説明

エンジン制御装置

【課題】ブースタ負圧によるブレーキ補助力確保の確実性向上、及びアイドルストップ期間の拡大による燃費向上の両立を図ったエンジンの制御装置を提供する。
【解決手段】エンジンの吸気負圧をブースタ負圧として導入し、運転者によるブレーキペダル踏力をブースタ負圧で補助するブースタ装置と、車速がゼロになるのを待たずしてエンジンの自動停止を許可させるアイドルストップシステムと、を備えた車両に適用され、エンジンの自動停止時において、ブースタ負圧が所定の閾値TH1未満になった場合に、エンジンを自動再始動させてブレーキ補助力を回復させるブレーキ用再始動手段と、エンジンの運転時のブースタ負圧の低下量Δpave(ブレーキ補助力が低下していく履歴)に基づき、エンジンの自動停止禁止の是非を判定するアイドルストップ禁止判定手段S23と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイドルストップシステムを備える車両に適用された、エンジン(エンジン)の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のアイドルストップシステムでは、運転者がブレーキペダルを踏んで減速走行している等により運転者の停車意思が検出された場合に、車速がゼロになっていることを条件として燃料噴射をカットして、エンジン(内燃機関)を自動停止(アイドルストップ)させて燃費向上を図る。そして近年では、車速がゼロになるのを待たずして燃料噴射をカットしてアイドルストップさせることで、アイドルストップ期間を拡大させて、さらなる燃費向上を図るものがある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−257115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エンジンの吸気負圧をブースタ負圧として導入し、運転者によるブレーキペダル踏力をブースタ負圧で補助するブースタ装置が備えられた車両においては、エンジン停止させると吸気負圧を供給できなくなりブースタ負圧が低下していく(ブースタ負圧が大気圧に近づいていく)。その結果、ブレーキペダルの踏み込みに要する力が大きくなるので、運転者にとってはブレーキペダルが硬く感じられるようになり、ブレーキ操作性が悪化する。そのため、アイドルストップ中にブースタ負圧が所定の閾値TH1(図2参照)未満になった場合には、エンジンを再始動させてブースタ負圧を確保させるのが一般的である。特に、上述の如く車速がゼロになるのを待たずしてアイドルストップさせる場合には、確実なブースタ負圧確保が要求される。
【0005】
但し、ブースタ負圧が閾値TH1未満になったことに伴いエンジンを再始動させても、ブースタ負圧が上昇を開始するまでにはタイムラグ(例えば0.5秒〜1.5秒)がある。そのため、そのタイムラグ中にもブースタ負圧が低下していくことを考慮して前記閾値TH1は高めに設定されている。
【0006】
また、ブースタ装置の構造上、踏み込んだブレーキペダルを緩めた時にブースタ負圧は大きく低下するので、運転者がブレーキペダルを繰り返し踏み込むポンピング操作(ポンピングブレーキ)を行うと、ブースタ負圧は短時間で急激に低下する。したがって、エンジン再始動直後にポンピング操作されてブースタ負圧が大きく低下しても十分なブースタ負圧を確保できるようにするためには、前記閾値TH1を高めに設定しておく必要がある。
【0007】
このように、ポンピング操作される可能性を考慮して前記閾値TH1を高く設定するほど、ブースタ負圧確保の確実性を向上できる。しかしその背反として、閾値TH1を高く設定するほど、アイドルストップさせても直ぐに再始動が要求されるようになるため、アイドルストップ期間の拡大による燃費向上を十分に図れなくなる。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、ブースタ負圧によるブレーキ補助力確保の確実性向上、及びアイドルストップ期間の拡大による燃費向上の両立を図ったエンジンの制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0010】
請求項1記載の発明では、エンジンの吸気負圧をブースタ負圧として導入し、運転者によるブレーキペダル踏力を前記ブースタ負圧で補助するブースタ装置と、車速がゼロになるのを待たずして前記エンジンの自動停止を許可させるアイドルストップシステムと、を備えた車両に適用されることを前提とする。
【0011】
そして、前記エンジンの自動停止時において、前記ブースタ負圧が所定の閾値未満になった場合に、前記エンジンを自動再始動させて前記ブースタ負圧によるブレーキ補助力を回復させるブレーキ用再始動手段と、前記エンジンの運転時に前記ブレーキ補助力が低下していく履歴に基づき、前記エンジンの自動停止禁止の是非を判定するアイドルストップ禁止判定手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
ここで、エンジンの運転時に、ポンピングブレーキ等に起因してブースタ負圧が急激に低下してブレーキ補助力が低下している場合には、その後アイドルストップ(自動停止)させても、ブレーキ用再始動手段により直ぐに再始動させることになる可能性が高く、しかも、再始動させてもその直後にはブースタ負圧の急激な低下が継続され、ブレーキ操作性が許容を超えて悪化する可能性が高い。
【0013】
この点を鑑みた上記発明では、エンジンの運転時におけるブレーキ補助力が低下していく履歴に基づき、アイドルストップ(自動停止)の禁止の是非を判定する。そのため、エンジン運転中にポンピングブレーキを実施してブースタ負圧(ブレーキ補助力)が急激に低下した場合には、ブレーキ補助力が所定の閾値未満であるか否かとは関係なくエンジンの自動停止を禁止させることができる。そのため、「アイドルストップ後に直ぐに再始動させてもその直後にはブースタ負圧の急激な低下が継続されブレーキ操作性が許容を超えて悪化する」といった先述の懸念を解消でき、ポンピングブレーキが為されてもブースタ負圧の確保を確実にできる。
【0014】
そして、このようなアイドルストップ禁止判定手段を備えることでポンピングブレーキによる上記懸念は解消されるので、「ポンピング操作される可能性を考慮してブレーキ用再始動手段で用いる閾値TH1(図2参照)を高めに設定しておく」といった必要性を無くすことができる。よって、閾値TH1を低めに設定してブレーキ用再始動手段による再始動の機会を減らすことができるので、アイドルストップ期間の拡大を図ることができ、燃費向上を促進できる。
【0015】
以上により、上記発明によれば、アイドルストップ禁止判定手段を備えることでブレーキ補助力の確保の確実性を向上でき、それ故に、ブレーキ用再始動手段で用いる閾値TH1を低く設定してアイドルストップ期間の拡大による燃費向上を図ることができるようになる。
【0016】
請求項2記載の発明では、前記アイドルストップ禁止判定手段は、前記ブレーキ補助力が低下していく履歴に加え、その時の車速に基づき自動停止禁止の是非を判定することを特徴とする。
【0017】
ここで、ブレーキ補助力が低下してブレーキ操作性が悪化しても、その時の車速が停車直前の極低速(例えば時速数キロメートル)であれば大きなブレーキ力は必要ないためブレーキ操作性の悪化は許容される。これに対し、車速が十分に低速でなければ、ブレーキ操作性が僅かに悪化しただけでも運転者にとって許容できなくなる。したがって、エンジン運転時におけるブレーキ補助力の低下履歴が同じであっても、その時の車速が十分に低速でなければアイドルストップ禁止して、極低速であればアイドルストップを許可することが望ましい。
【0018】
この点を鑑みた上記発明では、ブレーキ補助力の低下履歴に加え、その時の車速に基づきアイドルストップ禁止の是非を判定するので、車速に伴い変化するブレーキ操作性悪化の許容に応じた判定を実現できる。よって、不必要にアイドルストップを禁止させることなくブースタ負圧によるブレーキ補助力を確保できるので、ブレーキ補助力確保及びアイドルストップ期間拡大の両立を促進できる。
【0019】
請求項3記載の発明では、前記ブースタ負圧を検出する負圧センサを備え、前記アイドルストップ禁止判定手段は、前記負圧センサの検出値から算出されるブースタ負圧の低下速度又は所定期間でのブースタ負圧の総低下量を、前記ブレーキ補助力の低下履歴として算出することを特徴とする。また、請求項4記載の発明では、ブレーキオイルの圧力(ブレーキ油圧)を検出する油圧センサを備え、前記アイドルストップ禁止判定手段は、前記油圧センサの検出値から算出される圧力の低下速度又は所定期間での圧力の総低下量を、前記ブレーキ補助力の低下履歴として算出することを特徴とする。
【0020】
ここで、ブレーキ補助力の変化は、ブレーキペダルの踏込力の変化、踏込量の変化、車両制動力の変化等と相関があるので、これらの踏込力、踏込量、制動力を検出すればブレーキ補助力の低下履歴を推定できる。しかし、ブレーキ補助力を直接決定するのはブースタ負圧やブレーキオイルの圧力(ブレーキ油圧)であるため、ブースタ負圧やブレーキ油圧の方がブレーキ補助力との相関が高い。
【0021】
この点を鑑みた上記発明では、ブースタ負圧を検出する負圧センサ又はブレーキオイルの圧力を検出する油圧センサを備え、これらのセンサの検出値から算出されるブースタ負圧やブレーキ油圧の低下速度(単位時間当たりの変化量)をブレーキ補助力の低下履歴として算出するので、その算出精度を高くできる。
【0022】
また、ブースタ負圧やブレーキ油圧の所定期間での総低下量(変化量の積算値)が多いほどブレーキ補助力も低くなっている筈であり、これらの総低下量とブレーキ補助力との相関も高いので、ブースタ負圧やブレーキ油圧の所定期間での総低下量をブレーキ補助力の低下履歴として算出する上記発明によれば、その算出精度を高くできる。
【0023】
請求項5記載の発明では、前記検出値の移動平均値から前記低下速度を算出することを特徴とする。
【0024】
ここで、ブースタ装置の構造上、踏み込んだブレーキペダルを緩めた時にブースタ負圧が大きく低下することは先述した通りである。したがって、ポンピングブレーキの実施期間中におけるブースタ負圧はステップ状に低下していく。そのため、瞬時的な低下速度を算出すると、ポンピングブレーキ期間中の平均的な低下速度とは大きく異なる低下速度となるため、アイドルストップ禁止判定手段による判定にばらつきが生じてしまい、判定の最適性が損なわれる。具体的には、ブレーキペダルを緩めている時の低下速度に基づき判定すると、必要以上にアイドルストップを禁止させることになり、ブレーキペダルを踏み込んでいる時の低下速度に基づき判定すると、必要以上にアイドルストップを許可することになる。
【0025】
この点を鑑みた上記発明では、負圧センサ又は油圧センサの検出値の移動平均値(直近のn個の検出値の平均値)から低下速度を算出するので、アイドルストップ禁止判定手段による判定ばらつきを抑制でき、判定の最適性を向上できる。
【0026】
請求項6記載の発明では、前記アイドルストップ禁止判定手段により前記エンジンの自動停止を禁止すると判定した場合、その禁止判定の後、前記ブレーキ補助力が上昇して所定値に達するまでの期間は自動停止の禁止を継続させることを特徴とする。
【0027】
ここで、ブレーキ補助力が急激に下降したことに起因してアイドルストップ禁止が判定されても、その後、ブレーキ補助力の低下速度が緩やかになればアイドルストップ許可の判定に移行するので、アイドルストップを実施した直後にブレーキ補助力が閾値未満になって再始動させる状況になることが懸念される。この懸念に対し、上記発明によれば、アイドルストップ禁止判定の後、ブレーキ補助力が上昇して所定値に達するまでの期間は自動停止の禁止を継続させるので、上述のようにアイドルストップを実施して直ぐにブレーキ用再始動手段により再始動させるといった状況を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態にかかるエンジン制御装置が適用される、エンジン及びブースタ装置の全体図。
【図2】ポンピングブレーキを実施しながら減速走行している最中にアイドルストップが為された場合における、ブースタ負圧等の変化を示すタイムチャート。
【図3】本発明の実施形態において、アイドルストップ期間中にブースタ負圧が不足した場合にエンジンを自動再始動させる制御の手順を示すフローチャート。
【図4】本発明の実施形態において、エンジンの運転時におけるブースタ負圧の変化量に基づき、アイドルストップ禁止の是非を判定する制御の手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態にかかる車両は、エンジン10(内燃機関)を自動停止及び自動再始動させるアイドルストップシステムを備えるとともに、以下に説明するブースタ装置30を備えた制動装置を備えている。
【0030】
先ず、図1を用いて、上記車両に搭載されている制動装置を構成する、マスターシリンダ20及びブースタ装置30について説明する。
【0031】
マスターシリンダ20は、運転者によるブレーキペダル11の踏力(ブレーキ踏力)により作動してブレーキオイルの圧力(ブレーキ油圧)を発生させるものである。運転者によりブレーキペダル11が踏み込まれると、ブレーキ踏力はロッド21を介してピストン22に伝達され、ピストン22が圧縮作動することによりシリンダ23内に充填されているブレーキオイルが圧縮され、ブレーキ油圧が上昇することとなる。このように昇圧したブレーキ油圧は、図示しないフロントホイールシリンダ及びリヤホイールシリンダへ伝達され、各々のホイールシリンダがブレーキ油圧により作動して制動力が発揮されることとなる。
【0032】
ブースタ装置30は、エンジン10の吸気負圧をブースタ負圧として導入し、このブースタ負圧によりブレーキ踏力を補助するものである。このブースタ装置30は、圧力室を内部に形成するハウジング31と、ハウジング31内部の圧力室を定圧室31a及び変圧室31bに仕切るダイヤフラム32と、を備えて構成されている。定圧室31aは、逆止弁33を介してエンジン10の吸気管12と連通している。このため、エンジン10の運転時には定圧室31aに負圧が導入される。なお、定圧室31aの圧力が「ブースタ負圧」に相当する。変圧室31bは、大気弁34を介して大気と連通可能に構成されている。また、定圧室31a及び変圧室31bは、真空弁35を介して連通可能に構成されている。
【0033】
ブレーキペダル11が踏み込まれていない時には、大気弁34が閉弁するとともに真空弁35が開弁する。そのため、定圧室31a及び変圧室31bは連通状態となり同じ負圧が発生している。一方、ブレーキペダル11が踏み込まれると、先ず真空弁35が閉弁して、定圧室31a及び変圧室31bは非連通状態となる。その後、さらにブレーキペダル11が踏み込まれると、大気弁34が開弁し、変圧室31bへ大気が導入される。これにより、変圧室31bは大気圧になり、その一方で、定圧室31aは負圧になる。そのため、定圧室31a及び変圧室31bで圧力差が生じ、この差圧がダイヤフラム32に作用してブレーキ踏力を補助するアシスト力(ブレーキ補助力)となる。
【0034】
次に、ECU40によるエンジン10の作動の制御手法、及びアイドルストップシステムについて説明する。図1に示すエンジン10は、点火式のガソリンエンジン(内燃機関)であり、燃料噴射弁13からの燃料を吸気管12へ噴射するポート噴射式のエンジンである。ECU40は主に、燃料噴射弁13、スロットルバルブ14及び点火装置15の作動を制御することで、燃料の噴射量、噴射時期、吸気量、点火時期を制御する。これにより、排気エミッション及び出力トルクが所望する状態となるよう、エンジン10の作動が制御される。
【0035】
アイドルストップシステムは、車両走行中に運転者の停車意思を検出して所定のアイドルストップ条件が成立すれば、車速がゼロになるのを待たずして、燃料噴射弁13からの燃料噴射を自動で停止(燃料噴射カット)するとともに点火装置15の作動を停止させて、エンジン10を自動停止させる。
【0036】
上述した停車意思の検出の具体例としては、ブレーキペダルセンサ11aにより検出されたブレーキペダル11の踏込量が所定量以上であること、アクセルペダルが踏み込まれていないこと等が挙げられる。前記アイドルストップ条件の具体例としては、車速が低下していること、車速が所定車速THa(図2(a)参照)未満であること、車載バッテリの充電量が所定量以上であること、エンジン10から車両駆動輪への動力伝達が遮断されていること等が挙げられる。アイドルストップ解除条件の具体例としては、車載バッテリの充電量が所定量未満であること、ブレーキペダル11が踏み込まれていないこと(又はその踏込量が所定量未満であること)、アクセルペダルが踏み込まれていること等が挙げられる。
【0037】
このように、車速がゼロになるのを待たずしてエンジン10を自動停止させた場合、定圧室31a内の圧力が上昇して大気圧に近づいていく(定圧室31a内の負圧が低下していく)ため、アシスト力(ブレーキ補助力)が低下していき、その結果、ブレーキペダル11の踏み込みに要する力が大きくなるので、運転者にとってはブレーキペダル11が硬く感じられるようになり、ブレーキ操作性が悪化することが懸念される。
【0038】
そこで本実施形態では、定圧室31a内の負圧を検出する負圧センサ30aをハウジング31に取り付けてブースタ負圧を検出する。そしてECU40は、エンジン運転中に負圧センサ30aで検出したブースタ負圧が、所定の閾値TH1(図2(c)参照)以上であることを条件としてアイドルストップを許可する。また、アイドルストップ制御中に検出したブースタ負圧が閾値TH1未満にまで低下した場合には、エンジン10を自動で再始動させる。
【0039】
なお、閾値TH1よりも低い値に設定された下限閾値TH2(図2(c)参照)にまでブースタ負圧が低下した場合には、エンジン制御をフェールセーフ制御に切り替える。このフェールセーフ制御では、例えば燃料噴射量や吸気量を制限して、エンジン回転速度や車速が所定値未満となるようにエンジン出力や車速を制限する。
【0040】
図2中の実線は、ポンピングブレーキを実施しながら減速走行している最中にアイドルストップが為された場合における、ブースタ負圧等の変化を示すタイムチャートであり、以下、図2に示す態様について説明する。
【0041】
先ずt1時点で、車両運転者がブレーキペダル11を踏込んだことに伴い車速が低下し始めている(図2(d)(a)参照)。その後、t2時点でブレーキ踏力が一旦緩められ、その後、ブレーキペダル11の踏込みと緩める操作を繰り返し行うポンピング操作(ポンピングブレーキ)が行われている。すると、このポンピング操作に伴いブースタ負圧は急激に低下していく(図2(c)参照)。その後、t3時点で所定車速THaまで車速が低下してアイドルストップ条件を満たすようになると、エンジンを自動停止させるアイドルストップが実行され、そのエンジン停止に伴いエンジン回転速度は低下していきゼロになる(図2(a)(b)参照)。図2の例では、エンジンを自動停止させる前のt2時点からポンピング操作を開始し、自動停止させた後も、車速がゼロになるまでポンピング操作を継続させている。
【0042】
ここで、ポンピング操作を行うとブースタ負圧が低下していく理由について以下に説明する。エンジン10を自動停止させた後において、ブレーキペダル11の踏み込みを緩めて、アイドルストップ条件を満たす程度に踏込量を少なくすると、真空弁35が開弁して定圧室31a内の負圧が変圧室31bへ流れ込む。その後、ブレーキペダル11を踏み込むと、大気弁34が開弁して変圧室31b内の負圧が大気へ抜け出る。そのため、エンジン停止時に運転者がブレーキペダル11をポンピング操作すると、吸気管12から定圧室31aへの負圧供給は途絶えた状態で、ポンピング操作する毎に定圧室31a内の負圧は変圧室31bへ移動して大気弁34から抜け出る。したがって、ブレーキペダル11を踏み込んだままにしていればブースタ負圧は殆ど低下しないのに対し、ブレーキペダル11を緩める度にブースタ負圧はステップ状に低下していく(図2(c)(d)参照)。
【0043】
なお、図2の例では、エンジンを運転しているt2〜t3の期間にもブースタ負圧がポンピング操作により低下しているが、負圧の供給によりブースタ負圧が上昇して回復するにはタイムラグがあるため、前記t2〜t3の期間はそのタイムラグに相当する。したがって、t3時点でのエンジン停止を実施しなければ、ポンピング操作を続けてもt3時点以降にブースタ負圧は上昇を開始して回復する。しかし、図2の例ではt3時点でエンジン停止させているのでブースタ負圧は低下し続けていき、閾値TH1にまで低下したt4時点で、アイドルストップの継続を中止してエンジン10を自動再始動させている。
【0044】
この再始動に伴いエンジン回転速度は上昇を開始するが、先述したタイムラグが原因でブースタ負圧は直ぐには上昇を開始せず、エンジン10を再始動させた後にもブースタ負圧の低下は継続する。そして、t5時点でブースタ負圧は上昇を開始する。図2の例では、ブースタ負圧が下限閾値TH2に達することなくt5時点で上昇を開始しているため、先述したフェールセーフ制御は実施されない。
【0045】
ちなみに、図2(d)中の点線L1に示す如く、t2aの時点でポンピング操作を止めて、ブレーキペダル11を緩めることなく踏力を一定に維持させれば、図2(c)中の点線L2に示す如く、エンジン停止後にもブースタ負圧は維持されて、急激に低下することは無くなる。
【0046】
図3は、上述の如くブースタ負圧の検出値に応じたエンジン制御をECU40のマイクロコンピュータが実施するにあたり、その処理手順を示すフローチャートである。当該処理は所定周期(例えばマイコンのCPUが行う演算周期又は所定のクランク角度毎)で繰り返し実行される。
【0047】
先ず、図3に示すステップS10において、負圧センサ30aにより検出されたブースタ負圧が、図2(c)に示す下限閾値TH2以上であるか否かを判定する。ブースタ負圧<TH2と判定(S10:NO)された場合には、次のステップS11において、先述したエンジン10のフェールセーフ制御を実行する。ブースタ負圧≧TH2と判定(S10:YES)された場合には、次のステップS12において、ブースタ負圧が図2(c)に示す閾値TH1(但しTH1>TH2)以上であるか否かを判定する。
【0048】
ブースタ負圧≧TH1と判定(S12:YES)されれば、次のステップS13にてアイドルストップを許可する。つまり、エンジン運転中に、車速<THa等のアイドルストップ条件を満たせばエンジン10を自動停止させる。また、アイドルストップ中であれば、アイドルストップ解除条件を満たさない限りエンジン停止状態を継続させる。
【0049】
一方、ブースタ負圧<TH1と判定(S12:NO)された場合には、次のステップS14にてアイドルストップ中であるか否かを判定し、エンジン運転中であると判定(S14:NO)された場合には、前記ステップS11にてフェールセーフ制御を実行する。なお、上記ステップS14の判定では、エンジン運転中にTH2≦ブースタ負圧<TH1(S10:YES、S12:NO)の状態が所定時間以上経過した場合に、否定判定してフェールセーフ制御(S11)を実施するようにしてもよい。一方、アイドルストップ中であると判定(S14:YES)された場合には、次のステップS15(ブレーキ用再始動手段)にて、先述したアイドルストップ解除条件を満たすか否かに拘わらず、エンジン10を自動再始動させる。
【0050】
ここで、閾値TH1を高めに設定しておくほど、エンジンを再始動させるt4時点からブースタ負圧が上昇を開始するまでのt5時点までの期間において、ブースタ負圧が下限閾値TH2未満となるおそれを低減できる。しかしその背反として、閾値TH1を高く設定するほど、t3時点でアイドルストップさせても直ぐに再始動が要求されるようになるため、アイドルストップ期間の拡大による燃費向上を十分に図れなくなる。
【0051】
そこで本実施形態では、エンジン運転中にポンピング操作の有無を判定し、ポンピング操作が為されたと判定した場合にはアイドルストップを禁止させている。具体的には、ブースタ負圧の低下速度が所定値THb以上であればポンピング操作していると判定して、ブースタ負圧が閾値TH1以上であるか否かに拘わらずアイドルストップを禁止させる。
【0052】
図4は、上述の如くアイドルストップを禁止させるか否かを判定する処理手順を示すフローチャートであり、ECU40のマイクロコンピュータにより所定周期(例えばマイコンのCPUが行う演算周期又は所定のクランク角度毎)で繰り返し実行される。なお、図4の処理はエンジン運転中に実行されるものであり、アイドルストップ等によるエンジン停止期間中には実行されない。
【0053】
先ず、図4に示すステップS20において、負圧センサ30aにより検出された複数のサンプリング値(検出値)に基づき、現時点から直近のn個の検出値の平均(移動平均値Pave)を算出する。例えば、図2(c)中の符号i−2の期間におけるn個の検出値の平均を移動平均値Pave(i-2)として算出し、その次には、i−1の期間におけるn個の検出値の平均を移動平均値Pave(i-1)として算出し、その次には、iの期間におけるn個の検出値の平均を移動平均値Pave(i)として算出する、といった算出を繰り返していく。次のステップS21では、ステップS20で算出した移動平均値Paveの変化量ΔPaveを算出する。具体的には、ΔPave=Pave(i)−Pave(i-1)との式により算出する。
【0054】
続くステップS22では、その時点での車速に応じて、次のステップS23の判定で用いる判定値THbを算出する。なお、車速が速いほど判定値THbを高い値に設定する。例えば、図4中の符号M1に示すマップを予めメモリに記憶させておき、当該マップM1を参照して車速に基づき判定値THbを算出する。続くステップS23(アイドルストップ禁止判定手段)では、ステップS21で算出したブースタ負圧のマイナス側への変化量ΔPave(低下量)が判定値THb以上であるか否かを判定する。
【0055】
−ΔPave≧THbと判定(S23:YES)された場合には、ポンピング操作等によりブースタ負圧(アシスト力)が急激に低下しているとみなして、続くステップS24にてアイドルストップを禁止させる。一方、−ΔPave<THbと判定(S23:NO)された場合には、次のステップS25において、ブースタ負圧が所定値TH3(図2参照)にまで上昇して回復しているか否かを判定する。なお、この所定値TH3は閾値TH1よりも高い値に設定されている。
【0056】
所定値TH3にまで回復していないと判定(S25:NO)された場合には、ステップS24によるアイドルストップ禁止を継続させ、所定値TH3にまで回復したと判定(S25:YES)された場合には、続くステップS26において、ステップS24によるアイドルストップ禁止を解除して、アイドルストップを許可する。
【0057】
以上に説明した図4の処理を実施すれば、図2(c)中の実線に示す如くポンピング操作に起因してブースタ負圧が急激に低下した場合には、−ΔPave≧THbと判定(S23:YES)されることになり、ブースタ負圧が閾値TH1以上であるか否かに拘わらずアイドルストップを禁止させる(S24)。そのため、「ポンピング操作される可能性を考慮して閾値TH1を高めに設定しておく」といった必要性を無くすことができる。よって、閾値TH1を低めに設定してブレーキ用再始動手段による再始動の機会を減らすことができるので、アイドルストップ期間の拡大を図ることができ、燃費向上を促進できる。
【0058】
つまり、図4の処理(アイドルストップ禁止判定手段)を実施することで、ポンピング操作によりブレーキのサポート力が不足する事態に陥るといった懸念を解消でき、それ故に、図3の処理(ブレーキ用再始動手段)で用いる閾値TH1を低く設定してアイドルストップ期間の拡大による燃費向上を図ることができるようになる。
【0059】
要するに、車速がTHaにまで低下した時点でエンジンを自動停止させた場合を想定し、この場合に、ブースタ負圧が閾値TH1を下回った時点で再始動させてもブースタ負圧が下限閾値TH2に達してしまうか否かを、ブレーキ補助力の低下履歴に基づき推定する。そして、下限閾値TH2に達すると推定した場合にはアイドルストップを禁止させる(S24)と言える。
【0060】
さらに本実施形態によれば、ステップS23におけるアイドルストップ禁止の是非判定に用いる判定値THbを、車速に応じて可変設定するので、車速に伴い変化するブレーキ操作性悪化の許容に応じた、アイドルストップ禁止の是非判定を実現できる。
【0061】
さらに本実施形態によれば、ステップS24によりアイドルストップを禁止させた後、ブースタ負圧が所定値TH3にまで回復するまでアイドルストップ禁止を継続させるので、アイドルストップ禁止解除に伴いエンジン自動停止を実施した後、直ぐにブースタ負圧<TH1(S12:NO)となって再始動させる、といった状況を回避できる。
【0062】
(他の実施形態)
本発明は上記実施形態の記載内容に限定されず、以下のように変更して実施してもよい。また、各実施形態の特徴的構成をそれぞれ任意に組み合わせるようにしてもよい。
【0063】
・上記実施形態では、負圧センサ30aにより検出された複数のサンプリング値の移動平均値Paveを用いて、ブースタ負圧の所定時間あたりの変化量ΔPaveを算出し、その変化量ΔPaveに基づきアイドルストップ禁止の是非を判定しているが、前記サンプリング値の瞬時変化量を逐次算出し、その瞬時変化量に基づきアイドルストップ禁止の是非を判定してもよい。例えば、サンプリング値の今回値と前回値との差分を、単位時間当たりの変化量(瞬時変化量)として算出すればよい。
【0064】
・ステップS20で算出する移動平均値Paveは、直近のn個のサンプリング値の重み付けのない単純な平均である単純移動平均に限らず、個々のサンプリング値に異なる重みをつけて平均を計算する加重移動平均でもよいし、周知の指数移動平均、三角移動平均でもよい。
【0065】
・「ブレーキ補助力の低下履歴」に基づきアイドルストップ禁止の是非を判定するにあたり、上記実施形態では、負圧センサ30aにより検出したブースタ負圧の変化量をブレーキ補助力の低下履歴として算出しているが、シリンダ23内のブレーキ油圧を油圧センサ20aで検出し、検出したブレーキ油圧の変化量をブレーキ補助力の低下履歴として算出してもよい。また、ブレーキペダル踏力、ブレーキペダル踏込量、ブレーキ油圧による車両の制動力を検出し、その検出値の変化量をブレーキ補助力の低下履歴として算出してもよい。
【0066】
・上記実施形態では、ブースタ負圧の変化量をブレーキ補助力の低下履歴として算出しているが、所定期間におけるブースタ負圧の総低下量を、ブレーキ補助力の低下履歴として算出してもよい。例えば、図2(c)に示すブースタ負圧の例において、t2時点からt3時点までの期間におけるブースタ負圧の積算値を、前記総低下量として算出すればよい。
【0067】
・上述したブースタ負圧、ブレーキ油圧、ブレーキペダル踏力、ブレーキペダル踏込量、制動力等の変化の推移波形を、ブレーキ補助力の低下履歴として算出し、この推移波形に基づきポンピング操作の有無を判定してアイドルストップ禁止の是非を判定してもよい。
【符号の説明】
【0068】
20a…油圧センサ、30…ブースタ装置、30a…負圧センサ、Pave…移動平均値、Δpave…ブースタ負圧の低下量(ブレーキ補助力が低下していく履歴)、S15…ブレーキ用再始動手段、S23…アイドルストップ禁止判定手段、TH1…所定の閾値。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの吸気負圧をブースタ負圧として導入し、運転者によるブレーキペダル踏力を前記ブースタ負圧で補助するブースタ装置と、
車速がゼロになるのを待たずして前記エンジンの自動停止を許可させるアイドルストップシステムと、
を備えた車両に適用され、
前記エンジンの自動停止時において、前記ブースタ負圧が所定の閾値未満になった場合に、前記エンジンを自動再始動させて前記ブースタ負圧によるブレーキ補助力を回復させるブレーキ用再始動手段と、
前記エンジンの運転時に前記ブレーキ補助力が低下していく履歴に基づき、前記エンジンの自動停止禁止の是非を判定するアイドルストップ禁止判定手段と、
を備えることを特徴とするエンジン制御装置。
【請求項2】
前記アイドルストップ禁止判定手段は、前記ブレーキ補助力が低下していく履歴に加え、その時の車速に基づき自動停止禁止の是非を判定することを特徴とする請求項1に記載のエンジン制御装置。
【請求項3】
前記ブースタ負圧を検出する負圧センサを備え、
前記アイドルストップ禁止判定手段は、前記負圧センサの検出値から算出されるブースタ負圧の低下速度又は所定期間でのブースタ負圧の総低下量を、前記ブレーキ補助力の低下履歴として算出することを特徴とする請求項1又は2に記載のエンジン制御装置。
【請求項4】
ブレーキオイルの圧力を検出する油圧センサを備え、
前記アイドルストップ禁止判定手段は、前記油圧センサの検出値から算出される圧力の低下速度又は所定期間での圧力の総低下量を、前記ブレーキ補助力の低下履歴として算出することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のエンジン制御装置。
【請求項5】
前記検出値の移動平均値から前記低下速度を算出することを特徴とする請求項3又は4に記載のエンジン制御装置。
【請求項6】
前記アイドルストップ禁止判定手段により前記エンジンの自動停止を禁止すると判定した場合、その禁止判定の後、前記ブレーキ補助力が上昇して所定値に達するまでの期間は自動停止の禁止を継続させることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載のエンジン制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−82789(P2012−82789A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−231273(P2010−231273)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】