説明

ハイブリッド車両

【課題】二次電池の充電状態の低下を抑えて適切な駆動力を発生させること。
【解決手段】内燃機関10と、第1及び第2の変速機構40,50と、第1及び第2のクラッチ61,62と、第1速ギヤ段41を有する第1変速機構40に連結したモータ/ジェネレータ20と、二次電池28の充電状態を検出する電池監視ユニット29と、要求駆動力又は走行路の上り側の路面勾配が大きい状態で低速走行する場合に、二次電池28の充電状態がその速やかな充電を必要としなければ、第1速ギヤ段41を介した内燃機関10の動力による走行モードに設定し、二次電池28の充電状態がその速やかな充電を必要とする状態ならば、第2変速機構50の第2速ギヤ段52を介した内燃機関10の動力で走行させ且つモータ/ジェネレータ20に電力を回生させる走行モードに設定する走行モード設定手段(電子制御装置100)と、を備えること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力源としての原動機及び電動機とデュアルクラッチ式変速機とを備えたハイブリッド車両に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両用変速機の分野においては、動力源からの動力を途切れることなく駆動力として車輪に伝達させる所謂デュアルクラッチ式変速機(DCT:デュアルクラッチトランスミッション)というものが知られている。そのデュアルクラッチ式変速機は、大別すると、奇数の変速段(以下、「奇数段」という。)で構成された第1変速機構と、偶数の変速段(以下、「偶数段」という。)で構成された第2変速機構と、動力源と第1変速機構との間に介在して動力源からの動力を第1変速機構に伝達させ又は当該動力の伝達を遮断させる第1クラッチと、動力源と第2変速機構との間に介在して動力源からの動力を第2変速機構に伝達させ又は当該動力の伝達を遮断させる第2クラッチと、によって構成されている。このデュアルクラッチ式変速機は、一方のクラッチが係合しているときに他方のクラッチを解放させたまま当該他方のクラッチに係る変速機構の変速段を同調(シンクロ)した状態で待機させておき、その一方のクラッチの解放と共に他方のクラッチを係合して、動力を途切れることなく駆動力として車輪に伝達させる。
【0003】
例えば、下記の特許文献1には、デュアルクラッチ式変速機が搭載されたハイブリッド車両について開示されている。この特許文献1のハイブリッド車両は、動力源としての原動機(エンジン)及び電動機(モータ/ジェネレータ)と、そのエンジンの動力を第1又は第2の変速機構で変速して車輪に伝えることが可能で且つそのモータ/ジェネレータの電動機としての動力を第1変速機構で変速して車輪に伝えることが可能なデュアルクラッチ式変速機と、を備えている。
【0004】
この種のハイブリッド車両には、その走行モードとして、一般に、第1又は第2の変速機構を介してエンジンの動力のみで車輪に駆動力を発生させる原動機走行モードと、第1変速機構を介してモータ/ジェネレータの動力のみで車輪に駆動力を発生させる電動機走行モードと、エンジンの動力とモータ/ジェネレータの動力の双方を利用して車輪に駆動力を発生させる原動機・電動機走行モードと、が用意されている。また、このハイブリッド車両の走行モードとしては、原動機走行モードにおいてモータ/ジェネレータを発電機として作動させる発電モードを備えたものもある。
【0005】
尚、下記の特許文献2には、ナビゲーションシステムを用いて予定走行路における走行条件に関する情報を取得し、その走行条件に基づきその予定走行路を走行する際のエンジン及びモータ/ジェネレータの運転量を試算して、その運転量に従ってバッテリ(二次電池)の充電量の制御を行うハイブリッド車両について記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開2005−147312号公報
【特許文献2】特開2001−197608号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述したが如きデュアルクラッチ式変速機を有するハイブリッド車両においてモータ/ジェネレータが第1速ギヤ段を備える変速機構に接続されている場合、低速走行時に大きな駆動力を発生させた状態で発電モードを利用できるのは、原動機走行モードにおいてモータ/ジェネレータとの直接的な接続の無い他方の変速機構の第2速ギヤ段が選択されているときである。ここで、原動機走行モードでの走行時に発電モードが利用された場合には、エンジンの動力が全て車輪の駆動力として利用されるのではなく、その動力の一部が発電の為に使用される。つまり、この場合には、エンジンの動力から発電モードでの発電分を差し引いた大きさの動力に基づいた駆動力しか車輪に伝達されない。その発電分は、二次電池の充電状態が低下している(つまり蓄電量が少なくなっている)ほどに大きくなる。従って、かかる運転条件を低速走行時に行ったときには、第1速ギヤ段での原動機走行モード時よりも車輪における最大駆動力が大きく減少しているので、二次電池の充電状態が低下していると、車両の走行性能(駆動性能)が低下してしまい、特に急勾配の登坂時には平坦路走行時よりも多くの駆動力が必要とされることから、登坂性能を向上させる為の対策が必要となる。
【0008】
そこで、本発明は、かかる従来例の有する不都合を改善し、二次電池の充電状態の低下を抑えつつ走行路に応じた適切な駆動力を駆動輪に伝えることのできるハイブリッド車両を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する為、請求項1記載の発明では、出力軸から原動機トルクを出力する原動機と、この原動機の原動機トルクが伝達される第1入力軸及び当該第1入力軸に入力された入力トルクの変速を行う第1速ギヤ段を含む複数種類の変速段からなる第1変速段群を備え、その第1入力軸の入力トルクを第1変速段群の内の何れか1つの変速段により変速して出力する第1変速機構と、原動機の原動機トルクが伝達される第2入力軸及び当該第2入力軸に入力された入力トルクの変速を行う第2速ギヤ段を含む複数種類の変速段からなる第2変速段群を備え、その第2入力軸の入力トルクを第2変速段群の内の何れか1つの変速段により変速して出力する第2変速機構と、原動機の出力軸と第1変速機構の第1入力軸との間を係合又はこれらの間の係合を解放させる第1クラッチと、原動機の出力軸と第2変速機構の第2入力軸との間を係合又はこれらの間の係合を解放させる第2クラッチと、第1変速機構における変速後の出力トルクと第2変速機構における変速後の出力トルクを駆動輪に向けて伝達するトルク伝達手段と、ロータに連結された回転軸が第1速ギヤ段を有する第1変速機構の第1入力軸に係合され、電動機又は発電機として作動するモータ/ジェネレータと、第1変速段群の中から1つの変速段を選択して当該変速段での変速動作を実行可能な状態にし、第2変速段群の中から1つの変速段を選択して当該変速段での変速動作を実行可能な状態にする変速制御手段と、第1及び第2のクラッチに対して係合動作と係合の解放動作を実行させるクラッチ制御手段と、モータ/ジェネレータを電動機として作動させることで電動機トルクを出力させ又は発電機として作動させることで電力の回生を行わせる若しくは駆動輪に制動力を加える回生制動を行わせるモータ/ジェネレータ制御手段と、を備えている。そして、この請求項1記載の発明には、更に、モータ/ジェネレータの回生電力によって充電される二次電池の充電状態を検出する充電状態検出手段と、要求駆動力又は走行路の上り側の路面勾配が大きい状態で低速走行する場合に、二次電池の充電状態が当該二次電池の速やかな充電を必要としない状態であれば、第1速ギヤ段を介して原動機トルクを駆動輪側に伝達させる走行モードに設定し、二次電池の充電状態が当該二次電池の速やかな充電を必要とする状態であれば、第2速ギヤ段を介して原動機トルクを駆動輪側に伝達させ且つ当該原動機トルクの一部でモータ/ジェネレータに電力の回生を行わせる走行モードに設定する走行モード設定手段と、を設けている。
【0010】
この請求項1記載のハイブリッド車両は、要求駆動力又は走行路の上り側の路面勾配が大きい状態で低速走行する場合に、二次電池が速やかな充電を必要としていなければ、その要求駆動力又は走行路の上り側の路面勾配に応じた駆動力を駆動輪に第1速ギヤ段を介して発生させることができる。一方、このハイブリッド車両は、二次電池の速やかな充電を必要とするならば、できる限り大きな駆動力を駆動輪に発生させながらモータ/ジェネレータの電力の回生によって二次電池を充電できる。
【0011】
また、上記目的を達成する為、請求項2記載の発明では、上記請求項1記載のハイブリッド車両において、走行モード設定手段を次のように構成している。この請求項2記載の走行モード設定手段は、要求駆動力又は走行路の路面勾配が小さい状態で低速走行する場合に、先ず、二次電池の充電状態が必要蓄電量を満たしている状態であれば、要求駆動力又は走行路の路面勾配に応じた駆動力を発生させる走行モードに設定するよう構成している。また、この走行モード設定手段は、その場合の二次電池の充電状態が当該二次電池の速やかな充電までは必要としないが必要とあれば当該二次電池を充電できる状態ならば、要求駆動力若しくは走行路の路面勾配に応じた駆動力を発生させる走行モード又は要求駆動力若しくは走行路の路面勾配に応じた駆動力を原動機トルクにより発生させ且つ当該原動機トルクの一部でモータ/ジェネレータに電力の回生を行わせる走行モードに設定するよう構成している。また、この走行モード設定手段は、その場合の二次電池の充電状態が当該二次電池の速やかな充電を必要とする状態であれば、要求駆動力若しくは走行路の路面勾配に応じた駆動力を原動機トルクにより発生させ且つ当該原動機トルクの一部でモータ/ジェネレータに電力の回生を行わせる走行モードに設定するよう構成している。
【0012】
この請求項2記載のハイブリッド車両は、要求駆動力又は走行路の路面勾配が小さい状態で低速走行する場合に、二次電池の充電状態が必要蓄電量を満たしていれば、その要求駆動力又は走行路の路面勾配に応じた駆動力を駆動輪に発生させることができる。更に、このハイブリッド車両は、二次電池の充電状態が当該二次電池の速やかな充電までは必要としないが必要とあれば当該二次電池を充電できる状態のときに、要求駆動力又は走行路の路面勾配に応じた駆動力の発生のみを求めるならば、その必要とされる駆動力を駆動輪に発生させることができ、また、二次電池の充電をも求めるならば、必要とされる駆動力を駆動輪に発生させながらモータ/ジェネレータの電力の回生によって二次電池を充電することができる。また更に、このハイブリッド車両は、二次電池の充電状態が当該二次電池の速やかな充電を必要とする状態であれば、必要とされる駆動力又は可能な限り要求値に近い駆動力を駆動輪に発生させながらモータ/ジェネレータの電力の回生によって二次電池を充電することができる。
【0013】
また、上記目的を達成する為、請求項3記載の発明では、上記請求項1又は2に記載のハイブリッド車両において、二次電池の充電状態の状態判定に用いる閾値を走行路の路面勾配に基づき変更している。
【0014】
この請求項3記載のハイブリッド車両は、低めの閾値を設定することによって、原動機の動作を止めてモータ/ジェネレータの動力のみで走行できるようになるので、燃費の悪化を防ぐことができる。一方、閾値を高い値に設定した場合には、二次電池の充電が行われやすいので、その二次電池の充電状態の低下を抑制しやすくなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るハイブリッド車両は、低速走行時に二次電池の充電状態や要求駆動力(又は走行路の路面勾配)に従った最適な走行モードを設定するので、低速走行時における二次電池の充電状態の低下を最小限に抑えつつ、走行路、即ち要求駆動力(又は路面勾配)に応じた駆動力を駆動輪に発生させて低速走行することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明に係るハイブリッド車両の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。尚、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0017】
本発明に係るハイブリッド車両の実施例を図1から図10に基づいて説明する。本発明に係るハイブリッド車両は、動力源としての原動機及び電動機と、その動力源の動力を駆動力として駆動輪に伝えるデュアルクラッチ式変速機を有する動力伝達装置と、を備えている。図1の符号1は、本実施例のハイブリッド車両を示す。
【0018】
最初に、本実施例のハイブリッド車両1の構成について図1を用いて説明する。
【0019】
このハイブリッド車両1には、原動機トルクを発生させる動力源としての原動機(ここでは機関トルクを発生させる内燃機関を例示する)10と、電動機トルクを発生させるもう一つの動力源たるモータ/ジェネレータ20と、その内燃機関10やモータ/ジェネレータ20の動力(原動機トルクや電動機トルク)を駆動力として左右夫々の駆動輪WL,WRに伝える動力伝達装置(後述する複数の変速段からなるデュアルクラッチ式変速機30や最終減速装置70)と、が設けられている。
【0020】
また、このハイブリッド車両1には、その内燃機関10,モータ/ジェネレータ20及びデュアルクラッチ式変速機30の動作を制御する電子制御装置(ECU)100が設けられている。その電子制御装置100は、図示しないCPU(中央演算処理装置),所定の制御プログラム等を予め記憶しているROM(Read Only Memory),そのCPUの演算結果を一時記憶するRAM(Random Access Memory),予め用意された情報等を記憶するバックアップRAM等で構成されている。
【0021】
内燃機関10は、燃焼室内で燃料を燃焼させ、これにより発生した熱エネルギを機械的エネルギに変換する熱機関である。ここでは、図示しないピストンの往復運動によって出力軸(クランクシャフト)11から機械的な動力を出力する往復ピストン機関について例示する。この内燃機関10には図示しない燃料噴射装置及び点火装置が設けられており、これら燃料噴射装置及び点火装置は、その動作が電子制御装置100の機関制御手段によって制御される。その機関制御手段は、燃料噴射装置の燃料噴射量や燃料噴射時期等を制御すると共に、点火装置の点火時期を制御して、内燃機関10の出力軸11から出力される機械的な動力(つまり機関トルク)の大きさを調整する。また、その際、内燃機関10が図示しない電子制御式のスロットル装置や吸気バルブ及び排気バルブの駆動装置を備えているならば、機関制御手段は、そのスロットル装置のスロットルバルブの開度制御、吸気バルブ及び排気バルブの開閉時期制御やリフト量制御を行って、機械的な動力の大きさの調整を行う。更に、この内燃機関10には、出力軸11の回転角度(クランク角)の検出を行うクランク角センサ12が用意されている。そのクランク角センサ12は、検出信号を電子制御装置100に送信し、電子制御装置100は、その検出信号に基づいて機関回転数Neの演算を行う。
【0022】
モータ/ジェネレータ20は、供給された電力を機械的な動力(つまり電動機トルク)に変換して出力する電動機としての機能と、入力された機械的な動力を電力に変換して回収する発電機としての機能と、を兼ね備えている。このモータ/ジェネレータ20は、例えば永久磁石型交流同期電動機として構成されており、インバータ27から三相の交流電力が供給されて回転磁界を形成するステータ21と、その回転磁界に引き付けられて回転する回転子としてのロータ22と、を有している。このモータ/ジェネレータ20においては、ロータ22の回転角位置を検出する図示しない回転センサ(レゾルバ)が設けられており、その回転センサが検出信号を電子制御装置100に送信する。
【0023】
本実施例においては、歯車対23を介してモータ/ジェネレータ20の機械的な動力(電動機トルク)を後述する第1変速機構40に入力させる一方、その歯車対23を介して第1変速機構40からの機械的な動力に係るトルクをモータ/ジェネレータ20に入力させるように構成する。その歯車対23は、互いに噛み合い状態にある第1ギヤ23aと第2ギヤ23bとで構成する。その第1ギヤ23aは、ロータ22と一体になって回転できるようロータ22に連結された回転軸(つまりモータ/ジェネレータ20の出力軸)24に取り付ける。一方、第2ギヤ23bは、その第1ギヤ23aよりも大径に成形し、第1変速機構40の入力軸42と一体になって回転できるよう当該入力軸42に取り付ける。つまり、この歯車対23は、ロータ22の回転軸24の回転と第1変速機構40の入力軸42の回転を連動させるべく当該回転軸24と入力軸42との係合状態を作り出すものであり、ロータ22側から回転トルクが入力されることによって減速手段として作動する一方、第1変速機構40の入力軸42側から回転トルクが入力されることによって増速手段として作動する。従って、このモータ/ジェネレータ20は、電動機として作動させることによって、ロータ22から出力された電動機トルクを減速手段として機能する歯車対23を介して第1変速機構40に伝える。また、このモータ/ジェネレータ20は、発電機として作動させることによって、増速手段として機能する歯車対23を介して第1変速機構40の入力軸42からの出力トルクがロータ22に伝達される。
【0024】
ここで、二次電池28からの直流電力は、インバータ27で交流電力に変換してモータ/ジェネレータ20に供給することができる。その交流電力が供給されたモータ/ジェネレータ20は、電動機として作動して、ロータ22の回転軸24から機械的な動力(電動機トルク)を出力する。一方、このモータ/ジェネレータ20を発電機として作動させた際には、このモータ/ジェネレータ20からの交流電力をインバータ27で直流電力に変換して二次電池28に回収する(つまり電力の回生を行う)又は電力の回生を行いつつ駆動輪WL,WRに制動力を加える(つまり回生制動を行う)ことができる。その際、このモータ/ジェネレータ20は、第1変速機構40の入力軸42から出力された機械的な動力(出力トルク)が歯車対23を介してロータ22に入力されると、かかる入力トルクを交流電力に変換する。そのインバータ27の動作は、電子制御装置100のモータ/ジェネレータ制御手段によって制御される。
【0025】
また、このハイブリッド車両1には、その二次電池28の充電状態(SOC:state of charge)を検出する電池監視ユニット(充電状態検出手段)29が設けられている。その電池監視ユニット29は、検出した二次電池28の充電状態に係る信号(換言するならば、充電状態量(SOC量)に関する信号)を電子制御装置100に送信する。その電子制御装置100には、その信号に基づいて二次電池28の充電状態の判定を行い、その二次電池28の充電の要否を判定する電池制御手段が用意されている。
【0026】
動力伝達装置は、前述したように内燃機関10やモータ/ジェネレータ20の動力(機関トルクや電動機トルク)を駆動力として左右夫々の駆動輪WL,WRに伝えるものであって、その動力に係る出力トルクをデュアルクラッチ式変速機30及び最終減速装置70で変速及び減速して大きさを変化させ、左右夫々の駆動輪WL,WRに連結された駆動軸(ドライブシャフト)DL,DRに出力するものである。
【0027】
ここで例示するデュアルクラッチ式変速機30は、前進5段、後退1段の変速段を有するものであって、前進用の変速段として第1速ギヤ段41,第2速ギヤ段52,第3速ギヤ段43,第4速ギヤ段54及び第5速ギヤ段45を備え、且つ、後退用の変速段として後退ギヤ段59を備えている。前進用の変速段は、変速比が第1速ギヤ段41,第2速ギヤ段52,第3速ギヤ段43,第4速ギヤ段54,第5速ギヤ段45の順に小さくなるよう構成している。
【0028】
このデュアルクラッチ式変速機30には、複数種類の変速段からなる第1変速段群を有する第1変速機構40と、これらとは異なる複数種類の変速段からなる第2変速段群を有する第2変速機構50と、第1クラッチ61又は第2クラッチ62の内の何れか1つを用いて内燃機関10の出力軸11からの機械的な動力(機関トルク)を第1変速機構40又は第2変速機構50の内の何れか1つに伝達するデュアルクラッチ機構60と、が設けられている。
【0029】
先ず、第1変速機構40について詳述する。この第1変速機構40は、各々の変速段に応じた複数の歯車対を備える平行軸歯車装置として構成されたものであり、第1変速段群として奇数段の第1速ギヤ段41,第3速ギヤ段43及び第5速ギヤ段45を備えている。この第1変速機構40は、入力軸42に入力された入力トルクを第1変速段群(第1速ギヤ段41,第3速ギヤ段43又は第5速ギヤ段45)の内の何れか1つの変速段を用いて変速し、それをデュアルクラッチ式変速機30の出力軸31に向けて出力する。
【0030】
この第1変速機構40の入力軸42には、その一端側にデュアルクラッチ機構60の第1クラッチ61が連結され、他端側に前述したように歯車対23を介してモータ/ジェネレータ20が連結されている。従って、その入力軸42には、第1クラッチ61を介して内燃機関10の機械的な動力(機関トルク)を入力することができ、また、歯車対23を介してモータ/ジェネレータ20の機械的な動力(電動機トルク)を入力することができる。つまり、この第1変速機構40の入力軸42への入力トルクとしては、第1クラッチ61を介した内燃機関10の機関トルクと、歯車対23を介したモータ/ジェネレータ20の電動機トルクと、が該当する。
【0031】
第1速ギヤ段41は、互いに噛み合い状態にある第1速メインギヤ41aと第1速カウンタギヤ41cの歯車対で構成する。その第1速メインギヤ41aは、第1変速機構40の入力軸42と一体になって回転できるよう当該入力軸42に取り付ける。一方、第1速カウンタギヤ41cは、第1変速機構40の出力軸44に対して相対回転できるよう当該出力軸44に取り付ける。その入力軸42と出力軸44は、所定の間隔を空けて平行に配置されている。
【0032】
ここで、第1変速機構40には、相対回転し得る第1速カウンタギヤ41cと出力軸44とが一体になって回転できるよう必要に応じてこれらを係合させる第1速カップリング機構41dを備えている。その第1速カップリング機構41dは、第1速カウンタギヤ41cと出力軸44とが一体回転するように係合させる係合状態と、その第1速カウンタギヤ41cと出力軸44とが相対回転するように解放(非係合)させる解放状態(非係合状態)と、の切り替えができるように構成されている。この第1速カップリング機構41dは、その作動形態の切り替えが図示しないアクチュエータを介して電子制御装置100の変速制御手段に制御される。その変速制御手段は、第1速ギヤ段41が選択されたならば、第1速カップリング機構41dを係合状態となるように作動させて第1速ギヤ段41での変速動作が実行できるようにし、それ以外の変速段が選択されたならば、第1速ギヤ段41での変速動作を回避すべく第1速カップリング機構41dを解放状態(非係合状態)となるように作動させる。
【0033】
デュアルクラッチ式変速機30において第1速ギヤ段41が選択された場合、電子制御装置100の変速制御手段は、第1速カウンタギヤ41cと出力軸44とが係合状態となるように第1速カップリング機構41dを作動させる。これにより、このデュアルクラッチ式変速機30においては、第1変速機構40の入力軸42における回転トルク(入力トルク)が第1速メインギヤ41aと第1速カウンタギヤ41cを介して出力軸44に伝わる。つまり、この場合には、入力軸42の回転トルクを第1速ギヤ段41で変速して変化させた回転トルク(出力トルク)が出力軸44に伝達される。
【0034】
第3速ギヤ段43は、互いに噛み合い状態にある第3速メインギヤ43aと第3速カウンタギヤ43cの歯車対で構成する。その第3速メインギヤ43aは、第1変速機構40の入力軸42と一体になって回転できるよう当該入力軸42に取り付ける。一方、第3速カウンタギヤ43cは、第1変速機構40の出力軸44に対して相対回転できるよう当該出力軸44に取り付ける。
【0035】
ここで、第1変速機構40には、相対回転し得る第3速カウンタギヤ43cと出力軸44とが一体になって回転できるよう必要に応じてこれらを係合させる第3速カップリング機構43dを備えている。その第3速カップリング機構43dは、第3速カウンタギヤ43cと出力軸44とが一体回転するように係合させる係合状態と、その第3速カウンタギヤ43cと出力軸44とが相対回転するように解放(非係合)させる解放状態(非係合状態)と、の切り替えができるように構成されている。この第3速カップリング機構43dは、その作動形態の切り替えが図示しないアクチュエータを介して電子制御装置100の変速制御手段に制御される。その変速制御手段は、第3速ギヤ段43が選択されたならば、第3速カップリング機構43dを係合状態となるように作動させて第3速ギヤ段43での変速動作が実行できるようにし、それ以外の変速段が選択されたならば、第3速ギヤ段43での変速動作を回避すべく第3速カップリング機構43dを解放状態(非係合状態)となるように作動させる。
【0036】
デュアルクラッチ式変速機30において第3速ギヤ段43が選択された場合、電子制御装置100の変速制御手段は、第3速カウンタギヤ43cと出力軸44とが係合状態となるように第3速カップリング機構43dを作動させる。これにより、このデュアルクラッチ式変速機30においては、第1変速機構40の入力軸42における回転トルク(入力トルク)が第3速メインギヤ43aと第3速カウンタギヤ43cを介して出力軸44に伝わる。つまり、この場合には、入力軸42の回転トルクを第3速ギヤ段43で変速して変化させた回転トルク(出力トルク)が出力軸44に伝達される。
【0037】
第5速ギヤ段45は、互いに噛み合い状態にある第5速メインギヤ45aと第5速カウンタギヤ45cの歯車対で構成する。その第5速メインギヤ45aは、第1変速機構40の入力軸42と一体になって回転できるよう当該入力軸42に取り付ける。一方、第5速カウンタギヤ45cは、第1変速機構40の出力軸44に対して相対回転できるよう当該出力軸44に取り付ける。
【0038】
ここで、第1変速機構40には、相対回転し得る第5速カウンタギヤ45cと出力軸44とが一体になって回転できるよう必要に応じてこれらを係合させる第5速カップリング機構45dを備えている。その第5速カップリング機構45dは、第5速カウンタギヤ45cと出力軸44とが一体回転するように係合させる係合状態と、その第5速カウンタギヤ45cと出力軸44とが相対回転するように解放(非係合)させる解放状態(非係合状態)と、の切り替えができるように構成されている。この第5速カップリング機構45dは、その作動形態の切り替えが図示しないアクチュエータを介して電子制御装置100の変速制御手段に制御される。その変速制御手段は、第5速ギヤ段45が選択されたならば、第5速カップリング機構45dを係合状態となるように作動させて第5速ギヤ段45での変速動作が実行できるようにし、それ以外の変速段が選択されたならば、第5速ギヤ段45での変速動作を回避すべく第5速カップリング機構45dを解放状態(非係合状態)となるように作動させる。
【0039】
デュアルクラッチ式変速機30において第5速ギヤ段45が選択された場合、電子制御装置100の変速制御手段は、第5速カウンタギヤ45cと出力軸44とが係合状態となるように第5速カップリング機構45dを作動させる。これにより、このデュアルクラッチ式変速機30においては、第1変速機構40の入力軸42における回転トルク(入力トルク)が第5速メインギヤ45aと第5速カウンタギヤ45cを介して出力軸44に伝わる。つまり、この場合には、入力軸42の回転トルクを第5速ギヤ段45で変速して変化させた回転トルク(出力トルク)が出力軸44に伝達される。
【0040】
この第1変速機構40の出力軸44には、この出力軸44と一体になって回転できるように第1駆動ギヤ44aが取り付けられている。また、その第1駆動ギヤ44aは、デュアルクラッチ式変速機30の出力軸31と一体になって回転する動力統合ギヤ32に噛み合わされている。従って、そのデュアルクラッチ式変速機30の出力軸31には、第1駆動ギヤ44aと動力統合ギヤ32のギヤ比に応じて変化させた第1変速機構40の出力軸44の回転トルク(出力トルク)が伝達される。その第1駆動ギヤ44a、動力統合ギヤ32及び出力軸31は、後述する最終減速装置70や駆動軸DL,DRと共に、第1変速機構40における変速後の出力トルクを駆動輪WL,WRに向けて伝達するトルク伝達手段を成す。
【0041】
次に、第2変速機構50について詳述する。この第2変速機構50は、第1変速機構40と同じように各々の変速段に応じた複数の歯車対を備える平行軸歯車装置として構成されたものであり、偶数段の第2速ギヤ段52及び第4速ギヤ段54と後退ギヤ段59とを第2変速段群として備えている。この第2変速機構50は、入力軸51に入力された入力トルクを第2変速段群(第2速ギヤ段52,第4速ギヤ段54又は後退ギヤ段59)の内の何れか1つの変速段を用いて変速し、それをデュアルクラッチ式変速機30の出力軸31に向けて出力する。
【0042】
この第2変速機構50の入力軸51には、その一端側にデュアルクラッチ機構60の第2クラッチ62が連結されている。従って、その入力軸51には、第2クラッチ62を介して内燃機関10の機械的な動力(機関トルク)を入力することができる。つまり、この第2変速機構50への入力トルクとしては、第2クラッチ62を介した内燃機関10の機関トルクが該当する。
【0043】
第2速ギヤ段52は、互いに噛み合い状態にある第2速メインギヤ52aと第2速カウンタギヤ52cの歯車対で構成する。その第2速メインギヤ52aは、第2変速機構50の入力軸51と一体になって回転できるよう当該入力軸51に取り付ける。一方、第2速カウンタギヤ52cは、第2変速機構50の出力軸53に対して相対回転できるよう当該出力軸53に取り付ける。その入力軸51と出力軸53は、所定の間隔を空けて平行に配置されている。
【0044】
ここで、第2変速機構50には、相対回転し得る第2速カウンタギヤ52cと出力軸53とが一体になって回転できるよう必要に応じてこれらを係合させる第2速カップリング機構52dを備えている。その第2速カップリング機構52dは、第2速カウンタギヤ52cと出力軸53とが一体回転するように係合させる係合状態と、その第2速カウンタギヤ52cと出力軸53とが相対回転するように解放(非係合)させる解放状態(非係合状態)と、の切り替えができるように構成されている。この第2速カップリング機構52dは、その作動形態の切り替えが図示しないアクチュエータを介して電子制御装置100の変速制御手段に制御される。その変速制御手段は、第2速ギヤ段52が選択されたならば、第2速カップリング機構52dを係合状態となるように作動させて第2速ギヤ段52での変速動作が実行できるようにし、それ以外の変速段が選択されたならば、第2速ギヤ段52での変速動作を回避すべく第2速カップリング機構52dを解放状態(非係合状態)となるように作動させる。
【0045】
デュアルクラッチ式変速機30において第2速ギヤ段52が選択された場合、電子制御装置100の変速制御手段は、第2速カウンタギヤ52cと出力軸53とが係合状態となるように第2速カップリング機構52dを作動させる。これにより、このデュアルクラッチ式変速機30においては、第2変速機構50の入力軸51における回転トルク(入力トルク)が第2速メインギヤ52aと第2速カウンタギヤ52cを介して出力軸53に伝わる。つまり、この場合には、入力軸51の回転トルクを第2速ギヤ段52で変速して変化させた回転トルク(出力トルク)が出力軸53に伝達される。
【0046】
第4速ギヤ段54は、互いに噛み合い状態にある第4速メインギヤ54aと第4速カウンタギヤ54cの歯車対で構成する。その第4速メインギヤ54aは、第2変速機構50の入力軸51と一体になって回転できるよう当該入力軸51に取り付ける。一方、第4速カウンタギヤ54cは、第2変速機構50の出力軸53に対して相対回転できるよう当該出力軸53に取り付ける。
【0047】
ここで、第2変速機構50には、相対回転し得る第4速カウンタギヤ54cと出力軸53とが一体になって回転できるよう必要に応じてこれらを係合させる第4速カップリング機構54dを備えている。その第4速カップリング機構54dは、第4速カウンタギヤ54cと出力軸53とが一体回転するように係合させる係合状態と、その第4速カウンタギヤ54cと出力軸53とが相対回転するように解放(非係合)させる解放状態(非係合状態)と、の切り替えができるように構成されている。この第4速カップリング機構54dは、その作動形態の切り替えが図示しないアクチュエータを介して電子制御装置100の変速制御手段に制御される。その変速制御手段は、第4速ギヤ段54が選択されたならば、第4速カップリング機構54dを係合状態となるように作動させて第4速ギヤ段54での変速動作が実行できるようにし、それ以外の変速段が選択されたならば、第4速ギヤ段54での変速動作を回避すべく第4速カップリング機構54dを解放状態(非係合状態)となるように作動させる。
【0048】
デュアルクラッチ式変速機30において第4速ギヤ段54が選択された場合、電子制御装置100の変速制御手段は、第4速カウンタギヤ54cと出力軸53とが係合状態となるように第4速カップリング機構54dを作動させる。これにより、このデュアルクラッチ式変速機30においては、第2変速機構50の入力軸51における回転トルク(入力トルク)が第4速メインギヤ54aと第4速カウンタギヤ54cを介して出力軸53に伝わる。つまり、この場合には、入力軸51の回転トルクを第4速ギヤ段54で変速して変化させた回転トルク(出力トルク)が出力軸53に伝達される。
【0049】
後退ギヤ段59は、後退メインギヤ59aと後退中間ギヤ59bと後退カウンタギヤ59cとで構成する。その後退メインギヤ59aは、第2変速機構50の入力軸51と一体になって回転できるよう当該入力軸51に取り付ける。後退中間ギヤ59bは、後退メインギヤ59a及び後退カウンタギヤ59cと噛み合い状態にあり、第2変速機構50の入力軸51や出力軸53とは別の回転軸59fと一体になって回転できるよう当該回転軸59fに取り付ける。後退カウンタギヤ59cは、第2変速機構50の出力軸53に対して相対回転できるよう当該出力軸53に取り付ける。
【0050】
ここで、第2変速機構50には、相対回転し得る後退カウンタギヤ59cと出力軸53とが一体になって回転できるよう必要に応じてこれらを係合させる後退カップリング機構59dを備えている。その後退カップリング機構59dは、後退カウンタギヤ59cと出力軸53とが一体回転するように係合させる係合状態と、その後退カウンタギヤ59cと出力軸53とが相対回転するように解放(非係合)させる解放状態(非係合状態)と、の切り替えができるように構成されている。この後退カップリング機構59dは、その作動形態の切り替えが図示しないアクチュエータを介して電子制御装置100の変速制御手段に制御される。その変速制御手段は、後退ギヤ段59が選択されたならば、後退カップリング機構59dを係合状態となるように作動させて後退ギヤ段59での変速動作が実行できるようにし、それ以外の変速段が選択されたならば、後退ギヤ段59での変速動作を回避すべく後退カップリング機構59dを解放状態(非係合状態)となるように作動させる。
【0051】
デュアルクラッチ式変速機30において後退ギヤ段59が選択された場合、電子制御装置100の変速制御手段は、後退カウンタギヤ59cと出力軸53とが係合状態となるように後退カップリング機構59dを作動させる。これにより、このデュアルクラッチ式変速機30においては、第2変速機構50の入力軸51における回転トルク(入力トルク)が後退メインギヤ59aと後退中間ギヤ59bと後退カウンタギヤ59cを介して出力軸53に伝わる。つまり、この場合には、入力軸51の回転トルクを後退ギヤ段59で変速して変化させた回転トルク(出力トルク)が出力軸53に伝達される。
【0052】
この第2変速機構50の出力軸53には、この出力軸53と一体になって回転できるように第2駆動ギヤ53aが取り付けられている。また、その第2駆動ギヤ53aは、前述した動力統合ギヤ32に噛み合わされている。従って、デュアルクラッチ式変速機30の出力軸31には、第2駆動ギヤ53aと動力統合ギヤ32のギヤ比に応じて変化させた第2変速機構50の出力軸53の回転トルク(出力トルク)が伝達される。その第2駆動ギヤ53a、動力統合ギヤ32及び出力軸31は、後述する最終減速装置70や駆動軸DL,DRと共に、第2変速機構50における変速後の出力トルクを駆動輪WL,WRに向けて伝達するトルク伝達手段を成す。
【0053】
次に、デュアルクラッチ機構60について詳述する。このデュアルクラッチ機構60は、前述したように、第1クラッチ61又は第2クラッチ62の内の何れか1つを用いて内燃機関10の機械的な動力(機関トルク)を第1変速機構40又は第2変速機構50の内の何れか1つに伝達させるものである。
【0054】
先ず、第1クラッチ61は、内燃機関10の出力軸11と第1変速機構40の入力軸42とを係合させる係合状態と、その出力軸11と入力軸42とを係合状態から解放(非係合)させる解放状態(非係合状態)と、の切り替えができるように構成された摩擦クラッチ装置である。ここで言う係合状態とは、その出力軸11と入力軸42との間でトルクの伝達をし得る状態のことであり、解放状態(非係合状態)とは、その出力軸11と入力軸42との間でのトルクの伝達が行えない状態のことである。
【0055】
例えば、この第1クラッチ61としては、乾式又は湿式の単板クラッチ又は多板クラッチを使用すればよい。ここでは、円板状の摩擦板を有し、その摩擦板の摩擦力により内燃機関10の機械的な動力(機関トルク)を第1変速機構40に伝達する摩擦式ディスククラッチを用いる。この第1クラッチ61は、係合動作を行って内燃機関10の出力軸11と第1変速機構40の入力軸42とを係合状態にすることで、その出力軸11から伝わってきた機械的な動力(機関トルク)を入力軸42に伝達する。これにより、第1変速機構40においては、その機械的な動力(機関トルク)が第1速ギヤ段41、第3速ギヤ段43又は第5速ギヤ段45の内の何れかで変速されて出力軸44に伝わる。
【0056】
また、第2クラッチ62は、内燃機関10の出力軸11と第2変速機構50の入力軸51とを係合させる係合状態と、その出力軸11と入力軸51とを係合状態から解放(非係合)させる解放状態(非係合状態)と、の切り替えができるように構成された摩擦クラッチ装置である。ここで言う係合状態とは、その出力軸11と入力軸51との間でトルクの伝達をし得る状態のことであり、解放状態(非係合状態)とは、その出力軸11と入力軸51との間でのトルクの伝達が行えない状態のことである。
【0057】
例えば、この第2クラッチ62としては、第1クラッチ61と同様に、乾式又は湿式の単板クラッチ又は多板クラッチを使用すればよい。ここでは、円板状の摩擦板を有し、その摩擦板の摩擦力により内燃機関10の機械的な動力(機関トルク)を第2変速機構50に伝達する摩擦式ディスククラッチを用いる。この第2クラッチ62は、係合動作を行って内燃機関10の出力軸11と第2変速機構50の入力軸51とを係合状態にすることで、その出力軸11から伝わってきた機械的な動力(機関トルク)を入力軸51に伝達する。これにより、第2変速機構50においては、その機械的な動力(機関トルク)が第2速ギヤ段52、第4速ギヤ段54又は後退ギヤ段59の内の何れかで変速されて出力軸53に伝わる。
【0058】
第1クラッチ61と第2クラッチ62は、その作動形態の切り替えが夫々に図1に示すアクチュエータ61a,62aを介して電子制御装置100に制御される。その電子制御装置100は、第1クラッチ61又は第2クラッチ62の内の何れか一方のみを係合状態に切り替えて、他方を解放状態(非係合状態)に切り替えるクラッチ制御手段を備えている。これが為、デュアルクラッチ機構60は、内燃機関10の機械的な動力(機関トルク)を第1変速機構40又は第2変速機構50の内の何れか一方にのみ伝達させることができる。また、そのクラッチ制御手段は、第1クラッチ61と第2クラッチ62の双方を解放状態(非係合状態)に切り替えできるようにも構成されている。これが為、デュアルクラッチ機構60は、内燃機関10の機械的な動力(機関トルク)を第1変速機構40にも第2変速機構50にも伝えないようにすることが可能である。
【0059】
以下に、このデュアルクラッチ機構60の具体的な構造について図2を用いて詳述する。
【0060】
このデュアルクラッチ機構60は、第1クラッチ61を構成する環状又は円板状の摩擦板61bと、第2クラッチ62を構成する環状又は円板状の摩擦板62bと、これら夫々の摩擦板61b,62bを収容するクラッチハウジング63と、を備えている。そのクラッチハウジング63は、内燃機関10の出力軸11と同心円上に配置され、その出力軸11と結合状態にある。従って、このクラッチハウジング63は、内燃機関10の出力軸11と一体になって回転する。
【0061】
ここで、第1変速機構40の入力軸42と第2変速機構50の入力軸51は、図2に示す如く、同軸上に配置された2重軸構造になっている。ここでは、その第1変速機構40の入力軸42を中空軸として成形し、この入力軸42の内方に第2変速機構50の入力軸51を配設して相互に相対回転できるように構成している。その第2変速機構50の入力軸51は、その一端を第1変速機構40の入力軸42よりも内燃機関10の出力軸11側に向けて延伸させている。第1クラッチ61を成す摩擦板61bは、その第1変速機構40の入力軸42の一端に同心円上に取り付けられており、また、第2クラッチ62を成す摩擦板62bは、その第2変速機構50の入力軸51の一端に同心円上に取り付けられている。これら夫々の摩擦板61b,62bについても互いに相対回転を行う。
【0062】
尚、本実施例のデュアルクラッチ式変速機30においては、入力軸たる内燃機関10の出力軸11側から出力軸31側に向けて、第1変速機構40の第1速ギヤ段41、第3速ギヤ段43及び第5速ギヤ段45における第1速メインギヤ41a、第3速メインギヤ43a及び第5速メインギヤ45aが入力軸42上に配設され、次に、第2変速機構50の第2速ギヤ段52、第4速ギヤ段54及び後退ギヤ段59における第2速メインギヤ52a、第4速メインギヤ54a及び後退メインギヤ59aが入力軸51上に配設されている。
【0063】
第1クラッチ61は、上記の摩擦板61bに加えて、その摩擦板61bの摩擦材部分とは反対側の面に対向させて配置した摩擦板作動部材(図示略)と、この摩擦板作動部材を駆動させるアクチュエータ61aと、を備えている。電子制御装置100のクラッチ制御手段は、第1クラッチ61を係合状態に切り替える際、その摩擦板作動部材が摩擦板61bをクラッチハウジング63に押し付けるようにアクチュエータ61aを作動させる。これにより、この第1クラッチ61は、摩擦板61bの摩擦材部分とクラッチハウジング63とが摩擦力によって一体になるので、内燃機関10の出力軸11と第1変速機構40の入力軸42とを係合させ、その出力軸11における機械的な動力(機関トルク)を入力軸42に伝達させる。
【0064】
ここで、この第1クラッチ61は、出力軸11と入力軸42との間における係合の解放動作を行って解放状態(非係合状態)へと切り替える際に、そのアクチュエータ61aの作動を停止させ、反発力等で摩擦板61bをクラッチハウジング63から切り離す形態のものであってもよく、そのアクチュエータ61aを係合動作のときとは逆方向に作動させ、摩擦板作動部材を動かして摩擦板61bをクラッチハウジング63から切り離す形態のものであってもよい。
【0065】
第2クラッチ62は、上記の摩擦板62bに加えて、第1クラッチ61と同様の摩擦板作動部材(図示略)とアクチュエータ62aを備えている。電子制御装置100のクラッチ制御手段は、第2クラッチ62を係合状態に切り替える際、その摩擦板作動部材が摩擦板62bをクラッチハウジング63に押し付けるようにアクチュエータ62aを作動させる。これにより、この第2クラッチ62は、摩擦板62bの摩擦材部分とクラッチハウジング63とが摩擦力によって一体になるので、内燃機関10の出力軸11と第2変速機構50の入力軸51とを係合させ、その出力軸11における機械的な動力(機関トルク)を入力軸51に伝達させる。
【0066】
この第2クラッチ62は、第1クラッチ61と同様に、出力軸11と入力軸51との間における係合の解放動作を行って解放状態(非係合状態)へと切り替える際に、そのアクチュエータ62aの作動を停止させ、反発力等で摩擦板62bをクラッチハウジング63から切り離す形態のものであってもよく、そのアクチュエータ62aを係合状態のときとは逆方向に作動させ、摩擦板作動部材を動かして摩擦板62bをクラッチハウジング63から切り離す形態のものであってもよい。
【0067】
最終減速装置70は、デュアルクラッチ式変速機30の出力軸31から入力された入力トルクを減速して、左右夫々の駆動軸DL,DRに分配するものである。この最終減速装置70は、その出力軸31の端部に取り付けたピニオンギヤ71と、このピニオンギヤ71に噛み合い、このピニオンギヤ71の回転トルクを減速させつつ回転方向を直交方向へと変換するリングギヤ72と、このリングギヤ72を介して入力された回転トルクを左右夫々の駆動軸DL,DRに分配する差動機構73と、を備えている。
【0068】
また、このハイブリッド車両1においては、空気調和機の圧縮機81をモータ/ジェネレータ20のロータ22の回転によって作動させる。従って、その圧縮機81の回転軸82は、図1に示すように、そのロータ22に取り付けられている。
【0069】
更に、このハイブリッド車両1には、夫々の車輪に個別の大きさの制動力を発生させることが可能な制動装置90が設けられている。尚、ここでは駆動輪WL,WRを例に挙げて制動装置90の説明を行うが、その制動装置90は、図示しない従動輪においても駆動輪WL,WRと同様に構成されている。
【0070】
制動装置90は、運転者が操作するブレーキペダル91と、ブレーキペダル91に入力された運転者のブレーキ操作に伴う操作圧力(ペダル踏力)を所定の倍力比で倍化させる制動倍力手段(ブレーキブースタ)92と、この制動倍力手段92により倍化されたペダル踏力をブレーキペダル91の操作量に応じたブレーキ液圧(以下、「マスタシリンダ圧」という。)へと変換するマスタシリンダ93と、そのマスタシリンダ圧をそのまま又は車輪毎に調圧するブレーキ液圧調整手段(以下、「ブレーキアクチュエータ」という。)94と、このブレーキアクチュエータ94を経たブレーキ液圧が伝えられる駆動輪WL,WRのブレーキ液圧配管95L,95Rと、この各ブレーキ液圧配管95L,95Rのブレーキ液圧が各々供給されて夫々の駆動輪WL,WRに制動力を発生させる制動力発生手段96L,96Rと、によって構成される。
【0071】
そのブレーキアクチュエータ94は、例えば、図示しないオイルリザーバ、オイルポンプ、夫々のブレーキ液圧配管95L,95Rに対してのブレーキ液圧を各々に増減する為の増減圧制御弁等によって構成されている。このブレーキアクチュエータ94は、そのオイルポンプや増減圧制御弁等が制動装置用の電子制御装置(ブレーキECU)105の制動制御手段によって駆動制御される。
【0072】
制動力発生手段96L,96Rは、駆動輪WL,WRと一体になって回転する部材に対して摩擦力を加え、これにより駆動輪WL,WRの回転を抑えて制動動作を行う摩擦ブレーキ装置である。例えば、この制動力発生手段96L,96Rは、駆動輪WL,WRと一体になるよう取り付けたディスクロータ96aと、このディスクロータ96aに押し付けて摩擦力を発生させる摩擦材としてのブレーキパッド96bと、車両本体に固定され、ブレーキアクチュエータ94から供給されたブレーキ液圧によってブレーキパッド96bをディスクロータ96aに向けて押動するキャリパ96cと、を備えている。この制動力発生手段96L,96Rは、ブレーキアクチュエータ94から送られてきたマスタシリンダ圧又は調圧後のブレーキ液圧に応じた押圧力でブレーキパッド96bがディスクロータ96aに押し付けられる。従って、駆動輪WL,WRには、そのマスタシリンダ圧又は調圧後のブレーキ液圧に応じた大きさの制動力(制動トルク)が発生する。以下においては、そのマスタシリンダ圧によって発生する制動力、制動トルクのことを夫々「マスタシリンダ圧制動力」、「マスタシリンダ圧制動トルク」という。また、そのマスタシリンダ圧を加圧した調圧後のブレーキ液圧によって発生する制動力、制動トルクのことを夫々「加圧制動力」、「加圧制動トルク」という。
【0073】
制動制御手段は、例えば運転者のブレーキ操作量に基づいて駆動輪WL,WRの要求制動力(要求制動トルク)を設定する。そのブレーキ操作量とは、ブレーキペダル91に入力されたペダル踏力やブレーキペダル91の踏み込み量(つまり移動量)などであり、図1に示すブレーキ操作量検出手段97で検出する。そして、この制動制御手段は、マスタシリンダ圧制動力(マスタシリンダ圧制動トルク)が要求制動力(要求制動トルク)に対して不足していれば、その不足分を補うことが可能な各制動力発生手段96L,96Rへの目標ブレーキ液圧を求め、その目標ブレーキ液圧に基づきブレーキアクチュエータ94を制御してマスタシリンダ圧の加圧を行い、その要求制動力(要求制動トルク)を満足させる加圧制動力(加圧制動トルク)を制動力発生手段96L,96Rに発生させる。
【0074】
以上示したハイブリッド車両1において、電子制御装置100は、主として、その変速制御手段が一方の変速機構における要求変速段のカップリング機構を係合状態となるように作動させ、その要求変速段に対応するクラッチをクラッチ制御手段が係合させる。その際、この電子制御装置100は、変速制御手段が他方の変速機構における次の要求変速段のカップリング機構を係合状態となるように作動させ、かかる要求変速段に対応する他方のクラッチをクラッチ制御手段が解放させておく。この電子制御装置100は、次の要求変速段へと変速させるときに、クラッチ制御手段が現在の要求変速段に対応するクラッチを解放させると同時に、次の要求変速段に対応する他方のクラッチを係合させる。これにより、このハイブリッド車両1は、次の要求変速段への素早い変速が可能になり、内燃機関10の機械的な動力を途切れることなく駆動力として駆動輪WL,WRに伝え続けることができる。
【0075】
具体的に、第1変速機構40における第1速ギヤ段41、第3速ギヤ段43又は第5速ギヤ段45の中から要求変速段が選択された場合、電子制御装置100は、変速制御手段によってその要求変速段のカップリング機構(第1速カップリング機構41d、第3速カップリング機構43d又は第5速カップリング機構45d)を係合状態に制御し、且つ、クラッチ制御手段によって第1クラッチ61を係合状態となるように制御すると共に第2クラッチ62を解放状態に制御する。
【0076】
これにより、このハイブリッド車両1においては、内燃機関10の出力軸11の回転トルク(機関トルク)が半係合状態又は係合状態の第1クラッチ61を介して第1変速機構40の入力軸42にのみ伝わり、その入力軸42の回転トルクが要求変速段を介して変速されて第1変速機構40の出力軸44に伝達される。その半係合状態とは、摩擦板61bとクラッチハウジング63とがアクチュエータ61aの制御に伴い接触し、その摩擦板61bとクラッチハウジング63の回転(換言するならば、内燃機関10の出力軸11と第1変速機構40の入力軸42の回転)が同期するまでの状態を指す。これが為、ここで言う係合状態とは、その摩擦板61bとクラッチハウジング63の回転が同期してからの状態を指す。尚、第1クラッチ61の解放状態とは、摩擦板61bとクラッチハウジング63とが接触していない状態を指す。その解放状態、半係合状態及び係合状態については、第2クラッチ62においても同様である。そして、その出力軸44の回転トルク(第1変速機構40の出力トルク)は、第1駆動ギヤ44a、動力統合ギヤ32及び最終減速装置70を介して減速され、その最終減速装置70の差動機構73によって左右夫々の駆動軸DL,DRに分配される。従って、この場合のハイブリッド車両1は、内燃機関10の機械的な動力(機関トルク)を第1変速機構40及び最終減速装置70で変速及び減速し、これにより得られる駆動力を各駆動輪WL,WRに伝達して走行する。その際、モータ/ジェネレータ20は、電動機として作動させても発電機として作動させてもよい。
【0077】
先ず、電子制御装置100の電池制御手段は、電池監視ユニット29から受信した二次電池28の充電状態に係る信号に基づいて、その二次電池28への充電が必要なのか否かを判断する。そして、この電子制御装置100のモータ/ジェネレータ制御手段は、その二次電池28の充電状態に応じてモータ/ジェネレータ20の作動形態を決定することができる。
【0078】
モータ/ジェネレータ制御手段は、二次電池28への充電が不要(つまり二次電池28が必要充電量を満たしている)又は二次電池28の放電が可能ならば、モータ/ジェネレータ20を電動機として作動させてもよい。モータ/ジェネレータ20を電動機として作動させた場合には、その回転軸24の回転トルク(電動機トルク)が歯車対23を介して第1変速機構40の入力軸42に入力される。これが為、その入力軸42には、内燃機関10とモータ/ジェネレータ20の夫々の機械的な動力を足し合わせたもの(機関トルクと電動機トルクを合わせた総出力トルク)が入力されている。従って、このときのハイブリッド車両1においては、その総出力トルクが要求変速段で変速された後に第1駆動ギヤ44a、動力統合ギヤ32及び最終減速装置70を介して減速され、その最終減速装置70の差動機構73で左右夫々の駆動軸DL,DRに分配される。つまり、この場合には、第1変速機構40を介して伝えられた内燃機関10とモータ/ジェネレータ20による総出力トルクを利用してハイブリッド車両1を走行させることができる(原動機・電動機走行モード)。
【0079】
ここで、モータ/ジェネレータ20を電動機として作動させない場合、その回転軸24には、内燃機関10の機械的な動力(機関トルク)によって回転している第1変速機構40の入力軸42の回転トルクが歯車対23を介して入力される。モータ/ジェネレータ制御手段は、インバータ27を制御して、二次電池28への充電が必要ならばモータ/ジェネレータ20を発電機として作動させ、二次電池28への充電が不要ならばロータ22を空回りさせればよい。つまり、この場合には、内燃機関10の機械的な動力(機関トルク)を第1変速機構40で変速してハイブリッド車両1を走行させつつ、その動力の一部を利用して電力の回生を行うこともできる(原動機走行モード+発電モード)。また、この場合には、内燃機関10の機械的な動力(機関トルク)のみを利用してハイブリッド車両1を走行させることもできる(原動機走行モード)。
【0080】
そのような内燃機関10の機械的な動力で又は内燃機関10とモータ/ジェネレータ20の機械的な動力を合わせて走行している状態において、変速制御手段は、第2変速機構50における次の要求変速段(加速中ならばアップシフト側の変速段、減速中ならばダウンシフト側の変速段であって、第2速ギヤ段52又は第4速ギヤ段54)のカップリング機構(第2速カップリング機構52d又は第4速カップリング機構54d)を係合状態に制御しておく。ここで、このときの第2変速機構50の出力軸53には、第1変速機構40の出力軸44の回転トルクの一部が第1駆動ギヤ44a、動力統合ギヤ32及び第2駆動ギヤ53aを介して伝達されている。従って、このときには、その出力軸53の回転トルクが次の要求変速段で変速されて入力軸51に伝わり、その入力軸51を空転させる。つまり、このときの第2変速機構50においては、次の要求変速段を同調(シンクロ)した状態で待機させたまま入力軸51と出力軸53が第1変速機構40側の動力の一部によって回転している。かかる状態のときに、電子制御装置100のクラッチ制御手段は、第1クラッチ61を係合状態から解放状態に切り替えると共に、第2クラッチ62を解放状態から係合状態となるように切り替える。これにより、デュアルクラッチ式変速機30においては、次の要求変速段への変速が完了するので、内燃機関10の出力軸11の回転トルク(機関トルク)が第2変速機構50の入力軸51にのみ伝えられ、その入力軸51の回転トルクが次の要求変速段で変速されて第2変速機構50の出力軸53に伝達されるようになる。これが為、その際のハイブリッド車両1においては、その出力軸53の回転トルクが第2駆動ギヤ53a、動力統合ギヤ32及び最終減速装置70を介して減速され、その最終減速装置70の差動機構73によって左右夫々の駆動軸DL,DRに分配されるようになる。このように、デュアルクラッチ式変速機30は、変速段を待機中の次の要求変速段へと素早く切り替えて、内燃機関10の機械的な動力(機関トルク)を次の要求変速段に対して間髪入れずに伝えることが可能なので、その動力を途切れることなく駆動力として駆動輪WL,WRに伝達することができる。
【0081】
このハイブリッド車両1においては、上記の第2変速機構50における次の要求変速段の作動状態で変速制御手段が第1変速機構40における更に次の要求変速段(加速中ならばアップシフト側の変速段、減速中ならばダウンシフト側の変速段であって、第1速ギヤ段41、第3速ギヤ段43又は第5速ギヤ段45)のカップリング機構(第1速カップリング機構41d、第3速カップリング機構43d又は第5速カップリング機構45d)を係合状態に制御しておく。これにより、このときの第1変速機構40においては、更に次の要求変速段を介して入力軸42と出力軸44との間のトルク伝達が可能になっている。かかる状態においても、モータ/ジェネレータ20は、二次電池28の充電状態に応じて作動形態を決定してもよい。
【0082】
先ず、二次電池28への充電が不要又は二次電池28の放電が可能でモータ/ジェネレータ20を電動機として作動させた場合には、その回転軸24の回転トルク(電動機トルク)が歯車対23を介して第1変速機構40の入力軸42に入力される。このときには第1クラッチ61が解放状態になっているので、その入力軸42には、モータ/ジェネレータ20の機械的な動力(電動機トルク)のみが入力されている。そして、その入力軸42の回転トルクは、更に次の要求変速段で変速されて出力軸44に伝わり、第1駆動ギヤ44a及び動力統合ギヤ32を介して出力軸31に伝達される。つまり、この場合には、第1変速機構40を経たモータ/ジェネレータ20の機械的な動力(電動機トルク)と第2変速機構50を経た内燃機関10の機械的な動力(機関トルク)とを足し合わせたもの(総出力トルク)がデュアルクラッチ式変速機30の出力軸31に伝えられている。これが為、このハイブリッド車両1においては、その総出力トルクによる出力軸31の回転トルクが最終減速装置70で減速させられ、その最終減速装置70の差動機構73で左右夫々の駆動軸DL,DRに分配される。従って、この場合には、第1変速機構40を介して伝えられたモータ/ジェネレータ20の機械的な動力(電動機トルク)と、第2変速機構50を介して伝えられた内燃機関10の機械的な動力(機関トルク)と、を利用してハイブリッド車両1を走行させることができる(原動機・電動機走行モード)。
【0083】
一方、モータ/ジェネレータ20を電動機として作動させない場合、第1変速機構40の入力軸42には、第2変速機構50の出力軸53から出力された回転トルクの一部が第2駆動ギヤ53a、動力統合ギヤ32、第1駆動ギヤ44a、第1変速機構40の出力軸44及び上記の更に次の要求変速段を介して伝わる。これが為、この場合には、この入力軸42の回転トルクが歯車対23を介してモータ/ジェネレータ20の回転軸24に伝達される。そして、モータ/ジェネレータ制御手段は、インバータ27を制御して、二次電池28への充電が必要ならばモータ/ジェネレータ20を発電機として作動させ、二次電池28への充電が不要ならばロータ22を空回りさせる。つまり、この場合には、内燃機関10の機械的な動力(機関トルク)を第2変速機構50で変速してハイブリッド車両1を走行させつつ、その動力の一部を利用して電力の回生を行うこともできる(原動機走行モード+発電モード)。また、この場合には、内燃機関10の機械的な動力(機関トルク)のみを利用してハイブリッド車両1を走行させることもできる(原動機走行モード)。
【0084】
このデュアルクラッチ式変速機30は、新たな要求変速段が変速制御手段によって選択されている間、上述した変速を第1変速機構40の変速段と第2変速機構50の変速段との間で交互に繰り返し行う。
【0085】
また、このハイブリッド車両1において第2変速機構50の後退ギヤ段59が要求変速段として選択された場合、電子制御装置100は、変速制御手段によってその後退ギヤ段59の後退カップリング機構59dを係合状態に制御し、且つ、クラッチ制御手段によって第2クラッチ62を係合状態となるように制御すると共に第1クラッチ61を解放状態に制御する。これにより、このハイブリッド車両1においては、内燃機関10の出力軸11の回転トルク(機関トルク)が半係合状態又は係合状態の第2クラッチ62を介して第2変速機構50の入力軸51に伝わり、その入力軸51の回転トルクが後退ギヤ段59を介して変速されて第2変速機構50の出力軸53に伝達される。そして、その出力軸53の回転トルクは、第2駆動ギヤ53a、動力統合ギヤ32及び最終減速装置70を介して減速され、その最終減速装置70の差動機構73によって左右夫々の駆動軸DL,DRに分配される。従って、このハイブリッド車両1は、内燃機関10の機械的な動力(機関トルク)が駆動輪WL,WRに伝達されて後退走行を行う。
【0086】
また、このハイブリッド車両1は、次のようにして内燃機関10の動力を用いた走行とモータ/ジェネレータ20による発電を同時に行うことができる。先ず、変速制御手段は、モータ/ジェネレータ20が連結された第1変速機構40の全てのカップリング機構(第1速カップリング機構41d、第3速カップリング機構43d及び第5速カップリング機構45d)を解放状態に制御すると共に、第2変速機構50における要求変速段に係るカップリング機構(第2速カップリング機構52d、第4速カップリング機構54d又は後退カップリング機構59d)を係合状態に制御する。また、クラッチ制御手段は、第1及び第2のクラッチ61,62を係合状態となるように制御する。かかる状態においては、内燃機関10の出力軸11の回転トルク(機関トルク)が半係合状態又は係合状態の第2クラッチ62を介して第2変速機構50の入力軸51に伝わり、その入力軸51の回転トルクが要求変速段を介して変速されて第2変速機構50の出力軸53に伝達される。そして、その出力軸53の回転トルクは、第2駆動ギヤ53a、動力統合ギヤ32及び最終減速装置70を介して減速され、その最終減速装置70の差動機構73によって左右夫々の駆動軸DL,DRに分配される。ここで、その出力軸53の回転トルクの一部は、動力統合ギヤ32及び第1駆動ギヤ44aを介して第1変速機構40の出力軸44に伝わるが、この第1変速機構40の全てのカップリング機構が解放状態になっているので、その入力軸42には伝達されない。一方、その入力軸42には、内燃機関10の出力軸11の回転トルク(機関トルク)が半係合状態又は係合状態の第1クラッチ61を介して伝達される。そして、その入力軸42の回転トルクは、歯車対23を介してモータ/ジェネレータ20の回転軸24に伝えられる。その際、電子制御装置100のモータ/ジェネレータ制御手段は、インバータ27を制御して、モータ/ジェネレータ20を発電機として作動させる。つまり、このときには、内燃機関10の機械的な動力(機関トルク)が要求変速段を介して駆動輪WL,WRに伝達されてハイブリッド車両1を走行させると共に、その動力の一部がモータ/ジェネレータ20に伝達されて電力の回生を行う(原動機走行モード+発電モード)。
【0087】
更に、このハイブリッド車両1は、モータ/ジェネレータ20の機械的な動力(電動機トルク)のみでの走行も可能である。この場合、電子制御装置100の変速制御手段は、第1変速機構40における第1速ギヤ段41、第3速ギヤ段43又は第5速ギヤ段45の中から要求変速段の選択を行う。また、電子制御装置100のモータ/ジェネレータ制御手段は、駆動輪WL,WRにおける要求駆動力に応じた電動機トルクを発生させるようにモータ/ジェネレータ20の制御を行う。そして、電子制御装置100は、変速制御手段によってその要求変速段のカップリング機構(第1速カップリング機構41d、第3速カップリング機構43d又は第5速カップリング機構45d)を係合状態に制御し、且つ、クラッチ制御手段によって第1及び第2のクラッチ61,62を解放状態に制御する。これにより、このハイブリッド車両1においては、ロータ22の回転軸24の回転トルク(電動機トルク)が歯車対23を介して第1変速機構40の入力軸42に伝わり、その入力軸42の回転トルクが要求変速段を介して変速されて第1変速機構40の出力軸44に伝達される。そして、その出力軸44の回転トルクは、第1駆動ギヤ44a、動力統合ギヤ32及び最終減速装置70を介して減速され、その最終減速装置70の差動機構73によって左右夫々の駆動軸DL,DRに分配される。従って、このハイブリッド車両1は、モータ/ジェネレータ20の機械的な動力(電動機トルク)のみを駆動輪WL,WRに伝達して走行することもできる(電動機走行モード)。
【0088】
また更に、このハイブリッド車両1は、モータ/ジェネレータ20の機械的な動力(電動機トルク)を第2変速機構50に伝えて走行させることも可能である。この場合、電子制御装置100の変速制御手段は、第1変速機構40におけるカップリング機構(第1速カップリング機構41d、第3速カップリング機構43d及び第5速カップリング機構45d)を全て解放状態に制御すると共に、第2変速機構50において選択した要求変速段のカップリング機構(第2速カップリング機構52d、第4速カップリング機構54d又は後退カップリング機構59d)を係合状態に制御する。また、この電子制御装置100のクラッチ制御手段は、第1及び第2のクラッチ61,62を双方とも係合状態となるように制御する。これにより、第1変速機構40の入力軸42に入力されたモータ/ジェネレータ20の機械的な動力(電動機トルク)は、半係合状態又は係合状態の第1クラッチ61と第2クラッチ62を介して第2変速機構50の入力軸51に伝達され、この第2変速機構50の要求変速段で変速されて出力軸53に伝わる。そして、その出力軸53の回転トルクは、第2駆動ギヤ53a、動力統合ギヤ32及び最終減速装置70を介して減速され、その最終減速装置70の差動機構73によって左右夫々の駆動軸DL,DRに分配される。つまり、このハイブリッド車両1は、第1変速機構40を介さずに、第2変速機構50を経たモータ/ジェネレータ20の機械的な動力(電動機トルク)で走行することもできる(電動機走行モード)。
【0089】
また、このハイブリッド車両1においては、モータ/ジェネレータ20を発電機として作動させることによって、前述したように回生制動を行うことができる。この場合、電子制御装置100の変速制御手段は、第1変速機構40において選択した要求変速段のカップリング機構(第1速カップリング機構41d、第3速カップリング機構43d又は第5速カップリング機構45d)を係合状態に制御すると共に、第2変速機構50におけるカップリング機構(第2速カップリング機構52d、第4速カップリング機構54d及び後退カップリング機構59d)を全て解放状態に制御する。その要求変速段は、例えば二次電池28の充電状態に基づいて設定する。例えば、二次電池28の充電状態が低下しているほど(蓄電量が少ないほど)多量に充電を行う必要があるので、要求変速段は、二次電池28の充電状態が低下しているほどロータ22の回転を速めることのできる低速側の変速段を設定すればよい。また、このときの電子制御装置100のクラッチ制御手段は、第1及び第2のクラッチ61,62を双方とも解放状態に制御する。また、この電子制御装置100のモータ/ジェネレータ制御手段は、電力の回生が行われるようにインバータ27を制御して、モータ/ジェネレータ20を発電機として作動させる。尚、このときには、燃料を無駄に消費しないように、機関制御手段によって内燃機関10を停止させておくことが望ましい。かかる状態において、駆動輪WL,WRの回転トルクは、最終減速装置70、動力統合ギヤ32及び第1駆動ギヤ44aを介して第1変速機構40の出力軸44に入力される。その出力軸44の回転トルクは、要求変速段で変速されて第1変速機構40の入力軸42に伝達され、歯車対23を介してモータ/ジェネレータ20のロータ22に伝わる。その際、モータ/ジェネレータ20は、発電機として作動しているので、電力の回生を行うと共に、ロータ22の回転が駆動輪WL,WRの回転負荷となる。従って、このときのハイブリッド車両1においては、回生制動が行われて駆動輪WL,WRに制動力(以下、「回生制動力」という。)が加わるようになる。
【0090】
かかる回生制動は、内燃機関10の機械的な動力(機関トルク)のみでの走行中、モータ/ジェネレータ20の機械的な動力(電動機トルク)のみでの走行中、又は内燃機関10とモータ/ジェネレータ20の夫々の機械的な動力(機関トルクと電動機トルクとを合わせた総出力トルク)での走行中の何れの場合においても実行可能である。
【0091】
ここで、駆動輪WL,WRの要求制動力(要求制動トルク)は、前述したように制動装置90のマスタシリンダ圧制動力(マスタシリンダ圧制動トルク)又は加圧制動力(加圧制動トルク)のみで発生させてもよく、モータ/ジェネレータ20による回生制動力(回生制動トルク)のみで発生可能ならばそれでもよい。
【0092】
また、その要求制動力(要求制動トルク)については、マスタシリンダ圧制動力(マスタシリンダ圧制動トルク)又は加圧制動力(加圧制動トルク)と回生制動力(回生制動トルク)の双方によって実現させる場合もある。この場合、ブレーキECU105の制動制御手段は、ブレーキ操作量検出手段97で検出されたブレーキ操作量に基づいて駆動輪WL,WRの要求制動力(要求制動トルク)を設定する。その際、電子制御装置100の制動制御手段は、例えば運転者のブレーキ操作を契機にして、少なくとも二次電池28の充電状態に基づき回生制動の要否を判断する。例えば、二次電池28の充電状態が所定よりも低下していれば(蓄電量が所定量よりも少なくなっていれば)、電力を回収して二次電池28の充電量を上げることが望ましいので、電子制御装置100の制動制御手段は、回生制動が必要と判断する。この電子制御装置100の制動制御手段は、回生制動が必要と判断したならば、回生制動力(回生制動トルク)を例えばロータ22の回転速度やモータ/ジェネレータ20の温度などに基づいて演算し、その回生制動力(回生制動トルク)の情報をブレーキECU105に送信する。ブレーキECU105の制動制御手段においては、マスタシリンダ圧制動力(マスタシリンダ圧制動トルク)と回生制動力(回生制動トルク)によって要求制動力(要求制動トルク)を各制動力発生手段96L,96Rに発生させることができるのか否かを判断する。そして、この制動制御手段は、マスタシリンダ圧制動力(マスタシリンダ圧制動トルク)と回生制動力(回生制動トルク)とで要求制動力(要求制動トルク)を満足させることができないならば、その不足分を補うことが可能な各制動力発生手段96L,96Rへの目標ブレーキ液圧を求め、その目標ブレーキ液圧に基づきブレーキアクチュエータ94を制御して加圧制動力(加圧制動トルク)を制動力発生手段96L,96Rに発生させる。これにより、駆動輪WL,WRには、その加圧制動力(加圧制動トルク)と回生制動力(回生制動トルク)とによって要求制動力(要求制動トルク)が加わるようになる。
【0093】
ところで、このハイブリッド車両1においては、登坂路の路面勾配が大きいとき等のように駆動輪WL,WRに対して大きな要求駆動力が求められるときに、内燃機関10の動力を低速段側で変速(即ち増幅)させることによって駆動輪WL,WRに大きな駆動力を発生させる。最も大きな駆動力を駆動輪WL,WRに発生させることができるのは、最も低い第1速ギヤ段41で内燃機関10の最大の動力が変速されるときである。
【0094】
ここで、本実施例のデュアルクラッチ式変速機30においては、その第1速ギヤ段41を有する第1変速機構40の入力軸42側にモータ/ジェネレータ20のロータ22が連結されている。前述したように、走行モードが第1速ギヤ段41の原動機走行モードと発電モードの併用の場合、内燃機関10の動力は、第1変速機構40の入力軸42や第1速ギヤ段41を介して駆動輪WL,WRに伝達される一方、その入力軸42と歯車対23を介してモータ/ジェネレータ20のロータ22に伝達される。しかしながら、その入力軸42や第1速ギヤ段41が車速に比例した回転数で回転するので、ハイブリッド車両1が停車時から極低速時までの間で低速走行している場合には、その入力軸42の回転数が低く、モータ/ジェネレータ20を発電モードで作動させるだけのロータ22の回転を得られない。これが為、停車時から極低速時までの間にモータ/ジェネレータ20で電力の回生を行いながら駆動輪WL,WRに大きな駆動力を発生させることができるのは、内燃機関10の動力を他方の第2変速機構50の第2速ギヤ段52に第2クラッチ62を介して伝えて変速させる一方、その動力の一部をモータ/ジェネレータ20のロータ22に第1クラッチ61を介して伝えているときである。つまり、停車時から極低速時までの間は、本来なら最大駆動力を発生させることが可能な第1速ギヤ段41の原動機走行モードにおいてモータ/ジェネレータ20による電力の回生が行えないので、その次に大きな駆動力を発生させることができる第2速ギヤ段52の原動機走行モードのときに電力の回生を行うしかない。
【0095】
本実施例のハイブリッド車両1は、第1速ギヤ段41の原動機走行モードでの走行が求められるほど駆動輪WL,WRへの要求駆動力が大きければ、その要求通りに第1速ギヤ段41を選択し、この第1速ギヤ段41で内燃機関10の動力を変速して走行すればよい。しかしながら、幾ら駆動輪WL,WRへの要求駆動力が大きくても、速やかな充電を要するほど二次電池28の充電状態が低下しているときには、その二次電池28の充電を優先させるべきである。一方、それよりも駆動輪WL,WRへの要求駆動力が小さいときには、第2速ギヤ段52等の第1速ギヤ段41よりも高速側の変速段を用いても必要な駆動力を確保できる。これが為、このときには、その要求駆動力に応じた変速段の原動機走行モードで走行させることとし、その際に二次電池28の充電が必要ならば、要求駆動力に従って原動機走行モードに係る変速段の設定を行い、その変速段の原動機走行モードで走行させながらモータ/ジェネレータ20による電力の回生を実行させればよい。
【0096】
そこで、本実施例のハイブリッド車両1は、駆動輪WL,WRへの要求駆動力Fdと二次電池28の充電状態(SOC(%))に応じて下記のように走行モードを設定する。その要求駆動力Fdは、例えば運転者のアクセル開度等に基づき設定されるものであり、内燃機関10の制御等を行う際に電子制御装置100が演算と設定を行っているものを利用すればよい。
【0097】
先ず、二次電池28の充電状態(SOC(%))については、複数の状態(SOC領域)に分けて考える。本実施例においては、その分け方の一例として、二次電池28の充電状態(SOC(%))を図3に示すように3つのSOC領域に分けている。
【0098】
第1SOC領域は、SOCがSOCth1以上で且つ100以下の領域であって、二次電池28が必要蓄電量を満たしており、その二次電池28の速やかな充電を必要としない状態を示している。SOCth1は、二次電池28の充電状態の状態判定に用いるSOC閾値(第1SOC閾値)であり、最低必要蓄電量に係るSOCを用いる。100は、満充電に係るSOCである。その必要蓄電量とは、例えばハイブリッド車両1において二次電池28の電力を使用する機器や部品を不自由なく作動させることが可能な二次電池28の蓄電量のことを言う。最低必要蓄電量とは、その必要蓄電量の範囲における最低限の蓄電量のことを言うものとする。
【0099】
第2SOC領域は、SOCがSOCth2以上で且つSOCth1よりも小さい領域であり、二次電池28について速やかな充電までは必要としないが諸条件を元に必要ならば充電することができる状態を示している。SOCth2は、二次電池28の充電状態の状態判定に用いるSOC閾値(第2SOC閾値)であり、かかる状態についての最低限の蓄電量に係るSOCを用いる。
【0100】
第3SOC領域は、SOCがSOCth3以上で且つSOCth2よりも小さい領域であり、二次電池28の速やかな充電を必要とする状態を示している。SOCth3は、二次電池28の充電状態の状態判定に用いるSOC閾値(第3SOC閾値)である。このSOCth3については、SOC下限値(これ以上低くなると内燃機関10の起動ができない等の支障が出る虞のある最大限のSOC)を設定してもよいが、ここではSOC下限値よりも大きめの値を用いるものとする。これは、電池監視ユニット29によるSOCの検出に誤差が生じる可能性もあり、かかる検出誤差等を考慮し、SOC下限値に対して安全代を設けている。
【0101】
また、駆動輪WL,WRへの要求駆動力Fdについても複数の領域に分けて考える。本実施例においては、その分け方の一例として、要求駆動力Fdを図4に示すように大小2つの領域に分けている。要求駆動力Fdの大きい領域は、要求駆動力Fdが所定の閾値Fd0以上の領域であり、第1速ギヤ段41の原動機走行モードでの走行が求められるほど大きな駆動力の発生を駆動輪WL,WRにおいて望まれている状態を示す。その閾値Fd0は、例えば車両の駆動性能の観点のみで考えた際に第1速ギヤ段41の原動機走行モードでの走行を必須とする要求駆動力Fdの最小値である。要求駆動力Fdの小さい領域は、要求駆動力Fdが所定の閾値Fd0よりも小さい領域であり、その要求駆動力Fdが必ずしも第1速ギヤ段41の原動機走行モードでの走行を必要としない大きさであるとき(つまり第1速ギヤ段41のみならず第2速ギヤ段52等の他の変速段の原動機走行モードでの走行でも要求駆動力Fdを満たすことができるとき)の状態を示す。ここでは、説明の便宜上、原則として、要求駆動力Fdの大きい領域であれば、その要求駆動力Fdを第1速ギヤ段41の原動機走行モードで確保でき、要求駆動力Fdの小さい領域であれば、その要求駆動力Fdを第2速ギヤ段52の原動機走行モードで又は内燃機関10の動力を調整することによって第1速ギヤ段41の原動機走行モードで確保できるものとする。
【0102】
本実施例においては、かかる二次電池28の充電状態(SOC(%))と駆動輪WL,WRへの要求駆動力Fdの場合分けに従って走行モードの設定を行う。
【0103】
要求駆動力Fdの大きい領域(Fd≧Fd0)においては、上述したように第1速ギヤ段41の原動機走行モード(つまり第1速ギヤ段41を介して内燃機関10の動力を駆動輪WL,WR側に伝達させる走行モード)での走行が望ましい。しかしながら、SOCが二次電池28の充電を急務とする第3SOC領域のときには、要求駆動力Fdが第1速ギヤ段41の原動機走行モードでの走行を求めるものであったとしても、二次電池28を速やかに充電して、その充電状態(SOC(%))が少なくとも第2SOC領域、できることならば第1SOC領域となるように走行モードを調整することが望ましい。これが為、ハイブリッド車両1を要求駆動力Fdの大きい領域で低速走行(停車時から極低速時までの間の走行)させる場合には、SOCが第3SOC領域ならば、図4に示す如く、第2速ギヤ段52の原動機走行モードと発電モードの併用による走行モード(つまり第2速ギヤ段52を介して内燃機関10の動力を駆動輪WL,WR側に伝達させ且つその動力の一部でモータ/ジェネレータ20に電力の回生を行わせる走行モード)に設定し、可能な限り大きな駆動力を駆動輪WL,WRに発生させつつモータ/ジェネレータ20による電力の回生を行うようにする。これに対して、SOCが第1SOC領域や第2SOC領域のときには、急速な充電の必要はなく、駆動輪WL,WRで要求駆動力Fdを確保させることの方が望ましい。これが為、このときには、図4に示す如く、走行モードとして原則通り第1速ギヤ段41の原動機走行モードを設定する。
【0104】
一方、上記以外の要求駆動力Fdの小さい領域(Fd<Fd0)においては、SOCが第1SOC領域であるならば、要求駆動力Fdに適した駆動力を駆動輪WL,WRに発生させる走行モードに設定し、SOCが第2SOC領域であるならば、要求駆動力Fd又はSOCの内の少なくとも何れか望む方に適した駆動力を駆動輪WL,WRに発生させる走行モードを設定する。例えば、ハイブリッド車両1を要求駆動力Fdの小さい領域で低速走行させる場合には、SOCが第1SOC領域ならば、走行モードとして第2速ギヤ段52の原動機走行モード又は内燃機関10の動力の調整を条件にして第1速ギヤ段41の原動機走行モードを設定し(図4の例示においては第1速ギヤ段41の原動機走行モード)、要求駆動力Fdが確保されるようにする。また、SOCが第2SOC領域のときには、要求駆動力Fdを優先したいのであれば、第2速ギヤ段52の原動機走行モード又は内燃機関10の動力の調整を条件にして第1速ギヤ段41の原動機走行モードを走行モードとして設定し、SOC(つまり二次電池28の充電)を優先したいのであれば、図4の例示にあるように第2速ギヤ段52の原動機走行モードと発電モードの併用からなる走行モードを設定する。これらに対して、SOCが第3SOC領域のときには、二次電池28の速やかな充電が望ましいので、図4に示す如く、第2速ギヤ段52の原動機走行モードと発電モードの併用による走行モードに設定し、駆動輪WL,WRにおける要求駆動力Fdの確保又は可能な限りそれに近い大きさの駆動力の確保とモータ/ジェネレータ20による電力の回生の両立を図るようにする。
【0105】
ここで、第1速ギヤ段41の原動機走行モードが実行されたときには、デュアルクラッチ式変速機30の制御状態が次のようになっている。このときのデュアルクラッチ式変速機30においては、図5に示す如く、内燃機関10の動力の伝達を行う第1速ギヤ段(1st)41の第1速カップリング機構41dと次の要求変速段たる第2速ギヤ段(2nd)52の第2速カップリング機構52dが係合状態(図中の「○」)にあり、他の変速段のカップリング機構(第3速ギヤ段(3rd)43の第3速カップリング機構43d、第4速ギヤ段(4th)54の第4速カップリング機構54d、第5速ギヤ段(5th)45の第5速カップリング機構45d又は後退ギヤ段(R)59の後退カップリング機構59d)が解放状態(図中の「×」)にある。また、このときのデュアルクラッチ式変速機30においては、その第1速ギヤ段41に係る第1クラッチ61が半係合状態(図中の「△」)から係合状態(図中の「○」)にあり、他方の変速機構と連関する第2クラッチ62が解放状態(図中の「×」)にある。つまり、このときには、内燃機関10の動力が第1変速機構40の第1速ギヤ段41のみを介して駆動輪WL,WRに伝達されており、第2変速機構50の第2速ギヤ段52が次の変速を控えて同期状態で待機している。
【0106】
また、第2速ギヤ段52の原動機走行モードと発電モードが併用されたときには、デュアルクラッチ式変速機30の制御状態が次のようになっている。このときのデュアルクラッチ式変速機30においては、図5に示す如く、内燃機関10の動力の伝達を行う第2速ギヤ段(2nd)52の第2速カップリング機構52dが係合状態にあり、他の変速段のカップリング機構(第1速ギヤ段(1st)41の第1速カップリング機構41d、第3速ギヤ段(3rd)43の第3速カップリング機構43d、第4速ギヤ段(4th)54の第4速カップリング機構54d、第5速ギヤ段(5th)45の第5速カップリング機構45d又は後退ギヤ段(R)59の後退カップリング機構59d)が解放状態にある。また、このときのデュアルクラッチ式変速機30においては、その第2速ギヤ段52に係る第2クラッチ62が半係合状態から係合状態にあり、電力の回生を行うモータ/ジェネレータ20と連関する第1クラッチ61が係合状態にある。つまり、このときには、内燃機関10の動力が第2変速機構50の第2速ギヤ段52と第1変速機構40を介してモータ/ジェネレータ20のロータ22とに伝達されており、その第2速ギヤ段52を駆動輪WL,WRに駆動力が発生し、且つ、モータ/ジェネレータ20で電力の回生が行われる。
【0107】
ところで、上述したような要求駆動力Fdの大小の領域分けに替えて、ハイブリッド車両1の走行している路面の路面勾配Grの大小で領域分けして走行モードの設定を行ってもよい。その走行路の路面勾配Grについては、図1に示す路面勾配検出手段111の検出信号に基づいて電子制御装置100に演算させればよい。例えば、その路面勾配検出手段111としては、車両前後加速度の検出を行う前後加速度センサが利用できる。ここでは、図4に示す如く、上述した要求駆動力Fdの大きい領域(Fd≧Fd0)を走行路の上り側の路面勾配Grの大きい領域(Gr≧Gr0)に置き換え、上述した要求駆動力Fdの小さい領域(Fd<Fd0)を走行路の路面勾配Grの小さい領域(Gr<Gr0)に置き換えて考えるものとする。つまり、その路面勾配Grの大きい領域とは、急勾配の登坂路を走行している状態を指している。一方、路面勾配Grの小さい領域とは、平坦路を走行している状態や緩勾配の登坂路を走行している状態を指しており、ここでは下り坂を下りているときを含むものとする。
【0108】
以下に、このハイブリッド車両1における低速走行時の走行モードの設定動作について図6〜9のフローチャートに基づき説明する。
【0109】
最初に、電子制御装置100は、図6に示す如く、二次電池28の第1SOC閾値SOCth1と第2SOC閾値SOCth2の設定を行う(ステップST10)。電子制御装置100には、かかる設定動作を行うSOC閾値設定手段が用意されている。かかる設定については、図7のフローチャートに示す如くして実行される。
【0110】
先ず、SOC閾値設定手段は、急勾配の登坂路が継続するのか否かの判定を行う(ステップST11)。例えば、このステップST11においては、カーナビゲーションシステムの地図情報や過去に走行した登坂路の履歴などから急勾配の登坂路なのか否かを判断し、急勾配の登坂路であれば、それが所定距離以上あるのか否かを更に判断し、所定距離以上あると判断したならば、その急勾配の登坂路が継続するとの判定を行う。
【0111】
このSOC閾値設定手段は、急勾配の登坂路が継続すると判定したならば、第1及び第2のSOC閾値SOCth1,SOCth2として各々「SOCth1Hi」、「SOCth2Hi」を設定する(ステップST12)。一方、急勾配の登坂路が継続しない(つまり急勾配の登坂路が直ぐに終わる、緩勾配の登坂路、平坦路又は下り坂)と判定された場合、SOC閾値設定手段は、第1及び第2のSOC閾値SOCth1,SOCth2として各々「SOCth1Low」、「SOCth2Low」を設定する(ステップST13)。
【0112】
第1及び第2のSOC閾値SOCth1,SOCth2(第3SOC閾値SOCth3を含めてもよい)は走行路の路面勾配Grに基づき変更される閾値であり、SOC閾値SOCth1HiはSOC閾値SOCth1Lowよりも低く、SOC閾値SOCth2HiはSOC閾値SOCth2Lowよりも低くなっている。つまり、急勾配の登坂路が継続しないときには、SOC閾値を高い値に設定することによって第1SOC領域が狭くなり、内燃機関10を停止させ難くなるので、燃費を悪化させてしまう。これが為、このときには、急勾配の登坂路が継続するときよりもSOC閾値を低めに設定する。これにより、ハイブリッド車両1は、必要とあらば第1SOC領域で内燃機関10を停止し、モータ/ジェネレータ20の動力のみでの運転が可能になるので、燃費を向上させることができる。一方、SOC閾値を高い値に設定した場合には、少なくとも第3SOC領域を拡張することができるので、二次電池28の充電が行われやすくなる。これが為、急勾配の登坂路が継続するときには、SOC閾値を高い値に設定することによって、SOCの低下が抑制されやすくなる。尚、このSOC閾値の変更に使用される路面勾配Grは、走行路の路面勾配Grそのものを示すのみならず、走行路(たとえ平坦路であっても)の或る凹凸部分の勾配や凹凸の深さについても含むものとする。
【0113】
ここでは、第1及び第2のSOC閾値SOCth1,SOCth2について急勾配の登坂路が継続か否かに基づく二者択一としたが、その第1及び第2のSOC閾値SOCth1,SOCth2は、例えば路面勾配Grや上り坂か下り坂かの違い等に応じて大小様々に変化させてもよく、これにより精度の高い走行性能(駆動性能)の確保とSOCの低下の抑制を図ることができる。
【0114】
次に、電子制御装置100は、図6に示す如く、現在の二次電池28のSOC領域を判定する(ステップST20)。電子制御装置100には、かかる判定を行うSOC領域判定手段が用意されている。かかる判定については、図8のフローチャートに示す如くして実行される。
【0115】
先ず、SOC領域判定手段は、電池監視ユニット29によって検出された現在の二次電池28のSOCが第1SOC閾値SOCth1以上なのか否かを判定し(ステップST21)、そのSOCが第1SOC閾値SOCth1よりも低ければ、次にSOCが第2SOC閾値SOCth2以上なのか否かを判定する(ステップST22)。
【0116】
このSOC領域判定手段は、ステップST21でSOCが第1SOC閾値SOCth1以上であると判定した場合、現在の二次電池28が第1SOC領域であるとの判定を行う(ステップST23)。また、このSOC領域判定手段は、ステップST22でSOCが第2SOC閾値SOCth2以上であると判定した場合、現在の二次電池28が第2SOC領域であるとの判定を行う(ステップST24)。また、このSOC領域判定手段は、ステップST22でSOCが第2SOC閾値SOCth2よりも低いと判定した場合、現在の二次電池28が第3SOC領域であるとの判定を行う(ステップST25)。
【0117】
次に、電子制御装置100は、判定したSOC領域を用いて図6に示す如く走行モードの設定を行う(ステップST30)。電子制御装置100には、かかる設定を行う走行モード設定手段が用意されている。かかる設定については、図9のフローチャートに示す如くして実行される。
【0118】
先ず、走行モード設定手段は、現在の二次電池28のSOCが第1SOC領域なのか否かの判定を行う(ステップST31)。
【0119】
この走行モード設定手段は、SOCが第1SOC領域ではないと判定した場合、そのSOCが第2SOC領域であり且つ要求駆動力Fdの大きい領域であるのか否かの判定を行う(ステップST32)。尚、このステップST32においては、要求駆動力Fdの大きい領域なのか否かを観る代わりに、路面勾配Grの大きい領域なのか否かを観てもよい。
【0120】
この走行モード設定手段は、ステップST32において、SOCが第2SOC領域であり且つ要求駆動力Fdの大きい領域(又は路面勾配Grの大きい領域)であると判定しなかった場合、つまりSOCが第3SOC領域と判定した又は要求駆動力Fdの小さい領域(又は路面勾配Grの小さい領域)と判定した場合、第2速ギヤ段52の原動機走行モードと発電モードからなる走行モードを設定する(ステップST33)。
【0121】
一方、この走行モード設定手段は、ステップST31でSOCが第1SOC領域であると判定した場合、又はステップST32でSOCが第2SOC領域であり且つ要求駆動力Fdの大きい領域(又は路面勾配Grの大きい領域)であると判定した場合、第1速ギヤ段41の原動機走行モードを走行モードとして設定する(ステップST34)。
【0122】
つまり、この例示においては、図4に示す如く、SOCが第1SOC領域であれば、要求駆動力Fd(又は路面勾配Gr)の大きさに拘わらず、第1速ギヤ段41の原動機走行モードを走行モードとして設定する。これが為、この場合のハイブリッド車両1は、走行路に応じた、即ち要求駆動力Fd(又は路面勾配Gr)に応じた駆動力を駆動輪WL,WRに発生させて走行することができるので、十分な走行性能(駆動性能)を確保できる。また、このハイブリッド車両1においては、SOCが第2SOC領域であり且つ要求駆動力Fdの大きい領域(又は路面勾配Grの大きい領域)である場合にも、走行モードとして第1速ギヤ段41の原動機走行モードが設定される。これが為、この場合のハイブリッド車両1についても、走行路、即ち要求駆動力Fd(又は路面勾配Gr)に応じた走行を行うことが可能であり、十分な走行性能を確保することができる。
【0123】
更に、このハイブリッド車両1においては、要求駆動力Fdの大きい領域(又は路面勾配Grの大きい領域)であってもSOCが第3SOC領域の場合、第2速ギヤ段52の原動機走行モードと発電モードからなる走行モードが設定される。これが為、この場合のハイブリッド車両1においては、モータ/ジェネレータ20による電力の回生が速やかに行われて二次電池28が充電されるので、走行路、即ち要求駆動力Fd(又は路面勾配Gr)に応じた可能な限り大きな駆動力を駆動輪WL,WRに発生させながらSOCの低下を抑えることができる。
【0124】
また更に、このハイブリッド車両1においては、要求駆動力Fdの小さい領域(又は路面勾配Grの小さい領域)のときに、SOCが第2SOC領域又は第3SOC領域ならば、走行モードとして第2速ギヤ段52の原動機走行モードと発電モードからなるものが設定される。これが為、この場合のハイブリッド車両1においては、走行路、即ち要求駆動力Fd(又は路面勾配Gr)に応じた走行を行いつつ、モータ/ジェネレータ20による電力の回生を行って二次電池28を充電することができる。
【0125】
以上示した如く、本実施例のハイブリッド車両1は、低速走行時に二次電池28の充電状態(SOC)や要求駆動力Fd(又は走行路の路面勾配Gr)に従った最適な走行モードを設定するので、低速走行時のSOCの低下を最小限に抑えつつ、走行路、即ち要求駆動力Fd(又は路面勾配Gr)に応じた駆動力を駆動輪WL,WRに発生させて低速走行することができる。
【0126】
ところで、この例示においては、SOCが第1SOC領域のときに、要求駆動力Fd(又は路面勾配Gr)の大きさに関係なく、第1速ギヤ段41の原動機走行モードを走行モードとして設定した。本実施例においては、そのときに要求駆動力Fdの小さい領域(又は路面勾配Grの小さい領域)になっているならば、その例示に替えて、内燃機関10を停止させると共にモータ/ジェネレータ20を電動機として作動させる走行モードに設定してもよい。この場合、電子制御装置100は、内燃機関10の動作を停止させると共に、そのクラッチ制御手段が第1クラッチ61と第2クラッチ62の双方を解放状態に制御し、変速制御手段が少なくともモータ/ジェネレータ20と連結状態にある第1変速機構40の何れかの変速段のカップリング機構(第1速カップリング機構41d、第3速カップリング機構43d又は第5速カップリング機構45d)を係合状態に制御する。これにより、この場合のハイブリッド車両1は、燃費の向上を図りつつ要求駆動力Fdを満たす走行を行うことができる。
【0127】
また、上述した本実施例のデュアルクラッチ式変速機30においては第1変速機構40の入力軸42と第2変速機構50の入力軸51を同軸上に配置した2重軸構造ものとして例示したが、例えば、その夫々の入力軸42,51は、図10に示す如く所定の間隔を空けて平行に配置してもよい。この場合のデュアルクラッチ機構60には、内燃機関10の出力軸11に当該出力軸11と一体になって回転するよう取り付けたメイン駆動ギヤ64と、このメイン駆動ギヤ64に噛み合う第1及び第2の駆動ギヤ65,66と、を設ける。この場合の第1クラッチ61は、その入力側(つまり内燃機関10側)に第1駆動ギヤ65を取り付けると共に、出力側に第1変速機構40の入力軸42を取り付け、内燃機関10の出力軸11に対してメイン駆動ギヤ64を介して係合状態にある第1駆動ギヤ65と第1変速機構40の入力軸42とを係合させることができる。一方、第2クラッチ62は、その入力側(つまり内燃機関10側)に第2駆動ギヤ66を取り付けると共に、出力側に第2変速機構50の入力軸51を取り付け、内燃機関10の出力軸11に対してメイン駆動ギヤ64を介して係合状態にある第2駆動ギヤ66と第2変速機構50の入力軸51とを係合させることができる。これら第1及び第2のクラッチ61,62は、例えば乾式又は湿式の単板クラッチ又は多板クラッチを用いればよい。この場合の電子制御装置100のクラッチ制御手段は、第1クラッチ61と第2クラッチ62を交互に係合状態と解放状態(非係合状態)とで切り替えさせるように構成し、内燃機関10の機械的な動力(機関トルク)が第1変速機構40又は第2変速機構50の内の何れか一方にのみ伝達されるようにする。
【0128】
更に、本実施例においてはモータ/ジェネレータ20と第1変速機構40の間に歯車対23を介在させているが、そのモータ/ジェネレータ20は、第1変速機構40の入力軸42にロータ22を取り付けてもよい。また、本実施例においてはモータ/ジェネレータ20を第1変速機構40側に設けたが、そのモータ/ジェネレータ20は、第2変速機構50側に設けてもよい。
【0129】
また更に、本実施例においてはモータ/ジェネレータ20を第1変速機構40側にのみ配置しているが、このハイブリッド車両1においては、更に別のモータ/ジェネレータを第2変速機構50側に配設しておいてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0130】
以上のように、本発明に係るハイブリッド車両は、二次電池の充電状態の低下を抑えつつ走行路に応じた適切な駆動力を駆動輪に伝える技術に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0131】
【図1】本発明に係るハイブリッド車両の概略構成について説明する図である。
【図2】デュアルクラッチ機構の具体的構成を示す図である。
【図3】SOC領域の一例について説明する図である。
【図4】SOC領域と要求駆動力(又は路面勾配)に対して設定される走行モードの一例について説明する図である。
【図5】デュアルクラッチ式変速機の制御状態について示す図である。
【図6】本発明に係るハイブリッド車両における低速走行時の走行モード設定動作の全体像を示すフローチャートである。
【図7】SOC閾値設定動作について説明するフローチャートである。
【図8】SOC領域判定動作について説明するフローチャートである。
【図9】走行モード設定動作について説明するフローチャートである。
【図10】デュアルクラッチ機構の他の具体的構成を示す図である。
【符号の説明】
【0132】
1 ハイブリッド車両
10 内燃機関
11 出力軸
20 モータ/ジェネレータ
22 ロータ
24 回転軸
28 二次電池
29 電池監視ユニット(充電状態検出手段)
30 デュアルクラッチ式変速機
31 出力軸
40 第1変速機構
41 第1速ギヤ段
42 入力軸
43 第3速ギヤ段
44 出力軸
45 第5速ギヤ段
50 第2変速機構
51 入力軸
52 第2速ギヤ段
53 出力軸
54 第4速ギヤ段
59 後退ギヤ段
60 デュアルクラッチ機構
61 第1クラッチ
62 第2クラッチ
70 最終減速装置
100 電子制御装置
111 路面勾配検出手段
WL,WR 駆動輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力軸から原動機トルクを出力する原動機と、
この原動機の原動機トルクが伝達される第1入力軸及び当該第1入力軸に入力された入力トルクの変速を行う第1速ギヤ段を含む複数種類の変速段からなる第1変速段群を備え、前記第1入力軸の入力トルクを前記第1変速段群の内の何れか1つの変速段により変速して出力する第1変速機構と、
前記原動機の原動機トルクが伝達される第2入力軸及び当該第2入力軸に入力された入力トルクの変速を行う第2速ギヤ段を含む複数種類の変速段からなる第2変速段群を備え、前記第2入力軸の入力トルクを前記第2変速段群の内の何れか1つの変速段により変速して出力する第2変速機構と、
前記原動機の出力軸と前記第1変速機構の第1入力軸との間を係合又はこれらの間の係合を解放させる第1クラッチと、
前記原動機の出力軸と前記第2変速機構の第2入力軸との間を係合又はこれらの間の係合を解放させる第2クラッチと、
前記第1変速機構における変速後の出力トルクと前記第2変速機構における変速後の出力トルクを駆動輪に向けて伝達するトルク伝達手段と、
ロータに連結された回転軸が第1速ギヤ段を有する前記第1変速機構の第1入力軸に係合され、電動機又は発電機として作動するモータ/ジェネレータと、
前記第1変速段群の中から1つの変速段を選択して当該変速段での変速動作を実行可能な状態にし、前記第2変速段群の中から1つの変速段を選択して当該変速段での変速動作を実行可能な状態にする変速制御手段と、
前記第1及び第2のクラッチに対して係合動作と係合の解放動作を実行させるクラッチ制御手段と、
前記モータ/ジェネレータを電動機として作動させることで電動機トルクを出力させ又は発電機として作動させることで電力の回生を行わせる若しくは前記駆動輪に制動力を加える回生制動を行わせるモータ/ジェネレータ制御手段と、
を備えたハイブリッド車両において、
前記モータ/ジェネレータの回生電力によって充電される二次電池の充電状態を検出する充電状態検出手段と、
要求駆動力又は走行路の上り側の路面勾配が大きい状態で低速走行する場合に、前記二次電池の充電状態が当該二次電池の速やかな充電を必要としない状態であれば、前記第1速ギヤ段を介して前記原動機トルクを前記駆動輪側に伝達させる走行モードに設定し、前記二次電池の充電状態が当該二次電池の速やかな充電を必要とする状態であれば、前記第2速ギヤ段を介して前記原動機トルクを前記駆動輪側に伝達させ且つ当該原動機トルクの一部で前記モータ/ジェネレータに電力の回生を行わせる走行モードに設定する走行モード設定手段と、
を設けたことを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項2】
前記走行モード設定手段は、要求駆動力又は走行路の路面勾配が小さい状態で低速走行する場合に、前記二次電池の充電状態が必要蓄電量を満たしている状態であれば、前記要求駆動力又は走行路の路面勾配に応じた駆動力を発生させる走行モードに設定し、前記二次電池の充電状態が当該二次電池の速やかな充電までは必要としないが必要とあれば当該二次電池を充電できる状態ならば、前記要求駆動力若しくは走行路の路面勾配に応じた駆動力を発生させる走行モード又は前記要求駆動力若しくは走行路の路面勾配に応じた駆動力を前記原動機トルクにより発生させ且つ当該原動機トルクの一部で前記モータ/ジェネレータに電力の回生を行わせる走行モードに設定し、前記二次電池の充電状態が当該二次電池の速やかな充電を必要とする状態であれば、前記要求駆動力若しくは走行路の路面勾配に応じた駆動力を前記原動機トルクにより発生させ且つ当該原動機トルクの一部で前記モータ/ジェネレータに電力の回生を行わせる走行モードに設定するよう構成したことを特徴とする請求項1記載のハイブリッド車両。
【請求項3】
前記二次電池の充電状態の状態判定に用いる閾値は、走行路の路面勾配に基づき変更することを特徴とした請求項1又は2に記載のハイブリッド車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−76543(P2010−76543A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−245980(P2008−245980)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】