説明

分子構造複合同定装置

【課題】
非破壊検査による検査・試験パスの短縮を図り例えば薬剤開発期間の短縮、しいては製造・品質の安定化を図った分子構造複合同定装置を提供することにある。
【解決手段】
本発明は、被検試料載置板16に載置された同じ被検試料17に対して0.5mm以下の直径に制限したX線ビームと赤外線・可視光・紫外線の何れか一つあるいは複数の波長ビームを照射する照射光学系(1,12;2,22,11)と、前記被検試料から得られるX線回折パターン及び前記被検試料から放出される反射光又は散乱光を検出する検出光学系(9;11,3,5)とを備え、前記被検試料から同時または連続して少なくともX線回折スペクトル及び可視光による反射光像を検査できるように構成した分子構造複合同定装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品結晶等の分子状態に関する物性評価をX線回折と赤外光・可視光・紫外光の何れにより行う分子構造複合同定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
「医薬品結晶の分子状態に関する物性評価(12)」について、(PHARM TECH JAPAN ●Vol.18 No.10(2002) pp.81-96)において知られている。第92頁には、「図7に示したような96well上で結晶化した試料は、自動でBirefringence Stationに移動して、複屈折の正負から結晶か非晶質かの状態を判定し、確認することができるようになっている。そして、96well上で結晶が確認された試料については、図8に示すXRD Stationにてwell上のそれぞれの試料は自動アライメントされ、X線回折パターンの測定が行われる。例えば、図9に示されているようなフェニルブタゾンのX線回折パターンが、Well C8, Well B8, Well A9として確認される。同様に、Raman Stationにおいてはラマンスペクトルが測定され、図10は、図9に示されたフェニルブタゾンのスペクトルであり、Well A8, Well D5, Well F5, Well G11として示されている。また、Melting Point Stationにおいては、温度による結晶の相移転なども自動測定されるようになっている。」と記載されている。
【0003】
また、X線回折装置を備えた化学反応処理装置としては、特開2001−219052号公報で知られている。
【0004】
また、X線回折を用いる異なる物質のライブラリーを特徴つける装置及び方法としては、US 6,371,640 B1において知られている。
【0005】
【非特許文献1】PHARM TECH JAPAN ●Vol.18 No.10(2002) pp.81-96
【特許文献1】特開2001−219052号公報
【特許文献2】US 6,371,640 B1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、上記非特許文献1では、XRD StationでX線回折パターンの測定が行われ、同様に、Raman Stationにおいてはラマンスペクトルが測定され、また、Melting Point Stationにおいては、温度による結晶の相移転なども自動測定されるようになっていると記載されている。このように非特許文献1に記載されているように別々のステーションでX線回折パターン測定、ラマンスペクトル測定、温度による結晶の相移転測定を行うのでは、試料数(再結晶化条件数の積)と測定数の積となり、データ数が増大しデータ管理が非常に複雑になると共にWellをその都度各ステーションにおいて繰り返して位置決め制御する必要が生じ位置決め制御が非常に複雑であった。
【0007】
このように、上記非特許文献1、特許文献1および2にの何れにも、連続的或いは位置的に離れて多数の被検試料が形成された被検試料載置板をステージ上に保持した状態で、上記被検試料のX線回折分析と、ラマン散乱分析、反射赤外線分析、反射紫外線分析及び試料反射像による分析のいずれかあるいは複数を同時あるいは連続的に行って、測定数を減らすことによってデータ数を低減し、非破壊検査による検査・試験パスを単純化して、確実にしかも高速で行うことについては考慮されていなかった。
【0008】
本発明の目的は、上記課題を解決すべく、連続的或いは位置的に離れて多数の被検試料が形成された被検試料載置板をステージ上に保持した状態で、上記被検試料のX線回折分析と、試料反射像、ラマン散乱分析、反射赤外線分析及び反射紫外線分析による分析のいずれかあるいは複数を同時あるいは連続的に行うことによって非破壊検査による検査パスの短縮を図り例えば薬剤開発期間の短縮、しいては製造・品質の安定化を図った分子構造複合同定装置及びその方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、被検試料載置板に載置された同じ被検試料に対して0.5mm以下の直径に制限したX線ビームと赤外線・可視光・紫外線の何れか一つのあるいは複数の波長ビームを照射する照射光学系と、前記被検試料から得られるX線回折パターン及び前記被検試料から放出される反射光又は散乱光を検出する検出光学系とを備え、前記被検試料から同時または連続して少なくともX線回折パターンのデータ及び反射光学像のデータを取得することを特徴とする分子構造複合同定装置である。
【0010】
また、本発明は、複数の被検試料を載置した被検試料載置板と、該被検試料載置板の位置を調整可能に保持する試料保持機構と、X線ビームを発生するX線発生部と、該X線発生部から発生したX線ビームの照射・非照射を制御するシャッター装置と、可視光の波長ビームを出射する照明光源と、前記シャッター装置を通して照射されるX線ビームを0.5mm以下の直径に制限して被検試料に照射するX線光学素子と、前記照明光源から出射された可視光の波長ビームを前記X線光学素子で照射する前記被検試料に集光して照射し、該被検試料から放出される反射光又は散乱光を集光する集光光学系と、前記被検試料を挟んで前記X線光学素子と相対して設置され、前記被検試料からのX線回折を検出するX線検出器と、前記集光光学系で集光された反射光又は散乱光を受光して信号として検出する受光装置を含む検出光学系とを備え、前記X線検出器から被検試料からのX線回折パターンのデータを取得し、前記検出光学系の受光装置から被検試料からの反射光学像のデータを前記X線回折パターンのデータ取得と同時若しくは連続して取得することを特徴とする分子構造複合同定装置である。
【0011】
また、本発明は、複数の被検試料を載置した被検試料載置板と、該被検試料載置板の位置を調整可能に保持する試料保持機構と、X線ビームを発生するX線発生部と、該X線発生部から発生したX線ビームの照射・非照射を制御するシャッター装置と、赤外線・可視光・紫外線の何れか一つあるいは複数の波長ビームを出射する照明光源と、前記シャッター装置を通して照射されたX線ビームを0.5mm以下の直径に制限して被検試料に照射するX線光学素子と、前記照明光源から出射された前記一つあるいは複数の波長ビームを前記X線光学素子で照射する前記被検試料に集光して照射し、該被検試料から放出される反射光又は散乱光を集光する集光光学系と、前記被検試料を挟んで前記X線光学素子と相対して設置され、前記被検試料からのX線回折を検出するX線検出器と、前記集光光学系で集光された反射光又は散乱光を受光して信号として検出する受光装置を含む検出光学系とを備え、前記X線検出器から被検試料からのX線回折パターンのデータを取得し、前記検出光学系の受光装置から被検試料からの反射光学像、ラマン散乱スペクトル、反射赤外線スペクトル及び反射紫外線スペクトルのいずれか一つのあるいは複数のデータを前記X線回折パターンのデータ取得と同時若しくは連続して取得することを特徴とする分子構造複合同定装置である。
【0012】
また、本発明は、前記分子構造複合同定装置において、前記被検試料載置板上に載置された各被検試料の溶解性(溶解点)を測定する手段を備え、該手段によって各被検試料の溶解性のデータを取得することを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、前記分子構造複合同定装置において、更に、前記被検試料載置板上に載置された被検試料の位置座標を連続的或いは離散的に制御して移動させる移動装置を備えたことを特徴とする。
また、本発明は、前記分子構造複合同定装置において、前記X線光学素子を、内径が0.5mm以下の管状の反射X線キャピラリで構成したことを特徴とする。
また、本発明は、前記分子構造複合同定装置において、前記X線光学素子を、反射されたX線が前記被検試料に収束するように表面形状を形成したX線反射鏡で構成したことを特徴とする。
また、本発明は、前記分子構造複合同定装置において、前記集光光学系を、X線ビームを通過させるための穴が設けられた反射鏡で構成したことを特徴とする。
また、本発明は、前記分子構造複合同定装置において、前記集光光学系を、X線ビームを通過させるための穴が設けられた光学レンズで構成したことを特徴とする。
また、本発明は、前記分子構造複合同定装置において、前記被検試料載置板は、多数の被検試料が連続的或いは位置的に離れて載置されて構成されることを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、前記分子構造複合同定装置において、前記被検試料のX線回折パターンの測定と反射光学像の測定の他に、ラマン散乱スペクトルの測定、反射赤外線スペクトルの測定及び反射赤外線スペクトルの測定を行う場合には、測定ユニットを交換することにより特定のあるいは複数のスペクトルのデータを取得できるように切り替えることを特徴とする。
また、本発明は、前記分子構造複合同定装置において、前記X線検出器を、直径20mm以上80mm以下の検出可能領域を持つX線検出デバイスと、該X線検出デバイスの試料側に被検試料を照射するX線ビームの延長線上の位置を中心として設置された円形スリットと、特定の回折線のみを前記X線検出デバイスに照射するように透過させるための直線移動型位置調整機構とを備えて構成したことを特徴とする。
また、本発明は、前記分子構造複合同定装置において、前記X線検出器として2次元のX線検出器を用い、被検試料を照射するX線ビームの延長線上の位置を中心とする円環状領域毎に積算した数値を求めることにより被検試料のX線回折パターンのデータを取得することを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、前記分子構造複合同定装置において、前記被検試料載置板には少なくとも個体識別用符号若しくは情報を付与して構成し、該付与された個体識別用符号若しくは情報を機械的・光学・電磁波・磁気の何れかあるいは複数の方法によって読み取る読み取り装置を備えたことを特徴とする。
また、本発明は、前記分子構造複合同定装置において、被検試料載置板に付与された個体識別用符号若しくは情報と、被検査試料載置板上における各被検試料の位置座標若しくは位置情報とを、各被検試料から取得されるデータに対応させて管理することを特徴とする。
また、本発明は、前記分子構造複合同定装置において、被検試料載置板上に載置された各被検試料の識別情報を、各被検試料から取得されるデータに対応させて記憶する記憶装置を備えたことを特徴とする。
また、本発明は、前記分子構造複合同定装置において、被検試料載置板上に載置された各被検試料の識別情報及び各被検試料の形成条件を、各被検試料から取得されるデータに対応させて記憶する記憶装置を備えたことを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、前記分子構造複合同定装置において、複数枚の被検試料載置板を保管する保管用試料ホルダーと、該保管用試料ホルダーと前記試料保持機構との間で前記被検試料載置板を自動的に交換する交換装置とを備え、一枚の被検試料載置板に対する測定が終了する毎に、保管用試料ホルダー中の被検試料載置板を前記交換装置により前記試料保持機構へと順次あるいは指定された順序で交換することを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、前記分子構造複合同定装置において、各被検試料から取得されるデータとして、X線回折パターン、ラマン散乱スペクトル、反射赤外線スペクトル、反射紫外線スペクトル及び反射光学像の何れかあるいは複数のデータであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、多数の被検試料に対してX線回折と赤外光・可視光・紫外光・ラマン散乱の何れか一つあるいは複数とを同時又は連続的に行って間違いが生じることなく正確に且つ効率良く分子構造について複合同定を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明に係る分子構造複合同定装置及びその方法の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0020】
[第1の実施の形態]
まず、本発明に係る分子構造複合同定装置の第1の実施の形態について図1及び図2を用いて説明する。16は、多数の被検試料17が連続的あるいは位置的に離れてセル又はウエルとして載置(形成)され、個体識別用符号若しくは情報(例えばID番号)18が付与された被検試料載置板(被検試料セル又はウエル付き試料プレート)で、試料保持機構(試料搭載台)13によって水平方向に向けて保持される。その結果、所定の被検試料17がビーム軸に位置合わせられるように移動装置(ステージ)14によって試料保持機構13を介して被検試料載置板16が移動させられる。多数の被検試料17としては、薬効成分を再結晶化条件(溶媒組成、溶媒濃度、溶媒温度、温度履歴、雰囲気、他)で再結晶化された試料が考えられる。その場合、図2に示す本発明に係る分子構造複合同定装置20が行う統合非破壊検査21としては、結晶形態、多形解析、結合解析などがある。結晶形態(針状結晶、板状結晶、その外の塊状結晶等)については、可視光の光学像によって検査することができる。多形解折(規則的な原子の配列構造が異なる多形などの結晶解析)については、X線回折スペクトルによって検査することができる。結合解析(官能基程度の大きさの基本構造解析)については、ラマン散乱・赤外線・紫外線スペクトル(主としてラマン散乱スペクトル)によって検査することが可能となる。
【0021】
また、被検試料載置板16に付与された個体識別用符号若しくは情報(例えばID番号)18は、機械的・光学・電磁波・磁気の何れかあるいは複数の方法によって、全体制御部15に有線若しくは無線で接続された読み取り装置19により読み取られ、この符号若しくは情報と移動装置(ステージ)14から検出される被検試料載置板16上の位置(位置座標)とから全体制御部15は被検試料17を識別できるよう構成される。
【0022】
ところで、予め、被検試料載置板に付与された個体識別用符号若しくは情報(例えばID番号)と、被検試料載置板上の被検試料の位置座標若しくは位置情報と、被検試料を形成した被検試料形成条件とを入力手段(記録媒体やネットワークも含む)を用いて入力されて記憶装置15cには格納しておくものとする。
【0023】
分子構造複合同定装置30は、装置筐体の底面方向にX線を照射できるように装置上部に設置されたX線発生部1と、試料の可視光照明光源2と、可視光の光学像を取得する試料観察カメラ3と、被検試料17からの散乱光や反射光を集光する集光光学系11としての対物鏡(カセグレーン反射光学系)11aと、試料のラマン励起用レーザー光源22と、ハーフミラー4a、4cと、全反射ミラー4bと、該ミラー4a〜4cや対物鏡11a等を保持するマウント部4と、ラマン(赤外・紫外)光受光装置5と、X線ビームを被検試料17に対して照射・非照射するX線遮断装置(X線シャッター装置)6と、被検試料へ照射されるX線ビームを0.5mm程度以下の直径に制限するX線光学素子12としてのX線キャピラリ(内径が0.5mm程度以下であり、X線をほぼ全反射可能な表面状態に調整された管状の全反射X線キャピラリ)12aと、ラマン(赤外線・紫外線)光分光装置7と、X線発生部用電源装置8と、リングシャッタ10を有し、X線ビーム軸方向に位置調整可能なX線検出器9と、データ処理部15aを有する全体制御部15と、全体制御部15に接続された表示装置15bと、被検試料載置板16上にセル又はウエルとして載置された多数の被検試料17に対応させて統合非破壊検査結果が記憶される記憶装置15cと、被検試料載置板16に付与された個体識別用符号若しくは情報(例えばID番号)18を読み取る読み取り装置19とで構成される。なお、集光光学系11としての対物鏡11a及びミラー4bには、X線光学素子12としてのX線キャピラリ12aを設置するための穴が穿設されている。
【0024】
X線回折パターンを取得するX線検出器9は、前記被検試料からのX線回折検出に直径20mm程度以上80mm程度以下の検出可能領域を持つX線検出デバイス(X線シンチレーションカウンタ)9aと、該X線検出デバイスの試料側に被検試料を照射するX線ビームの延長線上の位置を中心として設置されたスリット9bと、特定の回折線のみを前記X線検出デバイス9aに照射するように透過させるための直線移動型位置調整機構21とを備えて構成される。
【0025】
多数の被検試料17が設置された被検試料載置板16は、全体制御部15からの指令に基づいて、保持機構13を介して移動装置14によって移動して各被検試料がビーム軸に位置するように位置決めされる。その結果、全体制御部15は、被検試料載置板上の被検試料の位置座標が連続的或いは離散的に移動装置14から得られることになり、記憶装置15cに被検試料の位置座標若しくは位置情報として登録されることになる。同時にX線発生部用電源装置8によって供給された電源によってX線発生部1からはXビームが出射される。全体制御部15からの指令で、X線遮断装置6が開いてX線ビームがX線光学素子12としてのX線キャピラリ12aにより0.5mm程度以下の直径に絞られて被検試料に照射される。該被検試料17に照射されたX線は被検試料の結晶による回折により直進せず、スリットを通過してX線検出器9により検出される。即ち、被検試料17からの円錐状の特定のX線回折パターン20は、スリット9bとリングシャッタ10との隙間(円環状領域)を通してX線検出デバイス9aによって検出される。このように、特定のX線回折パターンのデータは、直線移動型位置調整機構21をX線ビーム軸方向に調整することによって取得される。また、前記X線検出器9として2次元の位置敏感型X線検出器を用い、例えばデータ処理部15aにおいて、2次元の位置敏感型X線検出器から検出される値の内、被検試料を照射するX線ビームの延長線上の位置を中心とする円環状領域(円周領域)毎に積算した数値を求めることによりX線回折パターンのデータを取得するも可能となる。
【0026】
全体制御部15からの指令に基づいて同時に又は連続してX線回折した同じ被検試料17には、可視光照明光源2及び/又はラマン(赤外線・紫外線)光照明光源22が点灯(シャッタを開閉させても良い。)されて可視光及び/又はラマン光が照射される。即ち、可視光照明光源2で発生する可視光は、マウント4内部に設置されたハーフミラー4aで反射され、全反射ミラー4b及び対物鏡11aを通して被検試料17を照射する。可視光照射による被検試料17からの反射光は対物鏡11aにより集光され、全反射ミラー4bにより全反射され、ハーフミラー4aを通過し、ハーフミラー4cで反射されて試料観察カメラ3により結晶形態を示す被検試料の反射光学像のデータを同時に又は連続して取得され、全体制御部15のデータ処理部15aに入力され、表示できる画像データとして蓄えられる。
【0027】
さらに、ラマン励起用レーザー光源22で発生されたレーザー光は光ファイバー23を通してマウント4に導かれ、ハーフミラー4c及び4aを通過して、全反射ミラー4b及び対物鏡11aを通してX線回折した同じ被検試料17に照射される。レーザー光の照射により被検試料で生じたラマン散乱光は対物鏡11aで集光され、全反射ミラー4bで反射され、ハーフミラー4a及び4cを透過した後、ラマン(赤外・紫外)光受光装置5に導入され、その後ラマン(赤外・紫外)光分光装置7に導入され、結合解析(官能基程度の大きさの基本構造解析)を示すラマン散乱(赤外線・紫外線)スペクトルデータが同時に又は連続して取得され、全体制御部15のデータ処理部15aに入力され、表示できるスペクトルデータとして蓄えられる。
【0028】
次に、物質のX線による同定方法について具体的に説明する。X線発生源1で発生したX線はX線キャピラリ12aを通して細束に整形され、被検試料17を照射する。被検試料が結晶の場合Braggの法則として知られる次の(1)式が成り立つときのみX線が回折する。
【0029】
2dsin θ=λ (1)
ここで、λはX線発生源1で発生したX線の波長、dは被検試料の結晶の格子面の面間隔、θは被検試料に入射するX線と回折に関与する格子面の成す角度である。θは一般には入射角と言われる。回折線の方向は格子面で反射される形となるので、入射X線に対して2倍の入射角2θの方向に出て行く。微細な結晶がランダムな方向に向いている被検試料では、入射X線の進行方向に対して角度2θの円錐形状に回折X線が得られる。
【0030】
被検試料の結晶の原子配列により格子面が異なるため、一般的にこの2θと回折X線の強さのパターンを測定することにより、被検試料の物質特有の回折パターンを得ることが出来る。また、既知の物質の回折パターンと照合することで、被検試料の物質の同定が可能であり、ここで用いるX線回折手法である。
【0031】
このX線回折パターンを効率よく測定するため、本発明では図6に示すような装置の構成とした。図6においてX線キャピラリ12aを通過したX線は被検試料17を照射する。被検試料から距離L離れた位置に半径Dの円形のX線通過部51を設けたスリット52(9b)を設置する。スリット52はタングステン(W)やタンタル(Ta)等の重金属を用いてX線通過部51以外の部位はX線を遮蔽する役目をもつ。これによりLとDと回折角度θとの関係は次の(2)式で表される。
【0032】
tan 2θ=D/L (2)
ここで、スリット52の後方にシンチレーションカウンタ等のX線検出器53を設置する。Lを変化させながらX線検出器53の出力との関係をデータ処理部15aにおいて記録することにより、被検試料の結晶のX線回折パターンを測定することができる。
【0033】
図6ではX線ビームを水平に描いているが、本実施例では被検試料17を水平に載置する必要性からX線ビームを垂直としている。
【0034】
X線検出器をCCD等の2次元ピクセル検出器とし、スリット52を省略することが可能である。2次元ピクセル検出器では微細な検出素子が2次元に多数配置されるので、微小部分毎のX線を検出することができる。このため、X線回折パターンは図7に示すように入射X線の延長方向の2次元ピクセル検出器上位置を中心Cとした同心円状となる。
【0035】
2次元ピクセル検出器を用いる場合、X線回折強度I(2θ)は次の(3)式で表される範囲の各ピクセルの検出強度の和で求められる。
【0036】
I(2θ)=ΣI(x,y):D−Δ<SQRT(x+y)<D+Δ (3)
ここで、DはC(0,0)を中心とした同心円の半径、I(x,y)はC(0,0)を原点としたときの座標(x,y)のピクセルの検出X線強度、Δは検出器の窓幅に想到するもので、2Δが回折X線の幅に相当する。
【0037】
実際の測定系では、被検試料17の結晶を透過した強度の大きいX線が検出器に入射しないように、Cの位置に重金属で構成されるビームストッパが設置される。図6のスリット+シンチレーションX線検出器と被検試料との間隔Lを走査させてX線回折パターンを測定するものであるのに対し、後者は2次元検出器上で一度の測定でX線回折パターンを測定できるという大きなメリットがある。一方、現在サイズの大きなCCD2次元X線ピクセル検出器は非常に高価であるため、X線回折パターンの角度分解能を確保することが困難である。被検試料の性状からX線回折パターンの角度分解能を確保する必要がある場合には、前者の間隔Lを走査する前者の方法を採用することが望ましい。
【0038】
ここで採用しているX線の測定方法は上記(1)式に示す円錐状のX線回折の全てを捉えるもので、一般に使用されているX線回折装置より感度が非常に高い。一般のX線回折装置は角度の分解能を特に高く測定できるように考慮されたものであり、捉える回折X線は全体の多くても1%程度である。従って、本方式は被検試料の量が少なくても充分な感度の測定が可能である。
【0039】
次に、ラマン分光による物質同定について具体的に説明する。ラマン散乱光スペクトルは被検試料17にレーザー等による単色の光を照射したときに発生する入射光と異なる波長の光を測定することにより得られる。このラマン散乱光スペクトルは原子がその周囲の原子と結合している基本構造により変化し、X線回折パターンと同様に既知物質のラマンスペクトルを用いることにより、被検試料の物質の同定が可能である。
【0040】
X線回折による物質の同定とラマンスペクトルによる物質の同定には際立った特徴がある。X線回折では結晶による回折を利用するため、被検試料の結晶全体にわたって規則的に原子の配列した構造を区別する。従って、X線回折では、基本構造が同じでも配列の仕方が若干異なっていれば区別することが可能である。
【0041】
一方、ラマンスペクトルはその原理から官能基程度の大きさの構造があれば捉えることが可能である。しかしながら、ラマンスペクトルでは、X線回折とは異なり基本構造が同じ場合、多少の配列の違いがあっても区別はできない。
【0042】
そこで、本発明のように2つの方法を同時に用いることにより、X線回折測定で結晶からの回折が測定できなくても、ラマンスペクトルから基本構造を同定・解析することが可能である。また、ラマンスペクトルで同じ基本構造であってもその配列が異なる多形などの結晶をX線回折測定で区別することが可能であり、装置としての同定・解析の能力を拡大することが可能である。
【0043】
実際には、ある原料から目的の構造の結晶体を作成するとき、様々な製造条件で確認する必要があるが、本装置を用いれば、(1)結晶化しないが基本構造ができる条件、(2)質は劣るが結晶化する条件、(3)目標とする結晶構造ができる条件を明確に捉えることができる。
【0044】
以上説明したように、全体制御部15のデータ処理部15aは、同じ被検試料から同時に又は連続してX線検出器9で取得されたX線回折パターンのデータによって統合非破壊検査31の内多形解析を行うことが可能となり、同じ被検試料から同時に又は連続して試料観察カメラ(受光装置)3で取得された可視光による反射光学像のデータによって統合非破壊検査31の内結晶形態を解析することが可能となり、同じ被検試料から同時に又は連続してラマン(赤外線・紫外線)光分光装置7で取得されたラマン散乱(反射赤外線・反射紫外線)スペクトルのデータによって統合非破壊検査31の内結合解析を行うことが可能となる。即ち、全体制御部15のデータ処理部15aからは、各被検試料(例えば各再結晶化試料)から同時に統合された非破壊検査結果31が得られることになり、検査パスの短縮を果たすことが可能となる。
【0045】
そして、全体制御部15のデータ処理部15aは、読み取り装置19で読み取られた被検試料載置板16に付与された個体識別用符号若しくは情報(例えばID番号)と該個体識別用符号若しくは情報に対応して決められる位置座標若しくは位置情報とで決められる同じ被検試料から同時に又は連続して、X線検出器9で取得されたX線回折パターンのデータに基づく多形解析、試料観察カメラ(受光装置)3で取得された可視光による反射光学像のデータに基づく結晶形態、およびラマン光分光装置7で取得されたラマン散乱スペクトルのデータに基づく結合解析の結果を表示装置15bに表示して提示することができると共に記憶装置15cに記憶することが可能となる。即ち、全体制御部15のデータ処理部15aは、読み取り装置19で読み取られる被検試料載置板16に付与された個体識別用符号若しくは情報18と、移動装置14から得られる被検査試料載置板上における各被検試料の位置座標若しくは位置情報とを、各被検試料から取得されるX線回折パターン、反射光学像及びラマン散乱スペクトル等のデータに対応させてデータセットとして記憶装置15cに記憶することによって被検試料の形成条件(例えば薬効成分・再結晶化条件)の管理をすることが可能となる。即ち、被検試料載置板16上にセル又はウエルとして載置された多数の被検試料の内、各被検試料17の識別情報としては、被検試料載置板16に付与された個体識別用符号若しくは情報18と、被検査試料載置板16上における各被検試料の位置座標若しくは位置情報とで構成される。
【0046】
更に、分子構造複合同定装置30には、複数枚の被検試料載置板を保管する保管用試料ホルダー(図示せず)と、該保管用試料ホルダーと試料保持機構13との間において被検試料載置板16を自動的に交換するハンドリング装置(図示せず)とが設けられ、全体制御部15からの指令に基づいて、一枚の被検試料載置板に対する測定が終了する毎に、保管用試料ホルダー中の被検試料載置板を上記ハンドリング装置を用いて順次あるいは指定された順序で試料保持機構13へと交換し、上記データセットを上記記憶装置15cに格納していくことにより、被検試料の形成条件と該形成条件で形成された被検試料のX線回折パターン、ラマン散乱スペクトル、反射赤外線スペクトル、反射紫外線スペクトル及び反射光学像の何れかあるいは複数のデータが上記記憶装置15cに格納されることになる。
【0047】
以上説明したように、第1の実施の形態によれば、記憶装置15cに記憶される一枚の被検試料載置板16当たりのデータ数は被検試料個数と大幅に低減し、しかも一つの被検試料に対して同時若しくは連続して非破壊検査31を実行して非破壊検査31の時間を短縮することが可能となる。さらに、図8に示す被検試料載置板16’を用いることによって、図2に示す破壊試験2(溶解特性測定)も引き続いて行うことができることになる。
【0048】
その後、被検試料17は、図2に示すように、破壊試験1(熱物性測定)および破壊試験3(その他)が行われることになる。その結果、同時非破壊検査による検査・試験パスの短縮を図ることが可能となる。
【0049】
なお、ラマン光受光装置5で被検試料から放出されるラマン散乱光を受光し、ラマン光分光装置7でラマン散乱スペクトルを測定する場合について説明したが、反射赤外線スペクトル又は反射紫外線スペクトルを測定する場合には、ラマン光受光装置5及びラマン光分光装置7からなるラマン光測定ユニットを、反射赤外光受光装置及び反射赤外光分光装置からなる反射赤外光測定ユニット又は反射紫外光受光装置及び反射紫外光分光装置からなる反射紫外光測定ユニットに交換することによって特定あるいは複数のスペクトルを取得できるようになる。また、試料の照明光源22も赤外光又は紫外光が出射されるように交換する必要がある。いずれにしても、試料の照明光源を含めて測定ユニットを交換することによって、反射赤外線スペクトル又は反射紫外線スペクトルを測定することが可能となる。
【0050】
[第2の実施の形態]
次に、本発明に係る分子構造複合同定装置の第2の実施の形態について図3を用いて説明する。第2の実施の形態において、第1の実施の形態と相違する点は、X線光学素子12として、X線被照射面がX線をほぼ全反射可能なように表面状態が調整(制御)され、ほぼ全反射されたX線が0.5mm程度以下の直径に収束するように表面形状が形成されたX線反射鏡12bで構成したことにある。そのため、X線発生部(X線管)1を少し傾けて構成した。このようにX線光学素子12としてX線反射鏡12bで構成しても、X線ビームをX線反射鏡12bにより0.5mm程度以下の直径に絞られて、対物鏡(カセグレーン反射光学系)11aのX線ビーム軸に形成された穴を通して被検試料17に照射することが可能となる。
【0051】
[第3の実施の形態]
次に、本発明に係る分子構造複合同定装置の第3の実施の形態について図4を用いて説明する。第3の実施の形態において、第1の実施の形態と相違する点は、集光光学素子11としてX線キャピラリ12aが挿入できる穴明き対物レンズ11bで構成したことにある。このように、集光光学素子11として穴明き対物レンズ11bで構成しても、被検試料17に対して可視光及びラマン光を集光して照射でき、被検試料17からの散乱光及び反射光を集光して試料観察カメラ3で可視光の光学像を取得することが可能となると共に、ラマン光受光装置5でラマン光を受光することが可能となる。穴明き対物レンズ11bは対物鏡よりも製造し易いメリットを有する。
【0052】
[第4の実施の形態]
次に、本発明に係る分子構造複合同定装置の第4の実施の形態について図5を用いて説明する。第4の実施の形態において、第1の実施の形態と相違する点は、X線光学素子12としてX線反射鏡12bで構成したことにある。そのため、X線発生部(X線管)1を少し傾けて構成した。第4の実施の形態において、さらに、第2の実施の形態と相違する点は、集光光学素子11としてX線ビームを通す穴明き対物レンズ11bで構成したことにある。このようにX線光学素子12としてX線反射鏡12bで構成しても、X線ビームをX線反射鏡12bにより0.5mm程度以下の直径に絞られて、穴明き対物レンズ11bのX線ビーム軸に形成された穴を通して被検試料17に照射することが可能となる。さらに、集光光学素子11として穴明き対物レンズ11bで構成しても、被検試料17に対して可視光及びラマン光を集光して照射でき、被検試料17からの散乱光及び反射光を集光して試料観察カメラ3で可視光の光学像を取得することが可能となると共に、ラマン光受光装置5でラマン光を受光することが可能となる。穴明き対物レンズ11bは製造し易いメリットを有する。
【0053】
[第5の実施の形態]
次に、本発明に係る分子構造複合同定装置の第5の実施の形態について図8を用いて説明する。第5の実施の形態は、被検試料載置板として各被検試料の溶解性(融点)を測定する手段を備えたものである。図8は、被検試料載置板16’としてガラス(又はプラスチック)サブストレート161と機能性ボトムフィルム162bとで構成される場合を示す側面断面図である。なお、図8においては、ガラス(又はプラスチック)サブストレート161と機能性ボトムフィルム162bとを離した状態で示す。機能性ボトムフィルム162bとしては、ポリイミドフィルム(厚さ12.5〜25μm程度)1621の表面側には各被検試料を個別に加熱できるパターン化された個別加熱用非晶質抵抗膜(例えば非晶質のCr−Si−O系)1623を形成し、その上にガラス(又はプラスチック)が被覆され、ポリイミドフィルム1621の裏側には各被検試料の温度を検出するためのパターン化された温度検出用非晶質半導体膜(例えば非晶質のa−Si系)1622を形成し、その上にガラス(又はプラスチック)が被覆されて形成される。このようにボトムフィルムを機能性ボトムフィルム162bで構成することによって、個別加熱用非晶質抵抗膜1623を個別に温度制御して各被検試料を加熱していって各被検試料の溶解性(融点)を温度検出用非晶質半導体膜1622で個別に検出することが可能となる。個別温度検出用非晶質半導体膜1622および個別加熱用非晶質抵抗膜1623は、配線により被検試料載置板16の端部のコネクタ部(図示せず)まで引き出され、該コネクタ部から全体制御部15及びデータ処理部15aに接続されることになる。このように、被検試料載置板16’を構成することによって、被検試料載置板16’上にセル又はウエルとして載置された各被検試料17について結晶形態を示す可視光の光学像を観察し、多形解析が可能なX線回折スペクトルおよび結合解析が可能な例えばラマン散乱スペクトルを取得した後、各被検試料17を加熱して各被検試料の溶解性(融点)を測定してデータ処理部15aに入力して記憶装置15cに蓄積できることになる。
【0054】
各被検試料の溶融した時点は、例えばラマン散乱光のスペクトルの変化を見ていれば、検出することが可能である。また、測定される温度の変化を見ていれば、各被検試料の溶融した時点を検出することが可能である。従って、各被検試料の溶融した時点における温度(融点)を個別の半導体膜1622によって測定できることになる。
【0055】
なお、各被検試料の溶解性(融点)が測定できれば、ポリイミドフィルム1621の表側にパターン化された個別温度検出用非晶質半導体膜1622を形成し,ポリイミドフィルム1621の裏側にパターン化された個別加熱用非晶質抵抗膜1623を形成しても良い。また、半導体膜1622及び抵抗膜1623を非晶質にしたのは各被検試料17からX線回折スペクトルを検出することができるためである。
【0056】
[被検試料載置板の実施例]
次に、本発明に係る分子構造複合同定装置に用いられる被検試料載置板16の実施例について図9を用いて説明する。
【0057】
図9(a)は、16×16ウェル・アレイ・サブストレートの実施例を示す上面図である。また、図9(b)は、RFID(radiofrequency identification)18aを装着したウェル・アレイ・サブストレートを示す斜視図である。このように、RFID18aには、被検試料載置板16に付与された個体識別用符号若しくは情報18、被検査試料載置板上における各被検試料の位置座標若しくは位置情報及び各被検試料の形成条件を記録させることは可能となる。その結果、RFID18aに記録された情報を読み取ることによって、全体制御部15は入力手段15bで入力することなく、取得できることになる。
【0058】
また、図9(c)は、被検試料載置板16としてガラス(又はプラスチック)サブストレート161とポリイミドフィルム1621からなるボトムフィルム162aとで構成される場合を示す側面断面図である。なお、図9(c)においては、ガラス(又はプラスチック)サブストレート161とボトムフィルム162aとを離した状態で示す。
【0059】
以上説明したように、本発明に係る分子構造複合同定装置の実施の形態によれば、多数の被検試料に対してX線回折と赤外光・可視光・紫外光・ラマン散乱の何れか一つあるいは複数とを同時又は連続的に行って間違いが生じることなく正確に且つ効率良く短時間で分子構造(結晶形態、多形解析、結合解析等)について複合同定を行うことができる。さらに図2に破壊試験2で示すように、各被検試料の溶解性についても同定することが可能となる。
【0060】
また、本発明の実施の形態によれば、可視光による被検試料の光学像の取得と同一部位のラマン散乱スペクトル、反射赤外線スペクトル、反射紫外線スペクトル及びX線回折パターンが同時あるいは時間間隔をあけることなく取得することが可能となる。物質中の分子構造の非破壊測定及び同定は、結合解析(官能基の存在や短距離秩序構造である基本構造)については、ラマン散乱・赤外線・紫外線スペクトルによる測定解析が優れ、結晶化した被検試料の多形解析(結晶構造や長距離の秩序構造)についてはX線回折による測定解析が優れている。
【0061】
従って、本発明に係る複合分子構造同定装置を用いることにより、光学像で捉えた被検試料の結晶形態や官能基の有無といった分子構造が容易に測定解析し、同定することが可能となる。また、作成条件を多岐にわたって変更した被検試料についても迅速に光学像と分子構造の同定が可能であり、これらの被検試料の作成条件、測定条件、光学像、測定スペクトルや回折パターンと、解析・同定結果を順次自動的にコンピュータの記録装置に蓄積することが可能となる。
【0062】
蓄積されたデータを、被検試料の作成条件と測定・解析。同定結果とにより整理することにより、コンピュータ画面上で、容易に目的とする被検試料の分子構造状態の作成条件を表示することが可能であり、作成条件探索の自動化・短時間化が可能となる。また、作成の条件や被検試料の取り扱いについても試料搭載プレート(被検試料載置板)に取り付けた識別用の情報を読み取ることにより人為的な誤りを極小にした高信頼システムを形成している。従って、これらの作成条件については、何時でも再現できるシステムであり、トレーサブルな材料形成システムを構成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明に係る分子構造複合同定装置の第1の実施の形態を示す図である。
【図2】本発明に係る再結晶化試料についての統合非破壊検査とその後の破壊試験の内容を説明するための図である。
【図3】本発明に係る分子構造複合同定装置の第2の実施の形態の要部を示す図である。
【図4】本発明に係る分子構造複合同定装置の第3の実施の形態の要部を示す図である。
【図5】本発明に係る分子構造複合同定装置の第4の実施の形態の要部を示す図である。
【図6】本発明に係る分子構造複合同定装置の実施の形態において、X線検出器としてシンチレーションカウンタ等を用いて被検試料の結晶のX線回折パターンを測定する実施例を説明するための斜視図である。
【図7】本発明に係る分子構造複合同定装置の実施の形態において、X線検出器としてCCD等の2次元ピクセル検出器を用いて被検試料の結晶のX線回折パターンを測定する実施例を説明するための斜視図である。
【図8】本発明に係る被検試料載置板として各被検試料の溶解性(融点)を測定する手段を備えた第5の実施の形態を示す側面断面図である。
【図9】本発明に係る分子構造複合同定装置に用いられる被検試料載置板の実施例を示す側面断面図である。
【符号の説明】
【0064】
1…X線発生部(X線管)、2…試料照明光源(可視光又はラマン(赤外線・紫外線)光照明光源)、3…試料観察カメラ(受光装置)、4…マウント部、4a…全反射ミラー、4b…ハーフミラー、4c…ハーフミラー、5…ラマン(赤外線・紫外線)光受光装置、6…X線遮断装置(X線シャッター装置)、7…ラマン(赤外線・紫外線)光分光装置、8…X線発生部用電源装置、9、53…X線検出器(X線シンチレーションカウンタ)、9b、52…スリット、10…リングシャッタ、11…集光光学素子、11a…対物鏡(カセグレーン反射光学系)、11b…対物レンズ、12…X線光学素子、12a…X線キャピラリ、12b…X線反射鏡、13…試料保持機構(試料搭載台)、14…移動装置(ステージ)、15…全体制御部、15a…データ処理部、15b…表示装置、15c…記憶装置、16、16’…被検試料載置板(被検試料セル又はウエル付き試料プレート)、17…被検試料、18…個体識別用符号若しくは情報(例えばID番号)、18a…RFID、19…読み取り装置、20…X線回折、21…直線移動型位置調整機構、22…ラマン励起用レーザー光源(ラマン光照明光源)、23…光ファイバー、30…分子構造複合同定装置、31…統合非破壊検査、51…X線通過部、161…ガラス(又はプラスチック)サブストレート、162a…ボトムフィルム、162b…機能性ボトムフィルム、1621…ポリイミドフィルム、1622…個別温度検出用非晶質半導体膜、1623…個別加熱用非晶質抵抗体膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検試料載置板に載置された同じ被検試料に対して0.5mm以下の直径に制限したX線ビームと赤外線・可視光・紫外線の何れか一つのあるいは複数の波長ビームを照射する照射光学系と、
前記被検試料から得られるX線回折パターン及び前記被検試料から放出される反射光又は散乱光を検出する検出光学系とを備え、
前記被検試料から同時または連続して少なくともX線回折パターンのデータ及び反射光学像のデータを取得することを特徴とする分子構造複合同定装置。
【請求項2】
複数の被検試料を載置した被検試料載置板と、
該被検試料載置板の位置を調整可能に保持する試料保持機構と、
X線ビームを発生するX線発生部と、
該X線発生部から発生したX線ビームの照射・非照射を制御するシャッター装置と、
可視光の波長ビームを出射する照明光源と、
前記シャッター装置を通して照射されるX線ビームを0.5mm以下の直径に制限して被検試料に照射するX線光学素子と、
前記照明光源から出射された可視光の波長ビームを前記X線光学素子で照射する前記被検試料に集光して照射し、該被検試料から放出される反射光又は散乱光を集光する集光光学系と、
前記被検試料を挟んで前記X線光学素子と相対して設置され、前記被検試料からのX線回折を検出するX線検出器と、
前記集光光学系で集光された反射光又は散乱光を受光して信号として検出する受光装置を含む検出光学系とを備え、
前記X線検出器から被検試料からのX線回折パターンのデータを取得し、前記検出光学系の受光装置から被検試料からの反射光学像のデータを前記X線回折パターンのデータ取得と同時若しくは連続して取得することを特徴とする分子構造複合同定装置。
【請求項3】
複数の被検試料を載置した被検試料載置板と、
該被検試料載置板の位置を調整可能に保持する試料保持機構と、
X線ビームを発生するX線発生部と、
該X線発生部から発生したX線ビームの照射・非照射を制御するシャッター装置と、
赤外線・可視光・紫外線の何れか一つあるいは複数の波長ビームを出射する照明光源と、
前記シャッター装置を通して照射されたX線ビームを0.5mm以下の直径に制限して被検試料に照射するX線光学素子と、
前記照明光源から出射された前記一つあるいは複数の波長ビームを前記X線光学素子で照射する前記被検試料に集光して照射し、該被検試料から放出される反射光又は散乱光を集光する集光光学系と、
前記X線ビームが照射された被検試料からのX線回折を検出するX線検出器と、
前記集光光学系で集光された反射光又は散乱光を受光して信号として検出する受光装置を含む検出光学系とを備え、
前記X線検出器から被検試料からのX線回折パターンのデータを取得し、前記検出光学系の受光装置から被検試料からの反射光学像、ラマン散乱スペクトル、反射赤外線スペクトル及び反射紫外線スペクトルのいずれか一つのあるいは複数のデータを前記X線回折パターンのデータ取得と同時若しくは連続して取得することを特徴とする分子構造複合同定装置。
【請求項4】
請求項1又は2又は3記載の分子構造複合同定装置において、
前記被検試料載置板上に載置された被検試料の溶解性を測定する手段を備え、該手段によって被検試料の溶解性のデータを取得することを特徴とする分子構造複合同定装置。
【請求項5】
請求項1又は2又は3記載の分子構造複合同定装置において、
更に、前記被検試料載置板上に載置された被検試料の位置座標が前記照射ビームに対して連続的或いは離散的に制御されるように前記被検試料載置板を移動させる移動装置を備えたことを特徴とする分子構造複合同定装置。
【請求項6】
請求項2又は3記載の分子構造複合同定装置において、
前記X線光学素子を、内径が0.5mm以下の管状の反射X線キャピラリで構成したことを特徴とする分子構造複合同定装置。
【請求項7】
請求項2又は3記載の分子構造複合同定装置において、
前記X線光学素子を、反射されたX線が前記被検試料に収束するように表面形状を形成したX線反射鏡で構成したことを特徴とする分子構造複合同定装置。
【請求項8】
請求項2又は3記載の分子構造複合同定装置において、
前記集光光学系を、X線ビームを通過させるための穴が設けられた反射鏡で構成したことを特徴とする分子構造複合同定装置。
【請求項9】
請求項2又は3記載の分子構造複合同定装置において、
前記集光光学系を、X線ビームを通過させるための穴が設けられた光学レンズで構成したことを特徴とする分子構造複合同定装置。
【請求項10】
請求項3記載の分子構造複合同定装置において、
前記被検試料のX線回折パターンの測定と反射光学像の測定の他に、ラマン散乱スペクトルの測定、反射赤外線スペクトルの測定及び反射赤外線スペクトルの測定を行う場合には、測定ユニットを交換することにより特定のあるいは複数のスペクトルのデータを取得できるように切り替えることを特徴とする分子構造複合同定装置。
【請求項11】
請求項2又は3記載の分子構造複合同定装置において、
前記X線検出器を、直径20mm以上80mm以下の検出可能領域を持つX線検出デバイスと、該X線検出デバイスの試料側に被検試料を照射するX線ビームの延長線上の位置を中心として設置された円形スリットと、特定の回折線のみを前記X線検出デバイスに照射するように透過させるための直線移動型位置調整機構とを備えて構成したことを特徴とする分子構造複合同定装置。
【請求項12】
請求項2又は3記載の分子構造複合同定装置において、
前記X線検出器として2次元のX線検出器を用い、被検試料を照射するX線ビームの延長線上の位置を中心とする円環状領域毎に積算した数値を求めることにより被検試料のX線回折パターンのデータを取得することを特徴とする分子構造複合同定装置。
【請求項13】
請求項1又は2又は3記載の分子構造複合同定装置において、
前記被検試料載置板には少なくとも個体識別用符号若しくは情報を付与して構成し、
該付与された個体識別用符号若しくは情報を機械的・光学・電磁波・磁気の何れかあるいは複数の方法によって読み取る読み取り装置を備えたことを特徴とする分子構造複合同定装置。
【請求項14】
請求項1又は2又は3記載の分子構造複合同定装置において、
被検試料載置板に付与された個体識別用符号若しくは情報と、被検査試料載置板上における各被検試料の位置座標若しくは位置情報とを、各被検試料から取得されるデータに対応させて管理することを特徴とする分子構造複合同定装置。
【請求項15】
請求項1又は2又は3記載の分子構造複合同定装置において、
被検試料載置板上に載置された各被検試料の識別情報を、各被検試料から取得されるデータに対応させて記憶する記憶装置を備えたことを特徴とする分子構造複合同定装置。
【請求項16】
請求項1又は2又は3記載の分子構造複合同定装置において、
被検試料載置板上に載置された各被検試料の識別情報及び各被検試料の形成条件を、各被検試料から取得されるデータに対応させて記憶する記憶装置を備えたことを特徴とする分子構造複合同定装置。
【請求項17】
請求項1又は2又は3記載の分子構造複合同定装置において、
複数枚の被検試料載置板を保管する保管用試料ホルダーと、該保管用試料ホルダーと前記試料保持機構との間で前記被検試料載置板を自動的に交換する交換装置とを備え、一枚の被検試料載置板に対する測定が終了する毎に、保管用試料ホルダー中の被検試料載置板を前記交換装置により前記試料保持機構へと順次あるいは指定された順序で交換することを特徴とする分子構造複合同定装置。
【請求項18】
請求項17記載の分子構造複合同定装置において、
被検試料載置板上に載置された各被検試料の識別情報及び各被検試料の形成条件を、各被検試料から取得されるデータに対応させて記憶する記憶装置を備えたことを特徴とする分子構造複合同定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−220467(P2006−220467A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−32530(P2005−32530)
【出願日】平成17年2月9日(2005.2.9)
【出願人】(000250339)株式会社リガク (206)
【Fターム(参考)】