説明

無段変速機の変速制御装置

【課題】クルーズ制御中の過渡時における無段変速機の変速ハンチングを抑制する。
【解決手段】クルコン要求馬力演算部33はクルーズ目標車速Soと実車速Sとの速度差ΔSからクルコン要求馬力HPsを求め、クルコン要求トルク演算部34はクルコン要求馬力HPsとエンジン回転数Neとに基づいてクルコン要求トルクTcsを求める。クルコン用アクセル開度演算部37はクルコン要求トルクTcsとエンジン回転数Neとに基づきクルコン用アクセル開度θhaの特性曲線が等馬力曲線に沿って設定されているエンジントルクマップを参照して、クルコン用アクセル開度θhaを設定する。目標プライマリ回転数演算部25はクルコン用アクセル開度θhaと実車速Sとに基づき変速線マップを参照して目標プライマリ回転数Npoを設定する。変速制御部26は目標プライマリ回転数Npoと実車速Sとに基づき目標変速比を求めて変速制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クルーズ制御時に要求トルクとエンジン回転数とに基づいて設定されるクルーズ制御用アクセル開度の特性曲線を、等馬力線に沿って設定した無段変速機の変速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両にクルーズ制御装置を搭載する車両が知られている。クルーズ制御装置は、運転者の設定した車速と実際の車速(実車速)との差(速度差)を検出し、この速度差に基づいてエンジン出力、及び自動変速機の変速比を制御して、実車速が目標車速に収束するようにフィードバック制御している。例えば、クルーズ制御による走行中に、登坂路のような走行負荷の大きい路面にさしかかると、車速が一時的に低下するため、エンジン制御でスロットル弁開度を大きくしてエンジン出力を増加させる。一方、変速制御ではスロットル弁開度が大きく開いたので、自動変速機をダウンシフトさせて加速運転し、実車速が設定車速に戻るように制御する。
【0003】
例えば特許文献1(特開2008−120268号公報)には、クルーズ制御中の変速制御として、先ず、実車速と目標車速との速度差に基づいて要求トルクを求め、この要求トルクとエンジン回転数とに基づきアクセル開度(クルコン用アクセル開度)を逆算し、このクルコン用アクセル開度からクルーズ要求アクセル開度を求め、このクルーズ要求アクセル開度と車速とに基づいて変速制御を行う技術が開示されている。
【0004】
更に、この文献には、クルコン用アクセル開度を上限しきい値で制限することで、要求トルクの微小な変化に対し、クルコン用アクセル開度が大きく変動した場合における過剰な変速を制限して、キックダウンとアップシフトの繰り返しによって生じる変速ハンチングを防止する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−120268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、車両に搭載される自動変速機として、変速比を連続的に無段階に設定することのできる無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)が知られている。一般的なCVTにおける変速制御は、先ず、車速とアクセル開度とに基づいて目標プライマリ回転数(エンジン回転数と比例する値)を設定し、この目標プライマリ回転数と実セカンダリ回転数とから目標となる変速比(セカンダリ回転数/プライマリ回転数)を算出して変速制御を行う。
【0007】
上述したように、CVTは変速比が連続的に無段階に設定されるため、アクセル開度の変化に対して不感帯(ヒステリシス)が殆どなく、従って、クルーズ制御に際しては、多段変速機よりも変速ハンチングが過剰に生じやすい。
【0008】
図4に無段変速機で採用されている変速線マップを示す。同図に示すように、変速線マップは、目標変速比(目標プライマリ回転数)が最大となる低速側変速線LOWと変速比が最小となる高速側変速線ODとで囲まれた領域に、アクセル開度が設定されている。そして、現在の車速とアクセル開度とに基づいて目標プライマリ回転数(≒目標エンジン回転数)が決定される。
【0009】
すなわち、エンジンの出力軸の回転は無段変速機で減速されて車輪速(車速)となるため、この変速線マップにて、車速に対する目標プライマリ回転数(≒エンジン回転数)が設定されれば、無段変速機の変速比が決定される。従って、一定車速ではアクセル開度が大きいほど目標プライマリ回転数が大きく設定されるため、変速比は大きな値となる。
【0010】
図4に示すように、車速が中速S1(例えば40[Km/h])にあり、そのときのアクセル開度が低開度(例えば20[%])を示す曲線L1以下では、このアクセル開度を変化させても、目標プライマリ回転数は大きくは変化しないが、それよりもアクセル開度を増加させると、中開度(例えば35[%],50[%])を示す曲線L2,L3では、目標プライマリ回転数が大きく変化する設定となっている。従って、一定車速であっても、アクセル開度が低回度から中高開度の間では、目標プライマリ回転数が大きく変化し、それに伴い、無段変速機は、変速比を目標変速比に収束させるべくダウンシフト或いはアップシフトする。
【0011】
クルーズ制御において当該変速線マップを参照し、上述したクルコン用アクセル開度と車速とに基づいて目標プライマリ回転数を設定した場合、クルコン用アクセル開度を僅かに変化させたときに目標プライマリ回転数が大きく変化する領域では、無段変速機の変速が過剰となり、変速ハンチングが生じやすい。
【0012】
この対策として、上述した文献に開示されているように、クルコン用アクセル開度を上限しきい値で制限すれば、過渡時における過剰な変速は抑制されるが、発進加速、登坂路走行等、パワーを必要とする走行条件においても、変速が制限されることとなり、運転者に出力不足感を与えてしまう不都合がある。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑み、無段変速機を搭載している車両でクルーズ制御を実行している場合に、演算により求めたクルーズ制御用アクセル開度が過渡時において一時的に急変化した場合であっても無段変速機の変速ハンチングが発生せず、良好な加速性を得ることのできる無段変速機の変速制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため本発明は、クルーズ制御時に設定される目標車速と実際の車速との速度差から該実際の車速を前記目標車速に到達させるための要求馬力を求める要求馬力演算手段と、前記要求馬力とエンジン回転数とに基づいて要求トルクを求める要求トルク演算手段と、前記要求トルクと前記エンジン回転数とに基づきクルーズ制御用アクセル開度を求めるアクセル開度演算手段と、前記アクセル開度演算手段で求めた前記クルーズ制御用アクセル開度と前記実際の車速とに基づいて無段変速機の目標変速比を設定して変速制御を行う変速制御手段とを備える無段変速機の変速制御装置において、前記アクセル開度演算手段は前記要求トルクと前記エンジン回転数とに基づき前記クルーズ制御用アクセル開度を特定するマップを有し、該マップには該クルーズ制御用アクセル開度の特性曲線が等馬力線に沿って設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、クルーズ制御時に設定されるクルーズ制御用アクセル開度の特性曲線が、等馬力線に沿って設定されているので、過渡時において要求トルクが増加し、クルーズ制御用アクセル開度が急に増加された場合であっても、その後、無段変速機の変速に伴い、要求トルク及びエンジン回転数が等馬力線に沿って推移するため、その後はクルーズ制御用アクセル開度が急変化せず、過渡時におけるクルーズ制御用アクセル開度の急変化に伴う無段変速機の変速ハンチングを抑制することができる。又、クルーズ制御用アクセル開度の増加により、無段変速機はシフトダウンされるため、良好な加速性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】車両駆動系の概略構成図
【図2】オートクルコン部の構成を示す機能ブロック図
【図3】クルコン用エンジントルクマップの概念図
【図4】無段変速機の変速線マップの概念図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づいて本発明の一実施形態を説明する。図1の符号1はエンジンで、このエンジン1の出力側に、トルクコンバータ2、無段変速機(CVT)3からなる自動変速装置4が連設されている。
【0018】
エンジン1からの出力は、トルクコンバータ2の流体或いは、このトルクコンバータ2に設けられているロックアップクラッチ2aを介して無段変速機3に伝達され、この無段変速機3で所定の変速比に変速された後、出力軸5から後輪或いは前輪等の駆動輪側へ動力が伝達される。
【0019】
又、エンジン1の吸気ポート(図示せず)に連通する吸気通路6の中途にスロットル弁7が介装されている。このスロットル弁7は、ステッピングモータ等からなるスロットルモータ8に連設されており、このスロットルモータ8が後述するエンジン制御部23からの駆動信号で駆動されて開弁角度が制御される。
【0020】
又、無段変速機3にコントロールバルブユニット3aが併設されている。このコントロールバルブユニット3aは、無段変速機3に内装されている変速機構を変速動作させるものであり、後述する変速制御部26からの変速信号(油圧信号)に従い、無段変速機3のプライマリプーリとセカンダリプーリとに印加する油圧を調圧して、所望の変速比を得るようにする。尚、無段変速機3の変速機構としては、ベルト式、チェーン式、トロイダル式等、種々のものが知られているが、本実施形態では、プライマリプーリとセカンダリプーリとを有するベルト式或いはチェーン式の変速機構を、その一例に掲げて説明する。
【0021】
又、符号21は、エンジン制御装置(ECU)であり、周知のCPU、ROM、RAM等を備えたマイクロコンピュータを主体に構成されている。このECU21には、クルーズ制御時の走行状態を制御する機能として、クルーズ制御(クルコン)手段の一例であるオートクルコン部22、エンジン制御手段としてのエンジン制御部23が備えられている。
【0022】
又、符号24はトランスミッション制御装置(TCU)であり、周知のCPU、ROM、RAM等を備えたマイクロコンピュータを主体に構成されている。このTCU24には、走行時の変速制御を実行する機能として、目標プライマリ回転数演算手段としての目標プライマリ演算部25、変速制御手段としての変速制御部26が備えられている。
【0023】
オートクルコン部22は、インストルメントパネルに設けられているクルコン操作スイッチ27をONすると、車速検出手段28で検出した実際の車速(実車速)S[Km/h]、エンジン回転数検出手段29で検出したエンジン回転数Ne[rpm]、アクセル開度検出手段30で検出したアクセル開度θa[%]を読込み、目標スロットル開度θαs[deg]とクルコン制御用アクセル開度[%]とを求める。
【0024】
尚、車速検出手段28としては、車速センサや車輪速センサがある。車輪速センサは各車輪の車輪速を検出するもので、この各車輪速センサで検出した車輪速の平均値が実車速Sとなる。又、エンジン回転数検出手段29はエンジン出力軸(例えばクランク軸)の回転数を検出するものである。又、アクセル開度検出手段30は、アクセルペダルの踏込み量を検出するもので、周知のロータリエンコーダやレゾルバ、ポテンショメータ等からなり、アクセルペダル解放で0[%]、最大踏込みで100[%]程度に設定されている。
【0025】
エンジン制御部23は、スロットルモータ8を駆動させてスロットル弁7を回動させる電子制御式スロットルシステムを有し、このスロットル弁7の開度が、オートクルコン部22で求めた目標スロットル開度θαsに収束するようにフィードバック制御する。
【0026】
変速制御部26は、無段変速機3のプライマリ回転数が、アクセル開度より求めた目標プライマリ回転数Npoに収束するように、ダウンシフト、或いはアップシフトすることでフィードバック制御を行う。
【0027】
又、図2に示すように、オートクルコン部22は、詳細には、クルーズ制御を実現するための機能として、クルーズ目標車速演算部31、アクセル要求トルク演算部32、要求馬力演算手段としてのクルコン要求馬力演算部33、クルコン要求トルク演算部34、要求トルク選択演算部35、目標スロットル開度演算部36、アクセル開度演算手段としてのクルコン用アクセル開度演算部37を備えている。
【0028】
次に、オートクルコン部22を構成する各演算部31〜37で実行される処理について説明する。
【0029】
運転者が車両のインストルメントパネル(図示せず)に配設されているクルコン操作スイッチ27をONすると、車両の走行状態がオートクルーズモードとなり、クルーズ目標車速演算部31では、運転者の設定した車速(セット車速)をクルーズ目標車速Soとして設定する。
【0030】
このクルーズ目標車速Soは、クルコン要求馬力演算部33で読込まれる。クルコン要求馬力演算部33は、クルーズ目標車速Soと車速検出手段28で検出した実際の車速(以下「実車速」と称する)Sとの速度差ΔS(=So−S)に基づき、実車速Sをクルーズ目標車速Soに到達させるためのクルコン要求馬力HPsを、計算式或いはテーブル検索により求める。
【0031】
このクルコン要求馬力HPsは、クルコン要求トルク演算部34で読込まれる。クルコン要求トルク演算部34は、クルコン要求馬力HPsとエンジン回転数Neとに基づきクルコン要求トルクTcsを、
Tcs=k・(HPs/Ne)
から求める。ここでkは係数である。尚、このクルコン要求トルクTcsは、クルコン要求馬力HPsとエンジン回転数Neとをパラメータとして予めマップに記憶させておき、マップ検索により設定するようにしても良い。
【0032】
一方、アクセル要求トルク演算部32は、アクセル開度検出手段30で検出したアクセル開度θaと実車速Sとに基づきエンジントルクマップを補間計算付きで参照して、アクセル要求トルクTacsを設定する。尚、このエンジントルクマップは、周知であり、運転者のドライバビリティに対する要求等を要件として設定されており、後述するクルコン用エンジントルクマップとは異なる特性を有している。
【0033】
要求トルク選択演算部35は、クルコン要求トルクTcsとアクセル要求トルクTacsとを比較し、何れか値の高い方を、エンジン1に対して供給するトルク(要求トルク)Tsとして設定する。従って、オートクルーズモードにおいて、運転者がアクセルペダルを開放している状態ではクルコン要求トルクTcsが、エンジンに対する要求トルクTsとして設定される(Ts←Tcs)。
【0034】
この要求トルクTsが、目標スロットル開度演算部36とクルコン用アクセル開度演算部37とに読込まれる。目標スロットル開度演算部36は、要求トルクTsに基づき、当該要求トルクTsに対応する目標スロットル開度θαsを求め、エンジン制御部23へ出力する。エンジン制御部23は、実際のスロットル開度が目標スロットル開度θαsに収束するように、スロットル弁7の開度をフィードバック制御する。
【0035】
一方、クルコン用アクセル開度演算部37は、要求トルクTsとエンジン回転数Neとに基づき、クルコン用エンジントルクマップを補間計算付きで参照し、クルコン用アクセル開度θhaを逆引きにより設定する。
【0036】
図3にクルコン用エンジントルクマップを示す。このクルコン用エンジントルクマップは3次元マップであり、横軸にエンジン回転数Ne[rpm]、縦軸に要求トルクTs[Nm]を取り、エンジン回転数Neと要求トルクTsとで特定される格子点にクルコン用アクセル開度θhaが記憶されている。このクルコン用アクセル開度θhaは、実際には駆動系の伝達損失が加味されているが、基本的には等馬力線に沿ってアクセル開度毎に設定されている。
【0037】
等馬力線は、エンジン回転数とエンジントルクとの積から求められる馬力(出力)が等しくなる点を連続して設定した特性曲線である。基本的にはクルコン用アクセル開度θhaは各アクセル開度毎に、この等馬力線に沿って設定されるのでクルコン用エンジントルクマップ上に表わされる等アクセル開度曲線は、基本的にはエンジン回転数Neと要求トルクTsとに対し反比例曲線となる。
【0038】
本実施形態では、クルコン用アクセル開度θha毎に設定されているクルコン用アクセル開度曲線において、低回転数域N1(例えば1000[rpm])以下では、実際の発進加速時に必要とするアクセル開度よりも大きな開度に設定されている。これにより、後述する目標プライマリ回転数演算部25で設定される目標プライマリ回転数Npoが高くなり、良好な加速性を得ることができる。又、最初に設定される目標プライマリ回転数Npoが高いため、無段変速機3の変速(アップシフト)が早めとなり、良好な発進加速性を得ることができる。
【0039】
従って、中高速領域での走行時時における平地走行において、要求馬力がほぼ一定の場合は、無段変速機3の変速が進んでも、エンジン回転数Neと要求トルクTsとの関係はほぼ等馬力線に沿って遷移するため、クルコン用アクセル開度θhaはエンジン回転数Neの遷移に拘わらず、ほぼ一定に設定され、急変動することはない。
【0040】
又、中回転数域N2(例えば2000[rpm])付近で加速動作する場合、最初に要求トルクTsが増加するのでクルコン用アクセル開度θhaが一時的に急変化(急増加)される。それに伴い無段変速機3のダウンシフトが開始されてエンジン回転数Neが上昇して加速走行となるため、良好な加速性を得ることができる。
【0041】
そして、加速走行時のエンジン回転数Neの上昇に伴い、要求トルクTsは次第に低下するが、無段変速機3の変速は、エンジン回転数Neと要求トルクTsとに基づき、ほぼ等馬力線に沿って遷移するため、クルコン用アクセル開度θhaは急変化せず、過渡時における変速ハンチングを防止することができる。
【0042】
このように、クルコン用エンジントルクマップ上に表わされるクルコン用アクセル開度曲線が、基本的に等馬力線に沿って設定されているため、登坂路走行やオートクルーズモードが一旦解除されてから再開されるリジューム制御等の加速運転時においてクルコン用アクセル開度θhaが急増加しても、その後、無段変速機3の変速がほぼ等馬力線に沿って遷移するため、クルコン用アクセル開度θhaが急変化することがなく、過渡時における無段変速機3の変速ハンチングを未然に防止することができる。
【0043】
このクルコン用アクセル開度θhaは、TCU24の目標プライマリ回転数演算部25で読込まれる。目標プライマリ回転数演算部25は、アクセル開度検出手段30で検出したアクセル開度θaとクルコン用アクセル開度θhaとを比較し、何れか値の高い方と実車速Sとに基づき、図4に示す変速線マップを参照して目標プライマリ回転数Npoを設定する。
【0044】
変速制御部26では、目標プライマリ回転数Npoと実車速Sとに基づき目標変速比を求め、現在の変速比が目標変速比に到達するように、所定タイミングでダウンシフト、或いはアップシフトによる変速制御を行う。
【0045】
以上説明したように、本実施形態によれば、図3に示すクルコン用エンジントルクマップ上に設定されているクルコン用アクセル開度θha毎のクルコン用アクセル開度曲線が、ほぼ等馬力線に沿って設定されているため、平地での定速走行は勿論のこと、加速走行において最初にクルコン用アクセル開度θhaが急変動し、その後、無段変速機3のダウンシフトによりエンジン回転数Neが増加しても、その分、要求トルクTsが低下するので、クルコン用アクセル開度θhaが急変化することがなく、過剰な変速が抑制され、変速ハンチングを有効に防止することができる。
【0046】
又、クルコン用エンジントルクマップにおいて、低回転数域に設定されるクルコン用アクセル開度θhaが、実際に必要とするアクセル開度よりも大きな開度に設定されているので、最初に設定される目標プライマリ回転数Npoが高くなり、良好な発進加速性を得ることができるばかりでなく、その後の変速(アップシフト)が早めに行われるので、良好な加速の伸びを得ることができる。
【0047】
次に、オートクルコン部22で実行されるクルーズ制御の制御態様について説明する。
【0048】
1)平地一定速走行
車両が平地を一定速で走行している状態では、クルーズ目標車速Soと実車速Sとの速度差ΔSが少なく、従って、クルコン要求トルクTcsが大きく変化することはない。又、この状態では要求馬力がほぼ一定であるため、クルコン用アクセル開度θhaも急変することはない。従って、無段変速機3が大きく変速することもない。
【0049】
2)平地一定速走行からの加速走行
例えば高速道路を走行中に、走行路が平地から登坂路にさしかかると、車速Sが一時的に低下する。すると、クルーズ目標車速Soと実車速Sとの速度差ΔSが大きくなるため、先ず、クルコン要求トルクTcsのみが増加する。クルコン要求トルクTcsが増加すると、このクルコン要求トルクTcsとエンジン回転数Neとに基づきエンジントルクマップを参照して逆引きされるクルコン用アクセル開度θhaが増加されるため、このクルコン用アクセル開度θhaと車速Sとに基づき、図4に示す変速線マップを参照して設定される目標プライマリ回転数Npoが増加される。その結果、無段変速機3は変速(ダウンシフト)を開始する。
【0050】
無段変速機3がダウンシフトを行うと、エンジン回転数Neが上昇し、相対的にクルコン要求トルクTcsが低下する。クルコン用アクセル開度θhaは、エンジン回転数Neとクルコン要求トルクTcs(=要求トルクTc)とに基づき、クルコン用エンジントルクマップを参照して設定される。
【0051】
このクルコン用アクセル開度θhaが、例えば、図3のクルコン用アクセル開度曲線L1(例えばアクセル開度30[%])からL3(例えばアクセル開度70[%])に増加された場合、このクルコン用アクセル開度曲線L3のクルコン用アクセル開度θhaと車速Sとに基づき、図4に示す変速線マップを参照して目標プライマリ回転数Npoが設定される。この場合、現在の車速をS2(例えば80[Km/h])とした場合、図4に示すように、目標プライマリ回転数NpoがNp1(例えば1800[rpm])からNp2(例えば2700[rpm])に増加されるため、無段変速機3の変速(ダウンシフト)が開始される。
【0052】
その結果、エンジン回転数Neが増加し、相対的にクルコン要求トルクTcsが低下する。無段変速機3の変速は等馬力線に沿って遷移するので、クルコン用エンジントルクマップから逆引きで設定されるクルコン用アクセル開度θhaが急変化することはなく、過渡時における無段変速機3の変速ハンチングが有効に防止される。
【0053】
そして、加速走行により速度差ΔSが0に近づくに従い、クルコン要求トルクTcsが低下し、速度差ΔSが0になると、クルコン要求トルクTcsがほぼ一定(例えば図3のT1)となり、無段変速機3はアップシフトに切り替わる。同時に、クルコン用アクセル開度θhaを設定するクルコン用アクセル開度曲線が次第に閉じる方向(例えばL3からL1)へ移動し、定速走行へ移行される。
【0054】
3)減速走行からのリジューム
例えば、運転者がブレーキペダルを踏むと、オートクルーズモードは一時的に解除され、スロットル全閉の減速走行となる。そして、ブレーキペダルを解放すると、オートクルーズモードが復帰(リジューム)され、加速走行により実車速Sを前回設定したクルーズ目標車速Soまで復帰させて定速走行へ移行する。
【0055】
リジューム直後から車両が加速走行するまでの間は、実車速S、及びエンジン回転数Neが低下しているため、クルコン要求トルクTcsが急激に増加される。クルコン用アクセル開度θhaは、この増加されたクルコン要求トルクTcs(=要求トルクTs)とエンジン回転数Neとに基づき、図3に示すエンジントルクマップを参照して、逆引きで設定される。
【0056】
例えば、リジューム直後のエンジン回転数Neが中回転数域N2(例えば2000[rpm])まで低下し、要求トルクTs(クルコン要求トルクTcs)がT1(例えば100[Nm])からT2(例えば280[Nm])へ増加された場合、クルコン用アクセル開度θhaは、クルコン用アクセル開度曲線L1からL3に切り替わるに過ぎない。すなわち、各クルコン用アクセル開度曲線は、ほぼ等馬力線に沿って設定されているため、中回転数域N2(例えば2000[rpm]付近)以下の領域では、要求トルクTsが一定の状態でエンジン回転数Neが変化しても、クルコン用アクセル開度θhaが大きく変化することはない。
【0057】
従って、要求トルクTsが大きく増加されても、クルコン用アクセル開度θhaが過剰に増加されることはなく、エンジン回転数Neは緩やかに増加される。一方、クルコン用アクセル開度θhaが全く増加しないわけではないので、登坂路走行へ移行する際の初期駆動力を確保することができ、登坂路走行時におけるもたつき感を解消することができる。
【0058】
4)登坂路定速走行からの加速走行
登坂路走行中に、この登坂路の傾斜勾配が大きくなると、登坂路を定速走行してる車両の車速Sとエンジン回転数Neとが共に低下するため、上述した「2)平地一定速走行からの加速走行」と同様の制御動作が行われる。但し、この場合、走行負荷が大きいため、クルコン要求トルクTcsとエンジン回転数Neとは、平地走行時の場合に比し高い領域となる。
【符号の説明】
【0059】
3…無段変速機、
22…オートクルコン部、
23…エンジン制御部、
25…目標プライマリ回転数演算部、
26…変速制御部、
28…車速検出手段、
29…エンジン回転数検出手段、
30…アクセル開度検出手段、
31…クルコン目標車速演算部、
32…アクセル要求トルク演算部、
33…クルコン要求馬力演算部、
34…クルコン要求トルク演算部、
35…要求トルク選択演算部、
36…目標スロットル開度演算部、
37…クルコン用アクセル開度演算部、
ΔS…速度差、
θαs…目標スロットル開度、
θas…クルーズ要求アクセル開度、
θha…クルコン用アクセル開度、
HPs…クルコン要求馬力、
L1,L2,L3……クルコン用アクセル開度曲線、
S…実車速、
So…クルーズ目標車速、
Tcs…クルコン要求トルク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クルーズ制御時に設定される目標車速と実際の車速との速度差から該実際の車速を前記目標車速に到達させるための要求馬力を求める要求馬力演算手段と、
前記要求馬力とエンジン回転数とに基づいて要求トルクを求める要求トルク演算手段と、
前記要求トルクと前記エンジン回転数とに基づきクルーズ制御用アクセル開度を求めるアクセル開度演算手段と、
前記アクセル開度演算手段で求めた前記クルーズ制御用アクセル開度と前記実際の車速とに基づいて無段変速機の目標変速比を設定して変速制御を行う変速制御手段と
を備える無段変速機の変速制御装置において、
前記アクセル開度演算手段は前記要求トルクと前記エンジン回転数とに基づき前記クルーズ制御用アクセル開度を特定するマップを有し、該マップには該クルーズ制御用アクセル開度の特性曲線が基本的に等馬力線に沿って設定されている
ことを特徴とする無段変速機の変速制御装置。
【請求項2】
前記マップに記憶されている前記クルーズ制御用アクセル開度の特性曲線は、
前記エンジン回転数が低回転数域では発進加速に必要とするアクセル開度よりも大きな開度の前記クルーズ制御用アクセル開度が設定されている
ことを特徴とする請求項1記載の無段変速機の変速制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−202565(P2011−202565A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−69793(P2010−69793)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】