説明

反応性イオンエッチング装置と基板のエッチング方法

【課題】 太陽電池用シリコン基板の表面に微細な凹凸を形成するための反応性イオンエッチング(RIE)装置で、エッチング処理する際に生じるエッチングのムラを低減すること。
【解決手段】 アースに接続された筐体2と筐体2内に配置された高周波電圧を印加する平板電極13と平板電極13上に配置される複数の基板4を覆蓋するプレート部材5とを具備する反応性イオンエッチング装置において、プレート部材5がアースに接続されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は反応性イオンエッチング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー問題や地球温暖化などの環境問題の深刻化に伴い、光エネルギーを直接電気エネルギーに変換する太陽電池素子を用いた太陽光発電が注目を集めている。
【0003】
現在これらの太陽電池素子の多くは、その光電変換効率の高さやコスト、長期的な安定性などの観点から主として単結晶や多結晶の結晶系シリコン基板を用いて作製されている。
【0004】
このような結晶系シリコン基板を用いた太陽電池素子は、受光面に微細な凹凸を有する。このような凹凸の形成は、反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching、以下RIEと略する)装置を利用する(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
RIE装置は、一般に平行平板電極型を成しており、基板を設置している電極の側にRF電圧を印加し、装置内部の天井面、側壁(装置の筐体)をアースに接続してある。次いで、この容器内部を真空ポンプで真空引きし、真空引き完了後、エッチングガスを導入し、圧力を一定に保持しながら内部の被エッチング基板をエッチングする。さらにこの特許文献1に開示された方法では、シリコン基板の表面にエッチング残渣を付着させるために、シリコン基板を多数の開口部が形成されたプレート部材(蓋体)で覆ってエッチングを行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−17725号公報
【特許文献2】特開2004−87983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のRIE装置では、各基板毎の凹凸形成状態の不均一を低減することが困難であった。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、その目的はRIE装置により基板をエッチングする際に生じるエッチングの不均一を低減することが可能なRIE装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の反応性イオンエッチング装置は、アースに接続された筐体と、前記筐体内に配置された高周波電圧を印加する平板電極と、前記平板電極上に配置される複数の基板を覆い、アースに接続されたプレート部材と、を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一実施形態にかかる反応性イオンエッチング装置によれば、装置内のプレート部材がアースに接続されることにより、装置筐体とプレート部材が同電位となり、装置の筐体内部の高さを高くしたままでRF電極とプレート部材の間にプラズマが発生することになり、その電束密度が均一になる領域が広がると共に、ガス密度をも均一にすることができる。よって、基板にエッチングを均一に行い、微細な凹凸を均一に形成することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施の形態に係るRIE装置1は、図1に示すように、RF電極13、シリコン基板4、プレート部材5、トレイ8が収容された筐体(チャンバー)2を有する。
トレイ8は、基板4を覆うプレート部材5が取り付けられている。このトレイ8とプレート部材5の間には絶縁材18が配置されている。またRIE装置1のチャンバー2の側壁等は接続線19によりアースに接続されており、RF電極13とチャンバー2の側壁の間も絶縁材9により絶縁されている。さらにRIE装置1には、チャンバー2の側壁とプレート部材5を電気的に接続する接続治具17が設けられている。この接続治具17は例えばチャンバー2の側壁の外側から内部に貫通するように設けられたエアーシリンダー16とつながっている。プレート部材5と接続治具17を接続し、チャンバー2の側壁とプレート部材5を電気的に接続することで、チャンバー2とプレート部材5を同電位にすることができる。
【0012】
トレイ8の上面には、基板4が配置される。基板4を例えば太陽電池素子に用いる場合、基板4は、単結晶や多結晶の結晶系シリコン基板である。
【0013】
基板4はRIE装置内のトレイ8の上面で支持され、プレート部材5に覆われた状態でエッチング処理される。トレイ8は、例えば平板状を成している。また、トレイ8は、その上のプレート部材5をRF電圧から絶縁するために、ガラス、石英、またはアルミナなどのセラミック等の材料で構成される。
【0014】
プレート部材5は、トレイ8との間の空間に、基板4をエッチングした際に生じた残渣を閉じ込める機能を有している。
プレート部材5は、図2(a)に示すように支持部5aと複数の貫通孔5bを含む蓋部5cとから成り、蓋部5cと基板4表面との距離は、5〜30mm程度の間隔をあけて保持される。このように蓋部5cと基板4表面との間隔を5〜30mm程度とすることにより、エッチング時に生成するシリコン化合物がプレート部材5とトレイ8の上面との間の空隙部7に閉じこめられやすくなり、シリコンを主成分とする残渣がシリコン基板上に容易に生成しやすくなる。その結果、残渣の形成が促進されると同時に、凹凸の形成を促進することができる。
【0015】
また、プレート部材5の材質は、エッチングガスに対する耐食性という観点、およびプレート部材5に施す様々な加工の加工性という観点で、金属特にアルミニウムが好適である。
【0016】
また、プレート部材5の貫通孔5bは、マスフローコントローラー14からチャンバー15内に導入されたエッチングガスを、プレート部材5とトレイ8の上面との間の空隙部7に導くものである。貫通孔5bは、図2に示すようなスリット状のものが複数列並べられたパターンでもよく、また、複数の貫通孔5bが格子状に配列されたパターンであってもよい。この貫通孔5bの蓋部5cに対する開口率は、必要なエッチングガスを空隙部7内に供給するとともに、この空隙部7内でエッチングによって発生した残渣を効率良く閉じ込めるという観点から、5〜40%程度にするのが望ましい。このような貫通孔5bの形成方法としては、例えばプレート部材5がアルミニウムなどの金属で構成されていれば、機械加工などで形成することができる。
【0017】
RF電極13は、RF電源12より印加された高周波(RF)電力を利用し、エッチングガスを励起し、プラズマ化するものである。
【0018】
本実施の形態に係るRIE装置1は、図3に示すように圧力調整器10と、真空ポンプ11と、マスフローコントローラー14とをさらに備える。
【0019】
圧力調整器10は、チャンバー15の内部の圧力センサー(不図示)からの信号を受けてその内部の弁の開閉を調整して排気流量を制御することにより、チャンバー15の内部の圧力を所定の圧力に維持するものである。
【0020】
真空ポンプ11は、チャンバー15の内部を所定の圧力まで減圧するものであり、ローターポンプとメカニカルブースターポンプを組み合わせたものが好適に使用される。RF電源12は、RF電極13に高周波電力を印加するものである。
【0021】
マスフローコントローラー14は、チャンバー15の内部に導入されるガスの流量を所定の値に制御するものである。
【0022】
次に、RIE装置1の動作について説明する。まず、トレイ8上に配置された基板4をRF電極13上に配置する。その後チャンバー2の内部を真空ポンプ11により所定の圧力にまで減圧した後、マスフローコントローラー14を介して所定のエッチングガスを導入する。次いで、圧力調整器10によりチャンバー15の内部の圧力を所定の圧力に保ちながら、RF電源12でもってRF電極13に電圧を印加し、該RF電極13でプラズマを発生させる。そして、エッチングガス中のイオンやラジカルを励起活性化し、チャンバー15内に配置された基板1の表面に作用させてエッチングし、基板4の表面を粗面化する。ここで、チャンバー2とプレート部材5とは、エアーシリンダー16のスイッチをいれ、プレート部材5に当接するまで接続治具17を伸ばしてプレート部材5と接続治具17を接続し、チャンバー2の側壁とプレート部材5を電気的に接続することで、同電位とする。
【0023】
エッチングガスのプラズマは、プレート部材5とトレイ8の上面との間の空隙部7にのみ発生する。従来の装置であれば、接続治具17によるチャンバー2の側壁とプレート部材5の接続がないため、プラズマはトレイ8の上面とチャンバー2の天井面の間(すなわちチャンバー2内部の全域)に広がっていたが、接続治具17による接続により、チャンバー2とプレート部材5が同電位となり、プラズマが空隙部7にのみ発生する。よって、トレイ8の上面とプレート部材5の天井面の間のギャップTを狭くすることが可能となり、電極間の電束密度が均一になる領域を広げることが可能になる。このように、接続治具17による接続により、チャンバー2とプレート部材5を同電位にすることにより、電極間の電束密度とプラズマ発生部におけるエッチングガスの密度をほぼ均一にすることが可能になり、シリコン基板4をより均一にエッチングすることができるようになる。
【0024】
エッチング処理は、エッチングガスとして、例えば三フッ化メタン(CHF3)を20sccm、塩素(Cl2)を50sccm、酸素(O2)を10sccm、SF6を80sccm、さらにこれらに加えてH2Oを1sccm流しながら、反応圧力7Pa、プラズマを発生させるRFパワーを500W程度に設定し、3分間程度エッチングする。このようなエッチング処理により、基板4の表面に微細な凹凸構造が形成される。すなわちこのエッチング処理では、シリコン基板4のシリコンがエッチングされて気化するが、その一部は気化しきれずに分子同士が吸着してシリコン基板4の表面に残渣として残る。そして、この残渣は、エッチングのマイクロマスクとして作用するため、残渣が付着している部位は該残渣が付着していない部位に比べてエッチングされにくくなる。その結果このようなエッチング処理では、シリコン基板4の表面に形成される凹凸が大きくなる。言い換えれば、より表面を粗くし、効率良く粗面化することが可能となる。
【0025】
エッチングにより形成される凹凸は、例えば円錐形もしくはそれが連なったような形状を呈し、RIE法により各ガスの分圧もしくはエッチング時間を制御することにより、その大きさを変化させることができる。この微細な凹凸の幅と高さはそれぞれ2μm以下に形成される。なお、凹凸を被処理体Yの必要な部分の全面にわたって均一且つ正確に制御性を持たせて形成するためには、1μm以下が好適である。この微細な凹凸のアスペクト比(凹凸の高さ/幅)は、凹凸形状の破損を低減するという観点から、2以下であることが望ましい。
【0026】
尚、本発明は上述の実施形態に限定されるものは無く、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更、改良等が可能である。例えば上述のプレート部材5において、支持部5aと蓋部5cを別体にして、支持部5aを絶縁材にて作製し、この支持部5aに金属製の蓋部5cを載置し、蓋部5cをアースに接続するようにすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係るRIE装置1のチャンバー2内部の構造の一形態を示す断面図である。
【図2】図2(a)は本発明に係るプレート部材の一例を示す斜視図であり、図2(b)は図2(a)中のA―Aの断面図を示す。
【図3】本発明のRIE装置の実施の形態の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0028】
1;RIE装置
2;筐体(チャンバー)
4;シリコン基板
5;プレート部材
5a;プレート部材の支持部
5b;プレート部材の貫通孔部
5c;プレート部材の蓋部
7;プレート部材とトレイの上面との間の空隙部
8;トレイ
9、18;絶縁材
10;圧力調整器
11;真空ポンプ
12;RF電源
13;RF電極
14;マスフローコントローラー
15;ガス供給管
16;エアーシリンダー
17;接続治具
19;アース接続線
S;チャンバーの天井面とプレート部材の間隔
T;電極間のギャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アースに接続された筐体と、
前記筐体内に配置された高周波電圧を印加する平板電極と、
前記平板電極上に配置される複数の基板を覆い、アースに接続されたプレート部材と、
を有する反応性イオンエッチング装置。
【請求項2】
前記プレート部材は、支持部と蓋部とからなり、前記蓋部に貫通孔が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の反応性イオンエッチング装置。
【請求項3】
前記プレート部材の前記蓋部には、スリット状の複数の前記貫通孔が配列されていることを特徴とする請求項2に記載の反応性イオンエッチング装置。
【請求項4】
筐体内に基板を入れる工程と、
前記基板を、貫通孔を有するプレート部材で覆う工程と、
前記筐体と前記プレート部材とを同電位とする工程と、
前記筐体内にエッチングガスを導入する工程と、
前記エッチングガスを励起し、プラズマを発生する工程と、
前記基板をエッチングする工程と、を有する基板のエッチング方法。
【請求項5】
前記エッチングガスによる前記プラズマは、前記プレート部材と前記基板との間にのみ発生することを特徴とする請求項4に記載の基板のエッチング方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−199364(P2010−199364A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−43598(P2009−43598)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】