車体のヨー挙動やロール挙動が不安定な状態下では、安定した状態下よりも回生トルクの増加量を抑制する構成としてもよい。
なお、上述の実施形態における第一減速度a1,第二減速度a2,第一車速V1,第二車速V2,第三車速V3,第一回生量T1,第二回生量T2,所定時間t0等といった具体的な設定値は任意である。また、本発明に係る制御は、トランスミッションのシフト位置に依らずに実施することが可能である。例えば、シフト位置がDレンジであってもNレンジであっても、モータ14での回生トルク量を増大させることができる。
【0059】
また、上述の実施形態では、本発明の回生制御装置を電気自動車10に適用したものを例示したが、ハイブリッド電気自動車(HEV)や燃料電池車(FCV)等、モータ14(モータ・ジェネレータ)で車輪11を駆動する車両であって、かつ、機械的なブレーキ装置を備えた車両であれば好適に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の一実施形態に係る電気自動車の回生制御装置が適用された車両の全体構成を示す模式図である。
【図2】本回生制御装置の構成を示すブロック図である。
【図3】本回生制御装置の制御手順を説明するためのフローチャートである。
【図4】本回生制御装置による高速過酷制動を繰り返した場合の制御内容を説明するためのタイムチャートであり、(a)は減速度の変動を示すもの、(b)は車速の変動を示すもの、(c)は回生トルク量の設定値の変動を示すものである。
【図5】変形例としての本回生制御装置による高速過酷制動を繰り返した場合の制御内容を説明するためのタイムチャートであり、(a)は減速度の変動を示すもの、(b)はフラグAの変動を示すもの、(c)は車速の変動を示すもの、(d)は回生トルク量の設定値の変動を示すものである。
【符号の説明】
【0061】
1 加速度センサ
3 EVECU
3a 計時手段
3b 回生量制御手段
4 MCU(車速検出手段,横滑り検出手段)
5 ASCU
6 ブレーキ液圧センサ
7 ブレーキブースター
8 ブレーキマスターシリンダー
9 ブレーキペダル
10 電気自動車
11 車輪
12 ギヤボックス
13 速度センサ
14 モータ(電動機)
15 ディスクブレーキ(摩擦制動装置)
16 H/U

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪に回生駆動される電動機及び該車輪を制動する摩擦制動装置を有する電気自動車において、該電動機の回生トルク量を制御する回生制御装置であって、
制動時における減速度を検出する減速度検出手段と、
制動時における車速を検出する車速検出手段と、
該減速度が予め設定された第一減速度以上であり、かつ、該車速が予め設定された第一車速以上である場合に、計時を開始する計時手段と、
該減速度及び該計時手段による該計時の経過時間に基づいて、該電動機の回生トルク量を増大させる回生トルク量増大制御を実施する回生量制御手段と、を備えた
ことを特徴とする、電気自動車の回生制御装置。
【請求項2】
該計時の経過時間が予め設定された所定時間以内であり、かつ、該減速度が該第一減速度よりも小さい値に予め設定された第二減速度以上である場合に、該回生量制御手段が該回生トルク量増大制御を実施する
ことを特徴とする、請求項1記載の電気自動車の回生制御装置。
【請求項3】
該回生量制御手段が、該所定時間内における制動回数が多いほど、該回生トルク量の増分を大きく設定する
ことを特徴とする、請求項2記載の電気自動車の回生制御装置。
【請求項4】
該回生量制御手段が、該所定時間の間に制動操作が複数回なされたときに、該回生トルク量増大制御を実施する
ことを特徴とする、請求項2記載の電気自動車の回生制御装置。
【請求項5】
該回生量制御手段が、該経過時間,該減速度及び該車速のうちの少なくとも何れか一つに基づいて、該制動操作が複数回なされたか否かを判断する
ことを特徴とする、請求項4記載の電気自動車の回生制御装置。
【請求項6】
該車輪の横滑りを検出する横滑り検出手段をさらに備え、
該回生量制御手段が、該横滑り検出手段で該横滑りが検出されていない状態での該回生トルク量よりも、該横滑りが検出されている状態での該回生トルク量の増分を小さく設定する
ことを特徴とする、請求項1〜5の何れか1項に記載の電気自動車の回生制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−104086(P2010−104086A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−271088(P2008−271088)
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】