説明

内燃機関の排気浄化装置

【課題】 簡単な構成でかつ吸蔵還元型NOx触媒のS被毒を防止する。
【解決手段】 排気通路に設けられた吸蔵還元型NOx触媒と、NOx触媒の上流側に設けられたSOx吸収剤と、SOx吸収剤の上流側に設けられた還元剤供給手段と、SOx吸収剤のSトラップ率を検出するSトラップ率検出手段とを具備し、Sトラップ率が所定の値よりも小さい場合には還元剤供給手段による還元剤の供給前後におけるSOx吸収剤の温度変化量(ΔTa)がNOx触媒の温度変化量(ΔTb)よりも小さくなるように、かつ還元剤の供給後におけるSOx吸収剤の温度(Ta2)がSトラップ率向上温度(Ti)よりも高くてS成分脱離温度(Tr)よりも低くなるように、還元剤供給手段により還元剤を供給し、それにより、NOx触媒を高温にすると共に空燃比をリッチにすることによって、NOx触媒に吸蔵されたSOxを放出させるようにした内燃機関の排気浄化装置が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料消費量を低減するために空燃比をリーン状態にして運転するようにした内燃機関(リーンバーンエンジン)が実用化されている。このような内燃機関においては、排ガス内の窒素酸化物(以下、「NOx」と称する)を十分に浄化するために吸蔵還元型NOx触媒が排気通路に設けられている。
【0003】
本明細書において「吸蔵」という語は「吸収」及び「吸着」の両方の意味を含むものとして用いる。したがって、「吸蔵還元型NOx触媒」は、「NOx吸蔵剤」と「NOx吸着剤」の両方を含み、前者はNOxを硝酸塩等の形で蓄積し、後者はNO2等の形で吸着する。また、イオウ分などに関するNOx触媒からの「放出」という語についても、「吸収」に対応する「放出」の他、「吸着」に対応する「脱離」の意味も含むものとして用いる。
【0004】
また、内燃機関の燃焼室で燃焼される燃料および燃焼室で使用される潤滑油はイオウ成分(S成分)を含んでいるので、排ガス内にはイオウ酸化物(以下、「SOx」と称する)も混入している。このため、このようなSOxを予めトラップして吸収するためのSOx吸収剤すなわちSトラップ剤が、吸蔵還元型NOx触媒よりも上流の排気通路に設けられている。
【0005】
ところが、上流側のSOx吸収剤においてトラップできるSOx量には限界があるので、トラップされたSOx量が所定の限界値を越えた場合には、SOxはSOx吸収剤を通過して吸蔵還元型NOx触媒に流入し、それにより、SOxが吸蔵還元型NOx触媒に吸蔵されるようになる。なお、NOx吸蔵剤によるSOx吸蔵のメカニズムはNOxの吸蔵作用の場合と全く同じである。吸蔵還元型NOx触媒に吸蔵されたSOxはNOxのように一時的なリッチ空燃比では放出されないので、SOxが吸蔵還元型NOx触媒に徐々に蓄積すると、吸蔵還元型NOx触媒のNOxの吸蔵性能は次第に低下する(このことを以下、「SOx被毒」または「S被毒」と称する)。
【0006】
SOx吸収剤におけるトラップ可能なSOx量を維持するために、SOx吸収剤の再生が行われている。SOx吸収剤の再生制御は、空燃比をストイキまたはリッチにすると共にSOx吸収剤を所定の温度まで昇温することにより行われ、それにより、SOxがSOx吸収剤から放出してSOx吸蔵剤が再生する。ところが、このような場合には、SOx吸収剤から放出されたSOxは下流側の吸蔵還元型NOx触媒にそのまま流入するので、吸蔵還元型NOx触媒のNOxの吸蔵性能は同様に低下することになる。
【0007】
このようにSOxにより吸蔵還元型NOx触媒の吸蔵性能が低下した場合には、空燃比をストイキまたはリッチにすると共に吸蔵還元型NOx触媒を所定の温度まで昇温することにより、SOxを放出するようにしている。ところが、吸蔵還元型NOx触媒を昇温する際にはSOx吸収剤は直接的には昇温されないので、NOx触媒からSOxが放出したとしても、SOx吸収剤のトラップ可能なSOx量が所定の値を越えた場合には結局はSOxが吸蔵還元型NOx触媒に吸蔵されることになる。
【0008】
このような問題を回避するために特許文献1においては、SOx吸収剤と吸蔵還元型NOx触媒との間の排気通路から吸蔵還元型NOx触媒をバイパスするバイパス通路を設けると共に、バイパス通路の分岐部に吸蔵還元型NOx触媒とバイパス通路のいずれか一方に排気ガスを流入させる切替弁を配置するようにした内燃機関の排気浄化装置が開示されている。このような排気浄化装置においては、吸蔵還元型NOx触媒からNOxを放出すべきときは排気ガスが吸蔵還元型NOx触媒に流入する位置に切替弁を保持し、SOx吸収剤からSOxを放出すべきときには排気ガスがバイパス通路に流入する位置に切替弁を保持するようにしている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2000−145436号公報(第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示される排気浄化装置においては切替弁を回動するのに必要な所定の隙間が当然に存在しているので、SOx吸収剤からSOxを放出させる際にもSOxの一部はバイパス通路を通過することなしに吸蔵還元型NOx触媒に吸蔵されることになり、従って、吸蔵還元型NOx触媒の吸蔵性能の低下を完全に防止するのは困難である。
【0010】
また、特許文献1に開示される排気浄化装置はバイパス通路および切替弁が必要であるために、排気浄化装置の構造が複雑化する。さらに、これら部材を設けたことによって、排気浄化装置自体も大型化するので、このような排気浄化装置を自動車などに設置するためのスペースを確保するのが困難となりうる。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、簡単な構成であっても吸蔵還元型NOx触媒のS被毒を防止することが可能な内燃機関の排気浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述した目的を達成するために1番目に記載の発明によれば、内燃機関の排気通路に設けられた吸蔵還元型NOx触媒と、該NOx触媒の上流側に設けられていてS成分を吸収してトラップするSOx吸収剤と、該SOx吸収剤の上流側において還元剤を供給する還元剤供給手段と、前記SOx吸収剤のSトラップ率を検出するSトラップ率検出手段とを具備し、前記Sトラップ率検出手段により検出されたSトラップ率が所定の値よりも小さい場合には、前記還元剤供給手段による前記還元剤の供給前後における前記SOx吸収剤の温度変化量が前記還元剤の供給前後における前記NOx触媒の温度変化量よりも小さくなるように、かつ、前記還元剤の供給後における前記SOx吸収剤の温度が前記SOx吸収剤のSトラップ率を向上させられるSトラップ率向上温度よりも高くてS成分が前記SOx吸収剤から脱離するS成分脱離温度よりも低くなるように、前記還元剤供給手段により還元剤を供給し、それにより、前記NOx触媒を高温にすると共に空燃比をリッチにすることによって、前記NOx触媒に吸蔵されたSOxを放出させるようにした内燃機関の排気浄化装置が提供される。
【0013】
すなわち1番目の発明においては、還元剤、すなわち炭化水素(HC)の反応性が比較的低いので、SOx吸収剤に到達した還元剤はSOx吸収剤においてそれほど反応しない。このため、上流側のSOx吸収剤の温度はSトラップ率向上温度と該Sトラップ率向上温度よりも高いS成分脱離温度との間までしか上昇しないようになり、それにより、SOx吸収剤のトラップ効率の向上とSOx吸収剤からのS成分の脱離の抑制とを図ることができる。また、還元剤はSOx吸収剤においてそれほど反応することなしに下流側の吸蔵還元型NOx触媒まで到達して該NOx触媒を主に昇温する。これにより、吸蔵還元型NOx触媒の温度変化量がSOx吸収剤の温度変化量よりも大きい状態となり、還元剤を供給しているために空燃比はリッチ側にシフトする。従って、吸蔵還元型NOx触媒に吸蔵されたSOxを同時に放出することも可能となる。このように1番目の発明においては、下流側の吸蔵還元型NOx触媒からのSOx放出時には上流側のSOx吸収剤からSOxが放出されないので、吸蔵還元型NOx触媒がS被毒されることなしに、吸蔵還元型NOx触媒からSOxを放出することが可能となる。従って、1番目の発明においては、従来技術で使用されるバイパス通路および切替弁を備えることなしに、上流側のSOx吸収剤のS成分の脱離抑制を図ると共に下流側の吸蔵還元型NOx触媒からのS成分の放出を行うことができる。
【0014】
2番目の発明によれば、1番目の発明において、前記還元剤供給手段は重質燃料および軽質燃料を供給するようになっており、該還元剤供給手段は前記重質燃料および前記軽質燃料の供給割合を変更可能であり、前記NOx触媒からSOxを放出させる際には、前記重質燃料の供給割合を増すことによって前記SOx吸収剤の温度を前記S成分脱離温度よりも低くするようにした。
すなわち2番目の発明においては、還元剤供給手段から供給されてSOx吸収剤に到達した重質燃料は反応するのに比較的長時間を要するので、上流側のSOx吸収剤の温度をS成分脱離温度以下に抑えることが可能となる。なお、重質燃料および軽質燃料は内燃機関で使用される通常燃料とは別個に備えられていてもよく、また通常燃料から分留することにより重質燃料および軽質燃料を形成するようにしてもよい。
【0015】
3番目の発明によれば、1番目または2番目の発明において、前記還元剤供給手段は重質燃料および軽質燃料を供給するようになっており、該還元剤供給手段は前記重質燃料および前記軽質燃料の供給割合を変更可能であり、前記NOx触媒からSOxを放出させる際には、前記軽質燃料の供給割合を増すことによって前記SOx吸収剤の温度を前記Sトラップ率向上温度よりも高くするようにした。
すなわち3番目の発明においては、還元剤供給手段から供給されてSOx吸収剤に到達した軽質燃料は発熱するのに比較的短時間で済むので、上流側のSOx吸収剤の温度をSトラップ率向上温度以上に比較的容易に高めることが可能となる。
【0016】
4番目の発明によれば、3番目の発明において、前記還元剤供給手段はポスト噴射による還元剤供給と前記排気通路に設けられた還元剤噴射ノズルからの還元剤供給とを行うようになっており、前記還元剤噴射ノズルから供給される燃料がポスト噴射の燃料よりも重質である重質燃料であるようにした。
すなわち4番目の発明においては、重質燃料を還元剤噴射ノズルから供給すると共に、重質燃料よりも軽質の燃料をポスト噴射により供給することによって、重質燃料とこれより軽質の軽質燃料との供給割合を容易に変更することができる。
【0017】
5番目の発明によれば、1番目の発明において、前記還元剤供給手段は前記排気通路に設けられた還元剤噴射ノズルであり、前記NOx触媒からSOxを放出させる際には、前記還元剤噴射ノズルによる一回の噴射当たりの燃料噴射量を増大させること、および前記還元剤噴射ノズルによる噴射間隔を短くすることのうちの少なくとも一方が行われる。
すなわち5番目の発明においては、比較的簡易な構成によってNOx触媒からのSOxの放出を達成することができる。
【発明の効果】
【0018】
各発明によれば、従来技術で使用されるバイパス通路および切替弁を備えることなしに、上流側のSOx吸収剤のS成分の脱離抑制を図ると共に下流側の吸蔵還元型NOx触媒からのS成分の放出を行うことができるという共通の効果を奏しうる。
さらに、2番目の発明によれば、上流側のSOx吸収剤の温度をS成分脱離温度以下に抑えることが可能となるという効果を奏しうる。
さらに、3番目の発明によれば、上流側のSOx吸収剤の温度をSトラップ率向上温度以上に比較的容易に高めることが可能となるという効果を奏しうる。
さらに、4番目の発明によれば、重質燃料とこれより軽質の軽質燃料との供給割合を容易に変更することができるという効果を奏しうる。
さらに、5番目の発明によれば、比較的簡易な構成によってNOx触媒からのSOxの放出を達成することができるという効果を奏しうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の図面において同一の部材には同一の参照符号が付けられている。理解を容易にするために、これら図面は縮尺を適宜変更している。
図1を参照すると、機関本体1は例えば四つの気筒を具備する。各気筒は対応する吸気枝管2を介してサージタンク3に接続され、サージタンク3は吸気ダクト4を介してエアクリーナ5に接続される。吸気ダクト4内にはスロットル弁6が配置される。また、各気筒には燃焼室内に燃料を直接噴射する燃料噴射弁7が取り付けられる。一方、各気筒は共通の排気マニホルド8を介してケーシング10に連結されている。ケーシング10内においてはSOx吸収剤9と吸蔵還元型NOx触媒(以下、「NOx触媒」と称する)12とが配置されている。図示されるように、SOx吸収剤9はNOx触媒12の上流側に配置されている。
【0020】
電子制御ユニット20はディジタルコンピュータからなり、双方向性バス21によって相互に接続されたROM(リードオンリメモリ)22、RAM(ランダムアクセスメモリ)23、CPU(マイクロプロセッサ)24、常時電力が供給されているB−RAM(バックアップRAM)25、入力ポート26および出力ポート27を具備する。サージタンク3にはサージタンク3内の絶対圧に比例した出力電圧を発生する圧力センサ28が取り付けられている。SOx吸収剤9の上流には排気中のSOx量に比例した出力電圧を発生するSOxセンサ51が取り付けられており、またSOx吸収剤9とNOx触媒12の間にはSOx吸収剤9の出口における排気中のSOx量に比例した出力電圧を発生するSOxセンサ52が取り付けられている。さらに、ケーシング10の下流には排気中のNOx量に比例した出力電圧を発生するNOxセンサ53、および空燃比を検出する空燃比センサ54が設けられている。また、ケーシング10におけるSOx吸収剤9およびNOx触媒12のそれぞれの温度を検出する温度センサ55、56も設けられている。なお、圧力センサ28により検出されるサージタンク3内の絶対圧は機関負荷を表している。
【0021】
また、ケーシング10の上流側には、必要に応じて還元剤、例えば炭化水素(hydrocarbon、以下適宜「HC」と称する)を排気経路内に添加する還元剤供給ノズル60が設けられている。なお、この還元剤供給ノズル60はケーシング10と排気マニホルド8との間であればどこに配置してもよい。なお、本発明において使用される還元剤としては、排気ガス中で炭化水素や一酸化炭素等の還元成分を発生するものであれば良いが、貯蔵、補給等の際の煩雑さを避けるため内燃機関の燃料である軽油を還元剤として使用するのが好ましい。従って、特にことわりのない限りにおいては、還元剤供給ノズル60は、燃料噴射弁7のための燃料タンク(図1には示さない)に充填された燃料を還元剤として供給するものとする。
【0022】
これらセンサ28、51〜56の出力電圧はそれぞれ対応するAD変換器31を介して入力ポート26に入力される。また、入力ポート26には機関回転数Nを表す出力パルスを発生する回転数センサ32が接続される。一方、出力ポート27は対応する駆動回路33を介して各燃料噴射弁7、還元剤供給ノズル60およびスロットル弁6に接続されたステップモータ(図示しない)に接続される。
【0023】
本実施態様では、i番気筒の燃料噴射時間TAU(i)は次式に基づいて算出される。
TAU(i)=TP・(1+K(i))
ここでTPは基本燃料噴射時間、K(i)はi番気筒の補正係数をそれぞれ表している。
【0024】
基本燃料噴射時間TPは各気筒で燃焼せしめられる混合気の空燃比を理論空燃比にするのに必要な燃料噴射時間であって予め実験により求められている。この基本燃料噴射時間TPはサージタンク3内の絶対圧PMおよび機関回転数Nの関数として図2に示すマップの形で予めROM22内に記憶されている。補正係数K(i)はi番気筒で燃焼せしめられる混合気の空燃比を制御するための係数であってK(i)=0であればi番気筒で燃焼せしめられる混合気の空燃比は理論空燃比となる。これに対してK(i)<0になればi番気筒で燃焼せしめられる混合気の空燃比は理論空燃比よりも大きくなり、即ちリーンとなり、K(i)>0になればi番気筒で燃焼せしめられる混合気の空燃比は理論空燃比よりも小さくなる、即ちリッチとなる。
【0025】
本実施態様では通常運転時、全ての気筒において補正係数K(i)は−KL(KL>0)に維持されており、したがって全気筒で燃焼せしめられる混合気の空燃比はリーンに維持されている。図3は気筒から排出される排気中の代表的な成分の濃度を概略的に示している。図3からわかるように、気筒から排出される排気中の未燃HC,COの量は気筒で燃焼せしめられる混合気の空燃比がリッチになるほど増大し、気筒から排出される排気中の酸素O2の量は気筒で燃料せしめられる混合気の空燃比がリーンになるほど増大する。
【0026】
NOx触媒12は例えばアルミナを担体とし、この担体上に例えばカリウムK,ナトリウムNa,リチウムLi,セシウムCsのようなアルカリ金属、バリウムBa,カルシウムCaのようなアルカリ土類、ランタンLa,イットリウムYのような希土類から選ばれた少なくとも一つと、白金Pt、パラジウムPd、ロジウムRh、イリジウムIrのような貴金属とが担持されている。なお、さらに好ましいNOx触媒12については後述するものとする。排気通路内の或る位置よりも上流の排気通路内、燃焼室内、および吸気通路内に供給された全燃料量および全還元剤量に対する全空気量の比をその位置を流通する排気の空燃比と称すると、このNOx触媒12は流入する排気の空燃比がリーンのときにはNOxを吸収し、流入する排気中の酸素濃度が低下すると吸収したNOxを放出するNOxの吸放出作用を行う。なお、NOx触媒12上流の排気通路内に燃料或いは空気が供給されない場合には流入する排気の空燃比は気筒に供給される全燃料量に対する全空気量の比に一致する。
【0027】
上述のNOx触媒12を機関排気通路内に配置すればこのNOx触媒12は実際にNOxの吸放出作用を行うがこの吸放出作用の詳細なメカニズムについては明らかでない部分もある。しかしながらこの吸放出作用は図4(a)および図4(b)に示すようなメカニズムで行われているものと考えられる。次にこのメカニズムについて担体上に白金PtおよびバリウムBaを担持させた場合を例にとって説明するが他の貴金属、アルカリ金属、アルカリ土類、希土類を用いても同様なメカニズムとなる。
【0028】
すなわち、流入する排気がかなりリーンになると流入する排気中の酸素濃度が大巾に増大し、図4(a)に示されるようにこれら酸素O2がO2-またはO2-の形で白金Ptの表面に付着する。一方、流入する排気中のNOは白金Ptの表面上でO2-またはO2-と反応し、NO2となる(2NO+O2→2NO2)。次いで生成されたNO2の一部は白金Pt上でさらにに酸化されつつ吸収剤内に吸収されて酸化バリウムBaOと結合しながら、図4(a)に示されるように硝酸イオンNO3-の形で吸収剤内に拡散する。このようにしてNOxがNOx触媒12内に吸収される。
【0029】
流入する排気中の酸素濃度が高い限り白金Ptの表面でNO2が生成され、吸収剤のNOx吸収能力が飽和しない限りNO2が吸収剤内に吸収されて硝酸イオンNO3-が生成される。これに対して流入する排気中の酸素濃度が低下してNO2の生成量が低下すると反応が逆方向(NO3-→NO2)に進み、斯くして吸収剤内の硝酸イオンNO3-がNO2の形で吸収剤から放出される。すなわち、流入する排気中の酸素濃度が低下するとNOx触媒12からNOxが放出されることになる。流入する排気のリーンの度合が低くなれば流入する排気中の酸素濃度が低下し、したがって流入する排気のリーンの度合を低くすればNOx触媒12からNOxが放出されることになる。
【0030】
一方、このときNOx触媒12に流入する排気の空燃比をリッチにすると図3に示されるようにこの排気中には多量のHC,COが含まれ、これらHC,COは白金Pt上の酸素O2-またはO2-と反応して酸化せしめられる。また、流入する排気の空燃比をリッチにすると流入する排気中の酸素濃度が極度に低下するために吸収剤からNO2が放出され、このNO2は図4(b)に示されるようにHC,COと反応して還元せしめられる。このようにして白金Ptの表面上にNO2が存在しなくなると吸収剤から次から次へとNO2が放出される。したがって流入する排気の空燃比をリッチにすると短時間のうちにNOx触媒12からNOxが放出されることになる。
【0031】
上述したように通常運転時には全気筒で燃焼せしめられる混合気の空燃比はリーンに維持されている。したがって、通常運転時に各気筒から排出される排気中のNOxはNOx触媒12に導かれてNOx触媒12に吸収される。ところが、NOx触媒12のNOx吸収能力には限界があるのでNOx触媒12のNOx吸収能力が飽和する前にNOx触媒12からNOxを放出させる必要がある。そこで本実施態様では、NOx触媒12の吸収NOx量を求め、この吸収NOx量が予め定められた設定量よりも多くなったときには全気筒で燃焼せしめられる混合気の空燃比を一時的にリッチにしてNOx触媒12からNOxを放出させると共に還元するようにしている。
【0032】
すなわち、NOx触媒12からNOxを放出させるべきときには全気筒の補正係数K(i)がKN(>0)に一時的に切り換えられる。ところが、燃料および機関の潤滑油内にはイオウ分が含まれているのでNOx触媒12に流入する排気中にはイオウ分例えばSOxが含まれており、NOx触媒12にはNOxばかりでなくSOxも吸収される。このNOx触媒12へのSOxの吸収メカニズムはNOxの吸収メカニズムと同じであると考えられる。
【0033】
すなわち、NOxの吸収メカニズムを説明したときと同様に担体上に白金PtおよびバリウムBaを担持させた場合を例にとって説明すると、前述したように流入する排気の空燃比がリーンのときには酸素O2がO2-またはO2-の形で白金Ptの表面に付着しており、流入する排気中のSOx例えばSO2は白金Ptの表面でO2-またはO2-と反応してSO3となる。次いで生成されたSO3は白金Pt上で更に酸化されつつ吸収剤内に吸収されて酸化バリウムBaOと結合しながら、硫酸イオンSO42-の形で吸収剤内に拡散する。次いでこの硫酸イオンSO42-はバリウムイオンBa2+と結合して硫酸塩BaSO4を生成する。
【0034】
しかしながらこの硫酸塩BaSO4は分解しずらく、流入する排気の空燃比を単にリッチにしても硫酸塩BaSO4は分解されずにそのまま残る。したがってNOx触媒12内には時間が経過するにつれて硫酸塩BaSO4が増大することになり、斯くして時間が経過するにつれてNOx触媒12が吸収しうるNOx量が低下することになる。
【0035】
そこで本実施態様では、SOxがNOx触媒12に流入しないようにNOx触媒12上流の排気通路内にSOx吸収剤9を配置している。このSOx吸収剤9は流入する排気の空燃比がリーンのときにSOxを吸収し、SOx吸収剤9の温度がSOx放出温度よりも高いときに流入する排気中の酸素濃度が低下すると吸収しているSOxを放出する。
【0036】
上述したように通常運転時に全気筒で燃焼せしめられる混合気の空燃比はリーンであるので気筒から排出されるSOxはSOx吸収剤9に吸収され、NOx触媒12にはNOxのみが吸収されることになる。ところがSOx吸収剤9のSOx吸収能力にも限界があり、SOx吸収剤9のSOx吸収能力が飽和する前にSOx吸収剤9からSOxを放出させる必要がある。そこで本実施態様では、SOx吸収剤9のSOx吸収能力、すなわちSトラップ率を求め、このSトラップ率が予め定められた値よりも多くなったときにSOx吸収剤9の温度を一時的にSOx放出温度よりも高くすると共にSOx吸収剤9に流入する排気の空燃比を一時的にリッチにしてSOx吸収剤9からSOxを放出させるようにしている。なお、SOx吸収剤9からSOxを放出させるべきときにSOx吸収剤9に流入する排気の空燃比を理論空燃比にしてもよいが、この場合単位時間当たりにSOx吸収剤9から放出されるSOx量が少なくなる。
【0037】
ところで、SOx吸収剤9に流入する排気中に多量の酸素と多量のHCとが同時に含まれていると、これら酸素およびHCがSOx吸収剤9において反応するためにこの反応熱でもってSOx吸収剤9を加熱することができる。この場合、SOx吸収剤9に流入する排気の空燃比が理論空燃比よりもわずかばかりリッチであるとHCをSOx吸収剤9の加熱作用およびSOx放出作用のために有効に利用することができる。一方、図3に示されるように気筒で燃焼せしめられる混合気の空燃比をリッチにすれば排気中に多量のHCが含まれ、リーンにすれば排気中に多量の酸素が含まれる。
【0038】
SOx吸収剤9に流入する排気の空燃比をリッチにしたときにSOx吸収剤9からSOxが容易に放出されるようにするためには吸収したSOxが硫酸イオンSO42-の形で吸収剤内に存在するか、或いは硫酸塩BaSO4が生成されたとしても硫酸塩BaSO4が安定しない状態で吸収剤内に存在するようにすることが必要となる。これを可能にするSOx吸収剤9としてはアルミナからなる担体上に銅Cu、鉄Fe、マンガンMn、ニッケルNiのような遷移金属、ナトリウムNa、チタンTi、およびリチウムLiから選ばれた少なくとも一つを担持した吸収剤を用いることができる。或いは、SOx吸収剤9にSOxを確実に吸収させるためにSOx吸収剤9のアルカリ度をNOx触媒12よりも高くしてSOxをSOx吸収剤9内に比較的安定な硫酸塩の形で保持する方がよいという考え方もある。これを可能にするSOx吸収剤としては例えばアルミナからなる担体上に例えばカリウムK,ナトリウムNa,リチウムLi,セシウムCsのようなアルカリ金属、カルシウムCaのようなアルカリ土類から選ばれた少なくとも一つと、白金Pt、パラジウムPd、ロジウムRh、イリジウムIrのような貴金属とを担持した吸収剤を用いることができる。
【0039】
図5は、本発明に基づく排気浄化装置の動作プログラムを示すフローチャートである。この動作プログラム100は上記のことに基づいているものであり、以下、動作プログラム100を参照しつつ本発明の排気浄化装置の動作について説明する。なお、この動作プログラム100は電子制御ユニット20のROM22またはRAM23に予め組み込まれているものとする。
【0040】
ステップ101においては、SOx吸収剤9のSOx吸収能力、つまりSトラップ率Rsが所定の値Rs0よりも大きいか否かが判定される。図6(a)は、SOx吸収剤9におけるイオウ成分のトラップ量と時間との関係を示す図である。図6(a)においては縦軸はSOx吸収剤9に吸収される排ガス中のイオウ成分の量を示しており、横軸は時間を示している。図6(a)においては、例えば時刻tzにおける実線X0よりも上方の部分SaがSOx吸収剤9に吸収されるイオウ成分の量であり、実線X0よりも下方の部分SbがSOx吸収剤9よりも下流に排出されるイオウ成分の量である。本発明におけるSトラップ率Rsは、SaとSbとを用いて、例えばRs=Sa/(Sa+Sb)として表される。なお、図6(a)における破線Z0はSOx吸収剤9に流入するイオウ成分の全量を示しており、イオウ成分の全量Z0とSa、Sbとの間にはZ0=Sa+Sbの関係がある。図6(a)から分かるように、SOx吸収剤9によりトラップされるイオウ成分の量Saは時間の経過と共に小さくなり、最終的には零に近付くようになる。このため、Sトラップ率Rsも最終的には零に近付く。
【0041】
SOxセンサ51、52から得られるSOx量は、それぞれSa+Sb(=Z0)、Saを示しているので、ステップ101においては、これらSOx量からSトラップ率Rsを算出し、このSトラップ率Rsの所定の値Rs0に対する比較を行う。なお、所定の値のSトラップ率Rs0は実験などにより予め定められた値であり、機関回転数Nと絶対圧PM(機関負荷)との関数としてマップの形で予め、ROM22またはRAM23に予め組み込まれているものとする。そして、Sトラップ率Rsが所定の値よりも小さい場合にはステップ102に進む。一方、Sトラップ率Rsが所定の値よりも小さくない場合には、後述する工程を行う必要がないので処理を終了する。
【0042】
なお、ステップ101においてはSトラップ率Rsを算出し、これを所定の値Rs0と比較しているが、必ずしもSトラップ率Rsを算出する必要はなく、後述する他の判定手法を用いることによりSOx吸収剤9のSトラップ率が低下したか否かを判定するようにしてもよい。
【0043】
例えばNOx触媒12の下流に設けられたNOxセンサ53からのNOx量を用いてNOx触媒12におけるNOx浄化率を求めることもできる。図7はNOx触媒12におけるNOx浄化率と、NOx触媒12に吸収されるSOx量との関係を示す図である。NOx触媒12はSOx吸収剤9よりも下流に配置されているので、SOx吸収剤9のSトラップ率Rsが低下した場合には、SOx吸収剤9でトラップできなかったSOxがNOx触媒12に吸収されることになる。NOx触媒12におけるSOx蓄積量が増加すると、NOx触媒12のNOx浄化率は当然に低下するようになる。従って、下流側のNOx触媒12のNOx浄化率が或る所定の値、例えば図示されるZ(NOx)よりも低下したか否かを判定することにより、上流側のSOx吸収剤9のSトラップ率Rsが低下したか否かを間接的に判定することができる。
【0044】
また、NOx触媒12の下流に設けられた空燃比センサ54からの空燃比を用いてSOx吸収剤9のSトラップ率Rsの判定を間接的に行うようにしてもよい。この場合に、ケーシング10の上流における排ガスの空燃比がリーンからリッチにシフトするときには、NOx触媒12の下流に設けられた空燃比センサ54により検出される空燃比もリーンからリッチにシフトする。これによりNOx触媒12に吸収されていたNOxが還元浄化される。ところが、このときには排ガス中のHCがはじめに消費されるので、NOx触媒12の下流における排ガスの空燃比はリーンからストイキになったと判定される。そして、NOx触媒12に吸収されていたNOxが全て還元浄化されると、空燃比はストイキからリッチになる。つまり、NOx触媒12の下流における空燃比がストイキ状態にある時間が長いほど、NOx触媒12のNOx浄化率は低いことになる。それゆえ、ケーシング10の上流における排ガスの空燃比がリーンからリッチにシフトするときにケーシング10下流の排ガスの空燃比についてのストイキ状態の時間が所定の時間よりも長いか否かを判定することにより、上流側のSOx吸収剤9のSトラップ率Rsが低下したか否かを間接的に判定することができる。当然のことながら、さらに別の手法、例えばSOx吸収剤9に吸収された吸収SOx量を検出することにより、Sトラップ率Rsの低下を判定するようにしてもよい。
【0045】
次いで、動作プログラム100のステップ102において、温度センサ51によりSOx吸収剤9の温度Ta1を取得し、同様にSOxセンサ52によりNOx触媒12の温度Tb1を取得する。
【0046】
図8は、SOx吸収剤およびNOx触媒の温度と時間との関係を示す図である。図8においては、縦軸はSOx吸収剤9およびNOx触媒12の温度を示しており、横軸は時間tを示している。また、図8に示される実線X1はSOx吸収剤9の温度変化を示しており、実線X2はNOx触媒12の温度変化を示している。さらに、図8に示される破線TiはSトラップ率を向上させられるSトラップ率向上温度を示している。また、破線TrはSトラップ率向上温度よりも高い温度であって、S成分がSOx吸収剤から脱離するS成分脱離温度を示している。これらSトラップ率向上温度TiおよびS成分脱離温度TrはSOx吸収剤9の種類に応じて定まる値であり、本実施形態においては、Sトラップ率向上温度Tiは約350℃であり、好ましくは400℃であり、また、S成分脱離温度Trは約600℃である。
【0047】
図8においては、ステップ102におけるSOx吸収剤9の温度Ta1およおびNOx触媒12の温度Tb1はケーシング10に流入する排ガスの温度T0に概ね等しくなっている。従って、温度Ta1と温度Tb2とが互いに等しい場合もありうる。
【0048】
次いで、ステップ103に進み、図1に示される還元剤供給ノズル60、または後述するポスト噴射などを用いることによりHCを排気管11に供給する。HCがSOx吸収剤9に到達することによってSOx吸収剤9の温度は上昇するようになる。次いで、ステップ104に進み、還元剤供給後のSOx吸収剤9の温度Ta2およびNOx触媒12の温度Tb2とをそれぞれ取得する。
【0049】
次いで、ステップ105においてSOx吸収剤9の温度Ta2がSトラップ率向上温度Ti以上であるか否かを判定し、SOx吸収剤9の温度Ta2がSトラップ率向上温度Ti以上である場合にはステップ106に進む。ステップ106においてはSOx吸収剤9の温度Ta2がS成分脱離温度Tr以下であるか否かを判定し、SOx吸収剤9の温度Ta2がS成分脱離温度Tr以下である場合にはステップ107に進む。一方、ステップ105においてSOx吸収剤9の温度Ta2がSトラップ率向上温度Ti以上でない場合にはステップ121に進んで、SOx吸収剤9に対して後述する昇温制御が行われる。また、ステップ106においてSOx吸収剤9の温度Ta2がS成分脱離温度Tr以下でない場合にはステップ122に進んで、SOx吸収剤9に対して後述する降温制御が行われる。
【0050】
図9(a)から図9(c)は、還元剤供給ノズル60による還元剤供給の状態を示す図である。これら図面を参照しつつ、本発明においてSOx吸収剤9の温度を上昇させる昇温制御およびSOx吸収剤9の温度を下降させる降温制御について説明する。図9(a)から図9(c)においては内燃機関1の燃料である軽油が充填された燃料タンク70が示されている。これら図面には示さないものの、燃料タンク70は図1に示される各気筒の燃料噴射弁7に接続されており、燃料タンク70内の燃料が燃料噴射弁7を通じて各気筒に噴射されているものとする。
【0051】
図9(a)においては、燃料タンク70は分留部71に接続されている。分留部71は燃料タンク70内の燃料の一部を所定の温度、例えば300℃程度にまで加熱できるようになっている。分留部71は内燃機関1または排気マニホルド8、排気管11などに隣接または接触して設置されているのが好ましく、それにより、排ガスの熱を利用して燃料の分留を促進することが可能になる。
【0052】
燃料の一部を前述した所定の温度まで加熱することによって、燃料のうちの比較的軽質な軽質燃料が蒸発する。蒸発した燃料を回収して冷却することにより、軽質燃料を液化して軽質燃料タンク62に供給する。一方、燃料のうちの比較的重質な重質燃料は分留部71において蒸発しないので、そのまま重質燃料タンク61に供給される。
【0053】
図示されるように、重質燃料タンク61および軽質燃料タンク62のそれぞれから延びる供給路は還元剤供給ノズル60に接続された調節弁63に接続されている。調節弁63によって重質燃料タンク61からの重質燃料および軽質燃料タンク62からの軽質燃料の供給割合を適宜変更することが可能である。
【0054】
本発明において、SOx吸収剤9に対して降温制御を行う際には、比較的反応性の低い重質燃料の供給割合を高めるようにしている。これにより、還元剤供給ノズル60から供給される燃料が、上流側のSOx吸収剤9においてそれほど反応しなくなり、燃料の大部分は下流側のNOx触媒12に到達するようになる。重質燃料よりも供給割合の少ない軽質燃料によってSOx吸収剤9の温度はSトラップ率向上温度Tiを越える程度にまで上昇するものの、大部分の燃料がSOx吸収剤9よりも下流に流れるのでSOx吸収剤9の温度はS成分脱離温度Trよりも低く抑えられる。
【0055】
一方、NOx触媒12に到達した燃料はNOx触媒12上で反応し、NOx触媒12に吸収されたSOxが脱離する程度にまでNOx触媒12を昇温する。このときには、還元剤供給ノズル60から燃料が供給されているために排ガスの空燃比はリッチ側にシフトしており、NOx触媒12からSOxが脱離するようになる。
【0056】
また、SOx吸収剤9に対して昇温制御を行う際には、調節弁63によって比較的反応性の高い軽質燃料の供給割合を高めるようにする。この場合には、反応性の高い軽質燃料が上流側のSOx吸収剤9において反応し、それにより、SOx吸収剤9の温度が上昇する。これにより、SOxが硫酸塩の形で保持され、従って、SOx吸収剤9のSトラップ率をさらに向上させられる。
【0057】
図9(b)には還元剤供給ノズルによる還元剤供給の状態を示す他の図が示されている。図9(b)においては分留部71は示されておらず、軽質燃料タンク62の代わりに燃料タンク70が調節弁63に接続されている。つまり、図9(b)においては燃料タンク70の燃料を比較的反応性の高い軽質燃料として使用している。さらに、図9(b)に示される場合においては、重質燃料タンク61内の重質燃料が燃料タンク70の燃料とは別に予め準備されている。
【0058】
さらに、図9(c)には還元剤供給ノズルによる還元剤供給の状態を示すさらに他の図が示されている。図9(c)においても分留部71は示されておらず、重質燃料タンク61内の重質燃料と軽質燃料タンク62内の軽質燃料とが燃料タンク70とは別個に予め別々に準備されている。詳細には説明しないが、図9(b)および図9(c)に示される場合においても、SOx吸収剤9に対して降温制御を行う場合には重質燃料の供給割合を高くし、またSOx吸収剤9に対して昇温制御を行う場合には軽質燃料の供給割合を高くすることが行われる。
【0059】
また、図9(c)の左方に概略的に示されるように、燃料タンク70からの燃料を燃料噴射弁7を通じて排気管11に供給するようにしてもよい。この場合には、軽質燃料タンク62から軽質燃料を供給する代わりに、燃料噴射弁7の噴射状態を変更することによって比較的軽質な燃料タンク70内の燃料を軽質燃料として供給する。従って、この場合にも、燃料噴射弁7および調節弁63を調整することにより、重質燃料と軽質燃料との供給割合を変更することが可能となる。
【0060】
なお、図9(c)に示されるように燃料噴射弁7から燃料を供給するためにポスト噴射を採用できる。図10は、噴射時期を説明するための図である。図10の(0)は通常の燃料噴射制御を示しており、メイン噴射Qmを圧縮TDC(上死点)付近で行った後で、ポスト噴射Qpを行っている。ポスト噴射Qpにより噴射された燃料は比較的軽質であるので、この燃料はSOx吸収剤9上で反応し、SOx吸収剤9が昇温される。
【0061】
ところで、SOx吸収剤9の温度をさらに上昇させることを望む場合には、図10の(1)に示されるように、ポスト噴射Qpをメイン噴射Qm側、つまり進角側にシフトさせる。この場合には、ポスト噴射Qpにより噴射された燃料が霧化する時間が図10の(0)の場合よりも長く確保され、燃料は比較的反応しやすい状態でSOx吸収剤9に到達する。従って、ポスト噴射Qpにより噴射された燃料はSOx吸収剤9上で反応し、それにより、SOx吸収剤9の温度を上昇させられる。
【0062】
一方、SOx吸収剤9の温度を下降させることを望む場合には、図10の(2)に示されるように、ポスト噴射Qpをメイン噴射Qm側とは反対側、つまり遅角側にシフトさせる。この場合には、霧化時間が十分に確保されないので、燃料は比較的反応し難い状態でSOx吸収剤9に到達する。従って、ポスト噴射Qpにより噴射された燃料はSOx吸収剤9上でそれほど反応することなしに、下流側のNOx触媒12に流入する。それゆえ、このような場合にはSOx吸収剤9の温度を比較的低く抑えることが可能となる。
【0063】
さらに、燃料噴射弁7から燃料を供給する際には他の方式を採用できる。図11(a)および図11(b)はそれぞれ従来技術および本発明におけるHC量および空燃比のタイムチャートである。図11(a)に示されるようにHCの供給をパルス状に行うと、排ガスの空燃比のリーンからリッチへの変化もパルス状になる。図11(b)においては図11(a)の場合とほぼ同様の噴射間隔でHC量を増大させている。図示されるように、図11(b)の場合のHC供給時間tbは図11(a)の場合のHC供給時間taよりも短い。しかしながら、図11(b)の場合にはHC供給量が図11(a)の場合よりも多いので、空燃比もその分だけリッチ側にさらにシフトする。このように通常の場合よりも多量の燃料を噴射した場合には、排気通路の酸素量が低下する。従って、このときに噴射した燃料がSOx吸収剤9に到達したときには、燃料が反応するのに必要な酸素が不足することになり、その結果、燃料はSOx吸収剤9においてそれほど反応することなしにNOx触媒12に到達し、NOx触媒12を昇温する。それゆえ、このような場合にもSOx吸収剤9の温度を比較的低く抑えることが可能となる。
【0064】
同様に、図12(a)および図12(b)はそれぞれ従来技術および本発明におけるHC量および空燃比の他のタイムチャートであり、図11(a)および図11(b)とほぼ同様の図である。これら図面に示されるように、一回の噴射におけるHCの供給量は、図12(a)の場合および図12(b)の場合においてほぼ同一である。しかしながら、図12(b)に示される噴射間隔tyは図12(a)の場合の噴射間隔txよりも短くなっている。従って、このような場合にも噴射された燃料が反応するのに必要とされる酸素が不足することになり、それゆえ、前述したのと同様の理由によりSOx吸収剤9の温度を比較的低く抑えることが可能となる。
【0065】
さらに、SOx吸収剤9の昇温制御および降温制御には他の方式を採用できる。図13(a)および図13(b)は従来技術および本発明における還元剤供給ノズル60の噴霧状態を示す図である。SOx吸収剤9の温度を上昇させることを望む場合には、図13(b)に示されるように、還元剤供給ノズル60から噴射される燃料の噴霧状態を図13(a)の場合よりも低下させる。これにより、燃料の分散度合いが低下し、噴射される燃料の粒径は大きくなる。このような場合には、燃料がSOx吸収剤9に到達するときには燃料が霧化しきれておらず、燃料はSOx吸収剤9においてそれほど反応することなしに、NOx触媒12に到達する。そして、燃料はNOx触媒12に到達するまでに霧化できるので、燃料は下流側のNOx触媒12上で反応し、NOx触媒12を昇温する。つまり、このような場合においても上流側のSOx吸収剤9の温度を比較的低く抑えることが可能となる。
【0066】
燃料の噴射状態を低下させる方式としては、還元剤供給ノズル60の噴射時圧力を通常の場合よりも低下させることが挙げられる。また、還元剤供給ノズル60が燃料を噴射するための噴射口の面積を変更することのできる噴射口可変ノズルを採用してもよい。このような場合には、各噴射口の面積を大きくすることにより、噴霧状態の低下を図ることが可能となる。また、噴射口の総開口面積を変更することなしに、噴射口の数を低減することにより噴霧状態を低下させてもよい。
【0067】
このこととは反対に、SOx吸収剤9の温度を上昇させることを望む場合には、図13(a)に示される通常時の場合よりも燃料の噴霧状態をより均一かつ細かく分散させればよい。これにより、燃料は主にSOx吸収剤9において反応し、それにより、SOx吸収剤9の温度が上昇する。具体的には、噴射時圧力の上昇、各噴射口の面積を小さくすること、および噴射口の総開口面積を変更することなしに噴射口の数を増大させることを行えばよい。
【0068】
本発明においては、このような昇温および降温の方式を単独または適宜組み合わせて使用することにより、ステップ121における昇温制御およびステップ122における降温制御を行うものとする。当然のことながら、他の方式によりSOx吸収剤9の昇温および降温を行うようにしてもよい。
【0069】
再び図5を参照すると、ステップ121における昇温制御およびステップ122における降温制御が行われた後は、ステップ104に戻る。従って、SOx吸収剤9の温度Ta2がSトラップ率向上温度Ti以上でかつS成分脱離温度Tr以下となるまで、処理が繰り返されるものとする。
【0070】
SOx吸収剤9の温度Ta2がSトラップ率向上温度Ti以上になると、SOx吸収剤9の表面における硫酸イオンSO42-または比較的不安定な硫酸塩BaSO4が、比較的安定な硫酸塩BaSO4になる。これにより、SOxはSOx吸収剤9に確実に吸収されるようになる。その結果、SOx吸収剤9の表面はSOxを再び吸収しやすい状態となって、Sトラップ率が向上する。
【0071】
図6(b)は、SOx吸収剤9におけるイオウ成分のトラップ量と時間との関係を示す他の図である。SOx吸収剤9の温度Ta2がSトラップ率向上温度Ti以上に昇温されて硫酸塩BaSO4が安定して保持されると、トラップ可能なイオウ量は当初の状態X0からX0’までシフトするようになる。つまり、時刻tzにおけるSトラップ率はRs=Sa/(Sa+Sb)(図6(a))からRs’=Sa’/(Sa’+Sb’)まで上昇するようになる。
【0072】
次いで、ステップ107に進み、SOx吸収剤9の温度変化量ΔTa(=Ta2−Ta1)およびNOx触媒12の温度変化量ΔTb(=Tb2−Tb1)が算出される。次いで、ステップ108においては、NOx触媒12の温度変化量ΔTbがSOx吸収剤9の温度変化量ΔTaよりも大きいか否かが判定される。ステップ108においてNOx触媒12の温度変化量ΔTbがSOx吸収剤9の温度変化量ΔTaよりも大きくない場合には、ステップ122に進んでSOx吸収剤9の降温制御を行い、温度変化量ΔTbが温度変化量ΔTaよりも大きくなるまで、前述した処理を再び繰り返す。
【0073】
一方、ステップ108においてNOx触媒12の温度変化量ΔTbがSOx吸収剤9の温度変化量ΔTaよりも大きいと判定された場合にはステップ109に進む。ステップ109においては、NOx触媒12の温度変化量ΔTbがSOx吸収剤9の温度変化量ΔTaよりも大きいことが成立してからの経過時間teが取得される。次いで、ステップ110に進み、経過時間teが所定の時間t0以上であるか否かが判定される。そして、経過時間teが所定の時間t0以上である場合にはステップ111に進んでHCの供給を停止し、処理を終了する。一方、経過時間teが所定の時間t0以上でない場合には、ステップ109に進んで処理を繰り返す。
【0074】
上述した実施形態においてはNOx触媒12の温度Tb2については言及していないが、NOx触媒12からSOxを脱離させるためには、還元剤供給後の温度Tb2もNOx触媒12からS成分を脱離させられるS成分脱離温度Tzを越えていることが当然に必要とされる。NOx触媒12の種類に応じて定まる温度であるS成分脱離温度Tzは、SOx吸収剤9のS成分脱離温度Trよりも低いことが望ましい。このようなNOx触媒12を使用しているときに、SOx吸収剤9の温度がSトラップ率向上温度TiとS成分脱離温度Trとの間に在ってなおかつSOx吸収剤9の温度変化量ΔTaがNOx触媒12の温度変化量ΔTbよりも小さくなることを想定する。このような場合には、NOx触媒12の温度Tb2がS成分脱離温度Tzを越えている可能性が高くなり、従って、SOxをNOx触媒12から放出するのが容易となる。SOx吸収剤9のS成分脱離温度TrをNOx触媒12のS成分脱離温度Tzよりも高くするためには、SOx吸収剤9のアルカリ度をNOx触媒12のアルカリ度よりも高くするのが好ましい。SOx吸収剤9およびNOx触媒12の組合せとしては、例えば担体がアルミナAl23でかつカリウムK等が吸蔵剤として担体に担持されているSOx吸収剤9、および担体が二酸化チタンTiO2でかつバリウムBa、リチウムLi等が吸蔵剤として担体に担持されているNOx触媒12が挙げられる。当然のことながら、他の材料からなる組合せのSOx吸収剤9およびNOx触媒12を使用するようにしてもよい。
【0075】
このようにして、本発明においては、反応性が比較的低い還元剤を供給しているために、該還元剤は上流側のSOx吸収剤9ではそれほど反応することなしに、下流側のNOx触媒12において主に反応するようになる。従って、上流側のSOx吸収剤9の温度は比較的低く、つまりSトラップ率向上温度TiとS成分脱離温度Trとの間の温度に維持されるようになる。これにより、SOxがSOx吸収剤9内に比較的安定な硫酸塩の形で保持され、前述したようにSトラップ率が向上するようになる。
【0076】
一方、下流側のNOx触媒12においては還元剤が反応することなしに温度が上昇し、また還元剤が供給されたために空燃比がリッチ側にシフトしていることから、SOxがNOx触媒から放出される。つまり、本発明においては、下流側のNOx触媒12からのSOx放出時には上流側のSOx吸収剤9からSOxが放出されないので、NOx触媒12がS被毒されることなしに、NOx触媒12からSOxを放出することが可能となる。
【0077】
ところで、前述したように従来技術においては、上流側のSOx吸収剤9のS成分の脱離抑制と下流側のNOx触媒12からのS成分の放出とを行うために、NOx触媒をバイパスするバイパス通路とバイパス通路の分岐部にNOx触媒とバイパス通路のいずれか一方に排気ガスを流入させる切替弁とを必要としていた。これに対し、本発明においては、上記のような構成にしたために、バイパス通路および切替弁を必要とすることがなく、比較的簡易な構成により上流側のSOx吸収剤9のS成分の脱離抑制と下流側のNOx触媒12からのS成分の放出とを行うことができる。その結果、本発明の排気浄化装置はスペースを確保するのが困難な自動車などに容易に設置することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】内燃機関の全体図である。
【図2】基本燃料噴射時間TPのマップを示す図である。
【図3】機関から排出される排気中の未燃HC、COおよび酸素の濃度を概略的に示す線図である。
【図4】NOxの吸放出作用を説明するための図である。
【図5】本発明に基づく排気浄化装置の動作プログラムを示すフローチャートである。
【図6】(a)SOx吸収剤9におけるイオウ成分のトラップ量と時間との関係を示す図である。(b)SOx吸収剤9におけるイオウ成分のトラップ量と時間との関係を示す他の図である。
【図7】NOx触媒におけるNOx浄化率と、NOx触媒に吸収されるSOx量との関係を示す図である。
【図8】SOx吸収剤およびNOx触媒の温度と時間との関係を示す図である。
【図9】(a)還元剤供給ノズルによるHC供給の状態を示す図である。(b)還元剤供給ノズルによるHC供給の状態を示す他の図である。(c)還元剤供給ノズルによるHC供給の状態を示すさらに他の図である。
【図10】噴射時期を説明するための図である。
【図11】(a)従来技術におけるHC量および空燃比のタイムチャートである。(b)本発明におけるHC量および空燃比のタイムチャートである。
【図12】(a)従来技術におけるHC量および空燃比の他のタイムチャートである。(b)本発明におけるHC量および空燃比の他のタイムチャートである。
【図13】(a)従来技術における還元剤供給ノズルの噴霧状態を示す図である。(b)本発明における還元剤供給ノズルの噴霧状態を示す図である。
【符号の説明】
【0079】
1 内燃機関
7 燃料噴射弁
9 SOx吸収剤(Sトラップ剤)
10 ケーシング
11 排気管
12 吸蔵還元型NOx触媒
20 電子制御ユニット
55、56 温度センサ
60 還元剤供給ノズル(還元剤供給手段)
Ta1、Ta2 SOx吸収剤の温度
Tb1、Tb2 NOx触媒の温度
Ti Sトラップ率向上温度
Tr S成分脱離温度
ΔTa SOx吸収剤の温度変化量
ΔTb NOx触媒の温度変化量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられた吸蔵還元型NOx触媒と、
該NOx触媒の上流側に設けられていてS成分を吸収してトラップするSOx吸収剤と、
該SOx吸収剤の上流側において還元剤を供給する還元剤供給手段と、
前記SOx吸収剤のSトラップ率を検出するSトラップ率検出手段とを具備し、
前記Sトラップ率検出手段により検出されたSトラップ率が所定の値よりも小さい場合には、前記還元剤供給手段による前記還元剤の供給前後における前記SOx吸収剤の温度変化量が前記還元剤の供給前後における前記NOx触媒の温度変化量よりも小さくなるように、かつ、前記還元剤の供給後における前記SOx吸収剤の温度が前記SOx吸収剤のSトラップ率を向上させられるSトラップ率向上温度よりも高くてS成分が前記SOx吸収剤から脱離するS成分脱離温度よりも低くなるように、前記還元剤供給手段により還元剤を供給し、それにより、前記NOx触媒を高温にすると共に空燃比をリッチにすることによって、前記NOx触媒に吸蔵されたSOxを放出させるようにした内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】
前記還元剤供給手段は重質燃料および軽質燃料を供給するようになっており、該還元剤供給手段は前記重質燃料および前記軽質燃料の供給割合を変更可能であり、
前記NOx触媒からSOxを放出させる際には、前記重質燃料の供給割合を増すことによって前記SOx吸収剤の温度を前記S成分脱離温度よりも低くするようにした請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項3】
前記還元剤供給手段は重質燃料および軽質燃料を供給するようになっており、該還元剤供給手段は前記重質燃料および前記軽質燃料の供給割合を変更可能であり、
前記NOx触媒からSOxを放出させる際には、前記軽質燃料の供給割合を増すことによって前記SOx吸収剤の温度を前記Sトラップ率向上温度よりも高くするようにした請求項1または2に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項4】
前記還元剤供給手段はポスト噴射による還元剤供給と前記排気通路に設けられた還元剤噴射ノズルからの還元剤供給とを行うようになっており、前記還元剤噴射ノズルから供給される燃料がポスト噴射の燃料よりも重質である重質燃料であるようにした請求項3に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項5】
前記還元剤供給手段は前記排気通路に設けられた還元剤噴射ノズルであり、前記NOx触媒からSOxを放出させる際には、前記還元剤噴射ノズルによる一回の噴射当たりの燃料噴射量を増大させること、および前記還元剤噴射ノズルによる噴射間隔を短くすることのうちの少なくとも一方が行われる請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−144624(P2006−144624A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−334366(P2004−334366)
【出願日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】