説明

動力伝達装置

【課題】動力伝達装置の小型化及び高効率化を実現する。
【解決手段】入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に回転差が発生するのに起因してロータ巻線30に誘導電流が流れることで回転磁界が発生し、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクが作用する。入力側ロータ28にはエンジン36の動力が伝達され、出力側ロータ18から変速機44の変速ギア機構63−2〜63−5を介さずに伝動機構37を介して変速機44の出力軸62へ動力が伝達される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置に関し、特に、原動機からの動力を変速機で変速して負荷へ伝達することが可能な動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の動力伝達装置の関連技術が下記特許文献1に開示されている。特許文献1においては、回転磁界を発生させるためのステータと、磁石で構成された第1ロータと、ステータと第1ロータとの間に配置され、軟磁性体で構成された第2ロータと、を有する発電電動機が設けられており、発電電動機の第1ロータがエンジンの出力軸と無段変速機との間に連結され、発電電動機の第2ロータが被駆動部に連結されている。発電電動機は、ステータと第1ロータと第2ロータとの間で、回転磁界の発生に伴って形成される磁気回路を介してエネルギーを入出力する。このエネルギーの入出力に伴って、回転磁界と第2ロータの回転速度の差と、第2ロータと第1ロータの回転速度の差が同じになるようなリニアな速度関係を保ちながら、回転磁界と第1及び第2ロータが回転することで、発電電動機は遊星歯車装置と同等の機能を有する。
【0003】
特許文献1において、ステータ巻線に電力供給して回転磁界を発生させることで、ステータから第2ロータに駆動用トルクTSEを作用させる場合は、第1ロータから第2ロータに駆動用トルクTR1(=TSE)が作用し、これらの駆動用トルクがトルク合成比1:1で合成されたトルクTR2(=TSE+TR1=2×TSE)が第2ロータから出力される。これによって、エンジンのトルクによる被駆動部の駆動を発電電動機のトルクでアシストすることができる。その際には、エンジンのトルクが、無段変速機を介して被駆動部へ伝達されるトルクと、第1ロータ及び第2ロータを介して被駆動部へ伝達されるトルクとに分配される。
【0004】
また、特許文献1において、第2ロータの動力の一部を用いてステータ巻線で発電を行うために、第2ロータからステータに発電用トルクTGEを作用させる場合は、第2ロータから第1ロータにトルクTR1(=TGE)が作用し、第2ロータのトルクTR2(=TGE+TR1=2×TGE)がトルク分配比1:1でステータと第1ロータとに分配される。これによって、エンジンの動力の一部を用いて発電電動機のステータ巻線で発電を行うことができる。その際には、エンジンの動力の一部が無段変速機を介して第2ロータに伝達され、第2ロータに伝達された動力の一部を用いてステータ巻線で発電が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−132971号公報
【特許文献2】特開2005−153691号公報
【特許文献3】特開平9−56010号公報
【特許文献4】特開2009−73472号公報
【特許文献5】特開2009−274536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1においては、ステータ巻線に電力供給してステータから第2ロータに駆動用トルクTSEを作用させることで、エンジンのトルクを被駆動部へ伝達する際に、第1ロータ及び第2ロータを介して伝達されるトルクが発生する分、変速機を介して伝達されるトルクを減少させることが可能となる。しかし、そのためには、バッテリ等の蓄電装置からステータ巻線に電力供給することが必要となるので、蓄電装置の残存容量が少ないときや、極低温環境等で蓄電装置からステータ巻線への電力供給が困難となるときは、第1ロータ及び第2ロータを介してトルクを伝達することが困難となり、変速機を介して伝達されるトルクを減少させることが困難となる。また、特許文献1において、蓄電装置の残存容量が少ないときは、エンジンの動力の一部を用いてステータ巻線で発電を行う必要があるが、その際には、エンジンの動力の一部が変速機と第2ロータと第1ロータを介してエンジンの出力軸側に戻る動力循環が発生する。この動力循環経路に変速機を有するため、動力伝達効率が低下する。さらに、動力循環の際には、変速機には、エンジンのトルクと第2ロータから第1ロータに作用するトルクTR1とが合成されたトルクが伝達されるため、変速機を介して伝達されるトルクが増大する。したがって、変速機のトルク容量を低減することが困難となり、動力伝達装置の小型化を図ることが困難となる。
【0007】
本発明は、動力伝達装置の小型化及び高効率化を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る動力伝達装置は、上述した目的を達成するために以下の手段を採った。
【0009】
本発明に係る動力伝達装置は、原動機の動力が伝達される入力軸と、負荷へ動力を伝達する出力軸と、入力軸と出力軸との間の変速比を変化させることが可能な変速機構と、を含む変速機と、交流電流が流れることで回転磁界を発生可能な固定子導体が配設された固定子と、交流電流が流れることで回転磁界を発生可能な回転子導体が配設された第1回転子と、第1回転子に対し相対回転可能な第2回転子であって、回転子導体で発生した回転磁界が作用するのに応じて第1回転子との間にトルクが作用し、固定子導体で発生した回転磁界が作用するのに応じて固定子との間にトルクが作用する第2回転子と、回転子導体と固定子導体との間で電力変換を行うことが可能な電力変換部と、を備え、回転子導体は、第1回転子と第2回転子との間に回転差が発生するのに起因して誘導電流が流れることで回転磁界を発生し、第1回転子に原動機の動力が伝達され、第2回転子から変速機構を介さずに変速機の出力軸へ動力が伝達されることを要旨とする。
【0010】
本発明の一態様では、変速機構を介さずに第2回転子からの動力を変速機の出力軸へ伝達する伝動機構が設けられていることが好適である。この態様では、伝動機構の変速比が変速機の最大変速比よりも小さいことが好適である。
【0011】
本発明の一態様では、変速機構及び伝動機構の両方を介して原動機の動力を変速機の出力軸へ伝達する場合に、回転子導体の交流電流により第1回転子と第2回転子との間にトルクを作用させることが好適である。
【0012】
本発明の一態様では、変速機構を介さずに原動機の動力を変速機の出力軸へ伝達する場合に、回転子導体の交流電流により第1回転子と第2回転子との間にトルクを作用させることが好適である。
【0013】
本発明の一態様では、変速機構は、それぞれ変速比が異なる複数の変速ギア機構と、複数の変速ギア機構のうちのいずれか1つを介して入力軸と出力軸とを係合させ、且つ該係合させる変速ギア機構を切り替えることが可能な係合機構と、を有することが好適である。
【0014】
本発明の一態様では、係合機構により係合させる変速ギア機構の切り替え中に、固定子と第2回転子との間にトルクが作用するように、固定子導体への電力供給により固定子導体に交流電流を流すことが好適である。
【0015】
本発明の一態様では、係合機構により係合させる変速ギア機構の切り替え中に、第1回転子の回転速度が第2回転子の回転速度よりも高いときは、第1回転子と第2回転子との間にトルクが作用するように、回転子導体に誘導電流が流れるのを許容することが好適である。
【0016】
本発明の一態様では、係合機構により係合させる変速ギア機構の切り替え中に、第1回転子の回転速度が第2回転子の回転速度よりも低いときは、第1回転子と第2回転子との間にトルクが作用するように、回転子導体への電力供給により回転子導体に交流電流を流すことが好適である。
【0017】
本発明の一態様では、原動機及び第1回転子のいずれかを変速機の入力軸から切り離すことが可能なクラッチ機構をさらに備え、係合機構により係合させる変速ギア機構の切り替え中に、クラッチ機構により原動機及び第1回転子のいずれかを変速機の入力軸から切り離すことが好適である。
【0018】
本発明の一態様では、原動機及び第1回転子を変速機の入力軸から切り離すことが可能なクラッチ機構をさらに備え、係合機構により係合させる変速ギア機構の切り替え中に、クラッチ機構により原動機及び第1回転子を変速機の入力軸から切り離し、第1回転子の回転速度が第2回転子の回転速度よりも高くなるように、原動機の回転速度を制御することが好適である。
【0019】
本発明の一態様では、変速機構は、現変速段に対応する摩擦係合装置を解放して次変速段に対応する摩擦係合装置を係合させることで、入力軸と出力軸との間の変速比を現変速段に対応する変速比から次変速段に対応する変速比に変更することが可能であることが好適である。
【0020】
本発明の一態様では、変速機の変速比を現変速段に対応する変速比から次変速段に対応する変速比に変更するときに、固定子導体の交流電流により固定子と第2回転子との間にトルクを作用させることが好適である。
【0021】
本発明の一態様では、変速機の変速比を現変速段に対応する変速比から次変速段に対応する変速比に変更するときに、回転子導体の交流電流により第1回転子と第2回転子との間にトルクを作用させることが好適である。
【0022】
本発明の一態様では、変速機構は、入力軸に連結された入力回転部材及び出力軸に連結された出力回転部材への変速用伝動部材の接触径を変化させることで、入力軸と出力軸との間の変速比を連続的に変化させることが可能であることが好適である。
【0023】
本発明の一態様では、原動機から変速機構を介した負荷への動力伝達を遮断するか否かを選択することが可能な動力遮断機構をさらに備えることが好適である。この態様では、原動機の動力により停止状態の負荷を駆動するときには、原動機から変速機構を介した負荷への動力伝達を動力遮断機構により遮断し、第1回転子と第2回転子との間にトルクが作用するように、回転子導体に誘導電流が流れるのを許容することが好適である。
【0024】
本発明の一態様では、回転子導体の交流電力を取り出すための電力伝達部と、電力伝達部で取り出された交流電力を電力変換して固定子導体へ供給することが可能な電力変換部と、をさらに備えることが好適である。この態様では、電力伝達部は、電力変換部に接続されたブラシと、第1回転子の回転子導体に接続され、ブラシに対し摺動しながら第1回転子とともに回転するスリップリングと、を含むことが好適である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、原動機の動力を負荷へ伝達する場合に、第1回転子と第2回転子との間に作用するトルク分、変速機の変速機構に伝達されるトルクを減少させることができ、変速機のトルク容量を低減することができる。その結果、動力伝達装置の小型化及び高効率化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態に係る動力伝達装置を備えるハイブリッド駆動装置の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る動力伝達装置の概略構成を示す図である。
【図3】回転電機10の入力側ロータ28、出力側ロータ18、及びステータ16の構成例を示す図である。
【図4】回転電機10の入力側ロータ28、出力側ロータ18、及びステータ16の構成例を示す図である。
【図5】本発明の実施形態に係る動力伝達装置のパワーフローを説明する図である。
【図6】エンジンによる入力回転数に対して流体式トルクコンバータがトルク伝達可能な範囲を示す図である。
【図7】エンジンによる入力回転数に対して回転電機10がトルク伝達可能な範囲を示す図である。
【図8】流体式トルクコンバータを使用する構成における車速とエンジン回転数との関係の一例を示す図である。
【図9】クラッチまたは回転電機10を使用する構成における車速とエンジン回転数との関係の一例を示す図である。
【図10】本発明の実施形態に係る動力伝達装置におけるエンジン回転数と出力軸回転数との関係の一例を示す図である。
【図11】本発明の実施形態に係る動力伝達装置のパワーフローを説明する図である。
【図12】本発明の実施形態に係る動力伝達装置のパワーフローを説明する図である。
【図13】本発明の実施形態に係る動力伝達装置のパワーフローを説明する図である。
【図14】本発明の実施形態に係る動力伝達装置のパワーフローを説明する図である。
【図15】本発明の実施形態に係る動力伝達装置のパワーフローを説明する図である。
【図16】有段変速でのエンジンの動作可能な領域と最適熱効率ラインとの関係の一例を示す図である。
【図17】本発明の実施形態に係る動力伝達装置のパワーフローを説明する図である。
【図18】本発明の実施形態に係る動力伝達装置のパワーフローを説明する図である。
【図19】本発明の実施形態に係る動力伝達装置の他の概略構成を示す図である。
【図20】本発明の実施形態に係る動力伝達装置の他の概略構成を示す図である。
【図21】本発明の実施形態に係る動力伝達装置の変速動作を説明する図である。
【図22】本発明の実施形態に係る動力伝達装置の他の概略構成を示す図である。
【図23】本発明の実施形態に係る動力伝達装置のパワーフローを説明する図である。
【図24】本発明の実施形態に係る動力伝達装置のパワーフローを説明する図である。
【図25】本発明の実施形態に係る動力伝達装置の他の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための形態(以下実施形態という)を図面に従って説明する。
【0028】
図1〜3は、本発明の実施形態に係る動力伝達装置を備えるハイブリッド駆動装置の構成の概略を示す図であり、図1は全体構成の概略を示し、図2,3は回転電機10の構成の概略を示す。本実施形態に係るハイブリッド駆動装置は、動力(機械的動力)を発生可能な原動機として設けられたエンジン(内燃機関)36と、エンジン36と車輪38との間に設けられ、変速比の変更が可能な変速機44と、動力(機械的動力)の発生及び発電が可能な回転電機10と、を備える。なお、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置については、例えば車両を駆動するための動力出力装置として用いることができる。
【0029】
変速機44の構成については、公知の常時噛合式のマニュアルトランスミッションと同様の構成を適用可能である。つまり、変速機44は、エンジン36と機械的に連結されていることでエンジン36の動力が伝達される入力軸61と、車輪38と機械的に連結されていることで車輪38へ動力を伝達する出力軸62と、それぞれ変速比(ギア比)が異なる複数(図1に示す例では4段)の変速ギア機構63−2〜63−5と、複数の変速ギア機構63−2〜63−5のうちのいずれか1つを介して入力軸61と出力軸62とを係合させ、且つ係合させる変速ギア機構を切り替えることが可能な係合機構64と、を有する。変速ギア機構(2速ギア機構とする)63−2においては、互いに噛み合う入力側ギア63−2a及び出力側ギア63−2bの一方が入力軸61及び出力軸62の一方と係合しており、入力側ギア63−2a及び出力側ギア63−2bの他方が入力軸61及び出力軸62の他方に対し回転可能に支持されている。図1に示す例では、2速ギア機構63−2の入力側ギア63−2aが入力軸61と係合しており、2速ギア機構63−2の出力側ギア63−2bが出力軸62に対し回転可能に支持されている。同様に、kを3〜5のいずれかの整数とすると、変速ギア機構(k速ギア機構とする)63−kにおいても、互いに噛み合う入力側ギア63−ka及び出力側ギア63−kbの一方が入力軸61及び出力軸62の一方と係合しており、入力側ギア63−ka及び出力側ギア63−kbの他方が入力軸61及び出力軸62の他方に対し回転可能に支持されている。図1に示す例では、3速ギア機構63−3の入力側ギア63−3aが入力軸61と係合しており、3速ギア機構63−3の出力側ギア63−3bが出力軸62に対し回転可能に支持されている。そして、4速ギア機構63−4の入力側ギア63−4a及び5速ギア機構63−5の入力側ギア63−5aが入力軸61に対し回転可能に支持されており、4速ギア機構63−4の出力側ギア63−4b及び5速ギア機構63−5の出力側ギア63−5bが出力軸62と係合している。ここでの変速ギア機構63−2〜63−5は、いずれも車両を前進させる(車輪38を正転駆動する)ための前進用のギア機構であり、変速比(ギア比、入力側ギア回転速度/出力側ギア回転速度)の大きい順から並べると、「2速ギア機構63−2」→「3速ギア機構63−3」→「4速ギア機構63−4」→「5速ギア機構63−5」の順となる。なお、変速機44には、1速用の変速ギア機構と、車両を後退させる(車輪38を逆転駆動する)ための後退用(リバース用)の変速ギア機構が設けられていないが、その理由については後述する。
【0030】
変速機44においては、複数の変速段(図1に示す例では2速〜5速)のうちのいずれか1つを選択することが可能であり、且つ選択する変速段の切り替えが可能である。2速ギアまたは3速ギアを選択する場合は、係合機構64は、m速ギア機構63−m(mは2または3)の出力側ギア63−mbを出力軸62と係合させることで、m速ギア機構63−m(入力側ギア63−ma及び出力側ギア63−mb)を介して入力軸61と出力軸62とを係合させる。4速ギアまたは5速ギアを選択する場合は、係合機構64は、m速ギア機構63−m(mは4または5)の入力側ギア63−maを入力軸61と係合させることで、m速ギア機構63−mを介して入力軸61と出力軸62とを係合させる。m速ギアが選択されている場合は、入力軸61に伝達されたエンジン36からの動力は、m速ギア機構63−mで変速されて出力軸62から車輪38へ伝達される。そして、m速ギアからn速ギア(m,nは2〜5のいずれかの整数でm≠n)へ切り替える場合は、係合機構64は、m速ギア機構63−mを介した入力軸61と出力軸62との係合を解除して、n速ギア機構63−nを介して入力軸61と出力軸62とを係合させることで、入力軸61と出力軸62とを係合させる変速ギア機構をm速ギア機構63−mからn速ギア機構63−nに切り替える。これによって、変速機44の変速比を変更する変速動作を行うことができる。ここでの係合機構64は、2速ギアまたは3速ギアを選択するときに出力軸62と出力側ギア63−mb(mは2または3)との回転を同期させるためのシンクロメッシュ(同期噛合機構)と、4速ギアまたは5速ギアを選択するときに入力軸61と入力側ギア63−ma(mは4または5)との回転を同期させるためのシンクロメッシュと、を含んで構成することもできる。このように、常時噛合式のマニュアルトランスミッションでは、変速ギア機構63−2〜63−5と係合機構64とを含んで、入力軸61と出力軸62との間の変速比を多段階(図1に示す例では4段階)に変化させることが可能な変速機構を構成することができる。
【0031】
回転電機10は、図示しないステータケースに固定されたステータ16と、ステータ16に対し相対回転可能な第1ロータ28と、ロータ回転軸と直交する径方向においてステータ16及び第1ロータ28と所定の空隙を空けて対向し、ステータ16及び第1ロータ28に対し相対回転可能な第2ロータ18と、を有する。ステータ16は、第1ロータ28より径方向外側の位置に第1ロータ28と間隔を空けて配置されており、第2ロータ18は、径方向においてステータ16と第1ロータ28との間の位置に配置されている。つまり、第1ロータ28は第2ロータ18より径方向内側の位置で第2ロータ18と対向配置されており、ステータ16は第2ロータ18より径方向外側の位置で第2ロータ18と対向配置されている。
【0032】
第1ロータ28はエンジン36及び変速機44の入力軸61と機械的に連結されていることで、第1ロータ28にはエンジン36の動力が伝達される。一方、第2ロータ18は、変速機44の変速ギア機構63−2〜63−5に対し並列に設けられた、例えばギア機構等の伝動機構37を介して変速機44の出力軸62と係合していることで、変速機44の出力軸62(車輪38)には、第2ロータ18からの動力が変速機44の変速ギア機構63−2〜63−5を介さずに伝動機構37を介して伝達される。伝動機構37は、互いに係合する(噛み合う)入力側回転部材(入力側ギア)37a及び出力側回転部材(出力側ギア)37bを含み、入力側回転部材37aが第2ロータ18と機械的に連結され、出力側回転部材37bが変速機44の出力軸62と機械的に連結されている。複数の変速ギア機構63−2〜63−5は、伝動機構37よりも変速比(ギア比)の大きいギア機構を含む。図1に示す例では、2速ギア機構63−2の変速比が伝動機構37の変速比(入力側回転部材回転速度/出力側回転部材回転速度)よりも大きく、伝動機構37の変速比は、変速機44の最大変速比よりも小さく、変速機44の最小変速比よりも大きい。なお、以下の説明では、第1ロータ28を入力側ロータとし、第2ロータ18を出力側ロータとする。
【0033】
入力側ロータ28は、ロータコア(第1回転子鉄心)52と、ロータコア52にその周方向に沿って配設された複数相(例えば3相)のロータ巻線30と、を含む。複数相のロータ巻線30に複数相(例えば3相)の交流電流が流れることで、ロータ巻線30は、ロータ周方向に回転する回転磁界を発生することができる。
【0034】
ステータ16は、ステータコア(固定子鉄心)51と、ステータコア51にその周方向に沿って配設された複数相(例えば3相)のステータ巻線20と、を含む。複数相のステータ巻線20に複数相(例えば3相)の交流電流が流れることで、ステータ巻線20は、ステータ周方向に回転する回転磁界を発生することができる。
【0035】
出力側ロータ18は、ロータコア(第2回転子鉄心)53と、ロータコア53にその周方向に沿って配設され界磁束を発生する永久磁石32,33と、を含む。永久磁石32は、ロータコア53の外周部にステータ16(ステータコア51)と対向して配設されており、永久磁石33は、ロータコア53の内周部に入力側ロータ28(ロータコア52)と対向して配設されている。ここでは、永久磁石32,33を一体化することも可能である。
【0036】
入力側ロータ28、出力側ロータ18、及びステータ16のより詳細な構成例を図4に示す。図4に示す例では、入力側ロータ28、出力側ロータ18、及びステータ16が同心円状に配置されている。ステータ16のステータコア51には、径方向内側へ(出力側ロータ18へ向けて)突出した複数のティース51aがステータ周方向に沿って間隔をおいて配列されており、各ステータ巻線20がこれらのティース51aに巻回されていることで、磁極が構成される。入力側ロータ28のロータコア52には、径方向外側へ(出力側ロータ18へ向けて)突出した複数のティース52aがロータ周方向に沿って間隔をおいて配列されており、各ロータ巻線30がこれらのティース52aに巻回されていることで、磁極が構成される。ステータ16のティース51aと出力側ロータ18の永久磁石32とが出力側ロータ18の回転中心軸(入力側ロータ28の回転中心軸と一致する)に直交する径方向に対向配置されており、入力側ロータ28のティース52aと出力側ロータ18の永久磁石33とがこの径方向に対向配置されている。ステータ巻線20の巻回軸及びロータ巻線30の巻回軸は、この径方向(入力側ロータ28と出力側ロータ18が対向する方向)に一致している。永久磁石32,33はロータ周方向に間隔をおいて配列されており、さらに、永久磁石32はロータコア53内にV字状に埋設されている。ただし、永久磁石32,33については、出力側ロータ18の表面(外周面または内周面)に露出していてもよいし、出力側ロータ18内(ロータコア53内)に埋設されていてもよい。
【0037】
直流電源として設けられた充放電可能な蓄電装置42は、例えば二次電池により構成することができ、電気エネルギーを蓄える。インバータ40は、スイッチング素子(図示せず)を備えており、スイッチング素子のスイッチング動作により蓄電装置42からの直流電力を交流(例えば3相交流)に変換して、ステータ巻線20の各相に供給することが可能である。さらに、インバータ40は、ステータ巻線20の各相に流れる交流電流を直流に変換して、電気エネルギーを蓄電装置42に回収する方向の電力変換も可能である。
【0038】
スリップリング95は、入力側ロータ28と機械的に連結されており、ロータ巻線30の各相及びブラシ96とそれぞれ電気的に接続されている。スリップリング95は、回転が固定されたブラシ96に対し摺動しながら(ブラシ96との電気的接続を維持しながら)、入力側ロータ28とともに回転する。ブラシ96は、インバータ41と電気的に接続されている。インバータ41は、スイッチング素子(図示せず)を備えており、スイッチング素子のスイッチング動作により蓄電装置42からの直流電力を交流(例えば3相交流)に変換して、ブラシ96及びスリップリング95を介してロータ巻線30の各相に供給することが可能である。さらに、インバータ41は、ロータ巻線30の各相に流れる交流電流を直流に変換する方向の電力変換も可能である。その際には、ロータ巻線30の交流電力がスリップリング95及びブラシ96により取り出され、この取り出された交流電力がインバータ41で直流に変換される。インバータ41で直流に変換された電力は、インバータ40で交流に変換されてからステータ巻線20の各相へ供給可能である。つまり、インバータ40は、インバータ41からの直流電力と蓄電装置42からの直流電力とのいずれか(少なくとも一方)を交流に変換してステータ巻線20の各相へ供給することが可能である。また、インバータ41で直流に変換された電力を蓄電装置42に回収することも可能である。このように、インバータ40,41を含んで、ロータ巻線30とステータ巻線20との間で電力変換を行うことが可能な電力変換部を構成することができ、スリップリング95及びブラシ96により取り出されたロータ巻線30からの交流電力を電力変換してステータ巻線20の各相へ供給することができる。そして、スリップリング95及びブラシ96により、ロータ巻線30の電力(交流電力)を取り出すための電力伝達部を構成することができる。
【0039】
電子制御ユニット50は、インバータ40のスイッチング素子のスイッチング動作を制御することで、ステータ巻線20の各相に流れる交流電流を制御する。そして、電子制御ユニット50は、インバータ41のスイッチング素子のスイッチング動作を制御することで、ロータ巻線30の各相に流れる交流電流を制御する。さらに、電子制御ユニット50は、エンジン36の運転状態の制御、及び変速機44の変速段を選択するための係合機構64の駆動制御も行う。本実施形態では、係合機構64の駆動制御による変速機44の変速段の選択が電子制御ユニット50により行われ、変速機44は自動マニュアル変速機(AMT)として機能する。
【0040】
インバータ40のスイッチング動作により複数相のステータ巻線20に複数相(例えば3相)の交流電流が流れることで、ステータ巻線20は、ステータ周方向に回転する回転磁界を発生する。そして、ステータ巻線20で発生した回転磁界と永久磁石32で発生した界磁束との電磁気相互作用(吸引及び反発作用)により、出力側ロータ18にトルク(磁石トルク)を作用させることができ、出力側ロータ18を回転駆動することができる。つまり、蓄電装置42からステータ巻線20に供給された電力を出力側ロータ18の動力(機械的動力)に変換することができる。さらに、インバータ40は、ステータ巻線20の各相に流れる交流電流を直流に変換して、電気エネルギーを蓄電装置42に回収する方向の変換も可能である。その場合は、出力側ロータ18の動力がステータ巻線20の電力に変換されて蓄電装置42に回収される。このように、ステータ16のステータ巻線20と出力側ロータ18の永久磁石32とが電磁気的に結合されていることで、ステータ巻線20で発生する回転磁界を出力側ロータ18に作用させて、ステータ16と出力側ロータ18との間にトルク(磁石トルク)を作用させることができる。さらに、例えば図4に示すように、永久磁石32間に突極部として磁性体(強磁性体)がステータ16(ティース51a)と対向して配置されている例や、永久磁石32が出力側ロータ18内(ロータコア53内)に埋設されている例では、ステータ16の発生する回転磁界が出力側ロータ18に作用するのに応じて、磁石トルクに加えてリラクタンストルクもステータ16と出力側ロータ18との間に作用する。そして、インバータ40は双方向の電力変換が可能であり、蓄電装置42はステータ巻線20に対して電力の送受が可能である。
【0041】
また、入力側ロータ28が出力側ロータ18に対し相対回転して入力側ロータ28(ロータ巻線30)と出力側ロータ18(永久磁石33)との間に回転差が生じるのに伴ってロータ巻線30に誘導起電力が発生し、この誘導起電力に起因してロータ巻線30に誘導電流が流れることで回転磁界が生じる。そして、ロータ巻線30の誘導電流により生じる回転磁界と永久磁石33の界磁束との電磁気相互作用によっても、出力側ロータ18にトルクを作用させることができ、出力側ロータ18を回転駆動することができる。このように、入力側ロータ28のロータ巻線30と出力側ロータ18の永久磁石33とが電磁気的に結合されていることで、ロータ巻線30で発生する回転磁界が出力側ロータ18に作用するのに応じて、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルク(磁石トルク)が作用する。そのため、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間で動力(機械的動力)を伝達することができ、電磁カップリング機能を実現することができる。
【0042】
ロータ巻線30の誘導電流により入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクを発生させる際には、電子制御ユニット50は、ロータ巻線30に誘導電流が流れるのを許容するように、インバータ41のスイッチング動作を行う。一方、電子制御ユニット50は、インバータ41のスイッチング素子をオフ状態に維持してスイッチング動作を停止させることで、ロータ巻線30に誘導電流が流れなくなり、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクは作用しなくなる。
【0043】
次に、本実施形態に係るハイブリッド駆動装置の動作、特に、車輪38を回転駆動する場合の動作について説明する。
【0044】
エンジン36が動力を発生している状態で車両が停止(車輪38の回転が停止)している場合は、電子制御ユニット50は、変速機44の変速ギア機構63−2〜63−5を介した入力軸61と出力軸62との係合を解除することで、変速ギア機構63−2〜63−5を介した入力軸61から出力軸62への動力伝達を遮断する。エンジン36が動力を発生している状態では、エンジン36の動力が入力側ロータ28に伝達され、入力側ロータ28が回転駆動する。入力側ロータ28の回転速度が出力側ロータ18の回転速度より高くなると、ロータ巻線30に誘導起電力が発生する。車両を前進方向に発進させる(車輪38を正転方向に回転駆動する)場合は、電子制御ユニット50は、ロータ巻線30に誘導電流が流れるのを許容するように、インバータ41のスイッチング動作を行う。これによって、ロータ巻線30の誘導電流と永久磁石33の界磁束との電磁気相互作用により出力側ロータ18にトルクが作用して出力側ロータ18が回転駆動する。つまり、図5の矢印aに示すように、入力側ロータ28に伝達されたエンジン36からの動力は、入力側ロータ28のロータ巻線30と出力側ロータ18の永久磁石33との電磁気結合によって、出力側ロータ18へ伝達される。そして、出力側ロータ18に伝達された動力は、伝動機構37を介して車輪38へ伝達されることで、車両の駆動等、負荷の駆動に用いられる。したがって、図5の矢印aに示すように、エンジン36の動力を、変速ギア機構63−2〜63−5を介さずに伝動機構37を介して車輪38へ伝達することができ、車輪38を正転方向に回転駆動する(車両を前進方向に発進させる)ことができる。さらに、入力側ロータ28と出力側ロータ18との回転差を許容することができるため、車輪38の回転が停止してもエンジン36がストールすることはなく、回転電機10を発進装置として機能させることができる。そのため、摩擦クラッチやトルクコンバータ等の発進装置を別に設ける必要がなくなる。なお、特許文献1では、第2ロータのトルクTR2を利用して車両を発進させるためには、蓄電装置からステータ巻線に電力供給することが必要となる。そのため、蓄電装置の蓄電量が少ない場合や極低温時等、蓄電装置からステータ巻線への電力供給が困難となるときは、第2ロータのトルクTR2を利用して車両を発進させることが困難となり、摩擦クラッチやトルクコンバータ等の発進装置が別に必要となる。これに対して本実施形態では、蓄電装置42からステータ巻線20への電力供給を行うことなく、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間で動力伝達を行うことができるため、蓄電装置42の蓄電量が少ない場合や極低温時等においても、エンジン36からの動力を車輪38へ伝達することができる。
【0045】
さらに、ロータ巻線30に発生した交流電力は、スリップリング95及びブラシ96を介して取り出される。取り出された交流電力はインバータ41で直流に変換される。そして、インバータ40のスイッチング動作により、インバータ41からの直流電力がインバータ40で交流に変換されてからステータ巻線20に供給されることで、ステータ巻線20に交流電流が流れ、ステータ16に回転磁界が形成される。このステータ16の回転磁界と出力側ロータ18の永久磁石32の界磁束との電磁気相互作用によっても、出力側ロータ18にトルクが作用して出力側ロータ18が回転駆動する。つまり、図5の矢印bに示すように、ロータ巻線30からステータ巻線20に供給される電力を利用して出力側ロータ18に動力を発生させて、伝動機構37を介して車輪38へ伝達することができる。これによって、出力側ロータ18のトルクを増幅させるトルク増幅機能を実現することができ、車両の前進方向の駆動力(車輪38の正転方向のトルク)を増幅させることができる。また、インバータ41からの直流電力を蓄電装置42に回収することも可能である。
【0046】
さらに、蓄電装置42からステータ巻線20へ電力供給するようにインバータ40のスイッチング動作を制御することで、エンジン36の動力を用いて車輪38を正転方向に回転駆動するとともに、ステータ巻線20への供給電力を用いて発生させた出力側ロータ18の動力により車輪38の正転方向の回転駆動をアシストすることができる。また、負荷の減速運転時には、電子制御ユニット50は、ステータ巻線20から蓄電装置42へ電力回収するようにインバータ40のスイッチング動作を制御することで、負荷の動力をステータ巻線20と永久磁石32との電磁気結合によってステータ巻線20の電力に変換して蓄電装置42に回収することができる。なお、特許文献1では、ステータと第2ロータとの間に作用するトルクTSEと、第1ロータと第2ロータとの間に作用するトルクTR1との比が1:1で固定である。そのため、第2ロータのトルクTR2を利用して車両を発進させる際には、発進トルクの半分をエンジンで発生する必要があり、効率の低下を伴う。さらに、車両の減速運転時には、回生トルク(ステータと第2ロータとの間に作用するトルクTSE)が制動トルクの半分となるため、十分な回生トルクが得られない。さらに、変速機を動力の一部が通過するとともに、制動トルクによっては動力循環が発生し、回生効率が低下する。これに対して本実施形態では、ステータ16と出力側ロータ18との間に作用するトルクと、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用するトルクとの比を任意に制御することができる。そのため、車両の発進時には、エンジン36のトルクの何倍もの大きな発進トルクを得ることが可能となり、効率向上につながる。さらに、車両の減速運転時には、ステータ16と出力側ロータ18との間に作用する回生トルクにより制動トルクを車輪38に直接作用させることができるため、高い回生効率を実現可能となる。
【0047】
このように、本実施形態では、エンジン36からの動力を変速機44の変速ギア機構63−2〜63−5のうちのいずれか1つで変速して車輪38へ伝達することが可能な第1の動力伝達経路の他に、エンジン36からの動力を変速機44の変速ギア機構63−2〜63−5に対し並列に設けられた、入力側ロータ28、出力側ロータ18、及び伝動機構37を介して車輪38へ伝達することが可能な第2の動力伝達経路が設けられている。図5に示すように、変速ギア機構63−2〜63−5(第1の動力伝達経路)を介さずに伝動機構37(第2の動力伝達経路)を介してエンジン36の動力を車輪38(変速機44の出力軸62)へ伝達する場合は、電子制御ユニット50は、ロータ巻線30に誘導電流が流れるのを許容するようにインバータ41のスイッチング動作を行うことで、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクを作用させる。それとともに、電子制御ユニット50は、ステータ巻線20に交流電流が流れるようにインバータ40のスイッチング動作によりステータ巻線20への電力供給を行うことで、ステータ16と出力側ロータ18との間にトルクを作用させる。これによって、車輪38(変速機44の出力軸62)へ伝達されるトルクを増加させることができる。その際には、変速機44の2速ギア機構63−2を介してエンジン36のトルクを車輪38に伝達する場合よりも、車輪38に伝達されるトルクを大きくすることができ、1速ギアに相当する変速比を得ることができる。したがって、変速機44の1速用の変速ギア機構を省略することが可能となる。その結果、変速機44の変速段の数によっては、係合機構64(シンクロメッシュ)の数を減らすことが可能となる。なお、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用するトルクの制御については、インバータ41のスイッチング動作により例えばロータ巻線30に流れる交流電流の振幅や位相角を制御することで行うことができ、ステータ16から出力側ロータ18に作用するトルクの制御については、インバータ40のスイッチング動作により例えばステータ巻線20に流れる交流電流の振幅や位相角を制御することで行うことができる。また、以下の説明では、変速ギア機構63−2〜63−5(第1の動力伝達経路)を介さずに伝動機構37(第2の動力伝達経路)を介してエンジン36の動力が車輪38へ伝達される状態を、e速ギアが選択された状態とする。
【0048】
エンジンによる入力回転数に対して流体式トルクコンバータがトルク伝達可能な範囲(速度比の範囲を0.9以下とした場合)を図6の領域Aに示し、エンジンによる入力回転数に対して本実施形態の回転電機10がトルク伝達可能な範囲を図7の領域Bに示す。回転電機10の代わりに流体式トルクコンバータを使用した場合は、車速とエンジントルクによってエンジン回転数が一意に決定され、限定された範囲のみでの駆動となる。このような性質上、流体式トルクコンバータを使用する構成では、例えば図8の車速とエンジン回転数との関係(太線C)に示すように、発進状態でエンジン回転数が不要に高くなることや、ロックアップの車速が高くなる場合、出力トルクが徐々に減少するといった現象により、運転者がすべりを感じる原因となり、ドライバビリティを考慮すると自動マニュアル変速機(AMT)には適用し難い。これに対して、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用するトルクを制御可能な、本実施形態の回転電機10では、エンジントルクをエンジン回転数によらず制御可能であるため、全域でエンジントルクを伝達することが可能であり、各車速に対して、エンジン回転数、エンジントルクをほぼ自由に選択することが可能である。その結果、例えば図9の車速とエンジン回転数との関係(太線D)に示すように、マニュアル変速機(MT)のような特性の発進も可能であるため、自動マニュアル変速機(AMT)と組み合わせることで、MTを操作時のダイレクト感を損なわない制御が可能となる。
【0049】
e速ギアが選択された状態では、図10の領域Eに示すように、入力側ロータ28と出力側ロータ18間のトルク伝達に最低限必要となる差回転が得られる範囲であれば、変速比(減速比、エンジン回転数/出力軸回転数)は無段且つ自由である。その後、エンジン回転数及び出力軸回転数の動作点が、2速ギア機構63−2と減速比が同じ(あるいはほぼ同じ)になる動作点に達すると、2速ギア機構63−2の出力側ギア63−2bの回転が変速機44の出力軸62の回転と同期(あるいはほぼ同期)する。そこで、変速機44では、係合機構64により出力側ギア63−2bと出力軸62とを係合させて、2速ギア機構63−2を介して入力軸61と出力軸62とを係合させることで、変速機44の2速ギアを選択することが可能である。これによって、図11の矢印cに示すように、変速機44の2速ギア機構63−2を介してエンジン36の動力を車輪38へ伝達することが可能となる。2速ギアが選択されたら、インバータ40,41のスイッチング動作を停止させて、ステータ巻線20及びロータ巻線30に交流電流が流れないようにすることで、ステータ16と出力側ロータ18との間、及び入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクを作用させないようにする。これによって、e速ギアから2速ギアに移行することができ、図12の矢印cに示すように、伝動機構37(第2の動力伝達経路)を介さずに変速機44の2速ギア機構63−2(第1の動力伝達経路)を介してエンジン36の動力が車輪38へ伝達される。一方、2速ギアが選択された状態において、インバータ40,41のスイッチング動作によりステータ巻線20及びロータ巻線30に交流電流が流れるようにすることで、伝動機構37(第2の動力伝達経路)を介してエンジン36の動力を車輪38へ伝達することが可能となり、e速ギアに移行することが可能となる。本実施形態では、エンジン36から車輪38への動力伝達が遮断されることなく、e速ギアと2速ギアとの間の移行(変速動作)を滑らかに行うことができる。
【0050】
変速機44では、係合機構64によるm速ギア機構63−mを介した入力軸61と出力軸62との係合を解除し、係合機構64によりn速ギア機構63−nを介して入力軸61と出力軸62とを係合させることで、m速ギアからn速ギアに切り替える変速動作を行うことが可能となる(m,nは2〜5のいずれかの整数でm≠n)。ただし、m速ギア機構63−mを介した入力軸61と出力軸62との係合を解除してからn速ギア機構63−nを介して入力軸61と出力軸62とを係合させるまでの期間においては、変速機44での動力伝達が遮断されるため、エンジン36の動力が車輪38に伝達されなくなる。
【0051】
そこで、本実施形態では、電子制御ユニット50は、係合機構64により係合させる変速ギア機構63−2〜63−5の切り替え中に、ステータ巻線20への電力供給によりステータ巻線20に交流電流が流れるようにインバータ40のスイッチング動作を行うことで、ステータ16と出力側ロータ18との間にトルクを作用させる。より具体的には、少なくともm速ギア機構63−mを介した入力軸61と出力軸62との係合を解除してからn速ギア機構63−nを介して入力軸61と出力軸62とを係合させるまでの期間において、ステータ16と出力側ロータ18との間にトルクが作用するように、ステータ巻線20への電力供給によりステータ巻線20に交流電流を流す。これによって、伝動機構37を介して出力側ロータ18の動力を車輪38へ伝達することができ、動力が車輪38へ伝達されなくなるのを回避することができる。
【0052】
また、電子制御ユニット50は、係合機構64により係合させる変速ギア機構63−2〜63−5の切り替え中に、入力側ロータ28の回転速度が出力側ロータ18の回転速度よりも高いときは、ロータ巻線30に誘導電流が流れるのを許容するようにインバータ41のスイッチング動作を行うことで、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクを作用させることもできる。これによって、蓄電装置42からの電力を用いることなく、伝動機構37を介して出力側ロータ18の動力を車輪38へ伝達することができる。さらに、インバータ40,41のスイッチング動作によりロータ巻線30からステータ巻線20に供給される電力を利用して出力側ロータ18に動力を発生させることで、車輪38へ伝達されるトルクを増幅させることができる。
【0053】
一方、電子制御ユニット50は、係合機構64により係合させる変速ギア機構63−2〜63−5の切り替え中に、入力側ロータ28の回転速度が出力側ロータ18の回転速度よりも低いときは、ロータ巻線30への電力供給によりロータ巻線30に交流電流が流れるようにインバータ41のスイッチング動作を行うことで、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクを作用させることもできる。これによっても、伝動機構37を介して出力側ロータ18の動力を車輪38へ伝達することができる。
【0054】
例えば、2速ギアから3速ギアにシフトアップする変速動作を行う場合には、少なくとも2速ギア機構63−2を介した入力軸61と出力軸62との係合を解除してから3速ギア機構63−3を介して入力軸61と出力軸62とを係合させるまでの期間において、ステータ巻線20への電力供給によりステータ巻線20に交流電流を流すことで、ステータ16と出力側ロータ18との間にトルクを作用させる。これによって、図13の矢印bに示すように、出力側ロータ18の動力が伝動機構37を介して車輪38へ伝達される。さらに、入力側ロータ28の回転速度が出力側ロータ18の回転速度よりも高いときは、ロータ巻線30に誘導電流が流れるのを許容して、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクを作用させることで、図13の矢印aに示すように、エンジン36の動力が伝動機構37を介して車輪38へ伝達される。これによって、エンジントルクを利用して車輪38へ伝達されるトルクを増幅させることができるとともに、蓄電装置42からの電力を用いることなくロータ巻線30からステータ巻線20への電力供給により出力側ロータ18に動力を発生させて車輪38へ伝達することができる。一方、入力側ロータ28の回転速度が出力側ロータ18の回転速度よりも低いときは、ロータ巻線30への電力供給によりロータ巻線30に交流電流を流すことで、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクを作用させる。これによって、エンジントルクを利用して車輪38へトルクを伝達することが可能となる。
【0055】
その後、係合機構64により3速ギア機構63−3を介して入力軸61と出力軸62とを係合させることで、変速機44の3速ギアを選択することが可能であり、図13の矢印dに示すように、変速機44の3速ギア機構63−3を介してエンジン36の動力を車輪38へ伝達することが可能となる。3速ギアが選択されたら、インバータ40,41のスイッチング動作を停止させて、ステータ巻線20及びロータ巻線30に交流電流が流れないようにすることで、ステータ16と出力側ロータ18との間、及び入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクを作用させないようにする。これによって、2速ギアから3速ギアへのシフトアップを完了させることができ、図14の矢印dに示すように、伝動機構37を介さずに変速機44の3速ギア機構63−3を介してエンジン36の動力が車輪38へ伝達される。なお、他のシフトアップによる変速動作、及びシフトダウンによる変速動作についても、2速ギアから3速ギアにシフトアップする変速動作と同様に行うことができる。
【0056】
従来において、動力伝達効率に優れたマニュアル操作のギア噛み合い変速機に自動クラッチ機構及び自動変速機構を組み込んで電子制御化した自動マニュアル変速機(AMT)の技術が提案されている。この自動マニュアル変速機では、運転者のアクセル操作量と車両の走行状態とに応じて自動的にクラッチ操作及び変速操作が行われるが、変速比を変更する変速動作時には、クラッチを切断してギア段を切り替えるため、その間は動力伝達が遮断され、動力源であるエンジンの動力が車両の駆動輪に伝達されなくなる。そこで、特開2005−153691号公報(特許文献2)においては、エンジン以外の動力源である電動モータを設け、クラッチの切断時には、電動モータの動力を駆動輪へ伝達している。これによって、変速動作中に動力が駆動輪へ伝達されなくなるのを回避している。さらに、ハイブリッド車両の機能も実現している。しかし、変速比を変更する変速動作中に動力が負荷へ伝達されなくなるのを回避するために、特許文献2のように、クラッチの切断時に電動モータの動力を負荷へ伝達する構成では、自動クラッチ機構及び自動変速機構の他に、電動モータを設けるためのスペースが別途必要になる。さらに、クラッチの切断時に動力を負荷へ伝達する電動モータには、エンジンと同等のトルクを発生させることが要求されるため、電動モータの体格が大型化する。その結果、装置の大型化を招くことになる。
【0057】
これに対して本実施形態では、変速比を変更する変速動作中に、出力側ロータ18の動力を伝動機構37を介して車輪38へ伝達することができる。したがって、変速動作中に動力が車輪38へ伝達されなくなるのを回避することができ、変速動作を滑らかに行うことができる。さらに、本実施形態では、発進装置の機能と、変速動作中に動力を車輪38へ伝達する電動モータの機能とを回転電機10に統合化することができる。そして、回転電機10は、変速動作中には、ステータ16と出力側ロータ18との間に発生するトルク、及び入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に発生するトルクを伝動機構37を介して車輪38へ伝達することができるため、車輪38へ伝達されるトルクを増幅させることができる。その結果、回転電機10の小型化を実現することができる。さらに、変速機44では、1速用及びリバース用の変速ギア機構を省略することが可能となり、係合機構64(シンクロメッシュ)の数を減らすことも可能となる。その結果、変速機44の小型化を実現することができる。したがって、本実施形態によれば、動力伝達装置の小型化を実現することができる。さらに、本実施形態では、変速動作中に入力側ロータ28の回転速度が出力側ロータ18の回転速度よりも高いときは、蓄電装置42からの電力を用いることなく、伝動機構37を介して出力側ロータ18の動力を車輪38へ伝達することができる。その結果、蓄電装置42の容量を低減することができる。
【0058】
また、本実施形態では、係合機構64により変速機44の入力軸61と出力軸62とを変速ギア機構63−2〜63−5のうちのいずれか1つを介して係合させるとともに、ロータ巻線30の交流電流により入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクを作用させることで、例えば図15の矢印a,cに示すように、変速機44の変速機構(第1の動力伝達経路)及び伝動機構37(第2の動力伝達経路)の両方を介して、エンジン36の動力を車輪38(変速機44の出力軸62)へ伝達することが可能である。その場合には、電子制御ユニット50は、ロータ巻線30の交流電流を制御して入力側ロータ28から出力側ロータ18に作用するトルクを制御することで、変速機44の変速機構(変速ギア機構63−2〜63−5のうちのいずれか1つ)を介して伝達される動力と、伝動機構37を介して伝達される動力との配分を制御することができる。なお、図15では、2速ギア機構63−2及び伝動機構37を介して動力を伝達する例を示しているが、他の変速ギア機構63−3〜63−5のうちのいずれか1つ及び伝動機構37を介して動力を伝達することも可能である。
【0059】
入力側ロータ28の回転速度が出力側ロータ18の回転速度よりも高いときは、ロータ巻線30に誘導電流が流れるのを許容するようにインバータ41のスイッチング動作を行うことで、入力側ロータ28から出力側ロータ18にトルクを作用させることができる。さらに、ロータ巻線30からステータ巻線20への電力供給によりステータ巻線20に交流電流が流れるようにインバータ40のスイッチング動作を行い、ステータ16から出力側ロータ18にトルクを作用させることで、図15の矢印bに示すように、ステータ巻線20への供給電力を利用して出力側ロータ18に動力を発生させて、伝動機構37を介して車輪38へ伝達することができる。これによって、車輪38へ伝達されるトルクを増幅させることができる。あるいは、ロータ巻線30に発生した交流電力をインバータ41で直流に変換して蓄電装置42に回収することも可能であるし、ステータ巻線20から蓄電装置42に電力回収するようにインバータ40のスイッチング動作を行うことも可能である。
【0060】
一方、入力側ロータ28の回転速度が出力側ロータ18の回転速度よりも低いときは、ロータ巻線30への電力供給によりロータ巻線30に交流電流が流れるようにインバータ41のスイッチング動作を行うことで、入力側ロータ28から出力側ロータ18にトルクを作用させることができる。さらに、ステータ巻線20から電力回収するようにインバータ40のスイッチング動作を行い、ステータ巻線20の交流電流によりステータ16と出力側ロータ18との間に回生トルクを作用させることで、蓄電装置42からの電力を用いることなくステータ巻線20からロータ巻線30への電力供給により出力側ロータ18に動力を発生させて車輪38へ伝達することができる。あるいは、蓄電装置42からステータ巻線20への電力供給によりステータ巻線20に交流電流が流れるようにインバータ40のスイッチング動作を行うことで、ステータ16から出力側ロータ18にトルクを作用させることも可能であり、ステータ巻線20への電力供給により出力側ロータ18に動力を発生させて車輪38へ伝達することで、車輪38の回転駆動をアシストすることができる。
【0061】
このように、本実施形態では、変速機44の変速機構及び伝動機構37の両方を介してエンジン36の動力を車輪38へ伝達することで、入力側ロータ28から出力側ロータ18に作用するトルク分、変速機44の変速機構に伝達されるトルクを減少させることができる。これによって、変速機44の最大トルク伝達容量を低減することができるので、変速機44の小型化及び高効率化を図ることができる。さらに、入力側ロータ28から出力側ロータ18に作用するトルクを制御して、変速機44の変速機構を介して伝達される動力と伝動機構37を介して伝達される動力との配分を制御することで、動力伝達効率の向上を図ることができる。変速機44の最大トルク伝達容量を低減してエンジン36の最大トルクより小さく設定した場合は、電子制御ユニット50は、エンジン36から変速機44の変速機構に伝達されるトルクが変速機44の最大トルク伝達容量を超えないように、ロータ巻線30の交流電流を制御して入力側ロータ28から出力側ロータ18に作用するトルクを制御することが望ましい。より具体的には、電子制御ユニット50は、エンジン36のトルクが所定値(例えば変速機44の最大トルク伝達容量)より大きいと判定したときは、エンジン36から変速機44の変速機構に伝達されるトルクが変速機44の最大トルク伝達容量を下回るように、入力側ロータ28から出力側ロータ18に作用するトルクを制御することが望ましい。
【0062】
なお、特許文献1では、変速機と第1及び第2ロータとの両方を介してエンジンの動力を被駆動部へ伝達するためには、蓄電装置からステータ巻線に電力供給することが必要となる。そのため、蓄電装置の蓄電量が少ない場合や極低温時等、蓄電装置からステータ巻線への電力供給が困難となるときは、変速機と第1及び第2ロータとの両方を介してエンジンの動力を被駆動部へ伝達することが困難となり、変速機を介して伝達されるトルクを減少させることが困難となる。これに対して本実施形態では、ロータ巻線30とステータ巻線20との間でインバータ40,41を介して電力変換を行うことで、蓄電装置42を用いることなく、変速機44の変速機構及び伝動機構37の両方を介してエンジン36の動力を車輪38へ伝達することができる。そのため、蓄電装置42の蓄電量が少ない場合や極低温時等においても、変速機44の変速機構に伝達されるトルクを減少させることができる。
【0063】
また、特許文献1において、エンジンの動力の一部を用いてステータ巻線で発電を行う場合は、エンジンの動力の一部が変速機と第2ロータと第1ロータを介してエンジンの出力軸側に戻る動力循環が発生し、この動力循環経路に変速機を有するため、動力伝達効率が低下する。これに対して本実施形態では、エンジン36の動力の一部を用いて発電を行う場合は、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用するトルクによりエンジン36の動力を出力側ロータ18に伝達し、ステータ16と出力側ロータ18との間に作用する回生トルクによりエンジン36から出力側ロータ18に伝達された動力の一部を用いてステータ巻線20で発電を行うことができるので、高効率な発電が可能となる。さらに、出力側ロータ18の回転速度がエンジン36の回転速度以上となる状態で発電を行うこともでき、これによっても、高効率な発電が可能となる。なお、入力側ロータ28の回転速度が出力側ロータ18の回転速度よりも低く、ステータ巻線20からロータ巻線30への電力変換をインバータ40,41で行うときは、出力側ロータ18の動力の一部がステータ巻線20、インバータ41,40、及びロータ巻線30を介して出力側ロータ18に戻る動力循環が発生するものの、この動力循環経路に変速機44は含まれないため、この動力循環による効率の低下は少ない。
【0064】
また、ある所定負荷に対して有段の変速機44で動力伝達を行う場合は、例えば図16に示すように、エンジン36の熱効率が高くなる最適熱効率ラインGが有段の変速機44でエンジン36の動作可能な領域F内に入らなくなり、エンジン36の動作状態(回転速度及びトルク)が最適熱効率ラインGから外れ、エンジン36の熱効率が低下する。これに対して本実施形態では、変速ギア機構63−2〜63−5(第1の動力伝達経路)を介さずに伝動機構37(第2の動力伝達経路)を介してエンジン36の動力を車輪38(変速機44の出力軸62)へ伝達する場合は、エンジン36から伝動機構37の出力側回転部材37b(変速機44の出力軸62)にかけての変速比を無段階に変化させることが可能となる。そこで、エンジン36の動作状態(回転速度及びトルク)が最適熱効率ラインGから大きく外れる場合は、変速機44の変速機構(変速ギア機構63−2〜63−5)を介した入力軸61と出力軸62との係合を解除し、ロータ巻線30の交流電流により入力側ロータ28から出力側ロータ18にトルクを作用させることで、変速ギア機構63−2〜63−5を介さずに伝動機構37を介してエンジン36の動力を車輪38へ伝達する。これによって、エンジン36の動作状態(回転速度及びトルク)が最適熱効率ラインG上に位置するように、エンジン36から車輪38への動力伝達を行うことができ、エンジン36の熱効率を向上させることができる。
【0065】
入力側ロータ28の回転速度が出力側ロータ18の回転速度よりも高いときは、ロータ巻線30に誘導電流が流れるのを許容するようにインバータ41のスイッチング動作を行うことで、入力側ロータ28から出力側ロータ18にトルクを作用させることができ、図17の矢印aに示すように、エンジン36の動力を伝動機構37を介して車輪38へ伝達することができる。さらに、ロータ巻線30からステータ巻線20への電力供給によりステータ巻線20に交流電流が流れるようにインバータ40のスイッチング動作を行い、ステータ16から出力側ロータ18にトルクを作用させることで、図17の矢印bに示すように、ロータ巻線30からステータ巻線20への供給電力を利用して出力側ロータ18に動力を発生させて、伝動機構37を介して車輪38へ伝達することができる。これによって、車輪38へ伝達されるトルクを増幅させることができる。
【0066】
一方、入力側ロータ28の回転速度が出力側ロータ18の回転速度よりも低いときは、ロータ巻線30への電力供給によりロータ巻線30に交流電流が流れるようにインバータ41のスイッチング動作を行うことで、入力側ロータ28から出力側ロータ18にトルクを作用させることができ、図18の矢印aに示すように、エンジン36の動力を伝動機構37を介して車輪38へ伝達することができる。さらに、ステータ巻線20から電力回収するようにインバータ40のスイッチング動作を行い、ステータ巻線20の交流電流によりステータ16と出力側ロータ18との間に回生トルクを作用させることで、図18の矢印bに示すように、蓄電装置42からの電力を用いることなく、ステータ巻線20からロータ巻線30への供給電力を利用して出力側ロータ18に動力を発生させて、伝動機構37を介して車輪38へ伝達することができる。
【0067】
また、本実施形態では、エンジン36の動力を用いずに回転電機10の動力を用いて負荷を駆動する(車輪38を回転駆動する)EV(Electric Vehicle)走行を行うことも可能である。EV走行を行う場合は、電子制御ユニット50は、インバータ40のスイッチング動作を制御することで、負荷の駆動制御を行う。例えば、電子制御ユニット50は、蓄電装置42からステータ巻線20へ電力供給するようにインバータ40のスイッチング動作を制御することで、ステータ巻線20への供給電力をステータ巻線20と永久磁石33との電磁気結合によって出力側ロータ18の動力に変換し、この動力を伝動機構37を介して車輪38へ伝達して、車輪38を回転駆動する。このように、エンジン36が動力を発生していなくても、ステータ巻線20への電力供給(EV走行)により車輪38を回転駆動することができ、ハイブリッド車両の機能を実現することができる。
【0068】
また、本実施形態において、車両を後退させる(車輪38を逆転方向に回転駆動する)リバース走行を行うときは、電子制御ユニット50は、蓄電装置42からステータ巻線20へ電力供給するようにインバータ40のスイッチング動作を制御することで、出力側ロータ18に発生させた動力を伝動機構37を介して車輪38へ伝達して、車輪38を逆転方向に回転駆動する。このように、EV走行によりリバース走行を行うことで、変速機44では、後退用(リバース用)の変速ギア機構を省略することが可能となる。
【0069】
本実施形態では、例えば図19,20に示すように、エンジン36及び入力側ロータ28のいずれか1つ以上を変速機44の入力軸61から切り離すことが可能なクラッチ機構68を設けることもできる。図19に示す例では、クラッチ機構68が入力側ロータ28と変速機44の入力軸61との間に設けられており、クラッチ機構68を係合させることで、エンジン36及び入力側ロータ28の両方が変速機44の入力軸61に結合され、クラッチ機構68を解放することで、エンジン36及び入力側ロータ28の両方が変速機44の入力軸61から切り離される。また、図20に示す例では、クラッチ機構68がエンジン36と入力側ロータ28との間に設けられており、クラッチ機構68を係合させることで、エンジン36が変速機44の入力軸61に結合され、クラッチ機構68を解放することで、エンジン36が変速機44の入力軸61から切り離される。クラッチ機構68の係合/解放の制御は、電子制御ユニット50により行われる。
【0070】
図19,20に示す構成例において、変速機44の変速段が固定され、変速機44の変速ギア機構63−2〜63−5のうちのいずれか1つ(第1の動力伝達経路)を介してエンジン36の動力を車輪38へ伝達する場合は、電子制御ユニット50は、クラッチ機構68を係合状態に保つ。一方、電子制御ユニット50は、係合機構64により係合させる変速ギア機構63−2〜63−5の切り替え中においては、クラッチ機構68を解放することで、エンジン36及び入力側ロータ28のいずれか1つ以上(図19ではエンジン36及び入力側ロータ28、図20ではエンジン36)を変速機44の入力軸61から切り離す。より具体的には、伝動機構37を介して出力側ロータ18の動力を車輪38へ伝達する期間(m速ギア機構63−mを介した入力軸61と出力軸62との係合を解除してからn速ギア機構63−nを介して入力軸61と出力軸62とを係合させるまでの期間)において、クラッチ機構68を解放状態に制御する。これによって、変速動作中に、変速機44の入力軸61に結合される構成部品の慣性力を小さくすることができるので、係合機構64のシンクロナイザへの負荷を小さくして速やかな変速動作を実現することができる。
【0071】
さらに、図19に示す構成例では、電子制御ユニット50は、係合機構64により係合させる変速ギア機構63−2〜63−5の切り替え中に、クラッチ機構68を解放してエンジン36及び入力側ロータ28を変速機44の入力軸61から切り離し、さらに、入力側ロータ28の回転速度が出力側ロータ18の回転速度よりも高くなるように、エンジン36の回転速度を制御することもできる。この場合は、伝動機構37を介して出力側ロータ18の動力を車輪38へ伝達する期間(m速ギア機構63−mを介した入力軸61と出力軸62との係合を解除してからn速ギア機構63−nを介して入力軸61と出力軸62とを係合させるまでの期間)において、ロータ巻線30に誘導電流が流れるのを許容して、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクを作用させる。これによって、蓄電装置42からの電力を用いることなく、伝動機構37を介して出力側ロータ18(エンジン36)の動力を車輪38へ伝達することができる。
【0072】
また、本実施形態では、変速機44を自動変速機(AT)とすることも可能である。その場合の変速機44は、複数の変速段の中から変速段を選択可能な有段変速機であり、入力軸61と出力軸62との間に設けられ、複数自由度の回転自由度を有する遊星歯車機構と、遊星歯車機構の回転自由度を制限するための複数の摩擦係合装置と、各摩擦係合装置への供給油圧をそれぞれ制御することで各摩擦係合装置の係合/解放をそれぞれ制御する油圧制御装置とを含む公知の構成により実現することが可能である。各摩擦係合装置については、例えばクラッチまたはブレーキにより構成することが可能である。変速機44では、遊星歯車機構の回転自由度が1自由度になるように、油圧制御装置での油圧を利用して変速段に対応する摩擦係合装置を選択的に係合させることで、入力軸61に伝達されたエンジン36からの動力を変速段に応じた変速比で変速して出力軸62から車輪38へ伝達することが可能である。さらに、変速機44では、現変速段に対応する係合状態の摩擦係合装置を解放して次変速段に対応する解放状態の摩擦係合装置を係合させることで、変速段(入力軸61と出力軸62との間の変速比)を現変速段に対応する変速比から次変速段に対応する変速比に変更することが可能である。このように、自動変速機では、遊星歯車機構と複数の摩擦係合装置とを含んで、入力軸61と出力軸62との間の変速比を多段階に変化させることが可能な変速機構を構成することができる。
【0073】
変速機44が自動変速機である場合も、変速機44がマニュアルトランスミッションである場合と同様に、エンジン36からの動力を変速機44の変速機構(遊星歯車機構)で変速して車輪38へ伝達することが可能な第1の動力伝達経路の他に、エンジン36からの動力を変速機44の変速機構に対し並列に設けられた、入力側ロータ28、出力側ロータ18、及び伝動機構37を介して車輪38へ伝達することが可能な第2の動力伝達経路が設けられる。したがって、変速機44の変速段を選択するとともに、入力側ロータ28から出力側ロータ18にトルクを作用させることで、変速機44の変速機構及び伝動機構37の両方を介してエンジン36の動力を車輪38へ伝達することができる。これによって、入力側ロータ28から出力側ロータ18に作用するトルク分、変速機44の変速機構に伝達されるトルクを減少させることができる。その結果、変速機44の最大トルク伝達容量を低減することができ、変速機44の小型化及び高効率化を図ることができる。また、変速機44の摩擦係合装置を解放するとともに、入力側ロータ28から出力側ロータ18にトルクを作用させることで、変速機44の変速機構(遊星歯車機構)を介さずに伝動機構37を介してエンジン36の動力を車輪38へ伝達することもできる。その際には、エンジン36から伝動機構37の出力側回転部材37b(変速機44の出力軸62)にかけての変速比の可変幅を大きくすることができる。その結果、変速機44の変速比の可変幅を小さくする(変速段数を減らす)ことが可能となり、これによっても、変速機44の小型化を図ることができる。さらに、変速機44の変速機構を介さずに伝動機構37を介してエンジン36の動力を車輪38へ伝達する場合は、エンジン36から伝動機構37の出力側回転部材37bにかけての変速比を無段階に変化させることが可能となる。そのため、エンジン36の動作状態(回転速度及びトルク)が最適熱効率ラインG上に位置するように、エンジン36から車輪38への動力伝達を行うことができ、エンジン36の熱効率を向上させることができる。
【0074】
また、変速機44が自動変速機である場合は、現変速段に対応する係合状態の摩擦係合装置を解放して次変速段に対応する解放状態の摩擦係合装置を係合させることで、変速段(入力軸61と出力軸62との間の変速比)を現変速段に対応する変速比から次変速段に対応する変速比に変更することが可能であるが、その際には、出力軸62のトルク変動による変速ショックが発生する。変速ショックには、トルク相でのトルク減少によるショックがあり、イナーシャ相でのトルク増大によるショックがある。これに対して本実施形態では、変速機44の変速比を現変速段に対応する変速比から次変速段に対応する変速比に変更するときに、ステータ巻線20の交流電流によりステータ16と出力側ロータ18との間にトルクを作用させるようにインバータ40のスイッチング動作を行うことで、伝動機構37を介して出力側ロータ18と出力軸62との間で伝達されるトルクにより、出力軸62のトルク変動を補償する。
【0075】
例えば図21に示すように、現変速段から次変速段へのアップシフトを行う場合は、トルク相において、ステータ巻線20への電力供給によりステータ巻線20に交流電流が流れるようにインバータ40のスイッチング動作を行い、ステータ16から出力側ロータ18に駆動トルクを作用させることで、出力側ロータ18から伝動機構37を介して出力軸62に伝達されるトルクにより、出力軸62のトルク減少を抑制する。一方、イナーシャ相においては、ステータ巻線20から電力回収するようにインバータ40のスイッチング動作を行い、ステータ巻線20の交流電流によりステータ16と出力側ロータ18との間に回生トルクを作用させることで、出力軸62から伝動機構37を介して出力側ロータ18に伝達されるトルクにより、出力軸62のトルク増大を抑制する。これによって、出力軸62のトルク変動による変速ショックを抑制することができ、現変速段から次変速段への切り替えを円滑に行うことができる。なお、現変速段から次変速段へのダウンシフトを行う場合でも、ステータ巻線20の交流電流によりステータ16と出力側ロータ18との間にトルクを作用させるようにインバータ40のスイッチング動作を行うことで、伝動機構37を介して出力側ロータ18と出力軸62との間で伝達されるトルクにより、出力軸62のトルク変動を補償することができる。さらに、ダウンシフト時、特にキックダウン時には、アクセル開度の急激な変化に対して、出力軸62にトルクをすばやく発生させる必要があるが、本実施形態では、キックダウン時には、ステータ巻線20の交流電流によりステータ16から出力側ロータ18に駆動トルクを作用させるようにインバータ40のスイッチング動作を行うことで、変速動作中でも、出力側ロータ18から伝動機構37を介して出力軸62に伝達されるトルクにより、出力軸62のトルクをすばやく増加させることができる。
【0076】
また、本実施形態では、変速機44の変速比を現変速段に対応する変速比から次変速段に対応する変速比に変更するときに、ロータ巻線30の交流電流により入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクを作用させるようにインバータ41のスイッチング動作を行うことによっても、伝動機構37を介して出力側ロータ18と出力軸62との間で伝達されるトルクにより、出力軸62のトルク変動を補償することが可能である。例えば現変速段から次変速段へのアップシフトを行う場合は、トルク相において、入力側ロータ28から出力側ロータ18にエンジントルクと同方向(出力側ロータ18の回転方向と同方向)のトルクを作用させることで、出力側ロータ18から伝動機構37を介して出力軸62に伝達されるトルクにより、出力軸62のトルク減少を抑制する。一方、イナーシャ相においては、入力側ロータ28から出力側ロータ18にエンジントルクと逆方向(出力側ロータ18の回転方向と逆方向)のトルクを作用させることで、出力軸62から伝動機構37を介して出力側ロータ18に伝達されるトルクにより、出力軸62のトルク増大を抑制する。
【0077】
その場合において、入力側ロータ28の回転速度が出力側ロータ18の回転速度よりも高いときは、ロータ巻線30に誘導電流が流れるのを許容するようにインバータ41のスイッチング動作を行うことで、入力側ロータ28から出力側ロータ18にエンジントルクと同方向(出力側ロータ18の回転方向と同方向)のトルクを作用させることができ、ロータ巻線30への電力供給によりロータ巻線30に交流電流が流れるようにインバータ41のスイッチング動作を行うことで、入力側ロータ28から出力側ロータ18にエンジントルクと逆方向(出力側ロータ18の回転方向と逆方向)のトルクを作用させることができる。一方、入力側ロータ28の回転速度が出力側ロータ18の回転速度よりも低いときは、ロータ巻線30への電力供給によりロータ巻線30に交流電流が流れるようにインバータ41のスイッチング動作を行うことで、入力側ロータ28から出力側ロータ18にエンジントルクと同方向のトルクを作用させることができ、ロータ巻線30に誘導電流が流れるのを許容するようにインバータ41のスイッチング動作を行うことで、入力側ロータ28から出力側ロータ18にエンジントルクと逆方向のトルクを作用させることができる。なお、現変速段から次変速段へのダウンシフトを行う場合でも、ロータ巻線30の交流電流により入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクを作用させるようにインバータ41のスイッチング動作を行うことで、伝動機構37を介して出力側ロータ18と出力軸62との間で伝達されるトルクにより、出力軸62のトルク変動を補償することができる。さらに、キックダウン時には、入力側ロータ28から出力側ロータ18にエンジントルクと同方向(出力側ロータ18の回転方向と同方向)のトルクを作用させることで、変速動作中でも、出力側ロータ18から伝動機構37を介して出力軸62に伝達されるトルクにより、出力軸62のトルクをすばやく増加させることができる。
【0078】
また、本実施形態では、例えば図22に示すように、変速機44を無段変速機(CVT)とすることも可能である。図22に示す例の変速機44は、入力軸61に機械的に連結されエンジン36からの動力が伝達されるプライマリプーリ(入力回転部材)130と、出力軸62に機械的に連結され車輪38へ動力を伝達するセカンダリプーリ(出力回転部材)132と、プライマリプーリ130及びセカンダリプーリ132に巻き掛けられた無端ベルト(変速用伝動部材)134と、を含むベルト式無段変速機である。変速機44では、入力軸61に伝達されたエンジン36からの動力を、プライマリプーリ130及びセカンダリプーリ132への無端ベルト134の掛かり径(接触径)に応じた変速比で変速して、出力軸62から車輪38へ伝達することが可能である。さらに、変速機44では、プライマリプーリ130及びセカンダリプーリ132への無端ベルト134の掛かり径を例えば油圧力により変化させることで、入力軸61と出力軸62との間の変速比を連続的に変化させることができる。伝動機構37の変速比は、変速機44の最大変速比よりも小さく、変速機44の最小変速比よりも大きい。このように、無段変速機では、プライマリプーリ(入力回転部材)130とセカンダリプーリ(出力回転部材)132と無端ベルト(変速用伝動部材)134とを含んで、入力軸61と出力軸62との間の変速比を連続的に変化させることが可能な変速機構を構成することができる。ただし、無段変速機の種類は特に限定されるものではなく、例えばトロイダル式無段変速機であってもよい。
【0079】
さらに、図22に示す構成例では、エンジン36(入力側ロータ28)と変速機44のプライマリプーリ130との間に前後進切替装置146が設けられている。ここでの前後進切替装置146は、遊星歯車機構148とクラッチC1とブレーキB1とを含む公知の構成により実現することが可能である。遊星歯車機構148は、サンギアSとキャリアCRとリングギアRとを回転要素として有し、リングギアRがエンジン36(入力側ロータ28)に機械的に連結され、サンギアSがプライマリプーリ130に機械的に連結されている。クラッチC1は、その係合/解放により、サンギアSとリングギアRとの結合及びその解除を行うことが可能である。ブレーキB1は、その係合/解放により、キャリアCRの回転の拘束及びその解除を行うことが可能である。
【0080】
前後進切替装置146では、ブレーキB1を解放し且つクラッチC1を係合させることで、遊星歯車機構148のサンギアSとキャリアCRとリングギアRとが一体となって回転し、エンジン36からのトルクをその方向を逆転させずにプライマリプーリ130に伝達することが可能となる。一方、クラッチC1を解放し且つブレーキB1を係合させることで、エンジン36からのトルクを前後進切替装置146でその方向を逆転させてからプライマリプーリ130に伝達することが可能となる。また、クラッチC1及びブレーキB1の両方を解放することで、エンジン36からプライマリプーリ130への動力伝達が遮断され、エンジン36から変速機44の変速機構(プライマリプーリ130と無端ベルト134とセカンダリプーリ132)を介した車輪38への動力伝達が遮断される。このように、前後進切替装置146により、エンジン36からのトルクをその方向を逆転させてから伝達するか否かを選択することが可能となる。さらに、前後進切替装置146により、エンジン36から変速機44の変速機構(第1の動力伝達経路)を介した車輪38への動力伝達を遮断するか否かを選択することが可能な動力遮断機構も構成することができる。
【0081】
なお、前後進切替装置146を変速機44のセカンダリプーリ132と伝動機構37の出力側回転部材37bとの間に設け、例えばリングギアRをセカンダリプーリ132に機械的に連結し、サンギアSを出力側回転部材37bに機械的に連結することも可能である。この場合も、クラッチC1及びブレーキB1の両方を解放することで、セカンダリプーリ132から出力側回転部材37bへの動力伝達が遮断され、エンジン36から変速機44の変速機構(第1の動力伝達経路)を介した車輪38への動力伝達を遮断することが可能となる。また、EV走行によりリバース走行を行う場合は、前後進切替装置146は不要である。その場合は、動力遮断機構としてのクラッチを、エンジン36(入力側ロータ28)と変速機44のプライマリプーリ130との間、または変速機44のセカンダリプーリ132と伝動機構37の出力側回転部材37bとの間に設け、クラッチの係合/解放を選択することで、変速機44(第1の動力伝達経路)を介したエンジン36から車輪38への動力伝達を遮断するか否かを選択することが可能となる。
【0082】
変速機44が無段変速機である場合も、変速機44がマニュアルトランスミッションである場合と同様に、エンジン36からの動力を変速機44の変速機構(プライマリプーリ130と無端ベルト134とセカンダリプーリ132)で変速して車輪38へ伝達することが可能な第1の動力伝達経路の他に、エンジン36からの動力を変速機44の変速機構に対し並列に設けられた、入力側ロータ28、出力側ロータ18、及び伝動機構37を介して車輪38へ伝達することが可能な第2の動力伝達経路が設けられる。したがって、エンジン36から変速機44の変速機構を介した車輪38への動力伝達を前後進切替装置146で許容するとともに、入力側ロータ28から出力側ロータ18にトルクを作用させることで、例えば図23の矢印a,b,cに示すように、変速機44の変速機構及び伝動機構37の両方を介してエンジン36の動力を車輪38へ伝達することができる。これによって、入力側ロータ28から出力側ロータ18に作用するトルク分、変速機44の変速機構に伝達されるトルクを減少させることができる。その結果、変速機44の最大トルク伝達容量を低減することができ、変速機44の小型化及び高効率化を図ることができる。また、エンジン36から変速機44の変速機構を介した車輪38への動力伝達を前後進切替装置146で遮断することにより、変速機44の変速機構を介さずに伝動機構37を介してエンジン36の動力を車輪38へ伝達することもできる。その際には、エンジン36から伝動機構37の出力側回転部材37bにかけての変速比の可変幅を大きくすることができる。その結果、変速機44の変速比の可変幅を小さくすることが可能となり、これによっても、変速機44の小型化を図ることができる。
【0083】
また、無段変速機において、車両が減速して停車する際には、車両の発進時に備えて、無段変速機の変速比を最大変速比までダウンシフトすることが望ましい。しかし、車両が急減速して急停車する際には、無段変速機の変速比を最大変速比までダウンシフトできなくなる場合が発生する。その場合は、車両の発進時に、エンジンから無段変速機を介して車輪に伝達されるトルクが低下し、十分な発進トルクが得られなくなる。これに対して本実施形態では、エンジン36の動力により停止状態の車両を発進させる(停止状態の負荷を駆動する)ときには、エンジン36から変速機44の変速機構を介した車輪38への動力伝達を前後進切替装置146(動力遮断機構)により遮断し、ロータ巻線30に誘導電流が流れるのを許容するようにインバータ41のスイッチング動作を行い、入力側ロータ28から出力側ロータ18にトルクを作用させることで、図24の矢印aに示すように、変速機44の変速機構を介さずに伝動機構37を介してエンジン36の動力を車輪38へ伝達する。さらに、ロータ巻線30からステータ巻線20への電力供給によりステータ巻線20に交流電流が流れるようにインバータ40のスイッチング動作を行い、ステータ16から出力側ロータ18にトルクを作用させることで、図24の矢印bに示すように、ロータ巻線30からステータ巻線20への供給電力を利用して出力側ロータ18に動力を発生させて、伝動機構37を介して車輪38へ伝達する。これによって、車両の急停車により変速機44の変速比を最大変速比までダウンシフトできない場合でも、車両の発進時に、車輪38に伝達されるトルクを増加させることができ、十分な発進トルクを得ることができる。その際には、エンジン36の動力を変速機44の変速機構を介して車輪38へ伝達する場合に備えて、変速機44の変速比を最大変速比までダウンシフトすることも可能である。
【0084】
また、無段変速機において、車両の停止時等にエンジンを停止してアイドリングストップを行う際には、車両の発進時に備えて、電動オイルポンプ等により無段変速機のプライマリプーリ及びセカンダリプーリへの供給油圧を保つ必要がある。これに対して本実施形態では、停止状態の車両を発進させる(停止状態の負荷を駆動する)ときには、変速機44の変速機構を介さずに伝動機構37を介してエンジン36の動力を車輪38へ伝達することができる。そのため、車両の停止時等にエンジンを停止してアイドリングストップを行う際に、車両の発進時に備えて、電動オイルポンプ等により無段変速機のプライマリプーリ及びセカンダリプーリへの供給油圧を保つ必要がなくなる。その結果、電動オイルポンプを省略することができ、低コスト化を図ることができる。
【0085】
また、本実施形態では、例えば図25に示すように、整流器93及び昇圧コンバータ(DC−DCコンバータ)94を設けることもできる。整流器93は、ブラシ96と電気的に接続されており、スリップリング95及びブラシ96により取り出されたロータ巻線30からの交流電力を整流して直流に変換する。昇圧コンバータ94は、スイッチング素子を備えており、スイッチング素子のスイッチング動作により整流器93で整流された直流電力を昇圧(電圧変換)して出力する。昇圧コンバータ94で昇圧(電圧変換)された直流電力は、インバータ40で交流に変換されてからステータ巻線20の各相へ供給可能である。つまり、インバータ40は、昇圧コンバータ94で昇圧された直流電力と蓄電装置42からの直流電力とのいずれか(少なくとも一方)を交流に変換してステータ巻線20の各相へ供給することが可能である。また、昇圧コンバータ94で昇圧された直流電力を蓄電装置42に回収することも可能である。ここでの整流器93は、スリップリング95側から昇圧コンバータ94側への一方向のみの電力変換を行い、昇圧コンバータ94は、整流器93側から蓄電装置42側(あるいはインバータ40側)への一方向のみの電力変換を行う。図25に示す構成例では、整流器93と昇圧コンバータ94とインバータ40とを含んで、ロータ巻線30とステータ巻線20との間で電力変換を行うことが可能な電力変換部を構成することができ、スリップリング95及びブラシ96により取り出されたロータ巻線30からの交流電力を電力変換してステータ巻線20の各相へ供給することができる。
【0086】
図25に示す構成例において、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に回転差が生じているときに、ロータ巻線30に誘導電流が流れるのを許容して、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクを発生させるためには、電子制御ユニット50は、昇圧コンバータ94の出力電圧が蓄電装置42の電圧よりも高くなるように昇圧コンバータ94での昇圧比を制御する。これによって、昇圧コンバータ94から蓄電装置42とインバータ40間の配線へ電流が流れ、ロータ巻線30に誘導電流が流れるため、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクが作用する。さらに、電子制御ユニット50は、昇圧コンバータ94における昇圧比(電圧変換比)を制御することで、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に作用するトルクを制御することができる。一方、電子制御ユニット50は、インバータ40のスイッチング動作を行わない状態で昇圧コンバータ94の出力電圧が蓄電装置42の電圧よりも低くなるように昇圧コンバータ94での昇圧比を制御することで、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間に回転差が生じてもロータ巻線30に誘導電流が流れなくなり、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクは作用しなくなる。また、昇圧コンバータ94内のスイッチング素子をオフ状態に維持して昇圧コンバータ94による昇圧(電圧変換)を停止させることによっても、ロータ巻線30に誘導電流が流れなくなり、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクは作用しなくなる。なお、整流器93で整流された電力を電圧変換して出力するDC−DCコンバータとして、昇圧コンバータ94の代わりに、降圧コンバータや昇降圧コンバータを設けることも可能である。
【0087】
図25に示す構成例では、電子制御ユニット50は、係合機構64により係合させる変速ギア機構63−2〜63−5の切り替え中に、入力側ロータ28の回転速度が出力側ロータ18の回転速度よりも高いときは、ロータ巻線30に誘導電流が流れるのを許容するように昇圧コンバータ94における昇圧比(電圧変換比)を制御することで、入力側ロータ28と出力側ロータ18との間にトルクを作用させることもできる。これによって、蓄電装置42からの電力を用いることなく、伝動機構37を介して出力側ロータ18の動力を車輪38へ伝達することができる。さらに、インバータ40のスイッチング動作によりロータ巻線30からステータ巻線20に供給される電力を利用して出力側ロータ18に動力を発生させることで、車輪38へ伝達されるトルクを増幅させることができる。
【0088】
以上の実施形態の説明では、ロータ巻線30の交流電力を取り出すための電力伝達部として、スリップリング95及びブラシ96を設けた場合について説明した。ただし、本実施形態では、ロータ巻線30の交流電力を取り出すための電力伝達部として、ロータ巻線30に電気的に接続された巻線が配設され入力側ロータ28に機械的に連結されたトランスロータと、整流器93に電気的に接続され且つトランスロータの巻線と電磁気的に結合する巻線が配設されたトランスステータとを設けることも可能である。
【0089】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0090】
10 回転電機、16 ステータ、18 出力側ロータ(第2ロータ)、20 ステータ巻線、28 入力側ロータ(第1ロータ)、30 ロータ巻線、32,33 永久磁石、36 エンジン、37 伝動機構、38 車輪、40,41 インバータ、42 蓄電装置、44 変速機、50 電子制御ユニット、51 ステータコア、52,53 ロータコア、61 入力軸、62 出力軸、63−2〜63−5 変速ギア機構、64 係合機構、68 クラッチ機構、93 整流器、94 昇圧コンバータ、95 スリップリング、96 ブラシ、130 プライマリプーリ、132 セカンダリプーリ、134 無端ベルト、146 前後進切替装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機の動力が伝達される入力軸と、負荷へ動力を伝達する出力軸と、入力軸と出力軸との間の変速比を変化させることが可能な変速機構と、を含む変速機と、
交流電流が流れることで回転磁界を発生可能な固定子導体が配設された固定子と、
交流電流が流れることで回転磁界を発生可能な回転子導体が配設された第1回転子と、
第1回転子に対し相対回転可能な第2回転子であって、回転子導体で発生した回転磁界が作用するのに応じて第1回転子との間にトルクが作用し、固定子導体で発生した回転磁界が作用するのに応じて固定子との間にトルクが作用する第2回転子と、
回転子導体と固定子導体との間で電力変換を行うことが可能な電力変換部と、
を備え、
回転子導体は、第1回転子と第2回転子との間に回転差が発生するのに起因して誘導電流が流れることで回転磁界を発生し、
第1回転子に原動機の動力が伝達され、第2回転子から変速機構を介さずに変速機の出力軸へ動力が伝達される、動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1に記載の動力伝達装置であって、
変速機構を介さずに第2回転子からの動力を変速機の出力軸へ伝達する伝動機構が設けられている、動力伝達装置。
【請求項3】
請求項2に記載の動力伝達装置であって、
伝動機構の変速比が変速機の最大変速比よりも小さい、動力伝達装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載の動力伝達装置であって、
変速機構及び伝動機構の両方を介して原動機の動力を変速機の出力軸へ伝達する場合に、回転子導体の交流電流により第1回転子と第2回転子との間にトルクを作用させる、動力伝達装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1に記載の動力伝達装置であって、
変速機構を介さずに原動機の動力を変速機の出力軸へ伝達する場合に、回転子導体の交流電流により第1回転子と第2回転子との間にトルクを作用させる、動力伝達装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1に記載の動力伝達装置であって、
変速機構は、それぞれ変速比が異なる複数の変速ギア機構と、複数の変速ギア機構のうちのいずれか1つを介して入力軸と出力軸とを係合させ、且つ該係合させる変速ギア機構を切り替えることが可能な係合機構と、を有する、動力伝達装置。
【請求項7】
請求項6に記載の動力伝達装置であって、
係合機構により係合させる変速ギア機構の切り替え中に、固定子と第2回転子との間にトルクが作用するように、固定子導体への電力供給により固定子導体に交流電流を流す、動力伝達装置。
【請求項8】
請求項6または7に記載の動力伝達装置であって、
係合機構により係合させる変速ギア機構の切り替え中に、第1回転子の回転速度が第2回転子の回転速度よりも高いときは、第1回転子と第2回転子との間にトルクが作用するように、回転子導体に誘導電流が流れるのを許容する、動力伝達装置。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれか1に記載の動力伝達装置であって、
係合機構により係合させる変速ギア機構の切り替え中に、第1回転子の回転速度が第2回転子の回転速度よりも低いときは、第1回転子と第2回転子との間にトルクが作用するように、回転子導体への電力供給により回転子導体に交流電流を流す、動力伝達装置。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれか1に記載の動力伝達装置であって、
原動機及び第1回転子のいずれかを変速機の入力軸から切り離すことが可能なクラッチ機構をさらに備え、
係合機構により係合させる変速ギア機構の切り替え中に、クラッチ機構により原動機及び第1回転子のいずれかを変速機の入力軸から切り離す、動力伝達装置。
【請求項11】
請求項7または8に記載の動力伝達装置であって、
原動機及び第1回転子を変速機の入力軸から切り離すことが可能なクラッチ機構をさらに備え、
係合機構により係合させる変速ギア機構の切り替え中に、クラッチ機構により原動機及び第1回転子を変速機の入力軸から切り離し、第1回転子の回転速度が第2回転子の回転速度よりも高くなるように、原動機の回転速度を制御する、動力伝達装置。
【請求項12】
請求項1〜5のいずれか1に記載の動力伝達装置であって、
変速機構は、現変速段に対応する摩擦係合装置を解放して次変速段に対応する摩擦係合装置を係合させることで、入力軸と出力軸との間の変速比を現変速段に対応する変速比から次変速段に対応する変速比に変更することが可能である、動力伝達装置。
【請求項13】
請求項12に記載の動力伝達装置であって、
変速機の変速比を現変速段に対応する変速比から次変速段に対応する変速比に変更するときに、固定子導体の交流電流により固定子と第2回転子との間にトルクを作用させる、動力伝達装置。
【請求項14】
請求項12または13に記載の動力伝達装置であって、
変速機の変速比を現変速段に対応する変速比から次変速段に対応する変速比に変更するときに、回転子導体の交流電流により第1回転子と第2回転子との間にトルクを作用させる、動力伝達装置。
【請求項15】
請求項1〜5のいずれか1に記載の動力伝達装置であって、
変速機構は、入力軸に連結された入力回転部材及び出力軸に連結された出力回転部材への変速用伝動部材の接触径を変化させることで、入力軸と出力軸との間の変速比を連続的に変化させることが可能である、動力伝達装置。
【請求項16】
請求項15に記載の動力伝達装置であって、
原動機から変速機構を介した負荷への動力伝達を遮断するか否かを選択することが可能な動力遮断機構をさらに備える、動力伝達装置。
【請求項17】
請求項16に記載の動力伝達装置であって、
原動機の動力により停止状態の負荷を駆動するときには、原動機から変速機構を介した負荷への動力伝達を動力遮断機構により遮断し、第1回転子と第2回転子との間にトルクが作用するように、回転子導体に誘導電流が流れるのを許容する、動力伝達装置。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか1に記載の動力伝達装置であって、
回転子導体の交流電力を取り出すための電力伝達部と、
電力伝達部で取り出された交流電力を電力変換して固定子導体へ供給することが可能な電力変換部と、
をさらに備える、動力伝達装置。
【請求項19】
請求項18に記載の動力伝達装置であって、
電力伝達部は、
電力変換部に接続されたブラシと、
第1回転子の回転子導体に接続され、ブラシに対し摺動しながら第1回転子とともに回転するスリップリングと、
を含む、動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2011−11736(P2011−11736A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−125077(P2010−125077)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】