説明

電界効果トランジスタ

【課題】電流コラプスが小さく且つ良好な高周波特性を有する電界効果トランジスタを実現できるようにする。
【解決手段】電界効果トランジスタは、基板101の上に形成された窒化物半導体積層体102と、ソース電極105、ドレイン電極106及びゲート電極107と、窒化物半導体積層体102の上に形成された絶縁膜110と、絶縁膜110の上に接して形成され、端部がゲート電極107とドレイン電極106との間に位置するフィールドプレート115とを備えている。絶縁膜110は、第1の膜111と、第1の膜111よりも絶縁耐圧が低い第2の膜112とを含み、ゲート電極117とドレイン電極116との間に形成された薄膜部110aを有している。フィールドプレート115は、薄膜部110aを覆い且つ開口部においてソース電極と接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界効果トランジスタに関し、特に窒化物半導体を用いた電界効果トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)に代表されるIII−V族窒化物半導体は、一般式がInxAlyGa1-x-yN(0≦x≦1,0≦y≦1)により表される。III−V族窒化物半導体は広いバンドギャップを有し、例えばGaNのバンドギャップは室温において3.4eVである。また、III−V族窒化物半導体は、絶縁破壊電界及び飽和電子速度も非常に大きい。III−V族窒化物半導体の中でも、特にGaN層の上にAlGaN層を積層したヘテロ接合構造の場合には、(0001)面上において強い分極電界によりGaN層中のヘテロ接合界面近傍に電子が高濃度に蓄積し、いわゆる2次元電子ガスが形成される。2次元電子ガスは、AlGaN層中に添加されるドナー不純物と空間的に分離されるため、高い電子移動度を示す。さらに、GaN系材料はいわゆる飽和ドリフト速度が大きく、例えば1×105V/cm程度の高電界領域における電子速度は、高周波トランジスタの材料として現在普及しているGaAs系材料の2倍以上である。また、GaN系材料は、バンドギャップが大きく絶縁破壊電界も大きいため、高周波・高出力デバイスへの応用が期待され、研究開発が盛んに行われている。
【0003】
III−V族窒化物半導体の表面には高密度のトラップ準位(表面準位)が存在するため、トランジスタを大信号動作させた際に、電子とトラップ準位との応答により表面が負に帯電してしまう。表面が負に帯電すると、ドレイン電流が減少し寄生抵抗も増大する、いわゆる電流コラプスが生じる。電流コラプスが顕著になると大信号動作時においてドレイン電流の減少及び寄生抵抗の増大が生じ、出力が制限されてしまう。電流コラプスを抑制するためには、表面準位を低減することが重要であり、III−V族窒化物半導体を用いた電界効果トランジスタでは、層間膜又は表面保護膜として窒化珪素(SiN)を用いることにより表面準位を低減することが検討されている(例えば、非特許文献1を参照。)。しかし、SiN膜を層間膜等として用いても、電流コラプスを完全に防ぐことはできない。さらに、SiN膜からなる層間膜を形成すると、ゲート電極における耐圧が低下したり、ゲートリーク電流が増加したりするという問題が生じる。高出力動作が要求される分野では、大電流を制御できるだけでなく、高耐圧であることが必要とされるため、耐圧の低下は大きな問題である。
【0004】
電界効果トランジスタの耐圧を改善するため、ゲート電極にドレイン電極側に張り出したフィールドプレートを設けることが検討されている(例えば、特許文献1を参照。)。ゲート電極にフィールドプレートを設けることにより、ゲート電極近傍における電界集中が緩和され、耐圧の向上が期待される。しかし、ゲート電極にフィールドプレートを設けた場合には、フィールドプレートの直下における寄生容量により、帰還容量が増加し、フィールドプレートを設けない場合よりも利得が低下してしまう。
【0005】
フィールドプレートによる利得の低下を防止するために、ゲート電極とドレイン電極との間に形成したフィールドプレートをソース電極と電気的に接続することが検討されている(例えば、特許文献2を参照。)。ゲート電極とドレイン電極との間に形成したフィールドプレートをソース電極と電気的に接続することにより、ゲート電極近傍における電界集中を緩和すると共に、ゲートドレイン間に発生する寄生容量(Cgd)低減できるようになると期待される。これにより、電流コラプスの抑制、ゲート耐圧の向上及び利得の向上が期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−200248号公報
【特許文献2】特表2007−537593号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】A. V. Vertiatchikh, L. F. Eastman, W. J. Schaff and T. Prunty,“Effect of surface passivation of AlGaN/GaN heterostructure field-effect transistor”, Electronics Letters, 2002年, 38巻, p.388-389
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本願発明者らは、フィールドプレートをソース電極と電気的に接続しただけでは、寄生容量を十分に低減することができず、電流コラプスの抑制が不十分であり、利得の向上もできないということを見出した。
【0009】
本発明は、本願発明者らが見出した寄生容量を十分に低減できないという問題を解決し、電流コラプスが小さく且つ良好な高周波特性を有する電界効果トランジスタを実現できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するため、本発明は電界効果トランジスタを、第1の膜と第1の膜よりも絶縁耐圧が低い第2の膜とが積層された絶縁膜の上に、ソース電極と接続されたフィールドプレートが形成された構成とする。
【0011】
具体的に、本発明に係る電界効果トランジスタは、基板の上に形成されたヘテロ接合を含む窒化物半導体積層体と、窒化物半導体積層体の上に形成されたソース電極及びドレイン電極と、ソース電極とドレイン電極との間に形成されたゲート電極と、窒化物半導体積層体の上に、ゲート電極を覆うように形成された絶縁膜と、絶縁膜の上に接して形成され、端部がゲート電極とドレイン電極との間に位置するフィールドプレートとを備え、絶縁膜は、第1の膜と、該第1の膜の上に形成され第1の膜よりも絶縁耐圧が低い第2の膜とを含み、ゲート電極とドレイン電極との間に形成され且つ第2の膜の少なくとも一部が除去された薄膜部及びソース電極を露出する開口部を有し、フィールドプレートは、薄膜部の上を覆い且つ開口部においてソース電極と接続されている。
【0012】
本発明の電界効果トランジスタは、絶縁膜の上に接して形成されたフィールドプレートを備え、絶縁膜は、第1の膜と、第1の膜の上に形成され、第1の膜よりも絶縁耐圧が低い第2の膜とを含む。このため、ゲート電極とドレイン電極との間において第2の膜の少なくとも一部を除去することにより、薄膜部を容易に形成することができる。従って、窒化物半導体積層体の上面とフィールドプレートとの下面との間隔を狭くすると共に、フィールドプレートとゲート電極及びドレイン電極との間隔を確保することが容易にできる。さらに、絶縁耐圧が高い第1の膜を用いているため、十分な絶縁性を容易に確保できる。
【0013】
本発明の電界効果トランジスタにおいて、第2の膜は、第1の膜よりも膜厚が厚い構成とすればよい。
【0014】
本発明の電界効果トランジスタにおいて、薄膜部は、絶縁膜における薄膜部とドレイン電極との間の部分及び絶縁膜における薄膜部とゲート電極との間の部分よりも膜厚が薄い構成とすればよい。
このようにすれば、フィールドプレートの下面と窒化物半導体積層体の上面との間隔を狭くしつつ、フィールドプレートとゲート電極との間隔及びフィールドプレートとドレイン電極との間隔を保つことが容易にできる。
【0015】
本発明の電界効果トランジスタにおいて、薄膜部は、第2の膜の少なくとも一部が除去された凹部であり、フィールドプレートは凹部に埋め込まれていてもよい。
【0016】
本発明の電界効果トランジスタにおいて、凹部は、底面に第2の膜が残存していてもよい。
【0017】
本発明の電界効果トランジスタにおいて、フィールドプレートの端部は、薄膜部よりもドレイン電極側に位置していてもよい。このようにすれば、フィールドプレートとドレイン電極との間隔を広く確保しつつ、フィールドプレートの端部をドレイン電極により近づけることができる。
【0018】
本発明の電界効果トランジスタにおいて、第1の膜は、アルミニウムを含む絶縁膜とすればよい。
【0019】
本発明の電界効果トランジスタにおいて、第1の膜は、膜厚が50nm以下としてもよい。
【0020】
本発明の電界効果トランジスタにおいて、ゲート電極からフィールドプレートの端部までの長さは、ゲート電極からドレイン電極までの長さの40%以上且つ80%以下としてもよい。
【0021】
本発明の電界効果トランジスタにおいて、絶縁膜は、第1の膜と第2の膜との間に形成され、第1の膜よりも絶縁耐圧が低い第3の膜を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る電界効果トランジスタによれば、電流コラプスが小さく且つ良好な高周波特性を有する電界効果トランジスタを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】一実施形態に係る電界効果トランジスタを示す断面図である。
【図2】一実施形態に係る電界効果トランジスタの製造方法の一工程を示す断面図である。
【図3】一実施形態に係る電界効果トランジスタの製造方法の一工程を示す断面図である。
【図4】一実施形態に係る電界効果トランジスタの製造方法の一工程を示す断面図である。
【図5】一実施形態に係る電界効果トランジスタの製造方法の一工程を示す断面図である。
【図6】一実施形態に係る電界効果トランジスタの製造方法の一工程を示す断面図である。
【図7】絶縁膜の膜厚と、コラプスの大きさとの関係を示すグラフである。
【図8】絶縁膜の膜厚と、高周波特性との関係を示すグラフである。
【図9】絶縁膜の膜厚と、寄生容量との関係を示すグラフである。
【図10】フィールドプレートの長さと、寄生容量との関係を示すグラフである。
【図11】フィールドプレートの長さと、高周波特性との関係を示すグラフである。
【図12】一実施形態に係る電界効果トランジスタの入出力特性示すグラフである。
【図13】一実施形態に係る電界効果トランジスタの変形例を示す断面図である。
【図14】一実施形態に係る電界効果トランジスタの変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、一実施形態に係る電界効果トランジスタの断面構成を示している。本実施形態の電界効果トランジスタは、基板101の上に形成された窒化物半導体積層体102と、窒化物半導体積層体102の上に形成されたソース電極105、ドレイン電極106及びゲート電極107を備えている。基板101は、シリコン(Si)基板等とすればよい。窒化物半導体積層体102は、基板101の上に順次形成されたバッファ層121、下地層123及び電子供給層124を有している。下地層123における電子供給層124との界面近傍には2次元電子ガスからなるチャネルが形成されている。バッファ層121は、膜厚が200nm程度のアンドープの窒化アルミニウム(AlN)とすればよい。下地層123は、膜厚が1μm程度のアンドープのGaNとすればよい。電子供給層124は、膜厚が25nm程度のアンドープのAl0.25Ga0.75Nとすればよい。窒化物半導体積層体102は、有機金属化学気相堆積(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:MOCVD)法等により形成すればよい。
【0025】
ソース電極105及びドレイン電極106は、チャネルとオーミック接触しており、例えばチタン(Ti)とアルミニウム(Al)との合金とすればよい。本実施形態においては、ソース電極105及びドレイン電極106は、電子供給層124と下地層123との界面よりも下側に達するオーミックリセスを埋めるようにそれぞれ形成されており、チャネルと直接接触している。ゲート電極107は、チャネルとショットキー接触しており、例えばニッケル(Ni)と金(Au)との積層体とすればよい。本実施形態においては、ゲート電極107は、閾値電圧を調整するために、ゲートリセスに形成されている。
【0026】
ゲートリセス及びオーミックリセスは、例えば図2に示すようにして形成すればよい。基板101の上に、バッファ層121、下地層123及び電子供給層124を有する窒化物半導体積層体102を形成した後、フォトレジストによりマスクを形成した後、塩素(Cl2)ガスを用いた誘導結合プラズマ(Induced Coupled Plasma:ICP)エッチングにより電子供給層124の一部を選択的に除去してゲートリセスを形成する。続いて、フォトレジストにより新たなマスクを形成した後、Cl2ガスを用いたICPエッチングにより電子供給層124と下地層123の一部とを選択的に除去してオーミックリセスを形成する。ゲートリセスは、幅が0.5μm程度のストライプ状に形成すればよい。
【0027】
オーミックリセス及びゲートリセスへの電極金属の埋め込みは、図3に示すように電子ビーム蒸着とリフトオフとを用いればよい。ソース電極105及びドレイン電極106を形成した後、コンタクト抵抗低減のため、窒素雰囲気において600℃程度の熱処理を行えばよい。
【0028】
窒化物半導体積層体102の上には、ソース電極105、ドレイン電極106及びゲート電極107を覆うように絶縁膜110が形成されている。絶縁膜110は、窒化アルミニウム(AlN)からなる第1の膜111と、第1の膜111の上に形成された窒化シリコンからなる第2の膜112とを有している。絶縁膜110は、ゲート電極107とドレイン電極106との間に形成された薄膜部110aと、ソース電極105及びドレイン電極106を露出する開口部とを有している。薄膜部110aにおける膜厚w1は、薄膜部110aよりもドレイン電極106側の部分及び薄膜部110aよりもゲート電極107側の部分における膜厚w2よりも薄い。本実施形態においては、薄膜部110aは、第2の膜112が除去され第1の膜111が露出する凹部である。第1の膜111の膜厚は50nm程度とし、第2の膜112の膜厚は500nm程度とすればよい。図4に示すように、AlNからなる第1の膜111は、直流(DC)スパッタ法により形成すればよく、SiNからなる第2の膜112はプラズマ援用化学気相堆積法(Plasma-assisted Chemical Vapor Deposition:PCVD)法により形成すればよい。
【0029】
ソース電極105及びドレイン電極106を露出する開口部は図5に示すように、四フッ化メタン(CF4)と三フッ化メタン(CHF3)の混合ガスを用いた反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching:RIE)により第2の膜112を選択的に除去し、続いて、Cl2ガスを用いたICPエッチングにより第1の膜111を選択的に除去して形成すればよい。薄膜部110aは図6に示すように、CF4とCHF3の混合ガスを用いたRIEにより第2の膜112を選択的に除去して、第1の膜111を残した薄膜部110aを形成すればよい。
【0030】
絶縁膜110の上には、絶縁膜110と接してフィールドプレート115が形成されている。フィールドプレート115は、金(Au)等の導電性材料により形成されている。フィールドプレート115の形成はめっき法により行えばよい。フィールドプレート115は、絶縁膜110に形成されたソース電極105を露出する開口部においてソース電極105と接続されている。フィールドプレート115のドレイン電極106側の端部は、ゲート電極107よりもドレイン電極106側で且つドレイン電極106よりもゲート電極107側に位置している。本実施形態においては、フィールドプレート115は第2の膜112が除去された凹部を埋めるように形成され、且つフィールドプレート115の端部は薄膜部110aよりもドレイン電極106側に位置している。
【0031】
フィールドプレート115は、ソース電極105に電圧を印加する配線の一部となっている。ドレイン電極106に電圧を印加する配線117は、絶縁膜110に形成されたドレイン電極106を露出する開口部に形成されている。
【0032】
以下に、本実施形態の電界効果トランジスタにより電流コラプスを抑制し且つ高周波特性を向上できる原理について説明する。電流コラプスが生じる素子は、ドレイン電流及びオン抵抗(デバイスがオン状態における寄生抵抗)が、直流電圧のバイアスを印加した場合と、パルス電圧のバイアスを印加した場合とにおいて異なる値となる。オフ状態において表面準位にトラップされたキャリアはその捕獲時間が長い。このため、トランジスタをオフ状態からパルス電圧により急激にオン状態とすると、オフ状態において表面準位にトラップされたキャリアは解放されずに残存する。表面準位にトラップされたキャリアにより、チャネルは空乏化した状態を維持するので、オン抵抗が増加する電流コラプスが発生する。
【0033】
図7は、フィールドプレート115と窒化物半導体積層体102の表面との間隔、つまり薄膜部110aにおける絶縁膜110の膜厚w1とコラプスの大きさとの関係を示している。コラプスの大きさは、ゲート電極107にバイアスとしてパルス電圧を印加した場合のオン抵抗RPと、バイアスとして直流電圧を印加した場合のオン抵抗RDとの比RP/RDにより示している。パルス電圧を印加した場合のオン抵抗RPは、ゲート電圧が−5Vでドレイン電圧が60Vというトランジスタがオフ状態のバイアス点から、パルス幅が0.5μ秒でパルス間隔が1m秒の条件でトランジスタがオン状態のバイアス点に移行させた直後のオン抵抗である。
【0034】
図7に示すように、絶縁膜の膜厚が600nm程度の場合には、オン抵抗の比RP/RDは1.5程度である。これは、コラプスによりオン抵抗が50%程度増加したことを示しており、フィールドプレートによるコラプスの抑制が十分に行えていないことを意味する。一方、絶縁膜の膜厚を薄くして、フィールドプレートの下面と半導体層積層体の表面との間隔を小さくするとオン抵抗の比RP/RDは小さくなり、電流コラプスを抑制する効果が向上していることがわかる。このように、フィールドプレートを用いて電流コラプスを効果的に抑制するためには、絶縁膜の膜厚を薄くし、フィールドプレートの下面と半導体層積層体の表面との間隔を小さくすることが必要である。
【0035】
次に、フィールドプレートによる高周波特性の変化について説明する。図8は、絶縁膜の膜厚と、高周波特性の指標である、入力と出力との間の挿入損失(S12)及び利得との関係を示している。図8に示すように、絶縁膜の膜厚を薄くしフィールドプレートの下面と半導体層積層体の表面との間隔を小さくすることによりS12は小さくなり、利得は大きくなる。このように、フィールドプレートの下面と半導体層積層体の表面との間隔を小さくすることにより高周波特性が向上する理由は、ゲートドレイン間の寄生容量Cgdの値を小さくできるためであると考えられる。図9に示すように、絶縁膜の膜厚が薄い方がCgdが小さくなり、特に絶縁膜の膜厚が200nm程度よりも小さくなるとCgdの値は急激に低下している。
【0036】
gdの値は、薄膜部における絶縁膜の膜厚だけでなく、フィールドプレートの長さによっても変化すると考えられる。図10は、ゲート電極からフィールドプレートのドレイン電極側の端部までの距離LSFPと、ゲート電極からドレイン電極までの距離Lgdとの比LSFP/Lgdと、Cgdとの関係を示している。図10に示すように、LSFP/Lgdを20%以上とすることによりCgdを小さく抑えることができる。Cgdが小さくなることにより高周波特性の向上が期待できる。図11は、LSFP/LgdとS12及び利得との関係を示している。LSFP/Lgdが大きいほどS12が小さくなり且つ利得が大きくなることが明らかである。
【0037】
以上のように、ソース電極と接続されたフィールドプレートにより、電流コラプスをお抑制し且つ高周波特性を向上させるためには、フィールドプレートと半導体層積層体との間に形成する絶縁膜をできるだけ薄くし且つフィールドプレートをできるだけ長くすることが効果的である。しかし、フィールドプレートにはソース電極と同じ電圧が印加されるため、フィールドプレートと半導体層積層体との間及びフィールドプレートとゲート電極との間の耐圧を確保するために、絶縁膜の厚さを単純に薄くすることはできない。また、フィールドプレートの長さを長くすると、フィールドプレートとドレイン電極とが接近するため、耐圧が低下してしまう。また、従来の電界効果トランジスタでは、ドレイン電極とフィールドプレートとはほぼ同じ平面に形成するため、フィールドプレートの長さを長くすることはプロセス上の制限も受ける。
【0038】
しかし、本実施形態の電界効果トランジスタは、絶縁膜110がAlNからなる第1の膜111と、SiNからなる第2の膜112との積層膜である。このため、第1の膜111を残して第2の膜112を選択的に除去することが容易にできる。従って、ゲート電極107とドレイン電極106との間において絶縁膜110の膜厚が薄い薄膜部110aを容易に形成することができる。また、AlNは、SiNの1.5倍〜2倍程度の絶縁耐圧を有しているため、絶縁膜110の膜厚が薄い部分においても、十分な耐圧を確保することができる。さらに、ドレイン電極の近傍において絶縁膜110の膜厚を厚くすることにより、フィールドプレート115とドレイン電極106との水平方向の間隔を狭くしても、垂直方向の間隔を広く確保することが容易となる。このため、フィールドプレート115の長さを長くしつつ耐圧を確保することが容易にできる。
【0039】
図12は本実施形態の電界効果トランジスタにおける代表的な入出力特性を示している。図12において、薄膜部110aにおける絶縁膜110の膜厚w1は50nmとし、LSFP/Lgdは80%とした。寄生容量が低減され、利得が大きくなったことにより非常に効率が高く良好な入出力特性が得られている。
【0040】
薄膜部110aにおける絶縁膜110の膜厚は、できるだけ薄くすることが好ましい。このため、50nm以下とすることが好ましく、10nm以下とすることがさらに好ましい。さらに膜厚を薄くしてもよいが、5nm程度の膜厚を確保することが好ましい。薄膜部110a以外の部分における絶縁膜110の膜厚は、耐圧を確保するためにはできるだけ厚くすることが好ましい。このため、200nm以上とすることが好ましく、500nm以上とすることがさらに好ましい。膜厚をあまり厚くすると加工が困難となるため、2μm程度よりも薄い方が好ましい。
【0041】
フィールドプレート115の長さは、LSFP/Lgdが20%以上となるようにすることが好ましく、60%以上とすることがさらに好ましい。LSFP/Lgdをあまり大きくすると、フィールドプレート115とドレイン電極106との間隔を確保できなくなるおそれがあるが、LSFP/Lgdが80%程度までであれば通常のプロセスにより形成することが可能である。なお、LSFP/Lgdが一定である場合には、LSFPに占める薄膜部110aの上に形成されている部分の割合が大きいほどコラプスを抑制する効果及び高周波特性を向上させる効果が大きくなる。但し、LSFPに占める薄膜部110a薄膜部110aの上に形成されている部分の割合が20%程度よりも大きければ、十分なコラプスを抑制する効果及び高周波特性を向上させる効果が得られる。さらに、本実施形態においては、フィールドプレート115が、薄膜部110aよりもドレイン電極106側の膜厚が厚い絶縁膜110の上にも形成されているが、十分なLSFP/Lgdが確保できるのであれば、薄膜部110aよりもドレイン電極106側の膜厚が厚い部分の上にフィールドプレート115を形成する必要はない。
【0042】
本実施形態においては、ソース電極105とゲート電極107との間において絶縁膜110の膜厚を厚くすることができる。このため、フィールドプレート115のゲート幅方向の幅を広くし、ソース電極105とゲート電極107との間をフィールドプレート115が完全に覆うようにしても、ゲートソース間の耐圧が低下したり、ゲートソース間の寄生抵抗が増大したりするおそれがほとんどない。しかし、フィールドプレート115は、ソース電極105とゲート電極107との間を完全に覆っている必要はない。ソース電極105とフィールドプレート115との導通が確保できれば、ソース電極105とゲート電極107との間においてフィールドプレート115のゲート幅方向の幅を、ゲート幅よりも狭くしてもよい。
【0043】
本実施形態においては、薄膜部110aにおいて第2の膜112を完全に除去し、第1の膜111のみを残す例を示した。しかし、図13に示すように薄膜部110aにおいて第2の膜112の一部が残存する構成としてもよい。また、図14に示すように第1の膜111と第2の膜112との間に第3の膜113が形成されていてもよい。さらに、薄膜部110aにおいて、第3の絶縁膜113を除去してもよい。
【0044】
第1の膜111は、AlN膜としたが、絶縁耐圧が高い絶縁膜であればよく、AlN膜に代えて酸化アルミニウム(Al23)等のAlを含む他の絶縁膜を用いることができる。第2の膜112は、第1の膜111に対してエッチング選択性を有している絶縁膜であればよいが、誘電率が低い膜を用いる方が好ましい。また、第1の膜111と第2の膜112との間に第3の膜113を形成する場合には、第3の膜113が第1の膜に対してエッチング選択性を有していればよい。また、第3の膜113は第2の膜112よりも誘電率が高い方がフィールドプレート115の効果を向上させることができる。
【0045】
本実施形態においては基板101をSi基板としたが、炭化珪素(SiC)基板、サファイア基板、酸化亜鉛(ZnO)基板若しくはホウ化ジルコニウム(ZrB2)基板等の異種基板又はGaN基板若しくはAlN基板等のIII−V族窒化物半導体基板を用いてもよい。窒化物半導体積層体は所望のデバイス特性が実現できる限り各層の組成比を変更してもよい。また、窒化物半導体積層体の積層構造を変更してもよい。窒化物半導体積層体の結晶成長方法はMOCVD法に代えて、分子線エピタキシー(Molecular Beam Epitaxy:MBE)又はハイドライド気相成長法(Hydride Vapor Phase Epitaxy:HVPE)等としてもよい。さらに、V族元素として砒素(As)又はリン(P)等を含む半導体層及びIII族元素としてホウ素(B)を含む半導体層としてもよい。また、III−V族窒化物半導体を用いた電界効果トランジスタだけでなく、GaAs系半導体又はInP系半導体を用いた電界効果トランジスタにおいても同様の構成とすることにより同様の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明に係る電界効果トランジスタは、電流コラプスが小さく且つ良好な高周波特性を有する電界効果トランジスタを実現でき、特にミリ波通信用途等に用いられる高周波デバイス及びスイッチング電源、インバータ回路又はモータドライバ回路等に用いられるデバイスとして有用である。
【符号の説明】
【0047】
101 基板
102 窒化物半導体積層体
105 ソース電極
106 ドレイン電極
107 ゲート電極
110 絶縁膜
110a 薄膜部
111 第1の膜
112 第2の膜
113 第3の膜
115 フィールドプレート
117 配線
121 バッファ層
123 下地層
124 電子供給層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に形成されたヘテロ接合を含む窒化物半導体積層体と、
前記窒化物半導体積層体の上に形成されたソース電極及びドレイン電極と、
前記ソース電極と前記ドレイン電極との間に形成されたゲート電極と、
前記窒化物半導体積層体の上に、前記ゲート電極を覆うように形成された絶縁膜と、
前記絶縁膜の上に接して形成され、端部が前記ゲート電極と前記ドレイン電極との間に位置するフィールドプレートとを備え、
前記絶縁膜は、第1の膜と、該第1の膜の上に形成され前記第1の膜よりも絶縁耐圧が低い第2の膜とを含み、前記ゲート電極と前記ドレイン電極との間に形成され且つ前記第2の膜の少なくとも一部が除去された薄膜部及び前記ソース電極を露出する開口部を有し、
前記フィールドプレートは、前記薄膜部を覆い且つ前記開口部において前記ソース電極と接続されていることを特徴とする電界効果トランジスタ。
【請求項2】
前記第2の膜は、前記第1の膜よりも膜厚が厚いことを特徴とする請求項1に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項3】
前記薄膜部は、前記絶縁膜における前記薄膜部と前記ドレイン電極との間の部分及び前記絶縁膜における前記薄膜部と前記ゲート電極との間の部分よりも膜厚が薄いことを特徴とする請求項2に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項4】
前記薄膜部は、前記第2の膜の少なくとも一部が除去された凹部であり、
前記フィールドプレートは前記凹部に埋め込まれていることを特徴とする請求項3に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項5】
前記凹部は、底面に前記第2の膜が残存していることを特徴とする請求項4に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項6】
前記フィールドプレートの端部は、前記薄膜部よりも前記ドレイン電極側に位置していることを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項7】
前記第1の膜は、アルミニウムを含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項8】
前記第1の膜は、膜厚が50nm以下であることを特徴とする請求項7に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項9】
前記ゲート電極から前記フィールドプレートの端部までの長さが、前記ゲート電極から前記ドレイン電極までの長さの40%以上且つ80%以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項10】
前記絶縁膜は、前記第1の膜と前記第2の膜との間に形成され、前記第1の膜よりも絶縁耐圧が低い第3の膜を含むことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の電界効果トランジスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−249439(P2011−249439A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119027(P2010−119027)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】