説明

フィードバック制御装置

【課題】制御対象の状態が大きく変化する場合に、制御対象の出力検出値に含まれる揺動成分を確実に除去して、操作量の不必要な振動を回避する。
【解決手段】フィードバック制御を行う制御装置50において、制御対象14へ入力する操作量ICMDに基づいて制御対象14の出力を推定する制御対象モデル63aと、推定した出力と制御対象の検出値θcsとから算出した出力θ1から検出値θcsに含まれる検出値揺動量を算出するためのバンドパスフィルタ63c〜63eと、を備え、制御対象14の状態変化が大きくなるほど通過帯域幅を広げ、制御対象の状態変化が小さくなるほど通過帯域幅を狭める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御対象の出力を目標値に追従させるべくフィードバック制御を行うフィードバック制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの可変動弁装置として、モータを駆動することにより作動する制御軸を有し、この制御軸をバルブスプリングの反力に抗して作動させることにより、バルブリフト特性を可変に制御し、かつモータの駆動力と制御軸の作動角との関係が非線形な特性を有するものが知られている。
【0003】
このような可変動弁装置は、カムシャフトの回転に伴い、いわゆるカム反力がリンクを介して制御軸を揺動させること、及び静止摩擦やブラシ付きDCモータを用いた場合のコギング等といった外乱要素を有すること、を特徴として有している。
【0004】
このような可変動弁装置を制御対象として、制御軸作動角が目標値に一致するようにフィードバック制御を行う場合には、上述したように制御軸がカム反力により揺動するため、制御量である制御軸作動角の検出部にエンジン回転に同期して振動する信号が入力される。この振動信号が加わった制御軸作動角の検出値をフィードバック制御信号として用いると、操作量であるモータ電流が振動して電力消費を増大させ、またアクチュエータに不要な負荷変動を与えて耐久性を損ねる可能性もある。一方、アイドル制御をバルブリフト量制御で実現する場合には、特に微小な作動角制御を必要とするので、上述したような外乱が作動角制御の目標値追従性に与える影響が大きく、結果的にアイドル制御性能を損なう可能性がある。
【0005】
これらの問題を解消するために、振動信号に応じた周波数帯の出力ゲインを低下させるバンドエリミネーションフィルタを備え、制御軸の作動角信号としてバンドエリミネーションフィルタで演算処理した信号を入力する構成の制御装置が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−282900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された制御装置の構成では、エンジン回転速度に応じてバンドエリミネーションフィルタのカット周波数帯を変更すると、たとえばエンジン回転速度が低い場合には振動ノイズの周波数帯が低くなり、制御の応答性から要求される制御周波数帯(ステップ応答から決まる制御すべき周波数)とが非常に近づいてしまうため、フィルタカット周波数の幅を広く設定している場合には、制御対象の信号自体もフィルタにより取り除かれ、制御軸作動角の検出が遅れることから制御性能が著しく悪化してしまうという問題がある。また、フィルタカット周波数の帯域幅を狭く設定していると、エンジン回転速度が変化する加減速時(過渡時)に揺動周波数がフィルタカット周波数の帯域幅から外れてしまい、揺動により直流モータを駆動するための電流指令値が大きく振動していまい、電力消費が大きくなるとともに、直流モータに不必要な負荷を与える可能性がある。
【0008】
上述したフィルタは、制御の検出信号に対して直接バンドエリミネーションフィルタを用いる方法であるが、制御対象をモデル化してモデル出力と実際の検出値の偏差を全ての外乱として取り扱い、その外乱のうち、所定の周波数よりも大きな周波数の信号を揺動周波数を含むノイズとしてハイパスフィルタで通過させ、フィルタ後の信号を実際の検出値から差し引くことでフィードバック制御にカム反力による揺動を反映させない方法もある。
より具体的に記述する。まず、制御対象を2次の伝達関数によりモデル化した制御対象モデルに対して所定の入力を行った場合の制御対象モデルの応答出力を演算させる。その一方で、実際の制御対象に同じ入力を行った際の実際の出力を検出する。上記の応答出力と検出値との差は、制御モデルでは表せなかった外乱として取り扱うことが出来る。
そして、この外乱のうち、カム反力の揺動をカットするようにハイパスフィルタを設定し、制御軸作動角検出値からこの揺動による振動をノイズ分として減算することで揺動を除去する方法も考えられる。
【0009】
しかしながら、ハイパスフィルタで制御軸作動角の反力トルクT1による揺動を通過させる構成では、この反力トルクT1による揺動を確実に通過させるためにハイパスフィルタのカットオフ周波数を反力トルクT1による揺動の周波数の1/2〜1/3程度の低い周波数に設定する必要がある。そのため、制御軸作動角検出値から除去したいノイズ分以外の、例えば電気的ノイズや動弁機構の潤滑状態による反力トルクの変化によるモデル誤差等といった、制御により抑制すべき外乱さえもノイズとして検出してしまうこととなって、直流モータの駆動電流の振動は抑制できるものの、耐外乱性が悪化してしまうという問題がある。
【0010】
そこで、本発明では、耐外乱性、安定性の高いフィードバック制御を可能とする制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の制御装置は、制御目標値と制御対象の実際の出力とに基いて制御対象の実際の出力を目標値に追従させるためのフィードバック制御を行う制御装置である。そして、制御対象をモデル化した制御対象モデルに所定の入力が行われた際のモデル出力と、同入力がなされた際の実際の制御対象の出力とに基いて制御対象に対する外乱を検出すると共に、外乱のうち、フィードバック制御に反映させない揺動成分を通過させるバンドパスフィルタを備え、当該バンドパスフィルタを通過したバンドパスフィルタ通過信号を実際の出力から除去することでフィードバック制御に揺動成分を反映させないフィードバック制御装置である。さらに、バンドパスフィルタの通過帯域幅を前記制御対象の状態に基づいて変化させる通過帯域幅調整手段を有し、この通過帯域幅調整手段は前記制御対象の状態変化が大きくなるほど通過帯域幅を広げ、制御対象の状態変化が小さくなるほど通過帯域幅を狭める。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、制御対象の状態が大きく変化する場合にも、耐外乱性、安定性を大きく悪化させることなく、駆動電流の振動振幅を抑制するフィードバック制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態を適用する可変動弁装置の平面図である。
【図2】可変動弁装置の要部断面図である。
【図3】可変動弁装置の駆動部を示す構成図である。
【図4】可変動弁装置の作用を説明するための図である。
【図5】可変動弁装置の制御軸及び制御カムを示す構成図である。
【図6】制御軸の各回転角における作用を説明するための図である。
【図7】制御軸作動角と駆動電流の関係を示す特性図である。
【図8】本実施形態の制御軸位置決めコントローラのブロック図である。
【図9】線形化補償器と制御対象のブロック図である。
【図10】線形化補償器のマップである。
【図11】揺動除去器のブロック図である(その1)。
【図12】揺動除去器のブロック図である(その2)。
【図13】本実施形態による場合と揺動除去なしの場合のシミュレーション結果を示す図であり、(a)は制御軸作動角、(b)は駆動電流について示している。
【図14】制御軸を一定角度に保持する際のシミュレーション結果を示す図であり、(a)は制御軸作動角、(b)は駆動電流、(c)は電力消費について示している。
【図15】ハイパスフィルタで制御軸作動角の反力トルクT1による揺動を推定する場合のシミュレーション結果を示す図であり、(a)は制御軸作動角、(b)は駆動電流について示している。
【図16】V型6気筒エンジンに本実施形態を適用した場合の、制御軸作動角の揺動の周波数分布を示す図である。
【図17】アイドル制御時における、通過帯域幅が広い場合と狭い場合のタイムチャートである。
【図18】通過帯域幅が狭い状態で、駆動軸回転速度NCAMが変化する場合のタイムチャートである。
【図19】駆動軸回転速度の変化率に基づいて減衰係数ζを切り替える場合のタイムチャートである。
【図20】減衰係数テーブルである。
【図21】非線形反力特性と、線形化補償後の反力特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
図1から図3は、吸気バルブが最大リフトを迎えるクランク角度位置を変えることなく、バルブリフト量及びバルブ作動角を変化させ得る可変動弁装置の一実施形態を示している。
【0016】
図1は可変動弁装置の平面図、図2は可変動弁装置の要部断面図、図3は可変動弁装置の駆動部を示す構成図である。なお、図1では排気バルブ側(図1の下側)の構成を省略して示していない。
【0017】
シリンダヘッド10の上部には、全気筒にわたって連続した駆動軸11(カム軸)を設ける。この駆動軸11は、図外の一端にスプロケットが取り付けられ、タイミングチェーン等を介して機関(エンジン)のクランクシャフトに連動して回転する。
【0018】
駆動軸11の外周には、吸気バルブ(又は排気バルブ)19を駆動する揺動カム18の円筒状の軸受部18aが相対回転可能に外嵌している。この揺動カム18は、先端部(カムノーズ)18bを有する薄板状をなし、その外周に吸気バルブ19の上端に設けられた伝達部材としてのバルブリフタ19aの上面19bに摺接するカム面18cが形成されている。
【0019】
また、駆動軸11の外周にはリング状の偏心カム12が圧入等により固定されている。この偏心カム12の中心(軸心)C2は、駆動軸11の中心(軸心)C1に対して所定量偏心している。この偏心カム12の外周には、リング状リンク13の基部13aがベアリング等を介して相対回転可能に外嵌している。なお、揺動カム18の揺動中心(軸心)は、駆動軸11の中心C1と一致している。
【0020】
駆動軸11の斜め上方には、図1に示したように制御軸14が駆動軸11と略平行に気筒列方向に延設されている。この制御軸14は、後述する駆動部20によりエンジンの運転状態に応じて所定の回転速度範囲で回転、保持される。
【0021】
制御軸14の外周には、リング状の制御カム15が圧入等により固定されている。制御カム15の中心(軸心)C4は、制御軸14の中心(軸心)C3に対して所定量偏心している。この制御カム15の外周には、ロッカーアーム16の円筒状の中央基部が相対回転可能に外嵌している。このロッカーアーム16の一端部16aと、リング状リンク13の小径な先端部13bとは、両者16a、13bを挿通する第1ピン29aを介して相対回転可能に連結されている。
【0022】
また、ロッカーアーム16の他端部16bと揺動カム18とは、ロッド状リンク17によって連携されている。より具体的には、ロッカーアーム16の他端部16bと、ロッド状リンク17の一端部17aとは、両者16b、17aを挿通する第2ピン29bを介して相対回転可能に連結されている。また、ロッド状リンク17の他端部17bと揺動カム18とは、両者17b、18を挿通する第3ピン29cを介して相対回転可能に連結されている。
【0023】
次に、制御軸14を回動、保持する駆動部20の構成を説明する。
【0024】
図1に示すように、制御軸14は、シリンダヘッド10に固定されるケース22内まで延びており、その一端にウォームホイール21が固定されている。ケース22には、制御軸位置決めコントローラ50からの制御信号により駆動される直流モータ26が取り付けられており、この直流モータ26の出力軸26aは、ローラベアリング25を介してケース22内に回転可能に延在している。この出力軸26aに、ウォームホイール21と噛合するウォームギヤ24が固定されている。なお、ウォームギヤ24とウォームホイール21の間でモータトルクを増大させるために、ギヤ比を適宜に大きく設定してある。また、ケース22には、制御軸14(ウォームホイール21)の回転角度(制御軸作動角)を検出する制御軸作動角センサ23が取り付けられており、この制御軸作動角センサ23の出力は、制御軸位置決めコントローラ50に入力され、該制御軸作動角センサ23で検出された制御軸14の作動角に基づいて、直流モータ26がフィードバック制御される。
【0025】
このような構成により、機関の回転に連動して駆動軸11が回転すると、偏心カム12を介してリング状リンク13が並進移動し、これに応じてロッカーアーム16が制御カム15の中心C4を揺動中心として揺動し、かつ、ロッド状リンク17を介して揺動カム18が揺動する。このとき、揺動カム18のカム面18cが、吸気バルブ19の上端に設けられた伝達部材としてのバルブリフタ19aの上面に摺接し、バルブリフタ19aを図外のバルブスプリングの反力に抗して押圧することにより、吸気バルブ19がエンジンの回転に連動して開閉作動する。
【0026】
また、エンジンの運転状態に応じて直流モータ26の出力軸26aが所定の角度だけ回転駆動されると、ウォームギヤ24、ウォームホイール21を介して制御軸14が所定の角度(作動角)だけ回動して、ロッカーアーム16の揺動中心となる制御カム15の中心C4の位置が変化し、吸気バルブ19のリフト特性が変化する。より具体的には、制御軸14の作動角が大側に回動され、制御カム15の中心C4と駆動軸11の中心C1との距離を近づけるほど、バルブリフト特性の変位であるバルブリフト量及びバルブ作動角が大きくなる。
【0027】
次に、可変動弁装置の動作特性を図4、図5を参照して考察する。
【0028】
ロッカーアーム16の他端部16bには、吸気バルブ19のバルブスプリング反力等によって生じる反力F1が、揺動カム18、ロッド状リンク17、第2ピン29b等を介して作用する。また、ロッカーアーム16の一端部16aには、反作用として発生する反力F2が、偏心カム12、リング状リンク13、第1ピン29a等を介して作用する。従って、ロッカーアーム16の揺動中心C4には、実質的に反力F1、F2の合成反力F3が作用する。
【0029】
これにより、制御軸14には、制御軸14の中心C3から合成反力F3の方向線までの腕長さr1と合成反力F3との積であるトルクT1が作用する。従って、駆動部20が制御軸14を所定の角度に保持するためには、少なくとも上記のトルクT1に釣り合う逆向きのトルクを必要とする。
【0030】
制御軸14が所定の回転角度(作動角)に保持された状態では、図4に示すように、揺動カム18が最も高バルブリフト側へ押し下げられたとき、すなわち図4の反時計方向に最も揺動したときに、合成反力F3が最大となる。このときの合成反力F3の方向は、駆動軸11の中心C1と制御軸14の中心C3とを結ぶ第1の線L1と略平行となる。
【0031】
ここで、図6に示すように、合成反力F3は、バルブリフト量(バルブ作動角)の増大に応じて増大する(図6左側:最小バルブ作動角、図6中央:中間バルブ位置、図6右側:最大バルブ作動角)が、腕長さr1は、偏心カム12の回転にしたがって、最小バルブ作動角から中間位置までは増大するが、その後は減少する。したがって、合成反力F3と腕長さとの積であるトルクT1は、制御軸作動角θに対して非線形な特性を有する。
【0032】
図7は、制御軸14の作動角θcs(吸気バルブ19のバルブリフト量、バルブ作動角と相関あり)と直流モータ26を流れる駆動電流ics(トルクT1比例する)との関係を示す。図7において制御軸作動角θcsがゼロのときバルブリフト量(バルブ作動角)が最小となり、制御軸作動角θcsが60度のときバルブリフト量(バルブ作動角)が最大となる。
【0033】
また、駆動軸11がエンジン回転に同期して回転する際に、反力トルクT1は駆動軸11の回転に伴い変動する。そのため、制御軸14の作動角は反力トルクT1の変動によって揺動する。揺動の周期はエンジン回転速度、すなわち駆動軸11の回転速度に同期した周波数を有する。
【0034】
ところで、制御軸作動角センサ23が制御軸作動角を検知する際には、この反力トルクT1による揺動が重畳されて検出されるため、この検出値を直接使ってフィードバック制御を行うと直流モータ26を駆動するための電流指令値が大きく振動していまい、電力消費が大きくなるとともに、直流モータ26に不必要な負荷を与えるという問題がある。
【0035】
この問題を解決するための手段として、カム反力による揺動周波数の成分をバンドエリミネーションフィルタを用いて取り除き、フィードバック制御に反映させない方法が挙げられる。具体的には、この揺動周波数はエンジンの回転速度に応じて変化するため、たとえば前述したような、エンジン回転速度の周波数に応じた周波数帯の信号を取り除く(出力を低下させる)バンドエリミネーションフィルタを用いて、制御軸作動角信号を取り出す方法が考えられる。
【0036】
しかしながら、前述したように、エンジン回転速度に応じてバンドエリミネーションフィルタのカット周波数帯を変更すると、たとえばエンジン回転速度が低い場合には振動ノイズの周波数帯が低くなり、制御の応答性から要求される制御周波数帯(ステップ応答から決まる制御すべき周波数)とが非常に近づいてしまうため、フィルタカット周波数の幅を広く設定している場合には、制御対象の信号自体もフィルタにより取り除かれ制御軸作動角の検出が遅れることから制御性能が著しく悪化してしまうという問題がある。また、フィルタカット周波数の帯域幅を狭く設定していると、エンジン回転速度が変化する加減速時(過渡時)に揺動周波数がフィルタカット周波数の帯域幅から外れてしまい、揺動にり直流モータ26を駆動するための電流指令値が大きく振動していまい、電力消費が大きくなるとともに、直流モータ26に不必要な負荷を与える可能性がある。
【0037】
上述したフィルタは、制御の検出信号に対して直接バンドエリミネーションフィルタを用いる方法であるが、制御対象をモデル化してモデル出力と実際の検出値の偏差を全ての外乱として取り扱い、その外乱のうち、所定の周波数よりも大きな周波数の信号を揺動周波数を含むノイズとしてハイパスフィルタで通過させ、フィルタ後の信号を実際の検出値から差し引くことでフィードバック制御にカム反力による揺動を反映させない方法もある。
【0038】
より具体的に記述する。まず、制御対象を2次の伝達関数によりモデル化した制御対象モデルに対して所定の入力を行った場合の制御対象モデルの応答出力を演算させる。その一方で、実際の制御対象に同じ入力を行った際の実際の出力を検出する。上記の応答出力と検出値との差は、制御モデルでは表せなかった外乱として取り扱うことが出来る。
そして、この外乱のうち、カム反力の揺動をカットするようにハイパスフィルタを設定し、制御軸作動角検出値からこの揺動による振動をノイズ分として減算することで揺動を除去する方法も考えられる。
【0039】
しかしながら、ハイパスフィルタで制御軸作動角の反力トルクT1による揺動を通過させる構成では、この反力トルクT1による揺動を確実に通過させるためにハイパスフィルタのカットオフ周波数を反力トルクT1による揺動の周波数の1/2〜1/3程度の低い周波数に設定する必要がある。そのため、制御軸作動角検出値から除去したいノイズ分以外の、例えば電気的ノイズや動弁機構の潤滑状態による反力トルクの変化によるモデル誤差等といった、制御により抑制すべき外乱さえもノイズとして検出してしまうこととなって、図15(a)、(b)に示すように、直流モータ26の駆動電流の振動は抑制できるものの、耐外乱性が悪化してしまう。図15は制御軸作動角検出値をそのままF/B信号として用いた場合と、上記のハイパスフィルタを用いて推定する場合について、可変動弁装置を制御対象としてシミュレーションを行った結果を表したものであり、図15(a)は制御軸作動角、図15(b)は駆動電流について表している。フィードバック補償器にはPID補償器を用いており、エンジン回転速度は800rpmとし、1秒の時点で駆動電流3A相当のステップ外乱を印加している。
【0040】
そこで、本実施形態では、以下のような制御軸位置決め制御を行う。
【0041】
図8は、制御軸位置決めコントローラ50が実行する、可変動弁機構の制御軸作動角θcsの位置決め制御の制御ブロック図である。制御軸位置決めコントローラ50は、線形化補償器61、フィードバック補償器62、反力トルクT1による揺動分(ノイズ)を除去する揺動除去器63を有している。
【0042】
図1〜図3に示した直流モータ26を有する可変動弁装置が制御対象60で、制御対象60の入力は、直流モータ26に与える電流指令値icsc、出力(制御量)は制御軸作動角θcsである。この制御軸作動角θcsは、制御対象60の出力を検出する応答検出手段としての制御軸作動角センサ23により検出可能である。
【0043】
線形化補償器61について図9を参照して説明する。図9は線形化補償器61と制御対象60の詳細なブロック図である。Ktはモータトルク定数、Jは直流モータ26の軸周りイナーシャ、Dは潤滑油の粘性摩擦係数、T1は制御軸作動角に応じて変化する非線形(1次では無い)な反力トルク、sはラプラス演算子である。制御対象60は、制御軸作動角に応じて変化する非線形な反力トルクを有する2次の伝達関数で表される特性を有する。
【0044】
制御の管理上、非線形のモデルはコントローラを設計する際にロジックが複雑になる等の不都合がある。そこで、線形化補償器61は、トルク反力の非線形特性を、仮想的に線形な特性にするため補償器である。通常、作動角に応じたトルク反力の非線形特性のマップを利用して、補償器を作成するのだが、ここでは、予め計測して作成した制御軸作動角θcsに応じた線形化補償量ILCのマップを用いる。トルク反力に変えて線形化補償量ILCを用いる理由は、直流モータ26の電流値に対する直流モータ26の発生トルクが、比例係数であるモータトルク定数Ktで比例関係にあるからである。
ここで用いるマップを図10に示す。図10では、制御軸作動角がゼロ〜40度までは線形化補償量はゼロとし、40度を超えると制御軸作動角の増大に伴って線形化補償量ILCが減少している。図21は非線形反力特性と、線形化補償後の反力特性を示している。
【0045】
このような線形化補償量ILCを電流指令値ICMDに加算して制御対象に与えることにより、非線形な反力トルクT1を含んで構成される制御対象モデルが線形なモデルとなる。結果として、制御対象60の電流指令値ICMDから制御軸作動角θcsまでの線形化された伝達関数は式(1)のようになり、2次の伝達関数となる。Kは線形化補償後の制御軸反力の傾きである。
【0046】
【数1】

【0047】
フィードバック補償器62について説明する。フィードバック補償器62は、PID制御補償器で構成されている。PID補償器の出力である電流指令値ICMDは式(2)算出される。
【0048】
【数2】

【0049】
なお、KPは比例ゲイン、KIは積分ゲイン、KDは微分ゲイン、TDは近似微分の時定数を表している。θCMDは角度指令値であり、運転者の操作やエンジンの運転状態に応じて変化する。θcs2は後述する揺動除去器63によって演算されたフィードバック信号である。
【0050】
揺動除去器63について図11を参照して説明する。図11は揺動除去器63の構成を表すブロック図である。揺動除去器63は、制御対象モデル63a、ハイパスフィルタ63b、バンドパスフィルタ63c〜63e、減算器63f、63g、63h、63i、から構成されている。
【0051】
制御対象モデル63aは式(1)と同様の伝達関数GP(s)を有し、電流指令値に対して外乱が無い場合の理想的な信号を出力するために設けられる。ハイパスフィルタ63bの伝達関数は式(3)で表される。後述するバンドパスフィルタ63c〜63eではカム反力の揺動周波数の信号のみを通過させたいのだが、バンドパスフィルタ63c〜63eの設計上、その通過周波数帯の周囲の信号も通過させてしまうので、予めハイパスフィルタ63bによってバンドパスフィルタに入力する信号から、通過させるべき周波数よりも低周波側の信号を予め除去しておくことで、バンドパスフィルタ63bにカム反力周波数以外の信号を通過させることを抑制しているのである。このハイパスフィルタ63bは、バンドパスフィルタ63c〜63e同様にエンジン回転速度に応じて可変設定される(揺動周波数に連動)。
【0052】
【数3】

【0053】
Hはハイパスフィルタの時定数であり、その値は、後述するバンドパスフィルタ63c〜63eの通過周波数帯においてはその信号をそのまま通過させるためにゲインがゼロdBとなるように設定する。
【0054】
バンドパスフィルタ63c〜63eに入力される信号θ1は、減算器63fにて電流指令値ICMDと制御作動角θcsを入力として式(4)により算出される。
【0055】
【数4】

【0056】
バンドパスフィルタ63c〜63eは式(5)の伝達関数を有する。
【0057】
【数5】

【0058】
上式(5)のnは、バンドパスフィルタ63cの場合は1、バンドパスフィルタ63dの場合は2、バンドパスフィルタ63eの場合は3となる。ζは減衰係数、ωnは固有振動数であり駆動軸回転速度NCAMを用いて式(6)に基づいて可変調整される。なお、ここでωnの単位はrad/s、NCAMの単位はHzである。
【0059】
【数6】

【0060】
すなわち、バンドパスフィルタ63c〜63eはそれぞれ、駆動軸回転速度と同一、駆動軸回転速度の2倍、3倍の周波数を通過させる設定となっている。
【0061】
次に、減衰係数ζについて説明する。
【0062】
減衰係数ζは、バンドパスフィルタ63c〜63eの通過帯域幅が相対的に小さくなる減衰係数ζ1と、同じく相対的に大きくなる減衰係数ζ2(つまりζ2>ζ1)と、を予め設定しておき、駆動軸回転速度NCAMの変化率の推定結果に基づいていずれかを選択して用いる。
【0063】
ここで、減衰係数ζ1は、バンドパスフィルタ63c〜63eの通過帯域幅が、駆動軸回転速度NCAMが一定のときにおける反力トルクT1による制御軸作動角の揺動の周波数を含むごく狭い範囲となるような値である。
【0064】
一方、減衰係数ζ2は、バンドパスフィルタ63c〜63eの通過帯域幅が、減衰係数ζ1の場合よりも広くなり、かつ、過渡時のズレ対策としてフィルタ幅を広げておきたい駆動軸回転速度NCAM変動時には、過渡時のずれ対策として駆動電流の振動幅が許容できるようにフィルタの通過帯域幅が広くなるような値を設定する(つまり、回転速度の変化が大きいときにバンドパスフィルタ63c〜63eの通過帯域幅が大きくなる)。
【0065】
次に、駆動軸回転速度変化率の推定方法、及び減衰係数の選択方法について、具体例を挙げて説明する。
【0066】
(第1の方法)
検出した駆動軸回転速度NCAMから変化率を算出し、この変化率が予め設定した閾値よりも小さい場合は減衰係数ζ1を選択し、大きい場合は減衰係数ζ2を選択する。この閾値の設定方法は、減衰係数ζ1を用いた場合の、駆動軸回転速度NCAMの変化に伴って発生する駆動電流振動をモニタし、駆動電流振動に対する許容上限値を実験的に定め、この許容上限値となるときの駆動軸回転速度NCAMの変化率を閾値として設定する。
【0067】
バンドパスフィルタ63c〜63eの通過帯域幅を狭めて、問題となる制御軸作動角の揺動の周波数付近に設定すると、フィードバック信号から除去する周波数成分を、問題となる制御軸作動角の揺動の周波数にほぼ限定することができる。その結果、フィードバック制御に必要な周波数帯を除去することがなくなり、より高い耐外乱性、安定性を実現して制御性能を高めることができる。特に、スロットルバルブを開弁し、可変動弁装置による作動角の調整により低空気量をコントロールするアイドル制御時のような場合、作動角の変化に対する空気量の変化が大きいために高分解能を必要とする。そのような領域では作動角を微小角度で制御する必要があり、静止摩擦やDCモータのコギングの影響を受けるので、カム反力による揺動周波数のみを通過させるように通過帯域幅を狭くすることで高い耐外乱性を向上させる必要がある。
【0068】
図17は、アイドル制御時における、通過帯域幅が広い場合と狭い場合のタイムチャートである。図中の実線は通過帯域幅が広い場合を、破線は狭い場合を示している。t1の時点でステップ的な外乱を印加すると、通過帯域幅が広い場合の方が狭い場合よりも、外乱をノイズとしてカットしてしまうので駆動電流の振動は小さくなっている。しかし、制御軸作動角は、通過帯域幅が広い場合の方が狭い場合よりも収束するのが遅くなっている。
【0069】
一方で、制御軸の揺動の周波数は駆動軸回転速度NCAMに応じて変化するため、バンドパスフィルタ63c〜63eの中心周波数は駆動軸回転速度NCAMに応じて設定する必要があるが、駆動軸回転速度NCAMは検出遅れ等の影響により、少なからずとも実値とはズレを有する。このため、バンドパスフィルタ63c〜63eの通過帯域幅を狭く設定し、かつ駆動軸回転速度検出値が実値に対して遅れを有する状況では、駆動軸回転速度NCAMが大きく変化した場合に、実際の制御軸作動角の揺動周波数とバンドパスフィルタ63c〜63eの中心周波数が不一致となり、結果的に駆動電流の振動は大きくなってしまう。
【0070】
図18は、通過帯域幅が狭い状態で、駆動軸回転速度NCAMが変化する場合のタイムチャートである。具体的には、t1の時点でステップ的に外乱を印加し、t3からt4にかけて駆動軸回転速度NCAMが上昇し、t7からt8にかけて駆動軸回転速度が低下している。
【0071】
t1で外乱が印加されても、t2より前の時点で既に制御軸作動角及び駆動電流は元の値に収束している。しかし、駆動軸回転速度NCAMが大きく変化するt3〜t4及びt7〜t8では、上述したように制御軸作動角の揺動周波数とバンドパスフィルタ63c〜63eの中心周波数が不一致となって、駆動電流は大きく振動している。
【0072】
これに対して、本実施形態では、駆動軸回転速度NCAMの変化率が小さい場合はバンドパスフィルタ63c〜63eの通過帯域幅を狭め、変化率が大きい場合はバンドパスフィルタ63c〜63eの通過帯域幅を広げるようにフィルタ特性を切り替える。
【0073】
図19は、駆動軸回転速度の変化率に基づいて減衰係数ζを切り替える場合のタイムチャートである。駆動軸回転速度が大きく変化するt3〜t4及びt7〜t8では減衰係数ζ2、その他では減衰係数ζ1にしている。これにより、t3〜t4及びt7〜t8の駆動電流の振動が図18の場合に比べて抑制されている。このように、駆動軸回転速度NCAMの変化が小さい領域では、高い耐外乱性を実現しつつ、駆動軸回転速度NCAMの変化が大きい領域での駆動電流の振幅を抑制することができる。
【0074】
(第2の方法)
駆動軸回転速度の変化率を判断する指標として、アイドル制御実行中か否かを判定するためのアイドル制御実行フラグを設け、このアイドル制御実行フラグに基づいて減衰係数ζ1または減衰係数ζ2のいずれかを選択する。具体的には、アイドル制御実行中であれば、駆動軸回転速度の変化率は小さいので、通過帯域幅が狭くなるように減衰係数ζ1を選択し、それ以外では通過帯域幅が広くなるように減衰係数ζ2を選択する。これにより、吸気バルブ19のバルブリフト量制御の目標値追従性を向上させて、エンジン回転速度変動を抑制することができる。
【0075】
(第3の方法)
運転者が設定した車速を維持するよう制御する、いわゆるオートクルーズ制御機能を有する車両の場合には、駆動軸回転速度の変化率を判断する指標として、オートクルーズ制御中か否かを示すオートクルーズ制御実行フラグを用いる。そして、オートクルーズ制御実行中であれば、駆動軸回転速度の変化率は小さいので、通過帯域幅が狭くなるように減衰係数ζ1を選択し、それ以外では通過帯域幅が広くなるように減衰係数ζ2を選択する。これにより、第2の方法と同様に吸気バルブ19のバルブリフト量制御の目標値追従性を向上するので、道路勾配の変化等による負荷変動時の車速変動を低減することができる。
【0076】
(第4の方法)
駆動軸回転速度の変化率を判断する指標として、加速操作量の変化率を用いる。加速操作量の変化率として、アクセル開度変化率またはスロットル開度変化率を算出し、いずれかの開度変化率が閾値より大きい場合には、駆動軸回転速度NCAMの変化率が大きくなる可能性が高いので、通過帯域幅が広くなるように減衰係数ζ2を選択し、そうでない場合には通過帯域幅が狭くなるように減衰係数ζ1を選択する。
【0077】
ここで用いる閾値は、減衰係数ζ1を用いた場合の駆動軸回転速度NCAMの変化に伴って発生する駆動電流振動に許容上限値を定め、この許容上限値となるときのアクセル開度またはスロットル開度の変化率を設定する。
【0078】
このように、明らかに駆動軸回転速度NCAMが変動すると判断できる場合に、予め通過帯域幅を広げることで、確実に駆動軸回転速度変動時における駆動電流の振動幅を低減することができる。
【0079】
(第5の方法)
変速機が無段自動変速機の場合に、駆動軸回転速度の変化率を判断する指標として、変速比情報を用いる。変速比情報として、現在の変速比を用いる。変速比が大きいと、エンジントルクの変動や車両状態の変化があった場合の駆動軸回転速度NCAMの変化が大きくなる。また、無段変速機の場合には、アクセルペダル踏み込み量等の運転者の加速意図が反映された変速比となっている。
【0080】
なお、ここでいう変速比の大小は相対的なものであり、アイドル運転時や低速走行時用の変速比を「大きい」とする。
【0081】
そこで、変速比が大きい場合には通過帯域幅が広くなる減衰係数ζ2を選択し、そうでない場合は減衰係数ζ1を選択する。これにより、確実に駆動軸回転速度変動時における駆動電流の振動を抑制することができる。また、エンジントルクや車両状態の変化が起きた場合にも、通過帯域幅を不要に拡げることなく、可変動弁装置の制御性能の低下を回避することができる。なお、現在の変速比ではなく、変速比の変化率を用いてもよい。
【0082】
また、上述した第1〜第5の方法は、それぞれ他の方法と併用しても構わない。
【0083】
上記のように減衰係数ζが切り替えられるバンドパスフィルタ63c〜63eは、駆動軸回転速度NCAMが所定条件の場合には使用されず、不使用時にはバンドパスフィルタの出力はゼロになる。
【0084】
不使用にする条件は、予め計測した各駆動軸回転速度における制御軸作動角の揺動の周波数成分に応じて決定する。可変動弁装置の揺動の周波数分布は、可変動弁装置の機械的な構成(リンク機構や機械的な固有振動数)により、駆動軸(カムシャフト)回転速度に応じて変化するものであるので、ここでは、一例としてV型6気筒エンジンに本実施形態を適用する場合について図16を参照して説明する。
【0085】
図16は駆動軸(カムシャフト)回転速度が100rpm、1200rpmの場合における揺動の周波数分布解析結果である。100rpmおよび1200rpmのいずれの場合にも、駆動軸(カムシャフト)回転速度と同じ周波数及び3倍の周波数をもつ揺動が存在している。しかし、1200rpmでは存在している駆動軸(カムシャフト)回転速度の2倍の周波数成分が、100rpmでは存在していない。すなわち、100rpmの場合には、駆動軸(カムシャフト)回転速度の2倍の周波数を通過させるバンドパスフィルタ63dを使用しても、駆動電流の振動抑制に効果がない。
【0086】
そこで、100rpmの場合にはバンドパスフィルタ63dを不使用とすることとし、これにより制御性能(耐外乱性と安定性)の不必要な低下を抑制する。
【0087】
このように、駆動軸(カムシャフト)回転速度のある範囲において、いずれかのバンドパスフィルタ63c〜63eが通過させる制御軸作動角の揺動の分布が存在しない場合、または電力消費や直流モータ26への負荷に影響を与えない程度に小さい場合には、当該駆動軸回転速度を、バンドパスフィルタを使用しない範囲として設定する。
【0088】
上記のように構成されるバンドパスフィルタ63c〜63eを通過した作動角揺動量の総和であるθ2は式(7)で求められる。
【0089】
【数7】

【0090】
θ2は制御軸作動角の揺動量であり、これを減算器63iにて式(8)のように制御軸作動角θcsから減算することでフィードバック信号θcs2は揺動が除去された信号となる。
【0091】
【数8】

【0092】
なお、揺動除去器63は図11の構成に限定されるものではなく、例えば、図12に示すように、バンドパスフィルタ63c〜63eを直列に接続する構成であっても同様の効果を得ることができる。この場合、ハイパスフィルタ63b1〜63b3はそれぞれバンドパスフィルタ63c〜63eの通過周波数帯においてゲインがゼロdBとなるように時定数を設定する。
【0093】
図13は、本実施形態の位置決め制御を実行した場合と、制御軸作動角の検出値をそのままF/B信号として用いる場合(以下、揺動除去なしの場合という)とについてのシミュレーション結果であり、図13(a)は制御軸作動角、図13(b)は駆動電流について示している。
【0094】
このシミュレーションでは、図15のシミュレーションと同じF/Bゲインに設定したPID補償器を用いており、1秒の時点で駆動電流3A相当のステップ外乱を印加している。
【0095】
ハイパスフィルタで制御軸作動角の反力トルクT1による揺動を推定する場合には、駆動電流の振動は、図15(b)に示すように揺動除去なしの場合よりも小さくすることができるが、ステップ外乱が印加された後の制御軸作動角の変化は、図15(a)に示すように、揺動除去なしの場合よりも大きくなっている。
【0096】
これに対して、本実施形態によれば、ステップ外乱が印加された後の制御作動角の変化は、図13(a)に示すように揺動除去なしの場合とほぼ同等となっており、駆動電流の振動は図13(b)に示すように揺動除去なしの場合及びハイパスフィルタで制御軸作動角の反力トルクT1による揺動を推定する場合よりも小さくなっている。
【0097】
すなわち、本実施形態によれば、制御性能(耐外乱性と安定性)を悪化させることなく、制御対象に入力する操作量の振動振幅を抑制することができる。そのため、より大きなF/Bゲインを設定することが可能となり、電力消費を小さくするとともに、制御対象に不必要な負荷を与えることを回避できる。
【0098】
図14は、制御軸作動角を一定角度に保持している際の、制御軸作動角、駆動電流及び消費電力について、本実施形態の位置決め制御を実行した場合と、揺動除去なしの場合のシミュレーションを行った結果であり、図14(a)は制御軸作動角、図14(b)は駆動電流、図14(c)は電力消費について示している。
【0099】
図14(a)に示すように、制御軸作動角の変化はいずれの場合もほぼ同等であるが、図14(b)に示すように、本実施形態によれば駆動電流の振動が抑制されている。そのため、図14(c)に示すように、電力消費を低減することができるとともに、直流モータ26へ不必要な負荷を与えることがなく、直流モータ26の耐久性を向上させることができる。
【0100】
以上のように本実施形態によれば、次のような効果を得ることができる。
【0101】
(1)バンドパスフィルタ63c〜63eの通過帯域幅を、駆動軸回転速度NCAMの変化が大きくなるほど広げ、変化が小さくなるほど狭めるので、駆動軸回転速度NCAMが大きく変化する場合にも、耐外乱性、安定性を大きく悪化させることなく、駆動電流の振動振幅を抑制することができる。
【0102】
(2)バンドパスフィルタ63を複数備えるので、振動ノイズの周波数成分が複数ある場合に、操作量の振動振幅を効果的に抑制することができる。また、各バンドパスフィルタ63c〜63eの使用・不使用を制御軸14の状態に応じて切り替えるので、制御出力電流の振動振幅の抑制に関係のないバンドパスフィルタを使用することによる制御性能の不必要な低下を抑制することができる。
【0103】
(3)アイドル制御状態であると判定した場合には通過帯域幅を狭めるので、可変動弁装置のリフト量制御の目標値追従性が向上し、エンジン回転速度の変化、つまり駆動軸回転速度NCAMの変化が小さいアイドル制御状態でのエンジン回転速度変動を抑制することができる。
【0104】
(4)オートクルーズ制御中であると判定した場合には通過帯域幅を狭めるので、可変動弁装置の目標値追従性の向上により、道路勾配の変化等のような負荷変動時の車速変動を低減することができる。
【0105】
(5)加速操作量の変化を検知し、変化が閾値より大きい場合には通過帯域幅を広げるので、明らかに駆動軸回転速度NCAMが変化すると予測されるときには、変化に先立って通過帯域幅が広がる。これにより、駆動軸回転速度NCAMが変動する際の駆動電流の振動振幅を、確実に低減することができる。
【0106】
(6)変速比が大きいほど通過帯域幅を広げ、変速比が小さいほど通過帯域幅を狭めるので、エンジントルク変動等に伴うエンジン回転速度変動が大きくなりがちな状態では通過帯域幅が広がり、そうでない場合は、通過帯域幅は狭まる。したがって、エンジン回転速度変動に伴う駆動電流の振動を低減することができ、かつ不必要に通過帯域幅を広げることがないので、可変動弁装置の制御性の低下を抑制することができる。
【0107】
なお、バンドパスフィルタ63c〜63eの減衰係数ζを切り替えるのではなく、減衰係数ζ1のバンドパスフィルタと減衰係数ζ2のバンドパスフィルタをそれぞれ設けてもよい。この場合、駆動軸回転速度の変化率に基づいて、いずれの減衰係数ζのバンドパスフィルタの算出結果を用いるかを決定する。
【0108】
さらには、両バンドパスフィルタの算出結果を線形補完するようにしてもよい。
【0109】
第2実施形態について説明する。
【0110】
本実施形態は、構成及び制御は基本的には第1実施形態と同様であるが、バンドパスフィルタ63c〜63eの通過帯域幅の切り替え制御、特に、広い通過帯域幅から狭い通過帯域幅に切り替える際の制御が異なる。
【0111】
本実施形態では、第1実施形態と同様の方法による狭い通過帯域幅に切り替えるべきとの判断が、予め設定した所定時間継続したときに、減衰係数ζをζ2からζ1に切り替える。ここでいう所定時間は、駆動軸回転速度NCAMの変化が収まった後に、駆動軸回転速度変化により生じた駆動電流振動が収束するまでの時間と同等以上の時間を設定する。
【0112】
通過帯域幅を変更することによる駆動電流振動は、制御軸作動角の状態変化が小さくなった後も、バンドパスフィルタ63c〜63eの過渡特性により残る場合がある。そこで、上記所定時間が経過してから減衰係数ζを切り替えるようにすることで、上記のようなバンドパスフィルタ63c〜63eの過渡特性による駆動電流振動をも含めて低減することができる。
【0113】
以上のように本実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果に加え、さらに次のような効果を得ることができる。
【0114】
(1)いったん広げた通過帯域幅を狭める場合に、通過帯域幅を狭めるべき状態が所定時間継続した後で、通過帯域幅を狭めるので、制御軸作動角の状態変化が小さくなった後の駆動電流振動による制御性の低下を抑制することができる。
【0115】
第3実施形態について説明する。
【0116】
本実施形態は、構成及び制御は基本的には第1実施形態と同様であるが、バンドパスフィルタ63c〜63eの通過帯域幅の切り替え制御が異なる。本実施形態では、ζ1またはζ2のいずれかの減衰係数を選択するのではなく、例えば図20のようなテーブルを用いて、連続的に変更する。図20の縦軸は減衰係数、横軸は駆動軸回転速度変化率である。なお、駆動軸回転速度変化率に替えて、アクセル開度またはスロットル開度といった加速操作量の変化率、または変速比としてもよい。
【0117】
これによれば、制御性能をより向上させることができる。
【0118】
なお、エンジンの可変動弁装置の制御装置に適用する場合を例に挙げて説明したが、これに限られるわけではなく、制御周波数帯に近いノイズが発生するような機構の制御装置に広く適用することができる。
【0119】
また、本発明は上記の実施の形態に限定されるわけではなく、特許請求の範囲に記載の技術的思想の範囲内で様々な変更を成し得ることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0120】
11 駆動軸
12 偏心カム
13 リング状リンク
14 制御軸
15 制御カム
16 ロッカーアーム
17 ロッド状リンク
18 揺動カム
19 吸気バルブ
20 駆動部
23 制御軸作動角センサ
26 直流モータ
50 制御軸位置決めコントローラ
60 制御対象
61 線形化補償器
62 フィードバック補償器
63 揺動除去器
63b ハイパスフィルタ
63c バンドパスフィルタ
63d バンドパスフィルタ
63e バンドパスフィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御目標値と制御対象の実際の出力とに基いて制御対象の実際の出力を目標値に追従させるためのフィードバック制御を行う制御装置であって、制御対象をモデル化した制御対象モデルに所定の入力が行われた際のモデル出力と、同入力がなされた際の実際の制御対象の出力とに基いて制御対象に対する外乱を検出すると共に、前記外乱のうち、フィードバック制御に反映させない揺動成分を通過させるバンドパスフィルタを備え、当該バンドパスフィルタを通過したバンドパスフィルタ通過信号を前記実際の出力から除去することでフィードバック制御に前記揺動成分を反映させないフィードバック制御装置において、
前記バンドパスフィルタの通過帯域幅を前記制御対象の状態に基づいて変化させる通過帯域幅調整手段を有し、
前記通過帯域幅調整手段は前記制御対象の状態変化が大きくなるほど通過帯域幅を広げ、前記制御対象の状態変化が小さくなるほど前記通過帯域幅を狭めることを特徴とする制御装置。
【請求項2】
前記バンドパスフィルタを複数備え、各バンドパスフィルタの使用・不使用を前記制御対象の状態に応じて切り替えることを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
エンジンの可変動弁装置の制御装置であって、
前記実際の制御対象の出力は制御軸の作動角であり、
前記制御対象への入力は駆動電流あるいは電圧であり、
前記制御対象モデルは可変動弁装置の制御対象モデルであり、
前記外乱のうち、フィードバック制御に反映させない揺動成分とは前記制御軸の作動角カム反力による揺動成分であり、
前記通過帯域幅調整手段は、前記可変動弁装置の駆動軸回転速度の変化が大きくなるほど通過帯域幅を広げ、前記駆動軸回転速度の変化が小さくなるほど前記通過帯域幅を狭めることを特徴とする請求項1または2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記エンジンがアイドル制御状態か否かを判定するアイドル状態判定手段を備え、
アイドル制御状態であると判定した場合には、前記通過帯域幅調整手段は前記通過帯域幅を狭めることを特徴とする請求項3に記載の制御装置。
【請求項5】
運転者が設定した車速での定速走行となるよう車速を制御する定速制御手段と、
前記定速制御手段による車速制御中であるか否かを判定する定速制御状態判定手段と、
を備え、
前記定速制御手段による車速制御中であると判定した場合には、前記通過帯域幅調整手段は前記通過帯域幅を狭めることを特徴とする請求項3または4に記載の制御装置。
【請求項6】
運転者の加速意図を検知する加速意図検知手段を備え、加速意図を検知した場合には前記通過帯域幅調整手段は前記通過帯域幅を広げることを特徴とする請求項3から5のいずれか一つに記載の制御装置。
【請求項7】
無段自動変速機と、
この無段自動変速機の変速比を検知する手段と、
を備え、
前記通過帯域幅調整手段は、変速比が大きいほど前記通過帯域幅を広げ、変速比が小さいほど前記通過帯域幅を狭めることを特徴とする請求項3から6のいずれか一つに記載の制御装置。
【請求項8】
前記通過帯域幅調整手段は、いったん広げた通過帯域幅を狭める場合に、前記通過帯域幅を狭めるべき状態が所定時間継続した後で、通過帯域幅を狭めることを特徴とする請求項1から7のいずれか一つに記載の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2010−203231(P2010−203231A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46196(P2009−46196)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】