説明

厚み検出装置および研削機

【課題】被加工物の厚みを正確に検出することができる非接触式の厚み検出装置および厚み検出装置を装備した研削機を提供する。
【解決手段】被加工物に対して透過性を有する所定の波長領域を有する発光体と、集光器とを備えた検出光照射手段と、検出光照射手段によって照射されチャックテーブルに保持された被加工物の上面および下面で反射した反射光を集光する集光レンズと、集光レンズによって集光された反射光の干渉を回折する回折格子と、回折格子によって回折した反射光の所定の波長域における光強度を検出するイメージセンサーと、イメージセンサーからの検出信号に基づいて分光干渉波形を求め、被加工物の上面で反射した反射光の光路長と被加工物の下面で反射した反射光の光路長との光路長差に基づいて被加工物の厚みを求める制御手段とを具備し、検出光照射手段は、P偏光を被加工物の上面に対して所定の入射角をもって照射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエーハ等の被加工物の厚みを検出するための厚み検出装置および厚み検出装置を装備した研削機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、半導体デバイス製造工程においては、略円板形状であるウエーハの表面に格子状に形成されたストリート(分割予定ライン)によって区画された複数の領域にIC、LSI等のデバイスを形成し、該デバイスが形成された各領域を分割予定ラインに沿って分割することにより個々のデバイスを製造している。このようにして個々のデバイスを製造する際には、一般にウエーハを個々のデバイスに分割する前に裏面を研削機によって研削して所定の厚みに形成されている。
【0003】
ウエーハの裏面を研削して所定の厚みに形成するためには、研削機のチャックテーブルの保持面に保持されたウエーハの厚みを計測しつつ研削する必要がある。ウエーハの厚みを検出する方法としては、表面高さを検出する計測用の第1の接触針をウエーハを保持するチャックテーブルの保持面に接触させてチャックテーブルの保持面の高さ位置HIを求め、次にチャックテーブルの保持面に保持されたウエーハの被研削面(上面)に第2の接触針を接触させてウエーハの上面の高さ位置H2を検出しつつ、H2−HIを演算してウエーハの厚みTを求めている。(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2993821号公報
【0005】
上述したウエーハの厚みを検出する方法においては、チャックテーブルの保持面に保持されたウエーハの高さ位置とチャックテーブルの保持面の高さ位置の差に基づいてウエーハの厚みを求めるので、ウエーハの表面に形成されたデバイスを保護するために貼着された保護テープの厚みが研削ホイールの押圧力によって変化するため、ウエーハの表面から保護テープを剥離した後にウエーハの厚みを計測すると、ウエーハが設定された厚みに仕上がっていないという問題がある。
また、上述したウエーハの厚みを検出する方法においては、計測用の接触針をウエーハの被研削面に接触させるために、被研削面にリング状の傷がつきウエーハの品質を低下させるという問題がある。
【0006】
上記問題を解消するために本出願人は、被加工面と反対側の面に保護テープが貼着された被加工物であっても被加工物の厚みを正確に検出することができるとともに、被加工物の被加工面に傷を付けることがない非接触式の厚み検出装置および厚み検出装置を装備した研削機を特願2010−161007号として提案した。この発明は、チャックテーブルに保持され加工された被加工物に対して透過性を有する所定の波長領域を備えた光を照射し、被加工物の上面および下面で反射した反射光から分光干渉波形を求め、分光干渉波形と理論上の波形関数に基づいて波形解析を実行し、被加工物の上面で反射した反射光の光路長と被加工物の下面で反射した反射光の光路長との光路長差に基づいて被加工物の厚みを求める厚み検出装置である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
而して、上述した非接触式の厚み検出装置においては、検出光を被加工物の上面に対して垂直に照射するため、被加工物の上面で反射する反射光と、被加工物を透過して下面で反射する反射光の光量が異なるので、被加工物の上面および下面で反射した反射光から求められる分光干渉波形を鮮明にすることができず、被加工物の厚みを高精度に検出することが困難である。
【0008】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり、その主たる技術課題は、被加工物の厚みを正確に検出することができる非接触式の厚み検出装置および厚み検出装置を装備した研削機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記主たる技術課題を解決するため、本発明によれば、チャックテーブルに保持された被加工物の厚みを検出するための厚み検出装置において、
被加工物に対して透過性を有する所定の波長領域を有する発光体と、該発光体が発光する光を集光して該チャックテーブルに保持された被加工物に照射する集光器とを備えた検出光照射手段と、
該検出光照射手段によって照射され該チャックテーブルに保持された被加工物の上面および下面で反射した反射光を集光する集光レンズと、
該集光レンズによって集光された反射光の干渉を回折する回折格子と、
該回折格子によって回折した反射光の所定の波長域における光強度を検出するイメージセンサーと、
該イメージセンサーからの検出信号に基づいて分光干渉波形を求め、該分光干渉波形と理論上の波形関数に基づいて波形解析を実行し、被加工物の上面で反射した反射光の光路長と被加工物の下面で反射した反射光の光路長との光路長差に基づいて被加工物の厚みを求める制御手段と、を具備し、
該検出光照射手段は、該発光体が発光する光におけるP偏光を該集光器に導く偏光フィルターを備えており、該偏光フィルターによって偏光されたP偏光を該チャックテーブルに保持された被加工物の上面に対して所定の入射角をもって照射する、
ことを特徴とする厚み検出装置が提供される。
【0010】
また、本発明によれば、被加工物を保持する保持面を有するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持された被加工物を研削する研削手段と、該チャックテーブルに保持された被加工物の厚みを検出する厚み検出装置と、を具備する研削機において、
該厚み検出装置は、被加工物に対して透過性を有する所定の波長領域を有する発光体と、該発光体が発光する光を集光して該チャックテーブルに保持された被加工物に照射する集光器とを備えた検出光照射手段と、
該検出光照射手段によって照射され該チャックテーブルに保持された被加工物の上面および下面で反射した反射光を集光する集光レンズと、
該集光レンズによって集光された反射光の干渉を回折する回折格子と、
該回折格子によって回折した反射光の所定の波長域における光強度を検出するイメージセンサーと、
該イメージセンサーからの検出信号に基づいて分光干渉波形を求め、該分光干渉波形と理論上の波形関数に基づいて波形解析を実行し、被加工物の上面で反射した反射光の光路長と被加工物の下面で反射した反射光の光路長との光路長差に基づいて被加工物の厚みを求める制御手段と、を具備し、
該検出光照射手段は、該発光体が発光する光におけるP偏光を該集光器に導く偏光フィルターを備えており、該偏光フィルターによって偏光されたP偏光を該チャックテーブルに保持された被加工物の上面に対して所定の入射角をもって照射する、
ことを特徴とする研削機が提供される。
【0011】
上記所定の入射角は60度に設定されている、
【発明の効果】
【0012】
本発明による厚み検出装置においては、検出光照射手段は発光体が発光する光におけるP偏光を集光器に導く偏光フィルターを備えており、該偏光フィルターによって偏光されたP偏光をチャックテーブルに保持された被加工物の上面に対して所定の入射角をもって照射するように構成されているので、チャックテーブルに保持された被加工物の上面で反射した反射光の光量と、被加工物の下面で反射した反射光の光量を略均一にすることができる。従って、チャックテーブルに保持された被加工物の上面および下面で反射した反射光から求められる分光干渉波形が鮮明となり、被加工物の厚みを高精度に検出することができるので、被加工物を数μmの厚みまで正確に研削することができる。
また、本発明による厚み検出装置は非接触式であるため、被加工物の被研削面に傷がつくことはない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に従って構成された厚み検出装置を装備した研削機の斜視図。
【図2】図1に示す研削機に装備される厚み検出装置のブロック構成図。
【図3】シリコン基板に照射されたP偏光におけるシリコン基板の上面からの戻り光比率の角度依存性を示すグラフ。
【図4】シリコン基板に照射されたP偏光におけるシリコン基板の下面からの戻り光比率の角度依存性を示すグラフ。
【図5】シリコン基板に照射されたS偏光におけるシリコン基板の上面からの戻り光比率の角度依存性を示すグラフ。
【図6】シリコン基板に照射されたS偏光におけるシリコン基板の下面からの戻り光比率の角度依存性を示すグラフ。
【図7】図2に示す厚み検出装置を構成する制御手段によって求められる分光干渉波形を示す説明図。
【図8】図2に示す厚み検出装置を構成する制御手段によって求められる被加工物の上面から下面までの光路長差と光強度との関係を示す説明図。
【図9】図1に示す研削機によって実施する研削工程の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に従って構成された厚み検出装置および厚み検出装置を装備した研削機の好適な実施形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1には、本発明に従って構成された厚み検出装置を装備した研削機の斜視図が示されている。図1に示す研削機1は、全体を番号2で示す装置ハウジングを具備している。この装置ハウジング2は、細長く延在する直方体形状の主部21と、該主部21の後端部(図1において右上端)に設けられ上方に延びる直立壁22とを有している。直立壁22の前面には、上下方向に延びる一対の案内レール221、221が設けられている。この一対の案内レール221、221に研削手段としての研削ユニット3が上下方向に移動可能に装着されている。
【0015】
研削ユニット3は、移動基台31と該移動基台31に装着されたスピンドルユニット4を具備している。移動基台31は、後面両側に上下方向に延びる一対の脚部311、311が設けられており、この一対の脚部311、311に上記一対の案内レール221、221と摺動可能に係合する被案内溝312、312が形成されている。このように直立壁22に設けられた一対の案内レール221、221に摺動可能に装着された移動基台31の前面には前方に突出した支持部313が設けられている。この支持部313に研削手段としてのスピンドルユニット4が取り付けられる。
【0016】
研削手段としてのスピンドルユニット4は、支持部313に装着されたスピンドルハウジング41と、該スピンドルハウジング41に回転自在に配設された回転スピンドル42と、該回転スピンドル42を回転駆動するための駆動源としてのサーボモータ43とを具備している。スピンドルハウジング41に回転可能に支持された回転スピンドル42は、一端部(図1において下端部)がスピンドルハウジング41の下端から突出して配設されており、その一端(図1において下端)にホイールマウント44が設けられている。そして、このホイールマウント44の下面に研削ホイール5が取り付けられる。この研削ホイール5は、環状の砥石基台51と、該砥石基台51の下面に装着された研削砥石52からなる複数のセグメントとによって構成されており、砥石基台51が締結ねじ53によってホイールマウント44に装着される。上記サーボモータ43は、後述する制御手段10によって制御される。
【0017】
図示の研削機1は、上記研削ユニット3を上記一対の案内レール221、221に沿って上下方向(後述するチャックテーブルの保持面に対して垂直な方向)に移動せしめる研削ユニット送り機構6を備えている。この研削ユニット送り機構6は、直立壁22の前側に配設され実質上鉛直に延びる雄ねじロッド61を具備している。この雄ねじロッド61は、その上端部および下端部が直立壁22に取り付けられた軸受部材62および63によって回転自在に支持されている。上側の軸受部材62には雄ねじロッド61を回転駆動するための駆動源としてのパルスモータ64が配設されており、このパルスモータ64の出力軸が雄ねじロッド61に伝動連結されている。移動基台31の後面にはその幅方向中央部から後方に突出する連結部(図示していない)も形成されており、この連結部には鉛直方向に延びる貫通雌ねじ穴(図示していない)が形成されており、この雌ねじ穴に上記雄ねじロッド61が螺合せしめられている。従って、パルスモータ64が正転すると移動基台31即ち研磨ユニット3が下降即ち前進せしめられ、パルスモータ64が逆転すると移動基台31即ち研削ユニット3が上昇即ち後退せしめられる。なお、パルスモータ64は、後述する制御手段10によって制御される。
【0018】
上記ハウジング2の主部21にはチャックテーブル機構7が配設されている。チャックテーブル機構7は、チャックテーブル71と、該チャックテーブル71の周囲を覆うカバー部材72と、該カバー部材72の前後に配設された蛇腹手段73および74を具備している。チャックテーブル71は、図示しない回転駆動手段によって回転せしめられるようになっており、その上面(保持面)に被加工物としてのウエーハ11を図示しない吸引手段を作動することにより吸引保持するように構成されている。なお、ウエーハ11は図示の実施形態においてはシリコンウエーハからなっており、その表面には保護部材としての保護テープ12が貼着され、この保護テープ12側がチャックテーブル71の上面(保持面)に保持される。また、チャックテーブル71は、図示しないチャックテーブル移動手段によって図1に示す被加工物載置域70aと上記スピンドルユニット4を構成する研削ホイール5と対向する研削域70bとの間で移動せしめられる。蛇腹手段73および74はキャンパス布の如き適宜の材料から形成することができる。蛇腹手段73の前端は主部21の前面壁に固定され、後端はカバー部材72の前端面に固定されている。蛇腹手段74の前端はカバー部材72の後端面に固定され、後端は装置ハウジング2の直立壁22の前面に固定されている。チャックテーブル71が矢印71aで示す方向に移動せしめられる際には蛇腹手段73が伸張されて蛇腹手段74が収縮され、チャックテーブル71が矢印71bで示す方向に移動せしめられる際には蛇腹手段73が収縮されて蛇腹手段74が伸張せしめられる。
【0019】
図示の研削機1は、上記チャックテーブル71に保持された被加工物の厚みを検出するための厚み検出装置8を具備している。この厚み検出装置8は、上記カバー部材72に回動可能に配設された支持手段80によって所定の半径を持って旋回できるように支持されている。以下、厚み検出装置8について、図2を参照して説明する。
【0020】
図示の実施形態における厚み検出装置8は、チャックテーブル71に保持された被加工物としてのウエーハ11に検出光を照射するための検出光照射手段81を具備している。この検出光照射手段81は、検出光照射経路80aに配設され被加工物としてのウエーハ11に対して透過性を有する所定の波長領域を備えた光を発する発光源811と、該発光源811が発光する光を集光してチャックテーブル71に保持されたウエーハ11に照射する集光器812と、発光源811と集光器812との間に配設され発光源811が発光する光におけるP偏光を集光器812に導く偏頗保持ファイバーからなる偏光フィルター813とを備えている。このように構成された検出光照射手段81は、偏光フィルター813によって偏光されたP偏光をチャックテーブル71に保持されたウエーハ11の上面に対して所定の入射角αをもって照射するように構成されている。なお、発光源811としては、例えば波長が820〜870nm領域の光を発光するLED、SLD、LD、ハロゲン電源、ASE電源、スーパーコンティニアム電源を用いることができる。また、上記発光源811が発光する光におけるP偏光を集光器812に導く偏光フィルター813は、図示の実施形態においては偏頗保持ファイバーを用いた例を示したが、偏光板を用いてもよい。なお、上記偏光フィルター813によって偏光されたP偏光を集光器812によって集光してチャックテーブル71に保持されたウエーハ11の上面に照射する際の入射角αは、被加工物としてのウエーハ11がシリコン基板からなっている場合には、60度に設定されることが望ましい。
【0021】
ここで、シリコン基板に照射されたP偏光におけるシリコン基板の上面からの戻り光比率の角度依存性およびシリコン基板に照射されたP偏光におけるシリコン基板の下面からの戻り光比率の角度依存性について図3および図4を参照して説明する。図3はシリコン基板に照射されたP偏光におけるシリコン基板の上面からの戻り光比率の角度依存性を示し、図4はシリコン基板に照射されたP偏光におけるシリコン基板の下面からの戻り光比率の角度依存性を示している。図3に示すようにシリコン基板に照射されたP偏光におけるシリコン基板の上面からの戻り光比率は、入射角αが零(0)度から増大する従って低下し、入射角αが60度において0.1となり、入射角αが75度で最低となった後、急激に増加する。一方、図4に示すようにシリコン基板に照射されたP偏光におけるシリコン基板の下面からの戻り光比率は、入射角αが零(0)度から増大する従って増加し、入射角αが60度において0.1となり、入射角αが75度で最高となった後、急激に減少する。このようにシリコン基板にP偏光を照射した場合には、入射角αが60度において上面からの戻り光比率と下面からの戻り光比率が一致する。従って、入射角αを60度に設定することにより、チャックテーブル71に保持された被加工物としてのウエーハ11の上面で反射した反射光の光量と、ウエーハ11の下面で反射した反射光の光量を略均一にすることができる。
【0022】
次に、シリコン基板にS偏光を照射した場合の戻り光比率の角度依存性について検討する。図5にはシリコン基板に照射されたS偏光におけるシリコン基板の上面からの戻り光比率の角度依存性が示されており、図6にはシリコン基板に照射されたS偏光におけるシリコン基板の下面からの戻り光比率の角度依存性が示されている。図5および図6から判るようにシリコン基板に照射されたS偏光におけるシリコン基板の上面からの戻り光比率とシリコン基板に照射されたS偏光におけるシリコン基板の下面からの戻り光比率とが一致する入射角αが存在しない。従って、S偏光を用いた場合には、チャックテーブル71に保持された被加工物としてのウエーハ11の上面で反射した反射光の光量と、ウエーハ11の下面で反射した反射光の光量を均一にすることが不可能である。このように、S偏光は、シリコン基板の上面からの戻り光比率とシリコン基板の下面からの戻り光比率とが一致する入射角αが存在しないので、検出光として用いることが不適当であり、上述したようにP偏光を用いる必要がある。
【0023】
図2に示すように上記検出光照射手段81によって照射されチャックテーブ71に保持されたウエーハ11の上面および下面で反射した反射光を受光する受光経路80bには、集光レンズ82と、伝送手段83と、コリメーションレンズ84と、回折格子85およびラインイメージセンサー86が配設されている。集光レンズ82は、上記検出光照射手段81によって照射されチャックテーブ71に保持されたウエーハ11の上面および下面で反射した反射光を集光する。伝送手段83は、集光レンズ82によって集光された反射光をコリメーションレンズ84に向けて伝送するもので偏頗保持ファイバーまたは光ファイバーからなっている。上記コリメーションレンズ84は、伝送手段83によって伝送された反射光を平行光に形成して回折格子85に導く。回折格子85は、コリメーションレンズ84によって平行光に形成された上記両反射光の干渉を回折し、各波長に対応する回折信号をラインイメージセンサー86に送る。上記ラインイメージセンサー86は、回折格子85によって回折した反射光の各波長における光強度を検出し、検出信号を制御手段10に送る。
【0024】
制御手段10は、ラインイメージセンサー86による検出信号から分光干渉波形を求め、該分光干渉波形と理論上の波形関数に基づいて波形解析を実行し、チャックテーブル71に保持されたウエーハ11の上面および下面で反射し受光経路80bに導かれた反射光の光路長差(d)を求め、該光路長差(d)に基づいてウエーハ11の厚み(t)を求める。即ち、制御手段10は、ラインイメージセンサー86による検出信号から図7に示すような分光干渉波形を求める。図7は、ウエーハの厚みが70μmにおける分光干渉波形を示しており、横軸は反射光の波長(nm)を示し、縦軸は光強度を示している。なお、チャックテーブル71に保持されたウエーハ11の上面および下面で反射し受光経路80bに導かれた反射光は、上述したように検出光の入射角αが60度に設定されウエーハ11の上面で反射した反射光の光量と、ウエーハ11の下面で反射した反射光の光量を略均一であるため、分光干渉波形が鮮明となる。
【0025】
以下、制御手段10が上記分光干渉波形と理論上の波形関数に基づいて実行する波形解析の一例について説明する。
制御手段10は、上記分光干渉波形と理論上の波形関数に基づいて波形解析を実行する。この波形解析は、例えばフーリエ変換理論やウエーブレット変換理論に基づいて実行することができるが、以下に述べる実施形態においては下記数式1、数式2、数式3に示すフーリエ変換式を用いた例について説明する。
【0026】
【数1】

【0027】
【数2】

【0028】
【数3】

【0029】
上記数式において、λは波長、dは上記光路長差(d)、W(λn)は窓関数である。
上記数式1は、cosの理論波形と上記分光干渉波形I(λn)との比較で最も波の周期が近い(相関性が高い)、即ち分光干渉波形と理論上の波形関数との相関係数が高い光路長差(d)を求める。また、上記数式2は、sinの理論波形と上記分光干渉波形I(λn)との比較で最も波の周期が近い(相関性が高い)、即ち分光干渉波形と理論上の波形関数との相関係数が光路長差(d)を求める。そして、上記数式3は、数式1の結果と数式2の結果の平均値を求める。
【0030】
制御手段10は、上記数式1、数式2、数式3に基づく演算を実行することにより、図8に示すように信号強度が高い光路長差(d)を求める。図8において横軸は光路長差(d)を示し、縦軸は信号強度を示している。図8に示す例においては、光路長差(d)が70μmの位置で信号強度が高いピーク波形が表れている。この光路長差(d)がウエーハ11の厚み(t)に相当する。上述した波形解析においては、波形解析の基となる分光干渉波形が上述したように鮮明であるため、ウエーハ11の厚み(t)を高精度に求めることができる。
【0031】
次に、以上のように構成された厚み検出装置8が装備された研削機1を用いてウエーハを所定の厚みに研削する研削方法について、図1および図9を参照して説明する。
即ち、表面に保護テープ12が貼着されたウエーハ11は、研削機1における被加工物載置域70aに位置付けられているチャックテーブル71上に保護テープ12側を載置する。そして、図示しない吸引手段を作動することによってチャックテーブル71上に吸引保持される。従って、チャックテーブル71上に吸引保持されたウエーハ11は、裏面11bが上側となる。チャックテーブル71上にウエーハ11を吸引保持したならば、制御手段10は図示しない移動手段を作動して、チャックテーブル71を図1において矢印71aで示す方向に移動して研削域70bに位置付け、図9に示すように研削ホイール5の複数の研削砥石52の外周縁がチャックテーブル71の回転中心を通過するように位置付ける。そして、厚み検出装置8をチャックテーブル71に保持されたウエーハ11の上方である検出位置に位置付ける。
【0032】
このように研削ホイール5とチャックテーブル71に保持されたウエーハ11が所定の位置関係にセットされ、厚み検出装置8を検出位置に位置付けたならば、制御手段10は図示しない回転駆動手段を駆動してチャックテーブル71を図9において矢印71cで示す方向に例えば300rpmの回転速度で回転するとともに、上記サーボモータ43を駆動して研削ホイール5を矢印5aで示す方向に例えば6000rpmの回転速度で回転する。そして、制御手段10は、研削ユニット送り機構6のパルスモータ64を正転駆動し研削ホイール5を下降(研削送り)して複数の研削砥石52をウエーハ11の上面に所定の圧力で押圧する。この結果、ウエーハ11の上面即ち被研削面が研削される(研削工程)。この研削工程においては、ウエーハ11の加工時における厚み(t)が計測されている。そして、厚み検出装置8によって計測されたウエーハ11の厚み(t)が所定値に達したら、制御手段10は研削ユニット送り機構6のパルスモータ64を逆転駆動し研削ホイール5を上昇せしめる。
【0033】
以上のように、上述した実施形態においては検出光照射手段81によって照射される検出光の入射角αが60度に設定されているので、チャックテーブル71に保持されたシリコン基板からなるウエーハ11の上面および下面で反射し受光経路80bに導かれた反射光は、ウエーハ11の上面で反射した反射光の光量と、ウエーハ11の下面で反射した反射光の光量を略均一であるため、分光干渉波形が鮮明となり、ウエーハの厚み(t)を高精度に検出することができるので、ウエーハ11を数μmの厚みまで正確に研削することができる。
また、上述した実施形態においては非接触式の厚み検出装置8によってウエーハ11の厚み(t)を計測しているので、ウエーハの被研削面に傷がつくことはない。
【符号の説明】
【0034】
1:研削機
2:装置ハウジング
3:研削ユニット
31:移動基台
4:スピンドルユニット
41:スピンドルハウジング
42:回転スピンドル
43:サーボモータ
44:ホイールマウント
5:研削ホイール
51:砥石基台
52:研削砥石
6:研削ユニット送り機構
64:パルスモータ
7:チャックテーブル機構
71:チャックテーブル
8:厚み検出装置
81:検出光照射手段
811:発光源
812:集光器
813:偏頗保持ファイバー(偏光フィルター)
82:集光レンズ
83:伝送手段
84:コリメーションレンズ
85:回折格子
86:ラインイメージセンサー
10:制御手段
11:ウエーハ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャックテーブルに保持された被加工物の厚みを検出するための厚み検出装置において、
被加工物に対して透過性を有する所定の波長領域を有する発光体と、該発光体が発光する光を集光して該チャックテーブルに保持された被加工物に照射する集光器とを備えた検出光照射手段と、
該検出光照射手段によって照射され該チャックテーブルに保持された被加工物の上面および下面で反射した反射光を集光する集光レンズと、
該集光レンズによって集光された反射光の干渉を回折する回折格子と、
該回折格子によって回折した反射光の所定の波長域における光強度を検出するイメージセンサーと、
該イメージセンサーからの検出信号に基づいて分光干渉波形を求め、該分光干渉波形と理論上の波形関数に基づいて波形解析を実行し、被加工物の上面で反射した反射光の光路長と被加工物の下面で反射した反射光の光路長との光路長差に基づいて被加工物の厚みを求める制御手段と、を具備し、
該検出光照射手段は、該発光体が発光する光におけるP偏光を該集光器に導く偏光フィルターを備えており、該偏光フィルターによって偏光されたP偏光を該チャックテーブルに保持された被加工物の上面に対して所定の入射角をもって照射する、
ことを特徴とする厚み検出装置。
【請求項2】
該所定の入射角は60度に設定されている、請求項1記載の厚み検出装置。
【請求項3】
被加工物を保持する保持面を有するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持された被加工物を研削する研削手段と、該チャックテーブルに保持された被加工物の厚みを検出する厚み検出装置と、を具備する研削機において、
該厚み検出装置は、被加工物に対して透過性を有する所定の波長領域を有する発光体と、該発光体が発光する光を集光して該チャックテーブルに保持された被加工物に照射する集光器とを備えた検出光照射手段と、
該検出光照射手段によって照射され該チャックテーブルに保持された被加工物の上面および下面で反射した反射光を集光する集光レンズと、
該集光レンズによって集光された反射光の干渉を回折する回折格子と、
該回折格子によって回折した反射光の所定の波長域における光強度を検出するイメージセンサーと、
該イメージセンサーからの検出信号に基づいて分光干渉波形を求め、該分光干渉波形と理論上の波形関数に基づいて波形解析を実行し、被加工物の上面で反射した反射光の光路長と被加工物の下面で反射した反射光の光路長との光路長差に基づいて被加工物の厚みを求める制御手段と、を具備し、
該検出光照射手段は、該発光体が発光する光におけるP偏光を該集光器に導く偏光フィルターを備えており、該偏光フィルターによって偏光されたP偏光を該チャックテーブルに保持された被加工物の上面に対して所定の入射角をもって照射する、
ことを特徴とする研削機。
【請求項4】
該所定の入射角は60度に設定されている、請求項3記載の研削機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−29342(P2013−29342A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163999(P2011−163999)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(000134051)株式会社ディスコ (2,397)
【Fターム(参考)】