説明

可変容量型ターボチャージャの制御装置

【課題】内燃機関が低回転でかつ低負荷となる領域での燃費の向上とドライバビリティの向上とを両立させることができる可変容量型ターボチャージャの制御装置を提供する。
【解決手段】エンジンが低回転でかつ低負荷となる低回転低負荷領域においてアクセル開度センサによりアクセルペダルの踏み込み量が検出されて加速状態に移行したとき、目標タービンホイール前圧力に対し実タービンホイール前圧力が近付くように、ノズルベーンの開度を一旦閉じ側にフィードバック制御してから開き側にフィードバック制御している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変容量型ターボチャージャの制御装置に関し、詳しくは、内燃機関が低回転でかつ低負荷となる領域での燃費とドライバビリティの向上とを両立させる対策に係わる。
【背景技術】
【0002】
一般に、ターボチャージャは、内燃機関の排気通路を流れる排気ガスによって回転するタービンホイールと、同機関の吸気通路内の空気を強制的に燃焼室へと送り込むコンプレッサホイールとを備えている。これらタービンホイールおよびコンプレッサホイールは、ロータシャフトを介して回転一体に連結されている。そして、タービンホイールに排気ガスが吹き付けられて該タービンホイールが回転すると、その回転はロータシャフトを介してコンプレッサホイールに伝達される。こうしてコンプレッサホイールが回転することによって、吸気通路内の空気が強制的に燃焼室に送り込まれるようになっている。
【0003】
また、これに対し、タービンホイールに吹き付けられる排気ガスの流量、流速等を可変制御することによって、内燃機関の運転状態に応じて過給圧を最適なものとする可変容量型ターボチャージャがあり、このような可変容量型ターボチャージャとしては、例えば可変ノズル型ターボチャージャがある。
【0004】
この可変ノズル型ターボチャージャは、タービンホイールに吹き付けられる排気ガスが通過する排気ガス流路を備えている。そして、排気ガス流路は、タービンホイールの外周を囲うように同ホイールの回転方向に沿って形成されている。したがって、排気ガス流路を通過した排気ガスは、タービンホイールの軸線へ向かって吹き付けられることになる。このような排気ガス流路には、タービンホイールに吹き付けられる排気ガスの流速を可変とするための複数のノズルベーンが設けられている。これらノズルベーンは、タービンホイールの軸線を中心とする等角度ごとに設置され、互いに同期した状態で開閉動作するようになっている。
【0005】
そして、タービンホイールに吹き付けられる排気ガスの流速は、上記ノズルベーンを同期して開閉動作させ、隣り合うノズルベーン間の隙間の大きさ、すなわちノズルベーンの開度を変化させることで調整される。こうしてノズルベーンを開閉させて上記排気ガスの流速調整を行うことで、タービンホイールの回転速度が調整され、これによって内燃機関の過給圧が調整されるようになっている。
【0006】
ところで、このような可変容量型ターボチャージャでは、目標とする吸気通路内での目標吸気圧力(目標過給圧)に対し実際の吸気圧力(過給圧)が近付くようにノズルベーンの開度をフィードバック制御することが行われている。しかし、図7に斜線で示すように、内燃機関が低回転でかつ低負荷となる領域では、実際の吸気圧力(過給圧)が低いために計測し難いものとなり、ノズルベーンの開度をフィードバック制御することができない。そのため、内燃機関が低回転でかつ低負荷となる領域において加速状態に移行する際には、予め設定したマップに基づいてノズルベーンの開度を閉じ側に制御して排気ガスの流速を速めることで、吸気圧力を高くすることが行われていた。
【0007】
しかしながら、内燃機関が低回転でかつ低負荷となる領域において加速状態に移行する際にノズルベーンの開度が閉じ側に制御されていると、排気通路内の圧力が上昇するので、排気行程時にポンピングロスが発生する上、加速状態に移行する際にもたつきが発生することになる。
【0008】
そこで、内燃機関が低回転でかつ低負荷となる領域において加速状態に移行する際、予め設定したマップに基づいてノズルベーンの開度を所定期間だけ開き側に制御し、排気行程時のポンピングロスを一時的に軽減させ、ドライバビリティを改善させるようにすることが従来より行われている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−371919号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、上記従来のものでは、図7に示すように、内燃機関が低回転でかつ低負荷となる領域(斜線領域)において負荷Aから負荷Bまで負荷状態が変化して加速状態に移行したとき、ノズルベーンの開度が所定期間だけ開き側に制御されているため、少ない排気エネルギーがロスして燃費が悪化する上、タービンホイール前圧力が上昇せずに吸気通路内での吸気圧力(過給圧)の上昇性が低下してしまい、加速性能が低下して十分なドライバビリティを得ることができない。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、内燃機関が低回転でかつ低負荷となる領域での燃費の向上とドライバビリティの向上とを両立させることができる可変容量型ターボチャージャの制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明では、図8に示すように、低排気エネルギでのノズルベーンの開度に対する過給圧(図では実線で示す)とタービンホイール前圧力(図では破線で示す)との圧力感度特性のうち、低排気エネルギでのノズルベーンの開度に対し高い感度特性をもつタービンホイール前圧力に着目し、予め設定されたマップに依存することなくノズルベーンの開度をフィードバック制御するようにしている。
【0012】
具体的には、タービンホイールの上流側の排気ガスの流路面積をノズルベーンの開度に応じて制御することによって過給圧を調整するようにした可変容量型ターボチャージャの制御装置を前提とする。そして、内燃機関の回転数および内燃機関の負荷に応じた燃料噴射量に基づいて目標タービンホイール前圧力を算出する目標タービンホイール前圧力算出手段と、上記可変容量型ターボチャージャのタービンホイール前圧力を検出または推定して取得するタービンホイール前圧力取得手段と、内燃機関が低回転でかつ低負荷となる領域において上記目標タービンホイール前圧力算出手段により算出された目標タービンホイール前圧力に対し上記タービンホイール前圧力取得手段により取得されたタービンホイール前圧力が近付くように、上記ノズルベーンの開度を制御する制御手段とを備えている。
【0013】
この特定事項により、内燃機関が低回転でかつ低負荷となる領域では、目標タービンホイール前圧力算出手段により算出された目標タービンホイール前圧力に対しタービンホイール前圧力取得手段により取得された感度特性の高いタービンホイール前圧力が近付くように、ノズルベーンの開度がフィードバック制御されるので、内燃機関が低回転でかつ低負荷となる領域において加速状態に移行する際にノズルベーンの開度を所定期間だけ開き側に制御しているもののように、少ない排気エネルギーがロスすることはなく、燃費の悪化が抑制される。そして、内燃機関が低回転でかつ低負荷となる領域において加速状態に移行する際にノズルベーンの開度を最初から開き側に制御しないことから、タービンホイール前圧力が上昇して吸気通路内での吸気圧力(過給圧)の上昇性が向上し、十分な加速性能が得られてドライバビリティの向上を図ることが可能となる。
【0014】
ここで、内燃機関が低回転でかつ低負荷となる領域を含む全領域において目標タービンホイール前圧力に対しタービンホイール前圧力が近付くようにノズルベーンの開度を制御
している場合には、内燃機関が低回転でかつ低負荷となる領域を含む全領域で目標タービンホイール前圧力に対しタービンホイール前圧力が近付くようにノズルベーンの開度がフィードバック制御されるので、内燃機関が低回転でかつ低負荷となる領域を除く領域で、目標とする吸気通路内での目標吸気圧力(目標過給圧)に対し実際の吸気圧力(過給圧)が近付くようにノズルベーンの開度をフィードバック制御する必要がなく、内燃機関が低回転でかつ低負荷となる領域を含む全領域でノズルベーンの開度をフィードバック制御することが可能となり、内燃機関の全領域で十分な加速性能とドライバビリティの向上とを両立させることが可能となる。
【0015】
更に、内燃機関が低回転でかつ低負荷となる領域においてアクセル開度が開き側に変位したときに、そのアクセル開度の変位量に応じた目標タービンホイール前圧力に対しタービンホイール前圧力が近付くように、ノズルベーンの開度を一旦閉じ側に制御してから開き側に制御している場合には、内燃機関が低回転でかつ低負荷となる領域において加速状態に移行する際に少ない排気エネルギーをロスすることなく燃費の悪化を抑制しつつ、ノズルベーンの開度を一旦閉じ側に制御してタービンホイール前圧力を上昇させて十分な加速性能を確保し、ドライバビリティの向上をも図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
以上、要するに、内燃機関が低回転でかつ低負荷となる領域において目標タービンホイール前圧力に対しタービンホイール前圧力が近付くように、ノズルベーンの開度をフィードバック制御することで、内燃機関が低回転でかつ低負荷となる領域において加速状態に移行する際に少ない排気エネルギーのロスを抑えて燃費を向上させつつ、吸気通路内での吸気圧力の上昇性による十分な加速性能を得てドライバビリティの向上をも図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
本実施形態は、自動車に搭載されたコモンレール式筒内直噴型多気筒(例えば直列4気筒)ディーゼルエンジンに本発明を適用した場合について説明する。
【0019】
先ず、本実施形態に係るディーゼルエンジン(以下、単にエンジンという)の概略構成について説明する。図1は本実施形態に係るエンジン1およびその制御系統の概略構成図である。
【0020】
この図1に示すように、本実施形態に係るエンジン1は、燃料供給系2、燃焼室3、吸気系4、排気系5等を主要部として構成されるディーゼルエンジンシステムである。
【0021】
燃料供給系2は、サプライポンプ21、コモンレール22、燃料噴射弁23、機関燃料通路24等を備えて構成されている。
【0022】
上記サプライポンプ21は、燃料タンクから燃料を汲み上げ、この汲み上げた燃料を高圧にした後、機関燃料通路24を介してコモンレール22に供給する。コモンレール22は、サプライポンプ21から供給された高圧燃料を所定圧力に保持(蓄圧)する蓄圧室としての機能を有し、この蓄圧した燃料を各燃料噴射弁23に分配する。燃料噴射弁23は、その内部に電磁ソレノイドを備え、適宜開弁して燃焼室3内に燃料を噴射供給する。
【0023】
吸気系4は、シリンダヘッドに形成された吸気ポートに接続される吸気マニホールド41を備え、この吸気マニホールド41に、吸気通路を構成する吸気管42が接続されている。また、この吸気通路には、上流側から順にエアクリーナ43、エアフローメータ44
、スロットル弁45が配設されている。上記エアフローメータ44は、エアクリーナ43を介して吸気通路に流入される空気量に応じた電気信号を出力するようになっている。
【0024】
排気系5は、シリンダヘッドに形成された排気ポート51に接続される排気マニホールド52を備え、この排気マニホールド52、排気通路を構成する排気管53,54が接続されている。
【0025】
更に、このエンジン1には、過給機(ターボチャージャ)6が設けられている。このターボチャージャ6は、タービンシャフト6Aを介して連結されたタービンホイール6B及びコンプレッサホイール6Cを備えている。コンプレッサホイール6Cは吸気管42内部に臨んで配置され、タービンホイール6Bは排気管53内部に臨んで配置されている。このためターボチャージャ6は、タービンホイール6Bが受ける排気流(排気圧)を利用してコンプレッサホイール6Cを回転させ、吸気圧を高めるといったいわゆる過給を行なうようになっている。
【0026】
吸気系4の吸気管42には、ターボチャージャ6での過給によって昇温した吸入空気を強制冷却するためのインタークーラ46が設けられている。このインタークーラ46よりも更に下流側に設けられた上記スロットル弁45は、その開度を無段階に調整することができる電子制御式の開閉弁であり、所定の条件下において吸入空気の流路面積を絞り、この吸入空気の供給量を調整(低減)する機能を有している。
【0027】
また、上述したターボチャージャ6は、可変容量型ターボチャージャの一種である可変ノズル型ターボチャージャ(以下、単にターボチャージャという)によって構成されている。以下、このターボチャージャ6について説明する。
【0028】
このターボチャージャ6は、上述した如く、排気通路を流れる排気ガスによって回転するタービンホイール6Bと、吸気通路に配置され且つタービンシャフト6Aを介してタービンホイール6Bに一体回転可能に連結されたコンプレッサホイール6Cとを備えている。このターボチャージャ6では、タービンホイール6Bに排気ガスが吹付けられてこのタービンホイール6Bが回転する。この回転力は、タービンシャフト6Aを介してコンプレッサホイール6Cに伝達される。その結果、エンジン1では、ピストンの移動に伴って燃焼室3内に発生する負圧によって空気が燃焼室3に送り込まれるだけでなく、その空気がターボチャージャ6のコンプレッサホイール6Cの回転によって強制的に燃焼室3に送り込まれる(過給される)。このようにして、燃焼室3への空気の充填効率が高められるようになっている。
【0029】
また、この種のターボチャージャ6では、タービンホイール6Bの外周を囲うように、タービンホイール6Bの回転方向に沿って排気ガス流路が形成されている。このため、排気ガスは排気ガス流路を通過し、タービンホイール6Bの軸線に向かって吹付けられる。そして、排気ガス流路には、弁機構からなる可変ノズル機構61が設けられている(図2参照)。可変ノズル機構61は後述するノズルベーン64の開動角度を変化させることによって排気ガス流路の排気ガスの流路面積を変更し、タービンホイール6Bに吹付けられる排気ガスの流速を可変とする。このように排気ガスの流速を可変とすることで、タービンホイール6Bの回転速度が調整され、ひいては燃焼室3に強制的に送り込まれる空気の量が調整されることになる。
【0030】
以下、可変ノズル機構61の構造について図2を用いて説明する。
【0031】
図2の(a)は可変ノズル機構61の側断面構造を、図2の(b)は可変ノズル機構61の正面構造をそれぞれ示している。図2の(a)に示されるように、可変ノズル機構6
1はリング形状をしたノズルバックプレート62を備えている。このノズルバックプレート62には、複数の軸63がノズルバックプレート62の円心を中心とした等角度ごとに設けられている。これらの軸63は、ノズルバックプレート62をその厚さ方向に貫通して回動可能に支持されている。また、これら軸63の一端(図2の(a)中の左側端)には、ノズルベーン64が固定されている。また、軸63の他端には、この軸63と直交してノズルバックプレート62外縁方向に延びる開閉レバー65が設けられている。この開閉レバー65の先端は、二股に分岐した一対の狭持部65aが形成されている。
【0032】
そして、上記各開閉レバー65とノズルバックプレート62との間に狭持されるように、環状のリングプレート66が設けられている。このリングプレート66は、円心を中心として回転可能となっている。また、リングプレート66にはその円心を中心として等角度ごとに複数のピン67が設けられている。これらピン67は、上記開閉レバー65の狭持部65aの間に挟み込まれており、この開閉レバー65を回動可能に支持している。
【0033】
このリングプレート66がターボ制御用アクチュエータによって円心を中心として回動されると、各ピン67は狭持部65aをその回動方向へ押すことになる。その結果、開閉レバー65は軸63を回動させることになる。この軸63の回動に伴い各ノズルベーン64も軸63の軸線を中心として回動する。この機構により、各ノズルベーン64をそれぞれ同期した状態で回動させることができるようになっている。また、このノズルベーン64の回動によって、隣り合うノズルベーン64,64間の隙間の大きさが調整される。
【0034】
そして、ノズルベーン64間の隙間が狭められるほど、上記排気ガスの流路面積が縮小され、タービンホイール6Bに吹き付けられる排気ガスの流速が大きくなる。逆に、ノズルベーン64間の隙間が拡大されるほど、上記排気ガスの流路面積が拡大され、タービンホイール6Bに吹き付けられる排気ガスの流速が小さくなる。
【0035】
エンジン1の各部位には、各種センサが取り付けられており、それぞれの部位の環境条件や、エンジン1の運転状態に関する信号を出力する。例えば、レール圧センサ71は、コモンレール22内に蓄えられている燃料の圧力に応じた検出信号を出力する。上記エアフロメータ44は、吸気系4内のスロットル弁45上流において吸入空気の流量(吸気量)に応じた検出信号を出力する。空燃比(A/F)センサ72は、排気系5の触媒ケーシングの下流において排気中の酸素濃度に応じて連続的に変化する検出信号を出力する。排気温センサ73は、同じく排気系5の触媒ケーシング下流において排気の温度(排気温度)に応じた検出信号を出力する。また、アクセル開度センサ74はアクセルペダルに取り付けられ、同ペダルへの踏み込み量に応じた検出信号を出力する。クランク角センサ75は、エンジン1の出力軸(クランクシャフト)が一定角度回転する毎に検出信号(パルス)を出力する。吸気圧センサ76は、吸気マニホールド41に備えられ、吸入空気圧力に応じた検出信号を出力する。タービンホイール前圧力センサ77は、タービンホイール前圧力を検出して取得するタービンホイール前圧力取得手段として構成され、タービンホイール6Bよりも上流側に位置する排気マニホールド52に備えられて、タービンホイール6B直上流側でのタービンホイール前圧力に応じた検出信号を出力する。これら各センサ71〜77は、制御手段としての電子制御装置(ECU)8と電気的に接続されている。
【0036】
ECU(Electronic Control Unit)4は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)及びバックアップRAM、タイマーやカウンタ等を備え、これらと、A/D(Analog/Digital)変換器を含む外部入力回路及び外部出力回路とが双方向性バスにより接続されて構成される。
【0037】
このように構成されたECU8は、上記各種センサの検出信号を外部入力回路を介して
入力し、これら信号に基づいてエンジン1の燃料噴射等についての基本制御を行う他、ターボチャージャ6の制御等、エンジン1の運転状態に関する各種制御を実行する。
【0038】
ここで、ECU8が実行するターボチャージャ6の制御動作について説明する。
【0039】
先ず、上記クランク角センサ75からの信号に基づいて検知されるエンジン回転数と、燃料噴射量(噴射指令値)とに基づいて標準過給圧が求められる。この処理は、例えばエンジン回転数及び燃料噴射量をマップ点とし標準過給圧をマップ値とする2次元マップを用いて算出する。このようにして得られた標準過給圧に対し、吸入空気温度等の環境補正分に基づいた補正演算を行うことで目標過給圧を算出する。
【0040】
そして、吸気マニホールド41に備えられた吸気圧センサ76の検出値である実過給圧を上記算出した目標過給圧に近付けるように上記排気ガス流路の流路面積をフィードバック制御する。つまり、目標過給圧と実過給圧との乖離度に基づきノズルベーン64の開度のフィードバック補正量を算出し、このようにして算出されたフィードバック補正量を現在のノズルベーン64の開度制御量に加算することでノズルベーン64のフィードバック開度が算出され、これに基づいてノズルベーン64を開動させるためのアクチュエータが制御される。尚、ここでは、上記フィードバック制御としてPID制御が行われる。
【0041】
また、クランク角センサ75からの信号に基づいて検知されるエンジン回転数が低回転で、かつ燃料噴射量(噴射指令値)が小さく低負荷となる低回転低負荷領域(図7に示す破線領域)では、過給圧力(実過給圧)が所定圧力(例えば150kPa)よりも低い状況となるため、この低い過給圧力を目標過給圧に近付けるように排気ガス流路の流路面積をフィードバック制御することが困難、つまり目標過給圧と実過給圧との乖離度に基づいてノズルベーン64の開度をフィードバック制御することが困難なものとなる。
【0042】
そのため、ECU8では、燃料噴射量(噴射指令値)が小さく低負荷となる低回転低負荷領域であるときに、上記クランク角センサ75からの信号に基づいて検知されるエンジン回転数と、燃料噴射量(噴射指令値)とに基づいて標準タービンホイール前圧力が求められる。この処理は、例えばエンジン回転数及び燃料噴射量をマップ点とし標準タービンホイール前圧力をマップ値とする2次元マップを用いて算出する。このようにして得られた標準タービンホイール前圧力に対し、吸入空気温度等の環境補正分に基づいた補正演算を行うことで、目標タービンホイール前圧力を算出する目標タービンホイール前圧力算出手段が構成されている。
【0043】
そして、排気マニホールド52に備えられたタービンホイール前圧力センサ77の検出値である実タービンホイール前圧力を上記算出した目標タービンホイール前圧力に近付けるように上記排気ガス流路の流路面積をフィードバック制御する。つまり、図3に示すように、目標タービンホイール前圧力と実タービンホイール前圧力との乖離度に基づきノズルベーン64の開度のフィードバック補正量を算出し、このようにして算出されたフィードバック補正量を現在のノズルベーン64の開度制御量に加算することでノズルベーン64のフィードバック開度が算出され、これに基づいてノズルベーン64を開動させるためのアクチュエータが制御される。尚、ここでは、上記フィードバック制御としてPID制御が行われる。
【0044】
次に、エンジン1の低回転低負荷領域でのノズルベーン開度のフィードバック制御の流れを図4のフローチャートに基づいて説明する。
【0045】
まず、図4のフローチャートのステップST1において、クランク角センサ75からのエンジン回転数と、燃料噴射量(噴射指令値)とから、現時点でのノズルベーン64の開
度のフィードバック制御が、燃料噴射量(噴射指令値)が小さく低負荷となる低回転低負荷領域(図7に斜線で示す領域)つまりタービンホイール前圧力フィードバック領域であるか否かを判定する。
【0046】
そして、このステップST1の判定が、タービンホイール前圧力フィードバック領域ではないNOの場合には、ステップST2において、目標過給圧と実過給圧との乖離度に基づいてノズルベーン64の開度をフィードバック制御する。
【0047】
一方、上記ステップST1の判定が、タービンホイール前圧力フィードバック領域であるYESの場合には、ステップST3に進んで、クランク角センサ75からのエンジン回転数と、燃料噴射量(噴射指令値)とに基づいて標準タービンホイール前圧力を算出し、この標準タービンホイール前圧力に対し吸入空気温度等の環境補正分に基づいた補正演算を行うことで目標タービンホイール前圧力を算出する。
【0048】
それから、ステップST4において、排気マニホールド52のタービンホイール前圧力センサ77により検出した実タービンホイール前圧力を読み込む。
【0049】
そして、ステップST5において、実タービンホイール前圧力が目標タービンホイール前圧力となるように、ノズルベーン64の開度をフィードバック制御する。つまり、目標タービンホイール前圧力と実タービンホイール前圧力との乖離度に基づきノズルベーン64の開度のフィードバック補正量を算出し、この算出されたフィードバック補正量を現在のノズルベーン64の開度制御量に加算することでノズルベーン64のフィードバック開度を算出し、これに基づいてノズルベーン64を開動させるためのアクチュエータを制御する。
【0050】
ここで、エンジン1の低回転低負荷領域におけるノズルベーン64の開閉動作を図5に基づいて実タービンホイール前圧力(目標タービンホイール前圧力)および実過給圧の変化と併せて説明する。なお、図5では、エンジン1の低回転低負荷領域でのマップに基づくノズルベーン64の開閉動作を破線で示している。
【0051】
例えば、エンジン1の低回転低負荷領域において、アクセル開度センサ74によりアクセルペダルの踏み込み量が検出されて、図7の斜線領域に示す負荷Aから負荷Bまで負荷状態が変化して加速状態となったとき、図5に示すように、燃料噴射量がAからBに変化するため、目標タービンホイール前圧力は二点鎖線で示すように変化する。
【0052】
このとき、二点鎖線で示す目標タービンホイール前圧力と実タービンホイール前圧力との乖離度に基づきノズルベーン64の開度のフィードバック補正量を算出し、この算出されたフィードバック補正量を現在のノズルベーン64の開度制御量(負荷Aでの開度制御量)に加算することでノズルベーン64のフィードバック開度を算出し、これに基づいてノズルベーン64を開動させるためのアクチュエータを制御して、ノズルベーン64の開度を閉じ側に制御する。
【0053】
その後、実タービンホイール前圧力が目標タービンホイール前圧力となるようにノズルベーン64の開度を徐々に開き側に制御する。
【0054】
これによって、実タービンホイール前圧力が目標タービンホイール前圧力となるようにノズルベーン64の開度をフィードバック制御する場合の実タービンホイール前圧力および実過給圧は、図5に破線で示すエンジン1の低回転低負荷領域でのマップに基づいてノズルベーン64の開閉動作を制御する場合に比べて、速い立ち上がりを示していることが判る。
【0055】
したがって、上記実施形態では、エンジン1が低回転でかつ低負荷となる低回転低負荷領域においてアクセル開度センサ74によりアクセルペダルの踏み込み量が検出されて加速状態に移行したとき、目標タービンホイール前圧力に対し実タービンホイール前圧力が近付くように、ノズルベーン64の開度が一旦閉じ側にフィードバック制御されてから開き側にフィードバック制御されるので、エンジンが低回転低負荷領域において加速状態に移行した際にノズルベーンの開度を所定期間だけ開き側に制御しているもののように、少ない排気エネルギーがロスすることがなく、燃費の悪化が抑制される。しかも、エンジン1が低回転低負荷領域において加速状態に移行する際にノズルベーンの開度を最初から開き側に制御しないことから、タービンホイール前圧力が上昇して吸気通路内での過給圧の上昇性が向上し、十分な加速性能が得られることになる。よって、燃費の向上とドライバビリティの向上とを両立させることができる。
【0056】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その他種々の変形例を包含している。例えば、上記実施形態では、エンジン1の低回転低負荷領域においてタービンホイール前圧力センサ77により検出した実タービンホイール前圧力を目標タービンホイール前圧力に近付くようにノズルベーン64の開度をフィードバック制御するようにしたが、エンジンの低回転低負荷領域において、クランク角センサからのエンジン回転数および燃料噴射量(噴射指令値)等から推定した推定タービンホイール前圧力が目標タービンホイール前圧力に近付くようにノズルベーンの開度をフィードバック制御するようにしてもよい。そして、推定タービンホイール前圧力を取得するタービンホイール前圧力取得手段としては、図6に示すように、エンジン回転数および燃料噴射量に基づく定常状態での定常タービンホイール前圧マップ、エンジン回転数および燃料噴射量に基づくノズルベーンの開度100%(VN全閉)の定常状態での定常タービンホイール前圧マップ、エンジン回転数および燃料噴射量に基づくノズルベーンの開度0%(VN全開)の定常状態での定常タービンホイール前圧マップ、エンジン回転数および燃料噴射量に基づく定常状態での定常ノズルベーン開度マップ、エンジン回転数および燃料噴射量に基づくタービンホイール前圧力遅れを考慮した時定数マップ、並びに実際のノズルベーン開度を検出するノズルベーン開度センサを具備し、上記定常ノズルベーン開度マップとノズルベーン開度センサからの実ノズルベーン開度(実VN開度)との差分に感度係数カーブマップで処理した値と、上記ノズルベーンの開度100%と0%との定常タービンホイール前圧マップでの値の差分とを積算し、上記定常タービンホイール前圧マップでの値と和算する。この和算値と、前回の推定タービンホイール前圧力値との差分を、上記時定数マップからの値で除算し、その除算値に、上記前回の推定タービンホイール前圧力値を和算して、今回の推定タービンホイール前圧力を算出する。この場合、推定タービンホイール前圧力を用いても、タービンホイール前圧力センサ77による実タービンホイール前圧力を用いた場合と遜色のないノズルベーン開度のフィードバック制御を行うことができる上、タービンホイール前圧力センサ77を廃止してコストの低廉化を図ることができる。
【0057】
また、上記実施形態では、エンジン1の低回転低負荷領域においてアクセル開度センサ74によりアクセルペダルを踏み込んで加速状態となった場合について述べたが、エンジンの低回転低負荷領域においてアクセル開度センサによりアクセルペダルの踏み込み量が検出されても加速状態とはならないとき、つまりエンジンの低回転低負荷領域において走行路の勾配によって一定速度を維持するためにアクセルペダルが踏み込まれたときなどにも、同様のノズルベーン開度のフィードバック制御が行えることはいうまでもない。
【0058】
そして、上記実施形態では、エンジン1の低回転低負荷領域においてのみ実タービンホイール前圧力を目標タービンホイール前圧力に近付くようにノズルベーンの開度をフィードバック制御するようにしたが、エンジン1の低回転低負荷領域を含む全領域においてタービンホイール前圧力が目標タービンホイール前圧力に近付くようにノズルベーンの開度
がフィードバック制御されるようにしてもよく、その場合には、制御の簡略化を図ることが可能となる。
【0059】
更に、上記実施形態では、自動車に搭載されたコモンレール式筒内直噴型多気筒ディーゼルエンジン1に本発明を適用した場合について説明したが、本発明はこれに限らず、その他の形式のディーゼルエンジンやガソリンエンジンにも適用可能である。また、自動車用に限らず、その他の用途に使用されるエンジンにも適用可能である。また、気筒数やエンジン形式(直列型、V型エンジン等の別)についても特に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施形態に係るエンジン及びその制御系統の概略構成を示す図である。
【図2】可変ノズル型ターボチャージャの可変ノズル機構を示す図であって、図2(a)は断面図であり、図2(b)は正面図である。
【図3】目標タービンホイール前圧力と実タービンホイール前圧力との乖離度に基づきノズルベーンの開度のフィードバック補正量を算出する制御ブロック図である。
【図4】エンジンの低回転低負荷領域でのノズルベーン開度のフィードバック制御の流れを示すフローチャート図である。
【図5】エンジンの低回転低負荷領域において負荷Aから負荷Bまで負荷状態が変化した場合のノズルベーンの開閉動作、実タービンホイール前圧力および実過給圧の変化を示す特性図である。
【図6】その他の実施形態に係わる推定タービンホイール前圧力を算出する制御ブロック図である。
【図7】従来例に係わるエンジンの回転数に対する燃料噴射量の特性において低回転低負荷領域を示す特性図である。
【図8】従来例に係わるノズルベーン開度に対するタービンホイール前圧力特性および過給圧特性を示す特性図である。
【符号の説明】
【0061】
1 エンジン(内燃機関)
6 可変容量型ターボチャージャ
6B タービンホイール
64 ノズルベーン
77 タービンホイール前圧力センサ(タービンホイール前圧力取得手段)
8 電子制御装置(制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービンホイールの上流側の排気ガスの流路面積をノズルベーンの開度に応じて制御することによって過給圧を調整するようにした可変容量型ターボチャージャの制御装置において、
内燃機関の回転数および内燃機関の負荷に応じた燃料噴射量に基づいて目標タービンホイール前圧力を算出する目標タービンホイール前圧力算出手段と、
上記可変容量型ターボチャージャのタービンホイール前圧力を検出または推定して取得するタービンホイール前圧力取得手段と、
内燃機関が低回転でかつ低負荷となる領域において上記目標タービンホイール前圧力算出手段により算出された目標タービンホイール前圧力に対し上記タービンホイール前圧力取得手段により取得されたタービンホイール前圧力が近付くように、上記ノズルベーンの開度を制御する制御手段と
を備えていることを特徴とする可変容量型ターボチャージャの制御装置。
【請求項2】
上記請求項1に記載の可変容量型ターボチャージャの制御装置において、
制御手段は、内燃機関が低回転でかつ低負荷となる領域を含む全領域において目標タービンホイール前圧力に対しタービンホイール前圧力が近付くようにノズルベーンの開度を制御していることを特徴とする可変容量型ターボチャージャの制御装置。
【請求項3】
上記請求項1または請求項2に記載の可変容量型ターボチャージャの制御装置において、
制御手段は、内燃機関が低回転でかつ低負荷となる領域においてアクセル開度が開き側に変位したときに、そのアクセル開度の変位量に応じた目標タービンホイール前圧力に対しタービンホイール前圧力が近付くように、ノズルベーンの開度を一旦閉じ側に制御してから開き側に制御していることを特徴とする可変容量型ターボチャージャの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−40178(P2007−40178A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−225242(P2005−225242)
【出願日】平成17年8月3日(2005.8.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】