説明

気相成長装置、及び気相成長方法

【課題】気相成長時に原料ガス流量は大きく変化した場合においても、基板上において、膜質劣化のない膜体を高い再現性の下に作製することが可能な気相成長装置及び気相成長方法を提供する。
【解決手段】実施形態の気相成長装置は、ガス導入部、及びこのガス導入部と連続するようにして設けられたガス反応部を含む反応管と、前記反応管の、前記ガス反応部の内部に表面が露出し、前記表面に基板を載置及び固定するためのサセプタとを具える。また、前記反応管の前記ガス導入部において、前記反応管の高さ方向において順次に配置されてなる複数のガス導入菅と、前記反応管の外部において、前記複数のガス導入管それぞれに供給すべきガスを切り替えるための切替装置とを具える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、気相成長装置、及び気相成長方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機金属気相成長(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor deposition)法は、代表的な気相成膜法の一つであり、例えばIII族有機金属を気化させ、キャリアガス及びV族ガスとともに供給し、それを基板表面で熱的に反応させて成膜する方法である。この方法は膜厚や組成の制御が可能であり、かつ生産性に優れていることから、半導体デバイスを製造する際の成膜技術として広く用いられている。
【0003】
MOCVD法に用いられるMOCVD装置は、反応管と、反応管内に配置されたサセプタと、このサセプタ上に載置された基板表面に反応ガスを流すためのガス導入管とを備えている。MOCVD装置においては、サセプタ上に基板を載置し、基板を適当な温度に加熱し、ガス導入管を通じて基板表面に有機金属のガス等の原料ガス及び窒素ガス等のサブフローガスを導入することにより成膜が行なわれる。
【0004】
一方、MOCVD法によって複数の膜を積層させ、所定のデバイスを作製するような場合においては、同一のMOCVD装置を用いて上記複数の膜を連続して形成することになる。しかしながら、これら複数の膜は一般に成分組成が異なるため、同一のMOCVD装置を用いて上記複数の膜を連続して作製する場合、膜毎にガス導入管から反応管に導入すべき原料ガスの種類及び流量を大きく変化させることが要求される場合がある。
【0005】
特に複数のガス導入管から反応管内に導入すべき原料ガスの流量を大きく変化させると、ガス混合部での静圧のアンバランスが生じやすくなる。例えば1つのガス導入管に着目した場合において、このガス導入管から供給される原料ガスの流量を増大させると、当該ガスの流速が増大することになる。
【0006】
ガスの流速をu、ガスの密度をρ、静圧をp、全圧をp0とすると、

p = p0 - ρu2/2 (1)

の関係がある。このようにガスの流速が増大すると、このガス流の周辺の静圧が減少するため、その周囲において他のガス導入管から導入された他の原料ガスあるいはサブフローガスが、静圧差により前記ガス流に引き寄せられ、その結果として、反応管内において、原料ガス及び/又はサブフローガスの渦流が生じる場合がある。したがって、原料ガス及び/又はサブフローガスのガス流が乱され、反応管内に設置された基板上に均一に供給されなくなり、膜厚が不均一となったり、組成が不均一となったりして膜作製上の再現性が著しく低下してしまう場合があった。
【0007】
また、ガスの種類が変わる場合、ガスの密度が変化する。その場合も、静圧の変化が生じ、ガスの流れが不安定になる場合がある。
【0008】
また、上述のように原料ガス及び/又はサブフローガスのガス流の乱れによって、これらのガスが反応管の上壁面や下壁面に達し、これら上壁面及び下壁面において所定の堆積物が形成されてしまう場合がある。このような堆積物は、反応管、すなわちMOCVD装置の使用過程において剥離して、基板上に形成された膜体に付着、堆積される場合があり、膜体の膜質劣化の原因となる場合があった。
【0009】
さらに、混合部分で渦を生じる場合、原料ガスが渦内で、混合、反応し、パ−ティクルを生成する場合もある。これらのような、堆積物や、パ−ティクルは、原料ガスのロスとなり、生産性を悪化させてしまう。さらには、堆積物が生じると、反応管の温度や、反応管内の流れに経時変化が生じ、成膜の再現性を悪化させる。
【0010】
基板上に均一に原料ガス及び/又はサブフローガスを供給すべく、例えば特許文献1には、基板を載置するためのサセプタと、基板に反応ガスを導入するための通路とを備えたMOCVD装置が開示されている。また、通路は、横型三層流方式であり、サセプタの載置面に対して平行に延びている。そして、基板に最も遠い位置の通路からサブフローガスが供給され、中央の通路からIII族ガスが供給され、基板に最も近い位置の通路からIII族ガスが供給されている。
【0011】
しかしながら、上述のような技術においても、原料ガスの流量が大きく変化した際に生じるガス流の乱れを十分に抑制することは困難であり、基板上に均一に供給することも困難であった。したがって、膜作製上の再現性や、反応管壁に形成された堆積物の剥離による膜質劣化を十分に抑制することができないでいた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−16609号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、気相成長時に原料ガス、キャリアガス、サブフローガスの種類や流量が大きく変化した場合においても、基板上において、膜質劣化のない膜体を高い再現性の下に作製することが可能な気相成長装置及び気相成長方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の実施形態の気相成長装置は、ガス導入部、及びこのガス導入部と連続するようにして設けられたガス反応部を含む反応管と、前記反応管の、前記ガス反応部の内部に表面が露出し、前記表面に基板を載置及び固定するためのサセプタとを具える。また、前記反応管の前記ガス導入部において、前記反応管の高さ方向において順次に配置されてなる複数のガス導入菅と、前記反応管の外部において、前記複数のガス導入管それぞれに供給すべきガスを切り替えるための切替装置とを具える。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1の実施形態における気相成長装置の概略構成を示す断面図である。
【図2】図1に示す気相成長装置の切替装置の概略構成を示す図である。
【図3】第1の実施形態における気相成長方法に関する説明図である。
【図4】第1の実施形態における気相成長方法に関する説明図である。
【図5】第2の実施形態における気相成長装置の概略構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態における気相成長装置の概略構成を示す断面図であり、図2は、図1に示す気相成長装置の切替装置の概略構成を示す図である。
【0017】
図1に示すように、本実施形態の気相成長装置10は、ガス導入部11A、及びこのガス導入部11Aと連続するようにして設けられたガス反応部11Bを含む反応管11と、反応管11の、ガス反応部11Bの内部に表面12Aが露出してなるサセプタ12とを具える。
【0018】
図1に示すように、反応管11は、ガス導入部11A及びガス導入部11Bが横方向において連続しているので、いわゆる横型の反応管を構成する。また、サセプタ12は、図示しないヒータにより加熱され、基板Sを所定の温度にする。
【0019】
なお、反応管11において、ガス導入部11Aの高さH1はガス反応部11Bの高さh1は同じでもよいが、ガス導入部11Aの高さH1はガス反応部11Bの高さh1よりも大きい方が好ましい。ガス導入部11Aの高さH1が大きいと、流路断面積が大きくなり、流速uが小さくなる。(1)式に示されるように、流速uが小さくなると、静圧pの差を小さくすることが可能になる。
【0020】
ガス導入部11Aの高さH1とガス反応部11Bの高さh1との比(H1/h1)は約1〜5の範囲に設定されている。但し、高さH1及びh1の具体的な大きさは、基板Sの大きさや、基板Sに所定の成膜を行うためのガス流量や成長圧力等に基づいて決定する。
【0021】
また、反応管11のガス導入部11Aにおいて、反応管11の高さ方向において順次に6個のガス導入菅が配列されている。なお、これら6個のガス導入管には、下から順に参照数字“14”、“15”、“16”、“17”、“18”及び“19”が付されている(以下、第1のガス導入管14、第2のガス導入管15、第3のガス導入管16、第4のガス導入管17、第5のガス導入管18及び第6のガス導入管19と呼ぶ)。なお、ガス導入管の数は6個に限定されるものではなく、必要に応じて任意の数に設定することができる。
【0022】
また、本実施形態の気相成長装置10においては、反応管11の外部において、ガス導入管14〜19のそれぞれに供給すべきガスを切り替えるための切替装置20が取り付けられている。
【0023】
図2に示すように、切替装置20は、ガス導入管14〜19に応じて、6つの切替素子21〜26を有している。以下の説明で、キャリアガスは、原料ガスと同伴するガスを意味し、サブフローガスは、原料ガスを同伴しないガスを意味する。
【0024】
第1の切替素子21は、第1のガス導入管14に供給すべきガスを切り替えるための素子であって、第1のガス導入管14に接続されており、本実施形態では、V族ガスに同伴させるキャリアガスとしての水素ガス及び窒素ガスの流量を制御するマスフローコントローラ211及び213と、これらマスフローコントローラと第1のガス導入管14との間に設けられたバルブ212及び214とを有している。また、別途設けた原料ガス供給源から流量調整された原料ガスの例えばV族ガスに対するバルブ216を有している。
【0025】
第2の切替素子22は、第2のガス導入管15に供給すべきガスを切り替えるための素子であって、第2のガス導入管15に接続されており、本実施形態では、V族ガスに同伴させるキャリアガス、もしくはサブフローガスとしての水素ガス及び窒素ガスの流量を制御するマスフローコントローラ221及び223と、これらマスフローコントローラと第2のガス導入管15との間に設けられたバルブ222及び224とを有している。また、別途設けた原料ガス供給源から流量調整された原料ガスの例えばV族ガスに対するバルブ226を有している。
【0026】
第3の切替素子23は、第3のガス導入管16に供給すべきガスを切り替えるための素子であって、第3のガス導入管16に接続されており、本実施形態では、III族ガスに同伴させるキャリアガスとしての水素ガス及び窒素ガスの流量を制御するマスフローコントローラ231及び233と、これらマスフローコントローラと第3のガス導入管16との間に設けられたバルブ232及び234とを有している。また、別途設けた原料ガス供給源から流量調整されたキャリアガスに同伴された原料ガスとしての例えばIII族ガスに対するバルブ236を有している。
【0027】
第4の切替素子24は、第4のガス導入管17に供給すべきガスを切り替えるための素子であって、第4のガス導入管17に接続されており、本実施形態では、III族ガスに同伴させるキャリアガス、もしくはサブフローガスとしての水素ガス及び窒素ガスの流量を制御するマスフローコントローラ241及び243と、これらマスフローコントローラと第4のガス導入管17との間に設けられたバルブ242及び244とを有している。また、別途設けた原料ガス供給源から流量調整されたキャリアガスに同伴された原料ガスとしての例えばIII族ガスに対するバルブ246を有している。
【0028】
第5の切替素子25は、第5のガス導入管18に供給すべきガスを切り替えるための素子であって、第5のガス導入管18に接続されており、本実施形態では、サブフローガスとしての水素ガス及び窒素ガスの流量を制御するマスフローコントローラ251及び253と、これらマスフローコントローラと第5のガス導入管18との間に設けられたバルブ252及び254とを有している。
【0029】
第6の切替素子26は、第6のガス導入管19に供給すべきガスを切り替えるための素子であって、第6のガス導入管19に接続されており、本実施形態では、サブフローガスとしての水素ガス及び窒素ガスの流量を制御するマスフローコントローラ261及び263と、これらマスフローコントローラと第6のガス導入管19との間に設けられたバルブ262及び264とを有している。
【0030】
次に、図1及び図2に示す気相成長装置10を用いた気相成長方法について説明する。図3及び図4は、本実施形態の気相成長方法に関する説明図である。
【0031】
なお、本実施形態では、気相成長装置10の特徴及び以下に説明する気相成長方法の特徴を明確にすべく、原料ガスとしてトリメチルガリウム(TMG、Ga(CH33)のIII族ガス及びアンモニア(NH)のV族ガスを使用して、基板S上にGaN膜を形成する場合について説明する。また、本実施形態では、主としてV族ガスとしてのNHガスの流量を大きく変化させた場合について説明する。
【0032】
例えば、サファイア基板上に青色発光素子を形成する場合に、低温バッファGaN層、高温GaN層、シリコンドープGaN層、活性層バリアGaN層、マグネシウムドープGaN層等のGaN層を形成する必要があり、適切なNHガスの流量はそれぞれのGaN層で異なることがある。
【0033】
TMG及びNHを用いてGaN膜を形成する場合、図3及び図4に示すように、TMGに関するガス導入部をNHに対するガス導入部よりも基板Sから離れている方に設置する。また、TMGに関するガス導入部の基板Sから離れている方にサブフローガスとしての窒素ガス等のガス導入部を設置する。図3及び図4のIII族ガスはTMGとTMGとに同伴するキャリアガスを意味する。また、NH3はNH3のみ、若しくはNH3とキャリアガスを意味する。
【0034】
これは、NHに対するガス導入部が基板Sに近い側にあると、基板S表面でのNH分圧を、供給される全てのガスが混合した場合、NH分圧をより高くすることが可能になるためである。基板S表面でのNH分圧が高い方が結晶性のよいGaNの膜を形成できる場合がある。
【0035】
また、TMGが基板Sの上流側の高温部分に供給されると、TMGの分解物や、GaN膜が基板Sの上流側に堆積し、TMGが無駄に消費されてしまうが、TMGに関するガス導入部がNHに対するガス導入部よりも基板Sから離れているため、TMGはNHの流れを拡散しなければ、反応管11の下壁面へ到達しないため、基板Sの上流側の高温部分でのTMGの消費を低減させることが可能になる。
【0036】
さらには、TMGに関するガス導入部の基板Sから離れている方にサブフローガスが供給されると、TMGはサブフローガスの流れを拡散しなければ反応管11の上壁面へ到達しないため、反応管11の上壁面でのTMGの消費や、反応管11の上壁面への堆積物を低減させることが可能になる。このような効果は、ガス混合部での流れが乱れていない場合に顕著となる。ガス混合部で渦が発生するような場合は、例えば、NHガスは他のガスと混合して、基板S表面でのNH分圧は低下する。また、TMGは混合により、反応管11の壁面へ到達しやすくなるとともに、TMG分圧が低下し、基板S表面への拡散も低下してしまう。
【0037】
なお、上述のように反応管11の壁面に堆積物が形成されると、この堆積物は反応管11、すなわち気相成長装置10の継続的な使用に伴う加熱及び冷却等の影響を受けて剥離し、形成過程あるいは形成後の膜体(本実施形態ではGaN膜)上に付着し、このGaN膜の特性を劣化させてしまうことになる。
【0038】
したがって、本実施形態では、上述した不都合を回避すべく、TMGに関するガス導入部をNHに対するガス導入部を基板Sから離れている方に設置し、TMGに関するガス導入部の基板Sから離れている方にサブフローガスとしての窒素ガス等のガス導入部を設置する。
【0039】
以上のような実情を鑑みて、図3においては、第1のガス導入管14に接続された切替装置20の第1の切替素子21からNHガスを反応管11のガス導入部11Aに供給し、第2のガス導入管15に接続された切替装置20の第2の切替素子22からサブフローガスとしての窒素ガスを反応管11のガス導入部11Aに供給する。
【0040】
また、第3のガス導入管16に接続された切替装置20の第3の切替素子23からTMGとキャリアガスとを反応管11のガス導入部11Aに供給し、第4のガス導入管17に接続された切替装置20の第4の切替素子24からサブフローガスとしての窒素ガスを反応管11のガス導入部11Aに供給する。
【0041】
さらに、第5のガス導入管18に接続された切替装置20の第5の切替素子25からサブフローガスとしての窒素ガスを反応管11のガス導入部11Aに供給し、第6のガス導入管19に接続された切替装置20の第6の切替素子26からサブフローガスとしての窒素ガスを反応管11のガス導入部11Aに供給する。
【0042】
この場合において、第1の切替素子21及び第1のガス導入管14から所定の流量でNHを反応管11のガス導入部11Aに供給するとともに、第3の切替素子23及び第3のガス導入管16から所定の流量でTMGとキャリアガスとを反応管11のガス導入部11Aに供給する。さらに、第2の切替素子22及び第2のガス導入管15、第4の切替素子24及び第4のガス導入管17、第5の切替素子25及び第5のガス導入管18、並びに第6の切替素子26及び第6のガス導入管19から、所定の流量でサブフローガスとしての窒素ガスを所定の流量で反応管11のガス導入部11Aに導入する。
【0043】
本実施形態では、反応管11のガス導入部11Aの高さH1が反応管11のガス反応部11Bの高さhよりも大きくなっているので、反応管11内に導入されたNH、TMGとキャリアガス及び窒素ガスは、ガス導入部11Aでそれぞれの流速が低くなっており、これらのガスは当該ガス導入部11Aにおいて層流状態で流れる。その後、ガスが、ガス反応部11Bに流れると、流路断面積が小さくなることと、ガス温度上昇に伴う体積膨張とで流速が高くなる。流路断面積が小さくなることにより、TMGの基板S上への拡散距離が小さくなるため、効率的にTMGが基板S上に供給される。層流状態で流れるため、基板S表面でのNH分圧を高く保つことができる。これによって、基板S上にはGaN膜が所定の厚さで形成されることになる。基板Sは回転していてもよい。
【0044】
なお、反応管11に導入する際のNH、TMGとキャリアガス及び窒素ガスは、一部のガスの流速が大きくなってガス流の乱れを生じないように、それぞれ所定の流速に設定する。
【0045】
次に、基板S上にGaN膜を形成する際、反応管11内に導入するNHを、図3に示す状態(条件)から大幅に増大させる場合を考える。例えば、図3に示す状態(条件)から2倍量のNHを導入することを考えると、図3に示す状態の場合では、第1の切替素子21及び第1のガス導入管14から導入するNHの流速を2倍にしなければならない。
【0046】
すると、NHのガス流速が2倍になるため、(1)式の関係でNHのガス流の静圧が減少するため、その周囲においてTMGとキャリアガスやサブフローガスが、前記ガス流に引き寄せられ、その結果として、反応管11内において、NH、TMGとキャリアガス及び/又はサブフローガスの渦流が生じる場合がある。この場合、例えば、NHガスは他のガスと混合して、基板S表面でのNH分圧は低下する。また、TMGは混合により、反応管11の壁面へ到達しやすくなるとともに、TMG分圧が低下し、基板S表面への拡散も低下してしまう。
【0047】
また、上述のようにNH、TMG及び/又はサブフローガスのガス流の乱れによって、これらのガスが反応管11、特に高さが低くなっているガス反応部11Bの上壁面や下壁面に達し、これら上壁面及び下壁面において堆積物が形成されてしまう場合がある。このような堆積物は、反応管11、すなわちMOCVD装置10の使用過程において剥離して、基板S上に形成されたGaN膜あるいは形成過程にあるGaN膜に付着、堆積される場合があり、GaN膜の膜質劣化の原因となる。
【0048】
したがって、上述のようにNHガスの流量を2倍にするに際しては、上述のように流速を2倍にする代わりに、第2のガス導入管15に接続された、切替装置20の第2の切替素子22のバルブ224を閉、バルブ226を開として、第2のガス導入管15からもNHガスを反応管11のガス導入部11A内に導入するようにする。
【0049】
この場合、図4に示すように、反応管11のガス導入部11Aには、第1の切替素子21及び第1のガス導入管14、並びに第2の切替素子22及び第2のガス導入管15を介してNHガスが導入されるようになる。すなわち、図3に示す1つの切替素子及びガス導入管からNHガスが供給される代わりに、2つの切替素子及びガス導入管からNHガスが供給されるようになる。
【0050】
したがって、NHガスの流量を2倍にした場合においても、図3に示すような状態(条件)、すなわち各切替素子及び各ガス導入管からのNHガスの流速を図3に示すような状態(条件)を保持したまま、反応管11のガス導入部11Aに導入することが可能となる。このため、NHのガス流の周辺の静圧の変化を低減することができ、その周囲においてTMGとキャリアガスやサブフローガスが、渦を生じることを防ぐことができる。
【0051】
その結果、反応管11内において、NH、TMGとキャリアガス及び/又はサブフローガスの渦流が生じることもなく、反応管11のガス反応部11B内に設置された基板S表面でのNH分圧を、高く維持し結晶性のよいGaNの膜を形成できる。また、TMGの無駄な消費や、TMG分圧の低下を抑制することができる。
【0052】
また、NH、TMGとキャリアガス及び/又はサブフローガスが反応管11、特に高さが低くなっているガス反応部11Bの上壁面や下壁面に達し、堆積物が形成されてしまうようなことも低減でき、基板S上に形成されたGaN膜の膜質劣化も抑制することができる。
【0053】
なお、以上においては、NHのガス流量を2倍にする場合について述べたが、例えば3倍にする場合においても、例えば切替装置20における第5の切替素子25のサブフローガスである窒素ガスあるいは水素ガスの代わりに、NHを用いることによって、図4に関して説明したのと同じ手法で、ガス流を乱すことなく、形成すべき基板S上に原料ガス及びサブフローガスを均一に供給することができ、GaN膜の膜作製の再現性を向上させ、さらには膜質劣化を抑制することができる。
【0054】
また、基板S上にGaN膜を形成する際、反応管11内に導入するTMGとキャリアガスを、図3に示す状態(条件)から大幅に増大させる場合、例えば、図3に示す状態(条件)から2倍量のTMGとキャリアガスを導入する場合についても、NHの場合と同様にして考えることができる。
【0055】
この場合は、第4のガス導入管17に接続された、切替装置20の第4の切替素子24のバルブ246を開として、第4のガス導入管17からもTMGとキャリアガスを反応管11のガス導入部11A内に導入するようにする。
【0056】
この場合、反応管11のガス導入部11Aには、第3の切替素子23及び第3のガス導入管16、並びに第4の切替素子24及び第4のガス導入管24を介してTMGが導入されるようになる。すなわち、図3に示す1つの切替素子及びガス導入管からNHガスが供給される代わりに、2つの切替素子及びガス導入管からTMGとキャリアガスが供給されるようになる。
【0057】
したがって、TMGとキャリアガスの流量を2倍にした場合においても、図3に示すような状態(条件)、すなわち各切替素子及び各ガス導入管からのTMGとキャリアガスの流速を図3に示すような状態(条件)を保持したまま、反応管11のガス導入部11Aに導入することが可能となる。このため、TMGとキャリアガスのガス流の周辺の静圧低下が抑制され、その周囲においてNHやサブフローガスが、前記ガス流に引き寄せられることもない。
【0058】
その結果、反応管11内において、NH、TMG及び/又はサブフローガスの渦流が生じることもなく、反応管11のガス反応部11B内に設置された基板S上に、これらのガスを再現性良く供給することができ、形成すべきGaN膜の膜作製上の再現性が向上する。
【0059】
また、反応管11、特に高さが低くなっているガス反応部11Bの上壁面や下壁面に堆積物の形成を抑制し、当該堆積物剥離によるGaN膜の膜質劣化も抑制することができる。
【0060】
さらに、図2に示すように、第1の切替素子21〜第6の切替素子26は、それぞれサブフローガスやキャリアガスとして、バルブ212及び214等を切り替えることにより、窒素ガスの代わりに、水素ガスを反応管11のガス導入部11A内に導入することができる。このような切替は、ガスの密度ρの低下により、(1)式に示される静圧の減少を低下させたり、TMGの気相中の拡散係数が大きくなるため、TMGの基板Sへの拡散速度を向上させる効果がある。GaN膜の平坦性を向上させるために、マスフローコントローラにより適切な窒素ガスと、水素ガスの混合ガスを用いてもよい。
【0061】
以上においては、III族ガスとしてTMG、V族ガスとしてNHの場合について説明したが、III族ガスとしては、TMG以外にトリメチルインジウム(TMI、In(CH)、トリメチルアルミニウム(TMA、Al(CH)等を挙げることができ、V族ガスとしては、NH以外にターシャルブチルアミン(t−CNH)、モノメチルヒドラジン(N(CH))、,アルシン(AsH)、ホスフィン(PH)等を挙げることができる。n型のドーパントとしてはシラン(SiH)、p型のドーパントとしてはジシクロペンタジニエルマグネシウム((CMg)を用いる。
【0062】
InGaN層を成長させる場合には、IIIガスとして、TMGとTMIとを用いる。AlGaN層を成長させる場合は、III族ガスとして、TMGとTMAとを用いる。GaAsを成長させる場合は、V族ガスとして、AsHを用いる。
【0063】
また、上述したIII族ガス及びV族ガス以外に、ジメチル亜鉛(Zn(CH)等のII族ガス、メタン(CH)等のIV族ガス、セレン化水素(HSe)等のVI族ガスを用いることもできる。
【0064】
ZnSeを成長させる場合、Zn(CHとHSeを用いる。カーボン等の膜を成長する場合にCHを用いる。
【0065】
さらに、サブフローガスとしては窒素ガス、水素ガス以外に、アルゴンガスなども用いることができる。
【0066】
また、本実施形態においては、NHの流量を代えて同じGaN膜を形成する場合について説明したが、異なる組成、例えばInGaN膜を形成する場合等に、NHの流量を上述のように代えてもよい。また、流量の変化は2倍でなくてもよく、任意の流量変化をさせる場合に、ガスの混合部分で、流れの乱れが低減するように供給するガスの種類と流量を設定する。
【0067】
(第2の実施形態)
図5は、本実施形態における気相成長装置の概略構成を示す断面図である。
図5に示すように、本実施形態の気相成長装置30は、ガス導入部31A、及びこのガス導入部31Aと連続するようにして設けられたガス反応部31Bを含む、いわゆるパンケーキ型またはプラネタリー型の反応管31と、反応管31の、ガス反応部31Bの内部に表面32−nAが露出し、さらにパンケーキ型またはプラネタリー型の反応管31の中心軸I-Iに対して、同心状に配列されてなるサセプタ32−nとを具える。また、サセプタ32−n上には、それぞれ基板Snが載置されている。図示しないテーブルに32−nは保持され、図示しないヒータによりテーブル及びサセプタ32−nが加熱され、基板Snが所定の温度に保持される。自公転型の場合は、図示しないテーブルが公転し、サセプタ32−nが自転するが、自転や公転はしてもしなくてもよい。
【0068】
本実施形態における気相成長装置30の反応管31はパンケーキ型またはプラネタリー型を構成するので、特に図示しないものの、基板は、反応管31の外周面に沿って円形に複数配列されることになる。したがって、符号“n”は、このようにして配列される基板の数を表すものであり、サセプタに付された符号“32−n”も、基板を支持固定するサセプタは、基板の数と同じだけ必要となることから、上記基板の数に併せ、基数32に対して枝番として“n”を付加して、互いに識別させたものである。
【0069】
なお、本実施形態の気相成長装置30において、反応管31はパンケーキ型またはプラネタリー型をなすことから、反応管31は、反応管31の中心部にガス導入部31Aから下方に突出したガス導入延在部31Cを有し、反応管31に対する原料ガス及びサブフローガスは、ガス導入延在部31Cに設けられた第1のガス導入管34〜第6のガス導入管39を介してガス導入部31A内に導入される。第1のガス導入管34〜第6のガス導入管39は、ガス導入延在部31Cにおいて、これらのガス導入管34〜39が、ガス導入部31Aの基板Snに近い側から順次ガスを供給するように配列されるようにして設けられている。
【0070】
また、反応管31はパンケーキ型もしくはプラネタリー型を呈しているので、本実施形態では、気相成長装置及び気相成長方法の特徴を明確にすべく、反応管31の中心線I−Iの右側断面について説明するが、反応管31の中心線I−Iに対して軸対称の構成となっており全ての断面でほぼ同じ現象となる。
【0071】
なお、反応管31において、ガス導入部31Aの高さH2はガス反応部11Bの高さh2と同じでもよいが、ガス導入部31Aの高さH2はガス反応部31Bの高さh2よりも大きい方が好ましい。ガス導入部31Aの高さH2とガス反応部31Bの高さh2との比(H2/h2)は約1〜5の範囲に設定されている。但し、高さH2及びh2の具体的な大きさは、基板Sの大きさや、基板Sに所定の成膜を行うためのガス流量や成長圧力等に基づいて決定する。
【0072】
パンケーキ型もしくはプラネタリー型のガス導入部31Aの半径は、基板Snがある部分の半径より小さいため、ガス導入部31Aのガスが流れる流路断面積は基板Snがある部分の断面積より小さく、ガス導入部31Aのガス流速uは早くなる。そのため、(1)式で示される静圧pの減少は第1の実施形態に示した横型の反応管の場合より大きくなる。そのために、ガス導入部31Aの高さを高くして、流速uを減少させ、ガス混合部での静圧のアンバランスを低減させる効果はパンケーキ型もしくはプラネタリー型の方が横型の反応管よりも大きい。
【0073】
本実施形態の気相成長装置30においても、反応管31の外部において、ガス導入管34〜39のそれぞれに供給すべきガスを切り替えるための切替装置20が取り付けられている。したがって、第1の実施形態で説明したように、NHの流量を2倍にする場合においては、その流速を2倍にする代わりに、第2のガス導入管35に接続された、切替装置20の第2の切替素子22のバルブ224を閉、バルブ226を開として、第2のガス導入管35からもNHガスを反応管11のガス導入部11A内に導入するようにする。
【0074】
この場合、反応管31のガス導入部31Aには、第1の切替素子21及び第1のガス導入管34、並びに第2の切替素子22及び第2のガス導入管35を介してNHガスが導入されるようになる。すなわち、2つの切替素子及びガス導入管からNHガスが供給されるようになる。
【0075】
したがって、NHガスの流量を2倍にした場合においても、当該NHを、その流速を変えることなく、反応管31のガス導入部31Aに導入することが可能となる。このため、NHのガス流の静圧の変化を低減することができ、その周囲においてTMGやサブフローガスが、渦を生じることを防ぐことができる。
【0076】
その結果、反応管31内において、NH、TMGとキャリアガス及び/又はサブフローガスの渦流が生じることもなく、反応管31のガス反応部31B内に設置された基板Sn表面でのNH分圧を、高く維持し結晶性のよいGaNの膜を形成できる。また、TMGの無駄な消費や、TMG分圧の低下を抑制することができる。
【0077】
また、NH、TMGとキャリアガス及び/又はサブフローガスが反応管31、特に高さが低くなっているガス反応部31Bの上壁面や下壁面での堆積物の形成を抑制でき、基板Sn上に形成されたGaN膜の膜質劣化も抑制することができる。
【0078】
なお、TMGの場合についても第1の実施形態と同様であり、その他の特徴及び利点についても、上記第1の実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0079】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として掲示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0080】
10,30 気相成長装置
11,31 反応管
11A,31A ガス導入部
11B、31B ガス反応部
14、34 第1のガス導入管
15,35 第2のガス導入管
16,36 第3のガス導入管
17,37 第4のガス導入管
18,38 第5のガス導入管
19,39 第6のガス導入管
20 切替装置
21 第1の切替素子
22 第2の切替素子
23 第3の切替素子
24 第4の切替素子
25 第5の切替素子
26 第6の切替素子
31C ガス導入延在部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス導入部、及びこのガス導入部と連続するようにして設けられたガス反応部を含む反応管と、
前記反応管の、前記ガス反応部の内部に表面が露出し、前記表面に基板を載置及び固定するためのサセプタと、
前記反応管の前記ガス導入部において、前記反応管の高さ方向において順次に配置されてなる複数のガス導入菅と、
前記反応管の外部において、前記複数のガス導入管それぞれに供給すべきガスを切り替えるための切替装置と、
を具えることを特徴とする、気相成長装置。
【請求項2】
前記切替装置は、前記複数のガス導入菅それぞれに供給すべき原料ガス、キャリアガス及びサブフローガスの切り替えを行い、前記反応管の前記ガス導入部に供給する前記原料ガスの流量を制御するように構成したことを特徴とする、請求項1に記載の気相成長装置。
【請求項3】
前記反応管の前記ガス導入部の高さが、前記反応管のガス反応部の高さよりも大きいことを特徴とする、請求項1又は2に記載の気相成長装置。
【請求項4】
前記原料ガスは、II族ガス、III族ガス、IV族ガス、V族ガス及びVI族ガスからなる群より選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載の気相成長装置。
【請求項5】
前記サブフローガス及びキャリアガスは、窒素ガス、水素ガス及びアルゴンガスからなる群より選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一に記載の気相成長装置。
【請求項6】
前記反応管は、横型又はパンケーキ型若しくはプラネタリー型であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一に記載の気相成長装置。
【請求項7】
ガス導入部、このガス導入部と連続するようにして設けられたガス反応部を含む反応管の、前記ガス反応部の内部に表面が露出したサセプタ上に基板を載置及び固定する工程と、
前記反応管の前記ガス導入部において、前記反応管の高さ方向において順次に配置されてなる複数のガス導入菅それぞれから、原料ガス、キャリアガス及びサブフローガスを前記反応管の前記ガス導入部に供給し、前記基板上において第1の膜体を形成する工程と、
前記反応管の外部に設けられた前記複数のガス導入管それぞれに供給すべきガスを切り替えるための切替装置によって、前記複数のガス導入菅それぞれに供給すべき原料ガス、キャリアガス及びサブフローガスの切り替えを行い、前記反応管の前記ガス導入部に供給する前記原料ガスの流量を制御し、前記基板の前記第1の膜体上に第2の膜体を形成する工程と、
を具えることを特徴とする、気相成長方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−190902(P2012−190902A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51549(P2011−51549)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】