説明

低誘電率絶縁性樹脂組成物

【課題】 低誘電率であり、他の特性にも優れる、低誘電率絶縁性樹脂組成物絶縁性樹脂ワニス、プリプレグ、絶縁性樹脂フィルム、積層板及び多層配線板を提供することにある。
【解決手段】 絶縁性樹脂組成物及び低誘電率化剤を含む低誘電率絶縁性樹脂組成物であって、該低誘電率化剤が、多孔性物質と、該多孔性物質内に埋め込まれた低誘電率化成分とで構成され、かつ該低誘電率化剤中の低誘電率化成分の誘電率が、該絶縁性樹脂組成物の誘電率よりも小さい低誘電率絶縁性樹脂組成物、絶縁性樹脂ワニス、プリプレグ、絶縁性樹脂フィルム、積層板及び多層配線板を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低誘電率であり、さらに耐熱性、ガラス転移温度及びピール強度などの特性にも優れる低誘電率絶縁性樹脂組成物、絶縁性樹脂ワニス、プリプレグ、絶縁性樹脂フィルム、積層板及び多層配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータ及び情報機器端末などに含まれる通信機器においては、大量のデータを高速で処理するため、データ伝送量の増大が求められている。その一環として、電気信号の高周波化が進行している。しかし、電気信号に高周波数成分が増えると、伝送経路に遅延が生じることにより信号波形が歪むこと、強度が減衰しやすくなり伝送経路での損失が増えること、信号の反射が増えること、伝送経路での不要な輻射が増えることという問題がある。そのため、高周波帯の本格的な利用を進めるためには、広帯域でインピーダンスを制御して、例えばプリント配線板用基板材料の誘電特性の制御、例えば誘電率を低く制御して(低誘電率化)、損失や反射を低減させることが必要である。そこで、電気信号を高速かつ低伝送損失で処理できる、低誘電率化したプリント配線板用基板材料が求められている。また、実用化には、誘電特性に加えて、耐熱性(ガラス転移温度、熱に対する寸法安定性を含む等)、接着性、機械的強度(例えばピール強度)などの特性も併せ持つことが肝要である。
【0003】
低誘電率化は、例えば、絶縁性樹脂組成物に、絶縁性樹脂組成物の比誘電率を低減させる目的の、その絶縁性樹脂組成物とは異なる物質である低誘電率化剤を混合し、その混合比率を制御して、得られる低誘電率絶縁性樹脂組成物の比誘電率を調整していた。絶縁性樹脂組成物への混合方法は、低誘電率化剤と樹脂(絶縁性樹脂組成物)と直接接触させる接触的混合、あるいは低誘電率化剤の表面を樹脂(絶縁性樹脂組成物)に対して不活性な材料で被覆した低誘電率化剤を樹脂(絶縁性樹脂組成物)と間接的に接触させる非接触的混合であった。接触的混合方法としては、低誘電率化剤を樹脂(絶縁性樹脂組成物)に均一溶解する方法、低誘電率化剤を樹脂(絶縁性樹脂組成物)に分散混合させる方法等がある。しかし、これらの方法では、求める比誘電率の調整は可能であるが、耐熱性、ガラス転移温度及びピール強度などの特性が低下するという問題がある。例えば、均一溶解(相溶化)する場合、絶縁性樹脂組成物の反応速度(例えば硬化速度)の低下、或いは上昇をまねき、反応制御が困難となる等の化学的特性の面で、加えて耐熱性(ガラス転移温度、熱に対する寸法安定性を含む等)、接着性、機械的強度(例えばピール強度)等の物理特性の面で、絶縁性樹脂組成物そのものから予測される各種の特性が低下する。このため、絶縁性樹脂組成物に低誘電率化剤を接触的混合させた場合には、所望の性能すべてが得られないという問題があった。粒子分散の場合においても同様な問題があった(特許文献1)。
【0004】
また、絶縁性樹脂組成物に非接触的混合させる場合には、樹脂(絶縁性樹脂組成物)と中空材とを混合する方法、樹脂(絶縁性樹脂組成物)に発泡剤を混合して絶縁性樹脂組成物の硬化物内に空隙を設ける方法(空隙配設)、低誘電率化剤を樹脂(絶縁性樹脂組成物)に不活性なコーティング材料で被覆して混合する方法(被覆混合)が挙げられる(特許文献2及び3)。しかし、空隙配設の場合には、機械的強度の点で問題があった。また、被覆混合の場合は、樹脂(絶縁性樹脂組成物)製コーティング材料では樹脂に対する分散性が悪く、均質化が困難であり、またセラミックス製コーティング材料では機械的強度が不十分であると共に、絶縁性樹脂組成物の加工が困難であるという問題があった。
そのため、絶縁性樹脂組成物について、特定の特性のみを調整でき、かつ耐熱性、ガラス転移温度及びピール強度などの特性の性能に悪影響を及ぼさない、樹脂用低誘電率化剤が求められている。
【0005】
【特許文献1】特公表2004−513503号公報
【特許文献2】特開平8−253625号公報
【特許文献3】特開平6−62346号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、低誘電率であり、耐熱性、ガラス転移温度及びピール強度などの特特性にも優れる、低誘電率絶縁性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記の課題を解決するために鋭意研究した結果、本発明に到達した。
本発明は、絶縁性樹脂組成物及び低誘電率化剤を含む低誘電率絶縁性樹脂組成物であって、
該低誘電率化剤が、多孔性物質と、該多孔性物質内に埋め込まれた低誘電率化成分とで構成され、かつ該低誘電率化剤中の低誘電率化成分の誘電率が、該絶縁性樹脂組成物の誘電率よりも小さい低誘電率絶縁性樹脂組成物に関する(発明1)。
ここで、「埋め込まれている」とは、低誘電率化成分が多孔性物質内に存在するが、低誘電率化成分と絶縁性樹脂組成物が接触しても、誘電率以外の他の特性、例えば耐熱性、ガラス転移温度及びピール強度などの特性に悪影響を及ぼさない(相互作用を回避する状態である)。例えば、低誘電化率成分と絶縁性樹脂組成物の接触部の各々の面積は、低誘電率化成分と絶縁性樹脂組成物との相互作用を回避する接触面積である。接触面積は、多孔性物質の細孔径から算出することができ、多孔性物質の表面の平均細孔径が1〜1000nmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、低誘電率であり、耐熱性、ガラス転移温度及びピール強度などの特性にも優れる、低誘電率絶縁性樹脂組成物を達成したものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明によれば、低誘電率化剤は、多孔性物質内に低誘電率化成分を埋め込ませるため、低誘電率化成分を多孔性物質内に充填し、固定化して構成される。低誘電率化剤(多孔性物質)外部の絶縁性樹脂組成物と、低誘電率化成分との相互作用を回避させる面積内で接触するため、低誘電率絶縁性樹脂組成物の比誘電率を低減しながらも、低誘電率絶縁性樹脂組成物の他の特性(耐熱性(ガラス転移温度、熱に対する寸法安定性を含む等)、接着性、機械的強度(例えばピール強度))の性能は維持される。
【0010】
ここで、多孔性物質の細孔に、他の物質を充填した複合体が知られている(特許文献2及び特許文献3)。特許文献2は、多孔質シリカにシリコーン硬化物を充填して撥水性とした撥水性粉末が開示されている。また、特許文献3は、多孔質シリカに、イオン交換樹脂・キレート樹脂を充填して、複合体の表面積を増大させた、クロマトグラム等の分離・吸着剤が開示されている。これらは、いずれも、多孔性物質の表面又は内部に介在させた作用物質(シリコーン硬化物又はイオン交換樹脂・キレート樹脂)を、対象物質(水又は金属など)と接触させ、対象物質に作用を及ぼすことを目的としている。よって、本発明のように、多孔性物質内に作用物質(低誘電率化成分)を埋め込み、対象物質(絶縁性樹脂組成物)との所望しない相互作用を回避させるように接触をさせるものとは、その構造及び作用・機能が異なる。
【0011】
本発明の多孔性物質は、細孔を有し、樹脂に対して不活性である材料であれば材質は限定されない。細孔は、独立細孔以外に、多孔性物質外部に通じ、細孔同士が連関していることが好ましい。多孔性物質の材質は、例えばシリカ、シリカゲル、ガラス、アルミナ、ゼオライト、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物、珪藻土、ケイ酸カルシウム等のケイ酸塩、リン酸カルシウム等のリン酸塩、炭酸カルシウム等の炭酸塩、活性炭、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ウレタン樹脂、キトサン樹脂、ポリシロキサン樹脂、シリコーンゴム、酢酸セルロース樹脂などが挙げられる。多孔性物質としては、好ましくは無機多孔性物質であり、多孔質シリカであることがより好ましい。
【0012】
また、本発明の多孔性物質の形状も特に限定されない。例えば、球状、鱗片状、針状、無結晶粉末状、板状、ハニカム状などが挙げられる。球状である場合、樹脂の流動性を制御できるので好ましい。表面の平均細孔径は1〜1000nmであることが好ましく、1〜100nmであることがより好ましく、1〜50nmであることがより好ましい。表面の平均細孔径が1nm以上であると、低誘電率化成分の充填が容易であり、1000nm以下であると、低誘電率化成分と樹脂と相互作用が回避される接触面積である。
【0013】
本発明の多孔性物質の平均粒径は、0.05〜100μmであることが好ましく、0.1〜10μmであることがより好ましい。多孔性物質への低誘電率化成分の充填量としては、多孔性物質の表面上に存在させないことを考慮すると、細孔容積〜100未満容積%であることが好ましい。充填量は、低誘電率化成分が高充填であるほど、多孔性物質の機械的強度が高くなる。また、多孔性物質内部、例えば独立細孔内に誘電率が1と低い空気を多く存在させると、多孔性物質自体の誘電率が低くなり、低誘電率化剤の低誘電率化効果が高くなる。低誘電率化成分の充填量が細孔容積の100容積%未満であると、多孔性物質の細孔内に低誘電率化成分が埋め込まれ、多孔性物質の表面上に存在していない。細孔容積はJIS K 5101−13−1精製あまに油法の吸油量に換算して10〜700ml/100gであることが好ましく、50〜500ml/100gであることがより好ましい。吸油量が10ml/100g以上であると、誘電率の調整効果が有意であり、700ml/100g以下であると、多孔性物質の強度が充分である。本発明における細孔容積は、多孔性物質外部に通じる細孔の容積であり、独立細孔の容積は含まれない。
本発明の多孔性物質として、材質、形状、平均細孔径、吸油量、平均粒径が異なる、2種類以上の多孔性物質を用いることができる。
【0014】
本発明で多孔性物質に埋め込む低誘電率化成分は、多孔性物質外側の絶縁性樹脂組成物より誘電率が低ければ、特に限定されない。低誘電率化を考慮すると、絶縁性樹脂組成物よりも誘電率が0.2以上低いことが好ましい。
種類以上の多孔性物質を用いることができる。
【0015】
絶縁性樹脂組成物への低誘電率化成分の溶解を抑制するために、低誘電率化成分が、20℃以上で固体であることが好ましく、23℃以上で固体であることがより好ましい。加えて、絶縁性樹脂組成物の溶剤に不溶であることが好ましい。
また、多孔性物質に埋め込む際の取扱い性を考慮すると、低誘電率化成分は、加圧又は加熱により流動性を有する、すなわち溶剤を用いずに流動性を有することが好ましい。これは、溶剤のような揮発性物質を用いて流動性を得ると、加熱・乾燥時、或いは貯蔵時に溶剤が揮発する場合があるので、低誘電化率成分の固定及び充填の制御を考慮すると、溶剤を用いないことが好ましい。
種類以上の多孔性物質を用いることができる。
【0016】
加熱により流動性を得る場合、流動点又は融点の温度は、多孔性物質の機械的強度が維持される温度範囲であることが好ましい。製造環境等を考慮すると、融点は、100〜200℃であることが好ましい。
流動点以上の粘度が10000ポイズ(1kPa・s)以下であると好ましい。
【0017】
低誘電率化成分としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンのようなポリオレフィン、ポリプロピレンエーテル、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアリレート、熱可塑ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンオキシド、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリビニルエーテル等の熱可塑樹脂、エポキシ樹脂、キシレン樹脂、グアナミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド、ポリウレタン、マレイン樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂等の熱硬化性樹脂、エポキシアクリレート等の感光性樹脂が挙げられる。
【0018】
また、埋め込む低誘電率化成分は単一でも、2種類以上用いることができる。低誘電率化成分は、熱硬化性であることが好ましい。あるいは低誘電率化成分が、リン酸エステル又はポリオレフィンであることが好ましい。リン酸エステルとしては、例えば〔(CH32632P(O)OC64OP(O)〔C63(CH32〕が挙げられる。
【0019】
本発明の目的の範囲内において、多孔性物質内に、低誘電率化成分と、耐熱性、ガラス転移温度及びピール強度などの特性を調整する成分(難燃性調整成分、密度調整成分、離型性調整成分、帯電防止成分、抗菌性成分、防臭成分等)とを介在させる、或いは兼用させることができる。
【0020】
本発明による、多孔性物質内に低誘電率化成分を固定する方法として、埋め込み方法により例示する。埋め込み方法としては、毛細管現象を利用して、充填することが簡便である。充填方法は、例えば、液状の低誘電率化成分と多孔性物質を撹拌して細孔内に充填する方法、加圧下で液状の低誘電率化成分と多孔性物質を撹拌して細孔内に充填する方法、減圧してから液状の低誘電率化成分に多孔性物質を投入し撹拌して細孔内に充填する方法、予め多孔性物質と低誘電率化成分を混合しておき加熱により低誘電率化成分を溶解して細孔内に充填する方法、予め多孔性物質と低誘電率化成分を混合しておき減圧してから加熱により低誘電率化成分を溶解して細孔内に充填する方法、予め多孔性物質と低誘電率化成分を混合しておき加圧、加熱により低誘電率化成分を溶解して細孔内に充填する方法、低誘電率化成分を溶剤等で溶解して多孔性物質と撹拌し細孔内に充填する方法、低誘電率化成分を溶剤等で溶解して多孔性物質と撹拌し細孔内に充填した後、加熱により溶剤を除去する方法、低誘電率化成分を溶剤等で溶解して多孔性物質と撹拌し細孔内に充填した後、減圧加熱により溶剤を除去する方法が挙げられる。低誘電率化成分が充填された多孔性物質は、低誘電率化剤として使用する前に多孔性物質外部に残る低誘電率化成分を除去するために、溶剤等で洗浄することができる。
【0021】
また、本発明によれば、多孔性物質内に低誘電率化成分を固定する方法について、低誘電率化成分を充填する前に低誘電率化成分の充填性を高めるために、オリゴマー又はシランカップリン剤等で多孔性物質の細孔表面を処理することができる。
低誘電率化成分を充填した低誘電率化剤は、分散性を高めるために、オリゴマー又はシランカップリング剤あるいは混合する絶縁性樹脂組成物等で、充填した多孔質物質の表面処理することができ、粉砕等の処理を行って粒径を小さくすることができる。
このように、多孔性物質内に毛細管現象等で充填する場合、低誘電化剤は製造が容易で安価である。
【0022】
本発明の絶縁性樹脂組成物は電気絶縁性を有すれば、特に限定されない。例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアリレート、熱可塑性ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート等の熱可塑樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、トリアジン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂等の熱硬化性樹脂、エポキシアクリレート等の感光性樹脂等が挙げられる。また、絶縁性樹脂組成物は単一でも、2種類以上用いることができる。絶縁性樹脂組成物は、熱硬化性であることが好ましい。絶縁性樹脂組成物は、エポキシ樹脂であることが好ましい。
【0023】
本発明には、絶縁性樹脂組成物の硬化剤を使用することができ、従来公知の種々のものを使用することができる。例えば、樹脂としてエポキシ樹脂を用いる場合には、ジシアンジアミド、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルフォン、無水フタル酸、無水ピロメリット酸、フェノールノボラックやクレゾールノボラック等の多官能性フェノール等をあげることができる。これらの硬化剤は何種類かを併用することも可能である。促進剤の種類や配合量は特に限定するものではなく、例えばイミダゾール系化合物、有機リン系化合物、第3級アミン、第4級アンモニウム塩等が用いられ、2種類以上を併用することができる。
【0024】
本発明の低誘電率化剤の配合率は、絶縁性樹脂組成物の5〜80容積%であることが好ましく、10〜60容積%であることが特に好ましい。低誘電率化剤の配合率が5容積%以上であると、誘電率の低減効果が有意であり、80容積%以下であると、絶縁性樹脂組成物の取扱いが容易である。ここで、配合率は、それぞれの配合量(重量)に比重を掛けて算出した。比重は、絶縁性樹脂組成物(未硬化の状態)(例えば、エポキシ樹脂)の比重:1.2、多孔性物質(例えば、多孔質シリカ)の比重:2.2、低誘電化成分(例えば、縮合リン酸エステル)の比重:1.15である。
【0025】
また、低誘電率化剤の樹脂に対する分散性を向上するために、ニーダー、ボールミル、ビーズミル、三本ロール、ナノマイザー等既知の混練方法、あるいは低誘電率化剤を粉砕し粒径を小さくすることができる。
このように、本発明の低誘電化剤は、絶縁性樹脂組成物に物理的に混合するのみで、その機能を発揮するため、従来の絶縁性樹脂組成物の製造工程を変更する必要がなく、取扱いが容易である。
【0026】
本発明の絶縁性樹脂組成物を希釈する溶剤は、絶縁性樹脂組成物を溶解できれば、限定されない。例えば、メチルエチルケトン、ヘキサン、キシレン、トルエン、アセトン、エチレングリコールモノエチルエーテル、シクロヘキサノン、エチルエトキシプロピオネート、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等が挙げられる。これらの溶剤は、単独あるいは混合系を用いることができる。この溶剤の前記樹脂に対する割合は、絶縁性樹脂組成物を塗工する設備にあわせてその使用量を調整する。
【0027】
本発明の絶縁性樹脂組成物には、本発明の目的の範囲内において、充填剤、添加剤、他の強化繊維材等を添加することができる。例えば、添加剤としては、難燃剤、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤、可塑剤、カップリング剤、顔料、染料、着色剤、ゴム等が挙げられる。
【0028】
低誘電率絶縁性樹脂組成物をガラスクロスやガラス不織布、有機織布や有機不織布に塗工してプリプレグを作製する場合は、溶剤を除く樹脂の固形分が絶縁性樹脂ワニスの20〜80重量%となるように溶剤の使用量を調節することが好ましい。低誘電率絶縁性樹脂組成物をコンマコータでキャリアフィルムや銅箔に塗工して絶縁フィルム場合は、溶剤を除く樹脂の固形分が絶縁性樹脂ワニスの30〜60重量%となるように溶剤の使用量を調節することが好ましい。
【0029】
本発明の低誘電率絶縁性樹脂組成物を用いたプリプレグは、従来、一般的に行われている製造法をそのまま適用することができる。すなわち、本発明のプリプレグは本発明の低誘電率絶縁性樹脂組成物を基材に含浸、塗工してなるものであり、基材としては各種の電気絶縁材料用積層板に用いられている周知のものが使用できる。基材の材質の例としては、Eガラス、Dガラス、Sガラス又はQガラス等の無機物繊維、ポリイミド、ポリエステル又はテトラフルオロエチレン等の有機繊維、及びそれらの混合物等が挙げられる。これらの基材は、例えば織布、不織布、ロービンク、チョップドストランドマット、サーフェシングマット等の形状を有するが、材質及び形状は、目的とする成形物の用途や性能により選択され必要により単独若しくは2種類以上の材質及び形状からの使用が可能である。基材の厚みには特に制限されないが、通常0.03〜0.5mm程度のものを使用し、シランカップリング剤等で表面処理したものや機械的に開繊処理を施したものは耐熱性や耐湿性、加工性の面から好適である。通常、該基材に対する低誘電率絶縁性樹脂組成物の付着量が、乾燥後のプリプレグの樹脂含有率で20〜90重量%となるように基材に含浸又は塗工した後、通常100〜200℃の温度で1〜30分加熱乾燥し、半硬化状態(Bステージ状態)のプリプレグを得る。
【0030】
前述のプリプレグを用いて積層成形することにより積層板を作製することができる。積層成形は一般的な方法をそのまま適用することができ、例えば本発明のプリプレグを通常1〜20枚重ね、その片面もしくは両面に銅やアルミニウム等の金属箔を配置した構成で加熱加圧により成形することにより積層板とすることができる。金属箔はプリント配線板材料用途で用いられているものであれば特に制限されない。成形条件としては通常の電気絶縁材料用積層板及び多層板の手法が適用でき、例えば多段プレス、多段真空プレス、連続成形、オートクレーブ成形機等を使用し、通常、温度100〜250℃、圧力2〜100kg/cm、加熱時間0.1〜5時間の範囲で成形する。
【0031】
本発明の絶縁フィルムに用いる支持基材には、銅やアルミニウム等の金属箔、ポリエステルやポリイミド等の樹脂フィルム、あるいはこれらの樹脂フィルムの表面に離型剤を塗布したものなどを用いることができる。支持基材に銅箔を用いた場合は、銅箔をそのまま回路導体として使用することができる利点があり、また支持基材に離型剤処理が施されていると支持基材から絶縁フィルムを引き剥がす際や支持基材付フィルムを基板に積層した後支持基材だけを剥離する際の作業性を向上させる上で好ましい。
【0032】
このように支持基材の片面に絶縁性の樹脂層を形成した絶縁フィルムは、以下に示す方法によって多層配線板の製造に供することができる。例えば、支持基材を除去したフィルム状の絶縁フィルムを1枚又は複数枚積層しその上下に銅箔を配置してプレス成形するか、あるいは支持基材である銅箔に絶縁性樹脂ワニスを塗工した絶縁フィルムをフィルム同士合わせるように貼り合わせ、さらに必要ならばその間に基材を除去した絶縁フィルムを1枚以上介在させてプレス成形することによって多層配線板用の積層板を製造することができる。
【0033】
本発明の低誘電率絶縁性樹脂組成物のプリプレグ及び絶縁フィルムを用いた多層プリント配線板の製造法について説明する。まず、本発明の低誘電率絶縁性樹脂組成物をパターン加工された内層回路基板上に積層する。その方法は本発明の低誘電率絶縁性樹脂組成物からなるプリプレグ及び絶縁フィルムを1枚以上積層し、さらにその上に銅箔や回路形成基板を配置して加圧、加熱条件下で基板上にラミネート又はプレスして加熱硬化させる。なお、回路形成基板としてはガラスエポキシ基板、金属基板、ポリエステル基板、ポリイミド基板、BTレジン基板、熱硬化型PPE基板などを使用することができ、回路表面は予め粗化処理することができる。加熱硬化の条件は、温度120℃以上、好ましくは170〜220℃で、通常15〜300分、好ましくは60〜150分加熱硬化させて製造することができる。
【0034】
上記のように基板上に本発明の低誘電率絶縁性樹脂組成物を積層し硬化させた後、ドリルおよび/又はレーザー穴明けを行ない、スルーホールやバイアホールを形成させる。レーザー穴明け機には、炭酸ガスレーザー、YAGレーザー、エキシマレーザーなどを用いることができる。その後、無電解銅めっき、金属蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングなどの手法を用いて内層と外層の電気的導通を得た後は、通常のプリント配線板における回路形成方法を用いて、積層した本発明の低誘電率絶縁性樹脂組成物の表面に回路形成を行う。
【0035】
本発明の低誘電率絶縁性樹脂組成物の用途としては、自動車部品、電子・電気部品等が挙げられる。電子・電気部品としては、例えば回路基板用積層板材料、半導体封止材料等が挙げられる。
【実施例】
【0036】
次に、下記の実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、これらの実施例は本発明をいかなる意味においても制限するものではない。
【0037】
表面処理剤の作製
撹拌装置、コンデンサー及び温度計を備えたガラスフラスコに、ジメトキシジメチルシラン20g、テトラメトキシシラン25g及びメタノール105gを配合した溶液を導入し、その後酢酸0.60g及び蒸留水17.8gを添加して、50℃で8時間撹拌した。シロキサン単位の重合度が30であるシロキサン系表面処理剤を合成した。得られたシロキサン系表面処理剤は、水酸基と反応する末端管能基としてメトキシ基及びシラノール基を有するものである。
【0038】
実施例1
(1)多孔性物質として多孔質シリカ1[吸油量150ml/100g(充填可能な空隙率:76.7%)、表面の平均細孔径5〜15nm、比重:2.2、平均粒径2.1μm、鈴木油脂工業株式会社製ゴッドボールE−2C(商品名)]と、充填する低誘電率化成分として固体状の縮合リン酸エステル[融点95℃、大八化学工業株式会社製PX−200(商品名)、誘電率:2.8]を用い、多孔質シリカ1 200重量部、縮合リン酸エステル(PX−200)600重量部を温度計、冷却管、減圧装置、攪拌装置を備えた4つ口セパラブルフラスコに取り、撹拌しながら4つ口セパラブルフラスコ内を減圧した。4つ口セパラブルフラスコ内の圧力が10mmHg(1.3kPa)以下まで下がった事を確認後、内部温度が120℃になるように4つ口セパラブルフラスコを加熱し、温度を保持したまま5時間加熱撹拌して、溶解されて液状となった縮合リン酸エステルを多孔質シリカ1内に充填した。
【0039】
(2)(1)の4つ口セパラブルフラスコを50℃まで冷却し、液状の縮合リン酸エステルを固化させた。メチルエチルケトン1400重量部を4つ口セパラブルフラスコに投入、撹拌して、過剰な固体状の縮合リン酸エステルを溶解した。空冷により室温まで冷却後、開孔径0.45μmのフィルターを用いて、溶解された液状の縮合リン酸エステルの吸引ろ過を行い、過剰な液状の縮合リン酸エステルと充填された多孔質シリカ1とを分離した。
【0040】
(3)(2)の充填された多孔質シリカ1は、表面に付着したリン酸縮合エステルが付着している場合があるために、200重量部のメチルエチルケトンに(2)の充填された多孔質シリカ1を投入して、15分間撹拌して、表面付着リン酸縮エステルを溶解して除去した(多孔質シリカの洗浄)。その後、開孔径0.45μmのフィルターを用いて、溶解されたリン酸縮合エステルの吸引ろ過を行い、表面付着リン酸縮合エステルと多孔質シリカ1(充填)とを分離した。(3)の工程を再度繰り返し多孔質シリカ1(充填)の洗浄を行った。その後、50℃で10時間乾燥を行い、低誘電率化剤1(縮合リン酸エステルを多孔質シリカの細孔容積のほぼ100容積%でまで充填した多孔質シリカ1、表面にリン酸縮合エステルが付着していない)を作製した。低誘電率化剤1は、低誘電率化成分含有率:76.7%であった。
【0041】
得られた低誘電率化剤1において、多孔質シリカ1(充填)が100容積%であることを、多孔質シリカ1(充填)と多孔質シリカ(未充填)について顕微鏡観察して確認した。試料は、日立製作所製、FB2000A、加速電圧30kV、イオン源Gaを用いて、任意の断面を集束イオンビーム(FIB)加工により切り出し(FIB加工後試料)、FIB加工後表面を清浄にするため、日立製作所製、E3200、加速電圧4kVを用いて、イオンミリング処理した(イオンミリング処理後試料)。イオンミリング処理後試料は、多孔質シリカ(未充填)は細孔が確認されるが、多孔質シリカ1(充填)では隙間なく充填されていること(細孔容積100%充填)が明らかである。FIB加工後試料及びイオンミリング処理後試料をSEM(日立製作所製、型番S−4700、加速電圧5.0kV、倍率:10万倍)で観察した。
図1に、多孔質シリカ1(充填)と多孔質シリカ(未充填)について、FIB加工後試料及びイオンミリング処理後試料の断面観察SEM写真を示す。
【0042】
(4)低誘電率化剤1は、同重量のメチルエチルケトンに分散させ、上記のシロキサン系表面処理剤を、低誘電率化剤1の重量に対して、表面処理剤の固形分が1重量%になるように配合して、メチルエチルケトンの還流温度で一時間加熱処理して、表面処理した低誘電率化剤1を得た。
【0043】
(5)(4)で作製した低誘電率化剤1を絶縁性樹脂組成物に配合して、下記の組成で低誘電率絶縁性樹脂組成物に溶剤を加えてを絶縁性樹脂ワニスを作製した(低誘電化剤:32容積%配合)。この時のエポキシに対する熱硬化剤の当量は1.0当量とした。
低誘電率化剤1 50重量部
絶縁性樹脂組成物
・クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ESCN−190−3
(住友化学株式会社社製、商品名) 75重量部
・熱硬化剤ジシアンジアミド
(日本カーバイド株式会社製) 4重量部
・熱硬化剤ノボラックフェノール樹脂、HP−850
(日立化成工業株式会社製、商品名) 21重量部
・イミダゾール、2−フェニルイミダゾール(四国化成工業株式会社製、商品名2PZ)
0.5重量部
溶剤
・メチルエチルケトン 75重量部
【0044】
(6)次に、この絶縁性樹脂ワニスを厚み18μmの銅箔上に塗工し、100℃−20分乾燥して膜厚100±3μmの銅箔付き絶縁性樹脂フィルムを作製した。作製した銅箔付き絶縁性樹脂フィルムの樹脂面に厚み18μmの銅箔を配し、170℃、90分、1.0MPaのプレス条件で両面銅箔付き絶縁性樹脂フィルムを作製した。
【0045】
実施例2
実施例1において、多孔質シリカ1を、多孔質シリカ2[吸油量330ml/100g(充填可能な空隙率:87.9%)、表面の平均細孔径10nm、比重:2.2、平均粒径2.6μm、富士シリシア化学株式会社製SYLYSIA310P(商品名)]とし、配合量を100重量部とし、縮合リン酸エステルの配合量は1200重量部とし、冷却後に4つ口セパラブルフラスコに投入するエチルメチルケトンの量を2600重量として、低誘電率化剤2を作製した以外は、実施例1と同様にして行い、低誘電率化剤2を得た(充填率100%)。低誘電率化剤2は、低誘電率化成分含有率:87.9%であった。
その後、実施例1と同様にして、低誘電率絶縁性樹脂組成物、絶縁性樹脂ワニス、銅箔付き絶縁性樹脂フィルム、両面銅箔付き絶縁性樹脂フィルムを作製し、特性試験を行った。
【0046】
実施例3
実施例1において、多孔質シリカ1を、多孔質シリカ3[吸油量80ml/100g(充填可能な空隙率:63.8%)、表面の平均細孔径17mm、比重:2.2、平均粒径3.1μm、旭硝子株式会社製L−31−C(商品名)]とし、配合量を200重量部とし、縮合リン酸エステルの配合量は400重量部とし、冷却後に4つ口セパラブルフラスコに投入するエチルメチルケトンの量を1200重量として、低誘電率化剤3を作製した以外は、実施例1と同様にして行い、低誘電率化剤3を得た(充填率100%)。低誘電率化剤3は、低誘電率化成分含有率:63.8%であった。
その後、実施例1と同様にして、低誘電率絶縁性樹脂組成物、絶縁性樹脂ワニス、銅箔付き絶縁性樹脂フィルム、両面銅箔付き絶縁性樹脂フィルムを作製し、特性試験を行った。
【0047】
実施例4
実施例1において、低誘電率化剤1を100重量部とし、絶縁性樹脂ワニスを作る際のメチルエチルケトンを200重量部とした以外は、実施例1と同様にして行い、低誘電率化剤4を得た(充填率100%)。低誘電率化剤4は、低誘電率化成分含有率:76.7%であった。
その後、実施例1と同様にして、低誘電率絶縁性樹脂組成物、絶縁性樹脂ワニス、銅箔付き絶縁性樹脂フィルム、両面銅箔付き絶縁性樹脂フィルムを作製し、特性試験を行った。
【0048】
比較例1
実施例1の低誘電率化剤と同重量と計算される無孔質シリカとリン酸エステルを下記の組成で配合し、低誘電率絶縁性樹脂組成物を作製し、溶剤を配合して絶縁性樹脂ワニスを作成した。この時のエポキシに対する熱硬化剤の当量は1.0当量とした。
縮合リン酸エステルリン酸エステル、PX−200
(大八化学工業株式会社製、商品名) 30重量部
無孔質シリカ、SO−25R、平均粒径0.5μm
(株式会社アドマテックス製、商品名) 20重量部
絶縁性樹脂組成物
・クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ESCN−190−3
(住友化学株式会社社製、商品名) 75重量部
・熱硬化剤ジシアンジアミド
(日本カーバイド株式会社製、商品名) 4重量部
・熱硬化剤ノボラックフェノール樹脂、HP−850
(日立化成工業株式会社製、商品名) 21重量部
・イミダゾール、2−フェニルイミダゾール(四国化成工業株式会社製、商品名2PZ)
0.5重量部
溶剤
・メチルエチルケトン 75重量部
(5)次に、この絶縁性樹脂ワニスを銅箔上に塗工し、100℃−10分乾燥して膜厚100±3μmの銅箔付き絶縁性樹脂フィルムを作製した。作製した銅箔付き絶縁性樹脂フィルムの樹脂面に厚み18μmの銅箔を配し、170℃、90分、1.0MPaのプレス条件で両面銅箔付き絶縁性樹脂フィルムを作製した。
【0049】
ブランク1
比較例1において、縮合リン酸エステルを除き、その他は比較例1と同様にして低誘電率絶縁性樹脂組成物、絶縁性樹脂ワニス、銅箔付き絶縁性樹脂フィルム、両面銅箔付き絶縁性樹脂フィルムを作製し、特性試験を行った。
【0050】
特性試験
作製した両面銅箔付き絶縁性樹脂フィルムについて、以下の特性を評価した。
結果を表1に示す。
・耐熱性:50mm×50mmに切断した両面銅箔付き絶縁性樹脂フィルムを用いて,260℃及び288℃の溶融はんだにフロートした際に両面銅箔付き絶縁性樹脂フィルムがふくれるまでの時間を測定した。
・銅箔ピール強さ:JIS−C−6481に準拠して測定した。
また、両面の銅箔を除去して以下の特性を評価した。結果を表1に示す。
・ガラス転移温度:熱機械分析装置(マックサイエンス株式会社製TMA−4000)を用いて昇温速度5℃/minの条件でガラス転移温度(Tg)を測定した。結果を表1に示した。
・誘電率:RFインピーダンス/マテリアルアナライザ(アジレントテクノロジー社製、HP 4291B)を用いて1GHzでの誘電率を測定した。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
ここで、ブランク1は、実施例1〜4の低誘電率絶縁性樹脂組成物において低誘電率化剤を、比較例1の低誘電率絶縁性樹脂組成物において低誘電化成分であるリン酸エステルを除いた絶縁性樹脂組成物とほぼ同様の組成を有する。よって、低誘電率化する前の、絶縁性樹脂組成物の特性を示す(ブランク)である。
【0054】
表2から明らかなように、本発明の低誘電率化剤を含む低誘電率絶縁性樹脂組成物を用いた実施例1〜4では、誘電率が3.5以下に低誘電率化された。そして、耐熱性は60秒以上であるので、耐熱性は維持された。ピール強度は1.0kN/m以上であるので、接着性、機械的強度は維持された。ガラス転移温度は150℃以上であるので、ガラス転移温度、熱に対する寸法安定性は維持された。
【0055】
一方、本発明の低誘電率化剤を含まない低誘電率絶縁性樹脂組成物を用いた比較例1については、比較例1ではピール強度は1.3kN/mではあるが、耐熱性、ガラス転移温度、誘電率は悪影響を受けた。
【0056】
実施例5
(1) 実施例1において、低誘電率化剤1を50重量部として樹脂組成物を作製し、絶縁性樹脂ワニスを作る際のメチルエチルケトンを100重量部とした以外は、実施例1と同様にして、絶縁性樹脂ワニスを得た。
(2) 得られた絶縁性樹脂ワニスを、厚さ約0.1mmのガラス布(#2116、E−ガラス)に含浸後、150℃で3〜10分加熱乾燥して樹脂分43重量%のプリプレグを得た。これらのプリプレグ4枚を重ね、その両側に厚みが18μmの銅箔を重ね、170℃、90分、3.0MPaのプレス条件で両面銅張積層板を作製した。
【0057】
実施例6
実施例2において、低誘電率化剤2を50重量部として樹脂組成物を作製し、絶縁性樹脂ワニスを作る際のメチルエチルケトンを100重量部とした以外は、実施例2と同様にして、絶縁性樹脂ワニスを得た。
実施例5の絶縁性樹脂ワニスの代わりに、上記の絶縁性樹脂ワニスを用いた以外は、実施例5と同様にして、両面銅張積層板を作製した。
【0058】
実施例7
実施例3において、低誘電率化剤3を50重量部として樹脂組成物を作製し、絶縁性樹脂ワニスを作る際のメチルエチルケトンを100重量部とした以外は、実施例3と同様にして、絶縁性樹脂ワニスを得た。
実施例5の絶縁性樹脂ワニスの代わりに、上記の絶縁性樹脂ワニスを用いた以外は、実施例5と同様にして、両面銅張積層板を作製した。
【0059】
実施例8
実施例5の絶縁性樹脂ワニスの代わりに、実施例4の絶縁性樹脂ワニスを用いた以外は、実施例5と同様にして、両面銅張積層板を作製した。
【0060】
比較例2
実施例5の絶縁性樹脂ワニスの代わりに、比較例1の絶縁性樹脂ワニスを用いた以外は、実施例5と同様にして、両面銅張積層板を作製した。
【0061】
ブランク2
実施例5の絶縁性樹脂ワニスの代わりに、比較例2の絶縁性樹脂ワニスを用いた以外は、実施例5と同様にして、両面銅張積層板を作製した。
【0062】
得られた両面銅張積層板について、以下の特性を評価した。
結果を、表4に示す。
・耐熱性:50mm×50mmに切断した両面銅張積層板を用いて、260℃の溶融はんだにフロートした際に両面銅張積層板がふくれるまでの時間を測定した。
・銅箔ピール強さ:JIS−C−6481に準拠して測定した。
・誘電率:RFインピーダンス/マテリアルアナライザ(アジレントテクノロジー社製、HP 4291B)を用いて1GHzでの誘電率を測定した。
【0063】
【表3】

【0064】
【表4】

【0065】
ここで、ブランク2は、実施例5〜8の低誘電率絶縁性樹脂組成物において低誘電率化剤を、比較例2の低誘電率絶縁性樹脂組成物において低誘電率化成分リン酸エステルを除いた絶縁性樹脂組成物とほぼ同様の組成を有する。よって、低誘電率化する前の、絶縁性樹脂組成物の特性を示す(ブランク)である。
【0066】
表4から明らかなように、本発明の低誘電率化材料を含む低誘電率絶縁性樹脂組成物を用いた両面銅張積層板の実施例5〜8では、誘電率が3.9以下に低誘電率化された。そして、耐熱性は60秒以上であるので、耐熱性は維持された。ピール強度は1.1kN/m以上であるので、接着性、機械的強度は維持された。
【0067】
一方、本発明の低誘電率化剤を含まない絶縁性樹脂組成物を用いた両面銅張積層板の比較例2については、比較例2では、耐熱性が充分でないために、プレス成形できず、両面銅張積層板を作製することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、比誘電率のみが低減され、かつ他の特性(耐熱性(ガラス転移温度、熱に対する寸法安定性を含む等)、接着性、機械的強度(例えばピール強度))の性能が維持された低誘電率絶縁性樹脂組成物を達成したものである。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】図1は、本発明の充填多孔質シリカ、並びに未充填多孔質シリカの断面観察SEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性樹脂組成物及び低誘電率化剤を含む低誘電率絶縁性樹脂組成物であって、
該低誘電率化剤が、多孔性物質と、該多孔性物質内に埋め込まれた低誘電率化成分とで構成され、かつ該低誘電率化剤中の該低誘電率化成分の誘電率が、該絶縁性樹脂組成物の誘電率よりも小さいことを特徴とする低誘電率絶縁性樹脂組成物。
【請求項2】
該多孔性物質の表面の平均細孔径が、1〜1000nmである、請求項1記載の低誘電率絶縁性樹脂組成物。
【請求項3】
該多孔性物質の平均粒径が、0.05〜100μmである、請求項1又は2記載の低誘電率絶縁性樹脂組成物。
【請求項4】
該低誘電率化成分が、該多孔性物質内に、該多孔性物質の細孔容積に対して1以上〜100未満容積%埋め込まれている、請求項1〜3のいずれか1項記載の低誘電率絶縁性樹脂組成物。
【請求項5】
該低誘電率化成分が、20℃以上で固体である、請求項1〜4のいずれか1項記載の低誘電率絶縁性樹脂組成物。
【請求項6】
該多孔性物質の細孔容積が、吸油量に換算して10〜700ml/100gである、請求項1〜5のいずれか1項記載の低誘電率絶縁性樹脂組成物。
【請求項7】
該多孔性物質が、多孔質シリカである、請求項1〜6のいずれか1項記載の低誘電率絶縁性樹脂組成物。
【請求項8】
該低誘電率化成分が、熱硬化性である、請求項1〜7のいずれか1項記載の低誘電率絶縁性樹脂組成物。
【請求項9】
該絶縁性樹脂組成物が、熱硬化性である、請求項1〜8のいずれか1項記載の低誘電率絶縁性樹脂組成物。
【請求項10】
該低誘電率化成分が、リン酸エステル又はポリオレフィンである、請求項1〜9のいずれか1項記載の低誘電率絶縁性樹脂組成物。
【請求項11】
該絶縁性樹脂組成物が、エポキシ樹脂を含む、請求項1〜10のいずれか1項記載の低誘電率絶縁性樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項記載に記載の低誘電率絶縁性樹脂組成物と溶剤とからなる絶縁性樹脂ワニス。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか1項記載の低誘電率絶縁性樹脂組成物を、ガラスクロス、ガラス不織布及び有機織布からなる群より選ばれる1の基材に、含浸、塗工してなるプリプレグ及び積層板。
【請求項14】
請求項1〜11のいずれか1項記載の低誘電率絶縁性樹脂組成物を、プラスチックフィルム又は有機フィルム上に塗工してなる絶縁性樹脂フィルム及び積層板。
【請求項15】
請求項1〜11のいずれか1項記載の低誘電率絶縁性樹脂組成物を、銅箔上に塗工してなる銅箔付絶縁性樹脂フィルム及び積層板。
【請求項16】
請求項13記載のプリプレグを用いて絶縁層を形成することを特徴とする多層配線板。
【請求項17】
請求項14又は15記載の絶縁性樹脂フィルムを用いて絶縁層を形成することを特徴とする多層配線板。

【図1】
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【公開番号】特開2006−63297(P2006−63297A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−356945(P2004−356945)
【出願日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】