説明

半導体素子およびその製造方法

【課題】基板の表面上に積層される半導体素子層に発生する所定の方向の歪みを低減することが可能な半導体素子を提供する。
【解決手段】この半導体素子1は、第1方向(A方向)および第2方向(B方向)に平行な主表面を有するとともに第1方向に沿って延びる段差部2aが形成された窒化物系半導体からなる基板2と、基板2上に形成され、窒化物系半導体からなる下地層3、第1半導体層4および第2半導体層5とを備える。そして、下地層3および第2半導体層5の無歪みの状態における第2方向の格子定数は、それぞれ、基板2の無歪みの状態における第2方向の格子定数よりも大きく、下地層3および第2半導体層5の基板2の主表面上に形成された状態における第2方向の格子定数は、それぞれ、基板2の第2方向の格子定数よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子およびその製造方法に関し、特に、基板と、基板の表面上に形成された半導体層とを備えた半導体素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基板と、基板の表面上に形成された半導体層とを備えた窒化物系半導体レーザ素子およびその製造方法が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、高密度転位領域における表面に溝状の凹部が形成された窒化物半導体からなる基板と、基板の表面上に、Alを含有する第1の窒化物系半導体層、Inを含有する第2の窒化物系半導体層およびAlを含有する第3の窒化物系半導体層がこの順に積層された半導体層と、活性層を含むとともにこの半導体層上に積層された半導体素子層(能動層)とを備えた窒化物系半導体レーザ素子およびその製造方法が開示されている。この窒化物系半導体レーザ素子では、半導体層の結晶成長時に、基板の凹部の側面上と側面以外の領域(凹部の底部および上部の上面)上とにおいて第1の窒化物系半導体層が異なる成長膜厚の状態で形成される現象を利用することにより、基板から第1の窒化物系半導体層に引き継がれた転位(欠陥)の成長する方向が制御されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−91890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示された窒化物系半導体レーザ素子では、基板の表面上に形成される半導体層(第1〜第3の窒化物系半導体層)や上層の活性層を含む半導体素子層(能動層)に対する基板面内の方向の歪みの異方性(方向によって歪みの大きさが異なる性質)については全く考慮されていない。このため、半導体層に大きな歪みが加わることに起因して、レーザ素子に劣化が生じることがあった。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、基板の表面上に積層される半導体素子層に発生する所定の方向の歪みを低減することが可能な半導体素子およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明の第1の局面による半導体素子は、第1方向および第1方向と交差する第2方向に平行な主表面を有する窒化物系半導体からなる基板と、主表面上に形成された窒化物系半導体からなる下地層と、下地層の基板とは反対側の表面上に形成された窒化物系半導体からなる第1半導体層と、第1半導体層の下地層とは反対側の表面上に形成された窒化物系半導体からなる第2半導体層とを備え、主表面上には、第1方向に沿って延びる段差部が形成されており、下地層および第2半導体層の無歪みの状態における第2方向の格子定数は、それぞれ、基板の無歪みの状態における第2方向の格子定数よりも大きく、下地層および第2半導体層の主表面上に形成された状態における第2方向の格子定数は、それぞれ、基板の第2方向の格子定数よりも大きい。
【0008】
なお、本発明において、基板、下地層および第2半導体層における「無歪みの状態」とは、基板、下地層および第2半導体層の各々が、互いに積層されることなく単独で存在する場合における基板および各層の状態を意味する。
【0009】
この発明の第1の局面による半導体素子では、上記のように、無歪みの状態における第2方向の格子定数が基板の無歪みの状態における第2方向の格子定数よりも大きい下地層が、第1方向に延びる段差部が形成された基板の表面上において基板の第2方向(第1方向と交差する素子の幅方向)の格子定数よりも下地層の第2方向の格子定数が大きくなるように第2方向に格子緩和された状態で形成されている。このとき、下地層上に第1半導体層を介して無歪みの状態における第2方向の格子定数が基板の無歪みの状態における第2方向の格子定数よりも大きい第2半導体層を、基板の第2方向の格子定数よりも第2半導体層の第2方向の格子定数が大きくなるように形成することによって、第2半導体層の第2方向の歪みの大きさを緩和(低減)することができる。その結果、半導体素子の長寿命化を図ることができる。
【0010】
上記第1の局面による半導体素子において、好ましくは、下地層は、第1方向の歪みが第2方向の歪みよりも大きい状態で、基板の主表面上に形成されている。このように構成すれば、窒化物系半導体からなる第2半導体層を構成する六方晶化合物半導体の基板面内の方向に、異方的な(等方的でない)歪みを加えることができる。これにより、第2半導体層における価電子帯上端付近のホールの有効質量が小さくなるので、閾値電流が低減された半導体素子を形成することができる。
【0011】
上記第1の局面による半導体素子において、好ましくは、下地層の厚みは、第1半導体層の厚みよりも大きい。このように構成すれば、下地層上に第1半導体層が形成された状態であっても、下地層に対する第1半導体層の影響は小さくなるので、下地層は、基板上において容易に格子緩和を起こすことができる。
【0012】
上記第1の局面による半導体素子において、好ましくは、基板は、Inを含まず、下地層および第2半導体層は、Inを含む。このように構成すれば、無歪みの状態における下地層および第2半導体層の第2方向の格子定数を、無歪みの状態における基板の第2方向の格子定数よりも容易に大きくすることができる。また、第2半導体層が活性層を含む場合、含有されたInにより発光波長の長波長化を容易に行うことができる。
【0013】
上記第1の局面による半導体素子において、好ましくは、段差部以外の領域における下地層の厚みは、段差部の高さよりも小さい。このように構成すれば、段差部の角部近傍おける下地層の厚みは、段差部の底部や段差部以外の領域における下地層の厚みよりも小さくなるので、下地層は、段差部以外の領域において第2方向に膨張しやすくなる。これにより、段差部以外の領域において、基板の第2方向の格子定数よりも下地層の第2方向の格子定数を、容易に大きくすることができる。
【0014】
上記第1の局面による半導体素子において、好ましくは、第2半導体層は、井戸層を有する活性層を含み、井戸層の無歪みの状態における第2方向の格子定数は、基板の無歪みの状態における第2方向の格子定数よりも大きい。このように構成すれば、上述した下地層により、第1半導体層を介して形成された第2半導体層を構成する活性層(井戸層)の第2方向の歪みを低減することができる。これにより、発光効率の高い半導体レーザ素子を容易に形成することができる。
【0015】
この発明の第2の局面による半導体素子の製造方法は、第1方向および第1方向と交差する第2方向に平行な主表面を有する窒化物系半導体からなる基板の主表面上に、第1方向に沿って延びる段差部を形成する工程と、主表面上に窒化物系半導体からなる下地層を形成する工程と、下地層の基板とは反対側の表面上に窒化物系半導体からなる第1半導体層を形成する工程と、第1半導体層の下地層とは反対側の表面上に窒化物系半導体からなる第2半導体層を形成する工程とを備え、下地層および第2半導体層の無歪みの状態における第2方向の格子定数は、それぞれ、基板の無歪みの状態における第2方向の格子定数よりも大きく、下地層を形成する工程、および、第2半導体層を形成する工程は、それぞれ、下地層および第2半導体層の第2方向の格子定数が基板の第2方向の格子定数よりも大きくなるように形成する工程を含む。
【0016】
この発明の第2の局面による半導体素子の製造方法では、上記のように、無歪みの状態における第2方向の格子定数が基板の無歪みの状態における第2方向の格子定数よりも大きい下地層を、第1方向に延びる段差部が形成された基板の表面上に形成することにより、下地層の第2方向の格子緩和を起こりやすくさせることで、基板の表面上において基板の第2方向(第1方向と交差する素子の幅方向)の格子定数よりも下地層の第2方向の格子定数が大きくなるように形成している。このとき、下地層上に第1半導体層を介して無歪みの状態における第2方向の格子定数が基板の無歪みの状態における第2方向の格子定数よりも大きい第2半導体層を、基板の第2方向の格子定数よりも第2半導体層の第2方向の格子定数が大きくなるように形成することによって、第2半導体層の第2方向の歪みの大きさを緩和(低減)することができる。その結果、半導体素子の長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の半導体素子の概略的な構成を説明するための断面図である。
【図2】本発明の半導体素子の概略的な構成および製造プロセスを説明するための斜視図である。
【図3】本発明の半導体素子の概略的な構成および製造プロセスを説明するための断面図である。
【図4】本発明の半導体素子の概略的な構成および製造プロセスを説明するための斜視図である。
【図5】本発明の第1実施形態による窒化物系半導体レーザ素子の構造を示した断面図である。
【図6】本発明の第1実施形態による窒化物系半導体レーザ素子の製造プロセスを説明するための断面図である。
【図7】本発明の第1実施形態による窒化物系半導体レーザ素子の製造プロセスを説明するための断面図である。
【図8】本発明の第1実施形態による窒化物系半導体レーザ素子の製造プロセスを説明するための断面図である。
【図9】本発明の第2実施形態による窒化物系半導体レーザ素子の構造を示した断面図である。
【図10】本発明の第3実施形態による窒化物系半導体レーザ素子の構造を示した断面図である。
【図11】本発明の第4実施形態による窒化物系半導体レーザ素子の構造を示した断面図である。
【図12】本発明の第4実施形態による窒化物系半導体レーザ素子の製造プロセスを説明するための断面図である。
【図13】本発明の第4実施形態による窒化物系半導体レーザ素子の製造プロセスを説明するための断面図である。
【図14】本発明の第5実施形態による窒化物系半導体レーザ素子の構造を示した断面図である。
【図15】本発明の第6実施形態による窒化物系半導体レーザ素子の構造を示した断面図である。
【図16】本発明の第7実施形態による窒化物系半導体レーザ素子の構造を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
まず、図1、図2および図4を参照して、本発明の具体的な実施形態を説明する前に、本発明の半導体素子1の概略的な構成について説明する。
【0020】
半導体素子1は、図1に示すように、基板2の主表面上に、下地層3と第1半導体層4と第2半導体層5とを順次積層した構造からなる。
【0021】
基板2、下地層3、第1半導体層4および第2半導体層5は、それぞれ、III族化合物半導体を用いた窒化物系半導体からなる。また、図1に示すように、基板2の主表面上には、第1方向(図1の紙面に垂直なA方向)にストライプ状に延びる段差部2aを含む。また、基板2の主表面に平行で、かつ、A方向と直交する第2方向(図1の素子の幅方向(B方向))において隣接する段差部2aに挟まれた領域であるテラス部2bの上部が、半導体素子1の素子形成領域に対応する。なお、テラス部2bは、本発明の「段差部以外の領域」の一例である。また、上記したA方向およびB方向は、それぞれ、本発明の「第1方向」および「第2方向」に対応しており、以降の説明および実施形態においても同様に扱う。
【0022】
下地層3は、無歪みの状態におけるB方向の格子定数βが、無歪みの状態における基板2のB方向の格子定数αよりも大きいIII族化合物半導体を用いた窒化物系半導体からなる。また、第2半導体層5は、無歪みの状態におけるB方向の格子定数δが、基板2の無歪みの状態におけるB方向の格子定数αよりも大きいIII族化合物半導体からなる窒化物系半導体からなる。
【0023】
ここで、基板2の表面上に下地層3が形成された状態において、テラス部2b上に形成された下地層3のB方向の格子定数βは、基板2のB方向の格子定数αよりも大きい(β>α)。また、同様に、基板2上に第2半導体層5が形成された状態において、テラス部2b上に形成された第2半導体層5のB方向の格子定数δは、基板2のB方向の格子定数αよりも大きい(δ>α)。
【0024】
すなわち、本発明では、無歪みの状態におけるB方向の格子定数βが基板2の無歪みの状態におけるB方向の格子定数αよりも大きい下地層3を、A方向に延びる段差部2aが形成された基板2の表面上に形成することにより、下地層3のB方向の格子緩和が起こりやすくなることを利用して基板2の表面上において基板2のB方向の格子定数αよりも下地層3のB方向の格子定数βが大きくなる状態に形成している。このとき、下地層3上に第1半導体層4を介して無歪みの状態におけるB方向の格子定数δが基板2の無歪みの状態におけるB方向の格子定数αよりも大きい第2半導体層5が、基板2のB方向の格子定数αよりも第2半導体層5のB方向の格子定数δが大きくなるように形成されるので、第2半導体層5のB方向の歪みの大きさが緩和(低減)されるように構成されている。
【0025】
また、基板2の主表面の面方位は、(0001)面、(000−1)面や、(11−20)面や、(1−100)面などの非極性面、(11−22)面や(11−2−2)面や(1−101)面や(1−10−1)面などの半極性面を用いることが可能である。また、第1半導体層4および第2半導体層5は、それぞれ、単一の半導体層により構成されていてもよいし、各々が複数の半導体層からなる積層構造を有していてもよい。また、第2半導体層5の上面上や上面上のみならず第2半導体層5の側面上に、絶縁膜や電極層などの他の層が形成されていてもよい。また、基板2の下面上や上面上のみならず基板2の側面上に、絶縁膜や電極層などの他の層が形成されていてもよい。
【0026】
また、基板2は、好ましくは、AlGaN、GaNまたはGaInNにより構成することができる。たとえば、基板2がAlGaNの場合、下地層3は、GaNまたはGaInNまたは基板2よりもAl組成の低いAlGaNまたは無歪みの状態におけるB方向の格子定数βが無歪みの状態における基板2のB方向の格子定数αよりも大きなAlInGaNを含んでいてもよい。また、基板2がGaNの場合、下地層3は、GaInNまたは無歪みの状態におけるB方向の格子定数βが無歪みの状態における基板2のB方向の格子定数αよりも大きなAlInGaNを含んでいてもよい。また、基板2がGaInNの場合、下地層3は、GaInNまたは無歪みの状態におけるB方向の格子定数βが無歪みの状態における基板2のB方向の格子定数αよりも大きなAlInGaNを含んでいてもよい。
【0027】
また、第1半導体層4は、下地層3と組成の異なるIII族化合物半導体を用いた窒化物系半導体からなる。たとえば、第1半導体層4は、無歪みの状態におけるB方向の格子定数γが、下地層3の無歪みの状態におけるB方向の格子定数βよりも小さいIII族化合物半導体からなる窒化物系半導体を含んでもよい。なお、この場合において、下地層3がAlGaNの場合、第1半導体層4は、下地層3よりもAl組成の高いAlGaNを含んでもよい。また、下地層3がGaNの場合、第1半導体層4は、AlGaNを含んでもよい。また、下地層3がGaInNの場合、第1半導体層4は、GaNまたはAlGaN、または、下地層3よりもIn組成の低いGaInN、または、AlInGaNを含んでもよい。
【0028】
また、第1半導体層4は、無歪みの状態におけるB方向の格子定数γが、下地層3の無歪みの状態におけるB方向の格子定数βと同じIII族化合物半導体からなる窒化物系半導体により構成することもできる。あるいは、第1半導体層4は、無歪みの状態におけるB方向の格子定数γが、下地層3の無歪みの状態におけるB方向の格子定数βよりも大きいIII族化合物半導体からなる窒化物系半導体により構成することもできる。
【0029】
また、基板2がAlGaNの場合、第2半導体層5は、GaNまたはInGaN、または、基板2よりもAl組成の低いAlGaN、または、無歪みの状態におけるB方向の格子定数δが無歪みの状態における基板2のB方向の格子定数αよりも大きいAlInGaNを含んでもよい。あるいは、基板2がGaNの場合、第2半導体層5は、GaInN、または、無歪みの状態におけるB方向の格子定数δが無歪みの状態における基板2のB方向の格子定数αよりも大きいAlInGaNを含んでもよい。あるいは、基板2がGaInNの場合、第2半導体層5は、基板2よりもIn組成の高いGaInN、または、無歪みの状態におけるB方向の格子定数δが無歪みの状態における基板2のB方向の格子定数αよりも大きいAlInGaNを含んでもよい。
【0030】
また、第2半導体層5の無歪みの状態におけるB方向の格子定数δは、下地層3の無歪みの状態におけるB方向の格子定数β以上の大きさであってもよい。たとえば、下地層3がAlGa(1−X)Nの場合、第2半導体層5は、AlGa(1−Y)N(ここでY≦X)を含んでもよい。あるいは、下地層3がGaNの場合、第2半導体層5は、GaInNを含んでもよい。、また、下地層3がGaIn(1−X)Nの場合、第2半導体層5は、GaIn(1−Y)N(ここでY≧X)または無歪みの状態におけるB方向の格子定数δが無歪みの状態における基板2のB方向の格子定数αよりも大きいAlInGaNを含んでもよい。また、第1半導体層4の無歪みの状態におけるB方向の格子定数γが、下地層3の無歪みの状態におけるB方向の格子定数βよりも大きい場合、第2半導体層5は、無歪みの状態におけるB方向の格子定数δが、第1半導体層4の無歪みの状態におけるB方向の格子定数γよりも大きいAlBInGaTlNなどのIII族化合物半導体からなる窒化物系半導体を含んでいてもよい。本発明では、このように、基板2がInを含まず、下地層3および第2半導体層5がInを含むことによって、無歪みの状態における下地層3および第2半導体層5のB方向の格子定数(βおよびδ)を、無歪みの状態における基板2のB方向の格子定数αよりも容易に大きくすることができる。また、第2半導体層5が活性層を含む場合、含有されたInにより発光波長の長波長化を容易に行うことができる。
【0031】
また、下地層3、第1半導体層4および第2半導体層5は、B方向の格子定数が一致する状態である擬格子整合状態で形成されていることが好ましい。
【0032】
また、半導体素子1においては、テラス部2b上のみならず、半導体素子1の幅方向の略全体にわたって、素子形成後の下地層3のB方向の格子定数βが、素子形成後の基板2のB方向の格子定数αよりも大きい(β>α)のがより好ましい。
【0033】
また、図2に示すように、基板2が、A方向の一方向にのみストライプ状に延びる上述の段差部2a(後述する溝部2c)を含んでいる場合、A方向の格子定数に関して、素子形成後の基板2のA方向の格子定数αが、素子形成後の下地層3のA方向の格子定数βと一致する関係(α=β)を有している。この場合、基板面内で等方的な(0001)面であっても、下地層3、第1半導体層4および第2半導体層5には、基板面内で異方的な歪みが印加される。また、素子形成後における下地層3のB方向の歪みよりも、下地層3のA方向の歪みの方が大きい。これにより、第2半導体層5における価電子帯上端付近のホールの有効質量が小さくなるので、閾値電流が低減された半導体素子1を形成することができる。
【0034】
また、図4に示すように、基板2は、段差部2aに加えてB方向にストライプ状に延びる段差部2g(後述する溝部2d)を含んでいてもよい。この場合、A方向の格子定数に関して、半導体素子1のA方向の全体にわたって、素子形成後の下地層3のA方向の格子定数βが、素子形成後の基板2のA方向の格子定数αよりも大きい(β>α)。
【0035】
ここで、基板2に形成される段差部2aを形成するための溝部2cの断面形状については、図2に示すような溝部2cの底部2eから上方に向かって開口幅が広がる方向に傾斜した側面2fを有する溝形状以外の形状であってもよい。あるいは、溝部2cの底部2e(底面)に対して略垂直な側面を有する溝形状であってもよいし、両側面が、溝部2cの底部2eから上方に向かって開口幅を狭める方向に傾斜していてもよい。また、側面が階段状になっていてもよい。また、上記した底部2e(底面)などがなく断面形状が略V字形状であってもよい。また、溝部2cの断面形状を略対称形状に構成してもよいし、非対称形状になるように構成してもよい。
【0036】
また、図3に示すように、溝部2cの底部2e上に下地層3を形成してもよいが、溝部2cの底部2e上に下地層3を形成しなくてもよい。溝部2cの底部2e上に下地層3を形成しない場合、下地層3が溝部2cによってB方向に分断されるように構成されるので、より容易に、形成後の下地層3のB方向の格子定数βを、基板2のB方向の格子定数αよりも大きくすることができる。
【0037】
また、本発明では、下地層3の厚みは、約0.5μm以上約20μm以下の範囲が好ましい。また、基板2に形成される段差部2aの高さ(溝部2cの深さ)は、約0.1μm以上約30μm以下の範囲が好ましい。これにより、段差部2aの角部近傍おける下地層3の厚みは、段差部2aの底部2eや段差部2a以外の領域(テラス部2b)における下地層3の厚みよりも小さくなるので、下地層3は、段差部2a以外の領域(テラス部2bなど)においてB方向に膨張しやすくなる。これにより、段差部2a以外の領域において、基板2のB方向の格子定数αよりも下地層3のB方向の格子定数βを、容易に大きくすることが可能となる。
【0038】
また、溝部2cの幅(B方向)は、第1半導体層4の厚み(C方向)よりも大きい値であるのが好ましく、約5μm以上約400μm以下の範囲が好ましい。
【0039】
さらには、下地層3の厚みが、第1半導体層4の厚みよりも大きく構成されるのがより好ましい。これにより、下地層3上に第1半導体層4が形成された状態であっても、下地層3に対する第1半導体層4の影響は小さくなるので、下地層3は、基板2上において容易に格子緩和を起こすことが可能となる。また、隣接する2つの溝部2cに挟まれたテラス部2bのB方向の幅よりも、溝部2cのB方向の幅が広くてもよい。
【0040】
上記の半導体素子1は、半導体レーザ素子や発光ダイオード素子の発光素子や、電界効果トランジスタや、ヘテロバイポーラトランジスタなどの電子デバイスや、フォトダイオードや太陽電池素子などの受光素子や、光触媒素子などに適用することができる。
【0041】
また、半導体素子1が発光素子の場合、第1半導体層4は第1導電型半導体層からなり、第2半導体層5は、第1半導体層側から、活性層と第2導電型半導体層とを順次積層した構造からなっていてもよい。活性層は、単層あるいは単一量子井戸(SQW)構造や、多重量子井戸(MQW)構造からなる。ここで、活性層あるいは井戸層は、無歪みの状態における基板面内の格子定数が、基板2の無歪みの状態における基板面内の格子定数よりも大きいIII族化合物半導体を用いた窒化物系半導体からなっていてもよい。また、第1導電型半導体層は、活性層よりもバンドギャップの大きい第1導電型クラッド層などからなる。なお、第1導電型クラッド層と活性層との間に、第1導電型クラッド層よりもバンドギャップの大きいキャリアブロック層を有していてもよい。また、第1導電型クラッド層の活性層とは反対側に第1導電型コンタクト層を有していてもよい。
【0042】
また、第2導電型半導体層は、活性層よりもバンドギャップの大きい第2導電型クラッド層などからなる。また、第2導電型クラッド層と活性層との間に、第2導電型クラッド層よりもバンドギャップの大きいキャリアブロック層を有していてもよい。また、活性層と反対側の第2導電型クラッド層上に第2導電型コンタクト層を有していてもよい。また、第2導電型コンタクト層は、第2導電型クラッド層よりもバンドギャップが小さいことが好ましい。また、第1導電型半導体層の活性層とは反対側の表面に、第1導電側電極を形成してもよい。また、第2導電型半導体層上には、第2導電側電極が形成される。
【0043】
また、上記した発光素子が半導体レーザ素子の場合、第1導電型クラッド層と活性層との間に、第1導電型クラッド層と活性層との間のバンドギャップを有する光ガイド層を有していてもよい。この場合、第2導電型クラッド層と活性層との間に、第2導電型クラッド層と活性層との間のバンドギャップを有する光ガイド層を有していてもよい。
【0044】
半導体レーザ素子は、たとえば、劈開面からなる共振器面を有する。半導体レーザの光出射側の共振器面には、低反射率の誘電体多層膜が形成されている。反対側の共振器面に高反射率の誘電体多層膜が形成されている。ここで、誘電体多層膜としては、GaN、AlN、BN、Al、SiO、ZrO、Ta、Nb、La、SiN、AlONおよびMgFや、これらの混成比の異なる材料であるTiやNbなどからなる多層膜を用いることができる。
【0045】
また、半導体レーザ素子としては、上部クラッド層に凸部からなるリッジを設けるとともに誘電体の電流ブロック層をリッジの側面に配置することにより活性層に導波路を形成するリッジ導波路型半導体レーザのほか、埋め込みヘテロ型半導体レーザや、平坦な上部クラッド層にストライプ状の開口部を有する電流ブロック層を形成した利得導波型半導体レーザ、あるいは、垂直共振器型半導体レーザに対しても適用できる。また、上記した半導体素子1は、窒化物系半導体により実現可能な、赤外から紫外にわたる光を発光する発光素子に対しても適用できる。
【0046】
次に、図1〜図4を参照して、本発明の半導体素子1の概略的な製造プロセスについて説明する。
【0047】
まず、図2に示すように、基板2の主表面上に、基板面内の第1方向(図1〜図3のA方向)に沿ってストライプ状に延びる溝部2cを形成する。この溝部2cを形成することにより、半導体素子1となった状態での素子の幅方向(B方向)の両端部に配置される段差部2aが形成される。
【0048】
その後、図3に示すように、まず、第1温度で下地層3を成長させる。この際、下地層3は、基板2の主表面に平行で、かつ、A方向と直交する第2方向(図1〜図3のB方向)の格子定数βが、基板2のB方向の格子定数αよりも大きい状態(β>α)で形成される。また、下地層3は、A方向の格子定数に関して、下地層3を形成した後の基板2の格子定数αが、形成後の下地層3のA方向の格子定数βと一致する(α=β)ように形成される。
【0049】
次に、図3に示すように、下地層3上に、第2温度で第1半導体層4を成長させる。さらに、第1半導体層4上に、第3温度で第2半導体層5を成長させる。この際、第2半導体層5は、基板2の主表面に平行で、かつ、A方向と直交するB方向の格子定数δが、基板2のB方向の格子定数αよりも大きい状態(δ>α)で形成される。
【0050】
また、図3に示すように、溝部2cの底部2e上に下地層3を成長させてもよいが、溝部2cの底部2e上に下地層3を成長させなくてもよい。溝部2cの底部2e上に下地層3を成長させない場合、下地層3が溝部2cによってB方向に分断されるように構成されるので、より容易に、形成後の下地層3のB方向の格子定数βを、基板2のB方向の格子定数αよりも大きくすることができる。この場合、溝部2cの底部2eあるいは側面2fに、選択成長用のマスクを配置すればよい。
【0051】
なお、下地層3上に、第1半導体層4および第2半導体層5などを形成した後、溝部2cに(図3のX−X線)沿って個々のチップに分割する。この場合、チップ化された半導体素子1(図1参照)の両側端部には、溝部2cの分割に伴って段差部2aが残される。このようにして、半導体素子1を製造することができる。
【0052】
本発明では、上記のように、無歪みの状態におけるB方向の格子定数βが基板2の無歪みの状態におけるB方向の格子定数αよりも大きい下地層3を、基板2の主表面上において基板2のB方向(溝部2cが延びる第1方向(A方向)と交差する素子の幅方向)の格子定数αよりも下地層3のB方向の格子定数βが大きくなる(β>α)ように形成している。これにより、下地層3のB方向の格子緩和が起こりやすくなる。このとき、下地層3上に第1半導体層4を介して無歪みの状態におけるB方向の格子定数δが基板2の無歪みの状態におけるB方向の格子定数αよりも大きい第2半導体層5を、基板2のB方向の格子定数αよりも第2半導体層5のB方向の格子定数δが大きくなる(δ>α)ように形成することによって、第2半導体層5のB方向の歪みの大きさを緩和(低減)することができる。その結果、半導体素子1の長寿命化を図ることができる。
【0053】
なお、第1温度は第3温度よりも大きいのが好ましい。これにより、下地層3の基板面内の格子緩和を容易に起こすことができるので、形成後の下地層3のB方向の格子定数βを、基板2のB方向の格子定数αよりも大きく(β>α)することができる。また、第2温度は、第1温度以下であるのが好ましい。
【0054】
また、この際、形成後の第1半導体層4の基板面内のA方向の格子定数γおよびB方向の格子定数γが、下地層3の基板面内のA方向の格子定数βおよびB方向の格子定数βとそれぞれ一致する関係(γ=βかつγ=β)を有して形成されるのが好ましく、かつ、形成後の第2半導体層5の基板面内のA方向の格子定数δおよびB方向の格子定数δが、下地層3の基板面内のA方向の格子定数βおよび基板面内のB方向の格子定数βとそれぞれ一致する関係(δ=βかつδ=β)を有して形成されるのが好ましい。
【0055】
なお、図4に示すように、基板2に、溝部2cに加えて基板面内のB方向に沿ってストライプ状に延びる溝部2dが形成される場合、下地層3は、A方向の全体にわたって、下地層3のA方向の格子定数βが、基板2のA方向の格子定数αよりも大きい状態(β>α)で基板2の表面上に形成される。この場合も、形成後の第1半導体層4の基板面内のA方向の格子定数γおよびB方向の格子定数γが、下地層3の基板面内のA方向の格子定数βおよびB方向の格子定数βとそれぞれ一致する関係(γ=βかつγ=β)を有して形成されるのが好ましく、かつ、形成後の第2半導体層5の基板面内のA方向の格子定数δおよびB方向の格子定数δが、下地層3の基板面内のA方向の格子定数βおよび基板面内のB方向の格子定数βとそれぞれ一致する関係(δ=βかつδ=β)を有して形成されるのが好ましい。
【0056】
次に、本発明の具体的な実施形態について説明する。
【0057】
(第1実施形態)
まず、図5を参照して、本発明の第1実施形態による窒化物系半導体レーザ素子100の構造について説明する。
【0058】
本発明の第1実施形態による窒化物系半導体レーザ素子100は、図5に示すように、(0001)面の主表面を有するn型GaN基板10の表面上に、約2.5μmの厚みを有するGeドープn型In0.1Ga0.9Nからなる下地層20を介して窒化物系半導体層30が形成されている。また、窒化物系半導体レーザ素子100は、約300μmの共振器長(A方向)を有するとともに、約250μmの素子幅(B方向)を有している。
【0059】
ここで、第1実施形態では、n型GaN基板10には、素子の幅方向([11−20]方向)の両端部に段差部10aがそれぞれ設けられている。また、各々の段差部10aは、n型GaN基板10の[11−20]方向の中央領域に配置されたテラス部10bに対して約2μmの段差(深さ)D1を有するように形成されている。なお、無歪みの状態(n型GaN基板10上に他の半導体層などが形成されずに単独で存在する状態)におけるn型GaN基板10の[11−20]方向(a軸)の格子定数は、0.3189nmである。また、各々の段差部10aは、素子の共振器方向([1−100]方向)に沿った全ての領域にわたって形成されている。したがって、約2.5μmの厚みを有する下地層20は、段差部10aを埋め尽くした状態で、n型GaN基板10の上面(段差部10aおよびテラス部10bを含めたC2側の表面)を覆うように形成されている。なお、n型GaN基板10は、本発明の「基板」の一例であり、テラス部10bは、本発明の「段差部以外の領域」の一例である。
【0060】
これにより、下地層20は、無歪みの状態(n型GaN基板10上に形成されずに下地層20が単独で存在する状態)ではa軸の格子定数が0.32234nmであるのに対して、下地層20がn型GaN基板10の上面上に形成された場合、n型GaN基板10のテラス部10bでは、[11−20]方向の格子定数が0.32028nmとなるように形成されている。すなわち、テラス部10bでは、下地層20は、[11−20]方向に0.6%の圧縮歪を有した状態となっている。ここで、下地層20の無歪みの状態での格子定数は、InNのa軸の格子定数を0.3533nmとして線形補間により算出した値を用いている。また、下地層20は、テラス部10bの[11−20]方向の端部10c近傍の上部では、[11−20]方向の格子定数が0.32213nmとなるように形成されている。すなわち、端部10c近傍の上部では、下地層20は、[11−20]方向に0.1%の圧縮歪を有した状態となっている。なお、上記した下地層20の[11−20]方向の格子定数については、約50μmのX線ビーム径に調整されたX線回折逆格子マッピング法により測定される。すなわち、下地層20の形成後に、(11−24)逆格子点付近におけるX線回折逆格子マッピング測定により、下地層20の[11−20]方向の格子定数が測定される。
【0061】
したがって、第1実施形態では、下地層20は、[11−20]方向の全体にわたって、n型GaN基板10の無歪みの状態における[11−20]方向の格子定数よりも大きな値を有した状態で形成されている。なお、段差部10a近傍では、段差部10aの側面10fにおいて下地層20の歪みが解放されるので、端部10c近傍の上部での圧縮歪みが、テラス部10b近傍の上部の圧縮歪みよりも小さくなる。
【0062】
また、下地層20は、n型GaN基板10上への形成後の[1−100]方向の格子定数については、テラス部10bおよび段差部10aの上部に関係なく素子全体にわたって無歪みの状態におけるn型GaN基板10の[1−100]方向の格子定数(=√3×0.3189nm)と一致するように形成されるので、下地層20は、無歪みの状態(格子定数=√3×0.32234nm)に対して、形成後には[1−100]方向に約1.1%の圧縮歪を有した状態となる。これにより、下地層20は、n型GaN基板10上への形成後の[1−100]方向の歪みが、[11−20]方向の歪みよりも大きい状態で形成されている。なお、上記した下地層20の[1−100]方向の格子定数についても、下地層20の形成後に、(1−104)逆格子点付近におけるX線回折逆格子マッピング測定により、下地層20の[1−100]方向の格子定数が測定される。
【0063】
また、図5に示すように、下地層20の上面(C2側の表面)上に形成されている窒化物系半導体層30は、下層から上層に向かって、約1.8μmの厚みを有するGeドープn型Al0.03Ga0.97Nからなるn型クラッド層31と、約20nmの厚みを有するアンドープAl0.2Ga0.8Nからなるn側キャリアブロック層32と、約20nmの厚みを有するアンドープIn0.15Ga0.85Nからなる4つの量子障壁層と約3.5nmの厚みを有するアンドープIn0.3Ga0.7Nからなる3つの量子井戸層とが交互に積層されたMQW構造を有する活性層33とが形成されている。なお、n型クラッド層31は、本発明の「第1半導体層」の一例であり、n側キャリアブロック層32、量子障壁層、量子井戸層および活性層33は、本発明の「第2半導体層」の一例である。
【0064】
また、活性層33上に、約0.1μmの厚みを有するアンドープIn0.01Ga0.99Nからなるp側光ガイド層34と、約20nmの厚みを有するアンドープAl0.15Ga0.85Nからなるp側キャリアブロック層35と、約0.45μmの厚みを有するMgドープp型Al0.03Ga0.97Nからなるp型クラッド層36と、約3nmの厚みを有するアンドープIn0.07Ga0.93Nからなるp側コンタクト層37とが形成されている。なお、p側光ガイド層34、p側キャリアブロック層35、p型クラッド層36およびp側コンタクト層37は、本発明の「第2半導体層」の一例である。
【0065】
ここで、第1実施形態では、上記した各層31〜37は、下地層20の表面形状に沿って形成されている。
【0066】
これにより、n型クラッド層31は、無歪みの状態でa軸の格子定数が0.31659nmであるのに対して、下地層20上に形成された場合、テラス部10bの上部(上方)では、積層後の下地層20の格子定数(0.32028nm)と一致して、[11−20]方向に1.2%の引張歪を有した状態となっている。ここで、n型クラッド層31の無歪みの状態での格子定数は、AlNのa軸の格子定数を0.3112nmとして線形補間により算出した値を用いている。また、n型クラッド層31は、テラス部10bの端部10c近傍の上部(上方)では、[11−20]方向の格子定数が、積層後の下地層20の格子定数(=0.32213nm)と一致するように形成される。すなわち、端部10c近傍の上部では、n型クラッド層31は、[11−20]方向に1.7%の引張歪を有した状態となっている。
【0067】
したがって、第1実施形態では、n型クラッド層31は、[11−20]方向の全体にわたって、無歪みの状態におけるn型GaN基板10の[11−20]方向の格子定数よりも大きな値を有した状態で形成される。なお、テラス部10bの上部での引張歪は、端部10cの上部での引張歪よりも小さくなる。
【0068】
また、n型クラッド層31は、下地層20上への形成後の[1−100]方向の格子定数については、テラス部10bおよび段差部10aの上部(上方)に関係なく素子全体にわたって無歪みの状態におけるn型GaN基板10の[1−100]方向の格子定数と一致するように形成されているので、n型クラッド層31は、無歪みの状態(格子定数=√3×0.31659nm)に対して、形成後には[1−100]方向に0.7%の引張歪を有した状態となる。これにより、n型クラッド層31は、下地層20上への形成後の[1−100]方向の歪みが、[11−20]方向の歪みよりも小さい状態で形成されている。
【0069】
一方、活性層33の井戸層は、無歪みの状態でのa軸の格子定数が0.32922nmであるのに対して、下地層20上に形成された場合、テラス部10bの上部(上方)では、下地層20の格子定数(0.32028nm)と一致して、[11−20]方向に2.7%の圧縮歪を有した状態となっている。また、井戸層は、テラス部10bの端部10cの上部(上方)では、[11−20]方向の格子定数が、積層後の下地層20の格子定数(0.32213nm)と一致するように形成される。すなわち、端部10cの上部では、井戸層は、[11−20]方向に約2.2%の圧縮歪を有した状態となっている。
【0070】
したがって、第1実施形態では、井戸層は、[11−20]方向の全体にわたって、無歪みの状態におけるn型GaN基板10の[11−20]方向の格子定数よりも大きな値を有した状態で形成される。なお、段差部10a近傍では、段差部10aの側面10fにおいて井戸層の歪みが解放されるので、端部10cの上部での圧縮歪みが、テラス部10bの上部の圧縮歪みよりも小さくなる。
【0071】
また、井戸層は、n側キャリアブロック層32上への形成後の[1−100]方向(A方向)の格子定数については、テラス部10bおよび段差部10aの上部(上方)に関係なく素子全体にわたって、無歪みの状態におけるn型GaN基板10の[1−100]方向の格子定数と一致するように形成されているので、井戸層は、無歪みの状態での格子定数(√3×0.32922nm)に対して、形成後には[1−100]方向に3.1%の圧縮歪を有した状態となる。これにより、井戸層は、n側キャリアブロック層32上への形成後の[1−100]方向の歪みが、[11−20]方向の歪みよりも大きい状態で形成されている。
【0072】
また、図5に示すように、p型クラッド層36には、素子のB方向の略中央部から上方(C2方向)に約0.402μmの厚み(突出高さ)を有して突出する凸部36aと、凸部36aの両側に延びるとともに約0.05μmの厚みを有する平坦部36bとが形成されている。また、凸部36aは素子のB方向に約1.5μmの幅を有した状態で共振器方向に沿ってストライプ状に延びるように形成されている。このp型クラッド層36の凸部36aおよび凸部36a上に形成されたp側コンタクト層37によって、活性層33の部分に光導波路を構成するためのリッジ45が形成されている。
【0073】
また、リッジ45を構成するp側コンタクト層37上には、下層から上層に向かって、約1nmの厚みを有するPt層と約10nmの厚みを有するPd層と約30nmの厚みを有するPt層とからなるp側オーミック電極38が形成されている。また、窒化物系半導体層30のp型クラッド層36の凸部36a以外の平坦部36bの上面上およびリッジ45の両側面を覆うように、約200nmの厚みを有するSiOからなる電流ブロック層39が形成されている。また、p側オーミック電極38の上面上および電流ブロック層39の上面上には、下層から上層に向かって、約30nmの厚みを有するTi層と、約150nmの厚みを有するPd層と、約3μmの厚みを有するAu層とからなるp側パッド電極40が形成されている。
【0074】
また、図5に示すように、n型GaN基板10の裏面上には、裏面側から順に、約6nmの厚みを有するAl層と約10nmの厚みを有するTi層と約10nmの厚みを有するPd層からなるn側オーミック電極41と、約300nmの厚みを有するAu層からなるn側パッド電極42とが形成されている。
【0075】
また、窒化物系半導体レーザ素子100の共振器方向の両端部には、一対の共振器面(光出射面および光反射面)が形成されている。また、一対の共振器面には、製造プロセスにおける端面コート処理により、AlN膜やAl膜などからなる反射率制御の機能を兼ねる誘電体多層膜(図示せず)が形成されている。
【0076】
次に、図5〜図8を参照して、第1実施形態による窒化物系半導体レーザ素子100の製造プロセスについて説明する。
【0077】
まず、(0001)面の主表面を有するn型GaN基板10を準備する。そして、電子ビーム蒸着法などを用いて、n型GaN基板10の表面の所定領域上に、約0.4μmの厚みを有するNi層からなるストライプ状(細長状)のマスク層(図示せず)を形成した後、Clガスによる反応性イオンエッチング(RIE)法を用いて、このマスク層(図示せず)をエッチングマスクとして、n型GaN基板10の上面(図6のC2側の表面)から約2μmの深さ(C1方向)までをエッチングする。なお、この場合のエッチング選択比(マスク層/n型GaN基板10)は、1:10である。また、エッチング条件としては、エッチング圧力:約3.325kPa、プラズマパワー:約200W、エッチング速度:約140〜約150nm/secである。これにより、n型GaN基板10に、約50μmの幅(開口端の幅)W1(図6参照)と、約2μmの深さD1(図6参照)とを有するとともに、[1−100]方向に延びるストライプ状の溝部10dが複数形成される。また、上記したエッチング条件の場合、溝部10dの左右の側面10fが、n型GaN基板10の上面(C2側の表面)対してそれぞれ略垂直に形成される。これにより、n型GaN基板10において、溝部10dに挟まれるとともに[11−20]方向に約200μmの幅W2(図6参照)を有するテラス部10bは、後述する窒化物系半導体層30の発光部分に対応する領域となる。この後、マスク層を除去する。
【0078】
次に、図6に示すように、有機金属気相成長(MOCVD)法を用いて、n型GaN基板10のテラス部10bの上面上、溝部10dの底部10eおよび側面10f上に、下地層20を介して、窒化物系半導体層30を構成する窒化物系半導体からなる各層31〜37を順次形成する。
【0079】
具体的には、まず、溝部10dが形成されたn型GaN基板10を、水素及び窒素雰囲気の反応炉の中に挿入する。この後、窒化物系半導体各層(31〜37)の窒素原料であるNHガスを反応炉内に供給するとともに、基板温度が約850℃になるまで加熱する。そして、基板温度が約850℃付近にまで達した時点で、トリエチルガリウム(TEGa)ガスおよびトリメチルインジウム(TMIn)ガスと、モノゲルマン(GeH)ガスとを、キャリアガスとしてのHガスを用いて反応炉内に供給することによって、n型GaN基板10の上面上に、約0.3μm/hの速度で下地層20を成長させる。
【0080】
この際、第1実施形態では、下地層20は、テラス部10b([11−20]方向の素子の中央部)において、形成後の[11−20]方向の格子定数が0.32028nmとなるように形成されるので、下地層20は、[11−20]方向に0.6%の圧縮歪を有して形成される。また、下地層20は、溝部10d近傍のテラス部10bの端部10cにおいて、形成後の[11−20]方向の格子定数が0.32213nmとなるように形成されるので、下地層20は、[11−20]方向に0.1%の圧縮歪を有して形成される。
【0081】
一方、下地層20は、形成後の[1−100]方向の格子定数については、基板全体にわたってn型GaN基板10の無歪みの状態での[1−100]方向の格子定数と一致して形成されるので、下地層20は、[1−100]方向に1.1%の圧縮歪を有して形成される。
【0082】
この後、基板温度を約950℃にした状態で、トリメチルガリウム(TMGa)ガスおよびトリメチルアルミニウム(TMAl)ガスと、n型不純物としてのGe原料であるGeHガスとを、キャリアガスとしてのHガスを用いて反応炉内に供給することによって、下地層20の表面上に、約1.1μm/hの速度でn型クラッド層31を成長させる。
【0083】
次に、基板温度を約800℃に下げる。そして、TEGaガスおよびTMInガスを、キャリアガスとしてのNガスを用いて反応炉内に供給することによって、n型クラッド層31上に、約1.2μm/hの速度でn側キャリアブロック層32を成長させる。続けて、n側キャリアブロック層32の表面上に、約20nmの厚みを有するアンドープIn0.15Ga0.85Nからなる4つの量子障壁層と約3.5nmの厚みを有するアンドープIn0.3Ga0.7Nからなる3つ量子井戸層とを交互に約0.25μm/hの速度で成長させる。これにより、4つの量子障壁層と3つの量子井戸層とが交互に積層されたMQW構造を有する活性層33が形成される。
【0084】
続けて、活性層33上に、p側光ガイド層34を成長させる。この後、TMGaガスおよびTMAlガスを、キャリアガスとしてのNガスを用いて反応炉内に供給することによって、p側光ガイド層34上に、約1.2μm/hの速度でp側キャリアブロック層35を成長させる。
【0085】
次に、基板温度を約850℃から約1000℃に加熱する。そして、TMGaガスおよびTMAlガスと、p型不純物としてのシクロペンタジエニルマグネシウム(Mg(C))ガスとを、キャリアガスとしてのNガスを用いて反応炉内に供給することによって、p側キャリアブロック層35上に、約1.1μm/hの速度でp型クラッド層36を成長させる。この後、基板温度を約1000℃から約850℃に下げる。そして、TEGaガスおよびTMInガスを、キャリアガスとしてのNガスを用いて反応炉内に供給することによって、p型クラッド層36上に、約0.25μm/hの速度でp側コンタクト層37を成長させる。これにより、n型GaN基板10のテラス部10bの上面上、溝部10dの底面および側面上に、下地層20を介して、窒化物系半導体からなる各層31〜37により構成される窒化物系半導体層30が形成される。
【0086】
この際、第1実施形態では、窒化物系半導体層30は、基板面内の格子定数が、下地層20の格子定数と一致するように形成される。すなわち、活性層33中の井戸層は、テラス部10b([11−20]方向の素子の中央部)の上部(上方)において、[11−20]方向に約2.7%の圧縮歪を有して形成されるとともに、テラス部10bの端部10cの上部(上方)において、[11−20]方向に約2.2%の圧縮歪を有して形成される。
【0087】
また、活性層33中の井戸層は、形成後の[1−100]方向の格子定数については、基板全体にわたってn型GaN基板10の無歪みの状態における[1−100]方向の格子定数と一致するように形成されるので、井戸層は、無歪みの状態に対して[1−100]方向に3.1%の圧縮歪を有した状態となる。
【0088】
その後、図7に示すように、フォトリソグラフィおよびドライエッチングを用いて、p型クラッド層36とp側コンタクト層37とにより構成されるリッジ45を形成する。この際、リッジ45は、幅方向に約1.5μmの幅を有した状態で共振器方向([1−100]方向)に沿ってストライプ状に延びるように形成される。
【0089】
その後、プラズマCVD法を用いて、窒化物系半導体層30の全面上に、約0.2μmの厚みを有するSiO膜を形成した後、そのSiO膜のリッジ45に対応する領域を除去することによって、リッジ45に対応する領域に開口部39aを有する電流ブロック層39(図8参照)を形成する。
【0090】
そして、図8に示すように、電子ビーム蒸着法を用いてp側コンタクト層37の表面上にp側オーミック電極38を形成した後、電子ビーム蒸着法を用いて、電流ブロック層39の表面上に、p側オーミック電極38の上面に接触するようにp側パッド電極40を形成する。
【0091】
その後、n型GaN基板10の裏面を、後述する劈開工程において劈開しやすい厚みになるまで研磨する。この後、電子ビーム蒸着法を用いて、n型GaN基板10の裏面上に、n側オーミック電極41とn側パッド電極42とを順次形成する。
【0092】
次に、ウェハを[11−20]方向に沿って劈開してチップ化する。その後、劈開によて形成された一対の共振器面に、誘電体多層膜を形成する。最後に、n型GaN基板10の溝部10dの中心(図8のX−X線)に沿ってウェハを[1−100]方向に素子分離する。これにより、個々のチップの幅方向の両側端部には、溝部10dが2つに分離された後の段差部10aが残される。このようにして、図5に示すような第1実施形態による窒化物系半導体レーザ素子100が形成される。
【0093】
第1実施形態では、上記のように、無歪みの状態における[11−20]方向(B方向)の格子定数がn型GaN基板10の無歪みの状態における[11−20]方向の格子定数よりも大きい下地層20を、[1−100]方向に延びる段差部10aが形成されたn型GaN基板の表面上に形成することにより、下地層20の[11−20]方向の格子緩和を起こりやすくなることを利用してn型GaN基板10の表面上においてn型GaN基板10の[11−20]方向の格子定数よりも下地層20の[11−20]方向の格子定数が大きくなる状態に形成している。このとき、下地層20上にn型クラッド層31を介して無歪みの状態における[11−20]方向の格子定数がn型GaN基板10の無歪みの状態における[11−20]方向の格子定数よりも大きい井戸層を含む活性層33を、n型GaN基板10の[11−20]方向の格子定数よりも活性層33の[11−20]方向の格子定数が大きくなるように形成することによって、活性層33の[11−20]方向の歪みの大きさを緩和(低減)することができる。その結果、窒化物系半導体レーザ素子100の長寿命化を図ることができる。
【0094】
また、第1実施形態では、下地層20を、[1−100]方向(A方向)の歪みが、[11−20]方向(B方向)の歪みよりも大きい状態で、n型GaN基板10のc面((0001)面)の主表面上に形成することによって、窒化物系半導体からなる活性層33を構成する六方晶化合物半導体の基板面内の方向に、異方的な(等方的でない)歪みを加えることができる。これにより、活性層33における価電子帯上端付近のホールの有効質量が小さくなるので、閾値電流が低減された窒化物系半導体レーザ素子100を形成することができる。
【0095】
また、第1実施形態では、下地層20の厚み(約2.5μm)を、n型クラッド層31の厚み(約1.8μm)よりも大きく構成することによって、下地層20上にn型クラッド層31が形成された状態であっても、下地層20に対するn型クラッド層31の影響は小さくなるので、下地層20は、n型GaN基板10上において容易に格子緩和を起こすことができる。
【0096】
また、第1実施形態では、n型GaN基板10がInを含まず、下地層20および活性層33がInを含むように構成することによって、無歪みの状態における下地層20および活性層33の[11−20]方向(B方向)の格子定数を、無歪みの状態におけるn型GaN基板10の[11−20]方向の格子定数よりも容易に大きくすることができる。また、活性層33が井戸層を含むので、含有されたInにより発光波長の長波長化を容易に行うことができる。
【0097】
また、第1実施形態では、本発明の第2半導体層が、井戸層を有する活性層33を含んでおり、井戸層の無歪みの状態における[11−20]方向(B方向)の格子定数を、n型GaN基板10の無歪みの状態における[11−20]方向の格子定数よりも大きく構成することによって、上述した下地層20により、n型クラッド層31を介して形成された活性層33に含まれる井戸層の[11−20]方向の歪みを低減することができる。これにより、発光効率の高い窒化物系半導体レーザ素子100を容易に形成することができる。
【0098】
また、第1実施形態の製造プロセスでは、下地層20形成時の温度(約850℃)を、活性層33形成時の温度(約800℃)よりも高くすることによって、n型GaN基板10上における下地層20の格子緩和を起こしやすくすることができる。
【0099】
(第2実施形態)
図9を参照して、第2実施形態について説明する。この第2実施形態による窒化物系半導体レーザ素子200の製造プロセスでは、上記第1実施形態と異なり、約5μmの深さを有する溝部11dが予め形成されたn型GaN基板10を用いて半導体素子層を積層する場合について説明する。なお、図中において、上記第1実施形態と同様の構成には、上記第1実施形態と同じ符号を付して図示している。
【0100】
本発明の第2実施形態による窒化物系半導体レーザ素子200は、図9に示すように、n型GaN基板10の表面上に、約2.5μmの厚みを有する下地層20を介して窒化物系半導体層30が形成されている。
【0101】
ここで、第2実施形態では、下地層20が形成されるn型GaN基板10には、約5μmの段差(深さ)D2を有する段差部11aが形成されている。したがって、下地層20は、段差部11aの段差D2よりも厚みが小さい状態で、n型GaN基板10の上面(段差部11aおよびテラス部10bを含めたC2側の表面)を覆うように形成されている。このように下地層20が形成される場合、段差部11aの側面11f上に形成される下地層20の厚みは、段差部11aの底部11e上に形成される下地層20の厚み、および、テラス部10b上に形成される下地層20の厚みよりも小さくなる。この結果、段差部11aの側面11fでは、下地層20は、テラス部10bにおいて基板面内(A方向およびB方向によって構成される面内)方向に膨張しやすい状態で形成されている。
【0102】
なお、第2実施形態による窒化物系半導体レーザ素子200のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。また、窒化物系半導体レーザ素子200の製造プロセスは、n型GaN基板10の上面に約5μmの段差D2を有する溝部11d(段差部11a)を形成する点を除いて、上記第1実施形態の製造プロセスと同様である。
【0103】
第2実施形態では、上記のように、n型GaN基板10のテラス部10bにおける下地層20の厚みを、n型GaN基板10の段差部11aの高さよりも小さく構成することによって、n型GaN基板10の表面上に下地層20を成長させる際、段差部11aの角部(側面11fと端部10cとが接続される部分)近傍おける下地層20の厚み(側面11fと垂直な方向(B方向)の厚み)が、段差部11aの底部11eやテラス部10bにおける厚みよりも小さくなるので、その分、下地層20は、テラス部10bにおいて基板面内(A方向およびB方向によって構成される面内)方向に膨張しやすい状態で形成される。これにより、n型GaN基板10上に下地層20が形成された場合に、段差部11a以外の領域であるテラス部10bにおいて、n型GaN基板10の基板面内の格子定数よりも下地層20の基板面内の格子定数を、容易に大きくすることができる。なお、第2実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0104】
(第3実施形態)
図10を参照して、第3実施形態について説明する。この第3実施形態による窒化物系半導体レーザ素子300の製造プロセスでは、上記第2実施形態と異なり、上面(C2側の表面)から内部に向かって開口幅が広がる方向に傾斜する側面12fを有する溝部12dが形成されたn型GaN基板10を用いて半導体素子層を積層する場合について説明する。なお、図中において、上記第2実施形態と同様の構成には、上記第2実施形態と同じ符号を付して図示している。
【0105】
本発明の第3実施形態による窒化物系半導体レーザ素子300は、図10に示すように、n型GaN基板10の表面上に、約2.5μmの厚みを有する下地層20を介して窒化物系半導体層30が形成されている。
【0106】
ここで、第3実施形態では、下地層20が形成されるn型GaN基板10には、底部12eから上方(C2方向)に向かって庇を形成するようにせり出した側面12fを有する段差部12aが形成されている。また、段差部12aは、約5μmの高さ(段差)D3を有している。これにより、下地層20を[11−20]方向(B方向)に沿って見た場合、下地層20は、n型GaN基板10の端部10cと側面12fとの交差する部分において、B方向に完全に分断されて形成されている。
【0107】
なお、第3実施形態においてn型GaN基板10の上面に側面12fを有する溝部12dを形成する際の製造プロセスは次のようになる。具体的には、n型GaN基板10に溝部12dを形成する際に、エッチング装置の基台(図示せず)にn型GaN基板10を斜めに設置するとともに、n型GaN基板10を回転させながらエッチングすることによって、溝部12dの断面形状が逆メサ形状になるように形成する。すなわち、溝部12dの開口幅が、溝部12dの底部12eから開口端に向かって徐々に小さくなるように形成する。なお、溝部12dの形成において、n型GaN基板10をエッチング装置の基台と平行に設置した場合であっても、エッチングガス圧などのエッチング条件を制御することにより、溝部12dの断面形状を、逆メサ形状になるように形成することが可能である。
【0108】
なお、第3実施形態による窒化物系半導体レーザ素子300のその他の構成および製造プロセスは、上記第2実施形態と同様である。
【0109】
第3実施形態では、上記のように、下地層20を、n型GaN基板10の端部10cと側面12fとが接続される部分(角部)において[11−20]方向に完全に分断された状態に形成することによって、下地層20はB方向に不連続な状態でn型GaN基板10の表面上に形成される分、下地層20は、テラス部10bにおいて基板面内(A方向およびB方向によって構成される面内)方向に膨張しやすい状態で形成される。この結果、n型GaN基板10上に下地層20が形成された場合に、テラス部10bにおいて、n型GaN基板10の基板面内の格子定数よりも下地層20の基板面内の格子定数を、容易に大きくすることができる。なお、第3実施形態のその他の効果は、上記第2実施形態と同様である。
【0110】
(第4実施形態)
まず、図11を参照して、第4実施形態による窒化物系半導体レーザ素子400の構造について説明する。なお、図中において、上記第1実施形態と同様の構成には、上記第1実施形態と同じ符号を付して図示している。
【0111】
本発明の第4実施形態による窒化物系半導体レーザ素子400は、図11に示すように、(0001)面の主表面を有するn型Al0.4Ga0.6N基板70の表面上に、約2.5μmの厚みを有するGeドープn型Al0.3Ga0.7Nからなる下地層80を介して窒化物系半導体層90が形成されている。また、窒化物系半導体レーザ素子400は、約300μmの共振器長を有するとともに、約125μmの素子幅を有している。なお、n型Al0.4Ga0.6N基板70は、本発明の「基板」の一例である。
【0112】
ここで、第4実施形態では、n型Al0.4Ga0.6N基板70には、素子の幅方向([11−20]方向)の一方側(B1側)の端部に約2μmの段差(深さ)D4を有する段差部70aが設けられている。したがって、約2.5μmの厚みを有する下地層80は、段差部70aを埋め尽くした状態で、n型Al0.4Ga0.6N基板70の上面を覆うように形成されている。なお、無歪みの状態におけるn型Al0.4Ga0.6N基板70の[11−20]方向の格子定数は、0.31582nmである。
【0113】
これにより、下地層80は、無歪みの状態ではa軸の格子定数が0.31659nmであるのに対して、n型Al0.4Ga0.6N基板70の上面上に形成された場合、n型Al0.4Ga0.6N基板70の[11−20]方向の中央領域に配置されたテラス部70bでは、[11−20]方向の格子定数が0.31613nmとなるように形成されている。すなわち、テラス部70bでは、形成後の下地層80は、[11−20]方向に0.1%の圧縮歪を有した状態となっている。また、下地層80は、テラス部70bの[11−20]方向の端部70c近傍の上部では、[11−20]方向の格子定数が0.31654nmとなるように形成されている。すなわち、端部70c近傍の上部では、形成後の下地層80は、[11−20]方向に0.02%の圧縮歪を有した状態となっている。なお、テラス部70bは、本発明の「段差部以外の領域」の一例である。
【0114】
したがって、第4実施形態では、n型Al0.4Ga0.6N基板70上への形成後の下地層80は、[11−20]方向の全体にわたって、無歪みの状態におけるn型Al0.4Ga0.6N基板70の[11−20]方向の格子定数(=0.31582nm)よりも大きな値を有した状態で形成されている。なお、段差部70a近傍では、段差部70aの側面70fにおいて下地層80の歪みが解放されるので、端部70c近傍の上部での圧縮歪みが、テラス部70b近傍の上部の圧縮歪みよりも小さくなる。
【0115】
また、下地層80は、n型Al0.4Ga0.6N基板70上への形成後の[1−100]方向の格子定数については、テラス部70bおよび段差部70aの上部に関係なく素子全体にわたって、無歪みの状態におけるn型Al0.4Ga0.6N基板70の[1−100]方向の格子定数(=√3×0.31582nm)と一致するように形成されるので、下地層80は、形成後には[1−100]方向に0.2%の圧縮歪を有した状態となる。これにより、下地層80は、n型Al0.4Ga0.6N基板70上への形成後の[1−100]方向の歪みが、[11−20]方向の歪みよりも大きい状態で形成されている。
【0116】
また、下地層80の上面(C2側の表面)上に形成されている窒化物系半導体層90は、下層から上層に向かって、約1.8μmの厚みを有するGeドープn型Al0.4Ga0.6Nからなるn型クラッド層91と、約20nmの厚みを有するアンドープAl0.45Ga0.55Nからなるn型キャリアブロック層92と、約20nmの厚みを有するアンドープAl0.35Ga0.65Nからなる4つの量子障壁層と約3.5nmの厚みを有するアンドープAl0.3Ga0.7Nからなる3つ量子井戸層とが交互に積層されたMQW構造を有する活性層93とが形成されている。なお、n型クラッド層91は、n型Al0.4Ga0.6N基板70と同様に、無歪みの状態ではa軸の格子定数が0.31582nmである。なお、n型クラッド層91は、本発明の「第1半導体層」の一例であり、n型キャリアブロック層92および活性層93は、本発明の「第2半導体層」の一例である。
【0117】
また、活性層93上に、約0.1μmの厚みを有するアンドープAl0.35Ga0.65Nからなるp側光ガイド層94と、約20nmの厚みを有するアンドープAl0.45Ga0.55Nからなるp側キャリアブロック層95と、約0.45μmの厚みを有するMgドープp型Al0.4Ga0.6Nからなるp型クラッド層96と、約3nmの厚みを有するアンドープGaNからなるp側コンタクト層97とが形成されている。なお、p側光ガイド層94、p側キャリアブロック層95、p型クラッド層96およびp側コンタクト層97は、本発明の「第2半導体層」の一例である。
【0118】
ここで、第4実施形態では、活性層93の井戸層は、無歪みの状態ではa軸の格子定数が0.31659nmであるのに対して、下地層80上に形成された場合、テラス部70bの上部(上方)では、積層後の下地層80の格子定数(0.31613nm)と一致して、[11−20]方向に0.1%の圧縮歪を有した状態となっている。ここで、井戸層の無歪みの状態での格子定数は、下地層80の無歪みの状態での格子定数と同じである。また、井戸層は、テラス部70bの端部70c近傍の上部(上方)では、[11−20]方向の格子定数が、積層後の下地層80の格子定数(0.31654nm)と一致して形成される。すなわち、端部70c近傍の上部では、井戸層は、[11−20]方向に0.02%の圧縮歪を有した状態となっている。
【0119】
したがって、第4実施形態では、井戸層は、[11−20]方向の全体にわたって、無歪みの状態におけるn型Al0.4Ga0.6N基板70の[11−20]方向の格子定数(0.31582nm)よりも大きな値を有した状態で形成される。なお、段差部70a近傍では、段差部70aの側面70fにおいて井戸層の歪みが解放されるので、端部70cの上部での圧縮歪みが、テラス部70bの上部の圧縮歪みよりも小さくなる。
【0120】
また、井戸層は、n型キャリアブロック層92上への形成後の[1−100]方向の格子定数については、テラス部70bおよび段差部70aの上部(上方)に関係なく素子全体にわたって、無歪みの状態におけるn型Al0.4Ga0.6N基板70の[1−100]方向の格子定数と一致するように形成されているので、井戸層は、無歪みの状態(格子定数=√3×0.31659nm)に対して、形成後には[1−100]方向に0.2%の圧縮歪を有した状態となる。これにより、井戸層は、n型キャリアブロック層92上への形成後の[1−100]方向の歪みが、[11−20]方向の歪みよりも大きい状態で形成されている。
【0121】
また、図11に示すように、p型クラッド層96には、素子の幅方向の略中央部から上方(C2方向)に約0.402μmの厚み(突出高さ)を有して突出する凸部96aと、凸部96aの両側に延びるとともに約0.05μmの厚みを有する平坦部96bとが形成されている。また、凸部96aは素子の幅方向に約1.5μmの幅を有した状態で共振器方向(図11のA方向)に沿ってストライプ状に延びるように形成されている。このp型クラッド層96の凸部96aおよびp側コンタクト層97によって、活性層93の部分に光導波路を構成するためのリッジ85が形成されている。また、p側コンタクト層97上にはp側オーミック電極98が形成されるとともに、p型クラッド層96の平坦部96bの上面上およびリッジ85の両側面を覆うように、SiOからなる電流ブロック層99が形成されている。また、p側オーミック電極98の上面上および電流ブロック層99の上面上には、p側パッド電極401が形成されている。
【0122】
次に、図11〜図13を参照して、第4実施形態による窒化物系半導体レーザ素子400の製造プロセスについて説明する。
【0123】
まず、図12に示すように、(0001)面の主表面を有するn型Al0.4Ga0.6N基板70を準備する。そして、上記第1実施形態と同様の断面形状を有する溝部70dを形成する。
【0124】
次に、MOCVD法を用いて、n型Al0.4Ga0.6N基板70のテラス部70bの上面上、溝部70dの底面および側面70f上に、下地層80を介して、窒化物系半導体層90を構成する窒化物系半導体からなる各層91〜97を順次形成する。
【0125】
具体的には、基板温度が約1150℃付近にまで達した時点で、n型Al0.4Ga0.6N基板70の表面上に、約1.1μm/hの速度で下地層80を成長させる。
【0126】
この際、第4実施形態では、下地層80は、テラス部70b([11−20]方向の素子の中央部)において、形成後の[11−20]方向の格子定数が0.31613nmとなるように形成されるので、下地層80は、[11−20]方向に0.1%の圧縮歪を有して形成される。また、下地層80は、テラス部70bの端部70cにおいて、形成後の[11−20]方向の格子定数が0.31654nmとなるように形成されるので、下地層80は、[11−20]方向に0.02%の圧縮歪を有して形成される。
【0127】
一方、下地層80は、形成後の[1−100]方向の格子定数については、基板全体にわたって、無歪みの状態におけるn型Al0.4Ga0.6N基板70の[1−100]方向の格子定数と一致するように形成されるので、下地層80は、無歪みの状態に対して[1−100]方向に0.2%の圧縮歪を有して形成される。
【0128】
この後、基板温度を約1050℃にした状態で、下地層80の表面上に、約1.1μm/hの速度でn型クラッド層91を成長させる。さらに、n型クラッド層91上に、約20nmの厚みを有するアンドープAl0.35Ga0.65Nからなる4つの量子障壁層と約3.5nmの厚みを有するアンドープAl0.3Ga0.7Nからなる3つ量子井戸層とを交互に約0.25μm/hの速度で成長させる。これにより、活性層93が形成される。
【0129】
続けて、活性層93上に、p側光ガイド層94を成長させる。この後、p側光ガイド層94上に、約1.2μm/hの速度でp側キャリアブロック層95を成長させる。この後、p側キャリアブロック層95上に、約1.1μm/hの速度でp型クラッド層96を成長させる。
【0130】
この後、p型クラッド層96上に、約0.25μm/hの速度でp側コンタクト層97を成長させる。これにより、n型Al0.4Ga0.6N基板70のテラス部70bの上面上、溝部70dの底面および側面70f上に、下地層80を介して、窒化物系半導体各層(91〜97)により構成される窒化物系半導体層90が形成される。
【0131】
この際、第4実施形態では、窒化物系半導体層90は、基板面内の格子定数が、下地層80の格子定数と一致するように形成される。すなわち、活性層93中の井戸層は、テラス部70bの上部において、[11−20]方向に0.1%の圧縮歪を有して形成されるとともに、テラス部70bの端部70cの上部において、[11−20]方向に0.02%の圧縮歪を有して形成される。
【0132】
また、活性層93中の井戸層は、形成後の[1−100]方向の格子定数については、基板全体にわたってn型Al0.4Ga0.6N基板70の無歪みの状態における[1−100]方向の格子定数と一致するように形成されるので、井戸層は、[1−100]方向に0.2%の圧縮歪を有した状態となる。
【0133】
その後、図13に示すように、フォトリソグラフィおよびドライエッチングを用いて、複数のリッジ85を形成する。その後、p側オーミック電極98、電流ブロック層99およびp側パッド電極401を順次形成する。また、n型Al0.4Ga0.6N基板70の裏面を、後述する劈開工程において劈開しやすい厚みになるまで研磨した後、n型Al0.4Ga0.6N基板70の裏面上の所定領域に、n側オーミック電極41とn側パッド電極42とを順次形成する。
【0134】
最後に、n型Al0.4Ga0.6N基板70の溝部70dの中心(図13のY−Y線)、および、溝部70dとは反対側の2つのリッジ85に挟まれた領域の中央部(図13のZ−Z線)に沿ってウェハを[1−100]方向に素子分離してチップ化する。これにより、個々のチップの幅方向の一方側端部には、溝部70dが2つに分離された後の段差部70aが残される。このようにして、図11に示すような第4実施形態による窒化物系半導体レーザ素子400が形成される。なお、第4実施形態の効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0135】
(第5実施形態)
図14を参照して、第5実施形態について説明する。この第5実施形態による窒化物系半導体レーザ素子500では、上記第1実施形態と異なる材料からなるn型クラッド層531を用いて窒化物系半導体層530を形成する場合について説明する。なお、図中において、上記第1実施形態と同様の構成には、上記第1実施形態と同じ符号を付して図示している。
【0136】
すなわち、第5実施形態による窒化物系半導体レーザ素子500の製造プロセスでは、n型GaN基板10の表面上に下地層20を成長させた後、まず、基板温度を約800℃にした状態で、下地層20の表面上に、約1.5μmの厚みを有するSiドープn型In0.15Ga0.85Nからなるn型クラッド層531を約0.25μm/hの速度で成長させる。なお、n型クラッド層531は、無歪みの状態で0.32406nm(a軸方向([11−20]方向))の格子定数を有している。
【0137】
次に、n型クラッド層531の表面上に、n側キャリアブロック層32を形成した後、約20nmの厚みを有するアンドープIn0.2Ga0.8Nからなる4つの量子障壁層と約3.5nmの厚みを有するアンドープIn0.35Ga0.65Nからなる3つ量子井戸層とを交互に約0.25μm/hの速度で成長させる。これにより、4つの量子障壁層と3つの量子井戸層とが交互に積層されたMQW構造を有する活性層533が形成される。なお、n型クラッド層531は、本発明の「第1半導体層」の一例であり、活性層533は、本発明の「第2半導体層」の一例である。
【0138】
なお、活性層533の井戸層は、無歪みの状態ではa軸の格子定数が0.33094nmであるのに対して、下地層20上に形成された場合、テラス部10bの上部(上方)では、下地層20の格子定数(0.32028nm)と一致しようとして、[11−20]方向に3.2%の圧縮歪を有した状態となっている。また、井戸層は、テラス部10bの端部10cの上部(上方)では、[11−20]方向の格子定数が、積層後の下地層20の格子定数(0.32213nm)と一致するように形成される。すなわち、端部10cの上部では、井戸層は、[11−20]方向に2.7%の圧縮歪を有した状態となっている。
【0139】
したがって、第5実施形態では、井戸層は、[11−20]方向の全体にわたって、無歪みの状態におけるn型GaN基板10の[11−20]方向の格子定数(=0.3189nm)よりも大きな値を有した状態で形成される。
【0140】
また、井戸層は、n側キャリアブロック層32上への形成後の[1−100]方向の格子定数については、テラス部10bおよび段差部10aの上部(上方)に関係なく素子全体にわたってn型GaN基板10の無歪みの状態における[1−100]方向の格子定数(√3×0.3189nm)と一致するように形成されているので、井戸層は、無歪みの状態(格子定数=√3×0.33094nm)に対して、形成後には[1−100]方向に約3.6%の圧縮歪を有した状態となる。これにより、井戸層は、n側キャリアブロック層32上への形成後の[1−100]方向の歪みが、[11−20]方向の歪みよりも大きい状態で形成されている。
【0141】
続けて、活性層533上に、約0.1μmの厚みを有するアンドープIn0.2Ga0.8Nからなるp側光ガイド層534を成長させる。この後、p側光ガイド層534上に、約20nmの厚みを有するアンドープAl0.1Ga0.9Nからなるp側キャリアブロック層535を約1.2μm/hの速度で成長させる。この後、p側キャリアブロック層535上に、約0.45μmの厚みを有するMgドープp型Al0.03Ga0.97Nからなるp型クラッド層536を約1.1μm/hの速度で成長させる。この後、p型クラッド層536上に、約3nmの厚みを有するアンドープIn0.07Ga0.93Nからなるp側コンタクト層37を約0.25μm/hの速度で成長させる。なお、p側光ガイド層534、p側キャリアブロック層535およびp型クラッド層536は、本発明の「第2半導体層」の一例である。
【0142】
なお、第5実施形態による窒化物系半導体レーザ素子500のその他の構造および製造プロセスは、上記第1実施形態と同様である。また、第5実施形態の効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0143】
(第6実施形態)
図15を参照して、第6実施形態について説明する。この第6実施形態による窒化物系半導体レーザ素子600では、上記第5実施形態と異なる材料からなる下地層620およびn型クラッド層631を用いて、n型GaN基板10の表面上に窒化物系半導体層630を形成する場合について説明する。なお、図中において、上記第5実施形態と同様の構成には、上記第5実施形態と同じ符号を付して図示している。
【0144】
すなわち、第6実施形態による窒化物系半導体レーザ素子600の製造プロセスでは、まず、n型GaN基板10の表面上に、約2.5μmの厚みを有するn型Al0.05In0.1Ga0.85Nからなる下地層620を成長させる。なお、下地層620のa軸の格子定数は、無歪みの状態では0.32196nmである。
【0145】
この際、第6実施形態では、下地層620は、テラス部10b([11−20]方向の素子の中央部)において、形成後の[11−20]方向の格子定数が0.32012nmとなるように形成されるので、下地層620は、[11−20]方向に0.6%の圧縮歪を有して形成される。また、下地層620は、テラス部10bの端部10cにおいて、形成後の[11−20]方向の格子定数が0.32177nmとなるように形成されるので、下地層620は、[11−20]方向に0.1%の圧縮歪を有して形成される。
【0146】
一方、下地層620は、n型GaN基板10上への形成後の[1−100]方向の格子定数については、基板全体にわたってn型GaN基板10の無歪みの状態における[1−100]方向の格子定数と一致するように形成されるので、下地層620は、形成後には[1−100]方向に0.9%の圧縮歪を有して形成される。すなわち、下地層620は、n型GaN基板10上への形成後の[1−100]方向の歪みが、[11−20]方向の歪みよりも大きい状態で形成される。
【0147】
その後、下地層620の表面上に、約1.8μmの厚みを有するGeドープn型Al0.05Ga0.15Nからなるn型クラッド層631を約0.25μm/hの速度で成長させる。なお、n型クラッド層631の表面上に積層されるその他の半導体層(半導体素子層)については、上記第5実施形態と同様である。なお、n型クラッド層631は、本発明の「第1半導体層」の一例である。
【0148】
これにより、活性層533の井戸層は、無歪みの状態ではa軸の格子定数が0.33094nmであるのに対して、下地層620上に形成された場合、テラス部10bの上部(上方)では、形成後の下地層620の格子定数(0.32012nm)と一致して、[11−20]方向に3.3%の圧縮歪を有した状態となっている。また、井戸層は、テラス部10bの端部10cの上部(上方)では、[11−20]方向の格子定数が、形成後の下地層620の格子定数(0.32177nm)と一致して形成される。すなわち、端部10cの上部では、井戸層は、[11−20]方向に2.8%の圧縮歪を有した状態となっている。
【0149】
したがって、第6実施形態では、井戸層は、[11−20]方向の全体にわたって、n型GaN基板10の[11−20]方向の格子定数よりも大きな値を有した状態で形成される。
【0150】
また、井戸層は、n側キャリアブロック層32上への形成後の[1−100]方向の格子定数については、テラス部10bおよび段差部10aの上部(上方)に関係なく素子全体にわたって、無歪みの状態におけるn型GaN基板10の[1−100]方向の格子定数と一致するように形成されているので、井戸層は、無歪みの状態(格子定数=√3×0.33094nm)に対して、形成後には[1−100]方向に約.6%の圧縮歪を有した状態となる。これにより、井戸層は、n側キャリアブロック層32上への形成後の[1−100]方向の歪みが、[11−20]方向の歪みよりも大きい状態で形成されている。
【0151】
なお、第6実施形態による窒化物系半導体レーザ素子600のその他の構造および製造プロセスは、上記第5実施形態と同様である。また、第6実施形態の効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0152】
(第7実施形態)
図16を参照して、第7実施形態について説明する。この第7実施形態による窒化物系半導体レーザ素子700では、上記第1実施形態と異なり、(1−100)面の主表面を有するn型GaN基板710を用いて窒化物系半導体層30を形成する場合について説明する。なお、図中において、上記第1実施形態と同様の構成には、上記第1実施形態と同じ符号を付して図示している。
【0153】
すなわち、第7実施形態による窒化物系半導体レーザ素子700の製造プロセスでは、まず、(1−100)面の主表面を有するn型GaN基板710の表面に、[0001]方向(A方向)に沿って延びるストライプ状(細長状)の溝部710dを形成する。ここで、n型GaN基板710のc軸の格子定数は、無歪みの状態で0.5186nmである。なお、溝部710dは、上記第1実施形態において形成された溝部10dと同じ断面形状を有するように形成される。なお、n型GaN基板710は、本発明の「基板」の一例である。
【0154】
その後、溝部710dが形成されたn型GaN基板710の表面上に、下地層20を成長させる。ここで、下地層20のc軸の格子定数は、無歪みの状態で0.52367nmである。なお、下地層20の無歪みの状態での格子定数は、InNのc軸の格子定数を0.5693nmとして線形補間により算出した値を用いている。
【0155】
この際、第7実施形態では、下地層20は、テラス部710b([11−20]方向の素子の中央部)において、[11−20]方向の格子定数が0.32028nmとなるように形成されるので、下地層20は、[11−20]方向に0.6%の圧縮歪を有して形成される。また、下地層20は、テラス部710bの端部710cにおいて、[11−20]方向の格子定数が0.32213nmとなるように形成されるので、下地層20は、[11−20]方向に0.1%の圧縮歪を有して形成される。なお、テラス部710bは、本発明の「段差部以外の領域」の一例である。
【0156】
一方、下地層20は、n型GaN基板710上への形成後の[0001]方向(A方向)の格子定数については、基板全体にわたって、無歪みの状態におけるn型GaN基板710の[0001]方向の格子定数と一致して形成されるので、下地層20は、形成後には[0001]方向に1%の圧縮歪を有して形成される。すなわち、下地層20は、n型GaN基板710上への形成後の[0001]方向の歪みが、[11−20]方向の歪みよりも大きい状態で形成される。
【0157】
その後、下地層20の表面上に、上記第1実施形態と同様の材料からなる半導体層(半導体素子層)を積層して、窒化物系半導体層30を形成する。
【0158】
これにより、形成後の活性層33の井戸層は、上記第1実施形態と同様に、テラス部710bの上部(上方)において[11−20]方向に2.7%の圧縮歪を有するとともに、テラス部710bの端部710cの上部(上方)において[11−20]方向に2.2%の圧縮歪を有した状態となっている。
【0159】
また、井戸層は、n側キャリアブロック層32上への形成後の[1−100]方向の格子定数については、テラス部710bおよび段差部710aの上部(上方)に関係なく素子全体にわたってn型GaN基板10の無歪みの状態における[0001]方向の格子定数と一致して形成されているので、井戸層は、無歪みの状態(格子定数=0.53381nm)に対して、形成後には[0001]方向に2.8%の圧縮歪を有した状態となる。これにより、井戸層は、n側キャリアブロック層32上への形成後の[0001]方向の歪みが、[11−20]方向の歪みよりも大きい状態で形成されている。
【0160】
なお、第7実施形態による窒化物系半導体レーザ素子700のその他の構造および製造プロセスは、上記第1実施形態と同様である。
【0161】
第7実施形態では、上記のように、下地層20を、[0001]方向(A方向)の歪みが、[11−20]方向(B方向)の歪みよりも大きい状態で、n型GaN基板10のm面((1−100)面)の主表面上に形成することによって、窒化物系半導体からなる活性層33を構成する六方晶化合物半導体の基板面内の方向に、異方的な歪みを加えることができる。これにより、閾値電流が低減された窒化物系半導体レーザ素子700を形成することができる。なお、第7実施形態の効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0162】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0163】
たとえば、上記第1〜第7実施形態では、n型窒化物系半導体基板を用いた例について示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、p型窒化物系半導体基板を用いるとともに、p型窒化物系半導体基板の表面上に、p型窒化物系半導体層、活性層およびn型窒化物系半導体層などを順次積層して半導体素子を形成してもよい。
【0164】
また、上記第3実施形態の製造プロセスでは、溝部12dの両側の側面12fが底部12eから上方に向かって庇を形成するように構成した例について示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、溝部12dの片側の側面のみが上方に向かって庇を形成するように構成してもよい。
【0165】
また、上記第1〜第7実施形態の製造プロセスでは、窒化物系半導体各層の結晶成長を、MOCVD法を用いて行った例について示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、窒化物系半導体各層の結晶成長を、ハライド気相エピタキシー法や、分子線エピタキシー(MBE)法や、ガスソースMBE法などを用いて行うようにしてもよい。
【0166】
また、上記第1〜第7実施形態において、本発明の「基板」として、ストライプ状の転位集中領域を有する基板を用いてもよい。この場合、基板の転位集中領域が、本発明の「段差部」の底部内の領域に位置するとともに、基板の転位集中領域以外の領域が、本発明の「段差部以外の領域」に位置するのが好ましい。
【符号の説明】
【0167】
2 基板
2a、10a、11a、12a、70a 段差部
2b、10b、70b、710b テラス部(段差部以外の領域)
3、20、80、620 下地層
4 第1半導体層
5 第2半導体層
10、710 n型GaN基板(基板)
31、91、531、631 n型クラッド層(第1半導体層)
32、92 n側キャリアブロック層(第2半導体層)
33、93、533 活性層(第2半導体層)
34、94、534 p側光ガイド層(第2半導体層)
35、95、535 p側キャリアブロック層(第2半導体層)
36、96、536 p型クラッド層(第2半導体層)
37、97 p側コンタクト層(第2半導体層)
70 n型Al0.4Ga0.6N基板(基板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向および前記第1方向と交差する第2方向に平行な主表面を有する窒化物系半導体からなる基板と、
前記主表面上に形成された窒化物系半導体からなる下地層と、
前記下地層の前記基板とは反対側の表面上に形成された窒化物系半導体からなる第1半導体層と、
前記第1半導体層の前記下地層とは反対側の表面上に形成された窒化物系半導体からなる第2半導体層とを備え、
前記主表面上には、前記第1方向に沿って延びる段差部が形成されており、
前記下地層および前記第2半導体層の無歪みの状態における前記第2方向の格子定数は、それぞれ、前記基板の無歪みの状態における前記第2方向の格子定数よりも大きく、
前記下地層および前記第2半導体層の前記主表面上に形成された状態における前記第2方向の格子定数は、それぞれ、前記基板の前記第2方向の格子定数よりも大きい、半導体素子。
【請求項2】
前記下地層は、前記第1方向の歪みが前記第2方向の歪みよりも大きい状態で、前記基板の主表面上に形成されている、請求項1に記載の半導体素子。
【請求項3】
前記下地層の厚みは、前記第1半導体層の厚みよりも大きい、請求項1または2に記載の半導体素子。
【請求項4】
前記基板は、Inを含まず、前記下地層および前記第2半導体層は、Inを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の半導体素子。
【請求項5】
前記段差部以外の領域における前記下地層の厚みは、前記段差部の高さよりも小さい、請求項1〜4のいずれか1項に記載の半導体素子。
【請求項6】
前記第2半導体層は、井戸層を有する活性層を含み、
前記井戸層の無歪みの状態における前記第2方向の格子定数は、前記基板の無歪みの状態における前記第2方向の格子定数よりも大きい、請求項1〜5のいずれか1項に記載の半導体素子。
【請求項7】
第1方向および前記第1方向と交差する第2方向に平行な主表面を有する窒化物系半導体からなる基板の前記主表面上に、前記第1方向に沿って延びる段差部を形成する工程と、
前記主表面上に窒化物系半導体からなる下地層を形成する工程と、
前記下地層の前記基板とは反対側の表面上に窒化物系半導体からなる第1半導体層を形成する工程と、
前記第1半導体層の前記下地層とは反対側の表面上に窒化物系半導体からなる第2半導体層を形成する工程とを備え、
前記下地層および前記第2半導体層の無歪みの状態における前記第2方向の格子定数は、それぞれ、前記基板の無歪みの状態における前記第2方向の格子定数よりも大きく、
前記下地層を形成する工程、および、前記第2半導体層を形成する工程は、それぞれ、前記下地層および前記第2半導体層の前記第2方向の格子定数が前記基板の前記第2方向の格子定数よりも大きくなるように形成する工程を含む、半導体素子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2011−96885(P2011−96885A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−250159(P2009−250159)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】