説明

タイヤ加硫モールドの洗浄方法および装置

【課題】タイヤ加硫モールド12の型付け面13に付着している汚れを効果的に除去する。
【解決手段】タイヤ加硫モールド12の型付け面13に 100度C以下の湿り飽和蒸気を接触させて汚れを膨潤させているが、このとき、タイヤ加硫モールド12が、カーボンブラックのみからなる充填材、または、少なくともシリカからなる充填材が配合されているゴム組成物を用いた未加硫タイヤを加硫するモールドであると、前者では汚れが比較的膨潤し易いため、型付け面13に湿り飽和蒸気を 100秒以上接触させ、後者では比較的膨潤し難いため、 240秒以上接触させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、タイヤ加硫モールドに付着した汚れを洗浄する洗浄方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のタイヤ加硫モールドの洗浄方法・装置としては、例えば以下の特許文献1に記載されているようなものが知られている。
【特許文献1】特表2000−516861号公報
【0003】
このものは、加熱位置におけるタイヤ加硫モールドにスチームを供給して該タイヤ加硫モールドをタイヤの硬化温度近くである約 177度Cに加熱する加熱手段と、除去位置におけるタイヤ加硫モールドの型付け面に対してドライアイスのペレットを噴射し、前記型付け面に繰り返し加硫による付着した汚れを除去する除去手段と、タイヤ加硫モールドを加熱位置から除去位置まで搬送する搬送コンベアとを備え、加熱手段により加熱された型付け面に対してドライアイスのペレットを噴射することで汚れを除去するようにしたものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような従来のタイヤ加硫モールドの洗浄方法・装置にあっては、ドライアイスによる洗浄に先立って汚れの除去を容易にするため、スチームによりタイヤ加硫モールドを加熱するようにしているが、この加熱温度が中途半端な温度であるため、タイヤ加硫モールドの汚れの除去が不十分となってしまうという課題があった。
【0005】
この発明は、タイヤ加硫モールドの型付け面に付着した汚れを効果的に除去するすることができるタイヤ加硫モールドの洗浄方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、第1に、タイヤ加硫モールドの型付け面に 100度C以下の湿り飽和蒸気を供給して接触させ、該型付け面に付着している汚れを膨潤させる工程と、前記型付け面に対して洗浄体のペレットを噴射して膨潤した汚れを除去する工程とを備えたタイヤ加硫モールドの洗浄方法であって、前記タイヤ加硫モールドがカーボンブラックのみからなる充填材が配合されているゴム組成物を用いた未加硫タイヤを加硫するモールドであるとき、前記型付け面に湿り飽和蒸気を 100〜 300秒の間だけ接触させるようにしたタイヤ加硫モールドの洗浄方法により、達成することができ、
【0007】
第2に、タイヤ加硫モールドの型付け面に 100度C以下の湿り飽和蒸気を供給して接触させ、該型付け面に付着している汚れを膨潤させる工程と、前記型付け面に対して洗浄体のペレットを噴射して膨潤した汚れを除去する工程とを備えたタイヤ加硫モールドの洗浄方法であって、前記タイヤ加硫モールドが少なくともシリカからなる充填材が配合されているゴム組成物を用いた未加硫タイヤを加硫するモールドであるとき、前記型付け面に湿り飽和蒸気を 240〜 600秒の間だけ接触させるようにしたタイヤ加硫モールドの洗浄方法により、達成するとができ、
【0008】
第3に、膨潤位置におけるタイヤ加硫モールドの型付け面に対し湿り飽和蒸気を供給して接触させ、該型付け面に付着している汚れを膨潤させる膨潤手段と、除去位置におけるタイヤ加硫モールドの型付け面に対して洗浄体のペレットを噴射し、前述の膨潤した汚れを除去する除去手段と、タイヤ加硫モールドを膨潤位置から除去位置まで搬送する搬送手段とを備えたタイヤ加硫モールドの洗浄装置であって、前記タイヤ加硫モールドがカーボンブラックのみからなる充填材が配合されているゴム組成物を用いた未加硫タイヤを加硫するモールドであるとき、前記型付け面に湿り飽和蒸気を 100〜 300秒の間だけ接触させるようにしたタイヤ加硫モールドの洗浄装置により、達成することができ、
【0009】
第4に、膨潤位置におけるタイヤ加硫モールドの型付け面に対し湿り飽和蒸気を供給して接触させ、該型付け面に付着している汚れを膨潤させる膨潤手段と、除去位置におけるタイヤ加硫モールドの型付け面に対して洗浄体のペレットを噴射し、前述の膨潤した汚れを除去する除去手段と、タイヤ加硫モールドを膨潤位置から除去位置まで搬送する搬送手段とを備えたタイヤ加硫モールドの洗浄装置であって、前記タイヤ加硫モールドが少なくともシリカからなる充填材が配合されているゴム組成物を用いた未加硫タイヤを加硫するモールドであるとき、前記型付け面に湿り飽和蒸気を 240〜 600秒の間だけ接触させるようにしたタイヤ加硫モールドの洗浄装置により、達成することができる。
【発明の効果】
【0010】
請求項1、5に係る発明においては、まず、タイヤ加硫モールドの型付け面に 100度C以下の湿り飽和蒸気を膨潤手段により供給して接触させ、該型付け面に付着している汚れを前記湿り飽和蒸気により膨潤させている。このとき、タイヤ加硫モールドがカーボンブラックのみからなる充填材が配合されているゴム組成物を用いた未加硫タイヤを加硫するモールドであると、汚れが比較的膨潤し易いため、型付け面に湿り飽和蒸気を 100秒以上接触させれば、汚れを効果的に膨潤させることができる。
【0011】
但し、 300秒を超えて湿り飽和蒸気を接触させても、膨潤効果が飽和し、作業能率が低下するとともに、エネルギーの浪費となるため、湿り飽和蒸気の接触は 300秒以下とする。その後、前記タイヤ加硫モールドを搬送手段により膨潤位置から除去位置まで搬送した後、除去手段により洗浄体のペレットを型付け面に噴射するが、このとき、汚れは前述のように湿り飽和蒸気により膨潤されているので、該汚れは容易かつ効果的に除去される。
【0012】
また、請求項2、6に係る発明においても前述と同様に、型付け面に湿り飽和蒸気を供給して接触させ、汚れを膨潤させるが、このとき、タイヤ加硫モールドが少なくともシリカからなる充填材が配合されているゴム組成物を用いた未加硫タイヤを加硫するモールドであると、タイヤ加硫モールドの型付け面とゴム組成分との間の化学的結合が強いので、型付け面に付着している汚れが比較的膨潤し難く、このため、汚れを効果的に膨潤させるには、型付け面に湿り飽和蒸気を 240秒以上接触させる必要がある。
【0013】
但し、 600秒を超えて湿り飽和蒸気を接触させても、膨潤効果が飽和し、作業能率が低下するとともに、エネルギーの浪費となるため、湿り飽和蒸気の接触は 600秒以下とする。その後、前述と同様にタイヤ加硫モールドを膨潤位置から除去位置まで搬送した後、洗浄体のペレットを型付け面に噴射すると、汚れは膨潤されているので、容易かつ効果的に除去される。
【0014】
また、請求項3に記載のように構成すれば、湿り飽和蒸気を膨潤に適する温度に維持しながら、湿り飽和蒸気の供給口がタイヤ加硫モールドの型付け面、例えば主骨、サイプブレード等に接触する事態を防止することができる。さらに、請求項4に記載のように構成すれば、タイヤ加硫モールドの摩耗を防止しながら、洗浄の残留物を皆無とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明の実施形態1を図面に基づいて説明する。
図1、2、3、4において、11はタイヤ加硫モールド12、例えば矩形をしたセクターセグメントの型付け面13を洗浄する洗浄装置であり、このタイヤ加硫モールド12は周方向に複数個並べられることで環状を呈するセクターモールドを構成するとともに、タイヤのトレッドを主に型付けする。そして、前述のようなタイヤ加硫モールド12の型付け面13を洗浄装置11において洗浄する際、該タイヤ加硫モールド12は把持体14によって外側から把持されている。
【0016】
前記把持体14は、前後方向に延びる一対のL形部材17と、これらL形部材17の前後端同士を連結する一対の連結部材18およびねじ軸19を有し、これらL形部材17、連結部材18、ねじ軸19により囲まれた矩形空間には前記タイヤ加硫モールド12が収納される。また、これらねじ軸19にはL形部材17に平行に延びる可動部材20が摺動可能に係合している。
【0017】
23は前記ねじ軸19に嵌合された一対の早締めナットであり、一側のL形部材17と前記可動部材20との間にタイヤ加硫モールド12を配置した後、これら早締めナット23をねじ込むと、該タイヤ加硫モールド12は一側のL形部材17と可動部材20とにより挟持されて把持される。前述したL形部材17、連結部材18、ねじ軸19、可動部材20、早締めナット23は全体として、タイヤ加硫モールド12を外側から把持する前記把持体14を構成し、また、前記タイヤ加硫モールド12および該加硫モールド12を把持している把持体14は全体として、モールド組立体24を構成する。
【0018】
図1、2、5に示すように、前記洗浄装置11は床面27上に設置された後側フレーム28を有し、この後側フレーム28には前後方向に延びる支持機構29が支持され、この支持機構29上が膨潤位置Aとなる。前記支持機構29は、後側フレーム28に回転可能に支持された2対のスプロケット30と、前後のスプロケット30間に掛け渡された2本のチェーン31と、前記スプロケット30を駆動回転する図示していないモータとから構成されている。そして、前記膨潤位置Aに図示していない搬入手段によりモールド組立体24が搬入されて支持機構29上に載置されると、支持機構29のチェーン31は該モールド組立体24(L形部材17)を下方から支持する。
【0019】
34は後側フレーム28の上面に固定された上部フレームであり、この上部フレーム34には膨潤位置Aの直上において上下方向に延びるシリンダ35が取り付けられている。このシリンダ35のピストンロッド36の先端(下端)には下方が開口したカバー37が連結されており、この結果、前記シリンダ35のピストンロッド36が突出すると、前記カバー37は図5に仮想線で示すように、後側フレーム28に当接するまで下降するが、このとき、該カバー37は支持機構29および膨潤位置Aのモールド組立体24を外側から覆う。
【0020】
39はカバー37に固定された複数本のガイドロッドであり、これらのガイドロッド39は上部フレーム34を摺動可能に貫通している。40は前記カバー37内でその上端部に取り付けられた蒸気配管であり、この蒸気配管40には図示していない蒸気源が接続されている。そして、膨潤位置Aのモールド組立体24が下降限のカバー37によって覆われているとき、蒸気源から蒸気配管40に蒸気が供給されると、該蒸気は蒸気配管40の供給口から噴出し、カバー37内を蒸気で充満させる。
【0021】
ここで、前記カバー37内に充満する蒸気としては 100度C以下の湿り飽和蒸気が用いられる。そして、このような温度の湿り飽和蒸気は、湿り度が大であるため、膨潤位置Aのタイヤ加硫モールド12(型付け面13)に接触すると、該型付け面13に付着している汚れを膨潤させることができ、しかも、前述の湿り飽和蒸気はカバー37により周囲から遮断されているので、殆ど周囲に散逸することはなく、効率的に汚れを膨潤させることができる。なお、95度C未満の湿り飽和蒸気は製造が困難となるので、一般には、95度C以上のものが用いられる。
【0022】
前記膨潤位置Aの直下には補助プレート41が設置され、この補助プレート41には前記後側フレーム28に取り付けられたシリンダ42のピストンロッド43の先端(上端)が連結されている。44は補助プレート41に固定された複数のガイドロッドであり、これらのガイドロッド44は後側フレーム28に摺動可能に挿入されている。この結果、前記シリンダ42が作動すると、補助プレート41は膨潤位置Aのモールド組立体24に接近離隔する。前述したシリンダ42、ガイドロッド44は全体として、補助プレート41と後側フレーム28との間に設けられ、補助プレート41を昇降させる昇降機構45を構成する。
【0023】
また、前記補助プレート41内に形成された蒸気通路(図示していない)には前記蒸気源が接続され、この結果、この蒸気通路の供給口からもカバー37内に前記蒸気配管40と同時期に蒸気が補助的に供給される。前述した蒸気配管40、補助プレート41、蒸気源は全体として、カバー37内に 100度C以下の湿り飽和蒸気を供給することで、カバー37内の膨潤位置Aにおけるタイヤ加硫モールド12の型付け面13に湿り飽和蒸気を接触させ、該型付け面13に付着している汚れを膨潤させる膨潤手段46を構成する。
【0024】
50は前記後側フレーム28より前方の床面27上に設置された前側フレームであり、この前側フレーム50上には内部に洗浄空間が形成された洗浄ケース51が取り付けられ、この洗浄ケース51の前後壁には図示していない開閉可能な扉が設置されている。また、前記洗浄ケース51には前後方向に延びる移送機構52の長手方向中央部が収納されている。
【0025】
前記移送機構52は前側フレーム50に回転可能に支持された2対のスプロケット53と、前後のスプロケット53間に掛け渡された2本のチェーン54と、前記スプロケット53を駆動回転する図示していないモータとから構成されている。そして、前記支持機構29、移送機構52からなる搬送手段55が作動してチェーン31、54が前方に同期走行すると、膨潤位置Aのモールド組立体24は前方に搬送されて支持機構29から移送機構52に受け渡され、その後、洗浄ケース51内をの去位置Bまで搬送される。
【0026】
前記洗浄ケース51内にはピンプレート57が設置され、このピンプレート57には把持体14(L形部材17)に形成されたピン孔58に下側から挿入される複数の位置決めピン59が固定されている。また、前記ピンプレート57と前側フレーム50との間には前述した昇降機構45と同様の昇降機構62が設けられており、この昇降機構62が作動してピンプレート57が上昇すると、位置決めピン59はモールド組立体24のピン孔58に挿入され、モールド組立体24を除去位置Bに位置決め固定する。
【0027】
65は前記洗浄ケース51の頂壁上面に敷設された一対のガイドレールであり、これらのガイドレール65にはスライドプレート66が摺動可能に支持されている。67は前記スライドプレート66の下面に固定された支柱であり、この支柱67はガイドレール65間の前記頂壁に形成されスリット68を貫通しながら下方に向かって延びている。
【0028】
前記支柱67の下端部には2本の噴射ノズル69が回動可能に支持され、これらの噴射ノズル69と洗浄体、ここではドライアイス(凍結 CO2)のペレットを送出する図示していない洗浄体源とはホース71によって接続されている。そして、洗浄体源からホース71を通じて噴射ノズル69に洗浄体のペレットが供給されると、該洗浄体のペレットは噴射ノズル69の先端(下端)から除去位置Bのタイヤ加硫モールド12(型付け面13に)に向かって噴射される。
【0029】
74は洗浄ケース51に支持されたねじ軸であり、このねじ軸74は前記スライドプレート66に固定されたねじブロック75にねじ込まれている。76は洗浄ケース51に取り付けられたモータであり、このモータ76の回転はベルト77を介して前記ねじ軸74に伝達される。この結果、前記モータ76が作動してねじ軸74が回転すると、スライドプレート66、支柱67、噴射ノズル69は一体となってガイドレール65に沿って移動する。
【0030】
80は前記スライドプレート66に取り付けられた首振り機構であり、この首振り機構80は前記噴射ノズル69を垂直面内で首振りさせることができる。そして、前述のようにスライドプレート66、噴射ノズル69がガイドレール65に沿って移動しているとき、首振り機構80によって噴射ノズル69を首振りさせれば、噴射ノズル69から噴射された洗浄体のペレットは型付け面13の全面にほぼ均一に吹き付けられる。
【0031】
前述したスライドプレート66、支柱67、噴射ノズル69、ホース71、洗浄体源は全体として、除去位置Bにおけるタイヤ加硫モールド12の型付け面13に対して洗浄体のペレットを噴射することで、型付け面13の膨潤した汚れを除去する除去手段81を構成する。そして、前述のように洗浄体をドライアイスから構成すれば、該洗浄体が金属粉、ガラスビーズ等から構成されている場合に比較し、硬度が低く、かつ、洗浄後固体から気体に昇華するため、タイヤ加硫モールド12の摩耗を防止しながら、洗浄の残留物を皆無とすることができる。
【0032】
ここで、タイヤ加硫モールド12がカーボンブラックのみからなる充填材が配合されているゴム組成物を用いた未加硫タイヤを加硫するモールドであるときには、汚れが比較的膨潤し易いため、型付け面13に湿り飽和蒸気を 100秒以上接触させれば、汚れを効果的に膨潤させることができ、これにより、洗浄体によって汚れを効果的に除去することができる。
【0033】
但し、型付け面13に 300秒を超えて湿り飽和蒸気を接触させても、膨潤効果が飽和し、作業能率が低下するとともに、エネルギーの浪費となるため、前述の湿り飽和蒸気の接触は 300秒以下とする。ここで、前述した型付け面13に対する湿り飽和蒸気の接触を 150秒以上とすれば、汚れを確実に膨潤させることができるので、接触時間は 150秒以上とすることが好ましい。ここで、前述のカーボンブラックはタイヤの耐摩耗性向上等のために配合されており、例えば、SRF、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAF等が用いられる。
【0034】
一方、近年、転がり抵抗の軽減、湿潤制動性能の向上のため、タイヤを構成するゴム組成物に充填材としてシリカ、例えば湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウムを配合したものが提案されているが、前記タイヤ加硫モールド12が、少なくとも前述のようなシリカからなる充填材が配合されているゴム組成物を用いた未加硫タイヤを加硫するモールドであると、タイヤ加硫モールドの型付け面とゴム組成分との間の化学的結合が強いので、湿り飽和蒸気による汚れの膨潤が比較的難くなる。
【0035】
このため、湿り飽和蒸気に接触させて前述のようなタイヤ加硫モールド12の型付け面13における汚れを効果的に膨潤させるには、該型付け面13に湿り飽和蒸気を 240秒以上接触させる必要がある。但し、型付け面13に 600秒を超えて湿り飽和蒸気を接触させても、膨潤効果が飽和し、作業能率が低下するとともに、エネルギーの浪費となるため、湿り飽和蒸気の接触は 600秒以下とする。ここで、前述した型付け面13に対する湿り飽和蒸気の接触を 300秒以上とすれば、汚れを確実に膨潤させることができるので、接触時間は 300秒以上とすることが好ましい。なお、前述したシリカ以外の充填材としては、カーボンブラック、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウムを挙げることができる。
【0036】
また、前述のように蒸気配管40の供給口から湿り飽和蒸気を噴出させて型付け面13に接触させるが、このとき、前記供給口からタイヤ加硫モールド12の型付け面13までの距離は10〜 150mmの範囲内とすることが好ましい。その理由は、前記距離が 150mmを超えると、拡散による温度降下により湿り飽和蒸気が汚れの膨潤に適する温度より低くなってしまうことがあり、一方、10mm未満であると、蒸気配管40(供給口)がタイヤ加硫モールド12の型付け面13、例えば主骨、サイプブレード等に接触することがあるが、前述の範囲内であると、湿り飽和蒸気を膨潤に適する温度に維持しながら、湿り飽和蒸気の供給口が型付け面13に接触する事態を防止することができるからである。なお、前述した供給口から型付け面13までの距離は小であるほど、膨潤効果が高くなるため、30mm以下がさらに好ましく、20mm以下がさらに望ましい。
【0037】
次に、前記実施形態1の作用について説明する。
まず、モールド組立体24を搬入手段により搬入位置Aまで搬入して支持機構29上に載置した後、シリンダ35のピストンロッド36を突出させてカバー37を後側フレーム28に当接するまで下降させ、膨潤位置Aのモールド組立体24を該カバー37によって外側から覆うとともに、シリンダ42を作動して補助プレート41を膨潤位置Aのモールド組立体24に接近させる。
【0038】
次に、蒸気源から所定時間だけ蒸気配管40、補助プレート41に湿り飽和蒸気を供給して該蒸気配管40、補助プレート41の供給口から噴出させ、膨潤位置Aのモールド組立体24(タイヤ加硫モールド12の型付け面13)に接触させる。ここで、タイヤ加硫モールド12がカーボンブラックのみからなる充填材が配合されているゴム組成物を用いた未加硫タイヤを加硫するモールドであるときには、前述の所定時間は 100秒から 300秒までの間の適切なある時間であり、タイヤ加硫モールド12が少なくともシリカからなる充填材が配合されているゴム組成物を用いた未加硫タイヤを加硫するモールドである場合には、前述の所定時間は 240秒から 600秒までの間の適切なある時間である。
【0039】
このようにカバー37によって散逸が防止された湿り飽和蒸気を型付け面13に所定時間だけ接触させると、型付け面13に付着している汚れは該湿り飽和蒸気により効果的に膨潤され、後工程での洗浄体による汚れの除去が容易となる。次に、湿り飽和蒸気の供給を停止する一方、シリンダ35のピストンロッド36を引っ込ませてカバー37を初期位置まで上昇させるとともに、シリンダ42を作動して補助プレート41を初期位置まで下降させる。
【0040】
次に、支持機構29、移送機構52を同期作動させると、膨潤位置Aのモールド組立体24は支持機構29から移送機構52に受け渡され、その後、除去位置Bまで搬送される。次に、昇降機構62が作動してピンプレート57が上昇し、位置決めピン59がピン孔58に挿入されると、モールド組立体24は除去位置Bに確実かつ強固に位置決めされ、洗浄時においてモールド組立体24が除去位置Bからずれる事態が防止される。
【0041】
前述のような膨潤作業の直後に、洗浄体源からホース71を通じて噴射ノズル69にペレット状の洗浄体(ドライアイス)を供給し、該洗浄体を噴射ノズル69の先端から除去位置Bのタイヤ加硫モールド12(型付け面13)に向かって噴射する。このとき、予め入力されたタイヤ加硫モールド12の寸法データ等に基づき、スライドプレート66、噴射ノズル69がモータ76によりガイドレール65に沿って移動するとともに、噴射ノズル69が首振り機構80によって首振りされる。
【0042】
これにより、型付け面13の全面に洗浄体がほぼ均一に吹き付けられ、型付け面13全面から膨潤した汚れが容易かつ確実に除去される。このようにして型付け面13に付着していた汚れが除去位置Bにおいて除去されると、移送機構52が作動してチェーン54が前方に向かって走行し、除去位置Bに位置していたモールド組立体24(タイヤ加硫モールド12)は次工程に搬出される。
【0043】
なお、前述の実施形態においては、タイヤ加硫モールド12がセクターモールドを構成するセクターセグメントであったが、この発明においては、タイヤ加硫モールドは上または下サイドモールドであってもよく、あるいは、2分割モールドの上または下モールドであってもよい。また、前述の洗浄体としてドライアイスを用いたが、この発明においては、金属粉、ガラスビーズ、砂等を用いてもよい。
【0044】
さらに、前述の実施形態においては、噴射ノズル69を首振りさせることで型付け面13における洗浄位置を前後方向に変化させたが、この発明においては、タイヤ加硫モールドを移動手段により前後方向に移動させたり、あるいは、噴射ノズルを前後方向に移動させることで洗浄位置を前後方向に変化させるようにしてもよい。また、前述の実施形態においては、モールド組立体24の搬送時、膨潤位置Aを覆うカバー37を上昇退避させるようにしたが、この発明においては、カバーを後側フレームに固定するとともに、開閉可能な扉を設け、前記扉を通じてモールド組立体をカバーに搬入出するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0045】
この発明は、タイヤ加硫モールドに付着した汚れを洗浄する産業分野に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】この発明の実施形態1を示す一部が破断された正面図である。
【図2】その平面図である。
【図3】モールド組立体の平面図である。
【図4】図3のI−I矢視図である。
【図5】図2のII−II矢視断面図である。
【符号の説明】
【0047】
11…洗浄装置 12…タイヤ加硫モールド
13…型付け面 46…膨潤手段
55…搬送手段 81…除去手段
A…膨潤位置 B…除去位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ加硫モールドの型付け面に 100度C以下の湿り飽和蒸気を供給して接触させ、該型付け面に付着している汚れを膨潤させる工程と、前記型付け面に対して洗浄体のペレットを噴射して膨潤した汚れを除去する工程とを備えたタイヤ加硫モールドの洗浄方法であって、前記タイヤ加硫モールドがカーボンブラックのみからなる充填材が配合されているゴム組成物を用いた未加硫タイヤを加硫するモールドであるとき、前記型付け面に湿り飽和蒸気を 100〜 300秒の間だけ接触させるようにしたことを特徴とするタイヤ加硫モールドの洗浄方法。
【請求項2】
タイヤ加硫モールドの型付け面に 100度C以下の湿り飽和蒸気を供給して接触させ、該型付け面に付着している汚れを膨潤させる工程と、前記型付け面に対して洗浄体のペレットを噴射して膨潤した汚れを除去する工程とを備えたタイヤ加硫モールドの洗浄方法であって、前記タイヤ加硫モールドが少なくともシリカからなる充填材が配合されているゴム組成物を用いた未加硫タイヤを加硫するモールドであるとき、前記型付け面に湿り飽和蒸気を 240〜 600秒の間だけ接触させるようにしたことを特徴とするタイヤ加硫モールドの洗浄方法。
【請求項3】
前記湿り飽和蒸気の供給口からタイヤ加硫モールドの型付け面までの距離を10〜 150mmの範囲内とした請求項1または2記載のタイヤ加硫モールドの洗浄方法。
【請求項4】
前記洗浄体はドライアイスである請求項1〜3のいずれかに記載のタイヤ加硫モールドの洗浄方法。
【請求項5】
膨潤位置におけるタイヤ加硫モールドの型付け面に対し湿り飽和蒸気を供給して接触させ、該型付け面に付着している汚れを膨潤させる膨潤手段と、除去位置におけるタイヤ加硫モールドの型付け面に対して洗浄体のペレットを噴射し、前述の膨潤した汚れを除去する除去手段と、タイヤ加硫モールドを膨潤位置から除去位置まで搬送する搬送手段とを備えたタイヤ加硫モールドの洗浄装置であって、前記タイヤ加硫モールドがカーボンブラックのみからなる充填材が配合されているゴム組成物を用いた未加硫タイヤを加硫するモールドであるとき、前記型付け面に湿り飽和蒸気を 100〜 300秒の間だけ接触させるようにしたことを特徴とするタイヤ加硫モールドの洗浄装置。
【請求項6】
膨潤位置におけるタイヤ加硫モールドの型付け面に対し湿り飽和蒸気を供給して接触させ、該型付け面に付着している汚れを膨潤させる膨潤手段と、除去位置におけるタイヤ加硫モールドの型付け面に対して洗浄体のペレットを噴射し、前述の膨潤した汚れを除去する除去手段と、タイヤ加硫モールドを膨潤位置から除去位置まで搬送する搬送手段とを備えたタイヤ加硫モールドの洗浄装置であって、前記タイヤ加硫モールドが少なくともシリカからなる充填材が配合されているゴム組成物を用いた未加硫タイヤを加硫するモールドであるとき、前記型付け面に湿り飽和蒸気を 240〜 600秒の間だけ接触させるようにしたことを特徴とするタイヤ加硫モールドの洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−114480(P2008−114480A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−300075(P2006−300075)
【出願日】平成18年11月6日(2006.11.6)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】