説明

気相成膜装置及びガス噴出器

【課題】成膜を繰り返し実行しても、ピット密度が低く高品質な成膜を行うことができ、量産性に優れたバーチカル方式のMOCVD装置などの気相成膜装置及びこれに用いられる材料ガス噴出装置を提供する。
【解決手段】材料ガス噴出器12は材料ガス供給室23,24と、材料ガス供給室に隣接して設けられた冷却器21と、材料ガス供給室側に材料ガス流入開口25,26を備え、冷却器を貫通して材料ガス供給室の反対側に材料ガス噴出開口31,32を備える材料ガス通気孔と、を備えている。上記材料ガス通気孔は冷却器内部で屈曲した形状を備え、材料ガス噴出開口31,32から材料ガス流入開口26,26への見通し経路を有しないように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気相成膜装置及びガス噴出器、特に、バーチカル方式のMOCVD(Metal-Organic Chemical Vapor Deposition)装置などの気相成膜装置及びこれに用いられるガス噴出器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から半導体等の製造プロセスにおいて、広く種々の気相成膜装置が用いられている。例えば、電子デバイスや、発光素子等の産業分野で半導体単結晶成長方法としてMOCVD法等の気相成長が幅広く用いられている。 気相成長装置には、基板の成長面に対して材料ガス流(ガスフロー)を垂直に流す方式(バーチカル方式)と、水平に流す方式(ホリゾンタル方式)とがある。また、材料ガスを水平に流し、垂直方向から押さえガスを流す2フロー方式などがある。使用する材料ガスと目的デバイス等により適した方式が選択される。
【0003】
バーチカル方式の成膜装置として、例えば、特許文献1には、シャワーヘッド状に構成され、材料ガスを噴出するガス入口部品が設けられたCVD反応装置が開示されている。また、特許文献2には、MOCVD装置等の気相成長装置のガス吹き出し部が開示されている。特許文献3には、化学気相析出法により薄膜を成膜する装置であって、多数の噴き出し孔が形成された噴き出し面を有するシャワーを備えた成膜装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2009−516777号公報
【特許文献2】特開2004−172386号公報
【特許文献3】特許2726005号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のバーチカル方式の成膜装置においては、ガス噴出口を有し、材料ガスを基板に向けて噴出するガス噴出器(シャワーヘッド)に対する基板またはサセプタからの輻射熱が及ぼす影響については十分に検討されていなかった。本願の発明者は、基板またはサセプタからの輻射熱と膜質との関係を検討し、材料ガスがガス噴出器に分解生成して付着することが膜質悪化の原因であることを解明した。特に、装置の使用期間が3ヶ月、6ヶ月、1年と長くなった場合に、成膜層のピット密度が増加するという問題の要因であるとの知見を得た。
【0006】
例えば、このような装置によってピット密度が高い半導体結晶を成長し、半導体素子を製造した場合では、素子特性の低下、不良品の発生、製造歩留まりが悪くなるという問題がある。また、LED素子を製造した場合では、リーク電流が増加し、I−V(電流−電圧)特性、I−L(電流−光出力)特性、発光波長などがバラつき、素子特性の低下、製造歩留まりが悪くなるという問題がある。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、成膜を繰り返し実行しても、ピット密度が低く高品質な成膜を行うことができ、量産性に優れたバーチカル方式のMOCVD装置などの気相成膜装置及びこれに用いられる材料ガス噴出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の気相成膜装置用ガス噴出器は、材料ガス供給室と、材料ガス供給室に隣接して設けられた冷却器と、材料ガス供給室側に材料ガス流入開口を備え、冷却器を貫通して材料ガス供給室の反対側に材料ガス噴出開口を備える材料ガス通気孔と、を備えている。上記材料ガス通気孔は冷却器内部で屈曲した形状を備え、材料ガス噴出開口から材料ガス流入開口への見通し経路を有しないように形成されている。
【0009】
本発明の結晶成長装置は、上記気相成膜装置用ガス噴出器と、材料ガス供給室に材料ガスを供給する材料ガス供給部と、を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の結晶成長装置の構成を模式的に示す図である。
【図2】実施例1の材料ガス噴出器(シャワーヘッド)を模式的に示す平面図及び断面図である。
【図3】(a)、(b)は、それぞれ実施例1のシャワーヘッドの、それぞれ第1の通気孔及び第2の通気孔が設けられた部分を模式的に示し、第1の通気孔及び第2の通気孔の詳細構成を説明するための部分拡大断面図である。
【図4】(a)、(b)は、それぞれ第1の通気孔及び第2の通気孔について、基板及びサセプタからの見通し経路を説明するための模式的な断面図である。
【図5】実施例1の第2の通気孔を例に、通気孔の形状、サイズ等の一例及び流出側開口から流入側開口を見通せないための設計法を示す断面図である。
【図6】実施例2のシャワーヘッドを模式的に示す平面図及び断面図である。
【図7】実施例2の冷却器の第1及び第2の通気孔が設けられた部分を模式的に示し、第1及び第2の通気孔の詳細構成を説明するための部分拡大断面図である。
【図8】実施例1及び2に対する比較例であって、冷却ジャケット内に鉛直(すなわち、基板に垂直)方向に形成され、直線構造の、すなわち屈曲を有しない通気孔が設けられた材料ガス噴出器を模式的に示す断面図である。
【図9】実施例1、2及び比較例の成長層の層構造を示す断面図である。
【図10】実施例2の場合について、シャワーヘッドの使用開始時及び1年使用した後の成長層表面の微分偏光顕微鏡像である。
【図11】比較例の場合について、シャワーヘッドの使用開始時及び1年使用した後の成長層表面の微分偏光顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下においては、バーチカル方式のMOCVD装置及びこれに用いられる材料ガス噴出器について図面を参照して詳細に説明する。以下においては、本発明の好適な実施例について説明するが、これらを適宜改変し、組合せてもよい。また、以下に説明する図において、実質的に同一又は等価な部分には同一の参照符を付して説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は、本発明のバーチカル方式の結晶成長装置10の構成を模式的に示している。結晶成長装置10の装置構成について以下に詳細に説明する。
【0013】
[装置構成]
図1に示すように、結晶成長装置(MOCVD装置)10は、外部と気密された反応容器11を有し、反応容器11の内部に材料ガス噴出器12、基板15を載置・保持するサセプタ14、ヒータ16、ヒータ16の熱を遮断するための遮熱板17、排気管18が設けられている。また、サセプタ14(すなわち、基板15)を回転させる基板回転機構19が設けられている。また、MOCVD装置10には、成長に用いられる材料ガスを材料ガス噴出器12に供給する材料ガス供給部13が設けられている。
【0014】
図2は、材料ガス噴出器(以下、シャワーヘッドともいう。)12を模式的に示す平面図及び断面図である。なお、図2下側には、シャワーヘッド12の下面であるガス噴出面12A側から見た平面図を示し、シャワーヘッド12のガス噴出面12Aの1/2の部分を示している。シャワーヘッド12は、内部が3層構造に区切られている。すなわち、シャワーヘッド12は、その内部で、ガス噴出面(材料ガス噴出器12の下面)12A側から順に、冷却器としての冷却ジャケット21、第1の材料ガス供給室23及び第2の材料ガス供給室24に分離されている。より具体的には、冷却ジャケット21の上部、すなわち、冷却ジャケット21の裏面(内面)21R側に冷却ジャケット21に隣接して第1の材料ガス供給室23が設けられ、第1の材料ガス供給室23の上部に第1の材料ガス供給室23に隣接して第2の材料ガス供給室24が設けられている。第1の材料ガス供給室23及び第2の材料ガス供給室24はそれぞれ隔壁23W及び隔壁24Wによって画定及び分離されている。
【0015】
冷却ジャケット21は、材料ガスが基板15及びサセプタ14からの輻射熱で熱分解されないように備えられている。冷却ジャケット21には吸水口21Aから冷却水が取り込まれ、排水口21Bから排出される。なお、冷却ジャケット21が冷却水によって冷却を行う冷却水ジャケットである場合を例に説明するが、冷却水に限らず、内部に冷媒を導入して冷却を行う冷却ジャケットであってもよい。
【0016】
第1の材料ガス供給室23及び第2の材料ガス供給室24には、材料ガス供給部13からの第1の材料ガス及び第2の材料ガスがそれぞれ第1の材料ガス供給管25及び第2の材料ガス供給管26から供給される。そして、冷却ジャケット21には第1の材料ガス供給室23と連通する又は接続された第1の材料ガス通気孔31が設けられ、第1の材料ガス通気孔(以下、第1の通気孔ともいう。)31の噴出口から第1の材料ガスが噴出され、基板15に吹付けられる構造となっている。同様に、冷却ジャケット21には第2の材料ガス供給室24と連通する第2の材料ガス通気孔32が設けられ、第2の材料ガス通気孔(以下、第2の通気孔ともいう。)32の噴出口から第2の材料ガスが噴出され、基板15に吹付けられる構造となっている。第1の通気孔31及び第2の通気孔32はともに屈曲した形状を有している。
【0017】
図2の平面図に示すように、シャワーヘッド12は、例えば、その外径PH1がφ110mmであり、噴出し有効部28の直径(噴出し有効部径)PH2がφ70mmである。第1の通気孔31及び第2の通気孔32の孔径(直径)は1.5mmである。第1の通気孔31及び第2の通気孔32は第1の通気孔31及び第2の通気孔32はそれぞれ孔間隔(D1)が2×21/2mmであるように配されている。そして、第1の通気孔31と第2の通気孔32との間隔(D2)は4mmとし、通気孔の穴ズレ(D3)は第1の通気孔31及び第2の通気孔32を結ぶ中心線方向に2mmとした。また、冷却ジャケット21の厚さは11.5mmとした。後述するように、第1の通気孔31及び第2の通気孔32のガス噴出側の開口部からガス流入側の開口部が見通せない構造としている。この点について、以下に詳細に説明する。
【0018】
図3(a)、(b)は、本発明の実施例1によるシャワーヘッド12の、それぞれ第1の通気孔31及び第2の通気孔32が設けられた部分を模式的に示し、第1の通気孔31及び第2の通気孔32の詳細構成を説明するための部分拡大断面図である。図3(a)に示すように、第1の通気孔31は、第1の材料ガスの流入側の流入側通気部31A及び流出側の流出側通気部31Bと、冷却ジャケット21の内部に設けられ、通気部31A及び通気部31Bを連通する屈曲部31Kとからなり、冷却ジャケット21を貫通している。また、第1の材料ガス供給室23に供給された第1の材料ガスは第1の通気孔31の流入側開口31Iから流入し、流出側開口31Oから流出するように形成されている。また、図3(b)に示すように、同様に、第2の通気孔32は、第2の材料ガスの流入側の流入側通気部32A及び流出側の流出側通気部32Bと、冷却ジャケット21の内部に設けられ、通気部32A及び通気部32Bを連通(接続)する屈曲部32Kとからなり、冷却ジャケット21を貫通している。また、第2の材料ガス供給室24に供給された第2の材料ガスは、隔壁23Wによって画定された貫通孔23Hのガス流入口23Iから流入し、第1の通気孔31の流入側開口31Iを経て、流出側開口31Oから噴出されるように形成されている。
【0019】
なお、以下においては、第1の通気孔31及び第2の通気孔32が直径φHの円形状の断面を有する場合を例に説明するが、断面が楕円形状、矩形形状などいかなる形状を有していてもよい。なお、ガス噴出面である冷却ジャケット21の表面12A(ガス噴出器12の下面)及び裏面(内面)21Rが、互いに平行でかつ基板に対しても平行である場合を例に説明する。
【0020】
図4(a)は、第1の通気孔31について、基板15及びサセプタ14からの見通し経路を説明するための模式的な断面図である。直線経路LSを矢印で模式的に示すように、流出側開口31Oからどのような角度で流入側開口31Iを見ても流入側開口31Iを見通すことはできない。すなわち、基板15側からの赤外線が通気孔31の流出側開口31Oからいかなる角度で入射しても通気孔31の内壁で遮断(ブロック)され、通気孔31の流入側開口31Iから出ていくことがないように、通気孔31が構成されている。換言すれば、流出側開口31Oから流入側開口31Iを見通すことができない。つまり、通気孔31は、流出側開口31Oから流入側開口31Iへの見通し経路を有しない、又は見通し不可(NLOS:Non Line Of Sight)であるように形成されている。
【0021】
図4(b)に示すように、第2の通気孔32についても同様であり、第2の通気孔32の流出側開口32Oからどのような角度で流入側開口32Iを見ても流入側開口32Iを見通すことはできない。つまり、通気孔32は、流出側開口32Oから流入側開口32Iへの見通し経路を有しない、又は見通し不可(NLOS)であるように形成されている。
【0022】
このように、第1の通気孔31及び第2の通気孔32の材料ガスの流出口から流入口を見通せない構造とすることで、通気孔31及び32に入射する熱放射(赤外線)は冷却ジャケット21に吸収される。熱放射は赤外線なので一部は反射するが、通気孔31及び32内での多重反射で冷却ジャケット21の内壁で吸収される。 図5は、実施例1の第2の通気孔32の形状、サイズ等の一例及び流出側開口32Oから流入側開口32Iを見通せないための設計法(以下、遮光ルールともいう。)を示す断面図である。通気孔32の流入側通気部32A及び流出側通気部32Bは鉛直(すなわち、基板15に垂直)方向に形成され、屈曲部32Kは流入側通気部32A及び流出側通気部32Bに直交方向、すなわち水平方向(基板15に平行方向)に形成されている。流入側通気部32A及び流出側通気部32Bは屈曲部32Kによって連通している。
【0023】
通気孔32の屈曲中心側の冷却ジャケット21の屈曲点をA,Bとすると、屈曲点Aおよび点Bを結ぶ線分ABと、A点の鉛直方向への延長線と通気孔32の内壁との交点Cを結ぶ線分ACとの成す角θ(式1)から、最小ジャケット厚みL1およびL2を求めることができる。
【0024】
すなわち、
L1=R1/tanθ (式1)
L2=R2/tanθ (式2)
θ=tan-1(WD/WH) (式3)
従って、流出側開口32Oから流入側開口32Iを見通せない(NLOS)又は見通し経路を有しない条件は、
L1<W1 (式4)
又は
L2<W2 (式5)
である。すなわち、流入側及び流出側の最小ジャケット厚さL1、L2より、それぞれ実際のジャケット厚さW1、W2が厚ければ、基板15およびサセプタ14からの放射熱(赤外線)は流出側開口32Oから流入側開口31Iへ抜けないことになる。
【0025】
このような第2の通気孔32についての遮光ルールは、第1の通気孔31についても同様であり、流出側開口31Oから流入側開口31Iを見通せないように構成することで基板15およびサセプタ14からの放射熱(赤外線)は流入側開口31Iから抜けないことになる。従って、本実施例の構成によれば、基板15およびサセプタ14からの放射熱は冷却ジャケット21で吸収され、第1の材料ガス供給室23及び第2の材料ガス供給室24に達することを防止できる。
【実施例2】
【0026】
図6は、図2(実施例1)と同様な図であり、実施例2のシャワーヘッド(材料ガス噴出器)12を模式的に示す平面図及び断面図である。実施例1と異なるのは、冷却器41が冷却ジャケット42及びスペ−サ43からなる点である。より詳細には、スペ−サ43は第1の材料ガス供給室23に隣接するように配され、冷却ジャケット42はスペ−サ43に隣接するようにスペ−サ43と一体的に構成された冷却器41を構成している。実施例1の場合と同様に、冷却器41には第1の材料ガス供給室23と接続された第1の材料ガス通気孔31及び第2の材料ガス供給室24と接続された第2の材料ガス通気孔32が設けられている。また、第1の材料ガス通気孔31及び第2の材料ガス通気孔32はともに屈曲した形状を有している。
【0027】
図7は、実施例2の冷却器41の第1の通気孔31及び第2の通気孔32が設けられた部分を模式的に示し、第1及び第2の通気孔31、32の詳細構成を説明するための部分拡大断面図である。第1の通気孔31は、第1の材料ガスの流入側の流入側通気部31A及び流出側の流出側通気部31Bと、通気部31A及び通気部31Bを連通(接続)する屈曲部31Kとを有し、冷却器41を貫通している。
【0028】
より詳細には、スペ−サ43にはスペ−サ43を貫通する流入側通気部31A及び屈曲部31Kが設けられ、L字形状の屈曲通気部が形成されている。冷却ジャケット42には鉛直方向に冷却ジャケット42を真っ直ぐに貫通する、屈曲の無い、すなわち直線構造の流出側通気部31Bが形成されている。当該L字形状の屈曲通気部(すなわち通気部31A及び屈曲部31K)と通気部31Bとはつなげられて連通し、冷却器41内で屈曲した第1の通気孔31が形成されている。そして、第1の材料ガス供給室23に供給された第1の材料ガスは第1の通気孔31の流入側開口31Iから流入し、流出側開口31Oから噴出される。
【0029】
同様に、冷却器41、すなわちスペ−サ43及び冷却ジャケット42を貫通する屈曲した第2の通気孔32が設けられている。また、スペ−サ43にはスペ−サ43を貫通する流入側通気部32A及び屈曲部32KからなるL字形状の通気部が形成されている。冷却ジャケット42には鉛直方向に冷却ジャケット42を貫通する、屈曲の無い流出側通気部32Bが形成されている。そして、当該L字形状の通気部と通気部32Bとは屈曲部32Kによって連通し、冷却器41内で屈曲した第2の通気孔32が形成されている。
【0030】
なお、スペーサ43は材料ガス噴出器(シャワーヘッド)12、すなわち冷却器41と同じ素材であるSUS304で製造した。スペーサ43の材質としては熱伝導率の高い材質が良い。例えば、Cu(銅)、Al(アルミニウム)、セラミックならばアルミナ、窒化アルミニウム、窒素ケイ素、炭化ケイ素などでも良い。
【0031】
図7を参照すると、第1の通気孔31について、直線経路LSを矢印で模式的に示すように、流出側開口31Oからどのような角度で流入側開口31Iを見ても流入側開口31Iを見通すことはできない。すなわち、基板15側からの赤外線が通気孔31の流出側開口31Oからいかなる角度で入射しても通気孔31の内壁で遮断(ブロック)され、通気孔31の流入側開口31Iから出ていくことがないように、通気孔31が構成されている。つまり、第1の通気孔31は、流出側開口31Oから流入側開口31Iへの見通し経路を有しない、又は見通し不可(NLOS:Non Line Of Sight)であるように形成されている。第2の通気孔32についても同様であり、第2の通気孔32の流出側開口32Oからどのような角度で流入側開口32Iを見ても流入側開口32Iを見通すことはできない。つまり、通気孔32は、流出側開口32Oから流入側開口32Iへの見通し経路を有しない、又は見通し不可(NLOS)であるように形成されている。 本実施例の構成によれば、冷却ジャケットを貫通する通気孔31B、32Bを直線構造とし、屈曲部を含む通気孔を備えたスペーサを用いて、冷却器41内で屈曲した材料ガス通気孔31、32が設けられている。従って、基板またはサセプタから放射された輻射熱は冷却器41の内部(水冷ジャケット又はスペ−サ)で吸収され、材料ガス供給室に達することを防止できる。さらに、冷却ジャケット内に通気孔の屈曲部を設ける必要が無いので製造が容易で大幅なコストダウンが可能である。
【0032】
[比較例]
図8は、実施例1及び2に対する比較例であって、冷却ジャケット121内に鉛直(すなわち、基板15に垂直)方向に形成され、直線構造の、すなわち屈曲を有しない通気孔132が設けられた材料ガス噴出器112の場合を模式的に示す断面図である。図8に示すように、通気孔132の流出側開口132Oから流入側開口132Iを見通すことができるように構成されている。
【0033】
かかる材料ガス噴出器112を使用し、結晶成長を行ったところ、使用期間が3ヶ月、6ヶ月、1年と長くなると成長層のピット密度が増加する問題が発生した。そこで、使用済み材料ガス噴出器112を分解したところ、図7に示すように通気孔132の上部の第2の材料ガス供給室124の天板(材料ガス噴出器112の内壁)が汚れていることが判明した。このような汚れ(微粉末)が、材料ガスに混入して基板上に付着すると、異常成長の核となり成膜層にピットまたはヒルロック等を形成することが分かった。更に踏み込んで汚れ発生原因を調べたところ、基板15またはサセプタ14から放射された輻射熱(赤外線)が、材料ガス通気孔132から入射し、材料ガス供給室内壁を加熱した結果、材料ガスが分解生成して付着したことが判明した。
【0034】
[結晶成長及び成長層の評価結果]
実施例1及び実施例2のシャワーヘッド(材料ガス噴出器)12を備えたMOCVD装置を用いて結晶成長を行い、その成長結晶の評価を行った。以下にその結晶成長の手順、条件等を説明する。また、上述の比較例のシャワーヘッドを備えたMOCVD装置を用いて同様な結晶成長を行い、成長結晶の比較を行った。なお、実施例1、2及び比較例のシャワーヘッドを用いた結晶成長は全て同じ手順、条件で実施した。
【0035】
図9は、成長層の層構造を示す断面図である。基板15にはZnO(酸化亜鉛)基板を用い、+c面(Zn極性面)上に結晶成長を行った。有機金属材料としてCpMg(ビスシクロペンタジエニルマグネシウム)、DMZ(ジメチルジンク)を用い、水素化物材料としてHO(水蒸気)を用いた。また、n型不純物としてTMG(トリメチルガリウム)を用いた。有機金属材料ガス(第2の材料ガス)は第2の材料ガス供給管26から供給し第2の材料ガス通気孔32から噴出させ、基板に吹付けた。水素化物材料ガス(第1の材料ガス)は、第1の材料ガス供給管25から供給し第1の材料ガス通気孔31から噴出させ、基板に吹付けた。尚、前記第1及び第2の材料ガス供給管25、26には、運搬ガス(キャリアガス)としてN(窒素)ガスが常時流れている。流量は各供給管毎に、材料ガスと合わせて3L/min流した。
【0036】
次に成長手順について説明する。まず、ZnO基板15をHOガス雰囲気下で800℃に加熱し、10分間アニールした。次にDMZを10μmol/min、HOを800μmol/min供給し、コンタクト層としてZnO単結晶層51を100nm成長した。次に、基板温度を875℃にし、CpMgを1.0μmol/min、DMZを30μmol/min、HOを800μmol/min供給し、MgZnO単結晶層52を500nm成長した。
【0037】
表1に成長層の評価結果を示す。成長結晶表面のピット密度は、実施例及び比較例の場合で、数千個/平方センチ程度である。しなしながら、シャワーヘッドを約1年程度使用した後では、実施例1、2のピット密度は使用開始時と同じく数千個/平方センチ程度であるのに対して、比較例のピット密度は百万個/平方センチ程度に増加していることが分かった。
【0038】
【表1】

【0039】
図10及び図11に、それぞれ実施例2及び比較例の場合についての成長層表面の微分偏光顕微鏡像を示す。なお、シャワーヘッドの使用開始時及び1年使用した後に結晶成長した場合について、顕微鏡倍率20倍、100倍の像を示す。
【0040】
実施例2のシャワーヘッドの使用開始時及び1年使用した後に結晶成長したサンプル(図10)の偏光顕微鏡像では、ピットが観察されない、またはサイズの大きいピットが観察されるだけである。これらのサンプル全体を観察すると、ピットは略同じサイズであった。ピットサイズが同じであることは、発生時間が等しいことを意味する。すなわち、基板とZnO結晶界面を基点に発生したものである(これを表1の「基板由来のピット」として表している)。ピット密度から勘案すると、基板の欠陥または表面の研磨残渣に由来するものであると考えてよい。
【0041】
これに対して、図11に示すように、比較例のシャワーヘッドの使用開始時では実施例2と同等のピット密度また性質であるが、1年使用した後に結晶成長したサンプルの偏光顕微鏡像では、サイズの異なるピットが無数に観察された。これはピットの発生時間がランダムであることを意味する(これを表1の「ランダムピット」として表している)。すなわち、成長中の如何なる時間からでもピットが発生していると考えて良い。
【0042】
なお、バーチカル式のMOCVD装置は、ZnO系結晶成長以外にも、GaN系結晶成長、AlInGaP系結晶成長でも良好に結晶成長ができることが確認されている。従って、本発明はこれらの結晶成長系にも適用が可能である。特に、成長温度が1000℃以上で実施するGaN系には有効な方法と言える。
【0043】
以上の結果から、材料ガス噴出器(シャワーヘッド)の材料ガス通気孔を冷却器又は冷却ジャケット内で屈曲させ、基板またはサセプタから放射される輻射熱(赤外線)が材料ガス供給室に侵入することを防止でき、MOCVD装置の使用時間に関らずピット密度の低い結晶成長膜が得られることが確認された。
【0044】
なお、結晶成長プロセスに使用されるMOCVD装置を例に説明したが、CVD装置など種々のプロセスに使用される気相成膜装置及びこれに用いられる材料ガス噴出装置に適用することができる。 以上、詳細に説明したように、成膜を繰り返し実行しても、ピット密度が低く高品質な成膜を行うことができ、量産性に優れたバーチカル方式のMOCVD装置などの気相成膜装置及びこれに用いられる材料ガス噴出装置を提供できる。
【符号の説明】
【0045】
10 結晶成長装置
12 材料ガス噴出器
12A ガス噴出面
13 材料ガス供給部
14 サセプタ
15 基板
21 冷却ジャケット
23 第1の材料ガス供給室
24 第2の材料ガス供給室
31 第1の材料ガス通気孔
32 第2の材料ガス通気孔
31I、32I 流入側開口
31O、32O 流出側開口
41 冷却器
42 冷却ジャケット
43 スペ−サ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料ガス供給室と、
前記材料ガス供給室に隣接して設けられた冷却器と、
前記材料ガス供給室側に材料ガス流入開口を備え、前記冷却器を貫通して前記材料ガス供給室の反対側に材料ガス噴出開口を備える材料ガス通気孔と、を備え、
前記材料ガス通気孔は前記冷却器内部で屈曲した形状を備え、前記材料ガス噴出開口から前記材料ガス流入開口への見通し経路を有しないように形成されていることを特徴とする気相成膜装置用ガス噴出器。
【請求項2】
前記材料ガス通気孔は、前記冷却器の表面に対して鉛直方向に形成された流入側通気部及び流出側通気部と、水平方向に形成されて前記流入側通気部と前記流出側通気部とを接続する屈曲部と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の気相成膜装置用ガス噴出器。
【請求項3】
前記冷却器は、前記材料ガス供給室に隣接して設けられたスペーサと、前記スペーサに隣接して構成された冷却ジャケットと、を備え、
前記材料ガス通気孔は前記スペーサ内部で屈曲した流入側通気部と、前記冷却ジャケット内部で真っ直ぐであり前記流入側通気部につながる流出側通気部と、を備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の気相成膜装置用ガス噴出器。
【請求項4】
前記スペーサの熱伝導率は、前記冷却ジャケットの熱伝導率以上であることを特徴とする請求項3に記載の気相成膜装置用ガス噴出器。
【請求項5】
前記材料ガス供給室は、第1の材料ガスが供給される第1の材料ガス供給室と、前記第1の材料ガスとは異なる第2の材料ガスが供給される第2の材料ガス供給室とを含み、
前記材料ガス通気孔は、前記第1の材料ガス供給室に接続された第1の材料ガス通気孔と、前記第2の材料ガス供給室に接続された第2の材料ガス通気孔と、を備えることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の気相成膜装置用ガス噴出器。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の気相成膜装置用ガス噴出器と、
前記材料ガス供給室に材料ガスを供給する材料ガス供給部と、を備えることを特徴とする気相成膜装置。
【請求項7】
前記材料ガスは有機金属材料ガスであることを特徴とする請求項6に記載の気相成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−89899(P2013−89899A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231647(P2011−231647)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】