プラントの制御装置
【課題】 フィードバック制御を行うフィードバック制御器の伝達関数を、制御対象であるプラントに加わる外乱の影響を考慮して適切に設定し、設計工数を抑制しつつ良好な制御性能を得ることができるプラントの制御装置を提供する。
【解決手段】 フィードバック制御器33は、プラント(1,17)の制御出力(KACT)が目標値(KCMDM)と一致するように、プラントへ入力する制御入力(KAF)を算出する。フィードバック制御器33の伝達関数C(z)は、プラントをモデル化することにより得られる制御対象モデルの伝達関数P(z)の逆伝達関数と、制御入力(KAF)に印加される外乱dの制御出力(KACT)への感度を示す感度関数S(z)を用いて定義される外乱感度相関関数との積で表され、感度関数S(z)は、プラントの応答特性を示す応答特性パラメータ(α)を用いて定義される。
【解決手段】 フィードバック制御器33は、プラント(1,17)の制御出力(KACT)が目標値(KCMDM)と一致するように、プラントへ入力する制御入力(KAF)を算出する。フィードバック制御器33の伝達関数C(z)は、プラントをモデル化することにより得られる制御対象モデルの伝達関数P(z)の逆伝達関数と、制御入力(KAF)に印加される外乱dの制御出力(KACT)への感度を示す感度関数S(z)を用いて定義される外乱感度相関関数との積で表され、感度関数S(z)は、プラントの応答特性を示す応答特性パラメータ(α)を用いて定義される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラントの制御装置に関し、特にプラントの制御出力が目標値と一致するようにフィードバック制御を行うものに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、内燃機関の空燃比制御装置が示されている。この制御装置によれば、検出空燃比と目標空燃比の偏差に応じたフィードバック制御により、空燃比補正係数が算出される。より具体的には、制御対象モデルを定義するモデル定義式を用いて空燃比補正係数が算出され、モデル定義式の係数である制御パラメータが、機関の吸入空気量、空燃比センサの応答時定数、及び演算間隔に応じて算出され、算出される制御パラメータをモデル定義式に適用して、空燃比補正係数が算出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−90584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の制御装置によれば、制御入力である空燃比補正係数は、機関の吸入空気量に応じて設定される制御パラメータを用いて算出されるが、この制御パラメータの算出には、制御の安定性と応答性を考慮して予め設定される制御ゲインωが使用される。したがって、制御ゲインωの設定が不適切である場合には、所望の制御性能が得られない。また、適切な制御ゲインωの設定を行うためには、事前の検討に多くの工数を必要とする。
【0005】
本願発明はこの点に着目してなされたものであり、フィードバック制御を行うフィードバック制御器の伝達関数を、制御対象であるプラントに加わる外乱の影響を考慮して適切に設定し、設計工数を抑制しつつ良好な制御性能を得ることができるプラントの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため請求項1に記載の発明は、プラントの制御出力(KACT)が目標値(KCMD)と一致するように、前記プラントへ入力する制御入力(KAF)を算出するフィードバック制御器を備えるプラントの制御装置において、前記フィードバック制御器の伝達関数である制御器伝達関数(C(z))は、前記プラントをモデル化することにより得られる制御対象モデルの伝達関数(P(z))の逆伝達関数と、前記プラントに印加される外乱の前記制御出力への感度を示す感度関数(S(z))を用いて定義される外乱感度相関関数との積で表され、前記感度関数(S(z))は、前記プラントの応答特性を示す応答特性パラメータ(α)を用いて定義されることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のプラントの制御装置において、前記感度関数(S(z))は、前記制御器伝達関数(C(z))の分子の次数が前記制御器伝達関数の分母の次数以下となり、かつハイパスフィルタ特性が実現されるように定義されることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のプラントの制御装置において、前記感度関数(S(z))は、前記プラントの応答特性を示す複数の応答特性パラメータ(α,α’)に対応する複数の感度関数(S1(z),S2(z))の線形和として定義されることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3の何れか1項に記載のプラントの制御装置において、前記目標値(KCMD)に前記制御対象モデルの伝達関数(P(z))を適用して、修正目標値(KCMDM)を算出する修正目標値算出手段をさらに備え、前記フィードバック制御器は、前記制御出力(KACT)が前記修正目標値(KCMDM)と一致するように前記制御入力(KAF)を算出することを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項1から4の何れか1項に記載のプラントの制御装置において、前記プラントは、内燃機関(1)及び該機関の排気中の酸素濃度を検出する空燃比センサ(17)からなり、前記フィードバック制御器は、検出される空燃比(KACT)が目標空燃比(KCMD)と一致するように前記制御入力である空燃比制御量(KAF)を算出し、前記応答特性パラメータ(α)は、前記空燃比センサの応答時定数(τS)に応じて設定されることを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項1から3の何れか1項に記載のプラントの制御装置において、前記プラントは、内燃機関(1)及び該機関の出力トルクを制御するトルク制御部(45)であり、前記フィードバック制御器は、検出される前記機関の回転数(NE)が目標回転数(NOBJ)と一致するように前記制御入力である前記機関の目標トルク(TQFB,TQCMD)を算出し、前記応答特性パラメータは、前記トルク制御部(45)の応答特性に応じて設定されるパラメータ(α1)であることを特徴とする。
【0012】
請求項7に記載の発明は、請求項1から3の何れか1項に記載のプラントの制御装置において、前記プラントは、内燃機関の吸気弁の作動位相を連続的に変化させる弁作動位相可変機構(56)であり、前記フィードバック制御器は、検出される前記作動位相(VPA)が目標作動位相(VPACMD)と一致するように前記制御入力である、前記弁作動位相可変機構(56)に供給する駆動信号のデューティ(DTFB,DUTY)を算出し、前記応答特性パラメータは、前記弁作動位相可変機構(56)の作動油の応答特性に応じて設定されるパラメータ(α3)であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、フィードバック制御器により、プラントの制御出力が目標値と一致するように制御入力が算出され、フィードバック制御器の伝達関数は、プラントをモデル化することにより得られる制御対象モデルの伝達関数の逆伝達関数と、制御入力に印加される外乱の制御出力への感度を示す感度関数を用いて定義される外乱感度相関関数との積で表され、感度関数は、プラントの応答特性を示す応答特性パラメータを用いて定義される。したがって、応答特性パラメータを求めることによって感度関数が決まり、さらにフィードバック制御器の制御器伝達関数が決定される。感度関数を用いることにより外乱の影響を抑制し、かつプラントの応答特性に適した制御器伝達関数を得ることができる。その結果、設計工数を抑制しつつ良好な制御性能を実現することができる。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、制御器伝達関数の分子の次数が制御器伝達関数の分母の次数以下となり、かつハイパスフィルタ特性が実現されるように、感度関数が定義されるので、実現可能でかつ定常誤差の発生しないフィードバック制御器を構成することができる。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、感度関数がプラントの応答特性を示す複数の応答特性パラメータに対応する複数の感度関数の線形和として定義される。プラントの応答特性は、プラントを構成する構成要素の特性に依存してばらつくので、感度関数を複数の感度関数の線形和として定義することにより、周波数領域のより広い範囲に亘って良好な制御性能を得ることが可能となる。
【0016】
請求項4に記載の発明によれば、目標値に制御対象モデルの伝達関数を適用して、修正目標値が算出され、制御出力が修正目標値と一致するように制御入力が算出される。修正目標値を適用することにより、目標値が急変した場合において制御出力と修正目標値との差(制御偏差)に含まれる、プラントのむだ時間要素や積分要素に起因する成分を抑制することができる。その結果、過渡状態における制御入力の不必要な変動を抑制し、良好な制御性能を維持することができる。
【0017】
請求項5に記載の発明によれば、制御対象であるプラントは内燃機関及び空燃比センサであり、検出空燃比が目標空燃比と一致するように空燃比制御量が算出され、応答特性パラメータは、空燃比センサの応答時定数に応じて設定される。空燃比制御における内燃機関は、むだ時間要素で近似し、空燃比センサの応答特性は一次遅れ要素で近似すること可能であることが確認されているので、応答特性パラメータを空燃比センサの応答時定数に応じて設定することにより、良好な空燃比制御性能を得ることができる。
【0018】
請求項6に記載の発明によれば、制御対象であるプラントは、内燃機関及び該機関の出力トルクを制御するトルク制御部であり、検出される機関回転数が目標回転数と一致するように目標トルクが算出され、応答特性パラメータは、トルク制御部の応答特性に応じて設定される。回転数制御における内燃機関及びトルク制御部は、二次遅れ要素で近似でき、その応答特性は、主としてトルク制御部の応答特性に依存することが確認されているので、応答性パラメータをトルク制御部の応答特性に応じて設定することにより、良好な機関回転数制御性能を得ることができる。
【0019】
請求項7に記載の発明によれば、制御対象であるプラントは、内燃機関の吸気弁の作動位相を連続的に変化させる弁作動位相可変機構であり、検出される作動位相が目標作動位相と一致するように駆動信号デューティが算出され、応答特性パラメータは、弁作動位相可変機構の作動油の応答特性に応じて設定される。弁作動位相可変機構は、二次遅れ要素で近似でき、その応答特性は、主として作動油の応答特性に依存することが確認されているので、応答特性パラメータを作動油の応答特性に応じて設定することにより、良好な弁作動位相制御性能を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態にかかる内燃機関及びその制御装置の構成を示す図である。
【図2】一般的なフィードバック制御系の構成を示すブロック図である。
【図3】感度関数(S)及び制御器伝達関数(C)の振幅周波数特性を示す図である。
【図4】空燃比のフィードバック制御を行う制御系の構成を示すブロック図である。
【図5】図4の目標値修正部の機能を説明するためのタイムチャートである。
【図6】図4のフィードバック制御器による演算処理のフローチャートである。
【図7】図6の処理で参照されるテーブルを示す図である。
【図8】フィードバック制御の制御性能を説明するためのタイムチャートである。
【図9】感度関数(S)及び制御器伝達関数(C)の振幅周波数特性を示す図である。
【図10】第1の実施形態の変形例における演算処理を説明するためのブロック図である。
【図11】図10に示すブロック図に対応する演算処理のフローチャートである。
【図12】内燃機関のアイドル回転数のフィードバック制御を行う制御系の構成を示すブロック図である。
【図13】吸気弁作動位相のフィードバック制御を行う制御系の構成を示す図である。
【図14】弁作動特性可変機構に含まれる電磁スプール弁を構成及び動作を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
[第1の実施形態]
図1は、本発明の一実施形態にかかる内燃機関(以下「エンジン」という)及びその制御装置の全体構成図であり、例えば4気筒のエンジン1の吸気管2の途中にはスロットル弁3が配されている。スロットル弁3にはスロットル弁開度THを検出するスロットル弁開度センサ4が連結されており、その検出信号が電子制御ユニット(以下「ECU」という)5に供給される。
【0022】
燃料噴射弁6はエンジン1とスロットル弁3との間かつ吸気管2の図示しない吸気弁の少し上流側に各気筒毎に設けられており、各噴射弁は図示しない燃料ポンプに接続されていると共にECU5に電気的に接続されて当該ECU5からの信号により燃料噴射弁6の開弁時間が制御される。
【0023】
スロットル弁3の上流側には吸入空気流量GAIRを検出する吸入空気流量センサ7が設けられている。またスロットル弁3の下流側には吸気圧PBAを検出する吸気圧センサ8、及び吸気温TAを検出する吸気温センサ9が設けられている。エンジン1の本体には、エンジン冷却水温TWを検出するエンジン冷却水温センサ10が装着されている。これらのセンサ8〜10の検出信号は、ECU5に供給される。
【0024】
ECU5には、エンジン1のクランク軸(図示せず)の回転角度を検出するクランク角度位置センサ11が接続されており、クランク軸の回転角度に応じた信号がECU5に供給される。クランク角度位置センサ11は、エンジン1の特定の気筒の所定クランク角度位置でパルス(以下「CYLパルス」という)を出力する気筒判別センサ、各気筒の吸入行程開始時の上死点(TDC)に関し所定クランク角度前のクランク角度位置で(4気筒エンジンではクランク角180度毎に)TDCパルスを出力するTDCセンサ及びTDCパルスより短い一定クランク角周期(例えば6度周期)で1パルス(以下「CRKパルス」という)を発生するCRKセンサから成り、CYLパルス、TDCパルス及びCRKパルスがECU5に供給される。これらのパルスは、燃料噴射時期、点火時期等の各種タイミング制御、エンジン回転数(エンジン回転速度)NEの検出に使用される。
【0025】
排気管13には排気浄化触媒14が設けられ、排気浄化触媒14の上流側には、比例型酸素濃度センサ17(以下「LAFセンサ17」という)が装着されており、このLAFセンサ17は排気中の酸素濃度(空燃比)にほぼ比例した検出信号を出力し、ECU5に供給する。
【0026】
ECU5は、各種センサからの入力信号波形を整形し、電圧レベルを所定レベルに修正し、アナログ信号値をデジタル信号値に変換する等の機能を有する入力回路、中央演算処理ユニット(以下「CPU」という)、該CPUで実行される各種演算プログラム及び演算結果等を記憶する記憶回路、燃料噴射弁6に駆動信号を供給する出力回路等から構成される。
【0027】
ECU5は、検出される空燃比が、エンジン運転状態に応じて設定される目標空燃比と一致するように、燃料噴射弁6による燃料噴射時間(燃料噴射量にほぼ比例するので、以下「燃料噴射量」という)TOUTを算出し、燃料噴射量TOUTに応じて燃料噴射弁6による燃料噴射を実行する。これにより、空燃比のフィードバック制御が行われる。
【0028】
次に本実施形態におけるフィードバック制御器の構成手法を図2及び図3を参照して説明する。
【0029】
図2は、制御対象であるプラントの制御出力Yをフィードバック制御する制御系の一般的な構成を示すブロック図であり、この制御系は、減算器21、フィードバック制御器22、加算器23、及び制御対象であるプラント24からなる。
【0030】
減算器21は、目標値YTから制御出力Yを減算することにより、制御偏差DYを算出し、フィードバック制御器22は、制御偏差DYが「0」となるように、すなわち制御出力Yが目標値YTと一致するように制御入力Uを算出する。加算器23は、演算器として実際に存在するものではなく、プラント24に加わる外乱dが制御入力Uに加算される形式でモデル化するために設けられている。
【0031】
この制御系は、下記式(1)及び(2)で表される。式(1)のP(z)は、プラント24の伝達関数であり、式(2)のC(z)は、フィードバック制御器22の伝達関数である。「(z)」は、離散時間系の伝達関数であることを示すために付している。
Y(z)=P(z)・(U+d) (1)
U=C(z)・DY=C(z)・(YT−Y) (2)
【0032】
このとき、外乱dの制御出力Yへの感度を示す感度関数S(z)は、よく知られているように下記式(3)で与えられる。
S(z)=1/(1+C(z)・P(z)) (3)
【0033】
式(3)を変形することにより、フィードバック制御器22の伝達関数C(z)は、下記式(4)で与えられる。
【数1】
【0034】
式(4)を用いると、プラント24の伝達関数P(z)及び感度関数S(z)を与えることにより、フィードバック制御器22の伝達関数C(z)を決定することができる。
【0035】
そこで本実施形態では、感度関数S(z)を下記式(5)で定義している。式(5)のβ1は感度関数を定義する感度関数パラメータであり、以下に説明する条件Bを満たすように設定される。
【数2】
【0036】
式(5)は、以下の条件A及びBを満たすように決定したものである。
A:伝達関数Cの分子の次数が分母の次数以下であること、すなわちフィードバック制御器22が設定可能であること
B:フィードバック制御の定常偏差が「0」となること、すなわち感度関数Sが低周波成分を遮断するハイパスフィルタ特性を有すること
【0037】
このように感度関数Sを定義すると、感度関数S(z)の振幅周波数特性は、図3(a)に実線L1で示すような特性とすることができる。この特性は、最も一般的なフィードバック制御器であるPID(比例積分微分)制御器を用い、かつその制御ゲインを適切に設定した場合の制御系の感度関数SPID(z)の振幅周波数特性(破線L2)に近い特性となる。
【0038】
本実施形態では、エンジン1及びLAFセンサ17が、図2のプラント24に相当し、空燃比制御においては、エンジン1の伝達特性は1演算周期に相当するむだ時間要素の伝達関数で近似し、LAFセンサ17の伝達特性は一次遅れ要素の伝達関数で近似できることが、実験的に確認されている。したがって、プラントの伝達関数P(z)は、下記式(6)で与えられる。式(6)のαは、LAFセンサ17の応答特性を示す応答特性パラメータであり、LAFセンサ17の応答時定数τS及び演算周期TCを用いて下記式(7)で定義される。応答特性パラメータαは、0から1の間の値をとり、LAFセンサ17の応答速度が高くなるほど大きな値をとる。
【数3】
【0039】
したがって、本実施形態では、フィードバック制御器22の伝達関数C(z)は、下記式(8)で与えられ、式(8)に式(5)の感度関数S(z)を適用すると式(9)が得られる。
【数4】
【0040】
式(9)で与えられる伝達関数C(z)の振幅周波数特性は、図3(b)の実線L3で示されるように、PID制御器の伝達関数CPID(z)の振幅周波数特性(破線L4)と近い特性とすることができる。ただし、1Hzより高い周波数範囲で、GAIN(C)(実線L3)がGAIN(CPID)(破線L4)より低下する傾向を示す。
【0041】
本実施形態では、さらに感度関数S(z)を定義する式(5)の感度関数パラメータβ1を、プラント24の構成要素であるLAFセンサ17の応答特性パラメータαに設定することにより、良好な制御性を実現している。すなわち、式(8)に適用する感度関数S(z)を下記式(5a)により定義し、フィードバック制御器22の伝達関数C(z)を下記式(9a)で与えることとした。式(9a)は、式(9)のβ1をαに代えること(あるいは式(5a)を式(8)に適用すること)により得られる。
【数5】
【0042】
図4は、本実施形態におけるフィードバック制御系の全体構成を示すブロック図であり、目標値修正部(修正目標値算出手段)31と、減算器32と、フィードバック制御器33と、燃料噴射制御部34と、加算器35と、エンジン1と、LAFセンサ17とによって構成される。目標値修正部31、減算器32、フィードバック制御器33、及び燃料噴射制御部34は、ECU5のCPUによる演算処理により実現される。本実施形態では、空燃比を示すパラメータとして当量比を用いる。当量比は、空燃比の逆数に比例し、空燃比が理論空燃比に等しいとき「1.0」をとるパラメータである。
【0043】
目標値修正部31は、目標空燃比に相当する目標当量比KCMDに、プラントの伝達関数P(z)(上記式(6))を適用し、修正目標当量比KCMDMを算出する。具体的には、下記式(10)により算出される。式(10)の「k」は、演算周期TCで離散化した離散化時刻である。
KCMDM(k)=(1−α)×KCMDM(k-1)+α×KCMD(k-2) (10)
【0044】
例えば、図5に実線で示すように目標当量比KCMDがステップ状に変化した場合には、修正目標当量比KCMDMは、破線で示すようにむだ時間(演算周期TCで近似している)分だけ遅れ、且つ一次遅れ特性で目標当量比KCMDに一致するように変化する。
【0045】
減算器32は、修正目標当量比KCMDMから検出当量比KACTを減算することにより、制御偏差DAFを算出する。検出当量比KACTは、LAFセンサ17により検出される空燃比を当量比に変換したものである。
【0046】
フィードバック制御器33は、上記式(9)の伝達関数C(z)に相当する演算を実行して、空燃比制御量である空燃比補正係数KAFを算出する。すなわち、伝達関数C(z)を用いた下記式(11)に相当する演算、具体的には下記式(12)で示される演算を行って、空燃比補正係数KAFを算出する。本実施形態では、上述したように感度関数S(z)の感度関数パラメータβ1が、LAFセンサ17の応答特性パラメータαに設定されるので、実際には下記式(12a)により空燃比補正係数KAFが算出される。
KAF=C(z)・DAF (11)
【数6】
【0047】
燃料噴射制御部34は、下記式(13)により燃料噴射量TOUTを算出する。
TOUT=TIM×KCMD×KAF×KTOTAL (13)
ここに、TIMは基本燃料量、具体的には燃料噴射弁6の基本燃料噴射時間であり、吸入空気流量GAIRに応じて設定されたTIMテーブルを検索して決定される。TIMテーブルは、エンジンに供給する混合気の空燃比がほぼ理論空燃比になるように設定されている。
【0048】
KTOTALは吸気温TA,エンジン冷却水温TWなどの運転状態を示すパラメータに応じて演算される補正係数の積であり、公知の手法で算出される。
加算器35は図2と同様の意味で含まれており、プラントを構成するエンジン1及びLAFセンサ17に加わる外乱dが加算される。
【0049】
図4に示される制御系は、図2と比較するとフィードバック制御ループ内に燃料噴射制御部34が追加されたものとなっているが、燃料噴射制御部34では線形演算が行われるのみであるので、上述したフィードバック制御の設計手法をそのまま適用することができる。
【0050】
図6は、図4のフィードバック制御器33における演算処理のフローチャートである。この処理は、TDCパルスに同期してECU5のCPUで実行されるため、エンジン回転数NEに依存して演算周期TCが変化する。したがって、応答特性パラメータαの算出に適用する演算周期TCは、エンジン回転数NEに応じて算出される値が使用される。
【0051】
ステップS11では、修正目標当量比KCMDM(k)を前記式(10)により算出し、ステップS12では、下記式(14)により、制御偏差DAF(k)を算出する。
DAF(k)=KCMDM(k)−KACT(k) (14)
【0052】
ステップS13では、吸入空気流量GAIRに応じて図7に示すτSテーブルを検索し、LAFセンサ17の応答時定数τSを算出する。τSテーブルは、吸入空気流量GAIRが増加するほど応答時定数τSが減少するように設定されている。
【0053】
ステップS14では、前記式(7)により応答特性パラメータαを算出し、ステップS15では、前記式(12a)により空燃比補正係数KAF(k)を算出する。
【0054】
図8は、本実施形態における空燃比制御特性の改善効果を説明するためのタイムチャートである。図8(a)〜図8(c)は、従来の制御装置の制御特性を示し、それぞれ目標当量比KCMD及び検出当量比KACT、下流側センサ出力SVO2、並びにNOx排出量QNOxの推移を示す。図8(d)〜図8(f)は、本実施形態における制御特性を示す。下流側センサ出力SVO2は、排気浄化触媒14の下流側の酸素濃度を示し、値が小さいほど酸素濃度が高いことを示す。
【0055】
図8(a)において破線DCPにより囲んだ部分では、検出当量比KACTが目標当量比KCMDに対して大きく低下しており、制御性能が悪化している。この制御性能の悪化は、下流側センサ出力SVO2の急激な変化及びNOx排出量QNOxの増加として表れている。
【0056】
これに対し本実施形態によれば、検出当量比KACTの大きな低下はなく、したがって下流側センサ出力SVO2の変動及びNOx排出量QNOxの増加は抑制されており、良好な制御性能を得ることができる。
【0057】
本実施形態では、フィードバック制御器33により、検出当量比KACTが修正目標当量比KCMDMと一致するように空燃比補正係数KAFが算出され、フィードバック制御器33の伝達関数C(z)は、エンジン1及びLAFセンサ17をモデル化することにより得られる制御対象モデルの伝達関数P(z)の逆伝達関数(1/P(z))と、感度関数S(z)を用いて定義される外乱感度相関関数((1−S(z))/S(z))との積で表され、感度関数パラメータβ1が応答特性パラメータαに設定される。すなわち、感度関数S(z)は、LAFセンサ17の応答特性を示す応答特性パラメータαを用いて定義される。したがって、応答特性パラメータαを求めることによって感度関数S(z)が決まり、さらにフィードバック制御器33の制御器伝達関数C(z)が決定される。感度関数S(z)を用いることにより外乱の影響を抑制し、かつLAFセンサ17の応答特性に適した制御器伝達関数C(z)を得ることができる。その結果、設計工数を抑制しつつ良好な制御性能を実現することができる。
【0058】
また感度関数S(z)は、制御器伝達関数C(z)の分子の次数が制御器伝達関数C(z)の分母の次数以下となり、かつハイパスフィルタ特性が実現されるように定義されるので、実現可能でかつ定常誤差の発生しないフィードバック制御器を構成することができる。
【0059】
さらに本実施形態では、目標当量比KCMDに制御対象モデルの伝達関数P(z)を適用して、修正目標当量比KCMDMが算出され、検出当量比KACTが修正目標当量比KCMDMと一致するように空燃比補正係数KAFが算出される。修正目標当量比KCMDMを適用することにより、目標当量比KCMDが急変した場合の検出当量比KACTと修正目標当量比KCMDMとの差、すなわち制御偏差DAFに含まれる、むだ時間要素や一次遅れ要素に起因する成分を抑制することができる。その結果、過渡状態における空燃比補正係数KAFの不必要な変動を抑制し、良好な制御性能を維持することができる。
【0060】
(変形例)
上述した実施形態では、プラントの応答特性を1つの応答特性パラメータαで近似してフィードバック制御器を構成したが、図3に示されるように周波数の高い範囲における制御性能が不足するおそれがある。そこで、本変形例は、感度関数S(z)を、第1感度関数パラメータβ1を用いて定義される第1感度関数S1(z)と、第2感度関数パラメータβ2を用いて定義される第2感度関数S2(z)の線形和として定義するようにしたものである。以下に説明する点以外は、上述した実施形態と同一である。
【0061】
感度関数S(z)は、下記式(21)で定義され、第1感度関数S1(z)及び第2感度関数S2(z)は、下記式(22)及び(23)で定義される。式(21)のk1及びk2は重み係数であり、重み係数k1及びk2の和は「1.0」である。式(22)は、前記式((5)の「S」を「S1」に代えたものであり、式(23)は式(22)の「S1」及び「β1」をそれぞれ「S2」及び「β2」に代えたものである。第2感度関数パラメータβ2は、上記条件Bを満たし、かつ第1感度関数パラメータβ1と異なる値をとるように設定される。
S(z)=k1・S1(z)+k2・S2(z) (21)
【数7】
【0062】
ここで、第1制御伝達関数C1(z)及び第2制御伝達関数C2(z)をそれぞれ下記式(24)及び(25)で定義すると、制御器伝達関数C(z)は、下記式(26)で示される。
【数8】
【0063】
式(26)は、重み関数W(z)を下記式(27)で定義すると、下記式(28)のように変形することができる。
【数9】
したがって、感度関数S(z)を2つの感度関数S1(z)及びS2(z)の線形和で定義する場合には、式(28)により制御器伝達関数C(z)を決定することができ、感度関数S(z)の振幅周波数特性は、図9(a)に実線L5で示すような特性とすることができる。
【0064】
本変形例では、第1感度関数パラメータβ1は、LAFセンサ17の応答特性パラメータαに設定され、第2感度関数パラメータβ2は、応答特性パラメータαより大きい値の応答特性パラメータα’(以下「高域応答特性パラメータ」という)に設定することにより、良好な制御性能が得られる。高域応答特性パラメータα’は、LAFセンサ17の高周波帯域(1Hzより高い帯域)における応答特性を示すパラメータであり、下記式(7a)で与えられる。式(7a)のτ’sは、LAFセンサ17において理想的なガス交換がなされた場合に対応する応答時定数である。
α’=1−exp(−TC/τ’s) (7a)
【0065】
LAFセンサ17の応答時定数τsは、センサカバー及びセンサ素子部分におけるガス交換性に大きく依存することが知られており、理想的なガス交換がなされた場合の応答時定数τ’sは、平均的なガス交換性に対応する応答時定数τsより小さな値となる(τ’s<τs)。したがって、高域応答特性パラメータα’は、応答特性パラメータαより大きな値をとる。なお、応答時定数τ’sは、排気流量(吸入空気流量GAIR)が十分に大きいときの応答時定数τsとして算出するようにしてもよい。排気流量が大きくなるほど、LAFセンサ17における上記ガス交換性が向上するからである。
【0066】
応答特性パラメータα及び高域応答特性パラメータα’を適用することにより、制御器伝達関数C(z)の振幅周波数特性は図9(b)に実線L6で示すような特性とすることができ、高周波帯域での制御性能を改善することができる。図9には、比較のために図3に示した線L1〜L4も示されている。
【0067】
このように、本変形例によれば、感度関数S(z)が感度関数S1(z)及びS2(z)の線形和として定義され、対応する2つの感度関数パラメータβ1及びβ2が、それぞれLAFセンサ17の応答特性を示す2つの応答特性パラメータα及びα’に設定される。LAFセンサ17におけるガス交換性のばらつきに対応して、感度関数S(z)を感度関数S1(z)及びS2(z)の線形和として定義することにより、周波数領域のより広い範囲に亘って、良好な制御性能を得ることが可能となる。すなわち、ガス交換性のばらつきがあっても良好な制御性能が得られる。
【0068】
本変形例における空燃比補正係数KAF(k)の算出式は、前記式(12)と同様にKAF(k-1),KAF(k-2),DAF(k),及びDAF(k-1)の線形和で示されるが、係数の演算式は非常に複雑なものとなる。そこで、本実施形態では、式(28)を図10に示すブロック図で示される形式に変形し、図11に示す手順で空燃比補正係数KAF(k)を算出している。
【0069】
図10においては、演算式が漸化式となる部分が、ブロック101〜103の3つに分けられており、ブロック101に入力される第1制御偏差DAF1が制御偏差DAFに重み関数W(z)を適用して算出され、ブロック102に入力される第2制御偏差DAF2が制御偏差DAFに重み関数(1−W(z))を適用して算出される。また、ブロック101の出力である第1補正係数KAF1及びブロック102の出力である第2補正係数KAF2は、式(11)及び(12)を参照すれば明らかなように、下記式(31)及び(32)で与えられる。ただし、本変形例では、β1=α,β2=α’として第1及び第2補正係数KAF1,KAF2が算出される。
【数10】
【0070】
またブロック103の出力パラメータy(k+1)は、入力パラメータuを用いて、下記式(33)で与えられる。
【数11】
【0071】
パラメータy(k)を用いると、第1制御偏差DAF1は、下記式(34)で与えられ、第2制御偏差DAF2は、第1制御偏差DAF1を用いて下記式(35)で与えられる(図10参照)。式(34)及び(35)の演算が、重み関数W(z)及び(1−W(z))を適用する演算に相当する。
DAF1(k)=k1×(DAF(k)+y(k)) (34)
DAF2(k)=DAF(k)−DAF1(k) (35)
【0072】
図11のステップ21及びS22では、上記式(34)及び(35)の演算を実行して、第1及び第2制御偏差DAF1(k),DAF2(k)を算出する。ステップS23及びS25では、上記式(31)及び(32)の演算を実行し、第1及び第2補正係数KAF1(k),KAF2(k)を算出する。ステップS25では、第1及び第2補正係数KAF1(k),KAF2(k)を加算して、空燃比補正係数KAF(k)を算出する。
【0073】
ステップS26及びS27では、次回の演算のための準備として、パラメータu(k)及びy(k+1)の演算を実行する。
以上のようにして、空燃比補正係数KAF(k)が算出される。
【0074】
[第2の実施形態]
本実施形態は、上述したフィードバック制御器の構成手法を、エンジン1のアイドル回転数のフィードバック制御を行うフィードバック制御器に適用したものであり、図12は、本実施形態における制御系の構成を示す。
【0075】
図12に示す制御系は、減算器41と、フィードフォワード制御器42と、フィードバック制御器43と、加算器44、トルク制御部45と、加算器46と、エンジン1と、エンジン回転数センサ(第1の実施形態におけるクランク角度位置センサが対応する)11とによって構成される。
【0076】
減算器41は、目標回転数NOBJから検出エンジン回転数NEを減算することにより、制御偏差DNEを算出する。フィードフォワード制御器42は、目標回転数NOBJに伝達関数CFF(z)を適用して、フィードフォワード制御項TQFFを算出する。
【0077】
フィードバック制御器43は、制御偏差DNEに伝達関数CFB(z)を適用して、フィードバック制御項TQFBを算出する。加算器44は、フィードフォワード制御項TQFF及びフィードバック制御項TQFBを加算し、目標トルクTQCMDを算出する。
【0078】
トルク制御部45は、目標トルクTQCMDが実現されるように(エンジン1の出力トルクTRQが目標トルクTQCMDと一致するように)、エンジン1のトルク制御を行う。具体的には、スロットル弁3の開度をアクチュエータ(図示せず)を用いて変更し、エンジン1の吸入空気量を制御することにより、エンジン1の出力トルクTRQを制御する。加算器46は第1の実施形態における加算器35(図4)と同様の意味で含まれている。
【0079】
この制御系における閉ループの感度関数S(z)は、下記式(41)で与えられる。式(41)のP(z)は、トルク制御部45、エンジン1、及びエンジン回転数センサ11によって構成されるプラントの伝達関数である。式(41)からフィードバック制御器43の伝達関数CFB(z)は、下記式(42)で与えられる。
S(z)=1/(1+CFB(z)・P(z)) (41)
【数12】
【0080】
感度関数S(z)を用いると、制御出力であるエンジン回転数NEは下記式(43)で与えられる。
NE={CFF・S(z)・P(z)+(1−S(z)}・NOBJ
+S(z)・P(z)・d (43)
【0081】
次にプラントの伝達関数P(z)について検討する。
トルク制御部45の伝達関数GTOD(z)は、一次遅れ特性で近似できるので、下記式(44)で与えられる。式(44)のα1は応答特性パラメータであり、吸入空気量の制御応答特性に応じて決定される。
【数13】
【0082】
またエンジン回転数NEと出力トルクTRQとの関係は、下記式(45)で与えられるので、出力トルクTRQからエンジン回転数NEまでの伝達関数GTN(z)は、下記式(46)で与えられる。式(45)のIEは、エンジン1の慣性モーメント、Kは摩擦係数である。また式(46)のα2は、下記式(47)で与えられる応答特性パラメータである。
【数14】
【0083】
式(44)及び(46)から、プラントの伝達関数P(z)は、下記式(48)で与えられる。なお、エンジン回転数センサはむだ時間要素及び積分要素は含まないもの近似している。
【数15】
【0084】
この伝達関数P(z)の分母の次数は2次であり、第1の実施形態と同一であるので、第1の実施形態と同様に感度関数S(z)を前記式(5)で定義することができる。
【0085】
したがって、式(48)及び(5)を式(42)に適用することにより、フィードバック制御器の伝達関数CFB(z)が得られ、第1の実施形態と同様にしてフィードバック制御器43を設計することができる。本実施形態では、感度関数パラメータβ1を応答特性パラメータα1に設定することが望ましい。摩擦係数Kは実際には小さな値であるため、応答特性パラメータα2の影響度は、応答特性パラメータα1に比べて非常に小さいからである。
【0086】
(変形例1)
エンジン1における摩擦の影響をトルク制御部で補正することにより、前記式(45)の摩擦係数Kを無視できるものとすると、下記式(45a)が得られる。したがって、本変形例では、出力トルクTRQからエンジン回転数NEまでの伝達関数GTN(z)は、下記式(50)で与えられ、プラントの伝達関数P(z)は下記式(51)で与えられる。本変形例でも、感度関数パラメータβ1を応答特性パラメータα1に設定することが望ましい。
【数16】
【0087】
(変形例2)
式(48)または(50)で示される伝達関数P(z)には、むだ時間要素が含まれていないが、むだ時間要素を含む制御対象モデルとした方が妥当であるときは、伝達関数P(z)の分母の次数が増加するので、例えば感度関数S(z)を下記式(52)で定義することにより、前述した条件A及びBを満たす感度関数S(z)が得られる。
【数17】
【0088】
(変形例3)
本実施形態においても第1の実施形態の変形例と同様に、感度関数S(z)を2つの感度関数S1(z)及びS2(z)の線形和として定義するようにしてもよい。
その場合には、第1感度関数パラメータβ1及び第2感度関数パラメータβ2を以下のように設定することが望ましい。
【0089】
トルク制御部45の応答特性を示す応答特性パラメータα1の実際の値にはばらつきがあるため、第1感度関数パラメータβ1を、想定される最も遅い応答速度に対応する応答特性パラメータα1の値α1MINに設定し、第2感度関数パラメータβ2を平均的な応答速度に対応する応答特性パラメータα1の値α1AVに設定する。
【0090】
このように第1及び第2感度関数パラメータβ1,β2を設定することにより、トルク制御部45の応答特性にばらつきがあっても、良好な制御性能を得ることが可能となる。
【0091】
[第3の実施形態]
本実施形態は、上述したフィードバック制御器の構成手法を、エンジンの吸気弁の作動位相を連続的に変化させる弁作動位相可変機構(以下「VTC機構」という)の制御装置、具体的には、弁作動位相VPAのフィードバック制御を行うフィードバック制御器に適用したものであり、図13は、本実施形態における制御系の構成を示す。
【0092】
図13に示す制御系は、減算器51と、フィードフォワード制御器52と、フィードバック制御器53と、加算器54、55と、VTC機構56と、角度位置センサ(APS)57とによって構成される。
【0093】
減算器51は、目標作動位相VPACMDから検出作動位相VPAを減算することにより、制御偏差DAを算出する。フィードフォワード制御器52は、目標作動位相VPACMDに伝達関数CFF(z)を適用して、フィードフォワード制御項DTFFを算出する。
【0094】
フィードバック制御器53は、制御偏差DAに伝達関数CFB(z)を適用して、フィードバック制御項DTFBを算出する。加算器54は、フィードフォワード制御項DTFF及びフィードバック制御項DTFBを加算し、制御デューティDOUTを算出する。加算器55は第1の実施形態における加算器35(図4)と同様の意味で含まれている。
【0095】
この制御系に含まれる閉ループの感度関数S(z)も、前記式(41)で与えられる。プラントは、VTC機構56及び角度位置センサ57で構成され、角度位置センサ57はむだ時間要素及び積分要素を含まないものとして近似できる。
【0096】
VTC機構56における弁作動位相VPAの制御は、図14に示す電磁スプール弁を用いて行われる。この電磁スプール弁は、スプール62が嵌装されたシリンダ部材61と、スプール62を図の左方向に付勢するばね63と、ソレノイド64とを備えている。シリンダ部材61には、ドレイン65及び66が設けられている。
【0097】
ソレノイド64は、スプール62を図の右方向に付勢し、その付勢力がばね63による左方向の付勢力とつり合った位置PSでスプール62が停止する。したがって、ソレノイド64に供給する電流によってスプール62の位置PSが制御される。
【0098】
シリンダ部材61には、油路67を介してオイルポンプ(図示せず)により加圧された作動油が供給され、供給された作動油は油路68または69を介して遅角室または進角室(いずれも図示せず)に供給される。
【0099】
図14(b)は、スプール62が油路68及び69をともに閉塞する位置(以下「閉塞位置」という)PSCにある状態を示しており、この状態では、遅角室及び進角室の油圧は維持され、弁作動位相VPAは一定となる。
【0100】
図14(a)には、スプール位置PSが閉塞位置PSCより左側に移動した状態が示されており、この状態では、油路67から供給される作動油が、破線A1で示すように油路68を介して遅角室に供給されるとともに、進角室内の作動油が破線A2で示すように油路69及びドレイン66を介して排出される。したがって、弁作動位相VPAは、遅角方向へ変化する。
【0101】
図14(c)には、スプール位置PSが閉塞位置PSCより右側に移動した状態が示されており、この状態では、油路67から供給される作動油が、破線A3で示すように油路69を介して進角室に供給されるとともに、遅角室内の作動油が油路68及びドレイン65を介して排出される。したがって、弁作動位相VPAは、進角方向へ変化する。
【0102】
ここで、スプール位置PSが閉塞位置にあるときの駆動信号デューティを基準デューティDT0とし、基準デューティDT0と、実際に供給される駆動信号デューティDUTYの差分を制御デューティDOUTと定義する(進角方向をプラスとする)と、制御デューティDOUTに比例した量の作動油が流れ、その作動油量の総量によって弁作動位相VPAが決まる。
【0103】
したがって、制御デューティDOUTから弁作動位相VPAまでの伝達関数、すなわち本実施形態におけるプラントの伝達関数P(z)は、下記式(61)で与えられる。式(61)のKCは次元を合わせるための変換係数であり、α3はプラントの応答特性パラメータであり、本実施形態では主として作動油の応答特性によって決定されるパラメータである。
【数18】
【0104】
この伝達関数P(z)は、第2の実施形態の変形例における伝達関数(式(51))と実質的に同一の関数であり、感度関数S(z)も同様に前記式(5)で定義することができる。本実施形態では、感度関数パラメータβ1は応答特性パラメータα3に設定することが望ましい。
【0105】
本実施形態においては、VTC機構56が装着されるエンジンの潤滑油が、作動油として使用されるので、応答特性パラメータα3は、エンジン回転数及びエンジン冷却水温に応じて予め設定されたマップを検索することにより設定することが望ましい。
【0106】
以上のようにVTC機構を制御する制御系において、第1の実施形態と同様にフィードバック制御器を構成することができる。プラントの伝達関数の分母次数と分子次数の差が増加した場合には、第2の実施形態の変形例2に示したように、感度関数S(z)を上述した条件A及びBを満たすように設定する(例えば分母の次数を増加させる)ことにより、対応することができる。
【0107】
(変形例)
本実施形態においても作動油の応答特性を示す応答特性パラメータα3の値のばらつきが大きい場合には、第1の実施形態の変形例と同様に、感度関数S(z)を2つの感度関数S1(z)及びS2(z)の線形和として定義するようにしてもよい。
その場合には、第1感度関数パラメータβ1及び第2感度関数パラメータβ2を以下のように設定することが望ましい。
【0108】
すなわち第1感度関数パラメータβ1を、想定される最も遅い応答速度に対応する応答特性パラメータα3の値α3MINに設定し、第2感度関数パラメータβ2を平均的な応答速度に対応する応答特性パラメータα3の値α3AVに設定する。
【0109】
このように第1及び第2感度関数パラメータβ1,β2を設定することにより、作動油の応答特性にばらつきがあっても、良好な制御性能を得ることが可能となる。
【0110】
なお本発明は上述した実施形態に限るものではなく、種々の変形が可能である。例えば、制御対象であるプラントは上述したものに限定されるものではなく、他の様々の制御対象のフィードバック制御に適用することができる。
【0111】
また第1の実施形態において目標値修正部31を削除し、目標当量比KCMDを直接減算器32に入力するようにしてもよい。また、上述した第1の実施形態の変形例では、感度関数S(z)を2つの感度関数S1(z)及びS2(z)の線形和として定義したが、これに限るものではなく、3つ以上の感度関数の線形和としてして定義してもよい。
【0112】
また第2の実施形態において、フィードフォワード制御器42を削除し、フィードバック制御器43の出力を制御入力(TQCMD)としてトルク制御部45に入力するようにしてもよい。同様に第3の実施形態において、フィードフォワード制御器52を削除し、フィードバック制御器53の出力を制御入力(DUTY)としてVTC機構56に入力するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0113】
1 内燃機関
5 電子制御ユニット(フィードバック制御器,修正目標値算出手段)
6 燃料噴射弁
17 比例型酸素濃度センサ(空燃比センサ)
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラントの制御装置に関し、特にプラントの制御出力が目標値と一致するようにフィードバック制御を行うものに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、内燃機関の空燃比制御装置が示されている。この制御装置によれば、検出空燃比と目標空燃比の偏差に応じたフィードバック制御により、空燃比補正係数が算出される。より具体的には、制御対象モデルを定義するモデル定義式を用いて空燃比補正係数が算出され、モデル定義式の係数である制御パラメータが、機関の吸入空気量、空燃比センサの応答時定数、及び演算間隔に応じて算出され、算出される制御パラメータをモデル定義式に適用して、空燃比補正係数が算出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−90584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の制御装置によれば、制御入力である空燃比補正係数は、機関の吸入空気量に応じて設定される制御パラメータを用いて算出されるが、この制御パラメータの算出には、制御の安定性と応答性を考慮して予め設定される制御ゲインωが使用される。したがって、制御ゲインωの設定が不適切である場合には、所望の制御性能が得られない。また、適切な制御ゲインωの設定を行うためには、事前の検討に多くの工数を必要とする。
【0005】
本願発明はこの点に着目してなされたものであり、フィードバック制御を行うフィードバック制御器の伝達関数を、制御対象であるプラントに加わる外乱の影響を考慮して適切に設定し、設計工数を抑制しつつ良好な制御性能を得ることができるプラントの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため請求項1に記載の発明は、プラントの制御出力(KACT)が目標値(KCMD)と一致するように、前記プラントへ入力する制御入力(KAF)を算出するフィードバック制御器を備えるプラントの制御装置において、前記フィードバック制御器の伝達関数である制御器伝達関数(C(z))は、前記プラントをモデル化することにより得られる制御対象モデルの伝達関数(P(z))の逆伝達関数と、前記プラントに印加される外乱の前記制御出力への感度を示す感度関数(S(z))を用いて定義される外乱感度相関関数との積で表され、前記感度関数(S(z))は、前記プラントの応答特性を示す応答特性パラメータ(α)を用いて定義されることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のプラントの制御装置において、前記感度関数(S(z))は、前記制御器伝達関数(C(z))の分子の次数が前記制御器伝達関数の分母の次数以下となり、かつハイパスフィルタ特性が実現されるように定義されることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のプラントの制御装置において、前記感度関数(S(z))は、前記プラントの応答特性を示す複数の応答特性パラメータ(α,α’)に対応する複数の感度関数(S1(z),S2(z))の線形和として定義されることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3の何れか1項に記載のプラントの制御装置において、前記目標値(KCMD)に前記制御対象モデルの伝達関数(P(z))を適用して、修正目標値(KCMDM)を算出する修正目標値算出手段をさらに備え、前記フィードバック制御器は、前記制御出力(KACT)が前記修正目標値(KCMDM)と一致するように前記制御入力(KAF)を算出することを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項1から4の何れか1項に記載のプラントの制御装置において、前記プラントは、内燃機関(1)及び該機関の排気中の酸素濃度を検出する空燃比センサ(17)からなり、前記フィードバック制御器は、検出される空燃比(KACT)が目標空燃比(KCMD)と一致するように前記制御入力である空燃比制御量(KAF)を算出し、前記応答特性パラメータ(α)は、前記空燃比センサの応答時定数(τS)に応じて設定されることを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項1から3の何れか1項に記載のプラントの制御装置において、前記プラントは、内燃機関(1)及び該機関の出力トルクを制御するトルク制御部(45)であり、前記フィードバック制御器は、検出される前記機関の回転数(NE)が目標回転数(NOBJ)と一致するように前記制御入力である前記機関の目標トルク(TQFB,TQCMD)を算出し、前記応答特性パラメータは、前記トルク制御部(45)の応答特性に応じて設定されるパラメータ(α1)であることを特徴とする。
【0012】
請求項7に記載の発明は、請求項1から3の何れか1項に記載のプラントの制御装置において、前記プラントは、内燃機関の吸気弁の作動位相を連続的に変化させる弁作動位相可変機構(56)であり、前記フィードバック制御器は、検出される前記作動位相(VPA)が目標作動位相(VPACMD)と一致するように前記制御入力である、前記弁作動位相可変機構(56)に供給する駆動信号のデューティ(DTFB,DUTY)を算出し、前記応答特性パラメータは、前記弁作動位相可変機構(56)の作動油の応答特性に応じて設定されるパラメータ(α3)であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、フィードバック制御器により、プラントの制御出力が目標値と一致するように制御入力が算出され、フィードバック制御器の伝達関数は、プラントをモデル化することにより得られる制御対象モデルの伝達関数の逆伝達関数と、制御入力に印加される外乱の制御出力への感度を示す感度関数を用いて定義される外乱感度相関関数との積で表され、感度関数は、プラントの応答特性を示す応答特性パラメータを用いて定義される。したがって、応答特性パラメータを求めることによって感度関数が決まり、さらにフィードバック制御器の制御器伝達関数が決定される。感度関数を用いることにより外乱の影響を抑制し、かつプラントの応答特性に適した制御器伝達関数を得ることができる。その結果、設計工数を抑制しつつ良好な制御性能を実現することができる。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、制御器伝達関数の分子の次数が制御器伝達関数の分母の次数以下となり、かつハイパスフィルタ特性が実現されるように、感度関数が定義されるので、実現可能でかつ定常誤差の発生しないフィードバック制御器を構成することができる。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、感度関数がプラントの応答特性を示す複数の応答特性パラメータに対応する複数の感度関数の線形和として定義される。プラントの応答特性は、プラントを構成する構成要素の特性に依存してばらつくので、感度関数を複数の感度関数の線形和として定義することにより、周波数領域のより広い範囲に亘って良好な制御性能を得ることが可能となる。
【0016】
請求項4に記載の発明によれば、目標値に制御対象モデルの伝達関数を適用して、修正目標値が算出され、制御出力が修正目標値と一致するように制御入力が算出される。修正目標値を適用することにより、目標値が急変した場合において制御出力と修正目標値との差(制御偏差)に含まれる、プラントのむだ時間要素や積分要素に起因する成分を抑制することができる。その結果、過渡状態における制御入力の不必要な変動を抑制し、良好な制御性能を維持することができる。
【0017】
請求項5に記載の発明によれば、制御対象であるプラントは内燃機関及び空燃比センサであり、検出空燃比が目標空燃比と一致するように空燃比制御量が算出され、応答特性パラメータは、空燃比センサの応答時定数に応じて設定される。空燃比制御における内燃機関は、むだ時間要素で近似し、空燃比センサの応答特性は一次遅れ要素で近似すること可能であることが確認されているので、応答特性パラメータを空燃比センサの応答時定数に応じて設定することにより、良好な空燃比制御性能を得ることができる。
【0018】
請求項6に記載の発明によれば、制御対象であるプラントは、内燃機関及び該機関の出力トルクを制御するトルク制御部であり、検出される機関回転数が目標回転数と一致するように目標トルクが算出され、応答特性パラメータは、トルク制御部の応答特性に応じて設定される。回転数制御における内燃機関及びトルク制御部は、二次遅れ要素で近似でき、その応答特性は、主としてトルク制御部の応答特性に依存することが確認されているので、応答性パラメータをトルク制御部の応答特性に応じて設定することにより、良好な機関回転数制御性能を得ることができる。
【0019】
請求項7に記載の発明によれば、制御対象であるプラントは、内燃機関の吸気弁の作動位相を連続的に変化させる弁作動位相可変機構であり、検出される作動位相が目標作動位相と一致するように駆動信号デューティが算出され、応答特性パラメータは、弁作動位相可変機構の作動油の応答特性に応じて設定される。弁作動位相可変機構は、二次遅れ要素で近似でき、その応答特性は、主として作動油の応答特性に依存することが確認されているので、応答特性パラメータを作動油の応答特性に応じて設定することにより、良好な弁作動位相制御性能を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態にかかる内燃機関及びその制御装置の構成を示す図である。
【図2】一般的なフィードバック制御系の構成を示すブロック図である。
【図3】感度関数(S)及び制御器伝達関数(C)の振幅周波数特性を示す図である。
【図4】空燃比のフィードバック制御を行う制御系の構成を示すブロック図である。
【図5】図4の目標値修正部の機能を説明するためのタイムチャートである。
【図6】図4のフィードバック制御器による演算処理のフローチャートである。
【図7】図6の処理で参照されるテーブルを示す図である。
【図8】フィードバック制御の制御性能を説明するためのタイムチャートである。
【図9】感度関数(S)及び制御器伝達関数(C)の振幅周波数特性を示す図である。
【図10】第1の実施形態の変形例における演算処理を説明するためのブロック図である。
【図11】図10に示すブロック図に対応する演算処理のフローチャートである。
【図12】内燃機関のアイドル回転数のフィードバック制御を行う制御系の構成を示すブロック図である。
【図13】吸気弁作動位相のフィードバック制御を行う制御系の構成を示す図である。
【図14】弁作動特性可変機構に含まれる電磁スプール弁を構成及び動作を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
[第1の実施形態]
図1は、本発明の一実施形態にかかる内燃機関(以下「エンジン」という)及びその制御装置の全体構成図であり、例えば4気筒のエンジン1の吸気管2の途中にはスロットル弁3が配されている。スロットル弁3にはスロットル弁開度THを検出するスロットル弁開度センサ4が連結されており、その検出信号が電子制御ユニット(以下「ECU」という)5に供給される。
【0022】
燃料噴射弁6はエンジン1とスロットル弁3との間かつ吸気管2の図示しない吸気弁の少し上流側に各気筒毎に設けられており、各噴射弁は図示しない燃料ポンプに接続されていると共にECU5に電気的に接続されて当該ECU5からの信号により燃料噴射弁6の開弁時間が制御される。
【0023】
スロットル弁3の上流側には吸入空気流量GAIRを検出する吸入空気流量センサ7が設けられている。またスロットル弁3の下流側には吸気圧PBAを検出する吸気圧センサ8、及び吸気温TAを検出する吸気温センサ9が設けられている。エンジン1の本体には、エンジン冷却水温TWを検出するエンジン冷却水温センサ10が装着されている。これらのセンサ8〜10の検出信号は、ECU5に供給される。
【0024】
ECU5には、エンジン1のクランク軸(図示せず)の回転角度を検出するクランク角度位置センサ11が接続されており、クランク軸の回転角度に応じた信号がECU5に供給される。クランク角度位置センサ11は、エンジン1の特定の気筒の所定クランク角度位置でパルス(以下「CYLパルス」という)を出力する気筒判別センサ、各気筒の吸入行程開始時の上死点(TDC)に関し所定クランク角度前のクランク角度位置で(4気筒エンジンではクランク角180度毎に)TDCパルスを出力するTDCセンサ及びTDCパルスより短い一定クランク角周期(例えば6度周期)で1パルス(以下「CRKパルス」という)を発生するCRKセンサから成り、CYLパルス、TDCパルス及びCRKパルスがECU5に供給される。これらのパルスは、燃料噴射時期、点火時期等の各種タイミング制御、エンジン回転数(エンジン回転速度)NEの検出に使用される。
【0025】
排気管13には排気浄化触媒14が設けられ、排気浄化触媒14の上流側には、比例型酸素濃度センサ17(以下「LAFセンサ17」という)が装着されており、このLAFセンサ17は排気中の酸素濃度(空燃比)にほぼ比例した検出信号を出力し、ECU5に供給する。
【0026】
ECU5は、各種センサからの入力信号波形を整形し、電圧レベルを所定レベルに修正し、アナログ信号値をデジタル信号値に変換する等の機能を有する入力回路、中央演算処理ユニット(以下「CPU」という)、該CPUで実行される各種演算プログラム及び演算結果等を記憶する記憶回路、燃料噴射弁6に駆動信号を供給する出力回路等から構成される。
【0027】
ECU5は、検出される空燃比が、エンジン運転状態に応じて設定される目標空燃比と一致するように、燃料噴射弁6による燃料噴射時間(燃料噴射量にほぼ比例するので、以下「燃料噴射量」という)TOUTを算出し、燃料噴射量TOUTに応じて燃料噴射弁6による燃料噴射を実行する。これにより、空燃比のフィードバック制御が行われる。
【0028】
次に本実施形態におけるフィードバック制御器の構成手法を図2及び図3を参照して説明する。
【0029】
図2は、制御対象であるプラントの制御出力Yをフィードバック制御する制御系の一般的な構成を示すブロック図であり、この制御系は、減算器21、フィードバック制御器22、加算器23、及び制御対象であるプラント24からなる。
【0030】
減算器21は、目標値YTから制御出力Yを減算することにより、制御偏差DYを算出し、フィードバック制御器22は、制御偏差DYが「0」となるように、すなわち制御出力Yが目標値YTと一致するように制御入力Uを算出する。加算器23は、演算器として実際に存在するものではなく、プラント24に加わる外乱dが制御入力Uに加算される形式でモデル化するために設けられている。
【0031】
この制御系は、下記式(1)及び(2)で表される。式(1)のP(z)は、プラント24の伝達関数であり、式(2)のC(z)は、フィードバック制御器22の伝達関数である。「(z)」は、離散時間系の伝達関数であることを示すために付している。
Y(z)=P(z)・(U+d) (1)
U=C(z)・DY=C(z)・(YT−Y) (2)
【0032】
このとき、外乱dの制御出力Yへの感度を示す感度関数S(z)は、よく知られているように下記式(3)で与えられる。
S(z)=1/(1+C(z)・P(z)) (3)
【0033】
式(3)を変形することにより、フィードバック制御器22の伝達関数C(z)は、下記式(4)で与えられる。
【数1】
【0034】
式(4)を用いると、プラント24の伝達関数P(z)及び感度関数S(z)を与えることにより、フィードバック制御器22の伝達関数C(z)を決定することができる。
【0035】
そこで本実施形態では、感度関数S(z)を下記式(5)で定義している。式(5)のβ1は感度関数を定義する感度関数パラメータであり、以下に説明する条件Bを満たすように設定される。
【数2】
【0036】
式(5)は、以下の条件A及びBを満たすように決定したものである。
A:伝達関数Cの分子の次数が分母の次数以下であること、すなわちフィードバック制御器22が設定可能であること
B:フィードバック制御の定常偏差が「0」となること、すなわち感度関数Sが低周波成分を遮断するハイパスフィルタ特性を有すること
【0037】
このように感度関数Sを定義すると、感度関数S(z)の振幅周波数特性は、図3(a)に実線L1で示すような特性とすることができる。この特性は、最も一般的なフィードバック制御器であるPID(比例積分微分)制御器を用い、かつその制御ゲインを適切に設定した場合の制御系の感度関数SPID(z)の振幅周波数特性(破線L2)に近い特性となる。
【0038】
本実施形態では、エンジン1及びLAFセンサ17が、図2のプラント24に相当し、空燃比制御においては、エンジン1の伝達特性は1演算周期に相当するむだ時間要素の伝達関数で近似し、LAFセンサ17の伝達特性は一次遅れ要素の伝達関数で近似できることが、実験的に確認されている。したがって、プラントの伝達関数P(z)は、下記式(6)で与えられる。式(6)のαは、LAFセンサ17の応答特性を示す応答特性パラメータであり、LAFセンサ17の応答時定数τS及び演算周期TCを用いて下記式(7)で定義される。応答特性パラメータαは、0から1の間の値をとり、LAFセンサ17の応答速度が高くなるほど大きな値をとる。
【数3】
【0039】
したがって、本実施形態では、フィードバック制御器22の伝達関数C(z)は、下記式(8)で与えられ、式(8)に式(5)の感度関数S(z)を適用すると式(9)が得られる。
【数4】
【0040】
式(9)で与えられる伝達関数C(z)の振幅周波数特性は、図3(b)の実線L3で示されるように、PID制御器の伝達関数CPID(z)の振幅周波数特性(破線L4)と近い特性とすることができる。ただし、1Hzより高い周波数範囲で、GAIN(C)(実線L3)がGAIN(CPID)(破線L4)より低下する傾向を示す。
【0041】
本実施形態では、さらに感度関数S(z)を定義する式(5)の感度関数パラメータβ1を、プラント24の構成要素であるLAFセンサ17の応答特性パラメータαに設定することにより、良好な制御性を実現している。すなわち、式(8)に適用する感度関数S(z)を下記式(5a)により定義し、フィードバック制御器22の伝達関数C(z)を下記式(9a)で与えることとした。式(9a)は、式(9)のβ1をαに代えること(あるいは式(5a)を式(8)に適用すること)により得られる。
【数5】
【0042】
図4は、本実施形態におけるフィードバック制御系の全体構成を示すブロック図であり、目標値修正部(修正目標値算出手段)31と、減算器32と、フィードバック制御器33と、燃料噴射制御部34と、加算器35と、エンジン1と、LAFセンサ17とによって構成される。目標値修正部31、減算器32、フィードバック制御器33、及び燃料噴射制御部34は、ECU5のCPUによる演算処理により実現される。本実施形態では、空燃比を示すパラメータとして当量比を用いる。当量比は、空燃比の逆数に比例し、空燃比が理論空燃比に等しいとき「1.0」をとるパラメータである。
【0043】
目標値修正部31は、目標空燃比に相当する目標当量比KCMDに、プラントの伝達関数P(z)(上記式(6))を適用し、修正目標当量比KCMDMを算出する。具体的には、下記式(10)により算出される。式(10)の「k」は、演算周期TCで離散化した離散化時刻である。
KCMDM(k)=(1−α)×KCMDM(k-1)+α×KCMD(k-2) (10)
【0044】
例えば、図5に実線で示すように目標当量比KCMDがステップ状に変化した場合には、修正目標当量比KCMDMは、破線で示すようにむだ時間(演算周期TCで近似している)分だけ遅れ、且つ一次遅れ特性で目標当量比KCMDに一致するように変化する。
【0045】
減算器32は、修正目標当量比KCMDMから検出当量比KACTを減算することにより、制御偏差DAFを算出する。検出当量比KACTは、LAFセンサ17により検出される空燃比を当量比に変換したものである。
【0046】
フィードバック制御器33は、上記式(9)の伝達関数C(z)に相当する演算を実行して、空燃比制御量である空燃比補正係数KAFを算出する。すなわち、伝達関数C(z)を用いた下記式(11)に相当する演算、具体的には下記式(12)で示される演算を行って、空燃比補正係数KAFを算出する。本実施形態では、上述したように感度関数S(z)の感度関数パラメータβ1が、LAFセンサ17の応答特性パラメータαに設定されるので、実際には下記式(12a)により空燃比補正係数KAFが算出される。
KAF=C(z)・DAF (11)
【数6】
【0047】
燃料噴射制御部34は、下記式(13)により燃料噴射量TOUTを算出する。
TOUT=TIM×KCMD×KAF×KTOTAL (13)
ここに、TIMは基本燃料量、具体的には燃料噴射弁6の基本燃料噴射時間であり、吸入空気流量GAIRに応じて設定されたTIMテーブルを検索して決定される。TIMテーブルは、エンジンに供給する混合気の空燃比がほぼ理論空燃比になるように設定されている。
【0048】
KTOTALは吸気温TA,エンジン冷却水温TWなどの運転状態を示すパラメータに応じて演算される補正係数の積であり、公知の手法で算出される。
加算器35は図2と同様の意味で含まれており、プラントを構成するエンジン1及びLAFセンサ17に加わる外乱dが加算される。
【0049】
図4に示される制御系は、図2と比較するとフィードバック制御ループ内に燃料噴射制御部34が追加されたものとなっているが、燃料噴射制御部34では線形演算が行われるのみであるので、上述したフィードバック制御の設計手法をそのまま適用することができる。
【0050】
図6は、図4のフィードバック制御器33における演算処理のフローチャートである。この処理は、TDCパルスに同期してECU5のCPUで実行されるため、エンジン回転数NEに依存して演算周期TCが変化する。したがって、応答特性パラメータαの算出に適用する演算周期TCは、エンジン回転数NEに応じて算出される値が使用される。
【0051】
ステップS11では、修正目標当量比KCMDM(k)を前記式(10)により算出し、ステップS12では、下記式(14)により、制御偏差DAF(k)を算出する。
DAF(k)=KCMDM(k)−KACT(k) (14)
【0052】
ステップS13では、吸入空気流量GAIRに応じて図7に示すτSテーブルを検索し、LAFセンサ17の応答時定数τSを算出する。τSテーブルは、吸入空気流量GAIRが増加するほど応答時定数τSが減少するように設定されている。
【0053】
ステップS14では、前記式(7)により応答特性パラメータαを算出し、ステップS15では、前記式(12a)により空燃比補正係数KAF(k)を算出する。
【0054】
図8は、本実施形態における空燃比制御特性の改善効果を説明するためのタイムチャートである。図8(a)〜図8(c)は、従来の制御装置の制御特性を示し、それぞれ目標当量比KCMD及び検出当量比KACT、下流側センサ出力SVO2、並びにNOx排出量QNOxの推移を示す。図8(d)〜図8(f)は、本実施形態における制御特性を示す。下流側センサ出力SVO2は、排気浄化触媒14の下流側の酸素濃度を示し、値が小さいほど酸素濃度が高いことを示す。
【0055】
図8(a)において破線DCPにより囲んだ部分では、検出当量比KACTが目標当量比KCMDに対して大きく低下しており、制御性能が悪化している。この制御性能の悪化は、下流側センサ出力SVO2の急激な変化及びNOx排出量QNOxの増加として表れている。
【0056】
これに対し本実施形態によれば、検出当量比KACTの大きな低下はなく、したがって下流側センサ出力SVO2の変動及びNOx排出量QNOxの増加は抑制されており、良好な制御性能を得ることができる。
【0057】
本実施形態では、フィードバック制御器33により、検出当量比KACTが修正目標当量比KCMDMと一致するように空燃比補正係数KAFが算出され、フィードバック制御器33の伝達関数C(z)は、エンジン1及びLAFセンサ17をモデル化することにより得られる制御対象モデルの伝達関数P(z)の逆伝達関数(1/P(z))と、感度関数S(z)を用いて定義される外乱感度相関関数((1−S(z))/S(z))との積で表され、感度関数パラメータβ1が応答特性パラメータαに設定される。すなわち、感度関数S(z)は、LAFセンサ17の応答特性を示す応答特性パラメータαを用いて定義される。したがって、応答特性パラメータαを求めることによって感度関数S(z)が決まり、さらにフィードバック制御器33の制御器伝達関数C(z)が決定される。感度関数S(z)を用いることにより外乱の影響を抑制し、かつLAFセンサ17の応答特性に適した制御器伝達関数C(z)を得ることができる。その結果、設計工数を抑制しつつ良好な制御性能を実現することができる。
【0058】
また感度関数S(z)は、制御器伝達関数C(z)の分子の次数が制御器伝達関数C(z)の分母の次数以下となり、かつハイパスフィルタ特性が実現されるように定義されるので、実現可能でかつ定常誤差の発生しないフィードバック制御器を構成することができる。
【0059】
さらに本実施形態では、目標当量比KCMDに制御対象モデルの伝達関数P(z)を適用して、修正目標当量比KCMDMが算出され、検出当量比KACTが修正目標当量比KCMDMと一致するように空燃比補正係数KAFが算出される。修正目標当量比KCMDMを適用することにより、目標当量比KCMDが急変した場合の検出当量比KACTと修正目標当量比KCMDMとの差、すなわち制御偏差DAFに含まれる、むだ時間要素や一次遅れ要素に起因する成分を抑制することができる。その結果、過渡状態における空燃比補正係数KAFの不必要な変動を抑制し、良好な制御性能を維持することができる。
【0060】
(変形例)
上述した実施形態では、プラントの応答特性を1つの応答特性パラメータαで近似してフィードバック制御器を構成したが、図3に示されるように周波数の高い範囲における制御性能が不足するおそれがある。そこで、本変形例は、感度関数S(z)を、第1感度関数パラメータβ1を用いて定義される第1感度関数S1(z)と、第2感度関数パラメータβ2を用いて定義される第2感度関数S2(z)の線形和として定義するようにしたものである。以下に説明する点以外は、上述した実施形態と同一である。
【0061】
感度関数S(z)は、下記式(21)で定義され、第1感度関数S1(z)及び第2感度関数S2(z)は、下記式(22)及び(23)で定義される。式(21)のk1及びk2は重み係数であり、重み係数k1及びk2の和は「1.0」である。式(22)は、前記式((5)の「S」を「S1」に代えたものであり、式(23)は式(22)の「S1」及び「β1」をそれぞれ「S2」及び「β2」に代えたものである。第2感度関数パラメータβ2は、上記条件Bを満たし、かつ第1感度関数パラメータβ1と異なる値をとるように設定される。
S(z)=k1・S1(z)+k2・S2(z) (21)
【数7】
【0062】
ここで、第1制御伝達関数C1(z)及び第2制御伝達関数C2(z)をそれぞれ下記式(24)及び(25)で定義すると、制御器伝達関数C(z)は、下記式(26)で示される。
【数8】
【0063】
式(26)は、重み関数W(z)を下記式(27)で定義すると、下記式(28)のように変形することができる。
【数9】
したがって、感度関数S(z)を2つの感度関数S1(z)及びS2(z)の線形和で定義する場合には、式(28)により制御器伝達関数C(z)を決定することができ、感度関数S(z)の振幅周波数特性は、図9(a)に実線L5で示すような特性とすることができる。
【0064】
本変形例では、第1感度関数パラメータβ1は、LAFセンサ17の応答特性パラメータαに設定され、第2感度関数パラメータβ2は、応答特性パラメータαより大きい値の応答特性パラメータα’(以下「高域応答特性パラメータ」という)に設定することにより、良好な制御性能が得られる。高域応答特性パラメータα’は、LAFセンサ17の高周波帯域(1Hzより高い帯域)における応答特性を示すパラメータであり、下記式(7a)で与えられる。式(7a)のτ’sは、LAFセンサ17において理想的なガス交換がなされた場合に対応する応答時定数である。
α’=1−exp(−TC/τ’s) (7a)
【0065】
LAFセンサ17の応答時定数τsは、センサカバー及びセンサ素子部分におけるガス交換性に大きく依存することが知られており、理想的なガス交換がなされた場合の応答時定数τ’sは、平均的なガス交換性に対応する応答時定数τsより小さな値となる(τ’s<τs)。したがって、高域応答特性パラメータα’は、応答特性パラメータαより大きな値をとる。なお、応答時定数τ’sは、排気流量(吸入空気流量GAIR)が十分に大きいときの応答時定数τsとして算出するようにしてもよい。排気流量が大きくなるほど、LAFセンサ17における上記ガス交換性が向上するからである。
【0066】
応答特性パラメータα及び高域応答特性パラメータα’を適用することにより、制御器伝達関数C(z)の振幅周波数特性は図9(b)に実線L6で示すような特性とすることができ、高周波帯域での制御性能を改善することができる。図9には、比較のために図3に示した線L1〜L4も示されている。
【0067】
このように、本変形例によれば、感度関数S(z)が感度関数S1(z)及びS2(z)の線形和として定義され、対応する2つの感度関数パラメータβ1及びβ2が、それぞれLAFセンサ17の応答特性を示す2つの応答特性パラメータα及びα’に設定される。LAFセンサ17におけるガス交換性のばらつきに対応して、感度関数S(z)を感度関数S1(z)及びS2(z)の線形和として定義することにより、周波数領域のより広い範囲に亘って、良好な制御性能を得ることが可能となる。すなわち、ガス交換性のばらつきがあっても良好な制御性能が得られる。
【0068】
本変形例における空燃比補正係数KAF(k)の算出式は、前記式(12)と同様にKAF(k-1),KAF(k-2),DAF(k),及びDAF(k-1)の線形和で示されるが、係数の演算式は非常に複雑なものとなる。そこで、本実施形態では、式(28)を図10に示すブロック図で示される形式に変形し、図11に示す手順で空燃比補正係数KAF(k)を算出している。
【0069】
図10においては、演算式が漸化式となる部分が、ブロック101〜103の3つに分けられており、ブロック101に入力される第1制御偏差DAF1が制御偏差DAFに重み関数W(z)を適用して算出され、ブロック102に入力される第2制御偏差DAF2が制御偏差DAFに重み関数(1−W(z))を適用して算出される。また、ブロック101の出力である第1補正係数KAF1及びブロック102の出力である第2補正係数KAF2は、式(11)及び(12)を参照すれば明らかなように、下記式(31)及び(32)で与えられる。ただし、本変形例では、β1=α,β2=α’として第1及び第2補正係数KAF1,KAF2が算出される。
【数10】
【0070】
またブロック103の出力パラメータy(k+1)は、入力パラメータuを用いて、下記式(33)で与えられる。
【数11】
【0071】
パラメータy(k)を用いると、第1制御偏差DAF1は、下記式(34)で与えられ、第2制御偏差DAF2は、第1制御偏差DAF1を用いて下記式(35)で与えられる(図10参照)。式(34)及び(35)の演算が、重み関数W(z)及び(1−W(z))を適用する演算に相当する。
DAF1(k)=k1×(DAF(k)+y(k)) (34)
DAF2(k)=DAF(k)−DAF1(k) (35)
【0072】
図11のステップ21及びS22では、上記式(34)及び(35)の演算を実行して、第1及び第2制御偏差DAF1(k),DAF2(k)を算出する。ステップS23及びS25では、上記式(31)及び(32)の演算を実行し、第1及び第2補正係数KAF1(k),KAF2(k)を算出する。ステップS25では、第1及び第2補正係数KAF1(k),KAF2(k)を加算して、空燃比補正係数KAF(k)を算出する。
【0073】
ステップS26及びS27では、次回の演算のための準備として、パラメータu(k)及びy(k+1)の演算を実行する。
以上のようにして、空燃比補正係数KAF(k)が算出される。
【0074】
[第2の実施形態]
本実施形態は、上述したフィードバック制御器の構成手法を、エンジン1のアイドル回転数のフィードバック制御を行うフィードバック制御器に適用したものであり、図12は、本実施形態における制御系の構成を示す。
【0075】
図12に示す制御系は、減算器41と、フィードフォワード制御器42と、フィードバック制御器43と、加算器44、トルク制御部45と、加算器46と、エンジン1と、エンジン回転数センサ(第1の実施形態におけるクランク角度位置センサが対応する)11とによって構成される。
【0076】
減算器41は、目標回転数NOBJから検出エンジン回転数NEを減算することにより、制御偏差DNEを算出する。フィードフォワード制御器42は、目標回転数NOBJに伝達関数CFF(z)を適用して、フィードフォワード制御項TQFFを算出する。
【0077】
フィードバック制御器43は、制御偏差DNEに伝達関数CFB(z)を適用して、フィードバック制御項TQFBを算出する。加算器44は、フィードフォワード制御項TQFF及びフィードバック制御項TQFBを加算し、目標トルクTQCMDを算出する。
【0078】
トルク制御部45は、目標トルクTQCMDが実現されるように(エンジン1の出力トルクTRQが目標トルクTQCMDと一致するように)、エンジン1のトルク制御を行う。具体的には、スロットル弁3の開度をアクチュエータ(図示せず)を用いて変更し、エンジン1の吸入空気量を制御することにより、エンジン1の出力トルクTRQを制御する。加算器46は第1の実施形態における加算器35(図4)と同様の意味で含まれている。
【0079】
この制御系における閉ループの感度関数S(z)は、下記式(41)で与えられる。式(41)のP(z)は、トルク制御部45、エンジン1、及びエンジン回転数センサ11によって構成されるプラントの伝達関数である。式(41)からフィードバック制御器43の伝達関数CFB(z)は、下記式(42)で与えられる。
S(z)=1/(1+CFB(z)・P(z)) (41)
【数12】
【0080】
感度関数S(z)を用いると、制御出力であるエンジン回転数NEは下記式(43)で与えられる。
NE={CFF・S(z)・P(z)+(1−S(z)}・NOBJ
+S(z)・P(z)・d (43)
【0081】
次にプラントの伝達関数P(z)について検討する。
トルク制御部45の伝達関数GTOD(z)は、一次遅れ特性で近似できるので、下記式(44)で与えられる。式(44)のα1は応答特性パラメータであり、吸入空気量の制御応答特性に応じて決定される。
【数13】
【0082】
またエンジン回転数NEと出力トルクTRQとの関係は、下記式(45)で与えられるので、出力トルクTRQからエンジン回転数NEまでの伝達関数GTN(z)は、下記式(46)で与えられる。式(45)のIEは、エンジン1の慣性モーメント、Kは摩擦係数である。また式(46)のα2は、下記式(47)で与えられる応答特性パラメータである。
【数14】
【0083】
式(44)及び(46)から、プラントの伝達関数P(z)は、下記式(48)で与えられる。なお、エンジン回転数センサはむだ時間要素及び積分要素は含まないもの近似している。
【数15】
【0084】
この伝達関数P(z)の分母の次数は2次であり、第1の実施形態と同一であるので、第1の実施形態と同様に感度関数S(z)を前記式(5)で定義することができる。
【0085】
したがって、式(48)及び(5)を式(42)に適用することにより、フィードバック制御器の伝達関数CFB(z)が得られ、第1の実施形態と同様にしてフィードバック制御器43を設計することができる。本実施形態では、感度関数パラメータβ1を応答特性パラメータα1に設定することが望ましい。摩擦係数Kは実際には小さな値であるため、応答特性パラメータα2の影響度は、応答特性パラメータα1に比べて非常に小さいからである。
【0086】
(変形例1)
エンジン1における摩擦の影響をトルク制御部で補正することにより、前記式(45)の摩擦係数Kを無視できるものとすると、下記式(45a)が得られる。したがって、本変形例では、出力トルクTRQからエンジン回転数NEまでの伝達関数GTN(z)は、下記式(50)で与えられ、プラントの伝達関数P(z)は下記式(51)で与えられる。本変形例でも、感度関数パラメータβ1を応答特性パラメータα1に設定することが望ましい。
【数16】
【0087】
(変形例2)
式(48)または(50)で示される伝達関数P(z)には、むだ時間要素が含まれていないが、むだ時間要素を含む制御対象モデルとした方が妥当であるときは、伝達関数P(z)の分母の次数が増加するので、例えば感度関数S(z)を下記式(52)で定義することにより、前述した条件A及びBを満たす感度関数S(z)が得られる。
【数17】
【0088】
(変形例3)
本実施形態においても第1の実施形態の変形例と同様に、感度関数S(z)を2つの感度関数S1(z)及びS2(z)の線形和として定義するようにしてもよい。
その場合には、第1感度関数パラメータβ1及び第2感度関数パラメータβ2を以下のように設定することが望ましい。
【0089】
トルク制御部45の応答特性を示す応答特性パラメータα1の実際の値にはばらつきがあるため、第1感度関数パラメータβ1を、想定される最も遅い応答速度に対応する応答特性パラメータα1の値α1MINに設定し、第2感度関数パラメータβ2を平均的な応答速度に対応する応答特性パラメータα1の値α1AVに設定する。
【0090】
このように第1及び第2感度関数パラメータβ1,β2を設定することにより、トルク制御部45の応答特性にばらつきがあっても、良好な制御性能を得ることが可能となる。
【0091】
[第3の実施形態]
本実施形態は、上述したフィードバック制御器の構成手法を、エンジンの吸気弁の作動位相を連続的に変化させる弁作動位相可変機構(以下「VTC機構」という)の制御装置、具体的には、弁作動位相VPAのフィードバック制御を行うフィードバック制御器に適用したものであり、図13は、本実施形態における制御系の構成を示す。
【0092】
図13に示す制御系は、減算器51と、フィードフォワード制御器52と、フィードバック制御器53と、加算器54、55と、VTC機構56と、角度位置センサ(APS)57とによって構成される。
【0093】
減算器51は、目標作動位相VPACMDから検出作動位相VPAを減算することにより、制御偏差DAを算出する。フィードフォワード制御器52は、目標作動位相VPACMDに伝達関数CFF(z)を適用して、フィードフォワード制御項DTFFを算出する。
【0094】
フィードバック制御器53は、制御偏差DAに伝達関数CFB(z)を適用して、フィードバック制御項DTFBを算出する。加算器54は、フィードフォワード制御項DTFF及びフィードバック制御項DTFBを加算し、制御デューティDOUTを算出する。加算器55は第1の実施形態における加算器35(図4)と同様の意味で含まれている。
【0095】
この制御系に含まれる閉ループの感度関数S(z)も、前記式(41)で与えられる。プラントは、VTC機構56及び角度位置センサ57で構成され、角度位置センサ57はむだ時間要素及び積分要素を含まないものとして近似できる。
【0096】
VTC機構56における弁作動位相VPAの制御は、図14に示す電磁スプール弁を用いて行われる。この電磁スプール弁は、スプール62が嵌装されたシリンダ部材61と、スプール62を図の左方向に付勢するばね63と、ソレノイド64とを備えている。シリンダ部材61には、ドレイン65及び66が設けられている。
【0097】
ソレノイド64は、スプール62を図の右方向に付勢し、その付勢力がばね63による左方向の付勢力とつり合った位置PSでスプール62が停止する。したがって、ソレノイド64に供給する電流によってスプール62の位置PSが制御される。
【0098】
シリンダ部材61には、油路67を介してオイルポンプ(図示せず)により加圧された作動油が供給され、供給された作動油は油路68または69を介して遅角室または進角室(いずれも図示せず)に供給される。
【0099】
図14(b)は、スプール62が油路68及び69をともに閉塞する位置(以下「閉塞位置」という)PSCにある状態を示しており、この状態では、遅角室及び進角室の油圧は維持され、弁作動位相VPAは一定となる。
【0100】
図14(a)には、スプール位置PSが閉塞位置PSCより左側に移動した状態が示されており、この状態では、油路67から供給される作動油が、破線A1で示すように油路68を介して遅角室に供給されるとともに、進角室内の作動油が破線A2で示すように油路69及びドレイン66を介して排出される。したがって、弁作動位相VPAは、遅角方向へ変化する。
【0101】
図14(c)には、スプール位置PSが閉塞位置PSCより右側に移動した状態が示されており、この状態では、油路67から供給される作動油が、破線A3で示すように油路69を介して進角室に供給されるとともに、遅角室内の作動油が油路68及びドレイン65を介して排出される。したがって、弁作動位相VPAは、進角方向へ変化する。
【0102】
ここで、スプール位置PSが閉塞位置にあるときの駆動信号デューティを基準デューティDT0とし、基準デューティDT0と、実際に供給される駆動信号デューティDUTYの差分を制御デューティDOUTと定義する(進角方向をプラスとする)と、制御デューティDOUTに比例した量の作動油が流れ、その作動油量の総量によって弁作動位相VPAが決まる。
【0103】
したがって、制御デューティDOUTから弁作動位相VPAまでの伝達関数、すなわち本実施形態におけるプラントの伝達関数P(z)は、下記式(61)で与えられる。式(61)のKCは次元を合わせるための変換係数であり、α3はプラントの応答特性パラメータであり、本実施形態では主として作動油の応答特性によって決定されるパラメータである。
【数18】
【0104】
この伝達関数P(z)は、第2の実施形態の変形例における伝達関数(式(51))と実質的に同一の関数であり、感度関数S(z)も同様に前記式(5)で定義することができる。本実施形態では、感度関数パラメータβ1は応答特性パラメータα3に設定することが望ましい。
【0105】
本実施形態においては、VTC機構56が装着されるエンジンの潤滑油が、作動油として使用されるので、応答特性パラメータα3は、エンジン回転数及びエンジン冷却水温に応じて予め設定されたマップを検索することにより設定することが望ましい。
【0106】
以上のようにVTC機構を制御する制御系において、第1の実施形態と同様にフィードバック制御器を構成することができる。プラントの伝達関数の分母次数と分子次数の差が増加した場合には、第2の実施形態の変形例2に示したように、感度関数S(z)を上述した条件A及びBを満たすように設定する(例えば分母の次数を増加させる)ことにより、対応することができる。
【0107】
(変形例)
本実施形態においても作動油の応答特性を示す応答特性パラメータα3の値のばらつきが大きい場合には、第1の実施形態の変形例と同様に、感度関数S(z)を2つの感度関数S1(z)及びS2(z)の線形和として定義するようにしてもよい。
その場合には、第1感度関数パラメータβ1及び第2感度関数パラメータβ2を以下のように設定することが望ましい。
【0108】
すなわち第1感度関数パラメータβ1を、想定される最も遅い応答速度に対応する応答特性パラメータα3の値α3MINに設定し、第2感度関数パラメータβ2を平均的な応答速度に対応する応答特性パラメータα3の値α3AVに設定する。
【0109】
このように第1及び第2感度関数パラメータβ1,β2を設定することにより、作動油の応答特性にばらつきがあっても、良好な制御性能を得ることが可能となる。
【0110】
なお本発明は上述した実施形態に限るものではなく、種々の変形が可能である。例えば、制御対象であるプラントは上述したものに限定されるものではなく、他の様々の制御対象のフィードバック制御に適用することができる。
【0111】
また第1の実施形態において目標値修正部31を削除し、目標当量比KCMDを直接減算器32に入力するようにしてもよい。また、上述した第1の実施形態の変形例では、感度関数S(z)を2つの感度関数S1(z)及びS2(z)の線形和として定義したが、これに限るものではなく、3つ以上の感度関数の線形和としてして定義してもよい。
【0112】
また第2の実施形態において、フィードフォワード制御器42を削除し、フィードバック制御器43の出力を制御入力(TQCMD)としてトルク制御部45に入力するようにしてもよい。同様に第3の実施形態において、フィードフォワード制御器52を削除し、フィードバック制御器53の出力を制御入力(DUTY)としてVTC機構56に入力するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0113】
1 内燃機関
5 電子制御ユニット(フィードバック制御器,修正目標値算出手段)
6 燃料噴射弁
17 比例型酸素濃度センサ(空燃比センサ)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラントの制御出力が目標値と一致するように、前記プラントへ入力する制御入力を算出するフィードバック制御器を備えるプラントの制御装置において、
前記フィードバック制御器の伝達関数である制御器伝達関数は、
前記プラントをモデル化することにより得られる制御対象モデルの伝達関数の逆伝達関数と、前記プラントに印加される外乱の前記制御出力への感度を示す感度関数を用いて定義される外乱感度相関関数との積で表され、
前記感度関数は、前記プラントの応答特性を示す応答特性パラメータを用いて定義されることを特徴とするプラントの制御装置。
【請求項2】
前記感度関数は、前記制御器伝達関数の分子の次数が前記制御器伝達関数の分母の次数以下となり、かつハイパスフィルタ特性が実現されるように定義されることを特徴とする請求項1に記載のプラントの制御装置。
【請求項3】
前記感度関数は、前記プラントの応答特性を示す複数の応答特性パラメータに対応する複数の感度関数の線形和として定義されることを特徴とする請求項1または2に記載のプラントの制御装置。
【請求項4】
前記目標値に前記制御対象モデルの伝達関数を適用して、修正目標値を算出する修正目標値算出手段をさらに備え、
前記フィードバック制御器は、前記制御出力が前記修正目標値と一致するように前記制御入力を算出することを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載のプラントの制御装置。
【請求項5】
前記プラントは、内燃機関及び該機関の排気中の酸素濃度を検出する空燃比センサからなり、前記フィードバック制御器は、検出される空燃比が目標空燃比と一致するように前記制御入力である空燃比制御量を算出し、
前記応答特性パラメータは、前記空燃比センサの応答時定数に応じて設定されることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載のプラントの制御装置。
【請求項6】
前記プラントは、内燃機関及び該機関の出力トルクを制御するトルク制御部であり、前記フィードバック制御器は、検出される前記機関の回転数が目標回転数と一致するように前記制御入力である前記機関の目標トルクを算出し、
前記応答特性パラメータは、前記トルク制御部の応答特性に応じて設定されるパラメータであることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載のプラントの制御装置。
【請求項7】
前記プラントは、内燃機関の吸気弁の作動位相を連続的に変化させる弁作動位相可変機構であり、前記フィードバック制御器は、検出される前記作動位相が目標作動位相と一致するように前記制御入力である、前記弁作動位相可変機構に供給する制御信号のデューティを算出し、
前記応答特性パラメータは、前記弁作動位相可変機構の作動油の応答特性に応じて設定されるパラメータであることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載のプラントの制御装置。
【請求項1】
プラントの制御出力が目標値と一致するように、前記プラントへ入力する制御入力を算出するフィードバック制御器を備えるプラントの制御装置において、
前記フィードバック制御器の伝達関数である制御器伝達関数は、
前記プラントをモデル化することにより得られる制御対象モデルの伝達関数の逆伝達関数と、前記プラントに印加される外乱の前記制御出力への感度を示す感度関数を用いて定義される外乱感度相関関数との積で表され、
前記感度関数は、前記プラントの応答特性を示す応答特性パラメータを用いて定義されることを特徴とするプラントの制御装置。
【請求項2】
前記感度関数は、前記制御器伝達関数の分子の次数が前記制御器伝達関数の分母の次数以下となり、かつハイパスフィルタ特性が実現されるように定義されることを特徴とする請求項1に記載のプラントの制御装置。
【請求項3】
前記感度関数は、前記プラントの応答特性を示す複数の応答特性パラメータに対応する複数の感度関数の線形和として定義されることを特徴とする請求項1または2に記載のプラントの制御装置。
【請求項4】
前記目標値に前記制御対象モデルの伝達関数を適用して、修正目標値を算出する修正目標値算出手段をさらに備え、
前記フィードバック制御器は、前記制御出力が前記修正目標値と一致するように前記制御入力を算出することを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載のプラントの制御装置。
【請求項5】
前記プラントは、内燃機関及び該機関の排気中の酸素濃度を検出する空燃比センサからなり、前記フィードバック制御器は、検出される空燃比が目標空燃比と一致するように前記制御入力である空燃比制御量を算出し、
前記応答特性パラメータは、前記空燃比センサの応答時定数に応じて設定されることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載のプラントの制御装置。
【請求項6】
前記プラントは、内燃機関及び該機関の出力トルクを制御するトルク制御部であり、前記フィードバック制御器は、検出される前記機関の回転数が目標回転数と一致するように前記制御入力である前記機関の目標トルクを算出し、
前記応答特性パラメータは、前記トルク制御部の応答特性に応じて設定されるパラメータであることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載のプラントの制御装置。
【請求項7】
前記プラントは、内燃機関の吸気弁の作動位相を連続的に変化させる弁作動位相可変機構であり、前記フィードバック制御器は、検出される前記作動位相が目標作動位相と一致するように前記制御入力である、前記弁作動位相可変機構に供給する制御信号のデューティを算出し、
前記応答特性パラメータは、前記弁作動位相可変機構の作動油の応答特性に応じて設定されるパラメータであることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載のプラントの制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−93853(P2012−93853A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238990(P2010−238990)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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