説明

ハイブリッド車両

【課題】電動機が車体中心近傍に配置され幅方向の張り出しが小さいハイブリッド車両を提供する。
【解決手段】エンジン5と、モータ6と、エンジン5とモータ6の動力を後輪WRに伝達する動力伝達機構7と、を備えるハイブリッド車両であって、エンジン5は、車体に揺動不能に懸架され、シリンダ54が略水平方向に延出するとともにクランク軸50が車体の幅方向に指向して配設され、モータ6は、エンジン5のクランク軸50よりも前方且つ上方に位置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関と電動機の2つの駆動源を有するハイブリッド車両に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車に搭載されるハイブリッド車両用パワーユニットとして、例えば特許文献1のハイブリッド車両用パワーユニットが知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1のハイブリッド車両用パワーユニットは、内燃機関からの動力が動力伝達機構を構成するベルト式無段変速機及び歯車式変速機を介して後輪に伝達されるとともに電動機からの動力が該歯車式変速機を介して後輪に伝達される。この電動機は、無段変速機を構成する従動プーリと同軸上に配置され後輪の側方に位置している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−044495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このパワーユニットでは、電動機が内燃機関のクランク軸よりも後方且つ下方に位置するとともに、無段変速機を構成する従動プーリより幅方向外側に位置するため、電動機は後輪の側方に配置されて幅方向の張り出しが大きくなっている。また、電動機は重量物であるため車体中心近傍に配置されることが望ましい。
【0006】
そこで、本発明の目的は、電動機が車体中心近傍に配置され幅方向の張り出しが小さいハイブリッド車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、内燃機関と、電動機と、前記内燃機関と前記電動機の動力を被駆動部に伝達する動力伝達機構と、を備えるハイブリッド車両であって、
前記内燃機関は、車体に揺動不能に懸架され、シリンダが略水平方向に延出するとともにクランク軸が車体の幅方向に指向して配設され、
前記電動機は、前記内燃機関の前記クランク軸よりも前方且つ上方に位置することを特徴とする。
【0008】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のハイブリッド車両において、
前記内燃機関の前記クランク軸の一端には、前記内燃機関からの動力を変速して前記動力伝達機構に伝達する変速機構を備えることを特徴とする。
【0009】
また、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のハイブリッド車両において、
前記電動機及び前記変速機構は、前記内燃機関に対し車体の幅方向一方側に偏寄して設けられることを特徴とする。
【0010】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1に記載のハイブリッド車両において、
前記電動機を前記シリンダを構成するシリンダブロックの側方で且つ側面視で前記シリンダブロックとオーバーラップして配置されることを特徴とする。
【0011】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1に記載のハイブリッド車両において、
前記動力伝達機構には、前記内燃機関と前記電動機からの動力を変速して前記被駆動部に伝達する変速部が設けられることを特徴とする。
【0012】
また、請求項6に記載の発明は、請求項2に記載のハイブリッド車両において、
前記内燃機関の動力は、前記変速機構により第1ワンウェイクラッチを介して前記クランク軸上に設けられたプライマリドライブギヤに入力され、前記プライマリドライブギヤから前記動力伝達機構に伝達されることを特徴とする。
【0013】
また、請求項7に記載の発明は、請求項6に記載のハイブリッド車両において、
前記プライマリドライブギヤには、前記電動機のモータドライブギヤと噛み合うドリブンギヤが設けられ、
前記電動機からの動力は、前記ドリブンギヤに入力され、前記プライマリドライブギヤから前記動力伝達機構に伝達されることを特徴とする。
【0014】
また、請求項8に記載の発明は、請求項7に記載のハイブリッド車両において、
前記ドリブンギヤと電動機ケースが側面視でオーバーラップすることを特徴とする。
【0015】
また、請求項9に記載の発明は、請求項1に記載のハイブリッド車両において、
前記内燃機関を始動する始動用電動機を備え、
前記始動用電動機は、クランクケースの上方で且つ側面視で前記電動機とオーバーラップして配置されることを特徴とする。
【0016】
また、請求項10に記載の発明は、請求項1に記載のハイブリッド車両において、
前記内燃機関を操作するスロットルバイワイヤ方式のスロットル機構を備え、
前記スロットル機構は、前記シリンダの上方で且つ側面視で前記電動機とオーバーラップして配置されることを特徴とする。
【0017】
また、請求項11に記載の発明は、請求項10に記載のハイブリッド車両において、
前記スロットル機構のアクチュエータは、車体中心線に対し前記電動機とは幅方向で反対側に位置することを特徴とする。
【0018】
また、請求項12に記載の発明は、請求項1に記載のハイブリッド車両において、
前記内燃機関のピストンの中心と前記電動機との間に車体中心線が位置することを特徴とする。
【0019】
また、請求項13に記載の発明は、請求項1に記載のハイブリッド車両において、
電動機を覆うカバー部材に前記電動機を冷却する冷却用開口が設けられることを特徴とする。
【0020】
また、請求項14に記載の発明は、請求項1に記載のハイブリッド車両において、
前記内燃機関と、前記電動機と、前記動力伝達機構と、からなるパワーユニットはヘッドパイプから後下がりに延在するメインフレームに懸架され、
前記メインフレームにはエアクリーナーが固定され、
前記エアクリーナーは前記エンジンの上方且つ前方に延びる吸気通路により前記エンジンに接続され、
前記シリンダのヘッド部の左右にはレッグシールドが設けられ、
前記電動機は、前記シリンダと前記メインフレーム間で前記吸気通路の後方に配置されることを特徴とする。
【0021】
また、請求項15に記載の発明は、請求項7に記載のハイブリッド車両において、
前記変速機構は、前記クランク軸上に設けられた2段遠心クラッチであり、
1段目の遠心クラッチは、第1クラッチインナが第1の所定回転数に達するとクラッチアウタに接続されるように構成され、該クラッチアウタは前記クランク軸上に設けられる遊星歯車機構のリングギヤをなし、該リングギヤと噛合するプラネタリギヤは、一方向に回転可能且つ他方向に回転不能に設けられたサンギヤと噛合し、前記第1クラッチインナが前記クラッチアウタに接続されると、前記プラネタリギヤは前記サンギヤを他方向に回転させるように動力伝達がなされ、前記クラッチアウタの回転が前記プラネタリギヤを支持するキャリアを介して減速して前記動力伝達機構に伝達され、
2段目の遠心クラッチは、前記キャリアと一体に回転する第2クラッチインナが第2の所定回転数に達すると前記クラッチアウタに接続され、前記第2クラッチインナが前記クラッチアウタに接続されると、前記リングギヤと前記キャリアと前記サンギヤが一方向に一体で回転し、前記クラッチアウタの回転が前記遊星歯車機構で減速されずに前記動力伝達機構に伝達されることを特徴とする。
【0022】
また、請求項16に記載の発明は、請求項15に記載のハイブリッド車両において、
前記キャリアは前記クランク軸の外周に前記クランク軸に相対回転自在に設けられた外周筒に支持され、該外周筒は前記第1ワンウェイクラッチを介して前記プライマリドライブギヤと接続されており、前記第1クラッチインナと前記第2クラッチインナは第2ワンウェイクラッチを介して接続されており、前記第2ワンウェイクラッチは、前記第1クラッチインナに対し前記第2クラッチインナの一方向の回転を不能とし他方向の回転を可能とするように設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
請求項1に記載のハイブリッド車両によれば、電動機が内燃機関のクランク軸よりも前方且つ上方に位置するので、電動機が後輪と干渉することがなく電動機を車体中心近傍に配置することができ、幅方向の張り出しを小さくすることができる。
【0024】
請求項2に記載のハイブリッド車両によれば、内燃機関のクランク軸の一端に内燃機関からの動力を変速して動力伝達機構に伝達する変速機構を備えるので、内燃機関の動力を予め変速機構で変速して動力伝達機構に伝達することができる。
【0025】
請求項3に記載のハイブリッド車両によれば、電動機及び変速機構は、内燃機関に対し車体の幅方向一方側に偏寄して設けられるので、内燃機関の側方のスペースを有効に利用することができる。
【0026】
請求項4に記載のハイブリッド車両によれば、電動機が、シリンダを構成するシリンダブロックの側方で且つ側面視でシリンダブロックとオーバーラップして配置されるので、パワーユニットの高さ方向の長さを小さくすることができ、パワーユニットを小型化することができる。
【0027】
請求項5に記載のハイブリッド車両によれば、動力伝達機構には、内燃機関と電動機からの動力を変速して被駆動部に伝達する変速部が設けられているので、内燃機関の動力と電動機の動力を変速部で変速して被駆動部に伝達することができる。
【0028】
請求項6に記載のハイブリッド車両によれば、内燃機関の動力は、変速機構により第1ワンウェイクラッチを介してクランク軸上に設けられたプライマリドライブギヤに入力され、プライマリドライブギヤから動力伝達機構に伝達されるので、内燃機関の動力で車両を走行することができる。
【0029】
請求項7に記載のハイブリッド車両によれば、プライマリドライブギヤには、電動機のドライブギヤと噛み合うドリブンギヤがプライマリドライブギヤと一体で回転するように設けられ、電動機からの動力は、プライマリドライブギヤから動力伝達機構に伝達されるので、電動機の動力で車両を走行することができる。また、電動機の動力はワンウェイクラッチが開放されることによりクランク軸に伝達されることはないので、EV走行時に内燃機関を連れまわすことがなく、燃費を向上させることができる。
【0030】
請求項8に記載のハイブリッド車両によれば、ドリブンギヤと電動機ケースが側面視でオーバーラップするので、電動機のドライブギヤとドリブンギヤとの噛合いによっても電動機の動力を減速することができる。また、電動機と変速機構とを近接配置することができる。
【0031】
請求項9に記載のハイブリッド車両によれば、始動用電動機は、クランクケースの上方で且つ側面視で前記電動機とオーバーラップして配置されるので、パワーユニットを小型化することができる。
【0032】
請求項10に記載のハイブリッド車両によれば、スロットル機構は、シリンダの上方で且つ側面視で電動機とオーバーラップして配置されるので、パワーユニットを小型化することができる。
【0033】
請求項11に記載のハイブリッド車両によれば、スロットル機構のアクチュエータは、車体中心線に対し電動機とは幅方向で反対側に位置するので、アクチュエータの張り出しにより電動機との干渉を防止することができる。
【0034】
請求項12に記載のハイブリッド車両によれば、内燃機関のピストンの中心と電動機との間に車体中心線が位置するので、幅方向の張り出しを小さくすることができる。また、自動二輪車の重心の偏りを改善することができる。
【0035】
請求項13に記載のハイブリッド車両によれば、電動機を覆うカバー部材に冷却用開口が設けられるので、電動機の発熱を抑制することができる。
【0036】
請求項14に記載のハイブリッド車両によれば、電動機は、シリンダとメインフレーム間で吸気通路の後方に配置されるので、パワーユニットを小型化することができる。
【0037】
請求項15に記載のハイブリッド車両によれば、変速機構はクランク軸上に設けられた2段遠心クラッチであり、1段目の遠心クラッチはクラッチアウタの回転を遊星歯車機構を介して減速して動力伝達機構に伝達し、2段目の遠心クラッチはクラッチアウタの回転を遊星歯車機構で減速せずに動力伝達機構に伝達するので、エンジン走行において回転数に応じて自動的に変速することができる。
【0038】
請求項16に記載のハイブリッド車両によれば、第1クラッチインナと第2クラッチインナは第2ワンウェイクラッチを介して接続されており、第2ワンウェイクラッチは、第1クラッチインナに対し第2クラッチインナの一方向の回転を不能とし他方向の回転を可能とするように設けたので、モータ走行時におけるラチェットの回転音が確実に防止されるとともにプライマリドライブギヤの回転により外周筒が連れ回ることによるエネルギー損失を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係るハイブリッド車両の一実施形態による二輪車の側面図である。
【図2】図1に示す二輪車のパワーユニットの断面図である。
【図3】パワーユニットの変速機構の断面図である。
【図4】図3のIV−IV線断面図である。
【図5】図3のV−V線断面図である。
【図6】図3のVI−VI線断面図である。
【図7】パワーユニットの変速部のニュートラルにおける断面図である。
【図8】パワーユニットの変速部のドライブモードが選択された状態の断面図である。
【図9】パワーユニットの変速部の低速モードが選択された状態の断面図である。
【図10】パワーユニットを部分的に切り欠いたものを側方から見た側面図である。
【図11】パワーユニットの外観斜視図である。
【図12】スロットル機構とモータの位置関係を説明するパワーユニットの部分断面図である。
【図13】変速機構の変形例の断面図である。
【図14】ラチェット受け部の変形例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明のハイブリッド車両の一実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明のハイブリッド車両の一実施形態の側面図である。
【0041】
本発明のハイブリッド車両は自動二輪車であり、この自動二輪車1の車体フレーム2は、フロントフォーク24を操向可能に支承するヘッドパイプ21と、該ヘッドパイプ21から後下がりに延びるメインフレーム22と、メインフレーム22の後部に連設されて後上がりに延びる左右一対のリヤフレーム23とを備え、フロントフォーク24の下端に前輪WFが軸支され、フロントフォーク24の上部にはバー状の操向ハンドル25が連結され、フロントフォーク24には、前輪WFの上方を覆うフロントフェンダ26aが支持される。また、この自動二輪車1には、フロントフェンダ26aの上方から後下方に延設されて乗員の脚部を保護するレッグシールド26bが設けられている。
【0042】
メインフレームの下方22には、シリンダ軸線Cを略水平方向としクランク軸50(図2参照)が車体の幅方向に指向して配設されたエンジン5(内燃機関)が配置されており、このエンジン5は、ハンガプレート27…およびピボットプレート28で支持されるようにして車体フレーム2に懸架される。
【0043】
前記ピボットプレート28には、リヤフォーク29の前端部が上下に揺動可能に支承されており、リヤフォーク29の後端に後輪WRが軸支される。また車体フレーム2におけるリヤフレーム23…およびリヤフォーク29間にはリヤクッション30が設けられる。
【0044】
前記エンジン5は、モータ(電動機)6と動力伝達機構7とともに後述するパワーユニットPを構成するものであり、動力伝達機構7の出力はドライブチェーン31を介して被駆動部としての後輪WRに伝達される。
【0045】
またエンジン5の上方には、スロットル機構32と、スタータモータ33、メインフレーム22に固定されたエアクリーナー36とが配置されており(図10も参照)、後輪WRの上方には、燃料タンク34が配置され、該燃料タンク34の前方に配置される収納ボックス35および前記燃料タンク34の上方が、たとえばタンデム型である乗車用シートSで開閉可能に覆われる。
【0046】
以下、本実施形態のハイブリッド車両のパワーユニットについて図2〜11を参照して詳細に説明する。図2は図1に示す二輪車のパワーユニットの断面図であり、Oが幅方向の中心を示す車体中心線である。
パワーユニットPは、主として、駆動源としてのエンジン5及びモータ6と、エンジン5とモータ6の動力を後輪WRに伝達する動力伝達機構7と、エンジン5と動力伝達機構7との間でエンジン5の動力を変速して動力伝達機構7に伝達する変速機構としての2段遠心クラッチ8と、を備えて構成されている。
【0047】
モータ6及びスタータモータ33には不図示のバッテリが接続され、バッテリは、モータ6が発動機として機能する際、及びスタータモータ33が始動機として機能する際は、これらに電力を供給し、モータ6が発電機として機能する際は、回生電力が充電されるように構成されている。なお、バッテリは、例えば図1のB1で示す燃料タンク34と軸方向に隣接する空間に搭載してもよく、B2で示したように左右のレッグシールド26b内の空間に搭載してもよい。
【0048】
エンジン5の吸気管内には空気量を制御するスロットルバルブが回動自在に設けられている。このスロットルバルブ(不図示)は、スロットル機構32内に収容され、搭乗者が操作するスロットルグリップ(不図示)の操作量に応じて回動される。なお、本実施形態ではTBW(スロットル・バイ・ワイヤ)システムを搭載し、乗員が操作するアクセルの開度を検知し、この検知されたアクセル開度および各種センサからの信号に基づいて最適なスロットルバルブの開度を算出し、該算出されたスロットル開度に基づいてアクチュエータ320(図10参照)で不図示のスロットルバルブの開閉を行っている。なお、図10中、符号321はエンジン5とエアクリーナー36を接続する吸気通路322を構成するスロットルボディであり、323はスロットルバルブ軸、324はインジェクター、570はエンジンハンガーを示している。
【0049】
エンジン5は、クランク軸50にコンロッド51を介して連結されたピストン52を備えている。ピストン52は、シリンダブロック53に設けられたシリンダ54内を摺動可能であり、シリンダブロック53はシリンダ54の軸線Cが略水平になるように配設されている。シリンダブロック53の前面にはシリンダヘッド55aとヘッドカバー55bが固定され、シリンダヘッド55aおよびシリンダ54ならびにピストン52で混合気を燃焼させる燃焼室が形成されている。なお、図1に示すように、ヘッドカバー55bの左右にはレッグシールド26bが設けられている。
【0050】
シリンダヘッド55aには、燃焼室への混合気の吸気または排気を制御するバルブ(不図示)と、点火プラグ56とが配設されている。バルブの開閉は、シリンダヘッド55aに軸支されたカム軸37の回転により制御される。カム軸37は一端側に従動スプロケット38を備え、従動スプロケット38とクランク軸50の一端に設けた駆動スプロケット40との間には無端状のカムチェーン39が掛け渡されている。また、駆動スプロケット40に隣接してクランク軸50には、スタータモータ33に接続される始動用ドリブンギヤ41がスプライン嵌合により一体に取り付けられている。
【0051】
クランク軸50は軸受42、42を介して左クランクケース57L、右クランクケースR(以下、左クランクケース57Lと右クランクケース57Rを合わせてクランクケース57と呼ぶ。)にそれぞれ支持され、クランクケース57の幅方向左側にはステータケース43が連結されており、その内部にアウターロータ形式のモータであるオルタネータ44(交流発電機ACG)が収納されている。クランクケース57の幅方向右側には、2段遠心クラッチ8を収納するクランクケースカバー80が連結されており、さらにクランクケースカバー80の右側端部は軸受45を介してクランク軸50を支持するクラッチカバー85が連結されている。シリンダブロック53の側方に位置するクランクケースカバー80内の前方の空間にはモータケース60が連結されている。モータケース60の内部には、モータ出力軸61にモータドライブギヤ62が取り付けられたモータ6が一体に収容されている。
【0052】
そして、クランク軸50の左側端部には、オルタネータ44を構成するインナーステータ441に対向するアウターロータ442が取り付けられ、その右側端部には、2段遠心クラッチ8の第1クラッチインナ81がスプライン嵌合されている。また、クランク軸50には、コンロッド51と第1クラッチインナ81との間に、プライマリドライブギヤ58と外周軸46(外周筒)がクランク軸50に対し相対回転自在にその外周を覆うように配置されている。
【0053】
プライマリドライブギヤ58は、後述する動力伝達機構7のメインシャフト70に取り付けられたプライマリドリブンギヤ72と噛み合うとともに、プライマリドライブギヤ58にはプライマリドライブギヤ58より大径のドリブンギヤ59が隣接して一体で回転するように取り付けられている。
【0054】
ドリブンギヤ59は、モータドライブギヤ62と噛み合い、内径部が右側に開口する空間を有して構成され、該空間に収容されたワンウェイクラッチ47を介して外周軸46に接続されている。また、ドリブンギヤ59とモータケース60は側面視でオーバーラップして配置されている。
【0055】
このワンウェイクラッチ47は、外周軸46の回転数がドリブンギヤ59の回転数より高いときに接続されて外周軸46の動力がドリブンギヤ59に伝達され、ドリブンギヤ59の回転数が外周軸46の回転数より高いときに切り離されて動力伝達が遮断される。
【0056】
2段遠心クラッチ8は、例えば図3〜図6に示すように、第1クラッチインナ81と、第2クラッチインナ82と、遊星歯車機構83と、ラチェット式のクラッチ機構84と、を備えて構成されている。前述したように第1クラッチインナ81はクランク軸50にスプライン嵌合されてクランク軸50と一体に回転する。一方、第2クラッチインナ82は外周軸46の外周にスプライン嵌合して外周軸46と一体に回転するように構成されている。
【0057】
遊星歯車機構83は、サンギヤ831と、リングギヤ832と、サンギヤ831とリングギヤ832間に噛合されるプラネタリギヤ833と、プラネタリギヤ833を支持するプラネタリキャリア834と、を備えて構成され、プラネタリキャリア834が第2クラッチインナ82と接続され一体に回転するように構成されている。
【0058】
リングギヤ832は、第1クラッチインナ81と第2クラッチインナ82のクラッチアウタとして機能しており、第1クラッチインナ81の回転数が第1の所定の回転数に達すると、第1クラッチインナ81のウエイトがリングギヤ832の内周面に接して接続状態になり、さらに第2クラッチインナ82の回転数が第1の所定の回転数より早い第2の所定の回転数に達すると、第2クラッチインナ82のウエイトがリングギヤ832の内周面に接して接続状態になる。サンギヤ831は、ラチェット式のクラッチ機構84に接続されている。
【0059】
ラチェット式のクラッチ機構84は、外周軸46の外周に相対回転自在に配置されフランジ部840を有するラチェット支持部材841と、フランジ部840により支持される複数のラチェット843と、クランクケースカバー80から延設されたラチェット受け部844と、を備えて構成され、ラチェット支持部材841の外周に遊星歯車機構83のサンギヤ831がスプライン嵌合して一体に回転するように構成されている。そして、サンギヤ831からの動力によりラチェット支持部材841が反時計回りに回転しようとするとき、ラチェット843はクランクケースカバー80から延設されたラチェット受け部844の溝845と係合してラチェット支持部材841の回転がロックされ、逆にラチェット支持部材841が時計回りに回転しようとするとき、ラチェット843はラチェット受け部844の溝845と係合せずにラチェット支持部材841が空転する。なお、各溝845には防振ゴム846が焼き付けられている。
【0060】
このように構成された2段遠心クラッチ8は、クランク軸50が第1の所定の回転数未満であるときには、クランク軸50と一体回転する第1クラッチインナ81がリングギヤ832の内周面に接せず非接続状態となり、クランク軸50の動力は動力伝達機構7に伝達されることはない。
【0061】
一方、クランク軸50が第1の所定の回転数に達すると、第1クラッチインナ81のウエイトがリングギヤ832の内周面に接して接続状態となる。このとき、リングギヤ832は時計回りに回転し、リングギヤ832に噛み合うプラネタリギヤ833を介してプラネタリキャリア834も時計回りに回転し、サンギヤ831には反時計回りの回転トルクが作用する。そして、サンギヤ831とスプライン嵌合するラチェット支持部材841を介してラチェット843には反時計回りの回転トルクが作用し、ラチェット843がラチェット受け部844の溝845と係合するためサンギヤ831はロックされる。従って、クランク軸50からプラネタリキャリア834に伝達された動力は減速されて、プラネタリキャリア834と一体に回転する外周軸46に伝達される。そして、外周軸46の回転数が、モータ6のモータドライブギヤ62と噛み合うドリブンギヤ59の回転数より高いときには、ワンウェイクラッチ47が接続され、クランク軸50の動力がドリブンギヤ59と一体に回転するプライマリドライブギヤ58に伝達され、さらにプライマリドライブギヤ58との噛合によりプライマリドリブンギヤ72を介して動力伝達機構7に伝達される。
一方、モータ6の駆動によりドリブンギヤ59の回転数が外周軸46の回転数より高いときには、ワンウェイクラッチ47が切り離され、クランク軸50の動力が動力伝達機構7に伝達されることはない。
【0062】
また、第1クラッチインナ81の接続により、プラネタリキャリア834に連れまわされる第2クラッチインナ82の回転数が第2の所定の回転数に達すると、第2クラッチインナ82のウエイトがリングギヤ832の内周面に接して接続状態となる。このとき、第2クラッチインナ82を介してリングギヤ832とプラネタリキャリア834は一体に回転するとともにサンギヤ831も一体となる。即ち、遊星歯車機構83が一体となる。このとき、サンギヤ831とスプライン嵌合するラチェット支持部材841を介してラチェット843には時計回りの回転トルクが作用し、ラチェット843がラチェット受け部844の溝845と係合せずにラチェット支持部材841が空転する。従って、クランク軸50から遊星歯車機構83に伝達された動力は減速されずに、プラネタリキャリア834と一体に回転する外周軸46に伝達される。そして、外周軸46の回転数が、モータ6のモータドライブギヤ62と噛み合うドリブンギヤ59の回転数より高いときには、ワンウェイクラッチ47が接続され、クランク軸50の動力がドリブンギヤ59と一体に回転するプライマリドライブギヤ58に伝達され、さらにプライマリドライブギヤ58との噛合によりプライマリドリブンギヤ72を介して動力伝達機構7に伝達される。
一方、モータ6の駆動によりドリブンギヤ59の回転数が外周軸46の回転数より高いときには、ワンウェイクラッチ47が切り離され、クランク軸50の動力は動力伝達機構7に伝達されることはない。
【0063】
モータ6は、前述したように、モータ出力軸61にモータドライブギヤ62が取り付けられて構成され、モータドライブギヤ62がクランク軸50周りに設けられたドリブンギヤ59と常時噛み合っている。これにより、モータ6の動力は、モータドライブギヤ62とドリブンギヤ59との噛合によりドリブンギヤ59に伝達され、ドリブンギヤ59と一体に回転するプライマリドライブギヤ58から、プライマリドライブギヤ58との噛合によりプライマリドリブンギヤ72を介して動力伝達機構7に伝達される。ここで、ドリブンギヤ59はワンウェイクラッチ47を介して外周軸46に接続されるため、ドリブンギヤ59の回転数が外周軸46の回転数より高いときにのみ、モータ6の動力が動力伝達機構7に伝達される。このとき、ワンウェイクラッチ47が切り離されているため、モータ6の動力が外周軸46に伝達されることはない。一方、外周軸46の回転数がドリブンギヤ59の回転数より高いときには、クランク軸50の動力が動力伝達機構7に伝達されるので、モータ6はクランク軸50に連れまわされる。このとき、バッテリのSOCに応じてモータ6でアシストしてもよく、回生充電してもよく、零トルク制御により負荷を軽減することもできる。
【0064】
次に、動力伝達機構7について説明する。
動力伝達機構7は、メインシャフト70とカウンタシャフト71との間に変速部73を備えて構成され、メインシャフト70の右側端部には、前述したようにクランク軸50の外周に配設されたプライマリドライブギヤ58と噛み合うプライマリドリブンギヤ72が取り付けられ、カウンタシャフト71の左側端部には、ドライブスプロケット74が取り付けられ、メインシャフト70に伝達された動力がドライブスプロケット74に巻き掛けられたドライブチェーン31(図1参照)を介して、駆動輪WRに伝達される。また、カウンタシャフト71の右側端部には、サブシャフト75に回転自在に配設された車速検出用入力ギヤ76と噛合する車速検出用出力ギヤ77が設けられている。また、クランクケース57には、車速検出用入力ギヤ76と対向する位置に速度を検出する検出部78が設けられている。
【0065】
変速部73は、メインシャフト70の外周に相対回転自在に配設された低速駆動ギヤ731と、メインシャフト70の外周に配置されメインシャフト70と一体回転しその軸線に沿って摺動自在に設けられた高速駆動シフターギヤ732と、カウンタシャフト71の外周にスプライン嵌合されてカウンタシャフト71と一体に回転する低速従動ギヤ733と、カウンタシャフト71の外周に相対回転自在に配設された高速従動ギヤ734と、カウンタシャフト71の外周に配置されカウンタシャフト71と一体回転しその軸線に沿って摺動自在に設けられたシフター735と、を備えて構成されている。ここで、低速駆動ギヤ731と低速従動ギヤ733は常時噛合して低速ギヤ対736を構成し、高速駆動シフターギヤ732と高速従動ギヤ734は常時噛合して高速ギヤ対737を構成している。
【0066】
変速部73は、通常では高速ギヤ対737を使用したドライブモードで走行するように設定されており、より大きなトルクが必要な場合に低速ギヤ対736を使用した低速モードで走行がなされる。従って、乗員がシフトペダル(不図示)を揺動させることにより、ニュートラルから、ドライブモード、低速モードへとギヤチェンジがなされる。
ニュートラルでは図7に示すように、高速駆動シフターギヤ732と低速駆動ギヤ731が係合しておらず、且つ、シフター735と高速従動ギヤ734も係合していない。そのため、例えメインシャフト70が回転しても低速ギヤ対736と高速ギヤ対737のいずれを介してもカウンタシャフト71に動力伝達がなされることはない。
【0067】
そして、乗員がニュートラルからドライブモードを選択するため、シフトペダルを一方側に揺動させると、図8に示すように、シフター735が高速従動ギヤ734側に摺動し、高速従動ギヤ734に形成された係合部734aとシフター735に形成された係合部735aが係合する。これにより、メインシャフト70に入力された動力が、図中矢印で示したように、高速駆動シフターギヤ732から高速ギヤ対737、シフター735を介してカウンタシャフト71のドライブスプロケット74に伝達される。また、乗員がニュートラルに戻すため、シフトペダルを他方側に揺動させると、シフター735がニュートラル位置に戻り、係合部734aと係合部735aの係合が解除される。
【0068】
一方、乗員がドライブモードから低速モードを選択するため、シフトペダルをさらに一方側に揺動させると、図9に示すように、シフター735がニュートラル位置に戻り係合部734aと係合部735aの係合が解除され、且つ、高速駆動シフターギヤ732が低速駆動ギヤ731側に摺動し、低速駆動ギヤ731に形成された係合部731aと高速駆動シフターギヤ732に形成された係合部732aが係合する。これにより、メインシャフト70に入力された動力が、高速駆動シフターギヤ732、低速ギヤ対736を介してカウンタシャフト71のドライブスプロケット74に伝達される。また、乗員が低速モードからドライブモードを選択するかニュートラルに戻すため、シフトペダルを一方側又は他方側に揺動させると、前述したドライブモード又はニュートラルとなる。
【0069】
このように構成されたハイブリッド車両のパワーユニットPでは、以下の第1及び第2伝達経路の2通りの伝達経路で動力を伝達して自動二輪車1の走行を行なうことができる。
(1)第1伝達経路は、いわゆるエンジン走行における伝達経路であり、エンジン5の動力が、クランク軸50、2段遠心クラッチ8、外周軸46、ワンウェイクラッチ47、ドリブンギヤ59(プライマリドライブギヤ58)、プライマリドリブンギヤ72、動力伝達機構7を介して駆動輪WRに伝達される伝達経路である。この第1伝達経路においては、2段遠心クラッチ8と動力伝達機構7の変速部73においてそれぞれ2段階の変速を行うことができる。なお、第1伝達経路で動力を伝達しながら走行中に、モータ6を駆動することでアシスト走行を行なうことができ、また、モータ6を負荷として回生充電することもできる。
(2)第2伝達経路は、いわゆるEV走行における伝達経路であり、モータ6の動力が、モータ出力軸61、モータドライブギヤ62、ドリブンギヤ59(プライマリドライブギヤ58)、プライマリドリブンギヤ72、動力伝達機構7、ドライブチェーン31を介して駆動輪WRに伝達される伝達経路である。このとき、前述したように、モータ6の動力は、ワンウェイクラッチ47の空転によりクランク軸50に伝達されることはない。また、この第2伝達経路においては、動力伝達機構7の変速部73において2段階の変速を行うことができる。
【0070】
この第1及び第2伝達経路の切替はワンウェイクラッチ47により機械的になされ、ワンウェイクラッチ47の外径側のドリブンギヤ59の回転数と内径側の外周軸46の回転数に基づき、外周軸46の回転数がドリブンギヤ59の回転数より高ければ第1伝達経路により動力が伝達され、ドリブンギヤ59の回転数が外周軸46の回転数より高ければ第2伝達経路により動力が伝達される。
【0071】
このように構成されたパワーユニットPは、図2に示すように、モータ6及び2段遠心クラッチ8がエンジン5に対し車体の幅方向一方側に偏寄して配置され、エンジン5のピストン52の中心とモータ6との間に車体中心線Oが位置している。
【0072】
図10は、パワーユニットの一部を切り欠いた側面図であり、図11はパワーユニットの斜視図であり、図12はスロットル機構とモータの位置関係を説明するパワーユニットの部分断面図である。図中矢印がパワーユニットが車両に搭載された状態における方向を示している。
図10に示すように、スタータモータ33がクランクケース57の上方で且つ側面視でモータ6とオーバーラップして配置され、スロットル機構32がシリンダ54の上方で且つ側面視でモータ6とオーバーラップして配置されている。また、モータ6はシリンダ54とメインフレーム22間で吸気通路322の後方に配置されている。
【0073】
また、図11に示すように、モータ6を覆うクランクケースカバー80には、周方向に等間隔で複数の冷却用開口801が設けられ、内部に収容されたモータ6を冷却している。なお、図11中、符号802は遊星歯車機構83のプラネタリキャリア834の速度検出部835(図3参照)の回転速度を検出するセンサ取付用開口を示し、803は2段遠心クラッチ8の第1クラッチインナ81の速度検出部815(図3参照)の回転速度を検出するセンサ取付用開口を示し、557は酸素センサを示し、558は排気管を示している。
【0074】
さらに、このパワーユニットPは、図12に示すように、スロットル機構32のアクチュエータ320が、車体中心線Oに対しモータ6と幅方向で反対側に位置している。
【0075】
以上説明したように、本実施形態のハイブリッド車両によれば、エンジン5は、車体に揺動不能に懸架され、シリンダ54が略水平方向に延出するとともにクランク軸50が幅方向に指向して配設され、モータ6は、エンジン5のクランク軸50よりも前方且つ上方に位置するので、モータ6が後輪WRと干渉することがなくモータ6を車体中心近傍に配置することができ、幅方向の張り出しを小さくすることができる。
【0076】
また、エンジン5のクランク軸50の一端には、エンジン5からの動力を変速して動力伝達機構7に伝達する2段遠心クラッチ8を備えるので、エンジン5の動力を予め2段遠心クラッチ8で変速して動力伝達機構7に伝達することができる。
【0077】
また、モータ6及び2段遠心クラッチ8は、エンジン5に対し幅方向一方側に偏寄して設けられるので、エンジン5の側方のスペースを有効に利用することができる。
【0078】
また、モータ6がシリンダ54を構成するシリンダブロック53の側方で且つ側面視でシリンダブロック53とオーバーラップして配置されるので、パワーユニットの高さ方向の長さを小さくすることができ、パワーユニットを小型化することができる。
【0079】
また、動力伝達機構7には、エンジン5とモータ6からの動力を変速して後輪WRに伝達する変速部73が設けられるので、エンジン5の動力とモータ6の動力を変速部73で所定の変速比で変速して後輪WRに伝達することができる。
【0080】
また、エンジン5の動力は、2段遠心クラッチ8によりワンウェイクラッチ47を介してクランク軸50上に設けられたプライマリドライブギヤ58に入力され、プライマリドライブギヤ58から動力伝達機構7に伝達されるので、エンジン5の動力で車両を走行することができる。
【0081】
また、プライマリドライブギヤ58には、モータ6のモータドライブギヤ62と噛み合うドリブンギヤ59が設けられ、モータ6からの動力は、ドリブンギヤ59に入力され、プライマリドライブギヤ58から動力伝達機構7に伝達されるので、モータ6の動力で車両を走行することができる。また、モータ6の動力はワンウェイクラッチ47が開放されることによりクランク軸50に伝達されることはないので、EV走行時にエンジン5を連れまわすことがなく、燃費を向上させることができる。
【0082】
また、ドリブンギヤ59とモータケース60が側面視でオーバーラップするので、モータ6のモータドライブギヤ62とドリブンギヤ59との噛合いによってもモータ6の動力を減速することができる。
【0083】
また、スタータモータ33は、クランクケース57の上方で且つ側面視でモータ6とオーバーラップして配置されるので、パワーユニットPを小型化することができる。
【0084】
また、エンジン5を操作するスロットルバイワイヤ方式のスロットル機構32は、シリンダ54の上方で且つ側面視でモータ6とオーバーラップして配置されるので、パワーユニットPを小型化することができる。
【0085】
また、スロットル機構32のアクチュエータ320は、車体中心線Oに対しモータ6とは幅方向で反対側に位置するので、アクチュエータの張り出しによりモータ6との干渉を防止することができる。
【0086】
また、エンジン5のピストン52の中心とモータ6との間に車体中心線Oが位置するので、幅方向の張り出しを小さくすることができる。
【0087】
また、モータケース60を覆うクランクケースカバー80に冷却用開口801が設けられるので、モータ6の発熱を抑制することができる。
【0088】
また、モータ6は、シリンダ54とメインフレーム22間で吸気通路322の後方に配置されるので、パワーユニットPを小型化することができる。
【0089】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものでなく、適宜、変更、改良等が可能である。
図13は、変速機構としての2段遠心クラッチの変形例の断面図である。本変形例の2段遠心クラッチ8´は、第1クラッチインナ81と第2クラッチインナ82がワンウェイクラッチ48を介して接続される。このワンウェイクラッチ48は、第2クラッチインナ82に取り付けられた連結部材820と第1クラッチインナ81との間に設けられ、第1クラッチインナ81に対し第2クラッチインナ82の時計回りの回転を不能とし反時計回りの回転を可能とするように設定される。従って、エンジン走行時は、第2クラッチインナ82が第1クラッチインナ81より早く回転することがない、即ち第1クラッチインナ81に対し第2クラッチインナ82が反時計回りに回転し時計回りに回転することがないためワンウェイクラッチ48は機能しない。
【0090】
一方、モータ走行時は、ドリブンギヤ59がワンウェイクラッチ47を介して外周軸46に接続されているため、ドリブンギヤ59の動力が外周軸46に伝達されることはないはずであるが、状況によってはワンウェイクラッチ47がドリブンギヤ59に連れまわされることも考えられる。仮にワンウェイクラッチ47がドリブンギヤ59に連れまわされると、上記実施形態における2段遠心クラッチ8では、外周軸46の回転によりプラネタリキャリア834を介してサンギヤ831が時計回りに回転する。サンギヤ831が時計回りに回転すると、ラチェット支持部材841が時計回りに回転し、ラチェット843はラチェット受け部844の溝845と係合せずにラチェット支持部材841が空転する。このとき、ラチェット843は回転音を発してしまう。
【0091】
本変形例では、モータ走行時には第1クラッチインナ81が停止しているので、第1クラッチインナ81に対し第2クラッチインナ82が時計回りに回転することになるので、ワンウェイクラッチ48により第2クラッチインナ82の回転が不能とされる。これにより、モータ走行時におけるラチェット843の回転音が確実に防止されるとともに、外周軸46が連れまわることによるエネルギー損失を抑えることができる。
【0092】
図14は、ラチェット受け部の変形例の断面図である。本変形例のラチェット受け部844´は、第1ラチェットプレート844aの内周部に所定の間隔をあけて内周面に溝845を有する第2ラチェットプレート844bが配置され、第2ラチェットプレート844b全体を覆うように防振ゴム846がモールドされて構成される。なお、第1ラチェットプレート844aと防振ゴム846との回り止めは第1ラチェットプレート844aに設けられた凹部847でなされる。これにより、溝845を含めた第2ラチェットプレート844bの内周面全体が防振ゴム846で覆われるためラチェット843の回転音を低減することができる。
【符号の説明】
【0093】
1 自動二輪車(ハイブリッド車両)
2 車体フレーム
5 エンジン(内燃機関)
6 モータ(電動機)
7 動力伝達機構
8 2段遠心クラッチ(変速機構)
21 ヘッドパイプ
22 メインフレーム
26b レッグシールド
32 スロットル機構
33 スタータモータ(始動用電動機)
36 エアクリーナー
46 外周軸(外周筒)
47 ワンウェイクラッチ(第1ワンウェイクラッチ)
48 ワンウェイクラッチ(第2ワンウェイクラッチ)
50 クランク軸
52 ピストン
53 シリンダブロック
54 シリンダ
57 クランクケース
58 プライマリドライブギヤ
59 ドリブンギヤ
60 モータケース
62 モータドライブギヤ
73 変速部
80 クランクケースカバー(カバー部材)
81 第1クラッチインナ
82 第2クラッチインナ
83 遊星歯車機構
320 アクチュエータ
322 吸気通路
801 冷却用開口
831 サンギヤ
832 リングギヤ(クラッチアウタ)
833 プラネタリギヤ
834 プラネタリキャリア(キャリア)
O 車体中心線
P パワーユニット
WR 後輪(被駆動部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、電動機と、前記内燃機関と前記電動機の動力を被駆動部に伝達する動力伝達機構と、を備えるハイブリッド車両であって、
前記内燃機関は、車体に揺動不能に懸架され、シリンダが略水平方向に延出するとともにクランク軸が車体の幅方向に指向して配設され、
前記電動機は、前記内燃機関の前記クランク軸よりも前方且つ上方に位置することを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項2】
前記内燃機関の前記クランク軸の一端には、前記内燃機関からの動力を変速して前記動力伝達機構に伝達する変速機構を備えることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両。
【請求項3】
前記電動機及び前記変速機構は、前記内燃機関に対し車体の幅方向一方側に偏寄して設けられることを特徴とする請求項2に記載のハイブリッド車両。
【請求項4】
前記電動機を前記シリンダを構成するシリンダブロックの側方で且つ側面視で前記シリンダブロックとオーバーラップして配置されることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両。
【請求項5】
前記動力伝達機構には、前記内燃機関と前記電動機からの動力を変速して前記被駆動部に伝達する変速部が設けられることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両。
【請求項6】
前記内燃機関の動力は、前記変速機構により第1ワンウェイクラッチを介して前記クランク軸上に設けられたプライマリドライブギヤに入力され、前記プライマリドライブギヤから前記動力伝達機構に伝達されることを特徴とする請求項2に記載のハイブリッド車両。
【請求項7】
前記プライマリドライブギヤには、前記電動機のモータドライブギヤと噛み合うドリブンギヤが設けられ、
前記電動機からの動力は、前記ドリブンギヤに入力され、前記プライマリドライブギヤから前記動力伝達機構に伝達されることを特徴とする請求項6に記載のハイブリッド車両。
【請求項8】
前記ドリブンギヤと電動機ケースが側面視でオーバーラップすることを特徴とする請求項7に記載のハイブリッド車両。
【請求項9】
前記内燃機関を始動する始動用電動機を備え、
前記始動用電動機は、クランクケースの上方で且つ側面視で前記電動機とオーバーラップして配置されることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両。
【請求項10】
前記内燃機関を操作するスロットルバイワイヤ方式のスロットル機構を備え、
前記スロットル機構は、前記シリンダの上方で且つ側面視で前記電動機とオーバーラップして配置されることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両。
【請求項11】
前記スロットル機構のアクチュエータは、車体中心線に対し前記電動機とは幅方向で反対側に位置することを特徴とする請求項10に記載のハイブリッド車両。
【請求項12】
前記内燃機関のピストンの中心と前記電動機との間に車体中心線が位置することを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両。
【請求項13】
電動機を覆うカバー部材に前記電動機を冷却する冷却用開口が設けられることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両。
【請求項14】
前記内燃機関と、前記電動機と、前記動力伝達機構と、からなるパワーユニットはヘッドパイプから後下がりに延在するメインフレームに懸架され、
前記メインフレームにはエアクリーナーが固定され、
前記エアクリーナーは前記エンジンの上方且つ前方に延びる吸気通路により前記エンジンに接続され、
前記シリンダのヘッド部の左右にはレッグシールドが設けられ、
前記電動機は、前記シリンダと前記メインフレーム間で前記吸気通路の後方に配置されることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両。
【請求項15】
前記変速機構は、前記クランク軸上に設けられた2段遠心クラッチであり、
1段目の遠心クラッチは、第1クラッチインナが第1の所定回転数に達するとクラッチアウタに接続されるように構成され、該クラッチアウタは前記クランク軸上に設けられる遊星歯車機構のリングギヤをなし、該リングギヤと噛合するプラネタリギヤは、一方向に回転可能且つ他方向に回転不能に設けられたサンギヤと噛合し、前記第1クラッチインナが前記クラッチアウタに接続されると、前記プラネタリギヤは前記サンギヤを他方向に回転させるように動力伝達がなされ、前記クラッチアウタの回転が前記プラネタリギヤを支持するキャリアを介して減速して前記動力伝達機構に伝達され、
2段目の遠心クラッチは、前記キャリアと一体に回転する第2クラッチインナが第2の所定回転数に達すると前記クラッチアウタに接続され、前記第2クラッチインナが前記クラッチアウタに接続されると、前記リングギヤと前記キャリアと前記サンギヤが一方向に一体で回転し、前記クラッチアウタの回転が前記遊星歯車機構で減速されずに前記動力伝達機構に伝達されることを特徴とする請求項7に記載のハイブリッド車両。
【請求項16】
前記キャリアは前記クランク軸の外周に前記クランク軸に相対回転自在に設けられた外周筒に支持され、該外周筒は前記第1ワンウェイクラッチを介して前記プライマリドライブギヤと接続されており、前記第1クラッチインナと前記第2クラッチインナは第2ワンウェイクラッチを介して接続されており、前記第2ワンウェイクラッチは、前記第1クラッチインナに対し前記第2クラッチインナの一方向の回転を不能とし他方向の回転を可能とするように設けたことを特徴とする請求項15に記載のハイブリッド車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−254289(P2010−254289A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−22234(P2010−22234)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】