説明

気相成長装置、III族窒化物半導体基板の製造方法、III族窒化物半導体基板

【課題】 優れた膜質の膜を成膜することができ、さらには、膜厚の制御性に優れた気相成長装置を提供すること。
【解決手段】反応ガス生成部11と、反応部15との間には配管17が配置されている。また、配管17のバルブ171よりも反応ガス生成部11側には、配管18が接続されている。配管17により、反応ガス供給路R1が形成される。この反応ガス供給路R1は、反応ガス生成部11〜13で生成した反応ガスを反応部15に供給するため経路である。
配管17および配管18により、排気経路R2が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気相成長装置、III族窒化物半導体基板の製造方法、III族窒化物半導体基板
に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、気相成長装置としては、例えば、特許文献1に記載されたものがある。
図4に示すように、この気相成長装置9は、ハイドライド気相成長法(HVPE)を用いた窒化ガリウム系半導体の成長装置であり、結晶成長容器91と、塩化水素(HCl)ガスを導入するための第1の導入管92と、アンモニア(NH)ガスを導入するための第2の導入管93と、基板Sを保持する基板保持具94とを備える。
結晶成長容器91の側面にはガスの排気口95が穿設されており、第1の導入管92にはガリウム(Ga)原料を載置する原料載置部921が設けられている。さらに、結晶成長容器91の外周には、結晶成長容器91内の空間を加熱する抵抗加熱ヒータ96が設けられている。同文献記載の気相成長装置では、ガリウムとHClガスとを反応させて反応ガスとなる塩化ガリウム(GaCl)ガスを生成させた後、これをNHガスに満たされた空間に供給する。そして、かかる空間においてGaClガスとNHガスとを反応させ、その生成物である窒化ガリウム(GaN)膜を基板S表面に堆積させる。
【0003】
【特許文献1】特開2002−305155号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の気相成長装置9は、以下の点で改善の余地を有している。
GaClガスの生成を開始する際には、第1の導入管92にHClガスを供給するが、HClガスと、Ga原料とは徐々に反応し、生成量が安定するまでには時間がかかる。そのため、GaClガスの生成開始直後では、所望の量のGaClガスを供給することが困難となる。
結晶成長容器91中で、GaClガスと、NHガスとの比率が設定通りの比率とならない場合には、所望の膜質のGaN膜を得ることが難しい。
また、供給されるGaClガスの量が徐々に変化するような場合には、GaN膜の成膜速度がばらつくこととなるので、GaNの膜厚を所望の厚みに制御することが難しくなる。
【0005】
本発明の目的は、所望の膜質の膜を成膜することができ、さらに、膜厚の制御性に優れた気相成長装置、この気相成長装置を用いたIII族窒化物半導体基板の製造方法、およびIII族窒化物半導体基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、反応ガスを生成する反応ガス生成部と、前記反応ガス生成部で生成した反応ガスと、この反応ガスとは異なる他の反応ガスとを反応させて、基板上に膜を成膜する反応部と、前記反応ガス生成部で生成した前記反応ガスを前記反応部に供給するための反応ガス供給路と、前記反応ガス生成部で生成された前記反応ガスを、前記反応部外に排気する排気経路と、前記反応ガスの流路を、前記反応ガス供給路又は前記排気経路に切替える切り替え手段とを備えることを特徴とする気相成長装置を提供することができる。
【0007】
この構成によれば、気相成長装置には、反応ガス生成部で生成された反応ガスを反応部に供給するための反応ガス供給路と、反応ガス生成部で生成された反応ガスを反応部外に排気する排気経路とが形成されており、反応ガスの流路を、反応ガス供給路又は排気経路に切替える前記切り替え手段が設けられている。
そのため、反応ガス生成部で反応ガスの生成を開始した直後から、反応ガスの生成が安定するまでの間、排気経路から反応ガスを排気することができる。そして、反応ガスの生成が安定したら、切り替え手段により、反応ガスの流路を反応ガス供給路に切り替え、反応部に反応ガスを供給することができる。
これにより、反応部中において、他の反応ガスに対する、反応ガス生成部で生成された反応ガスの比率を所定の値に保つことができ、所望の膜質の膜を成膜することができる。
さらに、反応ガスの生成が安定した後、反応部に反応ガスを供給することができるので成膜速度のばらつきを防止することができ、成膜速度を容易に制御することが可能となる。
【0008】
本発明では、前記反応ガス生成部は、前記反応ガスの原料を載置する原料載置部と、この原料載置部を収容するとともに、前記原料載置部に載置された原料と反応して前記反応ガスを生成するための原料ガスが導入される生成管とを備えることが好ましい。
【0009】
さらに、本発明では、2以上の前記反応ガス生成部と、前記各反応ガス生成部からの反応ガスを前記反応部に供給するための前記反応ガス供給路と、各前記反応ガス生成部で生成された前記反応ガスを前記反応部外部に排気する前記排気経路と、各前記反応ガス生成部で生成された前記反応ガスの流路を、前記反応ガス供給路又は前記排気経路に切替える切り替え手段とを備え、前記各反応ガス生成部では、それぞれ異なるIII族元素を含む反応ガスが生成されることが好ましい。
【0010】
この構成の気相成長装置では、異なる複数のIII族元素を有する膜を成膜することができる。例えば、AlGaN膜や、AlGaInN膜等の複数のIII族元素を含むIII族窒化物半導体膜を成膜することができる。
ここで、このような複数のIII族元素を含む膜を成膜する場合において、III族元素の組成比の異なる層を積層することがある。
例えば、基板上に所定の組成比の第一の層を形成した後、第一の層上に、III族元素の組成比が異なる第二の層を形成することがある。この場合には、第一の層を形成した後に、少なくとも一つの反応ガス生成部で、III族元素の反応ガスの生成量を調整し、反応部に供給される反応ガスの流量を制御し、第二の層を形成する。
反応ガス生成部での反応ガスの生成量の調整を開始した直後では、反応ガスの生成量が過渡的に変化する。反応ガスの生成量が安定しない状態で、反応ガスを反応部に供給してしまうと、第一の層の組成比と、第二の層の組成比との差が明確なものにならないことがある。
これに対し、本発明では、反応ガス生成部での反応ガスの生成が安定するまでの間、排気経路から反応ガスを排気することができるので、第一の層の組成比と、第二の層の組成比との差が明確なIII族窒化物半導体膜を得ることができる。
【0011】
さらに、本発明では、前記排気経路から、前記反応ガス生成部で生成された前記反応ガスを排気する際に、前記反応部内に非反応性のガスを供給する供給手段とを備えることが好ましい。
前述したように、第一の層上に、第一の層とはIII族元素の組成比が異なる第二の層を形成する場合において、第一の層を形成した後、反応ガス生成部での反応ガスの生成が安定するまでの間、排気経路から反応ガスを排気することがある。このような場合に、反応部内に非反応性のガスを供給することで、反応部内に流入するガス流量や圧力を一定に保つことができる。
【0012】
さらに、本発明では、前記反応ガス供給路に接続され、前記反応ガス供給路中を流れる前記反応ガスの流速を調整する流速調整手段を備えることが好ましい。
この構成によれば、反応ガス供給路中を流れる反応ガスの流速を調整する流速調整手段を備えているので、反応ガスを速やかに反応部に供給することができる。
【0013】
さらに、本発明では、ハイドライド気相成長を行う装置であることが好ましい。
また、本発明によれば、上述した気相成長装置を用い、前記反応ガス生成部において、III族元素を含む前記反応ガスを生成させ、前記反応部において、前記III族元素を含む反応ガスと、前記他の反応ガスとしての水素化窒素ガスを含む反応ガスとを反応させ、前記基板上に、III族窒化物半導体膜を成長させ、前記III族窒化物半導体膜を含むIII族窒化物基板を得る工程を含む、III族窒化物半導体基板の製造方法を提供することができる。
この際、前記III族窒化物半導体膜を成長させた後、前記基板を除去する工程をさらに含むことが好ましい。
さらには、本発明によれば、上述したIII族窒化物半導体基板の製造方法により得られたIII族窒化物半導体基板も提供することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、所望の膜質の膜を成膜することができ、さらに、膜厚の制御性に優れた気相成長装置、この気相成長装置を用いたIII族窒化物半導体基板の製造方法、およびIII族窒化物半導体基板が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
本実施形態においては、HVPE法により、基板上にAlGaInN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、x+y+z=1)の膜を成長させる場合を例にとって説明する。
図1には、本実施形態の気相成長装置1が示されている。また、図2には、気相成長装置1の模式図が示されている。
図1および図2に示すように、気相成長装置1は、ハイドライド気相装置であり、複数の反応ガス生成部11〜13と、反応ガスを予熱する反応ガス予熱部14と、前記反応ガス生成部11〜13からの反応ガス、および反応ガス予熱部14からの反応ガスが供給される反応部15と、この反応部15内のガスを排気するための排気部16とを有する。
【0016】
反応部15は、図3に示すように、円筒状の反応炉150と、この反応炉150の内部に配置された一対の基板保持部材151とを有する。
基板保持部材151は、基板Sを保持するものである。この基板保持部材151は、両端が開口した円筒状の壁部151Aと、この壁部151Aの一方の開口をふさぐように設けられた基板保持面部151Bとを有する。
壁部151Aの内側には、ヒータHが設置されている。なお、図3の符号H1は、ヒータHの電極である。
【0017】
基板保持面部151Bは、平面略円形形状の平板であり、基板保持面部151Bには、複数の凹部あるいは、開口部が形成されている。この凹部あるいは、開口部は、基板Sを保持する保持部である。本実施形態では、基板保持面部151Bには、3つの保持部が形成されており、基板保持面部151Bには、3枚の基板Sが保持されている。
詳しくは後述するが、この基板保持面部151Bに保持された基板Sには、複数の反応ガスが相異なる方向から供給される。
基板保持部材151は、図示しない回転駆動手段により、その中心軸を回転軸として回転可能に構成されている。基板保持部材151の材料としては、例えば、炭化ケイ素、窒化アルミニウム又は窒化ケイ素でコーティングされたカーボン等を用いることができる。
なお、一対の基板保持部材151は、各基板保持面部151Bが対向するように設置されている。基板保持面部151B間の寸法、すなわち、基板S表面上の空間高さ寸法は、基板保持面部151Bの直径以下となっている。
【0018】
反応ガス生成部11は、反応ガスとしての塩化アルミニウム(AlCl)ガスを生成するためのものである。
この反応ガス生成部11は、図2にも示すように、反応ガスの固体原料MであるAl原料を載置する原料載置部111と、この原料載置部111を収容する生成管112とを備える。生成管112は、略円筒形状であるが、反応部15側の先端部が縮径している。
この生成管112内には、AlClガスを生成するための原料ガスであるHClガスが供給される。
生成管112の外周には、ここでは図示しないが、ヒータが設置されており、生成管112内部は加熱されている。
【0019】
反応ガス生成部12は、反応ガスとしての塩化ガリウム(GaCl)ガスを生成するためのものである。反応ガス生成部12の構成は、反応ガス生成部11と同様である。なお、反応ガス生成部12の原料載置部には、反応ガスの固体原料であるGa原料が載置される。
また、反応ガス生成部13は、反応ガスとしての塩化インジウム(InCl)ガスを生成するためのものである。反応ガス生成部13の構成も、反応ガス生成部11と同様である。なお、反応ガス生成部13の原料載置部には、反応ガスの固体原料であるIn原料が載置される。
【0020】
図1及び図2に示すように、反応ガス生成部11〜13と、反応部15とは、それぞれ配管17を介して接続されている。
この配管17には、バルブ171が設けられている。配管17の周囲には図示しないが、ヒータが配置されている。
また、配管17には、配管18が接続されている。配管18は、配管17のバルブ171よりも、反応ガス生成部11〜13側の部分に接続されている。また、配管18にもバルブ181が設けられている。
【0021】
ここで、本実施形態では、反応ガス生成部11〜13と、反応部15とを接続する配管17により、反応ガス供給路R1が形成される。この反応ガス供給路R1は、反応ガス生成部11〜13で生成した反応ガスを反応部15に供給するため経路である。
また、配管17および配管18により、排気経路R2が形成される。
この排気経路R2は、反応ガス生成部11〜13で生成された反応ガスを、反応部15外部に排気するための経路である。
バルブ171、181は、反応ガス生成部11〜13で生成された反応ガスの流路を反応ガス供給路R1又は排気経路R2に切替える切り替え手段としての役割を果たしている。
【0022】
さらに、各配管17には、図2に示すように、反応ガス供給路R1中を流れる反応ガスの流速を調整する流速調整手段19が接続されている。
なお、図2には、反応ガス生成部11に接続された配管17に接続された流速調整手段19のみが示されているが、反応ガス生成部12〜13に接続された配管17にも、流速調整手段19が接続されている。
この流速調整手段19は、配管17、すなわち、反応ガス供給路R1に接続され、反応ガス供給路R1中にキャリアガスを供給する配管191と、この配管191内にキャリアガスを送り込む送気手段(図示略)とを有する。配管191にはバルブ191Aが取り付けられている。
【0023】
さらに、図2に示すように、各配管17には、排気経路R2から反応ガスを排気する際に、反応部15内に非反応性のガスであるパージガスを供給するパージガス供給手段20(供給手段)が接続されている。
このパージガス供給手段20は、配管17のバルブ171よりも反応部15側の部分に接続された配管201と、この配管201内にパージガスを送り込む送気手段(図示略)とを有する。配管201には、バルブ201Aが取り付けられている。
ここで、図2には、反応ガス生成部11に接続された配管17に接続されたパージガス供給手段20のみが示されているが、反応ガス生成部12〜13に接続された配管17にも、パージガス供給手段20が接続されている。
なお、図1では、図面の見易さを考慮し、流速調整手段、供給手段を図示していない。
【0024】
反応ガス予熱部14は、アンモニア(NH)ガス(反応ガス生成部11〜13で生成された反応ガスとは異なる他の反応ガス)を予熱するものである。この反応ガス予熱部14は、配管21を介して、反応部15に接続されている。配管21にもバルブ211が取り付けられている。
【0025】
以上のような反応ガス生成部11〜13、反応ガス予熱部14は、反応部15の外周を取り囲むように配置されている(図1参照)。従って、反応部15内には、複数の反応ガスが相異なる方向から供給され、基板Sには、複数の反応ガスが相異なる方向から供給されることとなる。
【0026】
このような気相成長装置1では、以下のようにして基板S上にIII族窒化物半導体膜であるAlGaInN膜(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、x+y+z=1)を成膜し、AlGaInN基板を得る。
ここでは、AlGaInN膜(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、x+y+z=1)として、Inの組成z=0である、AlGaN膜(0<x<1、0<y<1、x+y=1)を成膜し、AlGaN基板を製造する例をあげて説明する。
成膜するAlGaNの膜は、互いに組成比が異なる第一のAlGaN層(以下、第一層という)と、第二のAlGaN層(以下、第二層という)とを有する。
先ず、基板S上に第一の層を形成する。
各反応ガス生成部11,12にHClガスを供給する。そして、各反応ガス生成部11,12の原料載置部111に載置された原料と、HClガスとを反応させて、反応ガス(AlClガス、GaClガス)を生成する。
【0027】
ここで、各反応ガス生成部11,12で反応ガス(AlClガス、GaClガス)の生成を開始した直後(或いは生成を開始する以前)から、反応ガス(AlClガス、GaClガス)の生成が安定するまでの間は、バルブ171を閉め、バルブ181を開放する。そして、排気経路R2から反応ガス(AlClガス、GaClガス)を排気する。
なお、排気経路R2から反応ガス(AlClガス、GaClガス)を排気する際に、流速調整手段19により、排気経路R2にキャリアガスを導入してもよい。
次に、反応ガス(AlClガス、GaClガス)の生成が安定したら、バルブ171を開放し、バルブ181を閉めて、反応ガス供給路R1に反応ガス(AlClガス、GaClガス)を供給する。
各反応ガス(AlClガス、GaClガス)は、反応ガス供給路R1を通り、反応部15内部に導入される。この際、流速調整手段19により、反応ガス供給路R1にキャリアガスを導入し、反応ガス(AlClガス、GaClガス)の流速を調整する。
また、反応ガス予熱部14から、反応部15内部には、予熱されたNHガスが供給される。なお、反応ガス予熱部14からのNHガスの供給は、反応ガス(AlClガス、GaClガス)の反応部15内部への供給よりも前に開始することが好ましい。
AlClガス、GaClガス、NHガスは、反応部15内部の基板S上で反応するため、基板S表面にAlGaNが堆積することとなる。これにより、第一の層が形成されることとなる。
【0028】
次に、第一の層とは組成比が異なる第二の層を形成する。
まず、各反応ガス生成部11,12での反応ガス(AlClガス、GaClガス)の生成量を調整する。
各反応ガス生成部11,12で反応ガスの生成量の調整を開始した直後から、反応ガスの生成量が安定するまでの間は、バルブ171を閉め、バルブ181を開放する。そして、排気経路R2から反応ガス(AlClガス、GaClガス)を排気する。
排気経路R2から反応ガス(AlClガス、GaClガス)を排気している間、反応ガス予熱部14からのNHガスの供給は停止する。
【0029】
排気経路R2から反応ガス(AlClガス、GaClガス)を排気している間、パージガス供給手段20により、反応部15内にパージガスを供給する。パージガスの流量は、第一の層を形成する際のAlClガス、GaClガス、NHガスの流量の総計に相当する流量であることが好ましい。
また、排気経路R2から反応ガス(AlClガス、GaClガス)を排気する際に、流速調整手段19により、排気経路R2にキャリアガスを導入してもよい。
次に、反応ガス(AlClガス、GaClガス)の生成量が安定したら、バルブ171を開放し、バルブ181を閉めて、反応ガス供給路R1に反応ガスを供給する。各反応ガス(AlClガス、GaClガス)は、反応ガス供給路R1を通り、反応部15内部に導入される。この際、流速調整手段19により、反応ガス供給路R1にキャリアガスを導入し、反応ガス(AlClガス、GaClガス)の流速を調整する。
一方で、反応ガス予熱部14からのNHガスの供給も開始しておく。なお、反応ガス予熱部14からのNHガスの供給は、反応ガス(AlClガス、GaClガス)の反応部15内部への供給よりも前に開始することが好ましい。
AlClガス、GaClガス、NHガスは、反応部15内部の基板S上で反応するため、基板S表面にAlGaNが堆積することとなる。これにより、第二の層が形成され、III族窒化物半導体基板としてのAlGaN基板が得られる。
なお、基板S上にAlGaN膜を成膜した後、基板Sを除去し、基板Sを除去したものをAlGaN基板としてもよい。
基板Sを除去する場合には、薬液によるエッチングまたは研磨により基板を除去し、AlGaN膜からなるAlGaN基板を得る。
【0030】
ここでは、基板S上にAlGaN膜を成膜する場合について例をあげて、説明したが、InGaN膜を成膜する場合には、反応ガス生成部12,13にHClガスを送ればよい。そして、AlGaN膜を成膜する場合と、同様の手順で、InGaN膜を成膜すればよい。
【0031】
次に、本実施形態の気相成長装置1の効果について説明する。
気相成長装置1には、反応ガス生成部11〜13で生成された各反応ガス(AlClガス、GaClガス、InClガス)を反応部15に供給するための反応ガス供給路R1と、反応ガス生成部11〜13で生成された各反応ガスを、反応部15外に排気する排気経路R2とが形成されており、反応ガスの流路を、反応ガス供給路R1又は排気経路R2に切替えることができる。
そのため、反応ガス生成部11〜13での各反応ガスの生成の開始直後から、各反応ガスの生成が安定するまでの間、排気経路R2から各反応ガスを排気することができる。そして、反応ガスの生成が安定したら、反応ガスの流路を反応ガス供給路R1に切り替え、反応部15に反応ガスを供給することができる。
これにより、反応部15中において、NHガスに対する反応ガス生成部11〜13で生成された反応ガスの比率を所定の値に保つことができる。そのため、所望の膜質の膜を成膜することができる。
さらに、各反応ガスの生成が安定した後、反応部15に各反応ガスを供給することができるので成膜速度のばらつきを防止することができ、成膜速度を容易に制御することが可能となる。
【0032】
また、本実施形態では、第一のAlGaN層上に組成比の異なる第二のAlGaN層を形成する際に、各反応ガス生成部11,12での反応ガス(AlClガス、GaClガス)の生成量を調整している。
そして、各反応ガス生成部11,12で反応ガスの生成量の調整を開始した直後から、反応ガスの生成量が安定するまでの間、排気経路R2から反応ガスを排気している。
各反応ガス生成部11,12で反応ガスの生成量が安定しない状態で、反応部15に反応ガスを供給してしまうと、第一の層の組成比と、第二の層の組成比との差異が明確にならないことがある。
本実施形態のように、各反応ガス生成部11,12で反応ガスの生成量が安定するまでの間、排気経路R2から各反応ガスを排気することで、第一の層の組成比と、第二の層の組成比との差が明確なAlGaN膜を得ることができる。
【0033】
さらに、本実施形態では、排気経路R2から反応ガス(AlClガス、GaClガス)を排気し、反応ガス予熱部14からのNHガスの供給を停止している間、パージガス供給手段20により、反応部15内にパージガスを供給している。これにより、反応部15内部での圧力の変化を防止することができ、反応炉150内部でのAlGaNの生成反応への影響を防止することができる。
【0034】
さらに、気相成長装置1は、反応ガス供給路R1の反応ガスの流速を調整する流速調整手段19を備えているので、反応ガス生成部11〜13で生成した反応ガスを速やかに反応部15に供給することができる。
また、流速調整手段19により、反応ガス生成部11〜13で生成した反応ガスを速やかに反応部15に供給することができるので、反応ガスの配管17の内壁への接触時間を短縮することができる。これにより、配管17の内壁が反応ガスで腐食してしまうことを防止できる。さらには、配管17の内壁の腐食を防止することで、配管17の内壁からの不純物の発生も防止することができる。
さらに、流速調整手段19により、反応ガス生成部11〜13で生成した反応ガスを速やかに反応部15に供給することができるので、正確な量の反応ガスを、正確なタイミングで反応部15に送ることができる。
これにより、第一の層の組成比と、第二の層の組成比との差が明確なAlGaN膜をより確実に、得ることができる。
【0035】
さらに、本実施形態の気相成長装置1では、基板S表面に対し、反応ガスは相異なる方向から供給されるので、基板S表面上外部の空間で、反応ガス同士が反応してしまうことを防止できる。基板S表面上外部の空間での反応ガスの反応は、基板S上での成膜に寄与しないため、基板S表面上外部の空間で、反応ガス同士が反応してしまうと反応ガスが無駄になる。本実施形態では、基板S表面上外部の空間で、反応ガス同士が反応してしまうことを防止できるので、反応ガスの利用効率を高めることができる。
【0036】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、前記実施形態では、気相成長装置1は、複数の反応ガス生成部を有しており、気相成長装置1では、異なるIII族元素を含む膜を成膜したが、これに限らず、反応ガス生成部は一つであってもよい。気相成長装置の反応ガス生成部を一つとし、例えば、GaN膜や、AlN膜を成膜するものとしてもよい。
例えば、基板S上にGaN膜を成膜し、基板SとGaN膜とを分離し、GaN膜をGaN基板としてもよい。
【0037】
さらに、前記実施形態では、基板S上にAlGaN膜を成膜して、AlGaN基板を得たが、これに限らず、前記実施形態の気相成長装置1を使用し、半導体レーザを製造してもよい。
例えば、基板S上に形成される膜を、GaN半導体層、このGaN半導体層上に形成されるAlGaN層、さらに、このAlGaN層上に形成されるInGaN層を備えるものとし、半導体レーザを製造してもよい。
【0038】
さらには、前記実施形態では、基板S上にAlGaN膜を成膜して、AlGaN基板を得たが、これに限らず、基板S上に、GaN膜を成膜して、GaN基板を得てもよい。さらには、基板S上にAlN膜を成膜して、AlN基板を得てもよい。
また、前記実施形態の気相成長装置1を用いて、基板S上にAlGaInN膜(0<x<1、0<y<1、0<z<1、x+y+z=1)を成膜してもよい。
【0039】
前記実施形態では、気相成長装置1は、基板S表面に対し、反応ガスが相異なる方向から供給される構成としたが、これに限らず、反応ガスが同じ方向から基板S表面に対し、供給される構成としてもよい。
また、前記実施形態の気相成長装置1は、パージガス供給手段を有するものであったが、これに限らず、パージガス供給手段はなくてもよい。
【0040】
また、前記実施形態の気相成長装置1では、各反応ガス生成部で生成された反応ガスを反応部15外部に排気する排気経路がそれぞれ形成されていたが、例えば、複数ある反応ガス生成部のうち、一つの反応ガス生成部で生成された反応ガスのみが排気できるように、構成してもよい。
【0041】
さらに、前記実施形態では、AlClガス、GaClガス、InClガスを生成する反応ガス生成部は、各反応ガスにつき、ひとつずつ設けられていたが、各反応ガスにつき、反応ガス生成部を複数設けてもよい。そして、各反応ガス生成部と、反応部15とを接続する配管17に、パージガス供給手段20、流速調整手段19、配管18を接続する。
例えば、GaClガスを生成する反応ガス生成部を2以上設けてもよい。
前記実施形態のように、第一のAlGaN層(第一の層)上に組成比の異なる第二のAlGaN層(第二の層)を形成する場合において、第一の層を形成する際に、一方のGaClガスの反応ガス生成部のみを使用する。他方のGaClガスの反応ガス生成部は、第一の層の形成には使用しない。第一の層の形成を行っている間に、他方のGaClガスの反応ガス生成部において、第二の層を形成するのに必要なGaClガスの生成量を調整しておく。第一の層の形成を行っている間は、他方のGaClガスの反応ガス生成部で生成されたGaClガスを、排気経路から排気しておく。
そして、第一の層の形成が終了したら、一方のGaClガスの反応ガス生成部から発生するGaClガスの流路を、排気経路に切り替え、他方のGaClガスの反応ガス生成部から発生するGaClガスの流路を反応ガス供給路に切替える。そして、他方のGaClガスの反応ガス生成部から所定量のGaClガスを反応炉に供給する。
このように、GaClガスを生成する反応ガス生成部を2以上設けることで、迅速に、第二の層を形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施形態にかかる気相成長装置を示す斜視図である。
【図2】気相成長装置の模式図である。
【図3】気相成長装置の反応部を示す図である。
【図4】従来の気相成長装置を示す模式図である。
【符号の説明】
【0043】
1 気相成長装置
9 気相成長装置
11 反応ガス生成部
12 反応ガス生成部
13 反応ガス生成部
14 反応ガス予熱部
15 反応部
16 排気部
17 配管
18 配管
19 流速調整手段
20 パージガス供給手段
21 配管
91 結晶成長容器
92 導入管
93 導入管
94 基板保持具
95 排気口
96 抵抗加熱ヒータ
111 原料載置部
112 生成管
150 反応炉
151 基板保持部材
151B 基板保持面部
151A 壁部
171 バルブ
181 バルブ
191 配管
191A バルブ
201 配管
201A バルブ
211 バルブ
921 原料載置部
H ヒータ
H1 電極
M 原料
R1 反応ガス供給路
R2 排気経路
S 基板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応ガスを生成する反応ガス生成部と、
前記反応ガス生成部で生成した反応ガスと、この反応ガスとは異なる他の反応ガスとを反応させて、基板上に膜を成膜する反応部と、
前記反応ガス生成部で生成した前記反応ガスを前記反応部に供給するための反応ガス供給路と、
前記反応ガス生成部で生成された前記反応ガスを、前記反応部外に排気する排気経路と、
前記反応ガスの流路を、前記反応ガス供給路又は前記排気経路に切替える切り替え手段とを備えることを特徴とする気相成長装置。
【請求項2】
請求項1に記載の気相成長装置において、
前記反応ガス生成部は、前記反応ガスの原料を載置する原料載置部と、
この原料載置部を収容するとともに、前記原料載置部に載置された原料と反応して前記反応ガスを生成するための原料ガスが導入される生成管とを備えることを特徴とする気相成長装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の気相成長装置において、
2以上の前記反応ガス生成部と、
前記各反応ガス生成部からの反応ガスを前記反応部に供給するための前記反応ガス供給路と、
各前記反応ガス生成部で生成された前記反応ガスを前記反応部外に排気する前記排気経路と、
各前記反応ガス生成部で生成された前記反応ガスの流路を、前記反応ガス供給路又は前記排気経路に切替える前記切り替え手段とを備え、
前記各反応ガス生成部では、それぞれ異なるIII族元素を含む反応ガスが生成されることを特徴とする気相成長装置。
【請求項4】
請求項3に記載の気相成長装置において、
前記排気経路から、前記反応ガス生成部で生成された前記反応ガスを排気する際に、前記反応部内に非反応性のガスを供給する供給手段とを備えることを特徴とする気相成長装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の気相成長装置において、
前記反応ガス供給路に接続され、前記反応ガス供給路中を流れる前記反応ガスの流速を調整する流速調整手段を備えることを特徴とする気相成長装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の気相成長装置において、
ハイドライド気相成長を行う装置であることを特徴とする気相成長装置。
【請求項7】
請求項6に記載の気相成長装置を用い、
前記反応ガス生成部において、III族元素を含む前記反応ガスを生成させ、
前記反応部において、前記III族元素を含む反応ガスと、前記他の反応ガスとしての水素化窒素ガスを含む反応ガスとを反応させ、前記基板上に、III族窒化物半導体膜を成長させ、前記III族窒化物半導体膜を含むIII族窒化物半導体基板を得る工程を含む、III族窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載のIII族窒化物半導体基板の製造方法において、
前記III族窒化物半導体膜を成長させた後、前記基板を除去する工程をさらに含むことを特徴とするIII族窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項9】
請求項7または8に記載のIII族窒化物半導体基板の製造方法により得られたIII族窒化物半導体基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−39274(P2007−39274A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−225055(P2005−225055)
【出願日】平成17年8月3日(2005.8.3)
【出願人】(000165974)古河機械金属株式会社 (211)
【Fターム(参考)】