説明

アーティキュレート車両における小旋回制御装置

【課題】車両オペレータの操作体による単純な小旋回用ブレーキ操作によって左右いずれか一方の車輪ブレーキを自動的に選択しつつ、制動力は車両オペレータの手動感覚で任意に調整できるアーティキュレート車両における小旋回制御装置を提供する。
【解決手段】メインブレーキマスタシリンダ51とは別に設置した小旋回ブレーキマスタシリンダ56からハンドブレーキレバー58の操作量に応じて発生し左右の車輪ブレーキ37,38または39,40に制動力として作用する制動圧の供給を、旋回内側に対応する左小旋回制御弁62または右小旋回制御弁64のいずれか一方により制御する。左小旋回制御弁62または右小旋回制御弁64のいずれか一方は、アーティキュレート角センサからの信号によりコントローラが自動的に選択して弁開状態に制御する。車両オペレータは、制動力を実感しながら車体の安定性を保持できるように微妙な調整を行なうことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、後車体に対して前車体を屈折可能に連結したアーティキュレート車両における小旋回制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図5は、後車体1に対してアーティキュレート軸2を介して前車体3が屈折可能に連結されたアーティキュレート車両を示し、後車体1は、運転席4および後車輪5などを備え、前車体3は、バケット6および前車輪7などを備えたホイールローダである。
【0003】
図6は、このホイールローダの一般的なブレーキ回路を示し、後差動機11を介して左後車軸12および右後車軸13が設けられ、前差動機14を介して左前車軸15および右前車軸16が設けられ、左後車軸12および左前車軸15にそれぞれ設けられた左車輪ブレーキ17と、右後車軸13および右前車軸16にそれぞれ設けられた右車輪ブレーキ18とに対して、制動圧を供給する足踏み式のブレーキマスタシリンダ19が設けられている。
【0004】
そして、車両オペレータがブレーキペダル19pを踏むと、ブレーキマスタシリンダ19が作用して圧油を前後の左車輪ブレーキ17および前後の右車輪ブレーキ18に送り、これらの前後左右の車輪ブレーキ17,18のディスクに対しピストンを介して圧油の圧力を負荷し、ブレーキ制動力を作用させる。
【0005】
このようなブレーキ回路において、車体が最大に屈折する状態で機械的に決まる最も小さい旋回半径に対し、さらに小さい旋回半径が得られるように、旋回内側車輪のブレーキ(例えば左回りの場合は左車輪ブレーキ17)を制動作用させることで、旋回外側車輪との間に回転速度差を設け、旋回外側車輪を内側車輪より速く回し、そして、このブレーキ(左車輪ブレーキ17)の制動力を制御することにより、旋回半径を旋回半径指令手段で設定された指示値に制御するようにした小旋回型操向装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3198402号公報(第3−4頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の小旋回型操向装置は、アーティキュレート車両の旋回半径を旋回半径指令手段の指示値選択手段により設定し、その指示値に対応する旋回半径が得られるように旋回内側車輪のブレーキ圧が制御手段によって自動制御されるので、その制御手段が複雑になるとともに、車両オペレータの手動感覚で制動力を任意に調整できない問題がある。
【0008】
特に、上記の小旋回型操向装置は、旋回半径を旋回半径指令手段で設定された指示値に制御するので、小旋回制御時のアーティキュレート車両の車速や横すべり角が、それらのしきい値を超えた場合は、車体の安定性が損なわれるおそれがある。
【0009】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、アーティキュレート車両の旋回半径を小さくするために左右いずれか一方の車輪ブレーキを作動させるにあたって、車両オペレータの単純な小旋回用ブレーキ操作によって左右いずれか一方の車輪ブレーキを自動的に選択しつつ、制動力は車両オペレータが実感しながら車体の安定性を保持できるように微妙な調整を行なえるアーティキュレート車両における小旋回制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載された発明は、後車体と前車体とをアーティキュレート軸を介し互いに屈折可能に連結したアーティキュレート車両において、左車輪制動用の左車輪ブレーキおよび右車輪制動用の右車輪ブレーキの両方に制動圧を供給するメインブレーキマスタシリンダと、メインブレーキマスタシリンダとは別に設置された、小旋回用の操作体により操作されて左車輪ブレーキおよび右車輪ブレーキの一方に操作体の操作量に応じた制動圧を供給する小旋回ブレーキマスタシリンダと、小旋回ブレーキマスタシリンダから操作量に応じて発生し左車輪ブレーキに制動力として作用する制動圧の供給を制御する左小旋回制御弁と、小旋回ブレーキマスタシリンダから操作量に応じて発生し右車輪ブレーキに制動力として作用する制動圧の供給を制御する右小旋回制御弁と、小旋回ブレーキマスタシリンダの操作体が操作されたときの旋回内側に対応する左小旋回制御弁および右小旋回制御弁のいずれか一方を弁開状態に制御する機能を備えたコントローラとを具備したアーティキュレート車両における小旋回制御装置である。
【0011】
請求項2に記載された発明は、請求項1記載のアーティキュレート車両における小旋回制御装置において、アーティキュレート車両の車速を検出する車速センサと、後車体に対し屈折した前車体のアーティキュレート角および屈折方向を検出するアーティキュレート角センサと、アーティキュレート車両の横すべり角を算出するためのヨー角速度センサとを具備し、コントローラは、アーティキュレート車両の車速が車速しきい値より低く、かつ横すべり角が横すべり角しきい値より低い場合は、小旋回ブレーキマスタシリンダの操作体が操作されたときの旋回内側に対応する左小旋回制御弁および右小旋回制御弁のいずれか一方を弁開状態に制御し、車速が車速しきい値を超えた場合と、横すべり角が横すべり角しきい値を超えた場合は、左小旋回制御弁および右小旋回制御弁を共に弁閉状態に制御する機能を備えたものである。
【0012】
請求項3に記載された発明は、請求項1または2記載のアーティキュレート車両における小旋回制御装置において、操作体をハンドブレーキレバーとしたものである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の発明によれば、後車体と前車体とを互いに屈折可能に連結したアーティキュレート車両の旋回半径を小さくするために左右いずれか一方の車輪ブレーキを作動させるにあたって、操作体によって操作される小旋回ブレーキマスタシリンダから操作体の操作量に応じた制動力を左車輪ブレーキに作用させる制動圧の供給を制御する左小旋回制御弁と、操作体の操作量に応じた制動力を右車輪ブレーキに作用させる制動圧の供給を制御する右小旋回制御弁のいずれか一方を、コントローラによってアーティキュレート車両の旋回内側に対応して弁開状態に制御するので、車両オペレータの操作体による単純な小旋回用ブレーキ操作によって左右いずれか一方の車輪ブレーキをコントローラによって自動的に選択しつつ、制動力は車両オペレータの手動感覚で任意に調整できる。すなわち、メインブレーキマスタシリンダとは別に設置された小旋回ブレーキマスタシリンダを操作する操作体の操作量に応じて発生し左右の車輪ブレーキに制動力として作用する制動圧の供給を、左右の小旋回制御弁により制御するので、ポンプを用いる必要がなく、構造が単純で安価な小旋回制御装置を提供できるとともに、車輪ブレーキの制動力に応じた制動圧の変化が小旋回ブレーキマスタシリンダから操作体を操作する車両オペレータにフィードバックされ、車両オペレータは、制動力を実感しながら車体の安定性を保持できるように微妙な調整を行なうことができる。
【0014】
請求項2記載の発明によれば、コントローラは、車速センサにより検出されたアーティキュレート車両の車速が車速しきい値より低く、かつヨー角速度センサからのデータにより算出されたアーティキュレート車両の横すべり角が横すべり角しきい値より低い場合は、小旋回ブレーキマスタシリンダの操作体が操作されたときのアーティキュレート角センサにより検出された旋回内側に対応する左小旋回制御弁および右小旋回制御弁のいずれか一方を弁開状態に制御し、車速が車速しきい値を超えた場合と、横すべり角が横すべり角しきい値を超えた場合は、左小旋回制御弁および右小旋回制御弁を共に弁閉状態に制御するので、アーティキュレート車両の車速や横すべり角が、それらのしきい値を超えた状態では、小旋回用ブレーキ操作を自動的に無効化でき、車両オペレータが車速や路面状態の判断を誤って小旋回ブレーキ操作した場合でも、その小旋回ブレーキ操作により車体の安定性が損なわれることを防止できる。
【0015】
請求項3記載の発明によれば、ハンドブレーキレバーにより小旋回ブレーキマスタシリンダを直接作用させるので、構造が単純であるとともに、車両オペレータは、車両の旋回半径に応じてハンドブレーキレバーの手動操作力を加減調整することで、このハンドブレーキレバーからの反力を感じながら、小旋回ブレーキマスタシリンダからの吐出圧を微妙に加減調整して旋回内側の車輪ブレーキの制動力を微妙に調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係るアーティキュレート車両における小旋回制御装置の一実施の形態を示す回路図である。
【図2】同上制御装置のコントローラとセンサの関係を示すブロック図である。
【図3】同上制御装置のコントローラによる制御手順の一例を示すフローチャートである。
【図4】同上制御装置が搭載されたアーティキュレート車両の平面図である。
【図5】アーティキュレート車両の平面図である。
【図6】従来のアーティキュレート車両に搭載されたブレーキ回路の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を、図1乃至図4に示された一実施の形態に基いて詳細に説明する。
【0018】
図4は、後車体21に対してアーティキュレート軸22を介して前車体23が屈折可能に連結されたアーティキュレート車両を示し、後車体21は、運転席24および後車輪25などを備え、前車体23は、バケット26および前車輪27などを備えたホイールローダである。
【0019】
図1は、このアーティキュレート車両における小旋回制御装置を示し、左右の後車輪25および前車輪27には、それらの回転数を検出する回転数センサ28がそれぞれ設けられている。後車体21には、後差動機31を介して左後車軸32および右後車軸33が設けられ、前車体23には、前差動機34を介して左前車軸35および右前車軸36が設けられている。
【0020】
左後車軸32および左前車軸35には左車輪制動用の左車輪ブレーキ37,38がそれぞれ設けられ、また、右後車軸33および右前車軸36には右車輪制動用の右車輪ブレーキ39,40がそれぞれ設けられている。これらの左車輪ブレーキ37,38および右車輪ブレーキ39,40は、各車軸32,33,35,36に一体に取付けられたブレーキディスクDに対向して、車体側に取付けられたブレーキピストンPがそれぞれ進退可能に設けられている。
【0021】
左車輪ブレーキ37,38のブレーキピストンPのピストン室間は、管路41により連通可能であり、右車輪ブレーキ39,40のブレーキピストンPのピストン室間は、管路42により連通されており、これらの管路41,42間は、管路43,44により連通可能である。これらの管路43,44中には、電磁弁47,48が設けられている。
【0022】
左車輪ブレーキ37,38および右車輪ブレーキ39,40の全てに制動圧を供給する足踏み式のメインブレーキマスタシリンダ51が設置されている。このメインブレーキマスタシリンダ51は、そのピストンロッド52の先端と対向設置されたブレーキペダル53の足踏み操作によりシリンダ内の油を管路54に吐出し、この管路54が接続された管路42に供給する。油の漏洩などによる不足分は油タンク55より補充する。
【0023】
このメインブレーキマスタシリンダ51とは別に小旋回ブレーキマスタシリンダ56が設置されている。この小旋回ブレーキマスタシリンダ56は、そのピストンロッド57の先端と対向設置された小旋回用の操作体としてのハンドブレーキレバー(小旋回レバー)58により手動操作されて左車輪ブレーキ37,38および右車輪ブレーキ39,40の一方にハンドブレーキレバー58の操作量に応じた制動圧を供給するもので、油の漏洩などによる不足分は油タンク59より補充する。
【0024】
メインブレーキマスタシリンダ51から圧油を供給する管路54には、小旋回ブレーキマスタシリンダ56からの逆流を防止するための逆止弁60が設けられ、また、小旋回ブレーキマスタシリンダ56から左側の管路41に圧油を供給する一方の吐出管路61には、小旋回ブレーキマスタシリンダ56から操作量に応じて発生し左車輪ブレーキ37,38に制動力として作用する制動圧の供給を制御する電磁式の左小旋回制御弁62が設けられ、また、この小旋回ブレーキマスタシリンダ56から右側の管路42に圧油を供給する他方の吐出管路63には、小旋回ブレーキマスタシリンダ56から操作量に応じて発生し右車輪ブレーキ39,40に制動力として作用する制動圧の供給を制御する電磁式の右小旋回制御弁64が設けられている。
【0025】
電磁弁47のソレノイドaおよび電磁弁48のソレノイドbに接続可能な電源がOFF時のスプリングリターン状態では、電磁弁47,48が管路43,44を開通する弁開状態(ノーマルオープン)となり、また、左小旋回制御弁62のソレノイドAおよび右小旋回制御弁64のソレノイドBに接続可能な電源がOFF時のスプリングリターン状態では、左小旋回制御弁62および右小旋回制御弁64が吐出管路61,63を閉止する弁閉状態(ノーマルクローズ)となる。
【0026】
図2に示されるように、アーティキュレート車両の車速を検出する車速センサ71と、後車体に対し屈折した前車体のアーティキュレート角および屈折方向を検出するアーティキュレート角センサ72と、アーティキュレート車両の横すべり角(車両の速度ベクトルと前車体23の向きとがなす角度)を算出するためのヨー角速度センサ73とが、コントローラ74の信号入力側に接続されている。
【0027】
車速センサ71は、油圧ポンプ・油圧モータ系に接続された車軸駆動用減速機の出力軸部で回転速度を検出できる位置に設置され、アーティキュレート角センサ72は、アーティキュレート軸22の周囲に設置され、ヨー角速度センサ73は、車両に設置された垂直軸回りのジャイロセンサを用いる。
【0028】
コントローラ74の出力側は、各電磁弁47,48のソレノイドa,b、左小旋回制御弁62のソレノイドAおよび右小旋回制御弁64のソレノイドBに接続されている。
【0029】
このコントローラ74は、アーティキュレート車両の車速が車速しきい値より低く、かつ横すべり角が横すべり角しきい値より低い場合は、小旋回ブレーキマスタシリンダ56のハンドブレーキレバー58が操作されたときの旋回内側に対応する左小旋回制御弁62および右小旋回制御弁64のいずれか一方を弁開状態に制御し、車速が車速しきい値を超えた場合と、横すべり角が横すべり角しきい値を超えた場合は、左小旋回制御弁62および右小旋回制御弁64を共に弁閉状態に制御する機能を備えている。
【0030】
横すべり角は、コントローラ74が、車速センサ71で検出された車速、ヨー角速度センサ73で検出されたヨー角速度などを用いて、既知の演算手法により算出する。
【0031】
次に、図1および図2に示された実施の形態の作用を、図3および図4を参照しながら説明する。
【0032】
図3は、コントローラ74の演算手順の一例を示す。なお、図3中の丸数字は、ステップ番号を示す。
【0033】
(ステップ1)
図4に示されるように、後車体21と前車体23とを互いに屈折可能に連結したアーティキュレート車両の車速V、アーティキュレート角αを検出し、横すべり角βを、車速V、ヨー角速度などから算出する。
【0034】
(ステップ2)
アーティキュレート角αから、屈折状態(左回り、右回り)を判定する。
【0035】
(ステップ3)
車速Vが車速しきい値(例えば、10km/h)を超えたか否かを判断する。
【0036】
(ステップ4)
車速Vが車速しきい値を超えている場合は、電磁弁47のソレノイドa、電磁弁48のソレノイドb、左小旋回制御弁62のソレノイドA、右小旋回制御弁64のソレノイドBの全てをオフに制御して、電磁弁47,48をスプリングリターン位置すなわち弁開位置に制御するとともに、左小旋回制御弁62および右小旋回制御弁64をスプリングリターン位置すなわち弁閉位置に制御する。
【0037】
これにより、車速Vが車速しきい値を超えた場合は、メインブレーキマスタシリンダ51から全車輪ブレーキ37,38,39,40に制動圧を供給することはできるが、左小旋回制御弁62および右小旋回制御弁64は共に弁閉状態に制御されるので、小旋回ブレーキマスタシリンダ56から車輪ブレーキ37,38,39,40に制動圧を供給することはできない状態となる。
【0038】
(ステップ5)
横すべり角βが横すべり角しきい値(例えば、30°)を超えたか否かを判断する。横すべり角βが横すべり角しきい値を超えた場合も、同様にステップ4に進み、メインブレーキマスタシリンダ51から全車輪ブレーキ37,38,39,40に制動圧を供給することはできるが、左小旋回制御弁62および右小旋回制御弁64は共に弁閉状態に制御されるので、小旋回ブレーキマスタシリンダ56から車輪ブレーキ37,38,39,40に制動圧を供給することはできない状態となる。
【0039】
(ステップ6)
車速Vが車速しきい値より低く、かつ横すべり角βが横すべり角しきい値より低い場合は、ステップ2の判定からハンドブレーキレバー(小旋回レバー)58が引かれたときに、アーティキュレート車両が、図4に示されるように左回りの姿勢にあるか否かを判断する。
【0040】
(ステップ7)
左回りのときは、ハンドブレーキレバー58によって操作される小旋回ブレーキマスタシリンダ56から左車輪ブレーキ37,38への制動圧の供給を制御する左小旋回制御弁62のソレノイドAをオンに制御して、この左小旋回制御弁62を、図1に示されるようにアーティキュレート車両の旋回内側に対応して弁開状態に制御する。これにより、小旋回ブレーキマスタシリンダ56から操作量に応じて発生した制動圧を左車輪ブレーキ37,38に制動力として作用させることができる。
【0041】
(ステップ8)
右回りのときは、ハンドブレーキレバー58によって操作される小旋回ブレーキマスタシリンダ56から右車輪ブレーキ39,40への制動圧の供給を制御する右小旋回制御弁64のソレノイドBをオンに制御して、この右小旋回制御弁64を、アーティキュレート車両の旋回内側に対応して弁開状態に制御する。これにより、小旋回ブレーキマスタシリンダ56から操作量に応じて発生した制動圧を右車輪ブレーキ39,40に制動力として作用させることができる。
【0042】
次に、図1乃至図4に示された実施の形態の作用効果を説明する。
【0043】
後車体21と前車体23とをアーティキュレート軸22を介し互いに屈折可能に連結したアーティキュレート車両の旋回半径を小さくするために左右いずれか一方の車輪ブレーキ37,38または39,40を作動させるにあたって、コントローラ74は、車速センサ71により検出されたアーティキュレート車両の車速Vが車速しきい値より低く、かつヨー角速度センサ73からのデータにより算出されたアーティキュレート車両の横すべり角βが横すべり角しきい値より低い場合は、ハンドブレーキレバー58によって操作される小旋回ブレーキマスタシリンダ56から左車輪ブレーキ37,38への制動圧の供給を制御する左小旋回制御弁62と、右車輪ブレーキ39,40への制動圧の供給を制御する右小旋回制御弁64のいずれか一方を、小旋回ブレーキマスタシリンダ56のハンドブレーキレバー58が操作されたときのアーティキュレート角センサ72により検出されたアーティキュレート角αの正負から旋回屈折の向きを判定して自動的に選択し、アーティキュレート車両の旋回内側に対応する左小旋回制御弁62と右小旋回制御弁64のいずれか一方を弁開状態に制御し、制動圧を供給する。
【0044】
このとき、車両オペレータがハンドブレーキレバー58を強く引上げる程、小旋回ブレーキマスタシリンダ56の吐出圧が上昇し、左右いずれか一方の車輪ブレーキ37,38または39,40のブレーキピストンPがブレーキディスクDを強く押圧するため、旋回半径を小さくできる。
【0045】
また、車速Vが車速しきい値を超えた場合と、横すべり角βが横すべり角しきい値を超えた場合は、左小旋回制御弁62および右小旋回制御弁64を共に弁閉状態に制御し、小旋回ブレーキマスタシリンダ56から制動圧が吐出されることを阻止し、小旋回用の手動レバー操作を無効化する。
【0046】
このように、メインブレーキマスタシリンダ51とは別に設置された小旋回ブレーキマスタシリンダ56をハンドブレーキレバー58により手動操作して左右の車輪ブレーキ37,38または39,40のいずれか一方に制動圧を供給するので、ポンプを用いる必要がなく、構造が単純で安価な小旋回制御装置を提供できる。
【0047】
さらに、車両オペレータのハンドブレーキレバー58による単純な小旋回用ブレーキ操作によっても、コントローラ74が左右いずれか一方の車輪ブレーキ37,38または39,40を自動的に選択しつつ、制動力は車両オペレータの手動感覚で任意に調整できる。すなわち、メインブレーキマスタシリンダ51とは別に設置された小旋回ブレーキマスタシリンダ56を操作するハンドブレーキレバー58の操作量に応じて発生し左右の車輪ブレーキ37,38または39,40に制動力として作用する制動圧の供給を、左右の小旋回制御弁62,64により制御するので、車輪ブレーキ37,38または39,40の制動力に応じた制動圧の変化が小旋回ブレーキマスタシリンダ56からハンドブレーキレバー58を操作する車両オペレータにフィードバックされ、車両オペレータは、制動力を実感しながら車体の安定性を保持できるように微妙な調整を行なうことができる。
【0048】
特に、コントローラ74は、車速センサ71により検出されたアーティキュレート車両の車速Vが車速しきい値より低く、かつヨー角速度センサ73からのデータにより算出されたアーティキュレート車両の横すべり角βが横すべり角しきい値より低い場合は、小旋回ブレーキマスタシリンダ56のハンドブレーキレバー58が操作されたときのアーティキュレート角センサ72により検出された旋回内側に対応する左小旋回制御弁62および右小旋回制御弁64のいずれか一方を弁開状態に制御し、また、車速Vが車速しきい値を超えた場合と、横すべり角βが横すべり角しきい値を超えた場合は、左小旋回制御弁62および右小旋回制御弁64を共に弁閉状態に制御するので、アーティキュレート車両の車速Vや横すべり角βが、それらのしきい値を超えた状態では、小旋回用ブレーキ操作を自動的に無効化でき、車両オペレータが車速やアイスバーンなどの路面状態の判断を誤って小旋回ブレーキ操作した場合でも、その操作をコントローラが自動的に無効化するので、小旋回ブレーキ操作により車体の安定性が損なわれることを防止できる。
【0049】
ハンドブレーキレバー58により小旋回ブレーキマスタシリンダ56を直接作用させるので、構造が単純であるとともに、車両オペレータは、車両の旋回半径に応じてハンドブレーキレバー58の手動操作力を加減調整することで、このハンドブレーキレバー58からの反力を感じながら、小旋回ブレーキマスタシリンダ56からの吐出圧を微妙に加減調整して旋回内側の車輪ブレーキ37,38または39,40の制動力を微妙に調整できる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、ホイールローダなどのアーティキュレート車両の製造産業に利用される。
【符号の説明】
【0051】
21 後車体
22 アーティキュレート軸
23 前車体
37,38 左車輪ブレーキ
39,40 右車輪ブレーキ
51 メインブレーキマスタシリンダ
56 小旋回ブレーキマスタシリンダ
58 操作体としてのハンドブレーキレバー
62 左小旋回制御弁
64 右小旋回制御弁
71 車速センサ
72 アーティキュレート角センサ
73 ヨー角速度センサ
74 コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
後車体と前車体とをアーティキュレート軸を介し互いに屈折可能に連結したアーティキュレート車両において、
左車輪制動用の左車輪ブレーキおよび右車輪制動用の右車輪ブレーキの両方に制動圧を供給するメインブレーキマスタシリンダと、
メインブレーキマスタシリンダとは別に設置された、小旋回用の操作体により操作されて左車輪ブレーキおよび右車輪ブレーキの一方に操作体の操作量に応じた制動圧を供給する小旋回ブレーキマスタシリンダと、
小旋回ブレーキマスタシリンダから操作量に応じて発生し左車輪ブレーキに制動力として作用する制動圧の供給を制御する左小旋回制御弁と、
小旋回ブレーキマスタシリンダから操作量に応じて発生し右車輪ブレーキに制動力として作用する制動圧の供給を制御する右小旋回制御弁と、
小旋回ブレーキマスタシリンダの操作体が操作されたときの旋回内側に対応する左小旋回制御弁および右小旋回制御弁のいずれか一方を弁開状態に制御する機能を備えたコントローラと
を具備したことを特徴とするアーティキュレート車両における小旋回制御装置。
【請求項2】
アーティキュレート車両の車速を検出する車速センサと、
後車体に対し屈折した前車体のアーティキュレート角および屈折方向を検出するアーティキュレート角センサと、
アーティキュレート車両の横すべり角を算出するためのヨー角速度センサとを具備し、
コントローラは、
アーティキュレート車両の車速が車速しきい値より低く、かつ横すべり角が横すべり角しきい値より低い場合は、小旋回ブレーキマスタシリンダの操作体が操作されたときの旋回内側に対応する左小旋回制御弁および右小旋回制御弁のいずれか一方を弁開状態に制御し、車速が車速しきい値を超えた場合と、横すべり角が横すべり角しきい値を超えた場合は、左小旋回制御弁および右小旋回制御弁を共に弁閉状態に制御する機能を備えた
ことを特徴とする請求項1記載のアーティキュレート車両における小旋回制御装置。
【請求項3】
操作体は、ハンドブレーキレバーである
ことを特徴とする請求項1または2記載のアーティキュレート車両における小旋回制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−51561(P2011−51561A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−204791(P2009−204791)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【出願人】(000190297)キャタピラージャパン株式会社 (1,189)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】