説明

可変集積インダクタ

【課題】2個以上の値の間で切替え可能なインダクタンス値を有する可変集積インダクタについて記載する。
【解決手段】好適な実施形態において、可変集積インダクタは、一対の2次インダクタに電磁結合されたマルチループ1次インダクタを含んでいる。2次インダクタは互いに接続されて閉回路を形成しており、その内部で2次インダクタは、マルチループ1次インダクタにより出力されるインダクタンス値を変化させるように直列接続と並列接続との間で切替え可能な可変トポロジを有している。一応用例において、可変集積インダクタは、マルチバンドRF無線トランシーバ(例えば、無線通信装置)で使用可能な種類である電圧制御発振器(VCO)内で用いられる。他の応用例において、可変集積インダクタは、同調増幅器負荷、インピーダンス整合ネットワーク、デジタル制御発振器、または他の任意の種類の周波数選択LCネットワークに利用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景
本発明は、2個以上の値の間で切替え可能なインダクタンス値を有する可変集積インダクタに関する。一用途において、可変集積インダクタは、マルチバンドRF無線トランシーバ(例えば、携帯電話、ポケットベル、ラップトップ・コンピュータ、携帯情報端末(PDA)等の無線通信装置)で使用可能な種類の電圧制御発振器(VCO)で用いられる。他の用途において、可変集積インダクタは、同調増幅器負荷、インピーダンス整合ネットワーク、デジタル制御発振器、または任意の種類の周波数選択LCネットワークで利用できる。
【背景技術】
【0002】
関連技術の説明
図1(従来技術)を参照するに、従来型の直接変換マルチバンド無線トランシーバ100(例えば、無線通信装置100)の基本部品のブロック図を示す。図に示すマルチバンド無線トランシーバ100は、アンテナ102、送信/受信(T/R)ユニット104、受信経路106、送信経路108、およびベースバンド信号処理ユニット110を含んでいる。受信経路106は、アンテナ102により受信されたRF周波数信号をベースバンド信号処理ユニット110における更なる信号処理に適したより低い周波数に下方変換するために、電圧制御発振器(VCO)114と共に用いられるミキサー112を含んでいる。送信経路108は、ベースバンド信号処理ユニット110から受信されたベースバンド信号を、アンテナ102により送信される前に、より高い周波数に上方変換するために、VCO118と共に用いられるミキサー116を含んでいる。受信信号および送信信号のRF周波数(fRF)が極めて広範囲(2倍超)にわたり変動し得るため、マルチバンド・トランシーバ100は、VCO114、118の両方が広い周波数範囲にわたり同調可能であることを必要とする。
【0003】
従来、マルチバンド無線トランシーバ100のこの種のアーキテクチャは良好に機能していた。しかし今日、より多くのマルチバンドおよびマルチスタンダードの無線アーキテクチャに対応するためにより多くの周波数帯をカバーすることができる、一体化された無線トランシーバによる解決策が必要とされている。この拡張された機能性は、図1に示すVCO114、118の同調範囲が限られているため、実現するのが困難であった。以下に、VCO114、118の同調範囲が限られている理由を説明する。
【0004】
VCO114、118は、並列に接続された固定インダクタ121および可変コンデンサ123を含むLC共振器回路120により設定される発振周波数(f)を有する。発振周波数(f)は、次式により与えられる。
【数1】

【0005】
インダクタ121の値が固定されているため、これはLC共振器回路120の同調範囲が、可変コンデンサ123(すなわちバリキャップ123および静電容量スイッチ123)を調整することにより実現可能な静電容量比率に限られることを意味する。LCネットワーク120の同調範囲が限られていることは、マルチバンド無線トランシーバ100だけの問題ではない。これはまた、例えば同調増幅器負荷やインピーダンス整合ネットワークで使用可能な他の種類の周波数選択LCネットワークにおいても問題である。過去にこの問題に対処するために用いられた多くの解決策を図2〜5に関して以下に記載する。
【0006】
図2(従来技術)を参照するに、共にマルチプレクサ204に接続されている2個のVCO202a、202bを有するデュアルVCO200のブロック図を示す。VCO202a、202bは各々、互いに並列に接続された固定インダクタ205および可変コンデンサ207を含むLC共振器回路206a、206bを有している。この場合、デュアルVCO200は、VCO202a、202bから出力される2個の部分範囲Vout1、Vout2からなる全周波数範囲Voutを有している。デュアルVCO200は、実装が比較的容易であるものの、(例えば)図1に示すVCO114の製造に用いる場合の2倍超のシリコン面積を使用する。これは好ましくない。
【0007】
図3(従来技術)を参照するに、分割器302に接続されたVCO300のブロック図を示す。VCO300は、互いに並列に接続された固定インダクタ305および可変コンデンサ307を含むLC共振器回路304を有している。VCO300の出力に分割器302を追加して、異なる出力周波数帯に対して分割比率を異なる整数値に設定可能にしたことにより、VCO300に対する同調範囲要件が効果的に緩和される。しかし、分割器302を追加したことにより、特に位相ノイズ要件が厳しい場合に電流消費が大幅に増大する。また、分割器302の追加によりチップに使用する総面積が増大する。更に、分割器302を追加したことにより、2の倍数でない分割器比率に対して矩形出力信号を生成することが困難な場合が多い。これらの特徴はいずれも好ましくない。
【0008】
図4(従来技術)を参照するに、VCO400の出力信号の分数分割の実行に用いられてきた複雑なフィードバック周波数生成方式のブロック図を示す。本方式において、VCO400は、互いに並列に接続された固定インダクタ403および可変コンデンサ405含むLC型共振器回路402を有している。また、VCOの出力信号は、ミキサー404へ入力され、ミキサー404を通過して分割器406において整数Nで分割された信号と混合される。この方式の短所は、図2〜3に示す従来の解決策のいずれよりも多くの電流を消費し、且つより大きいチップスペースを占有することである。
【0009】
図5(従来技術)を参照するに、VCO500の出力信号の分数分割の実行に用いられてきた複雑なフィードフォワード周波数生成方式のブロック図を示す。この方式において、VCO500は、互いに並列に接続された固定インダクタ503および可変コンデンサ505を含むLC共振器回路502を有している。また、VCOの出力信号は、ミキサー504および分割器506へ入力される。分割器506は、出力信号を整数Nで分割し、分割された信号をミキサー504に入力するように機能する。ミキサー504は次いで、元の出力信号と分割された出力信号を混合して、信号Voutを出力する。この方式には、図2〜3に示す従来の解決策のいずれよりも多くの電流を消費し、且つより大きいチップスペースを占有する点で、図4に示すフィードバック方式と同じ短所がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、VCOの同調範囲を増やすために利用できる新たな解決策が必要であることが分かる。この新たな解決策には、従来の解決策に付随する上述の短所および欠点があってはならない。本発明の可変集積インダクタはそのような解決策である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明の簡単な説明
本発明は、2個以上の値の間で切替え可能なインダクタンス値を有する可変集積インダクタを含んでいる。好適な実施形態において、当該可変集積インダクタは、一対の2次インダクタに電磁結合されたマルチループ1次インダクタを含んでいる。2次インダクタは互いに接続されて閉回路を形成しており、その内部で2次インダクタは、マルチループ1次インダクタにより出力されるインダクタンス値を変化させるように直列接続と並列接続との間で切替え可能な可変トポロジを有している。一応用例において、可変集積インダクタは、マルチバンドRF無線トランシーバ(例えば、無線通信装置)で使用可能な種類である電圧制御発振器(VCO)内で用いられる。他の応用例において、可変集積インダクタは、同調増幅器負荷、インピーダンス整合ネットワーク、デジタル制御発振器、または他の任意の種類の周波数選択LCネットワークに利用可能である。
【0012】
添付の図面をと合わせて、以下の詳細説明を参照することにより、本発明をより完全に理解することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図面の詳細な説明
図6を参照するに、可変集積インダクタ604(本発明)および可変コンデンサ606を含むLC共振器回路602を有するVCO600を表わすブロック図を示す。可変集積インダクタ604は、後述するように、インダクタンスを2個以上の値の間で切替え可能にする特徴的な誘導スイッチング技術を実装している。その結果、可変集積インダクタ604および可変コンデンサ606の両方を用いるVCO600は、誘導スイッチングおよび静電容量スイッチング(式1参照)の両方を用いることにより拡張可能な同調範囲を有している。従来型(例えば)VCO114はインダクタ121が固定(図1参照)されているために容量スイッチング(可変コンデンサ123を介して)を用いることでしか同調範囲を変更できなかったため、従来はこのような拡張同調範囲が不可能であった。
【0014】
可変集積インダクタ604は、1次インダクタ(図10〜13参照)と同じチップ面積に多数の2次インダクタを追加することにより、この特徴的な誘導スイッチング技術を実装している。2次インダクタは、1次インダクタとは物理的に接続しておらず、その代わりに1次インダクタと電磁結合している。また、2次インダクタ自体が互いに異なる構成/トポロジで接続できるため、2次インダクタが1次インダクタに与える影響を変化させることができる。特に、2次インダクタの構成/トポロジを切替えて、1次インダクタの出力である総インダクタンスの値を変化させることができる。
【0015】
2次インダクタ等の新たな部品をインダクタに追加することは、これらの新たな部品がインダクタのQ係数を低下させる恐れのある新たな寄生要素をもたらすため、簡単な作業ではない。この問題を回避するために、本発明の好適な実施形態は、1次インダクタLと電磁結合されているが物理的には結合されていない2個の2次インダクタL21、L22を用いる(図7、8参照)。これら2個の2次インダクタL21、L22は、同一のインダクタンスを有し、且つ1次インダクタLと同一の結合を有していなければならない。また、これら2個の2次インダクタL21、L22は、逆符号の結合係数kを有していなければならない。このように、3個の電磁結合された構造L、L21、L22の結果的に生じる等価なインダクタンスは、2個の2次装置L21、L22が互いにどのように接続されているかに依存する。
【0016】
2個の2次インダクタL21、L22が図7に示すように直列に接続されている場合、結合係数k、−kが逆符号であるために、これら2個の2次インダクタL21、L22の影響は互いに相殺される。この場合、2個の2次インダクタL21、L22がある側では電流は流れず、1次インダクタLのインダクタンスおよびQ係数は次式で示すように影響を受けないままである。
TOT=L 式2
【0017】
しかし、2個の2次インダクタL21、L22が図8に示すように並列に接続されている場合、相殺効果は存在しない。1次インダクタLの結果的に生じるインダクタンス値は、次式で示すように、結合係数kの大きさに依存する新規の値LTOTまで減少する。
TOT=L・(1−2・k) 式3
【0018】
このトポロジにおいて、損失抵抗がインダクタンス値と同じ量だけ減少しないという事実のために、可変集積インダクタ604の全体的なQ係数もまた減少する。図7、8から分かるように、2個の2次インダクタL21、L22は常時互いに接続して閉回路を形成しており、当該閉回路内でこれらを直列または並列に接続することにより変更可能な唯一のトポロジである。
【0019】
好適な実施形態において、集積インダクタL、L21、L22は、半導体基板(チップ)上に金属トレースとして実装される。インダクタンス値、Q係数、および他の金属構造への電磁結合等の主要な性能パラメータの全ては、基板の材料特性と共に、インダクタ・レイアウトの幾何学的特性により定義される。このように、集積インダクタL、L21、L22の製造に用いる金属トレースのサイズおよびレイアウトを適切に決めることが重要である。以下に、集積インダクタL、L21、L22の製造に利用可能ないくつかの異なるレイアウトに関して記載する。
【0020】
図9を参照するに、シングルターンの8の字形1次インダクタLのレイアウトを表わすブロック図を示す。本例では、1次インダクタLは、上部ループ902および下部ループ904を有するシングルターンの8の字形構造をなしている。8の字形により、上部ループ902内の電流は、下部ループ904内の電流(例えば、反時計回り、矢印参照)と反対方向(例えば、時計回り、矢印参照)に進む。その結果、8の字形には、2個の内側ループ902、904から生じる磁場906、908が反対方向を向くという利点がある。またこれは、1次インダクタLが他の部品に及ぼし得る遠距離場効果を減らすために、1次インダクタLから特定の距離で発散する磁場906、908が互いに逆向きに作用する傾向があることを意味する(この利点に関する詳細は同時係属中の米国特許出願第10/919,130号明細書参照)。1次インダクタLがこのように対称形のレイアウトであるの別の利点として、後述する本発明の誘導スイッチング技術の実装によく適していることが挙げられる。
【0021】
図10を参照するに、本発明に従い、シングルターンの8の字形1次インダクタLに電磁結合する2個の2次インダクタL21、L22を表わす例示的な可変集積インダクタ604のブロック図を示す。中央のスイッチ1002が開いたままである結果、これら2個の2次インダクタL21、L22の閉回路直列接続が得られる。例えば、スイッチ1002は、ソフトウェアにより制御可能な大型の金属酸化物半導体(MOS)トランジスタ1002であってよい。インダクタL、L21、L22間のレイアウトが完全に対称であることにより、2次インダクタL21、L22の結合係数kの大きさが同一であることが保証される。また、1次インダクタLの対称な8の字形状により、2次インダクタL21、L22の結合係数kが逆符号であることが自動的に保証される。これは、1次インダクタLが逆向きの磁場906、908を有する2個の内側ループ902、904を有している事実による。この結果、本構成の可変集積インダクタ604は図7に示す回路のように機能し、総インダクタンスLTOTは1次インダクタLのインダクタンスに等しい。
【0022】
図11を参照するに、図10に示す例示的な可変集積インダクタ604のブロック図を、2次インダクタL21、L22が並列に接続されるようにスイッチ1002が閉じている状態で示す。再び、インダクタL、L21、L22間のレイアウトが完全に対称であることにより、2次インダクタL21、L22の結合係数kの大きさが同一であることが保証される。また、インダクタL、L21、L22のジオメトリが変わっていないため、2次インダクタL21、L22は依然として逆符号の結合係数kを有している。この結果、本構成の可変集積インダクタ604は図8に示す回路のように機能し、総インダクタンスLTOTは式3に従い減少する。
【0023】
図12を参照するに、本発明の別の実施形態に従い、ダブルターンの8の字形1次インダクタLに電磁気結合された2個の2次インダクタL21、L22有する例示的な可変集積インダクタ604’のブロック図を示す。ダブルターンの8の字形1次インダクタLは、上部ループ902および下部ループ904を有する点で図10〜11に示すシングルターンの8の字形1次インダクタLと極めて類似している。しかし、2回のターンを有するダブルターンの8の字形1次インダクタLはより低いQ係数を有し、図10〜11に示すシングルターンの8の字形1次インダクタLと比較して、同じインダクタンス値にも拘わらずより小さい構造をなしている。スイッチング機構1002は、図10〜11に示すものと同一であってよい。
【0024】
可変集積インダクタ604、604’の両方の実施形態において、インダクタL、L21、L22の実際のレイアウトに応じて、接続された2次インダクタL21、L22のインダクタンス値が直列構成と並列構成とで僅かに異なり得る点に留意されたい。しかし、これはインダクタンス値が2個の2次インダクタL21、L22自体の間で等しい(L21=L22)限り、問題ではない。
【0025】
一対の2次インダクタL21、L22について図7〜12に関して上述したが、1次インダクタLが2個以上のインダクタンス値を出力可能にするいくつかの対の2次インダクタを実装することも可能である。周波数同調に静電容量スイッチではなく誘導スイッチを用いることで恐らくプロセス・パラメータの差違に対する感度が低いため、複数の対の2次インダクタを用いることが好ましいであろう。これは、より密に制御可能な装置ジオメトリに誘導スイッチが密にリンクされているためである。例えば、1次インダクタLに相対的に2次インダクタのジオメトリ(例えば、大きさ、形状)を変えるためにレーザー切削工具を用いて結合係数kの大きさを制御することができる。VCO周波数に影響する他の部品におけるプロセス変動を補償するように製造工程の間に可変集積インダクタ604の1回限りの同調(トリミング)を実行したい場合、レーザー切削工具を用いて、MOSスイッチ1002を代替することができる。
【0026】
2次インダクタの各種結合係数kの逆符号に簡単に対応できる限り、複数対の2次インダクタを実装するスイッチ型可変集積インダクタ604の多様なジオメトリを用いることができる。そのような実施形態の一つを図13に示す。可変集積インダクタ604”は、クローバー葉状の1次インダクタLおよび4個の2次インダクタL21、L22、L23、L24を有している。これら4個の2次インダクタL21、L22、L23、L24は、(例えば)2個の2次インダクタL21、L23が正の結合係数kを有し、(例えば)他の2個の2次インダクタL22、L24が負の結合係数−kを有する場合、インダクタンスの切替えに用いることができる。スイッチング機構1002は、図10〜11に示すものと同一であってよい。
【0027】
上述のように、可変集積インダクタ604、604’、604”は多様な装置に実装することができる。例えば、同調増幅器負荷、インピーダンス整合ネットワーク、デジタル制御発振器、または他の種類の周波数選択LCネットワーク等の装置は、可変集積インダクタ604、604’、604”の拡張された同調範囲を組み込んで利用することから利点が得られる。また、図14に示すようなマルチバンド無線トランシーバ1400は、2個の可変集積インダクタ604、604’、604”を用いることにより利点が得られる。
【0028】
図14を参照するに、本発明によるマルチバンド無線トランシーバ1400の基本部品を表わすブロック図を示す。図に示すマルチバンド無線トランシーバ1400(例えば、無線通信装置1400)は、アンテナ1402、送信/受信(T/R)ユニット1404、受信経路1406、送信経路1408、およびベースバンド信号処理装置1410を含んでいる。受信経路1406は、アンテナ1402により受信されたRF周波数信号を、ベースバンド信号処理ユニット1410における更なる信号処理に適したより低い周波数に下方変換するためにVCO1414と共に用いられるミキサー1412を含んでいる。送信経路1408は、ベースバンド信号処理ユニット1410から受信されたベースバンド信号を、アンテナ1402により送信される前に、より高い周波数に上方変換するためにVCO1418と共に用いられるミキサー1416を含んでいる。
【0029】
マルチバンド無線トランシーバ1400は、VCO1414、1418の同調範囲が従来型マルチバンド無線トランシーバ100で用いられるVCO114、118の同調範囲より大きい点を除いて、図1に示す従来型マルチバンド無線トランシーバ100と同一構成をなしている。
【0030】
再び、VCO1414、1418は、誘導スイッチング(可変集積インダクタ604、604’、604” を介して)および静電容量スイッチング(可変コンデンサ606を介して)の両方の組合せを用いることができるため、同調範囲が拡張されている。従来型VCO114、118はインダクタ121が固定(図1参照)されているために静電容量スイッチング(可変コンデンサ123を介して)を用いることでしか同調範囲を変更できなかったため、このような拡張同調範囲は可能でなかった。分かりやすくするため、マルチバンド無線トランシーバ1400について本明細書に記載する説明では本発明の理解に必要でない公知の部品に関する特定の詳細事項を省略する。
【0031】
マルチバンド無線トランシーバ1400(または任意の装置)において可変集積インダクタ604、604’、604”を用いることに伴う別の利点は、VCO1414と1418の間に相互EM結合がより少ないことである。その理由は、各々の可変集積インダクタ604、604’、604”が対称形であるためである。また、各々の可変集積インダクタ604、604’、604”は複数の対称形のループからなり、これはそれらが各々自身と逆向きに作用する傾向がある磁場を発することを意味する。その結果、2個の可変集積インダクタ604、604’、604”は互いに近接して配置して、集積インダクタ604、604’、604”の1個において、可変集積インダクタ604、604’、604”のうちの他のものから発せられた磁場により誘導された電流が大幅に減少するような方向に向けることができる。この利点および対称形の1次インダクタを用いることによる別の利点に関するより詳細な説明に関して、同時係属中の米国特許出願第10/919,130号明細書を参照されたい。
【0032】
図15を参照するに、本発明に従い、可変集積インダクタ604、604’、604”を製造する方法1500の基本ステップを表わすフロー図を示す。ステップ1502から始まって、マルチループ1次インダクタLはチップ上に金属トレースを配置することにより形成される。ステップ1504において、(例えば)一対以上の2次インダクタL21、L22が、チップ上に金属トレースを配置することにより形成される。上述のように、2次インダクタL21、L22はマルチループ1次インダクタLに電磁結合されている。また、2次インダクタL21、L22は、直列接続と並列接続との間で切替え可能な可変トポロジを有する、閉じた回路を形成している。ステップ1506において、スイッチ1002がチップ上に形成される。スイッチ1002を用いて、2次インダクタL21、L22の可変トポロジを変更して、マルチループ1次インダクタLの出力であるインダクタンス値を変化させる。
【0033】
以下は、本発明に付随する他のいくつかの特徴および利点である。
*VCO共振器内で切替え可能な集積インダクタを用いることにより、静電容量スイッチに起因する制限を超えて周波数同調範囲が拡張される。これにより、単一のVCOを用いてマルチバンド無線トランシーバにおいてより多くの帯域をカバーすることが可能になる。また、インダクタ自体に起因して集積VCOのチップ面積は既に比較的大きいが、VCOの個数を減らすことはトランシーバ・チップの大幅なコスト削減を意味する。
*切替え可能な集積インダクタは、巻きの間の結合係数Kを変えることにより、インダクタンス値を(ある範囲内で)任意の値に設定できる。値は主にジオメトリ・パラメータにより決まるため、このステップはプロセス変動にほとんど影響されない。
*2次インダクタは、共振器回路に直流的には接続していない。これにより、寄生効果が最小限に抑えられ、二次巻線に最適な電圧を印加できるため、スイッチ装置の実装がより容易になる。
*誘導スイッチング技術をより広範なインダクタ・レイアウトに用いることができるため、従来のインダクタが使用するよりも極端に大きいチップ面積を占有しない。
*誘導スイッチング技術を適用して、オンチップまたはオフチップである他の導体へのインダクタ・レイアウトの電磁結合を減らすことができる。
*2次インダクタが低インダクタンス状態で並列接続されている場合、更なる損失が生じる恐れがある。その結果、インダクタのQ係数が低下して、VCOの位相ノイズ性能が劣化する恐れがある。しかし、これは位相ノイズ要件が厳しいアプリケーションにおいて供給電流を増大させることにより容易に補償可能である。
*その場合、製造プロセスにおける変化の結果、発振周波数が低すぎるVCO(可変集積インダクタを含む)が生じるが、インダクタの生成を削減して発振周波数を受容可能な値まで増大させることができる。
【0034】
本発明のいくつかの実施形態を添付の図面に示すと共に、上の詳細説明に記載してきたが、本発明が開示された実施形態に限定されず、添付の特許請求の範囲により開示および規定された本発明の概念から逸脱することなく、多くの再構成、変更、および代替が可能であることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】(従来技術)従来のマルチバンド無線トランシーバの基本部品を示すブロック図である。
【図2】(従来技術)図1に示すマルチバンド無線トランシーバで使用可能な一種類のVCOを示すブロック図である。
【図3】(従来技術)図1に示すマルチバンド無線トランシーバで使用可能な別の種類のVCOを示すブロック図である。
【図4】(従来技術)図1に示すマルチバンド無線トランシーバで使用可能な更に別の種類のVCOを示すブロック図である。
【図5】(従来技術)図1に示すマルチバンド無線トランシーバで使用可能な更に別の種類のVCOを示すブロック図である。
【図6】本発明による可変集積インダクタおよび可変コンデンサを含むLC共振器回路を有するVCOを示すブロック図である。
【図7】本発明に従い1次インダクタが一対の2次インダクタに電磁結合していて2次インダクタが直列に接続されている、図6に示す可変集積インダクタの模式図である。
【図8】本発明に従い1次インダクタが一対の2次インダクタに電磁結合していて2次インダクタが並列に接続されている、図6に示す可変集積インダクタの模式図である。
【図9】本発明による可変集積インダクタを製造するために、2次インダクタ(図示せず)と共に使用可能なシングルターンの8の字形1次インダクタを示す図である。
【図10】本発明に従い互いに直列に接続された2個の2次インダクタに電磁気結合されたシングルターンの8の字形1次インダクタを有する例示的な可変集積インダクタのブロック図である。
【図11】本発明に従い互いに並列に接続された2個の2次インダクタに電磁結合されたシングルターンの8の字形1次インダクタを有する例示的な可変集積インダクタのブロック図である。
【図12】本発明に従い2個の2次インダクタに電磁結合されたダブルターンの8の字形1次インダクタを有する例示的な可変集積インダクタのブロック図である。
【図13】本発明に従い4個の2次インダクタに電磁結合されたクローバー葉状の1次インダクタを有する例示的な可変集積インダクタのブロック図である。
【図14】本発明に従い図6〜12に示すものと同様の2個の可変集積インダクタを組み込んだマルチバンド無線トランシーバの基本部品を示すブロック図である。
【図15】本発明による可変集積インダクタの製造方法の基本ステップを示すフロー図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチループ1次インダクタと、
前記マルチループ1次インダクタに電磁結合された一対の2次インダクタとを含む可変集積インダクタであって、
前記2次インダクタが互いに接続されて閉回路を形成しており、その内部で前記2次インダクタが、前記マルチループ1次インダクタにより出力されるインダクタンス値を変化させるように直列接続と並列接続の間で切替え可能な可変トポロジを有している、可変集積インダクタ。
【請求項2】
前記一対の2次インダクタが直列接続されている場合、前記マルチループ1次インダクタにより出力されるインダクタンス値が変化しない、請求項1に記載の可変集積インダクタ。
【請求項3】
前記一対の2次インダクタが並列接続されている場合、前記マルチループ1次インダクタにより出力されるインダクタンス値が減少する、請求項1に記載の可変集積インダクタ。
【請求項4】
前記一対の2次インダクタは、所定のインダクタンスおよび正の結合係数kを有する1個の2次インダクタと、所定のインダクタンスおよび負の結合係数−kを有する別の2次インダクタとを含む、請求項1に記載の可変集積インダクタ。
【請求項5】
前記マルチループ1次インダクタは、対称形のマルチループ1次インダクタである、請求項1に記載の可変集積インダクタ。
【請求項6】
前記マルチループ1次インダクタは、2個の内側ループを有するシングルターンの8の字形インダクタであり、第1の内側ループは一方向への磁場を有し、第2の内側ループは反対方向への磁場を有する、請求項1に記載の可変集積インダクタ。
【請求項7】
前記マルチループ1次インダクタは、クローバー葉状のインダクタである、請求項1に記載の可変集積インダクタ。
【請求項8】
前記マルチループ1次インダクタは、ダブルターンの8の字形インダクタである、請求項1に記載の可変集積インダクタ。
【請求項9】
前記マルチループ1次インダクタにより出力可能な多数のインダクタンス値を増大させるために用いられる複数の対の2次インダクタを更に含む、請求項1に記載の可変集積インダクタ。
【請求項10】
前記マルチループ1次インダクタおよび前記一対の2次インダクタが以下の装置、すなわち
電圧制御発振器、
同調増幅器負荷、
デジタル制御発振器、
インピーダンス整合ネットワーク、および
周波数選択LCネットワーク
のうち、いずれか一つ選択されたものに使用される、請求項1に記載の可変集積インダクタ。
【請求項11】
スイッチ型集積インダクタを製造する方法であって、
チップ上にマルチループ1次インダクタを形成するステップと、
一対の2次インダクタが前記マルチループ1次インダクタと電磁結合されて、前記一対の2次インダクタが切替え可能なトポロジを有する閉回路を形成するように、前記チップ上に一対の2次インダクタを形成するステップと、
前記チップ上にスイッチを形成し、前記マルチループ1次インダクタにより出力されるインダクタンス値を変化させるように、前記スイッチを用いて前記一対の2次インダクタの切替え可能なトポロジを直列接続または並列接続に変えるステップとを含む方法。
【請求項12】
前記スイッチが開位置にある場合、前記一対の2次インダクタは、前記マルチループ1次インダクタにより出力されるインダクタンス値を変化させない直列接続をなしている、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記スイッチが閉位置にある場合、前記一対の2次インダクタは、前記マルチループ1次インダクタにより出力されるインダクタンス値を減少させる並列接続をなしている、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記一対の2次インダクタは、所定のインダクタンスおよび正の結合係数kを有する1個の2次インダクタと、所定のインダクタンスおよび負の結合係数−kを有する別の2次インダクタとを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記マルチループ1次インダクタは、対称形のマルチループ1次インダクタである、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記マルチループ1次インダクタは、2個の内側ループを有するシングルターンの8の字形インダクタであり、第1の内側ループは一方向への磁場を有し、第2の内側ループは反対方向への磁場を有する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
第1の可変コンデンサと、第1の可変集積インダクタとを含む第1の電圧制御発振器が組み込まれた受信経路と、
第2の可変コンデンサと、第2の可変集積インダクタとを含む第2の電圧制御発振器が組み込まれた送信経路とを含む、マルチバンド無線トランシーバであって、
前記第1の可変集積インダクタは、
第1のマルチループ1次インダクタと、
前記第1のマルチループ1次インダクタと電磁結合された第1の対の2次インダクタとを含み、前記第1の対の2次インダクタが互いに接続して閉回路を形成しており、その内部で前記第1の対の2次インダクタが、前記第1のマルチループ1次インダクタにより出力されるインダクタンス値を変化させるように直列接続と並列接続との間で切替え可能な可変トポロジとを有し、
前記第2の可変集積インダクタは、
第2のマルチループ1次インダクタと、
前記第2のマルチループ1次インダクタと電磁結合された第2の対の2次インダクタとを含み、前記第2の対の2次インダクタが互いに接続して閉回路を形成しており、その内部で前記第2の対の2次インダクタが、前記第2のマルチループ1次インダクタにより出力されるインダクタンス値を変化させるように直列接続と並列接続との間で切替え可能な可変トポロジとを有する、マルチバンド無線トランシーバ。
【請求項18】
前記第1の可変集積インダクタは、前記第2の可変集積インダクタへの電磁気的結合およびその逆も減少させる対称形のマルチループ・レイアウトを有する、請求項17に記載のマルチバンド無線トランシーバ。
【請求項19】
前記2次インダクタの対のうち一つが直列接続されている場合、対応するマルチループ1次インダクタにより出力されるインダクタンス値が変化しない、請求項17に記載のマルチバンド無線トランシーバ。
【請求項20】
前記2次インダクタの対のうち一つが並列接続されている場合、対応するマルチループ1次インダクタにより出力されるインダクタンス値が減少する、請求項17に記載のマルチバンド無線トランシーバ。
【請求項21】
第1の可変コンデンサと、第1の対称形の可変集積インダクタとを含む第1の電圧制御発振器が組み込まれた受信経路と、
第2の可変コンデンサと、第2の対称形の可変集積インダクタとを含む第2の電圧制御発振器が組み込まれた送信経路とを含む、無線通信装置であって、
前記第1の対称形の可変集積インダクタは、
第1のマルチループ1次インダクタと、
前記第1のマルチループ1次インダクタと電磁結合された第1の対の2次インダクタとを含み、前記第1の対の2次インダクタが互いに接続して閉回路を形成しており、その内部で前記第1の対の2次インダクタが、前記第1のマルチループ1次インダクタにより出力されるインダクタンス値を変化させるように直列接続と並列接続との間で切替え可能な可変トポロジとを有し、
前記第2の対称形の可変集積インダクタは、
第2のマルチループ1次インダクタと、
前記第2のマルチループ1次インダクタと電磁結合された第2の対の2次インダクタとを含み、前記第2の対の2次インダクタが互いに接続して閉回路を形成しており、その内部で前記第2の対の2次インダクタが、前記第2のマルチループ1次インダクタにより出力されるインダクタンス値を変化させるように直列接続と並列接続との間で切替え可能な可変トポロジとを有する、無線通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2009−506562(P2009−506562A)
【公表日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−528460(P2008−528460)
【出願日】平成18年8月18日(2006.8.18)
【国際出願番号】PCT/EP2006/065437
【国際公開番号】WO2007/025875
【国際公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(598036300)テレフオンアクチーボラゲット エル エム エリクソン(パブル) (2,266)
【Fターム(参考)】