説明

成膜装置および成膜方法

【課題】チャンバ内壁を保護するライナ上にシリコン結晶が形成されるのを抑制する。
【解決手段】チャンバ1の頂部にプロセスガスの供給部4、内部に半導体基板6を載置する回転可能なサセプタ7、内部の供給部4とサセプタ7との間にガス整流板20、およびチャンバ内壁を被覆する筒状のライナ2とを備え、プロセスガスを供給部4からガス整流板20を介してチャンバ1内を流下させ、下方のサセプタ7上の半導体基板6表面に結晶膜を形成する成膜装置50において、ライナ2は、ガス整流板20側の頭部31と胴部32との間に頭部31および胴部32より内径の小さい括れ部分33を有し、さらに、ライナ2の括れ部分34には、括れ部分34の周囲を囲むように伝熱リング40を配置して、伝熱リング40を介してライナ2の熱をチャンバ1に伝えるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置および成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)等のパワーデバイスのように、比較的膜厚の大きい結晶膜を必要とする半導体素子の製造には、エピタキシャル成長技術が活用されている。
【0003】
エピタキシャル成長技術に使用される気相成長方法は、シリコンウェハ等の半導体基板が配置された気相成長反応炉内を、常圧(0.1MPa(760Torr))、或いは減圧に保持する。そして、半導体基板を加熱しながら、シリコン源となる原料ガスに、ボロン系のジボラン(B)、リン系のホスフィン(PH)、砒素系のアルシン(AsH)等のドーパントガスを混合したプロセスガスを気相成長反応炉内に供給する。そして、所定の温度以上に加熱された半導体基板の表面で、原料ガスの熱分解反応或いは水素還元反応が行なわれ、ボロン(B)、リン(P)、或いは砒素(As)がドープされた気相成長膜が成膜されることにより行なわれる。
【0004】
膜厚の大きなエピタキシャルウェハを高い歩留まりで製造するには、均一に加熱されたウェハ等半導体基板の表面に新たなプロセスガスを次々に接触させて成膜速度を向上させる必要がある。そこで、従来の成膜装置においては、例えば、ウェハを高速で回転させながらエピタキシャル成長させることが行われている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
図4は、エピタキシャル成長技術を用いる従来の成膜装置の構成を説明する模式的な断面図である。
【0006】
図4に示す従来の成膜装置100において、101はチャンバ、102はチャンバ内壁を被覆して保護する中空筒状のライナ、103a、103bはチャンバを冷却する冷却水の流路、104はプロセスガス125を導入する供給部、105は反応後のプロセスガスの排気部、106は気相成長を行うウェハ等の半導体基板、107は半導体基板106を支持するサセプタ、108は図示しない支持部に支持されて半導体基板106を加熱するヒータ、109はチャンバ101の上下部を連結するフランジ部、110はフランジ部109をシールするパッキン、111は排気部105と配管を連結するフランジ部、112はフランジ部111をシールするパッキンである。
【0007】
そして、ライナ102は通常、石英製であり、透明性を備える。そして、その開口する頭部には、半導体基板106の表面に対してプロセスガス125を均一に供給するためのガス整流板であるシャワープレート120が取り付けられている。
【0008】
上述の従来の成膜装置では、チャンバ101内で半導体基板106を支持し、回転機構(図示せず)を設けたサセプタ107により回転させながら、ヒータ108により1000℃以上に加熱する。この状態でチャンバ101内に反応性ガスを含むプロセスガス125を、供給部104からシャワープレート120の貫通孔121を介して供給する。そして、半導体基板106表面で熱分解反応或いは水素還元反応が行われ、半導体基板106表面に結晶膜を形成する。その際、気相成長反応に使用されたもの以外のプロセスガスは、変性された生成ガスとなり、プロセスガス125とともにチャンバ101下部に設けられた排気部105から逐次排気される。
【0009】
また、チャンバ101のフランジ部109と、排気部105のフランジ部111にはシールのためにパッキン110、112を用いている。パッキン110、112はフッ素ゴム製で、耐熱温度は約300℃である。そのため、チャンバ101外周にはパッキン110、112を熱で劣化させないための冷却水を循環させる流路103a、103bを設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−108983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このとき、気相成長法を用いた成膜装置において、膜厚の大きなエピタキシャルウェハを高い歩留まりかつ高いスループットで製造するには、上述のように、均一に加熱されたウェハ等半導体基板の表面に新たなプロセスガスを次々に高効率で接触させて成膜速度を向上させる必要がある。そこで、従来の成膜装置においては、例えば、ウェハを高速で回転させながらエピタキシャル成長させることが行われているが、別の方法として、プロセスガスの供給において装置の改善が必要とされている。
【0012】
すなわち、図4に示す従来の成膜装置100においては、具備するライナ102が、シャワープレート120を支持する頭部開口部から、半導体基板106を支持するサセプタ107の設けられた胴部にかけて、同じ内径の中空筒状の構造を有している。このとき、供給部104から供給されるプロセスガス125をサセプタ107上の半導体基板106上に、均一に供給できるよう、シャワープレート120の貫通孔121の配置は、シャワープレート120の、支持するライナ102頭部の開口部より狭い領域、すなわち、半導体基板106に対応する領域内にあるように選択されている。
【0013】
従って、プロセスガス125をシャワープレート120の貫通孔121を介して半導体基板106表面に供給しようとする場合、プロセスガス125の一部は、貫通孔121を出た後、ライナ102内で周囲の空間に拡散してしまい、そのまま、半導体基板106表面に到達することなく、その周囲をすり抜け、反応に関与することなくチャンバ101外に排出されてしまうことになる。従って、プロセスガス125の一部は無駄となり、高効率で高速の気相成長反応は実現できないこととなる。
【0014】
図5は、エピタキシャル成長技術を用いる別の成膜装置の要部構成を模式的に説明する断面図である。
【0015】
図5に示す成膜装置200においては、チャンバ201内壁を被覆して保護する中空筒状のライナ202の形状が成膜装置100のものと比べ改善されている。すなわち、ライナ202では、シャワープレート220を支持する頭部231と、内部に半導体基板206が支持されるサセプタ207が設けられた胴部232との間に、頭部231および胴部232より内径の小さい部分、すなわち括れ部分233が形成されている。
【0016】
この括れ部分233の内径は、シャワープレート220の貫通孔221の配置と半導体基板206の大きさに対応するように決められている。よって、シャワープレート220の貫通孔221を出た後、プロセスガス225が拡散する無駄な空間が無くなっており、シャワープレート220から供給されるプロセスガスが無駄なく、効率良く半導体基板206表面に集められるように構成されている。このようにライナ202形状を改善することにより、半導体基板206表面での高効率で高速の気相成長反応が実現できることとなる。
【0017】
しかしながら、ここで一つの問題が発生することがわかっている。すなわち、ヒータ208からの輻射熱は、半導体基板206だけでなく、気相成長装置200を構成する部材全てに伝わり、昇温させる。特に、半導体基板206やヒータ208のような高温部分の近傍において顕著である。
このため、半導体基板206やヒータ208に近いライナ202の括れ部分233には、相対的な高温部分が生じる。特に、半導体基板206に近い、ライナ202の括れ部分233の角部234で温度が高くなる。
【0018】
チャンバ201内面のライナ202上に生じた相対的な高温部分にプロセスガスが接触すると、半導体基板206の表面と同様の熱分解反応或いは水素還元反応が起きる。すると、チャンバ201内のライナ202の括れ部分233の角部234には、プロセスガス225に由来するシリコン結晶が生成されてしまう。
【0019】
ここで生成されるシリコン結晶は、半導体基板206表面に成膜される気相成長膜と略同質である。こうしたシリコン結晶の形成は、ライナ202に求められる透明性を失わせることになる。こうしたライナ202の失透は、例えばフッ酸を用いた洗浄により回復させることができるが、形成されたシリコン結晶を完全に除去するのは容易ではなく、シリコン結晶の塊は、成膜装置200の稼動に伴う昇温、降温が繰り返されることで欠片が剥離し、チャンバ201内にパーティクルとして滞留する。そして、後に生産される半導体基板に成膜される気相成長膜を汚染し、品質を低下させる要因となる。
【0020】
よって、成膜装置200を継続的に稼動させるためには、上述したシリコン結晶を除去し、チャンバ201内を清浄に保持しなければならない。そのためには、定期的に成膜装置200の稼動を停止し、チャンバ201のメンテナンスを行なう必要がある。このメンテナンス作業は、チャンバ201内を洗浄する等の作業を行なうだけでなく、再度稼動するための環境を整えることが必須となるため、相応の時間を要する。例えば、内部の洗浄が完了したチャンバ201を、外気によってパーティクル汚染させないことに留意した慎重な作業や、組み立て直したチャンバ201を所定の真空度に調整することには、相応の時間と労力を要する。
【0021】
したがって、パーティクルを除去するメンテナンス作業を定期的に行なう必要性がある成膜装置200は、稼働率をある一定以上に向上させることができなかった。
このように、成膜装置200には、生産される半導体基板の品質に対する問題と、品質維持に必要な作業等のために生じる稼働率の低下という問題があった。
【0022】
本発明は、かかる問題点を克服し、気相成長による成膜前のプロセスガスおよび成膜後のプロセスガスによるチャンバ内への副生成物の生成を抑止し、生産する半導体基板の品質および稼働率を従来よりも向上させることができる成膜装置、およびこれを用いた成膜方法を提供するものである。
【0023】
本発明の他の目的および利点は、以下の記載から明らかとなるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明の成膜装置は、チャンバと、チャンバの頂部に設けられたプロセスガスの供給部と、チャンバの底部に設けられた排気部と、チャンバの胴部に設けられ、基板が載置されるサセプタと、チャンバの内部で供給部とサセプタとの間に設けられたガス整流板と、チャンバの内壁を被覆する筒状のライナとを有する。そして、ライナは、ガス整流板とサセプタとの間に頭部および胴部より内径の小さい括れ部分を有し、括れ部分には、その周囲を囲むように伝熱リングが設けられていることを特徴とする。
【0025】
伝熱リングは、分離可能な二つの略半リング形状のリング部を組み合わせて構成されることが好ましい。
【0026】
伝熱リングは、炭化珪素(SiC)、カーボン(C)、タングステン(W)およびモリブデン(Mo)よりなる群から選択された1以上の材料により構成されることが好ましい。
【0027】
チャンバには冷却手段が設けられていることが好ましい。
【0028】
本発明の成膜方法では、チャンバを冷却しながらプロセスガスをチャンバの頂部から流下し、サセプタ上に載置した基板を加熱しつつ基板にプロセスガスを接触させて所定の膜を形成する。そして、チャンバの内壁を被覆するライナに、サセプタが配設される胴部より上方に括れ部分を設け、プロセスガスを括れ部分を通って基板に到達させるとともに、括れ部分を囲むように伝熱リングを配置し、伝熱リングによりライナの熱をチャンバに伝えてライナの過熱を抑制することを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明の成膜装置によれば、成膜処理の際にチャンバ内壁に副生成物が発生するのを抑制することができる。したがって、成膜装置の稼働率を向上することができる。また、成膜処理時のプロセス条件の安定化が図れるので、高品質のエピタキシャル基板を製造することが可能である。
【0030】
また、本発明の成膜装置によれば、伝熱リングを分離可能な二つの略半リング形状のリング部を組み合わせて構成することにより、ライナの括れ部分に容易に取り付けたり、取り外したりことができる。したがって、成膜装置のメンテナンス作業を容易にすることが可能となる。
【0031】
さらに、本発明の成膜装置によれば、伝熱リングを炭化珪素(SiC)、カーボン(C)、タングステン(W)およびモリブデン(Mo)よりなる群から選択された1以上の材料により構成することにより、高温条件下に置かれても熱的安定性の高い伝熱リングとすることができる。したがって、基板を高温で加熱しながら行う気相成長反応時においてもチャンバ内を汚染から防止することが可能となる。
【0032】
本発明の成膜方法によれば、成膜処理の際にチャンバ内壁に副生成物が発生するのを抑制することができる。また、成膜処理時のプロセス条件の安定化が図れるので、高品質のエピタキシャル基板を製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本実施の形態の成膜装置の模式的な断面図である。
【図2】本実施の形態の成膜装置の部品である伝熱リングの平面図である。
【図3】本実施の形態の成膜装置の部品である伝熱リングの側面図である。
【図4】エピタキシャル成長技術を用いる従来の成膜装置の構成を説明する模式的な断面図である。
【図5】エピタキシャル成長技術を用いる別の成膜装置の要部構成を模式的に説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1は、本実施の形態の成膜装置の模式的な断面図である。
【0035】
図1に示すように、本実施の形態の成膜装置50は、チャンバ1と、チャンバ1内壁を被覆して保護する中空筒状のライナ2と、チャンバ1を冷却する冷却水の流路3a、3bと、プロセスガス25を導入する供給部4と、反応後のプロセスガスを排気する排気部5と、後述の半導体基板6を載置してこれを支持する回転式のサセプタ7と、図示しない支持部に支持されて半導体基板6を加熱するヒータ8と、チャンバ1の上下部を連結するフランジ部9、フランジ部9をシールするパッキン10と、排気部5と配管を連結するフランジ部11と、フランジ部11をシールするパッキン12とからなる。
【0036】
そして、サセプタ7上には、気相成長を行うウェハ等の半導体基板6が載置される。この半導体基板6を支持するサセプタ7はサセプタ支持部7aを介して図示されない回転機構に接続されている。そして、気相成長反応時においては、サセプタ7を回転させることにより、その上に載置された半導体基板6を高速に回転する。
【0037】
また、ライナ2は石英製であり、透明性を備え、その開口する頭部には、半導体基板6の表面に対してプロセスガス25を均一に供給するためのガス整流板であるシャワープレート20が取り付けられている。このシャワープレート20には、プロセスガス25を供給するための貫通孔21が複数個設けられている。
【0038】
なお、ライナ2の配設については、一般に、成膜装置のチャンバの壁がステンレス製であることによる。すなわち、成膜装置50では、このステンレス製の壁を気相反応系内に露出させないように、ライナ2で全面を被覆している。これは、半導体基板6表面の結晶膜形成時のパーティクルや金属汚染、あるいはチャンバ1のステンレス製の壁の侵食を防ぐ効果がある。
【0039】
そして、成膜装置50の具備するライナ2においては、シャワープレート20を支持する頭部31と半導体基板6が支持されるサセプタ7が設けられた胴部32との間に、頭部31および胴部32より内径の小さい部分、すなわち括れ部分33が形成されている。
【0040】
この括れ部分33の内径は、シャワープレート20の貫通孔21の配置と半導体基板6の大きさに対応するように決められている。よって、シャワープレート20の貫通孔21を出た後、プロセスガス25が拡散する無駄な空間が無くなっており、シャワープレート20から供給されるプロセスガス25が無駄なく、効率良く半導体基板6表面に集められるように構成されている。このような形状にライナ2をすることにより、成膜装置50においては、半導体基板6表面での高効率で高速の気相成長反応が実現できることとなる。
【0041】
そして、本実施の形態である成膜装置50では、上述のライナ2の括れ部分33において、その括れ部分33の周囲を取り囲むようにリング状の伝熱リング40が設けられている。
【0042】
図2は、本実施の形態である成膜装置50の部品である伝熱リング40の平面図である。
【0043】
伝熱リング40は、上述のように所定の厚みを有したリング状である。そして、概略半分の大きさで分離可能となるよう、2つの略半リング状のリング部40a、40bを組み合わせて構成されている。そして、これら二つのリング部40a、40bを組み合わせてリング形状を完成することにより、ライナ2の括れ部分33の周囲を取り囲むよう配置することが可能となる。
【0044】
そして特に、半導体基板6に近いために、気相成長反応中、周囲に比べ相対的に高温となっているライナ2の括れ部分33の角部34の近傍に、伝熱リング40の内壁部分近傍が位置するように構成されている。一方、伝熱リング40の外壁部分は、チャンバ1の内壁に近接するか、もしくは実際に接触するように構成されている。
【0045】
そして、伝熱リング40は、耐熱性と比較的高い熱伝導性を有する材料から構成される。特に、高温の条件下に置かれても、チャンバ1内を不純物で汚染することがない材料が選択される。具体的には、炭化珪素(SiC)やカーボン(C)、タングステン(W),モリブデン(Mo)などの高耐熱材料から構成することが可能である。
【0046】
また、図3は、伝熱リング40の側面図であるが、伝熱リング40は、概略半分の大きさで互いに分離可能なように、2つの半リング状のリング部40a、40bから構成されている。そして、それぞれの先端部分が噛み合うようにして一つの伝熱リング40を構成している。このとき、熱膨張による伝熱リング40の破損を防止するため、リング部40a、40bが噛み合わされた際にも互いのリング部40a、40bの間に若干の隙間ができるように構成されている。
なお、伝熱リング40の構造については、図3に示された構造に限るものではない。すなわち、図3に示したように2つの半リング状のリング部それぞれの先端部分が噛み合うような構造をとらず、先端部分について別の組み合わせ構造をとることも可能である。例えば、2つの半リング状のリング部それぞれについて、一つのリングを単に半分に切断したような構造とし、その切断部分を組み合わせて一つの伝熱リングとするように構成することも可能である。
【0047】
なお、チャンバ1のフランジ部9と、排気部5のフランジ部11には上述のようにシールのためにパッキン10、12を用いている。このパッキン10、12はフッ素ゴム製であり、耐熱温度は約300℃である。従って、チャンバ1を冷却する冷却水の流路3a、3bは、パッキン10、12を熱で劣化させることを防止でき、特に有効である。
【0048】
以上の構成を有する本実施の形態の成膜装置50においては、チャンバ1内で半導体基板6を支持し、回転機構(図示せず)に接続されたサセプタ7により回転させながら、ヒータ8により1000℃以上に加熱する。この状態でチャンバ1内に反応性ガスを含むプロセスガス25を、供給部4からシャワープレート20の貫通孔21を介して、供給する。そして、半導体基板6表面で熱分解反応或いは水素還元反応が行われ、半導体基板6表面に結晶膜を形成する。その際、気相成長反応に使用されたもの以外のプロセスガスは、変性された生成ガスとなり、プロセスガス25とともにチャンバ1下部に設けられた排気部5から逐次排気される。
【0049】
このとき、伝熱リング40の作用について説明する。伝熱リングを具備しない装置構成に対応する、図5に示された成膜装置200では、ヒータ208からの熱がライナ202に到達する。ライナ202は石英製であり、ライナ202に吸収されるのは到達する熱の一部であって、ほとんどの部分はライナ202を透過する。そして、透過した熱は、冷却水の流路203a、203bが配設されて冷却されたチャンバ201により冷却されてしまう。
【0050】
しかし、一部であってもライナ202に吸収された熱はライナ202の温度を上昇させる。そして、そうした熱吸収の機会が多くなる、ヒータ208に近いライナ202の括れ部分233においては、熱吸収とそれに伴う温度上昇が無視できないレベルに達する。具体的には、ヒータ208によりサセプタ207上に載置された半導体基板206を1000℃程度に加熱しようとすると、ライナ202の括れ部分233の角部234近傍は700℃を超える温度に達する場合がある。
【0051】
このような状況においては、ライナ202の括れ部分233で望まない気相成長反応が発生し、上述したライナ202の失透やシリコン結晶の形成という問題が発生してしまう。
【0052】
一方、本実施の形態である成膜装置50では、ライナ2の括れ部分33に、その周囲を取り囲むよう、リング状の伝熱リング40が設けられている。この伝熱リング40は、加熱したライナ2の熱を吸収して冷却水で冷却されたチャンバ1の壁に伝え、ライナ2を冷却する。そして特に、伝熱リング40の配置された、その括れ部分33を冷却する。
【0053】
加えて、伝熱リング40は、加熱されたライナ2から発せられて伝熱リング40に伝えられた熱の一部を反射する。反射された熱の一部は、ライナ2を透過してライナ2内部側に戻る。その結果、ライナ2の内部にある半導体基板6を加熱することとなる。すなわち、伝熱リング40はライナ2の熱を吸収してこれを冷却するものの、一部をライナ2内部に反射して戻すことから、伝熱リング40の配置によって、ライナ2内部に置かれた半導体基板6を冷却してしまうことはほとんど無い。
【0054】
次に、本実施の形態である上述の成膜装置を使用した成膜方法について説明する。
【0055】
本実施の形態である成膜方法においては、成膜装置50を使用し、そのチャンバ1外周に設けた冷却水の流路3a、3bによりチャンバ1を冷却しながら、プロセスガス25をチャンバ1の頂部に設けられた供給部4からガス整流板であるシャワープレート20の貫通孔21を介して流下させ、下方に配設された回転式のサセプタ7上に載置した半導体基板6を加熱するとともにプロセスガス25を接触させ、半導体基板6表面に結晶膜を形成する。
【0056】
このとき、成膜装置50のチャンバ1の内壁には、これを被覆する中空筒状のライナ2が設けられており、このチャンバ1の内壁を被覆するライナ2には、内部にサセプタ7が配設される胴部より上方に括れ部分33が設けられている。その結果、上述のように、プロセスガス25はこの括れ部分33を通って効率良くサセプタ7上の半導体基板6に到達する。そしてさらに、ライナ2の括れ部分33にはその周囲を囲むように伝熱リング40が配置されている。従って、この伝熱リング40によりライナ2の熱を、冷却されたチャンバ1に伝え、ライナ2の過熱を抑制しながら半導体基板6表面に結晶膜を形成することができる。
【0057】
半導体基板6としては、例えば、シリコンウェハ、特にパワー半導体などの用途で使用される300mmのシリコンウェハなどを挙げることができる。このとき、例えば、パワー半導体の用途では、300mmのシリコンウェハ上に10μm以上、多くは10μm〜100μm程度の厚膜が形成される。
【0058】
また、供給部4からチャンバ1に供給するプロセスガス25の供給流量の設定は、例えばキャリアガス:Hを20〜100SLM(Standard Liter per Minutes・標準リットル毎分)、反応性ガス:ジクロロシラン(SiHCl)を50sccm(standard cubic centimeter per minutes・標準cc毎分)〜2SLMと設定し、その他のドーパントガス:ジボラン(B)またはホスフィン(PH)を微量だけ加えるよう設定する。そのようにジボランを導入すればp型、ホスフィンを導入すればn型の導電性を示す膜が形成される。そしてチャンバ1内の圧力を例えば1333Pa〜常圧に制御する。以上の条件を満たし、チャンバ1内で半導体基板6上の気相成長を開始する。
【0059】
また、半導体基板6を支持するサセプタ7は、サセプタ支持部7aを介して回転機構に接続されている。そして、気相成長反応時においては、サセプタ7を回転させることにより、その上に載置された半導体基板6を高速に回転する。そして、厚膜を形成する場合、成膜時において半導体基板6の回転数を特に高くするのがよく、例えば、900rpm程度の回転数とするのがよい。
【0060】
上述のプロセス条件で半導体基板6が気相成長反応を行う間、ヒータ8は半導体基板6を常に1000℃以上に加熱している。そのため、チャンバ1内の温度は輻射熱によって全体的に高くなり、ヒータ8に接近したライナ2の括れ部分33において特に顕著になる。
【0061】
チャンバ1全体の温度があまりに高くなってしまうと、上述したライナ2の括れ部分33での生成物の堆積や、上述のようにチャンバ1のフランジ部9をシールしているフッ素ゴム製のパッキン10や、排気部5と排気配管を連結しているフランジ部11のシールをしているパッキン12を劣化させる。
【0062】
そこで、パッキン10、12の劣化を抑制する目的においても、チャンバ1外周に設けた冷却水の流路3a、3bに水温約20℃程度の冷却水を循環させ、熱の輻射を受けやすいチャンバ1、パッキン10、12などを冷却水の循環により冷却する。
【0063】
加えて、上述のように、具備する伝熱リング40の作用により、サセプタ7上の半導体基板6を冷却してしまうことがほとんどない程度に、ライナ2の括れ部分33を冷却する。そして、括れ部分33でのシリコン結晶の堆積を抑制しながら、成膜装置50は稼動に良好な温度に保たれる。
また、このときの冷却手段は水以外でも良く、空気など、装置から効果的に熱を奪うことが出来るものであれば良い。
【0064】
以上のように、本実施の形態である成膜装置およびそれを用いた成膜方法では、従来から問題となっていたチャンバ内におけるライナ上に生じる副生成物の堆積を抑制し、メンテナンスの頻度を低減させることによりメンテナンス作業の労力を軽減させるとともに、装置の稼働率を向上させることが出来る。ひいては、プロセス条件を安定化させることにより高品質のウェハ等半導体基板を生産可能にする。
【0065】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【0066】
すなわち、本発明の成膜装置の一例として、エピタキシャル成長装置について説明したが、これに限るものではなく、シリコンウェハ表面に所定の結晶膜を気相成長させるための装置であれば構わない。例えば、ポリシリコン膜を成長させることを目的とした成膜装置であっても本発明と同様の作用効果を得ることができる。
【0067】
さらに、装置の構成や制御の手法など、本発明に直接必要としない部分などについては記載を省略したが、必要とされる装置の構成や、制御の手法などを適宜選択して用いることができる。
【0068】
また、本発明を説明するために示した図において、説明のために必要な構成以外は省略し、縮尺等に就いても原寸大のものとは一致させず、明確に視認できるよう適宜変更した。
【0069】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更し得る全ての気相成長装置および各部材の形状は、本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0070】
1、101、201 チャンバ
2、102、202 ライナ
3a、3b、103a、103b、203a、203b 流路
4、104 供給部
5、105 排気部
6、106、206 半導体基板
7、107、207 サセプタ
7a サセプタ支持部
8、108、208 ヒータ
9、11、109、111 フランジ部
10、12、110、112 パッキン
20、120、220 シャワープレート
21、121、221 貫通孔
25、125,225 プロセスガス
31、231 頭部
32、232 胴部
33、233 括れ部分
34、234 角部
40 伝熱リング
40a、40b リング部
50、100、200 成膜装置




【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバと、
前記チャンバの頂部に設けられたプロセスガスの供給部と、
前記チャンバの底部に設けられた排気部と、
前記チャンバの胴部に設けられ、基板が載置されるサセプタと、
前記チャンバの内部で前記供給部と前記サセプタとの間に設けられたガス整流板と、
前記チャンバの内壁を被覆する筒状のライナとを有し、
前記ライナは、前記ガス整流板と前記サセプタとの間に前記頭部および前記胴部より内径の小さい括れ部分を有し、
前記括れ部分には、その周囲を囲むように伝熱リングが設けられていることを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記伝熱リングは、分離可能な二つの略半リング形状のリング部を組み合わせて構成されることを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記伝熱リングは、炭化珪素(SiC)、カーボン(C)、タングステン(W)およびモリブデン(Mo)よりなる群から選択された1以上の材料により構成されることを特徴とする請求項1または2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記チャンバには冷却手段が設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項5】
チャンバを冷却しながらプロセスガスを前記チャンバの頂部から流下し、サセプタ上に載置した基板を加熱しつつ前記基板に前記プロセスガスを接触させて所定の膜を形成する成膜方法において、
前記チャンバの内壁を被覆するライナに、前記サセプタが配設される胴部より上方に括れ部分を設け、前記プロセスガスを前記括れ部分を通って前記基板に到達させるとともに、前記括れ部分を囲むように伝熱リングを配置し、前記伝熱リングにより前記ライナの熱を前記チャンバに伝えて前記ライナの過熱を抑制することを特徴とする成膜方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−38149(P2011−38149A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−186326(P2009−186326)
【出願日】平成21年8月11日(2009.8.11)
【出願人】(504162958)株式会社ニューフレアテクノロジー (669)
【Fターム(参考)】