説明

ドラム式洗濯機

【課題】記憶した位相差情報に基づき、ブレーキパターンの位相指令を補正することで、組み立て時のばらつきに影響されることなく、最適なブレーキ制御を維持し、インバータ回路の故障や高電圧異常検知によるオートオフを防ぐことができるドラム式洗濯機を実現する。
【解決手段】交流電源1に接続した整流回路3の直流電力をインバータ回路4により交流電力に変換してモータ5を駆動し、モータ5のロータ位置をロータ位置検出手段6により検出し、測定したモータ5の誘起電圧とロータ位置検出手段6からの出力信号との位相差を記憶手段15に記憶する。制御手段10は、記憶した位相差情報からブレーキパターンの位相指令を補正し、ブレーキ制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ回路によりモータを駆動して洗濯兼脱水槽を回転させて衣類等を洗濯するドラム式洗濯機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のドラム式洗濯機において、洗濯兼脱水槽を各行程の必要性に応じて適切に回転させるために、それを回転させるモータをインバータ回路により回転制御することが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図7は、特許文献1に記載された従来の洗濯機を示すものである。図7に示すように、交流電源1と、交流電源に接続した整流回路3と、整流回路の直流電力を交流電力に変換するインバータ回路4と、インバータ回路により駆動されるモータ5と、モータ5のロータ位置を検出するロータ位置検出手段6と、モータ5に流れる電流に対応した電流値を検知する電流検知手段14と、インバータ回路を制御する制御手段10から構成されている。
【0004】
上記構成より、モータ5の制動運転時(ブレーキ制御時)は、ロータ位置検出手段6からの出力信号にもとづき、設定された印加電圧と位相指令(誘起電圧に対する印加電圧の位相)によりブレーキ制御(誘起電圧に対して逆位相となる印加電圧を加えることで、ブレーキ力を制御する)を行っている。また、電流検知手段14より検知した電流値が所定の電流値以上の場合、制動運転を中止するようにしている。
【特許文献1】特開2003−305294号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来の構成では、ロータ位置検出手段、例えば、ホールICなどの素子の取り付け位置のばらつきやホールICユニットをモータに取り付ける時のばらつきなどで、誘起電圧と誘起電圧に対するホールICの出力信号との位相差関係がばらつく。印加電圧はホールICの出力信号に基づいて制御しているので、誘起電圧と誘起電圧に対する印加電圧との位相差関係がばらつくことなり、ブレーキ制御時の制御手段からの位相指令に対して、実際の位相にはズレが発生することになる。その結果、誘起電圧と印加電圧のバランスが崩れ、回生電力によりインバータ回路の直流電圧が異常上昇し、インバータ回路が故障してしまう、あるいは、高電圧異常検知により運転途中にオートオフしてしまう可能性があるという課題を有していた。
【0006】
また、電流検知手段により検知した電流値が所定の電流値以上の場合、ブレーキ制御を中止するようにしているので、ブレーキ制御中止後は惰性回転によりモータの回転が止まるのを待たなければならない。したがって、モータの回転が止まるまでに非常に長い時間がかかる。つまり、中間脱水毎や本脱水後のモータの回転停止に時間がかかると、洗濯運転の終了時間にも影響が出て、使い勝手が低下する可能性があるという課題を有していた。
【0007】
本発明は上記従来の課題を解決するもので、工場ラインなどであらかじめ測定したモータの誘起電圧とロータ位置検出手段からの出力信号との位相差を記憶する記憶手段を有し、記憶した位相差情報からブレーキパターンの位相指令を補正することで、組み立て時のばらつきに影響されることなく、最適なブレーキ制御を維持し、インバータ回路の直流電圧が異常上昇し、インバータ回路が故障してしまう、あるいは、高電圧異常検知により運
転途中にオートオフしてしまうのを防ぐことができるドラム式洗濯機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記従来の課題を解決するために、本発明のドラム式洗濯機は、交流電源と、前記交流電源に接続した整流回路と、前記整流回路の直流電力を交流電力に変換するインバータ回路と、前記インバータ回路により駆動されるモータと、前記モータのロータ位置を検出するロータ位置検出手段と、前記インバータ回路を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、測定したモータの誘起電圧とロータ位置検出手段からの出力信号との位相差を記憶する記憶手段を有し、前記記憶手段に記憶した位相差情報に基づいて前記インバータ回路への位相指令を補正するようにしている。
【0009】
これによって、組み立て時のばらつきに影響されることなく、最適なブレーキ制御を維持し、インバータ回路の直流電圧が異常上昇し、インバータ回路が故障する、あるいは、高電圧異常検知により運転途中にオートオフするのを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明のドラム式洗濯機は、測定したモータの誘起電圧とロータ位置検出手段からの出力信号との位相差を記憶手段に記憶し、記憶した位相差情報に基づいてインバータ回路への位相指令を補正することで、組み立て時のばらつきに影響されることなく、最適なブレーキ制御を維持し、インバータ回路の直流電圧が異常上昇し、インバータ回路が故障する、あるいは、高電圧異常検知により運転途中にオートオフするのを防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
第1の発明は、交流電源と、前記交流電源に接続した整流回路と、前記整流回路の直流電力を交流電力に変換するインバータ回路と、前記インバータ回路により駆動されるモータと、前記モータのロータ位置を検出するロータ位置検出手段と、前記インバータ回路を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、測定したモータの誘起電圧とロータ位置検出手段からの出力信号との位相差を記憶する記憶手段を有し、前記記憶手段に記憶した位相差情報に基づいて前記インバータ回路への位相指令を補正することで、組み立て時のばらつきに影響されることなく、最適なブレーキ制御を維持し、インバータ回路の直流電圧が異常上昇し、インバータ回路が故障する、あるいは、高電圧異常検知により運転途中にオートオフするのを防ぐことができる。
【0012】
第2の発明は、上記第1の発明において、モータからの回生電力を検知する電圧検知手段を備え、制御手段は、前記モータをブレーキ制御するための位相指令を含む複数のブレーキパターンを有し、前記電圧検知手段により検知した電圧値に応じて、前記複数のブレーキパターンを切り換えるようにしたことで、モータからの回生電力に応じて、最適なブレーキパターンを選択して各行程の必要性に応じた最適なブレーキ制御が行え、洗濯運転の終了時間も低減し、使い勝手の低下を防止することができる。
【0013】
第3の発明は、上記第2の発明において、電圧検知手段により検知した電圧値が所定の電圧値以上の場合、ブレーキパターンを切り換えるようにしたことで、モータからの回生電力が設定値以下の時は通常のブレーキパターンで各行程の必要性に応じた最適なブレーキ制御が行えるとともに、回生電力が設定値以上となった時には、高電圧検知異常による運転途中のオートオフを防ぎ、また、ブレーキ時間も安定するので、洗濯運転の終了時間への影響も低減し、使い勝手の低下を防止することができる。
【0014】
第4の発明は、上記第3の発明において、切り換えた後のブレーキパターンによるブレーキ制御をモータが停止するまで継続することで、ブレーキ時間をさらに安定させ、洗濯
運転の終了時間への影響も低減し、より使い勝手の良いドラム式洗濯機を実現することができる。
【0015】
第5の発明は、上記第3または第4の発明において、ブレーキパターンの切り換えは、モータに対するブレーキ力が弱くなるように切り換えるようにしたことで、インバータ回路への悪影響の元となる回生電力の発生を抑制しつつ、オートオフより格段に短い時間でモータを停止させることができ、インバータ回路を保護できるとともに、ブレーキ時間をさらに安定させ、洗濯運転の終了時間への影響も低減し、より使い勝手の良いドラム式洗濯機を実現することができる。
【0016】
第6の発明は、上記第2〜第5の発明において、ブレーキパターンは、モータの回転数と、モータへの印加電圧と、モータをブレーキ制御するための位相指令との関係について定めたことで、モータの回転数に応じてきめ細かく最適なブレーキ制御が行え、また、回生電力によるインバータ回路の直流電圧の異常上昇時のモータ停止に際しても最適なブレーキ制御が行えるので、より安全で使い勝手の良いドラム式洗濯機を実現することができる。
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なおこの実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0018】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1におけるドラム式洗濯機の一部ブロック化した回路図、図2は同ドラム式洗濯機の断面図、図3は同ドラム式洗濯機のモータ駆動時の要部波形図、図4は同ドラム式洗濯機のモータ制動時の要部波形図、図5は同ドラム式洗濯機の各回転数帯における印加電圧と位相指令のブレーキパターンテーブルを示す図である。
【0019】
図1に示すように、交流電源1は、ラインフィルター2を介して整流回路3に交流電力を加え、整流回路3により直流電力に変換する。整流回路3は倍電圧整流回路を構成し、交流電源1が正電圧のとき、全波整流ダイオード3aによりコンデンサ3bを充電し、交流電源1が負電圧のとき、コンデンサ3cを充電し、直列接続されたコンデンサ3b、3cの両端には倍電圧直流電圧が発生し、インバータ回路4に倍電圧直流電圧を加える。インバータ回路4は、6個のパワースイッチング半導体4a、4b、4c、4d、4e、4fと逆並列ダイオードよりなる3相フルブリッジインバータ回路により構成し、通常、パワートランジスタ(IGBTも同様)と逆並列ダイオードおよびその駆動回路と保護回路を内蔵したインテリジェントパワーモジュール(以下、IPMという)で構成している。
【0020】
インバータ回路4の出力端子にモータ5を接続している。モータ5は直流ブラシレスモータにより構成し、図2に示すように、洗濯兼脱水槽21を駆動し、回転子(図示せず)を構成する永久磁石と固定子(いずれも図示せず)との相対位置(回転子位置)をロータ位置検出手段6により検出する。ロータ位置検出手段6は、通常、3個のホールIC6a、6b、6cにより構成し、位置を検出する。
【0021】
制御回路7は、インバータ回路4、スイッチング手段8、リレー9を制御するもので、マイクロコンピュータにより構成した制御手段10と、制御手段10の出力信号によりインバータ回路4のIPMを制御してモータ5の回転駆動を制御するインバータ駆動回路11と、スイッチング手段8を制御するスイッチング手段駆動回路12と、リレー9を制御するリレー駆動回路13と、コンデンサ3b、3cの両端にかかる直流電圧をモニターし、モータ5のブレーキ時に、モータ5からの回生電力を検知する電圧検知手段17とで構成しており、制御手段10は、工場ラインなどでモータ5の誘起電圧とロータ位置検出手段6からの出力信号との位相差を測定する位相差検知手段16からの位相差情報を記憶す
る記憶手段15と、所定の回転数帯に区分けされ、各区間でそれぞれ印加電圧Gと位相指令αdを設定したブレーキパターンを有している。
【0022】
また、制御回路7は、スイッチング手段8を制御して給水弁18、排水弁19、蓋ロック装置20などの動作を制御し、洗い、すすぎ、脱水の一連の行程を制御する。給水弁18は、図2に示すように、洗濯兼脱水槽21の外側に設けた水受け槽22に水道水を供給するもので、蓋ロック装置20は、洗濯兼脱水槽21の衣類投入口を開閉自在に覆う蓋23の開閉を脱水運転中(高速回転中)に禁止するものであり、ソレノイドとレバーより構成している。排水弁19は、水受け槽22内の洗濯水を排水するものである。
【0023】
なお、洗濯兼脱水槽21は、水受け槽22内に回転自在に配設されており、洗濯兼脱水槽21の回転中心に略傾斜方向に回転軸(回転中心軸)24を設け、洗濯兼脱水槽21の軸心方向を正面側から背面側に向けて下向きに傾斜させて配設している。この回転軸24に、水受け槽22の背面に取り付けたモータ5を連結し、洗濯兼脱水槽21を正転、逆転方向に回転駆動する。水受け槽22は洗濯機本体25よりばね26とダンパー27により揺動可能に吊り下げ防振支持している。
【0024】
スイッチング手段8は、交流電源1のラインL1、L2間に接続して印加電圧を制御するもので、リレーまたは双方向性サイリスタなどで構成し、給水弁18、排水弁19、蓋ロック装置20をそれぞれ制御するものである。
【0025】
図3は、モータ5駆動時の各波形で、U相モータ電流Iuは、U相巻線誘起電圧Ecよりわずかに位相が進んでおり、モータ印加電圧VuはU相巻線誘起電圧Ecより30度ほど位相が進んでいる波形を示している。また、ロータ位置検出手段6の出力信号で、3つあるホールICうちの2番目のICの出力信号H2の立ち下りに同期(出力信号H2の立ち下りとモータ5への印加電圧の立ち下りゼロクロスとを同期)させて、モータへ印加電圧を加えていることを示している。
【0026】
図4は、ロータ位置検出手段6の出力信号を検出して、モータ5への印加電圧と位相指令を制御する制動運転時(ブレーキ制御時)の各波形を示し、誘起電圧Ecに対して逆位相の電流を流すことにより、モータ5にブレーキをかけるタイミングチャートを示す。
【0027】
モータ出力Pは、一般的に誘起電圧Ec、モータ電流I、誘起電圧Ecとモータ電流との位相差αとすると、P=Ec×I×cosαとなる。そこで、位相差αを90度以上に制御すると、負のトルクが発生し、すなわち制動(ブレーキ)運転となる。このように、モータ電流Iと位相差αを制御することで、ブレーキ力を制御することができる。
【0028】
しかし、モータ電流Iと位相差αを直接制御することは困難(ただし、ベクトル制御を行うことで可能にはなる)であるため、モータ5の回転数Nに応じた印加電圧Gと位相指令αd(誘起電圧に対する印加電圧の位相)に対するモータ電流Iと位相差αを実験的に求めて把握しておき、この印加電圧Gと位相指令αdによりブレーキ力を制御する。
【0029】
そして、インバータ回路4(IGBT)の定格電流、定格電圧を越えない範囲で、大きいブレーキ力を得るために、図5のブレーキパターン1に示すように、最適となるモータ5の所定の回転数Nに応じた印加電圧Gと位相指令αdを設定し、ブレーキ制御に用いる。例えば、N1〜N2:900〜600r/minにおいては、G1:225V、αd1:180度でブレーキ力を制御し、N2〜N3:600〜400r/minに回転数が落ちてきたら、G2:225V、αd2:180度でブレーキ力を制御し、N3〜N4:400〜100r/minに回転数が落ちてきたら、G3:55V、αd3:170度でブレーキ力を制御し、N4〜N5:100〜0r/minに回転数が落ちてきたら、G4:
20V、αd4:150度でブレーキ力を制御し、高速回転から短い時間でモータの回転を止めるという制御である。
【0030】
なお、区切る回転数帯Nについては図5の例に限定されるものではなく、区切りが多くても少なくても無くてもよい。また、所定の回転数帯Nの区切り方や印加電圧G、位相指令αdなどは機種ごとに最適となるように設定すればよい。
【0031】
この最適に設定したブレーキパターンを用いて、高速回転から短い時間でモータ5の回転を止めるようにブレーキ制御するわけであるが、ロータ位置検出手段6、例えば、ホールICなどの素子の取り付け位置のばらつきやホールICユニットをモータに取り付ける時のばらつきなどで、ロータ位置検出手段6からの出力信号がばらついてくると、図3および図4を用いて述べたように、ロータ位置検出手段6の出力信号に基づいて、モータ5への印加電圧を制御しているので、当然、誘起電圧と誘起電圧に対する印加電圧の位相関係がばらついてくる。つまり、ブレーキ制御時の位相指令αdに対してもずれが生じてくる。例えば、モータの誘起電圧とロータ位置検出手段6からの出力信号との間に、標準的な位置に対して5度の位相ずれがあるとしたら、位相指令αd:180度と指令をしていても、実際は誘起電圧に対して175度もしくは185度のタイミングで印加電圧を加えていることになり、回生電力が発生する可能性がある。
【0032】
そこで、工場ラインなどで位相差検知手段16により測定したモータ5の誘起電圧とロータ位置検出手段6からの出力信号との位相差情報を、記憶手段15に記憶しておき、この位相差情報に基づき、ブレーキ制御時に位相指令αdに対してプラスマイナスの補正をし、適正な位相指令となるようにする。
【0033】
なお、位相指令に対しての補正は、ブレーキ制御前にあらかじめブレーキパターンの定数に対して補正を行っておいてもよい。
【0034】
このように、測定したモータ5の誘起電圧とロータ位置検出手段6からの出力信号との位相差情報を、記憶手段15に記憶しておき、この位相差情報に基づき、位相指令を補正することによって、組み立て時のばらつきに影響されることなく、最適なブレーキ制御を維持し、インバータ回路の直流電圧が異常上昇し、インバータ回路が故障する、あるいは、高電圧異常検知により運転途中にオートオフするのを防ぐことができる。
【0035】
(実施の形態2)
本実施の形態では、図1に示す制御手段10は、所定の回転数帯Nごとに区分けされ、各区間でそれぞれ印加電圧Gと位相指令αdを設定したブレーキパターンを複数有し、モータ5からの回生電力を検知する電圧検知手段17により検知した電圧値に応じて、ブレーキパターンを切り換えるようにしている。より具体的には、電圧検知手段17により検知した電圧値が所定の電圧値以上の場合、ブレーキパターンを切り換えるようにしている。他の構成は上記実施の形態1と同じである。
【0036】
図6は本発明の実施の形態2におけるドラム式洗濯機の要部動作フローチャートであり、上記構成において、図6を参照しながら動作を説明する。ステップ300で脱水行程(高速回転)を開始し、ステップ301にて蓋ロック装置20を駆動して蓋23が脱水行程中(高速回転中)には開かないようにする。つぎに、ステップ302に進んでモータ5を起動する。モータ5が起動した後は、ステップ303に進んで正弦波駆動に切り換える。ステップ304より回転数制御を行う。脱水運転の場合、最終回転数を目標に、段階的に回転数を上げていく。ステップ305で所定時間(脱水時間、例えば20分)経過したか判定し、所定時間が経過するまで脱水運転を継続する。
【0037】
所定時間が経過して、脱水運転が終了した後は、モータ5の回転を停止させるためステップ306に進んで、図5のブレーキパターン1(インバータ回路4の定格電流、定格電圧を越えない範囲で、大きいブレーキ力が得られる、所定の回転数Nに応じた印加電圧Gと位相指令αdを設定しておく)に示すように実験的に求め設定したブレーキ制御を行う。また、位相指令αdにおいては、記憶手段15の位相差情報に基づいて補正を行う。ブレーキ制御中は、ステップ307において、電圧検知手段17によりモータからの回生電力を検知し、ステップ308において、回生電圧VBが所定の電圧値(例えば、350V)より大きいか判定する。
【0038】
回生電圧VBが所定の電圧値以上の場合、ステップ320に進んで、図5のブレーキパターン2(ブレーキパターン1よりもブレーキ力を弱めにし、回生電力の発生を回避するように余裕を持った印加電圧Gと位相指令αdを設定しておく。ただし、ブレーキパターン1に比べ、ブレーキ力を弱めにしてある為、ブレーキ時間は若干延びる。)に示すように実験的に求め設定したブレーキ制御を行う。また、位相指令αdにおいては、記憶手段15の位相差情報に基づいて補正を行う。
【0039】
例えば、N1〜N2:900〜600r/minにおいては、G5:200V、αd5:190度でブレーキ力を制御し、N2〜N3:600〜400r/minに回転数が落ちてきたら、G6:200V、αd6:190度でブレーキ力を制御し、N3〜N4:400〜100r/minに回転数が落ちてきたら、G7:75V、αd7:180度でブレーキ力を制御し、N4〜N5:100〜0r/minに回転数が落ちてきたら、G8:20V、αd8:150度でブレーキ力を制御し、高速回転から短い時間でモータの回転を止めるという制御である。
【0040】
その後、モータ5が停止するまで上記のブレーキ制御を継続する。ステップ321で、ロータ位置検出手段6からの出力信号を検知し、ステップ322で、出力信号に変化の有無があるかを判定し、出力信号に変化がない場合にはモータ5(洗濯兼脱水槽21)が停止したと判定する。モータ5が停止したと判定した場合は、ステップ323に進んで蓋ロック20を解除し、次行程へ進む。
【0041】
一方、ステップ308で回生電圧VBが所定の電圧値以下と判定した場合は、モータ5が停止するまでブレーキパターン1のブレーキ制御を継続する。ステップ309で、ロータ位置検出手段6からの出力信号を検知し、ステップ310で、出力信号に変化の有無があるかを判定し、出力信号に変化がない場合にはモータ5(洗濯兼脱水槽21)が停止したと判定する。モータ5が停止したと判定した場合は、ステップ311に進んで蓋ロック20を解除し、次行程へ進む。
【0042】
このように、脱水工程において、所定の回転数帯Nごとに区分けされ、各区間でそれぞれ印加電圧Gと位相指令αdを設定したブレーキパターンを複数有し、電圧検知手段15により検知した電圧値が所定の電圧値以上の場合、ブレーキパターンを切り換えるようにすることで、ロータ位置検出手段6の取り付けばらつきやモータ5への取り付けばらつきなどにより、ブレーキパターン1で、万が一、回生電力が発生したとしても、ブレーキパターン1に比べブレーキ力の弱いブレーキパターン2に切り換えることで、回生電力を抑え、そのままブレーキ制御を継続するので、高電圧検知異常による運転途中のオートオフを防ぐことができるうえ、惰性回転で止まるわけではないので、ブレーキによるモータ停止までの時間も安定させることができ、洗濯運転の終了時間への影響も低減し、使い勝手の低下を防止することができる。
【0043】
なお、場合によってはブレーキパターンを2通り以上設定しても構わないし、1通りであっても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上のように、本発明にかかるドラム式洗濯機は、記憶した位相差情報からブレーキパターンの位相指令の補正を行うことで、組み立て時のばらつきに影響されることなく、最適なブレーキ制御を維持し、インバータ回路の直流電圧が異常上昇し、インバータ回路が故障する、あるいは、高電圧異常検知により運転途中にオートオフするのを防ぐことができるので、乾燥機能のついたドラム式洗濯乾燥機等にも利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施の形態1におけるドラム式洗濯機の一部ブロック化した回路図
【図2】同ドラム式洗濯機の断面図
【図3】同ドラム式洗濯機のモータ駆動時の要部波形図
【図4】同ドラム式洗濯機のモータ制動時の要部波形図
【図5】同ドラム式洗濯機の各回転数帯における印加電圧と位相指令のブレーキパターンテーブルを示す図
【図6】本発明の実施の形態2におけるドラム式洗濯機の要部動作フローチャート
【図7】従来の洗濯機の一部ブロック化した回路図
【符号の説明】
【0046】
1 交流電源
3 整流回路
4 インバータ回路
5 モータ
6 ロータ位置検出手段
10 制御手段
15 記憶手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源と、前記交流電源に接続した整流回路と、前記整流回路の直流電力を交流電力に変換するインバータ回路と、前記インバータ回路により駆動されるモータと、前記モータのロータ位置を検出するロータ位置検出手段と、前記インバータ回路を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、測定したモータの誘起電圧とロータ位置検出手段からの出力信号との位相差を記憶する記憶手段を有し、前記記憶手段に記憶した位相差情報に基づいて前記インバータ回路への位相指令を補正するようにしたドラム式洗濯機。
【請求項2】
モータからの回生電力を検知する電圧検知手段を備え、制御手段は、前記モータをブレーキ制御するための位相指令を含む複数のブレーキパターンを有し、前記電圧検知手段により検知した電圧値に応じて、前記複数のブレーキパターンを切り換えるようにした請求項1記載のドラム式洗濯機。
【請求項3】
電圧検知手段により検知した電圧値が所定の電圧値以上の場合、ブレーキパターンを切り換えるようにした請求項2記載のドラム式洗濯機。
【請求項4】
切り換えた後のブレーキパターンによるブレーキ制御をモータが停止するまで継続する請求項3記載のドラム式洗濯機。
【請求項5】
ブレーキパターンの切り換えは、モータに対するブレーキ力が弱くなるように切り換えるようにした請求項3または4に記載のドラム式洗濯機。
【請求項6】
ブレーキパターンは、モータの回転数と、モータへの印加電圧と、モータをブレーキ制御するための位相指令との関係について定めた請求項2〜5のいずれか1項に記載のドラム式洗濯機。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−17368(P2010−17368A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−180954(P2008−180954)
【出願日】平成20年7月11日(2008.7.11)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】