説明

成膜方法及び記憶媒体

【課題】プラズマCVD法を用いて、例えば太陽電池の発電層となるシリコン膜を成膜するにあたって、シリコン膜の結晶性を制御することができる成膜方法を提供すること。
【解決手段】水素ガスとモノシランガスとを予め混合し、この混合ガスをプラズマ化して、基板S上にシリコン膜F1を成膜する第1の工程(プリミックス)と、水素ガスとモノシランガスとを別々に供給してプラズマ化し、シリコン膜F2を成膜する第2の工程(ポストミックス)とを組み合わせる。組み合わせの例としては、基板S上にプリミックスによりシリコン膜F1を成膜しそのシリコン膜F1上にポストミックスによりシリコン膜F2を成膜する方法、基板S上にシリコン膜F1及びF2を交互に複数回成膜する方法などが挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シランガスをプラズマ化して、シリコン膜を成膜する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜シリコン太陽電池は、バルク型の結晶シリコン太陽電池と比較してシリコンの消費量が少なく、大面積化が比較的容易であり、また製造コストも低いため近年盛んに研究がなされている。例えばタンデム型の薄膜シリコン太陽電池(以下、単に太陽電池という)は、微結晶シリコン膜の上面にアモルファスシリコン膜を積層して、各層で異なる波長域の光を吸収することにより光エネルギーの変換効率を高めたものである。
【0003】
薄膜シリコン太陽電池における発電層となる微結晶シリコン膜の成膜方法としては、例えばモノシラン(SH)ガスと水素(H)ガスとを用いて基板上にシリコンを堆積させるプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法が採用されている。この場合SiHやH由来の多様な活性種が生成されるが、その中で微結晶シリコン膜を成長させる支配的な活性種はSiHである。SiH以外のSiやSiH、SiHといった活性種は、未結合手(ダングリングボンド)を持ったまま膜中に取り込まれて、微結晶シリコン膜の欠陥密度の増加を引き起こす。またこれらの活性種が重合してSi2n+2(n=2,3,4…)といった高次シランを生成し、これらが膜中へと取り込まれたり、またこの高次シランがさらに成長して微粒子化した状態で取り込まれたりした場合にも微結晶シリコン膜の欠陥密度の増加の要因となる。
【0004】
特許文献1には、高周波放電により水素ガスをプラズマ化すると共に、SiHガスをそのプラズマ生成空間よりも基板側に供給して、プラズマによるSiHの過度な分解を抑えながらHの活性種と反応させるという方法が記載されている。
【0005】
この方法によれば、活性種中のSiHの割合を高めることができシリコン膜中の欠陥密度を低下させることができるが、太陽電池の電気的特性を向上させるためには、低い欠陥密度を維持しつつシリコン膜の結晶性を高めることが必要であり、この点において更なる検討が要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−86912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような背景の下になされたものであり、その目的はプラズマCVD法を用いてシリコン膜を成膜するにあたって、シリコン膜の結晶性を制御することができる成膜方法及びこの方法を実施するプログラムを記憶した記憶媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の成膜方法は、
処理容器内に載置された基板に対してプラズマにより成膜を行う方法において、
予めシラン系のガス及び水素ガスを混合した混合ガスを前記処理容器内に供給してプラズマ化し、得られたプラズマにより前記基板上に第1のシリコン層を成膜する第1の工程と、
水素ガスを前記処理容器内に供給してプラズマ化すると共に水素ガスとは別個にシラン系のガスを前記処理容器内に供給して、プラズマ化された水素ガスにより前記シラン系のガスをラジカル化し、こうして生成されたラジカルにより前記基板上に第2のシリコン層を成膜する第2の工程と、を含むことを特徴とする。
【0009】
本発明の記憶媒体は、
処理容器内に載置された基板に対してプラズマにより成膜を行うための成膜装置に用いられるコンピュータプログラムを記憶した記憶媒体であって、
前記コンピュータプログラムは、上述の成膜方法を実行するようにステップ群が組まれていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、シラン系のガス及び水素ガスを用いてシリコン膜を成膜するにあたり、予めシラン系のガス及び水素ガスを混合してその混合ガスをプラズマ化して成膜する工程と、プラズマ化された水素ガスにシラン系のガスを混合して当該ガスをプラズマ化しこれにより成膜する工程と、を実施するようにしているため、シリコン膜の結晶性を制御することができる。このため要求される結晶性に応じたシリコン膜を製造することができ、シリコン膜が適用される製品の品質の向上に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る成膜装置の縦断側面図である。
【図2】前記成膜装置内に設けられたプラズマ生成空間及び排気空間の配置状態を示す模式図である。
【図3】前記成膜装置の内部構成を示す斜視図である。
【図4】前記内部構成のうち第1のガス流路を拡大した斜視図である。
【図5】前記実施形態に係わる作用を模式的に説明する縦断側面図である。
【図6】前記実施形態に係わる作用を模式的に説明する縦断側面図である。
【図7】前記実施形態に係わる成膜方法を説明するフロー図及びその方法により成膜した微細シリコン膜を模式的に示す側面図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係わる成膜方法を説明するフロー図及びその方法により成膜した微細シリコン膜を模式的に示す側面図である。
【図9】本発明の第3の実施形態に係わる成膜方法を説明するフロー図及びその方法により成膜した微細シリコン膜を模式的に示す側面図である。
【図10】前記実施形態の他の例に係わる成膜装置の縦断側面図である。
【図11】本発明の実施例に係わる分析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の成膜方法の第1の実施形態について説明する。先ず図1〜図4を参照しながら、本発明の成膜方法を実施する成膜装置の一例について説明する。
図1に示すように、成膜装置は真空容器である処理容器1を備え、処理容器1は、密閉可能で扁平な例えば金属製の容器として構成され、例えば1100mm×1400mmのガラス基板Sを格納可能なサイズに構成されている。
【0013】
図1中、11は処理容器1に設けられた基板Sの搬入出口、12は搬入出口11を開閉するためのシャッターである。また例えば処理容器1の側壁面には、処理容器1内を真空排気するための排気ポート13が設けられている。この排気ポート13には、排気管14を介して圧力調整部15及び真空ポンプ16が接続されており、処理容器1内の空間を例えば13.3Pa(0.1Torr)〜2.7kPa(20Torr)に調整することができる。以下、搬入出口11の設けられている方向を成膜装置の手前側として説明を行う。
【0014】
処理容器1内の底面には載置台2が配置されている。載置台2には、例えば図示しない昇降ピンが設けられており、本成膜装置の外部にある図示しない搬送アームと載置台2との間で基板Sを受け渡すことができる。
図1に示すように載置台2には、例えば抵抗発熱体からなる温調部21が埋設されており、載置台2の上面を介して基板Sを例えば200℃〜300℃の温度に調整することができる。温調部21は、基板Sを加熱するものに限られず、プロセス条件に応じて基板Sを冷却して所定の温度に調整する例えばペルチェ素子などや冷却媒体を通流させる冷却ラインなどを組み合わせてもよい。
【0015】
成膜装置は、図1及び図2に示すように、載置台2に載置された基板Sの上方の空間を例えば手前側から奥手側に向けて前後方向に分割するための例えば10枚の仕切り壁6を備えている。各仕切り壁6は例えば金属製の扁平な直線状の板材として構成され、例えばその幅方向(左右方向)の長さは基板Sの短辺よりも長尺に形成されている。各仕切り壁6は、前記幅方向の辺が載置台2上の基板Sの長辺と横方向に直交するように、例えば等間隔で配置されており、これにより互いに隣り合う2枚の仕切り壁6の間には、基板Sの長辺と直交する方向即ち左右方向に伸びる細長い空間(後述のプラズマ生成空間41、排気空間42に相当する)が形成されている。各仕切り壁6は絶縁部材31を介して処理容器1の天井部に固定されている。
【0016】
また仕切り壁6は、載置台2上の基板S表面と仕切り壁6の下端との間に例えば1cm〜5cm程度の隙間が形成されるように、前記天井部から下方側に伸びだしている。これにより、隣り合う2枚の仕切り壁6に囲まれる各空間41、42は、この隙間を介して互いに連通した状態となっている。またこの隙間は、基板Sの搬入出経路に対して仕切り壁6が干渉しない高さに調整されている。
【0017】
手前側から数えて2枚目と3枚目(以下、2-3枚目と記す)の仕切り壁6、4-5枚目、6-7枚目、8-9枚目の各仕切り壁6を支持する絶縁部材31には、これら隣り合う仕切り壁6の間に形成される空間41の伸びる方向に沿って(基板Sの長辺と直交する方向に向けて)溝38が形成されている。図3及び図4に示すようにこれらの溝38の開口面は、例えば絶縁部材からなり多数の吐出孔34を備えたシャワー板32により塞がれている。これらシャワー板32により塞がれた溝38の内部空間は、水素ガス及びモノシランガスが拡散するガス拡散室(バッファ空間)33を構成している。
【0018】
これらガス拡散室33には、図1に示すように、処理容器1の上面部に形成されたガス流路37を介して第1のガス供給管35が接続されている。第1のガス供給管35の基端側は、水素ガス供給源3に接続されると共に、途中で分岐してモノシランガス供給源4に接続されている。図1中36はバルブV1及び流量調整部M1を含む供給制御機器群、48はバルブV2及び流量調整部M2を含む供給制御機器群、V0はバルブである。従って、供給制御機器群36、48を制御することによって、水素ガス及びモノシランガスの一方あるいは両方のガスを第1のガス供給管35、ガス流路37、ガス拡散室33及びシャワー板32の吐出孔34を介して、2n枚目(nは自然数)仕切り壁6と(2n+1)枚目の仕切り壁6との間の空間に所望の流量で供給することができる。なお水素ガス供給源3から供給される水素ガスは、プラズマ高密度化用のアルゴン(Ar)ガスが例えば10%含まれている。
【0019】
また2枚目〜9枚目までの各仕切り壁6には、図1に示すように、複数のガス流路44が、仕切り壁6の下端面から仕切り壁6、絶縁部材31を介して天井部まで上方に貫通するように設けられており、その仕切り壁6の下端面側にある各ガス流路44の吐出孔43は、そこから基板Sにガスが満遍なく均一に吐出され供給されるように、当該仕切り壁6の長手方向(幅方向)に沿って適切な間隔で列設されている。
【0020】
各ガス流路44は、第2のガス供給管45と接続されており、この第2のガス供給管45は、流量調整部M3及びバルブV3を含む供給制御機器群46及び前記バルブV0を介してのもシラン源4に接続されている。これにより、モノシランガス供給源4から第2のガス供給管45及びガス流路44を介して、各仕切り壁6の下方側にモノシランガスを供給することができる。
【0021】
図1及び図3に示すように、載置台2上面の周縁部側の領域には、載置台2上の基板S及び仕切り壁6の周囲を取り囲むように外周壁22が設けられている。図3に示すように外周壁22は、例えば載置台2の上面から処理容器1の天井部へかけて上下方向に伸び出しており、手前側から見て前後両面及び左右両面の4つの面には真空排気を行うための排気口23が形成されている。
【0022】
このうち前後の外周壁22には、例えば仕切り壁6とほぼ同程度の幅を有する幅広の排気口23が各々1個ずつ切り欠かれている。一方、左右の外周壁22には、1-2枚目、3-4枚目、5-6枚目、7-8枚目、9-10枚目の仕切り壁6間に形成される空間42に対応する位置に、排気口23が切り欠かれている。前後左右の4つ外周壁22の排気口23は、いずれも載置台2の上面から1cm〜5cm程度高い位置、即ち仕切り壁6の下端よりも高い位置に形成されている。ここで搬入出口11に対向する前面の外周壁22は、回転軸24を軸として手前側へ向けて回転可能に構成されており、基板Sの搬入出時には手前側へ向けて回転させることにより基板Sの搬入出経路に対して外周壁22が干渉しないようになっている。
【0023】
図2に示すように、手前側から見て3枚目、4枚目、7枚目、8枚目の4枚の仕切り壁6には、高周波電源部5が接続されており、例えば3-4枚目、7-8枚目の仕切り壁6を2枚1組として、各組の仕切り壁6に対して例えば13.56MHz、5000Wの高周波電力を印加することができるようになっている。一方、手前側から見て1枚目、2枚目、5枚目、6枚目、9枚目、10枚目の6枚の仕切り壁6は接地されている。
【0024】
これにより、2-3枚目、4-5枚目、6-7枚目、8-9枚目の仕切り壁6間には、高周波電源部5に接続されている仕切り壁6を印加電極6aとし、接地されている仕切り壁6を接地電極6bとする平行電極が形成される。そして、ガス拡散室33から水素ガスを供給しながら、あるいは水素ガス及びモノシランガスの混合ガスを供給しながら高周波電源部5より高周波電力を印加すると、前記平行電極間に高周波電界が形成され、ガスをプラズマ化(活性化)することができる。従って、2-3枚目、4-5枚目、6-7枚目、8-9枚目の仕切り壁6間に形成される空間41は、プラズマ生成空間に相当する。
【0025】
一方で、3-4枚目、7-8枚目の仕切り壁6には各組毎に共通の高周波電源部5が接続されていて等電位となっておりこれらの仕切り壁6の間の空間42にガスを供給してもプラズマは形成されない。また1-2枚目、5-6枚目、9-10枚目の仕切り壁6は接地されており等電位なので、これらの仕切り壁6間の空間42にもプラズマは形成されない。そしてこれらの空間42の左右両側に配置された外周壁22には、既述の排気口23が設けられているので、当該空間42内に流入したガスは排気口23を介して外周壁22の外側へと排気されることとなる。従って、1-2枚目、3-4枚目、5-6枚目、7-8枚目、9-10枚目の間に形成される空間42は、排気空間に相当する。ここで各接地電極6b、印加電極6aを成す仕切り壁6は絶縁部材31を介して処理容器1の天井部に固定されているので、接地電極6bと印加電極6aとは、容量結合が形成される領域を除き電気的に絶縁されている。
【0026】
上述した本実施形態の構成をまとめると、図2に示すように本実施形態に係る成膜装置の内部には、互いに平行に設けられた仕切り壁6により、プラズマ生成空間41と排気空間42とが交互に配置されていることになる。そして、既述のように各プラズマ生成空間41、排気空間42は、仕切り壁6の下端と載置台2上の基板Sとの間に形成された隙間を介して連通しており、当該隙間を介してプラズマ生成空間41からは排気空間42へ向けてガスを流すことができるようになっている。
【0027】
本成膜装置は、図1に示すように制御部7が接続されている。制御部7は例えば図示しないCPUと記憶部とを備えたコンピュータからなり、記憶部には当該成膜装置の作用、つまり処理容器1内に基板Sを搬入し、載置台2上に載置された基板Sに所定の膜厚の微結晶シリコン膜を成膜してから搬出するまでの動作に係わる制御等についてのステップ(命令)群が組まれたプログラムが記録されている。このプログラムは、例えばハードディスク、コンパクトディスク、マグネットオプティカルディスク、メモリーカード等の記憶媒体に格納され、そこからコンピュータにインストールされる。
【0028】
次に上述の実施形態の作用について説明する。外部に備えられた図示しない搬送アーム上に保持された状態にて基板Sが搬送されてくると、成膜装置は搬入出口11のシャッター12を開き、また前面の外周壁22を回転させて基板Sの搬入経路を確保する。そして仕切り壁6の下端と載置台2の上面との間の隙間にこの搬送アームが進入し、図示しない昇降ピンを介して基板Sが載置台2に受け渡される。
【0029】
基板Sの受け渡しが終わると、搬送アームが処理容器1の外に退出してシャッター12を閉じ、外周壁22を回転させて基板Sの周囲を外周壁22で囲む。その後、温調部21により基板Sが例えば250℃に温調された後、プロセスガスを処理容器1内に供給しながら処理雰囲気を例えば500Paの真空雰囲気に維持し、シリコン膜の成膜を行う。
【0030】
ここで本実施形態では、一連の成膜を2つの工程(成膜方式)を組み合わせて実施するようにしており、先ず2つの工程について説明しておく。第1の工程では、図5に示すように、水素ガス及びモノシランガスの混合ガスを、第1のガス供給管35からガス拡散室33及びシャワー板32を介してプラズマ生成空間41に供給する。このとき第1の工程ではバルブV3が閉じられ、このため仕切り壁6のガス流路44からはモノシランガスは供給されない。プラズマ生成空間41では、記述の平行平板による高周波電界により水素ガス及びモノシランガスがプラズマ化(活性化)され、水素ラジカル、水素イオン、SiHx(x=0、1、2、3)、モノシランのプラズマ化に基づく水素ラジカルや水素イオンなどの活性種が生じる。またモノシラン及びそのプラズマ化による生成物と上述の水素ラジカルとのラジカル反応によってもSiHx(x=0、1、2、3)が生じているものと推測される。これらプラズマガスは、プラズマ生成空間41内を降下して基板S上に供給され、CVD(Chemical Vapor Deposition)反応により基板S上にシリコン膜が退席して成膜が行われる。そしてこのプラズマガスは、仕切り壁6と基板Sとの隙間を介して、排気空間42に流れていき、排気口23及び排気ポート13等を介して成膜処理装置の外に排気される。以下、この第1の工程をプリミックスと略称する。
【0031】
次に第2の工程では、分岐路のバルブV2を閉じ、第2のガス供給管45のバルブV3を開き、図6に示すように、水素ガスがガス流路33を介してプラズマ生成空間41に供給され、モノシランガスがガス流路44を介して仕切り壁6の下端部より基板S上に供給される。このときプラズマ生成空間41では、ガスが記述のように平行平板による高周波電界によるプラズマ化され、水素ラジカルなどの活性種を含むプラズマガスが基板S上に供給される。そして基板S上において、この水素ラジカルとガス流路44を介して供給されたモノシランとが反応を起こし、モノシランがラジカル化されて、SiHx(x=0、1、2、3)が生成される。このSiHx(x=0、1、2、3)により、第1の工程で成膜された基板S上のシリコン膜の上に、更にシリコン膜が成膜される。基板S上のプラズマガスは、仕切り壁6と基板Sとの隙間を介して、排気空間42に流れていき、排気口23及び排気ポート13等を介して成膜処理装置の外に排気される。以下、この第2の工程をポストミックスと呼ぶ。このポストミックスでは、プリミックスに比べて、モノシランのプラズマによる直接解離が抑制され、水素ラジカルとの反応による解離が主となっているものと考えられる。
【0032】
本発明は、以上のように第1の工程と第2の工程とを組み合わせて成膜を行うものであり、その組み合わせの一例を、第1の実施形態の作用として図7を用いて説明を続ける。処理容器1内に搬入された基板Sの温度調整を終えたら、先ず第1のシリコン層F1を上述のプリミックスにより基板S上に形成する(図7中ステップS1)。図5に示すように、シャワー板32から各プラズマ生成空間41に、総量で例えば2000sccmの水素ガス及び総量で例えば20sccmのモノシランガスを供給すると共に、高周波電源部5から各印加電極6aに例えば13.56MHz、900Wの高周波電力を印加して水素及びモノシランをプラズマ化する。このプラズマ化された混合ガスは、プラズマ生成空間41内に形成された下降流により基板S上まで運ばれ、基板S上に第1のシリコン層F1が成膜される。この第1のシリコン層F1は、実施例において後述するように、ポストミックスによるシリコン膜に比べて、結晶粒の大きさは大きいが微結晶シリコンの含有率については低いと推測される。またモノシランの直接解離に伴いシリコン膜中への欠陥密度混入が増加していると推測される。
【0033】
こうして予め設定した時間だけ基板S表面への成膜を実行し、所望の膜厚の第1のシリコン層F1が得られた後、水素ガス及びモノシランガスの供給、高周波電力の印加を停止する。
【0034】
続いて第2のシリコン層F2をポストミックスにより第1のシリコン層F1の上に形成する(図7中ステップS2)。図6に示すように、シャワー板32から各プラズマ生成空間41に、総量で例えば2000sccmの水素ガスを供給すると共に、高周波電源部5から各印加電極6aに例えば13.56MHz、900Wの高周波電力を印加して水素をプラズマ化する。これと同時に総量で例えば20sccmのモノシランガスを、仕切り壁6内のガス流路44を介して、基板S上に供給する。プラズマ化された水素ガスは、プラズマ生成空間41内に形成された下降流により第1のシリコン層F1上まで運ばれ、モノシランガスと混合され、モノシランが水素ラジカルによりラジカル化される。このラジカル化されたモノシランにより第1のシリコン層F1上に第2のシリコン層F2が成膜される。
【0035】
ポストミックスにより成膜されたシリコン膜は、実施例において後述するように、プリミックスによるシリコン膜に比べて、微結晶シリコン含有率は高いが結晶粒の大きさは小さいと推測される。またモノシランのプラズマによる直接解離を防ぐことによりシリコン膜中の欠陥密度は低下していると推測される。しかし本実施形態のように、結晶粒の大きさの大きい第1のシリコン層F1上に、ポストミックスにより第2のシリコン層F2を成膜することにより、その第2のシリコン層F2ではエピタキシャル成長の影響を受け、ポストミックス単独によるシリコン膜よりも結晶粒が大きく成長することが期待できる。このため第1のシリコン層F1上には、微結晶シリコン含有率が高くかつ結晶粒の大きさが大きく、また低欠陥密度である第2のシリコン層F2が形成されると考えられる。
【0036】
こうして予め設定した時間だけ第1のシリコン層F1表面への成膜を実行し、所望の膜厚の第2のシリコン層F2が得られた後、高周波電力の印加を停止し、更に水素ガス及びモノシランガスの供給を停止して、不図示の本装置外にある搬送アームにより搬入時とは逆の動作で基板Sを処理容器1から搬出して一連の動作を終える。
【0037】
上述の第1の実施形態によれば、まず水素ガスとモノシランガスとの混合ガスをプラズマ化するプリミックス(第1の工程)により、基板S上に結晶粒の大きさが大きい第1のシリコン層F1を形成し、続いて水素ガスとモノシランガスとを別々に供給するポストミックスにより、第1のシリコン層F1上に微結晶シリコン含有率が高くシリコン膜中の欠陥密度が低い第2のシリコン層F2を成膜している。これにより、微結晶シリコン含有率やシリコン膜中の欠陥密度だけでなく、結晶粒の大きさについても制御できるため、太陽電池の発電層の電気的特性をより適切に制御することができる。
【0038】
次に本発明の第2の実施形態について図8を用いて説明する。なお装置構成については、上述の第1の実施形態と同様であるため省略する。本実施形態は、図8に示すように、第1の実施形態において形成した第1のシリコン層F1と第2のシリコン層F2とよりなる積層膜Lを複数例えばn枚重ねて微結晶シリコン膜を形成するものである。第1の実施形態で述べたステップS1及びステップS2をn回繰り返すことで(図8中ステップS3)、積層膜Lがn層積み重なった微結晶シリコン膜を成膜する。なお図8では、1番目に成膜した積層膜をL1、n番目に成膜した積層膜をLnとしている。これにより、第1の実施形態よりもきめ細かく発電層の電気的特性を制御することができると考えられる。
【0039】
更に第3の実施形態について図9を用いて説明する。なお装置構成については、上述の第1の実施形態と同様であるため省略する。本実施形態は、図9に示すように、まずプリミックスにより基板S表面への成膜を開始する(図9中ステップS1)。その後流量調整部M2、M3を調整し、プリミックスにおいて利用するシャワー板32からのモノシランガスの供給量を減らすと共に、ポストミックスにおいて利用するガス流路44からのモノシランガスの供給量を増やすことにより、モノシランガスの各供給量の比(流量比)を徐々に連続的に変化させてポストミックスへと移行する(図9中ステップS4)。最終的には完全にポストミックスへと移行させて、所望の特性及び膜厚を得た時点で成膜処理を終了する(図9中ステップS2)。図9中ステップS4におけるモノシランガスの流量比は、段階的に変化させてもよい。
【0040】
本発明は、プラズマCVDによるシリコン膜の成膜処理対象となる基板上に第1のシリコン層F1を先に成膜することに限られるものではなく、第2のシリコン層F2を先に成膜してもよい。この場合においても、結晶粒の大きさと微結晶シリコン含有率とを制御することができ、結果として発電層の電気的特性を制御することができる。
【0041】
上述の実施形態では、ポストミックスによる成膜処理において、仕切り壁6の下端面からモノシランガスを供給しているが、プラズマ生成空間41の半分より下方側の高さ位置、より好ましくは仕切り壁6の下端側から仕切り壁6の4分の1程度までの高さ位置であれば、SiHのプラズマ化による不要な活性種の発生を抑えるというポストミックスによる成膜処理の効果を十分に得ることができる。
【0042】
上述の実施形態では、両端の電極(1枚目及び10枚目の仕切り壁)6及び電極6b(2、5、6、9枚目の仕切り壁6)を接地しているが、電極6bには高周波電源を接続し、対向するように設けられた電極6aに接続されている高周波電源部5と異なる位相、例えば逆位相の高周波電力を電極6bに印加してもよい。この場合、この位相のずれ量は例えば高周波電源と電極6bとを接続するケーブルの長さで調整する。
【0043】
また上述の実施形態では容量結合プラズマ(CCP)を生成していたが、本発明は誘導結合プラズマ(ICP)を用いてもよい。本発明におけるICP−CVD法による実施の形態について、図10を参照しながら説明する。図10において、上述の第1の実施形態の成膜装置と同様の構造あるいは機能を持つ部材については、第1の実施形態と同一の符号を付しその説明を省略する。
【0044】
この成膜装置には、処理容器1の天井部にプラズマ生成機構50Aが設けられている。プラズマ生成機構50Aは、図10に示すように、載置台2に対向するように設けられた誘電体からなるカバープレート51Aと、カバープレート51Aの上方(処理容器1の外側)に設けられた導電体例えば渦巻き状のコイルであるアンテナ52A、そのアンテナ52Aの両端間に接続されており、例えば13.56Hzの高周波を発生させる高周波電源部5Aなどからなる。このプラズマ発生機構50Aは、高周波電源部5Aによりアンテナ52Aに高周波電流を流すことで高周波磁界を発生させ、その高周波磁界による電磁誘導で発生する誘導電界により、処理容器1の上方空間において高周波放電を起こしてプラズマを生成させる。この処理容器1の上方空間が、第1の実施形態におけるプラズマ生成空間41に相当する。
【0045】
その他に図10における33Aは、第1の実施形態におけるガス拡散室33に相当しその機能は同じであるが、本実施例の成膜装置では処理容器1の上部の側壁内に全周に亘って設けられている。このガス拡散室33Aは、水素ガス供給管35及び吐出孔34に接続されており、処理容器1内の上部に形成されるプラズマ生成空間41に水素ガス及びモノシランガスを供給できるようになっている。また図10中8Aは第2のモノシランガス供給部であり、ここから前記プラズマ生成空間41の下方にモノシランガスを供給することができる。
この装置構成においても、第1の実施形態と同様の作用により同様の効果を得ることができる。
【0046】
以上において、プリミックス及びポストミックスを実施するためのガスの切り替え等のガス供給制御は、制御部7に記憶されたプログラムに基づいて生成される制御信号により実行される。
【0047】
また図10におけるアンテナ52Aに代えて例えば円形状の導体板に十字型のスリット開口を渦巻き状に形成したアンテナを用い、このアンテナの中心部に導波管を接合してこの導波管から前記アンテナを介してマイクロ波を放射し、このマイクロ波によりガスをプラズマ化して用いてもよい。
【0048】
上述の実施形態では、モノシランガスを用いているが、例えばジシラン(Si)ガスやトリクロロシラン(SiHCl)ガスなどの他のシラン系のガスでもよい。ここで言うシラン系のガスとは、SiHガス、ポリシラン(Si2n+2(n=2,3,4…))のガス、シラン化合物のガスなどのことを言う。
【実施例】
【0049】
本発明における実施例について説明する。
プリミックス、ポストミックス及び誘導結合プラズマ(ICP)CVD法により微結晶シリコン薄膜を膜厚350nmとなるように成膜し、その結晶性についてラマン分光法及びX線回折により分析した。プリミックス及びポストミックスによる成膜については図1に示す上述の第1の実施形態の成膜装置を用い、ICP−CVD法による成膜については図10に示す上述の成膜装置を用いた。
各成膜条件は、以下の通りである。
[プリミックス]
プラズマ源: 容量結合プラズマ(CCP)、高周波電源900W
使用ガス: 水素ガス2000sccm、モノシランガス20sccm
プロセス圧力: 500Pa
ガス供給方式: プリミックス
[ポストミックス]
プラズマ源: CCP、高周波電源900W
使用ガス: 水素ガス2000sccm、モノシランガス20sccm
プロセス圧力: 500Pa
ガス供給方式: ポストミックス
[ICP−CVD]
プラズマ源: ICP、高周波電源900W
使用ガス: ヘリウムガス2000sccm、モノシランガス20sccm
プロセス圧力: 500Pa
ガス供給方式: プリミックス
分析結果を図11及び表1に示す。なお表1におけるピーク波数位置とは、ラマン分光分析結果におけるパターンのピークの波数位置のことである。また表1におけるラマン結晶性Xcとは、ラマン分光分析結果における、微結晶シリコンに相当する波数520cm−1のラマン強度Icと、アモルファスシリコンに相当する波数480cm−1のラマン強度Iaとのラマン強度比[Ic/(Ic+Ia)]のことであり、シリコン膜の結晶性の指標として用いている。このラマン結晶性Xcが高いほど、微結晶シリコンの含有率が高いシリコン膜であると推測される。またX線回折については、検出ピークにおける2θ及びピーク強度(ピーク形状の尖り具合)から夫々結晶の面方位及び結晶粒の大きさの情報が得られる。
【0050】
【表1】

【0051】
図11(a)は、ラマン分光法による分析結果である。まず各成膜条件におけるピーク波数位置を比較すると、ポストミックスは微結晶シリコン(c−Si)の波数に相当する520cm−1に位置している。一方プリミックス及びICP−CVDにおいては夫々、515.7cm−1及び517.2cm−1となり、アモルファスシリコン(a−Si)に相当する波数480cm−1や結晶粒界起因(GB)の波数と言われている510cm−1に近づいている。またラマン結晶性Xcについてもピーク波数位置の結果と同様にポストミックス、ICP−CVD、プリミックスの順に微結晶シリコン含有率が高く結晶性が良好な結果であった。
【0052】
続いて図11(b)に示すX線回折分析結果について考察する。まず各成膜条件について、X線回折分析結果におけるピーク強度を比較する。ここでは各成膜条件においてピーク強度の差がよく現れているSi(111)に相当するピークの強度I(111)を比較する。ピーク強度I(111)が大きいほどシリコン膜の結晶粒の大きさが大きいと考えられる。ピーク強度I(111)は、大きい順にICP−CVD、プリミックス、ポストミックスという結果であった。このことから、プリミックスによるシリコン膜の方がポストミックスのものよりも結晶粒が大きいと推測される。
【0053】
次に各成膜条件について、図11(b)に示すSi(220)に相当するピークの強度I(220)及びSi(111)に相当するピークの強度I(111)の比であるI(220)/I(111)について比較する。このピーク強度比I(220)/I(111)は、シリコン膜の結晶配向性の指標であり、このピーク強度比I(220)/I(111)が大きいほど結晶配向性が良好と言える。ピーク強度比I(220)/I(111)は、上述のラマン分光分析結果と同様、ポストミックス、ICP−CVD、プリミックスの順に結晶配向性が良好な結果となった。
【0054】
以上の結果をまとめると、ラマン分光法分析におけるピーク波数位置及びラマン結晶性Xc、X線回折分析におけるピーク強度比I(220)/I(111)の比較により、シリコン膜における微結晶シリコンの含有率及び結晶配向性についてはポストミックスによるシリコン膜の方が高いと推測される。一方で、X線回折分析におけるピーク強度I(111)の比較からは、プリミックスの方が結晶粒の大きさが大きいシリコン膜が得られることが推測される。このため本発明によれば、シリコン膜の結晶性に係わる微結晶シリコン含有率及び結晶粒の大きさを適切に制御することで、シリコン膜の電気的特性を制御でき、適切なシリコン膜の製造に寄与することができると期待できる。
【符号の説明】
【0055】
S ガラス基板
1 処理容器
15 圧力調整部
16 真空ポンプ
2 載置台
3 水素ガス供給源
32 シャワー板
33 ガス拡散室
35 第1のガス供給管
36、46、48
供給制御機器群
37、44
ガス流路
4 モノシランガス供給源
41 プラズマ生成空間
42 排気空間
45 第2のガス供給管
5 高周波電源部
6 仕切り壁(電極)
7 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理容器内に載置された基板に対してプラズマにより成膜を行う方法において、
予めシラン系のガス及び水素ガスを混合した混合ガスを前記処理容器内に供給してプラズマ化し、得られたプラズマにより前記基板上に第1のシリコン層を成膜する第1の工程と、
水素ガスを前記処理容器内に供給してプラズマ化すると共に水素ガスとは別個にシラン系のガスを前記処理容器内に供給して、プラズマ化された水素ガスにより前記シラン系のガスをラジカル化し、こうして生成されたラジカルにより前記基板上に第2のシリコン層を成膜する第2の工程と、を含むことを特徴とする成膜方法。
【請求項2】
前記処理容器内に搬入された基板の表面に、先ず第1のシリコン層を成膜し、この第1のシリコン層の上に第2のシリコン層を成膜することを特徴とする請求項1記載の成膜方法。
【請求項3】
基板、シラン系のガスの供給口及び水素ガスの供給口が下からこの順に配置されていることを特徴とする請求項1または2記載の成膜方法。
【請求項4】
基板の上方空間をプラズマ生成空間と排気空間とに横方向に分割するために設けられ、前記処理容器の天井部から下方に伸びると共にその下端と基板との間に、前記プラズマ生成空間から排気空間にガスが流れるための隙間が形成された仕切り壁と、プラズマ生成空間に水素ガスを供給するための供給口と、前記プラズマ生成空間に供給された水素ガスをプラズマ化するための活性化手段と、前記プラズマ生成空間内の下部側または当該プラズマ生成空間よりも下方側にシラン系のガスを供給するための供給口と、前記排気空間を真空排気するための真空排気口と、を備えた成膜装置を用いて前記第1の工程と第2の工程とを行うことを特徴とする請求項3記載の成膜方法。
【請求項5】
前記第1の工程と第2の工程を交互に複数回行うことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の成膜方法。
【請求項6】
前記第1の工程及び第2の工程を同時に行い、同時に行われている間に、第1の工程で供給されるシラン系のガスと第2の工程で供給されるシラン系のガスとの比率を時間と共に変化させることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載の成膜方法。
【請求項7】
処理容器内に載置された基板に対してプラズマにより成膜を行うための成膜装置に用いられるコンピュータプログラムを記憶した記憶媒体であって、
前記コンピュータプログラムは、請求項1ないし6のいずれか一つに記載された成膜方法を実行するようにステップ群が組まれていることを特徴とする記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−51370(P2013−51370A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189617(P2011−189617)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】