説明

インホイールモータ搭載車の車高調整機構

【課題】本発明は、インホイールモータ搭載車の車高調整機構に係り、ホイールを回転させる駆動トルクを発生するモータを2つも設けることなく車高調整を実現することにある。
【解決手段】インホイールモータ14の駆動時に車体22を持ち上げる車体持上力Fuが作用するようにホイール12側を車体22に対して保持するキャリア18と、インホイールモータ14の駆動時に車体22を引き下げる車体引下力Fdが作用するようにホイール12側を車体22に対して保持するリンク機構36と、インホイールモータ14の駆動時におけるキャリア18による車体持上力Fuの大きさとリンク機構36による車体引下力Fdの大きさとの関係を可変させる減速機30と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インホイールモータ搭載車の車高調整機構に係り、特に、インホイールモータ搭載車の車高を調整するうえで好適な車高調整機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インホイールモータ搭載車の車高を調整する機構が知られている(例えば、特許文献1参照)。この機構は、ホイールを回転させる2つのモータを備えている。これらのモータはそれぞれ、別々の支持部材により車体に支持されている。一方の支持部材は、対応のモータの駆動時にそのモータからのトルクによりホイールに下向きの力が作用するように車体に取り付けられ、また、他方の支持部材は、対応のモータの駆動時にそのモータからのトルクによりホイールに上向きの力が作用するように車体に取り付けられている。かかる機構によれば、2つのモータがホイールを同一方向に回転駆動させる際に、それらのモータ駆動反力により車体とホイールとの間に上下逆向きの力を作用させることができる。このため、2つのモータをそれぞれ制御することで、車体とホイールとの間に任意の合力を作用させることができ、その結果として、車高調整を行うことが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−269209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した特許文献1記載の車高調整機構では、ホイールが2つのモータを用いて回転駆動されるものであるので、モータ追加に伴って車高調整を行ううえでの構成部品が増加して、バネ下質量が増大し或いはコストが増大してしまう。
【0005】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたものであり、ホイールを回転させる駆動トルクを発生するモータを2つも設けることなく車高調整を実現することが可能なインホイールモータ搭載車の車高調整機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的は、インホイールモータの駆動時に車体を持ち上げる第1の力が作用するようにホイール側を車体に対して保持する第1の保持機構と、インホイールモータの駆動時に車体を引き下げる第2の力が作用するようにホイール側を車体に対して保持する第2の保持機構と、インホイールモータの駆動時における前記第1の保持機構による前記第1の力の大きさと前記第2の保持機構による前記第2の力の大きさとの関係を可変させる伝達力可変機構と、を備えるインホイールモータ搭載車の車高調整機構により達成される。
【0007】
この態様の発明において、第1の保持機構は、インホイールモータの駆動時に車体を持ち上げる力が作用するようにホイール側を車体に対して保持し、また、第2の保持機構は、インホイールモータの駆動時に車体を引き下げる力が作用するようにホイール側を車体に対して保持する。このため、インホイールモータの駆動時、車体に、第1の保持機構により持ち上げる力を作用させ、かつ、第2の保持機構により引き下げる力を作用させることができる。これらの力の関係は、伝達力可変機構により可変される。このため、車体に作用させる力の関係が任意の値に設定されることで、車高を調整することができる。従って、本発明によれば、ホイールを回転させる駆動トルクを発生するモータを2つも設けることなく車高調整を実現することができる。
【0008】
尚、上記したインホイールモータ搭載車の車高調整機構において、前記第1の保持機構は、前記伝達力可変機構を保持するケースを兼ねたキャリアであるトレーリングアームであり、前記第2の保持機構は、インホイールモータを保持するケースを車体に連結するリンク機構であり、かつ、前記伝達力可変機構は、前記キャリア内でインホイールモータからホイールに伝達されるトルクの減速比を可変する変速機であることとしてもよい。
【0009】
また、上記したインホイールモータ搭載車の車高調整機構において、インホイールモータのトルクが入力されるサンギアと、前記サンギアの回転に伴ってホイールを回転させるトルクを出力するプラネタリキャリアと、固定されるリングギアと、を有する遊星歯車機構を備え、前記第1の保持機構は、インホイールモータを保持するケースを兼ねたキャリアであるトレーリングアームであり、前記第2の保持機構は、前記リングギアに結合され得るリングギアアームを車体に連結するリンク機構であり、かつ、前記伝達力可変機構は、前記リングギアを前記キャリア又は前記リングギアアームに選択的に結合するクラッチ・ブレーキ機構であることとしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ホイールを回転させる駆動トルクを発生するモータを2つも設けることなく車高調整を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1実施例であるインホイールモータ搭載車の車高調整機構の構成図である。
【図2】本実施例のインホイールモータ搭載車の有するキャリアに作用する力の釣り合いを模式的に表した図である。
【図3】本実施例の車高調整機構における車高を調整する手法を説明するための図である。
【図4】本発明の第2実施例であるインホイールモータ搭載車の車高調整機構の構成図である。
【図5】本実施例のインホイールモータ搭載車の有する減速機に作用する力の釣り合いを模式的に表した図である。
【図6】本実施例の車高調整機構における車高を調整する手法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を用いて、本発明に係るインホイールモータ搭載車の車高調整機構の具体的な実施の形態について説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は、本発明の第1実施例であるインホイールモータ搭載車の車高調整機構10の構成図を示す。尚、図1(A)には車両内側から見た際の側面図を、また、図1(B)には図1(A)に示すIII−IIIで切断した際の断面図を、それぞれ示す。
【0014】
本実施例の車高調整機構10は、いわゆるインホイールモータ搭載車に適用される、車高を調整する機構である。本実施例において、インホイールモータ搭載車は、車輪タイヤが装着されたホイール12内に設けられるモータ14を備えている。以下、モータ14をインホイールモータ14と称す。インホイールモータ14は、ホイール12を回転させて車輪を駆動するトルクを発生する電気モータである。ホイール12は、ハブ16を通じてキャリア18に車軸C回りに回転可能に支持されている。
【0015】
キャリア18は、車体22に対して略前後方向に延びる形状を有している。キャリア18は、一端Cでホイール12を回転可能に支持しつつ他端Oで車体22に対して揺動可能に支持されている。すなわち、キャリア18は、ホイール12が車体22に対して上下方向に変位することができるように車体22に対して揺動可能に取り付けられており、トレーリングアームとして機能する。
【0016】
インホイールモータ14は、モータケース24の内部に保持されている。モータケース24には、インホイールモータ14のステータ26が固定されている。また、インホイールモータ14のロータ28(軸中心C)は、減速機30を介してホイール12のハブ16に連結されている。車輪の回転駆動時、ロータ28とハブ16とはそれぞれ、互いに軸中心C,C回りにおいて同一方向に回転する。
【0017】
減速機30は、インホイールモータ14のロータ28の回転を所定の減速比Nで減速してホイール12のハブ16に伝達する装置である。減速機30は、キャリア18に固定され或いはキャリア18と一体化されるCVTケース32内に保持されている。減速機30は、CVTケース32内においてロータ28からハブ16へ伝達される回転を減速する。減速機30は、油圧などによる制御回路34に接続されており、制御回路34による制御に従って減速比Nを可変することが可能である。減速機30は、制御回路34による制御により減速比Nを任意の値に設定することが可能な無段変速機(CVT)である。このため、インホイールモータ14のロータ28からホイール12のハブ16に伝達される回転は、減速機30で任意の減速比Nに設定される。
【0018】
モータケース24は、また、リンク機構36を介して車体22に連結されている。リンク機構36は、モータケース24に固定される第1リンク38と、車体22に対して揺動可能に取り付けられる第2リンク40と、からなる。第1リンク38は、車体22に対して略前後方向に延びる形状を有している。また、第2リンク40は、車体22に対して略上下方向に延びる形状を有している。第1リンク38と第2リンク40とは、一端同士で自由に揺動可能に互いに連結されている。リンク機構36は、車体22に対するホイール12の上下動に伴って揺動する。
【0019】
また、第2リンク40の車体22に対する取付位置Oと、キャリア18の車体22に対する取付位置Oとは、互いに異なる位置である。第1リンク38がモータケース24側から第2リンク40との連結位置へ向けて延びる前後方向(図2において左から右へ向かう方向)と、キャリア18が車軸Cから車体22との取付位置Oへ向けて延びる前後方向(図2において右から左へ向かう方向)とは、互いに逆方向である。
【0020】
上記したインホイールモータ搭載車において、車輪が回転駆動される際、インホイールモータ14に電気信号が供給されることで、そのインホイールモータ14が駆動トルクTmを発生する。インホイールモータ14で発生した駆動トルクTmは、減速機30に入力される。減速機30に入力された駆動トルクTmは、減速機30で減速されることにより駆動トルクTwに変換されてホイール12のハブ16に伝達される。
【0021】
減速機30は上記の如くCVTであるので、インホイールモータ14の駆動トルクTmとホイール12の駆動トルクTwとの比である減速比Nは、その減速機30の作動により任意に設定される。ハブ16に駆動トルクTwが伝達されると、車輪が回転駆動される。従って、本実施例においては、インホイールモータ14の駆動により減速機30を介して車輪を回転駆動させつつ、減速機30の作動によりインホイールモータ14から車輪へ伝達される駆動トルクの減速比Nを任意の値に制御することが可能である。
【0022】
図2は、本実施例のインホイールモータ搭載車の有するキャリア18に作用する力の釣り合いを模式的に表した図を示す。また、図3は、本実施例の車高調整機構10における車高を調整する手法を説明するための図を示す。
【0023】
上記したインホイールモータ搭載車において、インホイールモータ14が駆動トルクTmで駆動されることにより車輪が回転駆動される際、キャリア18兼CVTケース32に、図2に示す如く、インホイールモータ14から入力される駆動トルクTmと、ホイール12から入力される駆動反力トルクTwと、が働くと共に、キャリア18がそれらの入力トルクTm及び駆動反力トルクTwにより回転することが無いようにその車体22から受ける支持トルクTcが働く。キャリア18に作用するこれらのトルクTm,Tw,Tcは、次式(1)に示す如く釣り合っている。尚、以下、図2及び図3において、反時計回り方向を正の方向とし、時計回り方向を負の方向とする。
【0024】
Tm+(−Tw)+Tc=0 ・・・(1)
また、インホイールモータ14からの入力トルクTmと、ホイール12からの入力トルクTwとの間においては、減速機30の減速比Nを用いると、次式(2)に示す関係が成立する。
【0025】
Tm=Tw/N ・・・(2)
このため、上記(1)式及び(2)式により、キャリア18が車体22から受ける支持トルクTcと、キャリア18がホイール12から受ける駆動反力トルクTwとの間において、次式(3)に示す関係が成立する。
【0026】
Tc=(1−1/N)Tw ・・・(3)
かかる構成においては、減速機30の減速比Nが“1”を超える場合(N>1)、キャリア18に、軸中心C回りにおいて、ホイール12からの駆動反力トルクTwの方向と逆方向(図2において反時計回り方向)に作用する支持トルクTcが伝達される。このため、キャリア18の車軸Cから車体22との取付位置Oまでの長さをL1とすると、車体12には、キャリア18の車体22に対する取付位置Oにおいて、キャリア18への支持トルクTcに対する反力トルクTc(図3において白矢印で示す時計回り方向)により、次式(4)に示す如き、その車体22を持ち上げる力(車体持上力;図3において白矢印で示す)Fuが作用することとなる。
【0027】
Fu=Tc/L1=(1−1/N)Tw/L1 ・・・(4)
また、インホイールモータ14が駆動トルクTmで駆動されることにより車輪が回転駆動される際、そのインホイールモータ14を内部に保持するモータケース24、及び、そのモータケース24を車体に連結するリンク機構36に、図3に黒矢印で示す如く、軸中心C回りにおいて、インホイールモータ14の駆動トルクTmの方向と逆方向(図3において時計回り方向)に作用する駆動反力トルクTmが働く。
【0028】
このため、インホイールモータ14の軸中心Cからモータケース24に固定される第1リンク38の第2リンク40への連結位置までの長さをL2とすると、車体22には、第2リンク40の車体22に対する取付位置Oにおいて、その駆動反力トルクTm(図3において黒矢印で示す時計回り方向)により、次式(5)に示す如き、その車体22を引き下げる力(車体引下力;図3において黒矢印で示す)Fdが作用することとなる。
【0029】
Fd=Tm/L2=1/N・Tw/L2 ・・・(5)
従って、インホイールモータ14の駆動による車輪の回転駆動時、車体22全体としては、次式(6)に示す如き車体持上力Fc(=Fu−Fd)が働く。
【0030】
Fc=(1−1/N)Tw/L1−1/N・Tw/L2
={1/L1−(1/L1+1/L2)/N}Tw ・・・(6)
上記したインホイールモータ搭載車によれば、減速機30の減速比Nに応じて、車体22に働く車体持上げ力Fuと車体引下力Fdとの関係を任意の値に設定することで、車体22全体に働く車体持上力Fcを可変することができ、車体22全体に任意の車体持上力Fcを作用させることができる。
【0031】
例えば、減速機30の減速比Nの大きさに応じて車高の変化方向を切り替えることができる。減速機30の減速比Nは、制御回路34により任意の値に設定可能である。減速機30の減速比Nが(1+L1/L2)よりも大きい値に設定されると、車体22全体の車体持上力Fcが正値になるので、車輪に対して車体22が上昇して車高が上がる。一方、減速機30の減速比Nが(1+L1/L2)よりも小さい値に設定されると、車体22全体の車体持上力Fcが負値になるので、車輪に対して車体22が下降して車高が下がる。
【0032】
このように、本実施例によれば、インホイールモータ14の駆動による車輪の回転駆動時、制御回路34を用いて減速機30の減速比Nを調整することで、車高を調整する車高調整機構10を実現することができる。
【0033】
かかる車高調整機構10においては、車高調整を実現するのに、各輪ごとにホイール12を回転させる駆動トルクTmを発生するモータ14を唯一つ設けるのみで十分である。従って、本実施例のインホイールモータ搭載車の車高調整機構10によれば、各輪それぞれにホイール12を回転させる駆動トルクTmを発生するモータを2つも設けることなく車高調整を実現することが可能となっている。
【0034】
尚、上記の第1実施例においては、車体持上力Fuが特許請求の範囲に記載した「第1の力」に、車体引下力Fdが特許請求の範囲に記載した「第2の力」に、キャリア18が特許請求の範囲に記載した「第1の保持機構」に、リンク機構36が特許請求の範囲に記載した「第2の保持機構」に、減速機30が特許請求の範囲に記載した「伝達力可変機構」及び「変速機」に、それぞれ相当している。
【0035】
ところで、上記の第1実施例においては、インホイールモータ14のロータ28からホイール12のハブ16に伝達する駆動トルクの減速比Nを可変する減速機30を無段変速機であるCVTとしたが、本発明はこれに限定されるものではなく、減速比Nを二段階以上に切り替えることが可能なものとすればよい。
【実施例2】
【0036】
図4は、本発明の第2実施例であるインホイールモータ搭載車の車高調整機構100の構成図を示す。尚、図4(A)には車両内側から見た際の側面図を、また、図4(B)には図4(A)に示すIV−IVで切断した際の断面図を、それぞれ示す。また、図4において、上記図1に示す部分と同一の構成部分については、同一の符号を付してその説明を省略又は簡略する。
【0037】
本実施例の車高調整機構100は、いわゆるインホイールモータ搭載車に適用される、車高を調整する機構である。本実施例において、インホイールモータ搭載車は、車輪タイヤが装着されたホイール12内に設けられるモータ102を備えている。以下、モータ102をインホイールモータ102と称す。インホイールモータ102は、ホイール12を回転させて車輪を駆動するトルクを発生する電気モータである。ホイール12は、ハブ16を通じてキャリア104に車軸C回りに回転可能に支持されている。
【0038】
キャリア104は、車体22に対して略前後方向に延びる形状を有している。キャリア104は、一端Cでホイール12を回転可能に支持しつつ他端Oで車体22に対して揺動可能に支持されている。すなわち、キャリア104は、ホイール12が車体22に対して上下方向に変位することができるように車体22に対して揺動可能に取り付けられており、トレーリングアームとして機能する。
【0039】
インホイールモータ102は、モータケース106の内部に保持されている。モータケース106は、キャリア104に固定され或いはキャリア104と一体化されている。モータケース106には、インホイールモータ102のステータ108が固定されている。また、インホイールモータ102のロータ110は、カウンタギア112及び減速機114を介してホイール12のハブ16に連結されている。
【0040】
カウンタギア112は、ロータ110の回転を所定の減速比N1で減速して減速機114に伝達する。減速機114は、カウンタギア112の回転を所定の減速比N2で減速してホイール12のハブ16に伝達する装置である。減速機114は、キャリア104に固定され或いはキャリア104と一体化されるケース116内に保持されている。ケース116は、モータケース106と一体に形成されている。減速機114は、ケース116内においてロータ110側からハブ16へ伝達される回転を減速する。
【0041】
減速機114は、サンギア120と、リングギア122と、サンギア120及びリングギア122に噛合する複数のプラネタリギア124と、複数のプラネタリギアを結ぶプラネタリキャリア126と、からなる遊星歯車機構である。サンギア120は上記のカウンタギア112に噛合しており、サンギア120にはインホイールモータ102側からのトルクが入力される。また、プラネタリキャリア126は、上記のハブ16と一体化されており、サンギア120の回転に伴ってホイール12を回転させるトルクを出力する。
【0042】
リングギア122には、クラッチ・ブレーキ機構130を介して、リングギアアーム132が連結されている。リングギアアーム132は、キャリア104に対して相対回転可能に支持されている。リングギアアーム132は、車軸Cを中心にして車体前後方向に延びる形状を有している。リングギアアーム132は、リンク機構134を介して車体22に連結されている。リンク機構134は、車体22に対して略上下方向に延びる形状を有するリンク136からなる。リンク136は、車体22に対して揺動可能に取り付けられている。リングギアアーム132とリンク136とは、一端同士で自由に揺動可能に互いに連結されている。
【0043】
リンク136の車体22に対する取付位置Oと、キャリア104の車体22に対する取付位置Oとは、互いに異なる位置である。リングギアアーム132が車軸Cからリンク136との連結位置へ向けて延びる車体前後方向(図4において左から右へ向かう方向)と、キャリア104が車軸Cから車体22との取付位置Oへ向けて延びる車体前後方向(図4において右から左へ向かう方向)とは、互いに逆方向である。
【0044】
クラッチ・ブレーキ機構130は、リングギア122をキャリア104とリングギアアーム132とに選択的に結合させることが可能な機構である。すなわち、リングギア122とキャリア104との結合及びその結合の解除を切り替えることが可能であると共に、リングギア122とリングギアアーム132との結合及びその結合の解除を切り替えることが可能であって、リングギア122をキャリア104と結合させる際はリングギア122とリングギアアーム132との結合を解除し、また、リングギア122をリングギアアーム132と結合させる際はリングギア122とキャリア104との結合を解除する。クラッチ・ブレーキ機構130は、例えば電磁式の機構であって、制御回路140からの指令に従って、上記したリングギア122の結合・解除を切り替える。
【0045】
上記したインホイールモータ搭載車において、車輪が回転駆動される際、インホイールモータ102に電気信号が供給されることで、そのインホイールモータ102が駆動トルクTmを発生する。インホイールモータ102で発生した駆動トルクTmは、カウンタギア112に入力された後に減速機114に入力される。減速機114のサンギア120に入力された駆動トルクTsは、減速機114で減速されることにより駆動トルクTwに変換されてホイール12のハブ16に伝達される。ハブ16に駆動トルクTwが伝達されると、車輪が回転駆動される。従って、本実施例においては、インホイールモータ102の駆動によりカウンタギア112及び減速機114を介して車輪を回転駆動させることが可能である。
【0046】
図5は、本実施例のインホイールモータ搭載車の有する減速機114に作用する力の釣り合いを模式的に表した図を示す。また、図6は、本実施例の車高調整機構100における車高を調整する手法を説明するための図を示す。
【0047】
上記したインホイールモータ搭載車において、インホイールモータ102が駆動トルクTmで駆動されることにより車輪が回転駆動される際、減速機114に、図5に示す如く、サンギア120がカウンタギア112から受ける駆動トルクTsと、プラネタリキャリア126がホイール12から受ける駆動反力トルクTwと、が働くと共に、リングギア122が受ける反力トルクTrが働く。減速機114に作用するこれらのトルクTs,Tw,Trは、次式(7)に示す如く釣り合っている。尚、以下、図5及び図6において、反時計回り方向を正の方向とし、時計回り方向を負の方向とする。
【0048】
Ts+(−Tw)+Tr=0 ・・・(7)
また、インホイールモータ102側からサンギア120に入力される入力トルクTsと、ホイール12からプラネタリキャリア126に入力される入力トルクTwとの間においては、減速機114の減速比N2を用いると、次式(8)に示す関係が成立する。
【0049】
Ts=Tw/N2 ・・・(8)
このため、上記(7)式及び(8)式により、リングギア122が受ける反力トルクTrと、駆動反力トルクTwとの間において、次式(9)に示す関係が成立する。
【0050】
Tr=Tw−Ts=(1−1/N2)Tw ・・・(9)
かかる構成において、減速機114の減速比N2は“1”を超えるので、リングギア122が、軸中心C回りにおいて、クラッチ・ブレーキ機構130の作動によりリングギア122と選択的に結合するキャリア104又はリングギアアーム132に、ホイール12からの駆動反力トルクTwの方向と逆方向(図6において時計回り方向)にトルクTrを伝達することとなる。
【0051】
また、インホイールモータ102が駆動トルクTmで駆動されることにより車輪が回転駆動される際、サンギア120に入力される駆動トルクTsの方向と逆方向(図6において時計回り方向)に作用する反力トルクTsが、サンギア120、カウンタギア112、及びインホイールモータ102の支持ベアリングを介してキャリア104に伝達される。この場合、キャリア104には、軸中心C回りにおいて、その反力トルクTsが働く。
【0052】
上記した構造において、クラッチ・ブレーキ機構130の作動によりリングギア122がキャリア104に結合される一方でリングギアアーム132と非結合である場合は、リングギア122がキャリア104に固定され、リングギアアーム132及びリンク機構134がリングギア122から切り離される。この場合、リングギア122が伝達するトルクTrはキャリア104に伝達され、リングギア122からキャリア104にトルクTrが伝達される。
【0053】
このため、キャリア104の車軸Cから車体22との取付位置Oまでの長さをL1とすると、リングギア122とキャリア104との結合時、車体22には、キャリア104の車体22に対する取付位置Oにおいて、サンギア120に入力される駆動トルクTsに対する反力トルクTs、及び、リングギア122からキャリア104に伝達されるトルクTrにより、次式(10)に示す如き、その車体22を持ち上げる力(車体持上力;図6(A)において白矢印で示す)Fuが作用する一方で、リンク機構134の車体22に対する取付位置Oにおいては、次式(11)に示す如く、その車体22を引き下げる力(車体引下力)Fdが作用しなくなる。
【0054】
Fu=(Ts+Tr)/L1=Tw/L1 ・・・(10)
Fd=0 ・・・(11)
従って、インホイールモータ102の駆動による車輪の回転駆動時、リングギア122とキャリア104とが結合される際には、車体22全体として、次式(12)に示す如き車体持上力Fc(=Fu−Fd)が働く。
【0055】
Fc=Tw/L1 ・・・(12)
このため、本実施例のインホイールモータ搭載車によれば、リングギア122をキャリア104と結合させることで、車体22全体に車体22を持ち上げる車体持上力Fcが作用することとなる。この場合には、車輪に対して車体22が上昇する。
【0056】
また、クラッチ・ブレーキ機構130の作動によりリングギア122がリングギアアーム132に結合される一方でキャリア104と非結合である場合は、リングギア122がリングギアアーム132に固定され、キャリア104がリングギア122から切り離される。この場合、リングギア122が伝達するトルクTrはリングギアアーム132に伝達され、リングギア122からリングギアアーム132にトルクTrが伝達される。
【0057】
このため、キャリア104の車軸Cから車体22との取付位置Oまでの長さをL1とし、かつ、リングギアアーム132の車軸Cからリンク機構134への連結位置までの長さをL2とすると、リングギア122とリングギアアーム132との結合時、車体22には、キャリア104の車体22に対する取付位置Oにおいて、サンギア120に入力される駆動トルクTsに対する反力トルクTsにより、次式(13)に示す如き、その車体22を持ち上げる車体持上力(図6(B)において白矢印で示す)Fuが作用すると共に、リンク機構134のリンク136の車体22に対する取付位置Oにおいて、リングギア122からキャリア104に伝達されるトルクTrにより、次式(14)に示す如き、その車体22を引き下げる車体引下力(図6(B)において黒矢印で示す)Fdが作用することとなる。
【0058】
Fu=Ts/L1=Tw/N2/L1 ・・・(13)
Fd=Tr/L2=(1−1/N2)Tw/L2 ・・・(14)
従って、インホイールモータ102の駆動による車輪の回転駆動時、リングギア122とリングギアアーム132とが結合される際には、車体22全体として、次式(15)に示す如く、車体持上力Fc(=Fu−Fd)が働くこととなる。
【0059】
Fc=Tw/N2/L1−(1−1/N2)Tw/L2
={(1/L1+1/L2)/N2−1/L2}Tw ・・・(15)
このため、本実施例のインホイールモータ搭載車によれば、リングギア122をリングギアアーム132と結合させることで、減速機114の減速比N2及び長さL1,L2を適正に設定することで、車体22全体に車体22を持ち上げ或いは車体22を引き下げる車体持上力Fcを作用させることができる。
【0060】
減速機114の減速比N2及び長さL1,L2はそれぞれ固定値である。このため、例えば、減速機114の減速比N2が(1+L2/L1)よりも小さい値に設定されていると、車体22全体の車体持上力Fcが正値になるので、車輪に対して車体22が上昇して車高が上がる。一方、減速機114の減速比N2が(1+L2/L1)よりも大きい値に設定されていると、車体22全体の車体持上力Fcが負値になるので、車輪に対して車体22が下降して車高が下がることとなる。
【0061】
尚、車高の上昇は、リングギア122とキャリア104との結合時に生ずるだけでなく、リングギア122とリングギアアーム132との結合時にも生ずるが、減速機114の減速比N2及び長さL1,L2の設定に応じて、両者間でその上昇度合いを異ならせることが可能である。
【0062】
このように、本実施例によれば、インホイールモータ102の駆動による車輪の回転駆動時、制御回路140からの指令によるクラッチ・ブレーキ機構130の作動によりリングギア122の結合をキャリア104とリングギアアーム132とに選択的に切り替えることで、車高を調整する車高調整機構100を実現することができる。
【0063】
かかる車高調整機構100においては、車高調整を実現するのに、各輪ごとにホイール12を回転させる駆動トルクTmを発生するモータ102を唯一つ設けるのみで十分である。従って、本実施例のインホイールモータ搭載車の車高調整機構100によれば、各輪それぞれにホイール12を回転させる駆動トルクTmを発生するモータを2つも設けることなく車高調整を実現することが可能となっている。
【0064】
尚、上記の第2実施例においては、車体持上力Fuが特許請求の範囲に記載した「第1の力」に、車体引下力Fdが特許請求の範囲に記載した「第2の力」に、キャリア104が特許請求の範囲に記載した「第1の保持機構」に、リンク機構134が特許請求の範囲に記載した「第2の保持機構」に、クラッチ・ブレーキ機構130が特許請求の範囲に記載した「伝達力可変機構」に、それぞれ相当している。
【0065】
ところで、上記の第1及び第2実施例においては、キャリア18,104をトレーリングアームで車体22に支持してキャリア18,104に作用するトルクを車体22に伝達すると共に、インホイールモータ14,102の発生する駆動トルクに対する反力トルクの一部をリンク機構36,134を介して車体22に伝達し得ることで、車高調整を行うこととしているが、本発明はこれに限定されるものではなく、トルクを車体22に伝達する経路としては、ダブルウィッシュボーン式サスペンションやストラット式サスペンションに用いられるアームなどを用いることとしてもよい。
【0066】
また、上記の第1及び第2実施例においては、伝達力可変機構として減速機30及びクラッチ・ブレーキ機構130を用いることとしたが、変速機構付きのギアなどを用いることとしてもよい。
【0067】
また、上記の第1及び第2実施例は、インホイールモータ14,102を減速機30,114やカウンタギア112を介してホイール12のハブ16に連結させた車両の例であるが、インホイールモータを直接にハブ16に連結させるホイールダイレクトドライブ型の車両に適用させることも可能である。
【符号の説明】
【0068】
10,100 車高調整機構
12 ホイール
14,102 インホイールモータ
18,104 キャリア
22 車体
24,106 モータケース
30,114 減速機
32 CVTケース
34,140 制御回路
36,134 リンク機構
120 サンギア
122 リングギア
124 プラネタリギア
126 プラネタリキャリア
130 クラッチ・ブレーキ機構
132 リングギアアーム
Fu 車体持上力
Fd 車体引下力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インホイールモータの駆動時に車体を持ち上げる第1の力が作用するようにホイール側を車体に対して保持する第1の保持機構と、
インホイールモータの駆動時に車体を引き下げる第2の力が作用するようにホイール側を車体に対して保持する第2の保持機構と、
インホイールモータの駆動時における前記第1の保持機構による前記第1の力の大きさと前記第2の保持機構による前記第2の力の大きさとの関係を可変させる伝達力可変機構と、
を備えることを特徴とするインホイールモータ搭載車の車高調整機構。
【請求項2】
前記第1の保持機構は、前記伝達力可変機構を保持するケースを兼ねたキャリアであるトレーリングアームであり、
前記第2の保持機構は、インホイールモータを保持するケースを車体に連結するリンク機構であり、かつ、
前記伝達力可変機構は、前記キャリア内でインホイールモータからホイールに伝達されるトルクの減速比を可変する変速機であることを特徴とする請求項1記載のインホイールモータ搭載車の車高調整機構。
【請求項3】
インホイールモータのトルクが入力されるサンギアと、前記サンギアの回転に伴ってホイールを回転させるトルクを出力するプラネタリキャリアと、固定されるリングギアと、を有する遊星歯車機構を備え、
前記第1の保持機構は、インホイールモータを保持するケースを兼ねたキャリアであるトレーリングアームであり、
前記第2の保持機構は、前記リングギアに結合され得るリングギアアームを車体に連結するリンク機構であり、かつ、
前記伝達力可変機構は、前記リングギアを前記キャリア又は前記リングギアアームに選択的に結合するクラッチ・ブレーキ機構であることを特徴とする請求項1記載のインホイールモータ搭載車の車高調整機構。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−241183(P2010−241183A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−89604(P2009−89604)
【出願日】平成21年4月1日(2009.4.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】