説明

半導体基板及びその製造方法

【課題】単純な単結晶シリコン基板を出発基板としてGaN膜を形成することができ、反りやクラックが抑制された半導体基板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】半導体基板10は、単結晶シリコン基板11と、単結晶シリコン基板11の表面に形成された転位層を含む加工ダメージ層12と、加工ダメージ層12の表面に形成されたバッファ層13と、バッファ層13の表面に形成された窒化ガリウム膜14とを備えている。加工ダメージ層12は、単結晶シリコン基板11の表面から深さ0.5μmまでの範囲内に形成されている。加工ダメージ層12は、#2000〜#8000の砥石を用いて単結晶シリコン基板11の表面を研削した後、転位層の一部が残るように単結晶シリコン基板11の表面を研磨することにより形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板及びその製造方法に関し、特に、窒化ガリウムが成膜されたシリコン基板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム等の3族窒化物系化合物半導体は、青色LEDの材料として利用されているが、耐絶縁性、耐環境性、高周波特性等に優れているため、近年、この特長を活かした電子デバイスの開発が盛んに行われている。中でも、窒化ガリウム(GaN)は、バンドギャップが大きく、高耐圧・高周波用パワーデバイス材料として注目されている。
【0003】
パワーデバイス用GaN基板の出発基板の材料は、GaNの成長温度下で安定であり、しかもGaNとの格子定数差が小さいことが必要である。現在実用化されている出発基板としては、サファイヤ(Al)基板、6H、4H炭化珪素(SiC)基板等があり、例えば単結晶サファイヤ基板上に有機金属気相成長法(MOVPE法)等でGaNをエピタキシャル成長させる方法が一般的である。
【0004】
サファイヤ基板はGaNと格子定数が異なるため、サファイヤ基板上に直接GaNをエピタキシャル成長させても良好な単結晶膜を得ることはできない。そのため、サファイヤ基板上にAlN等のバッファ層を低温で成長させ、このバッファ層で格子の歪みを緩和させてからGaNを成長させる方法が採用されている。
【0005】
しかしながら、サファイヤ基板等は加工性が悪く且つ高価であり、大口径の基板も得にくいという問題がある。
【0006】
この問題を解決する方法として、SOI(Silicon On Insulator)基板を出発基板とし、SOI層中にイオン注入により歪み緩衝層を形成した後、SOI層を炭化熱処理して単結晶SiC層を形成し、このSiC層をGaN膜のバッファ層として使用する方法が提案されている(特許文献1、2参照)。また、シリコン基板表面にブラスト処理を行うことで欠陥層を形成し、さらに熱処理によって欠陥層を安定化させた後、研磨を行うことにより、欠陥層を応力緩和層として機能させ、これにより格子定数差による欠陥を減らし、内部残留応力を抑える方法も提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−40737号公報
【特許文献2】特開2007−123675号公報
【特許文献3】特開2006−179898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、バッファ層としての単結晶SiC層を形成する場合、水素ガス雰囲気中にプロパンガス等を導入してシリコン基板の表面を1100℃以下の低温で炭化処理した後、シランガスとプロパンガスを導入して約1200℃の高温で3C-SiC単結晶膜のエピタキシャル成長を行わなければならず、生産性の低下や高温熱処理によるシリコン基板のスリップ転位発生等の問題がある。また、上記方法においては、GaNの成長基板としてSOI基板を使用しており、基板コストが非常に高いという問題がある。
【0009】
さらに、ブラスト処理による欠陥層の形成では、砥粒をシリコン基板の表面に吹き付けてシリコン基板を破壊しながら欠陥層を形成するため、定量的なクラックや割れを発生させることが困難である。またSiO2粒子の粒径を一定にしたスラリーを得ることが難しく、粒径のばらつきによって基板面内で非常に大きなクラックや割れが形成されるおそれがある。そのため、ブラスト処理後の研磨によって1μm未満の表層を除去するだけでは、クラックや割れが残り、GaN膜の品質を劣化させることになる。さらに、ブラスト処理によって得られた欠陥の位置を後処理で安定化させても欠陥密度は低く、GaNの成膜のための応力緩和層として不十分である。
【0010】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、SOI基板ではなく単純な単結晶シリコン基板を出発基板としてGaN膜を形成することができ、反りやクラックが抑制された半導体基板及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、研削又は研磨による加工ダメージが付与されたシリコン基板上にAlNやAlGaN等のバッファ層を形成すれば、GaNとの間の格子定数差や熱膨張係数差によるシリコン基板の反りやクラックを抑制できると共に、最終的に転位密度の低いGaN膜を得ることができることを見出した。
【0012】
本発明はこのような技術的知見に基づくものであり、本発明による半導体基板は、単結晶シリコン基板と、前記単結晶シリコン基板の表面に形成された加工ダメージ層と、前記加工ダメージ層の表面に形成されたバッファ層と、前記バッファ層の表面に形成された窒化ガリウム膜とを備えることを特徴とする。
【0013】
また、本発明による半導体基板の製造方法は、単結晶シリコン基板の表面に加工ダメージ層を形成する工程と、前記加工ダメージ層の表面にバッファ層を形成する工程と、前記バッファ層の表面に窒化ガリウム膜を形成する工程とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、SOI基板ではなく単純な単結晶シリコン基板を出発基板としてGaN膜を形成することができ、反りやクラックが抑制された半導体基板及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の好ましい実施の形態による半導体基板の構造を示す略断面図である。
【図2】本実施形態による半導体基板の製造工程を示す模式図である。
【図3】研削後のシリコンウェーハの断面構造を示す写真であって、(a)は#2000の砥石を用いた場合、(b)は#8000の砥石を用いた場合をそれぞれ示している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明の好ましい実施の形態による半導体基板の構造を示す略断面図である。
【0018】
図1に示すように、本実施形態による半導体基板10は、単結晶シリコン基板11と、単結晶シリコン基板11の表面に形成された加工ダメージ層12と、加工ダメージ層12の表面に形成されたバッファ層13と、バッファ層13の表面に形成されたGaN膜14とを備えている。
【0019】
シリコン基板11は、チョクラルスキー(CZ)法によって引き上げられたシリコンインゴットから切り出された面方位(111)のCZウェーハである。特に限定されるものではないが、シリコン基板11は、p型不純物としてのボロン(B)やn型不純物としてのリン(P)がドープされたものであり、これらの不純物に基づくシリコン基板11の比抵抗は0.001Ω・cm以上1000Ω・cm以下であることが好ましく、0.1Ω・cm以下であることがさらに好ましい。
【0020】
シリコン基板11の初期酸素濃度は特に限定されず、一般的に製造可能な酸素濃度の範囲であればよく、4×1017atoms/cm以上2.4×1018atoms/cm以下である。シリコン基板11の厚みは、反り対策の観点から厚いものほど良く、シリコン基板の口径にもよるが、好ましくは0.9mm以上2.5mm以下である。
【0021】
加工ダメージ層12は、欠陥が非常に高密度に存在する不完全な結晶層である。この不完全な結晶層は、当初アモルファス化していたシリコン基板の表面がバッファ層13およびGaN膜14の成膜時の熱処理過程で不完全に単結晶化したものと考えられ、バッファ層13やGaN膜14の成長時の応力緩和層として有効に作用する。加工ダメージ層12は、シリコン基板11の表面から深さ0.5μmまでの範囲内に形成されていることが好ましい。
【0022】
加工ダメージ層12は、金属汚染を除去するためラッピング工程後に化学的なエッチング、洗浄もしくは研磨を行う際、シリコン基板の表層の加工歪みが完全に無くならない程度に行うことにより形成することができる。また、加工ダメージ層12は、通常のプロセスであるラッピング工程及びエッチング工程を順に行った後、研磨工程の初期の粗研磨まで行うことによっても形成することができる。さらに、加工ダメージ層12は、最終研磨後に再度粗研磨を行うことにより形成してもよい。上記のように、加工ダメージ層12を有するシリコン基板11の表層は単結晶でなくアモルファス化している。このアモルファス層は、MOCVD炉内でバッファ層13やGaN膜14を成長させる熱処理中に単結晶化していくが、不完全な結晶となるため、バッファ層13やGaN膜14の応力緩和層として有効に作用する。
【0023】
バッファ層13は、シリコン基板11とGaN膜14との格子定数差を小さくする役割を果たす。バッファ層13の膜厚は2μm程度であればよい。バッファ層13は、AlN層を形成後にAlGaNバッファ層の濃度を変化させた膜を複数回成長させ、最終的にGaN膜を2μm成長させる。
【0024】
単結晶シリコン基板11の表面に単結晶SiC膜を成膜する従来の方法として、1100℃以下の温度で水素ガス雰囲気中にプロパンガスなどを導入してシリコン基板の表層のみを炭化(不完全なSiC膜を形成)後、さらに高温でシランガスとプロパンガスを導入して3C-SiC単結晶膜を成長させる方法が知られている。このSiC膜は格子定数差が小さくなるためGaN用基板のバッファ層としても利用されるが、生産性の低下や高温熱処理によるスリップの問題などある。
【0025】
これに対し、本実施形態による半導体基板10は、シリコン基板11の表面を研削・研磨処理して表層がアモルファス化した加工ダメージ層12を形成し、この加工ダメージ層12の表面にAlN、AlGaN等のバッファ層13を成長させているので、シリコンとGaNとの間の格子定数差や熱膨張係数差をさらに吸収することができる。したがって、GaN膜の欠陥密度を小さくすることができ、高品質なGaN膜を製造することが可能となる。
【0026】
次に、半導体基板10の製造方法について説明する。
【0027】
上記半導体基板10の製造では、まず単結晶シリコン基板11を用意する。単結晶シリコン基板11は、チョクラルスキー(CZ)法によって引き上げられたシリコンインゴットから切り出された面方位(111)のCZウェーハを用いることができる。
【0028】
次に、単結晶シリコン基板11上に加工ダメージ層12を形成する。加工ダメージ層12は、金属汚染を除去するためラッピング工程後に化学的なエッチング、洗浄もしくは研磨を行った後、再度粗研磨を行うことにより形成することができる。このとき用いる研磨材(砥粒)の粒度は#2000〜#8000であることが好ましい。粒度が小さすぎるとダメージ層が形成されず、粒度が大きすぎると転位が大きくなり、シリコン基板11の品質に悪影響を与えるためである。
【0029】
また、加工ダメージ層12は、金属汚染を除去するためラッピング工程後に化学的なエッチング、洗浄もしくは研磨を行う際、シリコン基板の表層のダメージ(アモルファス層)が完全に無くならない程度に行うことにより形成することができる。さらに、加工ダメージ層12は、通常のプロセスであるラッピング工程及びエッチング工程を順に行った後、研磨工程の初期の粗研磨まで行うことによっても形成することができる。
【0030】
次に、加工ダメージ層12の表面にバッファ層13及びGaN膜14を順次形成する。詳細には、加工ダメージ層12が形成されたシリコン基板11をMOCVD炉に投入し、500℃以上1150℃以下の水素含有雰囲気下でクリーニングを行い、AlN膜を形成した後に、Ga濃度を徐々に高濃度に変化させたAlGaN膜を複数回成長させる。その後、最終的なGaN膜を2μm成長させることにより、本実施形態による半導体基板10が完成する。
【0031】
以上説明したように、本実施形態によれば、シリコン基板11とバッファ層13との間に緩和層としての加工ダメージ層12が設けられていることから、GaN膜14の成長後においてシリコン基板11の反りやクラックを抑制することができ、転位密度が低い良質なGaN膜14を成膜することができる。特に、ブラスト処理のように砥粒を吹き付けて欠陥を形成するものではないため、加工歪みを定量的に発生させることができる。
【0032】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0033】
例えば、上記実施形態においては、バッファ層13がAlN膜及びAlGaN膜の多層膜であるが、AlN又は他の材料からなる単層膜であってもよい。ただし、バッファ層13は、加工ダメージ層12とGaN膜14の格子定数の中間値をとることが必要である。
【実施例】
【0034】
[実施例1]
直径150mm、面方位(111)、厚み625μm、初期酸素濃度が1.5×1018atoms/cm、比抵抗が10〜20Ω・cmに調整されたボロンドープのCZウェーハを用意し、ウェーハの表面を研磨装置にて研削した。この研削には#2000の砥粒を用いた。そして、加工ダメージ層が形成されたシリコンウェーハの断面を電子顕微鏡で観察した。その結果、図3(a)に示すように、ウェーハの表面から深さ0.5μmまでの範囲にアモルファス層が形成されていた。
【0035】
[実施例2]
実施例1と同一特性を有するCZウェーハを用意し、#8000の砥石を用いた点以外は同一条件下でウェーハの表面を研削した。そして、加工ダメージ層が形成されたシリコンウェーハの断面を電子顕微鏡で観察した。その結果、図3(b)に示すように、ウェーハの表面から深さ0.2μmまでの範囲にアモルファス層が形成されていた。
【0036】
[実施例3]
実施例1と同一特性を有するCZウェーハを用意し、#2000の砥石を用いて実施例1と同一条件下でウェーハの表面を研削した。
【0037】
その後、ダメージ加工されたCZウェーハをMOCVD炉内に搭載し、950℃の温度にてAlN膜を成長させた後、Ga濃度を20%、50%、80%と順次高濃度にしたAlGaN膜を成長させ、これによりバッファ層13を形成した。そして引き続き、1100℃の温度にてGaN膜を2μm成長させて、半導体ウェーハのサンプル#1を得た。
【0038】
こうして得られたウェーハサンプル#1の表面を光学顕微鏡にて観察し、クラックの測定を行った結果、外周部の全周にクラックが発生していたが、その長さは0.5mm以下であった。さらに、ウェーハの反りを測定した結果、ウェーハの反りは30μmであった。
【0039】
[比較例1]
実施例1と同一特性を有するCZウェーハを用意し、表面を研削することなくそのままをサンプル#2とし、断面を電子顕微鏡で観察した。その結果、ウェーハの表面にはアモルファス層及び転位層は形成されていなかった。
【0040】
[比較例2]
実施例1と同一特性を有するCZウェーハを用意し、ウェーハの表面を研削することなくそのままMOCVD炉内に搭載し、950℃の温度にてAlN膜を成長させた後、Ga濃度を20%、50%、80%と順次高濃度にしたAlGaN膜を成長させ、これによりバッファ層13を形成した。そして引き続き、1100℃の温度にてGaN膜を2μm成長させて、半導体ウェーハのサンプル#3を得た。
【0041】
こうして得られたウェーハサンプル#3の表面を光学顕微鏡にて観察した結果、外周部の全周に長さ1〜2mmのクラックが発生していた。さらに、ウェーハの反りを測定した結果、ウェーハの反りは45μmであった。
【符号の説明】
【0042】
10 半導体基板
11 単結晶シリコン基板
12 加工ダメージ層
13 バッファ層
14 窒化ガリウム(GaN)膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶シリコン基板と、前記単結晶シリコン基板の表面に形成された加工ダメージ層と、前記加工ダメージ層の表面に形成されたバッファ層と、前記バッファ層の表面に形成された窒化ガリウム膜とを備えることを特徴とする半導体基板。
【請求項2】
前記加工ダメージ層は、前記単結晶シリコン基板の表面から深さ0.5μmまでの範囲内に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の半導体基板。
【請求項3】
単結晶シリコン基板の表面にアモルファス層を含む加工ダメージ層を形成する工程と、
前記加工ダメージ層の表面にバッファ層を形成する工程と、
前記バッファ層の表面に窒化ガリウム膜を形成する工程とを備えることを特徴とする半導体基板の製造方法。
【請求項4】
前記加工ダメージ層を形成する工程は、前記単結晶シリコン基板の表面を研削する工程と、前記研削による加工歪みの一部が残るように前記単結晶シリコン基板の表面を研磨する工程を含むことを特徴とする請求項3に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項5】
前記加工ダメージ層を形成する工程は、#2000以上且つ#8000以下の砥石を用いて前記単結晶シリコン基板の表面を研削する工程を含むことを特徴とする請求項4に記載の半導体基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−151402(P2012−151402A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10704(P2011−10704)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】