説明

気相成長装置

【課題】冷媒をシャワープレートの全域に流れるようにすることにより、シャワープレートの冷却を均一に行い、ガスのシャワープレートでの反応によるシャワープレートにおけるガス吐出孔の目詰まりを回避し得る気相成長装置を提供する。
【解決手段】冷媒バッファエリア22bの周囲には、冷媒用リング状壁22dを介して環状の冷媒外環室27が設けられる。冷媒外環室27は、冷媒導入口38aから冷媒が導入される冷媒外環導入室27aと、冷媒導入口38aの対向位置に設けられた冷媒排出口39aから冷媒が排出される冷媒外環排出室27bと、冷媒外環導入室27aと冷媒外環排出室27bとを区画する冷媒外環室隔壁28とを備えている。冷媒外環室隔壁28の一部には、冷媒外環導入室27aと冷媒外環排出室27bとを連通する隔壁連通開口28aが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば縦型シャワーヘッド型MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition) 等の気相成長装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、発光ダイオード及び半導体レーザの製造においては、トリメチルガリウム(TMG)又はトリメチルアルミニウム(TMA)等の有機金属ガスと、アンモニア(NH)、ホスフィン(PH )又はアルシン(AsH )等の水素化合物ガスとを成膜に寄与する原料ガスとして成長室に導入して化合物半導体結晶を成長させるMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition) 法が用いられている。
【0003】
MOCVD法は、上記の原料ガスを水素等のキャリアガスと共に成長室内に導入して加熱し、所定の基板上で気相反応させることにより、その基板上に化合物半導体結晶を成長させる方法である。MOCVD法を用いた化合物半導体結晶の製造においては、成長する化合物半導体結晶の品質を向上させながら、コストを抑えて、歩留まりと生産能力とをどのように最大限確保するかということが常に高く要求されている。
【0004】
図12に、MOCVD法に用いられる従来の縦型シャワーヘッド型MOCVD装置の一例の模式的な構成を示す。
【0005】
このMOCVD装置においては、ガス供給源102から反応炉101の内部の成長室111に反応ガス及び不活性ガスを導入するためのガス配管103が接続されており、反応炉101における内部の成長室111の上部には該成長室111に反応ガス及び不活性ガスを導入するための複数のガス吐出孔を有するシャワープレート110がガス導入部として設置されている。
【0006】
また、反応炉101の成長室111の下部中央には図示しないアクチュエータによって回転自在の回転軸112が設置され、この回転軸112の先端にはシャワープレート110と対向するようにしてサセプタ108が取り付けられている。上記サセプタ108の下部には該サセプタ108を加熱するためのヒータ109が取り付けられている。
【0007】
さらに、反応炉101の下部には、該反応炉101における内部の成長室111内のガスを外部に排気するためのガス排気部104が設置されている。このガス排気部104は、パージライン105を介して、排気されたガスを無害化するための排ガス処理装置106に接続されている。
【0008】
上記構成の縦型シャワーヘッド型MOCVD装置において、化合物半導体結晶を成長させる場合には、まず、サセプタ108に基板107を設置し、回転軸112の回転によりサセプタ108を回転させ、ヒータ109の加熱によりサセプタ108を介して基板107を所定の温度に加熱する。その後、シャワープレート110に形成されている複数のガス吐出孔から反応炉101の内部の成長室111に反応ガス及び不活性ガスを導入する。
【0009】
複数の反応ガスを供給して基板107上で反応せしめ薄膜を形成する方法として、従来は、シャワーヘッドの中で複数のガスを混合し、シャワープレート110に多数設けられているガス吐出口から基板107に反応ガスを吹き出させる方法が採られていた。
【0010】
しかし、この方法では、ヒータ109からの輻射熱により、シャワープレート110の表面が加熱されてしまうため、反応ガスが基板107上に到達し、反応することによって薄膜を形成する前に、シャワープレート110の表面で一部の化学反応が進行する。これにより、シャワープレート110の表面で生成物が形成されてしまい、シャワープレート110のガス吐出孔が生成物により詰まりを起こしてしまい、原料ガス及び不活性ガスが均一に基板107の表面に到達できなくなってしまい、均一な薄膜を形成することができなかった。
【0011】
この問題を解決するため、例えば、特許文献1に開示された気相成長装置200では、図13に示すように、ガス通路部を除くシャワープレート201の内部に冷媒を導入し、シャワープレート201の内部におけるガス通路部の上下及び側面から冷却を行い輻射熱によるシャワープレート201の温度上昇を抑制している。また、側壁202には冷媒ジャケット203を配置し、その内部にも冷媒を導入し、合わせてシャワープレート201の温度上昇及び原料ガスの温度上昇を抑制している。
【0012】
また、近年では、複数の供給ガスそれぞれに、バッファエリアを設け、このバッファエリアからそれぞれの反応ガスをシャワープレートのガス吐出孔を通して、分離した状態で成長室へ供給する方法が一般的によく用いられる。これは、シャワーヘッド内で気相反応が生ずるのを避けるためである。この場合、III 族系ガス吐出孔とV族系ガス吐出孔とは交互に近接配置されるため、例えば、図14に示す特許文献2に開示された反応容器300のように、III 族系ガスのバッファエリア301とV族系ガスのバッファエリア302とを2層上下に配置し、それぞれのガスが成長室303以外で混合しないように、ガス流路が分離された積層構造がよく用いられている。
【0013】
この特許文献2に開示された反応容器300においても、シャワープレート304の上面に冷却チャンバ305を設け、ギャラリー306を介して冷媒を導入し、シャワープレート304の冷却を行い、シャワープレート304の温度上昇及び原料ガスの温度上昇を抑制している。
【特許文献1】特開2006−216830号公報(2006年8月17日公開)
【特許文献2】特開平8−91989号公報(1996年4月9日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、基板上に均一な膜厚分布の薄膜を再現性よく成長させるには、反応ガスが均等な温度分布で被処理基板の上方まで到達する必要があり、かつ反応ガスが均等な流れで気相反応させることが必要である。
【0015】
しかしながら、従来の特許文献1に開示された図13に示す気相成長装置200では、冷媒供給口204と冷媒排出口205とを有する冷媒外環室は隔壁で区画された構造になっていないため、冷媒供給口204から冷媒排出口205への流れが規定されず、シャワープレート201全域への冷媒の供給が困難となり、均一なシャワープレート201の冷却を行うことができない。この結果、部分的な冷却不足による、原料ガスの反応によるガス吐出孔の詰まりという問題が生じる。また、シャワープレート201の内部を通過する原料ガスの温度が不均一となり、基板206の上方に到達する原料ガスの温度が均一ではなくなるため、膜厚分布が均一にならないという問題が生じる。
【0016】
また、図14に示す特許文献2では、シャワープレート304の上部に冷却チャンバ305を設けて、直接的にシャワープレート304を冷却しているため、特許文献1に比べてシャワープレート304の温度均一性は向上する。
【0017】
しかしながら、特許文献2でも、冷却部が区画された構造を有していないため、シャワープレート304の全域の温度均一性が取れなくなってしまう。ましてや、シャワープレート304が大型化になると、シャワープレート304の温度の不均一性という問題がより顕著に発生し、シャワープレート304の内部を通過する反応ガスの温度不均一という問題が生じる。これは、シャワープレート304が大型化になるほど、冷媒の奪う熱量が大きくなり、充分に冷却できず、排出部に到達する前に、冷媒が温められてしまうからである。
【0018】
また、シャワープレート304の上部に冷却チャンバ305が配置されていることから、シャワープレート304の上面と下面との間に距離が発生してしまい、冷却能力が充分に発揮されず、その結果、ガス吐出孔の詰まりという問題が生じる。またこれは、上記の温度不均一で部分的にも生じる問題である。
【0019】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、冷媒をシャワープレートの全域に流れるようにすることにより、シャワープレートの冷却を均一に行い、ガスのシャワープレートでの反応によるシャワープレートにおけるガス吐出孔の目詰まりを回避し得る気相成長装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の気相成長装置は、上記課題を解決するために、ガスを吐出する複数のガス吐出孔を配設したシャワープレートを通して、被成膜基板を収容する成長室内に該ガスを供給して上記被成膜基板に成膜する気相成長装置において、上記シャワープレート上に、上記ガスを充満させるガス中間室と、上記ガスを冷却する冷媒を充満させる冷媒中間室とが、該冷媒中間室をシャワープレート側にして順に積層され、上記冷媒中間室には、上記ガス中間室から上記シャワープレートの複数のガス吐出孔に連通する複数のガス供給管が貫通して設けられ、上記冷媒中間室の周囲には、リング状壁を介して環状の冷媒外環室が設けられ、上記冷媒外環室は、上記冷媒中間室への上記リング状壁に形成されている冷媒流入開口に対向する冷媒導入口から冷媒が導入される冷媒外環導入室と、該冷媒導入口の対向位置に設けられ、かつ上記冷媒中間室からの上記リング状壁に形成されている冷媒流出開口に対向する冷媒排出口から冷媒が排出される冷媒外環排出室と、上記冷媒外環導入室と冷媒外環排出室とを区画する隔壁とを備えていると共に、上記隔壁の一部には、冷媒外環導入室と冷媒外環排出室とを連通する隔壁連通開口が設けられていることを特徴としている。
【0021】
上記の発明によれば、シャワープレート上に、ガスを充満させるガス中間室と、上記ガスを冷却する冷媒を充満させる冷媒中間室とが、該冷媒中間室をシャワープレート側にして順に積層され、上記冷媒中間室には、上記ガス中間室から上記シャワープレートの複数のガス吐出孔に連通する複数のガス供給管が貫通して設けられ、上記冷媒中間室の周囲には、リング状壁を介して環状の冷媒外環室が設けられている。
【0022】
したがって、冷媒中間室の周囲に設けられた環状の冷媒外環室に冷媒導入口から導入された冷媒は、一部はリング状壁に形成されている冷媒流入開口を通して冷媒中間室に流入すると共に、他の一部は環状の冷媒外環室に流入する。
【0023】
しかし、冷媒中間室には複数のガス供給管が貫通して設けられているので、冷媒中間室の内部は冷媒の流入抵抗が大きい。このため、冷媒外環室に導入された冷媒の大部分は、抵抗の小さい冷媒外環室を経由して冷媒排出口から外部に排出される。これにより、冷媒外環室に導入された冷媒の大部分が、抵抗の大きい冷媒中間室に充分に流入せずに短絡して流れるので、シャワープレートの冷却を均一に行うことができないことになる。
【0024】
そこで、本発明では、これを回避するために、冷媒外環室は、上記冷媒中間室への上記リング状壁に形成されている冷媒流入開口に対向する冷媒導入口から冷媒が導入される冷媒外環導入室と、該冷媒導入口の対向位置に設けられ、かつ上記冷媒中間室からの上記リング状壁に形成されている冷媒流出開口に対向する冷媒排出口から冷媒が排出される冷媒外環排出室と、上記冷媒外環導入室と冷媒外環排出室とを区画する隔壁とを備えていると共に、上記隔壁の一部には、冷媒外環導入室と冷媒外環排出室とを連通する隔壁連通開口が設けられている。
【0025】
すなわち、冷媒外環導入室と冷媒外環排出室とを区画する隔壁を設けただけでは、冷媒外環室には冷媒は流れない。
【0026】
この点、本発明では、隔壁の一部には、冷媒外環導入室と冷媒外環排出室とを連通する隔壁連通開口が設けられている。逆に、冷媒外環室には隔壁の一部にしか隔壁連通開口が設けられていないことから、隔壁連通開口では冷媒流通路が狭くなっており、冷媒流通量が低減される。このため、冷媒外環室に導入された冷媒の大部分が抵抗の大きい冷媒中間室に充分に流入せずに短絡して流れるということを防止できる。また、冷媒が冷媒外環室を一部流れるようにすることにより、リング状壁の冷媒流入開口からの冷媒中間室への冷媒の流れが、冷媒中間室の外周近辺にまで流れるようになる。
【0027】
したがって、冷媒をシャワープレートの全域に流れるようにすることにより、シャワープレートの冷却を均一に行い、ガスのシャワープレートでの反応によるシャワープレートにおけるガス吐出孔の目詰まりを回避し得る気相成長装置を提供することができる。
【0028】
本発明の気相成長装置では、前記冷媒外環室のリング状壁には、前記隔壁の近傍における冷媒中間室側に突出する突出部が設けられており、上記突出部と冷媒中間室に設けられた前記ガス供給管との間隔は、ガス供給管同士の間隔よりも狭いことが好ましい。
【0029】
すなわち、冷媒中間室に流入した冷媒は、冷媒中間室に複数設けられたガス供給管の間を通って、リング状壁に形成されている冷媒流出開口の方向へ流れる。この場合、リング状壁の冷媒中間室側の表面とガス供給管との間隔が、ガス供給管同士の間隔よりも広い場合には、冷媒は抵抗の少ないリング状壁の冷媒中間室側の表面に沿って流れるので、各ガス供給管の間への流通量が少なくなる。
【0030】
そこで、本発明では、冷媒外環室のリング状壁には、隔壁の近傍における冷媒中間室側に突出する突出部を設け、この突出部と冷媒中間室に設けられたガス供給管との間隔を、ガス供給管同士の間隔よりも狭くしている。
【0031】
この結果、冷媒は抵抗の大きいリング状壁の冷媒中間室側の表面に沿った流域にはあまり流れない。
【0032】
したがって、冷媒をシャワープレートの全域に流れるようにすることにより、シャワープレートの冷却を均一に行い、ガスのシャワープレートでの反応によるシャワープレートにおけるガス吐出孔の目詰まりを確実に回避し得る気相成長装置を提供することができる。
【0033】
本発明の気相成長装置では、前記突出部は、前記リング状壁において弦を形成するように冷媒中間室側に突出していることが好ましい。
【0034】
これにより、長い区域で、突出部と冷媒中間室に設けられたガス供給管との間隔を、ガス供給管同士の間隔よりも狭くすることができる。
【0035】
したがって、抵抗の大きいリング状壁の冷媒中間室側の表面に沿った流域に冷媒を殆ど流さないようにして、冷媒が周辺を短絡して流れるのを防止することができる。
【0036】
本発明の気相成長装置では、前記隔壁に形成された隔壁連通開口には、冷媒外環導入室から冷媒外環排出室に向かって開口幅が広くなるテーパー、又は冷媒外環導入室から冷媒外環排出室に向かって開口幅が狭くなるテーパーが形成されていることが好ましい。
【0037】
これにより、隔壁に形成された隔壁連通開口にはテーパーが形成されているので、隔壁に形成された隔壁連通開口の出入口近傍での、流速がない部分を減少させることが可能となり、隔壁連通開口の冷媒の流通性を良くすることができる。尚、隔壁連通開口のテーパーは、冷媒外環導入室から冷媒外環排出室に向かって開口幅が広くなるテーパー、又は冷媒外環導入室から冷媒外環排出室に向かって開口幅が狭くなるテーパーのいずれであっても、隔壁連通開口の冷媒の流通性が良くなることが、シミュレーションにより確認できている。
【0038】
本発明の気相成長装置では、前記隔壁に形成された隔壁連通開口は、複数箇所に形成されているとすることができる。
【0039】
これによっても、隔壁連通開口の出入口近傍での流速がない部分を大きく減少できることが、シミュレーションにより確認できている。
【0040】
本発明の気相成長装置では、前記冷媒外環導入室に冷媒を導入する冷媒導入口は、上記冷媒外環導入室に近づくに伴って入口面積が大きくなるように形成されていることが好ましい。
【0041】
これにより、冷媒外環室の冷媒導入口近傍において、冷媒中間室への冷媒の流れと冷媒外環導入室への冷媒の流れとの間で乱流が生じることによって媒体の流れが妨げられることを防止することができる。
【発明の効果】
【0042】
本発明の気相成長装置は、以上のように、シャワープレート上に、上記ガスを充満させるガス中間室と、上記ガスを冷却する冷媒を充満させる冷媒中間室とが、該冷媒中間室をシャワープレート側にして順に積層され、上記冷媒中間室には、上記ガス中間室から上記シャワープレートの複数のガス吐出孔に連通する複数のガス供給管が貫通して設けられ、上記冷媒中間室の周囲には、リング状壁を介して環状の冷媒外環室が設けられ、上記冷媒外環室は、上記冷媒中間室への上記リング状壁に形成されている冷媒流入開口に対向する冷媒導入口から冷媒が導入される冷媒外環導入室と、該冷媒導入口の対向位置に設けられ、かつ上記冷媒中間室からの上記リング状壁に形成されている冷媒流出開口に対向する冷媒排出口から冷媒が排出される冷媒外環排出室と、上記冷媒外環導入室と冷媒外環排出室とを区画する隔壁とを備えていると共に、上記隔壁の一部には、冷媒外環導入室と冷媒外環排出室とを連通する隔壁連通開口が設けられているものである。
【0043】
それゆえ、冷媒をシャワープレートの全域に流れるようにすることにより、シャワープレートの冷却を均一に行い、ガスのシャワープレートでの反応によるシャワープレートにおけるガス吐出孔の目詰まりを回避し得る気相成長装置を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
本発明の一実施形態について図1ないし図11に基づいて説明すれば、以下の通りである。なお、本発明の図面において、同一の参照符号は、同一部分又は相当部分を表わすものとする。
【0045】
図2に、本発明の気相成長装置としてのMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition :有機金属気相堆積)装置の一例である縦型シャワーヘッド型のMOCVD装置10の模式的な構成の一例を示す。
【0046】
本実施の形態のMOCVD装置10は、図2に示すように、中空部である成長室1を有する反応炉2と、被成膜基板3を載置するサセプタ4と、上記サセプタ4に対向しかつ底面にシャワープレート21を持つガス供給手段としてのシャワーヘッド20とを含んでいる。
【0047】
上記サセプタ4の下側には被成膜基板3を加熱するヒータ5及び支持台6が設けられており、支持台6に取り付けた回転軸7が図示しないアクチュエータ等によって回転することにより、上記サセプタ4及びヒータ5が、サセプタ4の上面(シャワープレート21側の面)が対向するシャワープレート21と平行な状態を保ちながら回転するようになっている。上記サセプタ4、ヒータ5、支持台6及び回転軸7の周囲には、ヒータカバーである被覆板8が、これらサセプタ4、ヒータ5、支持台6及び回転軸7を取り囲むように設けられている。
【0048】
また、MOCVD装置10は、成長室1の内部のガスを周辺のガス排出口1aを通して外部に排出するためのガス排出部11と、このガス排出部11に接続されたパージライン12と、このパージライン12に接続された排ガス処理装置13とを有している。これにより、成長室1の内部に導入されたガスはガス排出部11を通して成長室1の外部に排出され、排出されたガスはパージライン12を通って排ガス処理装置13に導入され、排ガス処理装置13において無害化される。
【0049】
さらに、MOCVD装置10は、III 族元素を含む原料ガスとしてのIII 族系ガスの供給源となるIII 族系ガス供給源31と、このIII 族系ガス供給源31から供給されたIII 族系ガスをシャワーヘッド20に供給するためのIII 族系ガス配管32と、III 族系ガス供給源31から供給されるIII 族系ガスの供給量を調節することができるIII 族系ガス供給量調節部であるマスフローコントローラ33とを有している。上記III 族系ガス供給源31は、III 族系ガス配管32によって、マスフローコントローラ33を介して、シャワーヘッド20のIII 族系ガス供給部23に接続されている。
【0050】
なお、本実施の形態において、III 族元素としては、例えば、Ga(ガリウム)、Al(アルミニウム)又はIn(インジウム)等があり、III 族元素を含むIII 族系ガスとしては、例えば、トリメチルガリウム(TMG)又はトリメチルアルミニウム(TMA)等の有機金属ガスの1種類以上を用いることができる。
【0051】
また、このMOCVD装置10は、V族元素を含む原料ガスとしてのV族系ガスの供給源となるV族系ガス供給源34と、V族系ガス供給源34から供給されたV族系ガスをシャワーヘッド20に供給するためのV族系ガス配管35と、V族系ガス供給源34から供給されるV族系ガスの供給量を調節することができるV族系ガス供給量調節部であるマスフローコントローラ36とを有している。上記V族系ガス供給源34は、V族系ガス配管35によって、マスフローコントローラ36を介してシャワーヘッド20のV族系ガス供給部24に接続されている。
【0052】
なお、本実施の形態において、V族元素としては、例えば、N(窒素)、P(リン)又はAs(ヒ素)等があり、V族元素を含むV族系ガスとしては、例えば、アンモニア(NH)、ホスフィン(PH )又はアルシン(AsH )等の水素化合物ガスの1種類以上を用いることができる。
【0053】
上記マスフローコントローラ33・36は図示しない制御部にて制御されるようになっている。
【0054】
また、本実施の形態では、III 族系ガス供給部23とシャワープレート21との間に冷媒供給部22が設けられており、この冷媒供給部22には、シャワープレート21を冷却するために、冷媒装置37から冷媒供給配管38を通して冷媒が供給されるようになっている。この冷媒は、シャワープレート21の冷却を行った後、冷媒排出配管39を通して図示しない排出ユーティリティへ排出されるようになっている。
【0055】
なお、冷媒は、例えば、一般的な水を用いることができるが、必ずしも水に限らず、他の液体及び気体による冷媒を用いることが可能である。
【0056】
次に、図3を用いてシャワーヘッド20の構成を説明する。
【0057】
シャワーヘッド20は、図3に示すように、下から順番に、シャワープレート21、冷媒供給部22、III 族系ガス供給部23、及びV族系ガス供給部24が積層されて構成されている。
【0058】
上記シャワープレート21、冷媒供給部22、III 族系ガス供給部23、及びV族系ガス供給部24は積層配置であるため、本実施の形態では、V族系ガス供給部24におけるガス中間室及びガス個別中間室としてのV族系ガスバッファエリア24bのV族系ガスは、ガス中間室及びガス個別中間室としてのIII 族系ガスバッファエリア23b、及び冷媒中間室としての冷媒バッファエリア22bを貫通して設けられたガス供給管及び個別ガス供給管としてのV族系ガス供給管24cを通してシャワープレート21のガス吐出孔としてのV族系ガス吐出孔H5から成長室1に吐出される。
【0059】
また、III 族系ガス供給部23におけるIII 族系ガスバッファエリア23bのIII 族系ガスは、冷媒バッファエリア22bを貫通して設けられたガス供給管及び個別ガス供給管としてのIII 族系ガス供給管23cを通してシャワープレート21のガス吐出孔としてのIII 族系ガス吐出孔H3から成長室1に吐出される。
【0060】
以下、それぞれについて、詳細に説明する。
【0061】
図3に示すように、シャワープレート21には、前記成長室1にIII 族系ガスを供給するためのガス吐出孔としてのIII 族系ガス吐出孔H3、及びV族系ガスを供給するためのガス吐出孔としてのV族系ガス吐出孔H5がそれぞれ複数形成されている。そして、シャワープレート21の面内(前記サセプタ4に向かい合っている表面内)において、III 族系ガス吐出孔H3とV族系ガス吐出孔H5とが交互に配列されている。図1に示す例においては、III 族系ガス吐出孔H3及びV族系ガス吐出孔H5の配列方向は、水平方向及び垂直方向となっている。つまり、格子状となっている。ただし、この格子は正方格子に限らず、菱形の格子等でもよい。また、図1に示す構成のシャワープレート21における、III 族系ガス吐出孔H3(図1ではIII 族系ガス供給管23cと表示)の開口部の面積と、V族系ガス吐出孔H5(図1ではV族系ガス供給管24cと表示)の開口部の面積とは同一となっている。
【0062】
次に、各ガス供給部について説明する。
【0063】
図3に示すように、III 族系ガス供給部23は、シャワーヘッド20の例えば周辺部から供給されたIII 族系ガスを均一にIII 族系ガス吐出孔H3に導くため、III 族系ガス外環流路23aと、III 族系ガスバッファエリア23bと、このIII 族系ガスバッファエリア23bから成長室1に連通するIII 族系ガス供給管23cとにより構成されている。なお、III 族系ガス供給管23cの断面は、必ずしも円形に限ることはなく、角管、楕円管又はその他の断面でもよい。
【0064】
一方、同様に、V族系ガス供給部24は、シャワーヘッド20の周辺部より供給された反応ガスを均一にV族系ガス吐出孔H5に導くため、冷媒外環室としてのV族系ガス外環流路24aと、V族系ガスバッファエリア24bと、V族系ガス供給管24cとにより構成されている。なお、V族系ガス供給管24cの断面についても、必ずしも円形に限ることはなく、角管、楕円管又はその他の断面でもよい。
【0065】
ここで、図4は、V族系ガス外環流路24aを示す斜視図である(III 族系ガス外環流路23aも構造は同じであるため、説明は省略する)。
【0066】
例えば、V族系ガス外環流路24aの横方向から供給されたV族系ガスは、V族系ガス外環流路24aの内周側に均等配置された複数の開口Hを有する開口付き内側壁であるV族系ガス開口付きリング24dを介して、半径方向の内部に均一にV族系ガスバッファエリア24bへ供給される。そして、V族系ガスバッファエリア24bのV族系ガスは、前記複数のV族系ガス供給管24cを通って、V族系ガス吐出孔H5から成長室1へ供給される。
【0067】
すなわち、図3に示すように、III 族系ガスバッファエリア23b内には、V族系ガス供給管24cが、それぞれのガスが混合しないよう分離されて配置されている。つまり、III 族系ガスバッファエリア23bの平面においては、III 族系ガス吐出孔H3の位置には、III 族系ガスバッファエリア23bからIII 族系ガス吐出孔H3へ連通されるIII 族系ガス供給管23cが配置されていると共に、V族系ガス吐出孔H5の位置には、V族系ガスバッファエリア24bからV族系ガス吐出孔H5に連通されるV族系ガス供給管24cが柱のように林立していることになる。
【0068】
次に、冷媒供給部22について、図5(a)(b)に基づいて説明する。
【0069】
上記冷媒供給部22は、図2に示すシャワープレート21を一定の温度以下に冷却することによって、シャワープレート21への反応生成物の付着を抑制し、III 族系ガス吐出孔H3及びV族系ガス吐出孔H5の目詰まりを防止する。
【0070】
ところで、この冷媒供給部について、例えば、図14に示す従来の特許文献3に記載の反応容器300では、冷媒を、ギャラリー306を介して冷却チャンバ305内に導入している。このため、冷媒がショートカットして流れる等、冷却チャンバ305の冷媒の流れが悪く、その結果、冷却能力が充分に発揮されず、ガス吐出孔の詰まりという問題が生じていた。
【0071】
そこで、本実施の形態では、このような課題を解決するために、シャワーヘッド20の冷媒供給部22を、図5(a)(b)に示す構成としている。
【0072】
すなわち、シャワーヘッド20は、外側枠を構成する環状のフランジ25と、このフランジ25の最底面部に取り付けられるシャワープレート21と、前記冷媒バッファエリア22b、III 族系ガスバッファエリア23b及びV族系ガスバッファエリア24bをそれぞれ上下方向で区画するために上記シャワープレート21と平行に配される境界板26a・26b及び天板26cとを備えている。
【0073】
そして、上記シャワープレート21と境界板26aとの間には、冷媒を前記冷媒バッファエリア22bに流入させる冷媒外環室27を、フランジ25の内側側面に形成するためのリング状壁としての冷媒用リング状壁22dが設けられている。また、上記境界板26aと境界板26bとの間には、III 族系ガスを前記III 族系ガスバッファエリア23bに流入させるIII 族系ガス外環流路23aをフランジ25の内側側面に形成するためのIII 族系ガス開口付きリング23dが設けられている。さらに、上記境界板26bと天板26cとの間には、V族系ガスを前記V族系ガスバッファエリア24bに流入させるV族系ガス外環流路24aをフランジ25の内側側面に形成するためのV族系ガス開口付きリング24dが設けられている。
【0074】
上記冷媒外環室26には、フランジ25の一端に設けられた冷媒供給配管38からの冷媒導入口38aから冷媒が供給されると共に、この冷媒外環室26の冷媒は、このフランジ25における冷媒供給配管38とは180度対向する位置に設けられた冷媒排出配管39への冷媒排出口39a(図1参照)から排出されるようになっている。
【0075】
本実施の形態では、特に、図6(a)に示すように、この環状の冷媒外環室27を冷媒外環導入室27aと冷媒外環排出室27bとに区画する隔壁としての冷媒外環室隔壁28が、複数箇所としての例えば2箇所に設けられている。具体的には、冷媒外環室隔壁28は、冷媒外環室27における、上記冷媒供給配管38から例えば±90度の位置にそれぞれ設けられている。なお、この±90度の位置は、必ずしもこれに限らない。すなわち、冷媒外環室隔壁28・28は、冷媒外環室27において、冷媒供給配管38と冷媒排出配管39とを結ぶ直線に対して、線対称となるように設けられていればよい。
【0076】
また、本実施の形態では、特に、冷媒外環室隔壁28の一部には、図6(b)にも示すように、冷媒外環導入室27aと冷媒外環排出室27bとを連通する隔壁連通開口28aが設けられている。
【0077】
さらに、冷媒外環室27の冷媒用リング状壁22dには、図6(a)に示すように、冷媒外環室隔壁28の近傍における冷媒バッファエリア22b側に突出する突出部Pを設け、この突出部Pと冷媒バッファエリア22bに設けられたIII 族系ガス供給管23c及びV族系ガス供給管24cとの間隔D1を、III 族系ガス供給管23c及びV族系ガス供給管24c同士の間隔D2よりも狭くしている。このため、冷媒は抵抗の大きい冷媒用リング状壁22dの冷媒バッファエリア22b側の表面に沿った流域にはあまり流れないようになっている。尚、本発明においては、突出部Pは必ずしも設けてなくてもよい。
【0078】
この突出部Pは、本実施の形態では、特に、冷媒用リング状壁22dにおいて弦を形成するように冷媒バッファエリア22b側に突出している。これにより、長い区域で、突出部Pと冷媒バッファエリア22bに設けられたIII 族系ガス供給管23c及びV族系ガス供給管24cとの間隔D1を、III 族系ガス供給管23c及びV族系ガス供給管24c同士の間隔D2よりも狭くしている。
【0079】
したがって、抵抗の大きい冷媒用リング状壁22dの冷媒バッファエリア22b側の表面に沿った流域に冷媒を殆ど流さないようにして、冷媒が周辺を短絡して流れるのを防止している。
【0080】
図5(a)(b)に示す上述したフランジ25、シャワープレート21、境界板26a・26b及び天板26c、冷媒用リング状壁22d、III 族系ガス開口付きリング23d及びV族系ガス開口付きリング24d、並びに冷媒外環室隔壁28は、各冷媒及び各原料ガスが漏れないように、溶接により一体化されている。また、これにより、冷媒バッファエリア22b、III 族系ガスバッファエリア23b及びV族系ガスバッファエリア24bがそれぞれ独立した部屋となっている。
【0081】
上記構成の冷媒外環室27を備えたシャワーヘッド20における冷媒の流通経路について、図1に基づいて説明する。図1は、冷媒外環室27における冷媒外環導入室27aを通して、冷媒バッファエリア22b及び冷媒外環排出室27bへ冷媒を流した状態のシミュレーションを実施した結果を示す。
【0082】
シミュレーション条件は、冷媒供給配管38から1m/sの流速にて冷媒を導入する条件にて実施した。本条件は、冷媒バッファエリア22b内を貫通するIII 族系ガス供給管23c及びV族系ガス供給管24cの表面積、及び個数から算出されるコンダクタンスから設定した値である。
【0083】
また、冷媒外環導入室27a及び冷媒外環排出室27bの寸法は、内径Φ176mm、外径Φ230mm、及び高さ5mmとしている。また、冷媒外環室隔壁28はそれぞれ線対称で2箇所配置おり、冷媒外環導入室27a及び冷媒外環排出室27bの各室の体積が同体積になるように設定している。
【0084】
さらに、冷媒外環導入室27aの側壁である冷媒用リング状壁22dから冷媒を流入する冷媒用開口としての冷媒流入開口Hin、及び冷媒外環排出室27bの冷媒用開口としての冷媒流出開口Houtの直径及び配置については、冷媒供給配管38と冷媒排出配管39とを結ぶ中心軸の垂直方向に線対称となるように配置している。すなわち、冷媒流入開口Hin及び冷媒流出開口Houtは、冷媒外環室隔壁28において、180度対向する位置に設けられている。
【0085】
この結果、冷媒の流れに関し、図1に示すように、冷媒外環室隔壁28及び該冷媒外環室隔壁28の一部に隔壁連通開口28aを設けて冷媒外環導入室27a及び冷媒外環排出室27bを経由したことにより、冷媒が冷媒バッファエリア22bの内部に充分に供給されることがわかった。
【0086】
すなわち、シミュレーションの結果、冷媒の流れに関し、冷媒外環室隔壁28及び該冷媒外環室隔壁28の一部に隔壁連通開口28aを設けたことにより、冷媒バッファエリア22bの内部における冷媒流速の冷媒流れ方向成分が、導入速度とほぼ同じ速度となり、かつ冷媒バッファエリア22bの内部で略均一の分布となり、冷媒が均一に冷媒バッファエリア22bの内部全体を冷却しているのがわかった。
【0087】
次に、比較例として、冷媒外環室27に冷媒外環室隔壁28を設けない場合について、シミュレーションを実施した結果を図7に示す。
【0088】
図7に示すシミュレーション結果では、シャワープレート21の中心部へは殆ど冷媒が供給されていないことが分かる。すなわち、殆どの冷媒は、冷媒バッファエリア22bの内部を通らず、冷媒外環室27内をそのまま通過し、冷媒排出配管39へ流れていく。
【0089】
この結果から、比較例では、III 族系ガス供給管23c又はV族系ガス供給管24cが冷媒バッファエリア22bの内部に無数に存在しているため、冷媒にとっては非常に抵抗が大きく、全て流速抵抗が少ない方へ冷媒が流れているのが分かる。
【0090】
したがって、この結果から、冷媒外環室27に冷媒外環室隔壁28・28を設け、冷媒外環導入室27aと冷媒外環排出室27bとに冷媒外環室隔壁28にて区画し、該冷媒外環室隔壁28の一部に隔壁連通開口28aを設けることが効果的であることが分かった。
【0091】
尚、本実施の形態では、冷媒外環室27においては、冷媒外環室隔壁28を左右に2個設けたため、冷媒外環導入室27a及び冷媒外環排出室27bがそれぞれ一室ずつとなったが、必ずしもこれに限らず、例えば、冷媒外環室隔壁28を複数設けて、各室を増やしてもよい。
【0092】
最後に、III −V族化合物半導体結晶を本実施の形態のMOCVD装置10を用いたMOCVD法により成長させてIII −V族化合物半導体を製造する方法を、図2に基づいて説明する。
【0093】
すなわち、図2に示す構成の本実施の形態のMOCVD装置10を用いて、III −V族化合物半導体結晶をMOCVD法により成長させる際には、まず、サセプタ4上に下地となる被成膜基板3が設置される。その後、回転軸7の回転により、サセプタ4の上面に設置された被成膜基板3の表面がシャワープレート21と平行な状態を保ちながら回転し、ヒータ5の加熱により、サセプタ4を介して被成膜基板3が所定の温度に加熱される。そして、シャワープレート21に形成されているIII 族系ガス吐出孔H3からIII 族系ガスが成長室1に、被成膜基板3の表面に対して垂直方向に導入されると共に、シャワープレート21に形成されているV族系ガス吐出孔H5からV族系ガスが成長室1に、被成膜基板3の表面に対して垂直方向に導入される。
【0094】
これにより、被成膜基板3の表面上にIII −V族化合物半導体結晶が成長することになる。なお、ここでは、III 族系ガスの供給量及びV族系ガスの供給量は、図示しない制御部によってマスフローコントローラ33・36にて制御され、III 族系ガス及びV族系ガスのそれぞれが成長室1に供給されることになる。
【0095】
III 族系ガス及びV族系ガスは、シャワープレート21に交互に配列されたIII 族系ガス吐出孔H3及びV族系ガス吐出孔H5からそれぞれ供給されていることから、被成膜基板3の表面上方におけるIII 族系ガス吐出孔H3とV族系ガス吐出孔H5との分布の偏りを低減することができる。
【0096】
III 族系ガスとV族系ガスとが混合し濃度分布が均一となり、ヒータ5による被成膜基板3の加熱と相俟ってIII 族系ガスとV族系ガスとの気相反応が被成膜基板3の表面近傍において進行する。
【0097】
ここで、本実施の形態では、冷媒供給部22が設けられており、冷媒供給部22では冷媒外環室27に冷媒外環室隔壁28・28及び隔壁連通開口28a・28aが設けられているので、冷媒が冷媒バッファエリア22bの内部を効率よく循環する。この結果、冷媒バッファエリア22bの内部を貫通するIII 族系ガス供給管23cのIII 族系ガス及びV族系ガス供給管24cのV族系ガスが充分に冷却されるので、シャワープレート21のIII 族系ガス吐出孔H3及びV族系ガス吐出孔H5でガスが反応して析出し、III 族系ガス吐出孔H3及びV族系ガス吐出孔H5が詰まるということがない。
【0098】
したがって、本実施の形態のMOCVD装置10を用いた場合には、従来の特許文献1〜2に記載の装置を用いた場合と比べて、被成膜基板3の表面におけるIII 族系ガスとV族系ガスとの気相反応の均一性を向上することができる。
【0099】
すなわち、シャワープレート21全面の温度及び反応ガスの温度を均一にすることにより、シャワープレート21の冷却を均一に行い、シャワープレート21の表面、及びガス投入口での生成物付着によるIII 族系ガス吐出孔H3及びV族系ガス吐出孔H5の詰り起因による流れの乱れをなくすことができる。また、反応ガスの温度均一化を図ることにより生成膜厚や組成比を向上させることができる。
【0100】
なお、上記においては、III 族系ガス、V族系ガスを導入する場合について説明したが、本発明においては、III 族系ガス及びV族系ガスと共に、不活性ガスやドーパント源となるガス等を成長室1に供給してもよい。
【0101】
また、上記においては、III 族系ガス吐出孔H3、及びV族系ガス吐出孔H5がそれぞれ円形である場合について説明したが、本発明においては、III 族系ガス吐出孔H3及びV族系ガス吐出孔H5の形状は特に限定されず、例えば、多角形又は楕円形等の形状にすることができる。
【0102】
また、上記においては、被成膜基板3を1枚設置した場合について説明したが、本発明においては、被成膜基板3は1枚だけでなく複数枚設置してもよい。
【0103】
さらに、本発明においては、MOCVD装置10を構成する反応炉2、シャワープレート21及びその他の部材の形状が、図2に示す形状に限定されないことは言うまでもない。例えば、上記の説明では、冷媒バッファエリア22bの上には、III 族系ガスバッファエリア23bとV族系ガスバッファエリア24bとが異なる2層として積層されていたが、必ずしもこれに限らない。
【0104】
また、本発明においては、原料ガスの種類として、III 族系ガス及びV族系ガスに限ることはない。
【0105】
このように、本実施の形態のMOCVD装置10は、III 族系ガス及びV族系ガスの各原料ガスを吐出する複数のIII 族系ガス吐出孔H3及びV族系ガス吐出孔H5を配設したシャワープレート21を介して被成膜基板3を収容する成長室1内に該III 族系ガス及びV族系ガスを供給して被成膜基板3に成膜する。上記シャワープレート21上には、III 族系ガス及びV族系ガスをそれぞれ充満させるIII 族系ガスバッファエリア23b及びV族系ガスバッファエリア24bと、III 族系ガス及びV族系ガスを冷却する冷媒を充満させる冷媒バッファエリア22bとが、該冷媒バッファエリア22bをシャワープレート21側にして順に積層され、冷媒バッファエリア22bには、該冷媒バッファエリア22bからシャワープレート21の複数のIII 族系ガス吐出孔H3及びV族系ガス吐出孔H5に連通する複数のIII 族系ガス供給管23c及びV族系ガス供給管24cが貫通して設けられ、冷媒バッファエリア22bの周囲には、冷媒用リング状壁22dを介して環状の冷媒外環室27が設けられている。
【0106】
したがって、冷媒バッファエリア22bの周囲に設けられた環状の冷媒外環室27に導入された冷媒は、一部は冷媒用リング状壁22dに形成されている冷媒流入開口Hinを通して冷媒バッファエリア22bに流入すると共に、他の一部は環状の冷媒外環室27に流入する。
【0107】
しかし、冷媒バッファエリア22bには複数のIII 族系ガス供給管23c及びV族系ガス供給管24cが貫通して設けられているので、冷媒バッファエリア22bの内部は冷媒の流入抵抗が大きい。このため、冷媒外環室27に導入された冷媒の大部分は、抵抗の小さい冷媒外環室27を経由して冷媒排出口39aから外部に排出される。これにより、冷媒外環室27に導入された冷媒の大部分が、抵抗の大きい冷媒バッファエリア22bに充分に流入せずに短絡して流れるので、シャワープレート21の冷却を均一に行うことができないことになる。
【0108】
そこで、本実施の形態では、これを回避するために、冷媒外環室27は、冷媒バッファエリア22bへの冷媒用リング状壁22dに形成されている冷媒流入開口Hinに対向する冷媒導入口38aから冷媒が導入される冷媒外環導入室27aと、該冷媒導入口38aの対向位置に設けられ、かつ冷媒バッファエリア22bからの冷媒用リング状壁22dに形成されている冷媒流出開口Houtに対向する冷媒排出口39aから冷媒が排出される冷媒外環排出室27bと、これら冷媒外環導入室27aと冷媒外環排出室27bとを区画する冷媒外環室隔壁28とを備えていると共に、冷媒外環室隔壁28の一部には、冷媒外環導入室27aと冷媒外環排出室27bとを連通する隔壁連通開口28aが設けられている。
【0109】
すなわち、冷媒外環導入室27aと冷媒外環排出室27bとを区画する冷媒外環室隔壁28を設けただけでは、冷媒外環室27には冷媒は流れない。
【0110】
この点、本実施の形態では、冷媒外環室隔壁28の一部には、冷媒外環導入室27aと冷媒外環排出室27bとを連通する隔壁連通開口28aが設けられている。逆に、冷媒外環室27には冷媒外環室隔壁28の一部にしか隔壁連通開口28aが設けられていないことから、隔壁連通開口28aでは冷媒流通路が狭くなっており、冷媒流通量が低減される。このため、冷媒外環室27に導入された冷媒の大部分が抵抗の大きい冷媒バッファエリア22bに充分に流入せずに短絡して流れるということを防止できる。また、冷媒が冷媒外環室27を一部流れるようにすることにより、冷媒用リング状壁22dの冷媒流入開口Hinからの冷媒バッファエリア22bへの冷媒の流れが、冷媒バッファエリア22bの外周近辺にまで流れるようになる。
【0111】
したがって、冷媒をシャワープレート21の全域に流れるようにすることにより、シャワープレート21の冷却を均一に行い、ガスのシャワープレート21での反応によるシャワープレート21におけるガス吐出孔の目詰まりを回避し得るMOCVD装置10を提供することができる。
【0112】
ところで、冷媒バッファエリア22bに流入した冷媒は、冷媒バッファエリア22bに複数設けられたIII 族系ガス供給管23c及びV族系ガス供給管24cの間を通って、冷媒用リング状壁22dに形成されている冷媒流出開口Houtの方向へ流れる。この場合、冷媒用リング状壁22dの冷媒バッファエリア22b側の表面とIII 族系ガス供給管23c及びV族系ガス供給管24cとの間隔が、III 族系ガス供給管23c及びV族系ガス供給管24c同士の間隔よりも広い場合には、冷媒は抵抗の少ない冷媒用リング状壁22dの冷媒バッファエリア22b側の表面に沿って流れるので、各III 族系ガス供給管23c及びV族系ガス供給管24cの間への流通量が少なくなる。
【0113】
そこで、本実施の形態では、冷媒外環室27の冷媒用リング状壁22dには、冷媒外環室隔壁28の近傍における冷媒バッファエリア22b側に突出する突出部Pを設け、この突出部Pと冷媒バッファエリア22bに設けられたIII 族系ガス供給管23c及びV族系ガス供給管24cとの間隔D1を、III 族系ガス供給管23c及びV族系ガス供給管24c同士の間隔D2よりも狭くしている。
【0114】
この結果、冷媒は抵抗の大きい冷媒用リング状壁22dの冷媒バッファエリア22b側の表面に沿った流域にはあまり流れない。
【0115】
したがって、冷媒をシャワープレート21の全域に流れるようにすることにより、シャワープレート21の冷却を均一に行い、ガスのシャワープレート21での反応によるシャワープレート21におけるIII 族系ガス吐出孔H3及びV族系ガス吐出孔H5の目詰まりを確実に回避し得るMOCVD装置10を提供することができる。
【0116】
また、本実施の形態では、突出部Pは、冷媒用リング状壁22dにおいて弦を形成するように冷媒バッファエリア22b側に突出している。これにより、長い区域で、抵抗の大きい冷媒用リング状壁22dの冷媒バッファエリア22b側の表面に沿った流域に冷媒を殆ど流さないようにして、冷媒が周辺を短絡して流れるのを防止することができる。
【0117】
なお、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の変更が可能である。
【0118】
例えば、上記実施の形態では、冷媒外環室隔壁28に形成された隔壁連通開口28aは断面長方形の開口となっているが、必ずしもこれに限らない。
【0119】
例えば、図8(a)(b)及び図9(a)(b)に示すように、隔壁連通開口28aに断面台形のテーパーを形成しておくことができる。すなわち、隔壁連通開口28aを断面長方形の開口にすると、隔壁連通開口28aの出入口近傍において流速がない部分が発生する可能性がある。これに対して、隔壁連通開口28aに断面台形のテーパーを形成しておくことにより、冷媒外環室隔壁28に形成された隔壁連通開口28aの出入口近傍での、流速がない部分を減少させることが可能となり、隔壁連通開口28aの冷媒の流通性を良くすることができる。
【0120】
尚、隔壁連通開口28aのテーパーは、図8(a)(b)に示すように、冷媒外環導入室27aから冷媒外環排出室27bに向かって開口幅が広くなるテーパー、又は図9(a)(b)に示すように、冷媒外環導入室27aから冷媒外環排出室27bに向かって開口幅が広くなるテーパーのいずれであっても、隔壁連通開口28aの冷媒の流通性が良くなることが、図8(a)(b)及び図9(a)(b)に示すシミュレーション結果により確認できる。
【0121】
また、本実施の形態のMOCVD装置10では、図10(a)(b)に示すように、冷媒外環室隔壁28に形成された隔壁連通開口28aは、複数箇所に形成されているとすることができる。
【0122】
これによっても、図10(a)(b)に示すシミュレーション結果により、隔壁連通開口28aの出入口近傍での流速がない部分を大きく減少できることが確認できる。
【0123】
また、上記の説明では、図1(a)等に示すように、冷媒外環導入室27aに冷媒を導入する冷媒導入口38aは、冷媒供給配管38の円筒形を維持する断面長方形となっていて。
【0124】
しかし、必ずしもこれに限らず、例えば、図11(a)(b)に示すように、冷媒外環導入室27aに近づくに伴って入口面積が大きくなるように断面台形に形成された冷媒導入口38bとすることができる。
【0125】
これにより、冷媒外環室27の冷媒導入口38bの近傍において、冷媒バッファエリア22bへの冷媒の流れと冷媒外環導入室27aへの冷媒の流れとの間で乱流が生じることによって媒体の流れが妨げられることを防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明は、シャワープレート上部の空間に周辺部よりガスを導入し、シャワープレートの複数のガス吐出孔から基板表面に反応ガスを供給するシャワープレートを用いた縦型のMOCVD装置等の気相成長装置に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】本発明における気相成長装置の実施の一形態を示すものであって、シャワーヘッドの冷媒供給部における冷媒の流れを示す平面図である。
【図2】上記気相成長装置の全体構成を示す概略図である。
【図3】上記気相成長装置におけるシャワーヘッドの構成を示す断面図である。
【図4】上記シャワーヘッドにおけるV族系ガス供給部のV族系冷媒外環室の構成を示す斜視図である。
【図5】(a)はシャワーヘッドにおける冷媒供給部の構成を示す斜視図であり、(b)はシャワーヘッドの構成を示す組み立て分解斜視図である。
【図6】(a)は上記シャワーヘッドにおける冷媒バッファエリア及び冷媒外環室の構成を示す平面図であり、(b)は冷媒外環室における冷媒外環室隔壁の構成を拡大して示す平面図である。
【図7】比較例を示すものであり、冷媒外環室に冷媒外環室隔壁を設けない場合において、上記シャワーヘッドの冷媒供給部における冷媒の流れを示す平面図である。
【図8】(a)は上記シャワーヘッドにおける冷媒バッファエリア及び冷媒外環室の変形例の構成を示す平面図であり、(b)は上記冷媒外環室における冷媒外環室隔壁の構成を拡大して示す平面図である。
【図9】(a)は上記シャワーヘッドにおける冷媒バッファエリア及び冷媒外環室の他の変形例の構成を示す平面図であり、(b)は上記冷媒外環室における冷媒外環室隔壁の構成を拡大して示す平面図である。
【図10】(a)は上記シャワーヘッドにおける冷媒バッファエリア及び冷媒外環室のさらに他の変形例の構成を示す平面図であり、(b)は上記冷媒外環室における冷媒外環室隔壁の構成を拡大して示す平面図である。
【図11】(a)は上記シャワーヘッドにおける冷媒バッファエリア及び冷媒外環室のさらに他の変形例の構成を示す平面図であり、(b)は上記冷媒外環室における冷媒供給配管の冷媒導入口の構成を拡大して示す平面図である。
【図12】従来の縦型シャワーヘッド型の気相成長装置の構成を示す断面図である。
【図13】従来の他の縦型シャワーヘッド型の気相成長装置の構成を示す断面図である。
【図14】従来のさらに他の縦型シャワーヘッド型の気相成長装置の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0128】
1 成長室
1a ガス排出口
2 反応炉
3 被成膜基板
4 サセプタ
5 ヒータ
7 回転軸
10 MOCVD装置(気相成長装置)
11 ガス排出部
12 パージライン
20 シャワーヘッド
21 シャワープレート
22 冷媒供給部
22b 冷媒バッファエリア(冷媒中間室)
22d 冷媒用開口付きリング
23 III 族系ガス供給部
23a III 族系ガス冷媒外環流路
23b III 族系ガスバッファエリア(ガス中間室)
23c III 族系ガス供給管(ガス供給管)
24 V族系ガス供給部
24a V族系ガス冷媒外環流路
24b V族系ガスバッファエリア(ガス中間室)
24c V族系ガス供給管(ガス供給管)
24d V族系ガス開口付きリング
27 冷媒外環室
27a 冷媒外環導入室
27b 冷媒外環排出室
28 冷媒外環室隔壁(隔壁)
28a 隔壁連通開口
38 冷媒供給配管
38a 冷媒導入口
38b 冷媒導入口
39 冷媒排出配管
39a 冷媒排出口
41 ガス導入口
42 ガス導入口
43 ガス導入口
44 突起
D1 間隔
D2 間隔
H 開口
H3 III 族系ガス吐出孔(ガス吐出孔)
H5 V族系ガス吐出孔(ガス吐出孔)
Hin 冷媒流入開口(冷媒用開口)
Hout 冷媒流出開口(冷媒用開口)
P 突出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスを吐出する複数のガス吐出孔を配設したシャワープレートを通して、被成膜基板を収容する成長室内に該ガスを供給して上記被成膜基板に成膜する気相成長装置において、
上記シャワープレート上に、上記ガスを充満させるガス中間室と、上記ガスを冷却する冷媒を充満させる冷媒中間室とが、該冷媒中間室をシャワープレート側にして順に積層され、
上記冷媒中間室には、上記ガス中間室から上記シャワープレートの複数のガス吐出孔に連通する複数のガス供給管が貫通して設けられ、
上記冷媒中間室の周囲には、リング状壁を介して環状の冷媒外環室が設けられ、
上記冷媒外環室は、上記冷媒中間室への上記リング状壁に形成されている冷媒流入開口に対向する冷媒導入口から冷媒が導入される冷媒外環導入室と、該冷媒導入口の対向位置に設けられ、かつ上記冷媒中間室からの上記リング状壁に形成されている冷媒流出開口に対向する冷媒排出口から冷媒が排出される冷媒外環排出室と、上記冷媒外環導入室と冷媒外環排出室とを区画する隔壁とを備えていると共に、
上記隔壁の一部には、冷媒外環導入室と冷媒外環排出室とを連通する隔壁連通開口が設けられていることを特徴とする気相成長装置。
【請求項2】
前記冷媒外環室のリング状壁には、前記隔壁の近傍における冷媒中間室側に突出する突出部が設けられており、
上記突出部と冷媒中間室に設けられた前記ガス供給管との間隔は、ガス供給管同士の間隔よりも狭いことを特徴とする請求項1記載の気相成長装置。
【請求項3】
前記突出部は、前記リング状壁において弦を形成するように冷媒中間室側に突出していることを特徴とする請求項2記載の気相成長装置。
【請求項4】
前記隔壁に形成された隔壁連通開口には、冷媒外環導入室から冷媒外環排出室に向かって開口幅が広くなるテーパー、又は冷媒外環導入室から冷媒外環排出室に向かって開口幅が狭くなるテーパーが形成されていることを特徴とする請求項1,2又は3記載の気相成長装置。
【請求項5】
前記隔壁に形成された隔壁連通開口は、複数箇所に形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の気相成長装置。
【請求項6】
前記冷媒外環導入室に冷媒を導入する冷媒導入口は、上記冷媒外環導入室に近づくに伴って入口面積が大きくなるように形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の気相成長装置。

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図1】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2010−27675(P2010−27675A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−183957(P2008−183957)
【出願日】平成20年7月15日(2008.7.15)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】