説明

巻掛け伝動機構の油圧制御装置

【課題】可動シーブの油圧を封入するバルブが固着した場合に、チェックバルブの固着を解除する巻掛け伝動装置を提供すること。
【解決手段】可動シーブ1bを移動させる油圧サーボ機構12に供給された圧油を閉じ込めるチェックバルブ6が固着した場合に、従動プーリ2のベルト挟圧力を増大させて、従動プーリ2のベルト巻掛け半径を増大させることによって、駆動プーリ1のベルト巻掛け半径を小さくして駆動プーリ1のV字形状の溝幅が広げられるように構成されている。そのため、駆動プーリ1の油圧サーボ機構12から圧油を排出する圧力が生じ、固着したチェックバルブ6を押し返すことができる。また、このような場合に、従動プーリ2のベルト挟圧力を漸増させるので、チェックバルブ6の固着が解除された場合の変速ショックもしくはベルト3の耐久性の悪化を防止もしくは抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、巻掛け伝動機構に関し、特にベルトを挟み付けるように作用させる油圧を制御する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば車両においては、内燃機関などの駆動力源から車輪に至る動力伝達経路に、無段変速機が設けられている。このような車両の場合に、車速もしくは要求駆動力に応じて無段変速機の変速比を無段階に変速することによって、内燃機関の出力を最適化することができる。無段変速機としては、ベルト式無段変速機およびトロイダル式無段変速機が知られており、そのベルト式無段変速機の一例が下記の特許文献1に記載されている。特許文献1に記載されたベルト式無段変速機は、入力側プーリの油圧室を封止することにより、可動シーブの位置を固定するように構成されている。また特許文献2に記載された変速機の制御装置は、エンジンの始動時であって、クラッチペダルが踏み込まれた場合に、変速機のシフト制御をおこなう空気圧シリンダに高圧空気を流通させて電磁弁の固着を防止するように構成されている。
【0003】
【特許文献1】特開2006−300270号公報
【特許文献2】特開2001−289316号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された発明は、圧油を開閉弁によって封止するので、可動シーブの位置制御が容易になり、またオイルポンプの動力損失を低減できるとしている。しかしながら、油圧室への圧油の供給もしくは排出を制御する開閉弁が固着した場合、要求駆動量に応じて変速比を変化できないので、駆動力不足を生じたり、加速が鈍くなるなどの虞がある。
【0005】
特許文献2に記載された発明は、車両の始動時に空気圧シリンダに高圧空気を流通させて電磁弁の固着を防止するように構成されている。言い換えれば、特許文献2に記載された発明は、エンジンの始動時にのみ、電磁弁の動作不良を防止する制御がおこなわれるように構成されている。しかしながら、車両の走行中に弁体が固着することも考えられ、例えば走行中に弁体が固着した場合、要求駆動量に応じて変速比を変化できないので、駆動力不足を生じたり、加速が鈍くなるなどの虞がある。
【0006】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、開閉弁が固着した場合に、その固着状態を解除することのできる巻掛け伝動装置の油圧制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、圧油が供給されてベルトを巻き掛ける溝幅を変更する第1プーリと、油圧が供給されて前記ベルトを挟み付けることにより前記ベルトに張力を付与する第2プーリとを備え、前記第1プーリに圧油を閉じ込めることにより前記溝幅を一定に維持するように構成された巻掛け伝動機構の油圧制御装置において、前記第1プーリに対して前記圧油を供給・排出する給排油路と、前記第1プーリの圧油に対抗する閉弁力を受けて前記給排油路を閉じることにより前記第1プーリに前記圧油を閉じ込める閉止弁と、前記閉止弁が前記給排油路を閉じた状態に固着したことを検出する固着検出手段と、その固着検出手段によって前記閉止弁が前記給排油路を閉じた状態に固着したことが検出された場合に、前記ベルトの張力を増大させて前記第1プーリにおける油圧を昇圧する昇圧手段とを備えていることを特徴とするものである。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記昇圧手段によって前記第1プーリにおける油圧を昇圧する場合に、前記給排油路のうち前記閉止弁を挟んで前記第1プーリとは反対側の部分の油圧を低下させる降圧手段を更に備えていることを特徴とするものである。
【0009】
請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記昇圧手段による前記第1プーリにおける油圧の昇圧と前記閉弁力の増大とを、それぞれ所定時間ずつ交互におこなうように構成されていることを特徴とするものである。
【0010】
請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかの発明において、前記巻掛け伝動機構は、変速比が連続的に変化する無段変速機を含み、かつその無段変速機は内燃機関の出力側に連結されており、前記昇圧手段が前記第1プーリにおける油圧を昇圧する場合には、前記内燃機関の回転数を前記無段変速機によって制御する協調制御を禁止する禁止手段を更に備えていることを特徴とするものである。
【0011】
請求項5の発明は、請求項1ないし4のいずれかの発明において、前記昇圧手段によって前記第1プーリにおける油圧の昇圧をおこなっていることを告知する告知手段を更に備えていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、閉止弁が給排油路を閉じた状態に固着した場合に、その固着が固着検出手段によって検出されると、昇圧手段によって、ベルトの張力が増大させられて第1のプーリにおける油圧が昇圧されるので、昇圧された第1のプーリの油圧によって閉止弁を押し戻す力を得ることができる。その結果、閉止弁による給排油路の固着を解除することができる。
【0013】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明による効果と同様の効果に加えて、昇圧手段によって第1のプーリにおける油圧を昇圧する場合に、閉止弁を挟んで第1のプーリとは反対側の給排油路の油圧を降圧手段によって低下させるので、固着を助長する力を低下させることができる。その結果、閉止弁を閉じる方向の圧力と第1のプーリの油圧との差が大きくなり、閉止弁による給排油路の固着を解除し易くなる。
【0014】
請求項3の発明によれば、請求項2の発明による効果と同様の効果に加えて、第1のプーリにおける油圧の昇圧と閉弁方向に作用する油圧の増大とを所定時間ずつ交互におこなうように構成されているので、言い換えれば、第1のプーリにおける油圧を昇圧手段によって昇圧した場合に、降圧手段によって閉弁方向の圧力を低下させ、また、第1のプーリにおける油圧を昇圧手段によって昇圧しない場合に、降圧手段による閉弁方向の圧力の低下をさせないように構成されているので、閉止弁に油圧の振動を与えることができる。その結果、油圧の振動によって閉止弁による給排油路の固着を短時間で解除することができる。
【0015】
請求項4の発明によれば、請求項1ないし3のいずれかの発明による効果と同様の効果に加えて、巻掛け伝動機構は無段変速機を含み、かつその無段変速機は内燃機関の出力側に連結されており、昇圧手段によって第1のプーリにおける油圧を昇圧する場合には、内燃機関の回転数を無段変速機によって制御する協調制御が禁止手段によって禁止されるので、内燃機関の回転数は無段変速機によって制御されず、要求駆動力に応じて内燃機関の出力するトルクを増大させることができる。その結果、閉止弁による給排油路の固着に起因する駆動力の不足分を補うことができる。
【0016】
請求項5の発明によれば、請求項1ないし4のいずれかの発明による効果と同様の効果に加えて、昇圧手段による第1のプーリにおける油圧の昇圧をおこなっていることを告知する告知手段が備えられているので、その告知手段によって、運転者には閉止弁による給排油路の固着が解除処理中であることが告知される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
つぎに、この発明を図に示す具体例に基づいて説明する。まず、この発明で対象とする巻掛け伝動装置について説明すると、この発明は、車両用のベルト式無段変速機を対象とする油圧制御装置に適用することができる。そのベルト式無段変速機の一例を図4に模式的に示してある。ここに示す例は、駆動プーリ1と従動プーリ2とにベルト3を巻掛け、各プーリ1,2に対するベルト3の巻掛け半径(実効半径)を変化させることにより、変速比を連続的に変化させるように構成されたベルト式無段変速機である。その駆動プーリ1は、互いに対向する面をテーパ面とした固定シーブ1aとその固定シーブ1aに対して接近・離隔するように軸線方向に前後動する可動シーブ1bとを備え、それらのテーパ面によって、ベルト3を巻掛けるためのV字状の巻掛け溝が形成されている。また、可動シープ1bをその軸線方向に移動させるための油圧アクチュエータ1cが設けられている。この油圧アクチュエータ1cは、可動シーブ1bをピストンとした油圧シリンダタイプのものであり、圧油が供給されることにより可動シーブ1bが固定シーブ1a側に移動し、溝幅が狭くなるように、すなわちベルト3の巻掛け半径が増大するように構成されている。
【0018】
一方、従動プーリ2は、上記の駆動プーリ1と同様に、互いに対向する面をテーパ面とした固定シーブ2aとその固定シーブ2aに対して接近・離隔するように軸線方向に前後動する可動シーブ2bとを備え、それらのテーパ面によって、ベルト3を巻掛けるためのV字状の巻掛け溝が形成されている。また、可動シープ2bをその軸線方向に押圧するための油圧アクチュエータ2cが設けられている。この油圧アクチュエータ2cは、可動シーブ2bをピストンとした油圧シリンダタイプのものであり、油圧が供給されることにより可動シーブ2bが固定シーブ2a側に押されるように、すなわちベルト3を挟み付ける挟圧力が増大するように構成されている。
【0019】
そして、上記の駆動プーリ1はトルクコンバータや前後進切替機構などの伝動機構4を介して駆動力源5の出力側に連結されている。この駆動力源5は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関を主体とするものであって、アクセル操作などの出力操作に基づいて出力トルクが制御されるように構成されている。
【0020】
つぎに、変速比維持のための圧油を閉じ込む構成について説明すると、この発明における閉止弁は、ベルト式無段変速機の変速比を所定の変速比に維持するために圧油を閉じ込めるチェックバルブ6である。このチェックバルブ6による圧油を閉じ込むための構成の一例を図5に模式的に示してある。駆動プーリ1のベルト3の巻掛け半径(実効半径)を変化させる可動シーブ1bは、給排油路7から圧油が供給されることにより、固定シーブ1a側に移動する。この可動シーブ1bの移動を停止させて、変速比を一定に維持する場合に、チェックバルブ6は給排油路7の弁座7aに弁体6aを押しつけて圧油の閉じ込みをおこなうように構成されている。
【0021】
前述した変速比維持のための圧油を閉じ込む構成について、図6を参照しながら具体的に説明する。図6に、圧油を閉じ込むための構成の概略と油圧回路との一例を模式的に示してある。ケーシング8とエンドカバー9とによって構成される中空部にベルト式無段変速機が収納されている。ケーシング8の内部に収納された可動シーブ1bと一体回転可能に形成されたドラム10の内部にはピストン部11が納められている。このピストン部11は可動シーブ1bと一体に形成されている。また、ピストン部11は可動シーブ1bの背面側に配置されているドラム10の内周面に液密状態に収納されて、油圧アクチュエータ1cとしての油圧サーボ機構12が形成されている。さらに、このピストン部11は抜き孔13を介して給排油路7に連通するように構成されている。
【0022】
給排油路7にはチェックバルブ6が介在されている。チェックバルブ6はボールを弁体6aとし、この弁体6aをピストン14によって弁座7aに押しつけて圧油を閉じ込めるように構成されている。このピストン14は、プライマリシャフト15の内部に形成された中空部に液密状態に収納されている。また、ピストン14を挟んで弁体6aとは反対側にピストン14を押圧する圧油が供給される油圧室16が形成されている。この油圧室16に連通する給排孔17がエンドカバー9に形成されている。一方、油圧サーボ機構12に圧油を給排する給排油路7もエンドカバー9に形成され、油圧回路に連通されている。
【0023】
この油圧回路の構成を説明すると、まず、内燃機関の出力する駆動力によって駆動されるオイルポンプ18の出力油圧が、ライン圧PLとなるようにライン圧制御装置19によって調圧される。ここで、ライン圧制御装置はソレノイド弁(図示せず)を備えている。このソレノイド弁(図示せず)は、オイルポンプ18の出力油圧をアクセル開度などで表わされる駆動要求量に応じたライン圧PLとなるように調圧できるように構成されている。
【0024】
セカンダリ圧制御装置20は、油路R1内のライン圧PLを元圧として調圧されたベルト挟圧力を油路R2を経て従動プーリ2の油圧サーボ機構21へ供給するように構成されている。したがって、従動プーリ2のベルト挟圧力は、ライン圧PLを制御するためのソレノイド弁(図示せず)によって制御される。なお、ソレノイド弁は電流のオンとオフとを繰り返すデューティ制御により制御されるように構成されている。
【0025】
また、油路R1には、ライン圧PLが一定の油圧となるように調圧して出力するための一定圧制御装置22が設けられている。この一定圧制御装置22によって所定圧に調圧された油圧は、油路R3を通じて、増速用電磁弁23および減速用電磁弁24に供給される。
【0026】
一定圧制御装置22に接続された増速用電磁弁23は、電通されてオンの場合に、信号圧が増速用流量制御弁25のポート25aに供給されるように構成されている。また、信号圧が減速用流量制御弁26のポート26bに供給されるように構成されている。すなわち、ポート23aとポート23bとが連通され、ポート23aに供給されたライン圧PLが調圧され、信号圧として出力される。ポート23bから出力された信号圧は増速用流量制御弁25のポート25aに供給され、スプール25sがf1で示す方向に移動する。スプール25sの移動によって、ポート25cとポート25dとが連通され、ポート25cに供給されたライン圧PLがポート25dを経て油路R4を通じて、油圧サーボ機構12に供給される。
【0027】
また、これとは反対に、増速用電磁弁23がオンの場合に、減速用電磁弁24はオフとなるように構成されている。減速用電磁弁24がオフの場合に、ポート24cとポート24bとが連通され、減速用流量制御弁26のポート26hの圧油がポート24cからリザーバ27に排出される。なお、増速用電磁弁23は、電流のオンとオフとを繰り返すデューティ制御により制御されるように構成されている。
【0028】
同様に、一定圧制御装置22に接続された減速用電磁弁24は、電通されてオンの場合に、信号圧が減速用流量制御弁26のポート26aに供給されるように構成されている。また、信号圧が増速用流量制御弁25のポート25bに供給されるように構成されている。すなわち、ポート24aとポート24bとが連通され、ポート24aに供給されたライン圧PLが調圧され、信号圧として出力される。ポート24bから出力された信号圧は減速用流量制御弁26のポート26aに供給され、スプール26sがf3で示す方向に移動する。スプール26sの移動によって、ポート26dとポート26cとが連通され、油圧サーボ機構12の圧油がポート26dからリザーバ27に排出される。
【0029】
また、これとは反対に減速用電磁弁24がオンの場合に、増速用電磁弁23はオフとなるように構成されている。増速用電磁弁23がオフの場合に、ポート23cとポート23bとが連通され、増速用流量制御弁25のポート25hの圧油がポート23cからリザーバ27に排出される。なお、減速用電磁弁24は、電流のオンとオフとを繰り返すデューティ制御により制御されるように構成されている。
【0030】
さらにまた、一定圧制御装置22はチェックバルブ6の動作圧を制御する閉弁圧制御装置28に接続され、可動シーブ1bの圧油に対向する閉弁力を供給できるように構成されている。閉弁圧制御装置28は、チェックバルブ6の弁体6aを移動させるピストン14の油圧室16に給排する圧油を制御するように構成され、例えば油圧室16に圧油を供給した場合には、圧油によってピストンを移動させて、駆動プーリ1の圧油に対向して弁体6aを弁座7aに押圧するように構成されている。また、これとは反対に、圧油を排出する場合は、油圧室16から圧油を排出させて、駆動プーリ1の圧油によってピストン14が押し戻されるように構成されている。なお、閉弁圧制御装置28は、オンとオフとを繰り返すデューティ制御によりチェックバルブ6に対する圧油の給排が制御されるように構成されている。また、ここで、閉弁圧制御装置28がオフの場合に、チェックバルブ6もオフとなるように構成され、駆動プーリ1の圧油の封入が解除されるように構成されている。
【0031】
上記の構成を対象としたこの発明に係る制御装置による制御の一例を図1にフローチャートを用いて示してある。まず、圧油の封入制御が実行中であるかが判断される(ステップS1)。急加速時などの大きな変速比を必要とするなどのことによりステップS1で否定的に判断された場合には、このルーチンを一旦終了する。
【0032】
変速比が一定の定速走行をしていることにより、ステップS1で肯定的に判断された場合には、圧油の封入解除判断が成立しているか否かが判断される(ステップS2)。具体的には、変速比が一定の状態において、例えば坂路など、路面の傾斜が変化して車速が低下し、圧油の封入を解除し変速比を変更する判断が成立したか否かが判断される。なお、ステップS2の判断時においては、運転者の加減速要求などによる圧油の封入解除要求は除かれる。圧油の封入解除判断が成立していないことによりステップS2で否定的に判断された場合には、従前の制御を継続し、油圧の封入状態維持する。圧油の封入解除判断が成立していることによりステップS2で肯定的に判断された場合には、チェックバルブ6がオフにされる(ステップS3)。すなわち、弁体6aを押圧する圧油の供給を停止し、駆動プーリ1の圧油封入解除をおこなう。
【0033】
ついで、チェックバルブ6をオフにすることにより、弁体6aが弁座7aから離れ、閉じ込められた圧油が解放されて変速比が変化するか否かが判断される(ステップS4)。チェックバルブ6をオフにしても変速比が変化せずにステップS4で否定的に判断された場合には、すなわち、圧油が解放されず変速比が変化しない場合には、チェックバルブ6が給排油路7を閉じた状態に固着していると判断される。このステップS4が、この発明における固着検出手段に相当する。ここで、変速比が変化したか否かの判断は、回転数センサ29によって駆動プーリ1と従動プーリ2との回転数の差が検出されておこなわれる。
【0034】
ステップS4において、変速比が変化しないことにより否定的に判断されると、すなわちチェックバルブ6が給排油路7を閉じた状態に固着していると判断されると、従動プーリ2のベルト挟圧力を漸増させるとともに、チェックバルブ6を挟んで駆動プーリ1とは反対側の給排油路7の圧油をドレーンさせる(ステップS5)。このステップS5において、従動プーリ2のベルト挟圧力を漸増させる手段がこの発明における昇圧手段に相当し、チェックバルブ6を挟んで駆動プーリ1とは反対側の給排油路7の圧油をドレーンさせる手段がこの発明における降圧手段に相当する。
【0035】
昇圧手段によって従動プーリ2のベルト挟圧力を増加させることにより、従動プーリ2のV字形状の溝幅が狭められてベルト巻掛け半径が大きくなる。このような従動プーリ2のベルト巻掛け半径の増大に伴って、駆動プーリ1では、駆動プーリ1のベルト巻掛け半径が小さくなり、駆動プーリ1のV字形状の溝幅が広げられる。その結果、駆動プーリ1の油圧サーボ機構12から圧油を排出する圧力が生じ、固着したバルブを押し返すことができる。
【0036】
またチェックバルブ6を挟んで駆動プーリ1とは反対側の給排油路7の圧油をドレーンさせるので、圧油を閉じ込めるチェックバルブ6にかかる油圧の差を大きくできる。そのため、駆動プーリ1の圧油によって、チェックバルブ6の固着を解除しやすくなる。
【0037】
ついで、再び変速比が変化するか否かが判断される(ステップS6)。変速比が変化したか否かの判断は、回転数センサ29によって駆動プーリ1と従動プーリ2との回転数の差が検出されておこなわれる。変速比が変化しないことにより否定的に判断された場合には、チェックバルブ6の固着が解消されていないものとして、ステップS5に戻り、チェックバルブ6の固着解除処理を継続する。なお、ステップS4およびステップS6において、変速比が変化することにより肯定的に判断された場合には、すなわち圧油の封入が解除された場合には、チェックバルブ6の固着が解消されたものとして通常変速制御に移行(ステップS7)し、このルーチンを一旦終了する。
【0038】
したがって、この発明に係る巻掛け伝動機構の油圧制御装置によれば、駆動プーリ1のチェックバルブ6が固着した場合であっても、従動プーリ2のベルト挟圧力によってチェックバルブ6を押し戻せるように構成されているので、チェックバルブ6の固着を解除することができる。また、従動プーリ2のベルト挟圧力を漸増させるので、チェックバルブ6の固着が解除された場合に、変速ショックもしくはベルト3の耐久性の悪化を防止もしくは抑制することができる。
【0039】
ところで、前述した解除処理を所定時間以上実行し、チェックバルブ6の固着が解除されず、変速比が変化しない場合には、固着の状態が重度と判定される。図2に、固着の状態が重度と判定された場合におけるこの発明に係る制御装置の制御の他の制御例をフローチャートを用いて示してある。その制御例を説明すると、先ず、図1に示した制御が所定時間実行されたか否か、もしくは、運転者の加速要求時に変速比が変化しない、もしくは加速が鈍いなどからチェックバルブ6が固着している状態か否かが判断される(ステップS8)。前述した制御が所定時間実行されて変速比が変化し、もしくは運転者による加速要求がないことにより、否定的に判断された場合には、このルーチンを一旦終了する。これとは反対に、前述した制御が所定時間実行され、もしくは運転者の加速要求時に変速比が変化せず、肯定的に判断された場合には、チェックバルブ6の固着が重度と判定される。
【0040】
チェックバルブ6の固着が重度と判定されると、従動プーリ2の最大ベルト挟圧力と一定油圧制御装置によるチェックバルブ6の動作圧とを高周期で交互に出力し、また、運転者に対してチェックバルブ6の固着を解除する制御実行中であることを通知する(ステップS9)。このステップS9において、運転者に対してチェックバルブ6の固着を解除する制御実行中であること通知する手段がこの発明における告知手段に相当する。
【0041】
図3には、従動プーリ2の最大ベルト挟圧力と閉弁圧制御装置によるチェックバルブ6の動作圧との交互に出力する場合のタイムチャートを模式的に示してある。例えば、従動プーリ2がその最大ベルト挟圧力を生じている場合には、チェックバルブ6は圧油の閉じ込みが解放されるように制御される。これとは反対に、従動プーリ2がベルト挟圧力を生じていない場合には、チェックバルブ6は圧油の閉じ込みをおこなうように制御される。このような制御を高周期で繰り替えすことにより、チェックバルブ6に圧油の振動が生じ、チェックバルブ6の固着を解除しやすくなる。
【0042】
ついで、現状のチェックバルブ6の固着の解除処理が、運転者の加速要求に起因するものであるか否かが判断される(ステップS10)。現状のチェックバルブ6の解除処理が、図1に示した制御を所定時間以上実行した後の解除処理であることにより否定的に判断された場合には、ステップS12に進む。運転者の加速要求に起因するチェックバルブ6の解除処理であることにより肯定的に判断された場合には、エンジン5とベルト式無段変速機との協調制御を禁止する(ステップS11)。また同時に、微加速要求であっても変速比が大きくなるようにスロットル特性を制御する(ステップS11)。このステップS11において、エンジン5とベルト式無段変速機との協調制御を禁止する手段がこの発明における禁止手段に相当する。
【0043】
ここで、協調制御は車速と要求駆動力とから求められたエンジン5の出力を最適な燃費で得るようにエンジン回転数を無段変速機で制御し、かつ目標トルクを出力するようにスロットル開度や燃料噴射量を調節する制御であり、エンジン5の燃費の悪化を抑制する制御手段である。この協調制御が禁止されるので、例えば変速比がハイギア側に設定されている場合にチェックバルブ6が固着し、変速比が変化しないことによりエンジン回転数の低い状態が継続されて、駆動力不足が生じた場合に、例えば要求駆動力に応じてエンジン5の出力トルクを大きくし、駆動力不足を補うことができる。
【0044】
ついで変速比が変化するか否かが判断される(ステップS12)。変速比が変化したか否かの判断は、回転数センサ29によって駆動プーリ1と従動プーリ2との回転数の差が検出されておこなわれる。変速比が変化しないことにより否定的に判断された場合には、チェックバルブ6の固着が解消されていないものと判断されてステップS9に戻り、チェックバルブ6の固着解除処理が継続される。変速比が変化したと肯定的に判断された場合には、チェックバルブ6の固着が解消されたものとして通常変速制御に移行(ステップS13)し、このルーチンを一旦終了する。
【0045】
したがって上記の制御によれば、従動プーリ2の最大ベルト挟圧力と閉弁圧制御装置によるチェックバルブ6の動作圧とが交互に出力されるように構成されているので、駆動プーリ1のチェックバルブ6の固着が重度であっても、従動プーリ2のベルト挟圧力とチェックバルブ6の動作圧とによって、チェックバルブ6に振動を与えて固着を解除することができる。また、振動を与えることによって、固着の解除処理を速やかにおこなうことができるので、変速比が変化しないことに起因する燃費の悪化を防止もしくは抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】この発明に係る巻掛け伝動装置の油圧制御の一例を示すフローチャートである。
【図2】チェックバルブの固着が重度である場合に、この発明に係る巻掛け伝動装置の油圧制御の他の制御例を示すフローチャートである。
【図3】従動プーリの最大ベルト挟圧力とチェックバルブの動作圧とを交互に出力する場合のタイムチャートを示す図である。
【図4】この発明で対象とする巻掛け伝動装置を模式的に示す図である。
【図5】この発明におけるチェックバルブにより圧油を閉じ込むための構成の一例を模式的に示す図である。
【図6】この発明における巻掛け伝動装置の変速比を維持のための圧油を閉じ込む構成を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0047】
1…駆動プーリ、 2…従動プーリ、 3…ベルト、 6…チェックバルブ、6a…弁体、 7…給排油路、 7a…弁座、 14…ピストン、 16…油圧室。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧油が供給されてベルトを巻き掛ける溝幅を変更する第1プーリと、油圧が供給されて前記ベルトを挟み付けることにより前記ベルトに張力を付与する第2プーリとを備え、前記第1プーリに圧油を閉じ込めることにより前記溝幅を一定に維持するように構成された巻掛け伝動機構の油圧制御装置において、
前記第1プーリに対して前記圧油を供給・排出する給排油路と、
前記第1プーリの圧油に対抗する閉弁力を受けて前記給排油路を閉じることにより前記第1プーリに前記圧油を閉じ込める閉止弁と、
前記閉止弁が前記給排油路を閉じた状態に固着したことを検出する固着検出手段と、
その固着検出手段によって前記閉止弁が前記給排油路を閉じた状態に固着したことが検出された場合に、前記ベルトの張力を増大させて前記第1プーリにおける油圧を昇圧する昇圧手段と
を備えていることを特徴とする巻掛け伝動機構の油圧制御装置。
【請求項2】
前記昇圧手段によって前記第1プーリにおける油圧を昇圧する場合に、前記給排油路のうち前記閉止弁を挟んで前記第1プーリとは反対側の部分の油圧を低下させる降圧手段を更に備えていることを特徴とする請求項1に記載の巻掛け伝動機構の油圧制御装置。
【請求項3】
前記昇圧手段による前記第1プーリにおける油圧の昇圧と前記閉弁力の増大とを、それぞれ所定時間ずつ交互におこなうように構成されていることを特徴とする請求項2に記載の巻掛け伝動機構の油圧制御装置。
【請求項4】
前記巻掛け伝動機構は、変速比が連続的に変化する無段変速機を含み、かつその無段変速機は内燃機関の出力側に連結されており、
前記昇圧手段が前記第1プーリにおける油圧を昇圧する場合には、前記内燃機関の回転数を前記無段変速機によって制御する協調制御を禁止する禁止手段を更に備えていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の巻掛け伝動機構の油圧制御装置。
【請求項5】
前記昇圧手段によって前記第1プーリにおける油圧の昇圧をおこなっていることを告知する告知手段を更に備えていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の巻掛け伝動機構の油圧制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−65728(P2010−65728A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−230822(P2008−230822)
【出願日】平成20年9月9日(2008.9.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】