モータ駆動制御装置及びこれを使用した電動パワーステアリング装置
【課題】電圧利用率を改善しつつ、デューティ制約を満たすことができるモータ駆動制御装置及びこれを使用した電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】直流電源41に接続された3相モータ12を駆動するモータ駆動回路40と、3相モータのモータ電流を検出する単一のモータ電流検出部42と、モータ電流検出値に基づいて3相モータの各相電流値を求める各相電流演算部35と、電流指令値を演算するモータ電流指令部34と、演算した電流指令値と前記各相電流値との電流偏差に応じて3相駆動電圧値を演算する3相駆動電圧演算部37と、電圧利用率改善及び3相駆動電圧波形補正を行う補正演算式に従って前記3相駆動電圧値を補正して3相駆動電圧補正値を演算する3相駆動電圧補正部38と、演算した3相駆動電圧補正値に基づいて前記モータ駆動回路を制御するパルス幅変調信号を生成するパルス幅変調信号生成部39とを備えている。
【解決手段】直流電源41に接続された3相モータ12を駆動するモータ駆動回路40と、3相モータのモータ電流を検出する単一のモータ電流検出部42と、モータ電流検出値に基づいて3相モータの各相電流値を求める各相電流演算部35と、電流指令値を演算するモータ電流指令部34と、演算した電流指令値と前記各相電流値との電流偏差に応じて3相駆動電圧値を演算する3相駆動電圧演算部37と、電圧利用率改善及び3相駆動電圧波形補正を行う補正演算式に従って前記3相駆動電圧値を補正して3相駆動電圧補正値を演算する3相駆動電圧補正部38と、演算した3相駆動電圧補正値に基づいて前記モータ駆動回路を制御するパルス幅変調信号を生成するパルス幅変調信号生成部39とを備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3相モータに流れる電流を検出する電流検出器と、この電流検出器で検出した電流検出値に基づいて前記3相モータを駆動制御するモータ駆動回路とを備えたモータ駆動制御装置及びこれを使用した電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モータ駆動制御装置で駆動制御される3相モータを使用した電動パワーステアリング装置が採用されるようになっている。
この電動パワーステアリング装置として、3相ブラシレスモータを駆動するための3相インバータ回路と、この3相インバータ回路に備えられるスイッチング素子のオン/オフを制御するマイクロコンピュータと、3相インバータ回路から3相ブラシレスモータの各相に供給される電流値を検出するための電流検出器とを備えた構成が知られている(例えば、特許文献1参照)。ここで、電流検出器は、相毎に設けられており、各電流検出器の検出信号は、マイクロコンピュータに入力されるようになっている。マイクロコンピュータは、ステアリングホイールの操作に応じた各相目標電流値を定める。そして、各相目標電流値と各電流検出器によって検出される各相電流検出値との偏差に応じたデューティで、3相インバータ回路に備えられる各スイッチング素子をオン/オフさせる。これにより、3相ブラシレスモータの各相に各相目標電流値の電流が供給されて、ステアリングホイールの操作に応じた操舵補助力が3相ブラシレスモータから発生される。
【0003】
ところが、上記特許文献1に記載の電動パワーステアリング装置にあっては、相毎に電流検出器を備えているため、製造コストが高いという問題点がある。そこで、インバータ回路と電源またはグランドとの間に接続された単一の電流検出器を用いて、各相PWM信号の搬送波を所定の位相シフト量だけ互いにずらせることで、電流検出器により検出された値から各相の電流値を求め、その値に基づいてモータを制御する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
この特許文献2に記載の従来例にあっては、各相電流を求めるためには、インバータ回路のスイッチング素子のローサイドアーム(下段)のうち少なくとも2相分がPWM信号の一周期内にオンする状態を作り出す必要があるため、PWM信号の搬送波の位相シフトを行う必要があり、PWM信号のデューティに制約が生じるという問題点がある。
【0004】
すなわち、例えば、U相を最大デューティ相、W相を中間デューティ相、W相を最小デューティ相とし、PWM信号の一周期内でU相のみオンすることにより、U相電流を検出し、U粗及びV相をともにオンすることにより、U相電流を用いてV相電流を検出し、検出されたU相電流とV相電流とからW相電流を算出する方式の場合には、U相のみをオン状態とするための期間を設ける必要があるため、V相及びW相は、U相に対して所定の期間、オン出力してはいけないことになる。また、U相及びV相をオン状態とするための期間を設ける必要があるため、V相に対して、W相は同様に所定の期間、オン出力してはいけないことになる。
【0005】
具体的には、PWM出力値の一周期を50usとし、U相のみをオン状態とするための期間を5usに設定した場合は、PWM出力値の搬送波の位相シフト量を各相5usとし、V相及びW相のデューティは、5us/50us=10%以上デューティ比を小さくする必要がある。このU相のみをオン状態とするための期間は、U相のみがオン状態となり、U相電流が電流検出器に流れ込み、電流検出器の信号をマイクロコンピュータ内のA/D変換機能にてA/D変換するために必要な時間であり、インバータ回路のローサイドアーム(下段)におけるスイッチング素子のオン/オフ時のリンギングやスイッチング時間、A/D変換時間を考慮すると、5us以上設けることが望ましい。また、W相も同様にV相に対して10%以上デューティ比を小さくする必要がある。
【0006】
すなわち、図19に示すように、カウント値を“0”から最大値Nmaxまでカウントすることを繰り返して鋸歯状波でなる搬送波を形成するPWMカウンタのカウント値とデューティ比設定値Ndu〜Ndwとを比較して、PWMカウンタのカウント値がデューティ比設定値Ndu〜Ndwより小さいときにオン状態となるPWM出力値を形成するものとする。
この場合に、U相のデューティ比設定値Nduを、図19(a)に示すように、PWMカウンタの最大値Nmaxと等しく設定することにより、U相のPWM出力値のデューティ比を、図19(d)に示すように、例えば100%に設定する。
【0007】
これに対して、V相については、例えばPWMカウンタのカウント開始時点をU相のPWMカウンタのカウント開始時点より例えば位相シフト量5us以上遅れた時点に設定するとともに、デューティ比設定値NdvをPWMカウンタの最大値Nmaxの90%以下に設定して、V相のPWM出力値が、図19(e)に示すように、U相のPWM出力値に対して5us以上遅れた時点でオン状態となり、PWM一周期の終了時点でオフ状態となるように形成する。
【0008】
さらに、W相については、PWMカウンタのカウント開始時点をV相のPWMカウンタのカウント開始時点より例えば位相シフト量5us以上遅れた時点に設定するとともに、デューティ比設定値NdwをPWMカウンタの最大値Nmaxの80%以下に設定して、W相のPWM出力値が、図19(f)に示すように、V相のPWM出力値に対して5us以上遅れた時点でオン状態となり、PWM一周期の終了時点でオフ状態となるように形成する。
【0009】
このようにU相、V相及びW相のPWMカウンタのカウント開始時点を少なくとも位相シフト量5us以上ずらし、且つデューティ比設定値Nduに対してNdv及びNdwをそれぞれ10%以上ずつ減少させることにより、PWM一周期の開始時点から位相シフト量5usの間でU相のPWM出力値のみをオン状態とし、その後の位相シフト量5usが経過するまでの間でU相及びV相のPWM出力値の双方をオン状態とすることができる。
このときのU相電流を電流検出値で検出することにより、U相電流値及びV相電流値を求めることができ、これらに基づいてW相電流値を算出することができる。
この場合、最大相(U相)≦100%、中間相(V相)≦90%及び最小相(W相)≦80%という制約条件が発生する。
【0010】
逆に、図20(f)に示すように、W相のPWM出力値のデューティ比が0%である場合には、U相のPWM出力値のみがオン状態、U相及びV相の双方のPWM出力値がオン状態となる期間を形成するには、U相については、図20(a)に示すように、デューティ設定値NduをPWMカウンタの最大値Nmaxの20%以上に設定することにより、図20(d)に示すように、PWM一周期の開始時点から10us以上経過するまでの間オン状態となるU相のPWM出力値を形成し、V相については、図20(b)に示すように、デューティ設定値NdvをPWMカウンタの最大値Nmaxの10%以上に設定することにより、図20(e)に示すように、PWM一周期の開始時点から5us以上経過した時点から5us以上経過するまでの間オン状態となるV相のPWM出力値を形成する。
つまり、最大相(U相)≧20%、中間相(V相)≧10%、最小相(W相)≧0%の制約条件が発生する。
【0011】
以上を整理すると、PWM一周期内で最大相のみオン状態とすることにより、最大相(U相)電流を検出し、最大相(U相)と中間相(V相)の双方をオン状態とすることにより、最大相(U相)電流を用いて中間層(V相)電流を検出し、検出された最大相(U相)電流と中間相(V)相電流とから最小相(W相)電流を検出する方式の場合、20%≦最大相(U相)≦100%、10%≦中間相(V相)≦90%、0%≦最小相(W)相≦80%というデューティ比制約がある。
【0012】
また、PWM一周期内で最大相(U相)のみオン状態とすすることにより最大相(U相)電流を検出し、続いて中間相(V相)のみをオン状態とすることにより中間相(V相)電流を検出、検出された最大相(U相)電流と中間相(V相)電流から最小相(W相)電流を算出する方式の場合や、PWM一周期内で最大相(U相)と中間相(V相)をオン状態とすることにより−W相電流を検出し、続いて中間相(V相)と最小相(W相)をオン状態とすることにより−最大相(U相)電流を検出し、検出された−最大相(U相)電流と-最小相(W相)電流から中間相(V相)電流を算出する方式の場合など、詳細は省略するが、PWM搬送波の位相シフト量を任意に変更することで、各相の電流を検出及び算出することは可能であるが、いずれの場合も各相のデューティ比に制約が発生する。
【0013】
ところで、一般的に3相モータを駆動する場合は、正弦波電圧駆動が用いられている。これはデューティ比50%を基準に正弦波波形のデューティ比を出力し、インバータ駆動回路を介してモータに正弦波波形の相電圧を印加しモータを駆動する方法である。
つまり、モータの正弦波電圧を印加しない場合は、3相ともデューティ比が50%となり、正弦波電圧を印加する場合は、デューティ比50%を基準に正負に正弦波波形のデューティ比を設定する。デューティ比を飽和限界(デューティ最大値≦100%、デューティ最小値≧0%)まで使用した場合は、図21に示すような正弦波デューティ波形となる。
【0014】
上記、PWM一周期内で最大相のみONすることにより最大相(U相)電流を検出し、最大相(U相)と中間相(V相)をONすることにより最大相(U相)電流を用いて中間相(V相)電流を検出、検出された最大相(U相)電流と中間相(V相)電流から最小相(W相)電流を検出する方式の場合、20%≦最大相≦100%、10%≦中間相≦90%、0%≦最小相≦80%というデューティ比制約があるが、図21のようなデューティ波形の場合は、75%≦最大相≦100%、25%≦中間相≦75%、0%≦最小相≦25%となり、上記デューティ比制約を満たすことができる。正弦波電圧を印加せず3相デューティ比が50%の場合も、最大相=中間相=最小相=50%となり、上記デューティ比制約を満たすことができる。
【0015】
しかしながら、3相モータの各相への相印加電圧を正弦波電圧とした場合、線間電圧の基本波の振幅が電源電圧の√3/2以下の範囲でしか正常にPWM駆動できず、電圧利用率が低いという問題があった。例えば、自動車に使用されている電動パワーステアリング制御装置はバッテリ電圧でモータを駆動するため、電源電圧利用率低下は電動パワーステアリング制御装置の出力性能低下につながり好ましくないという問題がある。
【0016】
そこで、この問題を解決するために、3相の正弦波電圧に対して、電圧利用率を改善するために、3相正弦波電圧の最大値と最小値を平均した値を、3相正弦波電圧から減算して波形を補正し、この3相補正電圧を3相モータの相電圧として印加する方法や、3相正弦波電圧の最小値を、3相正弦波電圧から減算して波形を補正し、この3相補正電圧を3相モータの相電圧として印加する方法、3相正弦波電圧を基本波として、その3次高調波を3相正弦波電圧に重畳して波形を補正し、この3相補正電圧を3相モータの相電圧として印加する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。この方法により電圧利用率は2/2となり電圧利用率の改善が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2002−272179号公報
【特許文献2】特開2006−158198号公報
【特許文献3】特許第3480843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、上記特許文献3に記載の従来例にあっては、3相正弦波電圧の最大値と最小値を平均した値を、3相正弦波電圧から減算して波形を補正し、この3相補正電圧を3相モータの相電圧として印加するので、デューティ比を飽和限界(デューティ最大値≦100%、デューティ最小値≧0%)まで使用した場合は、図22に示すようなデューティ波形となり、約93%≦最大相≦100%、約7%≦中間相≦約93%、0%≦最小相≦約7%となり、特許文献2に記載の従来例について前述した単一の電流検出器を使用して電流検出する場合のデューティ比制約である10%≦中間相≦90%を満たすことができず、単一の電流検出器を使用した電流検出ができないという未解決の課題がある。
【0019】
同様に3相正弦波電圧の最小値を、3相正弦波電圧から減算して波形を補正し、この3相補正電圧を3相モータの相電圧として印加する方法では、図23に示すようなデューティ波形となり、ある位相で中間相=最小相=0%となり、デューティ制約が満たせず、単一の電流検出器を使用した電流検出ができないという未解決の課題がある。
また、3相正弦波電圧を基本波として、その3次高調波を3相正弦波電圧に重畳して波形を補正し、この3相補正電圧を3相モータの相電圧として印加する方法では、図24に示すような波形となり3次高調波の含有率によっては、10%≦中間相≦90%となるため、デューティ制約を満たすことができるが、3次高調波を生成するためには、d軸及びq軸でモータ電流をフィードバック制御し、dq軸から3相へ逆変換する際に使用する電気角θに応じた3次高調波を生成するためのデータテーブルが必要になり、マイクロコンピュータのROMの記憶容量が大きくなるという未解決の課題がある。
【0020】
さらに、d軸及びq軸でモータ電流をフィードバックする方法ではなく、一般的に3相モータの制御に利用されている方法である3相モータ電流指令値と3相電流検出値との電流偏差に応じて、PI制御器などを介して3相駆動電圧値を演算する場合は、状況により変化する3相電流指令値や3相電流検出値との差である電流偏差に応じて3相駆動電圧値が変化するため、それに重畳する3次高調波電圧の割合や位相を一意に決めることができず、3次高調波を重畳することができないという未解決の課題がある。
そこで、本発明は、上記従来例の未解決の課題に着目してなされたものであり、電圧利用率を改善しつつ、デューティ制約を満たすことができるモータ駆動制御装置及びこれを使用した電動パワーステアリング装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するために、請求項1に係るモータ駆動制御装置は、3相モータに供給する駆動電流を制御するモータ駆動制御装置であって、直流電源に接続された前記3相モータを駆動するモータ駆動回路と、前記3相モータに流れるモータ電流を検出する単一のモータ電流検出部と、該モータ電流検出部で検出した電流検出値に基づいて、前記3相モータの各相に流れる各相電流値を求める各相電流演算部と、前記3相モータに供給する駆動電流の電流指令値を演算するモータ電流指令部と、該モータ電流指令部で演算した電流指令値と、前記各相電流演算部で演算された各相電流値との電流偏差に応じて3相駆動電圧値を演算する3相駆動電圧演算部と、予め設定された電圧利用率改善及び3相駆動電圧波形補正を行う補正演算式に従って前記3相駆動電圧値に対して補正を行って3相駆動電圧補正値を演算する3相駆動電圧補正部と、該3相駆動電圧補正部で演算した3相駆動電圧補正値に基づいて前記モータ駆動回路を制御するパルス幅変調信号を生成するパルス幅変調信号生成部とを備えたことを特徴としている。
【0022】
この請求項1に係る発明では、モータ電流指令部で演算した3相モータに供給する駆動電流の電流指令値と各相電流演算部で演算した各相電流値との電流偏差に応じて3相駆動電圧値を演算し、この3相駆動電圧値を電圧利用率改善及び3相駆動電圧波形補正を行う補正演算式に従って補正して3相駆動電圧補正値を演算し、この3相駆動電圧補正値に基づいてモータ駆動回路を制御するパルス幅変調信号を形成することにより、単一の電流検出器でモータ電流を検出する場合に、電圧利用率を改善しつつデューティ制約を満足させて3相モータを駆動制御する。
また、請求項2に係るモータ駆動制御装置は、3相モータに供給する駆動電流を制御するモータ駆動制御装置であって、直流電源に接続された前記3相モータを駆動するモータ駆動回路と、前記3相モータの回転位置を検出して電気角信号を演算する電気角演算部と、前記3相モータに流れるモータ電流を検出する単一のモータ電流検出部と、該モータ電流検出部で検出したモータ電流検出値に基づいて前記3相モータの各相に流れる各相電流値を求める各相電流演算部と、該各相電流演算部で演算した各相電流値に対してdq軸変換を行ってd軸電流検出値及びq軸電流検出値を求めるdq軸変換部と、前記3相モータを制御するためのd軸電流指令値及びq軸電流指令値を演算するモータ電流指令値演算部と、該モータ電流指令値演算部で演算したd軸電流指令値及びq軸電流指令値と前記dq軸変換部で変換されたd軸電流検出値及びq軸電流検出値との電流偏差に応じてd軸駆動電圧及びq軸駆動電圧を演算するdq軸電圧演算部と、該dq軸電圧演算部で演算したd軸駆動電圧及びq軸駆動電圧と前記電気角信号とに基づいてdq軸逆変換を行い、3相駆動電圧値を演算する3相駆動電圧演算部と、予め設定された電圧利用率改善及び3相駆動電圧波形補正を行う補正演算式に従って前記3相駆動電圧値に対して補正を行い、3相駆動電圧補正値を演算する3相駆動電圧補正部と、該3相駆動電圧補正部で演算した3相駆動電圧補正値に基づいて前記モータ駆動回路を制御するパルス幅変調信号を生成するパルス幅変調信号生成部とを備えたことを特徴としている。
【0023】
この請求項2に係る発明では、3相モータを制御するためのd軸電流指令値及びq軸電流指令値を演算するともに、単一のモータ電流検出部で検出したモータ電流検出値に基づいて3相モータの各相に流れる各相電流値をdq軸変換してd軸電流検出値及びq軸電流検出値を求め、d軸電流指令値及びq軸電流指令値とd軸電流検出値及びq軸電流検出値との電流偏差に応じてd軸駆動電圧及びq軸駆動電圧を演算し、これらd軸駆動電圧及びq軸駆動電圧をdq軸逆変換して3相駆動電圧値を演算し、この3相駆動電圧値を電圧利用率改善及び3相駆動電圧波形補正を行う補正演算式に従って補正して3相駆動電圧補正値を演算し、この3相駆動電圧補正値に基づいてモータ駆動回路を制御するパルス幅変調信号を形成することにより、単一の電流検出器でモータ電流を検出する場合に、電圧利用率を改善しつつデューティ制約を満足させて3相モータを駆動制御する。
【0024】
さらに、請求項3に係るモータ駆動制御装置は、請求項1又は2に係る発明において、前記モータ電流検出部は、前記モータ駆動回路と電源及び接地の何れかとの間を流れる電流を検出する単一の電流検出器で構成され、前記パルス幅変調信号生成部は、前記3相モータの各相のパルス幅変調信号における搬送波の立ち上がり及び立ち下がりの一方のタイミングが所定の位相シフト量だけ互いにずらして設定されていることを特徴としている。
【0025】
この請求項3に係る発明では、モータ駆動回路と電源又は接地との間で単一の電流検出器によってモータ電流を検出する場合に、パルス幅変調信号生成部で、前記3相モータの各相のパルス幅変調信号における搬送波の立ち上がり及び立ち下がりの一方のタイミングを所定の位相シフト量だけ互いにずらして設定することにより、単一の電流検出器で検出したモータ電流検出値に基づいて各相電流を演算することができる。
【0026】
さらにまた、請求項4に係るモータ駆動制御装置は、請求項1乃至3の何れか1つに係る発明において、前記3相駆動電圧補正部は、前記3相駆動電圧値を基本正弦波とし、この基本正弦波に、予め設定された前記補正演算式に従って、その3次奇数倍高調波を重畳して3相駆動電圧補正値を演算することを特徴としている。
この請求項4に係る発明では、基本正弦波に補正演算式に従って、その3次奇数倍高調波を重畳する補正を行うことにより、電圧利用率を改善しつつデューティ制約を満たして3相モータを駆動することができる。
【0027】
なおさらに、請求項5に係るモータ駆動制御装置は、請求項4に係る発明において、前記3相駆動電圧補正部は、前記補正演算式を前記3相駆動電圧の二乗和の値を用いた演算式を含む演算式としたことを特徴としている。
この請求項5に係る発明では、補正演算式を3相駆動電圧の二乗和の値を用いた演算式を含むことにより、3相駆動電圧の二乗和の値を用いて補正値を算出し、これを基本正弦波から減算することにより、擬似的に3次奇数倍高調波を重畳することができる。
【0028】
また、請求項6に係るモータ駆動制御装置は、請求項1乃至5の何れか1つに係る発明において、前記3次奇数倍高調波は、前記基本正弦波と同じ符号で重畳されることを特徴としている。
この請求項6に係る発明では、3次奇数倍高調波を基本正弦波に同じ符号で重畳することにより、電圧利用率を改善しつつデューティ制限を満たす補正を行うことができる。
【0029】
さらに、請求項7に係るモータ駆動制御装置は、請求項6に係る発明において、前記3次奇数倍高調波は、高次になるにつれて、その含有率が低くなるように設定されていることを特徴としている。
この請求項7に係る発明では、3次奇数倍高調波の次数が高くなるにつれて、基本正弦波に対する含有率が低くなるので、電圧利用率を改善しつつデューティ制約を満たす補正を行うことができる。
【0030】
さらにまた、請求項8に係る電動パワーステアリング装置は、操舵系に作用する操舵トルクに基づいて、操舵アシスト力を発生する3相モータに流す駆動電流を制御するようにした電動パワーステアリング装置であって、前記3相モータを前記請求項1乃至7の何れか1項に記載のモータ駆動制御装置を用いて駆動制御することを特徴としている。
この請求項8に係る発明では、製造コストの低減と電圧利用率の改善による電動パワーステアリングの出力性能の向上を両立して実現することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、モータ電流を単一の電流検出部で検出する場合に、電流指令値に基づいて演算される3相駆動電圧値を、電圧利用率改善及び3相駆動電圧波形補正を行う補正演算式に従って補正することにより、電圧利用率を改善しつつデューティ制約を満たして3相モータを駆動することができるモータ駆動制御装置を提供することができるという効果が得られる。
また、上記モータ駆動制御装置で操舵補助力を発生する3相モータを駆動制御することにより、製造コストの低減と電圧利用率の改善による電動パワーステアリングの出力性能の向上を両立して実現することができる電動パワーステアリング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明を電動パワーステアリング装置に適用した場合の第1の実施形態を示す全体構成図である。
【図2】モータ駆動制御装置の一例を示すブロック図である。
【図3】モータ駆動制御装置のマイクロコンピュータの機能ブロック図である。
【図4】パルス幅変調信号生成部のデューティ比100%時の動作説明に供する信号波形図である。
【図5】パルス幅変調信号生成部のデューティ比0%時の動作説明に供する信号波形図である。
【図6】第1の実施形態における3相駆動電圧補正値を示す信号波形図である。
【図7】図6の一相分の駆動電圧値の補正前後の信号波形図である。
【図8】図7の駆動電圧値を高速フーリエ変換した次数と含有率との関係を示すグラフである。
【図9】図8の9次以降の高調波を拡大して示すグラフである。
【図10】補正前のU相及びV相駆動電圧値とU−V相間電圧とを示すグラフである。
【図11】補正後のU相及びV相駆動電圧値とU−V相間電圧とを示すグラフである。
【図12】第1の実施形態におけるマイクロコンピュータで実行するモータ駆動制御処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図13】第1の実施形態におけるマイクロコンピュータで実行するモータ電流検出処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図14】本発明の第2の実施形態におけるU相駆動電圧値の補正前後の信号波形図である。
【図15】図14の補正前のU相駆動電圧値の高速フーリエ変換した次数と含有率との関係を示すグラフである。
【図16】図15の9次以降の高調波を拡大して示すグラフである。
【図17】本発明の第3の実施形態におけるU相駆動電圧値の補正前後の信号波形図である。
【図18】本発明の第4の実施形態を示すモータ駆動制御装置におけるマイクロコンピュータの機能ブロック図である。
【図19】従来例のパルス幅変調信号生成部のデューティ比100%時の動作説明に供する信号波形図である。
【図20】従来例のパルス幅変調信号生成部のデューティ比0%時の動作説明に供する信号波形図である。
【図21】従来例の補正前のモータ駆動電圧値のデューティ波形図である。
【図22】従来例の3相正弦波電圧の最大値と最小値を平均した値を、3相正弦波電圧から減算したモータ駆動電圧補正値のデューティ波形を示す信号波形図である。
【図23】従来例の3相正弦波の最小値を3相正弦波電圧から減算したモータ駆動電圧補正値のデューティ波形を示す信号波形図である。
【図24】3相正弦波電圧を基本波として、その3次高調波を3相正弦波電圧に重畳したモータ駆動電圧補正値のデューティ波形を示す信号波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明を電動パワーステアリング装置に適用した場合の一実施形態を示す全体構成図であって、図中、1は、ステアリングホイールであり、このステアリングホイール1に運転者から作用される操舵力が入力軸2aと出力軸2bとを有するステアリングシャフト2に伝達される。このステアリングシャフト2は、入力軸2aの一端がステアリングホイール1に連結され、他端は操舵トルク検出手段としての操舵トルクセンサ3を介して出力軸2bの一端に連結されている。
【0034】
そして、出力軸2bに伝達された操舵力は、ユニバーサルジョイント4を介してロアシャフト5に伝達され、さらに、ユニバーサルジョイント6を介してピニオンシャフト7に伝達される。このピニオンシャフト7に伝達された操舵力はステアリングギヤ8を介してタイロッド9に伝達され、図示しない転舵輪を転舵させる。ここで、ステアリングギヤ8は、ピニオンシャフト7に連結されたピニオン8aとこのピニオン8aに噛合するラック8bとを有するラックアンドピニオン形式に構成され、ピニオン8aに伝達された回転運動をラック8bで直進運動に変換している。
【0035】
ステアリングシャフト2の出力軸2bには、操舵補助力を出力軸2bに伝達する操舵補助機構10が連結されている。この操舵補助機構10は、出力軸2bに連結した減速ギヤ11と、この減速ギヤ11に連結された操舵補助力を発生する3相モータとしての3相ブラシレスモータ12とを備えている。
操舵トルクセンサ3は、ステアリングホイール1に付与されて入力軸2aに伝達された操舵トルクを検出するもので、例えば、操舵トルクを入力軸2a及び出力軸2b間に介挿した図示しないトーションバーの捩れ角変位に変換し、この捩れ角変位を抵抗変化や磁気変化に変換して検出するように構成されている。
【0036】
また、3相ブラシレスモータ12は、図2に示すように、U相コイルLu、V相コイルLv及びW相コイルLwの一端が互いに接続されてスター結線とされ、各コイルLu、Lv及びLwの他端がモータ駆動制御装置20に接続されて個別にモータ駆動電流Iu、Iv及びIwが供給される。また、3相ブラシレスモータ12は、モータ回転角θmを検出するレゾルバ、ロータリエンコーダ等で構成されるモータ回転角センサ13を備えている。
【0037】
モータ駆動制御装置20には、操舵トルクセンサ3で検出した操舵トルクT及び車速センサ21で検出された車速Vsが入力されると共に、モータ回転角センサ13で検出されたモータ回転角θmが入力されている。
このモータ駆動制御装置20は、図2に示すように、操舵トルクセンサ3で検出した操舵トルクT及び車速センサ21で検出した車速Vsが直接入力され、モータ回転角センサ13で検出したモータ回転角θmがセンサインタフェース(I/F)30aを介して入力され、さらに、後述するモータ電流検出器42からモータ電流検出値Imが入力されるマイクロコンピュータ30と、このマイクロコンピュータ30から出力されるパルス幅変調(PWM)信号が入力されるモータ駆動回路40とを備えている。
【0038】
モータ駆動回路40は、直流電源としての負極側が接地されたバッテリ41の正極側と接地との間に接続されており、このモータ駆動回路40と接地との間に3相ブラシレスモータ12に流れるモータ電流Imを検出するモータ電流検出部としての単一のモータ電流検出器42が設けられている。このモータ電流検出器42は、図示しないがモータ駆動回路40と接地との間に介装されたシャント抵抗とこのシャント抵抗の両端電圧を検出してモータ電流検出値Imとして出力するオペアンプとで構成され、オペアンプから出力されるモータ電流検出値Imがマイクロコンピュータ30のA/D変換入力端子に入力されている。
【0039】
ここで、モータ駆動回路40は、図2に示すように、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)、金属酸化膜型電界効果トランジスタ(MOSFET)等で構成される電圧制御形の6個の半導体スイッチング素子Q1〜Q6を有し、これら半導体スイッチング素子Q1〜Q6を2つずつ直列に接続した3つの直列回路を並列に接続したインバータ回路の構成を有する。
【0040】
そして、半導体スイッチング素子Q1、Q3及びQ5のドレインがバッテリ41の正極側に接続され、半導体スイッチング素子Q2、Q4及びQ5のソースがモータ電流検出器42を介して接地されている。また、半導体スイッチング素子Q1及びQ2の接続点、Q3及びQ4の接続点並びにQ5及び16の接続点が交流出力点として3相ブラシレスモータ12の励磁コイルLu、Lv及びLwに接続されている。
【0041】
また、マイクロコンピュータ30は、機能ブロック図で表すと、図3に示すように構成されている。すなわち、モータ回転角センサ13で検出されたモータ回転角θmに基づいて電気角θを演算する電気角演算部31と、この電気角演算部31で演算された電気角θを微分して電気角速度ωを演算する電気角速度演算部32と、トルクセンサ3で検出された操舵トルクT、車速センサ21で検出された車速Vs及び電気角速度演算部32で演算された電気角速度ωが入力されてトルク指令値T*を算出するトルク制御部33とを備えている。
【0042】
マイクロコンピュータ30は、また、トルク制御部33から出力されるトルク指令値T*に基づいて3相モータ電流指令値Iu*、Iv*及びIw*を演算するモータ電流指令部34と、モータ駆動回路40に設けられたモータ電流検出器42で検出されたモータ電流検出値Imに基づいて3相ブラシレスモータ12のU相、V相及びW相の各相電流Iu、Iv及びIwを演算する各相電流演算部35と、モータ電流指令部34で演算したモータ電流指令値Iu*、Iv*及びIw*と各相電流演算部35で演算した各相電流Iu、Iv及びIwとの電流偏差ΔIu、ΔIv及びΔIwを算出する減算部36とを備えている。
【0043】
ここで、モータ電流指令部34は、トルク制御部33から入力されるトルク指令値T*、電気角演算部31から入力される電気角θ及び電気角速度演算部32から入力される電気角速度ωに基づいてベクトル制御演算を行って、d軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*を算出し、これらd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*を2相/3相変換処理してブラシレスモータ12に対するU相電流指令値Iu*、V相電流指令値Iv*及びW相電流指令値Iw*を演算する。
【0044】
また、各相電流演算部35は、後述するパルス幅変調信号生成部39から出力される電流検出タイミング信号に基づいてU相電流のみがオン状態であるときのモータ電流検出値ImをU相電流Iuとし、次いで、U相及びV相のみがオン状態であるときのモータ電流検出値ImからU相電流Iuを減算して、V相電流Ivを算出し、算出したU相電流Iu及びV相電流Ivに基づいてW相電流Iwを算出する。
【0045】
マイクロコンピュータ30は、さらに、減算部36から出力される電流偏差ΔIu、ΔIv及びΔIwをPI(比例・積分)制御処理して3相駆動電圧値にVu、Vv及びVwを演算する3相駆動電圧演算部としてのPI制御部37と、このPI制御部37で演算した3相駆動電圧値Vu、Vv及びVwに対して電圧利用率改善及び3相駆動電圧波形補正のための補正演算式に従って補正を行って3相駆動電圧補正値Vux、Vvx及びVwxを演算する3相駆動電圧補正部38と、この3相駆動電圧補正部38から出力される3相駆動電圧補正値Vux、Vvx及びVwxに基づいてパルス幅変調処理を行って前述したモータ駆動回路30の各半導体スイッチング素子Q1〜Q6のゲートに供給するパルス幅変調(PWM)信号を生成するパルス幅変調信号生成部39とを備えている。
【0046】
ここで、3相駆動電圧補正部38は、3相のモータ駆動電圧値Vu、Vv、Vwが入力され、補正値を用いて3相のモータ駆動電圧値Vu、Vv、Vwを補正し、3相のモータ駆動電圧補正値Vux、Vvx、Vwxを出力する。
具体的には、120deg位相がずれた3相の正弦波の2乗和が、その正弦波一周期の波高値の1.5倍された値となることを利用し、その値を用いて補正値を算出して3相のモータ駆動電圧値Vu、Vv、Vwから減算することにより、3相のモータ駆動電圧補正値Vux、Vvx、Vwxを算出する。
すなわち、先ず、3相のモータ駆動電圧値Vu、Vv、Vwの2乗和から波形補正値算出用の補正算出定数Bを算出する。
B=(√{2/3(Vu2+Vv2+Vw2)}/(2/√3) …………(1)
【0047】
次いで、3相駆動電圧値Vu、Vv、Vwの最大値と最小値及び補正算出定数Bに基づいて定数X1及びY1を算出し、これら定数X1及びY1を下記条件式1及び2に基づいて定数X2及びY2を算出し、これら定数X2及びY2を加算して波形補正値Cを算出する。
X1=MAX(Vu、Vv、Vw)−B
Y1=MIN(Vu、Vv、Vw)+B
条件式1:X1≧0、真の場合:X2=X1、偽の場合:X2=0
条件式2:Y1<0、真の場合:Y2=Y1、偽の場合:Y2=0
C=X2+Y2 …………(2)
【0048】
次いで、波形補正値Cを利用して、3相駆動電圧値Vu、Vv、Vwから3相駆動電圧補正値Vux、Vvx、Vwxを算出する。
Vux=Vu−C …………(3)
Vvx=Vv−C …………(4)
Vwx=Vw−C …………(5)
【0049】
また、パルス幅変調信号生成部39は、前述した従来例と同様に、図4に示すように、カウント値を“0”から最大値Nmaxまでカウントすることを繰り返して鋸歯状波でなる搬送波を形成するPWMカウンタのカウント値と3相駆動電圧補正部38から出力される3相駆動電圧補正値Vux、Vvx及びVwxに応じたデューティ比設定値Ndu、Ndv及びNdwとを比較して、PWMカウンタのカウント値がデューティ比設定値Ndu、Ndv及びNdwより小さいときにオン状態となり、デューティ比設定値Ndu、Ndv及びNdwより大きいときにオフ状態となるパルス幅変調信号を生成し、生成したパルス幅変調信号をモータ駆動回路40の各半導体スイッチング素子のゲートに供給する。
【0050】
また、各相のデューティ設定値を比較し、最大相(図4ではU相)、中間相(図4ではV相)、最小相(図4ではW相)を抽出し、最大相のパルス幅変調(PWM)信号を生成するための鋸歯状波に対して、中間相のパルス幅変調(PWM)信号を生成するための鋸歯状波の位相がP1(=図4では5us)だけ遅れ、中間相のパルス幅変調(PWM)信号を生成するための鋸歯状波に対して、最小相のパルス幅変調(PWM)信号を生成するための鋸歯状波の位相がP2(=図4では5us)だけ遅れるように、各相のパルス幅(PWM)信号を生成するための鋸歯状波の位相を決定している。
【0051】
つまり、U相のパルス幅変調(PWM)信号を生成するための鋸歯状波に対して、V相のパルス幅変調(PWM)信号を生成するための鋸歯状波の位相が5usだけ遅れ、V相のパルス幅変調(PWM)信号を生成するための鋸歯状波に対して、W相のパルス幅変調(PWM)信号を生成するための鋸歯状波の位相が5usだけ遅れるように設定されている。
【0052】
各相パルス幅変調(PWM)信号のハイレベルへの立ち上がりタイミングは、それぞれ各相パルス幅変調(PWM)信号を生成するための鋸歯状波の立ち下がりのタイミングと同期している。そのため、U相パルス幅変調(PWM)信号のハイレベルへの立ち上がりのタイミングは、V相パルス幅変調(PWM)信号のハイレベルへの立ち上がりのタイミングよりも5usだけ遅れる。また、V相パルス幅変調(PWM信号)のハイレベルへの立ち上がりのタイミングは、W相パルス幅変調(PWM)信号のハイレベルへの立ち上がりのタイミングよりも5usだけ遅れて出力される。
【0053】
これにより、U相パルス幅変調(PWM)信号がハイレベルに立ち上がってから5usが経過するまでの期間は、U相パルス幅変調(PWM)信号のみがハイレベルとなり、3相ブラシレスモータ12のU相を流れる電流(U相電流)Iuのみが、モータ駆動回路40とGND間の電流経路を流れる。したがって、マイクロコンピュータ30は、各相電流演算部35により、その期間にモータ電流検出器42の出力信号を参照することにより、3相ブラシレスモータ12を流れるU相電流の値(U相電流値Iu)を得ることができる。また、V相パルス幅変調(PWM)信号がハイレベルに立ち上がってから5usが経過するまでの期間は、U相パルス幅変調(PWM)信号およびV相パルス幅変調(PWM)信号がハイレベルとなり、3相ブラシレスモータ12を流れるU相電流IuおよびV相を流れる電流(V相電流Iv)が、モータ駆動回路40とGND間の電流経路を流れる。したがって、マイクロコンピュータ30は、各相電流演算部35により、その期間にモータ電流検出器42の出力信号を参照することにより、3相ブラシレスモータ12を流れるU相電流Iu及びV相電流Ivの合計電流値を得ることができる。そして、各相電流演算部35によりその合計電流値から上記のようにして求めたU相電流検出値Iuを差し引くことにより、3相ブラシレスモータ12を流れるV相電流の値(V相電流値Iv)を得ることができる。また、こうしてU相電流検出値Iu及びV相電流検出値Ivが得られると、U相電流検出値Iu、V相電流検出値Iv及びモータのW相を流れる電流の値(W相電流検出値Iw)の和は零であることから、零からU相電流検出値Iu及びV相電流検出値Ivの和を差し引くことにより、W相電流検出値Iwを得ることができる。このように、単一のモータ電流検出器42の出力信号に基づいて、3相ブラシレスモータ12の各相に流れる各相電流値(U相電流検出値Iu、V相電流検出値Iv及びW相電流検出値Iw)を求めることができる。そのため、各相に個別に電流検出器を設ける構成とは異なり、単一の電流検出器42を備えていればよいので、コストの低減を図ることができる。
【0054】
但し、この電流検出方式は、図4、図5の例に示すとおり、最大相(本例ではU相)に対し、中間相(本例ではV相)、最小相(本例ではW相)のデューティに制約がある。つまり、パルス幅変調(PWM)一周期を例えば50usとして、PWM搬送波である鋸歯状波の位相シフト量P1、P2を5usとした場合、20%≦最大相≦100%、10%≦中間相≦90%、0%≦最小相≦80%というデューティ制約がある。
【0055】
この位相シフト量P1及びP2は、本実施例ではP1=P2=5usとしたが、P1≠P2にしても良いし、5us以外の時間に設定しても良い。位相シフト量P1及びP2は、モータ電流検出器42の信号をマイクロコンピュータ30内のA/D変換器にてA/D変換するために必要な時間であり、モータ駆動回路40の電流検出器42側にあるローサイドアーム(下段)のスイッチング素子Q2,Q4,Q6のON/OFF時のリンギングやスイッチング時間、A/D変換時間を考慮すると、5us以上設けることが望ましい。なお、位相シフト量P1及びP2を5usより大きくした場合は、上記デューティ制約も異なることになる。
【0056】
次に、上記第1の実施形態の動作を説明する。
今、ステアリングホイール1を操舵すると、そのときの操舵トルクTが操舵トルクセンサ3で検出されると共に、車速Vsが車速センサ21で検出される。そして、検出された操舵トルクT及び車速Vsがモータ駆動制御装置20のマイクロコンピュータ30の機能ブロックで表されるトルク制御部33に入力される。
【0057】
一方、モータ回転角センサ13で検出されたモータ回転角θmが電気角演算部31に供給されて電気角θに変換されると共に、変換された電気角θが電気角速度演算部3に供給されて電気角速度ωが算出される。
このため、トルク制御部33で、操舵トルクT、車速Vs及び電気角速度ωに応じたトルク指令値T*が算出され、これがモータ電流指令部34に供給される。このモータ電流指令部34で、でトルク指令値T*、電気角θ及び電気角速度ωに基づいてd−q軸電流指令値演算処理を行って、d軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*を算出し、算出したd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*を2相/3相変換して、3相ブラシレスモータ12に対するU相電流指令値Iu*、V相電流指令値Iv*及びW相電流指令値Iw*を算出する。
【0058】
そして、モータ電流指令部34で算出された各相電流指令値Iu*、Iv*及びIw*が減算部36に供給されて、これら各相電流指令値Iu*、Iv*及びIw*から各相電流演算部35で演算されたモータ電流検出値Iu、Iv及びIwを減算して、電流偏差ΔIu、ΔIv及びΔIwを算出し、これら電流偏差ΔIu、ΔIv及びΔIwがPI制御部37に供給されて、3相ブラシレスモータ12に対する3相駆動電圧値Vu、Vv及びVwが算出される。
【0059】
これら3相駆動電圧値Vu、Vv及びVwは3相駆動電圧補正部38に供給されて前述した(1)〜(5)式で表される補正演算式に基づいて補正が行われて、図6に示す3相駆動電圧補正値Vux、Vvx及びVwxが演算される。
このように、3相駆動電圧値Vu、Vv及びVwの補正処理を行うことで、3相駆動電圧補正値Vux、Vvx、Vwxの波形は、図6、図7のようになる。
【0060】
図6は、3相駆動電圧補正値Vux、Vvx、Vwxの波形であり、3相駆動電圧値Vux、Vvx、Vwxのそれぞれについてデューティ比が100%及び0%で飽和して約60度の電気角範囲で平坦となる波形となっている。図7は、3相駆動電圧値Vu、Vv、Vwのうちの指令値Vuと、3相駆動電圧補正値Vux、Vvx、Vwxのうちの補正値Vuxの波形とを比較した波形図である。この図7から分かるように、最大デューティ比が110%近傍で、最小デューティ比が−10%近傍となる正弦波電圧である駆動電圧値Vuに対して、駆動電圧補正値Vuxはその波高値が√3/2倍されて最大デューティ比が100%で飽和して約60度の電気角範囲で平坦な波形となるとともに、最小デューティ比が0%で飽和して約60度の電気角範囲で平坦な波形として生成される。
【0061】
この駆動電圧補正値Vuxの波形を高速フーリエ変換(FFT)解析した結果を図8及び図9に示す。なお、図9は、図8の9次成分以降を拡大した図となっている。このFFT解析の結果は、3相駆動電圧値の基本波を100%とした場合の各次数の割合を示したものである。これら図8及び図9によると、基本波の他に、3次高調波、9次高調波、15次高調波、21次高調波、27次高調波、33次高調波、39次高調波がある割合で含有されていることが明らかである。したがって、前述した(1)〜(5)式により擬似的に補正することにより、基本波に対する3次奇数倍高調波がある割合で含有されていることが実証された。
【0062】
また、基本波成分に対し、3次奇数倍高調波は、同一符号で重畳されている。ここでいう同一符号とは、例えば、ある任意の基本波sin(θ+α)に対して、その3次奇数倍高調波であるAn×sin{3(2n+1)θ+α}(nは任意の正の整数、Anは奇数倍高調波の含有率であり正の値)を重畳するための式が、以下の式となり、基本波の符号と3次奇数倍高調波の符号が同じであることをいう。
3次奇数倍高調波を重畳した値=sin(θ+α)+Σ[An×sin{3(2n+1)θ+α}] …………(6)
【0063】
また、前述した図6は、3相駆動電圧補正値Vux、Vvx、Vwxのデューティ波形を示している。そのパルス幅変調一周期内の波高値が100%の時のデューティ波形であり、そのデューティ比は、86.5%≦最大相≦100%、13.5%≦中間相≦86.5%、0%≦最小相≦13.5%であり、上記電流検出方式の制約である20%≦最大相≦100%、10%≦中間相≦90%、0%≦最小相≦80%を満たしている。
【0064】
また、デューティは一般的に50%を中心として3相の振幅が発生するように構成され、その波高値は最小で50%から最大で100%まで変化するため、上記のように波高値が100%の時にデューティ制約を満たしていれば、どの振幅の時もデューティ制約を満たしていることが明らかである。
図10、図11は、電源電圧12Vの時の上記補正の有無による電圧利用率の改善を示す例である。
【0065】
上記(1)〜(5)式の補正をせずに正弦波波形でデューティ波高値が100%の場合のモータU相電圧、V相電圧、U−V間の線間電圧は図10に示すようになる。この場合、電源電圧12V時にモータの相に印加できる電圧の振幅値は12/2=6Vであり、上記(1)〜(5)式の補正を実施しない場合の線間電圧の振幅は、6√3≒10.39Vとなり、電源電圧12Vに対して、線間電圧は6√3/12=√3/2倍までしか印加できない。
【0066】
これに対して、本実施形態のように上記(1)〜(5)式の補正を実施しデューティ波高値が100%の場合のモータU相電圧、V相電圧、U−V間の線間電圧は図11に示すようになる。上記(1)〜(5)式の補正を実施した場合の線間電圧の振幅は12Vとなり、線間電圧は1倍まで印加できる。よって、上記補正を実施した場補正を実施しない場合に比べ、電圧利用率が2/√3倍(約15%)改善できる。
【0067】
以上より、3相駆動電圧値Vu、Vv、Vwを前述した(1)〜(5)式に基づいて補正することにより、単一の電流検出器42を用いて、モータ電流検出する場合のデューティ制約を満たすことができつつ、電圧利用率を約15%程度改善することができるため、単一の電流検出器を用いることによる低コスト化と電圧利用率改善による電動パワーステアリング制御装置の出力性能の向上を両立して実現することが可能となる。
【0068】
そして、3相駆動電圧補正部38で演算された3相駆動電圧補正値Vux、Vvx及びVwxは、パルス幅変調信号生成部39に供給されて、このパルス幅変調信号生成部39で、3相駆動電圧補正値Vux、Vvx及びVwxに基づいて図4及び図5に示すパルス幅変調信号が生成される。生成されたパルス幅変調信号はゲート駆動信号としてモータ駆動回路40のハイサイドアームとなる半導体スイッチング素子Q1、Q3及びQ6に供給され、その反転信号がローサイドアームとなる半導体スイッチング素子Q2、Q4及びQ6に供給される。このため、モータ駆動回路40から3相モータ電流が出力され、この3相モータ電流が3相ブラシレスモータ12に供給されることにより、3相ブラシレスモータ12が駆動されてトルク指令値T*に応じた操舵補助力を発生する。そして、3相ブラシレスモータ12で発生された操舵補助力が減速ギヤ11を介してステアリングシャフト2の出力軸2bに伝達されることにより、ステアリングホイール1を軽い操舵力で操舵することができる。
【0069】
このように、上記第1の実施形態によると、単一の電流検出器を使用する安価な構成で、電圧利用率を改善しつつ、デューティ制約を満たすことができるモータ駆動制御装置20を提供することができ、このモータ駆動制御装置20を使用して電動パワーステアリング装置を構成することにより、製造コストを低減しながら出力性能を向上させることができる。
【0070】
なお、上記第1の実施形態では、3相の電流指令値Iu*、Iv*、Iw*、3相の電流検出値Iu、Iv、Iwの電流偏差ΔIu、ΔIv、ΔIwをPI制御し、3相のモータ駆動電圧値Vu、Vv、Vwを生成しているが、この構成ではなく、3相の電流指令値Iu*、Iv*、Iw*のうち2相(例えば、Iu*、Iv*)、3相の電流検出値(Iu、Iv、Iw)のうち2相(例えば、Iu、Iv)の偏差ΔIu、ΔIvをPI制御し、3相駆動電圧値Vu、Vv、Vwのうち2相の駆動電圧値(例えば、Vu、Vv)を生成し、生成した2相の駆動電圧値Vu、VvからVw=−Vu−Vvにより残り1相の駆動電圧値Vwを算出することにより、3相駆動電圧値Vu、Vv、Vwを生成してもよい。
【0071】
なお、上記第1の実施形態においては、マイクロコンピュータ30の構成を機能ブロック図で説明したが、具体的には、マイクロコンピュータ30で図12に示すモータ駆動制御処理を実行する。
このモータ駆動制御処理は、先ず、ステップS1で、トルクセンサ3で検出した操舵トルクT、車速センサ21で検出した車速Vs及びモータ回転角センサ13で検出したモータ回転角θmを読込み、次いでステップS2に移行して、読込んだモータ回転角θmに基づいて電気角θを演算し、次いでステップS3に移行して、演算した電気角θを微分して電気角速度ωを演算してからステップS4に移行する。
【0072】
このステップS4では、操舵トルクT、車速Vs及び電気角速度ωに基づいてトルク指令値T*を演算し、次いでステップS5に移行して、トルク指令値T*に基づいてdq軸電流指令値Id*及びIq*を算出し、算出したdq軸電流指令値Id*及びIq*を2相/3相変換する逆dq軸変換を行って3相のモータ電流指令値Iu*、Iv*及びIw*を算出してからステップS6に移行する。
【0073】
このステップS6では、後述する図13に示す各相電流演算処理で演算した3相モータ電流検出値Iu、Iv及びIwを読込み、次いでステップS7に移行して、ステップS5で算出したモータ電流指令値Iu*、Iv*及びIw*からステップS6で読込んだモータ電流検出値Iu、Iv及びIwを個別に減算して電流偏差ΔIu、ΔIv及びΔIwを演算する。
【0074】
次いでステップS8に移行して、演算した電流偏差ΔIu、ΔIv及びΔIwに対してPI制御処理を行って3相電圧値Vu、Vv及びVwを演算する。
次いで、ステップS9に移行して、演算した3相駆動電圧値Vu、Vv及びVwに対して、前述した(1)〜(5)式の補正演算式に従った電圧補正演算することにより、3相駆動電圧補正値Vux、Vvx及びVwxを算出する。
【0075】
次いで、ステップS10に移行して、3相駆動電圧値Vux、Vvx及びVwxと、PWMカウンタのカウント値とに基づくパルス幅変調処理を行うことにより、パルス幅変調信号を生成する。次いで、ステップS11に移行して、生成したパルス幅変調信号生成したパルス幅変調信号をモータ駆動回路40へ出力し、次いで、ステップS12に移行して、パルス幅変調一周期の開始時点であるか否かをPWMカウンタのカウント値が“0”であるか否かを判定することにより判定し、パルス幅変調一周期の開始時点であるときにはステップS13に移行して、U相電流検出フラグFuを“1”にセットし、次いでステップS14に移行して、U相電流検出終了時間を計時する第1のタイマ及びV相電流検出終了時間を計時する第2のタイマを起動してから前記ステップS1に戻る。
【0076】
一方、前記ステップS12の判定結果が、パルス幅変調一周期の開始時点ではないときには、ステップS15に移行して、第1のタイマが動作中であるか否かを判定し、第1のタイマが動作中であるときには、ステップS16に移行して、第1のタイマがタイムアップしたか否かを判定し、タイムアップしていないときには前記ステップS1に戻り、タイムアップしたときにはステップS17に移行して、U相電流検出フラグFuを“0”にリセットするとともに、V相電流検出フラグFvを“1”にセットしてから前記ステップS1に戻る。
【0077】
さらに、前記ステップS15の判定結果が、第1のタイマが動作中ではないときには、ステップS18に移行して、第2のタイマが動作中であるか否かを判定し、第2のタイマが動作中でないときには前記ステップS1に戻り、第2のタイマが動作中であるときにはステップS19に移行して、第2のタイマがタイムアップしたか否かを判定し、タイムアップしていないときには前記ステップS1に戻り、第2のタイマがタイムアップしたときにはステップS20に移行して、V相検出フラグFvを“0”にリセットしてから前記ステップS1に戻る。
【0078】
また、マイクロコンピュータ30は、図13に示す前述したモータ駆動制御処理に対して所定時間(例えば1usec)毎のタイマ割込処理として各相電流演算処理を実行する。
この各相電流演算処理は、先ず、ステップS21で、前述したモータ駆動制御処理で、設定されるU相検出フラグFu及びV相検出フラグFvを読込み、次いでステップS22に移行して、U相検出フラグFuが“1”にセットされているか否かを判定し、U相検出フラグFuが“1”にセットされているときにはステップS23に移行し、U相電流検出終了フラグFueが“1”にセットされているか否かを判定し、U相電流検出終了フラグFueが“0”にリセットされているときにはステップS24に移行する。
【0079】
このステップS24では、前記モータ電流検出器42で検出されたモータ電流検出値Imを読込み、次いでステップS25に移行して、読込んだモータ電流検出値ImをU相モータ電流検出値Iuとして内蔵するメモリの所定記憶領域に更新記憶し、次いでステップS26に移行して、U相電流検出終了フラグFueを“1”にセットしてからタイマ割込処理を終了して、前記モータ駆動制御処理に復帰する。また、前記ステップS23の判定結果が、U相電流検出終了フラグが“1”にセットされているときにはそのままタイマ割込処理を終了して前記モータ駆動制御処理に復帰する。
【0080】
また、前記ステップS22の判定結果が、U相検出フラグFuが“0”にリセットされているときには、ステップS27に移行して、V相検出フラグFvが“1”にセットされているか否かを判定し、V相検出フラグFvが“1”にセットされているときには、ステップS28に移行して、V相検出終了フラグFveが“1”にセットされているか否かを判定し、V相検出終了フラグFveが“0”にリセットされているときにはステップS29に移行して、モータ電流検出器42で検出したモータ電流検出値Imを読込み、次いでステップS30に移行して、下記(29)式の演算を行って、モータ電流検出値Ivを算出し、所定記憶領域に更新記憶する。
Iv=Im−Iu …………(29)
【0081】
次いで、ステップS31に移行して、下記(30)式の演算を行って、モータ電流検出値Iwを算出して所定記憶領域に更新記憶する。
Iw=−Iu−Iv …………(30)
次いで、ステップS32に移行して、V相電流検出終了フラグFvを“1”にセットするとともに、U相電流検出終了フラグFweを“0”にリセットしてからタイマ割込処理を終了してモータ駆動制御処理に復帰する。また、前記ステップS28の判定結果が、V相検出終了フラグFveが“1”にセットされているときにはそのままタイマ割込処理を終了してモータ駆動制御処理に復帰する。
【0082】
さらに、前記ステップS27の判定結果が、V相電流検出フラグFvが“0”にリセットされているときには、ステップS33に移行して、V相電流検出終了フラグFveが“1”にセットされているか否かを判定し、V相電流検出終了フラグFveが“1”にセットされているときには、ステップS34に移行して、V相電流検出終了フラグFveを“0”にリセットしてからタイマ割込処理を終了して前記モータ駆動制御処理に復帰し、V相電流検出終了フラグFveが“0”にリセットされているときにはそのままタイマ割込処理を終了して前記モータ駆動制御処理に復帰する。
したがって、図13の各相電流演算処理によって、パルス幅変調処理におけるパルス幅変調一周期の開始時毎に、単一のモータ電流検出器42で検出したモータ電流検出値Imに基づいて3相のモータ電流検出値Iu、Iv及びIwが正確に検出される。
【0083】
一方、図12のモータ駆動制御処理で、操舵トルクT、車速Vs及び電気角速度ωに基づいてトルク指令値T*が算出され、このトルク指令値T*に基づいてモータ電流指令値Iu*、Iv*及びIw*が算出される。
そして、算出されたモータ電流指令値Iu*、Iv*及びIw*と図13の各相電流演算処理で算出されたモータ電流検出値Iu、Iv及びIwとの電流偏差ΔIu、ΔIv及びΔIwが算出され、各電流偏差ΔIu、ΔIv及びΔIwに対してPI制御処理を行って3相駆動電圧値Vu、Vv及びVwを算出し、算出した3相駆動電圧値Vu、Vv及びVwについて電圧補正処理を行って、3相駆動電圧補正値Vux、Vvx及びVwxを算出し、算出した3相駆動電圧補正値Vux、Vvxとパルス幅変調カウンタのカウント値とに基づいてパルス幅変調信号を生成し、生成したパルス幅変調信号をモータ駆動回路40に出力する。これによって、前述したようにモータ駆動回路40で3相モータ駆動電流が形成され、この3相モータ駆動電流が3相ブラシレスモータ12の励磁コイルLu、Lv及びLwに供給されることにより、3相ブラシレスモータ12が回転駆動されて、トルク指令値T*に応じた操舵補助力を発生する。
【0084】
次に、本発明の第2の実施形態を図14〜図16について説明する。
この第2の実施形態では、モータ駆動制御装置20の構成自体は前述した第1の実施形態と同様の構成を有するが、3相駆動電圧補正部38で行う電圧補正処理が変更されている。
すなわち、第2の実施形態では、3相駆動電圧補正部38で行う電圧補正処理が以下のように行われる。
【0085】
先ず、3相駆動電圧演算部としてのPI制御部37から出力される3相駆動電圧値Vu、Vv及びVwの最大値Vmax、最小値Vminを平均した補正値Aを、3相駆動電圧値Vu、Vv及びVwから減算して3相駆動電圧補正値Vum、Vvm、Vwmを算出する。
Vmax=MAX(Vu、Vv、Vw) …………(7)
Vmin=MIN(Vu、Vv、Vw) …………(8)
A=(Vmax+Vmin)/2 …………(9)
Vum=Vu−A …………(10)
Vvm=Vv−A …………(11)
Vwm=Vw−A …………(12)
【0086】
次いで、3相モータ駆動電圧指令値Vu、Vv及びVwの2乗和から波形補正値算出用の補正算出定数Bを算出する。
B=(√{2/3(Vu2+Vv2+Vw2))/(2/√3)…… (13)
次いで、3相駆動電圧補正値Vum、Vvm及びVwmの最大値と補正算出定数Bとに基づいて下記(14)式に従って波形補正値Cを算出する。
C={B−MAX(Vum、Vum、Vwm)}×sign(A)………(14)
【0087】
次いで、波形補正値Cを利用して、3相駆動電圧補正値Vum、Vvm及びVwmから3相駆動電圧補正値Vux、Vvx及びVwsを算出する。
Vux=Vum+C …………(15)
Vvx=Vvm+C …………(16)
Vwx=Vwm+C …………(17)
【0088】
この第2の実施形態によると、前述した(7)〜(12)式によって算出した3相駆動電圧補正値Vum、Vvm及びVwmのうちの例えば補正値Vumのデューティ波形は、図14で破線図示のようになる。この3相駆動電圧補正値Vumは、前述した図22と同一波形となり、約93%≦最大相≦100%、約7%≦中間相≦約93%、0%≦最小相≦約7%となり、単一の電流検出器42を用いた場合のデューティ制約である10%≦中間相≦90%を満たすことができない。
【0089】
そして、この3相駆動電圧補正値Vumに基づいて前述した(14)〜(17)式の演算を行って算出される第2の実施形態による3相駆動電圧補正値Vuxのデューティ波形は、図14で実線図示のようになり、前述した第1の実施形態における3相駆動電圧補正値Vuxと略等しい波形となる。このため、前述した第1の実施形態と同様に電圧利用率は同じ効果を維持しつつ、デューティ制約を満足することができる。このときの、3相駆動電圧補正値Vux、Vvx及びVwxの一相分について高速フーリエ変換(FFT)解析を行うと、前述した第1の実施形態と同様に、基本波成分に対して、3次奇数倍高調波は同一符号となる。
【0090】
ところが、前述した(7)〜(12)式の演算を行って算出される前述した特許文献3に記載された3相駆動電圧補正値Vum、Vvm及びVwmについて同様の高速フーリエ変換(FFT)分析を行ったところ、図15及び図16に示す結果が得られた。ここで、図16は9次高調波成分以降を拡大して示した図である。
これら図15及び図16から明らかなように、特許文献3に記載されている従来例と同様の電圧補正処理を行った場合には、基本波成分に対して、3次奇数倍高調波は同一符号の次数と異符号の次数とが混在されて重畳されていることが明らかであり、本発明の第1及び第2の実施形態のように基本波成分に対して同符号の3次奇数倍高調波を重畳するものと明らかに異なるものであり、本願実施形態の効果を奏することはできない。
【0091】
次に、本発明の第3の実施形態を図17について説明する。
この第3の実施形態においても、前述した第2の実施形態と同様に、モータ駆動制御装置20の構成自体は前述した第1の実施形態と同様の構成を有するが、3相駆動電圧補正部38で行う電圧補正処理が変更されている。
すなわち、第2の実施形態では、3相駆動電圧補正部38で行う電圧補正処理が以下のように行われる。
【0092】
先ず、3相駆動電圧値Vu、Vv及びVwの最大値Vmax、最小値Vminを算出し、補正判定符号と2相変調信号Vum、Vvm及びVwmを算出する。
Vmax=MAX(Vu、Vv、Vw) …………(18)
Vmin=MIN(Vu、Vv、Vw) …………(19)
signA=sign(Vmax+Vmin)…………(20)
Vum=Vu−Vmin …………(21)
Vvm=Vv−Vmin …………(22)
Vwm=Vw−Vmin …………(23)
【0093】
次いで、3相駆動電圧値Vu、Vv及びVwの2乗和から波形補正値算出用の補正算出定数Bを算出する。
B=(√{2/3(Vu2+Vv2+Vw2))×√3)…… (24)
次いで、2相変調信号Vum、Vvm及びVwmの最大値と補正算出定数Bと、補正判定符号Aとから波形補正値Cを算出する。
条件式:signA≧0の場合:
C=B−MAX(Vum、Vvm、Vwm) …………(25)
条件式:signA<0の場合:
C=0 …………(26)
【0094】
次いで、波形補正値Cを利用して、3相駆動電圧補正値Vum、Vvm及びVwmから3相駆動電圧補正値Vux、Vvx及びVwsを算出する。
Vux=Vum+C …………(27)
Vvx=Vvm+C …………(28)
Vwx=Vwm+C …………(29)
【0095】
この第3の実施形態によると、前記(18)〜(23)式で補正した2次変調信号Vum、Vvm及びVwmのうち2相変調信号Vumのューティ波形は、図17で破線図示のように、前述した特許文献3における図23と同様のデューティ波形となる。
このため、ある位相で中間相=最小相=0%となり、単一の電流検出器42を用いた場合のデューティ制約である10%≦中間相≦90%を満たすことができない波形となる。
【0096】
これに対して、前記(24)〜(29)式によって算出する3相駆動電圧補正値Vux、Vvx及びVwxのうちの一相例えば補正値Vuxのデューティ波形は、図17で実線図示のように、前述した第1の実施形態における3相駆動電圧補正値Vuxと全く同じ波形となる。
このため、前述した第1の実施形態と同様に、電圧使用率について同じ効果を維持しつつ、デューティ制約を満たすことができる。
【0097】
次に、本発明の第4の実施形態を図18について説明する。
この第4の実施形態では、モータ電流指令部34からd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*を減算部36に出力するとともに、各相電流演算部35で算出した各相電流検出値Iu、Iv及びIwを3相/2相変換部51で電気角θに基づいてdq変換してd軸電流検出値Id及びq軸電流検出値Iqに変換し、変換したd軸電流検出値Id及びq軸電流検出値Iqを減算部36に供給して、この減算部36で電流偏差ΔId及びΔIqを算出し、これら電流偏差ΔId及びΔIqをPI制御部37でPI(比例・積分)制御処理を行って電圧指令値Vd及びVqを算出し、3相駆動電圧演算部としての2相/3相変換部52で算出した電圧指令値Vd及びVqと電気角θとに基づいてdq逆変換を行って前述した第1〜第3の実施形態の何れか1つの3相駆動電圧補正部38に供給することを除いては前述した第1の実施形態と同様の構成を有し、図3との対応部分には同一符号を付し、その詳細説明はこれを省略する。
【0098】
この第4の実施形態によると、3相ブラシレスモータ12が一定回転数で定常回転している場合に、前述した第1〜第3の実施形態では、3相の交流電流状態でのフィードバック制御を行う必要があるが、本実施形態ではdq軸の直流電流状態でフィードバック制御を行うことができ、制御性を向上させることができる。
なお、上記第1〜第4の実施形態においては、トルク制御部33で、トルクセンサ3で検出した操舵トルクT、車速センサ21で検出した車速Vs及び電気角速度演算部32で演算した電気角速度ωに基づいてトルク指令値T*を算出した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、操舵トルクT及び車速Vsに基づいてトルク指令値T*を算出するようにしたり、操舵トルクTのみに基づいてトルク指令値T*を算出したりするようにしても良い。
【0099】
また、上記第1〜第4の実施形態においては、電流検出器42をモータ駆動回路40と接地との間に介装した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、バッテリ41とモータ駆動回路40との間に電流検出器42を介装するようにしてもよい。
また、上記第1〜第4の実施形態においては、3相モータとして3相ブラシレスモータを適用した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、3相誘導モータも永久磁石式同期モータ等の3相同期モータを適用することができる。
なおさらに、上記実施形態においては、本発明を電動パワーステアリング装置に適用した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、電動ブレーキ装置などの車載電動機器や他の電動機器等の3相モータを適用した機器に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0100】
1…ステアリングホイール、2…ステアリングシャフト、3…トルクセンサ、10…操舵補助機構、11…減速ギヤ、12…3相ブラシレスモータ、13…モータ回転角センサ、20…モータ駆動制御装置、21…車速センサ、30…マイクロコンピュータ、31…電気角演算部、32…電気角速度演算部、33…トルク制御部、34…モータ電流指令部、35…各相電流演算部、36…減算部、37…PI制御部、38…3相駆動電圧補正部、39…パルス幅変調信号生成部、40…モータ駆動回路、41…バッテリ、42…モータ電流検出器、51…3相/2相変換部、52…2相/3相変換部
【技術分野】
【0001】
本発明は、3相モータに流れる電流を検出する電流検出器と、この電流検出器で検出した電流検出値に基づいて前記3相モータを駆動制御するモータ駆動回路とを備えたモータ駆動制御装置及びこれを使用した電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モータ駆動制御装置で駆動制御される3相モータを使用した電動パワーステアリング装置が採用されるようになっている。
この電動パワーステアリング装置として、3相ブラシレスモータを駆動するための3相インバータ回路と、この3相インバータ回路に備えられるスイッチング素子のオン/オフを制御するマイクロコンピュータと、3相インバータ回路から3相ブラシレスモータの各相に供給される電流値を検出するための電流検出器とを備えた構成が知られている(例えば、特許文献1参照)。ここで、電流検出器は、相毎に設けられており、各電流検出器の検出信号は、マイクロコンピュータに入力されるようになっている。マイクロコンピュータは、ステアリングホイールの操作に応じた各相目標電流値を定める。そして、各相目標電流値と各電流検出器によって検出される各相電流検出値との偏差に応じたデューティで、3相インバータ回路に備えられる各スイッチング素子をオン/オフさせる。これにより、3相ブラシレスモータの各相に各相目標電流値の電流が供給されて、ステアリングホイールの操作に応じた操舵補助力が3相ブラシレスモータから発生される。
【0003】
ところが、上記特許文献1に記載の電動パワーステアリング装置にあっては、相毎に電流検出器を備えているため、製造コストが高いという問題点がある。そこで、インバータ回路と電源またはグランドとの間に接続された単一の電流検出器を用いて、各相PWM信号の搬送波を所定の位相シフト量だけ互いにずらせることで、電流検出器により検出された値から各相の電流値を求め、その値に基づいてモータを制御する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
この特許文献2に記載の従来例にあっては、各相電流を求めるためには、インバータ回路のスイッチング素子のローサイドアーム(下段)のうち少なくとも2相分がPWM信号の一周期内にオンする状態を作り出す必要があるため、PWM信号の搬送波の位相シフトを行う必要があり、PWM信号のデューティに制約が生じるという問題点がある。
【0004】
すなわち、例えば、U相を最大デューティ相、W相を中間デューティ相、W相を最小デューティ相とし、PWM信号の一周期内でU相のみオンすることにより、U相電流を検出し、U粗及びV相をともにオンすることにより、U相電流を用いてV相電流を検出し、検出されたU相電流とV相電流とからW相電流を算出する方式の場合には、U相のみをオン状態とするための期間を設ける必要があるため、V相及びW相は、U相に対して所定の期間、オン出力してはいけないことになる。また、U相及びV相をオン状態とするための期間を設ける必要があるため、V相に対して、W相は同様に所定の期間、オン出力してはいけないことになる。
【0005】
具体的には、PWM出力値の一周期を50usとし、U相のみをオン状態とするための期間を5usに設定した場合は、PWM出力値の搬送波の位相シフト量を各相5usとし、V相及びW相のデューティは、5us/50us=10%以上デューティ比を小さくする必要がある。このU相のみをオン状態とするための期間は、U相のみがオン状態となり、U相電流が電流検出器に流れ込み、電流検出器の信号をマイクロコンピュータ内のA/D変換機能にてA/D変換するために必要な時間であり、インバータ回路のローサイドアーム(下段)におけるスイッチング素子のオン/オフ時のリンギングやスイッチング時間、A/D変換時間を考慮すると、5us以上設けることが望ましい。また、W相も同様にV相に対して10%以上デューティ比を小さくする必要がある。
【0006】
すなわち、図19に示すように、カウント値を“0”から最大値Nmaxまでカウントすることを繰り返して鋸歯状波でなる搬送波を形成するPWMカウンタのカウント値とデューティ比設定値Ndu〜Ndwとを比較して、PWMカウンタのカウント値がデューティ比設定値Ndu〜Ndwより小さいときにオン状態となるPWM出力値を形成するものとする。
この場合に、U相のデューティ比設定値Nduを、図19(a)に示すように、PWMカウンタの最大値Nmaxと等しく設定することにより、U相のPWM出力値のデューティ比を、図19(d)に示すように、例えば100%に設定する。
【0007】
これに対して、V相については、例えばPWMカウンタのカウント開始時点をU相のPWMカウンタのカウント開始時点より例えば位相シフト量5us以上遅れた時点に設定するとともに、デューティ比設定値NdvをPWMカウンタの最大値Nmaxの90%以下に設定して、V相のPWM出力値が、図19(e)に示すように、U相のPWM出力値に対して5us以上遅れた時点でオン状態となり、PWM一周期の終了時点でオフ状態となるように形成する。
【0008】
さらに、W相については、PWMカウンタのカウント開始時点をV相のPWMカウンタのカウント開始時点より例えば位相シフト量5us以上遅れた時点に設定するとともに、デューティ比設定値NdwをPWMカウンタの最大値Nmaxの80%以下に設定して、W相のPWM出力値が、図19(f)に示すように、V相のPWM出力値に対して5us以上遅れた時点でオン状態となり、PWM一周期の終了時点でオフ状態となるように形成する。
【0009】
このようにU相、V相及びW相のPWMカウンタのカウント開始時点を少なくとも位相シフト量5us以上ずらし、且つデューティ比設定値Nduに対してNdv及びNdwをそれぞれ10%以上ずつ減少させることにより、PWM一周期の開始時点から位相シフト量5usの間でU相のPWM出力値のみをオン状態とし、その後の位相シフト量5usが経過するまでの間でU相及びV相のPWM出力値の双方をオン状態とすることができる。
このときのU相電流を電流検出値で検出することにより、U相電流値及びV相電流値を求めることができ、これらに基づいてW相電流値を算出することができる。
この場合、最大相(U相)≦100%、中間相(V相)≦90%及び最小相(W相)≦80%という制約条件が発生する。
【0010】
逆に、図20(f)に示すように、W相のPWM出力値のデューティ比が0%である場合には、U相のPWM出力値のみがオン状態、U相及びV相の双方のPWM出力値がオン状態となる期間を形成するには、U相については、図20(a)に示すように、デューティ設定値NduをPWMカウンタの最大値Nmaxの20%以上に設定することにより、図20(d)に示すように、PWM一周期の開始時点から10us以上経過するまでの間オン状態となるU相のPWM出力値を形成し、V相については、図20(b)に示すように、デューティ設定値NdvをPWMカウンタの最大値Nmaxの10%以上に設定することにより、図20(e)に示すように、PWM一周期の開始時点から5us以上経過した時点から5us以上経過するまでの間オン状態となるV相のPWM出力値を形成する。
つまり、最大相(U相)≧20%、中間相(V相)≧10%、最小相(W相)≧0%の制約条件が発生する。
【0011】
以上を整理すると、PWM一周期内で最大相のみオン状態とすることにより、最大相(U相)電流を検出し、最大相(U相)と中間相(V相)の双方をオン状態とすることにより、最大相(U相)電流を用いて中間層(V相)電流を検出し、検出された最大相(U相)電流と中間相(V)相電流とから最小相(W相)電流を検出する方式の場合、20%≦最大相(U相)≦100%、10%≦中間相(V相)≦90%、0%≦最小相(W)相≦80%というデューティ比制約がある。
【0012】
また、PWM一周期内で最大相(U相)のみオン状態とすすることにより最大相(U相)電流を検出し、続いて中間相(V相)のみをオン状態とすることにより中間相(V相)電流を検出、検出された最大相(U相)電流と中間相(V相)電流から最小相(W相)電流を算出する方式の場合や、PWM一周期内で最大相(U相)と中間相(V相)をオン状態とすることにより−W相電流を検出し、続いて中間相(V相)と最小相(W相)をオン状態とすることにより−最大相(U相)電流を検出し、検出された−最大相(U相)電流と-最小相(W相)電流から中間相(V相)電流を算出する方式の場合など、詳細は省略するが、PWM搬送波の位相シフト量を任意に変更することで、各相の電流を検出及び算出することは可能であるが、いずれの場合も各相のデューティ比に制約が発生する。
【0013】
ところで、一般的に3相モータを駆動する場合は、正弦波電圧駆動が用いられている。これはデューティ比50%を基準に正弦波波形のデューティ比を出力し、インバータ駆動回路を介してモータに正弦波波形の相電圧を印加しモータを駆動する方法である。
つまり、モータの正弦波電圧を印加しない場合は、3相ともデューティ比が50%となり、正弦波電圧を印加する場合は、デューティ比50%を基準に正負に正弦波波形のデューティ比を設定する。デューティ比を飽和限界(デューティ最大値≦100%、デューティ最小値≧0%)まで使用した場合は、図21に示すような正弦波デューティ波形となる。
【0014】
上記、PWM一周期内で最大相のみONすることにより最大相(U相)電流を検出し、最大相(U相)と中間相(V相)をONすることにより最大相(U相)電流を用いて中間相(V相)電流を検出、検出された最大相(U相)電流と中間相(V相)電流から最小相(W相)電流を検出する方式の場合、20%≦最大相≦100%、10%≦中間相≦90%、0%≦最小相≦80%というデューティ比制約があるが、図21のようなデューティ波形の場合は、75%≦最大相≦100%、25%≦中間相≦75%、0%≦最小相≦25%となり、上記デューティ比制約を満たすことができる。正弦波電圧を印加せず3相デューティ比が50%の場合も、最大相=中間相=最小相=50%となり、上記デューティ比制約を満たすことができる。
【0015】
しかしながら、3相モータの各相への相印加電圧を正弦波電圧とした場合、線間電圧の基本波の振幅が電源電圧の√3/2以下の範囲でしか正常にPWM駆動できず、電圧利用率が低いという問題があった。例えば、自動車に使用されている電動パワーステアリング制御装置はバッテリ電圧でモータを駆動するため、電源電圧利用率低下は電動パワーステアリング制御装置の出力性能低下につながり好ましくないという問題がある。
【0016】
そこで、この問題を解決するために、3相の正弦波電圧に対して、電圧利用率を改善するために、3相正弦波電圧の最大値と最小値を平均した値を、3相正弦波電圧から減算して波形を補正し、この3相補正電圧を3相モータの相電圧として印加する方法や、3相正弦波電圧の最小値を、3相正弦波電圧から減算して波形を補正し、この3相補正電圧を3相モータの相電圧として印加する方法、3相正弦波電圧を基本波として、その3次高調波を3相正弦波電圧に重畳して波形を補正し、この3相補正電圧を3相モータの相電圧として印加する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。この方法により電圧利用率は2/2となり電圧利用率の改善が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2002−272179号公報
【特許文献2】特開2006−158198号公報
【特許文献3】特許第3480843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、上記特許文献3に記載の従来例にあっては、3相正弦波電圧の最大値と最小値を平均した値を、3相正弦波電圧から減算して波形を補正し、この3相補正電圧を3相モータの相電圧として印加するので、デューティ比を飽和限界(デューティ最大値≦100%、デューティ最小値≧0%)まで使用した場合は、図22に示すようなデューティ波形となり、約93%≦最大相≦100%、約7%≦中間相≦約93%、0%≦最小相≦約7%となり、特許文献2に記載の従来例について前述した単一の電流検出器を使用して電流検出する場合のデューティ比制約である10%≦中間相≦90%を満たすことができず、単一の電流検出器を使用した電流検出ができないという未解決の課題がある。
【0019】
同様に3相正弦波電圧の最小値を、3相正弦波電圧から減算して波形を補正し、この3相補正電圧を3相モータの相電圧として印加する方法では、図23に示すようなデューティ波形となり、ある位相で中間相=最小相=0%となり、デューティ制約が満たせず、単一の電流検出器を使用した電流検出ができないという未解決の課題がある。
また、3相正弦波電圧を基本波として、その3次高調波を3相正弦波電圧に重畳して波形を補正し、この3相補正電圧を3相モータの相電圧として印加する方法では、図24に示すような波形となり3次高調波の含有率によっては、10%≦中間相≦90%となるため、デューティ制約を満たすことができるが、3次高調波を生成するためには、d軸及びq軸でモータ電流をフィードバック制御し、dq軸から3相へ逆変換する際に使用する電気角θに応じた3次高調波を生成するためのデータテーブルが必要になり、マイクロコンピュータのROMの記憶容量が大きくなるという未解決の課題がある。
【0020】
さらに、d軸及びq軸でモータ電流をフィードバックする方法ではなく、一般的に3相モータの制御に利用されている方法である3相モータ電流指令値と3相電流検出値との電流偏差に応じて、PI制御器などを介して3相駆動電圧値を演算する場合は、状況により変化する3相電流指令値や3相電流検出値との差である電流偏差に応じて3相駆動電圧値が変化するため、それに重畳する3次高調波電圧の割合や位相を一意に決めることができず、3次高調波を重畳することができないという未解決の課題がある。
そこで、本発明は、上記従来例の未解決の課題に着目してなされたものであり、電圧利用率を改善しつつ、デューティ制約を満たすことができるモータ駆動制御装置及びこれを使用した電動パワーステアリング装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するために、請求項1に係るモータ駆動制御装置は、3相モータに供給する駆動電流を制御するモータ駆動制御装置であって、直流電源に接続された前記3相モータを駆動するモータ駆動回路と、前記3相モータに流れるモータ電流を検出する単一のモータ電流検出部と、該モータ電流検出部で検出した電流検出値に基づいて、前記3相モータの各相に流れる各相電流値を求める各相電流演算部と、前記3相モータに供給する駆動電流の電流指令値を演算するモータ電流指令部と、該モータ電流指令部で演算した電流指令値と、前記各相電流演算部で演算された各相電流値との電流偏差に応じて3相駆動電圧値を演算する3相駆動電圧演算部と、予め設定された電圧利用率改善及び3相駆動電圧波形補正を行う補正演算式に従って前記3相駆動電圧値に対して補正を行って3相駆動電圧補正値を演算する3相駆動電圧補正部と、該3相駆動電圧補正部で演算した3相駆動電圧補正値に基づいて前記モータ駆動回路を制御するパルス幅変調信号を生成するパルス幅変調信号生成部とを備えたことを特徴としている。
【0022】
この請求項1に係る発明では、モータ電流指令部で演算した3相モータに供給する駆動電流の電流指令値と各相電流演算部で演算した各相電流値との電流偏差に応じて3相駆動電圧値を演算し、この3相駆動電圧値を電圧利用率改善及び3相駆動電圧波形補正を行う補正演算式に従って補正して3相駆動電圧補正値を演算し、この3相駆動電圧補正値に基づいてモータ駆動回路を制御するパルス幅変調信号を形成することにより、単一の電流検出器でモータ電流を検出する場合に、電圧利用率を改善しつつデューティ制約を満足させて3相モータを駆動制御する。
また、請求項2に係るモータ駆動制御装置は、3相モータに供給する駆動電流を制御するモータ駆動制御装置であって、直流電源に接続された前記3相モータを駆動するモータ駆動回路と、前記3相モータの回転位置を検出して電気角信号を演算する電気角演算部と、前記3相モータに流れるモータ電流を検出する単一のモータ電流検出部と、該モータ電流検出部で検出したモータ電流検出値に基づいて前記3相モータの各相に流れる各相電流値を求める各相電流演算部と、該各相電流演算部で演算した各相電流値に対してdq軸変換を行ってd軸電流検出値及びq軸電流検出値を求めるdq軸変換部と、前記3相モータを制御するためのd軸電流指令値及びq軸電流指令値を演算するモータ電流指令値演算部と、該モータ電流指令値演算部で演算したd軸電流指令値及びq軸電流指令値と前記dq軸変換部で変換されたd軸電流検出値及びq軸電流検出値との電流偏差に応じてd軸駆動電圧及びq軸駆動電圧を演算するdq軸電圧演算部と、該dq軸電圧演算部で演算したd軸駆動電圧及びq軸駆動電圧と前記電気角信号とに基づいてdq軸逆変換を行い、3相駆動電圧値を演算する3相駆動電圧演算部と、予め設定された電圧利用率改善及び3相駆動電圧波形補正を行う補正演算式に従って前記3相駆動電圧値に対して補正を行い、3相駆動電圧補正値を演算する3相駆動電圧補正部と、該3相駆動電圧補正部で演算した3相駆動電圧補正値に基づいて前記モータ駆動回路を制御するパルス幅変調信号を生成するパルス幅変調信号生成部とを備えたことを特徴としている。
【0023】
この請求項2に係る発明では、3相モータを制御するためのd軸電流指令値及びq軸電流指令値を演算するともに、単一のモータ電流検出部で検出したモータ電流検出値に基づいて3相モータの各相に流れる各相電流値をdq軸変換してd軸電流検出値及びq軸電流検出値を求め、d軸電流指令値及びq軸電流指令値とd軸電流検出値及びq軸電流検出値との電流偏差に応じてd軸駆動電圧及びq軸駆動電圧を演算し、これらd軸駆動電圧及びq軸駆動電圧をdq軸逆変換して3相駆動電圧値を演算し、この3相駆動電圧値を電圧利用率改善及び3相駆動電圧波形補正を行う補正演算式に従って補正して3相駆動電圧補正値を演算し、この3相駆動電圧補正値に基づいてモータ駆動回路を制御するパルス幅変調信号を形成することにより、単一の電流検出器でモータ電流を検出する場合に、電圧利用率を改善しつつデューティ制約を満足させて3相モータを駆動制御する。
【0024】
さらに、請求項3に係るモータ駆動制御装置は、請求項1又は2に係る発明において、前記モータ電流検出部は、前記モータ駆動回路と電源及び接地の何れかとの間を流れる電流を検出する単一の電流検出器で構成され、前記パルス幅変調信号生成部は、前記3相モータの各相のパルス幅変調信号における搬送波の立ち上がり及び立ち下がりの一方のタイミングが所定の位相シフト量だけ互いにずらして設定されていることを特徴としている。
【0025】
この請求項3に係る発明では、モータ駆動回路と電源又は接地との間で単一の電流検出器によってモータ電流を検出する場合に、パルス幅変調信号生成部で、前記3相モータの各相のパルス幅変調信号における搬送波の立ち上がり及び立ち下がりの一方のタイミングを所定の位相シフト量だけ互いにずらして設定することにより、単一の電流検出器で検出したモータ電流検出値に基づいて各相電流を演算することができる。
【0026】
さらにまた、請求項4に係るモータ駆動制御装置は、請求項1乃至3の何れか1つに係る発明において、前記3相駆動電圧補正部は、前記3相駆動電圧値を基本正弦波とし、この基本正弦波に、予め設定された前記補正演算式に従って、その3次奇数倍高調波を重畳して3相駆動電圧補正値を演算することを特徴としている。
この請求項4に係る発明では、基本正弦波に補正演算式に従って、その3次奇数倍高調波を重畳する補正を行うことにより、電圧利用率を改善しつつデューティ制約を満たして3相モータを駆動することができる。
【0027】
なおさらに、請求項5に係るモータ駆動制御装置は、請求項4に係る発明において、前記3相駆動電圧補正部は、前記補正演算式を前記3相駆動電圧の二乗和の値を用いた演算式を含む演算式としたことを特徴としている。
この請求項5に係る発明では、補正演算式を3相駆動電圧の二乗和の値を用いた演算式を含むことにより、3相駆動電圧の二乗和の値を用いて補正値を算出し、これを基本正弦波から減算することにより、擬似的に3次奇数倍高調波を重畳することができる。
【0028】
また、請求項6に係るモータ駆動制御装置は、請求項1乃至5の何れか1つに係る発明において、前記3次奇数倍高調波は、前記基本正弦波と同じ符号で重畳されることを特徴としている。
この請求項6に係る発明では、3次奇数倍高調波を基本正弦波に同じ符号で重畳することにより、電圧利用率を改善しつつデューティ制限を満たす補正を行うことができる。
【0029】
さらに、請求項7に係るモータ駆動制御装置は、請求項6に係る発明において、前記3次奇数倍高調波は、高次になるにつれて、その含有率が低くなるように設定されていることを特徴としている。
この請求項7に係る発明では、3次奇数倍高調波の次数が高くなるにつれて、基本正弦波に対する含有率が低くなるので、電圧利用率を改善しつつデューティ制約を満たす補正を行うことができる。
【0030】
さらにまた、請求項8に係る電動パワーステアリング装置は、操舵系に作用する操舵トルクに基づいて、操舵アシスト力を発生する3相モータに流す駆動電流を制御するようにした電動パワーステアリング装置であって、前記3相モータを前記請求項1乃至7の何れか1項に記載のモータ駆動制御装置を用いて駆動制御することを特徴としている。
この請求項8に係る発明では、製造コストの低減と電圧利用率の改善による電動パワーステアリングの出力性能の向上を両立して実現することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、モータ電流を単一の電流検出部で検出する場合に、電流指令値に基づいて演算される3相駆動電圧値を、電圧利用率改善及び3相駆動電圧波形補正を行う補正演算式に従って補正することにより、電圧利用率を改善しつつデューティ制約を満たして3相モータを駆動することができるモータ駆動制御装置を提供することができるという効果が得られる。
また、上記モータ駆動制御装置で操舵補助力を発生する3相モータを駆動制御することにより、製造コストの低減と電圧利用率の改善による電動パワーステアリングの出力性能の向上を両立して実現することができる電動パワーステアリング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明を電動パワーステアリング装置に適用した場合の第1の実施形態を示す全体構成図である。
【図2】モータ駆動制御装置の一例を示すブロック図である。
【図3】モータ駆動制御装置のマイクロコンピュータの機能ブロック図である。
【図4】パルス幅変調信号生成部のデューティ比100%時の動作説明に供する信号波形図である。
【図5】パルス幅変調信号生成部のデューティ比0%時の動作説明に供する信号波形図である。
【図6】第1の実施形態における3相駆動電圧補正値を示す信号波形図である。
【図7】図6の一相分の駆動電圧値の補正前後の信号波形図である。
【図8】図7の駆動電圧値を高速フーリエ変換した次数と含有率との関係を示すグラフである。
【図9】図8の9次以降の高調波を拡大して示すグラフである。
【図10】補正前のU相及びV相駆動電圧値とU−V相間電圧とを示すグラフである。
【図11】補正後のU相及びV相駆動電圧値とU−V相間電圧とを示すグラフである。
【図12】第1の実施形態におけるマイクロコンピュータで実行するモータ駆動制御処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図13】第1の実施形態におけるマイクロコンピュータで実行するモータ電流検出処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図14】本発明の第2の実施形態におけるU相駆動電圧値の補正前後の信号波形図である。
【図15】図14の補正前のU相駆動電圧値の高速フーリエ変換した次数と含有率との関係を示すグラフである。
【図16】図15の9次以降の高調波を拡大して示すグラフである。
【図17】本発明の第3の実施形態におけるU相駆動電圧値の補正前後の信号波形図である。
【図18】本発明の第4の実施形態を示すモータ駆動制御装置におけるマイクロコンピュータの機能ブロック図である。
【図19】従来例のパルス幅変調信号生成部のデューティ比100%時の動作説明に供する信号波形図である。
【図20】従来例のパルス幅変調信号生成部のデューティ比0%時の動作説明に供する信号波形図である。
【図21】従来例の補正前のモータ駆動電圧値のデューティ波形図である。
【図22】従来例の3相正弦波電圧の最大値と最小値を平均した値を、3相正弦波電圧から減算したモータ駆動電圧補正値のデューティ波形を示す信号波形図である。
【図23】従来例の3相正弦波の最小値を3相正弦波電圧から減算したモータ駆動電圧補正値のデューティ波形を示す信号波形図である。
【図24】3相正弦波電圧を基本波として、その3次高調波を3相正弦波電圧に重畳したモータ駆動電圧補正値のデューティ波形を示す信号波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明を電動パワーステアリング装置に適用した場合の一実施形態を示す全体構成図であって、図中、1は、ステアリングホイールであり、このステアリングホイール1に運転者から作用される操舵力が入力軸2aと出力軸2bとを有するステアリングシャフト2に伝達される。このステアリングシャフト2は、入力軸2aの一端がステアリングホイール1に連結され、他端は操舵トルク検出手段としての操舵トルクセンサ3を介して出力軸2bの一端に連結されている。
【0034】
そして、出力軸2bに伝達された操舵力は、ユニバーサルジョイント4を介してロアシャフト5に伝達され、さらに、ユニバーサルジョイント6を介してピニオンシャフト7に伝達される。このピニオンシャフト7に伝達された操舵力はステアリングギヤ8を介してタイロッド9に伝達され、図示しない転舵輪を転舵させる。ここで、ステアリングギヤ8は、ピニオンシャフト7に連結されたピニオン8aとこのピニオン8aに噛合するラック8bとを有するラックアンドピニオン形式に構成され、ピニオン8aに伝達された回転運動をラック8bで直進運動に変換している。
【0035】
ステアリングシャフト2の出力軸2bには、操舵補助力を出力軸2bに伝達する操舵補助機構10が連結されている。この操舵補助機構10は、出力軸2bに連結した減速ギヤ11と、この減速ギヤ11に連結された操舵補助力を発生する3相モータとしての3相ブラシレスモータ12とを備えている。
操舵トルクセンサ3は、ステアリングホイール1に付与されて入力軸2aに伝達された操舵トルクを検出するもので、例えば、操舵トルクを入力軸2a及び出力軸2b間に介挿した図示しないトーションバーの捩れ角変位に変換し、この捩れ角変位を抵抗変化や磁気変化に変換して検出するように構成されている。
【0036】
また、3相ブラシレスモータ12は、図2に示すように、U相コイルLu、V相コイルLv及びW相コイルLwの一端が互いに接続されてスター結線とされ、各コイルLu、Lv及びLwの他端がモータ駆動制御装置20に接続されて個別にモータ駆動電流Iu、Iv及びIwが供給される。また、3相ブラシレスモータ12は、モータ回転角θmを検出するレゾルバ、ロータリエンコーダ等で構成されるモータ回転角センサ13を備えている。
【0037】
モータ駆動制御装置20には、操舵トルクセンサ3で検出した操舵トルクT及び車速センサ21で検出された車速Vsが入力されると共に、モータ回転角センサ13で検出されたモータ回転角θmが入力されている。
このモータ駆動制御装置20は、図2に示すように、操舵トルクセンサ3で検出した操舵トルクT及び車速センサ21で検出した車速Vsが直接入力され、モータ回転角センサ13で検出したモータ回転角θmがセンサインタフェース(I/F)30aを介して入力され、さらに、後述するモータ電流検出器42からモータ電流検出値Imが入力されるマイクロコンピュータ30と、このマイクロコンピュータ30から出力されるパルス幅変調(PWM)信号が入力されるモータ駆動回路40とを備えている。
【0038】
モータ駆動回路40は、直流電源としての負極側が接地されたバッテリ41の正極側と接地との間に接続されており、このモータ駆動回路40と接地との間に3相ブラシレスモータ12に流れるモータ電流Imを検出するモータ電流検出部としての単一のモータ電流検出器42が設けられている。このモータ電流検出器42は、図示しないがモータ駆動回路40と接地との間に介装されたシャント抵抗とこのシャント抵抗の両端電圧を検出してモータ電流検出値Imとして出力するオペアンプとで構成され、オペアンプから出力されるモータ電流検出値Imがマイクロコンピュータ30のA/D変換入力端子に入力されている。
【0039】
ここで、モータ駆動回路40は、図2に示すように、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)、金属酸化膜型電界効果トランジスタ(MOSFET)等で構成される電圧制御形の6個の半導体スイッチング素子Q1〜Q6を有し、これら半導体スイッチング素子Q1〜Q6を2つずつ直列に接続した3つの直列回路を並列に接続したインバータ回路の構成を有する。
【0040】
そして、半導体スイッチング素子Q1、Q3及びQ5のドレインがバッテリ41の正極側に接続され、半導体スイッチング素子Q2、Q4及びQ5のソースがモータ電流検出器42を介して接地されている。また、半導体スイッチング素子Q1及びQ2の接続点、Q3及びQ4の接続点並びにQ5及び16の接続点が交流出力点として3相ブラシレスモータ12の励磁コイルLu、Lv及びLwに接続されている。
【0041】
また、マイクロコンピュータ30は、機能ブロック図で表すと、図3に示すように構成されている。すなわち、モータ回転角センサ13で検出されたモータ回転角θmに基づいて電気角θを演算する電気角演算部31と、この電気角演算部31で演算された電気角θを微分して電気角速度ωを演算する電気角速度演算部32と、トルクセンサ3で検出された操舵トルクT、車速センサ21で検出された車速Vs及び電気角速度演算部32で演算された電気角速度ωが入力されてトルク指令値T*を算出するトルク制御部33とを備えている。
【0042】
マイクロコンピュータ30は、また、トルク制御部33から出力されるトルク指令値T*に基づいて3相モータ電流指令値Iu*、Iv*及びIw*を演算するモータ電流指令部34と、モータ駆動回路40に設けられたモータ電流検出器42で検出されたモータ電流検出値Imに基づいて3相ブラシレスモータ12のU相、V相及びW相の各相電流Iu、Iv及びIwを演算する各相電流演算部35と、モータ電流指令部34で演算したモータ電流指令値Iu*、Iv*及びIw*と各相電流演算部35で演算した各相電流Iu、Iv及びIwとの電流偏差ΔIu、ΔIv及びΔIwを算出する減算部36とを備えている。
【0043】
ここで、モータ電流指令部34は、トルク制御部33から入力されるトルク指令値T*、電気角演算部31から入力される電気角θ及び電気角速度演算部32から入力される電気角速度ωに基づいてベクトル制御演算を行って、d軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*を算出し、これらd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*を2相/3相変換処理してブラシレスモータ12に対するU相電流指令値Iu*、V相電流指令値Iv*及びW相電流指令値Iw*を演算する。
【0044】
また、各相電流演算部35は、後述するパルス幅変調信号生成部39から出力される電流検出タイミング信号に基づいてU相電流のみがオン状態であるときのモータ電流検出値ImをU相電流Iuとし、次いで、U相及びV相のみがオン状態であるときのモータ電流検出値ImからU相電流Iuを減算して、V相電流Ivを算出し、算出したU相電流Iu及びV相電流Ivに基づいてW相電流Iwを算出する。
【0045】
マイクロコンピュータ30は、さらに、減算部36から出力される電流偏差ΔIu、ΔIv及びΔIwをPI(比例・積分)制御処理して3相駆動電圧値にVu、Vv及びVwを演算する3相駆動電圧演算部としてのPI制御部37と、このPI制御部37で演算した3相駆動電圧値Vu、Vv及びVwに対して電圧利用率改善及び3相駆動電圧波形補正のための補正演算式に従って補正を行って3相駆動電圧補正値Vux、Vvx及びVwxを演算する3相駆動電圧補正部38と、この3相駆動電圧補正部38から出力される3相駆動電圧補正値Vux、Vvx及びVwxに基づいてパルス幅変調処理を行って前述したモータ駆動回路30の各半導体スイッチング素子Q1〜Q6のゲートに供給するパルス幅変調(PWM)信号を生成するパルス幅変調信号生成部39とを備えている。
【0046】
ここで、3相駆動電圧補正部38は、3相のモータ駆動電圧値Vu、Vv、Vwが入力され、補正値を用いて3相のモータ駆動電圧値Vu、Vv、Vwを補正し、3相のモータ駆動電圧補正値Vux、Vvx、Vwxを出力する。
具体的には、120deg位相がずれた3相の正弦波の2乗和が、その正弦波一周期の波高値の1.5倍された値となることを利用し、その値を用いて補正値を算出して3相のモータ駆動電圧値Vu、Vv、Vwから減算することにより、3相のモータ駆動電圧補正値Vux、Vvx、Vwxを算出する。
すなわち、先ず、3相のモータ駆動電圧値Vu、Vv、Vwの2乗和から波形補正値算出用の補正算出定数Bを算出する。
B=(√{2/3(Vu2+Vv2+Vw2)}/(2/√3) …………(1)
【0047】
次いで、3相駆動電圧値Vu、Vv、Vwの最大値と最小値及び補正算出定数Bに基づいて定数X1及びY1を算出し、これら定数X1及びY1を下記条件式1及び2に基づいて定数X2及びY2を算出し、これら定数X2及びY2を加算して波形補正値Cを算出する。
X1=MAX(Vu、Vv、Vw)−B
Y1=MIN(Vu、Vv、Vw)+B
条件式1:X1≧0、真の場合:X2=X1、偽の場合:X2=0
条件式2:Y1<0、真の場合:Y2=Y1、偽の場合:Y2=0
C=X2+Y2 …………(2)
【0048】
次いで、波形補正値Cを利用して、3相駆動電圧値Vu、Vv、Vwから3相駆動電圧補正値Vux、Vvx、Vwxを算出する。
Vux=Vu−C …………(3)
Vvx=Vv−C …………(4)
Vwx=Vw−C …………(5)
【0049】
また、パルス幅変調信号生成部39は、前述した従来例と同様に、図4に示すように、カウント値を“0”から最大値Nmaxまでカウントすることを繰り返して鋸歯状波でなる搬送波を形成するPWMカウンタのカウント値と3相駆動電圧補正部38から出力される3相駆動電圧補正値Vux、Vvx及びVwxに応じたデューティ比設定値Ndu、Ndv及びNdwとを比較して、PWMカウンタのカウント値がデューティ比設定値Ndu、Ndv及びNdwより小さいときにオン状態となり、デューティ比設定値Ndu、Ndv及びNdwより大きいときにオフ状態となるパルス幅変調信号を生成し、生成したパルス幅変調信号をモータ駆動回路40の各半導体スイッチング素子のゲートに供給する。
【0050】
また、各相のデューティ設定値を比較し、最大相(図4ではU相)、中間相(図4ではV相)、最小相(図4ではW相)を抽出し、最大相のパルス幅変調(PWM)信号を生成するための鋸歯状波に対して、中間相のパルス幅変調(PWM)信号を生成するための鋸歯状波の位相がP1(=図4では5us)だけ遅れ、中間相のパルス幅変調(PWM)信号を生成するための鋸歯状波に対して、最小相のパルス幅変調(PWM)信号を生成するための鋸歯状波の位相がP2(=図4では5us)だけ遅れるように、各相のパルス幅(PWM)信号を生成するための鋸歯状波の位相を決定している。
【0051】
つまり、U相のパルス幅変調(PWM)信号を生成するための鋸歯状波に対して、V相のパルス幅変調(PWM)信号を生成するための鋸歯状波の位相が5usだけ遅れ、V相のパルス幅変調(PWM)信号を生成するための鋸歯状波に対して、W相のパルス幅変調(PWM)信号を生成するための鋸歯状波の位相が5usだけ遅れるように設定されている。
【0052】
各相パルス幅変調(PWM)信号のハイレベルへの立ち上がりタイミングは、それぞれ各相パルス幅変調(PWM)信号を生成するための鋸歯状波の立ち下がりのタイミングと同期している。そのため、U相パルス幅変調(PWM)信号のハイレベルへの立ち上がりのタイミングは、V相パルス幅変調(PWM)信号のハイレベルへの立ち上がりのタイミングよりも5usだけ遅れる。また、V相パルス幅変調(PWM信号)のハイレベルへの立ち上がりのタイミングは、W相パルス幅変調(PWM)信号のハイレベルへの立ち上がりのタイミングよりも5usだけ遅れて出力される。
【0053】
これにより、U相パルス幅変調(PWM)信号がハイレベルに立ち上がってから5usが経過するまでの期間は、U相パルス幅変調(PWM)信号のみがハイレベルとなり、3相ブラシレスモータ12のU相を流れる電流(U相電流)Iuのみが、モータ駆動回路40とGND間の電流経路を流れる。したがって、マイクロコンピュータ30は、各相電流演算部35により、その期間にモータ電流検出器42の出力信号を参照することにより、3相ブラシレスモータ12を流れるU相電流の値(U相電流値Iu)を得ることができる。また、V相パルス幅変調(PWM)信号がハイレベルに立ち上がってから5usが経過するまでの期間は、U相パルス幅変調(PWM)信号およびV相パルス幅変調(PWM)信号がハイレベルとなり、3相ブラシレスモータ12を流れるU相電流IuおよびV相を流れる電流(V相電流Iv)が、モータ駆動回路40とGND間の電流経路を流れる。したがって、マイクロコンピュータ30は、各相電流演算部35により、その期間にモータ電流検出器42の出力信号を参照することにより、3相ブラシレスモータ12を流れるU相電流Iu及びV相電流Ivの合計電流値を得ることができる。そして、各相電流演算部35によりその合計電流値から上記のようにして求めたU相電流検出値Iuを差し引くことにより、3相ブラシレスモータ12を流れるV相電流の値(V相電流値Iv)を得ることができる。また、こうしてU相電流検出値Iu及びV相電流検出値Ivが得られると、U相電流検出値Iu、V相電流検出値Iv及びモータのW相を流れる電流の値(W相電流検出値Iw)の和は零であることから、零からU相電流検出値Iu及びV相電流検出値Ivの和を差し引くことにより、W相電流検出値Iwを得ることができる。このように、単一のモータ電流検出器42の出力信号に基づいて、3相ブラシレスモータ12の各相に流れる各相電流値(U相電流検出値Iu、V相電流検出値Iv及びW相電流検出値Iw)を求めることができる。そのため、各相に個別に電流検出器を設ける構成とは異なり、単一の電流検出器42を備えていればよいので、コストの低減を図ることができる。
【0054】
但し、この電流検出方式は、図4、図5の例に示すとおり、最大相(本例ではU相)に対し、中間相(本例ではV相)、最小相(本例ではW相)のデューティに制約がある。つまり、パルス幅変調(PWM)一周期を例えば50usとして、PWM搬送波である鋸歯状波の位相シフト量P1、P2を5usとした場合、20%≦最大相≦100%、10%≦中間相≦90%、0%≦最小相≦80%というデューティ制約がある。
【0055】
この位相シフト量P1及びP2は、本実施例ではP1=P2=5usとしたが、P1≠P2にしても良いし、5us以外の時間に設定しても良い。位相シフト量P1及びP2は、モータ電流検出器42の信号をマイクロコンピュータ30内のA/D変換器にてA/D変換するために必要な時間であり、モータ駆動回路40の電流検出器42側にあるローサイドアーム(下段)のスイッチング素子Q2,Q4,Q6のON/OFF時のリンギングやスイッチング時間、A/D変換時間を考慮すると、5us以上設けることが望ましい。なお、位相シフト量P1及びP2を5usより大きくした場合は、上記デューティ制約も異なることになる。
【0056】
次に、上記第1の実施形態の動作を説明する。
今、ステアリングホイール1を操舵すると、そのときの操舵トルクTが操舵トルクセンサ3で検出されると共に、車速Vsが車速センサ21で検出される。そして、検出された操舵トルクT及び車速Vsがモータ駆動制御装置20のマイクロコンピュータ30の機能ブロックで表されるトルク制御部33に入力される。
【0057】
一方、モータ回転角センサ13で検出されたモータ回転角θmが電気角演算部31に供給されて電気角θに変換されると共に、変換された電気角θが電気角速度演算部3に供給されて電気角速度ωが算出される。
このため、トルク制御部33で、操舵トルクT、車速Vs及び電気角速度ωに応じたトルク指令値T*が算出され、これがモータ電流指令部34に供給される。このモータ電流指令部34で、でトルク指令値T*、電気角θ及び電気角速度ωに基づいてd−q軸電流指令値演算処理を行って、d軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*を算出し、算出したd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*を2相/3相変換して、3相ブラシレスモータ12に対するU相電流指令値Iu*、V相電流指令値Iv*及びW相電流指令値Iw*を算出する。
【0058】
そして、モータ電流指令部34で算出された各相電流指令値Iu*、Iv*及びIw*が減算部36に供給されて、これら各相電流指令値Iu*、Iv*及びIw*から各相電流演算部35で演算されたモータ電流検出値Iu、Iv及びIwを減算して、電流偏差ΔIu、ΔIv及びΔIwを算出し、これら電流偏差ΔIu、ΔIv及びΔIwがPI制御部37に供給されて、3相ブラシレスモータ12に対する3相駆動電圧値Vu、Vv及びVwが算出される。
【0059】
これら3相駆動電圧値Vu、Vv及びVwは3相駆動電圧補正部38に供給されて前述した(1)〜(5)式で表される補正演算式に基づいて補正が行われて、図6に示す3相駆動電圧補正値Vux、Vvx及びVwxが演算される。
このように、3相駆動電圧値Vu、Vv及びVwの補正処理を行うことで、3相駆動電圧補正値Vux、Vvx、Vwxの波形は、図6、図7のようになる。
【0060】
図6は、3相駆動電圧補正値Vux、Vvx、Vwxの波形であり、3相駆動電圧値Vux、Vvx、Vwxのそれぞれについてデューティ比が100%及び0%で飽和して約60度の電気角範囲で平坦となる波形となっている。図7は、3相駆動電圧値Vu、Vv、Vwのうちの指令値Vuと、3相駆動電圧補正値Vux、Vvx、Vwxのうちの補正値Vuxの波形とを比較した波形図である。この図7から分かるように、最大デューティ比が110%近傍で、最小デューティ比が−10%近傍となる正弦波電圧である駆動電圧値Vuに対して、駆動電圧補正値Vuxはその波高値が√3/2倍されて最大デューティ比が100%で飽和して約60度の電気角範囲で平坦な波形となるとともに、最小デューティ比が0%で飽和して約60度の電気角範囲で平坦な波形として生成される。
【0061】
この駆動電圧補正値Vuxの波形を高速フーリエ変換(FFT)解析した結果を図8及び図9に示す。なお、図9は、図8の9次成分以降を拡大した図となっている。このFFT解析の結果は、3相駆動電圧値の基本波を100%とした場合の各次数の割合を示したものである。これら図8及び図9によると、基本波の他に、3次高調波、9次高調波、15次高調波、21次高調波、27次高調波、33次高調波、39次高調波がある割合で含有されていることが明らかである。したがって、前述した(1)〜(5)式により擬似的に補正することにより、基本波に対する3次奇数倍高調波がある割合で含有されていることが実証された。
【0062】
また、基本波成分に対し、3次奇数倍高調波は、同一符号で重畳されている。ここでいう同一符号とは、例えば、ある任意の基本波sin(θ+α)に対して、その3次奇数倍高調波であるAn×sin{3(2n+1)θ+α}(nは任意の正の整数、Anは奇数倍高調波の含有率であり正の値)を重畳するための式が、以下の式となり、基本波の符号と3次奇数倍高調波の符号が同じであることをいう。
3次奇数倍高調波を重畳した値=sin(θ+α)+Σ[An×sin{3(2n+1)θ+α}] …………(6)
【0063】
また、前述した図6は、3相駆動電圧補正値Vux、Vvx、Vwxのデューティ波形を示している。そのパルス幅変調一周期内の波高値が100%の時のデューティ波形であり、そのデューティ比は、86.5%≦最大相≦100%、13.5%≦中間相≦86.5%、0%≦最小相≦13.5%であり、上記電流検出方式の制約である20%≦最大相≦100%、10%≦中間相≦90%、0%≦最小相≦80%を満たしている。
【0064】
また、デューティは一般的に50%を中心として3相の振幅が発生するように構成され、その波高値は最小で50%から最大で100%まで変化するため、上記のように波高値が100%の時にデューティ制約を満たしていれば、どの振幅の時もデューティ制約を満たしていることが明らかである。
図10、図11は、電源電圧12Vの時の上記補正の有無による電圧利用率の改善を示す例である。
【0065】
上記(1)〜(5)式の補正をせずに正弦波波形でデューティ波高値が100%の場合のモータU相電圧、V相電圧、U−V間の線間電圧は図10に示すようになる。この場合、電源電圧12V時にモータの相に印加できる電圧の振幅値は12/2=6Vであり、上記(1)〜(5)式の補正を実施しない場合の線間電圧の振幅は、6√3≒10.39Vとなり、電源電圧12Vに対して、線間電圧は6√3/12=√3/2倍までしか印加できない。
【0066】
これに対して、本実施形態のように上記(1)〜(5)式の補正を実施しデューティ波高値が100%の場合のモータU相電圧、V相電圧、U−V間の線間電圧は図11に示すようになる。上記(1)〜(5)式の補正を実施した場合の線間電圧の振幅は12Vとなり、線間電圧は1倍まで印加できる。よって、上記補正を実施した場補正を実施しない場合に比べ、電圧利用率が2/√3倍(約15%)改善できる。
【0067】
以上より、3相駆動電圧値Vu、Vv、Vwを前述した(1)〜(5)式に基づいて補正することにより、単一の電流検出器42を用いて、モータ電流検出する場合のデューティ制約を満たすことができつつ、電圧利用率を約15%程度改善することができるため、単一の電流検出器を用いることによる低コスト化と電圧利用率改善による電動パワーステアリング制御装置の出力性能の向上を両立して実現することが可能となる。
【0068】
そして、3相駆動電圧補正部38で演算された3相駆動電圧補正値Vux、Vvx及びVwxは、パルス幅変調信号生成部39に供給されて、このパルス幅変調信号生成部39で、3相駆動電圧補正値Vux、Vvx及びVwxに基づいて図4及び図5に示すパルス幅変調信号が生成される。生成されたパルス幅変調信号はゲート駆動信号としてモータ駆動回路40のハイサイドアームとなる半導体スイッチング素子Q1、Q3及びQ6に供給され、その反転信号がローサイドアームとなる半導体スイッチング素子Q2、Q4及びQ6に供給される。このため、モータ駆動回路40から3相モータ電流が出力され、この3相モータ電流が3相ブラシレスモータ12に供給されることにより、3相ブラシレスモータ12が駆動されてトルク指令値T*に応じた操舵補助力を発生する。そして、3相ブラシレスモータ12で発生された操舵補助力が減速ギヤ11を介してステアリングシャフト2の出力軸2bに伝達されることにより、ステアリングホイール1を軽い操舵力で操舵することができる。
【0069】
このように、上記第1の実施形態によると、単一の電流検出器を使用する安価な構成で、電圧利用率を改善しつつ、デューティ制約を満たすことができるモータ駆動制御装置20を提供することができ、このモータ駆動制御装置20を使用して電動パワーステアリング装置を構成することにより、製造コストを低減しながら出力性能を向上させることができる。
【0070】
なお、上記第1の実施形態では、3相の電流指令値Iu*、Iv*、Iw*、3相の電流検出値Iu、Iv、Iwの電流偏差ΔIu、ΔIv、ΔIwをPI制御し、3相のモータ駆動電圧値Vu、Vv、Vwを生成しているが、この構成ではなく、3相の電流指令値Iu*、Iv*、Iw*のうち2相(例えば、Iu*、Iv*)、3相の電流検出値(Iu、Iv、Iw)のうち2相(例えば、Iu、Iv)の偏差ΔIu、ΔIvをPI制御し、3相駆動電圧値Vu、Vv、Vwのうち2相の駆動電圧値(例えば、Vu、Vv)を生成し、生成した2相の駆動電圧値Vu、VvからVw=−Vu−Vvにより残り1相の駆動電圧値Vwを算出することにより、3相駆動電圧値Vu、Vv、Vwを生成してもよい。
【0071】
なお、上記第1の実施形態においては、マイクロコンピュータ30の構成を機能ブロック図で説明したが、具体的には、マイクロコンピュータ30で図12に示すモータ駆動制御処理を実行する。
このモータ駆動制御処理は、先ず、ステップS1で、トルクセンサ3で検出した操舵トルクT、車速センサ21で検出した車速Vs及びモータ回転角センサ13で検出したモータ回転角θmを読込み、次いでステップS2に移行して、読込んだモータ回転角θmに基づいて電気角θを演算し、次いでステップS3に移行して、演算した電気角θを微分して電気角速度ωを演算してからステップS4に移行する。
【0072】
このステップS4では、操舵トルクT、車速Vs及び電気角速度ωに基づいてトルク指令値T*を演算し、次いでステップS5に移行して、トルク指令値T*に基づいてdq軸電流指令値Id*及びIq*を算出し、算出したdq軸電流指令値Id*及びIq*を2相/3相変換する逆dq軸変換を行って3相のモータ電流指令値Iu*、Iv*及びIw*を算出してからステップS6に移行する。
【0073】
このステップS6では、後述する図13に示す各相電流演算処理で演算した3相モータ電流検出値Iu、Iv及びIwを読込み、次いでステップS7に移行して、ステップS5で算出したモータ電流指令値Iu*、Iv*及びIw*からステップS6で読込んだモータ電流検出値Iu、Iv及びIwを個別に減算して電流偏差ΔIu、ΔIv及びΔIwを演算する。
【0074】
次いでステップS8に移行して、演算した電流偏差ΔIu、ΔIv及びΔIwに対してPI制御処理を行って3相電圧値Vu、Vv及びVwを演算する。
次いで、ステップS9に移行して、演算した3相駆動電圧値Vu、Vv及びVwに対して、前述した(1)〜(5)式の補正演算式に従った電圧補正演算することにより、3相駆動電圧補正値Vux、Vvx及びVwxを算出する。
【0075】
次いで、ステップS10に移行して、3相駆動電圧値Vux、Vvx及びVwxと、PWMカウンタのカウント値とに基づくパルス幅変調処理を行うことにより、パルス幅変調信号を生成する。次いで、ステップS11に移行して、生成したパルス幅変調信号生成したパルス幅変調信号をモータ駆動回路40へ出力し、次いで、ステップS12に移行して、パルス幅変調一周期の開始時点であるか否かをPWMカウンタのカウント値が“0”であるか否かを判定することにより判定し、パルス幅変調一周期の開始時点であるときにはステップS13に移行して、U相電流検出フラグFuを“1”にセットし、次いでステップS14に移行して、U相電流検出終了時間を計時する第1のタイマ及びV相電流検出終了時間を計時する第2のタイマを起動してから前記ステップS1に戻る。
【0076】
一方、前記ステップS12の判定結果が、パルス幅変調一周期の開始時点ではないときには、ステップS15に移行して、第1のタイマが動作中であるか否かを判定し、第1のタイマが動作中であるときには、ステップS16に移行して、第1のタイマがタイムアップしたか否かを判定し、タイムアップしていないときには前記ステップS1に戻り、タイムアップしたときにはステップS17に移行して、U相電流検出フラグFuを“0”にリセットするとともに、V相電流検出フラグFvを“1”にセットしてから前記ステップS1に戻る。
【0077】
さらに、前記ステップS15の判定結果が、第1のタイマが動作中ではないときには、ステップS18に移行して、第2のタイマが動作中であるか否かを判定し、第2のタイマが動作中でないときには前記ステップS1に戻り、第2のタイマが動作中であるときにはステップS19に移行して、第2のタイマがタイムアップしたか否かを判定し、タイムアップしていないときには前記ステップS1に戻り、第2のタイマがタイムアップしたときにはステップS20に移行して、V相検出フラグFvを“0”にリセットしてから前記ステップS1に戻る。
【0078】
また、マイクロコンピュータ30は、図13に示す前述したモータ駆動制御処理に対して所定時間(例えば1usec)毎のタイマ割込処理として各相電流演算処理を実行する。
この各相電流演算処理は、先ず、ステップS21で、前述したモータ駆動制御処理で、設定されるU相検出フラグFu及びV相検出フラグFvを読込み、次いでステップS22に移行して、U相検出フラグFuが“1”にセットされているか否かを判定し、U相検出フラグFuが“1”にセットされているときにはステップS23に移行し、U相電流検出終了フラグFueが“1”にセットされているか否かを判定し、U相電流検出終了フラグFueが“0”にリセットされているときにはステップS24に移行する。
【0079】
このステップS24では、前記モータ電流検出器42で検出されたモータ電流検出値Imを読込み、次いでステップS25に移行して、読込んだモータ電流検出値ImをU相モータ電流検出値Iuとして内蔵するメモリの所定記憶領域に更新記憶し、次いでステップS26に移行して、U相電流検出終了フラグFueを“1”にセットしてからタイマ割込処理を終了して、前記モータ駆動制御処理に復帰する。また、前記ステップS23の判定結果が、U相電流検出終了フラグが“1”にセットされているときにはそのままタイマ割込処理を終了して前記モータ駆動制御処理に復帰する。
【0080】
また、前記ステップS22の判定結果が、U相検出フラグFuが“0”にリセットされているときには、ステップS27に移行して、V相検出フラグFvが“1”にセットされているか否かを判定し、V相検出フラグFvが“1”にセットされているときには、ステップS28に移行して、V相検出終了フラグFveが“1”にセットされているか否かを判定し、V相検出終了フラグFveが“0”にリセットされているときにはステップS29に移行して、モータ電流検出器42で検出したモータ電流検出値Imを読込み、次いでステップS30に移行して、下記(29)式の演算を行って、モータ電流検出値Ivを算出し、所定記憶領域に更新記憶する。
Iv=Im−Iu …………(29)
【0081】
次いで、ステップS31に移行して、下記(30)式の演算を行って、モータ電流検出値Iwを算出して所定記憶領域に更新記憶する。
Iw=−Iu−Iv …………(30)
次いで、ステップS32に移行して、V相電流検出終了フラグFvを“1”にセットするとともに、U相電流検出終了フラグFweを“0”にリセットしてからタイマ割込処理を終了してモータ駆動制御処理に復帰する。また、前記ステップS28の判定結果が、V相検出終了フラグFveが“1”にセットされているときにはそのままタイマ割込処理を終了してモータ駆動制御処理に復帰する。
【0082】
さらに、前記ステップS27の判定結果が、V相電流検出フラグFvが“0”にリセットされているときには、ステップS33に移行して、V相電流検出終了フラグFveが“1”にセットされているか否かを判定し、V相電流検出終了フラグFveが“1”にセットされているときには、ステップS34に移行して、V相電流検出終了フラグFveを“0”にリセットしてからタイマ割込処理を終了して前記モータ駆動制御処理に復帰し、V相電流検出終了フラグFveが“0”にリセットされているときにはそのままタイマ割込処理を終了して前記モータ駆動制御処理に復帰する。
したがって、図13の各相電流演算処理によって、パルス幅変調処理におけるパルス幅変調一周期の開始時毎に、単一のモータ電流検出器42で検出したモータ電流検出値Imに基づいて3相のモータ電流検出値Iu、Iv及びIwが正確に検出される。
【0083】
一方、図12のモータ駆動制御処理で、操舵トルクT、車速Vs及び電気角速度ωに基づいてトルク指令値T*が算出され、このトルク指令値T*に基づいてモータ電流指令値Iu*、Iv*及びIw*が算出される。
そして、算出されたモータ電流指令値Iu*、Iv*及びIw*と図13の各相電流演算処理で算出されたモータ電流検出値Iu、Iv及びIwとの電流偏差ΔIu、ΔIv及びΔIwが算出され、各電流偏差ΔIu、ΔIv及びΔIwに対してPI制御処理を行って3相駆動電圧値Vu、Vv及びVwを算出し、算出した3相駆動電圧値Vu、Vv及びVwについて電圧補正処理を行って、3相駆動電圧補正値Vux、Vvx及びVwxを算出し、算出した3相駆動電圧補正値Vux、Vvxとパルス幅変調カウンタのカウント値とに基づいてパルス幅変調信号を生成し、生成したパルス幅変調信号をモータ駆動回路40に出力する。これによって、前述したようにモータ駆動回路40で3相モータ駆動電流が形成され、この3相モータ駆動電流が3相ブラシレスモータ12の励磁コイルLu、Lv及びLwに供給されることにより、3相ブラシレスモータ12が回転駆動されて、トルク指令値T*に応じた操舵補助力を発生する。
【0084】
次に、本発明の第2の実施形態を図14〜図16について説明する。
この第2の実施形態では、モータ駆動制御装置20の構成自体は前述した第1の実施形態と同様の構成を有するが、3相駆動電圧補正部38で行う電圧補正処理が変更されている。
すなわち、第2の実施形態では、3相駆動電圧補正部38で行う電圧補正処理が以下のように行われる。
【0085】
先ず、3相駆動電圧演算部としてのPI制御部37から出力される3相駆動電圧値Vu、Vv及びVwの最大値Vmax、最小値Vminを平均した補正値Aを、3相駆動電圧値Vu、Vv及びVwから減算して3相駆動電圧補正値Vum、Vvm、Vwmを算出する。
Vmax=MAX(Vu、Vv、Vw) …………(7)
Vmin=MIN(Vu、Vv、Vw) …………(8)
A=(Vmax+Vmin)/2 …………(9)
Vum=Vu−A …………(10)
Vvm=Vv−A …………(11)
Vwm=Vw−A …………(12)
【0086】
次いで、3相モータ駆動電圧指令値Vu、Vv及びVwの2乗和から波形補正値算出用の補正算出定数Bを算出する。
B=(√{2/3(Vu2+Vv2+Vw2))/(2/√3)…… (13)
次いで、3相駆動電圧補正値Vum、Vvm及びVwmの最大値と補正算出定数Bとに基づいて下記(14)式に従って波形補正値Cを算出する。
C={B−MAX(Vum、Vum、Vwm)}×sign(A)………(14)
【0087】
次いで、波形補正値Cを利用して、3相駆動電圧補正値Vum、Vvm及びVwmから3相駆動電圧補正値Vux、Vvx及びVwsを算出する。
Vux=Vum+C …………(15)
Vvx=Vvm+C …………(16)
Vwx=Vwm+C …………(17)
【0088】
この第2の実施形態によると、前述した(7)〜(12)式によって算出した3相駆動電圧補正値Vum、Vvm及びVwmのうちの例えば補正値Vumのデューティ波形は、図14で破線図示のようになる。この3相駆動電圧補正値Vumは、前述した図22と同一波形となり、約93%≦最大相≦100%、約7%≦中間相≦約93%、0%≦最小相≦約7%となり、単一の電流検出器42を用いた場合のデューティ制約である10%≦中間相≦90%を満たすことができない。
【0089】
そして、この3相駆動電圧補正値Vumに基づいて前述した(14)〜(17)式の演算を行って算出される第2の実施形態による3相駆動電圧補正値Vuxのデューティ波形は、図14で実線図示のようになり、前述した第1の実施形態における3相駆動電圧補正値Vuxと略等しい波形となる。このため、前述した第1の実施形態と同様に電圧利用率は同じ効果を維持しつつ、デューティ制約を満足することができる。このときの、3相駆動電圧補正値Vux、Vvx及びVwxの一相分について高速フーリエ変換(FFT)解析を行うと、前述した第1の実施形態と同様に、基本波成分に対して、3次奇数倍高調波は同一符号となる。
【0090】
ところが、前述した(7)〜(12)式の演算を行って算出される前述した特許文献3に記載された3相駆動電圧補正値Vum、Vvm及びVwmについて同様の高速フーリエ変換(FFT)分析を行ったところ、図15及び図16に示す結果が得られた。ここで、図16は9次高調波成分以降を拡大して示した図である。
これら図15及び図16から明らかなように、特許文献3に記載されている従来例と同様の電圧補正処理を行った場合には、基本波成分に対して、3次奇数倍高調波は同一符号の次数と異符号の次数とが混在されて重畳されていることが明らかであり、本発明の第1及び第2の実施形態のように基本波成分に対して同符号の3次奇数倍高調波を重畳するものと明らかに異なるものであり、本願実施形態の効果を奏することはできない。
【0091】
次に、本発明の第3の実施形態を図17について説明する。
この第3の実施形態においても、前述した第2の実施形態と同様に、モータ駆動制御装置20の構成自体は前述した第1の実施形態と同様の構成を有するが、3相駆動電圧補正部38で行う電圧補正処理が変更されている。
すなわち、第2の実施形態では、3相駆動電圧補正部38で行う電圧補正処理が以下のように行われる。
【0092】
先ず、3相駆動電圧値Vu、Vv及びVwの最大値Vmax、最小値Vminを算出し、補正判定符号と2相変調信号Vum、Vvm及びVwmを算出する。
Vmax=MAX(Vu、Vv、Vw) …………(18)
Vmin=MIN(Vu、Vv、Vw) …………(19)
signA=sign(Vmax+Vmin)…………(20)
Vum=Vu−Vmin …………(21)
Vvm=Vv−Vmin …………(22)
Vwm=Vw−Vmin …………(23)
【0093】
次いで、3相駆動電圧値Vu、Vv及びVwの2乗和から波形補正値算出用の補正算出定数Bを算出する。
B=(√{2/3(Vu2+Vv2+Vw2))×√3)…… (24)
次いで、2相変調信号Vum、Vvm及びVwmの最大値と補正算出定数Bと、補正判定符号Aとから波形補正値Cを算出する。
条件式:signA≧0の場合:
C=B−MAX(Vum、Vvm、Vwm) …………(25)
条件式:signA<0の場合:
C=0 …………(26)
【0094】
次いで、波形補正値Cを利用して、3相駆動電圧補正値Vum、Vvm及びVwmから3相駆動電圧補正値Vux、Vvx及びVwsを算出する。
Vux=Vum+C …………(27)
Vvx=Vvm+C …………(28)
Vwx=Vwm+C …………(29)
【0095】
この第3の実施形態によると、前記(18)〜(23)式で補正した2次変調信号Vum、Vvm及びVwmのうち2相変調信号Vumのューティ波形は、図17で破線図示のように、前述した特許文献3における図23と同様のデューティ波形となる。
このため、ある位相で中間相=最小相=0%となり、単一の電流検出器42を用いた場合のデューティ制約である10%≦中間相≦90%を満たすことができない波形となる。
【0096】
これに対して、前記(24)〜(29)式によって算出する3相駆動電圧補正値Vux、Vvx及びVwxのうちの一相例えば補正値Vuxのデューティ波形は、図17で実線図示のように、前述した第1の実施形態における3相駆動電圧補正値Vuxと全く同じ波形となる。
このため、前述した第1の実施形態と同様に、電圧使用率について同じ効果を維持しつつ、デューティ制約を満たすことができる。
【0097】
次に、本発明の第4の実施形態を図18について説明する。
この第4の実施形態では、モータ電流指令部34からd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*を減算部36に出力するとともに、各相電流演算部35で算出した各相電流検出値Iu、Iv及びIwを3相/2相変換部51で電気角θに基づいてdq変換してd軸電流検出値Id及びq軸電流検出値Iqに変換し、変換したd軸電流検出値Id及びq軸電流検出値Iqを減算部36に供給して、この減算部36で電流偏差ΔId及びΔIqを算出し、これら電流偏差ΔId及びΔIqをPI制御部37でPI(比例・積分)制御処理を行って電圧指令値Vd及びVqを算出し、3相駆動電圧演算部としての2相/3相変換部52で算出した電圧指令値Vd及びVqと電気角θとに基づいてdq逆変換を行って前述した第1〜第3の実施形態の何れか1つの3相駆動電圧補正部38に供給することを除いては前述した第1の実施形態と同様の構成を有し、図3との対応部分には同一符号を付し、その詳細説明はこれを省略する。
【0098】
この第4の実施形態によると、3相ブラシレスモータ12が一定回転数で定常回転している場合に、前述した第1〜第3の実施形態では、3相の交流電流状態でのフィードバック制御を行う必要があるが、本実施形態ではdq軸の直流電流状態でフィードバック制御を行うことができ、制御性を向上させることができる。
なお、上記第1〜第4の実施形態においては、トルク制御部33で、トルクセンサ3で検出した操舵トルクT、車速センサ21で検出した車速Vs及び電気角速度演算部32で演算した電気角速度ωに基づいてトルク指令値T*を算出した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、操舵トルクT及び車速Vsに基づいてトルク指令値T*を算出するようにしたり、操舵トルクTのみに基づいてトルク指令値T*を算出したりするようにしても良い。
【0099】
また、上記第1〜第4の実施形態においては、電流検出器42をモータ駆動回路40と接地との間に介装した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、バッテリ41とモータ駆動回路40との間に電流検出器42を介装するようにしてもよい。
また、上記第1〜第4の実施形態においては、3相モータとして3相ブラシレスモータを適用した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、3相誘導モータも永久磁石式同期モータ等の3相同期モータを適用することができる。
なおさらに、上記実施形態においては、本発明を電動パワーステアリング装置に適用した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、電動ブレーキ装置などの車載電動機器や他の電動機器等の3相モータを適用した機器に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0100】
1…ステアリングホイール、2…ステアリングシャフト、3…トルクセンサ、10…操舵補助機構、11…減速ギヤ、12…3相ブラシレスモータ、13…モータ回転角センサ、20…モータ駆動制御装置、21…車速センサ、30…マイクロコンピュータ、31…電気角演算部、32…電気角速度演算部、33…トルク制御部、34…モータ電流指令部、35…各相電流演算部、36…減算部、37…PI制御部、38…3相駆動電圧補正部、39…パルス幅変調信号生成部、40…モータ駆動回路、41…バッテリ、42…モータ電流検出器、51…3相/2相変換部、52…2相/3相変換部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3相モータに供給する駆動電流を制御するモータ駆動制御装置であって、
直流電源に接続された前記3相モータを駆動するモータ駆動回路と、
前記3相モータに流れるモータ電流を検出する単一のモータ電流検出部と、
該モータ電流検出部で検出した電流検出値に基づいて、前記3相モータの各相に流れる各相電流検出値を求める各相電流演算部と、
前記3相モータに供給する駆動電流の電流指令値を演算するモータ電流指令部と、
該モータ電流指令部で演算した3相電流指令値と、前記各相電流演算部で演算された各相電流検出値との電流偏差に応じて3相駆動電圧値を演算する3相駆動電圧演算部と、
予め設定された電圧利用率改善及び3相駆動電圧波形補正を行う補正演算式に従って前記3相駆動電圧値に対して補正を行って3相駆動電圧補正値を演算する3相駆動電圧補正部と、
該3相駆動電圧補正部で演算した3相駆動電圧補正値に基づいて前記モータ駆動回路を制御するパルス幅変調信号を生成するパルス幅変調信号生成部と
を備えたことを特徴とするモータ駆動制御装置。
【請求項2】
3相モータに供給する駆動電流を制御するモータ駆動制御装置であって、
直流電源に接続された前記3相モータを駆動するモータ駆動回路と、
前記3相モータの回転位置を検出して電気角信号を演算する電気角演算部と、
前記3相モータに流れるモータ電流を検出する単一のモータ電流検出部と、
該モータ電流検出部で検出したモータ電流検出値に基づいて前記3相モータの各相に流れる各相電流値を求める各相電流演算部と、
該各相電流演算部で演算した各相電流値に対してdq軸変換を行ってd軸電流検出値及びq軸電流検出値を求めるdq軸変換部と、
前記3相モータを制御するためのd軸電流指令値及びq軸電流指令値を演算するモータ電流指令値演算部と、
該モータ電流指令値演算部で演算したd軸電流指令値及びq軸電流指令値と前記dq軸変換部で変換されたd軸電流検出値及びq軸電流検出値との電流偏差に応じてd軸駆動電圧及びq軸駆動電圧を演算するdq軸電圧演算部と、
該dq軸電圧演算部で演算したd軸駆動電圧及びq軸駆動電圧と前記電気角信号とに基づいてdq軸逆変換を行い、3相駆動電圧値を演算する3相駆動電圧演算部と、
予め設定された電圧利用率改善及び3相駆動電圧波形補正を行う補正演算式に従って前記3相駆動電圧値に対して補正を行い、3相駆動電圧補正値を演算する3相駆動電圧補正部と、
該3相駆動電圧補正部で演算した3相駆動電圧補正値に基づいて前記モータ駆動回路を制御するパルス幅変調信号を生成するパルス幅変調信号生成部と
を備えたことを特徴とするモータ駆動制御装置。
【請求項3】
前記モータ電流検出部は、前記モータ駆動回路と電源及び接地の何れかとの間を流れる電流を検出する単一の電流検出器で構成され、前記パルス幅変調信号生成部は、前記3相モータの各相のパルス幅変調信号における搬送波の立ち上がり及び立ち下がりの一方のタイミングが所定の位相シフト量だけ互いにずらして設定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のモータ駆動制御装置。
【請求項4】
前記3相駆動電圧補正部は、前記3相駆動電圧値を基本正弦波とし、この基本正弦波に、予め設定された前記補正演算式に従って、その3次奇数倍高調波を重畳して3相駆動電圧補正値を演算することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のモータ駆動制御装置。
【請求項5】
前記3相駆動電圧補正部は、前記補正演算式を前記3相駆動電圧の二乗和の値を用いた演算式を含む演算式としたことを特徴とする請求項4に記載のモータ駆動制御装置。
【請求項6】
前記3次奇数倍高調波は、前記基本正弦波と同じ符号で重畳されることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載のモータ駆動制御装置。
【請求項7】
前記3次奇数倍高調波は、高次になるにつれて、その含有率が低くなるように設定されていることを特徴とする請求項6に記載のモータ駆動制御装置。
【請求項8】
操舵系に作用する操舵トルクに基づいて、操舵アシスト力を発生する3相モータに流す駆動電流を制御するようにした電動パワーステアリング装置であって、
前記3相モータを前記請求項1乃至7の何れか1項に記載のモータ駆動制御装置を用いて駆動制御することを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項1】
3相モータに供給する駆動電流を制御するモータ駆動制御装置であって、
直流電源に接続された前記3相モータを駆動するモータ駆動回路と、
前記3相モータに流れるモータ電流を検出する単一のモータ電流検出部と、
該モータ電流検出部で検出した電流検出値に基づいて、前記3相モータの各相に流れる各相電流検出値を求める各相電流演算部と、
前記3相モータに供給する駆動電流の電流指令値を演算するモータ電流指令部と、
該モータ電流指令部で演算した3相電流指令値と、前記各相電流演算部で演算された各相電流検出値との電流偏差に応じて3相駆動電圧値を演算する3相駆動電圧演算部と、
予め設定された電圧利用率改善及び3相駆動電圧波形補正を行う補正演算式に従って前記3相駆動電圧値に対して補正を行って3相駆動電圧補正値を演算する3相駆動電圧補正部と、
該3相駆動電圧補正部で演算した3相駆動電圧補正値に基づいて前記モータ駆動回路を制御するパルス幅変調信号を生成するパルス幅変調信号生成部と
を備えたことを特徴とするモータ駆動制御装置。
【請求項2】
3相モータに供給する駆動電流を制御するモータ駆動制御装置であって、
直流電源に接続された前記3相モータを駆動するモータ駆動回路と、
前記3相モータの回転位置を検出して電気角信号を演算する電気角演算部と、
前記3相モータに流れるモータ電流を検出する単一のモータ電流検出部と、
該モータ電流検出部で検出したモータ電流検出値に基づいて前記3相モータの各相に流れる各相電流値を求める各相電流演算部と、
該各相電流演算部で演算した各相電流値に対してdq軸変換を行ってd軸電流検出値及びq軸電流検出値を求めるdq軸変換部と、
前記3相モータを制御するためのd軸電流指令値及びq軸電流指令値を演算するモータ電流指令値演算部と、
該モータ電流指令値演算部で演算したd軸電流指令値及びq軸電流指令値と前記dq軸変換部で変換されたd軸電流検出値及びq軸電流検出値との電流偏差に応じてd軸駆動電圧及びq軸駆動電圧を演算するdq軸電圧演算部と、
該dq軸電圧演算部で演算したd軸駆動電圧及びq軸駆動電圧と前記電気角信号とに基づいてdq軸逆変換を行い、3相駆動電圧値を演算する3相駆動電圧演算部と、
予め設定された電圧利用率改善及び3相駆動電圧波形補正を行う補正演算式に従って前記3相駆動電圧値に対して補正を行い、3相駆動電圧補正値を演算する3相駆動電圧補正部と、
該3相駆動電圧補正部で演算した3相駆動電圧補正値に基づいて前記モータ駆動回路を制御するパルス幅変調信号を生成するパルス幅変調信号生成部と
を備えたことを特徴とするモータ駆動制御装置。
【請求項3】
前記モータ電流検出部は、前記モータ駆動回路と電源及び接地の何れかとの間を流れる電流を検出する単一の電流検出器で構成され、前記パルス幅変調信号生成部は、前記3相モータの各相のパルス幅変調信号における搬送波の立ち上がり及び立ち下がりの一方のタイミングが所定の位相シフト量だけ互いにずらして設定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のモータ駆動制御装置。
【請求項4】
前記3相駆動電圧補正部は、前記3相駆動電圧値を基本正弦波とし、この基本正弦波に、予め設定された前記補正演算式に従って、その3次奇数倍高調波を重畳して3相駆動電圧補正値を演算することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のモータ駆動制御装置。
【請求項5】
前記3相駆動電圧補正部は、前記補正演算式を前記3相駆動電圧の二乗和の値を用いた演算式を含む演算式としたことを特徴とする請求項4に記載のモータ駆動制御装置。
【請求項6】
前記3次奇数倍高調波は、前記基本正弦波と同じ符号で重畳されることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載のモータ駆動制御装置。
【請求項7】
前記3次奇数倍高調波は、高次になるにつれて、その含有率が低くなるように設定されていることを特徴とする請求項6に記載のモータ駆動制御装置。
【請求項8】
操舵系に作用する操舵トルクに基づいて、操舵アシスト力を発生する3相モータに流す駆動電流を制御するようにした電動パワーステアリング装置であって、
前記3相モータを前記請求項1乃至7の何れか1項に記載のモータ駆動制御装置を用いて駆動制御することを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2011−130616(P2011−130616A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−288190(P2009−288190)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
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