説明

疵検出装置及び疵検出方法

【課題】上工程における疵検出について、適切な学習データを用いて、完成品で最終的に有害となる疵を高精度に検出する疵検出装置及び疵検出方法を提供することを目的とする。
【解決手段】判定精度の高い下工程における疵検査で撮像された疵画像データと、上工程における疵検査で撮像された疵画像データとを対比させて、最終的に有害疵となる疵画像データに対応する上工程における有害な疵画像データを、上工程の疵検出装置に学習データとして蓄積するようにすることにより、上工程における疵検査の精度を格段に向上させることができるようにして、上工程において有害となる疵が検出された場合は、不良品を下工程に流さないようにしたり、生産計画を変更したりするなど早期に対応することができるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は疵検出装置、疵検出方法、コンピュータプログラム及び記録媒体に関し、特に上工程において完成品における有害な疵を早期に、高精度に検出する疵検出に用いて好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板製造ラインは、例えば、図1に示すような熱延工程1や酸洗工程2、冷延工程3、焼鈍工程4、表面処理工程5及び検査工程6等で構成されている。これらの工程には、それぞれに疵検出装置を配設することが多い。疵検出装置は、CCDカメラ等の画像撮像装置で被検査体表面の画像を採取し、当該画像を画像処理することによって疵を識別して検出する装置である。疵検出装置の役割は、熱延工程1や酸洗工程2、冷延工程3においては鋼板の品質管理及び操業または工程の管理の基礎データの収集である。すなわち、これらの工程ではこの疵検出装置を用いて疵検査を確実に行い、客先で有害となる疵を見つけて、不良品は下工程に流さない、あるいは生産計画を変更するなどの早期対応をとりたいという要求がある。また、下工程においては客先への品質保証のコイル不良部の判断及び検査員への不良部ガイダンス、更には品質管理のためのデータ収集をすることも重要な役割である。
【0003】
鋼板製造ラインにおける疵検査においては、各工程に設置された個々の疵検出装置を単独で使用して検査することが広く行われている。また、例えば、特許文献1や特許文献2に記載されているように、同一の部位について複数の工程の疵検査画像を並べて表示させることによって、疵の履歴を把握できるようにして、上工程から下工程まで一貫した鋼板の品質管理を容易にするような手法がある。
【0004】
【特許文献1】特開2000−28547号公報
【特許文献2】特開2003−329600号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、疵検出装置は、鋼板等の被検査体表面の画像について埃、水滴、油汚れ等のノイズから疵を拾い出し、さらに検出した疵について有害、無害の識別をする必要がある。各工程に配設された各疵検出装置で、疵検出を容易にする画像処理した後、弁別ロジックを用いて有害疵を識別する。疵検出の目標レベルは、有害な疵を漏れなく検出すること(検出感度)、及び無害な疵等を有害な疵とすること(過検出)を無くすこと(検出精度)である。しかし、従来技術では、検出精度について十分なレベルになく、疵検出装置に平行して検査員による検査が行われることが多かった。
【0006】
ある工程に設置された疵検出装置の検出感度・検出精度を向上させるには、同一の被検査体に別途正しく命名した画像を学習データとして蓄積して、当該検出装置の画像処理及び弁別ロジックを改善することが効果的である。
【0007】
熱延工程1や酸洗工程2などの上工程では、学習データを収集するには操業中に通板速度を減速して客先で有害となる疵を検査員が検出すること、あるいは、再検査用のラインを通板して検査員が鋼板の上の表面欠陥を目視することが必要であり、さらに冷延工程3で疵が消えたり、メッキすることで疵が消えたりして、客先にとって有害な疵を上工程の鋼板で検査員が判定することは難しく、十分な学習データを蓄積させることが困難であった。
【0008】
ところで、熱延工程1や酸洗工程2などの上工程では、この疵検出装置を用いて疵検査を確実に行い、客先で有害となる疵を見つけて、不良品は下工程に流さない、あるいは生産計画を変更するなどの早期対応をとりたいという要求がある。
【0009】
前記の問題点に鑑みて本発明は、上工程における疵検出について、適切な学習データを用いて、完成品で最終的に有害となる疵を高精度に検出する疵検出装置及び疵検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の疵検出装置は、鋼板生産プロセスの上工程において、鋼板表面の画像を用いて疵検査を行う疵検出装置であって、前記上工程の鋼板表面を撮像して上工程疵画像データを検出する上工程疵画像検出手段と、前記上工程疵画像検出手段によって検出された上工程疵画像データと、前記鋼板生産プロセスの下工程において検出された下工程疵画像データとを比較する比較手段と、前記比較手段による比較の結果に基づいて、前記上工程疵画像データの中から有害な疵画像データを抽出する疵画像抽出手段と、前記疵画像抽出手段によって抽出された有害な疵画像データを学習データとして蓄積する蓄積手段とを有し、前記蓄積手段によって蓄積された学習データを新たな鋼板の疵判定に利用することを特徴とする。
【0011】
本発明の疵検出方法は、鋼板生産プロセスの上工程において、鋼板表面の画像を用いて疵検査を行う疵検出方法であって、前記上工程の鋼板表面を撮像して上工程疵画像データを検出する上工程疵画像検出工程と、前記上工程疵画像検出工程によって検出された上工程疵画像データと、前記鋼板生産プロセスの下工程において検出された下工程疵画像データとを比較する比較工程と、前記比較工程による比較の結果に基づいて、前記上工程疵画像データの中から有害な疵画像データを抽出する疵画像抽出工程と、前記疵画像抽出工程によって抽出された有害な疵画像データを学習データとして蓄積する蓄積工程とを有し、前記蓄積工程によって蓄積された学習データを新たな鋼板の疵判定に利用することを特徴とする。
【0012】
本発明のコンピュータプログラムは、前記に記載の方法の各工程をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【0013】
本発明の記録媒体は、前記に記載のコンピュータプログラムを記録したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、判定精度の高い下工程における疵検査で撮像された疵画像データと、上工程における疵検査で撮像された疵画像データとを対比させて、最終的に有害な疵画像データを学習データとして上工程において蓄積するようにしたので、上工程の疵検出装置に十分な学習データを蓄積させるようにすることができる。これにより、上工程における疵検査の精度を格段に向上させることができるとともに、鋼板の疵判定精度を向上させることができる。また、上工程において有害となる疵が検出された場合は、不良品を下工程に流さないようにしたり、生産計画を変更したりするなど早期に対応することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(第1の実施の形態)
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
図1は、鋼板(薄板)生産プロセスの概略及び疵検出装置の分類の一例を示す図である。
図1において、熱延工程1において熱延された鋼板は、表面に酸素が吸着することによって生じた酸化物を除去するために、酸洗工程2で酸洗され、冷延工程3において、薄板に延ばされる。次に、製品によって焼鈍工程4で連続焼鈍を施されたり、表面処理工程5で表面処理されたりして検査工程6を通じ、製品として鋼板が出荷されるようになっている。
【0016】
図1において、疵検査(以下、疵検と略す)が行われるのは、熱延工程1と、酸洗工程2と、冷延工程3と、焼鈍工程4と、表面処理工程5と、検査工程6であり、一般的に上工程の疵検とは下工程よりも上流の疵検のことを指し、図1の例では、上工程における疵検は、熱延工程1と、酸洗工程2と、冷延工程3と、焼鈍工程4とにおける疵検のことを指し、下工程における疵検は、表面処理工程5と、検査工程6における疵検のことを指す。
【0017】
図2は、本実施の形態における疵検出装置の概略構成の一例を示す図であり、図3は、本実施の形態の疵検出装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
【0018】
図2及び図3において、本実施の形態の疵検出装置11は、鋼板12を照射するための処理を行う照明処理部13と、照明処理部13により鋼板12を照射することによって得られる反射光を撮像するとともに、撮像画像を処理する撮像画像処理部14とを有している。
【0019】
照明処理部13は、例えばハロゲンランプやレーザー光発生装置など、好ましくは高い輝度を有する光を発光する発光手段と、集光レンズなどの集光手段とを有し、前記ハロゲンランプやレーザー光発生装置から出射される光が前記集光レンズで線状に集光されることにより、鋼板12の表面がその幅方向で線状に照明される。
【0020】
一方、撮像画像処理部14は、移動状況検出手段15と、撮像制御手段16と、撮像手段17と、画像処理手段18と、モニター24と、疵検出手段21とを有している。
【0021】
移動状況検出手段15は、圧延ライン方向(図2のY方向)に移動する鋼板12の移動状況を検出し、移動状況検出信号を生成する機能を有する。
【0022】
撮像制御手段16は、前記移動状況検出信号に基づいて、鋼板12の疵検査の開始及び終了を判断し、判断結果に応じて照明処理部13及び撮像手段17の動作を制御する機能を有する。
【0023】
撮像手段17は、例えばCCDカメラであり、図2に示すように、照明処理部13から照射され、鋼板12に当たって反射される光の光路上に配置され、前記照明処理部13により照明された鋼板12の疵検査範囲を撮像して画像信号を生成する機能を有する。
【0024】
画像処理手段18は、撮像手段17により生成された画像信号を取り込んで所定の画像処理を行い、例えばモニター24に表示させるための画像データを生成するとともに、記憶手段19及び疵検出手段21に前記画像データを出力する機能を有する。
【0025】
記憶手段19は、撮像手段17の撮像により得られた画像データ(上工程の画像データ)と、他の疵検出装置(下工程の疵検出装置)からLAN23を介して送信された鋼板の画像データ(下工程の画像データ(疵の検出結果及び疵画像データを含む))とを記憶する。
【0026】
座標修正手段20は、上工程で疵検を行ったときの鋼板12の長さと、下工程で疵検を行ったときの鋼板12の長さとが異なっていたり、製造工程の途中で鋼板の先端と後端または表裏が反対になっていたりすることもあり、疵の位置関係を対応させるために圧延後(下工程)の鋼板の長さに合致するように座標位置の修正を行っている。本実施の形態においては、上工程の画像データと下工程の画像データとを比較して、客先で有害となる上工程の疵画像データを抽出するために必要となっている。
【0027】
疵検出手段21は、データベース22に蓄積された学習データを参照して、上工程の画像データの中から客先で有害となる疵の検出を行っている。そして、疵の検出結果及び疵画像データをモニター24に表示させるとともに、疵の検出結果及び疵画像データを記憶手段19に記憶させる。
【0028】
また、本実施の形態では、記憶手段19に記憶された上工程の画像データと下工程の画像データとから、客先で有害となる下工程の疵画像データに対応する上工程の疵画像データを自動抽出し、学習データとしてデータベース22に蓄積することができるようにしている。なお、下工程の画像データについては、LAN23を介して記憶手段19に記憶された画像データを読み出すのではなく、着脱可能な外部記憶媒体に記憶された画像データを読み出してもよい。
【0029】
図4は、本実施の形態において上工程及び下工程における疵の分布と疵の画像の一例を示す図である。疵検出手段21により、座標修正手段20で修正された上工程の画像データと、記憶手段19に記憶されている下工程の画像データとを比較して、分布図及び疵画像データをモニター24に表示させることができるようになっている。
【0030】
図4に示すように、下工程の疵分布41と上工程の疵分布42とが表示されており、縦軸は、座標修正を施した後の鋼板の先端から末端までの位置を示し、横軸は、鋼板の横方向(幅方向)の位置を示している。上工程と下工程とで疵の位置が合致するエリア45を抽出すると、上工程におけるエリア45内の疵画像データ43と、下工程におけるエリア45内の疵画像データ44とが表示される。このように、本実施の形態では、下工程の疵画像データに対応する上工程の疵画像データを自動抽出するようになっている。
【0031】
これにより、上工程において検出された疵が、下工程においては無害の疵となっている場合と、有害の疵となっている場合とが存在し、上工程においてどのような形態の疵が下工程で有害の疵となるかを知ることが可能である。すなわち、上工程の段階で発生した疵画像データの中から、客先にとって有害であるか無害であるかを判定できるようになり、最終的に有害疵となる疵画像データを学習データとして蓄積することができるようにしている。
【0032】
一方、エリア45が指定されると、エリア45内の疵画像データが表示されるようにしているが、疵画像データがたくさん表示されると、有害である疵画像データを学習データとして個別に蓄積したり、無害である疵画像データを学習データから個別に削除したりしなければならない。そこで、本実施の形態においては、検出された疵が有害であるか無害であるかを判定するために特徴量範囲を指定し、該当する疵画像データを学習データとして自動的に蓄積または削除を行うことができるようになっている。具体例として、表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
表1において、特徴1〜3のデータが記録されている。例えば、特徴1を疵の長さとし、特徴2を疵の面積とし、特徴3を疵の色(輝度)として、疵の長さ、疵の面積及び疵の輝度における特徴量(xの値)が設定されている。それぞれ特徴1〜3の条件によって有害であるか無害であるかが判定される。具体的な判定方法については、図7のフローチャートで後述する。
【0035】
次に、図5〜7のフローチャートを用いて本実施の形態の疵検出装置11の動作について説明する。
図5は、本実施の形態における疵検の手順の一例を示すフローチャートである。
【0036】
最初のステップS1において、撮像制御手段16は、移動状況検出手段15から出力される移動状況検出信号に基づいて、鋼板12を検出するまで待機し、鋼板12を検出すると、ステップS2に進み、照明処理部13内のハロゲンランプを発光させるとともに、撮像手段17であるCCDカメラを作動させる。
【0037】
次に、ステップS3において、照明処理部13により光を出射して鋼板12を照明する。
次に、ステップS4において、撮像手段17を使用して圧延ライン方向(図2のY方向)に移動している鋼板12を撮像する。
【0038】
次に、ステップS5において、画像処理手段18は、撮像手段17から画像信号が入力するまで待機し、画像信号が入力すると、ステップS6に進み、前記画像データを生成し、記憶手段19及び疵検出手段21に出力するとともに、モニター24に出力する。この画像データに基づいて、鋼板12の実画像をモニター24にリアルタイムで表示する。
【0039】
次に、ステップS7において、疵検出手段21は、データベース22に蓄積された学習データを参照して、画像処理手段18より出力された画像データから疵の検出を行い、検出結果及び疵画像データをモニター24に表示する。
【0040】
次に、ステップS8において、撮像制御手段16は、移動状況検出手段15により検出される移動状況検出信号に基づいて、鋼板12の疵検査が完了したか否かを判定する。
【0041】
この判定の結果、疵検査が完了していれば、ステップS9に進み、撮像制御手段16は、ハロゲンランプの発光と、CCDカメラの動作を停止させる。一方、ステップS8の判定の結果、疵検査が完了していない場合は、ステップS5に戻り、疵検査が完了するまでステップS5からステップS7までの処理を繰り返す。
【0042】
図6は、本実施の形態において学習データを蓄積する手順の一例を示すフローチャートである。
まず、ステップS21において、記憶手段19は、画像処理手段18から鋼板12の画像データ(上工程の画像データ)を取得する。
【0043】
次に、ステップS22において、記憶手段19は、LAN23を介して、他の疵検出装置(下工程の疵検出装置)から疵検の鋼板12の画像データを取得する。
【0044】
次に、ステップS23において、座標修正手段20は、過去に通板されたコイルの探傷結果が保存されている記憶手段19から目的の上工程の画像データを読み出し、疵の位置関係を対応させるために圧延後(下工程)の鋼板12の大きさに合致するように上工程の画像データに対して座標位置の修正を行う。
【0045】
次に、ステップS24において、疵検出手段21は、座標修正手段20で座標位置が修正された上工程の疵画像データと、記憶手段19に記憶されている下工程の疵画像データとを比較する。そして、上工程の画像データの中から検出された疵が客先で有害であるか否かを判定する。
【0046】
この判定の結果、無害であるならば、ステップS25に進み、疵検出手段21は、該当する上工程の疵画像データを削除する。また、ステップS24の判定の結果、有害であるならば、ステップS26に進み、疵検出手段21は、該当する上工程の疵画像データをデータベース22に学習データとして蓄積する。なお、無害と判断した疵画像を、別途保存する事も可能である。
【0047】
次に、ステップS27において、上工程の画像データの中から検出された全ての疵について判定が終了したか否かを判断する。この判断の結果、終了したならば、処理を終了する。また、終了していなければ、ステップS24に戻り、全ての疵について判定が終了するまで以後の処理を繰り返す。
【0048】
図7は、図6のステップS24の処理において、有害であるか無害であるかを判定する手順の一例を示すフローチャートである。本フローチャートでは、表1に示した特徴量範囲に基づいて、有害であるか無害であるかを判定する例を示す。
【0049】
まず、ステップS31において、疵検出手段21は、上工程の画像データの中から検出された疵に対応する下工程の画像データから検出された疵(下工程において疵が消滅したものも含む)が、特徴量xを設定した時に、特徴1(疵の長さ)についてはx>0.3、特徴2(疵の面積)についてはx>0.3、及び特徴3(疵の輝度)についてはx>0.5という条件を満たしているか否かを判定する。
【0050】
この判定の結果、条件を満たしているならば、ステップS36に進み、疵検出手段21は、上工程の画像データの中から検出された疵は有害の疵であると判定する。また、ステップS31の判定の結果、条件を満たしていないならば、ステップS32に進む。
【0051】
次に、ステップS32において、疵検出手段21は、上工程の画像データの中から検出された疵に対応する下工程の画像データの中から検出された疵(下工程において疵が消滅したものも含む)が、特徴量xを設定した時に、特徴2(疵の面積)についてはx>0.5、及び特徴3(疵の輝度)についてはx>0.3という条件を満たしているか否かを判定する。
【0052】
この判定の結果、条件を満たしているならば、ステップS35に進み、疵検出手段21は、上工程の画像データの中から検出された疵は無害の疵であると判定する。また、ステップS32の判定の結果、条件を満たしていないならば、ステップS33に進む。
【0053】
次に、ステップS33において、疵検出手段21は、上工程の画像データの中から検出された疵に対応する下工程の画像データの中から検出された疵(下工程において疵が消滅したものも含む)が、特徴量xを設定した時に、特徴1(疵の長さ)についてはx>0.5、及び特徴3(疵の輝度)についてはx>0.3という条件を満たしているか否かを判定する。
【0054】
この判定の結果、条件を満たしているならば、ステップS35に進み、疵検出手段21は、上工程の画像データの中から検出された疵は無害の疵であると判定する。また、ステップS33の判定の結果、条件を満たしていないならば、ステップS34に進む。
【0055】
次に、ステップS34において、疵検出手段21は、上工程の画像データの中から検出された疵に対応する下工程の画像データの中から検出された疵(下工程において疵が消滅したものも含む)が、特徴量xを設定した時に、特徴1(疵の長さ)についてはx>0.3、特徴2(疵の面積)についてはx>0.3、及び特徴3(疵の輝度)についてはx>0.05という条件を満たしているか否かを判定する。
【0056】
この判定の結果、条件を満たしているならば、ステップS36に進み、疵検出手段21は、上工程の画像データの中から検出された疵は有害の疵であると判定する。また、ステップS34の判定の結果、条件を満たしていないならば、ステップS35に進み、疵検出手段21は、上工程の画像データの中から検出された疵は無害の疵であると判定する。
【0057】
以上のように、本実施の形態では、判定精度の高い下工程における疵検で撮像された疵画像データと、上工程における疵検で撮像された疵画像データとを対比させて、最終的に有害疵となる疵画像データを上工程における客先で有害となる疵画像データ(学習データ)として蓄積するようにしたので、上工程の疵検出装置を曖昧な画像データで学習させることなく、確かな学習データを十分蓄積させることができ、上工程における疵検の精度を格段に向上させることができるとともに、鋼板の疵判定精度を大幅に向上させることができる。これにより、上工程において有害となる疵が検出された場合は、不良品を下工程に流さないようにしたり、生産計画を変更したりするなど早期に対応することができる。
【0058】
(第2の実施の形態)
第1の実施の形態では、表1に示したような特徴量範囲を指定することによって、有害であるか無害であるかを判定したが、本実施の形態では、抽出した範囲内から下工程における有害となる疵と特徴量が類似した疵(上工程で検出された疵)を有害な疵と判定し、該当する疵画像データを学習データとして蓄積する例について説明する。また、図1〜図6は、本実施の形態においても同様であるため、重複する部分については説明を省略する。
【0059】
図8は、本実施の形態において、上工程で検出された疵と、下工程で検出された疵との特徴量の関係の一例を示す図である。
図4に示す分布図のエリア45を指定すると、エリア45内に該当する疵の特徴量が計算され、図8に示すように疵の分布図が生成される。●印は、上工程において検出された疵の分布を示し、■印は、下工程において検出された疵のデータベースの特徴量分布を示す。なお、上工程の疵データの特徴量(疵の長さなど)は疵の位置関係を対応させるために圧延後(下工程)の鋼板の長さに合致するように座標位置の修正を施したのと同等に、疵データの特徴量も補正する。
【0060】
本実施の形態においては、横軸を特徴1(疵の長さ)の特徴量とし、縦軸を特徴2(疵の面積)の特徴量として分布図を示している。この場合、下工程で検出された疵の分布に近い、上工程で検出された疵は類似していると考えることができるので、有害な疵と判定することができる。一方、下工程で検出された疵の分布から離れた位置に分布している上工程で検出された疵は非類似であると考えることができるので、無害な疵と判定することができる。
【0061】
以上のように、下工程で検出された疵と類似している疵を有害な疵と判定し、該当する疵画像データを学習データとして蓄積することができる。また、本実施の形態では、下工程で検出された疵との対比を行っているが、類似の判定が難しい場合にはデータベースに学習データとして蓄積された下工程の有害な疵画像データに基づいた特徴量との対比を補助的に行うことにより、より精密に学習データとして蓄積することができる。
【0062】
(第3の実施の形態)
第1及び第2の実施の形態においては、下工程の疵画像データと比較を行っていたが、いずれの場合も下工程の疵検出装置の学習データが十分に蓄積されていることが前提となっていたが、場合によっては疵の判定が十分でない場合もある。そこで、本実施の形態では、下工程の疵画像データと照合するのに加えて、別途、特徴量をもとに類似性を判定する例について説明する。なお、図1〜図6は、本実施の形態においても同様であるため、重複する部分については説明を省略する。
【0063】
図9は、本実施の形態において、上工程で検出された疵における特徴量の分散の一例を示す図である。
図9において、特徴量が中心値から逸脱した疵(分散値が2σ以上など)を非類似疵としているが、共分散を考慮して、特徴量の平均値からの距離で類似または非類似の判定を行ってもよい。また、本実施の形態においては、特徴1(疵の長さ)の特徴量について説明したが、もちろんこれ以外の特徴(例えば、疵の面積)を用いて類似または非類似の判定を行ってもよい。また、特徴の類似、非類似の判断はマハラノビス距離などの統計処理に基づく値を用いてもよい。
【0064】
以上のように、本実施の形態においては、上工程で検出された疵から類似性を判定することができるようになり、疵の種類、グレード等を判定する時に有意なデータとして学習データに蓄積することができるようになる。
【0065】
(本発明に係る他の実施の形態)
前述した実施の形態の機能を実現するべく各種のデバイスを動作させるように、該各種デバイスと接続された装置あるいはシステム内のコンピュータに対し、前記実施の形態の機能を実現するためのソフトウェアのプログラムコードを供給し、そのシステムあるいは装置のコンピュータ(CPUあるいはMPU)に格納されたプログラムに従って前記各種デバイスを動作させることによって実施したものも、本発明の範疇に含まれる。
【0066】
また、この場合、前記ソフトウェアのプログラムコード自体が前述した実施の形態の機能を実現することになり、そのプログラムコード自体、およびそのプログラムコードをコンピュータに供給するための手段、例えば、かかるプログラムコードを格納した記録媒体は本発明を構成する。かかるプログラムコードを記憶する記録媒体としては、例えばフレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM等を用いることができる。
【0067】
また、コンピュータが供給されたプログラムコードを実行することにより、前述の実施の形態の機能が実現されるだけでなく、そのプログラムコードがコンピュータにおいて稼働しているOS(オペレーティングシステム)あるいは他のアプリケーションソフト等と共同して前述の実施の形態の機能が実現される場合にもかかるプログラムコードは本発明の実施の形態に含まれることは言うまでもない。
【0068】
さらに、供給されたプログラムコードがコンピュータの機能拡張ボードやコンピュータに接続された機能拡張ユニットに備わるメモリに格納された後、そのプログラムコードの指示に基づいてその機能拡張ボードや機能拡張ユニットに備わるCPU等が実際の処理の一部または全部を行い、その処理によって前述した実施の形態の機能が実現される場合にも本発明に含まれることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】鋼板生産プロセスの概略及び疵検出装置の分類の一例を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態における疵検出装置の概略構成の一例を示す図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態における疵検出装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態において、上工程及び下工程における疵の分布と疵の画像の一例を示す図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態における疵検の手順の一例を示すフローチャートである。
【図6】本発明の第1の実施の形態において、学習データを蓄積する手順の一例を示すフローチャートである。
【図7】図6のステップS24の処理において、有害であるか無害であるかを判定する手順の一例を示すフローチャートである。
【図8】本発明の第2の実施の形態において、上工程で検出された疵と、下工程で検出された疵との特徴量の関係の一例を示す図である。
【図9】本発明の第3の実施の形態において、上工程で検出された疵における特徴量の分散の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0070】
1 熱延工程
2 酸洗工程
3 冷延工程
4 焼鈍工程
5 表面処理工程
6 検査工程
11 疵検出装置
12 鋼板
13 照明処理部
14 撮像画像処理部
15 移動状況検出手段
16 撮像制御手段
17 撮像手段
18 画像処理手段
19 記憶手段
20 座標修正手段
21 疵検出手段
22 データベース
23 LAN
24 モニター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板生産プロセスの上工程において、鋼板表面の画像を用いて疵検査を行う疵検出装置であって、
前記上工程の鋼板表面を撮像して上工程疵画像データを検出する上工程疵画像検出手段と、
前記上工程疵画像検出手段によって検出された上工程疵画像データと、前記鋼板生産プロセスの下工程において検出された下工程疵画像データとを比較する比較手段と、
前記比較手段による比較の結果に基づいて、前記上工程疵画像データの中から有害な疵画像データを抽出する疵画像抽出手段と、
前記疵画像抽出手段によって抽出された有害な疵画像データを学習データとして蓄積する蓄積手段とを有し、
前記蓄積手段によって蓄積された学習データを新たな鋼板の疵判定に利用することを特徴とする疵検出装置。
【請求項2】
前記下工程の鋼板内の疵座標位置に合致するように、前記上工程疵画像データの座標位置を修正する修正手段を有し、
前記比較手段は、前記下工程疵画像データの座標位置と、前記修正手段によって修正された上工程疵画像データの座標位置とを合致させて比較し、
前記疵画像抽出手段は、前記下工程疵画像データの座標位置と合致する疵画像データを検出することを特徴とする請求項1に記載の疵検出装置。
【請求項3】
前記疵画像抽出手段は、前記下工程疵画像データの疵の特徴を示す特徴量に基づいて、前記上工程疵画像データの中から有害な疵画像データを検出することを特徴とする請求項1または2に記載の疵検出装置。
【請求項4】
前記比較手段は、前記下工程疵画像データの疵の特徴を示す特徴量と前記上工程疵画像データの疵の特徴を示す特徴量とを比較し、
前記疵画像抽出手段は、前記下工程疵画像データの疵の特徴量と類似した特徴量を有する疵の疵画像データを前記上工程疵画像データの中から検出することを特徴とする請求項1または2に記載の疵検出装置。
【請求項5】
前記疵画像抽出手段は、データベースに学習データとして蓄積された下工程疵画像データの疵の特徴量と類似した特徴量を有する疵の疵画像データを前記上工程疵画像データの中から検出することを特徴とする請求項4に記載の疵検出装置。
【請求項6】
さらに、前記上工程疵画像検出手段によって検出された疵の特徴量から、所定の範囲に属する特徴量を有する疵を抽出する抽出手段を備えて、
前記蓄積手段は、前記抽出手段によって抽出された疵の疵画像データを、前記疵画像抽出手段によって抽出された有害な疵画像データに加えて学習データとして蓄積することを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の疵検出装置。
【請求項7】
前記抽出手段は、前記特徴量の分散値が所定の値よりも小さい疵を抽出することを特徴とする請求項6に記載の疵検出装置。
【請求項8】
鋼板生産プロセスの上工程において、鋼板表面の画像を用いて疵検査を行う疵検出方法であって、
前記上工程の鋼板表面を撮像して上工程疵画像データを検出する上工程疵画像検出工程と、
前記上工程疵画像検出工程によって検出された上工程疵画像データと、前記鋼板生産プロセスの下工程において検出された下工程疵画像データとを比較する比較工程と、
前記比較工程による比較の結果に基づいて、前記上工程疵画像データの中から有害な疵画像データを抽出する疵画像抽出工程と、
前記疵画像抽出工程によって抽出された有害な疵画像データを学習データとして蓄積する蓄積工程とを有し、
前記蓄積工程によって蓄積された学習データを新たな鋼板の疵判定に利用することを特徴とする疵検出方法。
【請求項9】
前記下工程の鋼板内の疵座標位置に合致するように、前記上工程疵画像データの座標位置を修正する修正工程を有し、
前記比較工程は、前記下工程疵画像データの座標位置と、前記修正工程によって修正された上工程疵画像データの座標位置とを合致させて比較し、
前記疵画像検出工程は、前記下工程疵画像データの座標位置と合致する疵画像データを検出することを特徴とする請求項8に記載の疵検出方法。
【請求項10】
前記疵画像抽出工程は、前記下工程疵画像データの疵の特徴を示す特徴量に基づいて、前記上工程疵画像データの中から有害な疵画像データを検出することを特徴とする請求項8または9に記載の疵検出方法。
【請求項11】
前記比較工程は、前記下工程疵画像データの疵の特徴を示す特徴量と前記上工程疵画像データの疵の特徴を示す特徴量とを比較し、
前記疵画像抽出工程は、前記下工程疵画像データの疵の特徴量と類似した特徴量を有する疵の疵画像データを前記上工程疵画像データの中から検出することを特徴とする請求項8または9に記載の疵検出方法。
【請求項12】
前記疵画像抽出工程は、データベースに学習データとして蓄積された下工程疵画像データの疵の特徴量と類似した特徴量を有する疵の疵画像データを前記上工程疵画像データの中から検出することを特徴とする請求項11に記載の疵検出方法。
【請求項13】
さらに、前記上工程疵画像検出工程によって検出された疵の特徴量から、所定の範囲に属する特徴量を有する疵を抽出する抽出工程を備えて、
前記蓄積工程は、前記抽出手段によって抽出された疵の疵画像データを、前記疵画像抽出工程によって抽出された有害な疵画像データに加えて学習データとして蓄積することを特徴とする請求項8〜12の何れか1項に記載の疵検出方法。
【請求項14】
前記抽出工程は、前記特徴量の分散値が所定の値よりも小さい疵を抽出することを特徴とする請求項13に記載の疵検出方法。
【請求項15】
前記請求項8〜14の何れか1項に記載の方法の各工程をコンピュータに実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項16】
前記請求項15に記載のコンピュータプログラムを記録したことを特徴とするコンピュータ読み取り可能な記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−101359(P2007−101359A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−291545(P2005−291545)
【出願日】平成17年10月4日(2005.10.4)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】